説明

布状繊維材料の熱特性試験評価方法および試験装置

【課題】試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を入手することが困難な場合でも、布状の特に温度調節繊維材料の熱特性試験を簡便、迅速かつ精度と再現性良く行うことができる改良された布状繊維材料の熱特性試験評価方法および試験装置を提供する。
【解決手段】ペルチェ素子を用いた加熱および冷却が可能な加熱冷却装置、加熱冷却装置の加熱冷却面と試料とを隔てる断熱薄板、温度センサ、試料と加圧手段とを隔てる断熱板、および加圧手段より構成したことを特徴とする布状繊維材料の熱特性試験装置を用い、試験試料および対照試料それぞれを脱気しかつ圧縮して熱特性を試験する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は布状繊維材料の熱特性試験方法および装置に関するものである。詳しくは温度調節特性などの熱特性の改良された試験方法および装置に関するものである。より詳しくは、特に相変化物質(以下PCM)を利用して外部環境の温度変化による材料の温度変化を緩和するための温度調節材料を評価するのに適した布状温度調節繊維材料の熱特性の改良された試験評価方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、室温や体温付近の溶融温度または固化温度を有するパラフィンなどのPCMを含浸したり付着させたり、あるいはPCMを含有したマイクロカプセルを混合したり接着させたりした温度調節材料が開発、市販されている。
【0003】
これら温度調節材料をとりまく環境温度がPCMの相変化温度より低い温度からPCMの溶融温度に上昇すると、PCMは溶融すると同時に熱エネルギーを吸収し、温度調節材料の温度上昇を緩和する効果を生じる。またこれら温度調節材料をとりまく環境温度がPCMの相変化温度より高い温度からPCMの固化温度に下降すると、PCMは固化すると同時に熱エネルギーを放出し、温度調節材料の温度変化を緩和する効果を生じる。したがって温度調節材料の熱特性を試験する場合、温度を定常状態とすることは目的にかなっていない。温度調節材料の熱特性を試験する場合には温度を変化させ、PCMの相変化温度周辺の非定常状態での熱特性を試験する必要がある。
【0004】
定常状態での布状繊維材料の熱特性試験方法として従来から良く知られているものに、JIS A 1412−1(熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法−第1部:保護熱板法(GHP法))およびJIS A 1412−2(熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法−第2部:熱流計法(HFM法))などがある。しかしながらこの方法の原理はその本文に記載されているように、「等温面の2枚の平行平板によってはさまれた無限の板状の試験体の内部に定常状態の一次元熱流が流れるようにしたもの」、および「試験体と熱流計を重ね、加熱板と冷却熱板で所定の平均温度と温度差を与え定常状態とし、熱流計と試験体の同一の伝熱領域を同時に一次元で定密度の熱流が通過するようにしたもの」であり、非定常状態を生起するためのPCMの相変化の効果を試験するにはふさわしくない。それゆえ、これらJISに規定されている熱抵抗及び熱伝導率の測定方法によってPCMの熱特性の試験を行うことは適切でない。
PCMを利用して外部環境の温度変化を緩和する温度調節材料の試験方法として従来から行われている例として、次のようなものがある。
【0005】
従来例1: 示差走査熱量計(以下、DSC)(特許文献1、特許文献2など)を用いる方法。良く知られているように、DSCは試料(例えば試験片の粉砕または裁断物など)と基準物質の温度を一定のプログラムに従って制御されるヒータを介して変化させながら、その試料と基準物質へ流入する熱量差を温度の関数として測定する方法である。試料および基準物質はそれぞれ熱伝導性が良い直径6〜7mm程度の試料ホルダおよび基準物質ホルダ中に加圧、封入し、それらホルダをヒータ上にのせ、ホルダ全面から均一に加熱するように工夫されている。したがって、数mg〜数十mg程度の微量の試料でも試験可能であり、PCM自身あるいはそれを含有するマイクロカプセルの評価をミクロに行うには適している。しかしながら例えば一般の温度調節材料ではマクロにみると、PCMの存在濃度に多少の変動、分布があるのが普通で、試験結果から大面積の材料の特性を推定するためには、サンプリングおよび測定を多数回行い、統計処理するという膨大な作業が必要である。また測定準備作業として、試料を裁断したり粉砕する作業も要する。さらに試料などをホルダ中に加圧、封入するため、例えば衣料用材料の場合には、実際に使用する際の含気率と大きく異なる状態で試験することになり、試験結果から衣料用生地の特性を推定することは非常に困難となる。以上の理由から、大面積の温度調節材料より採取した試験片の試験をマクロに、直接、簡便、迅速に行うことができる試験装置の開発が望まれる。
【0006】
従来例2: JIS L 1096記載のA法(恒温法)保温性試験機を用い、保温率を求めている例もある(特許文献5など)。この方法は前述のJIS A 1412と同様に、定常状態での試験方法である。一定温度に制御した恒温発熱体を有するこの装置を用いると、大面積の温度調節材料より採取した試験片のマクロな熱損失を測定でき、その測定値から保温率の評価を直接行うことはできる。この方法は良く知られているように、基本的には一定温度に制御した恒温発熱体に試験片を取り付け、低温度の外気に向かって流れ出す熱量が一定となり、発熱体の表面温度が一定値を示す定常状態になってから2時間後に試験片を通過して放散される熱損失を求め、これと試験片のない裸状のままで同様の温度差および時間に放散される熱損失とから保温率を求めるものである。低温度の外気に向かって流れ出す熱量が一定となり、発熱体の表面温度が一定値を示すようになってから熱損失を測定するのが原則であるので、PCMの熱特性を試験する場合には、その方法を工夫する必要がある。従来例では一定温度に発熱体の温度を設定しておき、その発熱体を試験片で覆って熱損失の測定を行い、保温率を求め、加工効果を比較しているが、測定方法の詳細が不明である。
【0007】
本発明者らが推定するに、上記JIS記載の装置を利用して試験を行うためには、PCMの相変化温度を予め測定し、例えばPCMの相変化温度より数℃低温側に発熱体温度を設定して表面温度が一定値を示すようになってから熱損失を測定し、PCMの相変化が生じず熱損失に大差ない場合はさらに発熱体温度を1℃上昇させて同様に熱損失を測定して熱損失の差が大きくなる領域の目安をつけ、次いでその領域内を例えば0.2℃間隔で同様の測定を繰り返すという膨大な試験を行うことが考えられる。前述のDSCによるPCMの相変化温度(溶融温度)の例は18〜33℃、特に25〜28℃であることが多いが、温度上昇速度を変化させると異なった結果となることが公知であり、また相変化温度も極大温度の周りに分布をもつことも公知で、上記JIS記載の試験装置を利用して行う試験温度を推定することも容易でない。したがって、簡便、迅速かつ再現性が良い試験装置の開発が望まれる。
【0008】
またこの装置を利用して上記JIS法とは異なった方法、例えば発熱体温度をPCMの相変化温度以上の温度に設定して加熱を開始し、発熱体温度がPCMの相変化温度より低温側で一定値を示す前から熱損失の測定を開始し、発熱体温度をさらに上昇させつつPCMによる吸熱も含めた熱損失の測定を行うことも考えられるが、加熱体温度は上昇中であるので、熱損失の測定を開始する温度の決め方により、熱損失の測定値に差異が生じる。したがってこの場合も、簡便かつ再現性の良い試験装置の開発が望まれる。
【0009】
さらに上記JIS記載の装置では、PCMが材料に及ぼす温度効果は測定できないので、熱量定量が可能な試験装置のほかに、PCMが材料に及ぼす温度効果も測定できる試験装置の開発が望まれる。
以上に述べた二種類の方法、装置のほかに、ヒータを有する熱特性試験装置を用いないものとしては、次の従来例3、従来例4のようなものもある。
【0010】
従来例3: 試験片中に熱電対温度計の温度センサを挿入するかまたは試験片を温度センサに巻き付け、低温および高温の恒温室間を移動し、試験片の表面温度を各1〜2時間のあいだ測定する方法(特許文献3、特許文献4など)。この場合、試験片温度測定系には一般的な装置を用いることができるが、低温または高温の恒温室が必要であり、また特に移動に際して試験片と温度センサとの接触状態が変動し、温度測定値の再現性が不良となる恐れが大であり、また試験片の温度を経時的に記録するコンピュータなどの移動は困難であるので、温度測定値の再現性がさらに不良となる恐れが大である。また一般的に、測定に長時間を要する。そのため、新たな恒温室のような大がかりな装置を必要とせず簡便かつ迅速に、測定値の再現性を向上させることができる試験装置の開発が望まれる。
【0011】
さらにこの方法では熱量定量が不可能であるので、PCMが材料に及ぼす温度効果の測定が可能な試験装置の開発が望まれる。
【0012】
従来例4: 着用、官能試験による方法(特許文献6など)。この場合、感覚の鋭い被験者を選び、試験日前の生活を規制し、試験直前の安静時間を十分とるという配慮が必要である。試験時間も吸熱および発熱試験にそれぞれ4〜5時間が必要である。また十分な温度刺激の差がなければ、測定値の再現性が不良となりまた定量化することは容易でない場合が多い。そのため、簡便、迅速でかつ測定値の再現性を向上させることができる試験装置の開発が望まれる。
【特許文献1】特開平06−200417号公報
【特許文献2】特開2001−279234号公報
【特許文献3】特開平05−156570号公報
【特許文献4】特開2002−317329号公報
【特許文献5】特開平06−200409号公報
【特許文献6】特開2003−246931号公報
【0013】
そこで本発明者は先に、PCMを利用して外部環境の温度変化による材料の温度変化を緩和するための温度調節材料を評価するのに特に適した、温度調節材料の温度特性または熱量移動特性の評価を、簡便、迅速かつ再現性良く評価することができる温度調節材料の熱特性試験方法および装置を発明し、出願した(特願2004−343634号)。
しかしながら先の出願に係る装置はその構成要素が多く試験作業が繁雑であり、また加熱および冷却に長時間を要するという問題があり、さらに簡便、迅速かつ再現性良く評価することができる温度調節材料の熱特性試験装置を開発することが望ましくなった。
【0014】
またその後に測定精度が向上した結果初めて判ったことであるが、特にPCMの添加量が少ない場合、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を用いないと、繊維素材と形状や組織の微妙な差が温度調節効果に影響を及ぼしてしまうという問題が生じ、試験方法の改良も更に必要となった。特にPCM練り込み繊維素材の場合、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を入手することが困難なため、この問題は特に大きいことが判った。
また試験により得られた結果は通常、測定された試験試料および対照試料それぞれの表面に接触させた温度センサにより検出された温度差を時間軸に対してプロットするが、その差が小さい場合には温度調節効果を明確に示すことができないという問題も判明した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織をもつ対照試料を入手することが困難な場合でも、布状の特に温度調節繊維材料の熱特性試験を簡便、迅速かつ精度と再現性良く行うことができる改良された布状繊維材料の熱特性試験評価方法および試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は第1に、布状繊維材料の熱特性試験方法において、試験試料および対照試料それぞれを脱気しかつ圧縮して試験することを特徴とする布状繊維材料の熱特性試験方法である。
本発明は第2に、試験試料および/または対照試料それぞれの両面をラミネートフィルムで挟んで1対の加熱圧縮ロールを通し、試験試料および/または対照試料それぞれの両面をラミネートフィルムに接着させたラミネート試験試料とラミネート対照試料の熱特性を比較試験することを特徴とする上記の布状繊維材料の熱特性試験方法である。
【0017】
本発明は第3に、熱特性が温度調節特性または遠赤外線放射特性であることを特徴とする上記の布状繊維材料の熱特性試験方法である。
【0018】
本発明は第4に、対照試料の温度に対して試験試料の温度または温度差をプロットすることにより試験試料中に存在するPCMの温度調節効果を図示することを特徴とする上記の布状繊維材料の熱特性試験方法である。
【0019】
本発明は第5に、ペルチェ素子を用いた加熱および冷却が可能な加熱冷却装置、加熱冷却装置の加熱冷却面と試料とを隔てる断熱薄板、温度センサ、試料と加圧手段とを隔てる断熱板、および加圧手段より構成したことを特徴とする布状繊維材料の熱特性試験装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、従来は不可能であった、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織をもつ対照試料を入手することが困難な場合でも、布状の特に温度調節繊維材料の熱特性試験を簡便、迅速かつ精度と再現性良く行うことができる改良された布状繊維材料の熱特性試験評価方法および試験装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において試験の対象とする布状繊維材料の典型例は、PCMが付与された材料、すなわち織物、編物、コーティング布、不織布、シートなどの材料や紙などの多孔質材料であるが、このほかPCMが付与されていない対照材料も含む。通常はこれら材料から試験片を採取して試験に用いる。
ここにPCMの付与とは、PCMそのものあるいはPCMを含有するマイクロカプセルを材料あるいは微細なボイド中に含有、含浸、付着または接着させることを総称する。
【0022】
本発明の理解を容易にするために、以下にまず図面を参照しながら、本発明の具体例について説明する。
【0023】
図1は本発明の一例である縦型配置装置の試験片加熱冷却部の側面の概念図である。
図ではペルチェ素子を用いた加熱および冷却が可能な加熱冷却装置1を台座2の上に設置し、加熱冷却装置1の上方の加熱冷却面3の上方には、加熱冷却面3と試料4とを隔てる断熱薄板5を密着させてある。ペルチェ素子を用いた加熱冷却装置は市販品を入手可能で、例えばカトーテック株式会社製KES−F7サーモラボのサーモクール改造品としても購入できる。
【0024】
加熱冷却温度範囲の決定は、PCMの溶融温度および固化温度を含む約20℃の範囲とするのが好適であるが、まずDSCなどでPCMの溶融温度および固化温度を測定してのちに決定することが好ましい。
【0025】
断熱薄板5としては、発泡樹脂板、発泡ポリスチレン板、発泡ポリプロピレン板、発泡ポリエチレン板を好適に用いることができる。その厚みは1〜3mm、特に2mmのものが好適である。またその面積は、少なくとも加熱冷却装置の加熱冷却面全面を覆うに十分であることが好ましい。ペルチェ素子を用いた加熱冷却措置による加熱および冷却は、制御装置および切替スイッチ(図示せず)などにより容易に行うことができる。
【0026】
温度センサ6はこの断熱薄板5と試料4との間に挟む。温度センサ6としては、フィルム状の温度センサを用いることが好適である。
試料4の上方には試料4を下方に加圧する加圧手段7を設けるが、試料4と加圧手段7との間にはこれらを隔てる断熱板8を設ける。加圧手段7は台座2に垂直に設けたレール9と摺動する加圧手段保持具10により保持され、再現性良く試料4などを一定荷重で加圧する。加圧力の調整は、バランサー(図示せず)などにより適宜行うことができる。
【0027】
断熱板8としては、厚さ1cm以上の発泡樹脂板、特に発泡ポリスチレン板を用いることが好適である。その面積は、上記断熱薄板5と同等であることが望ましい。
驚くべきことに、このような構成にすることにより、簡略化した装置でも布状温度調節繊維素材の温度調節性能を精度良く試験することができる。装置が簡略化できるので、試験作業の簡略化と装置のメンテナンスの容易化をも図ることができる。
また試料4と温度センサ6とを2組使用し、試験試料と対照試料とを同時に試験するようにすると、精度の向上と試験の迅速化とを達成することができる。
【0028】
次に、上述した装置を用いる改良された布状繊維材料の熱特性試験評価方法を説明する。
まず、PCMを付与した試験試料と繊維材料及び布構造が同一の対照試料が入手できる場合は、試験試料と対照試料とを本発明のペルチェ素子を用いた加熱冷却装置に並べてセットし、それぞれの試料の加熱を同時に開始し、所定温度まで昇温させる。その後ペルチェ素子を用いた加熱冷却装置の切替スイッチを冷却側に切り替え、試験試料と対照試料の冷却を同時に開始し、所定温度まで冷却する。加熱上限温度はPCMの溶融温度+10℃、冷却下限温度はPCMの固化温度−10℃を目安にすると良い。この間、試験試料と断熱薄板との間、および対照試料と断熱薄板との間に設けた2つの温度センサからの信号を、データロガーあるいはパソコンなどで経時的にかつ連続的に記録する。
【0029】
次いで得られた結果を用いて、試験試料側の温度と対照試料側の温度との差を時系列的にプロットする(温度差−時間プロット)。昇温過程では、試験試料に含まれるPCMの溶融温度でPCMが溶融して吸熱するため、試験試料側の温度は対照試料側の温度より低くなり、試験試料側の温度と対照試料側の温度との差は負の値となる。また降温過程では、試験試料に含まれるPCMの固化温度でPCMが固化して発熱するため、試験試料側の温度は対照試料側の温度より高くなり、試験試料側の温度と対照試料側の温度との差は正の値となる。このように、PCMを付与した試験試料と繊維材料および布構造が同一の対照試料が入手できる場合は、簡便、迅速かつ精度と再現性良く試験と評価とを行うことができる(図2のA)。
【0030】
しかしながら測定精度が向上した結果初めて判ったことであるが、PCMの添加量が少ない場合、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を用いないと、繊維素材と形状や組織の微妙な差が温度調節効果に影響を及ぼしてしまうという問題が生じることが判った。また特にPCM練り込み繊維素材の場合、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を入手することが困難な場合が多いため、この問題は特に大きいことが判った。
【0031】
すなわち、例えば対照試料として目付222g/m2のループパイルの未加工生地を用い、これにPCMを含浸加工したのちにループパイルをカットし起毛したカットパイル生地を試験試料として、本発明装置を用いて昇温時の熱特性を試験した場合、加熱初期の温度差−時間プロットは生地の構造差の影響を受け、予想に反してまず正の値となってから、次いで負の値をとる現象が生じてしまうという問題が発生した(図2のB)。
【0032】
本発明者は鋭意研究した結果、試験試料および/または対照試料それぞれの両面をラミネートフィルムで挟んで1対の加熱圧縮ロールを通し、試験試料および/または対照試料それぞれの両面をラミネートフィルムに接着させたラミネート試験試料とラミネート対照試料の熱特性を比較試験することで、PCMによる温度調節効果のみを評価することができることを見いだした(図3)。
【0033】
PCM練り込み繊維素材の場合は、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を入手することが困難な場合が多いが、目付がほぼ等しい布状繊維素材をラミネートしたラミネート対照試料を用いることにより、PCMによる温度調節効果を試験し評価することができることも判った。
【0034】
一方、PCMの添加量が少ない場合は、試験試料とほぼ同一の繊維素材と形状や組織の対照試料を用いても、温度差−時間プロットでは僅かな差しか読みとれないことが多い。この温度差は、目付の差がある未加工試料を上述のラミネート法を用いて昇温〜降温試験した場合に生じるのと同程度のものである。
【0035】
本発明者はさらに鋭意研究した結果、対照試料側の温度に対して試験試料側の温度をプロット(温度−温度プロット)または温度差(温度−温度差プロット)することにより生じる特徴あるパターンを利用することにより、PCMの温度調節効果をより明瞭に示すことができることを見いだした。すなわち、PCMを含まない布状試料同士を比較試験した場合は、上記温度−温度差プロットは直線状もしくはレンズ形のパターンを示す(図4のC)。一方目付が同じPCM練り込み試験試料とPCMを含まない対照試料とを比較試験した場合は、互いに逆方向の三角形を重ね合わせたようなパターンを示す(図4のA)。またPCM後加工布を試験試料とし、もとの基布を対照試料として比較試験した場合は、上記両者を重ね合わせたようなパターンを示す(図4のB)。
次に実施例により、好適な実施態様につきより詳細に説明する。
【実施例1】
【0036】
上記に説明しかつ図1に示したと同様の縦型配置の加熱冷却装置を製作した。ペルチェ素子を用いた加熱冷却装置は、加熱冷却面12cm×12cmのカトーテック株式会社製KES−F7サーモラボのサーモクールを改造して、加熱と冷却ができるようにした。フィルムタイプの温度センサとしては、安立計器株式会社製の529型と温度計AM−7002型を用いた。温度測定値は、株式会社キーエンス製USB対応PCカード型データ収集システムで収集、記録したほか、直接パソコンにも収集、記録するようにした。設定可能温度は、室温約20℃のとき、5〜60℃である。
【実施例2】
【0037】
相変化物質としてノナデカンを用いた。目付192g/m2の綿100%ニット生地から5cm×5cmの試験片を切り出した。ノナデカンをヘキサンに溶解し、この試験片に含浸させたのち風乾し、ノナデカン0、2、4、8、16重量%含む含浸試料を作製した。ノナデカン0重量%含む含浸試料を対照試料とし、ノナデカン2、4、8、16重量%含む含浸試料を試験試料とした。
【0038】
加熱冷却装置の表面には発泡ポリスチレン製の断熱薄板を設け、その上1対の試験試料と対照試料とを並べて配置し、発泡ポリスチレン製の断熱薄板とそれぞれの試料との間にフィルムタイプの温度センサを挿入した。加熱冷却温度範囲は20〜40℃として温度−温度差プロットより加熱曲線と冷却曲線とにより囲まれる面積を求めた。発泡ポリスチレン製の断熱薄板の厚さを1mmと2mmとして、検出限界値を計算した。その結果、断熱薄板の厚さ1mmでは検出限界値12.7重量%、断熱薄板の厚さ2mmでは検出限界値5.8重量%で、断熱薄板の厚さ2mmのほうが検出力は大であった。
【実施例3】
【0039】
相変化物質としてオクタデカンを用い、断熱薄板の厚さを2mm、加熱冷却温度範囲を16〜36℃とした以外は実施例2と同様の試験を行った。この場合の検出限界値は5.8重量%で、ノナデカンを用いた場合と同一であった。
【実施例4】
【0040】
目付134g/m2の毛100%生地を対照試料とし、これにノナデカンとオクタデカンとを付着させた目付161g/m2の生地を試験試料として、温度差を経時的にプロットした以外は実施例2と同様の試験を行った。その結果、図2のAに示す結果が得られた。
【実施例5】
【0041】
目付222g/m2のポリエステル/綿混のループパイル生地を対照試料とし、これにノナデカンを付着させてからループパイルをカットして起毛した目付202g/m2のカットパイル生地を試験試料とした以外は実施例4と同様の試験を行った。その結果は図2のBに示すとおりで、PCMの温度調節効果が明瞭な図2のAとは異なり、加熱試験開始直後に温度差が正となってから負になる傾向を示した。
【実施例6】
【0042】
実施例5で用いた試験試料と対処試料とをそれぞれ別々に2枚のラミネートフィルムの間に挟んで脱気しつつ加熱接着した。ラミネートフィルムとしてフジプラ(株)製のCPリーフ(厚さ100μm、クリアタイプ)を用い、フジプラ製のラミネーターLPD2313型を用いた。このラミネート試料をもちいて実施例5と同様の試験を行った。その結果は図3に示すとおりで、PCMの効果が明瞭になった。
【実施例7】
【0043】
PCMを含まない目付が異なる布状試料同士の比較試験、目付が同じPCM練り込み試験試料とPCMを含まない対照試料との比較試験、PCM後加工布を試験試料とし、もとの基布を対照試料とした比較試験それぞれの上記温度−温度差プロットを図4のC,A,Bに示す。それぞれ特有のパターンを示すことが判る。
【0044】
〔比較例1〕
試料4と加熱冷却面3の間に断熱薄板5を設けなかった以外は実施例4と同様の条件で試験を行った。その結果は、図5のAに示す通りで、断熱薄板5を設けて試料4および温度センサ6を加熱冷却面3が直接接触しないようにしなければPCMの効果による加工布と対照試料の温度差が検出できないことが判る。
なお本発明方法に示した試料をラミネートする技術を、遠赤外線放射特性すなわち再放射特性と分光放射特性の試験に適用することにより、その試験精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係わる縦型配置装置の試験片加熱冷却部の側面の概念図である。
【図2】本発明に係わる試験試料と対照試料との温度差を経時的にプロットした図である。AはPCMを付与した試験試料と繊維材料及び布構造が同一の対照試料が入手できた場合、BはPCMを付与した試験試料と繊維材料及び布構造が同一の対照試料が入手できなかった場合である。
【図3】本発明に係わるラミネート試験試料とラミキネート対照試料との温度差を経時的にプロットした図である。
【図4】対照試料側の温度に対して試験試料側の温度差をプロットすることにより得られる特徴あるパターンを示した図である。Aは目付が同じPCM練り込み試験試料とPCMを含まない対照試料とを比較試験した場合、BはPCM後加工布を試験試料とし、もとの基布を対照試料として比較試験した場合、CはPCMを含まない目付が異なる布状試料同士を比較試験した場合である。
【図5】試料と加熱冷却面の間に断熱薄板を設けなかった以外は図4のAと同様の試験をした場合(A)である。
【符号の説明】
【0046】
1: ペルチェ素子を用いた加熱および冷却が可能な加熱冷却装置
2: 台座
3: 加熱冷却装置の加熱冷却面
4: 試料
5: 断熱薄板
6: 温度センサ
7: 加圧手段
8: 断熱板
9: レール
10: 加圧手段保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布状繊維材料の熱特性試験方法において、試験試料および対照試料それぞれを脱気しかつ圧縮して試験することを特徴とする布状繊維材料の熱特性試験方法。
【請求項2】
試験試料および/または対照試料それぞれの両面をラミネートフィルムで挟んで1対の加熱圧縮ロールを通し、試験試料および/または対照試料それぞれの両面をラミネートフィルムに接着させたラミネート試験試料とラミネート対照試料の熱特性を比較試験することを特徴とする請求項1記載の布状繊維材料の熱特性試験方法。
【請求項3】
熱特性が温度調節特性または遠赤外線放射特性であることを特徴とする請求項1または2記載の布状繊維材料の熱特性試験方法。
【請求項4】
対照試料の温度に対して試験試料の温度または温度差をプロットすることにより試験試料中に存在する相変化物質の温度調節効果を図示することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の布状繊維材料の熱特性試験方法。
【請求項5】
ペルチェ素子を用いた加熱および冷却が可能な加熱冷却装置、加熱冷却装置の加熱冷却面と試料とを隔てる断熱薄板、温度センサ、試料と加圧手段とを隔てる断熱板、および加圧手段より構成したことを特徴とする布状繊維材料の熱特性試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−40793(P2007−40793A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224261(P2005−224261)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(593012745)財団法人日本化学繊維検査協会 (6)
【Fターム(参考)】