説明

希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法

【課題】臨界電流値が高い厚膜テープ状Re系(123)超電導体を製造する。
【解決手段】配向NiーW基板上に、Y及びBaのトリフルオロ酢酸塩とCuのナフテン酸塩をY:Ba:Cu=1:1.5:3となるように溶解した原料溶液を塗布し加熱する工程を16回繰り返して、YBCO超電導体の仮焼膜を形成した後、室温から結晶化熱処理温度730℃までの昇温過程とこれに続く恒温過程により結晶化熱処理を施した。熱処理温度500℃で水蒸気分圧1.05vol%で水蒸気を炉内に導入し、最高熱処理温度到達前の690℃で水蒸気分圧を2.6vol%に増加させた後、最高熱処理温度の730℃に到達後30min経過した時にさらに水蒸気分圧を4.2vol%に階段状に増加させて恒温過程でこの水蒸気分圧を維持した。このYBCO酸化物超電導体のJc値は、膜厚約2.0μmで1.48MA/cmの値を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導体の製造方法に係り、特に超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器等に有用な酸化物超電導線材の製造方法に係り、特に、MOD法に好適な厚膜テープ状RE系(123)超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、その臨界温度(Tc)が液体窒素温度を超えることから超電導マグネット、超電導ケーブル及び電力機器等への応用が期待されており、種々の研究が鋭意進められている。
【0003】
酸化物超電導体を上記の分野に適用するためには、臨界電流密度(Jc)が高く、かつ高い臨界電流(Ic)値を有する長尺の線材を製造する必要があり、一方、長尺テープを得るためには、強度及び可撓性の観点から金属テープ上に酸化物超電導体を形成する必要がある。また、NbSnやNbAl等の金属系超電導体と同等に実用レベルで使用可能とするためには、Ic値が500A/cm(77K、自己磁界中)程度の値が必要である。
【0004】
次世代酸化物超電導線材に用いられるRe系酸化物超電導体、即ち、ReBax Cu3y系酸化物超電導体(ここでReは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu,Yb、Pr、Ho、Er、Dy、Tm又はLaから選択された少なくとも1種以上の元素を示し、1.3≦x≦2である。以下、Re系(123)超電導体と称する。)は、その結晶方位により超電導特性が変化することから、面内配向性を向上させることが必要であり、このためにも酸化物超電導体をテープ状の基板上に形成する必要がある。この場合、Jc値を向上させるためには、酸化物超電導体のc軸を基板の板面に垂直に配向させ、かつそのa軸(又はb軸)を基板面に平行に面内配向させて、超電導状態の量子的結合性を良好に保持する必要がある。
【0005】
テープ状のRe系酸化物超電導体の製造方法として、MOD法(Metal Organic Deposition Processes:金属有機酸塩堆積法)が知られており、このMOD法は、金属有機酸塩を熱分解させるもので、金属成分の有機化合物が均一に溶解した溶液を基板上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基板上に薄膜を形成する方法であり、非真空プロセスであることから低コストで高速成膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導線材の製造に適する利点を有する。
【0006】
MOD法においては、出発原料である金属有機酸塩を熱分解させると通常アルカリ土類金属(Ba等)の炭酸塩が生成されるが、この炭酸塩を経由する固相反応による酸化物超電導体の形成には800℃以上の高温熱処理を必要とする。更に、厚膜化を行った際、結晶成長のための核生成が基板界面以外の部分からも生じるため結晶成長速度を制御することが難しく、結果として、面内配向性に優れた超電導膜を得ることが困難である。
【0007】
MOD法において、炭酸塩を経由せずにRe系(123)超電導体を形成する方法として、フッ素を含む有機酸塩(例えば、TFA塩:トリフルオロ酢酸塩)を出発原料とし、水蒸気雰囲気中で熱処理を行うことにより、フッ化物の分解を経由して超電導体を得る方法が近年精力的に行われている。このTFA塩を出発原料とするMOD法(以下、TFA―MOD法と称する。)では、塗布膜の仮焼後に得られるフッ素を含むアモルファス前駆体と水蒸気との反応により超電導体を生成するが、熱処理中の水蒸気分圧によりフッ化物の分解速度を制御できることから超電導体の結晶成長速度が制御でき、その結果、優れた面内配向性を有する超電導膜が作製できる。また、同法では比較的低温で基板からRe系(123)超電導体をエピタキシャル成長させることかできる。
【0008】
上述のように、MOD法によりテープ状の酸化物超電導体を製造する場合、実用化のためにはJc値を向上させるための厚膜化が必要不可欠である。TFA塩を出発原料とするMOD法によりこの厚膜化を達成するためには、TFA塩を含む原料溶液の粘性を高くして塗布膜を厚くすることが考えられるが、1回当たりの塗布膜厚が厚くなると、熱処理により分解生成するHF及びCO2 ガスの発生量が増加するため仮焼時に塗布膜が飛散する現象が生じ、結果として高特性を有するテープ状酸化物超電導厚膜を製造することは難しい。
【0009】
また、超電導厚膜を作製するために、塗布及び仮焼の工程を繰返して塗布膜を厚くすることが考えられるが、この場合には、結晶化熱処理によって基板上に面内配向性に優れた超電導結晶を生成させることが困難となる。この理由は、結晶成長の核となる核生成が基板面以外の部分に生ずることによるものと考えられている。この場合、TFA塩を始めとする金属有機酸塩の分解が不十分となり、仮焼により得られる酸化物超電導前駆体膜中に溶媒や有機酸が残存する傾向がある。そのため、その後の結晶化熱処理中の昇温時に、残存していたフッ化物等の有機酸が急激に分解して膜中にクラックやポアが発生する。
【0010】
この傾向は、塗布と仮焼熱処理を繰り返して多層構造の酸化物超電導前駆体膜を形成して厚膜化する場合に著しくなる。その結果、得られた前駆体厚膜を結晶化し超電導膜を得る際にエピタキシャル成長が困難となり、面内配向性に優れた超電導厚膜を得ることが難しく、Jc特性が頭打ちとなる。更に、クラックの発生によりJc特性は著しく低下する。
【0011】
このような問題を解決するために、仮焼熱処理中の昇温速度を制御することにより、金属有機酸塩を十分に分解させ、高いJc値と厚膜化を可能にした酸化物超電導体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0012】
また、基板上に形成した酸化物超電導前駆体の熱処理時の仮焼熱処理温度及び/又は結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧を制御することにより、高配向性と高Jc値を有する厚膜のテープ状酸化物超電導体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0013】
さらに、仮焼熱処理と超電導体生成の熱処理との間に、中間熱処理を施すことにより基板上に厚膜テープ状Re系(123)超電導体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−300726号公報
【特許文献2】特開2003−34527号公報
【特許文献3】特開2007−165153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記の特許文献1の酸化物超電導体は、基板上に、酸化物超電導体を構成する各金属元素を所定のモル比で含む金属有機酸塩の混合溶液を塗布後、仮焼熱処理を施した酸化物超電導前駆体に結晶化熱処理を施した酸化物超電導体において、仮焼熱処理を水蒸気分圧が4.0vol%以下の雰囲気中で昇温速度を0.1〜0.6℃/minの範囲に制御することにより、金属有機酸塩を十分に分解させ、昇温速度が速い場合に膜中に残存する金属有機酸塩が結晶化熱処理中に急激に分解して膜中にクラックやポアが発生するという問題を回避して高いJc値と厚膜化を可能とするものであるが、高いJc値が得られるものの、その膜厚は0.9μm程度に留まり、実用的なJc値を得るために必要な厚膜化に対しては不十分であった。
【0016】
また、上記の特許文献2の酸化物超電導体は、Re系酸化物超電導体を構成する各金属元素を所定のモル比で含むTFA塩の混合溶液を基板上に塗布し、仮焼熱処理を施した前駆体に結晶化熱処理を施した酸化物超電導体において、最外層の前駆体を除く仮焼熱処理温度を400℃未満で、かつ結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧を4.0vol%以下の範囲内に制御することにより、高配向性と高Jc値を有する厚膜のテープ状酸化物超電導体を得るものであるが、その膜厚は1.0μm程度に留まり、実用的なIc値を得るために必要な厚膜化に対しては同様に不十分であった。
【0017】
さらに、上記の特許文献3のTFAーMOD法による酸化物超電導体は、原料溶液を基板上に塗布後、仮焼熱処理を施し、ついで中間熱処理及び超電導体生成の熱処理を施すことにより、中間熱処理による膜中の残存ポアの減少と膜質の緻密化を可能とし、Jc値が高く、かつ約2μmの厚さを超える厚膜のテープ状Re系(123)超電導体を製造するものであるが、この中間熱処理及び超電導体生成の熱処理を水蒸気分圧13.5%の雰囲気中で施すとともに、中間熱処理を複数回に亘って施すことを必要とするため、仮焼膜形成後の工程を連続して行うことができず、製造工程が複雑となるという問題がある。
【0018】
本発明者は、鋭意研究の結果、厚膜の酸化物超電導体を製造する場合に、超電導体生成の熱処理過程で仮焼膜の全域で結晶成長核が発生することにより、超電導層の配向性が乱れ易く、その結果、Jc値の低下を招くことを見出した。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、超電導体生成の熱処理過程で結晶成長速度の制御因子である水蒸気分圧を制御する(変化させる)ことにより、配向性を乱す結晶子の成長を抑制し、その結果として、厚膜全域に亘って配向成長を可能とすることにより、高Jc値を有する酸化物超電導線材を製造する方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上の目的を達成するために、本発明の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法は、基板上に、中間層を介して酸化物超電導体の仮焼膜を形成した後、超電導体生成の結晶化熱処理を施すことによりRe系(123)超電導体を形成する方法において、結晶化熱処理が、少なくとも水蒸気分圧が増加する雰囲気中で行われる結晶化熱処理温度到達前の昇温過程を含むようにしたものである。
【0021】
また、本発明の目的は、上記の結晶化熱処理が、少なくとも水蒸気分圧が増加する雰囲気中で行われる結晶化熱処理温度到達前の昇温過程及び結晶化熱処理温度の恒温過程を含むようにしても達成することができる。
【0022】
以上の発明における酸化物超電導体の仮焼膜は、PLD法(Pulse Laser Deposition Processes:パルスレーザ堆積法)やMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition Processes:有機金属酸塩化学蒸着法)によっても形成することができるが、特に、前述のMOD法により形成することが好ましい。この場合、酸化物超電導体の仮焼膜は、酸化物超電導体を構成する金属元素を含む原料溶液を塗布し、仮焼熱処理を施す工程を複数回繰り返して、結晶化熱処理後に所定の膜厚を有するように積層して形成される。
【0023】
Re系(123)超電導体をTFAーMOD法により形成する場合に、金属モル濃度比を化学量論比(例えば、Y:Ba:Cu=1:2:3)に調整した混合溶液を用いると、酸化物超電導体の形成には750℃以上の熱処理を必要とし、酸化物超電導体と金属基板とが反応してBaCeOが生成してF元素を膜外に排出するのに多くの時間を有するという問題があり、これを回避するためフッ素化合物を少なくすることが有効であり、1.3≦Ba≦2のモル濃度の範囲、特に、Baモル濃度を約1.5の混合溶液を用いることにより、酸化物超電導体を700℃以上の熱処理温度で形成することが可能となる。
【0024】
前述の特許文献3によれば、TFA―MOD法によるYBaCu7−y(以下YBCOと称する。)超電導相の成長速度は、結晶化時の水蒸気分圧が上昇するにつれて増大し、Jc値も水蒸気分圧の上昇とともに増大するが、一定の値(PH2O=13.5%)を超えるとYBCO超電導膜中のクラックの発生やポアの生成によりJc値が急激に低下するため、超電導特性上の点からはYBCO超電導相の成長速度の増加には限界があり、この傾向は膜厚が増大するにつれて大きくなる。この場合、YBCOの膜厚が増大するに従ってクラックが発生しない臨界水蒸気分圧が低くなり、高速化の観点からは成長速度が遅い領域の水蒸気分圧下でしか厚膜が焼成できないため、仮焼熱処理と超電導体生成の熱処理との間に超電導体生成の熱処理温度より低い温度で中間熱処理を施し、この中間熱処理によりYBCOの結晶化温度に至る前に仮焼での残存有機分あるいは剰余フッ化物を排出させている。
【0025】
いずれにしても、従来技術では、熱処理中の水蒸気分圧によりフッ化物の分解速度を制御できることを利用して、超電導特性の観点から一定の水蒸気分圧下で超電導体の結晶成長速度を制御することが行われているが、仮焼膜の全域で結晶成長核が発生することにより、超電導層の配向性が乱れ易いという問題がある。
【0026】
本発明においては、上記のような中間熱処理を必要とせず、結晶化熱処理が、少なくとも水蒸気分圧が増加する雰囲気中で行われる結晶化熱処理温度到達前の昇温過程又は少なくとも水蒸気分圧が増加する雰囲気中で行われる結晶化熱処理温度到達前の昇温過程及び結晶化熱処理温度の恒温過程を含むことにより、厚膜全域に亘って配向成長が可能となる。
【0027】
以上の発明において、結晶化熱処理中の水蒸気分圧は、13.5vol%以下の範囲内で、特に、2vol%以下から4vol%以上の範囲内で増加するようにすることが好ましい。
【0028】
また、結晶化熱処理温度の恒温過程は、700〜800℃の温度範囲内で行われ、一方、結晶化熱処理温度到達前の昇温過程、又は結晶化熱処理温度到達前の昇温過程及び結晶化熱処理温度の恒温過程において増加する水蒸気分圧は、連続的にあるいは階段的に増加するように雰囲気が制御される。この場合、特に、550℃未満から680℃以上の温度範囲内で水蒸気分圧が増加する結晶化熱処理雰囲気を含むことが 好ましい。
また、以上の水蒸気雰囲気は、RTR(Reel to Reel)方式の電気炉又はバッチ式電気炉のいずれにおいても制御することができる。
【0029】
以上の結晶化熱処理は、1〜760Torrの全圧下で施され、特に、1〜100Torrの全圧下で施されることが好ましく、その熱処理雰囲気は、水蒸気、酸化物超電導体と反応しないガス、及び酸素により構成される。
【発明の効果】
【0030】
本発明においては、超電導体生成の熱処理過程で結晶成長速度の制御因子である水蒸気分圧を増加させることにより、配向性を乱す結晶子の成長を抑制することができ、厚膜全域に亘って配向成長が可能となるため、高Jc値を有する酸化物超電導線材を製造することができる。その結果、膜厚1.8μm以上で、かつ臨界電流密度が1.35MA/cmのRe系(123)超電導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例における結晶化熱処理の熱処理温度及び水蒸気分圧プロファイルを示すグラフである。
【図2】本発明の他の実施例における結晶化熱処理の熱処理温度及び水蒸気分圧プロファイルを示すグラフである。
【図3】本発明のさらに他の実施例における結晶化熱処理の熱処理温度及び水蒸気分圧プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明において使用される基板としては、2軸配向性の多結晶基板又は無配向の多結晶基板のいずれも用いることができる。配向性Ni基板としては、冷間で強圧延加工したNi基板を真空中で熱処理を施して高配向させたRABiTS(商標:rolling-assisted biaxially textured-substrates)を用いることができ、この配向性Ni基板の上にCeO2 のエピタキシャル層の薄膜及びYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の厚膜が順次形成される。
【0033】
一方、無配向の多結晶基板を用いる場合には、IBAD法(Ion Beam Assisted Deposition)を用いることができる。このIBAD法を用いた複合基板は、非磁性で高強度のテープ状Ni系基板(ハステロイ等)に対して斜め方向からイオンを照射しながら、ターゲットから発生した粒子を堆積させて形成した高配向性を有し超電導体を構成する元素との反応を抑制する中間層(CeO 、Y 、YSZ等)を設けたもので、上記の中間層を2層構造としたもの(YSZ又はZrRx2 /CeO又はY 等:Rは、Y、Nd、Sm、Gd、Ei、Yb、Ho、Tm、Dy、Ce、La又はErを示す。)もよく適合する(特開平4−329867号、特開平4−331795号,特願2000−333843号)。
【0034】
以上のNi基合金としては、NiにW、Mo、Cr、Fe、Cu、V、Sn及びZnから選択された1以上の元素を含むものを用いることができる。
【0035】
本発明におけるRe系(123)超電導体は、MOD法により形成することができるが、この場合、金属有機酸塩としてトリフルオロ酢酸塩、オクチル酸塩又はナフテン酸塩のいずれか1種以上が用いられ、特に、金属有機酸塩は、少なくともトリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を含むTFA―MOD法を用いることが好ましく、この場合、原料溶液は少なくともBaの金属有機酸塩を含み有機溶媒との混合溶液を用いることがより好ましい。
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1
配向NiーW基板上に、CeZr及びCeOからなる中間層を順次形成した複合基板を用い、この複合基板上に、Y及びBaのトリフルオロ酢酸塩とCuのナフテン酸塩をY:Ba:Cu=1:1.5:3となるように2−オクタノン中に溶解した原料溶液を塗布し、最高加熱温度400℃で加熱した後、室温まで炉冷する工程を繰り返して仮焼膜を形成した。この仮焼膜は、以上の工程を12回及び16回繰り返して、YBCO超電導体の結晶化熱処理後にそれぞれ約1.45μm及び約2.0μmになるように形成したものである。
【0038】
次いで、複合基板上の仮焼膜を、図1に示す熱処理温度及び水蒸気分圧プロファイルに従ってYBCO超電導体の結晶化熱処理を施した。この結晶化熱処理は、室温から最高熱処理温度(結晶化熱処理温度)730℃までの昇温過程と結晶化熱処理温度における恒温過程及びこれに続く室温までの炉冷過程により構成され、炉内雰囲気圧力は50Torr未満に保持された。
【0039】
水蒸気は、導入開始温度500℃で水蒸気分圧1.05vol%の条件で炉内に導入され、最高熱処理温度到達前の690℃において水蒸気分圧を4.2vol%に増加させて恒温過程でこの水蒸気分圧が維持された。
【0040】
このようにして複合基板上に形成したYBCO酸化物超電導体Jc値を測定した結果、膜厚約1.45μmで1.57MA/cm、膜厚約2.0μmで1.42MA/cmの値を示した。
【0041】
実施例2
原料溶液を塗布し最高加熱温度で加熱した後、室温まで炉冷する工程を12回及び16回繰り返した他は、実施例1と同様の方法により仮焼膜を形成した。
【0042】
この仮焼膜は、YBCO超電導体の結晶化熱処理後にそれぞれ約1.45μm及び約2.0μmになるように形成したものである。
【0043】
次いで、複合基板上の仮焼膜を、図2に示す熱処理温度及び水蒸気分圧プロファイルに従ってYBCO超電導体の結晶化熱処理を施した。
【0044】
この結晶化熱処理は、室温から最高熱処理温度(結晶化熱処理温度)730℃までの昇温過程と結晶化熱処理温度における恒温過程及びこれに続く室温までの炉冷過程により構成され、炉内雰囲気圧力は50Torr未満に保持された。
【0045】
水蒸気は、導入開始温度500℃で水蒸気分圧1.05vol%の条件で炉内に導入され、最高熱処理温度到達前の690℃まで水蒸気分圧を4.2vol%に連続的に増加させて恒温過程でこの水蒸気分圧が維持された。
【0046】
このようにして複合基板上に形成したYBCO酸化物超電導体Jc値を測定した結果、膜厚約1.45μmで1.57MA/cm、膜厚約2.0μmで1.38MA/cmの値を示した。
【0047】
実施例3
原料溶液を塗布し最高加熱温度で加熱した後、室温まで炉冷する工程を12回及び16回繰り返した他は、実施例1と同様の方法により仮焼膜を形成した。この仮焼膜は、YBCO超電導体の結晶化熱処理後にそれぞれ約1.45μm及び約2.0μmになるように形成したものである。
【0048】
次いで、複合基板上の仮焼膜を、図3に示す熱処理温度及び水蒸気分圧プロファイルに従ってYBCO超電導体の結晶化熱処理を施した。
【0049】
この結晶化熱処理は、室温から最高熱処理温度(結晶化熱処理温度)730℃までの昇温過程と結晶化熱処理温度における恒温過程及びこれに続く室温までの炉冷過程により構成され、炉内雰囲気圧力は50Torr未満に保持された。
【0050】
水蒸気は、導入開始温度500℃で水蒸気分圧1.05vol%の条件で炉内に導入され、最高熱処理温度到達前の690℃で水蒸気分圧を2.6vol%に増加させ、次いで、最高熱処理温度の730℃に到達後30min経過した時にさらに水蒸気分圧を4.2vol%に階段状に増加させて恒温過程でこの水蒸気分圧が維持された。
【0051】
このようにして複合基板上に形成したYBCO酸化物超電導体Jc値を測定した結果、膜厚約1.45μmで1.57MA/cm、膜厚約2.0μmで1.48MA/cmの値を示した。
【0052】
比較例
原料溶液を塗布し最高加熱温度で加熱した後、室温まで炉冷する工程を10回、12回及び16回繰り返した他は、実施例1と同様の方法により仮焼膜を形成した。この仮焼膜は、YBCO超電導体の結晶化熱処理後にそれぞれ約1.23μm、約1.45μm及び約2.0μmになるように形成したものである。
【0053】
次いで、複合基板上の仮焼膜を、実施例1と同様に、図1に示す熱処理温度プロファイルに従ってYBCO超電導体の結晶化熱処理を施した。
【0054】
水蒸気は、導入開始温度500℃で水蒸気分圧1.05vol%の条件で炉内に導入され、最高熱処理温度の730℃の恒温過程までこの水蒸気分圧が一定に維持された。
【0055】
このようにして複合基板上に形成したYBCO酸化物超電導体Jc値を測定した結果、膜厚約1.23μmで1.42MA/cm、膜厚約1.45μmで1.58MA/cm、膜厚約2.0μmで1.1MA/cmの値を示した。
【0056】
以上の実施例1乃至3及び比較例の結果から明らかなように、結晶化熱処理を室温から最高熱処理温度(結晶化熱処理温度)までの昇温過程と結晶化熱処理温度における恒温過程及びこれに続く室温までの炉冷過程により構成し、水蒸気分圧を一定に保持した場合には、膜厚が2.0μm程度になるとJc値が著しく低下するが、結晶化熱処理における結晶化熱処理温度到達前の昇温過程、又は結晶化熱処理温度到達前の昇温過程及び結晶化熱処理温度の恒温過程を、
水蒸気分圧が連続的にあるいは階段的に増加するような雰囲気で施すことにより、厚膜全域に亘って配向成長が可能となり、2.0μm程度の厚膜においても高いJc値を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により超電導体の厚膜化が可能になるため、高いJc値を有する希土類系厚膜酸化物超電導線材を製造することができ、非真空プロセスであるTFAーMOD法により超電導層を形成することにより、長尺線材の製造に適する上、その製造コストを著しく低減させることができ、電導マグネット、超電導ケーブル及び電力機器等へ適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、中間層を介して酸化物超電導体の仮焼膜を形成した後、超電導体生成の結晶化熱処理を施すことによりReBa Cu3y系酸化物超電導体(ここでReは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu,Yb、Pr、Ho、Er、Dy、Tm又はLaから選択された少なくとも1種以上の元素を示し、1.3≦x≦2及びy=6.2〜7である。以下、Re系(123)超電導体と称する。)を形成する方法において、前記結晶化熱処理は、少なくとも水蒸気分圧が増加する雰囲気中で行われる結晶化熱処理温度到達前の昇温過程を含むことを特徴とする希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
基板上に、中間層を介して酸化物超電導体の仮焼膜を形成した後、超電導体生成の結晶化熱処理を施すことによりRe系(123)超電導体を形成する方法において、前記結晶化熱処理は、少なくとも水蒸気分圧が増加する雰囲気中で行われる結晶化熱処理温度到達前の昇温過程及び結晶化熱処理温度の恒温過程を含むことを特徴とする希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
酸化物超電導体の仮焼膜は、酸化物超電導体を構成する金属元素を含む原料溶液を塗布し、仮焼熱処理を施す工程を複数回繰り返して形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
水蒸気分圧は、13.5vol%以下の範囲内で増加することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
水蒸気分圧は、2vol%以下から4vol%以上の範囲内で増加することを特徴とする請求項4記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
結晶化熱処理は、550℃未満から680℃以上の温度範囲内で水蒸気分圧が増加する雰囲気中を含むことを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
結晶化熱処理温度は、700〜800℃の温度範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項8】
Re系(123)超電導体は、TFA―MOD法により製造されることを特徴とする請求項項1乃至7いずれか1項記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項9】
Re系(123)超電導体は、膜厚1.8μm以上で、かつ臨界電流密度が1.35MA/cm以上であることを特徴とする請求項1乃至8いずれか1項記載の希土類系厚膜酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−238633(P2010−238633A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87669(P2009−87669)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】