説明

平面アンテナ

【課題】導波管による給電構造を有し、生産性が良く、良好な特性を容易に得ることが可能な平面アンテナを提供する。
【解決手段】平板形状を有し電磁波を放射するための放射面が形成された平面アンテナ本体2と、平面アンテナ本体に対して給電するためのアンテナ給電構造部6とを備える。更に、導電性の内壁面を有する導波管構造部4の一部が形成された導波路部材3と、導波管構造部の一部と組合せて導波管構造を形成するための給電プレート10とを備えた伝送路構造を有する。伝送路を構成する導波管構造の構成と、アンテナ給電構造部に対する導波管構造の位置合せとを、導波路部材と給電プレートを組合わせることにより同時に行なうことができるので、導波管構造をアンテナ給電構造部に対して高精度かつ容易に整合させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板面に電磁波の放射面が構成された平面アンテナに関し、特に、導波管を用いた給電構造を有する平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波領域を使用した無線通信システムにおいて、平面アンテナは短波長無線システムの入出力装置として好適であり、例えば、無線LANや自動車における衝突防止用レーダのような分野での応用が期待されている。
【0003】
平面アンテナでは、アンテナ本体を構成する基板の一方の面に電磁波の放射面が形成され、その放射面による電磁波の送受信がアンテナ給電口を介して行われる。例えば、放射電磁波の中心ビームを放射面に対して円錐方向に放射させる場合には、アンテナ給電口は、放射面の裏面における平面アンテナの中心に配置される。平面アンテナを駆動するためには、給電伝送路によりアンテナ給電口まで電磁波を伝送する構成が必要である。
【0004】
短波長電磁波の給電伝送路としては、導波管構造が好適である。導波管は密閉構造のため、伝送損失は導体壁の導電率と導波管内媒質の誘電体損でほぼ決まることから、伝送損失の小さい伝送路として使われる。導波管はまた、開放型伝送路であるマイクロストリップラインに比べると放射損がなく、また導体損が少ない分、有利であり、周波数の高いミリ波領域では特性に大きな違いがでる。このように、ミリ波用アンテナとして効率良いアンテナを設計するには、導波管を伝送路とした平面アンテナが有望である。
【0005】
給電伝送路だけではなく、アンテナ自身も導波管給電の構成を取り入れることで、全体のアンテナ効率を高くすることができる。導波管は空気媒質の場合はほぼ損失が無いが、平面アンテナを導波管構成とする場合には、構造体として形成させるため有機樹脂材料を用い媒質とする。また、給電伝送路としての導波管構造においても、有機樹脂材料を使用することも可能である。
【0006】
一方、例えば導波管給電用に一般に標準化された導波管(例えば、60GHz帯ではWR−15等)と、平面アンテナのアンテナ給電口をいかに整合させて接続するかが問題である。互いに整合させた状態で接続するための様々な工夫がなされているが、例えば、Eベンド部を形成して整合させることが考えられる。すなわち、Eベンド部の一端部をアンテナ給電口と接続し、他端を標準化された導波管インターフェイスと接続した構造を採用する。
【0007】
Eベンド部は導波管の一種であり、従来の導波管の製造方法によれば、アルミや黄銅等の金属をロウ付け加工して密閉構造とすることにより、Eベンド部を形成する。またアンテナ給電部に整合のためのパターンを必要とするため、給電パターンを設けた導体板を導波管の一部に設ける必要がある。そのような給電パターンは、波長に対して精度良い配置とパターン寸法が要求されることから、導波管とは別工程で作成したものを後工程で繋ぐため、ロウ付けが必須であった。
【0008】
しかし、ロウ付けにより安定して導波管の寸法精度を確保することは困難であり、歩留まりが悪い。従って、精度の良いものを得るためには、複数個の導波管を作製して、その中から精度を満たすものを選択するようにしていた。その結果、生産性が悪く、製造コストも高くなるため、導波管を使用して安価なアンテナを提供することは困難であった。
【0009】
そこで、ロウ付けが不要な構成について検討すると、導波管の作成に必ずしもロウ付けは必要ではなく、その形態と位置ずれを保証できれば、電気的には適切な機能が得られることがわかる。つまりロウ付けしなくても、構造上、安定した構成が取れるならば導波管回路は作成できることから、ロウ付け無しで接触させるだけで密閉構造とした導波管路を形成可能である。
【0010】
例えば特許文献1には、平面アンテナ本体が、放射導波管を有する底部と、放射スロットが形成された蓋部とからなる構成が開示されている。底部と蓋部を組合わせることにより、放射導波管により伝送された電磁波が放射スロットから放射される。更に、底部の端部には、放射導波管の端部に接続されるように溝部が設けられ、その溝部が蓋部で遮蔽されることにより密閉構造の給電導波管が形成されている。この給電導波管は、導波管の3方の壁を例えば切削加工で溝部として形成し、残る一面を蓋部の導体平面で覆って導波管として機能させたものであり、ロウ付け無しで作製することができる。この方法は、導波管機能を達成した状態を安価に作れるための方法として良い方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−357916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
生産性と高精度を達成させるため低誘電体損失樹脂を用いた成形により平面アンテナを作成する場合、樹脂のたわみや反りの影響で必ずしも平坦な導電膜が得られるとは限らないため、蓋部の導体平面が十分に平坦ではないような場合には、導波管としての機能が確保できなくなる。すなわち、蓋部の導体平面が、導波管の一側面を形成するための要件が満たされるためには、特に、蓋部の導体平面が、導波管の導体三側面を形成する溝部を遮蔽するとき、隙間無く接触していることが重要である。
【0013】
また、アンテナの放射面に対する十分な給電機能を得るためには、伝送路を構成する導波管とアンテナ給電口との整合が重要であり、そのためには、アンテナとの相対的な位置関係を安定させる必要がある。
【0014】
従って本発明は、上記の課題を解決して、導波管による給電構造を有し、生産性が良く、良好な特性を容易に得ることが可能な平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の平面アンテナは、平板形状を有し電磁波を放射するための放射面が形成された平面アンテナ本体と、前記平面アンテナ本体に対して給電するためのアンテナ給電構造部とを備えた平面アンテナであって、導電性の内壁面を有する導波管構造部の一部が形成された導波路部材と、前記導波管構造部の一部と組合せて導波管構造を形成するための給電プレートとを備えた伝送路構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によれば、伝送路を構成する導波管構造の構成と、アンテナ給電構造部に対する導波管構造の位置合せとを、導波路部材と給電プレートを組合わせることにより同時に行なうことができる。従って、導波管構造はアンテナ給電構造部に対して高精度かつ容易に整合させることができるので、生産性が良く、良好な特性を容易に得ることが可能な平面アンテナを実現できる。また、構成部品点数が少ないので、安価に製造することが可能である。
【0017】
さらに、導波管構造部は切削加工あるいは成形により作製することができるので、ロウ付けにより空洞を形成する場合に比べて、簡単に短時間で加工可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の一実施の形態における平面アンテナの構造を示す平面図
【図1B】同平面アンテナの構造を一部断面で示す正面図
【図2】同平面アンテナの一部を拡大して示す断面図
【図3】同平面アンテナを構成する平面アンテナ本体を示す斜視図
【図4】同平面アンテナを構成する平面アンテナ本体の断面図
【図5】同平面アンテナの実施例の指向性特性を示す図
【図6】同平面アンテナを構成する導電ベース部及び給電プレートを示す斜視図
【図7】同平面アンテナの構造を電磁波の伝播路として説明する図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の平面アンテナは、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0020】
すなわち、前記給電プレートは、前記アンテナ給電構造部の一部を構成する伝送路としての平面アンテナ給電口を有する構成とすることができる。
【0021】
また、前記給電プレートは、前記アンテナ給電構造部の少なくとも一部を構成する結合回路パターンとして形成された給電パターンを有し、平面アンテナを駆動する構成とすることができる。
【0022】
また、前記給電プレートは、その厚さが表皮効果相当厚さ以上、100μm以下であることが好ましい。厚くなると、波長に対して厚さが無視できなくなり、設計において厚さを考慮する必要があるからである。
【0023】
また、前記導波路部材は少なくとも表面が導電性を有する導電ベース部により形成され、前記導電ベース部はその上面に凹部を有して、当該凹部に前記平面アンテナ本体が前記放射面を開放させて装着され、前記導波管構造部は、前記導電ベース部における前記凹部の底面から更に窪ませて形成され、前記平面アンテナ本体における前記放射面の裏面である給電面の側に、前記アンテナ給電構造部の少なくとも一部を構成してアンテナ給電する平面アンテナ給電口を有し、前記導電ベース部と前記給電プレートを一体とした構成とすることができる。
【0024】
また、前記導電ベース部は、樹脂材料からなる成形体に導電膜の被膜を有する構造とすることができる。
【0025】
また、前記平面アンテナ本体の前記放射面は、電磁波入出力スロットパターンが形成され、前記電磁波入出力スロットパターンを除き導電層で覆われており、前記給電面には前記導電層が設けられず、前記給電プレートに、前記アンテナ給電構造部の一部を構成する平面アンテナ給電口が設けられた構成とすることができる。
【0026】
また、前記導電ベース部における前記導波管構造部の周囲領域には、給電プレート嵌合段差部が形成され、前記給電プレートは前記給電プレート嵌合段差部に嵌め込まれており、前記給電プレート嵌合段差部の周囲の前記導電ベース部面と前記給電プレートの上面とは、前記平面アンテナ本体に対して同一平面を形成して接している構成とすることができる。
【0027】
また、前記給電プレートの伝送路としての、前記アンテナ給電構造部の一部を構成する平面アンテナ給電口は円形である構成とすることができる。
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0029】
(実施の形態)
図1Aは、本発明の一実施の形態における平面アンテナ1の平面図を示す。この平面アンテナ1の正面断面図を図1Bに示す。平面アンテナ1は、円盤状の平面アンテナ本体2が、導電ベース部3に形成された円盤状の凹部3a内に装着された構造を有する。なお、図1Bにおいて、平面アンテナ本体2は、図示の便宜上、外形線のみが示され、断面の構造は示されていない。
【0030】
導電ベース部3の凹部3aの底面部には、底面を更に窪ませた溝状の導波管溝部4aが形成され、Eベンド導波管部4の一部を構成している。これにより、導電ベース部3は導波路部材として機能する。導電ベース部3は、例えば金属基板により形成されて、その金属基板を切削して導波管溝部4aを設けた構造とすることができる。あるいは、平板状の樹脂基板に凹部3a及び導波管溝部4aを設けた構造を樹脂成形した後に、導体メッキ等により樹脂表面を導電体で覆った構造としてもよい。
【0031】
導波管溝部4aは、導波管の一面が除去されて開放面となった形状を有し、平面アンテナ本体2の円盤形状の中心から周縁に向かって径方向に延在している。導波管溝部4aの開放された上部は、導電性を有する給電プレート10により封鎖されている。従ってEベンド導波管部4の密閉された導波管構造が、導波管溝部4aと給電プレート10の組合せにより形成される。なお、導波管溝部4aは、導波管構造部の一部を形成する形態であればよく、本実施の形態のように矩形断面の3辺ではなく、矩形断面の2辺を形成するものであってもよい。その場合は、残りの2片が給電プレートにより形成される。また、導波管構造部は矩形断面ではなく、円形断面とすることもできる。導波管溝部及び給電プレートは、導波管構造部の形態に基づいて構成される。
【0032】
平面アンテナ本体2の円盤形状の周縁側における、Eベンド導波管部4の端部から少し離れた位置に、導波管給電口5が配置されている。導波管給電口5は、Eベンド導波管部4の底面から導電ベース部3の下面へ貫通するように形成されている。また、平面アンテナ本体2の裏面側であって、その円盤形状の中央側おけるEベンド導波管部4の端部から一定距離を置いて、アンテナ給電構造部6(図1Aにのみ図示)が配置されている。給電プレート10には平面アンテナ本体2を駆動するための給電パターン10aが設けられて、アンテナ給電構造部6の一部を形成している。なお、図1Bの断面図は、図1Aの導波管給電口5とアンテナ給電構造部6の中心を通る線に沿った断面を示す。
【0033】
図2は、図1Bの断面図における導波管給電口5の近傍を拡大した断面図である。平面アンテナ本体2は、中央部のみが断面で示されている。平面アンテナ本体2は導電ベース部3の凹部3aに嵌め込まれることにより、その放射面が導電ベース部3の表面と概ね同一平面上に位置する状態に格納されている。導電ベース部3は、平面アンテナ本体2を格納する機能と、Eベンド導波管部4を形成して放射電力を給電するための導波路部材としての機能を併せて備える。平面アンテナ本体2と導電ベース部3が一体となり、平面アンテナ1として機能する。
【0034】
導電ベース部3の下面には、導波管接続部7が結合している。導波管接続部7の下部には、標準仕様導波管8が結合している。導波管接続部7には、標準仕様導波管8の導波管9と連通させて貫通孔7aが形成されている。導波管接続部7の貫通孔7aは導電ベース部3の導波管給電口5に対応している。導波管接続部7は、導電ベース部3と同様の材質により作成することができる。
【0035】
平面アンテナ本体2の外観を、図3に概略斜視図で示す。また、平面アンテナ本体2の断面構造を図4に示す。なお、図3、図4においては、平面アンテナ本体2の構造を判り易く示すために、各部の形状はその大きさが誇張され、かつ一部省略して描かれており、図1A、1Bに示された寸法とは対応しない。このような構造のアンテナはRLSA(Radial Line Slot Antenna)と呼ばれ、図4に示すように、平面アンテナ本体2の内部は誘電体基板11で構成され、その表面が導電層12で被覆された形態を有する。
【0036】
円盤形状の上面には放射スロツト2aが、導電層12を欠如させて誘電体基板11を露出させたパターンとして設けられ、電磁波を放射するための放射面を形成する。放射面の裏面には、アンテナ給電構造部6の一部を構成する平面アンテナ給電口2bが、導電層12を欠如させたパターンにより形成されている。
【0037】
図3に示すように、放射スロツト2aの一対(スロットペア)を一組として、複数組のスロットペアが、円盤の中心部から同心円状に配列されている。この構造においては、中心部から放射状に伝播する導波管モードで電磁波が伝播する。その伝播途中の放射スロット2aから、電磁波を放射あるいは入射させるように構成されている。放射スロット2aは伝播波長間隔で設けられており、位相合成により放射面内で同一位相が保たれるように設計される。アンテナとして機能するのは放射面であり、側面は導体層12で覆われている。
【0038】
アンテナに給電する方法として、平面アンテナではその接続性の良さからマイクロストリツプラインを用いることも多いが、線路が開放型であり、導体損失に加え意図しない放射による損失も多い。特に、それらの損失はより高周波になるにつれ顕著となる。従って、ミリ波領域では導波管給電が、放射損失の点で有利である。そのため、本実施の形態の平面アンテナ1は、導波管モードで伝播して放射スロット2aを励振するスロットアンテナとして構成される。なお、本質的にアンテナは送受通信に用いられる双方向デバイスであるため、以降の説明では送信の場合について述べるが、受信の場合も同様に機能する。
【0039】
RLSAアンテナでは放射させる電磁波を、放射面と対向する裏面に設けたアンテナ給電構造部6から給電する。図2に示したように、本実施の形態においてアンテナ給電構造部6は、給電プレートの給電パターン10aと、平面アンテナ本体2の平面アンテナ給電口2bにより構成される。給電パターン10aは、給電に必要な機能的な構造、すなわち、給電部において共振するスロツトアンテナを設けた構造、あるいはインピーダンス整合するための構造を有する。平面アンテナ給電口2bは、単なる給電窓口として設けられ、共振や整合部を持たない、例えば円形窓として形成される。図1Aに示したアンテナ給電構造部6は、給電構造を示さずに給電口位置として、平面アンテナ給電口2bに対応する形状のみが示されている。
【0040】
なお、給電プレート10の伝送路としての平面アンテナ給電口を、給電パターン10aに代えて、円形の窓としても良い。この場合給電パターンは、平面アンテナ本体2に設けられる。
【0041】
給電プレート10を使用することで、平面アンテナ本体2の反り等による導電ベース部3との接触不具合に起因する、Eベンド部4構成上の問題を解消することができる。
【0042】
アンテナ給電構造部6は、放射スロット2aの同心円状の配列中心(アンテナ中心C;図2)に対応させて配置される。平面アンテナ給電口2bの給電窓口は、スロット形状あるいは導電部材で覆われない開口部として設けられる。給電プレート10の給電パターン10aの位置が放射面中心位置からずれると、放射ビームを放射面に対して垂直方向に形成することができない。従って、中心ビームを放射面に対して垂直に形成するためには、給電パターン10aを、平面アンテナ本体2を構成する円盤の中心に位置させる必要がある。
【0043】
また、アンテナ給電構造部6を介して放射スロット2aに給電するためには、アンテナ外部からアンテナ給電構造部6までの伝送路が必要である。伝送路は、標準化された標準仕様導波管8と接続されて平面アンテナ本体2を駆動する機能を有する。
【0044】
ここで、上述の平面アンテナ1の一実施例の放射指向性を図5に示す。この平面アンテナは、60mm径で59GHzで動作し、28dBiの指向性利得を得ている。サイドビームも小さく設計どおりの特性が実現できる。平面アンテナ1は円偏波アンテナである。このアンテナを効率よく駆動するためには、伝送路の損失を少なくしなければならないが、ミリ波のように高い周波数領域では一般に損失が少ない伝送路として導波管、例えばWR−15導波管が用いられる。
【0045】
平面アンテナ本体2に放射電磁波を供給する伝送路としては、一般的な導波管を使用するが、アンテナ給電構造部6への給電は、アンテナとの整合を採るために、Eベンド導波管と称する導波管を用いて、平面アンテナ本体2の中心部に放射電磁波を導くことにより行われる。Eベンド導波管は導体で覆われた構造を有し、内部は空気等の誘電体で満たされている。本実施の形態では、Eベンド導波管は、Eベンド導波管部4として設けられている。
【0046】
Eベンド導波管部4とその端部に配置された標準仕様導波管8とは、両者を接続する導波管給電口5に接するように設けられるが、導波管9の幅と導波管給電口5の幅とは必ずしも一致しない。また、導波管給電口5は、Eベンド導波管部4の周縁側端面4bから一定距離d1だけ離れた位置に設けられる。Eベンド導波管部4の給電パターン10aも、中心側端面4cから一定距離d2だけ離れたEベンド導波管部4の中間に設けられる。これらの配置により平面アンテナ本体2への給電整合状態は異なってくる。最適に整合できるようにその配置位置は設定される。
【0047】
図6は、導電ベース部3に給電プレート10が実装された状態を示す斜視図である。導波管溝部4aの周縁領域の凹部3aの底面には、図2に断面形状を示すように、給電プレート嵌合段差部3bが形成されている。給電プレート10は給電プレート嵌合段差部3bに嵌め込まれることにより、導波管溝部4aに対して位置決めされ、このとき、凹部3aの底面と給電プレート10の上面とは互いに平坦になる。それにより、Eベンド導波管部4の密閉された導波管構造が形成されるとともに、給電プレート10に設けられた給電パターン10aを平面アンテナ本体2に対して容易に位置決めすることが可能になる。給電プレート10の上面に平面アンテナ本体2が設置される。
【0048】
以上のように、平面アンテナ本体2を導電ベース部3に収納した状態で、導電ベース部3に設けられたEベンド導波管部4を介して放射電磁波が給電される。平面アンテナ給電口2bと放射スロット2aを除く平面アンテナ本体2の表面と導電ベース部3は共に、導体層に覆われている。これにより、導電ベース部3から平面アンテナ本体2に給電するためのシールドが確保される。
【0049】
ただし、平面アンテナ本体2の導電ベース部3に接する面は、必ずしも導電層12を設ける必要はない。本発明においては、Eベンド部4の平面アンテナ本体2に接する部分、すなわち給電プレート10に、給電機能を有する給電パターン10aが設けられている。従って、給電プレート10から直接平面アンテナ本体2に給電するため、平面アンテナ本体2の給電面側には導電層12を必要とはしない。勿論、図2に示したように、平面アンテナ本体2の給電面に対して、平面アンテナ給電口2bを有する状態で導電層12を設けた構造とすることもできる。
【0050】
また、誘電体として樹脂を用いて平面アンテナ本体2を構成する場合には、給電プレート10に対応する領域は、上述のように導電層12を設けない構成とすることができる。その場合、給電プレート10に接触する導体はなくなるため、異種金属接触による電蝕を避けることができる。
【0051】
平面アンテナ本体2の反りは、導電ベース部3と平面アンテナ本体2との間に隙間を生じさせるため、給電の際に障害を与えることがある。平面アンテナ本体2の裏面に導電層が付設されていると、導電ベース部3との間に隙間が発生してこの隙間幅が1/4波長以上の場合に、スリット回路を構成するため、意図しない回路による影響を無視できない場合がある。
【0052】
上述のとおり、導電ベース部3は金属を切削して作成、あるいは樹脂成形した後に導体メッキ等により表面を導電体で覆って作成することができるが、その際に平面アンテナ本体2に接する面は平滑にしなければならない。但し、平面アンテナ本体2の導電ベース部3に接する面が導電性を有しない場合は、平面アンテナ本体2の導電ベース部3に接触する面の誘電体表面は必ずしも平滑である必要はない。
【0053】
なお、導電ベース部3に平面アンテナ本体2を格納するための凹部3aは、平面アンテナ本体2の側面が略接触する程度に調整されており、その隙間がアンテナ中心と給電中心の位置関係を決める。一方、導電ベース部3に、意図的に平面アンテナ本体2を可動とする隙間を持たせ、給電パターン10aをアンテナ中心から意図する量だけずらして設置することも可能である。アンテナ中心に対して給電口位置をずらすことで平面アンテナの指向性を意図的に操作することができる。これは平面アンテナ給電口が平面アンテナ本体2ではなく導電べース部3に設けられている場合に有効である。
【0054】
図7は、電磁界解析ソフトでアンテナ駆動を最適化するように設定するためのモデルを示す。アンテナ給電構造部6としては、平面アンテナ本体2を駆動するためスロツト部が形成されるが、各部寸法の最適条件を求めることで、導波管9から平面アンテナに、放射電力を損失無く供給することが可能になる。
【0055】
以上説明したように、平面アンテナ本体2への伝送路を構成するEベンド導波管部4は、導波管の一面を除去して開放面とした形状の導波管溝部4aを用いて構成される。開放された導波管溝部4aの上面は導体で遮蔽する必要があるが、本実施の形態によれば、給電プレート10を用いて良好な状態で遮蔽することが可能である。
【0056】
導波管溝部4aの作成には、導電ベース部3を金属により形成する場合であれば、導電ベース部3の上面部の切削加工を用いることができる。切削加工は、空洞を作るより簡単に短時間で加工可能である。また、切削によらず成形で加工することも可能である。導電ベース部3を成形する際に導波管溝部4aを形成し、成形品の表面に導電性が無ければ、メタライズして切削と同様な構造を得ることができる。このような成形方法で作成すれば、切削より更に安価に製造することが可能である。
【0057】
以上の通り、本実施の形態によれば、製造方法が簡便で、しかも特性的に安定した平面アンテナを提供することが可能である。
【0058】
なお、以上の説明では、ミリ波のように周波数の高い領域で機能するアンテナを例として説明したが、本発明は、導波管による給電方法を用いる他の機器にも適用可能である。例えば、モジュールとして平面回路に実装する半導体素子を駆動するためのモード変換回路や、平面回路で構成されるフィルタや位相回路などに適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の平面アンテナによれば、生産性が良く、良好な特性を容易に得ることが可能であり、通信分野や民生分野で利用されるミリ波アンテナ等に有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 平面アンテナ
2 平面アンテナ本体
2a 放射スロツト
2b 平面アンテナ給電口
3 導電ベース部
3a 凹部
3b 給電プレート嵌合段差部
4 Eベンド導波管部
4a 導波管溝部
4b 周縁側端面
4c 中心側端面
5 導波管給電口
6 アンテナ給電構造部
7 導波管接続部
8 標準仕様導波管
9 導波管
10 給電プレート
10a 給電パターン
11 誘電体基板
12 導電層
C アンテナ中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板形状を有し電磁波を放射するための放射面が形成された平面アンテナ本体と、
前記平面アンテナ本体に対して給電するためのアンテナ給電構造部とを備えた平面アンテナにおいて、
導電性の内壁面を有する導波管構造部の一部が形成された導波路部材と、
前記導波管構造部の一部と組合せて導波管構造を形成するための給電プレートとを備えた伝送路構造を有することを特徴とする平面アンテナ。
【請求項2】
前記給電プレートは、前記アンテナ給電構造部の一部を構成する伝送路としての平面アンテナ給電口を有している請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項3】
前記給電プレートは、前記アンテナ給電構造部の少なくとも一部を構成する結合回路パターンとして形成された給電パターンを有し、平面アンテナを駆動する請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項4】
前記給電プレートは、その厚さが表皮効果相当厚さ以上、100μm以下である請求項3に記載の平面アンテナ。
【請求項5】
前記導波路部材は少なくとも表面が導電性を有する導電ベース部により形成され、
前記導電ベース部はその上面に凹部を有して、当該凹部に前記平面アンテナ本体が前記放射面を開放させて装着され、
前記導波管構造部は、前記導電ベース部における前記凹部の底面から更に窪ませて形成され、
前記平面アンテナ本体における前記放射面の裏面である給電面の側に、前記アンテナ給電構造部の少なくとも一部を構成してアンテナ給電する平面アンテナ給電口を有し、
前記導電ベース部と前記給電プレートが一体として構成された請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項6】
前記導電ベース部は、樹脂材料からなる成形体に導電膜の被膜を有する構造である請求項5に記載の平面アンテナ。
【請求項7】
前記平面アンテナ本体の前記放射面は、電磁波入出力スロットパターンが形成され、前記電磁波入出力スロットパターンを除き導電層で覆われており、
前記給電面には前記導電層が設けられず、前記給電プレートに、前記アンテナ給電構造部の一部を構成する平面アンテナ給電口が設けられた請求項5に記載の平面アンテナ。
【請求項8】
前記導電ベース部における前記導波管構造部の周囲領域には、給電プレート嵌合段差部が形成され、前記給電プレートは前記給電プレート嵌合段差部に嵌め込まれており、前記給電プレート嵌合段差部の周囲の前記導電ベース部面と前記給電プレートの上面とは、前記平面アンテナ本体に対して同一平面を形成して接している請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項9】
前記給電プレートの伝送路としての、前記アンテナ給電構造部の一部を構成する平面アンテナ給電口は円形である請求項1に記載の平面アンテナ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−4637(P2012−4637A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135017(P2010−135017)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】