説明

帯電ローラ、プロセスカートリッジおよび画像形成装置

【課題】ゴム部材の表面を少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって硬化処理した帯電ローラにおいて、高温高湿度環境で長期保存しても、イオン導電剤の染み出しを防止できるものを提供する。
【解決手段】帯電ローラ2は、芯金21上にゴム層22が形成されたものである。このゴム層22は、エピクロルヒドリン系ゴム基材にイオン導電剤が添加されたものであり、イソシアネート化合物を含む溶液を塗布して加熱することによって表面処理が施されている。ここで、上記の表面処理は、ゴム層22と感光体1との当接部における動摩擦係数が0.4以下となるような条件で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置において、静電潜像が形成される像担持体と接触して該像担持体を帯電させる帯電ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成においては、画像に応じた静電潜像を感光体の表面に形成する。このとき、静電潜像の形成に先立って、感光体の表面を均一に帯電させる帯電処理が必要となる。ここで、感光体の帯電方法には、非接触帯電方式によるものと、接触帯電方式によるものとの2種類がある。
【0003】
非接触帯電方式では、いわゆるコロトロン帯電器またはスコロトロン帯電器などが用いられ、これらの帯電器が引き起こすコロナ放電により、空気を媒介して感光体に電荷を供給する。このような非接触帯電方式では、帯電器が感光体に接触しないため、感光体の汚染や磨耗を低減できるという利点があるが、その一方で、コロナ放電に伴ってオゾンなどの副生成物が発生するといった問題もある。
【0004】
近年では、環境への配慮から、コロナ放電を用いない接触式の帯電器が注目されている。接触式の帯電器の中には、電圧が印加されたローラ形状のゴム部材を感光体に当接させるものがあり、このゴム部材を含むローラは、一般に帯電ローラと呼ばれている。
【0005】
特許文献1には、帯電ローラ表面の不均一な汚れによる帯電不良を防止するために、表面の摩擦係数を0.4以上にした帯電ローラが記載されている。
【0006】
また、特許文献2〜9には、この帯電ローラのゴム部材に対して表面処理を施す技術が記載されている。これらの特許文献に記載された技術では、エピクロルヒドリン系ゴム基材からなるゴム部材の表面を、イソシアネート化合物を用いて改質(硬化)させることにより、ゴム部材の周囲にさらなる層を形成することなく、表面からイオン導電剤などが漏出するのを防止することができるとされている。
【特許文献1】特開平4−268583号公報(1992年9月24日公開)
【特許文献2】特開平5−281830号公報(1993年10月29日公開)
【特許文献3】特開2000−346051号公報(2000年12月12日公開)
【特許文献4】特開2001−348443号公報(2001年12月18日公開)
【特許文献5】特開2002−40760号公報(2002年2月6日公開)
【特許文献6】特開2002−82514号公報(2002年3月22日公開)
【特許文献7】特開2004−191960号公報(2004年7月8日公開)
【特許文献8】特開2004−191961号公報(2004年7月8日公開)
【特許文献9】特開2006−53544号公報(2006年2月23日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2〜9に記載された表面処理を施した帯電ローラは、高温高湿環境下で長期保存したときに、ゴム部材に含まれるイオン導電剤が染み出してしまうという問題がある。帯電ローラからイオン導電剤が染み出すと、染み出したイオン導電剤により感光体が汚染される。その結果、帯電後の光照射プロセスによって感光体の表面に静電潜像を形成する際に、汚染された領域では電荷が残存し、形成画像に白抜けまたは濃度の薄い領域が生じてしまう。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みて成されたものであり、その目的は、ゴム部材の表面を少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって硬化処理した帯電ローラにおいて、高温高湿度環境で長期保存しても、イオン導電剤の染み出しを防止できる帯電ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る帯電ローラは、像担持体と当接するゴム層が導電性支持体上に形成されてなる帯電ローラであって、上記ゴム層は、導電剤が添加されていないゴム基材に少なくともイオン導電剤を添加して成形した導電剤添加ゴム層の表面を、少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって、上記導電剤添加ゴム層と上記像担持体との当接部における動摩擦係数が0.4以下となるように硬化処理して得られるものであることを特徴とする。
【0010】
帯電ローラからのイオン導電剤の染み出しは、導電剤添加ゴム層に対する硬化処理が充分に行われていないために発生する。ここで、硬化処理の進行度合は、処理時間のみならず、処理温度や溶剤の濃度などにも依存する。また、最適な処理時間や処理温度についても、ローラの大きさ(熱容量)によって異なる。従って、導電剤添加ゴム層の硬化処理が充分に行われているか否かを処理時間のみに基づいて判定することはできない。
【0011】
本願発明者は、鋭意検討の結果、導電剤添加ゴム層の硬化処理の進行度合が、ゴム層(導電剤添加ゴム層)と像担持体との当接部における動摩擦係数と密接に相関することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
硬化処理が充分に行われていない場合、導電剤添加ゴム層の表面が充分に硬化していないため、上記当接部における動摩擦係数は上昇する。また、ミクロな視点から見ても、硬化処理が充分に進行していない状況では、動摩擦係数の大きなゴム層が露出する領域が数多く存在するため、上記当接部における動摩擦係数は上昇する。従って、上記当接部における動摩擦係数に基づいて、導電剤添加ゴム層の硬化処理の進行度合を知ることができるのである。
【0013】
ここで、本発明の上記構成によれば、導電剤添加ゴム層に対する硬化処理は、当接部における動摩擦係数が0.4以下になるまで行われるので、後述する実施例に示すように、導電剤添加ゴム層は充分に硬化する。その結果、帯電ローラを高温高湿度環境で長期保存しても、ゴム層からのイオン導電剤の染み出しを防止することができる。
【0014】
なお、上記ゴム層は、導電剤添加ゴム層の表面を、導電剤添加ゴム層と上記像担持体との当接部における動摩擦係数が0.27以上0.4以下となるように硬化処理して得られるものであることが好ましい。
【0015】
後述する実施例に示すように、ゴム層と像担持体との間の動摩擦係数が小さくなりすぎると、帯電ローラが像担持体に対してスリップするおそれがある。しかしながら、上記構成によれば、ゴム層と像担持体との間の動摩擦係数が0.27以上と充分に大きいため、この帯電ローラを用いて画像形成を行う際に、帯電ローラが像担持体に対してスリップするのを防止できる。
【0016】
また、上記帯電ローラは、上記帯電ローラのゴム層と上記像担持体との当接部の面圧が3.5g/mm以下であることが好ましい。
【0017】
イオン導電剤の染み出しを左右する要因として、帯電ローラのゴム層と像担持体との当接部における面圧も挙げられる。すなわち、当接部における面圧が高ければ、ゴム層からのイオン導電剤の染み出しが起こりやすくなる一方、当接部における面圧が低ければ、ゴム層からイオン導電剤が染み出しにくくなる。
【0018】
ここで、上記構成によれば、当接部における面圧が3.5g/mm以下となっているため、後述する実施例に示すように、充分に面圧が低く、イオン導電剤の染み出しを確実に防止することができる。
【0019】
また、本発明に係るプロセスカートリッジは、上記像担持体と上記帯電ローラとを備えていることを特徴とする。また、本発明に係る画像形成装置も、上記像担持体と上記帯電ローラとを備えていることを特徴とする。
【0020】
なお、上記画像形成装置は、上記像担持体に接触して潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段をさらに備えていることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、潤滑剤塗布手段によって像担持体に潤滑剤が塗布されるので、イオン導電剤が帯電ローラのゴム層から染み出して像担持体に付着しても、強固に固着することがないため、この潤滑剤塗布手段やクリーニング手段等によって像担持体に付着したイオン導電剤を除去することもできる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る帯電ローラは、導電剤が添加されていないゴム基材に少なくともイオン導電剤を添加して成形した導電剤添加ゴム層を、少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって、当該導電剤添加ゴム層と上記像担持体との当接部における動摩擦係数が0.4以下となるまで硬化処理して得られるゴム層を備えた構成となっている。
【0023】
従って、上述したように、高温高湿度環境で長期保存しても、イオン導電剤の染み出しを防止できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔実施形態〕
本発明の一実施形態について図1から図7に基づいて説明すると以下の通りである。
【0025】
まず、図2に基づいて、本実施形態の画像形成装置10の要部構成を説明する。なお、図2は、画像形成装置10を正面側から見た縦断面図である。
【0026】
図2に示すように、画像形成装置10は、用紙上に画像データに応じた画像を電子写真方式によって形成するものである。画像形成装置10は、感光体(像担持体)1を備え、その周囲に、周知のカールソンプロセスを実施するための構成である、帯電ローラ2、露光ユニット3、現像ユニット4、転写ユニット5、定着ユニット6、及びクリーニングユニット7を備えている。
【0027】
感光体1はドラム形状をなし、図示しない筐体に回転可能に軸支されている。感光体1は、アルミニウム材などの支持体の表面にOPC(Organic Photoconductor:有機光導電体)等からなる感光層を形成したものである。ただし、感光体1として、このドラム形状の感光体の代わりに、ベルト状の感光体を用いることもできる。
【0028】
帯電ローラ2は、感光体1の表面に接触して、感光体1の表面を所望の電位に均一に帯電させるものであり、ローラ形状になっている。そして、この帯電ローラ2は、図示しない筐体に回転可能に軸支されている。帯電ローラ2の詳細な構成については後述する。
【0029】
露光ユニット3は、発光素子をアレイ状に並べたELD(electro luminescent display)やLED(light emitting diode)などの書込みヘッド、あるいは、レーザ照射部と反射ミラーとを備えたレーザスキャニングユニット(LSU)である。露光ユニット3は、外部から入力される画像データに応じて感光体1を露光することにより、感光体1上に、画像データに応じた静電潜像を形成する機能を有している。
【0030】
現像ユニット4は、感光体1の表面に形成された静電潜像をトナーによって顕像化(現像)し、トナー像を形成するものである。転写ユニット5は、複数のローラに張架された回転する無端ベルトを有している。転写ユニット5では、この無端ベルトに感光体1からトナー像が転写され、転写されたトナー像をさらに用紙に転写することにより、用紙にトナー像が形成される。
【0031】
定着ユニット6は、トナー像が転写された用紙を紙面の両側から加熱されたローラによって圧接することにより、用紙にトナー像を定着させるものである。
【0032】
クリーニングユニット7は、トナー像を転写した後の感光体1の表面を清掃するものである。クリーニングユニット7には、潤滑剤7a、ブラシローラ7b、およびブレード7cが備わっており、これらの部材がケース7dにより覆われている。
【0033】
ブレード7cは、感光体1の表面に残留するトナーを回収するためのものであり、感光体1の軸方向を長手方向とする長尺状のゴム部材によって形成されている。ブレード7cは、一方の長辺がケース7dに設けられた開口部における感光体1の回転方向下流側に取り付けられ、他方の長辺のエッジ(角)が感光体1の表面に接触するよう配置されている。
【0034】
潤滑剤7aは、ブラシローラ7bによって感光体1の表面に塗布されるものであり、感光体1の長さと同じ長さ(幅)を長手方向に有した直方体の固形形状となっている。この潤滑剤7aは、潤滑剤保持部材によって保持されており、摩滅して残量が少なくなった場合は交換可能になっている。
【0035】
潤滑剤7aには、例えば、金属石鹸として知られている脂肪酸金属塩またはフッ素樹脂などを用いることができる。脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート)、ステアリン酸銅、ステアリン酸鉄、パルチミン酸マグネシウム、オレイン酸亜鉛、パルチミン酸カルシウム、オレイン酸マンガン、またはオレイン酸鉛等の、比較的長鎖の脂肪酸の金属塩を挙げることができる。
【0036】
ブラシローラ7bは、感光体1と略同じ長さ(幅)を有した筒型形状のブラシであるとともに、感光体1の表面にブラシの毛の先が当たるように、感光体1と互いの軸が平行になるように配置されている。そして、ブラシローラ7bは、感光体1の回転方向と逆方向に回転駆動され、これにより、両者は当接部において互いに同じ向きに摺動するようになっている。
【0037】
感光体1のブラシローラ7bとの当接部位は、転写部位よりも感光体1の回転方向下流側となっており、トナー像を転写した後の感光体1の表面とブラシローラ7bとが当接するようになっている。ブラシローラ7bは、感光体1との当接部位よりもブラシの回転方向上流側に配された潤滑剤7aを掻き取るとともに、掻き取った潤滑剤を感光体1の表面に塗布する。
【0038】
このように、ブラシローラ7bは、感光体1の表面に潤滑剤7aの微粒子を塗布することにより、ブレード7cと感光体1の表面との間の摩擦力が低減し、また、感光体1の表面へのトナーの付着力が弱くなる。その結果、ブレード7cによる除去が効率よく行われるようになると同時に、感光体1の磨耗が抑制される。
【0039】
なお、本実施形態の画像形成装置において、感光体1および帯電ローラ2は着脱可能に設けられていてもよい。すなわち、少なくとも感光体1および帯電ローラ2を、プロセスカートリッジ(プロセス装置)として一体的に構成し、このプロセスカートリッジを画像形成装置に装着することにより、上述した画像形成装置を実現してもよい。
【0040】
次に、感光体1の構成について詳述する。本実施形態において、感光体1は、図3に示すようにドラム形状であり、支持体41と、その表面に形成された感光層44とからなっている。
【0041】
支持体41は、感光層44を支持するためのものであり、(a)アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼、チタンなどの金属材料、(b)ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリオキシメチレン、もしくはポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙、またはガラスなどの表面に、金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、炭素粒子、もしくは金属粒子などの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどを用いることができる。
【0042】
感光層44は、OPC(Organic Photoconductor:有機光導電体)等からなり、図3に示すように、支持体41の表面側から順に、電荷発生層45、電荷輸送層46が積層されたものである。電荷発生層45は、光照射を受けて電荷を発生させるものである。この電荷発生層45は、図4に示すように、光を吸収することにより電荷を発生させる電荷発生材料(CGM)42と、この電荷発生材料42を結着させるバインダ樹脂48とを含んでいる。
【0043】
一方、電荷輸送層46は、電荷発生層45で発生した電荷を受け入れて、感光体1表面に輸送するものである。この電荷輸送層46は、図4に示すように、電荷を輸送する電荷輸送材料(CTM)43と、この電荷輸送材料43を結着させるバインダ樹脂47とを含んでいる。
【0044】
これにより、感光層44が光照射によって露光されると、露光された領域では電荷発生層45から電荷が発生し、発生した電荷が電荷輸送層46によって感光層44の表面に輸送される。その結果、感光層44の表面電荷が中和されて、静電潜像が形成される。
【0045】
上記の電荷発生材料42としては、400〜800nmの波長の光で電荷を発生させる物質が望ましい。具体的には、ビスアゾ化合物、トリスアゾ化合物などのアゾ化合物;フタロシアニン化合物;スクエアリウム化合物;アズレニウム化合物;ペリレン系化合物;インジゴ化合物;キナクリドン化合物;多環キノン化合物;シアニン色素;キサンテン染料;ポリ−N−ビニルカルバゾール、トリニトロフルオレノンなどの電荷移動錯体;などが挙げられ、また、必要に応じてこれらを2種以上混合したものであってもよい。なお、電荷発生層45における電荷発生材料42の含有率は、重量基準で20〜80%であることが好ましい。
【0046】
一方、上記の電荷輸送材料43としては、例えば、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾ−ル誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルビレン、またはポリ−9−ビニルアントラセンなどを用いることができ、必要に応じてこれらを2種以上混合したものであってもよい。なお、電荷輸送層46における電荷輸送材料43の含有率は、重量基準で20〜80%であることが好ましい。
【0047】
上記のバインダ樹脂47・48としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂などの各種樹脂、および、これらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などからなる群から選ばれる1種が単独でまたは2種以上が混合されて使用される。また、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性の共重合体樹脂であってもよい。
【0048】
感光体1は、上記の支持体41上に、電荷発生材料42、バインダ樹脂48、およびそれらの溶媒となる有機溶剤を含む電荷発生層液を浸漬塗布し、有機溶剤を蒸発させて電荷発生層45を形成した後、さらに、電荷輸送材料43、バインダ樹脂47およびそれらの溶媒となる有機溶剤を含む電荷輸送層液を浸漬塗布し、有機溶剤を蒸発させて電荷輸送層46を形成することにより、製造することができる。
【0049】
次に、帯電ローラ2の構成について詳述する。本実施形態において、帯電ローラ2は、図1に示すようにローラ形状であり、円柱状の芯金21と、その周面上に形成されたゴム層22とからなっている。ここで、ゴム層22は、表面処理が施された処理領域23と、表面処理が施されていない非処理領域24とを含み、ゴム層22において、処理領域23は表層側、そして、非処理領域24は芯金21側となっている。
【0050】
上記の芯金21としては、例えば、ステンレス(SUS)などの導電性金属を棒状に成形したものを用いることができる。この芯金21には、感光体1を帯電させるための直流定電圧が印加される。
【0051】
また、芯金21の周囲のゴム層22は、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、およびエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体から選択される1種または2種以上のブレンドからなるエピクロルヒドリン系ゴムを基材とする組成物によって形成されている。
【0052】
なお、本実施形態のゴム層22は、上述したエピクロルヒドリン系ゴム基材にイオン導電剤が添加されたものである。この導電剤の添加により、ゴム層22の抵抗値を所望の値に調節することができる。ゴム基材に添加するイオン導電剤としては、例えば、Li,Na,K,CaもしくはMgなどの金属のアンモニア錯塩または過塩素酸塩、あるいは、三フッ化酢酸ナトリウムまたは4級アンモニウム塩などを用いることができる。また、ゴム層22は、上述したゴム基材および各種導電剤に加え、さらにカーボンブラックなどの電子導電剤、加硫促進剤および架橋剤を含有していてもよい。
【0053】
そして、上記の各種添加剤を含有するゴム基材に対して表面処理液を塗布して含浸させ、その後加熱することによって、ゴム層22に処理領域23が形成される。なお、表面処理液の塗布方法としては、スプレー塗装やディッピング塗装など、一般的な塗布方法が適用可能である。一方、表面処理液が含浸しなかったゴム層22の内側部分は、非処理領域24となる。なお、処理領域23と非処理領域24とは、明確な境界を有しているわけではない。この表面処理により、イオン導電剤などがゴム層22から染み出して感光体を汚染してしまうのを防止することができる。
【0054】
上記の表面処理液としては、イソシアネート化合物に、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマーおよびカーボンブラックなどの導電剤を添加したものを用いることができる。上記のイソシアネート化合物としては、例えば、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)および前記記載の多量体および変性体などが挙げられる。
【0055】
また、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーには、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものを用いることができる。具体的には、アクリルフッ素系ポリマーは、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有し溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等が挙げられる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等が挙げられる。
【0056】
かかる帯電ローラ2において注目すべきは、ゴム層22の表面処理が充分に行われている点である。高温高湿環境下における帯電ローラ2からのイオン導電剤の染み出しは、帯電ローラの表面処理が不十分な場合に発生する。この帯電ローラの表面処理の進行度合を左右するパラメータとしては、表面処理液の濃度、ならびに表面処理液を塗布した後の焼成処理における焼成温度および焼成時間などが挙げられる。
【0057】
本実施形態の帯電ローラ2においては、上記の各パラメータによって左右される表面処理の進行度合を、帯電ローラ2のゴム層22の表面と感光体1の表面との当接部(ニップ部)における動摩擦係数に基づいて判定する。本実施形態の帯電ローラ2では、ゴム層22の表面と感光体1の表面との当接部における動摩擦係数が0.40以下となるような条件で表面処理を行う。換言すれば、本実施形態の帯電ローラ2は、ゴム層22の表面と感光体1の表面との当接部における動摩擦係数が0.40以下となるまで、表面処理を行っている。
【0058】
後述する実施例に示すように、表面処理の進行度合は、上述した様々なパラメータの影響を受けるが、動摩擦係数が0.40以下になるまで表面処理を行えば、充分に表面処理が行われていることになり、高温高湿環境下で長期保存しても、ゴム層22からイオン導電剤が染み出すことがない。
【0059】
また、イオン導電剤の染み出しを防止するためには、帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧をあまり高くしないことも重要である。具体的には、後述する実施例に示すように、当接部の面圧を3.5g/mm以下にすることが好ましい。これにより、高温高湿環境下で長期保存した際のイオン導電剤の染み出しを確実に防止することができる。
【0060】
なお、帯電ローラ2と感光体1との当接部における面圧は、直接測定することはできないものの、以下の方法によって算出することができる。本明細書において、「面圧」とは、以下の方法よって算出される値をいうものとする。なお、以下の数式において、『^』はべき乗を表し、『exp(A)』はe(自然対数の底)のA乗を表す。
【0061】
図5は、面圧を求める手順を示した図である。まず、帯電ローラ2から感光体1に対して加えられる総荷重G(kgf)、および、帯電ローラ2と感光体1のうち短い方のローラ長L(cm)から、単位長あたりの荷重Wを、次の式(1)
W=G/L …(1)
を用いて算出する。
【0062】
次に、帯電ローラ2のゴム層22の表面の硬度Sから、ヤングモジュラスEを求める。gentの式によって表される硬度SとヤングモジュラスEの関係は、一般には図6のグラフのようになる。本願では、硬度の指標として、JIS−A規格の硬度を用いることとする。そして、このJIS−A規格における硬度S(°)から、ヤングモジュラスE(kg/cm)を、次の近似式(2)
E=2.8764×exp(0.0458×S) …(2)
を用いて算出する。
【0063】
次に、感光体1の直径D1(cm)および帯電ローラ2の直径D2(cm)から、パラメータDの値を、次の式(3)
1/D=1/D1+1/D2 …(3)
を用いて算出する。
【0064】
次に、単位長あたりの荷重W、パラメータDおよびヤングモジュラスEから、半ニップ幅h0を、次の式(4)
h0={1.5×(W×D)/(π×E)}^0.5 …(4)
を用いて算出する。
【0065】
次に、帯電ローラ2のゴム層22の厚みb(cm)から、半ニップ幅h0を補正するための補正係数h/h0を求める。ここで、h/h0と、h0/bとの関係は、一般には図7のグラフによって表される。本願では、h/h0を、次の近似式(5)
h/h0=−0.002×(h0/b)^3+0.0402×(h0/b)^2−0.289×(h0/b)+1.0586 …(5)
を用いて算出する。
【0066】
そして、求めた補正係数h/h0から、補正された半ニップ幅hを、次の式(6)
h=(h/h0)×h0 …(6)
を用いて算出する。
【0067】
次に、補正された半ニップ幅hから、ニップ幅h’を、次の式(7)
h’=2×h …(7)
を用いて算出する。
【0068】
最後に、総荷重G、ローラ長Lおよびニップ幅h’から、面圧M(g/cm)を、次の式(8)
M=1000×G/(L×h’) …(8)
を用いて算出する。
【0069】
以上のように、(1)〜(8)の式を用いることによって、総荷重G(kgf)、ローラ長L(cm)、帯電ローラ2のゴム層22の表面の硬度S(°)、感光体1の直径D1(cm)、帯電ローラ21の直径D2(cm)および帯電ローラ2のゴム層22の厚みb(cm)から、面圧M(g/cm)を求めることができる。
【0070】
ところで、上述したように、本実施形態の画像形成装置10のクリーニングユニット7には、ブラシローラ7bが備わっている。このブラシローラ7bは、周面が潤滑剤7aおよび感光体1と摺擦することにより、潤滑剤7aを感光体1に塗布している。ここで、ブラシローラ7bは、感光体1に潤滑剤7aを塗布する機能に加えて、帯電ローラ2のゴム層22から染み出して感光体1に付着したイオン導電剤などを除去する機能も有している。
【0071】
以上のように、本実施形態の帯電ローラ2は、芯金21(導電性支持体)上にゴム層22が形成されてなる帯電ローラである。この帯電ローラ2は、少なくともイオン導電剤が添加されたゴム基材を芯金21(導電性支持体)上に導電剤含有ゴム層として形成するゴム層形成工程(ゴム層形成工程)と、このゴム層形成工程(ゴム層形成工程)において形成した導電剤含有ゴム層の表面を、少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって硬化処理する硬化処理工程とを含んだ方法によって製造することができる。ここで注目すべきは、上記硬化処理を、ゴム層22の表面と感光体1(像担持体)の表面との当接部における動摩擦係数が0.40以下となるような条件で行う点である。
【0072】
〔実施例〕
次に、本発明の有効性を検証するために行った実施例について説明する。
【0073】
(実験1)
本実験では、イオン導電剤を含む上述したゴム層22に対して様々な条件で表面処理を行ったときに、ゴム層22からイオン導電剤の染み出すことにより、感光体1の汚染が生じるか否かについて調べた。そして、この感光体1の汚染と動摩擦係数との関係を明らかにした。さらに、帯電ローラ2のゴム層22と感光体1の感光層44との当接部における動摩擦係数と帯電ローラ2のスリップとの関係についても調べた。
【0074】
まず、以下の実施例および比較例に共通の構成について説明する。本実験では、直径8mmのSUS棒を芯金21とし、ゴム層22のゴム基材としてエピクロルヒドリンゴムを用いた。そして、このゴム基材にカーボンブラックを主成分とする電子導電剤および過塩素酸リチウムを主成分とするイオン導電剤を練り込むことにより、イオン導電剤を含有するゴム層22を芯金21上に成型し、疑似帯電ローラ12を作製した。そして、疑似帯電ローラ12のゴム層22の表面に対して研磨加工を行い、ゴム層22の外径を21mmとした。
【0075】
続いて、この疑似帯電ローラ12に対して、イソシアネート化合物、アクリルフッ素系ポリマーおよびアクリルシリコーン系ポリマーを含む表面処理液を吹き付けて含浸させ、焼成処理することにより、疑似帯電ローラ12の表面処理を行い、帯電ローラ2を作製した。以下の実施例および比較例では、焼成処理における焼成温度および焼成時間、ならびに表面処理液の濃度をそれぞれ3段階の中から選択して適宜組み合わせた。
【0076】
一方、感光体1の支持体41には、表面粗さ(JIS B 0601−1982の最大高さ)Rmaxが3μmで、直径が80mmのアルミニウム管を用いた。感光体1の電荷発生層45の材料となる電荷発生層液として、
・Y型オキソチタニルフタロシアニン(SYNTEC製、電荷発生物質)…1重量部
・ポリビニルブチラール(積水化学工業社製、商品名:エスレックBMS、バインダ樹脂)…1重量部
・メチルエチルケトン(有機溶剤)…98重量部
を含むものを調製した。
【0077】
また電荷輸送層46の材料となる電荷輸送層液として、
・次の構造式で表されるスチリル系化合物(電荷輸送物質)…100重量部
【0078】
【化1】

【0079】
・ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、商品名:C1400、粘度平均分子量:38,000、バインダ樹脂)…100重量部
・メチルエチルケトン(有機溶剤)…800重量部
・シリコーンオイル(東レダウコーニング・シリコーン社製、商品名:SH200、添加剤)…0.02重量部
を含むものを調製した。そして、上記の支持体41にそれぞれの層液を浸漬塗布し、有機溶剤を蒸発させることにより感光層44を形成した。
【0080】
そして、このようにして作製した帯電ローラ2および感光体1を、当接部の面圧が3.5g/mmとなるように当接させ、室温35℃、湿度80%の高温高湿条件下で14日間放置した。その後、感光体1の表面にイオン導電剤による汚染が発生しているか否かを判定するために、この感光体1をシャープ(株)製デジタル複合機AR−705Sに組み込み、A3サイズの用紙にハーフトーン画像を全面に形成した印字サンプルを3枚出力し、各サンプルに感光体汚染に起因する画像欠陥(白抜け或いは濃度の薄い領域)が存在するかどうかを確認した。なお、感光体1を放置するにあたっては、感光体1にステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を予め塗布した後に帯電ローラ2を当接させたもの、並びに潤滑剤を塗布せずに帯電ローラ2を当接させたものの2種類の条件にて実施した。
【0081】
また、表面処理後でかつ放置前の帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は、次のようにモデルを作製して測定した。まず、表面処理後の帯電ローラ2の表面に対して、上述した感光体1と同一の感光層をPETフィルムシートに塗布してなる幅10mmのシート材を用意し、このシート材を感光層面が帯電ローラ2の表面と接触するように配置した。そして、シート材の上から100gの分銅で加重することによりシート材の感光層を帯電ローラ2に押し当て、この状態でシート材を引っ張り、ヘイドン社の摩擦係数測定機(商品名:Heidon-14)を用いて動摩擦係数を測定した。このモデルで測定した動摩擦係数の値を、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数とした。なお、上記の測定の際に、感光層の表面には潤滑剤を塗布していない。
【0082】
続いて、感光体汚染に起因する画像欠陥を調べるために感光体1に当接させて放置した上記の帯電ローラ2を、シャープ(株)製デジタル複合機AR−705Sを接触帯電方式に改造した改造機に組み込み、A3サイズの用紙にハーフトーン画像を全面に形成した印字サンプルを3枚出力し、各サンプルに帯電ローラのスリップに起因する画像欠陥が存在するかどうかを確認した。なお、この改造機に用いられている感光体は、上述した方法で作製したものである。
【0083】
(実施例1−1)
上述した焼成処理における焼成温度を、「高」・「標準」・「低」からなる3段階のうちの「高」とした。焼成時間は、「長」・「標準」・「短」からなる3段階のうちの「長」とした。表面処理液の濃度は、「高」・「標準」・「低」からなる3段階のうちの「高」とした。
【0084】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布した感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.25であった。
【0085】
しかしながら、この帯電ローラ2を改造機に組み込んで印字を行うと、黒筋状の画像欠陥が顕著に見られた。これは、帯電ローラ2のスリップが著しかったためと考えられる。
【0086】
(実施例1−2)
焼成温度を「高」、焼成時間を「長」、表面処理液の濃度を「高」とした。
【0087】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.25であった。
【0088】
しかしながら、この帯電ローラ2を用いて印字を行うと、黒筋状の画像欠陥が僅かに見られた。これは、僅かではあるが帯電ローラ2のスリップが生じたためと考えられる。
【0089】
(実施例1−3)
焼成温度を「高」、焼成時間を「長」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0090】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.27であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0091】
(実施例1−4)
焼成温度を「標準」、焼成時間を「長」、表面処理液の濃度を「高」とした。
【0092】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.3であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0093】
(実施例1−5)
焼成温度を「標準」、焼成時間を「標準」、表面処理液の濃度を「高」とした。
【0094】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.31であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0095】
(実施例1−6)
焼成温度を「高」、焼成時間を「標準」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0096】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.33であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0097】
(実施例1−7)
焼成温度を「標準」、焼成時間を「長」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0098】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.35であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0099】
(実施例1−8)
焼成温度を「標準」、焼成時間を「標準」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0100】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.39であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0101】
(実施例1−9)
焼成温度を「低」、焼成時間を「標準」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0102】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.4であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0103】
(実施例1−10)
焼成温度を「標準」、焼成時間を「短」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0104】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布した感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。また、帯電ローラ2と潤滑剤を塗布する前の感光体1との間の動摩擦係数は0.42であった。さらに、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0105】
(比較例1−1)
焼成温度を「標準」、焼成時間を「短」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0106】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥が1枚目まで見られたが、2枚目以降では消えた。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.42であった。ここで、画像欠陥が1枚目まで見られ、2枚目以降では消えたのは、イオン導電剤による感光体汚染があったものの、僅かであったため、クリーニングブレードなどにより掻き取られたからと考えられる。一方、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0107】
(比較例1−2)
焼成温度を「低」、焼成時間を「短」、表面処理液の濃度を「標準」とした。
【0108】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られた。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.45であった。ここで、画像欠陥が3枚目まで見られたのは、イオン導電剤による感光体汚染の程度が著しかったためと考えられる。一方、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0109】
(比較例1−3)
焼成温度を「低」、焼成時間を「標準」、表面処理液の濃度を「低」とした。
【0110】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られた。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.47であった。一方、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0111】
(比較例1−4)
焼成温度を「低」、焼成時間を「短」、表面処理液の濃度を「低」とした。
【0112】
上記の条件で表面処理を行った帯電ローラ2を、潤滑剤を塗布していない感光体1と当接させて長期保存した結果、感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られた。また、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は0.49であった。一方、この帯電ローラ2を用いて印字を行っても、帯電ローラ2のスリップに起因する画像欠陥は見られなかった。
【0113】
上記の結果をまとめたものを次の表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
ただし、上記の表1中の感光体汚染の項目において、「○」は感光体汚染による画像欠陥が1枚目から見られなかったことを示し、「△」は感光体汚染による画像欠陥が1枚目或いは2枚目まで見られ、それ以降消えたことを示し、「×」は感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られたことを示す。なお、感光体に付着したイオン導電剤は、感光体の回転に従ってクリーニングブレードによって掻き取られるため、枚数を重ねるごとに、画像欠陥は薄くなっていく。従って、「○」は感光体汚染が発生していないこと、「△」は感光体汚染が少し発生していること、そして「×」は感光体汚染が著しく発生していることを示唆している。
【0116】
同様に、上記の表1中のスリップの項目において、「○」は帯電ローラのスリップによる黒筋状の画像欠陥が見られなかったことを示し、「△」は帯電ローラのスリップによる黒筋状の画像欠陥がわずかに発生したことを示し、「×」は帯電ローラのスリップによる黒筋状の画像欠陥が顕著に発生したことを示す。
【0117】
本実験から、表面処理に用いる表面処理液の濃度ならびに焼成時の焼成温度および焼成時間を様々に変化させても、動摩擦係数が0.4以下となるような処理条件であれば、帯電ローラ2のゴム層22からのイオン導電剤の染み出しを防止できることが明らかとなった。
【0118】
また、実施例1−10と比較例1−1との結果から、感光体1に潤滑剤が塗布されていれば、感光体汚染が改善されることが明らかとなった。この理由としては、イオン導電剤が帯電ローラの抵抗層から染み出して像担持体に付着しても、間に潤滑剤が介在するため、感光体に対し、強固に固着することがない。その結果、画像形成前の前回転により、潤滑剤塗布手段やクリーニング手段等によって像担持体に付着したイオン導電剤が簡単に除去されることから、イオン導電剤の付着による画像欠陥は発生しない。
【0119】
一方、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数が小さくなりすぎると、黒筋状の画像欠陥が生じるおそれがあることが分かった。これは、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦力が小さいと、帯電ローラ2が感光体1に対して微小にスリップし、帯電ムラが発生したためと考えられる。このことから、帯電ローラ2と感光体1との間の動摩擦係数は、0.27以上にすることが好ましいといえる。
【0120】
さらに、実施例1−1と実施例1−2との結果から、帯電ローラ2を感光体1と当接させて高温高湿環境下で放置する際に、潤滑剤の塗布された感光体1と当接させると、放置されている間に帯電ローラ2の動摩擦係数が小さくなる方向に働き、スリップしやすくなることが分かった。それゆえ、動摩擦係数を0.27以上にすることは、感光体1に潤滑剤が塗布される画像形成装置において特に重要といえる。
【0121】
(実験2)
次に、表面処理を行ったゴム層22を有する帯電ローラ2を様々な面圧条件下で感光体1と当接させ、その状態で長期保存を行ったときに、ゴム層22からイオン導電剤の染み出すことにより、感光体1の汚染が生じるか否かについて調べた。
【0122】
本実験では、実験1と同じ帯電ローラ2および感光体1を用いた。なお、帯電ローラ2のゴム層22の表面処理を行う際の焼成温度、焼成時間および表面処理液の濃度は、何れも上述の「標準」とした。
【0123】
そして、このようにして作製した帯電ローラ2および感光体1を、当接部の面圧が3.5g/mmとなるように当接させ、室温35℃、湿度80%の高温高湿条件下で14日間放置した。その後、感光体1の表面にイオン導電剤による汚染が発生しているか否かを判定するために、この感光体1をシャープ(株)製デジタル複合機AR−705Sに組み込み、A3サイズの用紙にハーフトーン画像を全面に形成した印字サンプルを3枚出力し、各サンプルに感光体汚染に起因する画像欠陥(白抜け或いは濃度の薄い領域)が存在するかどうかを確認した。
【0124】
(実施例2−1)
帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧を2.8g/mmとした。その結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。
【0125】
(実施例2−2)
帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧を3.5g/mmとした。その結果、感光体汚染による画像欠陥は1枚目から見られなかった。
【0126】
(比較例2−1)
帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧を4.0g/mmとした。その結果、感光体汚染による画像欠陥が1枚目まで見られたが、2枚目以降では消えた。
【0127】
(比較例2−2)
帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧を4.5g/mmとした。その結果、感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られた。
【0128】
(比較例2−3)
帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧を5.0g/mmとした。その結果、感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られた。
【0129】
上記の各条件および結果をまとめたものを次の表2に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
ただし、上記の表2中において、「○」は感光体汚染による画像欠陥が1枚目から見られなかったことを示し、「△」は感光体汚染による画像欠陥が1枚目或いは2枚目まで見られ、それ以降消えたことを示し、「×」は感光体汚染による画像欠陥が3枚目まで見られたことを示す。
【0132】
本実験から、帯電ローラ2と感光体1との当接部の面圧を3.5g/mm以下にすれば、帯電ローラ2のゴム層22からのイオン導電剤の染み出しを確実に防止できることが明らかとなった。
【0133】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0134】
また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、ゴム部材の表面を少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって硬化処理した帯電ローラにおいて、高温高湿度環境で長期保存しても、イオン導電剤の染み出しを防止できる。よって、本発明は、電子写真方式の画像形成装置に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、帯電ローラの構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであり、画像形成装置の全体構造を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであり、感光体の構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態を示すものであり、感光体の内部構造を示す断面図である。
【図5】面圧の算出手順を示すフロー図である。
【図6】硬度とヤングモジュラスとの関係を示す図である。
【図7】肉厚とニップ幅の補正係数との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0137】
1 感光体(像担持体)
2 帯電ローラ
3 露光ユニット
4 現像ユニット
5 転写ユニット
6 定着ユニット
7 クリーニングユニット
7a 潤滑剤
7b ブラシローラ(潤滑剤供給手段)
7c ブレード
7d ケース
21 芯金(導電性支持体)
22 ゴム層
23 処理領域
24 非処理領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体と当接するゴム層が導電性支持体上に形成されてなる帯電ローラであって、
上記ゴム層は、導電剤が添加されていないゴム基材に少なくともイオン導電剤を添加して成形した導電剤添加ゴム層の表面を、少なくともイソシアネート化合物を含む溶剤によって、導電剤添加ゴム層と上記像担持体との当接部における動摩擦係数が0.4以下となるように硬化処理して得られるものであることを特徴とする帯電ローラ。
【請求項2】
上記ゴム層は、導電剤添加ゴム層の表面を、導電剤添加ゴム層と上記像担持体との当接部における動摩擦係数が0.27以上0.4以下となるように硬化処理して得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の帯電ローラ。
【請求項3】
上記帯電ローラのゴム層と上記像担持体との当接部の面圧が3.5g/mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の帯電ローラ。
【請求項4】
請求項1に記載の帯電ローラと上記像担持体とを備えていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1に記載の帯電ローラと上記像担持体とを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
上記像担持体に接触して潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布手段をさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−316602(P2007−316602A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71578(P2007−71578)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】