説明

帯電性に基づくガラス板の評価方法、それを用いたガラス板の製造方法、その評価に用いる装置

【課題】ガラス板についての帯電性の評価精度を向上させる。
【解決手段】ガラス板を載置台に対して載置するステップと離間するステップとを含む剥離サイクルを、少なくとも、前記剥離サイクルの回数の増加に伴う前記表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返して実施し、i)剥離サイクルを、ガラス板の表面電位が飽和帯電電位に達するまで、さらに繰り返して実施し、当該飽和帯電電位の絶対値が基準値Aよりも小さい場合、またはii)表面電位の絶対値の増加が持続する期間にわたる表面電位の絶対値の増加量を、当該期間内に実施される剥離サイクルの回数で除算することによって得られる値が基準値Bよりも小さい場合、ガラス板の帯電性が低いと評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電性に基づくガラス板の評価方法、それを用いたガラス板の製造方法、その評価に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイといったフラットパネルディスプレイ(FPD)の基板として、ガラス板が使用されている。FPDの製造工程には、搬送装置や加工装置のテーブルにガラス板を載置したりテーブルから持ち上げたりする工程があり、これによるテーブルとガラス板との接触、剥離に伴って、絶縁体であるガラス板には静電気が蓄積されていく。ガラス板の帯電量が過大になると、基板に形成される電子回路等に障害(静電破壊)が発生しやすくなる。このため、テーブルとの接触、剥離によって静電気が蓄積されにくい、帯電性の低いガラス板が求められている。帯電性が低いガラス板を開発するために、あるいは製造したガラス板が帯電性についての所定の規格に合格しているかを確認するために、ガラス板の帯電性を正確に評価する必要がある。
【0003】
特開2005−255478号公報には、テーブルとの接触および剥離に起因する帯電が生じにくいガラス板に関する発明が開示されており、その段落[0027]〜[0037]において、テーブルとガラス板との接触、剥離を5回繰り返し、剥離後の最大帯電量を5回分積算し、その結果に基づきガラス板の帯電性を評価したと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−255478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特開2005−255478号公報に記載されているような従来型の評価方法では、ガラス板の帯電性を適切に評価できない場合があることに気付いた。こうした不具合は、テーブルとの接触および剥離の操作を実施する以前からガラス板に存在し得る表面電位(初期電位)に起因する可能性がある。ガラス板を除電処理するための器具としてイオナイザ等が知られているが、こうした器具による除電処理を念入りに施しても、ガラス板の初期電位を完全に除去することは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、載置台にガラス板を載置する載置ステップと、前記ガラス板を前記載置台から離間させる離間ステップと、を含む剥離サイクルを繰り返して実施し、前記剥離サイクルを繰り返しながら測定される前記ガラス板の表面電位に基づき、ガラス板を評価する、ガラス板の評価方法であって、前記剥離サイクルを、少なくとも、前記剥離サイクルの回数の増加に伴う前記表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返して実施し、i)前記剥離サイクルを、前記ガラス板の前記表面電位が飽和帯電電位に達するまで、さらに繰り返して実施し、当該飽和帯電電位の絶対値が基準値Aよりも小さいガラス板を、帯電性の低いガラス板として評価する、またはii)前記表面電位の絶対値の増加が持続する期間にわたる前記表面電位の絶対値の増加量を、当該期間内に実施される前記剥離サイクルの回数で除算することによって得られる値が、基準値Bよりも小さいガラス板を、帯電性の低いガラス板として評価する、ガラス板の評価方法を提供する。
【0007】
本明細書において、「表面電位の絶対値の増加が持続する」状態とは、ガラス板の表面電位の絶対値が、所定回数の剥離サイクルにわたって連続して増加する状態、より具体的には、第n−1回目の剥離サイクルにおける表面電位の絶対値よりも第n回目の剥離サイクルにおける表面電位の絶対値が大きくなる関係(ただし、nは整数)が、少なくとも50回、好ましくは100回以上の剥離サイクルにわたって持続する状態を意味する。また、本明細書において、ガラス板の飽和帯電電位とは、剥離サイクルの回数を増加しても、ガラス板の表面電位が実質的に一定になるときの当該表面電位を意味し、より具体的には、少なくとも50回の剥離サイクルにおける表面電位の平均値に対する、当該少なくとも50回の剥離サイクルにおける表面電位の揺らぎが−50V以上50V以下の範囲にあるときの当該平均値を意味する。
【0008】
また、本発明は、別の側面から、溶融したガラス原料から複数のガラス板を成形する工程と、上記の評価方法を用いることによって前記複数のガラス板の帯電性を評価する工程とを備えた、帯電性の低いガラス板の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、さらに別の側面から、ガラス板の帯電性を評価するための評価装置であって、ガラス板を載置するための載置台と、前記載置台に対し前記ガラス板を載置および離間させる昇降部と、前記ガラス板の表面電位を測定する測定部と、前記昇降部による前記ガラス板の載置および離間ならびに前記測定部による前記表面電位の測定を制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記測定部に前記表面電位を測定させながら、少なくとも、前記載置台に対して前記ガラス板を載置および離間する操作を含む剥離サイクルが、前記剥離サイクルの回数の増加に伴う前記表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返されるように、前記昇降部を制御し、ガラス板の帯電性を評価するための基準データとの比較に使用すべきデータを、前記表面電位に基づき算出する演算部、をさらに備え、i)前記制御部が、前記測定部に前記表面電位を測定させながら、前記表面電位が飽和帯電電位に達するまで前記剥離サイクルがさらに繰り返されるように、前記昇降部を制御し、前記演算部が、前記データとして、前記飽和帯電電位の絶対値を算出する、またはii)前記演算部が、前記データとして、前記表面電位の絶対値の増加が持続する期間にわたる前記表面電位の絶対値の増加量を、当該期間内に実施される前記剥離サイクルの回数で除算することによって得られる値を算出する、評価装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、載置台に対してガラス板を載置するステップと離間するステップとを含む剥離サイクルを、少なくとも、剥離サイクルの回数の増加に伴うガラス板の表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返して実施することとした。剥離サイクルを上記程度にまで繰り返すことで、帯電性の評価に適用可能であり初期電位に依存しない物理量を測定できるため、ガラス板の帯電性を従来よりも正確に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるガラス板の評価装置の構成を説明するための概念図である。
【図2】図1の装置における載置台付近の構造を示す断面図である。
【図3】図1の装置におけるガラス板の昇降動作を説明するための図である。
【図4】サンプルAにおける剥離サイクル数と表面電位との関係を示すグラフである。
【図5】サンプルBにおける剥離サイクル数と表面電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明による評価装置の構成を説明するための概念図であり、図2はこの評価装置100における載置台10付近の構造を示す断面図であり、図3は評価装置100におけるガラス板200の昇降動作を説明するための図である。評価装置100は、図1に示すように、ガラス板200を載せるための載置台10、昇降部11、測定部12、制御部13、演算部14および表示部15を備えている。
【0013】
昇降部11は、図2に示すように、上下動可能な昇降軸16と、昇降軸16の上端に取り付けられた昇降プレート17と、ガラス板200に向けて(図2において上方向に)突出するように昇降プレート17の上面に配置された複数本のリフターピン18とを有している。ガラス板200は、載置台10に載置された状態から、昇降部11によって、載置台10から上方へと持ち上げられ、その後、下降して載置台10に再び載置される。昇降軸16の上下動は、制御部13によって制御される。載置台10の盤部分19には貫通孔20が形成されており、昇降プレート17が載置台10の盤部分19に接近するように昇降軸16を移動させると、リフターピン18の上端が貫通孔20内を移動して盤部分19から突出する。
【0014】
ガラス板200を載置台10から離間する離間ステップが実施されると、盤部分19からのガラス板200の剥離に付随して、ガラス板200に静電気が発生する。ガラス板200を載置台10に載置する載置ステップと、離間ステップと、からなる剥離サイクルを繰り返し実施することによって、ガラス板200に静電気が蓄積される。
【0015】
載置台10の盤部分19はアルミニウムに代表される金属によって形成されており、盤部分19のガラス板200に接触する表面には、アルマイト加工に代表される絶縁加工が施されている。リフターピン18は、アルミニウムに代表される金属によって形成されており、ガラス板200に接触すべき上端部分が、樹脂に代表される絶縁材料によって覆われている。載置台10の盤部分19には吸引孔(図示せず)が形成されており、盤部分19は、当該吸引孔を介して載置台10にガラス板200を吸引固定するための吸引プレートとしても機能する。
【0016】
測定部12は、図1に示すように、ガラス板200の表面電位を測定するための測定プローブ12’を有している。測定プローブ12’は、図2に示すように、ガラス板200の表面21から所定距離(距離d)だけ離れた位置に配置されている。測定部12は、昇降部11の昇降プレート17にアーム30を介して固定されている。これにより、図3に示すように、昇降プレート17の昇降に付随して測定プローブ12’が載置台10の盤部分19に対して昇降するため、剥離サイクルが実施される間も、ガラス板200の表面21と測定プローブ12’との間の距離dが一定に保たれる。測定プローブ12’を介して測定されるガラス板200の表面電位の測定値は距離dに依存して変動し得るが、本発明の評価装置100では、上記のとおり距離dが一定に保たれるため、こうした変動に起因する測定不良の発生を回避できる。
【0017】
制御部13は、ガラス板200の表面電位を測定部12に測定させながら、ガラス板200の剥離サイクルが、少なくとも、剥離サイクルの回数の増加に伴う表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返されるように、昇降部11の動作を制御する。制御部13は、載置台10からガラス板200が離間された後に、より具体的には、ガラス板200が載置台10から離間された後であって次の剥離サイクルによって載置台10に載置されるまでに、ガラス板200の表面電位が測定されるように測定部12の動作を制御する。測定部12による表面電位の測定(測定ステップ)は、剥離サイクル毎に少なくとも1回実施されるように制御することが好ましいが、所定の回数の剥離サイクル毎に実施されるように制御してもよい。制御部13は、ガラス板200の表面電位が飽和帯電電位に達するまで剥離サイクルが繰り返されるように、昇降部11の動作を制御することもできる。
【0018】
測定部12によって測定されたガラス板200の表面電位は、制御部13を介して演算部14に入力される。演算部14は、剥離サイクルを繰り返し実施した後のガラス板の表面電位に基づき、ガラス板の帯電性を評価するための基準データとの比較に使用すべき、i)ガラス板200の飽和帯電電位の絶対値、およびii)表面電位の絶対値の増加が持続する期間にわたる表面電位の絶対値の増加量を、当該期間内に実施される剥離サイクルの回数で除算することによって得られる値(表面電位の絶対値の変化率)、の少なくとも一方を算出する。飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率は、初期電位に依存しない物理量である。なお、表面電位の絶対値の変化率は、50回以上離れて実施された2つの剥離サイクルにおける表面電位の絶対値に基づき、算出されることになる。この程度にまで離れた2つの剥離サイクルにおける表面電位の絶対値を基準にすることで、表面電位の測定値に混入し得るノイズの影響をほとんど無視できる。
【0019】
演算部14によって算出された飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率は、制御部13を介して表示部15に入力される。評価装置100の使用者は、表示部15に表示された飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を、対応する基準データの値と比較することによって、ガラス板200の帯電性を評価できる。より具体的には、飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率が、対応する基準データの値よりも小さいときに帯電性が低いと評価する。飽和帯電電位の絶対値に対応する基準データである基準値Aは、ガラス板の用途に応じて設定すればよく、例えば、FPDの基板としてガラス板を適用する場合、2500Vに設定することができる。表面電位の絶対値の変化率に対応する基準データである基準値Bは、ガラス板の用途および剥離サイクルの実施条件に応じて設定すればよく、例えば、FPDの基板としてガラス板を適用し、後述する実施例に示すように評価装置100を使用して剥離サイクルを実施する場合、8Vに設定することができる。
【0020】
本発明による評価装置は、飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を、対応する基準データと比較することによって、ガラス板200の帯電性を評価する評価部をさらに備え、演算部14から制御部13を介して飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率が評価部に入力され、帯電性の評価についての信号が制御部13を介して表示部15に入力され、評価結果が表示部15の画面に表示される態様とすることもできる。評価装置が評価部を備える場合、帯電性の評価に使用する基準データとして、基準値Aおよび基準値Bの少なくとも一方を使用者が選択できる状態にあることが望ましい。
【0021】
本発明によるガラス板の評価方法につき、評価装置100を用いて実施する場合を例にして説明する。まず、評価対象のガラス板を載置台10に載置し、吸引孔を介して盤部分19に吸引固定する。ガラス板200は、載置台10に載置した直後に公知のイオナイザを用いて除電処理することが好ましい。なお、除電処理を実施する場合、最初にガラス板200を載置台10に載置したときにのみ実施する。
【0022】
次に、吸引固定を停止した状態で、昇降部11を駆動させ、リフターピン18の上端で支持させながらガラス板200を載置台10から上方へと持ち上げる。その後、昇降部11を下降させてガラス板200を載置台10に再び載置し、吸引孔を介してガラス板200を載置台10に吸引固定する。載置台10に対するガラス板200の載置ステップと離間ステップとからなる剥離サイクルを、測定ステップを実施しながら、少なくとも剥離サイクルの回数の増加に伴う表面電位の絶対値の増加が持続していくまで、場合によっては、ガラス板200の表面電位が飽和帯電電位に達するまで、繰り返す。そして、各測定ステップで得たガラス板200の表面電位に基づき、飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を測定部14に算出させる。
【0023】
ガラス板200が初期電位を有した状態にあると、剥離サイクルの初期においてガラス板200から測定される表面電位の絶対値が安定して増加せず、この結果、剥離サイクルの初期の表面電位を指標にすると、ガラス板の帯電性を適切に評価できないことがある。しかし、剥離サイクルを上記程度にまで繰り返すことによって、初期電位に依存しない物理量である、飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を特定できる。ガラス板200から得られる飽和帯電電位の絶対値は、ガラス板200の組成および表面粗さ(Ra)によって定まる、ガラス板200に固有の値であり、初期電位によっては変動しない。そして、ガラス板200から得られる表面電位の絶対値の変化率は、ガラス板200と評価装置100との組合せ、より具体的には、ガラス板200の組成および表面粗さと、載置台10の盤部分19の表面粗さ(Ra)および構成材料ならびに剥離サイクルにおける剥離速度等との組合せによって定まる値であり、やはり初期電位によっては変動しない。このため、飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を指標にすることで、初期電位の有無にかかわらず、ガラス板200の帯電性を適切に評価できる。ガラス板200の帯電性は、飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を、対応する基準データと比較することによって評価する。
【0024】
なお、ガラス板の製造工程においては、種々の工程で表面電位が発生し得る。例えば、熔解したガラス原料を板状に成形した後にローラーコンベア等で運搬する工程における、ガラス板とローラーとの接触、剥離によるローラーとガラス板表面との摩擦によって、表面電位が発生し得る。また例えば、ガラス板を洗浄し乾燥する工程における、気流とガラス板表面との摩擦によって、表面電位が発生し得る。
【0025】
評価対象のガラス板は、溶融したガラス原料を成形することによって独自に準備してもよいし、市販品を入手することによって準備してもよい。
【0026】
なお、以上では、本発明による評価装置を用いてガラス板を評価する態様について説明したが、本発明による評価方法は、例えば、演算部14を備えない装置を使用し、演算部14による飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率の算出に代えて、測定した表面電位を数値データとして装置外に出力させ、当該数値データに基づき飽和帯電電位の絶対値および表面電位の絶対値の変化率を、装置の使用者が算出する態様としても構わない。
【0027】
本発明によれば、溶融したガラス原料から複数のガラス板を成形する工程と、上記の評価方法によって当該複数のガラス板の帯電性を評価する工程とを備えて、ガラス板を製造することもできる。これにより、成形したガラス板が帯電性についての所定の規格に合格しているかを確認したり、成形した複数のガラス板から当該規格に合格しているものを選別したりすることができるため、帯電性の低いガラス板をより確実に提供できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
質量%で表示して、SiO2:60.9、B23:11.6、Al23:16.9、MgO:1.7、CaO:5.1、SrO:2.6、BaO:0.7、K2O:0.25、Fe23:0.15、SnO2:0.13、の組成を有し、表面粗さ(Ra)が0.2nmと0.5nmである2種類のガラス板(680mm×880mm、厚さ0.7mm)を用意した。以降の説明では、これらガラス板のうち、表面粗さが0.2nmである方をサンプルA、表面粗さが0.5nmである方をサンプルBと呼ぶ。なお、サンプルBは、サンプルAに比べて帯電性が低いことが確認されている。
【0030】
サンプルAは、耐火煉瓦製の熔解槽と白金製の調整槽とを備えた連続熔解装置を用いて原料バッチを、1580℃で熔解し、1650℃で清澄させ、1500℃で撹拌した状態でダウンドロー法によって薄板状に成形した後、所定のサイズに切り出し、表面を洗浄することによって得た。サンプルBは、フッ酸を含有するガラスエッチング液にガラス板を120秒以下の範囲で浸積することによって表面を粗面化する工程を実施した後に、ガラス板の表面を洗浄したこと以外は、サンプルAと同様にして得た。ガラス板の表面粗さおよび後述する載置台の盤部分の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡を用いて測定した。
【0031】
クラス1000の清浄度を有するクリーンルーム内に本発明による評価装置100を設置し、サンプルAおよびサンプルBの帯電性を上記のようにして検査した。載置台10の盤部分19の表面粗さ(Ra)は、1.6mmであった。クリーンルーム内の雰囲気は、温度を20℃に相対湿度を50%に制御した。測定プローブとしてはTREAK社製542−1を使用した。測定プローブとガラス板との距離dは25mmに設定した。ガラス板を載置台から持ち上げる距離を50mmに設定した。除電処理は、公知のイオナイザ(株式会社キーエンス製SJ−H060)を使用し、除電処理をそれ以上続けてもガラス板の表面電位の絶対値が減少しなくなるまで実施した。剥離サイクルは、載置台から50mm持ち上げられた位置にあるガラス板を、リフターピンを下降させて載置台に載置するまでの時間を3秒間、ガラス板を載置台に吸引固定する時間を3秒間、吸引を停止してガラス板をアライメントする時間を2秒間、リフターピンを上昇させてガラス板を載置台から50mm離れた位置まで持ち上げる時間を7秒間、上昇後にガラス板をアライメントする時間を2秒間に設定して実施した。なお、ガラス板のアライメントとは、リフターピンの上昇および下降操作に起因するガラス板の位置ズレを調整する操作である。ガラス板の表面電位は2.95秒毎に測定し、ガラス板が載置台から離間された後であって次の剥離サイクルによって載置台に載置されるまでの間に取得されたデータのうち0Vからの相違が最大のものを、各剥離サイクルにおける表面電位として抽出した。
【0032】
図4、図5は、サンプルAとサンプルBにおける、剥離サイクルの繰り返しに付随する表面電位の変動を示すグラフである。図4、図5に示すように、いずれのサンプルにおいても、剥離サイクルの繰り返しの初期段階(例えば、剥離サイクルを5〜10回繰り返した程度)では、初期電位に起因して、表面電位の絶対値が安定して増加しなかった。しかし、いずれのサンプルにおいても、剥離サイクルをさらに繰り返していくと、繰り返し回数が25回を超えた頃から表面電位の絶対値がほぼ直線的に増加した。
【0033】
サンプルAの飽和帯電電位の絶対値は7134Vであり、サンプルBの飽和帯電電位の絶対値は2322Vであった。サンプルAおよびサンプルBの飽和帯電電位の絶対値は、ガラス板の表面電位の絶対値の増加が持続しなくなった直後の所定期間にわたって実施された剥離サイクルにおける表面電位の絶対値の平均値として、より具体的には、サンプルAについては第377回目から第428回目までの剥離サイクル、また、サンプルBについては第351回目から第403回目までの剥離サイクル、における表面電位の絶対値の平均値として算出した。当該期間の剥離サイクルにおける表面電位の揺らぎは−50V以上50V以下の範囲にあった。第119回目と第237回目の剥離サイクルにおける表面電位は、サンプルAでは−2540Vと−5005Vであり、サンプルBでは−855Vと−1565Vであった。これらデータに基づき表面電位の絶対値の変化率を算出したところ、サンプルAでは20.9Vであり、サンプルBでは6.0Vであった。
【0034】
このように、帯電しにくいガラス板であるサンプルBは、表面電位の絶対値の変化率が8V未満の範囲にあり、飽和帯電電位の絶対値が2500V未満の範囲にあった。
【符号の説明】
【0035】
10 載置台
11 昇降部
12 測定部
12’ 測定プローブ
13 制御部
14 演算部
15 表示部
16 昇降軸
17 昇降プレート
18 リフターピン
19 載置台の盤部分
20 貫通孔
21 ガラス板における載置台と反対側の表面
30 アーム
100 ガラス板の評価装置
200 ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置台にガラス板を載置する載置ステップと、前記ガラス板を前記載置台から離間させる離間ステップと、を含む剥離サイクルを繰り返して実施し、前記剥離サイクルを繰り返しながら測定される前記ガラス板の表面電位に基づき、ガラス板を評価する、ガラス板の評価方法であって、
前記剥離サイクルを、少なくとも、前記剥離サイクルの回数の増加に伴う前記表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返して実施し、
i)前記剥離サイクルを、前記ガラス板の前記表面電位が飽和帯電電位に達するまで、さらに繰り返して実施し、当該飽和帯電電位の絶対値が基準値Aよりも小さいガラス板を、帯電性の低いガラス板として評価する、または
ii)前記表面電位の絶対値の増加が持続する期間にわたる前記表面電位の絶対値の増加量を、当該期間内に実施される前記剥離サイクルの回数で除算することによって得られる値が、基準値Bよりも小さいガラス板を、帯電性の低いガラス板として評価する、
ガラス板の評価方法。
【請求項2】
溶融したガラス原料から複数のガラス板を成形する工程と、請求項1に記載の評価方法によって前記複数のガラス板の帯電性を評価する工程とを備えた、ガラス板の製造方法。
【請求項3】
ガラス板の帯電性を評価するための評価装置であって、
ガラス板を載置するための載置台と、前記載置台に対し前記ガラス板を載置および離間させる昇降部と、前記ガラス板の表面電位を測定する測定部と、前記昇降部による前記ガラス板の載置および離間ならびに前記測定部による前記表面電位の測定を制御する制御部と、を備え、
前記制御部が、前記測定部に前記表面電位を測定させながら、少なくとも、前記載置台に対して前記ガラス板を載置および離間する操作を含む剥離サイクルが、前記剥離サイクルの回数の増加に伴う前記表面電位の絶対値の増加が持続するまで、繰り返されるように、前記昇降部を制御し、
ガラス板の帯電性を評価するための基準データとの比較に使用すべきデータを、前記表面電位に基づき算出する演算部、をさらに備え、
i)前記制御部が、前記測定部に前記表面電位を測定させながら、前記表面電位が飽和帯電電位に達するまで前記剥離サイクルがさらに繰り返されるように、前記昇降部を制御し、前記演算部が、前記データとして、前記飽和帯電電位の絶対値を算出する、または
ii)前記演算部が、前記データとして、前記表面電位の絶対値の増加が持続する期間にわたる前記表面電位の絶対値の増加量を、当該期間内に実施される前記剥離サイクルの回数で除算することによって得られる値を算出する、
評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−243381(P2010−243381A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93638(P2009−93638)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】