説明

平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法

【課題】使用済みの平版印刷版を再利用する際に、アルミニウム純度や微量金属含有量の品質を満たした平版印刷版用アルミニウム基体を、副成される酸化アルミニウムの量が低減され、高い収率で得ることができ、地球温暖化の原因となるCO発生量が大幅に削減された平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム基体に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を順次施した平版印刷版用支持体を備える使用済みの平版印刷版を含むアルミニウム基体用再生材料を準備し、この再生材料により再生地金を得て、再生材地金に必要な量の新アルミニウム地金及びCuを含む微量金属母合金を加えて新たなアルミニウム基体を作製する平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法、特に、使用済みの平版印刷版を効率よくリサイクルして再利用する平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法及びその製造方法を利用した平版印刷版のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、アルミニウム製の平版印刷版用支持体に画像記録層(例えば感光層)を形成することにより製造される。このアルミニウム支持体には表面に均一且つ緻密な粗面化処理、具体的には、電気化学的粗面化処理等による表面処理が必要であり、そのため、アルミニウム製支持体用のアルミニウム原料としては、純度が高くかつ微量金属の含有率が厳密に調整された原料であることが必要である。
【0003】
一方、新しく金属アルミニウム1kgを製造するためには理論上140.9MJのエネルギーを必要とし、その際のCO発生量は9.22kg/kgに達する。したがって、CO発生をできるだけ抑えて平版印刷版を製造するには、印刷に使用した使用済みの平版印刷版や平版印刷版の製造加工途中で発生する切断片等の端材を再生アルミニウム材料としてリサイクルすることが考えられるが、前記再生アルミニウム材料は、純度や合金組成が平版印刷版支持体の製造原料としての要求レベルに達しないため、従来、回収された平版印刷版により再生されたアルミニウム原料は、平版印刷版用基体としては用い難く、純度や含有金属を厳密に管理しなくてもよい用途、例えば、窓サッシ、自動車のエンジンや車輪のホイール等の原材料として用いられており、平版印刷版のリサイクルには供されないのが現状である。
しかし、前記使用済みの平版印刷版や、平版印刷版の切断片等の端材を原料とした再生地金1kgの製造エネルギーは前記140.9MJの約4%にすぎず、このような材料を平版印刷版用としてリサイクルできれば、CO発生量削減に大いに有効である。そのためには平版印刷版用アルミニウム基体として品質を確保した上でエネルギー削減を図るリサイクル方法の構築が重要になる。
【0004】
近年、使用済みの平版印刷版や端材を再生材料としてリサイクルする検討がなされており、例えば、使用済み平版印刷版から不純物を除去した後、これにアルミニウム新地金と母合金(所望の金属を数十%含むアルミニウム合金)とを加えて圧延前溶解炉に直接投入して溶湯を調製し、濾過処理を行った後圧延をすることで、使用済み平版印刷版を支持体として再利用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、使用済み アルミニウム缶原料として、低純度アルミニウムで製造される平版印刷版用アルミニウム基体にリサイクルすることにより、平版印刷版用アルミニウム基体の製造コストを下げることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、後者のように、低純度アルミニウムを支持体基材として用いる場合には、支持体表面に形成される画像記録層との密着性や、非画像領域として機能するのに十分な親水性を達成するためには、他の様々な手段を要するといった問題がある。
【0005】
また、特許文献1記載の方法では、使用済み平版印刷版を直接、支持体を形成するための圧延前溶融炉に投入する方式(以下、直接投入法という)を用いるため、投入する使用済みアルミニウムの組成によって圧延後のアルミニウム板の合金組成が大きく影響されることは避け難い。しかし、既述のように、平版印刷版の粗面化、特に電解方式を用いる粗面化処理を行う場合には、アルミニウム板の合金組成が粗面化形状の良否に決定的な影響を与えるために、電解方式による粗面化処理に必要な純度以上のアルミニウム基材を得ようとする場合には、品質保証上、使用済み平版印刷版の投入量は限定され、高純度のアルミニウムを多く用いる必要があり、再生効率が悪く、炭酸ガス削減の観点からも好ましくない。また、溶解炉投入と圧延の工程を実施しながらの不純物組成測定が必要となり、溶解や成分調整に時間を要し、これも収率悪化の要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3420817号公報
【特許文献2】特開2002−331767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、平版印刷版用ルミニウム基体を製造する際に使用済みの平版印刷版を再利用する場合においても、アルミニウム純度や微量金属含有量の品質を満たした平版印刷版用アルミニウム基体を高い収率で得ることができ、副成される酸化アルミニウムの量が低減され、地球温暖化の原因となるCO発生量が大幅に削減された平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、前記本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法を適用することで、工程におけるCO発生量が大幅に削減された効率のよい平版印刷版のリサイクル方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、使用済みの平版印刷版がCuを特定量含有するアルミニウム合金を用いてなるアルミニウム支持体を備えることで、上記目的を達成しうることを見いだし、本発明を完成した。
即ち、本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法は、アルミニウム基体に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を順次施した平版印刷版用支持体を備える使用済みの平版印刷版を含む再生材料を準備する再生材料準備工程と、前記再生材料準備工程において得られた再生材料を溶解炉中に投入し、680℃〜900℃の温度範囲で溶解して再生材料溶湯を得た後、該再生材料溶湯を所定の形状及び重さに成形して再生地金を得る再生地金製造工程と、前記再生地金製造工程において得られた再生地金のアルミニウム純度、及び、微量金属含有率を分析する分析工程と、前記分析工程において得られた再生地金のアルミニウム純度、及び、微量金属含有率の分析値と、平版印刷版用支持体について予め定めた所望のアルミニウム純度、及び、微量金属含有率と、を対比してその差を求め、この差に基づいて、前記再生地金に対して、純度の定まったアルミニウム新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、前記再生地金、アルミニウム新地金、及び微量金属母合金を、前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じた量にて圧延前溶解炉に投入し、加熱溶解して、圧延前溶湯を得る圧延溶湯調製工程と、前記圧延溶湯調製工程にて得られた圧延溶湯を用いて、帯状のアルミニウム基体を作製するアルミニウム基体作製工程と、をこの順に有することを特徴とする。
【0009】
なお、前記本発明の製造方法に用いられる使用済みの平版印刷版を含むアルミニウム基体用再生材料としては、使用済み平版印刷版のみに限定されるものではなく、さらに、平版印刷版製造工程の製造加工途中で発生するアルミニウム基体の切断片や平版印刷版の切断片を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の平版印刷版のリサイクル方法は、平版印刷版用アルミニウム基体の少なくとも片面に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を順次施して平版印刷版用支持体を得る支持体作製工程と、得られた平版印刷版用支持体の前記処理面に画像記録層を形成して平版印刷版原版を製造する平版印刷版原版製造工程と、得られた平版印刷版原版を製版して平版印刷版を得た後、所望の印刷を行う印刷工程と、印刷工程の完了後に発生した使用済みの平版印刷版を回収する回収工程と、回収された使用済み平版印刷版を、前記本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法におけるアルミニウム基体用再生材料として供するリサイクル工程と、をこの順に有することを特徴とする。
ここで、前記平版印刷版用アルミニウム基体は、前記の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法により得られたリサイクルされた平版印刷版用アルミニウム基体であることも好ましい態様である。
【0011】
本発明の方法における作用は明確ではないが、以下のように推定している。
本発明において用いられるリン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を施してなる平版印刷版用アルミニウム基体は、表面に形成される陽極酸化皮膜の孔径が一般に用いられる硫酸を含有する電解液を用いて形成される陽極酸化皮膜の孔径よりも大きくなる。このような基体では、再生地金を作製する際に加熱による溶湯調整時に孔径が大きいことに起因して迅速に溶融するため、孔径の小さな細孔を多数有する陽極酸化皮膜を有する基体に比較し、再生材料が高温条件下で空気と接触される時間が短くなるために、生成される所望されない酸化アルミニウムの生成が低減するため、アルミニウム原料のロスが少なく、高収率での再生が可能となると考えられる。ここで用いられる電解液を構成する酸成分中のリン酸の占める割合には特に制限はないが、5質量%以上であることが効果の観点から好ましく、電解液に用いられる酸成分のすべてがリン酸であってもよい。
【0012】
さらに、本発明では、再生地金あるいは再生溶湯中のアルミニウム純度、及び微量金属含有率を分析し、得られた分析値と、予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望の微量金属含有率とを対比してその差を求め、その差に応じて新アルミニウム地金及び微量金属母合金の配合割合を決定する配合割合決定工程を有するために、再生地金を最大に配合するための割合が決定され、原料のロスなく、高収率のリサイクルが達成される。
なお、ここで「平版印刷版支持体における所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率」とは、製造する平版印刷版の種類によって要求される「アルミニウム純度及び微量金属含有率」のことを指し、平版印刷版の要求される性能により、この最適値は予め決定されるものである。
【0013】
従って、本発明によれば、再生地金を最大に配合するための割合を、設定値に応じて精度良く決定することができるために、製造に多大なエネルギーを消費するアルミニウム新地金の使用量を大幅に低減でき、平版印刷版用アルミニウム基体の製造工程における炭酸ガス発生量低減に有用である。
このため、平版印刷版用アルミニウム基体を製造する際に、使用済みの平版印刷版を再利用しても、エネルギーロス、収率ロスを顕著に低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、平版印刷版用アルミニウム基体を製造する際に使用済みの平版印刷版を再利用する場合においても、副成される酸化アルミニウムの量が低減し、アルミニウム純度や微量金属含有量の品質を満たした平版印刷版用アルミニウム支持体を高い収率で得ることができ、地球温暖化の原因となるCO発生量が大幅に削減された、平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、前記本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法を適用することで、工程におけるCO発生量が大幅に削減された効率のよい平版印刷版のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れを示す概略図である。
【図2】使用済み平版印刷版から再生地金を製造するまでの再生地金製造装置の一例を示した模式図である。
【図3】図3Aは本発明の方法により得られる台形形状の再生地金形状を示す平面図であり、図3Bは、その側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
<平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法>
本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法は、アルミニウム基体に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を順次施した平版印刷版用支持体を備える使用済みの平版印刷版を含む再生材料を準備する再生材料準備工程と、前記再生材料準備工程において得られた再生材料を溶解炉中に投入し、680℃〜900℃の温度範囲で溶解して再生材料溶湯を得た後、該再生材料溶湯を所定の形状及び重さに成形して再生地金を得る再生地金製造工程と、前記再生地金製造工程において得られた再生地金のアルミニウム純度、及び微量金属含有率を分析する分析工程と、前記分析工程において得られた再生地金のアルミニウム純度、及び微量金属含有率の分析値と、平版印刷版用支持体について予め定めた所望のアルミニウム純度、及び微量金属含有率と、を対比してその差を求め、この差に基づいて、前記再生地金に対して、純度の定まったアルミニウム新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、前記再生地金、アルミニウム新地金、及び微量金属母合金を、前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じた量にて圧延前溶解炉に投入し、加熱溶解して、圧延前溶湯を得る圧延溶湯調製工程と、前記圧延溶湯調製工程にて得られた圧延溶湯を用いて、圧延処理により帯状のアルミニウム基体を作製するアルミニウム基体作製工程と、をこの順に有する。
【0017】
本発明を工程順に説明する。
〔平版印刷版用支持体〕
本発明の製造方法に用いられる支持体は、アルミニウム基体に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を順次施した平版印刷版用支持体である。
(アルミニウム基体)
まず、アルミニウム基体を準備する。
本発明に用いるアルミニウム基体の原料となるアルミニウムとしては、アルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会)に記載の、公知の素材のもの、例えばJIS1050材、JIS1100材、JIS3003材、JIS3103材、JIS3005材などを用いることができるが、本発明で用いられるアルミニウム基体は、アルミニウム(Al)の含有率が95〜99.4質量%であって、銅(Cu)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)およびチタン(Ti)などの微量金属を含んでいてもよい。
基体としてのアルミニウム合金におけるAlの含有率は95質量%〜99.4質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、アルミニウム基体の高い再生率が実現される。
【0018】
本発明で用いるアルミニウム基体は、既述のアルミニウムを原材料として用い、常法で鋳造したものに、適宜圧延処理や熱処理を施し、厚さを0.1〜0.7mmとし、必要に応じて平面性矯正処理を施して製造される。
なお、アルミニウム基体の成形方法としては、DC鋳造法、DC鋳造法から均熱処理、および/または、焼鈍処理を省略した方法、および連続鋳造法を用いることができる。
【0019】
(粗面化処理)
アルミニウム基板には、粗面化処理が施される。粗面化処理方法は、化学的エッチング法、塩酸または硝酸電解液中で電気化学的に粗面化する電気化学的粗面化法、およびワイヤーブラシグレイン、ボールグレイン、ナイロンブラシと研磨剤で表面を粗面化するブラシグレインのような機械的粗面化法を用いることができ、上記粗面化方法を単独あるいは組み合わせて用いることもできる。なかでも粗面化に有用な方法として、塩酸または硝酸電解液中で化学的に粗面化する電気化学的方法が挙げられ、適する陽極時電気量は50C/dm2〜400C/dm2の範囲である。さらに具体的には、0.1〜50%の塩酸または硝酸を含む電解液中、温度20〜80℃、時間1秒〜30分、電流密度100C/dm2〜400C/dm2の条件で交流および/または直流電解を行うことが好ましい。
【0020】
また、粗面化処理したアルミニウム基板は、酸またはアルカリにより化学的にエッチングされてもよい。好適に用いられるエッチング剤は、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等であり、濃度と温度の好ましい範囲はそれぞれ1〜50%、20〜100℃である。エッチングのあと表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗いが行われる。酸には硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸等が用いられる。
以上のように処理された後、処理面の中心線平均組さRaが0.2〜0.55μmであれば、特に方法条件は限定されない。
【0021】
(陽極酸化処理)
粗面化処理されたアルミニウム基板には、その後、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理が施され酸化皮膜が形成される。
本発明における陽極酸化処理は、リン酸を含有する電解液を用いることを特徴とする。 電解液中のリン酸含有量に特に制限はないが、電解液中に含まれる酸成分に対するリン酸の含有率が5質量%以上であることが効果の観点から好まく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、酸成分のすべてがリン酸であってもよい。
【0022】
電解液中のリン酸含有量は、10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜40質量%の範囲であることがより好ましい。電解液は、一般的には、リン酸を主成分として含む水溶液の態様をとる。
本発明における電解液には、本発明の効果を損なわない範囲において、陽極酸化処理に用いられる他の酸成分、例えば、硫酸、シュウ酸、硼酸/硼酸ナトリウムなどが含まれていてもよい。電解液は、通常は、これら酸成分の水溶液からなり、リン酸を主成分とする酸成分が単独もしくは複数種類組み合わせて用いられる。
電解液には、リン酸を含む酸成分の他、公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理の条件に特に限定はないが、処理液温度は10〜70℃であることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましく、さらに好ましくは25〜45℃である。また、電流密度は0.1〜40A/m2の範囲であり、好ましくは、0.2〜10A/m2の範囲であり、より好ましくは1〜7A/m2の範囲であるような、直流または交流電解によって処理される。処理時間は形成される陽極酸化皮膜の厚みにより適宜選択されるが、10秒〜10分、好ましくは20秒〜3分間の範囲である。
【0024】
形成される陽極酸化皮膜の厚さは0.5〜1.5μmの範囲が好適であり、さらに好ましくは0.5〜1.0μmの範囲である。
リン酸を含有する電解液を用いて陽極酸化を行うと、形成される陽極酸化皮膜の孔径が大きくなる傾向があり、皮膜における細孔の孔径としては、平均孔径で200Å〜900Åが好ましく、300Å〜900Åがより好ましく、400Å〜900Åであることが特に好ましい。一般に行われる硫酸を主成分とする電解液による陽極酸化皮膜の孔径は100Å前後であることから、リン酸を電解液に含むことでより大径の細孔が形成されることがわかる。細孔密度は、100〜1000個/μmが好ましく、より好ましくは100〜500個/μmであり、さらに好ましくは100〜350個/μmの範囲である。
なお、本実施形態における細孔の平均孔径及び細孔密度は、陽極酸化皮膜表面を電子顕微鏡にて写真撮影し、該電子顕微鏡写真における細孔の孔径と単位面積あたりの細孔数を測定して平均孔径と密度とを求め、これを陽極酸化皮膜の5カ所について行った結果を平均した値を用いている。
【0025】
本発明に係る陽極酸化処理方法によれば、平均孔径で200Å以上、好ましくは300Å以上の細孔を有する陽極酸化皮膜が形成されるため、このような支持体を用いた平版印刷版をリサイクルする際に、再生地金製造工程における溶湯の調製時における使用済み平版印刷版の溶融が迅速に効率よく行われ、所望されない酸化アルミニウムの副成を低減することができる。
【0026】
(親水化処理)
本発明においては、上述したようにして陽極酸化皮膜を設けた後、更に、所望により表面の親水化処理を施してもよい。親水化処理としては、米国特許第2714066号明細書、同第3181461号明細書、同第3280734号明細書および同第3902734号明細書に開示されているアルカリ金属シリケート(例えば珪酸ナトリウム水溶液)法を用いるのが好ましい。この方法においては、支持体が珪酸ナトリウム水溶液に浸漬されるか、または該水溶液中で電解処理される。他の好ましい方法としては特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム、および、米国特許第3276868号明細書、同第4153461号明細書および同第4689272号明細書に開示されているポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。これらの中でも、珪酸ナトリウムおよびポリビニルホスホン酸水溶液を用いて親水化処理を施すのが好ましい。
【0027】
このようにして作製したアルミニウム支持体の表面粗さとしては、Ra表示で0.2〜0.55μmの範囲のものが好ましく使用される。表面粗さRaを0.2μm以上とすることによりアルミ支持体の砂目形成の不完全性をより抑制でき、耐刷性をより確保できる。また、Raを0.55μm以下とすることにより、砂目の深い部分で光重合が進み難くなることに起因する小点及び細線の再現性低下をより防止できる。表面粗さRa(砂目粗さ)として更に好ましい範囲は0.25μm〜0.5μmであり、最も好ましい範囲は0.3μm〜0.45μmである。
【0028】
通常は、このような支持体表面に、目的に応じた感光性組成物よりなる画像記録層が形成され、平版印刷版原版が得られる。
本発明に適した感光性組成物としては、例えば、光熱変換物質とアルカリ可溶性高分子化合物とを含むサーマルポジ型感光性組成物、光熱変換物質と熱硬化性化合物とを含むサーマルネガ型感光性組成物、ジアゾ樹脂とアルカリ可溶性高分子化合物とを含有するコンベンショナルネガ型感光性組成物、o−キノンジアジド化合物とアルカリ可溶性高分子化合物とを含有するコンベンショナルポジ型樹脂感光性組成物、印刷機上で現像するタイプの感光性組成物などが挙げられる。
【0029】
サーマルポジ型感光性組成物の感光層はノボラック樹脂などのアルカリ可溶性高分子化合物とシアニン染料のような光熱変換物質とを含有するもので、さらに溶解阻止剤を加えることが好ましい。また感光層は単層に限らず、2層構造として設けてもよい。
サーマルネガ型感光性組成物の感光層は光熱変換物質と熱硬化性化合物とを含み、赤外線で照射された部分が硬化して画像部を形成するもので、シアニン染料などの赤外線吸収剤、オニウム塩などのラジカル発生剤、ラジカル重合性化合物およびバインダーポリマーを含有する重合タイプと、赤外線吸収剤、熱酸発生剤、酸架橋剤およびアルカリ可溶性高分子化合物を含有する酸架橋タイプとがある。
光重合型感光性組成物は、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光重合開始剤、およびアルカリ可溶性高分子結合剤を含有する。光重合開始剤としては、使用する光源の波長により適宜選択して用いることができ、また、感光層の上にポリビニルアルコールのような酸素遮断性保護層を設けることが好ましい。
印刷機上で現像するタイプの感光性組成物の感光層には、感熱タイプの熱可塑性微粒子ポリマー型やマイクロカプセル型等がある。
【0030】
上記画像記録層の画像形成機構は任意であり、露光や加熱などのエネルギーを付与された領域の溶解性が向上するかあるいは硬化して、現像液に対する溶解性が変化する。
像露光に用いられる活性光線の光源は、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプが挙げられ、走査露光用には、ヘリウム・ネオンレーザ、アルゴンレーザ、KrFエキシマーレーザ、半導体レーザ、YAGレーザが挙げられる。
そして、現像工程において、画像記録層の未硬化領域或いは可溶化した領域が除去されて製版され、平版印刷版が得られる。
得られた平版印刷版は、印刷機に取り付けられ、インキと湿し水を供給されて印刷工程に付される。
【0031】
本発明においては、前記のような支持体を用いるとともに、再生する各種のアルミニウム材料を圧延前溶解炉とは別の溶解炉で溶解して所定の形状及び重さの再生地金とし、その再生地金(もしくは再生溶湯)を分析した分析結果を用いて圧延前溶解炉に投入する再生地金、新地金、及び微量金属母合金の配合割合を決定する配合割合決定工程を設けたことが大きな特徴である。
図1は、本発明の平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れを説明する説明図であり、感光性の画像記録層を有する平版印刷版の例で説明する。
なお、本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法は、クローズド・ループリサイクルの流れの一部として含まれる。
【0032】
(再生材料準備工程)
本工程では、再生材料を準備するが、通常は、前記印刷に付された後、不要となった使用済み平版印刷版を回収して再生材料とする。
使用済み平版印刷版は、そのまま再生材料として用いてもよく、表面に付着した印刷インクなどを除去する工程を実施してもよい。
図1に示すように、印刷会社32で印刷に使用された使用済み平版印刷版36は、印刷会社から回収されて次の再生工場34に送られて処理される。
また本発明においては、前記再生材料として、印刷済みの平版印刷版以外に平版印刷版の製造加工途中で発生する平版印刷版の切断片等の端材を含んでもよい(図1に記載の帯状原版の加工工程において発生する端材33を示す)。また、再生材料に保護紙や包装紙が付着している場合には、これら保護紙や包装紙を除いておくことが望ましい。さらに再生材料からは画像記録層やインク等の付着物質を溶解前に予め除去しておくことも望ましく、画像記録層やインク等の付着物質は、1質量%以下になるように除去することがより望ましい。
このような再生材料には後の溶解の効率を向上させる為に、例えば特開2000−12718号公報に記載されているような方法で小片化してもよい。
【0033】
(再生地金製造工程)
図2に、印刷会社32で発生した使用済みの平版印刷版36、及び平版印刷版の製造工場18で発生した一辺が1〜60cm程度の端材33を含む再生材料40を処理して再生溶湯とし、さらに再生地金を得る再生塊製造装置の一例38を示す。
この再生塊製造装置38は、再生材料40を溶解して溶湯44とする溶解炉42と、溶湯44を凝固させて再生塊74とする鋳型と、再生塊74を下方から受ける受台とを備える。
溶解炉42は上方が天井璧46で遮蔽されているとともに天井璧46から底壁面に向かって隔壁が垂下しており、側璧には投入口48が設けられている。また、投入口48に対向する他方の側壁にはバーナー50が設けられ、投入された再生材料40を加熱溶解する。この外側からの加熱により再生材料40の一部が溶融し始めると、液状に変化した再生材料が陽極酸化皮膜に形成された比較的大きな細孔を通じて陽極酸化皮膜の深部まで迅速に到達して高温の溶湯が拡散浸透し、再生材料が迅速に溶解して液状となる。
溶解炉42が再生材料40を専用に溶解する専用溶解炉であると、得られる再生溶湯44の成分純度(アルミニウム純度や、微量金属含有量)の変動を極力抑えることができる。また溶解炉42には、再生材料40を溶解する前にアルミニウム含有量が99.5%以上の純アルミニウムを溶解させる処理を行って、内部を洗浄することが再生地金の純度向上の観点から好ましい。また、溶解炉42には再生材料40を投入する前に、予め、溶解炉容量の1/3から1/2程度、前もって溶湯が満たされていることが好ましい。したがって、リサイクルの第一段階では、予め純アルミニウムの溶湯を上記程度の量存在させておく。
本発明において溶解工程では、溶解炉42において前記再生材料を温度680〜900℃の範囲で溶解することにより、溶解速度が速く、再生溶湯44を得るまでのタクト時間を短縮できる。
【0034】
通常、再生溶湯製造装置内では再生材料40と溶湯44が直接空気に触れている為、金属アルミニウムが加熱溶融される際に酸化アルミニウムが不可避に発生し、溶融酸化アルミニウムは純アルミニウムより軽いために、溶湯の表面近傍に存在する。
本発明においては、再生材料に用いられる平版印刷版のアルミニウム支持体表面の陽極酸化皮膜が比較的大径の細孔を有するため、前述のように短時間で効率よく液状化するため、固体状態で高温環境下、空気(酸素)と接触する時間が低減されるために、高温条件下、再生材料と空気とが接触して生成される所望されない酸化アルミニウムの量が低減されることが本発明の大きな特徴である。
溶解炉42に所定量の再生材料を投入して溶解し終わったら、この段階で、溶湯44から微量の溶湯を分析用に抽出しておくことが好ましい。
分析用抽出が終わった溶湯44は、管路52を流れて台形形状をした鋳型54に注ぎ込まれる。この場合、溶湯44の全量を注ぐのではなく、溶解炉42中に1/3から1/2程度残しておき、それを次バッチの溶湯処理の予備溶湯とすることが好ましい。
鋳型54で溶湯は水冷却又は空気冷却されて、1個当たり10〜1200Kgの台形形状の再生地金(インゴット)74に成形される。できた再生塊の形状は例えば図3に示す形をしている。図3は、台形形状の再生地金の形状の一例を示す平面図であり、図3Bは、その側面図である。
【0035】
(分析工程)
アルミ再生工場34では、上記抽出された再生溶湯の成分を分析する。場合により、分析サンプルは再生地金74そのものから抽出してもよい。分析すべき成分は、アルミニウム純度、微量金属(例えば、Cu、Si,Fe,Mnなど)の含有率で、さらに、Mg,Zn,Ti,Crについても分析することが一層好ましい。この分析データは再生地金をアルミ圧延工場14に納品するときに添付する。分析を再生地金74で行う場合には、この分析工程は、アルミ圧延工場14で行ってもよい。
【0036】
(配合割合決定工程)
次に、再生工場34で製造された再生地金74は、アルミ圧延工場14に搬送され、そこでリサイクルされる。アルミ圧延工場14では、前記分析工程で分析した結果得られたアルミニウム純度、微量金属の含有率の分析値と、目的とする平版印刷版用アルミニウム基体としての所望アルミニウム純度、及び所望微量金属含有率と、を対比してその差を求め、求められた差に応じてアルミニウム純度の定まった新地金及び微量金属含有率の定まった微量金属母合金(アルミニウムとの合金)の、前記再生地金に対する配合割合を決定する。この工程により、目的とする平版印刷版用アルミニウム基体における予め定められた所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率を達成するために配合可能な再生地金の最大配合割合を知ることができ、再生地金の組成に応じた最良のリサイクル効率が得られる。
【0037】
(圧延前溶湯調製工程)
前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じて、再生地金、アルミニウム新地金及び微量金属母合金を圧延前溶解炉に投入すると共に加熱溶解して支持体作製に供するアルミニウム溶湯を得る。圧延前溶解炉は一般に前記再生溶解炉42よりはるかに容量が大きく、100tスケールである。
本工程で得られる圧延前溶湯のアルミニウム純度は99.0%以上が好ましく、99.5%以上であることが一層好ましい。後述するように電解方式の粗面化には、アルミニウム純度99.5%以上のアルミニウム板が好ましく、また、アルミニウム純度が99.0未満では、圧延工程でアルミニウム板に圧延する際に割れ等の不具合を生じ易いからである。また、Cu含有量は前記所定の範囲であることを要し、さらに、微量金属含有率は、平版印刷版用アルミニウム基体の目的とする物性により選択される。
溶融条件は、再生地金製造工程における溶湯の調製条件と同様であってもよく、支持体の圧延条件に従って適宜調製してもよい。
【0038】
(アルミニウム基体作製工程)
このようにしてできたアルミニウム溶湯にフラックス,ガス,フイルター等の不純物除去処理を行って、非金属不純物や非金属不純物の燃焼ガス,酸化物等を除去すると共に、溶湯中に溶け込んだH2 ガスやNaを除去する。特にガスを用いる方法とフイルターを用いる方法の2段階で溶湯処理をするよい。溶湯処理されたアルミニウム溶湯は、双ロール連続鋳造機や固定鋳型を用いるDC鋳造法によって鋳造されることが好ましい。前記工程において圧延処理され、所定の厚さまで圧延され、必要に応じて焼鈍処理を施された帯状のアルミニウム基体が作製される。通常は、製造されたアルミニウム基体16はコイル状に巻回されたアルミコイルの状態で保存、搬送される。得られたアルミニウム基体16は、アルミコイルの状態で平版印刷版の製造工場18に送られる。そして、再生されたアルミニウム基体16は、平版印刷版原版の製造に供される。
このようにして本発明により、平版印刷版用アルミニウム基体を効率よく、再生、製造することができる。
【0039】
(平版印刷版原版の製造)
得られた平版印刷版用アルミニウム基体は、平版印刷版原版の製造に供される。これにより、本発明の平版印刷版のリサイクルがなされる。
以下、得られた平版印刷版用アルミニウム基体を用いてなる平版印刷版原版の製造方法について説明する。
(支持体の作製)
まず、前記本発明の製造方法により得られたCuを特定量含有するアルミニウム合金を用いてなるアルミニウム基体16には、平版印刷版用支持体として必要な粗面化処理が施される。ここで、アルミニウム基体16の一方または両方の面が粗面化される。粗面化処理には、特に制限はないが、電気化学的粗面化処理が好ましい。電気化学的粗面化は、塩酸や硝酸等の酸性水溶液中で交流電流を電解電流としてエッチングすることにより行われる。酸濃度は3〜150g/Lが好ましく、溶液中のアルミニウムイオン濃度を2〜7g/Lに調整することが好ましい。電気量は、20〜500C/dmになるように印加することが好ましく、交流としては、矩形波電流及び台形波電流が好ましく、台形波電流が特に好ましい。
このような電解方式を用いてなる電気化学的粗面化処理において、アルミニウム基体16のアルミニウム純度や微量金属の含有率は、生成するピットの均一性に影響し、耐刷性、耐汚れ性及び露光安定性に影響を及ぼす。したがって、アルミニウム板のアルミニウム純度は99.0%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましい。また、アルミニウム板16に含有される微量金属のうち、Cuの含有率は、0.001〜0.050質量%であるのが好ましく、0.002〜0.040質量%であるのが更に好ましく、0.008〜0.035質量%であるのが特に好ましい。 さらにSiの含有率は0.05〜0.50質量%、Feの含有率は0.15〜0.7質量%、Mnの含有率は0.002〜0.15質量%、Mgの含有率は0.001〜1.5質量%、Znの含有率は0.001〜0.25質量%、Tiの含有率は0.001〜0.10質量%、Crの含有率は0.001〜0.10質量%であるのが好ましい。
【0040】
前記のような電解方式で粗面化処理されたアルミニウム基体16の面には、スマットや金属間化合物が存在するので、アルカリ処理した後に、硫酸を主体とする酸性溶液で洗浄処理を行うことが好ましい。
次いで、粗面化処理したアルミニウム基体16に、陽極酸化処理が施され酸化皮膜が形成される。陽極酸化処理は、常法により行うことができ、電解液としては、硫酸、燐酸、シュウ酸もしくは硼酸/硼酸ナトリウムの水溶液が単独もしくは複数種類組み合わせて電解浴の主成分としたものを用いればよいが、アルミニウム基体のリサイクル効率の観点からは、既述のようにリン酸を主成分とする電解液により行われることが好ましい。酸化皮膜の形成条件は既述の通りでよく、好ましい酸化皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであり、この範囲において適宜選択される。
その後、所望により行われる親水化処理の条件は必要に応じて種々選択される。
親水化処理としては、例えば、珪酸ナトリウム溶液による親水化処理、ポリビニルホスホン酸水溶液による親水化処理など、公知の親水化処理を適宜行ってもよい。こうして表面が親水化処理された平版印刷版支持体16を得る。
【0041】
(画像記録層の形成)
次に、得られた支持体に画像記録層を形成することで、平版印刷版原版が製造される。この画像記録層形成工程24において、支持体16Aの粗面化処理された面に、感光性組成物よりなる画像記録層用塗布液が塗布され、乾燥工程26において画像記録層が乾燥される。
本発明における画像記録層の形成に適する感光性組成物としては、例えば、光熱変換物質とアルカリ可溶性高分子化合物とを含むサーマルポジ型感光性組成物、光熱変換物質と熱硬化性化合物とを含むサーマルネガ型感光性組成物、光重合型感光性組成物、ジアゾ樹脂や光架橋樹脂を用いてなるネガ型感光性組成物、キノンジアジド化合物を用いてなるポジ型樹脂感光性組成物、特別な現像工程を必要としない感光性組成物が挙げられる。
これにより、平版印刷版の帯状原版28が製造されるので、加工工程において帯状原版28に帯状の合紙を重ね合わせた状態で所定寸法の四角形シートに切断して合紙付きの平版印刷版原版30(図1参照)を製造する。
製造された合紙付きのシート状の平版印刷版30は複数枚積層された後、梱包されて印刷会社32に送られる。平版印刷版原版30を積層する際に平版印刷版原版30同士の間に合紙が挟み込まれるので、搬送、保存時における平版印刷版原版30の画像記録層面への傷付きが効果的に抑制される。合紙は画像記録層への画像形成工程前に除去される。
平版印刷版原版は、露光或いは加熱による書き込み工程(画像形成工程)と、必要に応じて行われる現像工程を経て製版され、平版印刷版が得られる。
得られた平版印刷版は、印刷インクと湿し水とが供給され印刷工程に供される。
【0042】
本発明の平版印刷版のリサイクル方法では、アルミ圧延工場14から平版印刷版の製造工場18に、新地金100%のアルミニウム基体16を送る「新地金100%ルート」90は最初のみ行って、その後、即ち、2回目以降は、アルミ圧延工場14から平版印刷版の製造工場18に、本発明の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法により得られる再生材料含有のアルミニウム基板88を送る「リサイクルルート」92を行う。
本発明の方法によれば、平版印刷版の産業分野で発生するアルミスクラップを再利用するための完全なクローズドリサイクルの流れを構築することができる。その結果、CO発生量を、アルミニウム新地金12のみで平版印刷版用アルミニウム基体を製造した場合に比較して、大幅に低減できる。
したがって、本発明の方法によれば、得られる平版印刷版用アルミニウム支持体におけるアルミニウム純度や微量金属含有量の品質保証を確保した上で、エネルギーロス、収率ロスを顕著に改善することができ、平版印刷版原版の製造工程におけるCO発生量を大幅に低減することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1、2、比較例1)
1.アルミニウム基体の作製
Si:0.073質量%、Fe:0.270質量%、Cu:0.028質量%、Mn:0.001質量%、Cr:0.001質量%、Zn:0.003質量%、Ti:0.020質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物とからなるアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、実施例1に用いるアルミニウム基体を以下のようにして作製した。
まず、アルミニウム合金溶湯に、脱ガスおよびろ過からなる溶湯処理を施し、DC鋳造法で厚さ500mmの鋳塊を作製した。得られた鋳塊の表面を10mm面削した後、鋳塊を加熱し、均熱化処理を行わずに400℃で熱間圧延を開始し、板厚4mmになるまで圧延した。つぎに、冷間圧延で厚さ1.5mmにし、中間焼鈍を行った後、再度冷間圧延で0.24mmに仕上げ、平面性を矯正して、アルミニウム板を得た。
【0044】
2.平版印刷版用支持体の製造(アルミニウム基体の表面処理)
得られたアルミニウム板について、下記に示す手順で表面処理を行った。なお、各表面処理および水洗の後にはニップローラで液切りを行った。水洗は、スプレー管から水を吹き付けて行った。
2−1.電気化学的粗面化処理
前記で得られたアルミニウム板を塩酸水溶液(17g/l)の塩酸浴中で、台形波の交流電流を用いて電気化学的粗面化処理を行った。交流電流のピーク時の電流密度は、アルミニウム板が陽極時および陰極時ともに50A/dmであり、交流電流の陰極時電気量と陽極時電気量との比は0.95であり、duty比は0.50であり、周波数は60Hzであり、陽極時の電気量の総和は180C/dmであった。
その後、水洗を行った。アルミニウム板の表面最大粗さは4μmであった。
【0045】
2−2.陽極酸化処理
その後、リン酸濃度40質量%の水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度4A/dm、温度40℃、30秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行って酸化皮膜を形成し、その後、スプレーによって水洗を行った。形成された陽極酸化皮膜を電子顕微鏡で解析したところ、平均孔径750Åの細孔が175個/μm確認された。
2−3.親水化処理
前記処理後のアルミニウム基体を、ポリビニルホスホン酸0.6%水溶液(井水を用いて調製した水溶液)を用いて、液温60℃にて、30秒秒間浸漬した。このようにして、平版印刷版用アルミニウム支持体(1)を得た。この付着量を蛍光X線で求めると、リン元素量18.8mg/mであった。
【0046】
3.平版印刷版原版の製造(画像記録層の形成)
3−1.下塗り
前記支持体の表面処理された面に、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドとの共重合体(共重合モル比85/15、Mw28,000)の3%メタノール溶液をバーコーターで塗布し、乾燥後の被服量が18mg/m2となるように下塗り層を設けた。
【0047】
3−2.記録層(重層)の形成
下塗り層が形成されたアルミニウム支持体上に、下記の下層用塗布液を乾燥後の塗布量が0.85g/m2になるようバーコーターで塗布した後、160℃で44秒間乾燥し下層を形成した。その後、下記の上層用塗布液を乾燥後の塗布量が0.22g/m2になるようにバーコーターで塗布し、148℃で25秒間乾燥し平版印刷版原版を作製した。
<下層用塗布液>
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル(36/34/30:Mw60,000) 1.73g
・m,p−クレゾールノボラック(m/p比=6/4、Mw4,500) 0.192g
・シアニン染料A(下記構造) 0.134g
・3−メトキシ−4−ジアゾジフェニルアミンヘキサフルオロホスフェート 0.032g
・エチルバイオレット 0.0781g
・ポリマー1(下記構造) 0.035g
・メチルエチルケトン 25.41g
・1−メトキシ−2−プロパノール 12.97g
・γ−ブチロラクトン 13.18g
【0048】
【化1】

【0049】
<上層用塗布液>
・m,p−クレゾールノボラック(m/p比=6/4、Mw4,500) 0.3479g
・シアニン染料A(前記構造) 0.0192g
・ポリマー1(前記構造) 0.015g
・4級アンモニウム塩(下記構造) 0.0043g
・メチルエチルケトン 6.79g
・1−メトキシ−2−プロパノール 13.07g
【0050】
【化2】

【0051】
3.平版印刷版の作製と印刷
前記の平版印刷版原版を、Creo社製Trendsetterにて テストパターンを画像状に描き込みを行った。
その後、富士フイルム(株)製現像液DT−2を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサーLP940Hにて現像温度30℃、現像時間12秒で現像を行った。現像後、小森コーポレーション(株)製印刷機リスロンを用いて連続して印刷に供した。
【0052】
4.再生材料準備
前記の印刷を終了した平版印刷版の表面に付着した印刷インクを石油クリンサーで除去し、印刷機より取り外した。これら使用済みの平版印刷版を、電動シャーを用いて最も長い部分の長さが5〜50mmとなるように裁断し、小片化を行った。これら小片化された原材料について、吸引分離法、その後、磁力分離法により、異物を分離した。前記平版印刷版用支持体を用いて得られた再生材料をそれぞれ再生材料(1)とする。
【0053】
5.再生地金の作製
再生工場では、図2の再生塊製造装置38の溶解炉42に、最初は純度100%の1.5tのアルミニウム溶湯を溶解しておく。その中に、前記再生材料(1)を1.5t投入して720℃で加熱溶解し、これを溶湯(1)とする。次に、各溶湯から分析用サンプルを汲み出した。
その後、前記溶湯より、管路52を通して鋳型54に、図3に記載の大きさになるように流し込んだ後、冷やし固めて再生地金(塊)を得た。
また別に、溶湯表面に浮いた酸化アルミニウムスラブをかき出して、その質量を測定し、対応するアルミニウム重量を 酸化がないと仮想した時の理想アルミニウム量から差し引いて、再生地金収率を計算した。
次に、前記分析用サンプルのアルミニウム純度及び微量金属含有率を分析した。その結果、溶湯(1)は、Siが0.070%、Feが0.300%、Cuが0.015%、Mgが0.010%であった。
上記再生地金にその分析結果を添付して、アルミニウム圧延工場14へ輸送した。
【0054】
6.平版印刷版用アルミニウム基体の作製
アルミニウム圧延工場では、平版印刷版の製造工場より受けた注文に応じて平版印刷版用アルミニウム基体を作成するが、この注文の中には基体の厚み、大きさ、量だけでなく、合金組成も指示されている。
そこで、アルミニウム圧延工場14が上記納入された再生地金を用いて平版印刷版用基体を作製する時には、注文の合金組成を目標値とし、それと前記再生地金に添付された分析値とを対比してその差を求め、その値から、合金組成目標値とアルミニウム圧延前溶解炉の所定溶湯量に対して、再生地金と微量金属母合金と純アルミニウムとを配合する量を算術的に計算する。この工程により、配合可能な再生地金の最大配合割合を知ることができ、再生地金の組成に応じた最良のリサイクル効率が得られる。
例えば、目標値がSi0.07%、Fe0.25%、Cu0.025%であり、Mg0.01%以下であって、圧延前溶解炉の仕込み量が100tであった場合、本実施例の前記成分組成の再生地金を用いてなる場合、再生地金を83t、純アルミニウム地金を17t混合し、SiとCuとはそれぞれの母合金添加で含有量調整を行なうことで、目標値の合金組成を得ることができる。
そこで、圧延前溶解炉に前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じて、再生地金、アルミニウム新地金及び微量金属母合金を投入し、加熱溶解して圧延前アルミニウム溶湯を得た。
このアルミニウム溶湯に脱ガス処理とフイルター処理を行って不純物除去処理を施した後、前述1と同様のDC鋳造法によってアルミニウム基体を鋳造した。
【0055】
このようにして作成されたアルミニウム基体を原料として、新アルミニウムを用いてなる前記「2、平版印刷版用支持体の製造の方法」と同様にして平版印刷版用支持体を作製した。
平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法に沿って得た使用済み平版印刷版(PS版)を原料として新たな平版印刷版を50t(トン)製造した場合と、実施例1で当初用いてなるアルミニウム基体の原料(新地金)100%を用いて平版印刷版(PS版)を50t製造した場合(対照例1)とのCO発生量を、アルミ精錬工程、再生地金製造工程、アルミニウム基体作製工程、平版印刷版の製造工程ごとに調べた。結果を下記表1に示す。また、上記再生地金の収率も表1に併記する。
【0056】
(実施例2)
上記アルミニウム基体の陽極酸化処理条件を以下のように変えた他は、実施例1と同様にして平版印刷版原版を作製した。これを印刷に使用した後、同様にリサイクルして新たな平版印刷版原版を作製し、これを実施例1と同様に評価した。
(陽極酸化処理条件)
リン酸濃度30質量%かつ硫酸濃度10質量%の水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度4A/dm、温度40℃、30秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行って酸化皮膜を形成し、その後、スプレーによって水洗を行った。形成された陽極酸化皮膜を電子顕微鏡で解析したところ、平均孔径500Åの細孔が200個/μm確認された。
【0057】
(比較例1)
上記アルミニウム基体の陽極酸化処理条件を以下のように変えた他は、実施例1と同様にして平版印刷版原版を作製した。これを印刷に使用した後、同様にリサイクルして新たな平版印刷版原版を作製し、これを実施例1と同様に評価した。
(陽極酸化処理条件)
硫酸濃度30質量%の水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度6A/dm、温度30℃、30秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行って、厚み μmの酸化皮膜を形成し、その後、スプレーによって水洗を行った。形成された陽極酸化皮膜を電子顕微鏡で解析したところ、平均孔径130Åの細孔が1000個/μm以上確認された。
【0058】
【表1】

【0059】
なお、再生地金製造工程のCO発生量は、各電解品の溶解時の投入エネルギーと収率とから求めた。また、アルミ精錬工程、圧延工程でのCO発生量は、日本アルミ協会のHPのデータを使用した。
表1の結果から分かるように、本発明の製造方法により平版印刷版を製造した実施例1及び実施例2では、CO発生量は、新地金を100%使用した場合(対照例1)のCO発生量の約1/4(75%削減)まで低減することができる。他方、アルミニウム基体の原料となるアルミニウム合金におけるCuの含有量が本発明の範囲外である支持体を用いてなる比較例1では、再生地金製造工程重量後に得られたアルミニウム純度が実施例に比較して低いものとなった。
表1の結果から分かるように、本発明の製造方法により平版印刷版を製造した実施例1及び実施例2では、CO発生量は、新地金を100%使用した場合(対照例1)のCO発生量の15%(85%削減)まで低減することができる。他方、Cuの含有量が本発明の範囲外であるアルミニウム合金を用いてなる支持体を使用した比較例1及び比較例2では、再生地金収率が実施例に比較して低いものとなった。
【符号の説明】
【0060】
10…アルミ精錬工場
12…アルミニウムの新地金
14…アルミ圧延工場
16…新地金100%のアルミニウム基体
18…平版印刷版の製造工場
30…平版印刷版
32…印刷会社
33…端材
34…再生工場
36…印刷使用済み平版印刷版
38…再生地金製造装置
40…再生材料(印刷使用済み平版印刷版及び端材)
42…溶解炉
44…溶湯
52…管路
74…再生地金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基体に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を順次施した平版印刷版用支持体を備える使用済みの平版印刷版を含む再生材料を準備する再生材料準備工程と、
前記再生材料準備工程において得られた再生材料を溶解炉中に投入し、680℃〜900℃の温度範囲で溶解して再生材料溶湯を得た後、該再生材料溶湯を所定の形状及び重さに成形して再生地金を得る再生地金製造工程と、
前記再生地金製造工程において得られた再生地金のアルミニウム純度、及び、微量金属含有率を分析する分析工程と、
前記分析工程において得られた再生地金のアルミニウム純度、及び、微量金属含有率の分析値と、平版印刷版用支持体について予め定めた所望のアルミニウム純度、及び、微量金属含有率と、を対比してその差を求め、この差に基づいて、前記再生地金に対して、純度の定まったアルミニウム新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、
前記再生地金、アルミニウム新地金、及び微量金属母合金を、前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じた量にて圧延前溶解炉に投入し、加熱溶解して、圧延前溶湯を得る圧延溶湯調製工程と、
前記圧延溶湯調製工程にて得られた圧延溶湯を用いて、圧延処理により帯状のアルミニウム基体を作製するアルミニウム基体作製工程と、
をこの順に有する平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法。
【請求項2】
前記再生材料準備工程における前記再生材料が、さらに平版印刷版原版製造工程の過程で発生するアルミニウム基体の切断片及び平版印刷版の切断片のうち少なくとも1種を含む請求項1記載の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法。
【請求項3】
前記電解液中のリン酸の含有量が、10質量%以上50質量%以下である請求項1記載の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法。
【請求項4】
平版印刷版用アルミニウム基体の少なくとも片面に、粗面化処理、及び、リン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理を含む処理を順次施して平版印刷版用支持体を得る平版印刷版用支持体作製工程と、
得られた平版印刷版用支持体における処理を施した被処理面に画像記録層を形成して平版印刷版原版を製造する平版印刷版原版製造工程と、
得られた平版印刷版原版を製版して平版印刷版を得た後、所望の印刷を行う印刷工程と、
印刷工程の完了後に発生した使用済みの平版印刷版を回収する回収工程と、
回収された使用済み平版印刷版を、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法における再生材料として供するリサイクル工程と、
をこの順に有する平版印刷版のリサイクル方法。
【請求項5】
前記銅平版印刷版用アルミニウム基体が、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の平版印刷版用アルミニウム基体の製造方法により得られた平版印刷版用アルミニウム基体である請求項4に記載の平版印刷版のリサイクル方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−73312(P2011−73312A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227792(P2009−227792)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】