説明

帯状繊維束織物の製織装置と製織方法

【課題】 帯状繊維束の良好な状態を維持できる、帯状繊維束織物の製織装置を提供すること。
【解決手段】 綜絖による経糸開口領域に緯糸Fを緊張状態で挿入する緯入手段と、緯糸Fを緊張状態を維持したまま織前に向けて平行移動させる移動手段で製織装置を構成する。緯入手段はレピア織機のレピア機構(またはグリッパ織機のグリッパ機構)を有する。レピア機構(またはグリッパ機構)は、移動手段によって織前に向けて平行移動する。レピア機構(またはグリッパ織機のグリッパ機構)で緯入れされた緯糸Fの直近後方位置に筬40を配設し、筬40がレピア機構(グリッパ機構)と共に移動手段によって平行移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経糸と緯糸が帯状に処理された繊維束で、複合材料などの繊維補強複合材料などに用いられる補強繊維帯状繊維束織物を高品質で生産性良く製造するための帯状繊維束織物の製織装置と製織方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の織物の製織装置としては、特許2983531号(特許文献1)に示されるものがある。
【0003】
この装置は、以下の先行技術に対して、表面平滑性に優れ、織糸の交差部の屈曲が少ない織物補強材を提供することを目的として、直接、帯状繊維束を使用して開繊糸織物や拡繊糸織物を製織するために開発されたものである。
【0004】
従来、拡繊糸織物を得る技術としては、織物表面にウォータージェットを作用させて織物を拡繊処理する方法がある。この方法は、例えば、特公平2−323832号(特許文献2)、特開平4−281037号(特許文献3)、特開平8−127959号(特許文献4)および特開平8−232135号(特許文献5)に開示されている。
【0005】
また、水中で超音波を作用させて織物を拡繊処理する方法として、特公平4−70420号(特許文献6)、特開平7−145556号(特許文献7)がある。
【0006】
更に、回転ドラムと水圧を利用して織物を拡繊処理する方法として、特開平4−241164号(特許文献8)がある。
【0007】
これら従来の織物補強材の製造方法は、補強繊維束を拡繊前のマルチフィラメント糸の状態で一旦製織し、その後、得られた織布に対して高圧流体や超音波等を作用させて、織り組織を成している繊維束を拡繊処理するものである。また、扁平糸を用いて扁平糸織物の製織を行うものとして、特許2955145号(特許文献9)がある。
【0008】
しかしながら、以下のような問題があることが判明した。特に、経糸密度を揃えるコーム(筬)ならびに綜絖のメール(目)で扁平状態が潰されてしまう。また、緯糸に関しては、経糸と直角にコーム(筬)により緯糸が打ち込まれるが、緯糸を保持しているレピア側および緯糸の供給側において、緯糸と経糸とが直角にならない。
【0009】
更には、コーム(筬)にて緯糸を打ち込むことで緯糸の扁平状態が潰されてしまい糸幅が均一に広がった織物が得られない。従って、その糸幅に限界があり、また、織糸の交差部において繊維束の拡繊が不十分であることから交差部の織糸屈曲度の軽減、表面平滑性の向上にも限界があり、繊維補強材の品質低下を来す難点があった。そこで、特許2983531号(特許文献1)に示されるものは、上述したように、一対の把持手段、綜絖手段、緯入手段を備え、開口、緯入れタイミングに合わせて把持手段を移動可能とすることで、直接、拡繊後の帯状繊維束を経糸もしくは緯糸として使用して、経糸側の各帯状繊維束に捩じれを与えることなく製織を行なうことができる。
【0010】
さらに、例え、把持手段の平行移動を行なわない場合にあっても、製織を比較的低速で、さらに経糸の張力を適切に設定してやれば、把持手段を経糸方向で位置固定で備える織機にあっても、良好な開口状態、拡繊糸に捩じれを発生しない状態で、拡繊糸の製織を行なうことができる。
【特許文献1】特許2983531号
【特許文献2】特公平2−323832号
【特許文献3】特開平4−281037号
【特許文献4】特開平8−127959号
【特許文献5】特開平8−232135号
【特許文献6】特公平4−70420号
【特許文献7】特開平7−145556号
【特許文献8】特開平4−241164号
【特許文献9】特許2955145号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の発明でも、なお以下のような課題があることが判明した。
【0012】
(緯入れ時の処理)
通常、特許文献1のように帯状繊維束を緯入れする場合にあっては、その緯入れ装置は、例えば、レピア機構で緯入れを行ない、繊維束の両方の端部を本体とは別駆動の把持機構にて繊維束を把持し、繊維束の一方をカットして、更に、レピアにて保持された緯糸を離して、実際上、経糸開口部への緯糸の挿入、載置操作となる。しかしながら、特許文献1の方法で帯状繊維束を緯入れした場合、本体駆動とは別駆動の緯糸把持機構で緯糸を把持して移動するから、緯入れ後の状態は緯糸の複数のフィラメントが幅方向に分散されて互いのフィラメントの平行性が失われ、かつ、緯糸の適切な緊張状態を保持できず、この結果良好な拡繊状態を保てずに緯糸フィラメントの平行性と直線性に乱れが生じる場合がある。
【0013】
(生産スピード)
特許文献1の緯入れ装置は、本装置とは別駆動で工程数が多くなることで、生産スピードに限界がある。
【0014】
本発明の目的は、上記課題を解決し、帯状繊維束(テープ状糸、扁平糸、開繊糸、拡繊糸等)を製織する製織装置において、帯状繊維束を構成するフィラメントにあっても、帯状繊維束の良好な状態を維持できる、帯状繊維束織物の製織装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明は、扁平状の経糸と緯糸を用いて帯状繊維束織物を製織する製織装置において、綜絖による経糸開口領域に緯糸を緊張状態で挿入する緯入手段と、前記緯糸を緊張状態を維持したまま織前に向けて平行移動させる移動手段とを有することを特徴とする。このようにすると、織物にあっては中央位置および端部位置での織物密度の乱れを防止でき、それより幅方向内側の繊維束の状態を安定したものとすることができ、フィラメントの初期の帯状繊維束状態を良好に保てる。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記緯入手段が、レピア織機のレピア機構またはグリッパ織機のグリッパ機構を有することを特徴とする。無杼織機のひとつであるレピア織機は2つのバンドが織物中央で緯糸を受渡すつかみ式が主流であって、このつかみ式はさらにバンド式と棒式の2種類に区分される。また有杼織機のひとつであるグリッパ織機は、緯糸を掴んだ金属製の小型グリッパシャトルを飛ばして緯入れする。本発明は少なくともレピア織機のレピア機構またはグリッパ織機のグリッパ機構であれば、どの型式でも緯入手段として利用可能である。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記レピア機構またはグリッパ機構が、全体として、前記移動手段によって織前に向けて平行移動することを特徴とする。レピア機構またはグリッパ機構によって所定の張力(緊張状態)で緯入れされた緯糸は、これら所定の張力(緊張状態)によって端部を把持されたまま織前に向けて平行移動することで扁平状緯糸の繊維配列が崩れず、帯状繊維束織物の表面平滑性が向上する。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記レピア機構またはグリッパ機構で緯入れされた緯糸の直近後方位置に筬を配設し、前記筬が、前記レピア機構またはグリッパ機構と共に前記移動手段によって平行移動することを特徴とする。レピア機構またはグリッパ機構で緯入れされた緯糸は、その端部を把持されたまま織前に平行移動するので、その途中で緯糸形状が崩れる可能性はほとんど無い。しかし、緯糸を織前側に打込む際に、万一、例えば緯糸中央部が後方側に弓なりに湾曲変形しそうになった場合、筬によって当該変形を阻止して製織不良を未然防止する。
【0019】
請求項5記載の発明は、矩形の綜絖枠の内側に板材を一体固設することにより複数のメールを形成したことを特徴とする。経糸を挿通して綜絖作用をなす綜絖ワイヤないし綜絖ロッドは、長尺なために特に左右方向の剛性に乏しい。丸糸を経糸と緯糸に用いた織物では綜絖の左右方向変位が生じても製織上特に不都合はない。しかし、扁平状の経糸と緯糸を使用して帯状繊維束織物を製織する場合は、綜絖の経糸挿通箇所であるメールが経糸群の幅方向に振れると、メールとの干渉または経糸相互の干渉によってその繊維配列が崩れてしまう。そこで本発明は、綜絖枠の内側に板材を一体固設してメールを形成する。こうすると綜絖全体形状とメール位置が一義的に定まって扁平状経糸の崩れを防止できる。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記板材が、綜絖枠の幅方向に等間隔で配列した第1の板材と、前記第1の板材相互間に一つ置きで挟持した断面U字状に屈曲した第2の板材とからなり、前記第2の板材はU字状の円弧部を互いに突き合わせるようにして綜絖枠の高さ方向に上下一対で配設し、前記円弧部相互間にメールを形成したことを特徴とする。綜絖枠の内側の綜絖を板材で構成することにより綜絖全体を軽量化することができると共に、U字状に屈曲した第2の板材を使用することでメールの縁部形状を滑らかな円弧とすることができ、扁平状経糸がメールと接触することによる摩耗ないし形崩れを防止することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、帯状繊維束が、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸または紡績糸であることを特徴とする。
【0022】
請求項8記載の発明は、帯状繊維束の総繊度が、50〜20000テックスであることを特徴とする。
【0023】
請求項9記載の発明は、緯糸挿入回数が10〜600回/分であることを特徴とする。
【0024】
本発明は、さらに詳しくは、予め帯状に処理されて厚みに対して充分な幅を有する帯状繊維束を少なくとも経糸とする製織を対象とする。このような経糸を複数列で有する経糸群を、経糸群の長手方向で所定間隔を開け、かつ、互いに平行関係を保ちながら、経糸群の全幅にわたって上下から一対の把持手段で把持する。経糸群は一対の把持手段の間で張力設定手段により所定の張力を維持する。この一対の把持手段の間に、把持手段と平行状態を保って作動する綜絖手段を設け、この綜絖手段により各経糸を上下動させて経糸群を開閉口する。一対の把持手段の間に、把持手段と平行関係を保ちつつ作動する緯入手段を配設し、この緯入手段から繰り出した緯糸を経糸群の開口領域へ向けて経糸群と直角に緯入れする。
【0025】
本発明の緯入手段は、給糸部、緯糸貯留部、緯糸測長部、緯糸把持部など、緯糸挿入に関するすべての部品または装置を本体と連動駆動させることにより、緯糸の移送手段を別途設けることなく、緯入れした緯糸を織前位置まで移動することで、フィラメントの乱れが少なく、帯状繊維束を良好に維持することができる。
【0026】
緯入れ後、織前位置へ緯糸を打込むまでの間、緯糸に適宜な張力を維持させるため保持機構を備えることができる。この保持機構により、緯糸の形状、特に緯糸繊維束の中央位置および端部位置での繊維束の幅の縮みやフィラメントの弛みが少ない、良好な帯状状態を維持することができる。
【0027】
緯糸の供給側と受取側の位置は、緯糸が緯入れされてから経糸に織り込まれるまで、緯糸と経糸の直角性が維持されるようにする。すなわち、緯糸の供給側と受取側を結ぶ直線が、経糸群と常に直角を維持するようにする。これにより、緯入れされた帯状糸の形態が維持される。また、緯糸を織前に向けて移動させる移動手段は、緯糸の長さ方向において、緯糸のどの位置においても緯糸密度を同じにするために、打込み時における緯糸の供給側と受取側の位置が織物の織前位置になる駆動方式とする。これにより、フィラメントの弛みが少なく、織物の中央部および端部での織物密度ムラが極力小さくなる。これにより、良好な帯状繊維束織物を製造することができる。
【0028】
製織後、帯状繊維束織物は巻取り手段で巻取る。巻取り手段は、帯状繊維束織物が巻き取られる巻取りボビンと、帯状繊維束織物を巻取りボビンの巻取り導入部に導く巻取りロールとを備える。前記巻取りロールにおいて、帯状繊維束織物が巻取りロールの表面に当接して湾曲させられるように構成してあることが好ましい。このように、巻取りロールとして前記帯状繊維束織物が巻取りロールの表面に当接して湾曲させられる構造(面接触構造)を採るため、巻取りロール部位で織物を多点保持でき、結果的に、巻取りロール部位での、フィラメントの乱れを減少させることができる。
【0029】
請求項10記載の発明は、扁平状の経糸と緯糸を用いて帯状繊維束織物を製織する方法において、綜絖による経糸開口領域に緯糸を緊張状態で挿入する挿入工程と、前記緯糸を緊張状態を維持したまま織前に向けて平行移動させる移動工程とを有することを特徴とする。このようにすると、織物にあっては中央位置および端部位置での織物密度の乱れを防止でき、それより幅方向内側の繊維束の状態を安定したものとすることができ、フィラメントの初期の帯状繊維束状態を良好に保てる。
【0030】
請求項8記載の発明は、帯状繊維束が、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸または紡績糸であることを特徴とする。
【0031】
請求項11記載の発明は、帯状繊維束の総繊度が、50〜20000テックスであることを特徴とする。
【0032】
請求項12記載の発明は、緯糸挿入回数が10〜600回/分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、織物にあっては中央位置および端部位置での織物密度の乱れを防止でき、それより幅方向内側の繊維束の状態を安定したものとすることができ、フィラメントの初期の帯状繊維束状態を良好に保てる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づき詳しく説明する。
【0035】
本実施形態の帯状繊維束織物の製織装置は、予め帯状に処理されて厚みに対し十分な略均一な幅(拡繊幅/拡繊厚み比で100以上)を有する帯状繊維束として、例えば、7μmの炭素繊維が12000本、エポキシ樹脂系サイジング剤にて互いに略平行に微着し合う拡繊厚み0.05mm、拡繊幅18mmの炭素繊維束を使用することができる(拡繊処理前の元の繊維束は厚み0.1mm、幅6.1mm)。
【0036】
この帯状繊維束を経糸T及び緯糸Fとして用いて織物を製織し、炭素繊維強化複合材料用の織物補強材を提供する。
【0037】
以下、本実施形態製織装置の各構成部について順に説明する。
【0038】
図1は本発明の帯状繊維束織物Wの製織装置を示すものである。この製織装置は、経糸送り出し装置として、経糸ボビン軸2,3、経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xおよび経糸送り出し機構部(ロール4,5,6)を有する。また、経糸開口機構部として、綜絖枠および綜絖を一体にした一対の綜絖ユニット20a,20bからなる綜絖装置20、筬40および経糸開口張力調整機構7,8を備える。また、緯糸をその緊張状態を維持したまま織前に向けて平行移動させる移動手段、すなわち緯糸打込み装置30として、緯糸ボビン31、緯糸張力調整ローラ32、緯糸緊張機構部33、緯糸保持機構部34およびレピア機構部35、レピア緯糸把持部35aを備える。更に、織物巻取り装置として、織物保持ロール9a,9b(図2参照)、織物把持ロール10,10a,10b(図2参照)、巻取りロール11、紙類およびフイルムなどの供給部50(図2参照)を備えている。
【0039】
先ず、緯糸供給装置について説明すると、緯糸ボビン31は、帯状繊維束からなる緯糸Fが巻回され、緯糸打込み装置30に組み込まれた状態で設置される。緯糸Fは緯糸張力調整ローラ32を経て緯糸緊張機構部33に案内される。レピア機構部の緯糸把持部35aにより緯糸Fが引き出されることで、緯糸ボビン31の巻回された帯状繊維束からなる緯糸Fが、緯糸張力調整ローラ32および緯糸緊張機構部33により、適宜で極力張力のバラツキが少ない状態で緯糸Fが解舒され、レピア機構部35により緯糸Fとして必要な長さを得てレピア駆動が停止する。
【0040】
ここで、緯糸ボビン31に巻回された緯糸Fを解舒する方法として、レピア機構部35の速度に応じて、緯糸張力調整ローラ32が上方向に移動することで緯糸ボビン軸に取り付けてあるモータが追従して回転し、緯糸ボビン31に巻回されている帯状の緯糸繊維束を解舒し、レピアが停止すると同時に緯糸張力調整ローラ32が下方向に移動して定位置で停止する。
【0041】
レピアにより引き出された一本分の緯糸Fは、レピア機構部35が停止する直前に緯糸緊張機構部33および緯糸把持部35aにより、適宜な張力が与えられた状態で保持される。
【0042】
緊張状態に保持された緯糸Fは、本体駆動と連動した緯糸打込み装置30により織前まで移動し、綜絖ユニット20a,20bが上下駆動して織物Wを形成するまで緯糸打込み装置30に保持される。緊張状態に保持された緯糸Fは、経糸Tに挟まれて織物Wが形成された状態で、緯糸把持部35aが解除されて織物Wの緯糸として形成され保持される。緯糸把持部35aはその後緯糸打込み装置30の復動中に復動し、レピアにより引き出された次の一本分の緯糸Fを把持して前述した作動を繰り返す。
【0043】
本発明の帯状繊維束織物の製織装置と製織方法において、緯糸給糸部(緯糸ボビン31)から織物Wが形成されるまで、緯糸給糸部と緯糸道部およびレピア機構部35が、全て、緯糸打込み装置30上に配置されて緯入れ工程を行う。これにより、帯状繊維束が緯入れされる際の問題点である、緯糸の捻れやフィラメント割れ、および経糸と緯糸との不直角などの問題点を解消できて、帯状繊維束の良好な緯糸状態を保持することができる。
【0044】
更に、筬40は、通常の織機に於いては緯糸Fを打ち込むために用いられるが、本装置に於いては、あくまでも、緯糸Fと経糸との直角性や、緯糸Fの幅の安定性を図るために、緯糸ガイド部材として使用する。本装置の連続運転または高速運転時において、緯糸工程で緯糸Fが安定した形態で保持されるのであれば、筬40は必ずしも必要ではない。
【0045】
次に、緯糸絡み装置について説明する。緯糸打込み装置30により打ち込まれた帯状の緯糸を保持するために緯糸絡み装置16a,16bが設けられており、この装置16a,16bからの別の糸により緯糸を一本ずつ固定する。ここで、帯状繊維束の緯糸Fを保持する場合の緯糸絡み装置16a,16bは、従来公知の一般的装置であってよい。この場合、緯糸絡み装置16a,16bから供給される緯糸絡み糸(以下「耳糸」という。)が、織物保持ロール9a,9bの間、または、どちらかのロールに接触して通過することで、織物Wの耳部において、耳糸のみの張力による緯糸端部の締まりに起因する、帯状繊維束幅の縮みや形態の不安定を解消することができる。
【0046】
前記の耳糸により耳部が形成されてから、カット装置12a,12bにより余分な緯糸Fをカットする。このようにして適宜な緯糸長さで形成された織物Wを、織物把持ロール10,10a,10bにて巻取りロール11に導いて安定した織物Wとして巻き取る。この場合、本織物Wを形成している繊維束は帯状繊維束のために、一般的な織物Wよりも薄く、織物密度に関して疎密の部分があるため経糸および緯糸が滑りやすく、目ずれ(織物密度のバラツキ)等の問題が起きやすい。本装置では、クラフト紙またはフイルムなどを織物Wに挟み込みながら巻き取ることで上記問題を解決する装置(供給部50)も備える。
【0047】
次に、経糸供給装置について説明すると、経糸ボビン軸2,3には、多数の経糸ボビンが回転自在に支持される。図1においては、経糸ボビン軸2,3および経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xのみを図示する。経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xには、緯糸ボビン31と同様に帯状繊維束からなる経糸Tが巻回され、経糸Tは、経糸ボビンの転がり方向に解舒されて帯状繊維束製織装置側に導かれる。経糸ボビンからの経糸Tの解舒速度は緯糸Fに比べて極端に遅く、帯状繊維束製織装置の製織速度と同じで一定速度である。このため、一般的には経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xはブレーキ付きであれば良い。しかし、各経糸ボビンに巻かれた経糸巻き張力や巻径により経糸Tの送り出し速度が微妙に異なる。このため、本装置での送り出し装置は、経糸ボビンに軽いブレーキをかけながら、モータにより経糸ボビン軸に経糸送り出し方向とは逆の回転を与える。これにより、経糸ボビンからの解舒張力を一定ないし安定化させ、個別に巻かれた経糸の張力調整を行っている。各経糸ボビンに巻かれた経糸巻き張力や巻径が一定で安定している場合はこの限りではない。
【0048】
経糸送り出し機構部は、大径のロール4の上側に小径のロール5と6を側面視左右対称配置してなる。各経糸ボビンから送り出された経糸Tは、手前側ロール5の上部を通り下側ロール4の下側周面にセットされ、さらに後ろ側ロール6の上側に通すことで、経糸Tのバラツキや経糸張力の均一化を図っている。
【0049】
経糸開口張力調整機構7,8は、綜絖枠一体型の綜絖装置20による経糸開口時の張力変動を綜絖装置20の運動と連動してロール7を上下運動させることで、経糸の張力変動を吸収して経糸Tを常に一定または安定した張力に保持する。
【0050】
綜絖装置20は図3に示す一対の綜絖ユニット20a,20bからなる。綜絖ユニット20a,20bは、帯状繊維束の幅寸法に対応した横幅を持つ矩形の綜絖枠20a1,20b1と、この綜絖枠20a1,20b1の上下の横材間に配設された複数の綜絖20a2,20b2を有する。各綜絖20a2,20b2は図4に示すように左右一対で平行配置されたステンレス製薄板材22の間に、U字状に屈曲させた2つのステンレス製薄板材23を挟み込んだものである。薄板材23の円弧状屈曲部23aは、綜絖枠20a1,20b1の上下方向中央部において、経糸Tを挿通可能な隙間すなわちメール(目)24を開けて対向する。隙間24ないし薄板材23の幅は、経糸Tの幅よりも僅かに大きい。綜絖20a2,20b2は、綜絖枠20a1,20b1の幅方向に一つ置きに設ける。隣接する綜絖20a2,20b2同士の間に成形された隙間が、経糸Tの方向において、他方の綜絖枠20a1,20b1の綜絖20a2,20b2と重なるように配置される。
【0051】
綜絖ユニット20a,20bは、駆動手段21によって互いに逆方向に繰返し上下駆動される。隙間24に挿通された経糸Tは、綜絖ユニット20a,20bによって左右上下方向で位置規制された状態で筬40へ案内される。綜絖ユニット20a,20bが上下動することで、筬40の下流側において上下の経糸Tの間に緯糸Fを通すための緯糸走行道(経糸開口領域)が作られる。
【0052】
なお、従来の綜絖は綜絖枠に細い綜絖ワイヤないし綜絖ロッドが取付けられたものであるため、綜絖が上下動するとその振動によりメールの位置が左右に振れやすい。このため、従来の綜絖を用いて帯状繊維束を製織しようとしても、メールの左右の振れで経糸Tの扁平状態が崩れるためにうまく織ることができない。したがって、経糸Tの扁平状態を維持しつつ帯状繊維束を製織するには、本装置のように綜絖枠に綜絖を一体とした剛構造が不可欠である。
【0053】
上記経糸供給装置に於いては、以下の工程に従って経糸Tが織前に導かれ、緯糸供給装置から送り出されてくる緯糸Fに織り込まれて帯状繊維束織物Wが製造される。詳しくは、先ず、経糸ボビン軸に設けられた複数の経糸ボビン2a〜2x,3a〜3x等から複数の経糸Tが解舒され、各経糸Tは、経糸送り出し機構部(ロール4,5,6)により張力が均一に付与され、経糸開口張力調整機構7,8へと導かれる。経糸開口張力調整機構7,8へ導かれた経糸Tは、経糸開口機構部(綜絖装置20)に案内され、駆動手段21によって昇降されて、筬40の下流側に緯糸Fを通す緯糸走行道(経糸開口領域)を形成する。
【0054】
このようにして経糸ボビン2a〜2x,3a〜3x等から解舒された複数の経糸Tは、筬40で所定の織り密度に配列されて織前へ案内される。そして、経糸開口機構部(綜絖装置20、筬40および経糸開口張力調整機構7,8)によって緯糸走行道が形成された時に、図5(A)(B)に示すように、レピア機構部35の間欠作動により複数の経糸開口領域に緯糸Fが挿入され、緯糸打込み装置30の前進により緯糸Fが織前側に挿入されて帯状繊維束織物Wが製造される。この経糸供給工程により経糸ボビンから解舒された経糸Tが直線的に等間隔でシート状に引き揃えられ、安定した織物製造が可能になる。
【0055】
次に、図2の制御装置60および70について説明する。本装置の経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xは、上下千鳥方式にて各経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xを設け、各経糸Tの間隔が狭く、かつ、各経糸Tが重ならない様に配置される。経糸ボビン2a〜2x,3a〜3xが固定された軸2,3は、ブレーキやモータを用いて各経糸Tに一定の張力を与える。また、送り出された各経糸Tを経糸送り出し機構部の各ロール4,5,6に経糸Tを通すことで各経糸間での張力のバラツキを極力小さくする。このような制御を行うために制御装置60,70が設置され、特に経糸張力の均一性および経糸のバラツキを制御する。
【0056】
図1および図2の製織装置は平織り仕様であって、綜絖装置20は一対の綜絖ユニット20a,20bで構成される。製織装置を所望の織物組織に対応した多重織仕様とするには、綜絖ユニットを増設して3以上にすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、帯状繊維束織物の製織装置に関するものであり、特に繊維強化複合材料用の補強材としての織物補強材を製織するのに有用であり、使用する繊維としては、炭素繊維を初め、ガラス繊維やポリアミド繊維、セラミック繊維、その他繊維強化複合材料用基材として用いられる繊維すべて、特に帯状繊維束を製織する際に有用な製織装置である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明製織装置の概略平面図。
【図2】本発明製織装置の概略側面図。
【図3】綜絖ユニットの斜視図。
【図4】(A)は綜絖ユニットの断面図、(B)は同正面図。
【図5】(A)は経糸開口部に対する緯糸挿入状態の平面図、(B)は緯糸打込状態の平面図。
【符号の説明】
【0059】
2a-2x,3a-3x 経糸ボビン
2,3 経糸ボビン軸
4,5,6 ロール
7,8 経糸開口張力調整機構のロール
9a,9b 織物保持ロール
10,10a,10b 織物把持ロール
11 巻取りロール
12a,12b カット装置
16a,16b 緯糸絡み装置
20 綜絖装置
20a,20b 綜絖ユニット
21 駆動手段
30 緯糸打込み装置
31 緯糸ボビン
32 緯糸張力調整ローラ
33 緯糸緊張機構部
34 緯糸保持機構部
35 レピア機構部
35a レピア緯糸把持部
40 筬
50 供給部
60,70 制御装置
F 緯糸
T 経糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状の経糸と緯糸を用いて帯状繊維束織物を製織する製織装置において、綜絖による経糸開口領域に緯糸を緊張状態で挿入する緯入手段と、前記緯糸を緊張状態を維持したまま織前に向けて平行移動させる移動手段とを有することを特徴とする帯状繊維束織物の製織装置。
【請求項2】
前記緯入手段が、レピア織機のレピア機構またはグリッパ織機のグリッパ機構を有することを特徴とする請求項1記載の製織装置。
【請求項3】
前記レピア機構またはグリッパ機構が、全体として、前記移動手段によって織前に向けて平行移動することを特徴とする請求項2記載の製織装置。
【請求項4】
前記レピア機構またはグリッパ機構で緯入れされた緯糸の直近後方位置に筬を配設し、前記筬が、前記レピア機構またはグリッパ機構と共に前記移動手段によって平行移動することを特徴とする請求項3記載の製織装置。
【請求項5】
矩形の綜絖枠の内側に板材を一体固設することにより複数のメールを形成したことを特徴とする請求項1記載の製織装置。
【請求項6】
前記板材が、綜絖枠の幅方向に等間隔で配列した第1の板材と、前記第1の板材相互間に一つ置きで挟持した断面U字状に屈曲した第2の板材とからなり、前記第2の板材はU字状の円弧部を互いに突き合わせるようにして綜絖枠の高さ方向に上下一対で配設し、前記円弧部相互間にメールを形成したことを特徴とする請求項5記載の製織装置。
【請求項7】
帯状繊維束が、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸または紡績糸であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の製織装置。
【請求項8】
帯状繊維束の総繊度が、50〜20000テックスであることを特徴とする請求項7記載の製織装置。
【請求項9】
緯糸挿入回数が10〜600回/分であることを特徴とする請求項6または8記載の製織装置。
【請求項10】
扁平状の経糸と緯糸を用いて帯状繊維束織物を製織する方法において、綜絖による経糸開口領域に緯糸を緊張状態で挿入する挿入工程と、前記緯糸を緊張状態を維持したまま織前に向けて平行移動させる移動工程とを有することを特徴とする帯状繊維束織物の製織方法。
【請求項11】
帯状繊維束が、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸または紡績糸であることを特徴とする請求項10記載の帯状繊維束織物の製織方法。
【請求項12】
帯状繊維束の総繊度が、50〜20000テックスであることを特徴とする請求項11記載の帯状繊維束織物の製織方法。
【請求項13】
緯糸挿入回数が10〜600回/分であることを特徴とする請求項11または12記載の製織方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−89857(P2006−89857A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273922(P2004−273922)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(599017667)
【Fターム(参考)】