説明

平版印刷版用版面洗浄剤

【課題】平版印刷版において優れた汚れ除去能力を有し、不感脂化作用の持続性が充分にある平版印刷版用版面洗浄剤を提供する。
【解決手段】モノテルペン系炭化水素及び脂肪酸トリグリセリドから選ばれる少なくとも一種の化合物と、大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類と、水とを含有することを特徴とする平版印刷版用乳化型版面洗浄剤;さらにノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む上記の乳化型版面洗浄剤;さらにブロモニトロアルコール系化合物及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物から選ばれる少なくとも一種を含む上記の乳化型版面洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版の版面洗浄剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、水と油が本質的に混り合わない性質を巧みに利用した印刷方式であり、印刷版面は水を受容し、油性インキを反撥する領域と水を反撥して油性インキを受容する領域から成り、前者が非画像域であり、後者が画像域である。従ってその均衡が崩れ、例えば非画像域の親水性が何らかの原因で劣化するとしばしばその領域にインキが付着し、所謂「地汚れ」と成る。このような地汚れが発生する場合は多種多様であるが、代表的なものは、平版印刷版を高耐刷力とするために施されるバーニングなどの処置を施した場合や、平版印刷版の版面を不感脂化ガムで保護することなく大気中に放置した場合がある。この様な現象は、印刷時に印刷機のトラブル又は休憩時間などで印刷機を停止した場合などに於いても同様に起きることがある。従って通常、印刷機を停止する場合、印刷関係者などは不感脂化ガム液を塗布する習慣がある。また、不感脂化ガムが塗布されていない平版印刷版の非画像域に親油性の物が付着し放置された場合、その部分が感脂化され、汚れとなる。例えば指紋などの跡が印刷物の背景に現れるのも、同様な原因によるものである。更にまた、非画像域に傷が付いた場合であり、この場合は傷の中にインキが詰まり、次第に感脂化されて汚れとなる。
【0003】
上述のような、汚れの発生した平版印刷版は、版面のインキを除去すると共に非画像域の親水性を回復せしめるための所謂版面洗浄剤(プレートクリーナーと呼ぶこともある。)で処理されるものが通例である。かかる版面洗浄剤の例として、従来珪酸ナトリウム水溶液から成るものが知られていた。しかしながら、この版面洗浄剤は不感脂化作用が極めて高いという効果を有するものの、アルカリ性のため、水性アルカリ現像液で現像される感光性平版印刷版、例えば特公昭43−28403号公報、及び米国特許第3,046,120号明細書などに記載されているo−キノンジアジド化合物からなる感光層を有するポジ作用感光性平版印刷版、又は特開昭54−98613号公報、及び英国特許1,350,521号明細書などに記載されているような酸性基を有するバインダとジアゾ樹脂からなる感光層を有するネガ作用感光性平版印刷版などから製版された平版印刷版に使用すると画像域の一部が侵されたり、インキの付着性が劣化するという問題があった。
他方、蓚酸を用いたプレートクリーナーが提案されている(例えば特許文献1参照)。このプレートクリーナーは不感脂化力が弱く、金属支持体を腐食する作用が強いため、アルミニウム板を支持体とする通常の感光性平版印刷版(PS版と称されている。)の支持体表面に施されている親水層(例えば米国特許第2,714,066号明細書に記載されているような親水化処理により形成された層)が破壊され、汚れを引起し易いので金属支持体には適性がない。
【0004】
一般に印刷中に汚れが発生した場合は先ず、版面のインキを洗浄剤(灯油又は炭化水素系溶剤)で除去し、次いで不感脂化処理剤で処理する。上記のような従来の版面洗浄剤も、版面をインキ洗浄剤で洗浄した後に施こす必要があるため、版面洗浄剤処理をするときには処理工程が2工程となり繁雑である。そのため近年、両機能を統合させた乳化型即ちインキ洗浄剤作用及び不感脂化作用を兼ね備えた版面洗浄剤が開発されている。そのような版面洗浄剤としてアルカリ性の乳化型版面洗浄剤が提案されており(例えば特許文献2参照)、あるいは酸性の乳化型版面洗浄剤が提案されている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、このような乳化型版面洗浄剤は、バーニング処理した平版印刷版に対する汚れ除去力が劣り、又傷汚れなどに対しては不感脂化作用の持続性が不充分であって、印刷の途中でしばしば汚れが再発するという欠点が有った。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,489,561号明細書
【特許文献2】特開昭52−15702号公報
【特許文献3】特開昭53−2102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、平版印刷版において優れた汚れ除去能力を有し、不感脂化作用の持続性が充分にある平版印刷版用版面洗浄剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは種々研究を重ねた結果、下記組成の版面洗浄剤により上記の諸目的が達成されることを見出した。
すなわち本発明は、
1) モノテルペン系炭化水素及び脂肪酸トリグリセリドから選ばれる少なくとも一種の化合物と、大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類と、水とを含有することを特徴とする平版印刷版用乳化型版面洗浄剤である。
2) 好ましい実施態様として、上記1)の組成にさらにノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む乳化型版面洗浄剤がある。
3) 別の好ましい実施態様として、上記1)又は2)の組成にさらに、ブロモニトロアルコール系化合物及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む乳化型版面洗浄剤がある。
4) 上記3)の実施態様として、該ブロモニトロアルコール系化合物が2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール及び1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−プロパノールから選ばれる乳化型版面洗浄剤がある。
5)上記3)の実施態様としてまた、該1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物が下記一般式で表される化合物である乳化型版面洗浄剤がある。
【0008】
【化1】

(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Xはアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、nは0又は1〜4の整数を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳化型版面洗浄剤は、製版時又はその後の保存、印刷中その他、製版から印刷迄の全ての段階に於いて、平版印刷版に発生した原因に基づく地汚れを除去することができる。本発明の乳化型版面洗浄剤は、既存の版面洗浄剤にある欠点、例えば、特定の版にのみ適性を有する;一部の版に対しては画像を傷つけたり着肉性を悪化させたり或いは非画像部の親水層を腐食し破壊する;非画像部の親水層の傷に起因する汚れの回復能力が劣る、などの欠点を克服したものであり、ネガ又はポジのいずれのPS版から作成された平版印刷版にも有用である。本発明の乳化型版面洗浄剤は、平版印刷版の非画像部の親水層に発生した傷などのために生じる地汚れを防止する作用や、回復した親水性を維持、強化する働きが極めて強力である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の乳化型版面洗浄剤のより具体的な組成例として、(1)モノテルペン系炭化水素及び脂肪酸トリグリセリドから選ばれる少なくとも一種の化合物を含む油相と、(2)大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類、さらに(3)有機カルボン酸、(4)硝酸塩、硫酸塩及び重硫酸塩から選ばれる少なくとも一種、及び(5)水を含む水相とからなる乳化型版面洗浄剤がある。
上記組成物には更に、平版インキに対する溶解作用を具備する(6)炭化水素系溶剤及び/又はアルコール類、(7)界面活性剤、(8)水溶性コロイド物質、(9)湿潤剤、(10)チキソトロピィー剤、(11)pH調整剤、(12)ブロモニトロアルコール系化合物及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物からなる群から選ばれる化合物などを必要に応じて含有させることができる。本発明の版面洗浄剤には、上記成分の他に防腐剤、殺菌剤、染料などを添加してもよい。
【0011】
本発明で使用する上記成分(1)のモノテルペン系炭化水素としては、公知のものを広く使用でき、例えばα−ピネン、β−ピネン、3−カレン、カンフェン、D−リモネン、L−リモネン、ジペンテン、テルピノレン、α−テルピネン、α−テルピネオール、ミルセン、オシメン、p−シメンなどが挙げられる。これらモノテルペン系炭化水素の中でも、D−リモネン、ジペンテンなどが好ましい。これらモノテルペン系炭化水素は、一種単独で又は二種以上混合して使用される。モノテルペン系炭化水素の使用量は特に限定されるものではないが、一般的に好ましい範囲は版面洗浄剤の全質量の3〜50質量%であり、より好ましくは5〜30質量%である。
【0012】
また、上記成分(1)の脂肪酸トリグリセリドとしては、公知のものを広く使用でき、例えば一般式(1):
【化2】

[式中、R1、R2及びR3は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数5〜23の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を示す。]で表される脂肪酸トリグリセリドを挙げることができる。
上記式中、R1、R2及びR3は炭素原子数5〜23、好ましくは炭素原子数7〜17の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であって、ヒドロキシル基を有していてもよい。R1、R2及びR3の具体例としてn−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、2−ヘキセニル基、2−ヘプテニル基、2−オクテニル基、ペンタデセニル基、ヘプタデセニル基、9−オクタデセニル基などを挙げることができる。
【0013】
本発明の版面洗浄剤において上記成分(1)の脂肪酸トリグリセライドとして、植物油を使用することもできる。従って上記式中、R1−C(O)−、R2−C(O)−及びR3−C(O)−は、植物油の構成脂肪酸残基であってよく、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルシン酸、リグノセリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、リシノレイン酸などの残基であり得る。
本発明で脂肪酸トリグリセリドとして使用できる植物油の具体例には、アボカド油、オリーブ油、ツバキ油、杏仁油、ククイナッツ油、ブドウ種油、ごま油、紅花油、スィートアーモンド油、大豆油、トウモロコシ油、ピスタチオナッツ油、ヒマシ油、ヒマワリ種子油、ハシバミ実油、ホホバ油、マカダミアナッツ油、メドウホーム油、ラッカセイ油、菜種油、バラ実油、ココナッツ油などを例示できる。これら脂肪酸トリグリセリドの中でも、紅花油、大豆油、菜種油、及びトウモロコシ油などが好ましく用いられる。このような植物油を一種単独で又は二種以上を用いてよい。
本発明の版面洗浄剤において脂肪酸トリグリセリドの含有量は、特に限定されるものではないが、一般的に3〜50質量%の範囲が適当であって、より好ましくは5〜30質量%の範囲である。
【0014】
本発明の版面洗浄剤において、モノテルペン系炭化水素及び脂肪酸トリグリセリドから選ばれる少なくとも一種を含有させればよく、例えばモノテルペン系炭化水素及び脂肪酸トリグリセリドの双方を用いてもよい。
本発明の版面洗浄剤において、上記成分(1)の含有量は3〜50質量%が適当で、より好ましくは10〜40質量%である。
【0015】
上記成分(2)の大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類として、水溶性大豆多糖類が挙げられる。水溶性大豆多糖類はラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びウロン酸等を構成糖に含有し、その平均分子量は5〜100万である。本発明の版面洗浄剤において水溶性大豆多糖類の含有量は、0.5〜20質量%の範囲が適当であって、好ましくは1〜10質量%である。上記水溶性大豆多糖類は水あるいは50℃以下の温水に溶解し、均一な水溶液として使用する。このような水溶性大豆多糖類の製造方法は特開平5−32701号公報に記載されている。また、水溶性大豆多糖類の市販品としてはソヤファイブ−S−LN(不二製油(株)製)等が挙げられる。本発明で使用できる大豆多糖類は10質量%水溶液の粘度(25℃)が5〜100cpの範囲のものが好ましく使用される。
【0016】
本発明の版面洗浄剤には成分(3)の有機カルボン酸をさらに含ませてもよい。有機カルボン酸としてはクエン酸、酢酸、マロン酸、酒石酸、りんご酸、乳酸、レブリン酸、酪酸、マレイン酸、ピコリン酸などが使用される。成分(3)として1種又は2種以上の有機カルボン酸を使用することができる。中でもクエン酸、りんご酸、及びマレイン酸が好ましく用いられる。
有機カルボン酸の使用量は版面洗浄剤全質量の0.5〜10質量%が一般的であり、より好ましくは1〜5質量%である。
【0017】
本発明の版面洗浄剤にはまた、硝酸塩、硫酸塩及び重硫酸塩から選ばれる少なくとも一種(成分(4))を含ませてもよい。
本発明に使用される成分(4)の硝酸塩は水溶性の硝酸塩であって、例として硝酸亜鉛、硝酸コバルト、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ニッケル、硝酸ビスマス、硝酸錫、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸セリウムなどの硝酸の金属塩、及び硝酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの硝酸塩は1種単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の版面洗浄剤において、水溶性の硝酸金属塩の使用量は、版面洗浄剤全質量の0.5〜10質量%が一般的であり、より好ましくは1〜5質量%である。
本発明に使用される成分(4)の硫酸塩又は重硫酸塩として、例えば硫酸塩としては硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができる。重硫酸塩は一般式 M(HSO4)n (但し、Mは金属を示し、nはMの価数を示す。)で表わされ、例えば硫酸水素ストロンチウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素タリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素鉛、硫酸水素ビスマス、硫酸水素マグネシウム、硫酸水素ロジウムなどが挙げられる。これらの硫酸塩及び重硫酸塩から、一種あるいは二種以上を組み合わせて用いてよい。本発明の版面洗浄剤において硫酸塩及び/又は重硫酸塩の使用量は、版面洗浄剤の総質量を基準として一般的に0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
本発明の版面洗浄剤には硝酸塩、硫酸塩及び重硫酸塩から選ばれる少なくとも一種を含ませることができ、これら成分(4)の含有量は0.5〜10質量%が適当で、より好ましくは1〜8質量%である。
【0018】
本発明の版面洗浄剤の水相の残余の成分は水であり、その量は本発明の版面洗浄剤の総質量に対して35〜85質量%が適しており、より好ましくは40〜80質量%である。
【0019】
一方、本発明の版面洗浄剤の油相にさらに含ませてもよい成分(6)の炭化水素系溶剤及び/又はアルコール類は、平版印刷インキを溶解する作用を有するものである。炭化水素系溶剤としては、通常印刷インキの洗浄に使われている石油留分で沸点が120〜320℃のものが特に有用である。炭化水素系溶剤の例として芳香族系混合溶剤があり、例えばソルベント(日本石油化学(株)製)、スワゾール(丸善石油化学(株)製)及びエクスゾール(エクソン化学(株)製)などがある。また、アルコール類の例として3−メチル−3−メトキシブタノールなどがある。このような成分(6)は1種又は2種以上使用してもよく、その使用範囲は、一般的に版面洗浄剤の全質量の0〜40質量%の範囲であり、より好ましくは0〜30質量%である。
【0020】
本発明で使用する上記成分(1)や上記成分(6)は、成分(5)の水と混ざり合わないため、使用する時に充分混合分散した状態で用いる。このとき分散の安定性を高める目的で成分(7)の界面活性剤を添加することが有用である。本発明に使用できる界面活性剤としてはアニオン型界面活性剤及びノニオン型界面活性剤がある。
アニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類などが挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0021】
また、ノニオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ヒマシ油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、トリアルキルアミンオキシド類などが挙げられる。その中でもポリオキシエチレン化ヒマシ油類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類などが好ましく用いられる。これらの界面活性剤は二種以上併用してもよい。版面洗浄剤における界面活性剤の使用量は特に限定されるものではないが、好ましい範囲は版面洗浄剤の全質量の0.5〜10質量%である。
【0022】
成分(8)の水溶性コロイド物質は粘度調整剤であり、版面洗浄剤全体の25℃における粘度が10cps〜1000cpsの範囲となるように使用するのが適当である。好ましい具体例としてはデキストリン、サイクロデキストリン、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなど)などの天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、アクリル酸共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体などの合成物があり、これらの物質は単独又は混合して使うことができる。上述のような粘度範囲とするための水溶性コロイド物質の使用範囲は版面洗浄剤の全質量の1〜24質量%、より好ましくは3〜20質量%から選ぶことができる。
【0023】
上記成分の他、版面洗浄剤に良好な広がり特性を与え、乾燥を抑えて使用適性を良好にする観点から、一種又はそれ以上の湿潤剤(成分(9))も有用である。適当な湿潤剤として一般式:HO−(R−O)n −H(式中Rは CmH2m(m=2〜6)であり、nは1〜500である。)で表される化合物が挙げられる。好ましい化合物の例をあげると、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどである。その他の湿潤剤としてグリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトールが有用である。湿潤剤の使用量は版面洗浄剤の全質量の1〜30質量%の範囲で効果が認められ、より好ましくは2〜20質量%の範囲である。
【0024】
成分(10)のチキソトロピー剤は動的圧力によって液の粘度が低下し、静置のときは粘度が上昇してスポンジなどで版面を処理するときの作業特性を良好にする。適当なチキソトロピー剤としては、珪酸の微粉末、パミス、炭酸カルシウム、ゼオライトなどが挙げられる。その使用量は版面洗浄剤の全質量の1〜10質量%の範囲が適当であり、好ましくは2〜7質量%の範囲である。
【0025】
本発明の版面洗浄剤は、通常酸性で使用されるものであり、一般的にpH1〜4の範囲に調整される。このようなpH範囲に調整するために使用するpH調整剤(成分(11))としては硫酸、亜リン酸、クエン酸、酢酸、蓚酸、マロン酸、酒石酸、りんご酸、乳酸、レブリン酸、酪酸、マレイン酸、ピコリン酸などの酸が使用され、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリを併用してもよい。
【0026】
本発明の版面洗浄剤にはさらに、防腐性を高めるためにブロモニトロアルコール系化合物及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(成分(12))を含ませてもよい。
本発明で使用するブロモニトロアルコール系化合物は、下記一般式〔A〕〜〔C〕で表される化合物を包含する。





【0027】
【化3】

(式中、R1〜R13はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表す。)
【0028】
一般式〔A〕〜〔C〕中のR1〜R13がアルキル基を示すとき、低級アルキル基が好ましく、特に炭素原子数1〜3のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが適当である。これらのブロモニトロアルコール系化合物から一種又は二種以上を使用することができる。
本発明で使用するブロモニトロアルコール系化合物のうち特に好ましいものは、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール(プロノポール)、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−エタノール(DBNE)、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−プロパノール(DBNP)、3−ブロモ−3−ニトロペンタン−2,4−ジオールなどである。
版面洗浄剤におけるブロモニトロアルコール系化合物の含有量は、0.1〜5質量%が適当であり、好ましくは0.2〜3質量%である。
【0029】
1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物として好ましく使用されるものに、下記構造式の1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンがある。
【化4】

(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Xはアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、nは0又は1〜4の整数を表す。)
上記式中、Rがアルキル基を表すとき、低級アルキル基が好ましく、具体的に炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、特にメチル基が挙げられる。Xがアルキル基を表すとき、低級アルキル基が好ましく、具体的に炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましい。Xがアルコキシ基を表すとき、炭素原子数1〜4のアルコキシ基が好ましい。Xがハロゲン原子を表すとき、塩素原子、臭素原子が好ましい。
版面洗浄剤には、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物を一種又は二種以上使用することができる。
【0030】
本発明で使用する1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物のうち、特に好ましく使用されるものとして以下のものがある。
【化5】

版面洗浄剤における1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物の含有量は、0.1〜5質量%が適当であり、好ましくは0.2〜3質量%である。
【0031】
本発明の版面洗浄剤において、ブロモニトロアルコール系化合物及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(成分(12))を含有させることができ、例えば双方を用いてもよい。
本発明の版面洗浄剤において、上記成分(12)の含有量は0.1〜5質量%が適当で、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0032】
本発明の乳化型版面洗浄剤の製造方法の一例として、水相と油相とをそれぞれ調製し、水相に油相を滴下して分散液を作り、これをホモジナイザーにかけてさらに乳化することができる。
本発明の乳化型版面洗浄剤の使用方法としては、例えばウェスなどに含ませて版面を拭き、適宜の時間放置して、その後水で拭き取ればよい。
【実施例】
【0033】
次に本発明の版面洗浄剤を実施例をもって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお「部」および「%」は他に指定のない限り、それぞれ質量部および質量%を示す。
【0034】
[実施例1〜8及び比較例1〜8]
水相として純水450質量部に、表1〜2記載(単位:質量部)の水溶性大豆多糖類(不二製油(株)社製:商品名ソヤファイブ−S−LN:分析値ガラクトース43.6%、アラビノース22.5%、ガラクツロン酸2.2%、残存蛋白4.7%)及び/又は他の水溶性樹脂を表1〜2記載の添加量で溶解し、クエン酸を50質量部加え、攪拌しながら溶解し順次硝酸マグネシウム20質量部、硫酸水素ナトリウム5質量部を添加し、防腐剤として1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン 5質量部、湿潤剤としてグリセリン40質量部を混合した。これに水酸化ナトリウムもしくはクエン酸によりpHを3.0に調整し水を加え合計650重量部となるよう水相を調製した。
一方、油相として表1〜2記載のインキ溶解剤に乳化剤としてペレックスOT−P(花王(株)製ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム)20質量部、パイオニンD−212(竹本油脂(株)製ヒマシ油エーテル)10質量部、ノニオンOP−80(日本油脂(株)製ソルビタンモノオレート)5質量部を溶解し、合計350質量部となるよう油相を調製した。
次に、上記のように調製した水相を攪拌加温し35℃に調整し、ゆっくりと油相を滴下し分散液を作成し、ホモジナイザーを通し乳白色の乳化型版面洗浄剤を作成した。
【0035】
一方平版印刷版としてHPS−II(富士写真フイルム(株)製PS版)を標準条件で製版した印刷版を4分割し(プレートA〜D)、下記に示す条件で各版を処理した。
[各プレートの処理条件]
プレートA:空気酸化汚れ(ガム塗布なしの状態で、150℃の乾燥機中に3時間保管した。)
プレートB:傷汚れ(引掻き試験器(新東科学(株)製を用いてダイヤ針4Rに荷重100g、200g、300gで引掻き傷をつけ大気中に3日間放置した。)
プレートC:オイル汚れ(オレイン酸1gをミネラルスピリット10gに溶解し、脱脂綿に浸してバフドライした。)
プレートD:正常プレート(通常製版でガム塗布しバフドライし保管した。)
【0036】
これらの版を、ハイデルベルグSOR−M型印刷機上で、VALUES−G紅(大日本インキ化学工業株式会社製)インキと、湿し水としてECOLITY-2(富士写真フイルム(株)製)を2%の濃度で用いて、印刷に供した。
その後、プレートA〜Dに、先に調製した各種乳化型版面洗浄剤を適用し約30秒間放置したのち、水で拭き取り、再び印刷に供した。得られた印刷物上での汚れを正常プレートDと比較して観察し、各種版面洗浄剤による汚れ除去能力を評価した。
汚れ除去の程度は、○:優れている、△:やや劣る、×:劣る、の3段階で評価した。
結果を表1〜2に合わせて示す。表1〜2の結果から、本発明の乳化型版面洗浄剤が各種の汚れに対して良好な除去性を発揮し、また正常プレートにも悪影響がないこと(表中○で示している)が判る。
【0037】
【表1】

*1:セロゲン5A(第1工業薬品(株)製)
*2:信越化学(株)製
*3:モノテルペン系炭化水素(ヤスハラケミカル(株)製)
*4:モノテルペン系炭化水素(ヤスハラケミカル(株)製)
*5:脂肪酸トリグリセリド(和光純薬工業(株)製))
*6:脂肪酸トリグリセリド(キシダ化学(株)製))
*7:3−メチル−3−メトキシブタノール((株)クラレ製)
*8:日本石油化学(株)製
*9:丸善石油化学(株)製
*10:エクソン化学(株)製
【0038】
【表2】

*1:セロゲン5A(第1工業薬品(株)製)
*2:信越化学(株)製
*3:モノテルペン系炭化水素(ヤスハラケミカル(株)製)
*4:モノテルペン系炭化水素(ヤスハラケミカル(株)製)
*5:脂肪酸トリグリセリド(和光純薬工業(株)製))
*6:脂肪酸トリグリセリド(キシダ化学(株)製))
*7:3−メチル−3−メトキシブタノール((株)クラレ製)
*8:日本石油化学(株)製
*9:丸善石油化学(株)製
*10:エクソン化学(株)製

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノテルペン系炭化水素及び脂肪酸トリグリセリドから選ばれる少なくとも一種の化合物と、大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類と、水とを含有することを特徴とする平版印刷版用乳化型版面洗浄剤。
【請求項2】
さらにノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1記載の乳化型版面洗浄剤。
【請求項3】
さらにブロモニトロアルコール系化合物及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1又は2記載の乳化型版面洗浄剤。
【請求項4】
ブロモニトロアルコール系化合物が、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、及び1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−プロパノールから選ばれる、請求項3記載の乳化型版面洗浄剤。
【請求項5】
1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物が下記一般式で表される化合物である、請求項3記載の乳化型版面洗浄剤。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Xはアルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、nは0又は1〜4の整数を表す。)

【公開番号】特開2007−45055(P2007−45055A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233172(P2005−233172)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】