説明

平膜エレメントおよび発酵槽

【課題】
大スケール、あるいは、より生産速度を高めた運転が行うことが可能なメンブレンバイオリアター装置およびそのための膜エレメントや発酵槽を提供すること。
【解決手段】
2枚の膜間に外枠および/または流路材および/または支持板を有した平膜エレメントであって、外枠、支持板、流路材の少なくともいずれかに温度調節部を設けたことを特徴とする平膜エレメント。また、その平膜エレメントを槽内に浸漬収容した発酵槽。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平膜エレメントおよびそれを用いた発酵槽に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵生産の速度を飛躍的に向上させることが可能な技術として、連続発酵法において、微生物や培養細胞などの細胞を分離膜でろ過し、膜透過液から生産物を回収すると同時にろ過された細胞を培養液に保持または還流させ、培養液中の細胞濃度を高濃度化させ運転を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1)。これらメンブレンバイオリアクターには、膜分離部を発酵槽外に設け液を循環させろ過を行う方式(外部循環方式)と、膜を発酵槽内に浸漬し単一槽でろ過を行う方式(浸漬方式)とがある。従来、小スケールかつ高価な有価物の生産を行う際は、専ら外部循環方式が採用されてきたが、バイオリファイナリーにおける汎用的な化成品の生産を視野にいれた場合、生産コストを低く抑える必要が高くなり、この場合、設備が簡素化・小型化でき、また、液循環ポンプの動力も不要で運転コストが低減可能な浸漬方式が有利となる。特に発酵槽などの生産設備はサニタリー仕様のため極めて高価であり、生産コストに占める償却費の割合も大きいため、浸漬方式が有利となる。廃水処理における膜分離活性汚泥法においても、浸漬方式は、外部循環方式に比べ、低コストな処理法として広く採用されている。
【0003】
しかるに、浸漬方式のメンブレンバイオリアクターを用いた発酵生産を、反応速度の高速化やスケールアップによって更に効率的なものにしようとすると、発酵槽への膜エレメントの充填率と発酵熱を除去するための冷却コイルの充填率とを同時に向上させる必要が生じるため、限界にぶつかる。すなわち、冷却コイルを発酵槽内に浸漬すると、膜エレメントと設置スペースが競合して収容不可能になる。発酵槽の外周に熱交換用の冷却ジャケットを設ける方式もあるが、面積あたりの熱交換を極端に高く行う必要が生じ、経済性が損なわれることにつながる。これに限らず、他の用途においても同様の課題が生じる場合があり、その解決が望まれていた。例えば、濃厚廃水を膜分離活性汚泥法によって処理する場合、曝気だけでは冷却効果が低く、省スペース化に限界があった。
【特許文献1】特公平6−69367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、メンブレンバイオリアクターを用いた発酵生産を大スケールで行うこと、あるいは、より高効率で行うことは依然として困難であり、発酵生産用の大型のメンブレンバイオリアクターは見当たらない。特に汎用的なポリマー原料や工業中間体などの化成品の大量生産に適した、バイオリファイナリーで好適に用いることのできるメンブレンバイオリアクターは見当たらない。本発明の目的は、メンブレンバイオリアクターを用いた発酵生産における上記課題を解決し、より大スケール、あるいは、より生産速度を高めた運転が行え、そのため、有価物の製造コストを低減することが可能なメンブレンバイオリアター装置、および、そのための膜エレメントや発酵槽を提供することにある。また、濃厚廃水を膜分離活性汚泥法によって処理する場合、より処理速度を高めた省スペース化が可能なメンブレンバイオリアター装置、および、そのための膜エレメントや曝気槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0006】
2枚の膜間に外枠および/または流路材および/または支持板を有した平膜エレメントであって、外枠、支持板、流路材の少なくともいずれかに温度調節部を設けたことを特徴とする平膜エレメント。また、当該平膜エレメントを槽内に浸漬収容した発酵槽。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、膜分離の為のスペース(膜エレメント)と熱交換の為のスペース(冷却コイル等)を共有化すれば、スペースの有効利用ができ、以下のメリットが得られる。まず、大型のメンブレンバイオリアクターの運転が可能となる。これによりスケールメリットにより汎用的な化成品を発酵法で大量生産する際の生産コストを低減することが可能となる。次に、メンブレンバイオリアクターの運転を高効率で、すなわち、よりコンパクトな発酵槽を用いて行うことができる。発酵槽は極めて高額であり、発酵槽のコンパクト化は、設備費や償却費の大幅な低減につながる。
【0008】
また、分離膜には、一般に多孔性分離膜が用いられるが、該膜の目詰りによるろ過流量やろ過効率の低下があり、その抑制策の一つとして、強いクロスフロー水流を膜面に発生させる必要がある。他方で、熱の移動も、表面の媒体の流れが速いほど熱伝達係数が増加し、促進される。従って、膜エレメントと熱交換機能が一体化した本発明のエレメントを用いれば、膜面の物理洗浄用の水流エネルギーを、熱交換機の熱伝達効率向上にも同時利用でき、省エネルギー化が可能となる。更に、発酵槽の撹拌により生じる流れを有効利用すれば、動力をいっそう削減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1と図2を用いて本発明における平膜エレメントを説明する。平膜エレメントは2枚の平膜3の間に透過液流路材2および凹部9を有した支持板1を有し、平膜3の周縁部をろ過対象原水側と透過液側を液体が行き来できぬよう封止されている。周縁部の封止方法は、接着剤、熱融着、超音波溶着によって行うこともできるが、エレメント部材のリサイクルの観点からは、外枠5と支持板1とで平膜3を挟み込む方法が好ましく、図1にはこの場合が示されている。
【0010】
外枠5と支持板1とで平膜3を挟み込む場合、外枠5はエレメントの周縁部を押さえることが可能な形であればよく、平膜3を外枠5と支持板1との間に配し、外枠5と支持板1とをネジやクリップで固定することで周縁部を封止する。この時、原液と透過液とが行き来しないよう、弾性のあるシート状の部材(弾性材4)を平膜3と外枠5の間に挟むことが好ましく採用できる。弾性材4としては樹脂製のシートが好ましい。
【0011】
ここで、本発明では、外枠5、支持板1、透過液流路材2の少なくともいずれかの箇所に、温度調節部を設ける。温度調節部とは、ろ過対象原水と温度差のある部位を連続的または間欠的に発生可能な構造を有するものであれば、特に限定されるものではなく、ペルチェ素子、ヒーターや、ろ過対象原水と物理的に隔てられた加熱または冷却用の熱媒体の流路を具備した構造を例示することができる。
【0012】
本発明の平膜エレメントはメンブレンバイオリアター装置に用いられることが好ましい。発酵法における発酵槽や、活性汚泥法における曝気槽に用いられることが好ましいが、中でも発酵槽に用いられることが、上述の通り好ましい。 平膜エレメントで温度調節部を設ける箇所は、外枠5、支持板1、透過液流路材2の少なくともいずれかであれば特に限定されないが、ろ過対象原水との熱交換を効率的に行うには、外枠5、あるいは支持板1が好ましい。外枠5、支持板1、透過液流路材2の材質は、熱伝達性が高く、発酵液に対する耐腐食性を有し、また、加熱滅菌可能なものであれば、いずれでもよい。好適な材質としてステンレスを挙げることができる。また、流れの妨げにならない範囲であれば、平膜エレメントの外周に温度調節部を設けてもよい。図1には、熱媒体の流路を具備した支持板1を用いた場合が例示されており、集水口横には、支持板1に、冷却用の熱媒体供給口6および熱媒体回収口7が設けられている。
【0013】
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、目詰まりが起こりにくく、かつ、ろ過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましく、平均細孔径は、0.01μm以上1μm未満であることが好ましい。分離膜の平均細孔径が上記の範囲内にあると、細胞などがリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。後述する発酵槽に用いる場合においては、細菌類を分離対象とするので、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
【0014】
また、膜の液透過性も重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましく、2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。
【0015】
膜の素材としては、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、硝酸セルロース、再生セルロース、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステルなどの有機系素材やセラミックなど無機系素材が挙げられるが、
後述する発酵槽に用いる場合は、この中から、運転開始時の滅菌や殺菌条件、温度、pHなどの培養条件、pH調整液として使用する薬液のpHの特性を考慮し、運転に際し、物理的強度、耐熱性、化学的耐久性の条件を満足するものを適宜選定し、使用すればよい。
【0016】
本発明の平膜エレメントは発酵槽に浸漬収容して用いられることが好ましい。ここで、発酵とは、生物反応を利用し、有用物質生産や菌体生産を行う技術であり、発酵槽とは、蒸気殺菌が行え、厳しい無菌状態を長期間維持可能な構造を有する発酵生産に用いられる槽のことであり、一般的には、ガラスやステンレス材からなるタンクに、撹拌機、温度制御装置、pHコントロール装置、サンプリング口などが設けられ、必要に応じ、無菌空気を供給するエアスパージャーが具備された構成を有している。
【0017】
図3に、温度調節部を備えた平膜エレメントを槽内に浸漬収容した発酵槽の概念図を示すが、平膜エレメントの配置等は、この図により限定されるものではない。 培地供給ライン13から培地が供給される発酵槽10の中央部に、複数の平膜エレメント12が一定の間隔で垂直に配され、下部に設置した撹拌装置11により水流を平膜エレメント12間に吹き付ける構造となっている。この水流は、発酵槽10の液混合、膜面の物理洗浄、平膜エレメント12の温度調節と発酵液間の熱輸送促進の3つを兼ねる。各平膜エレメント12の集水口はホースで接続され、膜透過液集水ライン15を介して発酵槽外部と無菌的に接続されている。また、平膜エレメント12の膜透過液集水ライン15、冷却用の熱媒体供給ライン14、および熱媒体回収ライン16が接続されている。熱媒体は発酵槽10外の冷却装置との間で循環される。サンプリングライン17や、発酵液排出ライン18が備えられている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の平膜エレメントの構造例を示す。
【図2】本発明の平膜エレメントの断面図を示す。
【図3】本発明の発酵槽の概念図を示す。
【符号の説明】
【0019】
1:支持板
2:透過液流路材
3:平膜
4:弾性材
5:外枠
6:熱媒体供給口
7:熱媒体回収口
8:透過液
9:凹部
10:発酵槽
11:撹拌装置
12:平膜エレメント
13:培地供給ライン
14:熱媒体供給ライン
15:膜透過液集水ライン
16:熱媒体回収ライン
17:サンプリングライン
18:発酵液排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の膜間に外枠および/または流路材および/または支持板を有した平膜エレメントであって、外枠、支持板、流路材の少なくともいずれかに温度調節部を設けたことを特徴とする平膜エレメント。
【請求項2】
温度調節部が、ペルチェ素子である請求項1記載の平膜エレメント。
【請求項3】
温度調節部が、ヒーターである請求項1記載の平膜エレメント。
【請求項4】
温度調節部が、ろ過対象原水と物理的に隔てられた加熱または冷却用の熱媒体の流路を具備した構造である請求項1記載の平膜エレメント。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の平膜エレメントを槽内に浸漬収容したことを特徴とする発酵槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−207150(P2008−207150A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48664(P2007−48664)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】