説明

帯電特性の調整方法

【課題】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物に対する対象物の帯電を抑える方法は、対象物に対して一つの組成しか選ぶことができず、他の物性が制限される。本発明は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物の帯電特性を調整する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物に加熱処理を加えることにより、帯電特性を正極側に移動することを見出した。即ち本発明は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物の帯電特性を調整する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の帯電特性を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にIC、LED等の電子部品や食品等の内容物が、その包装容器と接触及び/又は摩擦すると静電気が発生する。前記の内容物にこのような静電気による帯電が発生すると、IC等の高集積回路を有するものでは、その回路の破壊を生じたり、又該内容物が重量の軽い電子機器部品であったり食品であると,該包装容器にこれらの内容物が貼り付いたりするトラブルを生じる。また、液晶ディスプレーの表面には製造段階において保護するために表面保護シート、フィルムが貼着されているが、最後に剥離するときに静電気による帯電が発生する。このような静電気による帯電が発生すると、ゴミを偏光板の表面に付着して外観不良となるだけでなく、異常表示が発生したり、液晶表示装置の誤作動及びTFT駆動素子の静電破壊を引き起こしたりすることがある。
【0003】
このような静電気による帯電を防止する手段として、該包装体の表面を、帯電防止剤や導電材でコートする方法や、該包装容器に各種の帯電防止剤、カーボンブラック及び/又は炭素繊維等を練り込み、導電性を付与する方法が行われている。しかしながら、これらの方法では、該包装容器の帯電電荷を逃がし帯電を低減することはできても,該内容物の静電気による帯電そのものを抑制することは困難であった。それに対して、帯電特性の異なるフッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を用いて、静電気の発生そのものを抑制することにより静電気による帯電を防止する方法が提案されている(例えば特許文献1,2,3を参照)。
【特許文献1】特開2003−020097号公報
【特許文献2】特開2004−346142号公報
【特許文献3】特開2005−146132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物に対する対象物の帯電を抑える方法は、対象物に対して一つの組成しか選ぶことができず、他の物性が制限される。本発明は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物の帯電特性を調整する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物に加熱処理を加えることにより、帯電特性が正極側に移動する(正に帯電し易くなる)ことを見出した。即ち本発明は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物の帯電特性を調整する方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法を実施することにより、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物に対する対象物の帯電を抑制することができる。以下、本発明に関し、シート、フィルム又は包装容器を例に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
フッ化ビニリデン系重合体とはフッ化ビニリデンを主成分として重合してなる重合体であって、単独重合体および共重合体であり、これらの単独重合体および共重合体のブレンド物も含むものである。共重合体としては、例えばフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体等が挙げられる。
【0008】
アクリル酸エステル系重合体とはアクリル酸エステル系モノマーを主成分として重合してなる重合体であり、その単独重合体および共重合体であり、これらの単独重合体および共重合体のブレンド物も含むものである。アクリル酸エステル系モノマーとしては例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等があり本発明ではクロトン酸エステルも含まれる。これらのアクリル酸エステル系モノマーを一種類以上併用することもできる。アクリル酸エステル系重合体としてはメチルメタクリレート重合体がフッ化ビニリデン系重合体と任意の比率でブレンド可能であり好ましい。アクリル酸エステル系重合体は衝撃に対する強度を持たせるため、アクリル系ゴムとのブレンド物であっても良い。
【0009】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体のブレンド方法として、ヘンシェルやタンブラーにより機械的に混合した後、二軸押出機により溶融混練する方法など一般的な手法を用いることが可能であり、その方法には特に限定されない。
【0010】
シート、フィルム又は包装容器に対する加熱処理の温度としては、例えば、70〜170℃、好ましくは100〜150℃、加熱処理の時間としては、例えば、6〜120時間、好ましくは、12〜48時間という範囲を例示することができる。
【0011】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体のブレンド比率については、特に限定しないが、フッ化ビニリデン系重合体の比率が50〜90質量部で、加熱処理の効果をより有効に発現することができる。
【0012】
シート、フィルム又は包装容器の帯電特性を定量化する手法として、その対象物と接触及び/又は摩擦する方法がある。図1に示す様に、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含むシート、フィルムを表面に設置した傾斜面を作り、斜面上部より対象物を滑落させ、その対象物をファラデーケージに収集することにより、対象物に発生した静電気による帯電電荷量を電荷量測定器(ナノクーロンメーター等)により計測する方法である。対象物の帯電電荷量が少ないほど、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含むシート、フィルムと対象物の帯電特性が近いことになる。
【0013】
包装容器とは部品を包装する容器を意味する。部品は特に限定されないが本発明の調整法で処理したシート、フィルム又は包装容器は電子部品包装容器として好適に使用することができる。電子部品包装容器としては例えばマガジン、キャリアテープ、トレイ、バッグ、コンテナ等がある。これらは射出成形、或いはシートをプレス成形法、真空成形法、圧空成形法等公知の方法によりキャリアテープ、トレイ等の電子部品包装容器の形状に成形して得ることができ、また異形押出によりマガジン形状を得ることができる。更には、インフレーション法、ダイスからの溶融押出法によりフィルムを作製し、このフィルムを熱融着、或いは接着剤により袋状物を形成することによりバッグを作成することも可能である。これらの包装容器は主に電子部品の収納、保管や、運搬をするときに使用したり、又はこれらの部品を実装する際に使用することが出来る。
【0014】
電子部品としては特に限定されず、例えば、IC、抵抗、コンデンサ、インダクタ、トランジスタ、ダイオード、LED(発光ダイオード)、液晶、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー等がある。ICの形式にも特に限定されず、例えばSOP、HEMT、SQFP、BGA、CSP、SOJ、QFP、PLCC等がある。静電気に敏感なIC、LED、液晶等に対し特に本発明の調整法で処理した包装容器を好適に用いることが出来る。
【0015】
シート、フィルム又は包装容器には表面抵抗値で10〜1012Ωの導電性を付与することも可能である。これは包装容器の表面に発生した静電気の除去に効果がある。付与の方法は特に限定されないが、例えば重合体に対しスチール繊維、アルミニウム繊維、真鍮繊維、銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維、導電性酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、カーボン繊維、ニッケルなどの金属により表面被覆処理したカーボン繊維、カーボンブラック、黒鉛粉末、金属被覆したガラス繊維等の電子伝導性物質を添加する方法や、非イオン系、カチオン系、アニオン系、ベタイン系の界面活性剤や、更には高分子量ポリエーテルアミド系等の永久帯電防止剤等のイオン電導性物質を添加する方法等がある。あるいは表面にカーボン微粉末を塗布したり、ポリピロール等の高分子系導電材を塗工処理したりすることにより、導電性を付与することも可能である。
【0016】
シート、フィルム又は包装容器の表面には帯電防止剤を塗工する事も可能であり、発生した静電気の除去に効果がある。帯電防止剤としては特に限定されず、例えば非イオン系、カチオン系、アニオン系、ベタイン系の一般的な帯電防止剤を用いることができる。これらの塗布方法として例えばグラビアコーティング法、ロールコーティング法により、成形前のシートに塗布したり、あるいはディップコーティング法、噴霧法等公知の方法が使用したり出来る。また必要に応じて塗布面にコロナ放電処理を行ったり、別のコーティング剤でプライマー処理を行ったりすることも出来る。
【0017】
シート、フィルム又は包装容器には目的を損なわない範囲で、タルク、マイカ、シリカやアルミナ、チタン酸カリウムウィスカー、酸化カルシウム等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ等の無機充填材を添加することが出来る。また補強材、発泡剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、カップリング剤、難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐熱安定剤、着色剤を配合することも可能である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。尚、除電操作及び帯電電荷量測定は、以下の記述の通り行った。
除電操作:シート、フィルム及び帯電電荷量測定用試験片(汎用ポリスチレン樹脂直方体10mm×10mm×3mm)は、帯電電荷量測定の直前にイオナイザー(SIMCO社AEROSTAT PC)によりイオン化エアーを吹き付けて帯電電荷を除去した。
帯電電荷量測定:シート、フィルムを図1に示す装置に水平面とのなす角が30度になる傾斜面に設置した後に、シート、フィルムに対して上記除電操作を行う。同様に除電操作を行った帯電電荷量測定用試験片を、シート、フィルム面上を滑落させる(滑落距離30cm)。滑落後の帯電電荷量測定用試験片をファラデーケージに収集し、発生した静電気による帯電電荷量をナノクーロンメーター(Electro-Tech System社製)により測定した。
【0019】
(実施例1)
フッ化ビニリデン系重合体(ソルベイソレクシス社製 商品名:ソルベイMP−10)75質量部と、アクリル酸エステル系重合体としてポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製 商品名:アクリペットG):25質量部とをヘンシェルミキサーにてブレンドし、池貝社二軸押出機にて溶融混練押出しコンパウンドを作成した。このコンパウンドを単軸押出機にて再び溶融混練し、Tダイにより0.5mm厚のシートを作成した。このシートを、120℃の送風乾燥機内にて24時間加熱処理を加えた。加熱処理したシートについて帯電電荷量測定を行ったところ、帯電電荷量測定用試験片の帯電電荷量は−0.10ナノクーロンであった。すなわち、シートの帯電電荷量は0.10ナノクーロンであった。
【0020】
(実施例2)
フッ化ビニリデン系重合体(ソルベイソレクシス社製 商品名:ソルベイMP−10)75質量部と、アクリル酸エステル系重合体としてポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製 商品名:アクリペットG):25質量部を実施例1と同様の方法にて溶融混練しコンパウンドとした後、これを再び溶融混練し、Tダイにより100μm厚みのフィルムを作成した。このフィルムに導電性アクリル系粘着剤(綜研化学社製 商品名:SKダイン535D)100質量部に対して硬化剤(総研化学社製 商品名:硬化剤M−5)2.1質量部を混合した粘着性溶液をバーコーターにて塗布して粘着フィルムを作成した。100℃で1分間乾燥した後の粘着層の厚みは約10μmであった。この粘着フィルムを、120℃の送風乾燥機内にて24時間加熱処理を加えた。加熱処理を行った粘着フィルムは、樹脂原料としてメチルメタクリレート樹脂(三菱レイヨン社製 商品名:アクリペットMF)を使用し射出成形した樹脂板に貼り付け、更にこの樹脂板を粘着フィルム面が上になるように傾斜面に設置して、帯電電荷量測定を行ったところ、帯電電荷量測定用試験片の帯電電荷量は−0.12ナノクーロンであった。すなわち、フィルムの帯電電荷量は0.12ナノクーロンであった。
【0021】
(比較例1)
実施例1の比較として、作製したシートを加熱処理せずに、実施例1と同様にして帯電電荷量測定を行ったところ、帯電電荷量測定用試験片の帯電電荷量は1.60ナノクーロンであった。すなわち、シートの帯電電荷量は−1.60ナノクーロンであった。
【0022】
(比較例2)
実施例2の比較として、作製した粘着フィルムを加熱処理せずに、実施例2と同様にして帯電電荷量測定を行ったところ、帯電電荷量測定用試験片の帯電電荷量は1.80ナノクーロンであった。すなわち、フィルムの帯電電荷量は−1.80ナノクーロンであった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】シート、フィルムに対する対象物の帯電電荷量測定方法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0024】
1 傾斜面
2 シート、フィルム
3 帯電電荷量測定用試験片(又は対象物)
4 ファラデーケージ
5 ナノクーロンメーター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む樹脂組成物を70℃〜170℃、6〜120時間加熱することを特徴とする帯電特性調整方法。
【請求項2】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含むシート又はフィルムの請求項1記載の帯電特性調整方法。
【請求項3】
フッ化ビニリデン系重合体とアクリル酸エステル系重合体を含む包装容器の請求項1記載の帯電特性調整方法。
【請求項4】
帯電特性を正極側に移動させる請求項1〜3記載のいずれか1項記載の帯電特性調整方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−63513(P2007−63513A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254944(P2005−254944)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】