説明

常圧蒸留残渣油の分解方法

【課題】原油の常圧蒸留残渣油を脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油等の各留分の得率が増大し、脱硫重油の得率が低減するように分解し、さらにその残渣油である脱硫重油をLPG留分やFCCガソリン留分の得率が高くかつLCO留分の得率が低くなるように分解することができる常圧蒸留残渣油の分解方法を提供すること。
【解決手段】常圧蒸留残渣油を水素化分解処理し、得られた生成油を流動接触分解処理する常圧蒸留残渣油の分解方法であって、(a)水素化分解処理に用いる触媒が、結晶性アルミノシリケート45質量%以上70質量%以下と多孔性無機酸化物55質量%以下30質量%以上の混合物からなる担体に金属を担持した触媒であり、かつ(b)流動接触分解処理の原料が、前記水素化分解処理によって得られる残渣油と沸点120〜400℃の留出油との混合物であり、当該混合物における留出油の混合割合が1〜30容量%である、
ことを特徴とする常圧蒸留残渣油の分解方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧蒸留残渣油の分解方法に関し、詳しくは、原油の常圧蒸留残渣油を水素化分解処理し、得られた生成油を流動接触分解処理する常圧蒸留残渣油の分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原油の常圧蒸留残渣油は重油直接脱硫装置(以下、「直脱装置」と称する)にて水素化脱硫され、脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油などの留出油と脱硫重油を生成する。この脱硫重油は、低硫黄C重油として電力用のボイラー燃料などに用いられている。同時に脱硫重油は、流動接触分解(FCC)装置の原料としても使用され、接触分解ガソリン(以下、「FCCガソリン」と称する)、接触分解軽油(以下、「LCO」:ライトサイクルオイルと称する)、LPG留分等の軽質留分が生産されている。
近年、石油精製において使用できる原油は重質化し、重質油を多量に含む原油が多くなる傾向にある。しかも、発電、ボイラー用の重油の需要が減少するなど重質油の利用量は減少しつつある。また、流動接触分解装置からのLCO留分の需要も減少しつつある。一方、ガソリン需要は拡大し、また、プロピレン、ブテン及びベンゼン、トルエン、キシレンなどのBTX等の多数の石油化学製品の原料として使用されるLPG留分やナフサ留分の需要も増大してきている。したがって、常圧蒸留残渣油などの重質油からガソリンやナフサ留分、LPG留分などの軽質留分を多量に製造する技術開発が重要な課題となっている。
【0003】
このような状況から、重質油を直脱装置、間脱装置などの水素化脱硫装置にて水素化脱硫処理して得られる脱硫重油、脱硫重質軽油などをさらに分解して、脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油を増産する水素化分解法が開発されている。また、流動接触分解装置にて前記脱硫重油、脱硫重質軽油を高い分解率で接触分解することにより、LPG留分,FCCガソリン留分、LCO留分などの軽質留分へ転換することが行われている。
例えば、常圧蒸留残渣油を水素化分解処理することにより、脱硫灯軽油留分、脱硫ナフサ留分の得率を増大して脱硫重油を低減し、かつその脱硫重油を流動接触分解装置にてLPG留分、FCCガソリン留分、LCO留分を生産することによって、トータル的に残渣油を低減し、軽質油留分を増大させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この方法では、常圧蒸留残渣油を水素化分解して得られる脱硫重油の性状が悪く、それを供給原料とする流動接触分解によって得られるLCO留分の得率が高く、LPG留分やFCCガソリン留分など需要の多い軽質留分の得率が十分ではない。
したがって、常圧蒸留残渣油などの重質油を水素化分解処理によって得られる脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油等の各留分およびこれに続く流動接触分解装置において接触分解によって得られるLPG留分、FCCガソリン留分などの軽質留分を増産できるとともに、需要が少ないLCO留分の生産を抑制できる重質油の分解方法が期待されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−112785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、原油の常圧蒸留残渣油を脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油等の各留分の得率が増大し、脱硫重油の得率が低減するように分解し、さらにその残渣油である脱硫重油をLPG留分やFCCガソリン留分の得率が高くかつLCO留分の得率が低くなるように分解することができる常圧蒸留残渣油の分解方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、原油の常圧蒸留残渣油を特定の触媒を用いて水素化分解処理し、さらに前記水素化分解処理して得られた脱硫重油と特定の留出油との混合物を流動接触分解処理に処することによって、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕常圧蒸留残渣油を水素化分解処理し、得られた生成油を流動接触分解処理する常圧蒸留残渣油の分解方法であって、
(a)水素化分解処理に用いる触媒が、結晶性アルミノシリケート45質量%以上70質量%以下と多孔性無機酸化物55質量%以下30質量%以上の混合物からなる担体に金属を担持した触媒であり、かつ
(b)流動接触分解処理の原料が、前記水素化分解処理によって得られる残渣油と沸点120〜400℃の留出油との混合物であり、当該混合物における留出油の混合割合が1〜30容量%である、
ことを特徴とする常圧蒸留残渣油の分解方法、
〔2〕前記水素化分解処理に用いる触媒の細孔分布が、細孔径50〜10,000Åの細孔の総細孔容積に対し、細孔径500〜10,000Åの細孔の総細孔容積が10%以上であり、細孔径100〜200Åの細孔の総細孔容積が25%以上である前記〔1〕に記載の常圧蒸留残渣油の分解方法、
〔3〕結晶性アルミノシリケートが、USYゼオライト又は金属担持USYゼオライトであり、多孔性無機酸化物がアルミナである前記〔1〕又は〔2〕に記載の常圧蒸留残渣油の分解方法、及び
〔4〕結晶性アルミノシリケートが鉄担持USYゼオライトである上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の常圧蒸留残渣油の分解方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原油の常圧蒸留残渣油を脱硫ナフサ、脱硫灯油、脱硫軽油等の各留分の得率が増大し、脱硫重油の得率が低減するように分解し、さらにその残渣油である脱硫重油をLPG留分やFCCガソリン留分の得率が高くかつLCO留分の得率が低くなるように分解することができる常圧蒸留残渣油の分解方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、常圧蒸留残渣油を水素化分解処理し、得られた生成油を流動接触分解処理する常圧蒸留残渣油の分解方法であって、
(a)水素化分解処理に用いる触媒が、結晶性アルミノシリケート45質量%以上70質量%以下と多孔性無機酸化物55質量%以下30質量%以上の混合物からなる担体に金属を担持した触媒であり、かつ
(b)流動接触分解処理の原料が、前記水素化分解処理によって得られる残渣油と沸点120〜400℃の留出油との混合物であり、当該混合物における留出油の混合割合が1〜30容量%であること、を特徴とする。
【0010】
本発明における水素化分解処理は、水素化分解反応と同時に水素化脱硫反応、水素化脱窒素反応、水素化脱メタル反応などが行われ、水素高圧下の条件で行う。このような高圧下での水素化分解反応を実施する装置としては、通常、直脱装置が用いられる。
【0011】
本発明における水素化分解の条件は、特に制限はなく、従来、重質油の水素化分解や水素化脱硫反応で行われている反応条件で行えばよく、通常は反応温度が好ましくは320〜550℃、より好ましくは350〜430℃、水素分圧が好ましくは1〜30MPa、より好ましくは5〜17MPa、水素/油比が好ましくは100〜2000Nm3/キロリットル、より好ましくは300〜1000Nm3/キロリットル、液空間速度(LHSV)が好ましくは0.1〜5h-1、より好ましくは0.2〜2.0h-1の範囲で適宜選定すればよい。
また、減圧残渣油、コーカー油、合成原油、抜頭原油、重質軽油、減圧軽油、LCO、HCO(ヘビーサイクルオイル)、CLO(クラリファイドオイル)、GTL油、ワックス等の重質油を常圧蒸留残渣油と混合して水素化分解処理をすることもできる。
【0012】
本発明の水素化分解処理で用いる触媒は、結晶性アルミノシリケートと多孔性無機酸化物の混合物からなる担体に金属を担持した触媒であることが必要である。
前記結晶性アルミノシリケートとしては、種々のものが使用できるが、例えば、水素型フォージャサイト、USYゼオライト、金属担持USYゼオライトなどが挙げられ、中でもUSYゼオライト、金属担持USYゼオライトが好ましく、特に、金属担持USYゼオライトが好ましい。
当該金属担持USYゼオライトとしては、USYゼオライトに周期表第3〜16族から選ばれる1種または2種以上の金属を担持した金属担持USYゼオライトが好ましく、特に、金属として鉄を担持した鉄担持USYゼオライトが好適である。
【0013】
前記USYゼオライト、金属担持USYゼオライトは、例えば、以下の方法によって製造することができる。
USYゼオライトの原料として、アルミナに対するシリカの比率(モル比)、つまりSiO2/Al23が4.5以上、好ましくは5.0以上であり、また、Na2Oが2.4質量%以下、好ましくは1.8質量%以下のY型ゼオライトを用いる。
まず、上記のY型ゼオライトをスチーミング処理してUSYゼオライトとする。ここでスチーミング処理の条件としては様々な状況に応じて適宜選定すればよいが、温度510〜810℃の水蒸気の存在下で処理するのが好ましい。水蒸気は、外部から導入してもよいし、Y型ゼオライトに含まれる物理吸着水や結晶水を使用してもよい。また、スチーミング処理して得られたUSYゼオライトに鉱酸を加え、混合攪拌処理することによって、ゼオライト構造骨格からの脱アルミニウムとスチーミングおよび鉱酸処理により脱落アルミニウムの洗浄除去を行う。
このような鉱酸としては各種のものが挙げられるが、塩酸、硝酸、硫酸などが一般的であり、そのほかリン酸、過塩素酸、ペルオクソ二スルホン酸、二チオン酸、スルファミン酸、ニトロソスルホン酸等の無機酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸などを用いることもできる。添加すべき鉱酸の量は、USYゼオライト1kgあたり0.5〜20モルとし、好ましくは3〜16モルとする。鉱酸濃度は0.5〜50質量%溶液、好ましくは1〜20質量%溶液である。処理温度は、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃である。処理時間は0.1〜12時間である。
【0014】
続いてこの系に金属塩溶液を加えてUSYゼオライトに金属を担持する。担持する方法としては混合攪拌処理、浸漬法、含浸法が上げられ、混合撹拌処理が好ましい。金属としては周期表第3族のイットリア、ランタン、第4族のジルコニア、チタン、第5族のバナジウム、ニオブ、タリウム、第6族のクロム、モリブデン、タングステン、第7族のマンガン、レニウム、第8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、第9族のコバルト、ロジウム、イリジウム、第10族のニッケル、パラジウム、白金、第11族の銅、第12族の亜鉛、カドミウム、第13族のアルミニウム、ガリウム、第14族のスズ、第15族のリン、アンチモン、第16族のセレンなどが上げられる。この中で、チタン、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金が好ましく、特に鉄が好ましい。
【0015】
各種金属の塩としては硫酸塩、硝酸塩が好ましい。金属塩溶液処理を行う場合、状況により異なり一義的に決定することはできないが、通常は処理温度30〜100℃、好ましくは50〜80℃、処理時間0.1〜12時間、好ましくは0.5〜5時間とし、これらの金属の担持はゼオライト構造骨格から脱アルミニウムと同時に行うことが好ましく、pH2.0以下、好ましくは1.5以下の範囲で適宜選定し、実施する。鉄の塩の種類は、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄を挙げることができるが、硫酸第二鉄が好ましい。この鉄の硫酸塩はそのまま加えることもできるが、溶液として加えることが好ましい。この際の溶液は鉄塩を溶解するものであればよいが、水、アルコール、エーテル、ケトン等が好ましい。また、加える鉄の硫酸塩の濃度は、通常は0.02〜10.0モル/リットル、好ましくは0.05〜5.0モル/リットルである。
なお、この鉱酸と鉄の硫酸塩を加えて結晶性アルミノシリケートを処理するにあたっては、そのスラリー比、すなわち、処理溶液容量(リットル)/アルミノシリケート重量(kg)は、1〜50の範囲が好都合であり、特に5〜30が好適である。
上述の処理により得られる鉄担持結晶性アルミノシリケートは、さらに必要に応じて水洗、乾燥を行う。
以上のようにして、USYゼオライト、金属担持USYゼオライトを製造することができる。
【0016】
一方、結晶性アルミノシリケートと混合して担体を構成する多孔性無機酸化物としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、アルミナ−ボリア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−チタニアが挙げられ、アルミナとしてはベーマイトゲル、アルミナゾルまたはこれらから製造されるアルミナが用いられる。中でも活性金属が高分散担持できる点でアルミナが好適である。
【0017】
本発明の水素化分解工程に使用する触媒の担体は、前記のUSYゼオライトおよび金属担持USYゼオライトなどの結晶性アルミノシリケートと多孔性無機酸化物を混合したものを用いる。また、その混合割合は、結晶性アルミノシリケート45質量%以上70質量%以下と多孔性無機酸化物55質量%以下30質量%以上であることが必要である。結晶性アルミノシリケートと多孔性無機酸化物との混合において結晶性アルミノシリケートの割合が少なすぎると、所望の分解率、軽質留分や中間留分を得るのに高い反応温度を必要とし、その結果、触媒の寿命に悪影響を与える。また、結晶性アルミノシリケートの割合が多すぎると、分解活性は向上するが、過分解によりガス分が多くなり所望の軽質留分や中間留分の選択性が下がる。
一方、アルミナなどの多孔性無機酸化物は担持される活性金属を高度に分散させるため、多孔性無機酸化物の割合が多いと水素化活性が高く、脱硫活性、脱窒素活性、脱残炭活性、脱アスファルテン活性、脱メタル活性が向上するが、結晶性アルミノシリケートの割合が少なくなり、所望の分解率、軽質留分や中間留分を得るのが困難になる。また、多孔性無機酸化物の割合が少ないと脱硫活性、脱窒素活性、脱残炭活性、脱アスファルテン活性、脱メタル活性などの水素化活性が低下する。そのため結晶性アルミノシリケートを含む触媒と多孔性無機酸化物の混合割合は、結晶性アルミノシリケート45〜65質量%と多孔性無機酸化物55〜35質量%からなるものがより好適であり、特に結晶性アルミノシリケート45〜55質量%と多孔性無機酸化物55〜45質量%からなるものが好適である。
【0018】
また、本発明の水素化分解処理に使用する触媒の担体を製造するためには、上記USYゼオライトおよび金属担持USYゼオライトなどの結晶性アルミノシリケートは水洗後の水を含有したスラリー状態として使用することが好ましい。そして、上記結晶性アルミノシリケートと多孔性無機酸化物を十分な水分量のもとにニーダー(混練機)にて十分に混合する。
多孔性無機酸化物はゲル状又はゾル状であるが、結晶性アルミノシリケートと同じように水を加えてスラリー状として結晶性アルミノシリケートと混合する。それぞれのスラリー状態での水分量は、結晶性アルミノシリケートスラリーでは30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。多孔性無機酸化物スラリーでは50〜90質量%が好ましく、55〜85質量%がより好ましい。
上記の結晶性アルミノシリケートと多孔性無機酸化物を混合捏和したのち、1/12インチ〜1/32インチの径、長さ1.5mm〜6mmに成型し、円柱状、三つ葉型、四葉型の形状の成型物を得る。成型物は30〜200℃、0.1〜24時間乾燥させ、次いで、300〜750℃(好ましくは450〜700℃)で、1〜10時間(好ましくは2〜7時間)焼成し担体とする。
【0019】
次に、この担体に、周期表第6族、第8族、第9族、第10族金属のうち少なくとも一種の金属を担持する。ここで周期表第6族に属する金属としては、モリブデン、タングステンが好ましく、また第8〜10族に属する金属としては、ニッケル、コバルトが好ましい。二種類の金属の組合せとしては、ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン、コバルト−タングステンなどが挙げられ、なかでもコバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデンが好ましく、特に、ニッケル−モリブデンが好ましい。
上記活性成分である金属の担持量は、特に制限はなく原料油の種類や、所望するナフサ留分の得率などの各種条件に応じて適宜選定すればよいが、通常は第6族の金属は触媒全体の0.5〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、第8〜10族の金属は、触媒全体の0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【0020】
上記金属成分を担体に担持する方法については特に制限はなく、例えば、含浸法,混練法,共沈法などの公知の方法を採用することができる。
上記の金属成分を担体に担持したものは、通常30〜200℃で、0.1〜24時間乾燥し、次いで、250〜700℃(好ましくは300〜650℃)で、1〜10時間(好ましくは2〜7時間)焼成して、触媒として仕上げられる。
【0021】
本発明の水素化分解に用いる触媒は、以下の要件を満たすものが好ましい。
(1)細孔容積
本発明に用いる水素化分解触媒は、細孔径50〜10,000Åの細孔の総細孔容積に対し、細孔径500〜10,000Åの細孔の細孔容積が10%以上であることが好ましい。また、細孔径100〜200Åの細孔の細孔容積が、細孔径50〜10,000Åの細孔の総細孔容積に対し25%以上であることが好ましく、細孔径50〜500Åの細孔の細孔容積に対し50%以上であることがより好ましい。
このような細孔分布を有する触媒は、残渣油中のアスファルテン分等の高分子量炭化水素を拡散しやすく制御でき、重質油の水素化および分解を行い易くすることができる。
なお、細孔容積は、水銀ポロシメーターを用い、水銀圧入法により求めた値である。
(2)比表面積
本発明に用いる水素化分解触媒は、比表面積が200〜600m2/gであるものが好ましく、350〜500m2/gがより好ましい。比表面積が200m2/g以上であれば、重質油分解に適した分解活性点の充分な量を触媒表面に配置でき、600m2/g以下であれば、重質油分子の拡散に充分大きな細孔を有することができる。なお、比表面積は、窒素ガスによるBET1点法により測定した値である。
(3)全細孔容量
また、当該触媒の窒素ガス吸着法による全細孔容量は0.4cc/g以上であることが好ましく、0.5cc/g以上がより好ましい。全細孔容量が0.4cc/g以上であれば重質油分子の拡散を高めることができる。
【0022】
上記製造法および物性範囲にて得られた水素化分解触媒は、水素化活性が向上し、残渣油(343℃以上の沸点を持つ留分)の分解活性が高く、且つ脱残炭活性をはじめ、脱硫活性、脱窒素活性、脱アスファルテン活性、脱メタル活性が高く、重質油留分の軽質化に好適であり、生成する脱硫ナフサ留分、脱硫灯軽油留分の収率も増加する。
【0023】
本発明の水素化分解処理では、本発明の触媒を単独で用いてもよいが、一般の水素化処理触媒と組み合わせたものを用いてもよい。組み合わせのパターンとしては、例えば全触媒充填量に対して第一段目に脱メタル触媒を10〜40容量%、第二段目に脱硫触媒を0〜50容量%、第三段目に本発明の水素化分解触媒を10〜70容量%、第四段目にフィニシングの脱硫触媒として0〜40容量%の充填パターンが好ましい。これらは原料油の性状等によっては種々の充填パターンとすることができる。第一段目の脱メタル触媒の前に原料油中に含まれる鉄粉、無機酸化物等のスケールを除去する脱スケール触媒を充填しても良い。
【0024】
本発明においては、このような触媒を用いて常圧蒸留残渣油を水素化分解処理し、得られた生成油の残渣油と留出油との混合油を原料とし、流動接触分解処理する。
この場合、留出油としては、沸点120〜400℃の留出油が好適である。沸点が120℃未満の留出油では、良好な沸点範囲の分解生成物が得られず、一方沸点が400℃を越える留出油では留出油を混合する効果やFCCガソリンなどを増量する効果が十分ではないことがある。したがって、留出油としては、沸点範囲が150〜350℃のものがより好ましい。
また、流動接触分解処理の原料における留出油の混合割合は、1〜30容量%であることが必要である。留出油の混合割合が、1容量%未満では、LPG留分やFCCガソリン留分を増量する効果が十分ではなく、一方、30容量%を超えるとLPG留分やFCCガソリン留分の収率が低くなり、ガス分が多くなってしまう恐れがある。好ましい混合割合は、3〜20容量%である。
また、留出油を残渣油に混合する方法としては、残渣油を流動接触分解装置に導入する配管で混合しても良いし、直脱装置の蒸留設備において上記留出油を残渣油にカットバックしても良い。
【0025】
本発明は、上記の原料を用いて接触分解処理を行う。当該接触分解処理は、特に制限はなく、公知の方法、条件で行えばよい。例えば、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシアなどのアモルファス触媒や、フォージャサイト型結晶アルミノシリケートなどのゼオライト触媒を用い、反応温度450〜650℃、好ましくは480〜580℃、再生温度550〜760℃、反応圧力0.02〜5MPa、好ましくは0.2〜2MPaの範囲で適宜選定すればよい。
【0026】
本発明の常圧蒸留残渣油の分解処理では、最終工程である流動接触分解の生成油が、燃料や石油化学製品の原料として有用な、FCCガソリン留分およびLPG留分の割合を高く、需要が少ないLCO留分の割合を低くすることができる。
さらに、中間工程である直脱装置などによる水素化分解生成物におけるいわゆる中間留分である灯軽油留分や軽質留分であるフサ留分などの得率が高く、燃料や石油化学製品の原料として活用できる。
【0027】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
なお、実施例、比較例では、原料として第1表に示す性状、留分分布を有するアラビアンライトの常圧蒸留残渣油を用いた。
【0028】
【表1】

【0029】
また、実施例で用いた水素化分解触媒の調製及びその物性の評価は、以下のようにして行った。
1.触媒の調製
〔水素化分解触媒I〕
(1)結晶性アルミノシリケートの調製
Na−Y型ゼオライト(Na2O含量:13.3質量%,SiO2/Al23(モル比):5.0)をアンモニウムイオン交換し、NH4−Yゼオライト(Na2O含量:1.3質量%)を得た。これを650℃でスチーミング処理してスチーミングY型ゼオライトとした。10kgのスチーミングY型ゼオライトを純水115リットルに懸濁させた後、該懸濁液を75℃に昇温し30分間攪拌した。次いでこの懸濁液に10質量%硫酸溶液63.7kgを35分間で添加し、更に濃度0.57モル/リットルの硫酸第二鉄溶液11.5kgを10分間で添加し、添加後更に30分間攪拌した後、濾過、洗浄し、固形分濃度30.5質量%の鉄担持USYゼオライトスラリーIを得た。X線回折法により求めた格子定数は24.30Åであった。
(2)アルミナスラリーの調製
アルミン酸ナトリウム溶液(Al23換算濃度:5.0質量%)80kg及び50質量%のグルコン酸溶液240gを容器に入れ、60℃に加熱した。次いで硫酸アルミニウム溶液(Al23換算濃度:2.5質量%)88kgを別容器に準備し、15分間でpH7.2になるように該硫酸アルミニウム溶液を添加し水酸化アルミニウムスラリーを得た。60℃に保ったまま、60分間熟成した。次いで、水酸化アルミニウムスラリーをろ過脱水し、アンモニア水で洗浄し、アルミナケーキとした。該アルミナケーキの一部を純水と15質量%のアンモニア水を用い、アルミナ濃度12.0質量%、pH10.5のスラリーを得た。このスラリーを熟成タンクに入れ攪拌しながら95℃で8時間熟成した。次いで、この熟成スラリーに純水を加え、アルミナ濃度9.0質量%に希釈した後、攪拌機付オートクレーブに移し、145℃で5時間熟成した。更にAl23換算濃度で20質量%となるように加熱濃縮すると同時に脱アンモニアし、アルミナスラリーAを得た。
【0030】
(3)触媒の調製
1,230gの鉄担持USYゼオライトスラリーI(30.5質量%濃度)と1,875.8gのアルミナスラリーA(20質量%濃度)をニーダーに加え、加熱、攪拌しながら押し出し成形可能な濃度に濃縮した後、1/18インチサイズの四つ葉型ペレット状に押し出し成形した。次いで、110℃で16時間乾燥した後、550℃で3時間焼成し、鉄担持USYゼオライト/アルミナ(固形分換算質量比)で50/50の担体Iを得た。
次いで、三酸化モリブデンと炭酸ニッケルを純水に懸濁したものを90℃に加熱し、次いでリンゴ酸を加え溶解させた。この溶解液を担体Iにそれぞれ触媒全体に対してMoO3として10.0質量%、NiOとして4.25質量%になるように含浸し、次いで乾燥させ、550℃で3時間焼成し、水素化分解触媒Iを得た。この触媒は比表面積473m2/g、全細孔容量0.61cc/gであった。また、水銀ポロシメーターによる、細孔径50〜10,000Åの細孔容積に対し細孔径500〜10,000Åの細孔容積が11%であった。さらに、細孔径100〜200Åの細孔容積が細孔径50〜10,000Åの細孔容積の59%であり、細孔径50〜500Åの細孔容積の65%であった。触媒の組成及び物性を第2表に示す。
【0031】
〔水素化分解触媒II〕
水素化分解触媒Iの触媒の調製において、鉄担持USYゼオライトスラリーI(30.5質量%濃度)を1,476gとし、アルミナスラリーA(20質量%濃度)を1,500gとしてニーダーに加えた以外は同様に調製し、鉄担持USYゼオライト/アルミナ(固形分換算質量比)で60/40の担体IIを得た。
引き続き、三酸化モリブデンと炭酸ニッケルを純水に懸濁したものを90℃に加熱し、次いでリンゴ酸を加え溶解させた。この溶解液を担体IIにそれぞれ触媒全体に対してMoO3として10.0質量%、NiOとして4.25質量%になるように含浸し、次いで乾燥させ、550℃で3時間焼成し、水素化分解触媒IIを得た。この触媒は比表面積517m2/g、全細孔容量0.56cc/gであった。水銀ポロシメーターによる、細孔径50〜10,000Åの細孔容積に対し細孔径500〜10,000Åの細孔容積が32%であった。さらに、細孔径100〜200Åの細孔容積が細孔径50〜10,000Åの細孔容積の43%であり、細孔径50〜500Åの細孔容積の63%であった。触媒の組成及び物性を第2表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
2.触媒の物性の評価方法
〔鉄担持USYゼオライトの物性測定〕
(1)格子定数:鉄担持USYゼオライトを乾燥させたものとシリコン内部標準粉末をよく混合、粉砕し、X線粉末回折用サンプルホルダーに充填した。これをCu管球、印加電圧40KV、印加電流40mAにてステップスキャンで測定し、得られたピーク角度より鉄担持USYゼオライトの格子定数(UD)を算出した。
〔触媒の物性測定〕
(1)細孔容積:水銀ポロシメーターを用い、水銀圧入法により触媒の細孔分布および細孔容積を求めた。
(2)比表面積および全細孔容量:比表面積は、窒素ガス吸着によるBET1点法により測定した。全細孔容量は、液体窒素温度における窒素ガスの飽和蒸気圧P0に対する窒素ガスの平衡蒸気圧P(P/P0)が0.99の時の窒素吸着量から測定した。
【0034】
〔触媒の水素化分解活性評価〕
成形した触媒のペレットを高圧固定床反応器に充填し、硫化処理した後、アラビアンライトの常圧蒸留残渣油を原料油として、反応温度はWAT(Weight Average Temparature:重量平均温度)で395℃、液空間速度(LHSV)0.2h-1、水素分圧12.8MPa、水素/油比900Nm3/キロリットルの条件で水素化分解処理を行った。
得られた生成油を蒸留ガスクロマトグラフィー法により分析を行い、沸点343+℃留分(343℃より高い沸点の留分)分解率、中間留分として灯軽油留分(沸点範囲150〜343℃留分)収率を求め、常圧蒸留残渣油の水素化分解活性を評価した。
【0035】
実施例1
(1)一段目に市販の脱メタル触媒(CDS−DM5C:触媒化成工業製)を24容量%、二段目に市販の脱硫触媒A(CDS−R25N:触媒化成工業製)を20容量%、三段目に水素化分解触媒Iを28容量%、四段目に市販の脱硫触媒B(CDS−R35N:触媒化成工業製)を28容量%の順に直列4段に充填し、合計250ccを高圧固定床反応器に充填し、硫化処理した後、アラビアンライトの常圧蒸留残渣油を原料油として、以下の条件で水素化分解処理を行い、脱硫灯軽油留分(沸点範囲150〜343℃留分)の得率(質量%)を測定した。結果を第3表に示す。
水素化分解条件
反応温度(WAT) 395℃
液空間速度(LHSV) 0.2h-1
水素分圧 12.5MPa(128kg/cm2
水素/油比 900Nm3/キロリットル
なお、各触媒層の反応温度は、一段目386℃、二段目383℃、三段目401℃、四段目406℃とした。
【0036】
(2)(1)の水素化分解処理によって得られた生成油をJIS K 2601の理論段数15段の精留塔を用いた蒸留試験方法に基づき蒸留し、ガス分(C4-)、脱硫ナフサ留分(沸点範囲C5〜150℃)、脱硫灯油留分(沸点範囲150〜250℃)、脱硫軽油留分(沸点範囲250〜343℃)及び残渣油である脱硫重油留分(343+℃)に分留した。
次いで、これらの留分のうち、脱硫重油及び脱硫軽油留分(沸点範囲250〜343℃)との混合物(脱硫軽油留分の混合割合が5容量%)を原料とし、市販平衡触媒を使用して、反応温度530℃、触媒/原料油比=5.0(質量比)の条件下で流動接触分解処理を行った。
流動接触分解処理の反応生成物について、ガスクロ蒸留にてガス分、PP留分(プロパン、プロピレン)、BB留分(ブタン、ブチレン)、FCCガソリン留分(沸点範囲C5〜185℃の留分)、LCO留分(沸点範囲185〜370℃留分)、及び残渣油留分(分解重油:HCO+CLO)の収率(容量%)を測定した。結果を第3表に示す。
なお、HCOはヘビーサイクルオイル、CLOはクラリファイドオイルである。
【0037】
実施例2
実施例1において脱硫軽油留分(沸点範囲250〜343℃)の混合割合を3容量%とした以外は実施例1と同様にして水素化分解処理および流動接触分解処理を行った。結果を第3表に示す。
【0038】
実施例3
実施例1において脱硫軽油留分(沸点範囲250〜343℃)の混合割合を15容量%とした以外は実施例1と同様にして水素化分解処理および流動接触分解処理を行った。結果を第3表に示す。
【0039】
実施例4
実施例1において水素化分解触媒Iを水素化分解触媒IIに変えた以外は実施例1と同様にして、水素化分解処理および流動接触分解処理を行った。結果を第3表に示す。
【0040】
比較例1
本発明の実施例1において、三段目の触媒を、水素化分解触媒Iを充填せずに二段目と同じ脱硫触媒Aに変えた以外は実施例1と同様にして水素化分解処理および流動接触分解処理を行った。結果を第3表に示す。
【0041】
比較例2
本発明の実施例1において、脱硫軽油留分(沸点範囲250〜343℃)を混合せずに、残渣油のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして水素化分解処理及び流動接触分解処理を行った。結果を第3表に示す。
【0042】
比較例3
本発明の実施例1において、脱硫軽油留分(沸点範囲250〜343℃)の混合割合を40容量%とした以外は実施例1と同様にして水素化分解処理および流動接触分解処理を行った。結果を第3表に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
第3表より、本発明の常圧蒸留残渣油の分解方法(実施例1〜4)は、本発明の水素化分解触媒を用いない比較例1の方法に比べて、水素化分解処理による中間留分(脱硫灯軽油留分)の得率が高いことが分かる。また、流動接触分解処理による生成油では、FCCガソリン留分、LPG留分の収率が高く、かつLCO留分の得率が低い。
これに対し、比較例2の方法のように、流動接触分解処理の原料として、留出油を混合せずに、残渣油のみを用いた場合や比較例3の方法のように、流動接触分解の原料として留出留分の割合を多くし40容量%にした場合は、いずれもFCCガソリン留分の得率が低く、LCO留分の得率が高くなる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の常圧蒸留残渣油の分解方法によれば、水素化分解において中間留分である灯軽油留分の生成割合が高く、かつ流動接触分解において軽質留分であるFCCガソリン留分やLPG留分を増産できるとともに、LCO留分の生産を減少することができる。したがって、ガソリン燃料に使用されるガソリン基材や石油化学製品の基礎原料を増産することができる方法として有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧蒸留残渣油を水素化分解処理し、得られた生成油を流動接触分解処理する常圧蒸留残渣油の分解方法であって、
(a)水素化分解処理に用いる触媒が、結晶性アルミノシリケート45質量%以上70質量%以下と多孔性無機酸化物55質量%以下30質量%以上の混合物からなる担体に金属を担持した触媒であり、かつ
(b)流動接触分解処理の原料が、前記水素化分解処理によって得られる残渣油と沸点120〜400℃の留出油との混合物であり、当該混合物における留出油の混合割合が1〜30容量%である、
ことを特徴とする常圧蒸留残渣油の分解方法。
【請求項2】
前記水素化分解処理に用いる触媒の細孔分布が、細孔径50〜10,000Åの細孔の総細孔容積に対し、細孔径500〜10,000Åの細孔の総細孔容積が10%以上
であり、細孔径100〜200Åの細孔の総細孔容積が25%以上である請求項1に記載の常圧蒸留残渣油の分解方法。
【請求項3】
結晶性アルミノシリケートが、USYゼオライト又は金属担持USYゼオライトであり、多孔性無機酸化物がアルミナである請求項1又は2に記載の常圧蒸留残渣油の分解方法。
【請求項4】
結晶性アルミノシリケートが鉄担持USYゼオライトである請求項1〜3のいずれかに記載の常圧蒸留残渣油の分解方法。

【公開番号】特開2009−242487(P2009−242487A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88607(P2008−88607)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】