幹細胞による柔組織移植片の形態と大きさの維持
生体適合性足場内に、予め定義された形態及び大きさの柔組織を成体間充織幹細胞(MSC)からデノボ・インビボ合成するための方法及び組成を説明する。足場は宿主動物にインビボで移植され、その中で作製されるか、又は半ビボで維持される。誘導される血管形成により、柔組織移植の成功が向上される。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
生体適合性ヒドロゲルマトリックス内に埋め込まれた成体間充織幹細胞を用いて、脂肪組織及び線維芽細胞を含む柔組織を、予め定義された形態及び大きさに生物学的に作製する。
【0002】
背景
柔組織欠損の修復は、現代の医学的業務にとって実質的な課題である。乳癌及び顔面癌のうち多くのタイプは命にかかわり、一旦取り除かれると、患者は柔組織が失われ、外観が損なわれる。乳房切除及び腫瘍切除手術は、失った柔組織を補充し、身体の形状及び/又は生理的機能を修復する非選択的手術の例である。顔面復元手術は、基底細胞癌、扁平上皮癌、メラノーマならびにその他の頭部及び頸部癌のような癌切除後に欠くことができない。癌の医学的処置の進歩により生存率が向上し、その結果、癌の生存者は彼らの柔組織の形態及び機能欠陥が修復されることを希望する。傷害は戦争の間に発生し、骨格の傷害に加えて柔組織の外傷が引き起こされる。労働に関連した事故及び交通事故は柔組織欠損の付加的な原因である。柔組織は熱傷後に失われ、皮膚だけでなく、皮下の柔組織の復元も必然的に伴う。片側顔面小発育症(顔面の片側が他の半分に比較して発育不良である)のような先天的異常の場合、かなりの量の柔組織が欠損していて、復元されることを必要とする。2003年に、米国では合計で約600万人が形成外科医によって行われる復元外科手術を受けた(American Society of Plastic Surgeons http://www.plasticsurgery.org/public_education/2004Statistics.cfm)。
【0003】
米国では、2002年に約50億ドルが美容外科手術に、そして約20億ドルが非外科的美容手術(たとえばコラーゲン注入)に費やされた。これはその年だけで行われた約700万件の美容外科及び非外科的手術に相当する。
【0004】
数十年の間、外科医は彼らの創造的知識を使用して柔組織復元手術を改良してきた。自家柔組織移植片や合成材料は、柔組織復元手術における主要な手段である。それぞれの方法には賛否両論があり、臨床的判断に基づいて具体的な患者のタイプや柔組織欠損に適合させることができる。残念ながら、現在の柔組織復元及び増大の手段は、ドナー側の病的状態、漏出、追い出し、不自然な触感、再吸収、及び免疫拒絶反応のような有害な副作用を伴い、理想に到達していない。自家成熟脂肪組織は柔組織欠損の充填物として使用されてきたが、結果は予測不可能である。容積の減少は主要な関心事であり、自家移植片吸収は70%に及ぶ。自家柔組織移植片の容積減少は、それらの虚血に対する低い耐性及び遅い血管再生速度の結果、移植された成熟脂肪細胞がアポトーシスするためである。脂肪組織切除又は脂肪吸引法は、脂肪組織移植の別の方法を提供する。脂肪吸引による吸引物から分離された成熟脂肪細胞をばらばらにした細胞懸濁液は、足場に取り込まれ、柔組織欠損を充填するために移植されてきた。しかし、おそらく成熟脂肪細胞の細胞質の85%が脂質であるために、容積の減少は依然として問題点であり、途方もなく大きい血管形成の必要性が生じる。大部分の重篤な症例では、脂肪吸引による吸引物に由来する脂肪移植片は、最適以下の血液供給及び移植片の壊死を伴う。脂肪吸引に起因する機械的ストレスは、移植時に90%に及ぶ脂肪細胞を損傷すると推定される。別の厄介な要因は、成熟脂肪細胞が十分に分化していて、増殖せず、脂肪組織移植片における脂肪生成細胞の欠乏を導くことである。
【0005】
切除又は脂肪吸引法により動物又はヒト脂肪組織から分離することができる前脂肪細胞は、前脂肪細胞が半ビボである程度まで増殖し、成熟脂肪細胞に比べ、酸素が欠乏した環境にかなりの程度まで耐えることができると考えられているため、成熟脂肪細胞より好ましい。しかし、切除及び/又は脂肪吸引法中に一部の前脂肪細胞は損傷される可能性がある。3T3−L1及び3T3−F442Aのようないくつかの前脂肪細胞系統は、PGAメッシュのようなバイオマテリアルの中で脂肪組織を作製するために使用されてきた。これらの脂肪細胞系統は、インビトロ研究にとって際だった価値があるにもかかわらず、不死化されているため、脂肪組織のインビボでの工学的作製のための初代前脂肪細胞ほど価値がない。たとえば、多孔性PLA足場に播種された前脂肪細胞はインビボで脂肪組織を生成する。ペプチド−結合アルギネート移植片は、播種されたヒツジ前脂肪細胞の接着及び増殖、ならびに脂肪組織形成を支持した。ヒト及びマウス前脂肪細胞に外部から送達されたbFGFは、コラーゲン又はマトリゲル足場中において、継続的な脂肪細胞への分化及び脂肪組織形成を促進すると報告された。
【0006】
間充織幹細胞は胚性幹細胞に由来し、脂肪組織、軟骨、骨、骨格筋及び間質性線維性組織のようなすべての結合組織を形成する細胞系譜に分化する。MSCは骨髄、脂肪組織、乳歯、及び骨格筋から分離することができる。それらの多能性に加え、MSCはそれらの未分化性を失わずに自己再生し、多くの継代を複製することができる。MSCは、細胞培養ペトリ皿に接着する線維芽細胞様細胞として初めて分離され、確認された。ヒトでは、MSCは一般に上腸骨稜の骨髄から吸引されるが、マウスMSCは通常、脛骨及び大腿骨の中央骨幹部から吸引される。脂肪生成、軟骨形成、骨形成、筋形成などのような種々の確立された誘導培地に曝されると、MSCは異なる経路に分化し、対応する細胞系譜に特徴的な遺伝子及び蛋白質マーカーを発現し始める。
【0007】
間充織幹細胞(MSC)は脂肪生成細胞及び脂肪細胞の祖先である。最終段階の脂肪細胞は複製もしないし、それ以上分化もしない。したがって、脂肪組織−形成細胞の不足は、とりわけ、現在の柔組織移植手術後の容積減少の一因となる。ヒト間充織幹細胞(hMSC)は、ペトリ皿の単層培養において脂肪生成細胞に分化することが報告されている。インビトロにおけるヒトMSCの脂肪生成中に発現される多数の遺伝子が詳細に説明されている。
【0008】
足場材料は通常、工学的に作製された移植片において初期の接着を提供し、そして組織形成細胞を支持するために必要とされる。具体的な組織工学適用のために適切な足場を選択することは、試みの成功にとって重要である。組織の成長は、構造的環境、細胞−バイオマテリアル相互作用、及び潜在的に足場に取り込まれた生物学的シグナルに依存する。
【0009】
細胞を基礎にした脂肪組織工学に関する以前の研究は、主に多孔性足場を利用していた。多孔性足場の利点は、血管内部成長を促進するそれらの潜在能力である。しかし、脂肪組織工学における多孔性足場の共通する欠点は、侵入する宿主細胞によって産生される酵素に潜在的に関連する、多孔性足場の早期再吸収及び/又は分解である。ヒドロゲルは、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸、アガロース、アルギネート、キトサン、及びポリエチレングリコールヒドロゲルを含む広範な足場の領域を包含する。PEGヒドロゲルは軟骨細胞及び骨芽細胞を含む、種々の細胞タイプを被包するために使用されてきた。PEGDAヒドロゲルのレオロジー的及び回復特性は、ヒト腹腔脂肪組織に匹敵するいくつかのパラメータを共有することが報告されている。
【0010】
復元及び形成手術は、具体的な形態と大きさに焦点を合わせる。仮説上、首尾よく幹細胞から組織工学的に作製された腎臓は、実現した場合、工学的に作製された腎臓がインビボで十分に機能する限り、患者の正常な腎臓の正確な形態を有する必要はない。対照的に、図1A及びBに示すような柔組織欠損は、生理機能を有することに加えて、元の形態と大きさを有するように修復されなければならない。容積の減少は時間の経過と共に60%に及ぶほど厳しいこともありうる。実際、柔組織移植片の“術後容積減少”は、手術に関する文献における柔組織復元法の中の厄介な問題の中でもとりわけ重要な論点である。
【0011】
容積減少は瘢痕又は最適以下の組織統合のような多数の因子によって引き起こされる可能性があるが、重要な論点は、1)容積を維持するための脂肪及び線維性基質の持続的合成、及び2)脂肪及び線維性基質形成細胞の供給を補充するための自己複製可能な、組み込まれた細胞の不足であるとの仮説がたてられている。脂肪細胞のような最終段階の細胞はこれらの必要性を満たすことができない。
【0012】
組織工学でのバイオマテリアルの適用における主要な障害は、最適に至らない内部組織成長及び十分でない血管新生である。インビボで使用されてきたバイオマテリアルは、その成功を、置換する軟骨及び皮膚のような宿主組織が血管を欠くという性質に負っている。生来の軟骨及び皮膚は大部分血管を欠き、十分に薄いため、血管が新生されなくても栄養物が拡散する。しかし、数ミリメートル以上の大きさの工学的に作製された組織又は器官の場合には、インビボでの組織形成細胞の生存度は一般に低く、それにもかかわらず、大部分の組織及び器官を工学的に作製するために、組織形成細胞の大きな塊が必要とされる。したがって、組織形成細胞によって工学的に作製された組織及び器官の生存を促進するために、新血管新生は欠くことができない。
【0013】
血管は本来、脈管形成及び血管形成という2種の異なる生物学的過程によって形成されると提案されている。脈管形成は、内皮前駆細胞からの毛細血管形成の過程である。予め存在する血管から新規な血管を形成する血管形成は、組織成長及び創傷治癒の両方において極めて重要で、欠くことのできない過程である。血管形成は、潜在的に2種の機序:陥入及び新芽形成によって行われる。陥入血管形成は、間質細胞柱が予め存在する血管に移動する場合に起こる。このタイプの血管形成は局所血管ネットワークのリモデリングを引き起こす。一方、新芽形成血管形成は、既存の血管構造から新規血管が形成されることを表す。脈管形成は最近、出生後に認められているが、血管形成は成体に新規血管の形成を導く一般的な過程である。血管形成と脈管形成は共に非常にたくさんのシグナリング過程を必要とする複雑な段階的な事象を包含し、そして多様な細胞系譜を包含する。天然の組織の血管新生の過程は次第に明らかにされつつあるが、工学的に作製された組織の新血管新生についての理解は依然として初期の段階にある。
【0014】
組織工学は血管新生を誘導するために、主に以下の2種の方法:内在の血管形成反応を刺激すること、及び天然の血管ネットワークを模倣するバイオマテリアル中に物理的構造を作製すること、を使用してきた。静止中の内皮細胞は、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、及び線維芽細胞成長因子(FGF)のような多数の血管形成分子によって刺激されて、血管形成内皮細胞に変わることができる。bFGFは血管形成作用に加え、骨芽細胞の増殖を刺激することが示され、骨組織工学にとってbFGFをかけがえのないものとしている。
【0015】
マイクロチャンネルは、組織工学材料中にフォトリソグラフィによってパターン化され、毛細血管をシミュレーションする。多数の生体適合性ポリマー材料中に血管形成を促進するための以前の懸命な努力にもかかわらず、非多孔性ヒドロゲル足場中のインビボでの新血管新生は組織工学適用にとっての課題であり続けている。
【0016】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)は組織工学において使用されてきた多数のヒドロゲルポリマーの1種である。PEGは非毒性で水溶性のポリマーであり、免疫系によって認識されない。PEGはすでにFederal Drug Administration(FDA)によって、ヒトにおける生物医学的適用に対して認可されている。PEGの利点は、工学的に作製される組織及び器官に欠くことのできない、一定の形態と大きさへの成形性である。PEGヒドロゲルは光開始剤を使用することによる作製が可能であり、線状PEGによって繋がれたオリゴアクリレートのこぶ(node)が架橋される。しかし、PEGは濃密なヒドロゲルであり、遅い分解速度を有し、そのことは利点及び欠点として見なすことができ、具体的な組織工学への適用に関しては未決定のままである。薬物送達の場合、PEGの遅い分解速度はカプセル化されたサイトカインを徐放させることに役立っている。サイトカイン拡散速度は、PEGヒドロゲルの分子量及び濃度を変化させることにより改変することができる。組織工学の足場として、PEG分解速度はその架橋形成、濃度、及び共重合に関して修正することができる。たとえば、PEGの分解速度はポリ−d−1−乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)と共重合することにより変化する。しかし、インビボにおける組織工学適用に対しての広範なPEGの使用についての懸案となっている論点は、PEGヒドロゲル中の宿主組織内部成長及び血管形成が遅く、量がわずかであることである。
【0017】
要旨
生体適合性足場内の成体幹細胞に由来する生物学的に作製された柔組織は、予め決定された3次元構造;すなわち形態とサイズ又は大きさを有する。生物学的に作製された柔組織構築物は、成体間充織幹細胞から任意の形態又はサイズで調製され、インビトロ、半ビボ、及びインビボで容易に作製される。これらの移植片は、審美学、疾患、先天異常、又は外傷のために美容外科手術を必要とする患者に有用である。
【0018】
種々の添加物を含むヒドロゲル中の間充織幹細胞は、容積損失が少なく、細胞分解速度が低く、そして予め決定された形態及び大きさへの成形性を有する移植片を提供する。
成体間充織幹細胞によってインビボ又は半ビボで生物学的に作製された、予め定義(又は決定)された形態及び大きさを有する生体適合性足場内に柔組織を調製するための方法及び組成を提供する。この方法にしたがえば、間充織幹細胞(MSC)は予め決定された3次元構造の生体適合性足場中に分散されて提供される。これらの細胞は、MSCと脂肪生成誘導添加物及び/又は線維芽細胞成長因子を接触させることにより誘導され、脂肪及び線維芽細胞組織−形成細胞に分化する。その接触は、少なくとも一部の成体間充織幹細胞が、必要とされる復元又は修復の特性によって決定される、予め決定された3次元構造を有する柔組織に分化するために十分な期間維持される。構築物は、柔組織移植の必要がある受容者に、標準手術によって移植される柔組織である。脂肪細胞及び線維芽細胞は形成される柔組織に存在し、幹細胞は少量ないし検出不能な量で存在する。
【0019】
生体適合性足場は、重合したポリエチレングリコールジアクリレートのようなヒドロゲルポリマーから構築される。生体適合性足場、そしてその足場を使用して工学的に作製された柔組織は予め決定された3次元構造を有する。ヒドロゲルポリマーは、生体適合性足場前駆物質内にMSCを分散する前か、又は後に形成されてよく、それによってポリマーはMSCを閉じこめる。ヒドロゲルポリマーは、たとえば生体適合性足場前駆物質の光重合によって形成される。
【0020】
PEGヒドロゲルは、脂肪組織工学適用のための足場として好都合である。PEGは親水性、生体適合性で、ゆっくり分解され、工学的に作製された脂肪組織の容積保持に有用である。
【0021】
組織形成細胞が患者自身の骨髄又は匹敵する別の供与源に由来するため、構築物の免疫拒絶反応は妨げられる。柔組織は、生物学的に治癒過程が進行する患者自身の組織と融合する。現在の整形外科的方法が、別々の制度上の認可の必要性を軽減するために利用されてもよい。その上、(胚性幹細胞のかわりに)成体幹細胞が使用され、その結果道徳的な問題点が最小化される。
【0022】
標準細胞培養法は修正され、その結果、多数の組織工学研究所が生物学的に作製された柔組織の作製が可能になる。
本明細書に記載された材料と方法は、非多孔性生体適合性ヒドロゲルにインビボで血管組織を内部成長させるための、物理的及び化学的方法の非常に優れた組み合わせを提示する。PEGヒドロゲル中の内皮様細胞に内張りされた血管様構造は赤血球を含有し、抗−VEGF及びWGA抗体の両方に陽性染色され、浸潤した宿主組織中における内皮細胞の存在を示唆する。工学的に作製されたマクロチャンネル内の内皮様細胞によって内張りされた内腔に含有される赤血球の形態と組み合わせると、本研究における組織内部成長は血管組織であると考えられる。以前に使用されたミクロチャンネルより大きい物理的マクロチャンネル、及び化学的刺激因子、塩基性線維芽細胞成長因子は、単独、又は組み合わせにおいて、インビボにおけるPEGヒドロゲル中の血管組織内部成長を促進することを暗示する。しかし、マクロチャンネルとbFGFの効果の間には重要な違いが存在する。bFGFを負荷し、マクロチャンネルを持たないPEGへの宿主血管組織の任意の浸潤に比較して、血管及び顆粒組織内部成長はbFGFを負荷したPEGのマクロチャンネルの内腔に指向し、残りのPEGへは浸潤しない。したがって、PEGヒドロゲル中のbFGFにより誘導される、明らかに任意の宿主組織浸潤の能力は、組織工学的適用にとって望ましくないといってよく、そのような能力は工学的に作製されたマクロチャンネルによって血管組織内部成長に誘導される。この指図された血管組織内部成長は、血管形成が必要な一般的な組織工学適用において重要である。bFGFを持たないマクロチャンネルPEGは、チャンネル内に血管組織内部成長を誘導するが、マクロチャンネルを持ち、bFGFを負荷したPEGに浸潤した血管組織容積は、bFGFを負荷せずにマクロチャンネルを持つPEGより著しく多い。
【0023】
開示の具体的な説明
柔組織は、復元及び増大手術における修復に不可欠な構造である。現在の柔組織復元及び増大のための材料は、最適以下の容積保持、ドナー側の病的状態、及び不十分な生体適合性を欠点として持つ。生物学的に生育可能な柔組織は、茶さじ一杯の患者の成体幹細胞を採取し、それらを増やし、それらを脂肪生成細胞に分化させ、そしてそれらを適切な生体適合性ポリマー材料で被包することにより工学的に作製することができる。最終的に、ドナー側の外傷は注射針サイズのようにわずかであり、患者自身の幹細胞が使用されるため免疫適合性であり、そして幹細胞が脂肪生成細胞を補充して、工学的に作製される柔組織の予め定義された形態及び大きさを保持することができるため、長期間容積が保持されるという結果になる。柔組織移植片に由来する幹細胞は、形成及び復元手術において現実のものとなりうる。
【0024】
予め決定された3次元構造の生体適合性足場内における、成体間充織幹細胞から調製した新規に合成された柔組織は、柔組織の修復、増大又は復元のための構築物を提供する。成体MSCは、軟骨、骨及び脂肪組織を含むすべての結合組織−形成細胞系譜に分化することができる。MSCは、体内の骨髄又はその他の結合組織供与源から非常にわずかな侵襲方法により得られ、培養中の増殖が活発であり、十分に確立された脂肪生成誘導添加物(Pittenger et al., Caplan, 2003)に曝した後、脂肪組織−形成細胞に分化するように容易に誘導することができる。さらに、成体MSCの使用は、手続き上及び倫理上の両方の理由から、胚性幹細胞又は分化した脂肪細胞の使用より好都合である。
【0025】
成体間充織幹細胞は骨髄細胞に由来する。少なくとも一部の成体間充織幹細胞は脂肪細胞に分化しているため、初めは両方の細胞タイプが存在し、それらはやがて実質的に脂肪細胞だけに変化し、幹細胞は非常に少量ないし検出不可能な量だけ存在する。脂肪組織はインビボで幹細胞から作製されるか、又は半ビボで幹細胞から用意される。
【0026】
MSCは脂肪組織工学に適した足場材料内に配置される。たとえば宿主体から、調製された足場に幹細胞が拡散する場合のように、足場が調製された後に足場内にMSCが配置されてもよい。MSCは足場の前駆物質と混ざり、その後MSCのまわりに足場が構築され、それによって足場ネットワーク内に少なくともそれらの細胞の一部を捕捉する。足場は生体適合性であり、組織形成を支持し、そして十分な安定性を呈して、新規に形成された組織と周囲の宿主組織の間を首尾よく統合する。
【0027】
宿主動物の例としては、ラット、マウス及びウサギのような実験室動物、イヌ又はネコのような愛玩動物、ウマ(ウマ科)、ウシ(ウシ科)、ヒツジ(ヒツジ科)、又はヤギ(ヤギ類)のような家畜、又はサル、類人猿(チンパンジー、オランウータン又はゴリラ)又はヒトのような霊長類が挙げられる。
【0028】
適切な生体適合性足場には、ヒドロゲルポリマー構築物もしくは重合した、照射により重合するモノマー、又は別の適切な構築物が挙げられる。ヒドロゲルポリマーは、体内の細胞外マトリックスを模倣した環境を持つ組織−形成細胞を提供する。ヒドロゲルポリマーは、それらの明確な3次元構造を維持しながら、大量の水又は体液を吸収又は吸着する親水性の3次元ネットワークである。ヒドロゲルポリマー、たとえばアルギネート、サンゴ、アガロース、フィブリン、コラーゲン、骨、軟骨、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)又はそれらの共重合体(PLGA)、キトサン、及びポリエチレングリコールを基礎にしたポリマー(pegを基礎にしたポリマー)、たとえばポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート及びその混合物が適切である。足場は、ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー[MW3400;Shearwater Polymers, Huntsville, AL]の重合によって形成される。ポリエチレングリコールジアクリレート又はジメタクリレートモノマーは約1000〜約100,000ダルトン及び約2000〜約5000ダルトンの分子量を有していてよい。足場は物理的形状、たとえば固体、液体、ゲル、粉末、スポンジ、又はペーストの状態にある。
【0029】
ポリエチレングリコールを基礎にしたヒドロゲルポリマーは、それらの証明された生体適合性及び、MSCの増殖及び骨のような複数の系譜への分化を支持する明示された能力のために、組織工学適用にとっての明白な利点を有する。その上、非常に侵襲の少ない方法(注入)で皮下に細胞−ポリマー系を投与する可能性、及びこれらのヒドロゲルが、光重合のような経皮照射−誘導重合を受ける能力。また、宿主動物に有害でない量のX−又はガンマ−照射を使用して、宿主動物への移植後に重合を開始することができる。
【0030】
生体適合性足場内の成体間充織幹細胞に由来する生物学的に作製された脂肪組織は、前もって決定された3次元構造;すなわち形態及び大きさを有する。その構造は鋳型、又は半ビボ(宿主体の外部)にある別の形状中の生体適合性足場を重合する(形成する)ことにより得ることができる。生体適合性足場の3次元構造はまた、生体適合性足場が作製される宿主体内の半ビボ位置における形態及び大きさによって決定されてもよい。
【0031】
脂肪組織の元になる脂肪生成構築物は、生体適合性足場及び骨髄に由来する成体間充織幹細胞を包含する。この構築物は、足場内に分散した脂肪生成因子を包含する。脂肪生成因子は、プログリタゾン、βファミリーの成長因子、プロスタグランジン、シグリタゾン、デキサメタゾン又はその混合物であってよい。
【0032】
組成物は、重合したポリエチレングリコールジアクリレートのような水和した、ヒドロゲルポリマーからなる生体適合性足場、ヒト骨髄に由来する成体間充織幹細胞を包含し、さらに脂肪生成因子、栄養培地、場合により成長因子、及び少なくとも1種の抗生物質を包含する。例となる脂肪生成因子、栄養物及び抗生物質には、アンホテリシンB、シグリタゾン、ビオチン、デキサメタゾン、ゲンタマイシン、インスリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及びL−チロキシンが挙げられる。
【0033】
インビボで生物学的に作製される柔組織を産生する方法には、成体間充織幹細胞及び脂肪生成培地を含有する生体適合性足場を含む組成物を宿主動物に埋め込むことが挙げられる。細胞及びポリエチレングリコールジアクリレートのようなモノマー前駆物質を包含し、その上アンホテリシンB、シグリタゾン、ビオチン、デキサメタゾン、ゲンタマイシン、インスリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及びL−チロキシンを含有する混合物の重合後に、成体間充織幹細胞は捕捉されるように足場に接着する。重合により形成された生体適合性足場は、重合し、水和したヒドロゲルポリマーを包含する。
【0034】
付加的な工程としては、成体間充織幹細胞を採取すること、細胞と脂肪生成培地を接触させ、脂肪細胞への分化を誘導するために十分な期間、その接触を維持すること、生体適合性足場に脂肪細胞を負荷すること、そして脂肪細胞を負荷した足場を宿主動物に移植することが挙げられる。
【0035】
半ビボで生物学的に作製される柔組織を産生する方法は、生体適合性足場に成体間充織幹細胞を接着させることを包含し、そのような足場は、さらに脂肪生成因子、栄養培地、及び少なくとも1種の抗生物質を含有するヒドロゲルマトリックス内に細胞を捕捉することにより有効になる。足場は重合し、脂肪生成因子、栄養培地、及び少なくとも1種の抗生物質を含有する、水和したポリエチレングリコールジアクリレートマトリックスを包含し、そしてそれはアンホテリシンB、シグリタゾン、ビオチン、デキサメタゾン、ゲンタマイシン、インスリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及びL−チロキシンを含有する。
【0036】
匿名の成人ドナー由来の市販のヒト間充織幹細胞は、脂肪生成細胞に分化し、hMSC由来脂肪細胞はPEGヒドロゲルに被包され、手術により作製された免疫不全マウス背側の皮下ポケットに移植された。インビボ移植後4週間目に、幹細胞由来脂肪組織移植片が採取された。図4はPEGヒドロゲル足場の回復過程を説明する。図1Dに示すような、hMSC−由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲルは色調が暗く、宿主皮下組織によく接着した(図5)。図6はインビボに移植後のPEG脂肪組織移植片の形態、大きさ、及び異なる光不透明性を説明する。hMSC由来脂肪生成細胞を被包する、PEGヒドロゲル構築物は、元の形態と大きさを維持するだけでなく、かなりの光不透明性を示し(図6D)、十分な量の生物学的構造がhMSC由来脂肪生成PEG構築物中に形成されたことを暗示した。PEGヒドロゲル構築物とは対照的に、同じインビボ移植後4週間目に採取されたコラーゲンスポンジは元の形態と大きさを失った。図7に見られるように、hMSC又はhMSC由来脂肪生成細胞を播種したすべてのコラーゲンスポンジは、無細胞であっても、元の形態と大きさを失い、実質的な量が減少した(図7C)。脂質蓄積の組織学的マーカーであるOil−Red−OによるhMSC−由来脂肪生成PEG及びコラーゲン構築物の染色は陽性染色を明示した。しかし、H&E染色は、PEG構築物への宿主細胞の浸潤を示さず、生成された脂肪組織はすべて移植されたヒトMSC−由来脂肪生成細胞であることを暗示した。比較すると、コラーゲンスポンジに浸潤する宿主マウス細胞が存在するらしく、コラーゲン構築物内での脂肪生成に宿主細胞が関与する可能性を残す(図8)。
【0037】
ヒト間充織幹細胞はペトリ皿の単層培養中だけでなく、3Dヒドロゲル及びインビボの動物モデルにおいても容易に柔組織の構成要素に分化する。ヒトMSCは、柔組織欠損が手術による修復を必要としている患者から容易に分離されるため、自家細胞治療を使用して免疫拒絶反応の問題を回避することができる。PEGヒドロ中のhMSC−由来柔組織移植片は、4週間の皮下移植後に、それらの予め定義された形態及び大きさを事実上100%維持することができる。
【0038】
血管形成は、工学的に作製された脂肪組織を含む、工学的に作製された組織にとって依然として課題である。分離された試みにもかかわらず、工学的に作製された柔組織移植片では制御された血管形成が誘導される必要がある。前脂肪細胞系統由来の脂肪パッドにおける血管形成は、前脂肪細胞のかわりに宿主に由来するものであり、宿主の血管形成を刺激する必要性を示唆する。脂肪組織は柔組織の主要成分であるが、柔組織は脂肪組織以外のものも含む。たとえば、工学的に作製された柔組織移植片では、宿主線維性組織が必要であってもよい。骨組織の工学的作製において血管形成を誘導するためのいくつかの方法が、工学的に作製された脂肪組織に血管形成を可能にするために有用である。
【0039】
スケールアップは、柔組織工学を含む一般的な組織工学の課題である。開示された、工学的に作製された柔組織移植片は直径9mmに及び、特定の顔面柔組織欠損及び別の小さい柔組織欠損にとって十分である。しかし、乳房切除及び大きな外傷後の柔組織欠損は、数倍のスケールアップを要求する。塊の輸送、栄養物の拡散、血管形成、及び神経分布のような問題点が、工学的に作製される柔組織のスケールアップに関して対処すべき課題としてますます増大している。
【0040】
実施例
実施例1:脂肪組織工学のための半ビボインキュベーション及びインビボ移植片
A.ヒトMSCの単離及び培養
ヒトMSC(hMSC)は、健康な22歳の男性ドナーの腸骨稜由来の全骨髄吸引物から単離した(AllCells, LLC., Berkely, CA)。手短に説明すると、全骨髄試料にRosetteSep間充織細胞濃縮カクテル(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)を添加することにより、細胞を濃縮した。次に、2パーセントウシ胎児血清(FBS)(Atlanta Biologicals, Inc., Norcross, GA)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Sigma, St. Louis, MO)を含有する、2倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を希釈した。
【0041】
希釈した試料はFicoll-Paque(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)クッションの先端部に載せ、300xgで25分間遠心分離した。濃縮細胞はficoll-Paque血漿界面から除去し、2パーセントFBS及び1mM EDTAを含有するPBSで洗浄し、細胞は完全培地:hMSCのためのMesenCult基礎培地(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、10パーセントヒト間充織幹細胞刺激添加物(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、及び1パーセント抗生物質−抗真菌剤(Gibco, Carlsbad, CA)に再懸濁した。細胞を計数し、100mm培養皿中の10ml完全培地で培養し、95パーセント空気/5パーセントCO2中、37℃に維持した。24時間後、非接着細胞を捨て、接着細胞をPBSで2回洗浄し、3〜4日ごとに新鮮な培地に交換しながら、10〜14日間維持した。大きなコロニーが形成され(一般に10〜14日間)、コンフルエントになる前に、初代hMSCは0.25パーセントトリプシン及び1mM EDTAにより5分間、37℃でトリプシン処理し、計数し、100mm皿で再培養した。初代継代培養hMSCだけを使用した。
【0042】
B.脂肪生成添加物によるhMSCの処理
被包研究の場合、初代継代培養hMSCは、基礎又は脂肪生成培地で1週間、別々に培養した。基礎培地は、ヒト間充織幹細胞のためのMesenCult基礎培地(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、10パーセントヒト間充織幹細胞刺激添加物(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、及び1パーセント抗生物質‐抗真菌剤(Gibco, Carlsbad, CA)から構成された。脂肪生成培地は、ヒト間充織幹細胞のためのMesenCult基礎培地(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、10パーセントヒト脂肪生成刺激添加物(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、及び1パーセント抗生物質−抗真菌剤(Gibco, Carlsbad, CA)から構成された。培養物は、3〜4日ごとに新鮮な培地に交換しながら、95パーセント空気/5パーセントCO2中、37℃に維持した。
【0043】
単層培養中の脂肪生成過程を説明するために、初代継代培養hMSCは基礎又は脂肪生成培地で4週間、別々に培養し、Oil Red-O(Sigma, St. Louis, MO)で染色した。培養物は培養物中の脂肪沈着物を示唆する陽性のOil Red-O染色に比較した。
【0044】
C.ヒドロゲル/光開始剤溶液調製及び構築物作製
ヒドロゲル溶液を調製するために、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)(MW 3400;Sheawater Polymers, Huntsville, AL)は、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(Gibco, Carlsbad, CA)を補足した滅菌PBSで、10パーセントw/vの最終溶液になるまで溶解した。光開始剤、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン(Ciba, Tarrytown, NY)をPEGDA溶液に添加し、最終光開始剤濃度0.05%w/vを得た。
【0045】
基礎又は脂肪生成培地のいずれかで1週間維持後、初代継代培養hMSCは0.25パーセントトリプシン及び1mM EDTAにより5分間、73℃でトリプシン処理し、計数し、PEGDAポリマー/光開始剤溶液中に、5/106細胞/mlの密度で別々に再懸濁した。それぞれの構築物を用意するために、直径9mmのプラスチック挿入物(1.5mlの微小遠心分離管のキャップ)(Fisher Scientific, Hampton, NH)に細胞/ポリマー/光開始剤懸濁液の150μlアリコートを負荷した。負荷後、細胞/ポリマー/光開始剤懸濁液の入ったプラスチック挿入物を長波、365nmの紫外線ランプ(Glowmark, Upper Saddle River, NJ)に5分間、約4mW/cm2の強度で曝露した。その後光重合した構築物はプラスチック挿入物から除去し、滅菌PBSで2回洗浄し、対応する基礎又は脂肪生成培地を満たした6−ウェル培養皿(Fisher Scientific, Hampton, NH)に移した。
【0046】
D.構築物の半ビボインキュベーション及びインビボ移植
半ビボ研究の場合、hMSC由来脂肪生成細胞(N−12)を被包するヒドロゲル構築物は脂肪生成培地(本明細書に記載)で維持し、一方非処理hMSC(N=12)mを被包するヒドロゲル構築物は基礎培地(本明細書に記載)で維持した。すべての培養物は3〜4日ごとに新鮮な培地に交換しながら、95パーセント空気/5パーセントCO2中、37℃で4週間維持した。
【0047】
インビボ研究の場合、脂肪生成処理したhMSCを被包する重合したヒドロゲル構築物(N=8)、脂肪生成処理したhMSCを被包する構築物(N=4)、及び細胞を持たない対照構築物(N=4)は鋳型から取り外し、滅菌PBSで2回洗浄した。すべての構築物は、100mg/kgケタミン+5mg/kgキシラジンのIP注射による全身麻酔下で、鈍的解剖により調製した、重症複合免疫不全(SCID)マウス背側の皮下ポケットに移植した(4構築物/マウス)(Harlan, Indianapolis, IN)。
【0048】
E.細胞生存能力アッセイ
細胞生存能力は、取り扱い説明書に従って、生/死 生存能力/細胞毒性キット(Molecular Probes, L-3224, Eugene, OR)を使用して、4週間半ビボで維持された構築物において評価した。カルセイン(蛍光色素)は細胞膜を通って拡散し、細胞内エステラーゼと反応して緑色蛍光を生じるが、エチジウムホモダイマーは損傷された細胞膜を通ってだけ拡散し、核酸に結合して赤色蛍光を生じる。細胞標識後、試料はロングパス二重−発光蛍光フィルター(Chroma, Rockingham, VT)を備えた、倒立光学顕微鏡(Leica Microsystems, Wetzler, Germany)下で観察した。
【0049】
F.微細構造
構築物は半ビボでの4週間の維持及びSDIDマウスの背側におけるインビボでの培養後、最適切断温度(OCT)組織凍結混合物(IMEB, Chicago, IL)に包埋し、標準組織学技術を使用して10μmの切片に切断した。切片はOil Red-O(Sigma, St. Louis, MO)で染色し、グリセロールゼラチン(Sigma, St. Louis, MO)と一緒にスライドに載せ、光学顕微鏡(Leica Microsystems, Wetzler, Germany)下で観察した。
【0050】
G.RNA抽出及び逆転写‐ポリメラーゼ連鎖反応
全RNAはRNeasy Purification Reagent(Qiagen; Valencia, CA)を使用して、採取した半ビボ構築物から抽出した。構築物は、RNeasyキットのRLTバッファー200μを含有する1.5ml微小遠心管中でホモジナイズ(pelled pestle mixer, Kimble/Kontes, Vineland, NJ)した。その後、RLTバッファー400μlを添加し、続いてQUIshredder(Qiagen; Valencia, CA)カラムで付加的なホモジナイズを行った。逆転写(RT)は、superscript amplification system(Gibco, Carsbad, CA)を持つランダムヘキサマー(random hexamer)を使用して行った。得られたcDNAの1μlアリコートは、Ex Taq DNA Polymerase Premix(Takara Bio, Otsu, Shiga, Japan)を使用して、アニーリング温度58℃、30サイクルで、50μlに増幅した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、PPAR−γ2の特異的ヒトプライマー、センス:5’−GCTGTTATGGGT GAAACTCTG−3’(SEQ ID NO:1)、アンチセンス:5’−ATAAGGT−GGAGATGCAGGCTC−3’(SEQ ID NO.:2)、及びハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)、センス:5’−CCCATGTTCGTCA−TGGGTGT−3’(SEQ ID NO:3)、アンチセンス:5’−TGGTCATG−AGTCCTTCCACGATA−3’(SEQ ID NO.:4)を使用して行った。PCRは30〜35サイクル行い、それぞれのサイクルは、95℃で30秒の変性、55〜60℃で30秒のアニーリング、及び72℃で1分の伸長からなり、付加的に最後のサイクルの終了後、72℃で10分間維持した。ゲノムDNA混入の可能性を排除するために、PCRはさらにRTのない反応に適用した。増幅された相補的DNAは1パーセントアガロースゲルにより電気泳動し、染色し、紫外線ランプ下で撮影した。
【0051】
H.組織工学的に作製された脂肪組織構築物の肉眼的観察
(hMSC−由来脂肪生成細胞を被包する)構築物及び(非処理hMSCを被包するか、又は細胞を持たない)対照構築物は両方とも、4週間のインビボにおける移植及び半ビボでの維持後、元のプラスチック鋳型の形態及び大きさを維持した(図1A)。物理的操作によって、構築物は限定された程度に、堅いもの、弾性があるもの、柔軟性がないものになった。組織工学的に作製された脂肪生成構築物(図1B)は明るい黄色を呈し、不透明性であるのに対し、基礎培地(脂肪生成培地ではない)で処理したhMSCを含有するインビボ移植物から採取された構築物(図1C)、及び採取された、被包細胞を持たない対照構築物は透明であった(図1D)。
【0052】
I.半ビボで維持された単層培養物中のhMSCによる脂肪生成及びヒドロゲル構築物
脂肪生成培地で4週間維持したヒトMSC単層培養物は、Oil Red-O染色への陽性反応を明示して赤色を呈し、(図2A)、対照的に基礎培地の存在下(及び脂肪生成培地を含まずに)単層培養したhMSCはOil Red-Oに染色されなかった。Oil Red-Oは濃い赤色を持つリソクローム(lysochrome)(脂溶性色素)で、主に凍結切片中のトリグリセリドを明示するために使用される(Lillie, Conn's Biological Stains, 9版, Baltimore Williams&Wilkins co., 1977)。同様に、脂肪生成処理されたhMSCを被包するヒドロゲル構築物は、PEGを基礎にしたヒドロゲル構築物中で4週間、半ビボで維持後にOil Red-Oにより陽性染色を示したが、脂肪生成処理されないhMSCを被包する、PEGを基礎にしたヒドロゲルでは、Oil Red-Oに染色されなかった(図2C及びD)。
【0053】
J.インビボにおける組織工学的に作製された脂肪生成構築物
組織学的及びRT−PCR解析は、SCIDマウス背側におけるインビボでの培養4週間後に、脂肪生成処理hMSCを被包するヒドロゲル構築物中に新規な脂肪組織の形成を明示した(図3)。脂肪生成構築物(図3A)は、非処理hMSCを被包する対照構築物(図3B)又は細胞を被包しないもの(図3C)とは異なり、陽性のOil Red-O染色を示した。さらに、細胞を被包しない対照構築物は宿主細胞浸潤の徴候がなく、ヒドロゲル構築物の無傷の境界を示した(図3C)。脂肪細胞‐特異的PPAR−γ2遺伝子は脂肪生成−処理hMSCを被包する脂肪−組織構築物中に陽性の発現を示した(図3D)。マウスは温度及び光を制御した室内(23〜25℃、14時間明期/日)で飼育し、食物と水は標準的な1日量を与えた。
【0054】
実施例2:非多孔性バイオマテリアル中の工学的に作製された柔組織の内部成長及び血管形成
A.PEGヒドロゲルの調製
ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(1g)(Sheawater, Hunsville, AL, USA)は、133ユニット/mLペニシリン及び133mg/mLストレプトマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を補足した6.6mLのPBS中に、6.6パーセントw/vの最終溶液になるまで溶解した。
【0055】
紫外線光開始剤、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン(Irgacure)(Ciba, Tarrytown, NY, USA)は100%エタノールに溶解し、50mg/mLの濃度とした。最終ユニット保存PEG溶液は、6.6mLのPEG溶液に100μL光開始剤/エタノール溶液を添加することにより調製した。
【0056】
B.インビトロにおけるbFGF放出特性
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)ヒト組換え体(Sigma, St. Louis, MI, USA)は、製造業者の指針に従って、ウシ血清アルブミン(BSA)0.1%を含有するPBSにより、25μg/mLの濃度に再構成した。この溶液はさらに、BSAを捕捉したPBSにより、最終濃度0.4μg/mLまで希釈した。全部で100μLの0.4μg/mL bFGF溶液は、200μLのPEG保存溶液を含む滅菌試験管に添加した。この混合物は均一性を確実にするために5回、ピペッティングを繰り返し、その後エッペンドルフキャップのシリンダー状鋳型に75μLずつ分注した。これらのシリンダー状鋳型は365nmのUV光で5分間光重合させた(Glo-Mark, Upper Saddle River, NJ, USA)。それぞれPBS中の0.1%BSAを1mL含有する別々の試験管中のbFGFを負荷したPEGヒドロゲルシリンダーは、1、3、7、14、21及び28日間(それぞれN=4)、37℃の水浴に置き、bFGF放出速度を測定した。それぞれの時点で、それぞれの試験管の上清は、ヒトbFGFイムノアッセイ(R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)(Alhadlaq et al., 2004; Moiolo et al., 2005)を使用してアッセイした。
【0057】
C.PEGヒドロゲルから放出されたbFGFの生物活性
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)ヒト組換え体(Sigma, St. Louis, MI, USA)は本明細書に記載のように再構成し、さらに最終濃度4μg/mLに希釈した。全部で200μLの4μg/mLbFGF溶液は、400μLのPEG保存溶液と一緒に滅菌試験管に添加した。この混合物は均一性を確実にするために5回、ピペッティングを繰り返し、その後エッペンドルフキャップのシリンダー状鋳型に75μLずつ分注し、365nmのUV光で5分間光重合させた(Glo-Mark, Upper Saddle River, NJ, USA)。bFGFを含まない200mLのPEGヒドロゲルシリンダーを調製するために、PBS中0.1%BSAをbFGF溶液のかわりに使用した。
【0058】
ヒト皮膚線維芽細胞(hDF)(Cambrex, Walkersville, MD, USA)は、10%ウシ胎児血清ならびに1%ペニシリン及びストレプトマイシンを補足したダルベッコ改変イーグル培地(完全DMEM)4mL中、20,000細胞/ウェルの密度で培養した。接着したhDFは以下の4条件(1群につきN=6)でインキュベーションした:1)PBS中0.1%BSAを含有するブランク液(図9A)、2)PBS中0.1%BSAを負荷したブランクPEGヒドロゲル(図9A)、3)PEGヒドロゲルを含まずに6.25ng/mLbFGFを含有するbFGF溶液(図9B)、及び4)0.1μgのbFGFを含有するbFGF‐負荷PEGヒドロゲル(図9B)。グループ4の場合、hDFは、37℃、5%CO2で1週間、それぞれの細胞培養ウェル(0.4μmポアサイズ)に配置されたトランスウェル挿入物(Becton Dickinson Labware, Franklin Lakes, NJ)と一緒にDMEM中でインキュベーションした。トランスウェル挿入物はDMEM培地中、hDFの単層培養物0.9mm上に配置し、それゆえbFGF−負荷PEGシリンダーと直接接触せずに、細胞は放出されたbFGFに曝露された(図9C)。それぞれ上記4条件下で1週間インキュベーション後、hDFは500μLの0.1%TritonX溶液(Sigma, St. Louis, MI, USA)処理により採取し、滅菌した使い捨ての細胞リフター(Fisherband, Pittsburge, PA)を使用してこすり取り、組織培養試験管に集め、溶解させ、超音波処理(Sonica Dismembrator Mode 100, Fisher, Pittsburgh, PA, USA)を使用して、氷上でホモジナイズした。次にhDF溶解産物を遠心管に集め、−80℃で保存した。DNA量は本発明者らの先の方法(Fluorescent DNA Quantitation kit, Bio-Rad, Hercules, CA)に従って、二本鎖DNAに結合したHoechst 33258の蛍光定量を使用して測定した(Alhadlaq et al., 2004; Moioli et al., 2005)。
【0059】
D.bFGF‐負荷PEGヒドロゲルのインビボ移植
全部で100μLの1μg/μL bFGF溶液は、200μLのPEG溶液に添加し、その後穏やかに混合し、エッペンドルフキャップのシリンダー状鋳型に75μLアリコートをピペットで分注した。得られたPEGシリンダーは365nmのUV光で5分間光重合させた(Glo-Mark, Upper Saddle River, NJ, USA)。全部で3つのマクロチャンネルは、それぞれのPEGヒドロゲルシリンダー中に滅菌キャピラリー管で3個の穿孔を導入することにより作製した(図10B及びD)。以下のPEGヒドロゲルシリンダーをin vivo移植のために作製した(1群につきN=4)):1)ブランク(bFGFを含まず、マクロチャンネルを持たない)(図10A)、2)bFGFを負荷するが、マクロチャンネルを持たない(図10B)、3)マクロチャンネルを持つがbFGFを含まない(図10C)、及び4)bFGFを負荷し、マクロチャンネルを持つ(図10D).
雄重症複合免疫不全症(SCID)マウス(系統C.B17;4〜5週齢)はケタミン(100mg/kg体重)及びキシラン(4mg/体重)の腹腔内注射により麻酔した(Alhadlaq et al., 2004)。マウス背側の毛を切り、うつぶせにし、続いて10%ポピドンヨード及び70%アルコールで消毒した。背側の上部正中矢状線に沿って1cmの長さの線状切開を行い、その後鈍的切開をして皮下ポーチを作製した。それぞれのSCIDマウスは4種のPEGヒドロゲル移植片を移植された:ブランクヒドロゲル、マクロチャンネルを持たないbFGF‐負荷PEG、bFGFを持たずマクロチャンネルを持つPEG、及びbFGFとマクロチャンネルを両方持つPEG。切開は、吸収性プレーンガット4−0縫合糸で閉じた。すべてのPEGヒドロゲルシリンダーは4週間インビボに移植された。本発明の動物プロトコールは施設内動物保護委員会によって認可された。
【0060】
E.インビボPEGヒドロゲル試料の採取、微細構造、免疫染色及びデータ解析
SCIDマウス背側の皮下に移植後4週間目にPEGヒドロゲルシリンダーを採取した。CO2で窒息死させた後、SCIDマウス背側を無菌的に切開した。周辺の線維性被膜を注意深く除去した後、PEGヒドロゲルシリンダーを宿主から分離し、PBSで洗浄し、最低限24時間、10%ホルマリンで固定した。次にPEG試料をパラフィンに包埋し、5μmの厚さで横断面(マクロチャンネルを横切る;図10B及び10Dを参照されたい)を切断した。パラフィン片はヘマトキシリン及びエオジンで染色した。
【0061】
H&E染色した切片に隣接した連続切片は脱パラフィンし、PBSで洗浄し、150mM塩化ナトリウムを含む酢酸ナトリウムバッファーpH5.5中のウシ精巣ヒアルロニダーゼ(1600U/ml)により室温で30分間消化した(Mao et al., 1998; Alhadlaq and Mao, 2005)。手短に説明すると、切片は室温で20分間、5%ウシ血清アルブミン(BSA)で処理し、非特異的反応を妨害した。以下の抗体を使用した:抗−血管内皮成長因子(抗−VEGF)(ABcam, Cambridge, MA, USA)、及び阻害剤アセチルノイラミン酸(Sigma, St. Louis, MI, USA)を含む、又は含まないビオチン−標識したコムギ(Triticum vulgaris)由来のレクチン(コムギ胚芽凝集素)(WGA)。WGAはα−D−GlcNAc及びNeuAcに富む血管内皮細胞の炭水化物基に結合する(Jinga et al., 2000; Izumi et al., 2003)。湿式チャンバー中で一次抗体と共に一晩インキュベーション後、切片をPBSで洗浄し、IgG抗−マウス二次抗体(1:500;Antibodies, Davis, CA)と30分間インキュベーションした。その後切片は湿式チャンバー中で30分間ストレプトアビジン‐HRP複合体とインキュベーションした。PBSで洗浄後、二次抗体との二重結合手順を反復した。スライドはジアミノベンザジン(DAB)溶液で染色し、Mayerヘマトキシリンで3〜5分間対比染色した。対比染色したスライドはエタノールのグラジエントで脱水し、キシレンで処理した。一次抗体が無いこと以外は同じ手順を陰性対照に対して行った。
【0062】
工学的に作製されたマクロチャンネルにおける組織内部成長の量は、4倍の倍率下、H&E染色切片上で、負荷したbFGFを持つか、又はbFGFを持たずにマクロチャンネルを持つPEGヒドロゲル中に浸潤した宿主組織の量を手動で測定することにより定量した。コンピュータによる画像解析によって作製した自動化面積値は、Student t検定及びANOVAを使用して比較し、負荷したbFGFを持ち、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルと負荷したbFGFを持たないものとの間で、組織内部成長の量が著しく異なるかどうかを判定した。
【0063】
F.インビトロでのbFGF放出特性
PEGヒドロゲル中に被包されたbFGFの放出特性は図11Aに明示した。本発明のPEGに被包されたbFGFの放出速度は初めの24時間以内の急激な放出(約5.8%)、続いて試験した28日間に及ぶ持続的な放出を示した(図11A)。28日目までに、全部で15.3%の被包されたbFGFがPEGヒドロゲルから放出された(図11A)。
【0064】
G.PEGから放出されたbFGFの生物活性
被包されたbFGFのPEGからの放出は単層培養中のヒト皮膚線維芽細胞に異なる効果を示した。bFGF溶液で処理したhDFのDNA含量69.8±5.6ng(平均値±S.E.;N=6;図11B左側の色の濃いヒストグラム)は、bFGF処理しないhDFのDNA含量34.5±2.7ng(N=6;図11B左側の‘ブランク’又は無色のヒストグラム)より著しく多かった。同様に、PEGヒドロゲルから放出された、bFGFで処理したhDFのDNA含量52.6±3.7(N=6;図11B右側の色の濃いヒストグラム)はbFGF処理しないPEGヒドロゲルに曝露されたhDFのDNA含量27.5±1.7(N=6;図11B右側の‘ブランク’又は無色のヒストグラム)より著しく多かった。興味深いことに、bFGF溶液を補足したDMEM中で培養したhDFのDNA含量は、PEGヒドロゲルから放出されたbFGFを補足したDMEM中で培養したhDFのDNA含量より著しく多かった(図11Bの2つの色の濃いヒストグラム)。bFGF溶液とPEGヒドロゲルから放出されたbFGFにより誘導されたhDFのDNA含量の差は、本明細書で検討することになる。
【0065】
H.インビボで採取されたマクロチャンネル及び/又はbFGFを持つ、PEGヒドロゲル
SCIDマウス背側に4週間インビボで移植した後の、マクロチャンネル又はbFGFのいずれも持たない、採取されたPEGヒドロゲルシリンダーの典型的なH&E染色切片は、宿主組織内部成長を全く示さなかった(図12A)。しかし、bFGF負荷のない、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルは、マクロチャンネルの内腔だけに宿主組織内部成長を明示したが、PEGの残余部分には内部成長が見られなかった(図12B)。対照的に、マクロチャンネルを持たないbFGF−負荷PEGヒドロゲルは、PEGヒドロゲルの孤立した領域に、明らかに任意の大きさの宿主組織内部成長を明示した(図12C)。最も興味深いことには、bFGFを負荷し、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルは、マクロチャンネル内腔への宿主組織内部成長を明示したが、PEGの残余部分にはそれが見られなかった(図12D)。マクロチャンネルとbFGFの両方を持つPEGヒドロゲルシリンダー(0.47±0.18mm2)(平均値±S.D.;P<0.01;1群につきN=4)は、マクロチャンネルを持ち、bFGFの負荷がないPEGヒドロゲルシリンダー(0.13±0.05mm2)より著しく多く内部成長する宿主組織を示し、bFGFを持ち、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルはbFGFがないものより多い宿主組織内部成長を示唆した。
【0066】
異なる物理的及び化学的条件、すなわち、マクロチャンネルを持つbFGF又はそれを持たないbFGFで処理した、インビボで採取したPEGヒドロゲルは、高倍率で血管様構造の形成を明示した(図13)。マクロチャンネルを持つがbFGFを持たない、インビボで採取したPEGヒドロゲルは、20倍の倍率で、広範に分布した血管様構造を示した(図13A)。60倍の倍率では、小血管様構造は明らかに内皮細胞様細胞によって内張りされ、赤血球に非常に類似したエオジン−陽性細胞を含有した(図13B)。対照的に、マクロチャンネルを持たず、bFGFを負荷したPEGヒドロゲルは、依然として存在するPEGヒドロゲルの領域を持ちながら、明らかに任意の様式で広範な細胞浸潤を示した(図13BCのH)。図13Cの多数の泡様構造は、おそらく浸潤された宿主細胞及び組織中で分解を受けているPEGヒドロゲルを表している(図13CのHで標識された、大きなPEGヒドロゲルの断片を参照されたい)。60倍の倍率下で、高度な細胞充実性を有する厚い膜様構造帯は、浸潤された宿主組織とPEGヒドロゲルを分離した(図13D)。特徴的には、マクロチャンネルを持ち、bFGFを負荷されたPEGヒドロゲルは、明白な血管様構造の間に、集中的な宿主細胞浸潤を明示し、例を図13Eの矢印で標識した。60倍の倍率では、矢印で標識した血管様構造は、内皮様細胞による細胞境界の明瞭な内張りを示し、ドーナツ型で、赤血球に非常に類似した、核の無い細胞を含有した(図13F)。
【0067】
抗−VEGF抗体は、bFGF又はマクロチャンネルのいずれかを持たない、採取されたPEGヒドロゲルシリンダーの典型的な切片上の陰性イムノブロッティングを示した(図14A)。しかし、マクロチャンネルを持つがbFGFを持たないPEGヒドロゲルはマクロチャンネルにおいてだけ、少々の弱い反応を明示したが、PEGの残余部分では反応は見られなかった(図14B)。対照的に、bFGF負荷があるが、マクロチャンネルを持たないPEGヒドロゲルは、広範な抗−VEGFイムノブロッティングを明示したが、依然として組織内部成長の無い、明白なヒドロゲル足場の領域が存在した(図14C)。マクロチャンネルと負荷されたbFGFの両方を持つPEGヒドロゲルは、マクロチャンネルに陽性の抗VEGF染色を示したが、PEGの残余部分はそれを示さなかった。
【0068】
浸潤する宿主組織の塊は、血管内皮細胞を染色する抗体、Triticum vulgaris(コムギ胚芽凝集素)(WGA)由来のレクチンで陽性に染色された(図15)(Jinga et al., 2000; Izumi et al., 2003)。WGA阻害剤、アセチルノイラミン酸による染色は、WGAによるこの陽性染色を裏付けた。図15AのWGAによる陽性染色帯は、移植されたマクロチャンネルが無く、bFGF負荷のないPEGヒドロゲルシリンダーの、宿主組織により形成された膜周辺環境を表した。集中的なWGA染色は、bFGFを持たないがマクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルシリンダー(図15B)だけでなく、bFGF及びマクロチャンネルの両方を持つPEGヒドロゲルシリンダーにも存在し(図15D)、浸潤した宿主血管及び顆粒組織における内皮細胞の存在を暗示した。対照的に、bFGFで負荷されるが、マクロチャンネルを持たない典型的なPEGヒドロゲルシリンダーの染色は幾分弱かった(図15C)。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は一連の4枚の写真(A〜D)であって、それらは免疫不全マウスの背側における、組織工学的に作製された脂肪組織構築物と対照構築物の皮下移植後4週間目の全体的な外観を説明する:(A)構築物作製中にポリマー/細胞懸濁液を負荷するために使用されるプラスチック鋳型;(B)元の鋳型の形態と大きさを保持した脂肪生成処理hMSCを被包する組織工学的に作製された脂肪組織構築物;(C)非処理hMSCを被包する、採取された対照構築物;(D)被包された細胞を持たない、採取された対照構築物。すべての構築物と元の鋳型間の大きさの類似、及び組織工学的に作製された構築物(B)と対照構築物(C及びD)間の差異に注意されたい。
【図2】図2は一連の4枚の顕微鏡写真(A〜D)であって、単層培養中、半ビボで維持されたヒト間充織幹細胞(hMSC)及びヒドロゲル構築物による脂肪生成を説明する;(A)脂肪生成培地で4週間維持されたhMSC単層培養のOil Red-Oによる陽性染色;(B)(A)に適合する対照単層培養で、hMSCが基礎培地に4週間維持された場合のOil Red−O染色に対する陰性反応を明示する;(C)ヒドロゲル構築物のこの典型的な顕微鏡写真において、Oil Red-Oによる陽性染色によって明示される脂肪沈着物を示し、ヒドロゲル構築物は脂肪生成処理hMSCを被包し、半ビボで脂肪生成培地に4週間維持された;(D)Oil Red-Oに対して反応を示さない、(C)に適合する対照の代表的な顕微鏡写真。
【図3】図3は、一連の4枚の顕微鏡写真写真(A〜D)であって、インビボで組織工学的に作製された構築物中に維持されたhMSCによる脂肪生成を、組織化学的染色及びRT−PCRによって示す;(A)脂肪生成処理hMSCを被包し、免疫不全マウスの背側に4週間移植された、組織工学的に作製されたヒドロゲル構築物のOil Red-Oによる陽性染色;(B)未処理hMSCを被包し、免疫不全マウスの背側に4週間移植された、対照ヒドロゲル構築物の代表的な顕微鏡写真で、Oil Red-O染色に対する陰性反応によって明らかなように、脂肪沈着物を示さない;(C)細胞を被包しない対照ヒドロゲル構築物の典型的な顕微鏡写真であり、Oil Red-O染色に対する陰性反応、及び構築物を囲む線維性被嚢を持つ無傷の境界、及び構築物への宿主細胞の浸潤の欠如を示す;(D)ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に関するRT−PCR解析であって、免疫不全マウスの皮下に移植後4週間目に採取し、脂肪生成処理hMSC(+Adipo)又は非処理hMSC(−Adipo)を被包する構築物中の脂肪細胞‐特異的遺伝子(PPAR‐γ2)の発現を示す。
【図4】インビボに移植後のPEGヒドロゲル及び対照群におけるhMSC由来脂肪組織の採取物。A:無細胞PEGヒドロゲル(矢印の間)。B:hMSCを被包するPEGヒドロゲル(脂肪細胞への分化はない)(矢印の間)。C:hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲル中の工学的に作製された脂肪組織(矢印の間)で、周囲の宿主組織への接着と元の直径9mmの保持を示す(A及びBよりも倍率が高い)。
【図5】工学的に作製された脂肪組織及び対照の形態、大きさ及び不透明性:(A)形態と大きさの一般的な鋳型として使用されたエッペンドルフチューブのプラスチックキャップ(直径9mm);(B)採取された無細胞PEGヒドロゲルは大部分透明である;(C)幾分光不透明性を示す、hMSC(脂肪細胞への分化はない)を被包するPEGヒドロゲル;(D)実質的な光不透明性を示し、前もって定義された形態と大きさを維持する、hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲル。
【図6】インビボで採取されたhMSCを播種したコラーゲンスポンジ及び対照群の形態と大きさを表し、元の形態と大きさの損失を示す。(A)約4×4×4mmの立方体に切り取られた、滅菌コラーゲンスポンジ;(B)実質的なサイズ減少及び実質的な形態変化を示す、インビボに移植後4週間目に採取された無細胞コラーゲンスポンジ、hMSCを播種したもの、及びhMSC由来脂肪細胞(左から順に)。
【図7】インビボで移植後4週間目の、採取されたPEG及びコラーゲン移植片の足場直径の定量的変化(x100%±S.D.)hMSC:ヒト間充織幹細胞。灰色のヒストグラムはPEG移植片を表し、空白のヒストグラムはコラーゲン移植片を表す。足場の元の直径をほぼ100%維持した、無細胞PEG構築物(N=6)、hMSC又は被包hMSCに由来する脂肪細胞(N=6)を被包するPEGヒドロゲル構築物(N=6)。対照的に、播種された細胞を持たないコラーゲンスポンジは元の直径を65.0%±5.0失い、hMSCを播種したコラーゲンスポンジ(N=4)及びhMSC由来脂肪細胞を持つコラーゲンスポンジ(N=6)は元の直径をそれぞれ31.7%±5.8及び31.7%±5.4失った。**:P<0.01。
【図8】インビボに移植後4週間目の工学的に作製された脂肪組織及び対照のH&E及びOil Red-O染色(A);hMSC:ヒト間充織幹細胞;(B)レジデント細胞及び脂質小腔のいずれも示さない、無細胞PEGヒドロゲル;(C)豊富な細胞を示し、脂肪生成細胞に分化しないhMSCを被包する無細胞PEGヒドロゲル;(D)脂質小腔を示さないhMSC−PEGヒドロゲルのOil Red-O染色;(E)空間の島の間に豊富なレジデント細胞を示す、hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲル;(F)脂肪細胞に類似する扁平細胞の間に豊富な脂質小腔を示す、hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲルのOil Red-O染色。倍率10倍。
【図9】図9は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)負荷PEGヒドロゲルシリンダー及びヒト皮膚線維芽細胞(hDF)コーティングの概念図を示す。
【図10】図10は、bFGFを負荷したPEGヒドロゲルのインビボ移植及びマクロチャンネル作製の概念図を示す。
【図11】図11はPEGヒドロゲルに被包されたbFGFのインビボ放出特性を示す。
【図12】インビボで移植された試料の採取物を示す:(A)細胞、bFGF、又はチャンネルを持たず、肉眼で見える宿主組織浸潤がないことを示すPEGヒドロゲル;(B)3つのマクロチャンネル(それぞれ直径1mm)を持ち、作製されたマクロチャンネルの3つの内腔における宿主組織内部成長を示すPEGヒドロゲル;(C)bFGF負荷されるが、マクロチャンネルを持たないPEGヒドロゲル;(D)bFGF及びマクロチャンネルの両方を持ち、全体の赤色及び作製されたマクロチャンネルの3つの内腔における3つの宿主組織内部成長を示すPEGヒドロゲル。
【図13】図13は異なる物理的及び化学的状態:すなわちマクロチャンネルを持つ、又は持たないbFGFにより処理され、血管様構造の形成を明示する、インビボで採取された、高倍率のPEGヒドロゲルを示す。
【図14】図14はbFGF又はマクロチャンネルのいずれかを持たない、採取されたPEGヒドロゲルシリンダーの典型的な切片上の抗−VEGF抗体に基づいた陰性のイムノブロッティングを示す。
【図15】図15はコムギ(Triticum vulgaris)由来のレクチン(コムギ胚芽凝集素)(WGA)による、浸潤宿主組織塊の陽性染色を示す。
【発明の開示】
【0001】
生体適合性ヒドロゲルマトリックス内に埋め込まれた成体間充織幹細胞を用いて、脂肪組織及び線維芽細胞を含む柔組織を、予め定義された形態及び大きさに生物学的に作製する。
【0002】
背景
柔組織欠損の修復は、現代の医学的業務にとって実質的な課題である。乳癌及び顔面癌のうち多くのタイプは命にかかわり、一旦取り除かれると、患者は柔組織が失われ、外観が損なわれる。乳房切除及び腫瘍切除手術は、失った柔組織を補充し、身体の形状及び/又は生理的機能を修復する非選択的手術の例である。顔面復元手術は、基底細胞癌、扁平上皮癌、メラノーマならびにその他の頭部及び頸部癌のような癌切除後に欠くことができない。癌の医学的処置の進歩により生存率が向上し、その結果、癌の生存者は彼らの柔組織の形態及び機能欠陥が修復されることを希望する。傷害は戦争の間に発生し、骨格の傷害に加えて柔組織の外傷が引き起こされる。労働に関連した事故及び交通事故は柔組織欠損の付加的な原因である。柔組織は熱傷後に失われ、皮膚だけでなく、皮下の柔組織の復元も必然的に伴う。片側顔面小発育症(顔面の片側が他の半分に比較して発育不良である)のような先天的異常の場合、かなりの量の柔組織が欠損していて、復元されることを必要とする。2003年に、米国では合計で約600万人が形成外科医によって行われる復元外科手術を受けた(American Society of Plastic Surgeons http://www.plasticsurgery.org/public_education/2004Statistics.cfm)。
【0003】
米国では、2002年に約50億ドルが美容外科手術に、そして約20億ドルが非外科的美容手術(たとえばコラーゲン注入)に費やされた。これはその年だけで行われた約700万件の美容外科及び非外科的手術に相当する。
【0004】
数十年の間、外科医は彼らの創造的知識を使用して柔組織復元手術を改良してきた。自家柔組織移植片や合成材料は、柔組織復元手術における主要な手段である。それぞれの方法には賛否両論があり、臨床的判断に基づいて具体的な患者のタイプや柔組織欠損に適合させることができる。残念ながら、現在の柔組織復元及び増大の手段は、ドナー側の病的状態、漏出、追い出し、不自然な触感、再吸収、及び免疫拒絶反応のような有害な副作用を伴い、理想に到達していない。自家成熟脂肪組織は柔組織欠損の充填物として使用されてきたが、結果は予測不可能である。容積の減少は主要な関心事であり、自家移植片吸収は70%に及ぶ。自家柔組織移植片の容積減少は、それらの虚血に対する低い耐性及び遅い血管再生速度の結果、移植された成熟脂肪細胞がアポトーシスするためである。脂肪組織切除又は脂肪吸引法は、脂肪組織移植の別の方法を提供する。脂肪吸引による吸引物から分離された成熟脂肪細胞をばらばらにした細胞懸濁液は、足場に取り込まれ、柔組織欠損を充填するために移植されてきた。しかし、おそらく成熟脂肪細胞の細胞質の85%が脂質であるために、容積の減少は依然として問題点であり、途方もなく大きい血管形成の必要性が生じる。大部分の重篤な症例では、脂肪吸引による吸引物に由来する脂肪移植片は、最適以下の血液供給及び移植片の壊死を伴う。脂肪吸引に起因する機械的ストレスは、移植時に90%に及ぶ脂肪細胞を損傷すると推定される。別の厄介な要因は、成熟脂肪細胞が十分に分化していて、増殖せず、脂肪組織移植片における脂肪生成細胞の欠乏を導くことである。
【0005】
切除又は脂肪吸引法により動物又はヒト脂肪組織から分離することができる前脂肪細胞は、前脂肪細胞が半ビボである程度まで増殖し、成熟脂肪細胞に比べ、酸素が欠乏した環境にかなりの程度まで耐えることができると考えられているため、成熟脂肪細胞より好ましい。しかし、切除及び/又は脂肪吸引法中に一部の前脂肪細胞は損傷される可能性がある。3T3−L1及び3T3−F442Aのようないくつかの前脂肪細胞系統は、PGAメッシュのようなバイオマテリアルの中で脂肪組織を作製するために使用されてきた。これらの脂肪細胞系統は、インビトロ研究にとって際だった価値があるにもかかわらず、不死化されているため、脂肪組織のインビボでの工学的作製のための初代前脂肪細胞ほど価値がない。たとえば、多孔性PLA足場に播種された前脂肪細胞はインビボで脂肪組織を生成する。ペプチド−結合アルギネート移植片は、播種されたヒツジ前脂肪細胞の接着及び増殖、ならびに脂肪組織形成を支持した。ヒト及びマウス前脂肪細胞に外部から送達されたbFGFは、コラーゲン又はマトリゲル足場中において、継続的な脂肪細胞への分化及び脂肪組織形成を促進すると報告された。
【0006】
間充織幹細胞は胚性幹細胞に由来し、脂肪組織、軟骨、骨、骨格筋及び間質性線維性組織のようなすべての結合組織を形成する細胞系譜に分化する。MSCは骨髄、脂肪組織、乳歯、及び骨格筋から分離することができる。それらの多能性に加え、MSCはそれらの未分化性を失わずに自己再生し、多くの継代を複製することができる。MSCは、細胞培養ペトリ皿に接着する線維芽細胞様細胞として初めて分離され、確認された。ヒトでは、MSCは一般に上腸骨稜の骨髄から吸引されるが、マウスMSCは通常、脛骨及び大腿骨の中央骨幹部から吸引される。脂肪生成、軟骨形成、骨形成、筋形成などのような種々の確立された誘導培地に曝されると、MSCは異なる経路に分化し、対応する細胞系譜に特徴的な遺伝子及び蛋白質マーカーを発現し始める。
【0007】
間充織幹細胞(MSC)は脂肪生成細胞及び脂肪細胞の祖先である。最終段階の脂肪細胞は複製もしないし、それ以上分化もしない。したがって、脂肪組織−形成細胞の不足は、とりわけ、現在の柔組織移植手術後の容積減少の一因となる。ヒト間充織幹細胞(hMSC)は、ペトリ皿の単層培養において脂肪生成細胞に分化することが報告されている。インビトロにおけるヒトMSCの脂肪生成中に発現される多数の遺伝子が詳細に説明されている。
【0008】
足場材料は通常、工学的に作製された移植片において初期の接着を提供し、そして組織形成細胞を支持するために必要とされる。具体的な組織工学適用のために適切な足場を選択することは、試みの成功にとって重要である。組織の成長は、構造的環境、細胞−バイオマテリアル相互作用、及び潜在的に足場に取り込まれた生物学的シグナルに依存する。
【0009】
細胞を基礎にした脂肪組織工学に関する以前の研究は、主に多孔性足場を利用していた。多孔性足場の利点は、血管内部成長を促進するそれらの潜在能力である。しかし、脂肪組織工学における多孔性足場の共通する欠点は、侵入する宿主細胞によって産生される酵素に潜在的に関連する、多孔性足場の早期再吸収及び/又は分解である。ヒドロゲルは、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸、アガロース、アルギネート、キトサン、及びポリエチレングリコールヒドロゲルを含む広範な足場の領域を包含する。PEGヒドロゲルは軟骨細胞及び骨芽細胞を含む、種々の細胞タイプを被包するために使用されてきた。PEGDAヒドロゲルのレオロジー的及び回復特性は、ヒト腹腔脂肪組織に匹敵するいくつかのパラメータを共有することが報告されている。
【0010】
復元及び形成手術は、具体的な形態と大きさに焦点を合わせる。仮説上、首尾よく幹細胞から組織工学的に作製された腎臓は、実現した場合、工学的に作製された腎臓がインビボで十分に機能する限り、患者の正常な腎臓の正確な形態を有する必要はない。対照的に、図1A及びBに示すような柔組織欠損は、生理機能を有することに加えて、元の形態と大きさを有するように修復されなければならない。容積の減少は時間の経過と共に60%に及ぶほど厳しいこともありうる。実際、柔組織移植片の“術後容積減少”は、手術に関する文献における柔組織復元法の中の厄介な問題の中でもとりわけ重要な論点である。
【0011】
容積減少は瘢痕又は最適以下の組織統合のような多数の因子によって引き起こされる可能性があるが、重要な論点は、1)容積を維持するための脂肪及び線維性基質の持続的合成、及び2)脂肪及び線維性基質形成細胞の供給を補充するための自己複製可能な、組み込まれた細胞の不足であるとの仮説がたてられている。脂肪細胞のような最終段階の細胞はこれらの必要性を満たすことができない。
【0012】
組織工学でのバイオマテリアルの適用における主要な障害は、最適に至らない内部組織成長及び十分でない血管新生である。インビボで使用されてきたバイオマテリアルは、その成功を、置換する軟骨及び皮膚のような宿主組織が血管を欠くという性質に負っている。生来の軟骨及び皮膚は大部分血管を欠き、十分に薄いため、血管が新生されなくても栄養物が拡散する。しかし、数ミリメートル以上の大きさの工学的に作製された組織又は器官の場合には、インビボでの組織形成細胞の生存度は一般に低く、それにもかかわらず、大部分の組織及び器官を工学的に作製するために、組織形成細胞の大きな塊が必要とされる。したがって、組織形成細胞によって工学的に作製された組織及び器官の生存を促進するために、新血管新生は欠くことができない。
【0013】
血管は本来、脈管形成及び血管形成という2種の異なる生物学的過程によって形成されると提案されている。脈管形成は、内皮前駆細胞からの毛細血管形成の過程である。予め存在する血管から新規な血管を形成する血管形成は、組織成長及び創傷治癒の両方において極めて重要で、欠くことのできない過程である。血管形成は、潜在的に2種の機序:陥入及び新芽形成によって行われる。陥入血管形成は、間質細胞柱が予め存在する血管に移動する場合に起こる。このタイプの血管形成は局所血管ネットワークのリモデリングを引き起こす。一方、新芽形成血管形成は、既存の血管構造から新規血管が形成されることを表す。脈管形成は最近、出生後に認められているが、血管形成は成体に新規血管の形成を導く一般的な過程である。血管形成と脈管形成は共に非常にたくさんのシグナリング過程を必要とする複雑な段階的な事象を包含し、そして多様な細胞系譜を包含する。天然の組織の血管新生の過程は次第に明らかにされつつあるが、工学的に作製された組織の新血管新生についての理解は依然として初期の段階にある。
【0014】
組織工学は血管新生を誘導するために、主に以下の2種の方法:内在の血管形成反応を刺激すること、及び天然の血管ネットワークを模倣するバイオマテリアル中に物理的構造を作製すること、を使用してきた。静止中の内皮細胞は、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、及び線維芽細胞成長因子(FGF)のような多数の血管形成分子によって刺激されて、血管形成内皮細胞に変わることができる。bFGFは血管形成作用に加え、骨芽細胞の増殖を刺激することが示され、骨組織工学にとってbFGFをかけがえのないものとしている。
【0015】
マイクロチャンネルは、組織工学材料中にフォトリソグラフィによってパターン化され、毛細血管をシミュレーションする。多数の生体適合性ポリマー材料中に血管形成を促進するための以前の懸命な努力にもかかわらず、非多孔性ヒドロゲル足場中のインビボでの新血管新生は組織工学適用にとっての課題であり続けている。
【0016】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)は組織工学において使用されてきた多数のヒドロゲルポリマーの1種である。PEGは非毒性で水溶性のポリマーであり、免疫系によって認識されない。PEGはすでにFederal Drug Administration(FDA)によって、ヒトにおける生物医学的適用に対して認可されている。PEGの利点は、工学的に作製される組織及び器官に欠くことのできない、一定の形態と大きさへの成形性である。PEGヒドロゲルは光開始剤を使用することによる作製が可能であり、線状PEGによって繋がれたオリゴアクリレートのこぶ(node)が架橋される。しかし、PEGは濃密なヒドロゲルであり、遅い分解速度を有し、そのことは利点及び欠点として見なすことができ、具体的な組織工学への適用に関しては未決定のままである。薬物送達の場合、PEGの遅い分解速度はカプセル化されたサイトカインを徐放させることに役立っている。サイトカイン拡散速度は、PEGヒドロゲルの分子量及び濃度を変化させることにより改変することができる。組織工学の足場として、PEG分解速度はその架橋形成、濃度、及び共重合に関して修正することができる。たとえば、PEGの分解速度はポリ−d−1−乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)と共重合することにより変化する。しかし、インビボにおける組織工学適用に対しての広範なPEGの使用についての懸案となっている論点は、PEGヒドロゲル中の宿主組織内部成長及び血管形成が遅く、量がわずかであることである。
【0017】
要旨
生体適合性足場内の成体幹細胞に由来する生物学的に作製された柔組織は、予め決定された3次元構造;すなわち形態とサイズ又は大きさを有する。生物学的に作製された柔組織構築物は、成体間充織幹細胞から任意の形態又はサイズで調製され、インビトロ、半ビボ、及びインビボで容易に作製される。これらの移植片は、審美学、疾患、先天異常、又は外傷のために美容外科手術を必要とする患者に有用である。
【0018】
種々の添加物を含むヒドロゲル中の間充織幹細胞は、容積損失が少なく、細胞分解速度が低く、そして予め決定された形態及び大きさへの成形性を有する移植片を提供する。
成体間充織幹細胞によってインビボ又は半ビボで生物学的に作製された、予め定義(又は決定)された形態及び大きさを有する生体適合性足場内に柔組織を調製するための方法及び組成を提供する。この方法にしたがえば、間充織幹細胞(MSC)は予め決定された3次元構造の生体適合性足場中に分散されて提供される。これらの細胞は、MSCと脂肪生成誘導添加物及び/又は線維芽細胞成長因子を接触させることにより誘導され、脂肪及び線維芽細胞組織−形成細胞に分化する。その接触は、少なくとも一部の成体間充織幹細胞が、必要とされる復元又は修復の特性によって決定される、予め決定された3次元構造を有する柔組織に分化するために十分な期間維持される。構築物は、柔組織移植の必要がある受容者に、標準手術によって移植される柔組織である。脂肪細胞及び線維芽細胞は形成される柔組織に存在し、幹細胞は少量ないし検出不能な量で存在する。
【0019】
生体適合性足場は、重合したポリエチレングリコールジアクリレートのようなヒドロゲルポリマーから構築される。生体適合性足場、そしてその足場を使用して工学的に作製された柔組織は予め決定された3次元構造を有する。ヒドロゲルポリマーは、生体適合性足場前駆物質内にMSCを分散する前か、又は後に形成されてよく、それによってポリマーはMSCを閉じこめる。ヒドロゲルポリマーは、たとえば生体適合性足場前駆物質の光重合によって形成される。
【0020】
PEGヒドロゲルは、脂肪組織工学適用のための足場として好都合である。PEGは親水性、生体適合性で、ゆっくり分解され、工学的に作製された脂肪組織の容積保持に有用である。
【0021】
組織形成細胞が患者自身の骨髄又は匹敵する別の供与源に由来するため、構築物の免疫拒絶反応は妨げられる。柔組織は、生物学的に治癒過程が進行する患者自身の組織と融合する。現在の整形外科的方法が、別々の制度上の認可の必要性を軽減するために利用されてもよい。その上、(胚性幹細胞のかわりに)成体幹細胞が使用され、その結果道徳的な問題点が最小化される。
【0022】
標準細胞培養法は修正され、その結果、多数の組織工学研究所が生物学的に作製された柔組織の作製が可能になる。
本明細書に記載された材料と方法は、非多孔性生体適合性ヒドロゲルにインビボで血管組織を内部成長させるための、物理的及び化学的方法の非常に優れた組み合わせを提示する。PEGヒドロゲル中の内皮様細胞に内張りされた血管様構造は赤血球を含有し、抗−VEGF及びWGA抗体の両方に陽性染色され、浸潤した宿主組織中における内皮細胞の存在を示唆する。工学的に作製されたマクロチャンネル内の内皮様細胞によって内張りされた内腔に含有される赤血球の形態と組み合わせると、本研究における組織内部成長は血管組織であると考えられる。以前に使用されたミクロチャンネルより大きい物理的マクロチャンネル、及び化学的刺激因子、塩基性線維芽細胞成長因子は、単独、又は組み合わせにおいて、インビボにおけるPEGヒドロゲル中の血管組織内部成長を促進することを暗示する。しかし、マクロチャンネルとbFGFの効果の間には重要な違いが存在する。bFGFを負荷し、マクロチャンネルを持たないPEGへの宿主血管組織の任意の浸潤に比較して、血管及び顆粒組織内部成長はbFGFを負荷したPEGのマクロチャンネルの内腔に指向し、残りのPEGへは浸潤しない。したがって、PEGヒドロゲル中のbFGFにより誘導される、明らかに任意の宿主組織浸潤の能力は、組織工学的適用にとって望ましくないといってよく、そのような能力は工学的に作製されたマクロチャンネルによって血管組織内部成長に誘導される。この指図された血管組織内部成長は、血管形成が必要な一般的な組織工学適用において重要である。bFGFを持たないマクロチャンネルPEGは、チャンネル内に血管組織内部成長を誘導するが、マクロチャンネルを持ち、bFGFを負荷したPEGに浸潤した血管組織容積は、bFGFを負荷せずにマクロチャンネルを持つPEGより著しく多い。
【0023】
開示の具体的な説明
柔組織は、復元及び増大手術における修復に不可欠な構造である。現在の柔組織復元及び増大のための材料は、最適以下の容積保持、ドナー側の病的状態、及び不十分な生体適合性を欠点として持つ。生物学的に生育可能な柔組織は、茶さじ一杯の患者の成体幹細胞を採取し、それらを増やし、それらを脂肪生成細胞に分化させ、そしてそれらを適切な生体適合性ポリマー材料で被包することにより工学的に作製することができる。最終的に、ドナー側の外傷は注射針サイズのようにわずかであり、患者自身の幹細胞が使用されるため免疫適合性であり、そして幹細胞が脂肪生成細胞を補充して、工学的に作製される柔組織の予め定義された形態及び大きさを保持することができるため、長期間容積が保持されるという結果になる。柔組織移植片に由来する幹細胞は、形成及び復元手術において現実のものとなりうる。
【0024】
予め決定された3次元構造の生体適合性足場内における、成体間充織幹細胞から調製した新規に合成された柔組織は、柔組織の修復、増大又は復元のための構築物を提供する。成体MSCは、軟骨、骨及び脂肪組織を含むすべての結合組織−形成細胞系譜に分化することができる。MSCは、体内の骨髄又はその他の結合組織供与源から非常にわずかな侵襲方法により得られ、培養中の増殖が活発であり、十分に確立された脂肪生成誘導添加物(Pittenger et al., Caplan, 2003)に曝した後、脂肪組織−形成細胞に分化するように容易に誘導することができる。さらに、成体MSCの使用は、手続き上及び倫理上の両方の理由から、胚性幹細胞又は分化した脂肪細胞の使用より好都合である。
【0025】
成体間充織幹細胞は骨髄細胞に由来する。少なくとも一部の成体間充織幹細胞は脂肪細胞に分化しているため、初めは両方の細胞タイプが存在し、それらはやがて実質的に脂肪細胞だけに変化し、幹細胞は非常に少量ないし検出不可能な量だけ存在する。脂肪組織はインビボで幹細胞から作製されるか、又は半ビボで幹細胞から用意される。
【0026】
MSCは脂肪組織工学に適した足場材料内に配置される。たとえば宿主体から、調製された足場に幹細胞が拡散する場合のように、足場が調製された後に足場内にMSCが配置されてもよい。MSCは足場の前駆物質と混ざり、その後MSCのまわりに足場が構築され、それによって足場ネットワーク内に少なくともそれらの細胞の一部を捕捉する。足場は生体適合性であり、組織形成を支持し、そして十分な安定性を呈して、新規に形成された組織と周囲の宿主組織の間を首尾よく統合する。
【0027】
宿主動物の例としては、ラット、マウス及びウサギのような実験室動物、イヌ又はネコのような愛玩動物、ウマ(ウマ科)、ウシ(ウシ科)、ヒツジ(ヒツジ科)、又はヤギ(ヤギ類)のような家畜、又はサル、類人猿(チンパンジー、オランウータン又はゴリラ)又はヒトのような霊長類が挙げられる。
【0028】
適切な生体適合性足場には、ヒドロゲルポリマー構築物もしくは重合した、照射により重合するモノマー、又は別の適切な構築物が挙げられる。ヒドロゲルポリマーは、体内の細胞外マトリックスを模倣した環境を持つ組織−形成細胞を提供する。ヒドロゲルポリマーは、それらの明確な3次元構造を維持しながら、大量の水又は体液を吸収又は吸着する親水性の3次元ネットワークである。ヒドロゲルポリマー、たとえばアルギネート、サンゴ、アガロース、フィブリン、コラーゲン、骨、軟骨、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)又はそれらの共重合体(PLGA)、キトサン、及びポリエチレングリコールを基礎にしたポリマー(pegを基礎にしたポリマー)、たとえばポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート及びその混合物が適切である。足場は、ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー[MW3400;Shearwater Polymers, Huntsville, AL]の重合によって形成される。ポリエチレングリコールジアクリレート又はジメタクリレートモノマーは約1000〜約100,000ダルトン及び約2000〜約5000ダルトンの分子量を有していてよい。足場は物理的形状、たとえば固体、液体、ゲル、粉末、スポンジ、又はペーストの状態にある。
【0029】
ポリエチレングリコールを基礎にしたヒドロゲルポリマーは、それらの証明された生体適合性及び、MSCの増殖及び骨のような複数の系譜への分化を支持する明示された能力のために、組織工学適用にとっての明白な利点を有する。その上、非常に侵襲の少ない方法(注入)で皮下に細胞−ポリマー系を投与する可能性、及びこれらのヒドロゲルが、光重合のような経皮照射−誘導重合を受ける能力。また、宿主動物に有害でない量のX−又はガンマ−照射を使用して、宿主動物への移植後に重合を開始することができる。
【0030】
生体適合性足場内の成体間充織幹細胞に由来する生物学的に作製された脂肪組織は、前もって決定された3次元構造;すなわち形態及び大きさを有する。その構造は鋳型、又は半ビボ(宿主体の外部)にある別の形状中の生体適合性足場を重合する(形成する)ことにより得ることができる。生体適合性足場の3次元構造はまた、生体適合性足場が作製される宿主体内の半ビボ位置における形態及び大きさによって決定されてもよい。
【0031】
脂肪組織の元になる脂肪生成構築物は、生体適合性足場及び骨髄に由来する成体間充織幹細胞を包含する。この構築物は、足場内に分散した脂肪生成因子を包含する。脂肪生成因子は、プログリタゾン、βファミリーの成長因子、プロスタグランジン、シグリタゾン、デキサメタゾン又はその混合物であってよい。
【0032】
組成物は、重合したポリエチレングリコールジアクリレートのような水和した、ヒドロゲルポリマーからなる生体適合性足場、ヒト骨髄に由来する成体間充織幹細胞を包含し、さらに脂肪生成因子、栄養培地、場合により成長因子、及び少なくとも1種の抗生物質を包含する。例となる脂肪生成因子、栄養物及び抗生物質には、アンホテリシンB、シグリタゾン、ビオチン、デキサメタゾン、ゲンタマイシン、インスリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及びL−チロキシンが挙げられる。
【0033】
インビボで生物学的に作製される柔組織を産生する方法には、成体間充織幹細胞及び脂肪生成培地を含有する生体適合性足場を含む組成物を宿主動物に埋め込むことが挙げられる。細胞及びポリエチレングリコールジアクリレートのようなモノマー前駆物質を包含し、その上アンホテリシンB、シグリタゾン、ビオチン、デキサメタゾン、ゲンタマイシン、インスリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及びL−チロキシンを含有する混合物の重合後に、成体間充織幹細胞は捕捉されるように足場に接着する。重合により形成された生体適合性足場は、重合し、水和したヒドロゲルポリマーを包含する。
【0034】
付加的な工程としては、成体間充織幹細胞を採取すること、細胞と脂肪生成培地を接触させ、脂肪細胞への分化を誘導するために十分な期間、その接触を維持すること、生体適合性足場に脂肪細胞を負荷すること、そして脂肪細胞を負荷した足場を宿主動物に移植することが挙げられる。
【0035】
半ビボで生物学的に作製される柔組織を産生する方法は、生体適合性足場に成体間充織幹細胞を接着させることを包含し、そのような足場は、さらに脂肪生成因子、栄養培地、及び少なくとも1種の抗生物質を含有するヒドロゲルマトリックス内に細胞を捕捉することにより有効になる。足場は重合し、脂肪生成因子、栄養培地、及び少なくとも1種の抗生物質を含有する、水和したポリエチレングリコールジアクリレートマトリックスを包含し、そしてそれはアンホテリシンB、シグリタゾン、ビオチン、デキサメタゾン、ゲンタマイシン、インスリン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及びL−チロキシンを含有する。
【0036】
匿名の成人ドナー由来の市販のヒト間充織幹細胞は、脂肪生成細胞に分化し、hMSC由来脂肪細胞はPEGヒドロゲルに被包され、手術により作製された免疫不全マウス背側の皮下ポケットに移植された。インビボ移植後4週間目に、幹細胞由来脂肪組織移植片が採取された。図4はPEGヒドロゲル足場の回復過程を説明する。図1Dに示すような、hMSC−由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲルは色調が暗く、宿主皮下組織によく接着した(図5)。図6はインビボに移植後のPEG脂肪組織移植片の形態、大きさ、及び異なる光不透明性を説明する。hMSC由来脂肪生成細胞を被包する、PEGヒドロゲル構築物は、元の形態と大きさを維持するだけでなく、かなりの光不透明性を示し(図6D)、十分な量の生物学的構造がhMSC由来脂肪生成PEG構築物中に形成されたことを暗示した。PEGヒドロゲル構築物とは対照的に、同じインビボ移植後4週間目に採取されたコラーゲンスポンジは元の形態と大きさを失った。図7に見られるように、hMSC又はhMSC由来脂肪生成細胞を播種したすべてのコラーゲンスポンジは、無細胞であっても、元の形態と大きさを失い、実質的な量が減少した(図7C)。脂質蓄積の組織学的マーカーであるOil−Red−OによるhMSC−由来脂肪生成PEG及びコラーゲン構築物の染色は陽性染色を明示した。しかし、H&E染色は、PEG構築物への宿主細胞の浸潤を示さず、生成された脂肪組織はすべて移植されたヒトMSC−由来脂肪生成細胞であることを暗示した。比較すると、コラーゲンスポンジに浸潤する宿主マウス細胞が存在するらしく、コラーゲン構築物内での脂肪生成に宿主細胞が関与する可能性を残す(図8)。
【0037】
ヒト間充織幹細胞はペトリ皿の単層培養中だけでなく、3Dヒドロゲル及びインビボの動物モデルにおいても容易に柔組織の構成要素に分化する。ヒトMSCは、柔組織欠損が手術による修復を必要としている患者から容易に分離されるため、自家細胞治療を使用して免疫拒絶反応の問題を回避することができる。PEGヒドロ中のhMSC−由来柔組織移植片は、4週間の皮下移植後に、それらの予め定義された形態及び大きさを事実上100%維持することができる。
【0038】
血管形成は、工学的に作製された脂肪組織を含む、工学的に作製された組織にとって依然として課題である。分離された試みにもかかわらず、工学的に作製された柔組織移植片では制御された血管形成が誘導される必要がある。前脂肪細胞系統由来の脂肪パッドにおける血管形成は、前脂肪細胞のかわりに宿主に由来するものであり、宿主の血管形成を刺激する必要性を示唆する。脂肪組織は柔組織の主要成分であるが、柔組織は脂肪組織以外のものも含む。たとえば、工学的に作製された柔組織移植片では、宿主線維性組織が必要であってもよい。骨組織の工学的作製において血管形成を誘導するためのいくつかの方法が、工学的に作製された脂肪組織に血管形成を可能にするために有用である。
【0039】
スケールアップは、柔組織工学を含む一般的な組織工学の課題である。開示された、工学的に作製された柔組織移植片は直径9mmに及び、特定の顔面柔組織欠損及び別の小さい柔組織欠損にとって十分である。しかし、乳房切除及び大きな外傷後の柔組織欠損は、数倍のスケールアップを要求する。塊の輸送、栄養物の拡散、血管形成、及び神経分布のような問題点が、工学的に作製される柔組織のスケールアップに関して対処すべき課題としてますます増大している。
【0040】
実施例
実施例1:脂肪組織工学のための半ビボインキュベーション及びインビボ移植片
A.ヒトMSCの単離及び培養
ヒトMSC(hMSC)は、健康な22歳の男性ドナーの腸骨稜由来の全骨髄吸引物から単離した(AllCells, LLC., Berkely, CA)。手短に説明すると、全骨髄試料にRosetteSep間充織細胞濃縮カクテル(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)を添加することにより、細胞を濃縮した。次に、2パーセントウシ胎児血清(FBS)(Atlanta Biologicals, Inc., Norcross, GA)及び1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Sigma, St. Louis, MO)を含有する、2倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で細胞を希釈した。
【0041】
希釈した試料はFicoll-Paque(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)クッションの先端部に載せ、300xgで25分間遠心分離した。濃縮細胞はficoll-Paque血漿界面から除去し、2パーセントFBS及び1mM EDTAを含有するPBSで洗浄し、細胞は完全培地:hMSCのためのMesenCult基礎培地(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、10パーセントヒト間充織幹細胞刺激添加物(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、及び1パーセント抗生物質−抗真菌剤(Gibco, Carlsbad, CA)に再懸濁した。細胞を計数し、100mm培養皿中の10ml完全培地で培養し、95パーセント空気/5パーセントCO2中、37℃に維持した。24時間後、非接着細胞を捨て、接着細胞をPBSで2回洗浄し、3〜4日ごとに新鮮な培地に交換しながら、10〜14日間維持した。大きなコロニーが形成され(一般に10〜14日間)、コンフルエントになる前に、初代hMSCは0.25パーセントトリプシン及び1mM EDTAにより5分間、37℃でトリプシン処理し、計数し、100mm皿で再培養した。初代継代培養hMSCだけを使用した。
【0042】
B.脂肪生成添加物によるhMSCの処理
被包研究の場合、初代継代培養hMSCは、基礎又は脂肪生成培地で1週間、別々に培養した。基礎培地は、ヒト間充織幹細胞のためのMesenCult基礎培地(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、10パーセントヒト間充織幹細胞刺激添加物(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、及び1パーセント抗生物質‐抗真菌剤(Gibco, Carlsbad, CA)から構成された。脂肪生成培地は、ヒト間充織幹細胞のためのMesenCult基礎培地(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、10パーセントヒト脂肪生成刺激添加物(StemCell Technologies, Inc., Vancouver, Canada)、及び1パーセント抗生物質−抗真菌剤(Gibco, Carlsbad, CA)から構成された。培養物は、3〜4日ごとに新鮮な培地に交換しながら、95パーセント空気/5パーセントCO2中、37℃に維持した。
【0043】
単層培養中の脂肪生成過程を説明するために、初代継代培養hMSCは基礎又は脂肪生成培地で4週間、別々に培養し、Oil Red-O(Sigma, St. Louis, MO)で染色した。培養物は培養物中の脂肪沈着物を示唆する陽性のOil Red-O染色に比較した。
【0044】
C.ヒドロゲル/光開始剤溶液調製及び構築物作製
ヒドロゲル溶液を調製するために、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)(MW 3400;Sheawater Polymers, Huntsville, AL)は、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(Gibco, Carlsbad, CA)を補足した滅菌PBSで、10パーセントw/vの最終溶液になるまで溶解した。光開始剤、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン(Ciba, Tarrytown, NY)をPEGDA溶液に添加し、最終光開始剤濃度0.05%w/vを得た。
【0045】
基礎又は脂肪生成培地のいずれかで1週間維持後、初代継代培養hMSCは0.25パーセントトリプシン及び1mM EDTAにより5分間、73℃でトリプシン処理し、計数し、PEGDAポリマー/光開始剤溶液中に、5/106細胞/mlの密度で別々に再懸濁した。それぞれの構築物を用意するために、直径9mmのプラスチック挿入物(1.5mlの微小遠心分離管のキャップ)(Fisher Scientific, Hampton, NH)に細胞/ポリマー/光開始剤懸濁液の150μlアリコートを負荷した。負荷後、細胞/ポリマー/光開始剤懸濁液の入ったプラスチック挿入物を長波、365nmの紫外線ランプ(Glowmark, Upper Saddle River, NJ)に5分間、約4mW/cm2の強度で曝露した。その後光重合した構築物はプラスチック挿入物から除去し、滅菌PBSで2回洗浄し、対応する基礎又は脂肪生成培地を満たした6−ウェル培養皿(Fisher Scientific, Hampton, NH)に移した。
【0046】
D.構築物の半ビボインキュベーション及びインビボ移植
半ビボ研究の場合、hMSC由来脂肪生成細胞(N−12)を被包するヒドロゲル構築物は脂肪生成培地(本明細書に記載)で維持し、一方非処理hMSC(N=12)mを被包するヒドロゲル構築物は基礎培地(本明細書に記載)で維持した。すべての培養物は3〜4日ごとに新鮮な培地に交換しながら、95パーセント空気/5パーセントCO2中、37℃で4週間維持した。
【0047】
インビボ研究の場合、脂肪生成処理したhMSCを被包する重合したヒドロゲル構築物(N=8)、脂肪生成処理したhMSCを被包する構築物(N=4)、及び細胞を持たない対照構築物(N=4)は鋳型から取り外し、滅菌PBSで2回洗浄した。すべての構築物は、100mg/kgケタミン+5mg/kgキシラジンのIP注射による全身麻酔下で、鈍的解剖により調製した、重症複合免疫不全(SCID)マウス背側の皮下ポケットに移植した(4構築物/マウス)(Harlan, Indianapolis, IN)。
【0048】
E.細胞生存能力アッセイ
細胞生存能力は、取り扱い説明書に従って、生/死 生存能力/細胞毒性キット(Molecular Probes, L-3224, Eugene, OR)を使用して、4週間半ビボで維持された構築物において評価した。カルセイン(蛍光色素)は細胞膜を通って拡散し、細胞内エステラーゼと反応して緑色蛍光を生じるが、エチジウムホモダイマーは損傷された細胞膜を通ってだけ拡散し、核酸に結合して赤色蛍光を生じる。細胞標識後、試料はロングパス二重−発光蛍光フィルター(Chroma, Rockingham, VT)を備えた、倒立光学顕微鏡(Leica Microsystems, Wetzler, Germany)下で観察した。
【0049】
F.微細構造
構築物は半ビボでの4週間の維持及びSDIDマウスの背側におけるインビボでの培養後、最適切断温度(OCT)組織凍結混合物(IMEB, Chicago, IL)に包埋し、標準組織学技術を使用して10μmの切片に切断した。切片はOil Red-O(Sigma, St. Louis, MO)で染色し、グリセロールゼラチン(Sigma, St. Louis, MO)と一緒にスライドに載せ、光学顕微鏡(Leica Microsystems, Wetzler, Germany)下で観察した。
【0050】
G.RNA抽出及び逆転写‐ポリメラーゼ連鎖反応
全RNAはRNeasy Purification Reagent(Qiagen; Valencia, CA)を使用して、採取した半ビボ構築物から抽出した。構築物は、RNeasyキットのRLTバッファー200μを含有する1.5ml微小遠心管中でホモジナイズ(pelled pestle mixer, Kimble/Kontes, Vineland, NJ)した。その後、RLTバッファー400μlを添加し、続いてQUIshredder(Qiagen; Valencia, CA)カラムで付加的なホモジナイズを行った。逆転写(RT)は、superscript amplification system(Gibco, Carsbad, CA)を持つランダムヘキサマー(random hexamer)を使用して行った。得られたcDNAの1μlアリコートは、Ex Taq DNA Polymerase Premix(Takara Bio, Otsu, Shiga, Japan)を使用して、アニーリング温度58℃、30サイクルで、50μlに増幅した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、PPAR−γ2の特異的ヒトプライマー、センス:5’−GCTGTTATGGGT GAAACTCTG−3’(SEQ ID NO:1)、アンチセンス:5’−ATAAGGT−GGAGATGCAGGCTC−3’(SEQ ID NO.:2)、及びハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)、センス:5’−CCCATGTTCGTCA−TGGGTGT−3’(SEQ ID NO:3)、アンチセンス:5’−TGGTCATG−AGTCCTTCCACGATA−3’(SEQ ID NO.:4)を使用して行った。PCRは30〜35サイクル行い、それぞれのサイクルは、95℃で30秒の変性、55〜60℃で30秒のアニーリング、及び72℃で1分の伸長からなり、付加的に最後のサイクルの終了後、72℃で10分間維持した。ゲノムDNA混入の可能性を排除するために、PCRはさらにRTのない反応に適用した。増幅された相補的DNAは1パーセントアガロースゲルにより電気泳動し、染色し、紫外線ランプ下で撮影した。
【0051】
H.組織工学的に作製された脂肪組織構築物の肉眼的観察
(hMSC−由来脂肪生成細胞を被包する)構築物及び(非処理hMSCを被包するか、又は細胞を持たない)対照構築物は両方とも、4週間のインビボにおける移植及び半ビボでの維持後、元のプラスチック鋳型の形態及び大きさを維持した(図1A)。物理的操作によって、構築物は限定された程度に、堅いもの、弾性があるもの、柔軟性がないものになった。組織工学的に作製された脂肪生成構築物(図1B)は明るい黄色を呈し、不透明性であるのに対し、基礎培地(脂肪生成培地ではない)で処理したhMSCを含有するインビボ移植物から採取された構築物(図1C)、及び採取された、被包細胞を持たない対照構築物は透明であった(図1D)。
【0052】
I.半ビボで維持された単層培養物中のhMSCによる脂肪生成及びヒドロゲル構築物
脂肪生成培地で4週間維持したヒトMSC単層培養物は、Oil Red-O染色への陽性反応を明示して赤色を呈し、(図2A)、対照的に基礎培地の存在下(及び脂肪生成培地を含まずに)単層培養したhMSCはOil Red-Oに染色されなかった。Oil Red-Oは濃い赤色を持つリソクローム(lysochrome)(脂溶性色素)で、主に凍結切片中のトリグリセリドを明示するために使用される(Lillie, Conn's Biological Stains, 9版, Baltimore Williams&Wilkins co., 1977)。同様に、脂肪生成処理されたhMSCを被包するヒドロゲル構築物は、PEGを基礎にしたヒドロゲル構築物中で4週間、半ビボで維持後にOil Red-Oにより陽性染色を示したが、脂肪生成処理されないhMSCを被包する、PEGを基礎にしたヒドロゲルでは、Oil Red-Oに染色されなかった(図2C及びD)。
【0053】
J.インビボにおける組織工学的に作製された脂肪生成構築物
組織学的及びRT−PCR解析は、SCIDマウス背側におけるインビボでの培養4週間後に、脂肪生成処理hMSCを被包するヒドロゲル構築物中に新規な脂肪組織の形成を明示した(図3)。脂肪生成構築物(図3A)は、非処理hMSCを被包する対照構築物(図3B)又は細胞を被包しないもの(図3C)とは異なり、陽性のOil Red-O染色を示した。さらに、細胞を被包しない対照構築物は宿主細胞浸潤の徴候がなく、ヒドロゲル構築物の無傷の境界を示した(図3C)。脂肪細胞‐特異的PPAR−γ2遺伝子は脂肪生成−処理hMSCを被包する脂肪−組織構築物中に陽性の発現を示した(図3D)。マウスは温度及び光を制御した室内(23〜25℃、14時間明期/日)で飼育し、食物と水は標準的な1日量を与えた。
【0054】
実施例2:非多孔性バイオマテリアル中の工学的に作製された柔組織の内部成長及び血管形成
A.PEGヒドロゲルの調製
ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(1g)(Sheawater, Hunsville, AL, USA)は、133ユニット/mLペニシリン及び133mg/mLストレプトマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を補足した6.6mLのPBS中に、6.6パーセントw/vの最終溶液になるまで溶解した。
【0055】
紫外線光開始剤、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン(Irgacure)(Ciba, Tarrytown, NY, USA)は100%エタノールに溶解し、50mg/mLの濃度とした。最終ユニット保存PEG溶液は、6.6mLのPEG溶液に100μL光開始剤/エタノール溶液を添加することにより調製した。
【0056】
B.インビトロにおけるbFGF放出特性
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)ヒト組換え体(Sigma, St. Louis, MI, USA)は、製造業者の指針に従って、ウシ血清アルブミン(BSA)0.1%を含有するPBSにより、25μg/mLの濃度に再構成した。この溶液はさらに、BSAを捕捉したPBSにより、最終濃度0.4μg/mLまで希釈した。全部で100μLの0.4μg/mL bFGF溶液は、200μLのPEG保存溶液を含む滅菌試験管に添加した。この混合物は均一性を確実にするために5回、ピペッティングを繰り返し、その後エッペンドルフキャップのシリンダー状鋳型に75μLずつ分注した。これらのシリンダー状鋳型は365nmのUV光で5分間光重合させた(Glo-Mark, Upper Saddle River, NJ, USA)。それぞれPBS中の0.1%BSAを1mL含有する別々の試験管中のbFGFを負荷したPEGヒドロゲルシリンダーは、1、3、7、14、21及び28日間(それぞれN=4)、37℃の水浴に置き、bFGF放出速度を測定した。それぞれの時点で、それぞれの試験管の上清は、ヒトbFGFイムノアッセイ(R&D Systems, Minneapolis, MN, USA)(Alhadlaq et al., 2004; Moiolo et al., 2005)を使用してアッセイした。
【0057】
C.PEGヒドロゲルから放出されたbFGFの生物活性
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)ヒト組換え体(Sigma, St. Louis, MI, USA)は本明細書に記載のように再構成し、さらに最終濃度4μg/mLに希釈した。全部で200μLの4μg/mLbFGF溶液は、400μLのPEG保存溶液と一緒に滅菌試験管に添加した。この混合物は均一性を確実にするために5回、ピペッティングを繰り返し、その後エッペンドルフキャップのシリンダー状鋳型に75μLずつ分注し、365nmのUV光で5分間光重合させた(Glo-Mark, Upper Saddle River, NJ, USA)。bFGFを含まない200mLのPEGヒドロゲルシリンダーを調製するために、PBS中0.1%BSAをbFGF溶液のかわりに使用した。
【0058】
ヒト皮膚線維芽細胞(hDF)(Cambrex, Walkersville, MD, USA)は、10%ウシ胎児血清ならびに1%ペニシリン及びストレプトマイシンを補足したダルベッコ改変イーグル培地(完全DMEM)4mL中、20,000細胞/ウェルの密度で培養した。接着したhDFは以下の4条件(1群につきN=6)でインキュベーションした:1)PBS中0.1%BSAを含有するブランク液(図9A)、2)PBS中0.1%BSAを負荷したブランクPEGヒドロゲル(図9A)、3)PEGヒドロゲルを含まずに6.25ng/mLbFGFを含有するbFGF溶液(図9B)、及び4)0.1μgのbFGFを含有するbFGF‐負荷PEGヒドロゲル(図9B)。グループ4の場合、hDFは、37℃、5%CO2で1週間、それぞれの細胞培養ウェル(0.4μmポアサイズ)に配置されたトランスウェル挿入物(Becton Dickinson Labware, Franklin Lakes, NJ)と一緒にDMEM中でインキュベーションした。トランスウェル挿入物はDMEM培地中、hDFの単層培養物0.9mm上に配置し、それゆえbFGF−負荷PEGシリンダーと直接接触せずに、細胞は放出されたbFGFに曝露された(図9C)。それぞれ上記4条件下で1週間インキュベーション後、hDFは500μLの0.1%TritonX溶液(Sigma, St. Louis, MI, USA)処理により採取し、滅菌した使い捨ての細胞リフター(Fisherband, Pittsburge, PA)を使用してこすり取り、組織培養試験管に集め、溶解させ、超音波処理(Sonica Dismembrator Mode 100, Fisher, Pittsburgh, PA, USA)を使用して、氷上でホモジナイズした。次にhDF溶解産物を遠心管に集め、−80℃で保存した。DNA量は本発明者らの先の方法(Fluorescent DNA Quantitation kit, Bio-Rad, Hercules, CA)に従って、二本鎖DNAに結合したHoechst 33258の蛍光定量を使用して測定した(Alhadlaq et al., 2004; Moioli et al., 2005)。
【0059】
D.bFGF‐負荷PEGヒドロゲルのインビボ移植
全部で100μLの1μg/μL bFGF溶液は、200μLのPEG溶液に添加し、その後穏やかに混合し、エッペンドルフキャップのシリンダー状鋳型に75μLアリコートをピペットで分注した。得られたPEGシリンダーは365nmのUV光で5分間光重合させた(Glo-Mark, Upper Saddle River, NJ, USA)。全部で3つのマクロチャンネルは、それぞれのPEGヒドロゲルシリンダー中に滅菌キャピラリー管で3個の穿孔を導入することにより作製した(図10B及びD)。以下のPEGヒドロゲルシリンダーをin vivo移植のために作製した(1群につきN=4)):1)ブランク(bFGFを含まず、マクロチャンネルを持たない)(図10A)、2)bFGFを負荷するが、マクロチャンネルを持たない(図10B)、3)マクロチャンネルを持つがbFGFを含まない(図10C)、及び4)bFGFを負荷し、マクロチャンネルを持つ(図10D).
雄重症複合免疫不全症(SCID)マウス(系統C.B17;4〜5週齢)はケタミン(100mg/kg体重)及びキシラン(4mg/体重)の腹腔内注射により麻酔した(Alhadlaq et al., 2004)。マウス背側の毛を切り、うつぶせにし、続いて10%ポピドンヨード及び70%アルコールで消毒した。背側の上部正中矢状線に沿って1cmの長さの線状切開を行い、その後鈍的切開をして皮下ポーチを作製した。それぞれのSCIDマウスは4種のPEGヒドロゲル移植片を移植された:ブランクヒドロゲル、マクロチャンネルを持たないbFGF‐負荷PEG、bFGFを持たずマクロチャンネルを持つPEG、及びbFGFとマクロチャンネルを両方持つPEG。切開は、吸収性プレーンガット4−0縫合糸で閉じた。すべてのPEGヒドロゲルシリンダーは4週間インビボに移植された。本発明の動物プロトコールは施設内動物保護委員会によって認可された。
【0060】
E.インビボPEGヒドロゲル試料の採取、微細構造、免疫染色及びデータ解析
SCIDマウス背側の皮下に移植後4週間目にPEGヒドロゲルシリンダーを採取した。CO2で窒息死させた後、SCIDマウス背側を無菌的に切開した。周辺の線維性被膜を注意深く除去した後、PEGヒドロゲルシリンダーを宿主から分離し、PBSで洗浄し、最低限24時間、10%ホルマリンで固定した。次にPEG試料をパラフィンに包埋し、5μmの厚さで横断面(マクロチャンネルを横切る;図10B及び10Dを参照されたい)を切断した。パラフィン片はヘマトキシリン及びエオジンで染色した。
【0061】
H&E染色した切片に隣接した連続切片は脱パラフィンし、PBSで洗浄し、150mM塩化ナトリウムを含む酢酸ナトリウムバッファーpH5.5中のウシ精巣ヒアルロニダーゼ(1600U/ml)により室温で30分間消化した(Mao et al., 1998; Alhadlaq and Mao, 2005)。手短に説明すると、切片は室温で20分間、5%ウシ血清アルブミン(BSA)で処理し、非特異的反応を妨害した。以下の抗体を使用した:抗−血管内皮成長因子(抗−VEGF)(ABcam, Cambridge, MA, USA)、及び阻害剤アセチルノイラミン酸(Sigma, St. Louis, MI, USA)を含む、又は含まないビオチン−標識したコムギ(Triticum vulgaris)由来のレクチン(コムギ胚芽凝集素)(WGA)。WGAはα−D−GlcNAc及びNeuAcに富む血管内皮細胞の炭水化物基に結合する(Jinga et al., 2000; Izumi et al., 2003)。湿式チャンバー中で一次抗体と共に一晩インキュベーション後、切片をPBSで洗浄し、IgG抗−マウス二次抗体(1:500;Antibodies, Davis, CA)と30分間インキュベーションした。その後切片は湿式チャンバー中で30分間ストレプトアビジン‐HRP複合体とインキュベーションした。PBSで洗浄後、二次抗体との二重結合手順を反復した。スライドはジアミノベンザジン(DAB)溶液で染色し、Mayerヘマトキシリンで3〜5分間対比染色した。対比染色したスライドはエタノールのグラジエントで脱水し、キシレンで処理した。一次抗体が無いこと以外は同じ手順を陰性対照に対して行った。
【0062】
工学的に作製されたマクロチャンネルにおける組織内部成長の量は、4倍の倍率下、H&E染色切片上で、負荷したbFGFを持つか、又はbFGFを持たずにマクロチャンネルを持つPEGヒドロゲル中に浸潤した宿主組織の量を手動で測定することにより定量した。コンピュータによる画像解析によって作製した自動化面積値は、Student t検定及びANOVAを使用して比較し、負荷したbFGFを持ち、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルと負荷したbFGFを持たないものとの間で、組織内部成長の量が著しく異なるかどうかを判定した。
【0063】
F.インビトロでのbFGF放出特性
PEGヒドロゲル中に被包されたbFGFの放出特性は図11Aに明示した。本発明のPEGに被包されたbFGFの放出速度は初めの24時間以内の急激な放出(約5.8%)、続いて試験した28日間に及ぶ持続的な放出を示した(図11A)。28日目までに、全部で15.3%の被包されたbFGFがPEGヒドロゲルから放出された(図11A)。
【0064】
G.PEGから放出されたbFGFの生物活性
被包されたbFGFのPEGからの放出は単層培養中のヒト皮膚線維芽細胞に異なる効果を示した。bFGF溶液で処理したhDFのDNA含量69.8±5.6ng(平均値±S.E.;N=6;図11B左側の色の濃いヒストグラム)は、bFGF処理しないhDFのDNA含量34.5±2.7ng(N=6;図11B左側の‘ブランク’又は無色のヒストグラム)より著しく多かった。同様に、PEGヒドロゲルから放出された、bFGFで処理したhDFのDNA含量52.6±3.7(N=6;図11B右側の色の濃いヒストグラム)はbFGF処理しないPEGヒドロゲルに曝露されたhDFのDNA含量27.5±1.7(N=6;図11B右側の‘ブランク’又は無色のヒストグラム)より著しく多かった。興味深いことに、bFGF溶液を補足したDMEM中で培養したhDFのDNA含量は、PEGヒドロゲルから放出されたbFGFを補足したDMEM中で培養したhDFのDNA含量より著しく多かった(図11Bの2つの色の濃いヒストグラム)。bFGF溶液とPEGヒドロゲルから放出されたbFGFにより誘導されたhDFのDNA含量の差は、本明細書で検討することになる。
【0065】
H.インビボで採取されたマクロチャンネル及び/又はbFGFを持つ、PEGヒドロゲル
SCIDマウス背側に4週間インビボで移植した後の、マクロチャンネル又はbFGFのいずれも持たない、採取されたPEGヒドロゲルシリンダーの典型的なH&E染色切片は、宿主組織内部成長を全く示さなかった(図12A)。しかし、bFGF負荷のない、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルは、マクロチャンネルの内腔だけに宿主組織内部成長を明示したが、PEGの残余部分には内部成長が見られなかった(図12B)。対照的に、マクロチャンネルを持たないbFGF−負荷PEGヒドロゲルは、PEGヒドロゲルの孤立した領域に、明らかに任意の大きさの宿主組織内部成長を明示した(図12C)。最も興味深いことには、bFGFを負荷し、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルは、マクロチャンネル内腔への宿主組織内部成長を明示したが、PEGの残余部分にはそれが見られなかった(図12D)。マクロチャンネルとbFGFの両方を持つPEGヒドロゲルシリンダー(0.47±0.18mm2)(平均値±S.D.;P<0.01;1群につきN=4)は、マクロチャンネルを持ち、bFGFの負荷がないPEGヒドロゲルシリンダー(0.13±0.05mm2)より著しく多く内部成長する宿主組織を示し、bFGFを持ち、マクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルはbFGFがないものより多い宿主組織内部成長を示唆した。
【0066】
異なる物理的及び化学的条件、すなわち、マクロチャンネルを持つbFGF又はそれを持たないbFGFで処理した、インビボで採取したPEGヒドロゲルは、高倍率で血管様構造の形成を明示した(図13)。マクロチャンネルを持つがbFGFを持たない、インビボで採取したPEGヒドロゲルは、20倍の倍率で、広範に分布した血管様構造を示した(図13A)。60倍の倍率では、小血管様構造は明らかに内皮細胞様細胞によって内張りされ、赤血球に非常に類似したエオジン−陽性細胞を含有した(図13B)。対照的に、マクロチャンネルを持たず、bFGFを負荷したPEGヒドロゲルは、依然として存在するPEGヒドロゲルの領域を持ちながら、明らかに任意の様式で広範な細胞浸潤を示した(図13BCのH)。図13Cの多数の泡様構造は、おそらく浸潤された宿主細胞及び組織中で分解を受けているPEGヒドロゲルを表している(図13CのHで標識された、大きなPEGヒドロゲルの断片を参照されたい)。60倍の倍率下で、高度な細胞充実性を有する厚い膜様構造帯は、浸潤された宿主組織とPEGヒドロゲルを分離した(図13D)。特徴的には、マクロチャンネルを持ち、bFGFを負荷されたPEGヒドロゲルは、明白な血管様構造の間に、集中的な宿主細胞浸潤を明示し、例を図13Eの矢印で標識した。60倍の倍率では、矢印で標識した血管様構造は、内皮様細胞による細胞境界の明瞭な内張りを示し、ドーナツ型で、赤血球に非常に類似した、核の無い細胞を含有した(図13F)。
【0067】
抗−VEGF抗体は、bFGF又はマクロチャンネルのいずれかを持たない、採取されたPEGヒドロゲルシリンダーの典型的な切片上の陰性イムノブロッティングを示した(図14A)。しかし、マクロチャンネルを持つがbFGFを持たないPEGヒドロゲルはマクロチャンネルにおいてだけ、少々の弱い反応を明示したが、PEGの残余部分では反応は見られなかった(図14B)。対照的に、bFGF負荷があるが、マクロチャンネルを持たないPEGヒドロゲルは、広範な抗−VEGFイムノブロッティングを明示したが、依然として組織内部成長の無い、明白なヒドロゲル足場の領域が存在した(図14C)。マクロチャンネルと負荷されたbFGFの両方を持つPEGヒドロゲルは、マクロチャンネルに陽性の抗VEGF染色を示したが、PEGの残余部分はそれを示さなかった。
【0068】
浸潤する宿主組織の塊は、血管内皮細胞を染色する抗体、Triticum vulgaris(コムギ胚芽凝集素)(WGA)由来のレクチンで陽性に染色された(図15)(Jinga et al., 2000; Izumi et al., 2003)。WGA阻害剤、アセチルノイラミン酸による染色は、WGAによるこの陽性染色を裏付けた。図15AのWGAによる陽性染色帯は、移植されたマクロチャンネルが無く、bFGF負荷のないPEGヒドロゲルシリンダーの、宿主組織により形成された膜周辺環境を表した。集中的なWGA染色は、bFGFを持たないがマクロチャンネルを持つPEGヒドロゲルシリンダー(図15B)だけでなく、bFGF及びマクロチャンネルの両方を持つPEGヒドロゲルシリンダーにも存在し(図15D)、浸潤した宿主血管及び顆粒組織における内皮細胞の存在を暗示した。対照的に、bFGFで負荷されるが、マクロチャンネルを持たない典型的なPEGヒドロゲルシリンダーの染色は幾分弱かった(図15C)。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は一連の4枚の写真(A〜D)であって、それらは免疫不全マウスの背側における、組織工学的に作製された脂肪組織構築物と対照構築物の皮下移植後4週間目の全体的な外観を説明する:(A)構築物作製中にポリマー/細胞懸濁液を負荷するために使用されるプラスチック鋳型;(B)元の鋳型の形態と大きさを保持した脂肪生成処理hMSCを被包する組織工学的に作製された脂肪組織構築物;(C)非処理hMSCを被包する、採取された対照構築物;(D)被包された細胞を持たない、採取された対照構築物。すべての構築物と元の鋳型間の大きさの類似、及び組織工学的に作製された構築物(B)と対照構築物(C及びD)間の差異に注意されたい。
【図2】図2は一連の4枚の顕微鏡写真(A〜D)であって、単層培養中、半ビボで維持されたヒト間充織幹細胞(hMSC)及びヒドロゲル構築物による脂肪生成を説明する;(A)脂肪生成培地で4週間維持されたhMSC単層培養のOil Red-Oによる陽性染色;(B)(A)に適合する対照単層培養で、hMSCが基礎培地に4週間維持された場合のOil Red−O染色に対する陰性反応を明示する;(C)ヒドロゲル構築物のこの典型的な顕微鏡写真において、Oil Red-Oによる陽性染色によって明示される脂肪沈着物を示し、ヒドロゲル構築物は脂肪生成処理hMSCを被包し、半ビボで脂肪生成培地に4週間維持された;(D)Oil Red-Oに対して反応を示さない、(C)に適合する対照の代表的な顕微鏡写真。
【図3】図3は、一連の4枚の顕微鏡写真写真(A〜D)であって、インビボで組織工学的に作製された構築物中に維持されたhMSCによる脂肪生成を、組織化学的染色及びRT−PCRによって示す;(A)脂肪生成処理hMSCを被包し、免疫不全マウスの背側に4週間移植された、組織工学的に作製されたヒドロゲル構築物のOil Red-Oによる陽性染色;(B)未処理hMSCを被包し、免疫不全マウスの背側に4週間移植された、対照ヒドロゲル構築物の代表的な顕微鏡写真で、Oil Red-O染色に対する陰性反応によって明らかなように、脂肪沈着物を示さない;(C)細胞を被包しない対照ヒドロゲル構築物の典型的な顕微鏡写真であり、Oil Red-O染色に対する陰性反応、及び構築物を囲む線維性被嚢を持つ無傷の境界、及び構築物への宿主細胞の浸潤の欠如を示す;(D)ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に関するRT−PCR解析であって、免疫不全マウスの皮下に移植後4週間目に採取し、脂肪生成処理hMSC(+Adipo)又は非処理hMSC(−Adipo)を被包する構築物中の脂肪細胞‐特異的遺伝子(PPAR‐γ2)の発現を示す。
【図4】インビボに移植後のPEGヒドロゲル及び対照群におけるhMSC由来脂肪組織の採取物。A:無細胞PEGヒドロゲル(矢印の間)。B:hMSCを被包するPEGヒドロゲル(脂肪細胞への分化はない)(矢印の間)。C:hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲル中の工学的に作製された脂肪組織(矢印の間)で、周囲の宿主組織への接着と元の直径9mmの保持を示す(A及びBよりも倍率が高い)。
【図5】工学的に作製された脂肪組織及び対照の形態、大きさ及び不透明性:(A)形態と大きさの一般的な鋳型として使用されたエッペンドルフチューブのプラスチックキャップ(直径9mm);(B)採取された無細胞PEGヒドロゲルは大部分透明である;(C)幾分光不透明性を示す、hMSC(脂肪細胞への分化はない)を被包するPEGヒドロゲル;(D)実質的な光不透明性を示し、前もって定義された形態と大きさを維持する、hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲル。
【図6】インビボで採取されたhMSCを播種したコラーゲンスポンジ及び対照群の形態と大きさを表し、元の形態と大きさの損失を示す。(A)約4×4×4mmの立方体に切り取られた、滅菌コラーゲンスポンジ;(B)実質的なサイズ減少及び実質的な形態変化を示す、インビボに移植後4週間目に採取された無細胞コラーゲンスポンジ、hMSCを播種したもの、及びhMSC由来脂肪細胞(左から順に)。
【図7】インビボで移植後4週間目の、採取されたPEG及びコラーゲン移植片の足場直径の定量的変化(x100%±S.D.)hMSC:ヒト間充織幹細胞。灰色のヒストグラムはPEG移植片を表し、空白のヒストグラムはコラーゲン移植片を表す。足場の元の直径をほぼ100%維持した、無細胞PEG構築物(N=6)、hMSC又は被包hMSCに由来する脂肪細胞(N=6)を被包するPEGヒドロゲル構築物(N=6)。対照的に、播種された細胞を持たないコラーゲンスポンジは元の直径を65.0%±5.0失い、hMSCを播種したコラーゲンスポンジ(N=4)及びhMSC由来脂肪細胞を持つコラーゲンスポンジ(N=6)は元の直径をそれぞれ31.7%±5.8及び31.7%±5.4失った。**:P<0.01。
【図8】インビボに移植後4週間目の工学的に作製された脂肪組織及び対照のH&E及びOil Red-O染色(A);hMSC:ヒト間充織幹細胞;(B)レジデント細胞及び脂質小腔のいずれも示さない、無細胞PEGヒドロゲル;(C)豊富な細胞を示し、脂肪生成細胞に分化しないhMSCを被包する無細胞PEGヒドロゲル;(D)脂質小腔を示さないhMSC−PEGヒドロゲルのOil Red-O染色;(E)空間の島の間に豊富なレジデント細胞を示す、hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲル;(F)脂肪細胞に類似する扁平細胞の間に豊富な脂質小腔を示す、hMSC由来脂肪生成細胞を被包するPEGヒドロゲルのOil Red-O染色。倍率10倍。
【図9】図9は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)負荷PEGヒドロゲルシリンダー及びヒト皮膚線維芽細胞(hDF)コーティングの概念図を示す。
【図10】図10は、bFGFを負荷したPEGヒドロゲルのインビボ移植及びマクロチャンネル作製の概念図を示す。
【図11】図11はPEGヒドロゲルに被包されたbFGFのインビボ放出特性を示す。
【図12】インビボで移植された試料の採取物を示す:(A)細胞、bFGF、又はチャンネルを持たず、肉眼で見える宿主組織浸潤がないことを示すPEGヒドロゲル;(B)3つのマクロチャンネル(それぞれ直径1mm)を持ち、作製されたマクロチャンネルの3つの内腔における宿主組織内部成長を示すPEGヒドロゲル;(C)bFGF負荷されるが、マクロチャンネルを持たないPEGヒドロゲル;(D)bFGF及びマクロチャンネルの両方を持ち、全体の赤色及び作製されたマクロチャンネルの3つの内腔における3つの宿主組織内部成長を示すPEGヒドロゲル。
【図13】図13は異なる物理的及び化学的状態:すなわちマクロチャンネルを持つ、又は持たないbFGFにより処理され、血管様構造の形成を明示する、インビボで採取された、高倍率のPEGヒドロゲルを示す。
【図14】図14はbFGF又はマクロチャンネルのいずれかを持たない、採取されたPEGヒドロゲルシリンダーの典型的な切片上の抗−VEGF抗体に基づいた陰性のイムノブロッティングを示す。
【図15】図15はコムギ(Triticum vulgaris)由来のレクチン(コムギ胚芽凝集素)(WGA)による、浸潤宿主組織塊の陽性染色を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非多孔性生体適合性足場に分散された成体間充織幹細胞を含む、柔組織構築物。
【請求項2】
更に、予め定義された三次元の形態及び大きさを有することを特徴とする、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項3】
足場がヒドロゲルポリマーである、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項4】
ヒドロゲルポリマーがポリエチレングリコールジアクリレートである、請求項3に記載の柔組織構築物。
【請求項5】
脂肪及び線維組織を含む、請求項1に記載の柔組織。
【請求項6】
成体間充織幹細胞が骨髄細胞に由来する、請求項1に記載の柔組織。
【請求項7】
足場が、固体、液体、ゲル、メッシュ、粉末、スポンジ、及びペーストからなる群から選択される物理的形態である、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項8】
足場が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びその混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項9】
足場が、アルギネート、キトサン、サンゴ、アガロース、フィブリン、コラーゲン、骨、シリコーン、軟骨、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、及びその混合物からなる群から選択される天然材料を含む、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項10】
脂肪生成薬剤が、プログリタゾン、βファミリーの成長因子、及びプロスタグランジンからなる群から選択される、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項11】
予め決定された三次元の形態及び大きさを有する柔組織構築物を調製するための方法であって:
(a)予め決定された三次元構造の非多孔性生体適合性足場に分散された成体間充織幹細胞を提供し;
(b)該成体間充織細胞を脂肪生成を誘導する添加物と接触させ;そして、
(c)含脂肪細胞を負荷した足場を宿主に移植すること、を含む前記方法。
【請求項12】
非多孔性生体適合性足場がヒドロゲルポリマーである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
更に、(c)間充織細胞を線維芽細胞成長因子と接触させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ヒドロゲルポリマーが形成される前に、間充織幹細胞が生体適合性足場前駆体内に分散される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
更に、宿主への移植後にヒドロゲルの重合を開始することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項16】
柔組織が脂肪及び線維組織を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
宿主の柔組織を、修復、増大、又は再構築するための、請求項1に記載の柔組織構築物の使用。
【請求項18】
宿主が哺乳動物である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
柔組織移植組織に血管形成を誘導するための方法であって:
(a)bFGF及び成体間充織幹細胞を持つ、少なくとも1種の非多孔性ヒドロゲルシリンダーを調製し;そして、
(b)宿主に少なくとも1種のヒドロゲルシリンダーを移植して、血管形成を誘導すること、を含む前記方法。
【請求項20】
(a)足場が、ポリエチレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン、デキサメタゾン、形質転換成長因子ベータ−1を含み、栄養培地が、ベータ−グリセロリン酸及びアスコルビン酸2−リン酸、ペニシリン、及びストレプトマイシンを含む、生体適合性足場;及び
(b)ヒト骨髄に由来する成体間充織幹細胞、を含む組成物。
【請求項1】
非多孔性生体適合性足場に分散された成体間充織幹細胞を含む、柔組織構築物。
【請求項2】
更に、予め定義された三次元の形態及び大きさを有することを特徴とする、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項3】
足場がヒドロゲルポリマーである、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項4】
ヒドロゲルポリマーがポリエチレングリコールジアクリレートである、請求項3に記載の柔組織構築物。
【請求項5】
脂肪及び線維組織を含む、請求項1に記載の柔組織。
【請求項6】
成体間充織幹細胞が骨髄細胞に由来する、請求項1に記載の柔組織。
【請求項7】
足場が、固体、液体、ゲル、メッシュ、粉末、スポンジ、及びペーストからなる群から選択される物理的形態である、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項8】
足場が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びその混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項9】
足場が、アルギネート、キトサン、サンゴ、アガロース、フィブリン、コラーゲン、骨、シリコーン、軟骨、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、及びその混合物からなる群から選択される天然材料を含む、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項10】
脂肪生成薬剤が、プログリタゾン、βファミリーの成長因子、及びプロスタグランジンからなる群から選択される、請求項1に記載の柔組織構築物。
【請求項11】
予め決定された三次元の形態及び大きさを有する柔組織構築物を調製するための方法であって:
(a)予め決定された三次元構造の非多孔性生体適合性足場に分散された成体間充織幹細胞を提供し;
(b)該成体間充織細胞を脂肪生成を誘導する添加物と接触させ;そして、
(c)含脂肪細胞を負荷した足場を宿主に移植すること、を含む前記方法。
【請求項12】
非多孔性生体適合性足場がヒドロゲルポリマーである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
更に、(c)間充織細胞を線維芽細胞成長因子と接触させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ヒドロゲルポリマーが形成される前に、間充織幹細胞が生体適合性足場前駆体内に分散される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
更に、宿主への移植後にヒドロゲルの重合を開始することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項16】
柔組織が脂肪及び線維組織を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
宿主の柔組織を、修復、増大、又は再構築するための、請求項1に記載の柔組織構築物の使用。
【請求項18】
宿主が哺乳動物である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
柔組織移植組織に血管形成を誘導するための方法であって:
(a)bFGF及び成体間充織幹細胞を持つ、少なくとも1種の非多孔性ヒドロゲルシリンダーを調製し;そして、
(b)宿主に少なくとも1種のヒドロゲルシリンダーを移植して、血管形成を誘導すること、を含む前記方法。
【請求項20】
(a)足場が、ポリエチレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン、デキサメタゾン、形質転換成長因子ベータ−1を含み、栄養培地が、ベータ−グリセロリン酸及びアスコルビン酸2−リン酸、ペニシリン、及びストレプトマイシンを含む、生体適合性足場;及び
(b)ヒト骨髄に由来する成体間充織幹細胞、を含む組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2008−504933(P2008−504933A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520382(P2007−520382)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/023318
【国際公開番号】WO2006/004951
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/023318
【国際公開番号】WO2006/004951
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】
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