説明

希薄水溶液から有機成分を回収するための方法

本発明は、有機成分を生成する微生物を含む発酵ブロスなどの水性培地から前記有機成分を回収するための方法に関する。本方法は、培地中の少なくとも1種の親水性溶質の濃度を高めることにより、水性培地中の有機成分の活量を高めることで、前記有機成分を塩析させることを含む。前記微生物は、その非組換え微生物と比べて、培地中でより高濃度を許容できるように遺伝子組み換えされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分を生産する微生物を含む発酵ブロスなどの水性培地から前記有機成分を回収するための方法に関する。本方法は、培地中の少なくとも1種の親水性溶質の濃度を高めることにより、水性培地中の有機成分の活量を高めることで、前記有機成分を塩析させることを含む。前記微生物は、その非組換え微生物と比べて、培地中の親水性溶質の濃度上昇を許容できるように遺伝子組み換えされている。
【背景技術】
【0002】
本発明の方法は、発酵のために改善された容量生産性を提供し、発酵生成物の回収を可能とする。本発明の方法はまた、発酵・回収同時工程により発酵生成物の濃度を高めるため、生産におけるエネルギー使用を減らすことができ、それにより、発酵ブロスの量当り、生産および回収される発酵生成物の量を増加させる。それゆえ、本発明は、少ない資本コストおよび少ない運転コストで発酵生成物の生産と回収を可能とする。
【0003】
発酵工程の経済的性能を支配する鍵となるパラメーターは、生成物の濃度および容量生産性である。
【0004】
いくつかの場合には、発酵ブロス中の発酵生成物の濃度が高いと微生物になんらかの毒性効果を与えおよび/または続く発酵工程を阻害し、高度に希釈された生成物および低い容量生産性をもたらすことができる。
【0005】
有効な生成物濃度および容量生産性が低いことは、装置の大きさおよび設備コストを含む、生成物の経済性のいくつかの側面に負の影響を与える。発酵ブロス中の生成物濃度が減少するにつれて、水溶液の回収容量は増加し、その結果、生産工場内の工程に対してより高い資本コストおよび材料のより大きい容量をもたらす。
【0006】
生成すると同時に発酵生成物を取り除くように回収工程を用い、それにより生成物の容量生産性および濃度を増加させると、生成物の経済性に強く影響を与えることができる。例えば、発酵を2倍の容量生産性で完了させると、大規模の工業用発酵設備に対して発酵装置のコストをほぼ50%も削減する。発酵装置資本コストおよび大きさの削減は、設備に対する減価償却および運転コストを減少させる。
【0007】
同様に、生成物に富む相が形成され、水に富む相が分離され除かれる回収工程を使用すると、下流の回収および精製装置で取り扱われる発酵ブロス容量中の水負荷が顕著に削減される。例えば、回収相中の生成物の濃度が倍になると、ある一定の生成物容量に対して処理されるべき水の量はほぼ半分になり、運転および資本コストを削減する。
【0008】
水系の発酵培地から発酵生成物を同時に除去するために、液/液抽出、膜分離(例えば、浸透気化法)、吸着および吸収を含む、多くの技術的アプローチが開発されてきた。発酵装置の流れの中の発酵生成物濃度が低い上記の場合には、こうしたアプローチは運転および資本コストに顕著なインパクトを与え、エネルギー消費が高く装置が高価なため、いかなる商業的な生産に対しても不適となる。
【0009】
例えば、今日、工業レベルで実行されている最も広く使用されている現場での回収手法は、液-液抽出である。この工程では、抽出溶媒が発酵ブロスと混合される。発酵生成物は、抽出溶媒中へ抽出され、他の抽出溶媒中への逆抽出または蒸留により回収される。上記した欠点に加えて、液-液抽出には、細胞に対する毒性、乳化物の形成、高価な抽出溶媒の損失、および抽出液と発酵ブロスとの相界面における微生物細胞の蓄積などの、いくつかの問題点が伴う。
【0010】
浸透気化法は、選択性のある膜を用いて発酵ブロスから溶媒を除くために用いられる膜に基礎を置く工程である。液体または溶媒は固体の膜を通して拡散し、栄養剤、糖および微生物細胞を後に残す。浸透気化法に普通に付随する1つの問題点は、膜を通しての化学ポテンシャルの傾きを、経済的に、与え、維持することである。必要な化学ポテンシャルの傾きを与えるために、真空ポンプまたは凝縮器を使用するこうした浸透気化工程は、エネルギーを多用しそのため運転するのに高価である。供給流中の有機化合物の濃度が低レベルにまで減少するにつれて、透過およびそれにより分離が起こるように、透過流中の揮発性有機化合物分圧をさらに低く保たなくてはならない。液体の供給流と平衡である有機化合物の分圧と気相である透過流中の揮発性有機化合物の分圧との差を維持するために真空ポンプを用いると、ポンプは非常に高い真空を維持しなければならず、これにより高い資本および運転コストが掛かる。同様に、凝縮器が用いられると、極端な低温を維持しなければならず、高価で複雑な冷却システムが必要となる。
【0011】
それゆえ、商業的生産のためには、有毒な発酵生成物の濃度が培養物の許容レベルを超えるのを防止し、それにより容量生産性を高めるために、生成すると同時に発酵生成物を取り除く低コストの方法、ならびに処理される水の容量を削減するために、相分離を用いるそのような発酵生成物を回収する方法に対する必要性が存在する。
【0012】
先行技術
米国特許公開第2009/0171129号は、a、発酵ブロスの分画中のC3-6-アルコールの活量を、少なくともその分画におけるC3-6-アルコールの飽和活量に高めるステップ、b、発酵ブロスの分画から、C3-6-アルコールに富む液相および水に富む液相を形成するステップ、およびc、水に富む相からC3-6-アルコールに富む相を分離するステップ、を含む、発酵ブロスなどの希薄水溶液から、C3〜C6のアルコール(以下、「C3-6-アルコール」とも表示する)を回収するための方法を記載している。例えば、塩析、すなわち、水溶液に親水性溶質を加えることにより、C3-6-アルコールの活量が高められる。
【0013】
先行技術に記載の方法は、発酵に用いる微生物が、所望成分の塩析のために必要な親水性溶質の濃度に対してしばしば耐性を有しないという欠点に苦しんでいる。したがって、先行技術の方法の機能に悪影響を与えないとしても、そのような方法の生産性およびコスト有効性は、少なくとも実質的に減少している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許公開第2009/0171129号
【特許文献2】米国特許公開第20070092957号
【特許文献3】米国特許公開第20090239275号
【特許文献4】米国特許公開第20090155870号
【特許文献5】国際特許公開第2009/103533号
【特許文献6】米国特許公開第20090246842号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Galinski E.A.、Advances in Microbial Physiology、37:272-328頁(1995)
【非特許文献2】da Costa, M.S.ら、Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology、61:117-153頁(1998)
【非特許文献3】Roessler, M.およびMuller, V.、Environmental Microbiology、3:743-754頁(2001)
【非特許文献4】Oren, A.、Microbiology and Molecular Biology Reviews、63:334-348頁(1999)
【非特許文献5】Salinibacter ruber、Anton, J.ら、International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology、52:485-491頁(1999)
【非特許文献6】Oren, A.およびMana, L、Extremophiles、6:217-223頁(2002)
【非特許文献7】Brown, A.D.、Bacteriological Reviews、40:803-846頁(1976)
【非特許文献8】Brown, A.D.、Microbial Water Stress Physiology:Principles and Perspectives、Chichester、John Wiley & Sons(1990)
【非特許文献9】Ventosa, A.ら、Microbiology and Molecular Biology Reviews、62:504-544頁(1998)
【非特許文献10】da Costa, M.S.ら、Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology、61:118-153頁(1998)
【非特許文献11】Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、2001-2009頁
【非特許文献12】Sambrookら、Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)
【非特許文献13】Phillipp Gerhardt、R. G. E. Murray、Ralph N. Costilow、Eugene W. Nester、Willis A. Wood、Noel R. KriegおよびG. Briggs Phillips、編)、American Society for Microbiology、Washington, D.C.、(1994)
【非特許文献14】Sambrook, J.、Russel, D. W.、Molecular Cloning, A Laboratory Manual. 第3版、2001、Cold Spring Harbor、N.Y.、Cold Spring Harbor Laboratory Press
【非特許文献15】Beggs、Nature、275:104-108頁(1978)
【非特許文献16】Hinnenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、75:1929-1933頁(1978)
【非特許文献17】Itoら、J. Bact.、153:163-168頁(1983)
【非特許文献18】Current Protocols in Molecular Biology、第1および2巻、Ausubelら編、John Wiley & Sons、New York(1997)
【非特許文献19】“Characterization of genes for the biosynthesis of the compatible solute ectoine from Marinococcus halophilus and osmoregulated expression in Escherichia coli.”、Louis P.、Galinski E.A.、Microbiology、143:1141-1149頁(1997)
【非特許文献20】Steen EJ、Chan R、Prasad N、Myers S、Petzold CJ、Redding A、Ouellet M、Keasling JD、Metabolic engineering of Saccharomyces cerevisiae for the production of n-butanol、Microbial Cell Factories、2008、7:36頁
【非特許文献21】Li MZ、Elledge SJ、Harnessing homologous recombination in vitro to generate recombinant DNA via SLIC、Nat Methods、2007、4(3):251-6頁
【非特許文献22】Gietz, R. D.およびR. A. Woods、2002 Transformation of yeast by lithium acetate/single-stranded carrier DNA/polyethylene glycol method、Methods Enzymol.、350:87-96頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
それゆえ、本発明の技術的な問題は、例えば、米国特許公開第2009/0171129号に記載されているような、先行技術の方法をさらに改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の技術的問題に対する解決策は、請求項において特徴づけられるような本発明の実施形態により提供される。
【0018】
本発明は、発酵ブロスなどの希薄水溶液から有機成分を回収するための分離方法に関する。本発明の方法は、発酵のための改善された容量生産性を提供し、発酵生成物の回収を可能とする。本発明の方法はまた、発酵・回収同時工程により発酵生成物の濃度を高めるため、生産におけるエネルギー使用を減らすことができ、それにより、発酵ブロスの量当り、生産および回収される発酵生成物の量を増加させる。それゆえ、本発明は、少ない資本コストおよび少ない運転コストで発酵生成物の生産と回収を可能とする。
【0019】
特に、本発明は、
(a)水性培地中の一部分における有機成分の活量がその一部分における有機成分の少なくとも飽和まで上げられる程度に、水性培地の少なくとも一部分において少なくとも1種の親水性溶質の濃度を高めるステップ、
(b)前記一部分から、有機成分に富む液相および水に富む液相を形成するステップ、ならびに
(c)水に富む相から有機成分に富む液相を分離するステップ、
を含む、前記有機成分を生産する微生物を含む水性培地、例えば、発酵ブロスから前記有機成分を回収するための方法であって、
前記微生物が、未変性の微生物よりも、水性培地中の前記分画における少なくとも1種の前記親水性溶質のより高濃度を許容できるように遺伝子組み換えされている、方法を提供する。
【0020】
本発明のさらなる主題は、
(A)微生物により有機成分を生成するために、発酵培地中で前記微生物を培養するステップ、
(B)本明細書に規定される、水溶液から有機成分を回収するための方法を使用して、前記発酵培地の少なくとも一部分から、前記微生物により前記発酵培地中へ放出される前記有機生成物を回収するステップ、
を含む、有機成分を生成するための方法に関する。
【0021】
生成すると同時に発酵生成物を塩析により取り除くための工程と高塩濃度に耐性のある細胞および生物を用いる発酵工程との組合せは、今日まで、報告されていない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「発酵」または「発酵工程」という用語は、微生物が、供給原料および栄養剤などの原材料を含む培養培地中で培養される工程として規定される。そこでは、微生物が、供給原料などの原材料を生成物に変換する。
【0023】
「有機成分」という用語は、微生物により生産され、発酵ブロスなどの水溶液中に存在する、なんらかの有機化合物であり得る。
【0024】
有機成分は、アルコールであり得る。好ましくは、アルコールは、C3〜C6モノ-またはジアルコールであり、特に、プロパノール、ブタノール、ペンタノールまたはヘキサノールであり、またはプロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、またはヘキサンジオールなどの対応するジオールである。いくつかの実施形態では、プロパノールは、1-プロパノールまたは2-プロパノールであり得る。いくつかの実施形態では、ブタノールは、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール(2-メチル-2-プロパノール)、またはiso-ブタノール(2-メチル-1-プロパノール)であり得る。いくつかの実施形態では、ペンタノールは、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノールまたは2,2-ジメチル-1-プロパノールであり得る。いくつかの実施形態では、ヘキサノールは、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、または2エチル-1-ブタノールであり得る。他の好ましい実施形態では、ジオールは、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、および1,4ブタンジオールから選択され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、有機成分はアルデヒドであり得る。
【0026】
本発明に従うと、例えば、塩化ナトリウムなどの親水性溶質が、2つの混合しない相への溶液の分離である塩析を起こさせるに十分な量で、発酵ブロスなどの水溶液に加えられる。1相は、水性の塩化ナトリウム溶液であり、もう1相は、有機発酵生成物の溶液である。これらの2つの不混和相は、例えば、重力により物理的に分離されて、有機成分をほんの少量の割合で含む親水性溶質の主として水性溶液および水をほんの小さな割合で含む主として有機性の溶液を得る。
【0027】
親水性溶質は、有毒な発酵生成物の濃度が培養物の許容レベルを超えるのを防止するために、生成すると同時に発酵生成物を取り除くように、発酵装置中の発酵ブロス全体に加えるのが好ましい。種々の塩、例えば、塩化ナトリウム、または他の溶解している成分の存在は、そのような条件に暴露された生物の増殖をひどく阻害し得る。酵母または細菌などの生物においては、高塩濃度の培地は、細胞の脱水を起こすと同時に、代謝を妨害して増殖阻害または細胞破壊を招き得る。それゆえ、耐塩性の生物の供給は、有効なレベルの増殖を通常は支えない、または増殖を全く支えない有害な条件下で、生物の増殖を許容させる点で有用である。
【0028】
本発明のある実施形態に従えば、有機成分の活量を高めるステップは、水溶液に親水性溶質を加えるステップを含み得る。水溶液が発酵ブロスであるいくつかの実施形態では、親水性溶質は、発酵装置中の発酵ブロス全体に加えられるのが好ましい。親水性溶質の添加への言及は、溶液の分画中に既に存在する親水性溶質の濃度を高めることまたは溶液中に以前は存在しなかった親水性溶質の添加を指すことができる。濃度のそのような増加は、外部からの添加によりなされ得る。代替として、または追加として、濃度の増加はまた、例えば、溶液にアミノ酸を加えるためにタンパク質を加水分解すること、溶液にグルコースを加えるためにでんぷんまたはセルロースを加水分解すること、および/または溶液にペントースを加えるためにヘミセルロースを加水分解することなどの、溶液中に既に存在している溶質を加水分解することなどにより、その場での溶液の処理により行ってもよい。他の好ましい実施形態に従えば、親水性溶質は、栄養面での価値があり、場合によっては最終的に、ジスチラーズドライドグレインソリュブル(DDGS)などの発酵副生成物流になるものでもよい。さらにまたは代替として、親水性溶質は発酵可能なものであってもよく、発酵装置へ水に富む液相と共に移送されてもよい。
【0029】
一般には、親水性溶質は、塩、アミノ酸、水溶性溶媒、糖およびこれらの組合せから選択される。
【0030】
本方法はさらに、有機成分、例えば、C3-6-アルコールの活量を増加させるように処理した水溶液の分画から、C3-6-アルコールに富む液相および水に富む液相を形成するステップなどの有機成分に富む相を形成するステップを含む。本明細書で使用する場合、「有機成分に富む相」(例えば、「アルコールに富む液相」)という用語は、有機成分対水の比が、出発の水溶液の分画におけるそれよりも大きい液相を意味する。「水に富む液相」という用語は、水対有機成分の比が、有機成分に富む液相のそれよりも大きい液相を意味する。水に富む相は、有機成分の少ない相、例えば、アルコールの少ない相とも呼称し得る。2つの相を形成するステップは、能動的なものであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、形成するステップは、凝縮した後に2相を形成する蒸留された気相を凝縮させるステップを含み得る。代替としてまたはこれに加えて、水溶液の処理された分画を冷やすステップまたは冷却するステップにより2相の形成をもたらしてもよい。2相を能動的に形成するための他のステップとしては、相の分離を促進するような形をした装置を用いるステップを含み得る。相の分離は、相間の比重の差を利用した液/液分離機および水ブーツを含む液-液分離機、遠心分離機中にあるような重力分離、または遠心力を利用した液-液分離機、を含む種々の単位操作において達成し得る。溶媒抽出工程に用いられる攪拌沈降機におけるような沈降機もまた適切である。いくつかの実施形態では、形成するステップは、受動的なものであり、有機成分、好ましくは、C3-6-アルコールの活量を、少なくとも飽和の活量まで高めるその前のステップの単なる自然のなりゆきのこともある。
【0031】
このように、有機成分に富む液相においては、有機成分の水に対する濃度の比は、出発時の分画におけるよりも効果的に大きい。水に富む相においては、有機成分の水に対する濃度の比は、有機成分に富む液相におけるよりも効果的に小さい。水に富む相はまた、有機成分の乏しい相(例えば、アルコールの乏しい相)と参照され得る。
【0032】
本発明の好ましい実施形態は、本明細書に規定するようにアルコール生産性の微生物を含む希薄な水溶液からのC3-6-アルコールの回収に関する。特定のC3-6-アルコールに関して、アルコールに富む相中の典型的な濃度は以下のようであり得る。そのような実施形態のいくつかにおいては、アルコールはプロパノールであり、アルコールに富む相中の水に対するプロパノールの重量比は、約0.2よりも大きく、約0.5よりも大きく、または約1よりも大きい。他の実施形態においては、C3-6-アルコールはブタノールであり、アルコールに富む相中の水に対するブタノールの重量比は、約1よりも大きく、約2よりも大きく、または約8よりも大きい。さらなる実施形態においては、C3-6-アルコールはペンタノールであり、アルコールに富む相中の水に対するペンタノールの重量比は、約4よりも大きく、約6よりも大きく、または約10よりも大きい。
【0033】
所与の相に対する濃縮係数または富化係数は、その相の水に対する有機化合物(例えば、アルコール)の比を希薄水溶液中の水に対する有機成分の比で除して表すことができる。したがって、例えば、有機成分に富む相に対する濃縮または富化係数は、有機成分に富む相中の有機成分/水の比を希薄水溶液中のその比で除して表すことができる。好ましい実施形態では、有機成分に富む相中の有機成分(C3-6-アルコールなど)の水に対する比は、出発の水溶液、例えば、発酵ブロス中の水に対する有機成分(例えば、C3-6-アルコール)の比よりも、少なくとも約5倍、少なくとも約25倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、または少なくとも約300倍ほど大きい。
【0034】
本発明の方法はさらに、有機成分に富む液相(例えば、C3-6-アルコールに富む相)を水に富む相から分離するステップを含む。2相の分離とは、2相の物理的な分離を指し、一方の相を他方の相からすくい取り除去、注ぎ出し、デカンテーションまたは移送をすることを含むことができ、液相の分離に対して当技術分野で公知であるいかなる手段でも達成し得る。
【0035】
本発明の好ましい実施形態に従えば、アルコールなどの有機成分、好ましくは、上記に概説したように、C3〜C6のモノ-アルコールまたは-ジオールは、ステップ(c)(本明細書では、以後ステップ(d)とも呼ぶ)において得られた有機成分に富む液相からさらに精製される。種々の実施形態において、ステップ(d)としては、蒸留、透析、水吸着、溶媒抽出による有機成分の抽出、水に混合しない炭化水素液体との接触、または親水性化合物との接触のステップが含まれ得る。このステップは、C3-6-アルコールなどの有機化合物および水を含む第1の相およびC3-6-アルコールなどの有機成分を含む第2の相を含む2つの相を生成し得るが、第2の相中の有機成分(例えば、C3-6-アルコール)に対する水の比は、第1の相中よりも小さい。種々の実施形態において、第2の相は、少なくとも約90重量%のアルコール、少なくとも約95重量%のアルコール、または少なくとも約99重量%のアルコールを含み得る。
【0036】
蒸留は、ステップ(c)おける有機成分に富む液相から有機成分をさらに精製するのに好ましい手段である。いくつかの実施形態では、蒸留は、常圧未満の圧力で、約20℃と約95℃との間の温度で実行される。いくつかの実施形態では、蒸留するステップは、約0.025barから約10barの圧力で実行される。本発明の好ましい実施形態に従えば、C3〜C6のアルコールなどの所望の有機成分に富む液相を処理するステップとしては、C3-6-アルコールに富む相から実質的に純粋なC3-6-アルコールを蒸留するステップを含み得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、処理ステップは、C3-6-アルコールに富む相からC3-6-アルコールの共沸混合物を蒸留するステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、処理ステップはさらに、C3-6-アルコールに富む相をC3-6-アルコール選択的吸着剤と接触させるステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、処理ステップは、C3-6-アルコールに富む相中のC3-6-アルコールをオレフィンに変換するステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、処理ステップは、C3-6-アルコールに富む相を水に混合しない炭化水素液体と組み合わせるステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記組合せは、単一の均一な相を形成し得る。いくつかの実施形態では、前記組合せは、軽い相と重い相を形成し得、軽い相中の水に対するアルコールの比は重い相中の比よりも高いことがあり得る。
【0038】
ステップ(a)から(c)および場合により、(d)に関してのさらなる一般的な指針は、先行技術の中に、特に、C3〜C6のアルコールに対しては、例えば、米国特許公開第2009/0171129号の対応する個所において見出され得るが、それらの対応する内容は、参照により全体として、本明細書の記載に組み込まれる。
【0039】
本発明は、水への溶解度を制限して、発酵により有機生成物を生産する微生物を提供する。微生物は、微生物により生産される有機成分の活量を増加させるのに用いる親水性溶質に対して強化された耐性をもたらす遺伝子組換えを含む。前記遺伝子組換えは、好ましくは、遺伝子組換えを欠く細胞(すなわち、この組換えに関して未変性の微生物)に比較すると外部の浸透圧に逆らうべく、細胞質内へ、少なくとも1種の小分子(浸透圧調節剤)の細胞内蓄積へ導く。本発明の宿主細胞は、発酵生成物を天然に製造し得るかまたは人工的に作り出された代謝経路を通じて製造するように作り変えられ得る。
【0040】
そのような遺伝子組換えおよびその結果として得られる浸透圧に対する耐性は、様々な異なる細胞において得ることができる。本発明の実施においては適当な宿主細胞ならどのようなものでも使用し得る。例えば、宿主細胞は、核酸分子が挿入、欠失または改変された(すなわち、変異された、例えば、1種または複数種のヌクレオチドの挿入、欠失、置換、および/または反転により)、遺伝子組み換えされた宿主微生物でもよい。本発明の方法において有用な典型的な微生物は、細菌および酵母である。
【0041】
本発明に関わる有用な細菌微生物の例としては、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファレンシス(Bacillus amyloliquefacines)、ブレビバクテリウム・アンモニアジェネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beigerinckii)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butylicum)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)、大腸菌(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、メソリゾビウム・ロッチ(Mesorhizobium loti)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・メバロニ(Pseudomonas mevalonii)、シュードモナス・プディカ(Pseudomonas pudica)、ロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、チフス菌(Salmonella typhi)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、ソンネ菌(Shigella sonnei)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など、が含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0042】
本発明に関わる有用な酵母微生物の例としては、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クリソスポリウム・ルクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フサリウム・グラミニエラム(Fusarium graminearum)、フサリウム・ベネナーツム(Fusarium venenatum)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピキア・コダマ(Pichia kodamae)、ピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・オパンティエ(Pichia opuntiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・ピジュペリ(Pichia pijperi)、ピキア・クエルカム(Pichia quercuum)、ピキア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピキア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピキア・スティピチス(Pichia stipitis)、ストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)、ストレプトマイセス・オレオファシエンス(Streptomyces aureofaciens)、ストレプトマイセス・オウレウス(Streptomyces aureus)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardi)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ストレプトマイセス・ファンギシディカス(Streptomyces fungicidicus)、ストレプトマイセス・グリセオクロモジェネス(Streptomyces griseochromogenes)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・オリボグリセウス(Streptomyces olivogriseus)、ストレプトマイセス・ラメウス(Streptomyces rameus)、ストレプトマイセス・タナシエンシス(Streptomyces tanashiensis)、ストレプトマイセス・ビナセウス(Streptomyces vinaceus)およびトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)、が含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0043】
したがって、種々の実施形態においては、細胞は酵母細胞であり上記に概説した種から選択され得るが、好ましくは、サッカロマイセス細胞であり、最も好ましくは、出芽酵母細胞である。同様に、既に上記に概説したように、細胞は、細菌種、好ましくは大腸菌のものでもよい。本発明に関わる遺伝子組換え微生物として有用な他の細菌種としては、アルカニボラクス(Alcanivorax)(例えば、A.ボルクメンシス(A. borkumensis))、サイクロクラスティカス(Cycloclasticus)、マリノバクター(Marinobacter)、ネプチュノモナス(Neptunomonas)、オレイフィーラス(Oleiphilus)、オレイスピラ(Oleispira)およびサラソリタス(Thalassolitus)属の代表的なものなどの炭化水素分解性細菌(HCB)から導かれる。好ましい実施形態では、細胞は細胞培養物中に、好ましくは、そのような細胞集合体中に存在する。好ましくは、細胞培養物は液体培養物である。好ましい実施形態では、細胞培養物は高密度細胞培養物である。
【0044】
有機溶質の蓄積は、全ての微生物の浸透圧調節に対して必須要件である。環境の水のより低活量に対して調節し、細胞質水分の減少をもたらすためには、細胞膨圧および/または細胞容積を再確立し、および同時に酵素活性を保持するように、微生物は細胞内イオンまたは有機溶質を蓄積しなければならない。
【0045】
微生物は、浸透圧調節のために2つの主要な作戦を発展させた。1つの作戦は、時には極端に高いレベルまでの環境からのK+の選択的流入に依存しており、「細胞質内塩( salt-in-the-cytoplasm)」型の浸透圧適応(Galinski E.A.、Advances in Microbial Physiology、37:272-328頁(1995);da Costa, M.S.ら、Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology、61:117-153頁(1998);Roessler, M.およびMuller, V.、Environmental Microbiology、3:743-754頁(2001))として知られている。この型の浸透圧調節は、ハロバクテリウム(Halobacteriaceae)科の高度好塩性古細菌、ハラナエロビウム(Halanaerobiales)目の嫌気性中度好塩性細菌(Oren, A.、Microbiology and Molecular Biology Reviews、63:334-348頁(1999))および高度好塩性細菌サリニバクター・ルーバー(Salinibacter ruber)(Anton, J.ら、International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology、52:485-491頁(1999); Oren, A.およびMana, L、Extremophiles、6:217-223頁(2002))で起こる。
【0046】
しかし、大部分の微生物は、塩水環境に適応するための必須条件として広汎な遺伝子変換を受けておらず、細胞内高分子は一般に高レベルの無機イオンに敏感である。これらの生物は、適合性溶質または浸透圧調節剤として公知の、特定の低分子量化合物を蓄積しやすい(Brown, A.D.、Bacteriological Reviews、40:803-846頁(1976)、Brown, A.D.、Microbial Water Stress Physiology:Principles and Perspectives、Chichester、John Wiley & Sons(1990)、Ventosa, A.ら、Microbiology and Molecular Biology Reviews、62:504-544頁(1998))。適合性溶質はまた、存在すれば環境から取り込まれ得るかまたは新規に合成され得る。微生物の最も普通の適合性溶質は中性または双性イオン性であり、アミノ酸およびアミノ酸誘導体、糖、糖誘導体(ヘテロシド)ならびにポリオール、ベタイン、およびエクトイン(da Costa, M.S.ら、Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology、61:118-153頁(1998))が含まれる。一部のもの、すなわち、トレハロース、グリシンベタイン、およびα-グルタメートは微生物中に広く分布しているが、他のものは、少数の生物に限定されている。例えば、ポリオールは、菌類および藻類に広く分布しているが、細菌中では非常にまれであり、古細菌中では知られていない。エクトインおよびヒドロキシエクトインは、細菌中にのみ見出される適合性溶質の例である。
【0047】
好ましい実施形態に従えば、微生物により蓄積される浸透圧調節剤は、トレハロース、グリシンベタイン、プロリン、グリセロール、エクトインおよびヒドロキシエクトインから選択され得る。
【0048】
そのような浸透圧調節剤の強化された蓄積は、好ましくは、所望の有機成分の生産のために用いられる微生物中の1種または複数種の生化学的経路の遺伝子組換えにより得られる。
【0049】
本発明に従う微生物の遺伝子組換えは、浸透圧調節剤または1種または複数種のその前駆体の生産および/または処理および/または細胞輸送(輸出、移入)に関係している1種または複数種のタンパク質に依存している。
【0050】
一般に、本発明に従う変性された微生物は、上記の経路に関与する1種または複数種のタンパク質の(過剰)発現をさせるような遺伝子または遺伝子構成体を有する。有用な遺伝媒体(プラスミド、ウィルスなど)の構築、形質移入および所望の構成体の発現のために必要な分子生物学的な操作は、当技術分野で公知である(例えば、Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、2001-2009頁を参照されたい)。
【0051】
「遺伝子」または「遺伝子構成体」という用語は、特定のタンパク質として発現されることが可能であり、コード配列に先行する(5’非コード配列)または続く(3’非コード配列)制御配列を場合により含んでいる核酸断片を指す。「未変性遺伝子」とは、それ自体の制御配列をもつ自然界に見出される遺伝子を指す。
【0052】
「組換え遺伝子」とは、未変性遺伝子でなく、共に自然界に見出されない制御およびコード配列を含む、なんらかの遺伝子を指す。したがって、組換え遺伝子は、異なる起源から由来する制御配列およびコード配列、または同じ起源から由来するが、自然界で見出されるものとは異なる様式で配列されている制御配列およびコード配列を含み得る。「内在性遺伝子」とは、生物のゲノムにおいて天然の位置にある未変性遺伝子を指す。「外来」遺伝子とは、宿主生物に通常は見出されず、遺伝子移入により宿主生物に導入された遺伝子を指す。外来遺伝子は、変性生物に挿入された未変性遺伝子、または組換え遺伝子を含み得る。「導入遺伝子」は、形質転換手順によりゲノム中に導入された遺伝子である。
【0053】
本明細書で用いる場合、「発現」という用語は、本発明の核酸断片由来のセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定的蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指すことができる。
【0054】
一般に、本明細書に記載の組換えDNA技術における命名法および実験手順は、当業者に周知である。標準的な技術が、クローニング、DNAおよびRNAの単離、増幅および精製に用いられる。一般に、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどを含む酵素反応は、製造業者の仕様書に従って実行される。これらの手法および他の種々の手法は、一般に、Sambrookら、Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に従って実行される。
【0055】
細菌培養物の日常的な維持および増殖のための適切な材料および方法は、当技術分野に周知である。以下の実施例で使用するのに適切な手法は、一般細菌学のための方法のマニュアル(Phillipp Gerhardt、R. G. E. Murray、Ralph N. Costilow、Eugene W. Nester、Willis A. Wood、Noel R. KriegおよびG. Briggs Phillips、編)、American Society for Microbiology、Washington, D.C.、(1994))に挙げられているものの中に見出され得る。
【0056】
本明細書で用いる場合、「形質転換」という用語は、遺伝的に安定な遺伝をもたらす、宿主生物への核酸断片の転移を指す。形質転換された核酸断片を含む宿主生物は、「遺伝子導入の」または「組換えの」または「形質転換した」生物として参照される。
【0057】
異種遺伝子、コード配列、または制御配列の導入などの多くの応用に対しては、対応する細胞中に核酸配列を導入する必要がしばしばある。多くのそのような方法が公知であり、細胞の特定の型に依存して特定の選択をして使用し得る。
【0058】
大腸菌(E. coli)株の形質転換のためには、エレクトロコンピテントな細胞を以下のようにして調製し得る。大腸菌をSOB培地(Sambrook, J.、Russel, D. W.、Molecular Cloning, A Laboratory Manual. 第3版、2001、Cold Spring Harbor、N.Y.、Cold Spring Harbor Laboratory Press)で、OD600が約0.6から0.8になるように増殖させる。培養物を100倍に濃縮し、氷水で一度洗い、氷冷した10%グリセロールで3回洗う。次いで細胞を150μLの氷冷10%グリセロールに再懸濁し、50μL分量に分注する。この分量は直ちに標準の形質転換に使用または-80℃に保存し得る。これらの細胞は、所望のプラスミドを用いて電気穿孔法により形質転換する。電気穿孔後、直ちにSOC培地(Sambrook, J.、Russel, D. W.、Molecular Cloning, A Laboratory Manual. 第3版、2001、Cold Spring Harbor、N.Y.、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に細胞を加える。37℃で1時間インキュベーションした後、細胞を適切な抗生物質を含むLBプレート上に播種し、37℃で終夜インキュベートする。
【0059】
例えば、酵母細胞は、例えば、ザイモリアーゼ、リティカーゼ、またはグルスラーゼを用い、続いて核酸およびポリエチレングリコール(PEG)の添加により、酵母細胞をプロトプラストに変換することにより形質転換し得る。次いでPEGで処理したプロトプラストは、例えば、選択的な条件下(例えば、Beggs、Nature、275:104-108頁(1978)およびHinnenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、75:1929-1933頁(1978)参照)で増殖培地中で培養して再生される。他の方法は、細胞壁の除去を含まず、代わりに塩化または酢酸リチウムおよびPEGでの処理、次いで選択培地(例えば、Itoら、J. Bact.、153:163-168頁(1983)参照)上での増殖を用いる。酵母の形質転換、酵母ゲノム中への遺伝子の組込み、および酵母株の増殖と選択についての様々な方法が、Current Protocols in Molecular Biology、第1および2巻、Ausubelら編、John Wiley & Sons、New York(1997)中に記載されている。
【0060】
「プラスミド」および「ベクター」という用語は、細胞の中心的な代謝の一部でない遺伝子をしばしば保持し、通常は環状の2本鎖DNA断片の形態である余分な染色体要素を指す。そのような要素は、自律複製配列、ゲノム組込み配列、ファージ、またはヌクレオチド配列、直鎖のまたは環状の、1本鎖または2本鎖DNAまたはRNA、いかなる源から由来したもの、であり得る。その中では、いくつかのヌクレオチド配列が、適切な3’非翻訳配列と共に、選択された遺伝子生成物のためのプロモーター断片およびDNA配列を細胞中に導入することができるユニークな構成体に、連結または組換えられる。「組換えベクター」とは、外来遺伝子を含み、外来遺伝子に加えて特定の宿主細胞の形質転換を促進する要素を有する、特定のベクターを指す。
【0061】
発酵可能な炭素基質を所望の有機生成物に変換するための酵素的な経路をコードしている必須の遺伝子を含む組換え生物は、当技術分野に周知の手法を用いて作製できる。例えば、米国特許公開第20070092957号、米国特許公開第20090239275号、米国特許公開第20090155870号、米国特許公開第20090155870号、国際特許公開第2009/103533号、米国特許公開第20090246842号を参照されたい。
【0062】
トレハロースの生成増加のために遺伝子組み換えされた本発明の酵母株は、種々の塩に対して改善された耐性を有する。株の耐性は、(遺伝子組換え前の)親株の増殖に有害である塩化ナトリウムを含む種々の塩の濃度でその増殖を試験することで評価することができる。
【0063】
本発明で使用する発酵培地は、適切な炭素基質を含む。適切な基質としては、グルコースおよび果糖などの単糖類、乳糖もしくはショ糖などのオリゴ糖類、でんぷんもしくはセルロースなどの多糖類またはこれらの混合物ならびにチーズホエー浸透物、コーンスティープリカー、甜菜モラス、および大麦モルトなどの再生可能な供給原料からの未精製混合物が含まれるがこれらに限られるわけではない。
【0064】
適切な炭素源に加えて、発酵培地は、典型的には、当業者に公知の、培養物の増殖および所望の有機化合物の生産に必要な酵素的経路の促進に適している、適切なミネラル、塩、補因子、緩衝剤および他の成分を含む。
【0065】
細胞培養のためには、細胞は、典型的には、約20℃から約37℃の温度範囲で、適切な培地中で増殖させる。本発明において有用な適切な増殖培地は、酵母窒素塩基、硫酸アンモニウム、およびデキストローズ(炭素/エネルギー源として)を含むブロスまたは、ペプトン、酵母抽出物、およびデキストローズを最適な割合で含むブレンドであり、大部分の出芽酵母株の増殖用のYPD培地などの、通常の市販の調製済み培地でよい。その他の規定されているまたは合成の増殖培地も使用し得るが、特定の微生物の増殖のための適切な培地は、微生物学および/または発酵科学の技術に通暁した当業者に公知である。
【0066】
発酵のための適切なpH範囲は、典型的には、約pH3.0から約pH7.5であり、初期条件としては、約pH4.5.0から約pH6.5が好ましい。
【0067】
発酵培地中に生産される所望の生成物、例えば、ブタノールの量は、当技術分野に公知のいくつかの方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、決定できる。
【0068】
本発明に関わる有用な遺伝子組換えの例としては、米国特許公開第7,005,291号に記載されており、これは、(a)グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子および(b)グリセロール-3-リン酸ホスファターゼ活性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の一方または両方を含む発現カセットを用いて、適切な宿主細胞を形質転換するステップを含む、組換え生物からグリセロールを生成するための方法に関する。この遺伝子組換えは、グリセロールの強化された細胞内蓄積をもたらす。対応する組換え微生物の生成の詳細については、米国特許公開第7,005,291号を参照されたい。
【0069】
「グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ」および「G3PDH」という用語は、リン酸ジヒドロキシアセトン(DHAP)のグリセロール-3-リン酸(G3P)への変換を触媒する酵素活性に関与しているポリペプチドを指す。生体内では、G3PDHは、NADH、NADPHまたはFADに依存性となり得る。NADH-依存性酵素(EC 1.1.1.8)は、例えば、GPD1(GenBankZ74071x2)、またはGPD2(GenBankZ35169x1)、またはGPD3(GenBankG984182)、またはDAR1(GenBankZ74071x2)を含むいくつかの遺伝子によりコードされている。NADPH-依存性酵素(EC 1.1.1.94)は、gpsA(GenBankU321643、(cds 197911-196892)G466746およびL45246)によりコードされている。FAD-依存性酵素(EC 1.1.99.5)は、GUT2(GenBankZ47047x23)、またはglpD(GenBankG147838)、またはglpABC(GenBankM20938)によりコードされている。
【0070】
「グリセロール-3-ホスファターゼ」、「sn-グリセロール-3-ホスファターゼ」、または「d,1-グリセロールホスファターゼ」、および「G3Pホスファターゼ」という用語は、グリセロール-3-リン酸および水のグリセロールおよび無機リン酸塩への変換を触媒する酵素活性に関与しているポリペプチドを指す。G3Pホスファターゼは、例えば、GPP1(GenBankZ47047x125)、またはGPP2(GenBankU18813x11)によりコードされている。
【0071】
「GPP1」、「RHR2」および「YIL053W」という用語は、区別しないで使われ、細胞質グリセロール-3-ホスファターゼをコードしている遺伝子を指し、配列番号:7に掲げたアミノ酸配列により特徴づけられる。
【0072】
「GPP2」、「HOR2」および「YER062C」という用語は、区別しないで使われ、さらなる細胞質グリセロール-3-ホスファターゼをコードしている遺伝子を指し、配列番号:8に掲げたアミノ酸配列により特徴づけられる。
【0073】
本発明において有用なさらなる遺伝子は、トレハロース代謝に関与する遺伝子である。例としては、酵母、特に、出芽酵母からの対応する酵素などのトレハロース-6-リン酸シンターゼ機能を有するタンパク質をコードしている遺伝子である。そのような酵素(およびそれをコードしている遺伝子)の特に有用な代表例は、Tps1p、Tps2p、Tps3pおよびTsl1pである。
【0074】
本発明に関わる有用な、なかでもTps1pを発現する、遺伝子組み換えされた微生物は、米国特許公開第5,422,254号により詳細に記述されており、対応する組換え微生物の生成の詳細については、この先行技術文献を参照されたい。Tps1pは、トレハロース-6-リン酸シンターゼ/ホスファターゼ複合体のシンターゼサブユニットであり、貯蔵炭水化物トレハロースを合成する。その天然の状況においては、このタンパク質の発現は、ストレス状況(例えば、浸透圧ストレス)下で誘発される。
【0075】
Tps2pは、酵母トレハロース-6-リン酸シンターゼ/ホスファターゼ複合体のホスファターゼサブユニットであり、貯蔵炭水化物トレハロースを合成する。その発現は、ストレス状況(例えば、浸透圧ストレス)下で誘発される。
【0076】
Tps3pは、酵母トレハロース-6-リン酸シンターゼ/ホスファターゼ複合体の制御サブユニットであり、貯蔵炭水化物トレハロースを合成する。その発現は、ストレス状況(例えば、浸透圧ストレス)下で誘発される。
【0077】
Tsl1pは、酵母トレハロース6-リン酸シンターゼ(Tps1p)/ホスファターゼ(Tps2p)複合体の大きなサブユニットであり、ウリジン-5’-ジフォスホグルコースおよびグルコース-6-リン酸をトレハロースに変換する。
【0078】
otsAおよびotsBなどのトレハロース-6-リン酸シンターゼ遺伝子などの、トレハロース代謝に関与するさらなる遺伝子が、細菌、特に、大腸菌から公知である。
【0079】
本発明において有用なさらなる遺伝子は、エクトイン代謝に関与している遺伝子である。例としては、L-2,4-ジアミノ酪酸アセチルトランスフェラーゼ(DABAアセチルトランスフェラーゼ;アセチルコエンザイムAを用いて、L-2,4-ジアミノ酪酸(DABA)のγ-N-アセチル-α,γ-ジアミノ酪酸(ADABA)へのアセチル化を触媒している)、ジアミノ酪酸-2-オキソグルタレートトランスアミナーゼ(L-グルタル酸エステルを用いるトランスアミノ化により、L-アスパルテートβ-セミアルデヒド(ASA)をL-2,4-ジアミノ酪酸(DABA)に逆変換するのを触媒している)、およびL-エクトインシンターゼ(γ-N-アセチル-α,γ-ジアミノ酪酸(ADABA)の環状化を触媒している)などのエクトイン生合成において役割を有するタンパク質をコードしている遺伝子がある。エクトイン(1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-4-ピリミジンカルボン酸) は、優れた浸透圧保護剤である。
【0080】
エクトイン生合成の遺伝子は、例えば、マリノコッカス・ハロフィリス(Marinococcus halophilus)などのハロバクテリアから公知である。特定の例としては、ectA、ectBおよびectCが含まれる。さらなる詳細については、”Characterization of genes for the biosynthesis of the compatible solute ectoine from Marinococcus halophilus and osmoregulated expression in Escherichia coli.”、Louis P.、Galinski E.A.、Microbiology、143:1141-1149頁(1997)を参照されたい。
【0081】
本発明に関わる有用な他の遺伝子は、輸送機構に関与しており、例えば、種々のATP-依存性の輸送タンパク質ならびに浸透圧保護剤化合物の細胞取り込みを増強することに導くK+-共-および交換輸送体タンパク質がある。そのような遺伝子の特定の例としては、例えば、大腸菌からのものが公知であり、ProV、ProW、ProXおよびProPが含まれる。ProV、ProWおよびProX遺伝子から発現するタンパク質は、グリシンベタイン、プロリンおよび/またはエクトインの細胞内蓄積を引き起こし、多成分結合タンパク質依存性輸送系(ProU輸送体)の成分であり、それらは、グリシンベタイン/L-プロリン輸送体として働く。ProPは、プロリンおよびグリシンベタインの輸送を行い得る浸透圧保護剤/プロトン共輸送体をコードしており、浸透圧の増加に適応するために浸透圧保護剤の取り込みを仲介する。
【0082】
本発明に従う微生物の組換えのために有用な遺伝子構成体のなお他のクラスは、コリンからのグリシンベタインの生合成に関与する遺伝子に関係している。例としては、コリンシンターゼまたはベタイン-アルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がある。
【0083】
代表的なものは、例えば、大腸菌から公知であり、betAおよびbetBが含まれる。
【0084】
下記の表には、本発明の方法で有用な微生物中で発現されるタンパク質の特定の例を挙げてある。
【0085】
【表1】

【0086】
本発明を以下の非制限的な実施例によりさらに例示する。
【0087】
(実施例)
(実施例1)
培地中のより高濃度のNaClに耐性を有する、n-ブタノール生産酵母株の作製
以下の実施例の記述は、トレハロース代謝に関与する出芽酵母(S.cerevisiae)のTps1p遺伝子クローニングおよび過剰発現を記述するが、所望の有機成分の生産に用いる微生物における生化学的経路の遺伝子組換えのための一般的なアプローチの例示である。この実施例は、遺伝子、例えば、上記表1に挙げたものを、遺伝子導入した微生物に塩に対する耐性を与え得る遺伝子を移入するための組換えベクターの作製に、どのように用い得るかについて例示している。
【0088】
この実施例は、以下の特徴を有する組換え酵母宿主細胞を提供する。1)酵母宿主は炭素基質を含む培地中で増殖させるとブタノールを生産する。2)酵母宿主細胞は、少なくとも1個の遺伝子組換えを含み、野生型細胞と比較して、培地中の少なくとも1種の親水性溶質に対する耐性を増強する。
【0089】
n-ブタノールを生産性の出芽酵母株の作製
n-ブタノール生産性の酵母株は、前記した(Steen EJ、Chan R、Prasad N、Myers S、Petzold CJ、Redding A、Ouellet M、Keasling JD、Metabolic engineering of Saccharomyces cerevisiae for the production of n-butanol、Microbial Cell Factories、2008、7:36頁)ようにして作製される。
【0090】
クロストリジウム・ベイジェリンキNCIMB 8052は、ATCCから購入する。カタログ番号は、51743である。C.ベイジェリンキ(C.beijerinckii)遺伝子は、ゲノムDNAからクローン化する。thlは、チオラーゼを、hbdは、3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを、crtは、クロトナーゼを、bcdは、ブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを、etfAおよびetfBは、2つのエレクトントランスファーフラボタンパク質AおよびBを、ならびにAdhE2は、ブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードしている。大腸菌株DH10BおよびDH5aは、細菌形質転換および発現プラスミドの作製においてプラスミド増幅のために用いる。株は、37℃で、Luria-Bertani培地中で、100mgのアンピシリンと共に培養する。S288Cの誘導体である、出芽酵母株BY4742は、全ての酵母株に対して親株として用いる。この株は30℃で、富化YPD培地中で増殖させる。
【0091】
プラスミドは、前述した(Li MZ、Elledge SJ、Harnessing homologous recombination in vitro to generate recombinant DNA via SLIC、Nat Methods、2007、4(3):251-6頁)ようにSLIC法で作製される。これらは、2μの複製源、選択のためにLEUまたはHIS遺伝子、GAL1またはGAL10プロモーター、およびCYC1、ADH1、またはPGK1転写ターミネーターを含む。n-ブタノール経路の最初の3個の遺伝子は、プラスミドpESC-LEU(Stratagene社)中に組み込まれており、最後の4個の遺伝子は、プラスミドpESC-HIS(Stratagene社)上に置かれている。全ての遺伝子は、Phusionポリメラーゼ(New England Biolabs社)を用いてPCR増幅される。プライマーは、GAL1またはGAL 10プロモーターおよびCYC1、ADH1、またはPGK1ターミネーターのいずれかのプラスミドの挿入領域と相同性の30-bpの隣接領域を有するように設計されている。
【0092】
n-ブタノール生産性の酵母株は、上記に概説したように出芽酵母BY4743 (ATCC 201390)中に、プラスミドの共形質転換により、続いてSD-LEU-HISプレート上での選択により作製される。酵母の形質転換は、酢酸リチウム法(Gietz, R. D.およびR. A. Woods、2002 Transformation of yeast by lithium acetate/single-stranded carrier DNA/polyethylene glycol method、Methods Enzymol.、350:87-96頁)により実行される。酵母細胞は、YPD中で1夜増殖させ、新鮮なYPD10ml中へ、1:10で希釈し、振盪下、28℃で、5時間増殖させる。次いで、細胞を遠心分離で集め、滅菌水で1回洗浄し、100μlの滅菌水に懸濁させる。次いで、細胞懸濁液の50μlを115μlの60%ポリエチレングリコール3350、5μlの4M酢酸リチウム、15μlの滅菌水、10μlの10mg/mlのキャリアDNAおよび5μlのPCR生成物と混合する。混合物を30秒間ボルテックスし、42℃で40分間インキュベートして適当なプレート上に展開する。
【0093】
培地中のより高濃度のNaClに耐性を有するn-ブタノール生産性の酵母株の作製
Tps1p遺伝子を、出芽酵母S288C株から調製したゲノムDNAからクローン化する。Tps1p遺伝子を、pESC-URA(Stratagene社)プラスミドに挿入する。遺伝子は、Phusionポリメラーゼ(New England Biolabs社)を用いてPCR増幅される。プライマーは、GAL1またはGAL10プロモーターおよびCYC1またはADH1ターミネーターのいずれかのプラスミドの挿入領域と相同性の30-bpの隣接領域を有するように設計されている。
【0094】
NaClを含む培地中のより高濃度の塩に耐性を有するn-ブタノール生産性の酵母株は、上述したように、n-ブタノール経路遺伝子の発現のために、pESC-LEU/pESC-HISプラスミドを有する出芽酵母BY4743(ATCC 201390)の細胞中に、pESC-URA-Tps1pプラスミドの形質転換により、続いてSD-LEU-HIS-URAプレート上での選択により、作製される。
【0095】
コントロール細胞と比較すると、Tps1p遺伝子を過剰に発現している酵母培養物は、(株に依存するが)2から3の対数単位で生存率の差を示す。
【0096】
(実施例2)
親水性化合物の添加による発酵培地中のブタノールの相分離
この実施例は、実施例1に従って調製された細胞の、親水性化合物の添加による発酵培地中のブタノールの相分離の誘発を例示する。
【0097】
いくつかの酵母発酵培地がそれぞれの塩に対して、それらの塩の濃度は異なるが、調製される。細胞は、振盪下(160rpm)、30℃で、ガラクトースを補充した培地中で、定常的に、増殖させる。発酵の間、上部のブタノールに富む相(軽い相)および下部のアルコールの少ない相(重い相)を形成して相分離が観察され得る。水溶液と溶媒の間の相での比は、それぞれの場合により異なる。両相ともアルコールと水の含量に関して分析した。
【0098】
n-ブタノールの検出には、内部標準のn-ペンタノール(0.005% v/v)を含む2mlの酢酸エチルを10mlの試料に加え、1分間ボルテックスする。次いで、酢酸エチルを回収し、Triplus AS オートサンプラーおよびTR-WAXMSカラム(Thermo Scientific社)を備えたThermo Trace Ultraガスクロマトグラフィー(GC)に適用する。試料はGC上で以下のプログラムに従い操作する。初期温度、1.2分間、40℃、25℃/分で130℃まで昇温、35℃/分で220℃まで昇温。最終的な定量分析は、Xcaliburソフトウエアを用いて実行する。
【0099】
有機相中の水分は、Karl-Fischer法を用いて測定する。アルコールの分配係数は、それぞれの実験に対して軽い相中のアルコールの濃度を重い相の濃度で除して計算する。実験は全て30℃で実行する。
【0100】
結果を下のTable 2(表2)にまとめた。
【0101】
【表2】

【0102】
結果は、発酵培地中に塩化ナトリウムまたはカルシウムのどちらかが存在すると、発酵中にブタノールの分離が達成され得ることを示している。
[参考文献]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機成分を生成する微生物を含む水性培地から前記有機成分を回収するための方法であって、
(a)水性培地の少なくとも一部分における少なくとも1種の親水性溶質の濃度を高めることにより、水性培地の前記一部分における有機成分の活量を、前記一部分における有機成分の少なくとも飽和まで増加させるステップ、
(b)前記一部分から、有機成分に富む液相および水に富む液相を形成するステップ、ならびに
(c)水に富む相から有機成分に富む液相を分離するステップ
を含み、前記微生物が、非組換え微生物よりも、水性培地の前記一部分における少なくとも1種の前記親水性溶質のより高濃度を許容できるように遺伝子組み換えされている、方法。
【請求項2】
水性培地が発酵ブロスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機成分がアルコールである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルコールがC3〜C6のモノまたジアルコールである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
C3〜C6のモノアルコールが、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、イソ-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノールおよび2エチル-1-ブタノールからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
C3〜C6のジアルコールが、1 ,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールおよび1,4-ブタンジオールからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
親水性溶質が、塩、アミノ酸、水溶性溶媒、糖およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
微生物が、微生物の細胞質中に少なくとも1種の浸透圧調節剤の強化された蓄積をもたらす遺伝学的改変を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
浸透圧調節剤が、トレハロース、グリシンベタイン、プロリン、グリセロールおよびエクトインからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
微生物が、Tps1、Tps2、Tps3、Tsl1、GPD1、GPD2、HOR2、RHR2 ectA、ectB、ectC、otsA、otsB、ProV、ProW、ProX、ProP、betAおよびbetBからなる群から選択される1種または複数種の遺伝子からタンパク質を発現するように改変されている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
微生物が、細菌および酵母からなる群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
酵母が、アスペルギルス・ニデュランス、クロコウジカビ、コウジカビ、カンジダ・アルビカンス、クリソスポリウム・ルクノウェンス、フサリウム・グラミニエラム、フサリウム・ベネナーツム、クリベロマイセス・ラクチス、アカパンカビ、ピキア・アングスタ、ピキア・フィンランディカ、ピキア・コダマ、ピキア・メンブラナエファシエンス、ピキア・メタノリカ、ピキア・オパンティエ、ピキア・パストリス、ピキア・ピジュペリ、ピキア・クエルカム、ピキア・サリクタリア、ピキア・サーモトレランス、ピキア・トレハロフィラ、ピキア・スティピチス、ストレプトマイセス・アンボファシエンス、ストレプトマイセス・オレオファシエンス、ストレプトマイセス・オウレウス、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・ブラウディ、サッカロマイセス・セレビシエ、ストレプトマイセス・ファンギシディカス、ストレプトマイセス・グリセオクロモジェネス、ストレプトマイセス・グリセウス、ストレプトマイセス・リビダンス、ストレプトマイセス・オリボグリセウス、ストレプトマイセス・ラメウス、ストレプトマイセス・タナシエンシス、ストレプトマイセス・ビナセウスおよびトリコデルマ・リーゼイからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細菌が、バチルス・サブチリス、バチルス・アミロリケファシネス、ブレビバクテリウム・アンモニアジェネス、ブレビバクテリウム・イマリオフィラム、クロストリジウム・ベイジェリンキ、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・ブチリカム、エンテロバクター・サカザキ、大腸菌、ラクトコッカス・ラクチス、メソリゾビウム・ロッチ、緑膿菌、シュードモナス・メバロニ、シュードモナス・プディカ、ロドバクター・カプスラータ、ロドバクター・スフェロイデス、ロドスピリラム・ラブラム、サルモネラ菌、チフス菌、ネズミチフス菌、志賀赤痢菌、シゲラ・フレックスネリ、ソンネ菌、黄色ブドウ球菌および炭化水素分解性細菌からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
炭化水素分解性細菌が、アルカニボラクス、サイクロクラスティカス、マリノバクター、ネプチュノモナス、オレイフィーラス、オレイスピラおよびサラソリタスからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(d)有機成分に富む液相から有機成分をさらに精製するステップ、
をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(d)が、有機成分に富む液相の蒸留を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
有機成分を生成するための方法であって、
(A)微生物により有機成分を生成するために、発酵培地中で前記微生物を培養するステップ、
(B)請求項1から16のいずれか一項にされる、水溶液から有機成分を回収するための方法を使用して、前記発酵培地の少なくとも一部分から、前記微生物により前記発酵培地中へ放出される有機生成物を回収するステップ、
を含む方法。

【公表番号】特表2013−513394(P2013−513394A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543717(P2012−543717)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069742
【国際公開番号】WO2011/073250
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(512155032)ストラトリー・アーゲー (1)
【Fターム(参考)】