説明

平版印刷版の製版方法

【課題】現像廃液などの廃液が発生せず、高出力なレーザーを用いることなく製版が可能な平版印刷版を供給する。
【解決手段】粗面を有する親水性支持体上の一部または全部に、親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子を塗布した後、該金属ナノ粒子の一部または全部を加熱することにより疎水性の金属画像部を得ることを特徴とする平版印刷版の製版方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版の製版方法に関するものである。詳しくは現像処理を行うことなく、簡便に製版することが出来る平版印刷版の製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷の分野においては陽極酸化アルミニウム等の親水性原版の表面に感光性樹脂層を設けて版下フィルムからの密着露光後に現像することによって親油性の樹脂画像を形成する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。近年、版下工程を省いてコンピューターからのデジタル画像情報をレーザー光等により直接感光性印刷版を走査露光後、現像することによって、直接印刷版を製版する方法、即ちコンピューター・ツー・プレート(Computer to Plate)方式と呼ばれる製版方法が一般的に用いられる様になってきた。しかし、PS版は現像液による現像工程を必要とするなど工程に時間を要するばかりでなく、現像廃液の発生などの環境面の負荷が大きかった。
【0003】
現像工程等の化学的処理を用いずに直接印刷版を形成する直錨製版法が提案されている。その一つとして特開平7−108664号公報等に記載のインクジェット法や同平6−138716号公報等に記載の乾式電子写真法などを用いて、支持体表面に直接親油性の画像を形成して印刷版とする方法が知られているが、かかる方法で形成される平版印刷版の印刷画質は上記の現像工程を要する平版印刷版に比べて劣るものであった。特開平11−139024号公報(特許文献1)には銀錯塩拡散転写法により支持体上に形成された銀薄膜からなる平版印刷版が、特開2000−47374号公報(特許文献2)には、支持体上に0.005〜0.2μmの粒状性銀粒子からなる銀薄膜と親水性オーバー層からなる平版印刷版が提案されているが、比較的高い印刷画質が得られる反面、いずれもレーザーアブレーション法により非画像部の銀薄膜を蒸発させるものであり数W〜数10Wの高出力なレーザー光源を必要とするものであった。
【0004】
一方、特開2003−156839号公報(特許文献3)には1〜100nmの金属コロイド粒子と有機化合物を含む微粒子層を有する刷版が提案されている。同公報ではレーザー光のヒートモードにより親水性コロイド中で金属微粒子の溶融と周囲の有機物の気化、分解によって親油性の金属画像部が形成される。係る印刷版は数10mWと比較的低エネルギーで安価なレーザー光で画像が形成出来る反面、支持体上に設けられた親水性コロイド層にレーザー光によるヒートモードにより親油性の金属画像部が形成され、照射部と非照射部の親油性の差を利用して印刷版としている為、画像部の親油性、耐刷力、耐汚れ性等が低いという問題があった。
【特許文献1】特開平11−139024号公報、第頁1〜第5頁
【特許文献2】特開2000−47374号公報、第頁1〜第5頁
【特許文献3】特開2003−156839号公報、第1頁〜第5頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現像廃液などの廃液が発生せず、高出力なレーザーを用いることなく製版が可能な平版印刷版を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、粗面を有する親水性支持体上の一部または全部に、親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子を塗布した後、該金属ナノ粒子の一部または全部を加熱することにより疎水性の金属画像部を得ることを特徴とする平版印刷版の製版方法により達成された。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、現像処理を行わずに簡便な処理によって平版印刷版が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において金属ナノ粒子は粒径1〜100nmの平均粒径を有する金属微粒子から成る。金属ナノ粒子は、通常、粒子表面を保護剤により安定化されて粒子の凝集や成長が防止されているが、本発明の親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子(以下、略して本発明の金属ナノ粒子)とは、低分子の化合物を保護剤として用い、保護剤として親水性バインダー、即ち親水性の高分子化合物を実質的に含んでいないことを意味している。粗面を有する親水性支持体の一部または全部に塗布された金属ナノ粒子を加熱することにより疎水性の金属画像部が得られる。加熱により、本発明の金属ナノ粒子中の保護剤の蒸発、分解、金属微粒子の溶融、金属微粒子同志の融着、金属微粒子の粗面化された親水性支持体表面への融着などが起こる結果、支持体表面に強固に接着された金属相からなる疎水性の金属画像部が形成される。
【0009】
本発明の平版印刷版の製版方法の最良の形態の1つは、レーザー光のヒートモード照射により、親水性支持体上に塗布された金属ナノ粒子の一部を加熱して疎水性の金属画像部得る方法であり、未照射部の金属ナノ粒子は印刷時または、印刷時までの任意の過程で親水性支持体上から除去される。前記特許文献3で提案されている方法では、金属コロイド層のレーザー照射部と非照射部の親油性の差を利用して印刷版としているのに対して、本発明はレーザー照射部と非照射部の支持体との接合性の差を利用するものである。照射部では強固な接着性の金属画像部が得られる反面、非照射部の親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子を塗布した層は親水性支持体表面から容易に除去することが出来る。非画像部として親水性の良好な親水性支持体表面が用いられることから、良好な印刷性能を得ることが出来る。非画像部のナノ粒子の除去は印刷開始時に版面からブランケットへ容易に転写させて除去することも出来る他、印刷時までの任意の時期に、ブラッシング等の物理的手段を用いて予め除去することも出来る。また、粗面化され、陽極酸化されたアルミニウム板を親水性支持体として用いた場合、特に高画質で、高耐刷の平版印刷版を得ることが出来る。また、非画像部が一層容易に除去されることから、この方法に用いられる金属ナノ粒子は、疎水性溶液中に分散された金属ナノ粒子を用いることが最適である。
【0010】
本発明の平版印刷版の製版方法の別の最良の形態は、印刷手段を用いて粗面を有する親水性支持体上の一部に金属ナノ粒子を付与した後、加熱することにより疎水性の金属画像部を得る方法である。印刷手段としては、凸版印刷、グラビア印刷、平版印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の種々の印刷手段を用いることが出来、加熱手段としては、ドライヤー、ヒーター、ホットプレス、赤外線、レーザー等の加熱手段を単独または組み合わせて用いることが出来る。加熱温度は少なくとも120℃以上であり、好ましくは140℃以上である。
【0011】
本発明の粗面を有する親水性支持体とは、ISO4287に規定されている中心線表面粗さRa値が0.1μm以上である粗面を有する親水性支持体を指す。具体的には、触針式粗さ計(例えば、サーフコム1400D、株式会社東京精密製)で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されている平均粗さを6回測定し、その平均値を中心線表面粗さとした。2次元粗さ測定の条件は、カットオフ値0.8mm、測定長さ4mm、触針先端径2μmである。本発明の粗面化された親水性支持体の中心線平均粗さRaは好ましくは0.2〜2.0μmの範囲、より好ましくは0.3〜1.2μmの範囲である。
【0012】
本発明の粗面を有する親水性支持体として、機械的、化学的、電気化学的等の方法により粗面化された金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィンラミネート紙等の様々な支持体を用いることが出来る。金属板としては鉄、ステンレス、銅、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられるが、軽量で取り扱い性に優れたアルミニウムが好ましい。プラスチックフィルムとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることが出来るが、中でも、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートが好ましい。上記粗面化処理の後、更に非画像部の親水性を向上させるための表面処理や下引き層の塗布などによる親水化処理を行うことが好ましい。
【0013】
アルミニウム板の粗面化(いわゆるグレイニング)方法としてボールグレイニング、ワイヤグレイニング、ブラシグレイニング、などの機械的粗面化処理、酸処理やアルカリ処理、塩化物やフッ化物などによる化学的にアルミニウム表面を溶解する化学的粗面化処理、酸を電解液として交流電場を通じることによるアルミを電気化学的に溶解する電解粗面化処理などの方法、及びこれらの方法を併用した粗面化方法を用いることが出来る。例えば特開昭48−28123号、同53−123204号、同54−146234号、同55−25381、同55−132294号、同56−55291号、同56−150593号、同56−28893号、同58−167196号、米国特許第2,344,510号、同第3,861,917号、同第4,301,229号、米国特許第2,344,510号、米国特許第4,301,229号、米国特許第3,861,917号、カナダ特許第955449号、西ドイツ特許第1,813,443号、特開平7−56344号公報などに記載されている様な粗面化の方法等を参考にすることが出来る。また、粗面化されたアルミニウム板は粗面化に引き続き陽極酸化処理やシリケート処理等の表面処理や親水性下引き層の塗布等の親水化処理が施される。
【0014】
プラスチックフィルムの粗面化方法として、ボールグレイニング、ワイヤグレイニング、ブラシグレイニング、などの機械的粗面化処理、有機溶剤や酸処理やアルカリ処理などにより化学的にフィルム表面をエッチングすることにより行う化学的粗面化処理、圧延時等に粗面を有する金属やセラミックスなどの鋳型に圧着することにより粗面を形成させるエンボス加工等により鋳型の粗面のパターンをプラスチック表面に形成する方法、粗面のパターンを塗布や印刷等によりプラスチック表面に形成する方法など様々な方法を用いることが出来る。上記のように粗面化されたプラスチックフィルムは、親水性下引き層として親水性無機物粒子等を塗布して親水化処理が施される。親水性無機物粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、ゼオライト、酸化チタン等の酸化物粒子が好ましい。
【0015】
本発明の金属ナノ粒子に含まれる好ましい金属は、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛であり、耐刷性の観点からは銀が最も好ましく、その次に銅が好ましい。これらの金属は単体で用いることも合金として組み合わせて用いることも出来る。また、上記以外の金属及び非金属を不純物元素として含んでも良いが、その含有量は1%未満であることが好ましい。
【0016】
本発明の金属ナノ粒子に含まれる金属微粒子の平均粒径は1〜100nmであるが、金属ナノ粒子の安定性、耐刷性の観点から、好ましい平均粒径は3〜30nmである。金属ナノ粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡により測定することが出来る。
【0017】
親水性バインダーを含む溶液中に分散されたナノ粒子は、加熱しても金属微粒子間の融着や金属微粒子と支持体との接着性が低いため、良好な耐刷性が得られない。そのため、
本発明において金属ナノ粒子は親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子として塗布される。ここで、親水性バインダーとは保護剤としての親水性バインダー、即ち親水性の分子量5,000以上の高分子化合物を指す。また、親水性バインダーを実質的に含まないとは、金属ナノ粒子に対する親水性バインダーの質量%が1%以下であることを意味し、好ましくは0.1%以下である。
【0018】
金属ナノ粒子の製造方法として、気相中で電子ビーム、プラズマ、レーザー、誘導加熱などの手段を用いて蒸発させた金属から金属ナノ粒子を形成する気相法と、溶液中で還元性物質や光、放射線、熱等により金属塩や金属錯体を還元して金属ナノ粒子を生成する溶液法が挙げられるが、気相法に比べて溶液法では粒径分布の幅の狭いナノ粒子が容易に得られることから、本発明では溶液法により製造された金属ナノ粒子を用いることが好ましい。
【0019】
本発明の金属ナノ粒子の凝集を防止するために用いられる低分子の保護剤として、イオン種、低分子の配位性有機基を有する化合物、ホスフィン化合物、界面活性剤などが用いられる。保護剤の分子量は5,000以下であることが好ましい。イオン種としては、クエン酸イオンが白金及び金のナノ粒子の保護剤として用いることが出来る他、金属ハロゲン化物を水素化ホウ素の四級アンモニウム塩で還元して金属ナノ粒子を四級アンモニウム塩として安定化する方法などを用いることが出来る。低分子の配位性有機基を有する化合物として、チオール、ジスルフィド、スルフィドのようなイオウ計配位子を有する化合物、トリエチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクチルアミンなどの一級脂肪族アミン化合物、トリフェニルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどのホスフィン類、脂肪酸、アルキルスルホン酸化合物、アルキルベンゼンスルホン酸化合物などの界面活性剤が挙げられる。これらの保護剤は金属ナノ粒子の製造過程の任意の時期に添加することが出来る。
【0020】
本発明の金属ナノ粒子が分散される溶媒として疎水性溶媒と親水性溶媒に大別される。疎水性溶液の溶媒として、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;ジクロルメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルムなどの塩素化炭化水素;ジメチルホルムアミドなどのアミド;シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンなどの炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル;2,2,3,3−テトラフロロプロパノールなどのフッ素系溶剤などの溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独でも、また二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明の金属ナノ粒子が分散される親水性溶液の溶媒としては、水、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類などを挙げることが出来る。
【0022】
本発明の金属ナノ粒子はスピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコート、グラビアコート、インクジェット法等の様々な塗布方法を用いて親水性支持体の一部または全部に塗布することが出来る。前記したように、特に印刷手段を用いることにより画像部にのみ金属ナノ粒子層を設けることが出来る。金属ナノ粒子の好ましい塗布量は、乾燥時の微粒子の膜厚は5〜1000nmであり、10〜500nmがより好ましい。塗布後、金属ナノ粒子の親水性支持体表面への融着が起こらない100℃以下の温度で乾燥される。
【0023】
金属ナノ粒子を加熱して疎水性の金属画像部を得る為の熱的手段として、ヒーターなどの非接触の熱源を用いることが好ましく、コンピューターからのデジタル情報に基づいて露光部に直接画像形成が行えるという点からは、レーザー光のヒートモードを用いることが好ましい。レーザー光の照射により光エネルギーをプレートが吸収することにより直接的に画像が形成されるフォトンモードに対して、ヒートモードとは、一旦プレートに吸収された光エネルギーが熱に変換され、生じた熱により画像が形成される場合を指す。レーザーとしては、300nm〜1500nmの範囲に発光波長のあるものを用いることが出来、Arレーザー、Krレーザー、He−Neレーザー、He−Cdレーザー、ルビーレーザー、ガラスレーザー、チタンサファイヤレーザー、色素レーザー、Nレーザー、金属蒸気レーザー、エキシマーレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー等の各種レーザーが利用出来る。レーザー光のエネルギーが低いと金属画像部の形成が不十分となり、また、高すぎるとレーザーアブレーションの為に金属画像部が蒸発してしまうため、好ましいレーザー光のエネルギーは0.1mJ/cm〜100mJ/cmの範囲であり、より好ましくは、1mJ/cm〜50mJ/cmの範囲である。数mWから数10mWのパワーのレーザー光を走査露光することにより上記のエネルギー範囲で画像露光を行うことが出来る。
【0024】
未加熱部の金属ナノ粒子は印刷または、印刷時までの任意の過程で親水性支持体表面から除去される。印刷開始前の未加熱部の金属ナノ粒子の除去手段として、ブレード等で物理的に拭き取ったり、転写シートに転写して取ったり、エアーで飛ばしたり、水洗により洗い流したりして除去する等の様々な手段を用いることが出来る。未加熱部の金属ナノ粒子の最も好ましい除去手段の1つは、レーザー光のヒートモード照射終了後、粘着剤を片面に設けた紙の転写シートと密着し、印刷開始までの任意の時期に、転写シートを剥離して未加熱部分の金属ナノ粒子を紙の転写シートに転写する方法である。この場合、転写シートを印刷開始直前に剥がせば、転写シートは版面のキズや汚れ防止などの保護を兼ねたシートとして用いることも出来る。また、回収した転写シートを焼却することにより金属を回収、リサイクルすることが出来、環境面からも優れた除去手段といえる。未加熱部の金属ナノ粒子の別の好ましい除去手段の1つは、印刷開始時に除去する方法である。即ち、平版印刷開始時に非画像部に水(給湿液)が供給されると同時に印圧がかかることによって、未加熱部の金属ナノ粒子はブランケットを介して印刷用紙に転写させることによって2〜3枚の印刷で容易に除去することが出来る。最初の数枚は印刷用紙の損紙が生じるものの、特別な除去手段を用いること無く除去出来る点で優れている。また、未加熱部の金属ナノ粒子は回収した損紙を焼却することにより回収、リサイクル出来る。
【0025】
インクジェット法により金属ナノ粒子層を設ける場合、金属ナノ粒子溶液の粘度は、3〜15mPa・secの間に調整することが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例により説明する。
【0027】
(実施例1)
<銀ナノ粒子の作製>
デカリン500mlに保護剤としてオレイン酸20gを溶解した溶液に酢酸銀10gを攪拌しながら200℃で2時間加熱後、アセトンを加えて沈殿精製を行って粉末試料を得た。この粉末はX線回折の結果金属銀の回折パターンが確認され、透過電子顕微鏡写真から平均粒径約9nmの銀ナノ粒子から構成されていることが分かった。この粉末をトルエンに分散し10質量%の銀ナノ粒子溶液を作製した。
【0028】
幅300mm、厚み0.24mmのJIS―A1050のアルミニウムコイルをナイロンブラシと400メッシュのパミストンの水懸濁液を用いて機械粗面化し、60℃4%の水酸化ナトリウム水溶液に10秒間浸漬、水洗した後、28℃で1.8%塩酸電解液中に40A・dm、60Hzの単層交流電流を30秒間流して電解粗面化し、水洗し、50℃10%リン酸を含む溶液に20秒浸漬してデスマットし、水洗、乾燥した。さらに表面の親水性を高める為に、25℃、20%硫酸中に通し、陽極酸化を行い水洗、乾燥してアルミニウム板(1)を得た。陽極酸化アルミニウム量は2.0g/mで中心線平均粗さRa値は0.6μmであった。
【0029】
上記アルミニウム板(1)に0.25g/mとなるように前記銀ナノ粒子の溶液を塗布、乾燥し本発明の平版印刷版(1)を作製した。上記平版印刷版をヒートモード用レーザー出力機(大日本スクリーン社製イメージセッターPT−R4000(発振波長830nm、出力100mW))を使用して製版を行った。
【0030】
上記本発明の平版印刷版(1)を用いて製版された印刷版を印刷機ハイデルベルグKORD(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)、インキ(大日本インキ化学工業(株)製のニューチャンピオン墨H)及び市販のPS版用給湿液(アストロマークIII日研化学(株)製)を用いて印刷を行った。上記印刷版は最初の1枚で未露光部の銀ナノ粒子層がインキと共にブランケット経由で紙に転写されて除去されて親水性表面が現れる為、4〜5枚目から良好な印刷物が得られた。20,000枚の印刷を行っても地汚れや印刷画像の劣化は生じなかった。
【0031】
(実施例2)
<親水性溶液中に分散された銀ナノ粒子の作製>
保護剤としてチオコリンブロミドを20ミリモル含む10%エタノール水溶液に塩化銀5ミリモルを加えて攪拌しながら水素化ホウ素水溶液を除々に滴下して塩化銀を還元して、懸濁液が黄褐色溶液になるまで攪拌し、平均粒径6nmの銀ナノ粒子の分散液を作製した。この銀ナノ粒子分散液を前記アルミニウム板(1)に0.25g/mとなるように塗布、乾燥し本発明の平版印刷版(2)を作製した。実施例1と同様に製版、印刷を行ったところ、10〜20枚目から良好な印刷物が得られ、20,000枚の印刷を行っても地汚れや印刷画像の劣化は生じなかった。
【0032】
(実施例3)
<銅ナノ粒子の作製>
ヘキサデカン500mlに保護剤としてステアリン酸40gを溶解した溶媒に酢酸銅10gを攪拌しながら260℃で8時間加熱後、アセトンを加えて沈殿精製を行って粉末試料を得た。この粉末はX線回折の結果金属銅の回折パターンが確認され、透過電子顕微鏡写真から平均粒径約8nmの銅ナノ粒子から構成されていることが分かった。この粉末をキシレンに分散し10質量%の銅ナノ粒子溶液を作製した。
【0033】
厚さ0.175mmのポリエチレンテレフタレートフィルムをサンドブラスト処理により粗面化した後、以下の親水性下引き層を乾燥質量が1.5g/mとなるように塗布しフィルムベースを得た。中心線表面粗さRaは粗面化後は0.85μm、下引き層塗布後は0.9μmであった。
<下引き層>
ゼラチン 5質量部
水 40質量部
富士ディヴィドソン社製サイロイド 20質量部
(グレード978、平均粒子サイズ2.5μ)
カーボンブラック分散液(固形分32%) 2質量部
グリオギザール(30%水溶液) 1質量部
【0034】
上記の銅ナノ粒子溶液をインクジェットプリンター(ローランドD.G.社製SC−500)の記録ヘッドに充填し、上記のフィルムベースの上に画像印刷を行った後、150℃で5分間加熱して本発明の平版印刷版(3)を得た。ベタ画像部の銅ナノ粒子層の被覆量は0.2g/mであった。上記の本発明の平版印刷版(3)を実施例1と同様に印刷を行った結果、5〜10枚目から良好な印刷物が得られた。5,000枚の印刷を行っても地汚れや印刷画像の劣化は生じなかった。
【0035】
(比較例)
<親水性バインダーを含む銀ナノ粒子の作製>
実施例2の親水性銀ナノ粒子の分散液に水溶性バインダーとしてゼラチンを加え、5質量%のゼラチンを含有する10質量%の銀ナノ粒子溶液を作製した。この溶液を前記アルミニウム板(1)に銀ナノ粒子が0.25g/mとなるように塗布、乾燥し比較の平版印刷版を作製した。上記平版印刷版をヒートモード用レーザー出力機(大日本スクリーン社製イメージセッターPT−R4000(発振波長830nm、出力100mW))を使用して製版を行った。露光部には金属銀が表面に析出し、非画像部のゼラチンの表面には金属銀の析出は見られなかった。上記印刷版を下記の親油化液で拭いた後、実施例1と同様にして印刷を行ったが、500枚の印刷で非画像部に地汚れが発生し、1,500枚で画像部の欠落が生じた。
【0036】
<親油化液>
水 600質量部
イソプロピルアルコール 400質量部
エチレングリコール 50質量部
3−メルカプト−4−アセトアミド−5−n−ヘプチル
−1,2,4−トリアゾール 1質量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面を有する親水性支持体上の一部または全部に、親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子を塗布した後、該金属ナノ粒子の一部または全部を加熱することにより疎水性の金属画像部を得ることを特徴とする平版印刷版の製版方法。
【請求項2】
レーザー光のヒートモード照射により加熱し、未加熱部の金属ナノ粒子を印刷または、印刷時までの任意の過程で親水性支持体上から除去することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、疎水性溶液中に分散された金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項4】
前記粗面を有する親水性支持体が、粗面化、陽極酸化されたアルミニウム板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版の製版方法。
【請求項5】
印刷手段を用いて粗面を有する親水性支持体上の一部に親水性バインダーを実質的に含まない溶液中に分散された金属ナノ粒子を付与することを特徴とする請求項1、3、4のいずれかに記載の平版印刷版の製版方法。

【公開番号】特開2008−929(P2008−929A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170590(P2006−170590)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】