希土類磁石およびその製造方法
【課題】Dy等の拡散元素を表面部から内部まで効率的に拡散させることができる希土類磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部に内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる付着工程と、磁石材を真空中で加熱して磁石材の表面部に滞留した拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる蒸発工程と、を備えることを特徴とする。付着工程は蒸着工程であり、蒸発工程は蒸着工程に続けて磁石材だけを真空中で加熱する加熱工程であると好ましい。この製造方法によれば、稀少なDy等の使用量を抑制しつつ、希土類磁石の保磁力の向上を図ることができる。換言すると、本発明により保磁力効率が著しく大きい希土類磁石が得られる。
【解決手段】本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部に内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる付着工程と、磁石材を真空中で加熱して磁石材の表面部に滞留した拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる蒸発工程と、を備えることを特徴とする。付着工程は蒸着工程であり、蒸発工程は蒸着工程に続けて磁石材だけを真空中で加熱する加熱工程であると好ましい。この製造方法によれば、稀少なDy等の使用量を抑制しつつ、希土類磁石の保磁力の向上を図ることができる。換言すると、本発明により保磁力効率が著しく大きい希土類磁石が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスプロシウム(Dy)等の拡散元素の使用量を低減しつつ高磁気特性(特に高保磁力)が得られる希土類磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系磁石を代表とする希土類磁石(特に永久磁石)は、非常に高い磁気特性を示す。この希土類磁石を用いると、電磁機器や電動機の小型化、高出力化、高密度化さらには環境負荷の低減化等を図ることが可能となるため、幅広い分野で希土類磁石の利用が検討されている。
【0003】
もっともそのためには、希土類磁石の優れた磁気特性が厳しい環境下でも長期的に安定して発揮されることが求められる。そこで希土類磁石の高い残留磁束密度を維持または向上させつつ、耐熱性(耐減性)等に有効な保磁力を高める研究開発が盛んに行われている。その最も有効な方法の一つは、異方性磁界(Ha)の大きな希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの拡散元素を、主相となる結晶(例えば、Nd2Fe14B型結晶)の粒界などへ拡散させることである。これにより、その結晶粒内におけるDy等の置換を抑制しつつ、結晶磁気異方性の向上と逆磁区の核生成の抑制を図れ、残留磁束密度の低下を抑制しつつ保磁力の向上を図れる。
【0004】
ところで、そのような拡散方法にも種々ある。例えば、原料合金(希土類磁石合金)からなる磁石粉末に拡散元素を含む拡散粉末を混合し、得られた混合粉末の成形体を焼結等させて、上述した拡散処理を行う粉末混合法がある。また、拡散粉末等を磁石材の表面に被着させた後、熱処理して拡散処理を行う被着法がある。さらに、稀少元素であるDy等の使用量を抑制しつつ保磁力を効果的に向上させるために、磁石粉末からなる磁石材へ拡散元素を蒸着させて内部へ拡散させる蒸着法(蒸気法)が提案されている。この蒸着法が最近の主流であり、これに関連する記載が、例えば下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO2006/100968
【特許文献2】国際公開公報WO2007/102391(特開2008−263223号公報、特開2009−124150号公報)
【特許文献3】特開2008−177332号公報
【特許文献4】特開2009−43776号公報
【特許文献5】特開2009−200179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の各特許文献に記載されている内容はいずれも、基本的に、拡散元素の蒸気源である拡散材を磁石材と共に同条件下で加熱して、磁石材表面へ拡散元素を蒸着、拡散させるものである(図9B参照)。もっともこの場合、蒸着と拡散は一体的であり、蒸着処理の終了が拡散処理の終了となっていた。
【0007】
ところが、このような方法では、蒸着した拡散元素が磁石材の表面近傍に濃厚に滞留して内部まで拡散せずに終わり、稀少なDy等が希土類磁石の保磁力向上に有効に利用されない状況が生じていた。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものである。すなわち、稀少なDy等の拡散元素の使用量を抑制しつつ、保磁力をより効率的に高めることができる希土類磁石とその製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、磁石材の表面近傍に滞留し内部まで拡散しない拡散元素(Dy等)を、その表面から蒸発させることを思いついた。そして実際に、磁石材に含まれる拡散元素量を低減しつつ、従来と同等以上の保磁力を発現する希土類磁石を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べるような本発明が完成するに至った。
【0010】
《希土類磁石の製造方法》
(1)本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部に内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる付着工程と、該磁石材を真空中で加熱して該磁石材の表面部に滞留した該拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる蒸発工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
(2)本発明の製造方法によれば、付着工程で磁石材の表面近傍に過度に濃化した余剰の拡散元素(Dy等)を、蒸発工程で蒸発させることができる。これにより、磁石材の表面部とその内部との間にできる拡散元素の濃度勾配を緩和または解消でき、さらには、拡散元素をより内部へ拡散さることが可能となる。こうして拡散元素が磁石材の内部深くまで拡散した高磁気特性(特に高保磁力)の希土類磁石が、稀少な拡散元素の使用量の低減を図りつつ得られる。
【0012】
ちなみに、蒸発工程で磁石材の表面から蒸発させた拡散元素は、真空排気口等に設けたコールドトラップなどにより捕捉、回収して再利用可能である。従って本発明の製造方法を全体的にみると、稀少な拡散元素が何ら無駄にされることなく効率的に有効活用されて、高磁気特性(保磁力)の希土類磁石が得られる。
【0013】
また本発明のような付着工程と蒸発工程からなる拡散処理によれば、従来の拡散処理を行う場合よりも、処理時間を大幅に短縮できる。なぜなら、従来のように、磁石材内における拡散元素の拡散速度に応じて、拡散元素をその表面へ長時間をかけてゆっくりと蒸着等させる必要が必ずしもないからである。つまり本発明の製造方法によれば、付着工程で、拡散元素を磁石材の表面へ一時的にまたは短時間内に付着させた場合でも、その後の蒸発工程で、表面部にある余剰な拡散元素を除去、回収しつつ、拡散元素を磁石材の内部へ十分に拡散させることができるからである。
【0014】
具体的に説明すると、本発明の製造方法によれば、例えば、従来の拡散処理した希土類磁石と同等以上の保磁力を発現しつつ、Dy等の拡散元素量が従来の1/2〜1/10に抑制された希土類磁石が、数時間の拡散処理により得られる。
【0015】
《希土類磁石》
(1)本発明は、上述した製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた希土類磁石としても把握される。さらにこの希土類磁石は、拡散元素量と保磁力との相関において、従来の希土類磁石とは明らかにことなる。つまり、本発明に係る希土類磁石は、拡散元素量と保磁力に関して全く新規な領域に属する。そこで本発明は、上述した製造方法とは関係なく、次のような希土類磁石自体としても把握される。
【0016】
(2)すなわち本発明は、希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材と該磁石材の表面部から内部へ拡散した拡散元素とからなる希土類磁石であって、該希土類磁石全体を100質量%としたときの該拡散元素量d(質量%)、該希土類磁石全体の保磁力Ht(kOe=79.58kA/m)、該希土類磁石の表面部の保磁力Hs(kOe)、該希土類磁石の内部の保磁力Hi(kOe)が次の関係式を満たすことを特徴とする希土類磁石でもよい。
Ht−(2d+11)≧3.5(kOe) (数式1)
かつ Hi/Hs ≧0.8 (数式2)
【0017】
ここでいう「表面部」は、拡散元素が付着する希土類磁石の最表面(拡散面)からの深さが、希土類磁石全体の高さ(全高)の0〜15%に相当する部分をいう。また「内部」は、その最表面からの深さが全高の51〜66%に相当する部分をいう。「表面部の保磁力Hs」は、供試材である希土類磁石をスライスして得られた上記の表面部に相当する薄板状の試料(薄片試料)を、パルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業株式会社製)で測定して得られた値である。また「内部の保磁力Hi」は、希土類磁石をスライスして得られた上記の内部に相当する薄片試料を同様に測定して得られた値である。
【0018】
なお、数式1および数式2を満たす希土類磁石は既述の製造方法による限定を受けないが、勿論、上述した製造方法により得られたものであると好適である。以下、拡散元素が代表的なDyである場合を例にとり、数式1および数式2の意味を説明する。
【0019】
拡散処理を行わない希土類磁石(特にNdFeB系焼結磁石)の保磁力は一般的に約11kOeである。その希土類磁石を構成する希土類合金粒子がDyを含有している場合、Dy1質量%あたり希土類磁石の保磁力は一般的に約1kOe上昇することが知られている。従って数式1の左辺:Ht−(2d+11)=0で示される直線が、希土類磁石の保磁力の上昇度合を検討する際のベースラインとなる。従って数式1は、本発明の希土類磁石の保磁力が、そのベースラインよりも3.5kOe以上高いことを意味する。このようにDy量との相関で保磁力が格段に高くなる希土類磁石は従来ほとんど存在し無かった。
【0020】
数式2は、本発明の希土類磁石が表面部(Hs)と内部(Hi)で保磁力差が非常に小さいことを意味する。つまり数式2は、Dyが希土類磁石の表面部に過剰に滞留しておらず内部にも拡散しており、表面部から内部に向かうDy濃度勾配が非常に小さいか、または緩やかであることを意味している。このように表面部と内部との保磁力差が小さい希土類磁石も従来ほとんど存在し無かった。
【0021】
そして磁石材の表面から拡散元素を拡散させた希土類磁石に限っていうなら、数式1および数式2を共に満たすような希土類磁石は、これまで全く存在していなかった。従って、両数式により画定される領域に属する希土類磁石は、本発明により初めて提供される。
【0022】
本発明の場合、数式1の左辺は、4kOe以上、4.5kOe以上さらには5kOe以上にもなり得る。この数式1の左辺は大きいほど好ましいので、当然、その上限値を設けることはできないし、その必要もない。敢えていうなら、数式1の左辺は8kOe以下、7kOe以下さらには6kOe以下としてもよい。数式2の左辺は、0.82以上さらには0.84以上にもなり得る。この数式2の左辺も大きいほど好ましいので、当然、上限値を設ける必要はない。敢えていうなら、数式2の左辺は、1以下、0.95以下さらには0.9以下としてもよい。
【0023】
(3)本発明に係る希土類磁石は、希土類磁石素材や希土類磁石部材などを含み、その形態も問わない。例えば、希土類磁石はブロック状でも、環状でも、薄膜状でもよい。本発明の希土類磁石は、高磁気特性の異方性希土類磁石であると好ましいが、等方性希土類磁石でもよい。
【0024】
ちなみに磁石材は、拡散処理に供される被処理材であり、希土類合金粒子からなる成形体でも、その成形体を焼結させた焼結体でもよい。また磁石材は、最終的製品でも、中間材でも、バルク材でもよい。
【0025】
また本明細書でいう拡散元素の拡散は、主に、希土類合金粒子(磁石粉末粒子)またはそれを構成する結晶(主相)の表面や粒界への拡散(表面拡散や粒界拡散)をいう。但し、結晶粒内への拡散(体拡散)を含めてもよい。なお、本明細書で単に「粒界」や「界面」というときは、希土類合金粒子のみならずそれを構成する結晶粒の「粒界」や「界面」も含む。
【0026】
《その他》
(1)本明細書でいう希土類元素(R)には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイドを含む。ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)などがある。
【0027】
(2)本明細書でいう「希土類合金」は、希土類元素の一種以上である主希土類元素(以下「Rm」と表す。)とホウ素(B)と残部である遷移金属元素(TM:主にFe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる。このRmは上述したRの一種以上からなるが、なかでも、Ndおよび/またはPrが代表的である。
【0028】
改質元素は、希土類磁石の耐熱性を向上させるコバルト(Co)、ランタン(La)、保磁力などの磁気特性の向上に有効なガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)または鉛(Pb)の少なくとも1種以上がある。改質元素の組合せは任意である。
【0029】
これらの含有量は通常微量であり、例えば、希土類合金全体を100質量%として、0.01〜10質量%程度である。なお、改質元素は、希土類合金粒子内に元々含有されている場合の他、拡散処理等により外部から導入されたものでもよい。
【0030】
不可避不純物は、希土類合金にもともと含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。このような不可避不純物として、例えば、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、水素(H)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アルゴン(Ar)等がある。
【0031】
(3)拡散材は、拡散元素(保磁力向上元素)を含む限り、その組成、種類、形態等を問わない。拡散元素には、Dy、Tb、Ho等の拡散希土類元素(Rd)がある。拡散材はそれらの単体または合金からなると好ましい。また、付着工程に用いる拡散材は単種のみからなっても複数種でもよい。なお、拡散材にも上述した改質元素や不可避不純物に関する内容が該当し得る。
【0032】
(4)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。また、本明細書に記載した種々の下限値または上限値は、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに、本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、新たな数値範囲を設定するための上限値または下限値とし得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】拡散処理装置の概要図である。
【図2】拡散処理時の温度変化を示すヒートパターン1を示す説明図である。
【図3A】蒸発工程の有無と保磁力増加量との関係を示す棒グラフである。
【図3B】蒸発工程の有無とDy拡散量との関係を示す棒グラフである。
【図3C】蒸発工程の有無と保磁力効率との関係を示す棒グラフである。
【図4A】蒸発工程を施さない希土類磁石を表面部から内部に向かって観察したEPMA像である。
【図4B】蒸発工程を施した希土類磁石を表面部から内部に向かって観察したEPMA像である。
【図5A】蒸発工程の有無と希土類磁石の表面部から内部にわたる保磁力の変化との関係を示す分散図である。
【図5B】表面部から内部にわたる保磁力を測定した試料を示す概要図である。
【図6A】拡散処理時の温度変化を示すヒートパターン2を示す説明図である。
【図6B】別のヒートパターンC2を示す説明図である。
【図7A】ヒートパターン2に係る蒸発工程時の温度とDy拡散量および保磁力との関係を示す分散図である。
【図7B】ヒートパターンC2に係る蒸発工程時の温度とDy拡散量および保磁力との関係を示す図である。
【図8A】拡散処理時の温度変化を示すヒートパターン3を示す説明図である。
【図8B】ヒートパターン3の各時点におけるDy拡散量を示す棒グラフである。
【図8C】ヒートパターン3の各時点における保磁力増加量を示す棒グラフである。
【図9A】種々の希土類磁石の表面部から内部にわたる保磁力の変化を示す分散図である。
【図9B】従来型のヒートパターンC0を示す説明図である。
【図9C】別のヒートパターンC3を示す説明図である。
【図10】種々の希土類磁石について調べたDy量(d:質量%)と保磁力(Ht:kOe)との関係を示す分散図である。
【図11】それら希土類磁石の保磁力に関する特性を示す分散図である。
【符号の説明】
【0034】
1 拡散処理装置(希土類磁石の製造装置)
10 処理室
20 準備室
M 磁石材
D 拡散材
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。以下の実施形態を含めて本明細書で説明する内容は、本発明の製造方法のみならず希土類磁石にも適宜適用される。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を上述した本発明の構成に付加し得る。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば希土類磁石に関する構成となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0036】
《製造方法》
本発明の希土類磁石の製造方法は主に付着工程と蒸発工程からなり、これら工程により拡散処理がなされる。以下、各工程について説明する。
【0037】
(1)付着工程は、原料合金を粉砕等した希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部(表面のみを含む)へ、その表面部から内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる工程である。拡散元素を磁石材の表面部へ付着させる方法として、拡散元素を含む拡散材を磁石材の表面部に塗布する塗布法、拡散材の蒸気に磁石材を曝して磁石材の表面部に拡散元素を蒸着させる蒸着法などがある。
【0038】
もっとも、蒸着法によれば、Dy等の拡散元素のみを効率的に磁石材内へ付着させ得る。従って付着工程は、加熱した磁石材と加熱した拡散元素を含む拡散材とを真空中で近接させ、拡散材から蒸発した拡散元素の蒸気に磁石材を曝して磁石材の表面へ拡散元素を蒸着させる蒸着工程であると好適である。
【0039】
付着工程が蒸着工程である場合、磁石材と拡散材とを独立して加熱でき、磁石材の加熱温度である磁石材温度(Tm)と拡散材の加熱温度である拡散材温度(Td)とを個別に、拡散処理に好ましい温度に調整できる。例えば、希土類合金粒子またはその結晶の界面または粒界に、液相が生じて拡散元素が粒界拡散し易くなる温度に磁石材を加熱する一方、拡散材は所望の拡散元素の蒸気が得られる温度に加熱する。こうすれば、蒸着工程で、拡散元素が磁石材の表面に単に付着するのみならず、並行して磁石材の内部へ拡散するようになる。この一例として、蒸着工程は、磁石材の加熱温度(Tm)を拡散材の加熱温度(Td)よりも高くすると好適であると好ましい。
【0040】
(2)蒸発工程は、付着工程後の磁石材を真空中で加熱して磁石材の表面部に滞留した拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる工程である。蒸発工程中の磁石材の加熱温度や雰囲気は適宜調整される。例えば、その加熱温度(磁石材温度)は、拡散元素が単に磁石材表面から蒸発するのみならず、磁石材の内部への拡散も促進される温度であると好ましい。付着工程が蒸着工程である場合を考えると、蒸発工程の加熱温度は、例えば、蒸着工程時の拡散材の加熱温度(拡散材温度)よりも高い方が好ましい。もっとも、蒸発工程の加熱温度が過大になると、結晶粒内への拡散(体拡散)が促進され、磁石材の内部への拡散が阻害されるので好ましくない。そこで蒸発工程時の加熱温度は、例えば、蒸着工程時の磁石材温度と拡散材温度の中間であるとよい。
【0041】
また付着工程が蒸着工程である場合、蒸発工程は、蒸着工程に続けて磁石材を真空中で加熱する工程であると好ましい。蒸着工程後の磁石材を室温域まで一旦冷却した後に再加熱しても、磁石材の表面部から拡散元素が蒸発し難い。この理由は定かではないが、蒸着工程後に磁石材を一旦冷却すると、拡散元素が主相内に取り込まれて安定状態になるためと考えられる。
【0042】
また蒸発工程が蒸着工程で作出された真空加熱雰囲気中でなされると効率的である。この場合、蒸発工程は、蒸着工程で加熱されていた拡散材を降温させるか、磁石材から隔離するだけでよい。つまり、拡散元素の蒸気に磁石材が曝されないようにすればよい。従って蒸発工程は、拡散材の温度を降下させる降温工程または拡散材を磁石材から離隔する離隔工程ともできる。
【0043】
(3)付着工程や蒸発工程は、希土類合金粒子からなる成形体を焼結させる焼結工程の少なくとも一部と兼用でもよい。この場合、成形体中に液相を生じる温度域で付着工程を行うと、拡散元素の拡散速度が高くなり、短時間で効率的な拡散処理が可能となる。
【0044】
ここで希土類合金粒子からなる成形体を焼結させる場合、R2TM14B1型結晶(TM:遷移金属元素)からなる主相とBリッチ相とR相との間で液相が生じる温度は600〜700℃前後である。例えば、Nd−Fe−B系希土類磁石の場合なら、665℃で液相を生じ始める。もっとも成形体が水素化処理された希土類合金粒子からなる場合、それよりも高い750〜850℃程度でRH2 →R+H2 が生じてから液相が生じ始める。例えば、水素化処理したNd−Fe−B系希土類合金粒子からなる成形体の場合なら、800℃から液相を生じ始める。従ってこのような液相を生じ始める温度以上に磁石材を加熱して、付着工程や蒸発工程を行うとよい。
【0045】
なお、そのような液相は、拡散元素と希土類合金粒子中の元素が共晶を生成する場合も生じ得る。例えば、拡散元素であるDyと希土類合金粒子内のFeは、共晶点である890℃以上で液相を生成し始める。これにより成形体中の液相量は増加し、成形体内における拡散元素の拡散速度はより高まる。以上を踏まえて、例えば、磁石材がR−TM−B系希土類合金からなり、拡散元素が希土類元素の一種以上からなる場合なら、磁石材温度(Tm)を700〜1100℃、拡散材温度(Td)を600〜1000℃とするとよい。
【0046】
(4)蒸着工程または蒸発工程におけるガス圧または真空度は適宜調整される。例えば、Rm−TM−B系希土類合金からなる磁石材へ拡散希土類元素(Rd)を拡散させる場合、処理炉内のガス圧(真空度)は1Pa以下、10−1Pa以下、10−2Pa以下さらには10−3Pa以下が好ましい。この真空度を調整することにより、拡散材から生じる拡散元素の蒸気量ひいては磁石材への蒸着量、磁石材から蒸発する拡散元素の蒸気量を制御できる。
【0047】
(5)蒸着工程または蒸発工程の処理時間も、蒸着または蒸発させる拡散元素量に応じて適宜調整されるが、従来の拡散処理時間よりも大幅に短縮可能である。そこで例えば、蒸着工程または蒸発工程は、それぞれ0.5〜10時間さらには1〜5時間であるとよい。
【0048】
さらに付着工程(特に蒸着工程)および蒸発工程は、それぞれ一回だけでもよいが、同順で繰り返しなさてもよい。各工程を繰り返すことにより、拡散元素を有効に増量させて保磁力を効率的に高めることができる。
【0049】
《磁石材》
磁石材は希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる。希土類合金粒子は、希土類元素の一種以上であるRmとBと残部が遷移金属(TM:主にFe)および不可避不純物および/または改質元素とからなる希土類合金を粉砕等して得られる。
【0050】
希土類合金は、Rm2TM14Bに基づく理論組成よりも、磁石材の保磁力や焼結性の向上に有効なRmリッチ相が形成される組成であると好ましい。具体的にいうと希土類合金は、全体を100原子%としたときに10〜30原子%のRmと、1〜20原子%のBと、残部であるTMとからなるRm−TM−B系合金であると好ましい。
【0051】
特にRmは12〜16原子%、Bは5〜12原子%であると磁気特性に優れる高密度な希土類磁石が得られ易い。TMは基本的に主たる残部であるが、あえていうとTMは72〜83原子%であるとよい。なお、Bの代替として炭素(C)を用いることができ、このときB+C:5〜12原子%となるように調製するとよい。
【0052】
希土類合金粒子は、その製造方法や形態を問わず、所望組成の鋳造希土類合金を機械粉砕したものでも水素粉砕したものでも、ストリップキャスト等により急冷凝固させた薄板状の鋳片でも、HDDR(水素化−分解・脱水素−再結合法)のような水素処理を経て製造したものでも、超急冷されたリボン粒でも、スパッタ等により成膜したものでもよい。さらに希土類合金粒子はアモルファス状でもよい。
【0053】
希土類合金粒子の粒径も問わないが、平均粒径(累積質量が50%となるときの粒子径またはメジアン径)が1〜20μmさらには3〜10μm程度であると好ましい。その平均粒径が過小ではコスト高となり、平均粒径が過大では拡散元素の内部への拡散性には優れるが、希土類磁石の密度や磁気特性の低下を招き得る。なお希土類合金粒子は、組成や形態(粒形、粒径など)等が異なる複数種の混合物でもよい。
【0054】
《希土類磁石の用途》
本発明の希土類磁石は、最終製品、中間品または素材でもよく、その用途や形態は問わない。本発明の希土類磁石は、例えば、電動機のロータまたはステータなどの各種電磁機器、磁気ディスクなどの磁気記録媒体、リニアアクチュエータ、リニアモータ、サーボモータ、スピーカー、発電機等に用いられる。
【実施例】
【0055】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《拡散処理装置》
本発明に係る拡散処理に用いた拡散処理装置(希土類磁石の製造装置)1の概要図を図1に示した。
【0056】
拡散処理装置1は、処理室10と、この処理室10に連通する準備室20と、両者の連通を自在に切り換えられる開閉式のゲート(遮蔽手段)30と、処理室10内に設けられて磁石材Mを載置する載置台(配置手段)11と、処理室10と準備室20との間で拡散材Dを移動させるエレベータ(移動手段)21と、エレベータ21に取り付けられ拡散材Dを加熱するフラットヒータ(拡散材加熱手段)22と、磁石材Mを加熱すると共に近接配置した磁石材Mおよび拡散材Dを囲繞して拡散材Dから生じた蒸気に磁石材Mを効率的に曝す囲いである加熱パック13とを備える。
【0057】
加熱パック13の6面はそれぞれ、リフレクターと、リフレクターに取付けられた電気抵抗加熱式ヒータ(以下単に「ヒータ」という。)とからなる。加熱パック13の底面13aは、スライドまたは回動して開閉可能である。この底面13aは、準備室20から上昇してくる拡散材Dが磁石材Mへ近接する際に開く。加熱パック13の側面13bもスライドまたは回動して開閉可能である。この側面13bを開くと、磁石材Mを包囲する加熱パック13内が処理室10と同じ真空雰囲気になる。
【0058】
ゲート30により、処理室10と蒸着源室20とは独立した雰囲気に調整され得る。また磁石材Mは加熱パック13により、拡散材Dはフラットヒータ22により、それぞれ独立して異なる温度(磁石材温度および拡散材温度)に加熱され得る。
【0059】
なお図示していないが、処理室10には真空ポンプが接続されており、別途設けた制御手段により、処理室10の真空度、磁石材温度、拡散材温度、エレベータ21の昇降等が統合的に制御される。
【0060】
さらに処理室10の真空排気口には、磁石材Mから蒸発させたDy(拡散元素)を回収するコールドトラップが設けられている。また磁石材Mの冷却は、加熱パック13の側面13bが解放状態となり、処理室10内へ不活性ガス(Ar)を導入してなされる。
【0061】
《実施例1》
〈試料の製造〉
磁石材に拡散処理を施した希土類異方性焼結磁石(試料)を次のようにして製造した。
【0062】
(1)磁石材
先ず磁石材(焼結体)を次のようにして製造した。Fe−31.5%Nd−1%B−1%Co−0.2%Cu(単位:質量%)の希土類合金を鋳造した。この希土類合金を水素粉砕した後、さらにジェットミルで粉砕して、平均粒径D50(メジアン径)=6μmの磁石粉末を得た。ジェットミルによる粉砕は窒素雰囲気で行った。
【0063】
この磁石粉末(希土類合金粒子の集合体)を成形型のキャビティに入れて磁場中成形し、40×20×15mmの直方体状の成形体を得た(成形工程)。この際、2Tの磁場を印加した。この成形体を10−3Pa以下の真空雰囲気中で1050℃×4Hr加熱して焼結体を得た(焼結工程)。この焼結体の表面を研磨して得た6.5mm角の磁石材(試料)を次の拡散処理に供した。なお、拡散処理前の磁石材の磁気特性を表1の試料No.C13に示した。
【0064】
(2)拡散処理
上述した拡散処理装置1を用いて、試料である磁石材へ次のような拡散処理を施した。先ず、拡散処理装置1の処理室10内に配置した磁石材を、その温度(磁石材温度:Tm)が900℃になるまで加熱した。これに併行して、準備室20内に配置した拡散材を、その拡散材温度(Td)が770℃になるまで加熱した。この際、処理室内および準備室20内は10−4Paの真空雰囲気とした。なお、拡散元素の蒸気源となる拡散材にはDy単体(金属Dy)を用いた。
【0065】
次に、ゲート30を開けて準備室20にある拡散材を処理室10へ移動させ、拡散材を磁石材へ近接配置した(配置工程)。このとき磁石材と拡散材との間は約10mmとした。処理室10内および準備室20内の雰囲気は共に10−4Paに制御した。この状態で磁石材および拡散材を2時間加熱した(付着工程、蒸着工程)。
【0066】
その後、拡散材だけ加熱を中止し、加熱パック13の側面13bを開いて処理室10内を10−4Paの真空雰囲気とした。磁石材は900℃のまま加熱し続けた(蒸発工程)。このとき、拡散材を準備室20に移してゲート30を閉じてもよい。本実施例における磁石材および拡散材の温度履歴(ヒートパターン1)を図2に示した。
【0067】
〈試料の測定〉
上記の蒸着工程のみを行った試料と、さらに蒸発工程まで行った試料について、パルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業株式会社製)を用いて保磁力を測定した。また、各試料中に拡散したDy量(Dy拡散量)を電子線マイクロアナライザー(EPMA)および高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP)により測定した。
【0068】
また試料の拡散処理前後の保磁力差(ΔHt:kOe)を、試料中のDy量で(d:質量%)で除した値である保磁力効率(ΔHt/d:kOe/質量%)を算出した。両試料について、拡散処理前の試料(試料No.C13)に対する保磁力増加量を図3Aに、拡散処理により導入されたDy拡散量を図3Bに、保磁力効率を図3Cに、それぞれ棒グラフで示した。
【0069】
また、蒸着工程のみ行った試料とさらに蒸発工程を行った試料とについて、Dyを蒸着させた表面部からその内部に向かって観察したEPMA像(Dy像)を、それぞれ図4Aおよび図4Bに示した。
【0070】
さらに、図5Bに示すように、6.5mm角の各試料を0.1mmの切り代で1mm厚に順次スライスした6枚の薄片試料それぞれについて、上述した方法により保磁力を測定した。各薄片試料の保磁力に基づいて、試料の表面部から内部に向かう保磁力の分布を図5Aに示した。なお、図5Aには、各薄片試料の厚さ中央位置における保磁力としてプロットした。
【0071】
〈試料の評価〉
図3Aおよび図3Bから明らかなように、蒸発工程を行うことにより試料中のDy量が大幅に減少するが、保磁力の減少は僅かであり大きく変化しない。従って、図3Cに示すように、蒸発工程を行った試料は、蒸着工程のみの試料に対して、保磁力効率が約2倍にまで大幅に向上した。
【0072】
図4Aから明らかなように、蒸着工程のみを施した試料では、表面部にDyが過剰に滞留しており、表面部と内部におけるDy濃度差が大きくなっている。一方、図4Bから明らかなように、蒸着工程後に蒸発工程を施した試料では、表面部にDyの過剰な集中は観られず、Dy濃度差が緩和されて、Dyの粒界拡散がより内部深くまで進行していることがわかる。
【0073】
これらは図5Aからも明らかである。すなわち、蒸発工程によりDy量が減少しても、保磁力の実質的な低下は観られず、むしろ、蒸発工程を行った試料の方が、6.5mm角試料の中心部(表面からの位置で2.7〜3.8mmの位置)において保磁力が向上している。
【0074】
本実施例から、蒸発工程を施すことによって稀少なDyの使用量が大幅に抑制されると共に、従来と同等以上の保磁力を発現する希土類磁石が得られることがわかった。
【0075】
《実施例2》
(1)前述した磁石材を用いて、図6Aに示すヒートパターン2および図6Bに示すヒートパターンC2に沿って拡散処理を行った。ヒートパターン2は、磁石材温度(Tm):1000℃、拡散材温度(Td):830℃(<Tm)の蒸着工程を2時間行った後、拡散材を磁石材から離隔し、磁石材を続けて800〜900℃で加熱する蒸発工程を行うパターンである。ヒートパターンC2は、同じ蒸着工程を行った後、磁石材を一旦室温まで冷却し、その後、磁石材のみを800〜900℃で再加熱するパターンである。
【0076】
(2)ヒートパターン2により得られた試料のDy拡散量と保磁力を図7Aに、ヒートパターンC2により得られた試料のDy拡散量と保磁力を図7Bにそれぞれ示した。図7Aから明らかなように、蒸発工程を施した試料の場合、保磁力は殆ど変化せず、蒸発工程時の温度(磁石材温度)の上昇と共にDy拡散量が大きく低下した。一方、図7Bから明らかなように、磁石材を途中で室温域まで冷却した試料の場合、保磁力のみならずDy拡散量も殆ど変化しなかった。これは、蒸着工程後に室温域まで冷却すると、磁石材の少なくとも表面部にあったDyが、希土類磁石の主相粒内に取り込まれ、その後に再加熱して蒸発し難い程度に安定状態になったためと考えられる。いずれにしろ、Dyの使用量を抑制して高保磁力を得るには、蒸着工程に続けて(磁石材の真空中で加熱したまま)、蒸発工程を行うことが好ましいことが本実施例からわかった。
【0077】
《実施例3》
(1)前述した磁石材を用いて、図8Aに示すヒートパターン3に沿って拡散処理を行った。ヒートパターン3は、磁石材温度(Tm):950℃、拡散材温度(Td):770℃(<Tm)の蒸着工程Iを2時間行った後、拡散材を室温域まで降温しつつ、磁石材を続けて900℃(=Tm)で加熱する蒸発工程Iを行う第1拡散処理と、その蒸着工程Iと同様な蒸着工程IIおよび蒸発工程Iと同様な蒸発工程IIを繰り返し行う第2拡散処理とからなるパターンである。
【0078】
(2)試料中のDy拡散量を図8Bに、拡散処理前の試料に対する保磁力の増加量を図8Cに、ヒートパターン3の各ステージ毎にそれぞれ示した。なお、ステージS1は蒸着工程Iが終了した時点を、ステージS2は蒸発工程Iが終了した時点を、ステージS3は蒸着工程IIが終了した時点を、ステージS4は蒸発工程IIが終了した時点をそれぞれ示す。
【0079】
先ず図8Bから明らかなように、蒸発工程Iまたは蒸発工程IIによって、それぞれ蒸着工程I後または蒸着工程II後よりも試料中のDy拡散量が低減している。但し、蒸着工程および蒸発工程が繰り返されることにより、試料中のDy拡散量は大きく増加している。
【0080】
次に、図8Cから明らかなように、蒸発工程Iまたは蒸発工程IIによりDy拡散量が減少しても、保磁力は低下せずむしろ上昇する。また蒸着工程および蒸発工程の繰り返しによるDy拡散量が増加すると、その分、保磁力も増加する。従って、蒸着工程および蒸発工程からなる拡散処理を繰り返すことにより、Dyの使用量を抑制しつつ、保磁力をさらに高めることが可能であることが本実施例からわかった。
【0081】
《実施例4》
(1)表1に示すように種々のヒートパターンで拡散処理した試料を用意した(試料No.1〜4および試料No.C1〜C10)。なお、試料No.C1〜C10は、図9Bに示すヒートパターンC0または図9Cに示すようなヒートパターンC3により拡散処理した。なお、ヒートパターンC0は磁石材と拡散材を同条件で加熱する従来型のヒートパターンである。また試料No.C10は、溶解法によりDyを予め3.5質量%含有した希土類合金粒子からなる磁石材へ、拡散処理によりDyを0.6質量%拡散させたものである。
【0082】
さらに溶解法によりDyを含有させた希土類合金粒子からなり、拡散処理をしない試料も用意した(試料No.C11および試料No.C12)。試料No.C13は、前述した拡散処理前の磁石材である。これらの試料の磁気特性(保磁力)を既述した各試料と同様に求め、表1に合わせて記載した。
【0083】
(2)ヒートパターン3により得られた試料No.3と、ヒートパターンC0により得られた試料No.C7〜C9とについて、表面部から内部に向かう保磁力の分布を図9Aに示した。なお、各位置における保磁力の測定および表示は、図5Aおよび図5Bに示した場合と同様である。
【0084】
図9Aから明らかなように、蒸着工程のみならず蒸発工程を行い、それらを繰り返すことにより、Dy拡散量が1.2質量%程度であっても、表面部のみならず内部において保磁力が大幅に増加することがわかる。
【0085】
(3)表1に示した各試料に関する、Dy拡散量(d:質量%)と希土類磁石全体の保磁力(Ht:kOe)との相関を図10に示した。またそれらの試料に関する、Ht−(2d+11)とHi/Hsの相関を図11に示した。なお、Hi(kOe)は、6.5mm角の試料から切り出した3枚目の薄片試料(表面からの位置:3.3〜4.3mm/全高(6.5mm)の51〜66%に相当)の保磁力である。またHs(kOe)は、6.5mm角の試料から切り出した1枚目の薄片試料(表面からの位置:0〜1mm/全高の0〜15%に相当)の保磁力である。
【0086】
先ず、図10から明らかなように、Dyを溶解法により原料(希土類合金粒子)に含有させた試料は、Ht−(2d+11)=0の直線上にほぼ存在する。一方、本発明のように蒸着工程に加えて蒸発工程を行った試料は、保磁力Htがその直線上よりもさらに3.5kOe以上高くなっている。換言するなら、Ht−(2d+11)≧3.5の領域に存在していることがわかる。
【0087】
次に、図11から明らかなように、蒸着工程に加えて蒸発工程を行った試料は、Ht−(2d+11)が3.5以上であるのみならず、保磁力の内表比Hi/Hsが0.8以上となっている。特に試料No.1〜4は、4≦Ht−(2d+11)≦5.5かつ0.8≦Hi/Hs≦0.9により包囲される領域内に収まっている。ちなみにこの領域は、試料No.C1〜C10や従来の希土類磁石では到達し得なかった領域であり、本発明に係る希土類磁石により初めて開拓された領域である。
【0088】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスプロシウム(Dy)等の拡散元素の使用量を低減しつつ高磁気特性(特に高保磁力)が得られる希土類磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系磁石を代表とする希土類磁石(特に永久磁石)は、非常に高い磁気特性を示す。この希土類磁石を用いると、電磁機器や電動機の小型化、高出力化、高密度化さらには環境負荷の低減化等を図ることが可能となるため、幅広い分野で希土類磁石の利用が検討されている。
【0003】
もっともそのためには、希土類磁石の優れた磁気特性が厳しい環境下でも長期的に安定して発揮されることが求められる。そこで希土類磁石の高い残留磁束密度を維持または向上させつつ、耐熱性(耐減性)等に有効な保磁力を高める研究開発が盛んに行われている。その最も有効な方法の一つは、異方性磁界(Ha)の大きな希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの拡散元素を、主相となる結晶(例えば、Nd2Fe14B型結晶)の粒界などへ拡散させることである。これにより、その結晶粒内におけるDy等の置換を抑制しつつ、結晶磁気異方性の向上と逆磁区の核生成の抑制を図れ、残留磁束密度の低下を抑制しつつ保磁力の向上を図れる。
【0004】
ところで、そのような拡散方法にも種々ある。例えば、原料合金(希土類磁石合金)からなる磁石粉末に拡散元素を含む拡散粉末を混合し、得られた混合粉末の成形体を焼結等させて、上述した拡散処理を行う粉末混合法がある。また、拡散粉末等を磁石材の表面に被着させた後、熱処理して拡散処理を行う被着法がある。さらに、稀少元素であるDy等の使用量を抑制しつつ保磁力を効果的に向上させるために、磁石粉末からなる磁石材へ拡散元素を蒸着させて内部へ拡散させる蒸着法(蒸気法)が提案されている。この蒸着法が最近の主流であり、これに関連する記載が、例えば下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO2006/100968
【特許文献2】国際公開公報WO2007/102391(特開2008−263223号公報、特開2009−124150号公報)
【特許文献3】特開2008−177332号公報
【特許文献4】特開2009−43776号公報
【特許文献5】特開2009−200179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の各特許文献に記載されている内容はいずれも、基本的に、拡散元素の蒸気源である拡散材を磁石材と共に同条件下で加熱して、磁石材表面へ拡散元素を蒸着、拡散させるものである(図9B参照)。もっともこの場合、蒸着と拡散は一体的であり、蒸着処理の終了が拡散処理の終了となっていた。
【0007】
ところが、このような方法では、蒸着した拡散元素が磁石材の表面近傍に濃厚に滞留して内部まで拡散せずに終わり、稀少なDy等が希土類磁石の保磁力向上に有効に利用されない状況が生じていた。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものである。すなわち、稀少なDy等の拡散元素の使用量を抑制しつつ、保磁力をより効率的に高めることができる希土類磁石とその製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、磁石材の表面近傍に滞留し内部まで拡散しない拡散元素(Dy等)を、その表面から蒸発させることを思いついた。そして実際に、磁石材に含まれる拡散元素量を低減しつつ、従来と同等以上の保磁力を発現する希土類磁石を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べるような本発明が完成するに至った。
【0010】
《希土類磁石の製造方法》
(1)本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部に内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる付着工程と、該磁石材を真空中で加熱して該磁石材の表面部に滞留した該拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる蒸発工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
(2)本発明の製造方法によれば、付着工程で磁石材の表面近傍に過度に濃化した余剰の拡散元素(Dy等)を、蒸発工程で蒸発させることができる。これにより、磁石材の表面部とその内部との間にできる拡散元素の濃度勾配を緩和または解消でき、さらには、拡散元素をより内部へ拡散さることが可能となる。こうして拡散元素が磁石材の内部深くまで拡散した高磁気特性(特に高保磁力)の希土類磁石が、稀少な拡散元素の使用量の低減を図りつつ得られる。
【0012】
ちなみに、蒸発工程で磁石材の表面から蒸発させた拡散元素は、真空排気口等に設けたコールドトラップなどにより捕捉、回収して再利用可能である。従って本発明の製造方法を全体的にみると、稀少な拡散元素が何ら無駄にされることなく効率的に有効活用されて、高磁気特性(保磁力)の希土類磁石が得られる。
【0013】
また本発明のような付着工程と蒸発工程からなる拡散処理によれば、従来の拡散処理を行う場合よりも、処理時間を大幅に短縮できる。なぜなら、従来のように、磁石材内における拡散元素の拡散速度に応じて、拡散元素をその表面へ長時間をかけてゆっくりと蒸着等させる必要が必ずしもないからである。つまり本発明の製造方法によれば、付着工程で、拡散元素を磁石材の表面へ一時的にまたは短時間内に付着させた場合でも、その後の蒸発工程で、表面部にある余剰な拡散元素を除去、回収しつつ、拡散元素を磁石材の内部へ十分に拡散させることができるからである。
【0014】
具体的に説明すると、本発明の製造方法によれば、例えば、従来の拡散処理した希土類磁石と同等以上の保磁力を発現しつつ、Dy等の拡散元素量が従来の1/2〜1/10に抑制された希土類磁石が、数時間の拡散処理により得られる。
【0015】
《希土類磁石》
(1)本発明は、上述した製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた希土類磁石としても把握される。さらにこの希土類磁石は、拡散元素量と保磁力との相関において、従来の希土類磁石とは明らかにことなる。つまり、本発明に係る希土類磁石は、拡散元素量と保磁力に関して全く新規な領域に属する。そこで本発明は、上述した製造方法とは関係なく、次のような希土類磁石自体としても把握される。
【0016】
(2)すなわち本発明は、希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材と該磁石材の表面部から内部へ拡散した拡散元素とからなる希土類磁石であって、該希土類磁石全体を100質量%としたときの該拡散元素量d(質量%)、該希土類磁石全体の保磁力Ht(kOe=79.58kA/m)、該希土類磁石の表面部の保磁力Hs(kOe)、該希土類磁石の内部の保磁力Hi(kOe)が次の関係式を満たすことを特徴とする希土類磁石でもよい。
Ht−(2d+11)≧3.5(kOe) (数式1)
かつ Hi/Hs ≧0.8 (数式2)
【0017】
ここでいう「表面部」は、拡散元素が付着する希土類磁石の最表面(拡散面)からの深さが、希土類磁石全体の高さ(全高)の0〜15%に相当する部分をいう。また「内部」は、その最表面からの深さが全高の51〜66%に相当する部分をいう。「表面部の保磁力Hs」は、供試材である希土類磁石をスライスして得られた上記の表面部に相当する薄板状の試料(薄片試料)を、パルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業株式会社製)で測定して得られた値である。また「内部の保磁力Hi」は、希土類磁石をスライスして得られた上記の内部に相当する薄片試料を同様に測定して得られた値である。
【0018】
なお、数式1および数式2を満たす希土類磁石は既述の製造方法による限定を受けないが、勿論、上述した製造方法により得られたものであると好適である。以下、拡散元素が代表的なDyである場合を例にとり、数式1および数式2の意味を説明する。
【0019】
拡散処理を行わない希土類磁石(特にNdFeB系焼結磁石)の保磁力は一般的に約11kOeである。その希土類磁石を構成する希土類合金粒子がDyを含有している場合、Dy1質量%あたり希土類磁石の保磁力は一般的に約1kOe上昇することが知られている。従って数式1の左辺:Ht−(2d+11)=0で示される直線が、希土類磁石の保磁力の上昇度合を検討する際のベースラインとなる。従って数式1は、本発明の希土類磁石の保磁力が、そのベースラインよりも3.5kOe以上高いことを意味する。このようにDy量との相関で保磁力が格段に高くなる希土類磁石は従来ほとんど存在し無かった。
【0020】
数式2は、本発明の希土類磁石が表面部(Hs)と内部(Hi)で保磁力差が非常に小さいことを意味する。つまり数式2は、Dyが希土類磁石の表面部に過剰に滞留しておらず内部にも拡散しており、表面部から内部に向かうDy濃度勾配が非常に小さいか、または緩やかであることを意味している。このように表面部と内部との保磁力差が小さい希土類磁石も従来ほとんど存在し無かった。
【0021】
そして磁石材の表面から拡散元素を拡散させた希土類磁石に限っていうなら、数式1および数式2を共に満たすような希土類磁石は、これまで全く存在していなかった。従って、両数式により画定される領域に属する希土類磁石は、本発明により初めて提供される。
【0022】
本発明の場合、数式1の左辺は、4kOe以上、4.5kOe以上さらには5kOe以上にもなり得る。この数式1の左辺は大きいほど好ましいので、当然、その上限値を設けることはできないし、その必要もない。敢えていうなら、数式1の左辺は8kOe以下、7kOe以下さらには6kOe以下としてもよい。数式2の左辺は、0.82以上さらには0.84以上にもなり得る。この数式2の左辺も大きいほど好ましいので、当然、上限値を設ける必要はない。敢えていうなら、数式2の左辺は、1以下、0.95以下さらには0.9以下としてもよい。
【0023】
(3)本発明に係る希土類磁石は、希土類磁石素材や希土類磁石部材などを含み、その形態も問わない。例えば、希土類磁石はブロック状でも、環状でも、薄膜状でもよい。本発明の希土類磁石は、高磁気特性の異方性希土類磁石であると好ましいが、等方性希土類磁石でもよい。
【0024】
ちなみに磁石材は、拡散処理に供される被処理材であり、希土類合金粒子からなる成形体でも、その成形体を焼結させた焼結体でもよい。また磁石材は、最終的製品でも、中間材でも、バルク材でもよい。
【0025】
また本明細書でいう拡散元素の拡散は、主に、希土類合金粒子(磁石粉末粒子)またはそれを構成する結晶(主相)の表面や粒界への拡散(表面拡散や粒界拡散)をいう。但し、結晶粒内への拡散(体拡散)を含めてもよい。なお、本明細書で単に「粒界」や「界面」というときは、希土類合金粒子のみならずそれを構成する結晶粒の「粒界」や「界面」も含む。
【0026】
《その他》
(1)本明細書でいう希土類元素(R)には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイドを含む。ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)などがある。
【0027】
(2)本明細書でいう「希土類合金」は、希土類元素の一種以上である主希土類元素(以下「Rm」と表す。)とホウ素(B)と残部である遷移金属元素(TM:主にFe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる。このRmは上述したRの一種以上からなるが、なかでも、Ndおよび/またはPrが代表的である。
【0028】
改質元素は、希土類磁石の耐熱性を向上させるコバルト(Co)、ランタン(La)、保磁力などの磁気特性の向上に有効なガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)または鉛(Pb)の少なくとも1種以上がある。改質元素の組合せは任意である。
【0029】
これらの含有量は通常微量であり、例えば、希土類合金全体を100質量%として、0.01〜10質量%程度である。なお、改質元素は、希土類合金粒子内に元々含有されている場合の他、拡散処理等により外部から導入されたものでもよい。
【0030】
不可避不純物は、希土類合金にもともと含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。このような不可避不純物として、例えば、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、水素(H)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アルゴン(Ar)等がある。
【0031】
(3)拡散材は、拡散元素(保磁力向上元素)を含む限り、その組成、種類、形態等を問わない。拡散元素には、Dy、Tb、Ho等の拡散希土類元素(Rd)がある。拡散材はそれらの単体または合金からなると好ましい。また、付着工程に用いる拡散材は単種のみからなっても複数種でもよい。なお、拡散材にも上述した改質元素や不可避不純物に関する内容が該当し得る。
【0032】
(4)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。また、本明細書に記載した種々の下限値または上限値は、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに、本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、新たな数値範囲を設定するための上限値または下限値とし得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】拡散処理装置の概要図である。
【図2】拡散処理時の温度変化を示すヒートパターン1を示す説明図である。
【図3A】蒸発工程の有無と保磁力増加量との関係を示す棒グラフである。
【図3B】蒸発工程の有無とDy拡散量との関係を示す棒グラフである。
【図3C】蒸発工程の有無と保磁力効率との関係を示す棒グラフである。
【図4A】蒸発工程を施さない希土類磁石を表面部から内部に向かって観察したEPMA像である。
【図4B】蒸発工程を施した希土類磁石を表面部から内部に向かって観察したEPMA像である。
【図5A】蒸発工程の有無と希土類磁石の表面部から内部にわたる保磁力の変化との関係を示す分散図である。
【図5B】表面部から内部にわたる保磁力を測定した試料を示す概要図である。
【図6A】拡散処理時の温度変化を示すヒートパターン2を示す説明図である。
【図6B】別のヒートパターンC2を示す説明図である。
【図7A】ヒートパターン2に係る蒸発工程時の温度とDy拡散量および保磁力との関係を示す分散図である。
【図7B】ヒートパターンC2に係る蒸発工程時の温度とDy拡散量および保磁力との関係を示す図である。
【図8A】拡散処理時の温度変化を示すヒートパターン3を示す説明図である。
【図8B】ヒートパターン3の各時点におけるDy拡散量を示す棒グラフである。
【図8C】ヒートパターン3の各時点における保磁力増加量を示す棒グラフである。
【図9A】種々の希土類磁石の表面部から内部にわたる保磁力の変化を示す分散図である。
【図9B】従来型のヒートパターンC0を示す説明図である。
【図9C】別のヒートパターンC3を示す説明図である。
【図10】種々の希土類磁石について調べたDy量(d:質量%)と保磁力(Ht:kOe)との関係を示す分散図である。
【図11】それら希土類磁石の保磁力に関する特性を示す分散図である。
【符号の説明】
【0034】
1 拡散処理装置(希土類磁石の製造装置)
10 処理室
20 準備室
M 磁石材
D 拡散材
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。以下の実施形態を含めて本明細書で説明する内容は、本発明の製造方法のみならず希土類磁石にも適宜適用される。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を上述した本発明の構成に付加し得る。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば希土類磁石に関する構成となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0036】
《製造方法》
本発明の希土類磁石の製造方法は主に付着工程と蒸発工程からなり、これら工程により拡散処理がなされる。以下、各工程について説明する。
【0037】
(1)付着工程は、原料合金を粉砕等した希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部(表面のみを含む)へ、その表面部から内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる工程である。拡散元素を磁石材の表面部へ付着させる方法として、拡散元素を含む拡散材を磁石材の表面部に塗布する塗布法、拡散材の蒸気に磁石材を曝して磁石材の表面部に拡散元素を蒸着させる蒸着法などがある。
【0038】
もっとも、蒸着法によれば、Dy等の拡散元素のみを効率的に磁石材内へ付着させ得る。従って付着工程は、加熱した磁石材と加熱した拡散元素を含む拡散材とを真空中で近接させ、拡散材から蒸発した拡散元素の蒸気に磁石材を曝して磁石材の表面へ拡散元素を蒸着させる蒸着工程であると好適である。
【0039】
付着工程が蒸着工程である場合、磁石材と拡散材とを独立して加熱でき、磁石材の加熱温度である磁石材温度(Tm)と拡散材の加熱温度である拡散材温度(Td)とを個別に、拡散処理に好ましい温度に調整できる。例えば、希土類合金粒子またはその結晶の界面または粒界に、液相が生じて拡散元素が粒界拡散し易くなる温度に磁石材を加熱する一方、拡散材は所望の拡散元素の蒸気が得られる温度に加熱する。こうすれば、蒸着工程で、拡散元素が磁石材の表面に単に付着するのみならず、並行して磁石材の内部へ拡散するようになる。この一例として、蒸着工程は、磁石材の加熱温度(Tm)を拡散材の加熱温度(Td)よりも高くすると好適であると好ましい。
【0040】
(2)蒸発工程は、付着工程後の磁石材を真空中で加熱して磁石材の表面部に滞留した拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる工程である。蒸発工程中の磁石材の加熱温度や雰囲気は適宜調整される。例えば、その加熱温度(磁石材温度)は、拡散元素が単に磁石材表面から蒸発するのみならず、磁石材の内部への拡散も促進される温度であると好ましい。付着工程が蒸着工程である場合を考えると、蒸発工程の加熱温度は、例えば、蒸着工程時の拡散材の加熱温度(拡散材温度)よりも高い方が好ましい。もっとも、蒸発工程の加熱温度が過大になると、結晶粒内への拡散(体拡散)が促進され、磁石材の内部への拡散が阻害されるので好ましくない。そこで蒸発工程時の加熱温度は、例えば、蒸着工程時の磁石材温度と拡散材温度の中間であるとよい。
【0041】
また付着工程が蒸着工程である場合、蒸発工程は、蒸着工程に続けて磁石材を真空中で加熱する工程であると好ましい。蒸着工程後の磁石材を室温域まで一旦冷却した後に再加熱しても、磁石材の表面部から拡散元素が蒸発し難い。この理由は定かではないが、蒸着工程後に磁石材を一旦冷却すると、拡散元素が主相内に取り込まれて安定状態になるためと考えられる。
【0042】
また蒸発工程が蒸着工程で作出された真空加熱雰囲気中でなされると効率的である。この場合、蒸発工程は、蒸着工程で加熱されていた拡散材を降温させるか、磁石材から隔離するだけでよい。つまり、拡散元素の蒸気に磁石材が曝されないようにすればよい。従って蒸発工程は、拡散材の温度を降下させる降温工程または拡散材を磁石材から離隔する離隔工程ともできる。
【0043】
(3)付着工程や蒸発工程は、希土類合金粒子からなる成形体を焼結させる焼結工程の少なくとも一部と兼用でもよい。この場合、成形体中に液相を生じる温度域で付着工程を行うと、拡散元素の拡散速度が高くなり、短時間で効率的な拡散処理が可能となる。
【0044】
ここで希土類合金粒子からなる成形体を焼結させる場合、R2TM14B1型結晶(TM:遷移金属元素)からなる主相とBリッチ相とR相との間で液相が生じる温度は600〜700℃前後である。例えば、Nd−Fe−B系希土類磁石の場合なら、665℃で液相を生じ始める。もっとも成形体が水素化処理された希土類合金粒子からなる場合、それよりも高い750〜850℃程度でRH2 →R+H2 が生じてから液相が生じ始める。例えば、水素化処理したNd−Fe−B系希土類合金粒子からなる成形体の場合なら、800℃から液相を生じ始める。従ってこのような液相を生じ始める温度以上に磁石材を加熱して、付着工程や蒸発工程を行うとよい。
【0045】
なお、そのような液相は、拡散元素と希土類合金粒子中の元素が共晶を生成する場合も生じ得る。例えば、拡散元素であるDyと希土類合金粒子内のFeは、共晶点である890℃以上で液相を生成し始める。これにより成形体中の液相量は増加し、成形体内における拡散元素の拡散速度はより高まる。以上を踏まえて、例えば、磁石材がR−TM−B系希土類合金からなり、拡散元素が希土類元素の一種以上からなる場合なら、磁石材温度(Tm)を700〜1100℃、拡散材温度(Td)を600〜1000℃とするとよい。
【0046】
(4)蒸着工程または蒸発工程におけるガス圧または真空度は適宜調整される。例えば、Rm−TM−B系希土類合金からなる磁石材へ拡散希土類元素(Rd)を拡散させる場合、処理炉内のガス圧(真空度)は1Pa以下、10−1Pa以下、10−2Pa以下さらには10−3Pa以下が好ましい。この真空度を調整することにより、拡散材から生じる拡散元素の蒸気量ひいては磁石材への蒸着量、磁石材から蒸発する拡散元素の蒸気量を制御できる。
【0047】
(5)蒸着工程または蒸発工程の処理時間も、蒸着または蒸発させる拡散元素量に応じて適宜調整されるが、従来の拡散処理時間よりも大幅に短縮可能である。そこで例えば、蒸着工程または蒸発工程は、それぞれ0.5〜10時間さらには1〜5時間であるとよい。
【0048】
さらに付着工程(特に蒸着工程)および蒸発工程は、それぞれ一回だけでもよいが、同順で繰り返しなさてもよい。各工程を繰り返すことにより、拡散元素を有効に増量させて保磁力を効率的に高めることができる。
【0049】
《磁石材》
磁石材は希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる。希土類合金粒子は、希土類元素の一種以上であるRmとBと残部が遷移金属(TM:主にFe)および不可避不純物および/または改質元素とからなる希土類合金を粉砕等して得られる。
【0050】
希土類合金は、Rm2TM14Bに基づく理論組成よりも、磁石材の保磁力や焼結性の向上に有効なRmリッチ相が形成される組成であると好ましい。具体的にいうと希土類合金は、全体を100原子%としたときに10〜30原子%のRmと、1〜20原子%のBと、残部であるTMとからなるRm−TM−B系合金であると好ましい。
【0051】
特にRmは12〜16原子%、Bは5〜12原子%であると磁気特性に優れる高密度な希土類磁石が得られ易い。TMは基本的に主たる残部であるが、あえていうとTMは72〜83原子%であるとよい。なお、Bの代替として炭素(C)を用いることができ、このときB+C:5〜12原子%となるように調製するとよい。
【0052】
希土類合金粒子は、その製造方法や形態を問わず、所望組成の鋳造希土類合金を機械粉砕したものでも水素粉砕したものでも、ストリップキャスト等により急冷凝固させた薄板状の鋳片でも、HDDR(水素化−分解・脱水素−再結合法)のような水素処理を経て製造したものでも、超急冷されたリボン粒でも、スパッタ等により成膜したものでもよい。さらに希土類合金粒子はアモルファス状でもよい。
【0053】
希土類合金粒子の粒径も問わないが、平均粒径(累積質量が50%となるときの粒子径またはメジアン径)が1〜20μmさらには3〜10μm程度であると好ましい。その平均粒径が過小ではコスト高となり、平均粒径が過大では拡散元素の内部への拡散性には優れるが、希土類磁石の密度や磁気特性の低下を招き得る。なお希土類合金粒子は、組成や形態(粒形、粒径など)等が異なる複数種の混合物でもよい。
【0054】
《希土類磁石の用途》
本発明の希土類磁石は、最終製品、中間品または素材でもよく、その用途や形態は問わない。本発明の希土類磁石は、例えば、電動機のロータまたはステータなどの各種電磁機器、磁気ディスクなどの磁気記録媒体、リニアアクチュエータ、リニアモータ、サーボモータ、スピーカー、発電機等に用いられる。
【実施例】
【0055】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《拡散処理装置》
本発明に係る拡散処理に用いた拡散処理装置(希土類磁石の製造装置)1の概要図を図1に示した。
【0056】
拡散処理装置1は、処理室10と、この処理室10に連通する準備室20と、両者の連通を自在に切り換えられる開閉式のゲート(遮蔽手段)30と、処理室10内に設けられて磁石材Mを載置する載置台(配置手段)11と、処理室10と準備室20との間で拡散材Dを移動させるエレベータ(移動手段)21と、エレベータ21に取り付けられ拡散材Dを加熱するフラットヒータ(拡散材加熱手段)22と、磁石材Mを加熱すると共に近接配置した磁石材Mおよび拡散材Dを囲繞して拡散材Dから生じた蒸気に磁石材Mを効率的に曝す囲いである加熱パック13とを備える。
【0057】
加熱パック13の6面はそれぞれ、リフレクターと、リフレクターに取付けられた電気抵抗加熱式ヒータ(以下単に「ヒータ」という。)とからなる。加熱パック13の底面13aは、スライドまたは回動して開閉可能である。この底面13aは、準備室20から上昇してくる拡散材Dが磁石材Mへ近接する際に開く。加熱パック13の側面13bもスライドまたは回動して開閉可能である。この側面13bを開くと、磁石材Mを包囲する加熱パック13内が処理室10と同じ真空雰囲気になる。
【0058】
ゲート30により、処理室10と蒸着源室20とは独立した雰囲気に調整され得る。また磁石材Mは加熱パック13により、拡散材Dはフラットヒータ22により、それぞれ独立して異なる温度(磁石材温度および拡散材温度)に加熱され得る。
【0059】
なお図示していないが、処理室10には真空ポンプが接続されており、別途設けた制御手段により、処理室10の真空度、磁石材温度、拡散材温度、エレベータ21の昇降等が統合的に制御される。
【0060】
さらに処理室10の真空排気口には、磁石材Mから蒸発させたDy(拡散元素)を回収するコールドトラップが設けられている。また磁石材Mの冷却は、加熱パック13の側面13bが解放状態となり、処理室10内へ不活性ガス(Ar)を導入してなされる。
【0061】
《実施例1》
〈試料の製造〉
磁石材に拡散処理を施した希土類異方性焼結磁石(試料)を次のようにして製造した。
【0062】
(1)磁石材
先ず磁石材(焼結体)を次のようにして製造した。Fe−31.5%Nd−1%B−1%Co−0.2%Cu(単位:質量%)の希土類合金を鋳造した。この希土類合金を水素粉砕した後、さらにジェットミルで粉砕して、平均粒径D50(メジアン径)=6μmの磁石粉末を得た。ジェットミルによる粉砕は窒素雰囲気で行った。
【0063】
この磁石粉末(希土類合金粒子の集合体)を成形型のキャビティに入れて磁場中成形し、40×20×15mmの直方体状の成形体を得た(成形工程)。この際、2Tの磁場を印加した。この成形体を10−3Pa以下の真空雰囲気中で1050℃×4Hr加熱して焼結体を得た(焼結工程)。この焼結体の表面を研磨して得た6.5mm角の磁石材(試料)を次の拡散処理に供した。なお、拡散処理前の磁石材の磁気特性を表1の試料No.C13に示した。
【0064】
(2)拡散処理
上述した拡散処理装置1を用いて、試料である磁石材へ次のような拡散処理を施した。先ず、拡散処理装置1の処理室10内に配置した磁石材を、その温度(磁石材温度:Tm)が900℃になるまで加熱した。これに併行して、準備室20内に配置した拡散材を、その拡散材温度(Td)が770℃になるまで加熱した。この際、処理室内および準備室20内は10−4Paの真空雰囲気とした。なお、拡散元素の蒸気源となる拡散材にはDy単体(金属Dy)を用いた。
【0065】
次に、ゲート30を開けて準備室20にある拡散材を処理室10へ移動させ、拡散材を磁石材へ近接配置した(配置工程)。このとき磁石材と拡散材との間は約10mmとした。処理室10内および準備室20内の雰囲気は共に10−4Paに制御した。この状態で磁石材および拡散材を2時間加熱した(付着工程、蒸着工程)。
【0066】
その後、拡散材だけ加熱を中止し、加熱パック13の側面13bを開いて処理室10内を10−4Paの真空雰囲気とした。磁石材は900℃のまま加熱し続けた(蒸発工程)。このとき、拡散材を準備室20に移してゲート30を閉じてもよい。本実施例における磁石材および拡散材の温度履歴(ヒートパターン1)を図2に示した。
【0067】
〈試料の測定〉
上記の蒸着工程のみを行った試料と、さらに蒸発工程まで行った試料について、パルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業株式会社製)を用いて保磁力を測定した。また、各試料中に拡散したDy量(Dy拡散量)を電子線マイクロアナライザー(EPMA)および高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP)により測定した。
【0068】
また試料の拡散処理前後の保磁力差(ΔHt:kOe)を、試料中のDy量で(d:質量%)で除した値である保磁力効率(ΔHt/d:kOe/質量%)を算出した。両試料について、拡散処理前の試料(試料No.C13)に対する保磁力増加量を図3Aに、拡散処理により導入されたDy拡散量を図3Bに、保磁力効率を図3Cに、それぞれ棒グラフで示した。
【0069】
また、蒸着工程のみ行った試料とさらに蒸発工程を行った試料とについて、Dyを蒸着させた表面部からその内部に向かって観察したEPMA像(Dy像)を、それぞれ図4Aおよび図4Bに示した。
【0070】
さらに、図5Bに示すように、6.5mm角の各試料を0.1mmの切り代で1mm厚に順次スライスした6枚の薄片試料それぞれについて、上述した方法により保磁力を測定した。各薄片試料の保磁力に基づいて、試料の表面部から内部に向かう保磁力の分布を図5Aに示した。なお、図5Aには、各薄片試料の厚さ中央位置における保磁力としてプロットした。
【0071】
〈試料の評価〉
図3Aおよび図3Bから明らかなように、蒸発工程を行うことにより試料中のDy量が大幅に減少するが、保磁力の減少は僅かであり大きく変化しない。従って、図3Cに示すように、蒸発工程を行った試料は、蒸着工程のみの試料に対して、保磁力効率が約2倍にまで大幅に向上した。
【0072】
図4Aから明らかなように、蒸着工程のみを施した試料では、表面部にDyが過剰に滞留しており、表面部と内部におけるDy濃度差が大きくなっている。一方、図4Bから明らかなように、蒸着工程後に蒸発工程を施した試料では、表面部にDyの過剰な集中は観られず、Dy濃度差が緩和されて、Dyの粒界拡散がより内部深くまで進行していることがわかる。
【0073】
これらは図5Aからも明らかである。すなわち、蒸発工程によりDy量が減少しても、保磁力の実質的な低下は観られず、むしろ、蒸発工程を行った試料の方が、6.5mm角試料の中心部(表面からの位置で2.7〜3.8mmの位置)において保磁力が向上している。
【0074】
本実施例から、蒸発工程を施すことによって稀少なDyの使用量が大幅に抑制されると共に、従来と同等以上の保磁力を発現する希土類磁石が得られることがわかった。
【0075】
《実施例2》
(1)前述した磁石材を用いて、図6Aに示すヒートパターン2および図6Bに示すヒートパターンC2に沿って拡散処理を行った。ヒートパターン2は、磁石材温度(Tm):1000℃、拡散材温度(Td):830℃(<Tm)の蒸着工程を2時間行った後、拡散材を磁石材から離隔し、磁石材を続けて800〜900℃で加熱する蒸発工程を行うパターンである。ヒートパターンC2は、同じ蒸着工程を行った後、磁石材を一旦室温まで冷却し、その後、磁石材のみを800〜900℃で再加熱するパターンである。
【0076】
(2)ヒートパターン2により得られた試料のDy拡散量と保磁力を図7Aに、ヒートパターンC2により得られた試料のDy拡散量と保磁力を図7Bにそれぞれ示した。図7Aから明らかなように、蒸発工程を施した試料の場合、保磁力は殆ど変化せず、蒸発工程時の温度(磁石材温度)の上昇と共にDy拡散量が大きく低下した。一方、図7Bから明らかなように、磁石材を途中で室温域まで冷却した試料の場合、保磁力のみならずDy拡散量も殆ど変化しなかった。これは、蒸着工程後に室温域まで冷却すると、磁石材の少なくとも表面部にあったDyが、希土類磁石の主相粒内に取り込まれ、その後に再加熱して蒸発し難い程度に安定状態になったためと考えられる。いずれにしろ、Dyの使用量を抑制して高保磁力を得るには、蒸着工程に続けて(磁石材の真空中で加熱したまま)、蒸発工程を行うことが好ましいことが本実施例からわかった。
【0077】
《実施例3》
(1)前述した磁石材を用いて、図8Aに示すヒートパターン3に沿って拡散処理を行った。ヒートパターン3は、磁石材温度(Tm):950℃、拡散材温度(Td):770℃(<Tm)の蒸着工程Iを2時間行った後、拡散材を室温域まで降温しつつ、磁石材を続けて900℃(=Tm)で加熱する蒸発工程Iを行う第1拡散処理と、その蒸着工程Iと同様な蒸着工程IIおよび蒸発工程Iと同様な蒸発工程IIを繰り返し行う第2拡散処理とからなるパターンである。
【0078】
(2)試料中のDy拡散量を図8Bに、拡散処理前の試料に対する保磁力の増加量を図8Cに、ヒートパターン3の各ステージ毎にそれぞれ示した。なお、ステージS1は蒸着工程Iが終了した時点を、ステージS2は蒸発工程Iが終了した時点を、ステージS3は蒸着工程IIが終了した時点を、ステージS4は蒸発工程IIが終了した時点をそれぞれ示す。
【0079】
先ず図8Bから明らかなように、蒸発工程Iまたは蒸発工程IIによって、それぞれ蒸着工程I後または蒸着工程II後よりも試料中のDy拡散量が低減している。但し、蒸着工程および蒸発工程が繰り返されることにより、試料中のDy拡散量は大きく増加している。
【0080】
次に、図8Cから明らかなように、蒸発工程Iまたは蒸発工程IIによりDy拡散量が減少しても、保磁力は低下せずむしろ上昇する。また蒸着工程および蒸発工程の繰り返しによるDy拡散量が増加すると、その分、保磁力も増加する。従って、蒸着工程および蒸発工程からなる拡散処理を繰り返すことにより、Dyの使用量を抑制しつつ、保磁力をさらに高めることが可能であることが本実施例からわかった。
【0081】
《実施例4》
(1)表1に示すように種々のヒートパターンで拡散処理した試料を用意した(試料No.1〜4および試料No.C1〜C10)。なお、試料No.C1〜C10は、図9Bに示すヒートパターンC0または図9Cに示すようなヒートパターンC3により拡散処理した。なお、ヒートパターンC0は磁石材と拡散材を同条件で加熱する従来型のヒートパターンである。また試料No.C10は、溶解法によりDyを予め3.5質量%含有した希土類合金粒子からなる磁石材へ、拡散処理によりDyを0.6質量%拡散させたものである。
【0082】
さらに溶解法によりDyを含有させた希土類合金粒子からなり、拡散処理をしない試料も用意した(試料No.C11および試料No.C12)。試料No.C13は、前述した拡散処理前の磁石材である。これらの試料の磁気特性(保磁力)を既述した各試料と同様に求め、表1に合わせて記載した。
【0083】
(2)ヒートパターン3により得られた試料No.3と、ヒートパターンC0により得られた試料No.C7〜C9とについて、表面部から内部に向かう保磁力の分布を図9Aに示した。なお、各位置における保磁力の測定および表示は、図5Aおよび図5Bに示した場合と同様である。
【0084】
図9Aから明らかなように、蒸着工程のみならず蒸発工程を行い、それらを繰り返すことにより、Dy拡散量が1.2質量%程度であっても、表面部のみならず内部において保磁力が大幅に増加することがわかる。
【0085】
(3)表1に示した各試料に関する、Dy拡散量(d:質量%)と希土類磁石全体の保磁力(Ht:kOe)との相関を図10に示した。またそれらの試料に関する、Ht−(2d+11)とHi/Hsの相関を図11に示した。なお、Hi(kOe)は、6.5mm角の試料から切り出した3枚目の薄片試料(表面からの位置:3.3〜4.3mm/全高(6.5mm)の51〜66%に相当)の保磁力である。またHs(kOe)は、6.5mm角の試料から切り出した1枚目の薄片試料(表面からの位置:0〜1mm/全高の0〜15%に相当)の保磁力である。
【0086】
先ず、図10から明らかなように、Dyを溶解法により原料(希土類合金粒子)に含有させた試料は、Ht−(2d+11)=0の直線上にほぼ存在する。一方、本発明のように蒸着工程に加えて蒸発工程を行った試料は、保磁力Htがその直線上よりもさらに3.5kOe以上高くなっている。換言するなら、Ht−(2d+11)≧3.5の領域に存在していることがわかる。
【0087】
次に、図11から明らかなように、蒸着工程に加えて蒸発工程を行った試料は、Ht−(2d+11)が3.5以上であるのみならず、保磁力の内表比Hi/Hsが0.8以上となっている。特に試料No.1〜4は、4≦Ht−(2d+11)≦5.5かつ0.8≦Hi/Hs≦0.9により包囲される領域内に収まっている。ちなみにこの領域は、試料No.C1〜C10や従来の希土類磁石では到達し得なかった領域であり、本発明に係る希土類磁石により初めて開拓された領域である。
【0088】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部に内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる付着工程と、
該磁石材を真空中で加熱して該磁石材の表面部に滞留した該拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる蒸発工程と、
を備えることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記付着工程は、加熱した前記磁石材と加熱した前記拡散元素を含む拡散材とを真空中で近接させ、該拡散材から蒸発した該拡散元素の蒸気に該磁石材を曝して該磁石材の表面へ該拡散元素を蒸着させる蒸着工程であり、
前記蒸発工程は、前記蒸着工程に続けて前記磁石材を真空中で加熱する工程である請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記蒸発工程は、該拡散材の温度を降下させる降温工程または該拡散材を該磁石材から離隔する離隔工程である請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
前記付着工程は、前記磁石材の加熱温度(Tm)を前記拡散材の加熱温度(Td)よりも高くする工程である請求項1または2に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
前記付着工程および前記蒸発工程は、同順で繰り返しなされる工程である請求項1〜4のいずれかに記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項6】
前記拡散元素は、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)またはホルミウム(Ho)の一種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載した製造方法により得られたことを特徴とする希土類磁石。
【請求項8】
希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材と該磁石材の表面部から内部へ拡散した拡散元素とからなる希土類磁石であって、
該希土類磁石全体を100質量%としたときの該拡散元素量d(質量%)、
該希土類磁石全体の保磁力Ht(kOe)、
該希土類磁石の表面部の保磁力Hs(kOe)、
該希土類磁石の内部の保磁力Hi(kOe)が次の関係式を満たすことを特徴とする希土類磁石。
Ht−(2d+11)≧3.5 (kOe)
かつ Hi/Hs ≧0.8
【請求項9】
前記拡散元素は、Dyである請求項1に記載の希土類磁石。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする請求項8または9に記載の希土類磁石。
【請求項1】
希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材の表面部に内部へ拡散し得る拡散元素を付着させる付着工程と、
該磁石材を真空中で加熱して該磁石材の表面部に滞留した該拡散元素の少なくとも一部を蒸発させる蒸発工程と、
を備えることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記付着工程は、加熱した前記磁石材と加熱した前記拡散元素を含む拡散材とを真空中で近接させ、該拡散材から蒸発した該拡散元素の蒸気に該磁石材を曝して該磁石材の表面へ該拡散元素を蒸着させる蒸着工程であり、
前記蒸発工程は、前記蒸着工程に続けて前記磁石材を真空中で加熱する工程である請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記蒸発工程は、該拡散材の温度を降下させる降温工程または該拡散材を該磁石材から離隔する離隔工程である請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
前記付着工程は、前記磁石材の加熱温度(Tm)を前記拡散材の加熱温度(Td)よりも高くする工程である請求項1または2に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
前記付着工程および前記蒸発工程は、同順で繰り返しなされる工程である請求項1〜4のいずれかに記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項6】
前記拡散元素は、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)またはホルミウム(Ho)の一種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載した製造方法により得られたことを特徴とする希土類磁石。
【請求項8】
希土類合金粒子の成形体または焼結体からなる磁石材と該磁石材の表面部から内部へ拡散した拡散元素とからなる希土類磁石であって、
該希土類磁石全体を100質量%としたときの該拡散元素量d(質量%)、
該希土類磁石全体の保磁力Ht(kOe)、
該希土類磁石の表面部の保磁力Hs(kOe)、
該希土類磁石の内部の保磁力Hi(kOe)が次の関係式を満たすことを特徴とする希土類磁石。
Ht−(2d+11)≧3.5 (kOe)
かつ Hi/Hs ≧0.8
【請求項9】
前記拡散元素は、Dyである請求項1に記載の希土類磁石。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする請求項8または9に記載の希土類磁石。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図4A】
【図4B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図4A】
【図4B】
【公開番号】特開2012−190949(P2012−190949A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52376(P2011−52376)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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