説明

平板状部材の熱処理炉

【課題】大型の平板状部材であっても、熱処理することができる平板状部材の熱処理炉を提供する。
【解決手段】平板状部材50を、トンネル状の炉体1の炉長方向に移送しつつ熱処理を行う平板状部材の熱処理炉であって、炉体1の両側壁1bから炉内に延出するローラ2を、互いに対向させて、炉長方向に複数、回転自在に配設し、対向するローラ2の下方にローラ2を転支する受けコロ4を設け、ローラ2上に平板状部材50を載せ、ローラ2を一定方向に回転させて、平板状部材50を、炉体1の炉長方向に移送するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネルのような大型のフラットパネルに代表される平板状部材の製造に用いられる平板状部材の熱処理炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル等のフラットパネルは、ガラスやセラミックスからなる基板上に機能性材料を多層に印刷し、乾燥や焼成などの熱処理を施すことによって製造された平板状部材である。このような平板状部材の熱処理を効率よく行うために、特許文献1に示されるように、従来からローラーハースキルン等の熱処理炉が広く使用されている。
【0003】
このようなローラーハースキルンは、図12に示されるように、炉体122に、多数のセラミックス製のローラ120を、貫通させて一定ピッチで配置した形式のトンネル炉である。各ローラ120は、炉体122外に設けた駆動装置121によって同一方向に回転されるようになっている。平板状部材131をセッター132上に載置した状態で、セッター132を前記ローラ120上に載せて、平板状部材131を搬送するようにしている。炉体122内は予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などに区分され、バーナやヒータ123等の加熱手段によって炉室内に所定の温度勾配が形成されている。平板状部材131は多数のローラ120によって炉長方向に移送されながら、予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などを通過する間に所定の温度履歴が与えられ、熱処理される。
【0004】
最近では、製造されるフラットパネルが大型になりつつあることから、炉幅が大きくなり、ローラ120の長さも長くなりつつある。しかしながら、ローラ120はセラミックス製であることから、長尺のローラ120を製作することは困難であるという問題があった。また、ローラ120が長くなるにつれて、ローラ120の中央部分の曲げモーメントも増大することから、ローラ120が撓むことや、破損する可能性があるという問題があった。また、炉体122をメンテナンスする場合に、ローラ120を炉体122から抜き取る必要があるが、ローラ120が長尺である場合には、ローラ120を抜き取るスペースの確保が困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、ローラ120の代わりに、炉体122内の床面に、浮上用気体の噴出手段設けて、平板状部材131やセッター132を、前記浮上用気体で浮上させて炉体121内を搬送する熱処理炉が提案させている。しかしながら、このような熱処理炉は、炉体122内の温度が低下することを防止するために、前記浮上用気体を炉体122内の温度と殆ど同じ温度に加熱する必要があり、多大なエネルギーを消費してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、大型の平板状部材131であっても、熱処理することができる熱処理炉の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−292404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大型の平板状部材であっても、熱処理することができる平板上部材の熱処理炉を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、平板状部材を、トンネル状の炉体の炉長方向に移送しつつ熱処理を行う平板状部材の熱処理炉であって、
前記炉体の両側壁から炉内に延出するローラを、互いに対向させて、炉長方向に複数、回転自在に配設し、
前記対向するローラの少なくとも一方の下方に、前記ローラを転支する受けコロを設け、
前記ローラ上に平板状部材を載せ、前記ローラを一定方向に回転させて、前記平板状部材を、炉体の炉長方向に移送するように構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、受けコロを、対向するローラの両先端近傍の下方にそれぞれ設け、前記受けコロで前記ローラの両先端近傍を転支することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1の記載の発明において、対向するローラの先端を近接して、ローラを配設するとともに、
1セットの受けコロを、対向するローラの両先端の下方に設け、前記1セットの受けコロで前記ローラの両先端を転支することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、対向するローラを、長尺ローラ及び短尺ローラとから構成し、
前記長尺ローラと短尺ローラを、炉体の炉長方向に交互に配設し、
少なくとも前記長尺ローラの下方に、前記長尺ローラを転支する受けコロを設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、複数の受けコロを、縦長の支持部材に回転自在に列設して受けコロユニットを構成し、
前記受けコロユニットの長手方向を、炉長方向に向けて、炉体内に配設したことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明の支持部材はパイプ形状又は箱形状のいずれかであり、
受けコロの上部を、前記支持部材の上部から突出させるとともに、受けコロの上部以外を、前記支持部材内に収納したことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、炉体の床部に、アジャスターボルトを螺設し、このアジャスターボルトを回転することにより、受けコロユニットの高さを調整可能に構成したことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、ローラの先端に凹部を凹陥形成し、
その一端が前記凹部に挿入される脱落防止部材を、炉体内に設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、受けコロの外周面の両端に曲面部を形成したことを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、曲面部の曲率半径を2mm以上にしたことを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、ローラを、高さ方向移動可能に構成された軸受を有する支持ユニットで支持したことを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の発明において、炉長方向に隣接する複数のローラを、支持ユニットで支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明は、炉体の両側壁から炉内に延出するローラを、互いに対向させて、炉長方向に複数、回転自在に配設したことを特徴とする。このため、ローラを2分割にすることにより長尺なローラを製作する必要がなく、炉幅を広くすることが可能となった。また、炉体をメンテナンスする際の、ローラを抜き取るための広大なスペースを確保する必要が無くなった。
【0022】
また、請求項1に記載の発明は、対向するローラの少なくとも一方の下方に、前記ローラを転支する受けコロを設けたことを特徴とする。このため、多大な曲げモーメントが、ローラに作用することを防止し、ローラの破損を防止することが可能となった。また、ローラが撓むことを防止して、ローラ上に載せられた、板状部材が変形することを防止することが可能となった。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、受けコロを、対向するローラの両先端近傍の下方にそれぞれ設け、前記受けコロで前記ローラの両先端近傍を転支することを特徴とする。このため、多大な曲げモーメントがローラに作用することを防止し、ローラの破損を防止することが可能となった。また、ローラが撓むことを防止して、ローラ上に載せられた、板状部材が変形することを防止することが可能となった。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1の記載の発明において、対向するローラの先端を近接して、ローラを配設するとともに、1セットの受けコロを、対向するローラの両先端の下方に設け、前記1セットの受けコロで前記ローラの両先端を転支することを特徴とする。このため、多大な曲げモーメントがローラに作用することを防止し、ローラの破損を防止することが可能となった。また、ローラが撓むことを防止して、ローラ上に載せられた、板状部材が変形することを防止することが可能となった。また、受けコロの個数が削減されるので、熱処理炉の製造コストを低減することが可能となった。また、平板状部材の幅方向の広い範囲を、ローラで受けるので、ローラ上に載置された平板状部材の変形を抑制することが可能となった。また、対向するローラの先端間の空間を殆ど無くしたので、ローラ上に載置された平板状部材の温度分布を均一にすることが可能となった。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、対向するローラを、長尺ローラ及び短尺ローラとから構成し、前記長尺ローラと短尺ローラを、炉体の炉長方向に交互に配設し、少なくとも前記長尺ローラの下方に、前記長尺ローラを転支する受けコロを設けたことを特徴とする。このため、受けコロの個数が削減されるので、熱処理炉の製造コストを低減することが可能となった。また、対向する長尺ローラと短尺ローラの間の空間の炉体の幅方向の位置を、炉体の炉長方向に対して交互に存在させることにより、ローラ上に載置された平板状部材の温度分布を均一にすることが可能となった。
【0026】
請求項5に記載の発明は、複数の受けコロを、縦長の支持部材に回転自在に列設して受けコロユニットを構成し、前記受けコロユニットの長手方向を、炉長方向に向けて、炉体内に配設したことを特徴とする。このため、受けコロユニットを炉内で移動させれば、受けコロユニットに、取り付けられた複数の受けコロも一度に移動するので、受けコロの、炉長方向の及び炉幅方向の位置決め作業を容易にすることが可能となった。
【0027】
請求項6に記載の発明の支持部材はパイプ形状又は箱形状のいずれかであり、受けコロの上部を、前記支持部材の上部から突出させるとともに、受けコロの上部以外を、前記支
持部材内に収納したことを特徴とする。このため、受けコロの摺動にともなう粉塵が、前記支持部材内に留まり、前記粉塵が炉体内に飛散することを防止し、炉体内を清浄な状態に保つことが可能となった。また支持部材内を吸引する配管を設けることにより、粉塵の飛散をさらに抑制することも可能である。
【0028】
請求項7に記載の発明は、炉体の床部に、アジャスターボルトを螺設し、このアジャスターボルトを回転することにより、受けコロユニットの高さを調整可能に構成したことを特徴とする。このため、受けコロユニットの高さ調整を容易にすることが可能になった。さらにアジャスターボルトを炉外からも調整できる構造とすることにより、炉の使用開始後においても受けコロユニットの高さ調整をすることが可能である。
【0029】
請求項8に記載の発明は、ローラの先端に凹部を凹陥形成し、その一端が前記凹部に挿入される脱落防止部材を、炉体内に設けたことを特徴とする。このため、ローラの先端の炉長方向の移動を阻止し、受けコロで転支されたローラが、受けコロから脱落することを防止することが可能となった。
【0030】
請求項9に記載の発明は、受けコロの外周面の両端に曲面部を形成したことを特徴とする。このため、ローラの受けコロ接触する部分が、摩耗して凹陥部が形成され、ローラの先端が熱膨張により移動した場合であっても、前記凹陥部が前記受けコロの曲面部乗り越え、ローラの先端が炉幅方向に移動することができ、受けコロに剪断応力が作用することがなく、受けコロの疲労破壊を防止することが可能となった。
【0031】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、曲面部の曲率半径を2mm以上にしたことを特徴とする。このため、ローラに形成された凹陥部が、確実に、受けコロの曲面部乗り越え、ローラの先端が炉幅方向に移動すること可能となった。
【0032】
請求項11に記載の発明は、ローラを、高さ方向移動可能に構成された軸受を有する支持ユニットで支持したことを特徴とする。このため、ローラの高さの調整作業が容易となった。特に、ローラの受けコロ接触する部分が、摩耗して凹陥した場合に、ローラが傾かないように、支持ユニットでローラの高さを調整することが可能となり、ローラで搬送する板状部材に悪影響を与えることを防止することが可能となった。
【0033】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の発明において、炉長方向に隣接する複数のローラを、支持ユニットで支持したことを特徴とする。このため、ローラの炉長方向の位置決め作業及び、ローラの高さの調整作業が容易となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す説明図である。
【図2】ローラ支持ユニットの説明図である。
【図3】受けコロユニットの斜視図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図1のB−B断面図である。
【図6】曲面部を形成した効果を示す説明図である。
【図7】受けコロユニットの高さ調整機構の説明図である。
【図8】第2の実施形態の説明図である。
【図9】第3の実施形態の説明図である。
【図10】第3の実施形態の上面図である。
【図11】脱落防止機構の説明図である。
【図12】従来のローラーハースキルンの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1の実施形態)
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態(第1の実施形態)を示す。
図1は第1の実施形態の説明図であり、炉体1の断面を示した図である。炉体1は、床壁1a、側壁1b、天井壁1cとから構成され、トンネル状をしている。炉体1は、耐火材や断熱材で構成されている。炉体1には、加熱手段が設けられ、この加熱手段により、炉体1内を昇温するようにしている。加熱手段の一例として、天井ヒータ、床ヒータが含まれる。
【0036】
2は円柱形状のローラである。ローラ2は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。なお、前記セラミックスには、アルミナ(Al)や炭化珪素(SiC)、Si含浸SiCが含まれ、ローラ2をこれらのセラミックスで構成することが好ましい。ローラ2は、炉体1の両側壁1bから、炉内に延出している。両側壁1bから炉内に延出したローラ2の先端2aは、互いに対向している。ローラ2は、炉体1に、炉長方向に対して一定間隔をおいて、複数配設されている。なお、本発明において、「両側壁1bから炉内に延出したローラ2の先端2aは、互いに対向している」とは、両側壁1bから炉内に延出したローラ2の炉長方向の位置が同じ位置だけでなく、炉長方向の位置が同じ位置でない状態も含まれる。
【0037】
ローラ2は、炉外から、側壁1bを貫通して配設されている。ローラ2の基端2bは、炉外に配設されたローラ支持ユニット3により回転自在に支持されている。ローラ2は、図示しない駆動手段により、同一速度で一定方向に回転するようになっている。前記駆動手段には、サーボモータやインバータモータ等が含まれる。
【0038】
図2にローラ支持ユニット3の詳細図を示し、以下、ローラ支持ユニット3について説明する。ローラ支持ユニット3は、主に、基部材31、支持プレート32、軸受33、支持部材34、アジャスターボルト35から構成されている。基部材31は、角材等で構成され、炉体1の両側壁1bの外側に、炉長方向に沿って配設されている。基部材31の側面には、炉長方向に所定間隔をおいて、アジャスト板31aが突設されている。アジャスト板31aには、上下方向にネジ穴31bが連通形成されている。
【0039】
基部材31の側方には、炉長方向に沿って、複数の支持プレート32が配設されている。支持プレート32の上端は、基部材31の上端より上側に位置している。支持プレート32には、炉長方向に所定間隔をおいて、複数の軸受33が取り付けられている。軸受33は、ローラ2の基端2bを回転自在に支持している。支持プレート32には、炉長方向に沿って、複数のアジャスト穴32aが連通形成されている。本実施形態では、アジャスト穴32aは、上下方向に長い長穴となっていて、炉長方向同じ位置に上下に2つ形成されている。
【0040】
アジャスト板31aのネジ穴31bには、そのネジ頭を下側にしてアジャスターボルト35が螺設されている。アジャスターボルト35の先端は、支持プレート32の下端と当接している。アジャスターボルト35には、緩み止めナット36が取り付けられ、この緩み止めナット36がアジャスト板35側に締め付けられている。このように、ダブルナット構造にすることにより、アジャスターボルト35が緩むことを防止している。
【0041】
基部材31上には、支持部材34が載置されている。支持部材34は、本実施形態では、L字状に折り曲げられたアングル材である。支持部材34の一面は、支持プレート32の内面に接している。支持部材34の支持プレート32に接する一面には、下穴34aが連通形成されている。支持部材34には、下穴34aと同軸に、ナット34bが貼設されている。ボルト37が、支持プレート32側から、アジャスト穴32a及び下穴34aを
貫入し、ナット34bに螺着されている。このように構成することにより、支持プレート32に作用する下向きの荷重を、支持部材34が支えている。
【0042】
図2に示されるようにローラ支持ユニット3は、複数のローラ2を回転自在に支持している。このため、ローラ支持ユニット3を移動させれば、ローラ支持ユニット3に、取り付けられた複数のローラ2も一度に移動するので、ローラ2の炉長方向の位置決め作業が容易となっている。
【0043】
更に、アジャスターボルト35を回転することにより、軸受33の高さが変わり、複数のローラ2の高さ調整が可能となっている。複数のローラ2の高さを調整するには、まず、ボルト37を緩めて、支持プレート32を上下方向移動可能な状態にする。次に、緩み止めナット36を緩めて、アジャスターボルト35を回転させることにより、支持プレート32の高さを調整し、この支持プレート32が支持している複数のローラ2の高さを調整する。複数のローラ2の高さの調整が終わった場合には、ボルト37及び緩み止めナット36を締め付ける。
【0044】
ローラ2の上には、平板状部材50が載置され、一定方向に回転するローラ2により、炉体1の炉長方向に移送されるようになっている。この際に、平板状部材50が、熱処理されるようになっている。なお、前記熱処理には、乾燥や焼成が含まれる。なお、平板状部材50を結晶化ガラスで構成されたセッターに載せて、このセッターをローラ2上に載せて、平板状部材50を炉体1の炉長方向に移送することにしても差し支えない。前記セッターに、結晶化ガラスを使用すると、セッターが熱膨張し難くなり、前記セッターに載せられた平板状部材50に与える影響を少なくすることが可能となる。
【0045】
対向するローラ2の両先端2a近傍の下方には、受けコロ4が配設されている。第1の実施形態では、受けコロ4は、対向するローラ2の両先端2a近傍を転支している。本実施形態では、受けコロ4は、円盤形状をしている。本実施形態では、受けコロ4は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。なお、前記セラミックスには、アルミナ(Al)や炭化珪素(SiC)、Si含浸SiC、窒化珪素(Si)が含まれ、受けコロ4をこれらのセラミックスで構成することが好ましい。
【0046】
図3に受けコロユニット7の斜視図を示し、図4に図3のA−A断面の断面図を示す。図5に図1のB−B断面の断面図を示す。図4に示されるように、受けコロ4の外周面4bの両端には、断面視で、円弧又は楕円弧の曲面部4cが形成されている。曲面部4cの断面が円弧で構成されている場合には、この曲面部4cの断面の曲率半径rは、2mm以上である。
【0047】
図3に示されるように、複数の受けコロ4が、縦長の支持部材5に回転自在に列設されていて、受けコロユニット7を構成している。本実施形態では、支持部材5は、角パイプ形状をしている。あるいは、支持部材5は、箱形状であっても差し支えない。支持部材5は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。なお、支持部材5を耐熱金属で構成することにしても差し支えない。
【0048】
図3に示されるように、支持部材5には、支持部材5の幅方向を貫通する軸支穴5aが貫通形成されている。図3や図4に示されるように、支持部材5の上部には、支持部材5の内外を連通する、断面形状が長方形状の連通穴5bが形成されている。受けコロ4を支持部材5内に入れた状態で、受けコロ4の上部を、連通穴5bから支持部材5の外部に露出させている。
【0049】
また、図4に示されるように、受けコロ4の中心には、断面形状が円形状の貫通穴4a
が形成されている。受けコロ4の貫通穴4aには、円柱形状のピン6が挿通されている。ピン6は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。ピン6は、支持部材5の軸支穴5aに挿通されている。このように構成することにより、受けコロ4の上部が、支持部材5の連通穴5bから突出するとともに、受けコロ4の上部以外の部分が、支持部材5の内部に収納されている構造となっている。
【0050】
ピン6の外径は、貫通穴4aの内径よりも僅かに小さくなっていて、受けコロ4は、ピン6に対して回転自在になっている。受けコロ4のピン6に対する回転による、受けコロ4の貫通穴4aとピン6の摩耗を減少させるために、受けコロ4とピン6は同材質で構成することが好ましい。受けコロとピンを前記実施例のように別構造とする形式の他に、受けコロ4とピン6を一体で成型する、または接合する構造としても良い。本構造の場合は支持部材5の軸支穴5aの内径をピン6の外形より僅かに大きくする構造となっている。
【0051】
受けコロユニット7は、受けコロユニット7の長手方向を、炉体1の炉長方向に向けて、炉体1内に配設されている。このように、複数の受けコロ4を、支持部材5に列設して、受けコロユニット7を構成することにしたので、炉体1の炉長方向の位置決め作業を容易にすることが可能となる。また、受けコロ4とピン6の摺動部分が、パイプ形状又は箱形状の支持部材5の内部に位置しているので、受けコロ4とピン6の摺動にともなう粉塵が、支持部材5内に留まり、前記粉塵が炉体1内に飛散することを防止し、炉体1内を清浄な状態に保つことが可能となる。また支持部材5内を吸引する配管を設けることにより、粉塵の飛散をさらに抑制することも可能である。
【0052】
図5に示されるように、ローラ2の先端2a近傍は、隣接する2個の受けコロ4で転支されている。このように、ローラ2の先端2a近傍を、受けコロ4で転支することにしたので、ローラ2のローラ支持ユニット3で支持されている部分に、多大な曲げモーメントが作用することを防止している。また、ローラ2が撓むことを防止して、ローラ2上に載せられた、板状部材10が変形することを防止している。
【0053】
図7に受けコロユニットの高さ調整機構の説明図を示す。図7は炉体1の床壁1b部分の断面を詳細に示した図である。10は外壁材である。外壁材10は、金属製の板材で構成されている。外壁材10の内側には、断熱材11が配設されている。断熱材11は、ファイバー状、またはボード状であり、セラミックファイバー、珪酸カルシウム等で構成されている。外壁材10及び断熱材11により、炉体1の床壁1bが構成されている。
【0054】
外壁材10には、調整ネジ穴10aが螺刻されている。外壁材10の調整ネジ穴10aには、アジャスターボルト12が螺設されている。アジャスターボルト12の先端は、外壁材10を貫通して、断熱材11が配設されている側に突出している。一方で、アジャスターボルト12のネジ頭は、炉体1の外側に露出している。
【0055】
アジャスターボルト12の先端には、板部材13が載置されている。板部材13は、金属やセラミックスで構成されている。板部材13上には、ブロック状の断熱煉瓦14が載置されている。断熱煉瓦14上に、受けコロユニット7が載置されている。アジャスターボルト12を回転させると、板部材13及び断熱煉瓦14が上下に移動し、更に、受けコロユニット7もまた、上下に移動するようになっている。このように構成したので、アジャスターボルト12を回転させるだけで、炉体1外から、受けコロユニット7の高さを微調整することが可能となり、受けコロユニット7の高さ方向の位置決め作業が容易となっている。より好ましい構造として、受けコロユニット直下部の外壁材10を部分的に取り外し可能な構造とし、板部材13及びアジャスターボルトごと炉の外部に取り外し可能とすることにより、受けコロの交換を容易にする構造としてもよい。
【0056】
断熱材11の上で、受けコロユニット7の支持部材5の両側方には、耐火材15が配設されている。耐火材15と支持部材5の両側面とは当接している。このように、耐火材15を支持部材5の両側面に当接させて、ピン6が支持部材5から抜けることを防止している。受けコロユニットの支持部材を固定する方法としては、前述の耐火材の他、耐熱金属製の溝状のものとしてもよい。またピン6が支持部材5から抜けることを防止するため、ピンをその中央部を太くした段付構造としてもよい。
【0057】
図6に曲面部4cを形成した効果を示す説明図を示し、以下、説明する。なお、図6の(A)は受けコロ4に曲面部4cを形成しない状態の図であり、図6の(B)は図6の(A)の詳細図である。また、図6の(C)は受けコロ4に曲面部4cを形成した状態の図であり、図6の(D)、(E)は図6の(C)の詳細図である。本発明の平板状部材の熱処理炉を稼働し続けると、図6の(A)に示されるように、ローラ2の受けコロ4と接触する部分が、摩耗して、凹陥し、凹陥部2gが形成されてしまう。炉内は、常温から熱処理を行う温度まで温度変化を繰り返すため、ローラ2が膨張・収縮を繰り返す。ローラ2の基端2bは、ローラ支持ユニット3で支持されているので、ローラ2が膨張・収縮すると、ローラ2の先端2aが、炉幅方向に対して移動してしまう。特に、大型の平板状部材50を熱処理する平板状部材の熱処理炉の場合、ローラ2が長くなるため、ローラ2の先端2aの移動量が大きくなる。図6の(A)や(B)に示されるように、受けコロ4に曲面部4cが形成されていない場合には、受けコロ4が、ローラ2の凹陥部2gに嵌り込み、受けコロ4は、支持部材5から突出し、炉幅方向に移動することが出来ないので、受けコロ4に炉幅方向の応力(剪断応力)が繰り返し作用し、最悪の場合受けコロ4が疲労破壊してしまう。一方で、受けコロ4の外周面4bの両端に曲面部4cを形成すると、図6の(E)に示されるように、受けコロ4と嵌合しているローラ2の凹陥部2gの端部2hが、曲面部4cを乗り越え、ローラ2の先端2aが炉幅方向に移動することができる。このため、受けコロ4に剪断応力が作用することがなく、受けコロ4が疲労破壊されない。曲面部4cの曲率半径rが2mmよりも小さい場合には、ローラ2の凹陥部2gの端部2hが、曲面部4cを乗り越えることができない場合がある。そこで、本発明では、曲面部4bの曲率半径rを2mm以上に設定することにした。
【0058】
ローラ2の受けコロ4と接触する部分が、摩耗して凹陥部2gが形成されると、ローラ2の先端2aが下側に移動し、ローラ2が傾いてしまう。ローラ2が所定以上傾くと、ローラ2で搬送する板状部材50に許容以上の応力が作用してしまう。そこで、ローラ2が傾くことを防止するために、ローラ2に凹陥部2gが形成された場合には、前述したように、アジャスターボルト35を回転して、ローラ2の高さを下げて、ローラ2の傾きを修正する。本発明では、炉長方向に隣接する複数のローラ2を、高さ調整可能に構成されたローラ支持ユニット3で軸支したので、ローラ2の傾きの修正が容易となっている。
【0059】
(第2の実施形態)
図8に第2の実施形態の説明図を示して、第2の実施形態の説明をする。第2の実施形態では、対向するローラ2の先端2aが近接するように、ローラ2の長さを第1の実施形態に比べて長くしている。1つの受けコロユニット7を、対向するローラ2の両先端2aの下方に配設している。第2の実施形態の受けコロ4は、第1の実施形態の受けコロ4に対して幅広になっている。第2の実施形態は、1セットの受けコロ4で、対向するローラ2の両先端2aを転支する実施形態である。
【0060】
このように構成することにより、第1の実施形態に比べて受けコロユニット7の数が半分になり、受けコロユニット7の位置決め作業が容易になる。また、平板状部材50の幅方向の広い範囲(殆どの範囲)を、ローラ2で受けるので、ローラ2上に載置された平板状部材50の変形を抑制することが可能となる。また、対向するローラ2の先端2a間の空間が殆ど無いので、ローラ2上に載置された平板状部材50の温度分布を均一にするこ
とが可能となる。
【0061】
第2の実施形態もまた、第1の実施形態と同様に、受けコロユニット7に、高さ調整機構を設けることが好ましい。
【0062】
(第3の実施形態)
図9に第3の実施形態の説明図を示し、図10に第3の実施形態の上面図を示して、第3の実施形態の説明をする。第3の実施形態では、対向するローラ2は、長尺ローラ2dと短尺ローラ2eとから構成されている。第3の実施形態では、図10に示されるように、長尺ローラ2dと短尺ローラ2eを、炉体1の炉長方向に交互に配設している。
【0063】
受けコロユニット7は、炉体1の幅方向の中央に配設されている。このように構成することにより、1セットの受けコロ4は、長尺ローラ2dを転支するようになっている。対向する長尺ローラ2dと短尺ローラ2eの間には、空間が存在するが、第3の実施形態では、長尺ローラ2dと短尺ローラ2eを、炉体1の炉長方向に交互に配設したので、前記空間の炉体1の幅方向の位置も、炉長方向に対して交互に存在することになり、ローラ2上に載置された平板状部材50の温度分布を均一にすることが可能となる。また、平板状部材50の中央部は、常に、長尺ローラ2dで転支されるので、平板状部材50が垂れ下がるように変形することを防止することが可能となる。なお、長尺ローラ2dと短尺ローラ2e下側に、受けコロユニット7を配設し、長尺ローラ2dと短尺ローラ2eを、1セットの受けコロ4で転支することにしても差し支えない。また長尺ローラ2dと短尺ローラ2eの先端近傍に各々受けコロユニット7を設けることにしても差し支えない。
【0064】
第3の実施形態もまた、第1の実施形態と同様に、受けコロユニット7に、高さ調整機構を設けることが好ましい。
【0065】
(脱落防止機構)
図11に脱落防止機構の説明図を示し、脱落防止機構の説明をする。ローラ2の先端には、凹部2fが凹陥形成されている。もちろんローラ2をパイプ形状のものとしてもよい。支持部材5には、脱落防止部材16が取り付けられている。脱落防止部材16の一端16aを、ローラ2の凹部2fに挿入している。このように構成することにより、ローラ2の先端2aが、炉長方向に移動することを阻止し、受けコロ4で転支されたローラ2が、受けコロ4から脱落することを防止している。本実施形態では、脱落防止部材16は断面形状が”コ”字形状をしていて、脱落防止部材16の他辺は、支持部材5の下側に取り付けられているが、脱落防止部材16の構造及び脱落防止16の取付構造は、前記構造に限定されず、受けコロ4で転支されたローラ2が、受けコロ4から脱落することを防止する構造であればすべて含まれる。以上説明した脱落防止機構は、第1の実施形態及び第3の実施形態に適用される。
【0066】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う平板状部材の熱処理炉もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0067】
1 炉体
1a 床壁
1b 側壁
1c 天井壁
2 ローラ
2a ローラの先端
2b ローラの基端
2d 長尺ローラ
2e 短尺ローラ
2f 凹部
2g 凹陥部
2h 凹陥部の端部
3 ローラ支持ユニット
4 受けコロ
4a 貫通穴
4b 外周面
4c 曲面部
5 支持部材
5a 軸支穴
5b 連通穴
6 ピン
7 受けコロユニット
10 外壁材
10a 調整ネジ穴
11 断熱材
12 アジャスターボルト
13 板部材
14 断熱煉瓦
15 耐火材
16 脱落防止部材
16a 脱落防止部材の一端
31 基部材
31a アジャスト板
31b ネジ穴
32 支持プレート
32a アジャスト穴
33 軸受
34 支持部材
34a 下穴
34b ナット
35 アジャスターボルト
36 緩み止めナット
37 ボルト
50 平板状部材
120 ローラ
121 駆動装置
122 炉体
123 ヒータ
131 平板状部材
132 セッター
r 曲面部の曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状部材を、トンネル状の炉体の炉長方向に移送しつつ熱処理を行う平板状部材の熱処理炉であって、
前記炉体の両側壁から炉内に延出するローラを、互いに対向させて、炉長方向に複数、回転自在に配設し、
前記対向するローラの少なくとも一方の下方に、前記ローラを転支する受けコロを設け、
前記ローラ上に平板状部材を載せ、前記ローラを一定方向に回転させて、前記平板状部材を、炉体の炉長方向に移送するように構成したことを特徴とする平板状部材の熱処理炉。
【請求項2】
受けコロを、対向するローラの両先端近傍の下方にそれぞれ設け、前記受けコロで前記ローラの両先端近傍を転支することを特徴とする請求項1に記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項3】
対向するローラの先端を近接して、ローラを配設するとともに、
1セットの受けコロを、対向するローラの両先端の下方に設け、前記1セットの受けコロで前記ローラの両先端を転支することを特徴とする請求項1に記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項4】
対向するローラを、長尺ローラ及び短尺ローラとから構成し、
前記長尺ローラと短尺ローラを、炉体の炉長方向に交互に配設し、
少なくとも前記長尺ローラの下方に、前記長尺ローラを転支する受けコロを設けたことを特徴とする請求項1に記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項5】
複数の受けコロを、縦長の支持部材に回転自在に列設して受けコロユニットを構成し、
前記受けコロユニットの長手方向を、炉長方向に向けて、炉体内に配設したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項6】
支持部材はパイプ形状又は箱形状のいずれかであり、
受けコロの上部を、前記支持部材の上部から突出させるとともに、受けコロの上部以外を、前記支持部材内に収納したことを特徴とする請求項5に記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項7】
炉体の床部に、アジャスターボルトを螺設し、このアジャスターボルトを回転することにより、受けコロユニットの高さを調整可能に構成したことを特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項8】
ローラの先端に凹部を凹陥形成し、
その一端が前記凹部に挿入される脱落防止部材を、炉体内に設けたことを特徴とする請求項1、2、4〜6のいずれかに記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項9】
受けコロの外周面の両端に曲面部を形成したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項10】
曲面部の曲率半径は2mm以上であることを特徴とする請求項9に記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項11】
ローラを、高さ方向移動可能に構成された軸受を有する支持ユニットで支持したことを
特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項12】
炉長方向に隣接する複数のローラを、支持ユニットで支持したことを特徴とする請求項11に記載の平板状部材の熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−210252(P2009−210252A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224(P2009−224)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】