説明

平角電線用被覆材、被覆平角電線及び電気機器

【課題】一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回することにより平角電線を被覆したとき、重ね合わせの信頼性の低下を抑制し得る平角電線用被覆材、これを備えた被覆平角電線及び電気機器を提供する。
【解決手段】一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回することにより平角電線を被覆するための被覆材であって、25℃における引張弾性率が5.0GPa以上である基材を備えていることを特徴とする平角電線用被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角電線用被覆材、これを備えた被覆平角電線及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に使用される回転機器、磁石等のコイル機器には、絶縁性の被覆材を巻回することにより該被覆材で平角電線を被覆した被覆平角電線が用いられている。平角電線として、従来より、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの金属の2種以上の組み合わせなどの線材が用いられており、近年では、ビスマス系、イットリウム系、ニオブ系などの超伝導線材が用いられている。
【0003】
この種の絶縁性の被覆材で平角電線を被覆した被覆平角電線として、例えば、並列に配置された平角電線を、絶縁フィルムテープを半重ねで螺旋状に巻回することにより該絶縁フィルムテープで被覆したものが開示されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−4552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したような絶縁フィルムテープで平角電線を被覆する際、絶縁フィルムテープ同士の重ね合わせの信頼性が低下する場合がある。すなわち、ネッキング現象が発生し、絶縁フィルムテープ同士の重ね合わせ部(ラップ部)の幅が所望の幅よりも局所的に狭くなる場合がある。また、ネッキングの程度が大きくなり過ぎると、絶縁フィルムテープ同士が重ならず、空隙ができたり平角電線が剥き出しになったりする場合があり、この場合には、被覆平角電線の絶縁性の低下を招くことになる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回することにより平角電線を被覆したとき、重ね合わせの信頼性の低下を抑制し得る平角電線用被覆材、これを備えた被覆平角電線及び電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は、平角電線を被覆する際には、平角電線との密着性を高めるために平角電線用被覆材に張力を付与しながら被覆することが一般的であるが、この張力によってネッキング現象が発生することに着目した。そして、平角電線用被覆材の特性と重ね合わせの信頼性との関係について鋭意研究した結果、平角電線用被覆材の引張弾性率が重ね合わせの信頼性に大きな影響を与え得ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明に係る平角電線用被覆材は、一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回することにより平角電線を被覆するための被覆材であって、25℃における引張弾性率が5.0GPa以上である基材を備えていることを特徴とする。
【0009】
かかる平角電線用被覆材は、25℃における引張弾性率が上記範囲内の基材を備えていることにより、平角電線を被覆したときネッキング現象の発生を抑制することができ、重ね合わせの信頼性の低下を抑制することが可能となる。さらに、平角電線を被覆して被覆平角電線を作製したとき、該被覆平角電線の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0010】
また、上記平角電線用被覆材において好ましくは、厚みが、50μm以下である。
【0011】
平角電線用被覆材の厚みが50μm以下であることにより、平角電線に巻回された平角電線用被覆材と未だ平角電線用被覆材が巻回されていない平角電線との間の段差を小さくすることができるため、平角電線用被覆材を平角電線の形状に追従させ易くなる。従って、重ね合わせの信頼性の低下をより抑制することが可能となる。
【0012】
上記平角電線用被覆材において好ましくは、前記基材の一面側に形成された粘弾性体層をさらに備えており、前記基材は、ポリイミド樹脂を含有する。
【0013】
ポリイミド樹脂は、耐熱性及び耐寒性を有すると共に不燃性材料であるため、電気機器に使用する絶縁材料として優れた難燃性を有することから、ポリイミド樹脂を含有する基材を備えていることにより、平角電線用被覆材は難燃性を有するものとなる。また、粘弾性体層を備えていることにより、平角電線用被覆材で平角電線を被覆する際、平角電線用被覆材と平角電線との間、及び平角電線用被覆材同士の間の密着性が高いものとなり、重ね合わせの信頼性の低下をより抑制することが可能となる。
【0014】
上記平角電線用被覆材において好ましくは、前記粘弾性体層は、シリコーン系粘弾性体組成物を含有する。
【0015】
シリコーン系粘弾性体組成物は、耐寒性、耐放射性、耐熱性及び耐腐食性に優れるため、粘弾性体層の特性を向上できる。
【0016】
上記平角電線用被覆材において好ましくは、前記平角電線は、超伝導線である。
【0017】
超伝導線は低温で使用されるため、重ね合わせの信頼性が低下して平角電線用被覆材間に隙間等が存在すると、電気絶縁性(絶縁破壊電圧)が著しく低下する。しかし、上記平角電線用被覆材によれば、上記引張弾性率が上記範囲内である基材を備えているため、重ね合わせの信頼性の低下を抑制することができることから、電気絶縁性の低下を抑制することができる。これにより、本発明の平角電線用被覆材として、超伝導線を好適に用いることができる。
【0018】
本発明の被覆平角電線は、上記平角電線用被覆材と、前記平角電線用被覆材の一部が重ね合わせられつつ螺旋状に巻回されることにより該平角電線用被覆材で被覆された平角電線とを備えている。
【0019】
これにより、被覆平角電線の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0020】
本発明の電気機器は、上記被覆平角電線を用いて作製されていることを特徴とする。
【0021】
これにより、被覆平角電線の絶縁性の低下に起因した電気機器の特性の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回することにより平角電線を被覆したとき、重ね合わせの信頼性の低下を抑制し得る平角電線用被覆材、これを備えた被覆平角電線及び電気機器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態における平角電線用被覆材を概略的に示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における平角電線用被覆材を概略的に示す断面図であり、図1における領域IIの拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態における被覆平角電線を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態における被覆平角電線を概略的に示す平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における被覆平角電線を概略的に示す、図3及び図4におけるV−V線に沿った断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態における被覆平角電線を概略的に示す、図4におけるVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態における被覆平角電線を概略的に示す、図4におけるVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態における電気機器の一例であるコイルを概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0025】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る平角電線用被覆材について説明する。図1及び図2に示すように、平角電線用被覆材10は、平角電線を被覆するための被覆材である。
【0026】
図1に示すように、平角電線用被覆材10は、テープ状であり、例えば巻芯20にロール状に巻回されている。なお、平角電線用被覆材10は、テープ状に限定されず、シート状、フィルム状などの他の形状であってもよい。
【0027】
図2に示すように、平角電線用被覆材10は、表面11aと該表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11と、基材11の表面11a上に形成された粘弾性体層12とを備えている。なお、基材11と粘弾性体層12との間には、別の層がさらに形成されていてもよい。また、粘弾性体層12の表面12a上に、表面12aを保護するための剥離ライナー(図示せず)が形成されていてもよい。また、基材11の裏面11bには、粘弾性体層12が形成されていないことが好ましい。
【0028】
基材11は、絶縁性を有していれば特に限定されないが、耐熱性及び耐寒性を有していることが好ましい。このような基材11として、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの樹脂のうち、特にポリイミド樹脂を基材11として用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、耐熱性と共に、不燃性材料であるので、電気機器に使用する絶縁材料としては、優れた難燃性を有するという点で、本実施形態の平角電線用被覆材10の基材11として優れた特性を有する。
【0029】
上記ポリイミド樹脂は、公知または慣用の方法により得ることができる。例えば、ポリイミドは有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることができる。
【0030】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらのジアミノ化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
上記ジアミノ化合物としては、エーテル結合を含有する化合物が好ましく、具体的には4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を用いることが好ましい。ODAを含むことで平角電線用被覆材10の伸びが向上し、柔らかいフィルムに設計することができる。ジアミノ化合物成分中のODAの添加量としては、10モル%以上100モル%以下が好ましく、50モル%以上100モル%以下がより一層好ましい。
【0033】
なお、本実施の形態において用いるポリイミド樹脂としては、有機テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。
【0034】
このようなポリイミド樹脂は、「カプトン(登録商標)EN」(東レ・デュポン社製)、「ユーピレック(登録商標)−S」(宇部興産社製)などの市販品を用いることもできる。
【0035】
基材11は、50μm以下の厚みを有することが好ましく、25μm以下の厚みを有することがより好ましく、13μm以下の厚みを有することがより一層好ましい。厚みが50μm以下であると、平角電線に巻回された平角電線用被覆材と未だ平角電線用被覆材に巻回されていない平角電線との段差を小さくし易くすることができるため、重ね合わせの信頼性の低下をより抑制することが可能となる。加えて、絶縁層を薄くすることができることにより、単位断面積当たりの平角電線の占有面積比を増加させることができるため、線占積率を高めることができ、コイル機器等の性能を向上させることができる。
一方、基材11の厚みは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上の厚みを有することがより好ましく、7.5μm以上の厚みを有することがより一層好ましい。厚みが5μm以上であると、基材11の取り扱い性の点で好ましい。
【0036】
なお、基材11は、後述する粘弾性体層12との投錨力を向上させるために、スパッタエッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理などの化学的処理がされていてもよく、下塗り剤などが塗布されていてもよい。
【0037】
また、本実施形態における基材11は、1層で構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよい。
【0038】
粘弾性体層12は、粘弾性体を構成するベースポリマーを含む。このようなベースポリマーとしては、特に限定されず、公知のベースポリマーから適宜選択して用いることができ、例えばアクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマー等が挙げられる。これらのベースポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのベースポリマーのうち、耐寒性、耐放射線性、耐熱性及び耐腐食性に優れる観点から、シリコーン系ポリマーを粘弾性体層12として用いることが好ましい。つまり、粘弾性体層12は、シリコーン系ポリマーを含有する粘弾性体組成物(シリコーン系粘弾性体組成物)を含むことが好ましく、シリコーン系粘弾性体組成物を主成分とし、残部が不可避的不純物からなることがより好ましい。
【0039】
ここで、上記シリコーン系粘弾性体組成物は、シリコーンガム及びシリコーンレジンを主成分とする配合物の架橋構造を含有している。
【0040】
シリコーンガムとしては、例えば、ジメチルシロキサンを主な構成単位とするオルガノポリシロキサンを好適に用いることができる。オルガノポリシロキサンには必要に応じてビニル基、または他の官能基が導入されてもよい。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は通常18万以上であるが、28万以上100万以下が好ましく、50万以上90万以下がより好ましい。これらのシリコーンガムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。重量平均分子量が低い場合には、架橋剤の量によりゲル分率を調整することができる。
【0041】
シリコーンレジンとしては、例えば、M単位(R3SiO1/2)、Q単位(SiO2)、T単位(RSiO3/2)及びD単位(R2SiO)から選ばれるいずれか少なくとも1種の単位(上記単位中、Rは一価炭化水素基または水酸基を示す)を有する共重合体からなるオルガノポリシロキサンを好適に用いることができる。この共重合体からなるオルガノポリシロキサンは、OH基を有する他に、必要に応じてビニル基等の種々の官能基が導入されていてもよい。導入する官能基は架橋反応を起こすものであってもよい。共重合体としては、M単位とQ単位とからなるMQレジンが好ましい。
【0042】
シリコーンガムとシリコーンレジンとの配合割合(重量比)は特に限定されないが、シリコーンガム:シリコーンレジン=100:0〜20:80程度が好ましく、100:0〜30:70程度がより好ましい。シリコーンガム及びシリコーンレジンは、単にそれらを配合してもよく、それらの部分縮合物であってもよい。
【0043】
上記配合物には、それを架橋構造物とするために、通常、架橋剤を含む。架橋剤により、シリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率を調整することができる。
【0044】
粘弾性体層12のゲル分率は、シリコーン系粘弾性体組成物の種類によっても異なるが、概ね20%以上99%以下程度が好ましく、30%以上98%以下程度がより好ましい。ゲル分率がこの範囲内であると、接着力と保持力とのバランスがとりやすいという利点がある。具体的には、ゲル分率が99%以下の場合、初期接着力が低くなることを抑制できるので、貼り付きが良好になる。ゲル分率が20%以上の場合、十分な保持力が得られるので、平角電線用被覆材10のずれを抑制できる。
【0045】
本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率(重量%)は、シリコーン系粘弾性体組成物から乾燥重量W1(g)の試料を採取し、これをトルエンに浸漬した後、この試料の不溶分をトルエン中から取り出し、乾燥後の重量W2(g)を測定し、(W2/W1)×100の式より求められる値である。
【0046】
本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物は、一般に用いられる、過酸化物系架橋剤による過酸化物硬化型架橋と、Si−H基を含有するシロキサン系架橋剤による付加反応型架橋を用いることができる。
【0047】
過酸化物系架橋剤の架橋反応はラジカル反応であるため、通常150℃以上220℃以下の高温下で架橋反応が進められる。一方、ビニル基含有のオルガノポリシロキサンとシロキサン系架橋剤との架橋反応は付加反応であるので、通常80℃以上150℃以下の低温で反応が進む。本実施形態においては、特に低温短時間で架橋を完了できる観点から、付加反応型架橋が好ましい。
【0048】
上記過酸化物系架橋剤としては、従来よりシリコーン系粘弾性体組成物に使用されている各種のものを特に制限なく使用でき、例えば過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3等が挙げられる。これらの過酸化物系架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。過酸化物系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンゴム100重量部に対して0.15重量部以上2重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上1.4重量部以下であることがより好ましい。
【0049】
シロキサン系架橋剤として、例えば、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に少なくとも平均2個有するポリオルガノハイドロジエンシロキサンが用いられる。ケイ素原子に結合した有機基としてはアルキル基、フェニル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられるが、合成及び取り扱いが容易である観点から、メチル基が好ましい。シロキサン骨格構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
【0050】
シロキサン系架橋剤の添加量は、シリコーンゴム及びシリコーンレジン中のビニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは4個以上17個以下になるように配合する。ケイ素原子に結合した水素原子が1個以上の場合には十分な凝集力が得られ、4個以上の場合にはより十分な凝集力が得られる。ケイ素原子に結合した水素原子が30個以下の場合には接着特性の低下を抑制でき、17個以下の場合には接着特性の低下をより抑制できる。
シロキサン系架橋剤を用いる場合には、通常、白金触媒が用いられるが、その他種々の触媒を使用することができる。
なお、シロキサン系架橋剤を用いる場合には、シリコーンゴムとしてビニル基を有するオルガノポリシロキサンを用い、そのビニル基は0.0001モル/100g以上0.01モル/100g以下程度であることが好ましい。
【0051】
本発明の粘弾性体層には、上記ベースポリマーの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、粘着付加剤、可塑剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料、軟化剤、充填剤などの従来公知の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0052】
粘弾性体層12は、0.5μm以上50μm以下の厚みを有することが好ましく、1μm以上25μm以下の厚みを有することがより好ましい。粘弾性体層12の厚みがこの範囲内であると、適度な接着性が得られるという利点がある。
具体的には、粘弾性体層12の厚みが10μm以下であると、平角電線用被覆材10を平角電線に被覆した際に形成される被覆平角電線における平角電線の線占積率を高めることができるので、コイル機器等の性能を向上させることができる。粘弾性体層12の厚みが5μm以下であると、線占積率を一層高めることができるので、コイル機器等の性能を一層向上させることができる。
一方、粘弾性体層12の厚みが1μm以上であると、平角電線への密着度を高めることができ、平角電線と平角電線用被覆材10との間に形成される隙間をより抑制できる。粘弾性体層12の厚みが2μm以上であると、平角電線と平角電線用被覆材10との間に形成される隙間をより一層抑制できる。
【0053】
平角電線用被覆材10は、25℃における引張弾性率が5.0GPa以上であり、6.0GPa以上であることが好ましい。25℃における引張弾性率が5.0GPa以上であると、平角電線用被覆材10で平角電線を被覆したときネッキング現象の発生を抑制することができ、重ね合わせの信頼性の低下を抑制することが可能となる。さらに、平角電線を被覆して被覆平角電線を作製したとき、該被覆平角電線の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。また、25℃での引張弾性率が6.0GPa以上であると、ネッキング現象の発生をより抑制することが可能となる。
【0054】
なお、平角電線用被覆材10の25℃での引張弾性率は大きいほど好ましいが、取り扱い性の観点から、上限は、例えば50Gpaである。
【0055】
ここで、上記「25℃における引張弾性率」は、ASTM−D882に準じて25℃の雰囲気下で引試験を行うことによって測定される。
【0056】
上記「25℃における引張弾性率」は、基材のポリマー設計、製膜条件、延伸条件等に応じて基材を構成する分子構造中に−O−(エーテル結合)を適宜挿入することによって調整することができる。
【0057】
また、平角電線用被覆材10は、50μm以下の厚みを有することが好ましく、40μm以下の厚みを有することがより好ましく、30μm以下の厚みを有することがさらに好ましく、20μm以下の厚みを有することがより一層好ましい。厚みが50μm以下であると、平角電線に巻回された平角電線用被覆材10と未だ平角電線用被覆材10に巻回されていない平角電線との段差を小さくすることができるため、重ね合わせの信頼性の低下をより抑制することが可能となる。加えて、絶縁層を薄くすることができることにより、単位断面積当たりの平角電線の占有面積比を増加させることができるため、線占積率を高めることができ、コイル機器等の性能を向上させることができる。
一方、平角電線用被覆材10の厚みは、7μm以上であることが好ましく、10μm以上の厚みを有することがより好ましい。厚みが7μm以上であると、強度が十分であり、取り扱い性に優れ、10μm以上であると、強度がより十分であり、取り扱い性により優れる。
【0058】
平角電線用被覆材10の幅は、螺旋状に平角電線を被覆する際にラップ部の幅を狭く、かつ平角電線の延在方向と平角電線用被覆材10の巻回する方向とのなす角度を小さくできる観点から、被覆する平角電線の幅の1倍以上2倍以下の幅を有することが好ましい。このような平角電線用被覆材10の幅は、例えば1mm以上80mm以下が好ましく、1.5mm以上60mm以下がより好ましく、2mm以上40mm以下がより一層好ましい。
【0059】
また、平角電線用被覆材10は、電線を被覆する際の接続部分であるつなぎ目を設けないことが好ましいので、長尺であることが好ましい。このような平角電線用被覆材10の長さは、例えば500m以上が好ましく、1000m以上がより好ましく、3000m以上がより一層好ましい。本実施形態の平角電線用被覆材10は巻芯20にロール状に巻回されて保持されているが、1つの巻芯20に複数列に亘って巻回する、いわゆるボビン巻きにより保持されていてもよい。
【0060】
続いて、図1及び図2を参照して、本実施形態における平角電線用被覆材10の製造方法について説明する。
【0061】
まず、上述したように、表面11aと、この表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11を準備する。
【0062】
次に、基材11の表面11a上に、粘弾性体層12を形成する。粘弾性体層12の形成方法は特に限定されないが、例えばシリコーン系粘弾性体組成物を基材11の表面11a上にコーティングする方法により、粘弾性体層12を形成することができる。
【0063】
具体的には、シリコーンゴム、シリコーンレジン、架橋剤、触媒等を含むシリコーン系粘弾性体組成物をトルエン等の溶剤に溶解した溶液を基材11の表面11aに塗布し、次いで上記配合物を加熱することで溶剤の留去と架橋とを行う。本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物を含む粘弾性体層12の形成方法としては、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等による押出しコート法などの方法が挙げられる。
【0064】
以上の工程を実施することにより、図2に示す平角電線用被覆材10を製造することができる。なお、平角電線用被覆材10の製造方法は、上述した方法に特に限定されない。平角電線用被覆材10が剥離ライナーを備えている場合には、例えば以下の方法で製造してもよい。
【0065】
具体的には、まず剥離ライナーを準備する。剥離ライナーとしては、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シート、金属箔、またはそれらのラミネート体等が挙げられる。
【0066】
次に、剥離ライナー上に、例えばシリコーン系粘弾性体組成物を含む粘弾性体層12を形成する。粘弾性体層12を形成する方法は特に限定されないが、トルエンを溶剤に用い、加熱により付加反応型架橋を行う場合には、加熱温度は、例えば80℃以上150℃以下が好ましく、100℃以上130℃以下がより好ましい。なお、加熱温度は、溶剤を留去でき、所定の架橋反応が進行できる温度であれば特に限定されない。
【0067】
次に、剥離ライナー上に形成された粘弾性体層12を、基材11に転写する。以上の工程を実施することにより、図2に示す平角電線用被覆材10を製造することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、図1に示すように、図2に示す平角電線用被覆材10を巻芯20に巻き付ける工程をさらに実施する。この工程は、平角電線用被覆材10の形状等により省略されてもよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態における平角電線用被覆材10は、一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回して平角電線を被覆するための被覆材であって、25℃における引張弾性率が5.0GPa以上である基材を備えている。
【0070】
かかる平角電線用被覆材10は、基材11の上記引張弾性率が上記範囲内であるため、平角電線を被覆したときネッキング現象の発生を抑制することができ、重ね合わせの信頼性の低下を抑制することが可能となる。さらに、平角電線を被覆して被覆平角電線を作製したとき、該被覆平角電線の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。加えて、被覆平角電線を作製する際の歩留まりを向上させることも可能となり、重ね合わせの信頼性の低下の抑制と相俟って、作業性を向上させることができる。
【0071】
(第2実施形態)
図3〜図7を参照して、本発明に係る第2実施形態における被覆平角電線100について説明する。本実施形態では、被覆平角電線100は、図3に示すように、第1実施形態の平角電線用被覆材10と、この平角電線用被覆材10により被覆された平角電線110とを備えている。
【0072】
平角電線110が平角電線用被覆材10に被覆される態様は、一部を重ね合わせつつ平角電線に対して螺旋状に巻回されて被覆されれば、特に限定されない。本実施形態における電線110は、図3〜図7に示すように、平角電線用被覆材10に一部を重ね合わせたラップ部120を形成しつつ螺旋状に巻回されるように被覆されている。換言すれば、平角電線用被覆材10の一部を重ね合うハーフラップで螺旋状に巻回されて被覆されている。
【0073】
また、図5及び図6に示すように、ラップ部120が形成されていない領域における電線110は、平角電線用被覆材10に一重で被覆され、図5及び図7に示すようにラップ部120が形成された領域における電線110は、平角電線用被覆材10に二重で被覆されている。このため、ラップ部120を設けることにより、電線110の絶縁性を高めることができる。
【0074】
図5に示すように、ラップ部120の幅W120(重なり幅または沿面距離とも言う)は、平角電線用被覆材10の幅W10の40%未満であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。ラップ部120の幅W120が大きいほど、電流が抜けにくいため、放電を抑制でき、絶縁破壊電圧を向上できる。しかし、本実施形態では、ラップ部120において、基材11の裏面11b上に粘弾性体層12が密着しているので、ラップ部120の幅W120が小さくても、電流が抜けにくくなる。このように、ラップ部120の幅W120を小さくできると、1本の平角電線用被覆材10で巻くことができる平角電線110の長さを長くできる。
【0075】
次に、平角電線110について説明する。
平角電線110は、ここでは平角電線が用いられている。該平角電線は、テープ状の線材であり、各頂点は角張っていてもよく、湾曲していても(Rが設けられていても)よい。
【0076】
平角電線110は、特に限定されず、従来周知の物を使用でき、その素材としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの2種以上の金属の組み合わせからなる線材を用いることができる。また、電線110として、ビスマス系、イットリウム系、ニオブ系などの各種超伝導材料からなる電線を用いることもできる。
【0077】
平角電線110の具体的寸法の一例を示すと、厚みは例えば1mm以上10mm以下であり、幅は例えば1mm以上20mm以下であり、アスペクト比(断面形状における幅/厚みの比)は例えば1以上60以下程度である。
【0078】
続いて、本実施形態における被覆平角電線100の製造方法について説明する。
【0079】
まず、第1実施形態に従って平角電線用被覆材10を製造する。
【0080】
次に、平角電線110を準備して、図3〜図7に示すように、平角電線用被覆材10の一部が重なり合うハーフラップで螺旋状に巻回する。具体的には、電線110に粘弾性体層12の一部が接触するように、かつ平角電線用被覆材10の基材11の裏面11bの一部上に粘弾性体層12の残部が接触するように、平角電線用被覆材10を配置する。
【0081】
この工程では、平角電線110の延在方向と平角電線用被覆材10の巻回する方向とのなす角度θが好ましくは80°未満、より好ましくは75°以下になるように平角電線110を平角電線用被覆材10で被覆する。また、ラップ部120の幅W120が平角電線用被覆材10の幅W10の好ましくは70%未満、より好ましくは50%以下になるように平角電線110を平角電線用被覆材10で被覆する。
【0082】
なお、平角電線用被覆材10が剥離ライナーを備えている場合には、平角電線110に巻回する際に、剥離ライナーと粘弾性体層12の表面12aとを剥離しながら、電線110を巻回する。
【0083】
上記工程を実施することにより、図3〜図7に示す本実施形態の被覆平角電線100を製造することができる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態における被覆平角電線100は、第1実施形態の平角電線用被覆材10と、この平角電線用被覆材10の一部が重ね合わされつつ該平角電線用被覆材10で巻回されて被覆された平角電線110とを備えている。
【0085】
本実施形態における被覆平角電線100によれば、絶縁性の低下を抑制することができる。
【0086】
(第3実施形態)
図8を参照して、本発明の第3実施形態における電気機器の一例であるコイル200を説明する。図8に示すように、本実施形態のコイル200は、巻枠210と、この巻枠210に巻きつけられた第2実施形態の被覆平角電線100とを備えている。
【0087】
巻枠210は、被覆平角電線100を巻装できれば特に限定されないが、例えば円筒型、レーストラック型等である。被覆平角電線100は、1本であってもよく、必要な長さに応じて、複数本が接続されていてもよい。コイルは、複数のコイル200が積層されていてもよい。
【0088】
本実施形態におけるコイル200の製造方法は、巻枠210を準備する工程と、この巻枠210に被覆平角電線100を巻きつける工程とを備えている。
【0089】
ここで、本実施形態では、電気機器の一例としてコイル200を例に挙げて説明したが、電気機器はコイル200に限定されない。電気機器は、例えば絶縁コイル、超伝導コイル、超伝導マグネット、超伝導ケーブル、電力貯蔵装置などである。
【0090】
以上説明したように、本実施形態の電気機器の一例であるコイル200は、第2実施形態の被覆平角電線100を用いて作製されている。
【0091】
本発明の電機機器の一例であるコイル200によれば、被覆平角電線の絶縁性低下に起因した電気機器の特性の低下を抑制できる。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
第1実施形態と同様の平角電線用被覆材を製造した。具体的には、シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)70重量部及び「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)30重量部と、白金触媒として「PL−50T」(信越化学工業社製)0.5重量部と、溶剤としてトルエン315重量部とを配合し、ディスパーで攪拌して、シリコーン系粘弾性体組成物を含有する混合液を得た。また、基材として、ポリイミド樹脂フィルム「ユーピレックス−12.5S」(厚み12.5μm、宇部興産社製)を用いた。この基材に上記混合液を、ファウンテンロールで乾燥後の厚みが3μmとなるように塗布し、乾燥温度150℃、乾燥時間1分の条件でキュアー・乾燥して、基材上にゲル分率が74%の粘弾性体層を形成した平角電線用被覆材を作製した。これを巻芯20(内径76mm)に巻き取り、図1に示すようなロール状の巻回体を得た。
【0093】
(実施例2)
基材として、「カプトン12.5EN」(厚み12.5μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、平角電線用被覆材を作製した。
【0094】
(実施例3)
基材として、「カプトン25EN」(厚み25μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、平角電線用被覆材を作製した。
【0095】
(実施例4)
基材として、「ユーピレックス−75S」(厚み75μm、宇部興産社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、平角電線用被覆材を作製した。
【0096】
(実施例5)
基材たるユーピレックス−12.5S上に粘弾性体層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、基材のみから成る平角電線用被覆材を作製した。
【0097】
(比較例1)
基材として、「カプトン12.5H」(厚み25μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、平角電線用被覆材を作製した。
【0098】
(評価方法)
実施例1〜5及び比較例1について、引張弾性率を以下のように測定すると共に、重ね合わせ精度、密着性を以下のように評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(引張弾性率)
実施例1〜5及び比較例1において用いた基材の引張弾性率は、25℃の雰囲気下でASTM−D882に準じて測定した。
【0100】
(重ね合わせ精度)
実施例1〜5及び比較例1で作製した平角電線用被覆材について、幅5mmの試験片とし、平角電線として「Di−BSCCO」(線材:ビスマス系超伝導線、厚み0.23mm×幅4.3mm、住友電気工業社製)に対し、巻き回し角度(図4における角度θ)が60°、平角電線用被覆材同士の重なり(図5におけるラップ部120の幅W120)が設計値たる2.0mmとなるように、螺旋状に巻速度30m/分で被覆して、延在方向の長さが10mであるような評価サンプルを作製した。
そして、各評価サンプルの重ね合わせの信頼性を評価した。かかる重ね合わせの信頼性の評価として、重ね合わせ精度を評価した。かかる重ね合わせ精度は、各評価サンプルの20箇所のラップ部幅をノギスで測定し、設計値2.0mmに対する各測定値の比率を百分率として表すことによって算出した。そして、重ね合わせ精度が±10%未満の場合を「○」、±10%以上の場合を「×」とした。結果を表1に示す。なお、表1には、重ね合わせ精度の評価結果と共に、各測定値の上限及び下限を示す。
【0101】
(密着性)
実施例1〜4、比較例1について作製した上記重ね合わせ精度の評価サンプルを評価サンプルとして用い、各評価サンプルの密着性を評価した。また、かかる密着性を表す指標として気泡の噛み込み率を用い、該気泡の噛み込み率は以下のようにして算出した。すなわち、評価サンプルの一側面における平角電線に巻回された平角電線用被覆材のラップ部の面積と、該ラップ部において気泡の占める面積とを測定し、該気泡の占める面積を上記ラップ部の面積で除し、百分率として表すことによって、上記気泡の噛み込み率を算出した。そして、気泡の噛み込み率が5%未満の場合を「◎」、5%以上10%未満の場合を「○」、10%以上を「△」とした。結果を表1に示す。
【0102】
(評価結果)
【表1】

【0103】
表1に示すように、基材の引張弾性率が5.0GPa以上である実施例1〜5は、この数値範囲を外れる比較例1と比較して、重ね合わせの精度に優れており、重ね合わせの信頼性の低下が抑制されたことがわかった。また、実施例1〜4で比較すると、基材の厚みが50μm以下である実施例1〜3は、基材の厚みが50μmを超える実施例4よりも密着性が向上することがわかった。
【0104】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、各実施形態及び実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
10 平角電線用被覆材、11 基材、11a,12a 表面、11b 裏面、12 粘弾性体層、20 巻芯、100 被覆平角電線、110 平角電線、120 ラップ部、200 コイル、210 巻枠、W10,W120 幅、θ 角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部を重ね合わせつつ螺旋状に巻回することにより平角電線を被覆するための被覆材であって、
25℃における引張弾性率が5.0GPa以上である基材を備えていることを特徴とする平角電線用被覆材。
【請求項2】
厚みが、50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の平角電線用被覆材。
【請求項3】
前記基材の一面側に形成された粘弾性体層をさらに備えており、
前記基材は、ポリイミド樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の平角電線用被覆材。
【請求項4】
前記粘弾性体層は、シリコーン系粘弾性体組成物を含有することを特徴とする請求項3に記載の平角電線用被覆材。
【請求項5】
前記平角電線は、超伝導線であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の平角電線用被覆材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の平角電線用被覆材と、
前記平角電線用被覆材の一部が重ね合わせられつつ螺旋状に巻回されることにより該平角電線用被覆材で被覆された平角電線とを備えていることを特徴とする被覆平角電線。
【請求項7】
請求項6に記載の被覆平角電線を用いて作製されていることを特徴とする電気機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−20727(P2013−20727A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151058(P2011−151058)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】