説明

帯電防止用組成物および帯電防止ハードコート形成物

【課題】 安定した帯電防止機能を有し、表面硬度および透明性、耐水性が優れる帯電防止用組成物およびそれを硬化させた帯電防止ハードコート形成物を提供すること。
【解決手段】
式(I)
【化1】


(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示すか、これらが一緒になって炭素数4〜5のアルキレン基を形成し、RおよびRは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を示すか、これらが一緒になってフルオロアルキレン基を形成していても良い)
で表されるジアリルジアルキルアンモニウムカチオンのビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩を、ウレタンアクリレート樹脂成分に含有せしめてなる帯電防用組成物およびそれを硬化させて得られる帯電防止ハードコート形成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止用組成物に関し、更に詳細には、安定した帯電防止機能を有し、表面硬度および透明性が優れる帯電防止用組成物およびそれを硬化させた帯電防止ハードコート形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パネルやフィルム表面への塵付着防止などのために、基材表面に帯電(静電)防止機能を付与したコーティングを行う方法が種々提案されている。特に近年使用量が増加しているプラスチック製品について、その大きい帯電量と硬度が低い欠点を補うためにスクラッチ防止や擦り傷防止性能を有するハードコート機能を付与した帯電防止コーティング剤およびコーティング方法が検討されている。
【0003】
ところで、帯電防止のためには、コーティング層に導電性を持たせることが基本であり、このために種々の検討がなされている。そして、導電性を持たせるためには、まず金属の使用が考えられるか、導電性の高い透明金属層を設ける場合は、優れた導電物性を得られる反面、スパッタでの金属蒸着では生産設備が大規模になる不利益があり、さらに金属膜単体では強度が不足するため、通常積層フィルム中に用いられることになり、別途ハードコート層を設ける必要があった。
【0004】
また、帯電防止性を付与したコート剤として、例えば、四級アンモニウム塩構造のような有機カチオン性物質を配合する技術(特許文献1、2)や、有機スルホン酸塩のようなアニオン性物質を配合する技術も知られている(特許文献3)。その他、有機π電子共役ポリマーを配合する技術等も検討されている。しかしながら、これらの技術を以ってしても、硬度や耐摩耗性については十分に高いとは言い難かった。
【0005】
更に、有機カチオン性物質には、硬度を上げるために用いられるコロイダルシリカと均一配合が困難であり、また、有機アニオン性物質は有機溶媒への溶解性が低く透明性が低下する等の問題もあり、高硬度化と帯電防止性を両立する上で妨げとなっていた。また、架橋型有機カチオンを用いてブリードを抑制する技術(特許文献4)も知られているが、この技術では多官能アクリルエステル系ハードコート剤において、硬度は保持できるものの充分な帯電防止性能が得られなかった。
【0006】
更にまた、導電性フィラーをコーティング剤に分散させる技術が提案されているが(特許文献5、特許文献6、特許文献7等)、これらの技術は、高い透明性と導電性を両立させうるコーティング層を得るには至っていない。
【0007】
通常、微粒子を含有した組成物およびその硬化皮膜の透明性と表面抵抗率は微粒子の分散状態によって大きく変動する。この場合、分散性が高まるほど透明性が向上するが、反対に導電性が低下することが多い。これは粒子間距離が充分に接近していなければ、硬化物全体としての電気伝導が起こらないことに由来し、各粒子が個々に完全分散している系においては導電性が極端に低くなるためである。よって、導電性微粒子を添加している場合には、適度に粒子の凝集を促すか、樹脂に対して非常に多い粒子を添加して表面抵抗率を減少させ、帯電防止機能を発揮させる必要がある。
【0008】
また、これらに用いられる導電性フィラーや金属蒸着膜においては、地球上に僅かしか存在しないインジウムやアンチモンなどのレアメタルを用いるため、その供給量や価格が不安定であるという問題もあった。
【特許文献1】特開平10−279833号公報
【特許文献2】特開2000−80169号公報
【特許文献3】特開2000−95970号公報
【特許文献4】特開2005−347068号公報
【特許文献5】特開平10−244618号公報
【特許文献6】特開平10−235807号公報
【特許文献7】特開平6−263903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明が解決しようとする課題は、上記のような問題を発生させる事なく、良好な帯電防止性を発現する、帯電防止用組成物およびこれを用いたハードコート用形成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ウレタンアクリレート樹脂成分中に、2つのアリル基を有するアルキルアンモニウムカチオンと、特定のフルオロアルキルスルホニルイミドの塩を配合することにより、ウレタンアクリレート樹脂成分が重合した際に、アルキルアンモニウムカチオンがウレタンアクリレート樹脂中に組み込まれ、高い導電性と、硬度、耐水性を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、下記式(I)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示すか、これらが一緒になって炭素数4〜5のアルキレン基を形成しても良く、RおよびRは炭素数1から4のフルオロアルキル基を示すか、これらが一緒になってフルオロアルキレン基を形成していても良い)
で表されるジアリルジアルキルアンモニウムカチオンのビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩を、ウレタンアクリレート樹脂成分に含有せしめてなる帯電防止用組成物である。
【0012】
また本発明は、上記の帯電防止用組成物を用いて得られる帯電防止ハードコート形成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の帯電防止用組成物を用いて形成された形成物では、ジアリルジアルキルアンモニウムカチオンのビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩(以下、「化合物(I)」という)が、ウレタンアクリレート樹脂成分の硬化後に下記構造となってポリマー中に組み込まれる。
【0014】
【化2】

(式中、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはこれらが一緒になって形成するアルキレン基を示し、Xはビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドアニオンを表す)
【0015】
このようにカチオン成分がウレタンアクリレート樹脂成分と共に架橋或いはカチオン成分がポリマー化する事により、ブリードアウトが抑制され、また疎水性アニオンとの塩とする事で環境依存性も低く、帯電防止形成物の耐水性が良好となる。また、樹脂本来の色調にも影響を与えず、硬度も低下せず良好な導電性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の帯電防止用組成物において導電性付与剤として用いられる化合物(I)の構成カチオンとしては、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルジエチルアンモニウム、ジアリルジプロピルアンモニウム、ジアリルジブチルアンモニウム、ジアリルピロリジニウム等が挙げられる。
【0017】
また、化合物(I)の構成アニオンとしては、(CFSON、(CFSO)CSON、(CSO)N、(CFSO)CSON、(CSO)CSON、(CSON、(CFSO)CSON、(CSO)CSON、(CSO)CSON、(CSON、C(SON、C(SON、C10(SON、C12(SON等を挙げることができる。
【0018】
化合物(I)の構成カチオンおよび構成アニオンは、いずれも公知化合物であり、化合物(I)は、これら構成カチオンのハロゲン塩と、構成アニオンのアルカリ金属塩とを、水系で反応させることにより製造される。
【0019】
一方、本発明の帯電防止組成物において用いられるウレタンアクリレート樹脂成分としては、以下のものが挙げられる。
【0020】
具体的には、例えば、イソシアネート化合物と水酸基含有(メタ)アクリレートとの反応物が挙げられる。このうち、イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物が挙げられる。また、水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の単官能のものや、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のものが挙げられる。好ましいウレタンアクリレートとしては、イソシアネート化合物と水酸基含有メタアクリレートを、OH基とNCO基の比として1:1で付加させたもの等を挙げる事ができる。
【0021】
上記ウレタンアクリレート樹脂成分には、更に有機物により表面処理したシリカ粒子などを添加しても良い。
【0022】
本発明の帯電防止用組成物の製造において、ウレタンアクリレート樹脂成分に対する化合物(1)の添加量は、樹脂成分100質量部に対して2〜30質量部が好ましいが、性能発現しやすい添加量としては5質量部以上がより好ましく、硬度を保持するには20質量部以下がより好ましい。
【0023】
また、本発明の帯電防止用組成物の製造においては、硬化前の組成物の粘度を調整するために、希釈溶剤を用いても良い。これらは非重合性であれば特に限定なく用いることができ、例えばトルエン、キシレン、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられ、これらは単独、もしくは2種類以上を合わせて用いても良い。
【0024】
本発明の帯電防止用組成物は、ウレタンアクリレート樹脂成分の重合開始のために、光重合開始剤や、熱重合開始剤を添加することができる。このうち、光重合開始剤としては、例えば2,2−エトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジベンゾイル、ベンゾイル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p−メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アセトフェノン、2−クロロチオキサントン等が挙げられる。これらは単独、もしくは2種類以上を合わせて用いても良い。
【0025】
また、加熱により硬化させる場合は、従来公知の熱重合開始剤(ラジカル開始剤)を用いる事ができ、例えばケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらは単独、もしくは2種類以上を合わせて用いても良い。
【0026】
更に、本発明の帯電防止用組成物には、必要に応じて、性能を損なわない範囲で、顔料、充填剤、界面活性剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、レべリング剤、酸化防止剤等を添加しても良い。これらは単独、もしくは2種類以上を合わせて用いても良い。
【0027】
更にまた、本発明の帯電防止用組成物は、ポリエーテル骨格を持たせることにより硬度が低下するものの導電性は向上するので、ポリエリチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を持つアクリレート、メタクリレート、ウレタンアクリレートを含有させても良い。
【0028】
本発明の帯電防止用組成物は、ハードコートを設けるべき基材上に、公知のスプレーコート、グラビアコート、ロールコート、バーコート等の塗工手段で塗布した後、活性エネルギー線の照射ないし加熱を行えばよい。上記ハードコートを設ける基材としては、特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、再生セルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、(PET)、ポリカービネーと(PC)、ポリイミド、ナイロン等が挙げられる。好ましくは透明性に優れるトリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートである。また、硬化させる帯電防止ウレタンアクリレート組成物に照射する活性エネルギー線は紫外線(UV)、電子線(EB)等、公知のいずれの活性エネルギー線でも良い。
【0029】
以上説明した本発明の帯電防止用組成物は、ジアリルジアルキルアンモニウムカチオンとビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドとの塩を帯電防止剤として用いるものであるが、この塩類のカチオン成分とウレタンアクリレート樹脂成分とが重合し、ポリマー化する。このように高分子化することにより導電性付与剤がブリードアウトすることが抑制される。また、この帯電防止剤(イオン導電剤)がほとんど無色なため樹脂本来の色調に影響を与えず透明性を保持する事が可能である。また、本発明の帯電防止剤はイオン液体の性状を示している上、ウレタンアクリレート樹脂成分への溶解性に優れている。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。
【0031】
実 施 例 1
ウレタンアクリレート(アートレジンUN-3320HS;根上工業社製)樹脂固形分100質量部に対し、帯電防止剤としてジアリルジメチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを10質量部、イルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ)を1質量部、メチルエチルケトン100質量部を混合し、2mm厚のPET板にコーティングロッド#60を用いて塗布した。
【0032】
これを70℃、3分加熱して、溶剤を飛ばした後、紫外線照射装置トスキュア401(東芝ライテック社)にて10秒間UV照射を行った。
【0033】
試料を50%RH、25℃の環境下に2昼夜放置した後、表面抵抗率を測定した。この結果表面抵抗率は5×10Ω/□と良好な値を示し、外観はブリードや曇りも見られなかった。また鉛筆硬度をJIS-K6849に準じて評価し、5回の測定で3回以上鉛筆芯の痕が残らないものを良好としたところ、4/5と良好であった(表1には、3Hによる試験の結果を5回とも痕が残らないものを5/5のように表記した)。
【0034】
実 施 例 2〜4
実施例1の帯電防止剤を変え、その他は同様にして表面抵抗率を測定した。この結果を表1に示す。また、添加した導電性付与剤を以下に示す。
【0035】
【化7】

【0036】
実 施 例 5
実施例1の帯電防止剤を10質量部から5質量部に低下させて同様に表面抵抗率、外観を観察した。結果を表1に示す。
【0037】
比 較 例 1〜2
実施例1の帯電防止剤をビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(以下、「LiTFSI」と記す)(比較例1)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(以下、「LiTF」と記す)(比較例2)に変えた他は同様にして表面抵抗率測定、外観を観察した。
【0038】
比 較 例 3〜4
実施例1の帯電防止剤を1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、「EMI-TFS」Iと記す)(比較例3)、N−ブチル−3−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、「BMP-TFSI」と記す)(比較例4)に変えた他は同様にして表面抵抗率測定、外観を観察した。この結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実 施 例 6
実施例1〜4、比較例1〜4で作成した試料の表面を、水に濡らし軽く絞ったコットンを用いて10回拭いた。次いで、乾いたコットンで拭き、その後24時間放置した。24時間経過後、表面抵抗率を測定した。測定後の表面抵抗率の変化度合いを抵抗変化率(%)として示した。この結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
以上の実施例の結果から、本発明の帯電防止ウレタンアクリレート樹脂組成物を用いて形成された帯電防止ハードコート形成物は、帯電防止性に優れ、添加される帯電防止剤が低濃度でも帯電防止性能を発現させる事が確認された。これに対し、比較例のリチウム塩類では充分な導電性が得られず、湿度変化による変動も非常に大きく、EMIやBMPでは十分な膜硬度が得られなかった。更に、水拭きによる帯電防止剤の性能低下度合いについて試験した結果、本発明の帯電防止剤では性能低下が少ないのに対し、EMIやBMPでは性能低下が著しかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
帯電防止用組成物は電気絶縁性を有する基体に塗付、重合させる事により、基体上に帯電防止ハードコート形成物を形成し、基体に導電性を付与する事ができる
【0044】
そして、本発明の帯電防止用組成物を塗布する基体としては、この組成物を塗布、硬化させて被膜を形成させるものであれば、なんら制約を受けず利用することができる。この基体としては、例えば、光ディスク、各種ディスプレーに用いられるプラスチックフィルム等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示すか、これらが一緒になって炭素数4〜5のアルキレン基を形成しても良く、RおよびRは炭素数1〜4のフルオロアルキル基を示すか、これらが一緒になってフルオロアルキレン基を形成していても良い)
で表されるジアリルジアルキルアンモニウムカチオンのビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩を、ウレタンアクリレート樹脂成分に含有せしめてなる帯電防止用組成物。
【請求項2】
ウレタンアクリレート樹脂成分100質量部に対し、ジアリルジアルキルアンモニウムカチオンのビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩を2〜30質量部添加してなる請求項1記載の帯電防止用組成物。
【請求項3】
光重合開始剤またはラジカル開始剤が添加されてなる請求項1または2項記載の帯電防止用組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかの項記載の帯電防止組成物を用いて得られる帯電防止ハードコート形成物。
【請求項5】
表面抵抗率が、10〜1012Ω/□である請求項第4項記載の帯電防止ハードコート形成物。


【公開番号】特開2008−156430(P2008−156430A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345221(P2006−345221)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】