説明

干渉防止用案内カム機構

【課題】本発明は、干渉防止用案内カム機構に関し、従来のダブルカムやロータリーカムにおける、金型のスペースが大きくなることや加工が複雑でコスト高となることが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】ワーク2の負角形成部を曲げ加工する曲面を有するダイス側の案内カム3を、この案内カムの下部に横架されて当該案内カムを軸支する2本のシャフト4とプレス金型における下型に一端部を回転自在に支持され揺動する2本のリンクプレート5,5の他端部とをそれぞれ回転自在に連結し、前記2本のシャフトの内の一方のシャフトに係合して該一方のシャフトを進退移動させる、若しくは前記案内カム3の本体に係合して当該案内カム3を進退移動させる進退装置6を設けて、前記ワーク2の負角形成部から待避可能にするとともに、前記案内カム3が負角成形位置に進出した後に当該案内カム2を位置固定して成形力を負担する案内カム固定装置8が設けられている干渉防止用案内カム機構1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用のパネル等のワークを、稼動金型と固定金型とに取り付けたカム装置によって曲げ加工を行う場合で、負角形成する場合における、曲げ加工後ワークを取り出し搬送する際に金型の負角形成部との干渉を避けるようにする干渉防止用案内カム機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カム装置により例えば、フランジ曲げ工程において自動車等のパネルを加工した後に、このパネルの取り出し搬送による負角形成部との干渉を避けるためには、図5に示すように、ダブルカム機構、ロータリーカム機構及び単リンク案内カム機構が知られている。(特許文献1および2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−135526号公報
【特許文献2】特開2010−005681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のダブルカム、ロータリーカム、単リンク案内カム等のカム装置においては、例えばダブルカム装置では案内カムと加工カムの双方を同一のカムドライバーで駆動させるため、案内カムが大きくなり、金型への取り付けスペースが大きくなる。
また、ロータリーカム装置では、ロータリーカムの摺動面が曲面となるため、カムホルダーが下型一体となった時は、そのカムホルダー加工には5軸加工が必要となるので、設備コストが嵩むことになる。
また、単リンク案内カム装置では、案内カムの動きを規制するリンクが1つしか使用されていないために、案内カムの動作量を大きくし、且つ、単リンクの回転半径を小さくすると案内カムの動きが安定せず、従って、案内カムの動作量とリンクの回転半径には制限が生じてしまい、案内カムの動作量を自由に選択することができなかった。
以上のような理由により、自動車のデザインにより決まる複雑な外板パネル形状に合わせて案内カムを設定するには複数のカム装置を必要としていた。
本発明に係る干渉防止案内カム装置は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るパネルの負角形成部の干渉防止用案内カム機構の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、ワークの負角形成部を曲げ加工する曲面を有するダイス側の案内カムを、この案内カムの下部に横架されて当該案内カムを軸支する2本のシャフトとプレス金型における下型に一端部を回転自在に支持され揺動する2本のリンクプレートの他端部とをそれぞれ回転自在に連結し、前記2本のシャフトの内の一方のシャフトに係合して該一方のシャフトを進退移動させる、若しくは前記案内カムの本体に係合して当該案内カムを進退移動させる進退装置を設けて、前記ワークの負角形成部から待避可能にするとともに、前記案内カムが負角成形位置に進出した後に当該案内カムを位置固定して成形力を負担する案内カム固定装置が設けられていることである。
【0006】
前記進退装置は、シャフト若しくは案内カムの本体に連結されたロッドを有する油・空気シリンダー,油圧・空気圧モータ若しくは電動モータのいずれかであることである。
また、前記案内カム固定装置は、位置固定するために出没するクサビブロック若しくはネジ機構であり、前記案内カム固定装置がクサビブロックの場合には、該クサビブロックのブロック上部に設けたテーパ面が、案内カムの下部に設けたテーパ面に摺接してこれを位置固定させるものであることを含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の干渉防止用案内カム装置によれば、従来の発明に比べて案内カムの動作量および動きの軌跡の設定をより自由に設定することが可能となり、更に案内カムの各部分の動きは平行リンクまたは長さの異なる2つのリンクにより規定される円弧運動を同時に、且つ、同一に行うために、従来発明における単リンク案内カム装置では実現できなかった3次元的に複雑な形状の案内カムを一つの装置で、パネル等のワークのプレス成形加工前後におけるプレス金型或いは成形後のワークとの干渉を避けて動かすことが可能となる。
更に、複数のカム装置を用いた場合に生じる各カム装置間のつなぎ部の誤差を解消するための高度な仕上げ作業や調整作業による工数の増大、或いはパネル形状の変更といった不具合も解消できるようになる。
そして、本発明における該リンクは任意の位置に設定できるので、従来のロータリーカム装置に比べて小型化すること、特に高さを低く設計することが可能となる。
前記案内カムがプレス金型のワーク成形加工中に受ける成形力をリンクのみで抗して受けないように、案内カムの成形加工時の停止位置を確認して作動する他の案内カム固定装置を設置することにより、案内カムの動作量とその円弧運動のリンクの回転半径の選択における自由度を拡大でき、且つ、プレス金型のワ−ク成形加工中における成形力によるリンクの破損および案内カムの不必要な位置ズレを防止することができる。
【0008】
また、従来のロータリーカムの場合におけるホルダーの曲面形成のために5軸加工のような高コストの加工が、この案内カム機構では不要となり低コストで加工することができる。
なお、以上の効果は平行リンクを使用した場合に顕著であるが、長さの異なる2つのリンクの場合、つまり平行リンクでない場合もパネル形状に依っては案内カムの各部分の動きの同一性が無くなることにより、より良い効果が生じる。
【0009】
更に、本リンク機構により案内カムの動きを規制することから、各リンクの固定点の位置およびリンク長さ、初期角度等を変更して案内カムの可動量や可動方向を容易に変えることができる。そして、可動時においては、案内カムの摺動が無いので、クリアランス調整が不要となり、調節の手間が省ける。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る干渉防止用案内カム機構1の加工時における側面図である。
【図2】同本発明の干渉防止用案内カム機構1の待避状態の側面図である。
【図3】同干渉防止用案内カム機構1の移動状態を示す説明図である。
【図4】同干渉防止用案内カム機構1の案内カム3を位置決めする実施例を示す説明図である。
【図5】従来例に係る干渉防止用のカム機構を示す概略構成図(A),(B)である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
本発明に係る干渉防止用案内カム機構1は、図1に示すように、自動車などのパネルなどであるワーク2を曲げ加工する曲面を有するダイス側の案内カム3を、この案内カム3の下部に横架されて当該案内カム3を軸支する2本のシャフト4,4と、プレス金型における下型7に一端部5aを回転支持軸4aを介して回転自在に支持され揺動する平行なリンクプレート5,5の他端部5bとをそれぞれ連結し、前記2本のシャフト4,4の内の一方のシャフト4に係合して該一方のシャフト4を進退移動させる、若しくは案内カム3の本体に係合して当該案内カム3を進退移動させる進退装置6を設けて、前記ワーク2の負角形成部から待避可能にする。更に、前記案内カム3が負角成形位置に進出した後に当該案内カム3を位置固定して、金型から負荷される成形力を負担する案内カム固定装置8が設けられている。
【0012】
前記進退装置6は、例えば、図1乃至図2に示すように、一方のシャフト4(図1の左側)に連結されたロッド6aを有するエアーシリンダー6bである。この進退装置6の駆動装置としては、シャフトに連結されたロッドを有する油・空気シリンダー,油圧・空気圧モータ若しくは電動モータのいずれか一つにすることができる。なお、前記進退装置6は、前記シャフトに連結させて案内カム3を進退させるほか、直接的に、案内カム3の本体に前記ロッド6aを連結させて当該案内カム3を進退させることができるのは勿論である。また、進退装置6の駆動装置は、案内カム3を直線的に移動させるために、クレビスなどの支持部材により揺動自在に前記案内カム3を支持させることが望ましい。
【0013】
前記案内カム固定装置8としては、例えば、図1乃至図2に示すクサビブロックである。このクサビブロック8を没入位置から突出させることで、前記ワーク2の加工時に案内カム3の下部を、後退方向に戻らないように位置固定するものである。符号9は、前記クサビブロック8と共に協働して案内カム3の加工時の位置決めをするストッパーを示している。
【0014】
前記クサビブロック8は、ブロック上部に設けたテーパ面8aが、案内カム3の下部に設けたテーパ面3aに摺接してこれを位置固定させるものである。なお、案内カム固定装置8としては、このほか、ネジ機構などでも良く、公知の他の機械的位置決め手段を採用することができる。
【0015】
以上のようにして、構成される本発明の干渉防止用案内カム機構1によれば、図3中の左図に示すように、案内カム3が後退している初期状態から、進退装置6を駆動させてロッド6aを前進させシャフト4を介して案内カム3を前進させる。平行なリンクプレート5,5は、回転支持軸4aを中心にして揺動する。前記案内カム3は、若干上に持ち上げられながら前進方向へ移動させられる。かかる案内カム3を直線的に移動させる場合には、クレビスなどの支持部材をリンクプレート5にして、揺動自在に且つ直線移動可能に案内カム3を支持することが好ましい。
【0016】
前記案内カム3の前進に伴い、図2に示すように、下から案内カム固定装置8がエアシリンダなどの駆動装置によって上に移動して、該案内カム固定装置8のテーパ面8aが案内カム3のテーパ面3aに当接して、前記ストッパー9の位置決め部9aと協働して、案内カム3を位置決めし固定する。これにより、金型の曲げ加工時の成形力が前記進退装置6およびリンク5,5等に負荷されなくなり、当該リンク5等の破損が防止され、案内カム3の不必要な位置ズレ発生が防止されるものである。
【0017】
前記案内カム3の前進により、図3中の右図に示すように、上方からワーク2が搬入され金型にセットさせる。そして、ワーク2の負角曲げ部2aを負角成形した後、負角成形
用の移動金型側の加工カムが移動金型の上死点へ移動する。
【0018】
次に、前記案内カム3を元の位置に復帰させるべく、図1に示すように、案内カム3を後退させないように位置決めしているクサビブロック8をエアシリンダー等の駆動装置で下方に移動させて、案内カム3との係合を解除させる。
【0019】
その後、前記進退装置6を駆動させリンクプレート5を、図3中の右図から左図へと、後方に揺動させて、案内カム3を後方に移動させる。それには、前記進退装置6のエアーシリンダー6bによりロッド6aを介してシャフト4を後方へ引っ張るものである。
【0020】
そして、図2に示すように、案内カム3が後退して、負角成形部3bの端部と、ワーク2の負角曲げ部2aの端部との間に、十分な隙間ができるので、ワーク2の取り出し移動に、干渉することがない。
【0021】
このようにして、干渉防止用案内カム機構1においては、案内カム3を後退させるようにして、ダイス側を可動にしてワーク2との干渉を防ぐことにおいて、小スペースが実現して、下型本体の加工も低コストでできるものとなっている。
【実施例2】
【0022】
上記実施例1では、リンク5,5を長さが同じである平行リンクとして説明したが、これに限らず、長さを異なるようにしたリンク機構としても良い。それによれば、ワークとしての自動車用パネル形状に依っては、案内カム3の各部分の動きの同一性を無くして、負角成形による多様な形状に対応させることができて、ワーク形状適応性が向上するなるものである。
【実施例3】
【0023】
また、図4に示すように、2つのリンク5,5により動作を規制される案内カム3の位置を、位置決めブロック10,10により決定する場合は、空気圧シリンダー11等のリンクカム5,5の移動装置により案内カム3が動かない範囲の力を加えるものである。この機構によって、前記位置決めブロック10,10と案内カム3との摺動抵抗を減少させ、前記位置決めブロック10,10および案内カム3の摩耗による当該案内カム3の位置決めに誤差が生じるのを防止することは、本干渉防止用案内カム装置1をより良好に使用する上で有効である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本リンクにより運動が規定される案内カムと一体、或いはネジ止めにより一体にプレス成形品の加工を行うスライドカムを設けることは可能であり、この構造はプレス金型構成の自由度の拡大と金型製造コストの削減に有効である。
【符号の説明】
【0025】
1 干渉防止用案内カム機構、
2 ワーク、 2a 負角曲げ部、
3 案内カム、 3a テーパ面、
3b 負角成形部、
4 シャフト、 4a 回転支持軸、
5 リンクプレート、 5a 一端部、
5b 他端部、
6 進退装置、 6a ロッド、
6b エアーシリンダー、
7 下型、
8 案内カム固定装置(クサビブロック)、
8a テーパ面、
9 ストッパー、 9a 位置決め部、
10 位置決めブロック、
11 空気圧シリンダー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの負角形成部を曲げ加工する曲面を有するダイス側の案内カムを、
この案内カムの下部に横架されて当該案内カムを軸支する2本のシャフトとプレス金型における下型に一端部を回転自在に支持され揺動する2本のリンクプレートの他端部とをそれぞれ回転自在に連結し、
前記2本のシャフトの内の一方のシャフトに係合して該一方のシャフトを進退移動させる、若しくは前記案内カムの本体に係合して当該案内カムを進退移動させる進退装置を設けて、
前記ワークの負角形成部から待避可能にするとともに、
前記案内カムが負角成形位置に進出した後に当該案内カムを位置固定して成形力を負担する案内カム固定装置が設けられていること、
を特徴とする干渉防止用案内カム機構。
【請求項2】
進退装置は、シャフト若しくは案内カムの本体に連結されたロッドを有する油・空気シリンダー,油圧・空気圧モータ若しくは電動モータのいずれかであること、
を特徴とする請求項1に記載の干渉防止用案内カム機構。
【請求項3】
案内カム固定装置は、位置固定するために出没するクサビブロック若しくはネジ機構であり、前記案内カム固定装置がクサビブロックの場合には、該クサビブロックのブロック上部に設けたテーパ面が、案内カムの下部に設けたテーパ面に摺接してこれを位置固定させるものであること、
を特徴とする請求項1または2に記載の干渉防止用案内カム機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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