説明

帯電防止フィルム

【課題】低湿度下においても十分な帯電防止性を有し、優れた耐削れ性と滑り性を有する帯電防止フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムと、前記基材フィルム上の片面または両面に、帯電防止層を設けた帯電防止フィルムであって、前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物、およびπ電子共役系導電性高分子とを主たる構成成分とする帯電防止フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止フィルムに関するものであり、詳しくは、安定した帯電防止性を有し、かつ優れた滑り性と耐削れ性を有する帯電防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤の転写用フィルム、表面保護用の粘着フィルム、セラミックシート等を成型する際のキャリアーフィルムなどには、防埃性等の点から帯電防止性が要求される。一方、これらフィルムの基材としては、加工性や透明性の点から、ポリエステルフィルムやナイロンフィルムに代表される熱可塑性樹脂が良く用いられている。しかし、ポリエステル等の熱可塑性樹脂はバンドギャップが大きく一般的に絶縁性であるため、樹脂をそのままフィルムとして用いた場合、帯電防止性が全く無い。帯電防止性が無い場合、フィルム表面へ埃等が付着したり、帯電したフィルム同士が密着してハンドリング性に劣るという問題が有る。また、ロール状に巻き取ったフィルムを巻き出して用いる際にフィルムが帯電することで、静電気放電や電子回路等の破壊が発生する場合も有る。
【0003】
基材フィルムに帯電防止性を付与する方策として、カチオン性化合物などを利用したイオン伝導型の帯電防止層(特許文献1)や、導電性の金属化合物を含有する帯電防止層(特許文献2)を基材フィルム上に設けることが提案されている。さらに、帯電防止剤としてπ電子共役系導電性高分子を利用した帯電防止層が提案されている(特許文献3)。また、π電子共役系導電性高分子とシリコーン系グラフトポリマーとを含む塗料を塗布して形成される帯電防止層が開示されている(特許文献4〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-315373号公報
【特許文献2】特許第2801436号明細書
【特許文献3】特開2005-153250号公報
【特許文献4】特開2002-46393号公報
【特許文献5】特開2004-300443号公報
【特許文献6】特開2009-40969号公報
【特許文献7】特開2007-31712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、精密機器の精密化は精緻を極めており、僅かの静電気でも障害になりうる。そのため、表面保護フィルムとしても、より高い帯電防止性及びより安定した帯電防止性能が必要と考えられた。しかし、特許文献1、2のようなイオン伝導型の帯電防止層は湿度依存性が強く、低湿度下ではキャリヤである水分が減少するため、表面固有抵抗が上昇し、帯電防止性能が不十分となるという問題が有った。そのため、例えば精密機器の保護フィルムなど主として低湿度下で使用される用途では、安定的な帯電性を得ることは困難であった。また、導電性の金属化合物を含有する帯電防止層を設けた場合、湿度依存性は少ないものの、金属化合物の脱落等による帯電防止性能の低下や、工程汚染が発生するなどの問題が有った。
【0006】
一方、特許文献3のように帯電防止剤としてπ電子共役系導電性高分子を用いる場合は、π電子共役系導電性高分子は湿度依存性が低く、低湿度下でも安定的な帯電防止性を有する。しかし、近年、生産性の向上の点から後工程における加工速度が上昇している。そのため、高速での加工にも対応しうるように、帯電防止フィルムにおいても高度な易滑性が求められている。滑易性を付与する方法としては、帯電防止層上に離型層を設ける方法もあるが、π電子共役系導電性高分子を用いた帯電防止層は耐溶剤性が乏しいため、離型剤や樹脂溶液を塗工した際に帯電防止層が溶解して剥離困難になる場合があった。
【0007】
また、特許文献4〜6のようにπ電子共役系導電性高分子とシリコーン系グラフトポリマーとを含む帯電防止層の場合は、前記シリコーン系グラフトポリマーにより帯電防止層の滑り性は向上するものの、前記シリコーン系グラフトポリマーの架橋密度が十分得られない。そのため、加工速度の上昇に伴い、例えばフィルムがガイドロールを高速で通過する際に、帯電防止層の一部が削れ、帯電防止性能の低下や工程汚染が生じる問題があった。
【0008】
更に、特許文献7には、伝導性高分子樹脂、バインダー、架橋剤及びフッ素系シリカ分散組成物を特定の比率で配合して得られる帯電防止フィルムが開示されている。しかし、耐削れ性及び工程汚染防止という観点からは十分な検討はなされておらず、更なる改善が必要である。
【0009】
そこで、本発明は、低湿度下においても剥離帯電や摩擦帯電による静電気障害を克服するに十分な帯電防止性を有し、かつ滑り性と耐削れ性に優れる帯電防止フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するため、鋭意研究した結果、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合から形成されるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物と、π電子共役系導電性高分子とを含む帯電防止層において、顕著な帯電防止性に加え、高い滑り性と優れた耐削れ性を有することを見出すことにより、ついに本発明を完成するに到った。
即ち、上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0011】
基材フィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有する帯電防止フィルムであって、前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合から形成されるアクリル樹脂(A)と、イソシアネート化合物(B)と、π電子共役系導電性高分子(C)とを主たる構成成分とする、帯電防止フィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の帯電防止フィルムは、耐ブロッキング性に優れる帯電防止層を有する為、各種の転写フィルムやキャリアーフィルムとして加工性が良好である。また、帯電防止層がπ電子共役系導電性高分子を含有する為、低湿度下での帯電防止性にも優れ、工程中や剥離時の帯電によるゴミの付着等がなく、製品の歩留まりの向上に有効である。更には、帯電防止層が優れた滑り性を有する為、重送の抑制に優れている。加えて、本発明の帯電防止フィルムは、耐削れ性に優れるため、高速でのフィルム加工によって帯電防止性が低下することがなく、また塗布層の破損によって生じ得る工程汚染も抑制されるため、より効率的にフィルムの加工処理を行うことを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の帯電防止フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有する帯電防止フィルムであって、前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物と、π電子共役系導電性高分子とを主たる構成成分とすることを特徴とする。
(基材フィルム)
本発明の帯電防止フィルムにおける基材フィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルムが好適に用いられ、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂フィルム、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂フィルムなどが挙げられる。これらの内、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム(CPP、OPP)が好ましく、熱寸法安定性や機械的強度、さらには成形性や経済性の面から、特にポリエステル樹脂フィルムが好ましい。基材フィルムは、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0014】
本発明で用いる基材フィルムとして好適なポリエステル樹脂フィルムとは、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸又はそのエステルと、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどを用い、エステル化反応又はエステル交換反応を行い、次いで重縮合反応させて得たポリエステル樹脂からなるフィルムであり、好ましくは、係るポリエステル樹脂チップを乾燥後、押出機で溶融し、Tダイからシート状に押し出して得た未延伸シートを少なくとも1軸方向に延伸し、次いで熱固定処理、緩和処理を行うことにより製造されるフィルムである。
【0015】
前記基材フィルムは、強度等の点から、二軸延伸フィルムが特に好ましい。延伸方法としては、チューブラ延伸法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法等が挙げられるが、平面性、寸法安定性、厚みムラ等から逐次二軸延伸法が好ましい。逐次二軸延伸フィルムは、例えば、長手方向にポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)〜(Tg+30℃)で、2.0〜5.0倍に長手方向にロール延伸し、引き続き、テンターで予熱後120〜150℃で1.2〜5.0倍に幅方向に延伸することができる。さらに、二軸延伸後に220℃以上(融点−10℃)以下の温度で熱固定処理を行い、次いで幅方向に3〜8%緩和させることによって製造することができる。また、フィルムの長手方向の寸法安定性をさらに改善するために、縦弛緩処理を併用してもよい。
【0016】
基材フィルムには、ハンドリング性(例えば、巻取り性)を付与するために、粒子を含有させてフィルム表面に突起を形成させることが好ましい。フィルムに含有させる粒子としては、シリカ、カオリナイト、タルク、炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ等の無機粒子、アクリル、PMMA、ナイロン、ポリスチレン、ポリエステル、ベンゾグアナミン・ホルマリン縮合物等の耐熱性高分子粒子が挙げられる。透明性の点から、フィルム中の粒子の含有量は少ないことが好ましく、例えば1ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。また、フィルムには必要に応じて各種機能を付与するために、耐光剤(紫外線防止剤)、色素などを含有させてもよい。
【0017】
本発明で用いる基材フィルムは、単層フィルムであっても、表裏2種の層を積層したフィルムや、表層と中心層を積層した2層以上の複合フィルムであっても構わない。複合フィルムの場合、表層と中心層(もしくは裏層)の機能を独立して設計することができる利点がある。例えば、表層にのみ粒子を含有させて表面に凹凸を形成することでハンドリング性を維持しながら、中心層には粒子を実質上含有させないことで、複合フィルム全体として透明性をさらに向上させることができる。前記複合フィルムの製造方法は特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、表層と中心層の原料を別々の押出機から押出し、1つのダイスに導き未延伸シートを得た後、少なくとも1軸方向に配向させる、いわゆる共押出法による積層が特に好ましい。
【0018】
基材フィルムの厚みは、素材により異なるが、ポリエステル樹脂フィルムを用いる場合には、下限は10μm以上が好ましく、より好ましくは20μm以上である。一方、厚みの上限は400μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下、よりさらに好ましくは50μm以下である。厚みが薄い場合には、ハンドリング性が不良となるばかりか、帯電防止層を形成する際の乾燥により帯電防止フィルムに熱シワが発生して平面性が不良となりやすい。一方、厚みが厚い場合にはコスト面で問題があるだけでなく、ロール状に巻き取って保存した場合に巻き癖による平面性不良が発生しやすくなる。
【0019】
(帯電防止層)
本発明において、基材フィルムの少なくとも片面に、帯電防止層を設ける必要がある。帯電防止層は2層以上の複層であってもかまわないが生産性の観点から1層からなることが好ましい。本発明の好ましい実施形態としては、基材フィルムの片面または両面に帯電防止層を設けることであるが、本発明の効果を妨げない範囲で必要であれば、基材フィルムと帯電防止層との間、もしくは基材フィルムの反対面、あるいは帯電防止層上に、離型層や反射防止層、紫外線吸収層、粘着層などの機能層を設けることも可能である。また、基材フィルムと帯電防止層との間にアンカーコート層を設けることでより接着性の向上を図ってもよい。
【0020】
本発明における帯電防止層は、帯電防止剤およびバインダーを含む塗布液を塗布、乾燥して得られたものである。帯電防止剤としては、カチオン性化合物などのイオン伝導を利用した高分子や界面活性剤、導電性の金属化合物、π電子共役系導電性高分子などがあるが、本発明においては、低湿度下でも安定した帯電防止性を維持するという観点点及び耐電防止剤の粉落ちによる工程汚染の回避という観点からπ電子共役系導電性高分子を用いる。また、バインダーとしては各種樹脂が挙げられるが、本発明においては、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂を用いる。さらに、架橋剤としてはイソシアネート化合物を用いることを特徴とする。
【0021】
本発明において帯電防止層は、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物と、π電子共役系導電性高分子とを主たる構成成分とする。ここで「主たる構成成分」とは、帯電防止層中におけるアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物と、π電子共役系導電性高分子との合計含有量が50質量%以上であることをいい、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、本発明の帯電防止層の好ましい実施態様としては、当該帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物と、π電子共役系導電性高分子からなるもの、すなわち合計含有量100質量%である。帯電防止層中にアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂、イソシアネート化合物、およびπ電子共役系導電性高分子が少ない場合には、帯電防止性能や滑り性、および耐削れ性が低下する傾向がある。
【0022】
(アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A))
本発明における帯電防止層は、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂をバインダー樹脂といて含有し、イソシアネート化合物を架橋剤として含有する。本発明において、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂は、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合反応により、アクリル樹脂中におけるアクリル鎖の側鎖または片末端、もしくは両末端部位がシリコーン変性しているグラフト共重合体をいう。本発明のアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂が、かかるシリコーン変性部位を有していることは、具体的には核磁気共鳴分光法(NMR)という評価方法により判定する事が可能である(参照文献:高分子学会編「共重合」培風館、1975年6月20日、p147−208)。より具体的には、帯電防止層をNMRで測定し、化学シフトδ(ppm)が0.5〜0.7付近のピークを観察することで、アクリル主鎖の一部がシリコーン変性している事を確認することができる。
【0023】
上記のような構造を有するアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂を形成する方法しては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を主成分とするアクリルモノマーと、シリコーンの末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン系マクロモノマーを、ラジカル反応にてグラフト共重合させる方法等を挙げることができる。
【0024】
本発明のアクリル樹脂におけるアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの組成比としては、アクリル樹脂中シリコーン系マクロモノマー成分の含有量が1〜80質量%が好ましく、5〜70質量%がより好ましい。前記アクリル樹脂中において、シリコーン系マクロモノマーの含有率が1質量%以下である場合、前記アクリル樹脂の滑り性が十分に発現する事が困難となる可能性がある。また、前記アクリル樹脂中において、シリコーン系マクロモノマーの含有率が80質量%以上である場合、シリコーン部位の疎水性により、前記アクリル樹脂の水分散性が困難となる可能性がある。
【0025】
前記アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を主成分とする共重合体であって、通常それらの単量体と、および必要に応じてスチレン、ビニルトルエンまたは(メタ)アクリルアミドなどと共重合して得られる重合体を塩基で中和したものが使用される。また必要に応じて、水性化のために前記アクリル樹脂には、水酸基含有単量体が共重合物として用いられる。水酸基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸または無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどが挙げられる。
【0026】
前記アクリル樹脂には、硬化剤としてアミノ樹脂を使用することが好ましい。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの変性樹脂、例えば、アルキルエーテル化メラミン、アルキルエーテル化尿素樹脂、アルキルエーテル化ベンゾグアナミン等が挙げられる。硬化性の観点から、メチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン、メチルエーテル化ベンゾグアナミン、エチルエーテル化ベンゾグアナミンを用いる事が好ましい。
【0027】
本発明において、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂を形成させる好ましい実施態様としては、前記アクリル樹脂と前記アミノ樹脂を加熱させて縮合反応によって硬化膜を形成する。
【0028】
前記アクリル樹脂中の水酸基と前記アミノ樹脂中のアミノ基が、下記の式(1)に示すように、加熱による縮合反応によって熱縮合し、これらが連鎖的に反応して三次元構造をもつアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂を形成する。
【0029】
【化1】

【0030】
この反応は100℃以上の温度で十分に進行すると共に、反応副生成物はガス状となり、反応残渣がないという利点を有する。前記アクリル樹脂とアミノ樹脂の混合物を基材フィルム表面に塗布すると、上述から理解できるように、加熱による焼結エネルギーの影響を受けて縮合反応が進行し、基材フィルムと強固に結合したアクリル樹脂層の三次元構造を形成する。これにより高い密着性を有する帯電防止層を形成する。
【0031】
(イソシアネート化合物(B))
本発明において、イソシアネート化合物は、分子中に1個もしくは2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。イソシアネート化合物は他の架橋剤と比較し、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)の水酸基と反応することで架橋構造を好適に形成し塗膜の耐削れ性を向上させることができると考えられる。また、水系塗布液との溶解性も高く、高い透明性を有するフィルムを得るに適している。
【0032】
イソシアネート化合物の具体例としては、例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)系、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)系、XDI(キシリレンジイソシアネート)系、NDI(ナフチレン1,5−ジイソシアネート)系、TMXDI(テトラメチレンキシリレンジイソシアネート)系等の芳香族系イソシアネート、IPDI(イソホロンジイソシアネート)系、H12MDI(水添MDI、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)系、H6XDI(水添XDI)系等の脂環族系イソシアネート、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系、DDI(ダイマー酸ジイソシアネート)系、NBDI(ノルボルネン・ジイソシアネート)系等の脂肪族系イソシアネート等;TMI(m−イソプロピルーα―α―ジメチルベンジルイソシアネート)系、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタクリル酸2−(0―[1‘メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、1,1−ビス(アクリロイロキシメチル)エチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物がある。これらから成る群から選択される1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より高い耐削れ性を発揮するという観点から、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が好ましい。IPDI系やHDI系の脂環族系イソシアネート、脂肪族系イソシアネートは黄変が起こりにくいため好ましい。
【0033】
本発明におけるイソシアネート化合物には、塗液中での反応を抑制するためにブロック剤を混合させたものや、イソシアネート化合物を水溶液中に分散させた場合に、イソシアネート基が内部を向いて配置するように設計された構造を有するものを用いることもできる。ブロック剤としては例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類;チオフェノール、メチルチオフェノールなどのチオフェノール類;アセトンキシム、メチルエチケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類;t−ブタノール、t−ペンタノールなどの第3級アルコール類;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピルラクタムなどのラクタム類;芳香族アミン類;イミド類;アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物;メルカプタン類;イミン類;尿素類;ジアリール化合物類;重亜硫酸ソーダなどを挙げることができる。最低硬化温度(ブロック化剤の保護作用が低下し、硬化剤として有効に機能する温度)は200℃以下、特に150℃以下のものが好ましい。最低硬化温度が200℃を超えると、使用可能な適用可能なフィルム基材の選択肢を狭めてしまう場合がある。例えば、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)を使用する場合には、PETにかけることができる温度は180℃が限界であり、好ましくは150℃以下である。
【0034】
また、イソシアネート化合物として予めブロック剤で官能基をブロックした、ブロック化イソシアネート化合物を用いてもよい。ブロック化イソシアネート化合物は、低温での反応が抑制されるため、ハンドリング性や保存安定性等を向上させることができるため好ましい。ブロック化イソシアネート系化合物は上記イソシアネート化合物とブロック化剤とを公知の適宜の方法より付加反応させて調製し得る。イソシアネート基のブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類;チオフェノール、メチルチオフェノールなどのチオフェノール類;アセトンキシム、メチルエチケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類;t−ブタノール、t−ペンタノールなどの第3級アルコール類;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピルラクタムなどのラクタム類;芳香族アミン類;イミド類;アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物;メルカプタン類;イミン類;尿素類;ジアリール化合物類;重亜硫酸ソーダなどを挙げることができる。最低硬化温度(ブロック化剤の保護作用が低下し、硬化剤として有効に機能する温度)は200℃以下、特に150℃以下のものが好ましい。最低硬化温度が200℃を超えると、使用可能なフィルム基材の選択肢を狭めてしまう場合がある。例えば、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)を使用する場合には、PETにかけることができる温度は180℃が限界であり、好ましくは150℃以下である。
【0035】
ここで、イソシアネート化合物に含まれる活性水素基(−OH、−SHおよび−NH−)とイソシアネートのイソシアネート基(−NCO)の割合(モル比)は、架橋樹脂の耐ブロッキング性を考慮して、NCO/OH=0.05〜1の範囲にあることが好ましく、特に0.1〜0.5の範囲にあることが好ましい。
【0036】
また、必要に応じて、既存の硬化触媒を併用することもできる。硬化剤の種類によっては、硬化触媒を併用することにより、架橋性樹脂の硬化速度を大幅に高めることができる。
【0037】
(π電子共役系導電性高分子(C))
本発明において、π電子共役系導電性高分子を用いるため、低湿度下でも安定的な帯電防止性を奏することが可能である。また、帯電防止層上に粘着層や離型層などの機能層が積層されると、経時もしくは環境変化に応じて帯電防止層中の水分状態が変化する場合があるが、π電子共役系導電性高分子の導電性は湿度依存性が低いため、このような状態変化が生じても安定的な帯電防止を発現することが可能となる。
【0038】
π電子共役系導電性高分子としては、アニリンあるいはその誘導体を構成単位として含むアニリン系高分子、ピロールあるいはその誘導体を構成単位として含むピロール系高分子、アセチレンあるいはその誘導体を構成単位として含むアセチレン系高分子、チオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含むチオフェン系高分子等が挙げられる。用途によっては、例えば外部検査を要する部材や精密機器の表面保護フィルムもしくはキャリアーフィルムなど高い透明性が求められる場合がある。このような場合、π電子共役系導電性高分子としては窒素原子を有さないものが好ましく、中でもチオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含むチオフェン系高分子は透明性の点から好適であり、特にポリアルキレンジオキシチオフェンが好適である。ポリアルキレンジオキシチオフェンとしては、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンジオキシチオフェン、ポリ(エチレン/プロピレン)ジオキシチオフェンなどが挙げられる。
【0039】
なお、チオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含むチオフェン系高分子には、帯電防止性を更に良好なものとするためドーピング剤を、例えばチオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含む高分子100質量に対し0.1質量以上500質量以下配合することができる。ドーピング剤が少ない場合には、電子移動が困難となるため帯電防止性能の低下の問題があり、逆に多い場合には、溶媒に対する分散性低下の問題がある。このドーピング剤としては、LiCl、R1‐30COOLi(R1‐30:炭素数1以上30以下の飽和炭化水素基)、R1‐30SOLi、R1‐30COONa、R1‐30SONa、R1‐30COOK、R1‐30SO3K、テトラエチルアンモニウム、I、BFNa、BFNa、HClO、CFSOH、FeCl、テトラシアノキノリン(TCNQ)、Na10Cl10、フタロシアニン、ポルフィリン、グルタミン酸、アルキルスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸Na(K、Li)塩、スチレン・スチレンスルホン酸Na(K、Li)塩共重合体、ポリスチレンスルホン酸アニオン、スチレンスルホン酸・スチレンスルホン酸アニオン共重合体等を挙げることができる。
【0040】
本発明者は鋭意検討を行った結果、上記のようにバインダーとしてアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂と、イソシアネート化合物を用いることで、π電子共役系導電性高分子を用いながら、高い帯電防止性能に加え、優れた耐削れ性と滑り性を示す帯電防止層を見出し、本発明に至ったのである。本発明の帯電防止層が高い帯電防止性能に加え、優れた耐削れ性を示す理由として本発明者は以下のように考えている。
【0041】
前記アクリル樹脂を加熱硬化させると、表面自由エネルギーの安定化が生じるため、シリコーン変性部位を有するアクリル樹脂層が、疎水性で表面エネルギーが低いシリコーン鎖を樹脂層の表面に配向させて形成される。前記シリコーン鎖は、親水性であるπ電子共役系導電性高分子と親和性が低いため、これにともない硬化時にはπ電子共役系導電性高分子が帯電防止層の最表面付近に浮上する。π電子共役系導電性高分子が良好な導電性を発現するためには、高分子鎖が出来る限り分断されないことが重要であるが、帯電防止層の最表面付近にπ電子共役系導電性高分子が浮上する事で、高分子鎖を分断されない状態でネットワークを形成する事が可能となる。これにより高分子鎖間の電荷移動がスムーズに起こる事で、シリコーン変性部位を有しない他の樹脂との混合に比べ、極めて優れた帯電防止性を発現することが可能となる。
【0042】
帯電防止層の最表面付近にπ電子共役系導電性高分子を浮上させる手法として、高沸点溶媒の添加による、塗膜乾燥過程で生じる溶剤の対流効果を利用することが考えられる。しかしこの手法は、塗膜全体において対流が均一に行われる必要があるが、実際の加工時では対流の制御は困難であり、帯電防止性能にムラが生じる事もあった。これに対し、本発明のシリコーン変性部位を利用した手法では、π電子共役系導電性高分子とシリコーン鎖の表面エネルギー差を利用する為、速やかに両者の相分離が進行し、均一かつ優れた帯電防止性能を発現する。
【0043】
加えて、前記アクリル樹脂は前記イソシアネート化合物との架橋反応を経ることで、帯電防止層中のバインダー樹脂中に帯電防止剤に好適なネットワーク構造が形成される。さらに、前記イソシアネート化合物の添加により塗膜の強度が向上し、好適な耐削れ性を奏する。これにより、後の加工時に高速でガイドロールを通過しても、帯電防止層の損傷が少なく、工程汚染も低減される。このような効果を奏するという観点から、本発明では架橋剤として、メラミン化合物、エポキシ化合物やシラン化合物などと比べ、上記イソシアネート化合物を使用することが好ましい。更に、精密機器などの成型体の保護フィルムに際しては、成型体の形状に併せて曲面や角面に対する追従性が求められるが、イソシアネート架橋により、他の架橋剤と比較して帯電防止層に適度な柔軟性が付与することも可能と考えられる。
【0044】
本発明においてπ電子共役系導電性高分子が帯電防止層中に10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上、60質量%以下である。特に、π電子共役系導電性高分子が帯電防止層中に20質量%以上70質量%以下である場合は、密着性および帯電防止性とがより高度に両立することができる。なお、前記ドーピング剤を用いる場合は、本発明に規定するπ電子共役系導電性高分子の帯電防止層中の含有量には、導電性高分子と前記ドーピング剤の合計量のことである。アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂は、帯電防止層中に10質量%以上90質量%以下で混合することが好ましく、20質量%以上70質量%以下で混合することがより好ましく、30質量%以上60質量%以下で混合することがさらに好ましい。特に、帯電防止層中に、前記アクリル樹脂が、20質量%以上70質量%以下で混合する場合は、密着性および帯電防止性とがより高度に両立することができる。少ない場合には、アクリル樹脂膜の網目構造にπ電子共役系導電性高分子が満たされない空孔が生じ、π電子共役系導電性高分子のネットワークが形成されず、帯電防止性能の低下の傾向がある。さらには、帯電防止層中にシリコーン鎖が占める割合が低下することで、耐溶剤性や滑り性が低下する傾向が有る。逆に多過ぎる場合には、アクリル樹脂によって形成される空孔以上にπ電子共役系導電性高分子が存在することとなり耐溶剤性が低下する傾向がある。
【0045】
帯電防止層を形成するための塗液中のアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)と、イソシアネート化合物(B)との混合比は、(A):(B)=1:0.1〜1:2.5であることが好ましく、(A):(B)=1:0.3〜1:2であることがより好ましい。(A)と(B)の混合比が当該範囲である場合、適度な塗膜強度に制御することができ、耐削れ性がより好適に向上することができる。また、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)およびイソシアネート化合物(B)と、π電子共役系導電性高分混合比は。{(A)+(B)}:(C)=1:0.1〜0.8であることが好ましく、{(A)+(B)}:(C)=1:0.2〜0.7であることがより好ましい。(A)+(B)と(C)の混合比を上記範囲に制御することにより、帯電防止性と滑り性とをより好適に向上させることができる。
【0046】
(塗工方法)
本発明においては、シリコーン変性されたアクリル樹脂とπ電子共役系導電性高分子を含む組成物を含む塗布液を基材上に塗布、乾燥して帯電防止層を設けるが、塗布液の固形分濃度は0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、特に0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。塗布量を一定とした場合は、固形分濃度が低い場合には帯電防止性能や滑り性が低下する場合があり、逆に高い場合には透明性が低下する場合がある。
【0047】
塗布液の固形分濃度は、水や公知の有機溶剤を用いて調整することが可能である。上記有機溶媒しては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エリトリトール、グリセリン、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、メチルプロピレングリコール、エチルプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなどのピロリドン類、などが好ましく用いられる。これらの有機溶媒は、水と任意の割合で混合して用いることができる。混合の例としては、水/メタノール、水/エタノール、水/プロパノール、水/イソプロパノール、水/メチルプロピレングリコール、水/エチルプロピレングリコールなどが挙げられる。その混合割合は、限定するものではないが、水/有機溶媒=1/10〜10/1程度が好ましい。溶剤の使用割合は特に制限されないが、通常、π電子共役系導電性高分子100質量部に対して、1000〜20000質量部であることが好ましい。溶剤の使用量が極端に多い場合は、得られる本発明における帯電防止層の塗布性が悪くなる恐れがある。この場合、このπ電子共役系導電性高分子の上記溶剤への溶解性又は分散性が不十分となり、得られる帯電防止層の表面が平坦になりにくくなる恐れがある。逆に、溶剤の使用量が極端に少ない場合は、帯電防止層にピンホールが発生しやすくなり、得られたフィルムの導電性が著しく低下、すなわち帯電防止性が低下する恐れがある。
【0048】
本発明における帯電防止層には、外観向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤及びフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキル4級アンモニウム、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素系界面活性剤を用いることができる。
【0049】
帯電防止層には、本発明の目的を阻害しない範囲で必要に応じて、滑剤、色素、紫外線吸収剤、等を混合しても良い。
【0050】
基材フィルム表面に帯電防止層を積層する方法としては、グラビアロールコーティング法、リバースロールコーティング法、ナイフコータ法、ディップコート法、スピンコート法などがあるが、導電性組成物に適したコート法は特に制限はない。また、フィルムの製造工程で塗布層を設けるインラインコート方式、フィルム製造後に塗布層を設けるオフラインコート方式により設けることができる。
【0051】
帯電防止層を形成する乾燥温度としては、好ましくは60℃以上250℃以下であり、より好ましくは100℃以上200℃以下である。この温度が低すぎると、帯電防止層の硬化不良が生じたり、時間が長くなり、生産性が低下するので好ましくない。一方、この温度が高すぎると、フィルムの平面性に問題が生じるようになり、好ましくない。
【0052】
帯電防止層の塗工量は、乾燥後重量として、好ましくは0.005g/m以上、より好ましくは0.01g/m以上である。この塗工量が0.005g/m未満の場合得られる帯電防止フィルムの帯電防止性が劣ったり、滑り性が低下する傾向にある。逆に上限は0.20g/mであり、これを超える場合は透明性が低下する場合がある。
【0053】
本発明において帯電防止フィルムは、帯電防止性を有する。具体的には、印加電圧が10V下において、表面抵抗率が1011Ω/□以下であることが好ましく、1010Ω/□以下であることがより好ましい。さらに、キャリアーフィルムや精密機器の保護フィルムなど、より静電気の影響が大きい用途の場合は、好ましくは10Ω/□以下である。
【0054】
また、精密機器においては一時的、局所的な放電により初期機能が低下することがある。このような瞬間的なスパーク等を想定した場合、例えば印加電圧が500Vの高電圧下では、帯電防止層は電撃により損傷を受ける事が有る。本発明においては、前述のようにπ電子共役系導電性高分子が優れたネットワークを形成しているため、印加電圧が500Vの高電圧下での良好な帯電防止性を保持することができる。本発明では、印加電圧が500Vの高電圧下の表面抵抗率は1011Ω/□以下であることが好ましく、より好ましくは1010Ω/□以下である。
【0055】
前記帯電防止性は、帯電防止層の厚み、および帯電防止層中におけるπ電子共役系導電性高分子の単位面積あたりの存在量により調整することが可能である。表面抵抗率が高い場合には、帯電防止フィルムを剥離もしくは繰り出した際に摩擦帯電し、周囲からゴミの付着等が発生し、キャリアーフィルムとして用いた場合に歩留まりが不良となる。また、離型層を設けて離型フィルムとして用いた場合、前記フィルムを剥離した際に剥離帯電が発生し、剥離が困難になる場合がある。
【0056】
本発明の帯電防止フィルムは耐溶剤性も兼ね備えていることが好ましい。耐溶剤性を有すことで、帯電防止層表面に溶剤系の粘着剤をコートする場合や樹脂成型用に用いる場合、塗布される塗液に含有される有機溶剤で帯電防止層が溶解せず、高い密着性を発揮し、ひいては帯電防止性を維持できる事である。耐溶剤性の簡易評価法としては、帯電防止層表面を有機溶剤でふき取り、滑り性もしくは帯電防止性の低下が見られない事を確認する手法がある。
【0057】
例えば、帯電防止層を、トルエン、メチルエチルケトン、エタノールなどの溶剤に浸漬した後においても、良好な耐溶剤性を奏するため、当初の帯電防止性を保持することが好ましい。
【0058】
本発明の帯電防止層は、良好な滑り性を有するため、生産性の向上による高速の加工処理においても優れた作業性を有する。具体的には、後述の測定方法により得られる、本発明の帯電防止層とPETフィルムとの静摩擦係数(μs)、動摩擦係数(μd)は、いずれも好ましくは1.3以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.8以下である。前記静摩擦係数(μs)、動摩擦係数(μd)がいずれも上記上限を超える場合は、十分な滑り性が得られず、高速加工時の取扱い性が低下しやすくなる場合がある。前記静摩擦係数(μs)、動摩擦係数(μd)を上記範囲に制御するためには、アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂の添加量を調整することが好ましい。
【0059】
部材や機器の外観観察を保護フィルム上から行う用途においては、本発明の帯電防止フィルムは透明性を有することが好ましい。好ましい透明性とは、剥離前における被着体の外観検査等で、視認性を低下させない程度の着色や濁り(ヘイズ)がないことである。本発明の帯電防止フィルムのヘイズは、10%以下であることが好ましく、8%以下であれば特に好ましい。帯電防止フィルムのヘイズは、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。透明性は、帯電防止層中におけるπ電子共役系導電性高分子の単位面積あたりの質量により調整することが可能である。また、透明性の高い離型フィルムを得るには、π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子を用いることが好ましい。
【0060】
本発明において帯電防止フィルムの帯電防止層を形成していない反対面は、用途や目的に応じて各種の機能を付与しても構わない。例えば、本発明の帯電防止層、更には、離型層、易滑層、易接着層、着色層、紫外線吸収層などが挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明の実施例および比較例示すが、本発明はこの例によって何ら制限されるものではない。また本発明に用いる評価法を以下に示す。
【0062】
(1)帯電防止層の密着性
帯電防止層形成後、温度60℃、湿度90%の条件下において48時間経過した帯電防止フィルムについて、帯電防止層表面をキムワイプ(クレシア(株)製、WIPRS S200)で強く10回擦り、帯電防止層の曇りや帯電防止層の脱落を目視により観察し、下記の判定基準で評価した。
【0063】
○:曇りおよび脱落がほとんど見られない
△:曇りおよび脱落が多く見られる
×:曇りが多く見られ、脱落もかなり多く起こる
【0064】
(2)帯電防止フィルムのヘイズ
帯電防止層形成後、日本電色製HAZE METER NDH2000 を用いて JIS K7136 に示される測定法に準拠して、ヘイズを測定した。
【0065】
(3)帯電防止性
帯電防止フィルムを温度23℃、湿度65%の条件下で24時間調湿した後、各印加電圧下において表面抵抗測定器(三菱化学(株)製、Hiresta―UP MCP−HT450)を用いて測定した。
【0066】
(4)耐削れ性
帯電防止フィルムを200mm幅に切断し、フィルムの帯電防止層面を直径10mmの円柱状ステンレス製固定バーにあてて200gの荷重を加えた状態で80m走行させた後、バーに付着した塗膜の白粉を観察し、耐削れ性を下記の通り評価する。
【0067】
○: バーに白粉の付着が無い(耐削れ性良好)
△: バーに白粉がやや付着する(耐削れ性やや不良)
×: バーに白粉が多量に付着する(耐削れ性不良)
【0068】
(5)帯電防止層の滑り性
帯電防止層形成後、温度60℃、湿度90%の条件下において48時間経過した帯電防止フィルムについて、万能試験機(島津製作所(株)製、AGS−1kNG)を用いて、帯電防止フィルムの帯電防止層とPETフィルム(東洋紡績(株)製、E5100、厚み50μm)との動摩擦係数(μd)、静摩擦係数(μs)をJIS K−7125に順じて下記条件で測定した。
試験片:幅50mm×長さ60mm
荷重:4.4kg
試験速度:200mm/min
【0069】
(アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)の調製)
攪拌機、還流冷却機、滴下ロート、窒素導入管および温度計を取り付けたフラスコに、末端にメタクリロイル基を有する分子量約1万のシリコーンマクロモノマー15質量部、メタクリル酸メチル25質量部、アクリル酸ブチル40質量部、スチレン10質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10質量部、アクリル酸5質量部、ドデシルメルカプタン1質量部、2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル1質量部、イソプロパノール50質量部、ブチルセルソルブ50質量部を仕込み、窒素にてバブリングを行いながら温度80℃で4時間加熱した後、更に2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を投入し、温度80℃で4時間加熱し、酸価が40mgKOH/gのシリコーン系共重合体を合成した。得られた反応液に、ジメチルエタノールアミンの3%水溶液を100質量部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下50℃にてイソプロパノールを除去し、目的のアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(A)を得た。
【0070】
(アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(B)の調製)
攪拌機、還流冷却機、滴下ロート、窒素導入管および温度計を取り付けたフラスコに、末端にメタクリロイル基を有する分子量約1万のシリコーンマクロモノマー5質量部、メタクリル酸メチル35質量部、アクリル酸ブチル40質量部、スチレン10質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10質量部、アクリル酸5質量部、ドデシルメルカプタン1質量部、2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル1質量部、イソプロパノール50質量部、ブチルセルソルブ50質量部を仕込み、窒素にてバブリングを行いながら温度80℃で4時間加熱した後、更に2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を投入し、温度80℃で4時間加熱し、酸価が40mgKOH/gのシリコーン系共重合体を合成した。得られた反応液に、ジメチルエタノールアミンの3%水溶液を100質量部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下50℃にてイソプロパノールを除去し、目的のアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(B)を得た。
【0071】
(アクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(C)の調製)
攪拌機、還流冷却機、滴下ロート、窒素導入管および温度計を取り付けたフラスコに、末端にメタクリロイル基を有する分子量約1万のシリコーンマクロモノマー35質量部、メタクリル酸メチル5質量部、アクリル酸ブチル40質量部、スチレン10質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10質量部、アクリル酸5質量部、ドデシルメルカプタン1質量部、2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル1質量部、イソプロパノール50質量部、ブチルセルソルブ50質量部を仕込み、窒素にてバブリングを行いながら温度80℃で4時間加熱した後、更に2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を投入し、温度80℃で4時間加熱し、酸価が40mgKOH/gのシリコーン系共重合体を合成した。得られた反応液に、ジメチルエタノールアミンの3%水溶液を100質量部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下50℃にてイソプロパノールを除去し、目的のアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂(C)を得た。
【0072】
(アクリルモノマーとメタクリル酸の共重合からなるアクリル樹脂(D)の調製)
攪拌機、還流冷却機、滴下ロート、窒素導入管および温度計を取り付けたフラスコに、メタクリル酸メチル5質量部、アクリル酸ブチル40質量部、スチレン10質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10質量部、アクリル酸5質量部、ドデシルメルカプタン1質量部、2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル1質量部、イソプロパノール50質量部、ブチルセルソルブ50質量部を仕込み、窒素にてバブリングを行いながら温度80℃で4時間加熱した後、更に2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を投入し、温度80℃で4時間加熱し、酸価が40mgKOH/gのアクリル系共重合体を合成した。得られた反応液に、ジメチルエタノールアミンの3%水溶液を100質量部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下50℃にてイソプロパノールを除去し、目的のアクリルモノマーとメタクリル酸の共重合からなるアクリル樹脂(C)を得た。
【0073】
実施例1
π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(A)を30質量%の割合で含有する溶液、更に脂肪族系のジイソシアネート化合物であるHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(A)を調製した。この帯電防止層形成用塗布液を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に乾燥後の塗工量が0.05g/mとなるようにライン速度100m/minでマイクログラビアコーターで塗布し、次いで、190℃の乾燥炉で乾燥を行い、帯電防止層を積層させた帯電防止フィルムを作製した。
【0074】
得られた帯電防止フィルムを上記(1)〜(5)の項目について評価し、その結果を下記の表1に示す。表1に示される通り、得られた帯電防止フィルムは、全ての評価項目について優れた性質を有することが確認された。
【0075】
実施例2
π電子共役系導電性高分子としてアニリン系高分子であるポリアニリンスルホン酸を1.9質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(A)を30質量%の割合で含有する溶液、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、表1に示すように、アニリン系高分子由来の着色による透明性低下以外は良好であった。全ての評価項目において優れた性質を有することが確認された。
【0076】
実施例3
π電子共役系導電性高分子としてピロール系高分子である3-メチル-4-ピロールカルボン酸エチルと3-メチル-4-ピロールカルボン酸ブチルの共重合体(ティーエーケミカル(株)製、商品名「SSPY」)を1.9質量%の割合で含有する水分散体と、アアクリル樹脂(A)を30質量%の割合で含有する溶液、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(C)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、表1に示すように、ピロール系高分子由来の着色による透明性低下以外は良好であった。全ての評価項目において優れた性質を有することが確認された。
【0077】
実施例4
π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(B)を30質量%の割合で含有する溶液、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(D)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、全ての評価項目において望ましい性質を有することが確認された。
【0078】
実施例5
π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(C)を30質量%の割合で含有する溶液、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(E)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、全ての評価項目において望ましい性質を有することが確認された。
【0079】
実施例6〜9
表1に記載の様に、π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートと、アクリル樹脂(A)およびHDI系イソシアネート化合物を用いて、帯電防止層中の含有量を変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られた各フィルムについて評価した結果を下記の表1に示す。実施例6〜8のフィルムは、全ての評価項目において望ましい性質を有することが確認された。実施例9のフィルムは、実施例1のフィルムと比較して密着性が若干低下していたが、耐削れ性、帯電防止性、ヘイズ、滑り性は、十分に優れていた。
【0080】
実施例10
表1に記載の様に、π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートと、アクリル樹脂(A)および脂肪族イソシアネート化合物(三井化学製、タケネート600)を用いて、帯電防止層中の含有量を変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作成した。得られたフィルムは、表1に示す通り、密着性および耐削れ性は実施例1のフィルムと比較して若干低下していたが、その他の評価項目は、実施例1のフィルムと同等であった。
【0081】
実施例11
π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(A)を30質量%の割合で含有する溶液、更に芳香族系のジイソシアネート化合物であるTDI系イソシアネート(三井化学社製、WB−700)を44質量%の割合で含有する溶液とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(F)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、全ての評価項目に関して、優れた性質を有することが確認された。
【0082】
比較例1
π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、側鎖に水酸基を有するアクリル樹脂(D)、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(G)を用いること以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、アクリル樹脂がシリコーン系マクロモノマーとの共重合体でないため、十分な滑り性が得られていないことが分かる。
【0083】
比較例2
π電子共役系導電性高分子としてチオフェン系高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、側鎖にアクリル樹脂(A)とを固形分比率として4:6になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(H)を用いること以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、架橋剤としてイソシアネート化合物が使用されていないため、耐削れ性及び密着性が不十分である。
【0084】
比較例3
帯電防止剤としてアンチモンドープ型酸化亜鉛のイソプロピルアルコール分散液(日産化学社製)、アクリル樹脂(A)を30質量%の割合で含有する溶液、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(I)を用いること以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、帯電防止剤としてπ電子共役系導電性高分子を使用していないため、密着性、透明度、及び耐削れ性が不十分であった。
【0085】
比較例4
帯電防止剤としてアニオン型高分子帯電防止剤であるポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、更に固形分濃度が0.5質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(J)を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示す通り、特に耐削れ性及び滑り性が不十分であった。これは、バインダーとしてアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合からなるアクリル樹脂を使用しておらず、また、架橋剤としてイソシアネート化合物を使用していないためである。
【0086】
比較例5
帯電防止剤としてリン酸エステル塩型アニオン系界面活性剤と、アクリル樹脂(A)を30質量%の割合で含有する溶液、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるように、イソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した帯電防止層形成用塗布液(K)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、下記の表1に示されるように、密着性及び帯電防止性が不十分であった。
【0087】
比較例6
帯電防止層として、アクリル樹脂(A)を30質量%含む溶液と、更にHDI系イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、WT30−100)とを固形分比率として5:5になるよう混合し、更に固形分濃度が2・0質量%になるようにイソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した塗布液(L)を用いること以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果は表1に示すように、帯電防止性不良であった。
【0088】
比較例7
帯電防止剤としてポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(D)を30質量%含む溶液と、更にメラミン(日産化学社製、メラミン)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるようにイソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した塗布液(M)を用いること以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果は表1に示すように、耐削れ性及び滑り性が不十分であった。
【0089】
比較例8
帯電防止剤としてポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフォネートを1.2質量%の割合で含有する水分散体と、アクリル樹脂(D)を30質量%含む溶液と、更に水系エポキシ化合物(ADEKA社製、アデカレジンEM−0526)とを固形分比率として4:3:3になるよう混合し、更に固形分濃度が2.0質量%になるようにイソプロピルアルコール/純水(=6:4)溶液で希釈した塗布液(J)を用いること以外は、実施例1と同様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果は表1に示すように、透明度、耐削れ性及び滑り性が不十分であった。
【0090】
比較例9
帯電防止層を設けないこと以外は実施例1と様にして帯電防止フィルムを作製した。得られたフィルムは、帯電防止性及び滑り性が不十分であった。
【0091】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の帯電防止フィルムは、耐削れ性に優れる帯電防止層を有する為、帯電防止層上に溶剤を含む塗液を塗布することが可能であり、各種の転写フィルムやキャリアーフィルムとして加工性が良好である。また、帯電防止層がπ電子共役系導電性高分子を含有する為、低湿度下での帯電防止性にも優れ、工程中や剥離時の帯電によるゴミの付着等がなく、製品の歩留まりの向上に有効である。更には、帯電防止層が優れた滑り性を有する為、重送の抑制に優れている。また、本発明の好ましい態様として、高い透明性を有しており、例えば部材、機器、精密機械などを検査する際に用いられる表面保護フィルムとしても好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有する帯電防止フィルムであって、
前記帯電防止層がアクリルモノマーとシリコーン系マクロモノマーの共重合から形成されるアクリル樹脂(A)と、
イソシアネート化合物(B)と、
π電子共役系導電性高分子(C)とを主たる構成成分とする、
帯電防止フィルム。
【請求項2】
前記帯電防止層中における前記(A)の含有量が0.1質量%〜80質量%、前記(B)の含有量が0.1質量%〜80質量%、前記(C)の含有量が0.1質量%〜80質量%である、請求項1に記載の帯電防止フィルム。
【請求項3】
前記(B)がブロック化イソシアネートである、請求項1または2に記載の帯電防止フィルム。
【請求項4】
前記(A)がチオフェンあるいはその誘導体を構成単位として含む、請求項1〜3のいずれかに記載の帯電防止フィルム。
【請求項5】
前記帯電防止層の表面抵抗が、10Vの印加電圧下で1011Ω/□以下であり、500Vの印加電圧下で1011Ω/□以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の帯電防止フィルム。
【請求項6】
基材フィルムに、前記(A)と前記(B)と前記(C)とを主たる構成成分として含有する水溶液を塗布し、乾燥して得られる、請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止フィルム。


【公開番号】特開2012−183811(P2012−183811A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50358(P2011−50358)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】