説明

幹細胞に由来する網膜色素上皮細胞

本発明は、幹細胞、特にヒト幹細胞からの方向付けられた分化によって得ることができるRPE細胞に関する。アクチビンAなどのTGFスーパーファミリーの1つ又は複数のメンバーの存在下で幹細胞を培養することは、成熟した機能的なRPE細胞への方向付けられた分化を誘導することが具体的に発見された。これは、MiTF−A、RPE65又はベストロフィンを含む成熟RPE細胞に特異的なマーカーの発現によって証明された。一つの具体的な態様によれば、細胞はニコチンアミド(NA)で予め培養される。このことは、TGFスーパーファミリーの1つ又は複数のメンバーの誘導効果に対する細胞の応答を増強することが発見された。本発明は、方向付けられた分化を実行する方法、並びに生じたRPE細胞の使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、分化した網膜色素上皮(RPE)細胞を生成するための方法およびシステム、およびそれらによって得られたRPE細胞の治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一覧
以下は、本発明の分野における最新技術を記載するために適切であると考えられる参考文献の一覧である。
(1) Strauss O.,The retinal pigment epithelium in visual function;Physiol.Rev.85:845−881,2005.
(2) Lund RD.ら、Cell transplantation as a treatment for retinal disease;Prog Retin Eye Res 20:415−449,2001.
(3) Haruta M.,Embryonic stem cells:potential source for ocular repair;Semin Ophthalmol.20(1):17−23,2005.
(4) Haruta M.ら、In vitro and in vivo characterization of pigment epithelial cells differentiated from primate embryonic stem cells;Invest Ophthalmol Vis Sci 45:1020−1024,2004.
(5) Aoki H.ら、Embryonic stem cells that differentiate into RPE cell precursors in vitro develop into RPE cell monolayers in vivo;Exp Eye Res.82(2):265−274,2006.
(6) Klimanskaya I.ら、Derivation and comparative assessment of retinal pigment epithelium from human embryonic stem cells using transcriptomics;Cloning Stem Cells 6(3):217−245,2004.
(7) Lund RD.ら、Human embryonic stem cell−derived cells rescue visual function in dystrophic RCS rats;Cloning Stem Cells 8(3):189−199,2006.
(8) PCT出願公開WO06/070370
【0003】
発明の背景
網膜色素上皮(RPE)細胞の機能異常、傷害および喪失は、いくつかの眼疾患および眼障害(例えば、加齢性黄斑変性(AMD)、ベスト病(卵黄様黄斑ジストロフィーの早期発症形態)を含む遺伝性黄斑変性、および、様々なサブタイプの色素性網膜炎(RP)など)の顕著な特徴である。そのような疾患のための可能性のある処置の1つが、RPE(および光受容体)を、そのような疾患に冒された人の網膜に移植することである。RPE細胞がその移植によって補充されることにより、変性を遅らせ、停止させ、または、逆戻りさせることができ、また、網膜機能を改善することができ、また、そのような状態に起因する失明を防止することができると考えられる。
【0004】
黄斑、すなわち、網膜の中央部は、細かい視覚細部および色知覚に関わっており、我々の毎日の視覚作業の多く(例えば、顔認識および読書)のために非常に重要である。黄斑は多くの場合、広範囲に及ぶ様々な網膜変性(例えば、色素性網膜炎(RP))において、同様にまた、黄斑領域がより特異的に攻撃目標となる種々の疾患(例えば、加齢性黄斑変性(AMD)およびベスト病)において疾患プロセスの一部として冒される。これらの疾患の多くでは、最初の機能異常および機能不全が、光受容体の下に位置する網膜色素上皮(RPE)細胞において生じる。
【0005】
高度に特殊化したRPE細胞は、光受容体の機能を支えることにおいて大きな役割を果たす:RPE細胞は栄養を脈絡膜血管から積極的に輸送し、光受容体における発色団のために必要であるビタミンAの再利用に関与し、また、脱落した光受容体外側セグメントをこれらの細胞の正常な更新プロセスの一部として取り込み、再利用する
【0006】
RPの様々なサブタイプ、ベスト病およびAMDでは、RPEの機能不全が最終的には視覚喪失および失明につながる。これらの細胞を置き換えることが、考えられる治療的介入の1つであり、しかし、そのような細胞をヒトのドナーまたは胚から得ることは困難である。ヒト胚性幹細胞(hESC)は、機能的なRPE細胞へのその分化を導くための手段が解明され得るならば、RPE細胞のための可能性のある無限のドナー源として役立つかもしれない。神経前駆体細胞(NP)について非常に富化された培養物へのhESCの分化を導くための様々な方法が以前に記載されている(Reubinoff BE.他、Neural progenitors from human embryonic stem cells;Nat Biotechnol 19:1134〜1140、2001;Itsykson P.他、Derivation of neural precursors from human embryonic stem cells in the presence of noggin;Mol Cell Neurosci.30(1):24〜36、2005)。加えて、網膜細胞を、インビトロ、および、齧歯類における網膜下腔への移植の後でのインビボの両方で生じさせることができるhESCの潜在的能力が示されている(Banin E.他、Retinal Incorporation and Differentiation of Neural Precursors Derived from Human Embryonic Stem Cells;Stem Cells 24(2):246〜257、2006)。
【0007】
マウスおよび非ヒト霊長類のESCがRPE細胞に分化し、かつ、移植後に生存し、網膜の変性を弱めることができる潜在的能力が明らかにされている4、5。しかしながら、RPE細胞へのhESCの自発的分化が示されたが、その分化プロセスの効率は低く、相当の分化時間が要求され、ほんの低い(1%未満の)割合のRPE細胞含有クラスターが4週間〜8週間の分化の後で得られただけであった。さらに、改善された網膜機能がこれらのRPE細胞の網膜下移植の後でRCSラットにおいて観測された一方で、正真正銘の成熟RPE細胞としての移植された細胞の機能は明らかにされず、この作用は可能性として、RPE非特異的な栄養作用に関連づけられ得る6、7、9、10
【0008】
近年では、hESCを、RPE細胞に再現性良く分化するように導くことができることもまた示された(この場合、RPEの究極的運命に向かうhESCの自発的分化ではなく、むしろ、導かれた分化がニコチンアミド(NA)の存在下で生じた)
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、網膜色素上皮(RPE)細胞へのヒト幹細胞(hSC)の導かれ、かつ、増強された分化を促進するための培養システムを調製するための、トランスフォーミング増殖因子−β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーの使用を提供する。
【0010】
第2の態様によれば、本発明は、RPEの究極的運命へのhSCの導かれた分化を促進するための方法が提供され、この方法は:
(a)hSCを含む細胞培養物を提供すること;および
(b)前記細胞培養物における細胞を、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養し、それにより、前記hSCがRPEの究極的運命への導かれた分化に向かって促進されること
を含む。
【0011】
第3の態様によれば、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの存在下でのhSCの導かれた分化によって得られるRPE細胞を含む細胞培養物が提供される。好ましくは、そのようなRPE細胞は、本明細書に開示される方法によって得られる最終分化した(成熟している)RPE細胞である。本明細書で使用されるように、そのようなRPE細胞は、hSCがRPE細胞に自発的に分化するときに得られる形質とは異なるいくつかの特徴的な形質を示す。好ましくは、そのようなRPE細胞は、その分化の期間中においてTGFβのシグナル伝達に対して応答することができる。
【0012】
第4の態様によれば、hSC由来のRPE細胞を対象の眼に移植する方法が提供され、前記RPE細胞は前記hSCの導かれた分化によって得られ、この方法は、
(a)hSCを含む細胞培養物を提供すること;
(b)前記細胞培養物を、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養し、それにより、前記hSCが、RPE細胞に分化するために誘導されること;
(c)前記細胞培養物からRPE細胞を集めること;および
(d)前記RPE細胞を前記対象の眼に移植すること
を含む。
【0013】
第5の態様によれば、前記hSCの導かれた分化によって得られる移植可能なhSC由来RPE細胞を含む細胞培養システムが提供される。移植されたRPE細胞は、前記移植された細胞が前記対象の眼の中で機能的であることを示す1つまたは複数のパラメーターを示した。移植されたRPE細胞の機能性は、移植されたRPE細胞が、網膜機能を改善することと並行して、光受容体の脱落した外側セグメントを取り込むことができることによって示される。
【0014】
本明細書に開示される方法の培養システムにおけるhSCは、分化し続けるhSCであり、すなわち、本質的には未分化状態にあるhSCの集団であるか、または、前記細胞の少なくとも一部が、導かれた分化の初期段階を受けるために誘導されており、また、時には、前記細胞の大部分が、導かれた分化の初期段階を受けるために誘導されているhSCの集団である。1つの実施形態によれば、分化の初期段階が、細胞をNAに事前にさらすことによって達成され、だが、分化の初期段階は、未分化細胞が、NAと、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーとに同時にさらされるときにもまた生じる。理論にとらわれることはないが、NAに事前にさらすこと(これは、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーとのインキュベーションに先立つ)により、細胞が、下記でさらに議論されるように、特定のRPE形態学を有するRPE細胞への(自発的分化とは対照的に)導かれた分化に向かうように刺激されることが推測される。
【0015】
1つの好ましい実施形態によれば、hSCはヒト胚性幹細胞(hESC)である。
【0016】
1つの実施形態によれば、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーを含む培地で細胞を培養することは、hSCが分化(導かれた分化、好ましくは、NAによって導かれる分化)を開始した後少なくとも2日である。
【0017】
第6の態様によれば、対象において、網膜色素上皮の機能異常、傷害および/または喪失を含む網膜疾患または網膜障害を処置または防止する方法が提供され、この方法は、前記対象に、hSCを導かれた分化に向かって誘導することによって得られるhSC由来RPE細胞を眼内移植することを含む。移植可能なRPE細胞は、好ましくは、本明細書に開示される方法によって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明を理解するために、そして本発明がどのように実際に実施されうるかを示すために、好ましい実施形態を単に非限定的に例示し、添付の図面を参照して説明する。
【図1A−C】NAの存在下でのRPEマーカーの発現を分析するリアルタイムPCR。hESCの分化を、hESCを浮遊性クラスターとして培養することによって誘導した。6週間の分化において、RPEマーカーのMiTF−A(図1A)およびRPE65(図1B)の発現レベルがNAの存在下では著しく高まった。その後の時点でのリアルタイムPCR分析では、NAの存在下における時間に沿ったMiTF−A(図1C)およびRPE65(図1D)の発現レベルにおける進行性の増大が明らかにされた。ベストロフィン、CRALBPおよびMertkを含むRPEマーカーのさらなる転写物の発現が、置床された色素沈着クラスターのRT−PCR分析によって明らかにされた(図1E)。+/−は逆転写酵素の存在または非存在をそれぞれ示す。
【図1D−E】NAの存在下でのRPEマーカーの発現を分析するリアルタイムPCR。hESCの分化を、hESCを浮遊性クラスターとして培養することによって誘導した。6週間の分化において、RPEマーカーのMiTF−A(図1A)およびRPE65(図1B)の発現レベルがNAの存在下では著しく高まった。その後の時点でのリアルタイムPCR分析では、NAの存在下における時間に沿ったMiTF−A(図1C)およびRPE65(図1D)の発現レベルにおける進行性の増大が明らかにされた。ベストロフィン、CRALBPおよびMertkを含むRPEマーカーのさらなる転写物の発現が、置床された色素沈着クラスターのRT−PCR分析によって明らかにされた(図1E)。+/−は逆転写酵素の存在または非存在をそれぞれ示す。
【図2A−D】NAのRPE分化誘導作用は特定の培地組成に依存しない。KO培地(図2A)において、または、B27が補充されたDMEM/F12により1週間後に置き換えられる、N2が補充されたNeurobasal培地(NN培地)(図2C)において12週間分化するhESCクラスターの暗視野顕微鏡写真。両方の培地において、NAは、色素沈着細胞に向かう分化を増強したが(図2B、図2D)、分化したhESCクラスターのサイズおよびその総数は、NN培地に関してはより小さかった(白矢印により、分化し続けるクラスターの内部における色素沈着領域が示される)。RNAレベルでは、両方の培地において、NA補充がMiTF−AおよびRPE65の発現レベルを高めた(それぞれ、図2Eおよび図2F)。
【図2E−F】NAのRPE分化誘導作用は特定の培地組成に依存しない。KO培地(図2A)において、または、B27が補充されたDMEM/F12により1週間後に置き換えられる、N2が補充されたNeurobasal培地(NN培地)(図2C)において12週間分化するhESCクラスターの暗視野顕微鏡写真。両方の培地において、NAは、色素沈着細胞に向かう分化を増強したが(図2B、図2D)、分化したhESCクラスターのサイズおよびその総数は、NN培地に関してはより小さかった(白矢印により、分化し続けるクラスターの内部における色素沈着領域が示される)。RNAレベルでは、両方の培地において、NA補充がMiTF−AおよびRPE65の発現レベルを高めた(それぞれ、図2Eおよび図2F)。
【図3A−F】hESCの浮遊性クラスターの内部におけるメラニン発現細胞は、推定されるRPE細胞である。色素沈着細胞について非常に富化された明確な領域を伴う分化し続けるhESCの浮遊性クラスターの暗視野顕微鏡写真(図3A)。抗Otx2および抗MiTFとの免疫反応性を有する、解離および置床の後での色素沈着細胞の蛍光像(図3B)および位相差像(図3C)。限定された色素沈着領域を例示する、置床後の分化し続けるクラスターの暗視野顕微鏡写真が示される(図3D)。RPE細胞に典型的である形態学的特徴を有する色素沈着領域内の細胞の位相差像(図3E)。これらの細胞がRPE細胞のマーカーを発現することを示す間接的免疫蛍光染色:MiTF(図3F)、ZO−1(図3G)、ベストロフィン(図3H)、RPE65(図3I)およびCRALBP(図3J)。解離、低密度での置床および培養の後、色素沈着細胞は色素沈着を失い、類線維様の形態学を獲得する(位相差像)(図3K)。さらに長期間の培養、および、高密度クラスターへの増殖の後、細胞はRPE細胞に特徴的な形態学および色素沈着を再獲得する(図3L)。
【図3G−L】hESCの浮遊性クラスターの内部におけるメラニン発現細胞は、推定されるRPE細胞である。色素沈着細胞について非常に富化された明確な領域を伴う分化し続けるhESCの浮遊性クラスターの暗視野顕微鏡写真(図3A)。抗Otx2および抗MiTFとの免疫反応性を有する、解離および置床の後での色素沈着細胞の蛍光像(図3B)および位相差像(図3C)。限定された色素沈着領域を例示する、置床後の分化し続けるクラスターの暗視野顕微鏡写真が示される(図3D)。RPE細胞に典型的である形態学的特徴を有する色素沈着領域内の細胞の位相差像(図3E)。これらの細胞がRPE細胞のマーカーを発現することを示す間接的免疫蛍光染色:MiTF(図3F)、ZO−1(図3G)、ベストロフィン(図3H)、RPE65(図3I)およびCRALBP(図3J)。解離、低密度での置床および培養の後、色素沈着細胞は色素沈着を失い、類線維様の形態学を獲得する(位相差像)(図3K)。さらに長期間の培養、および、高密度クラスターへの増殖の後、細胞はRPE細胞に特徴的な形態学および色素沈着を再獲得する(図3L)。
【図4A−B】アクチビンAはRPE分化を誘導する。ヒトESCを、最初の1週間の分化の後で補充されたアクチビンAの非存在下または存在下で6週間、浮遊性クラスターとして分化させた。クラスターの暗視野顕微鏡写真は、アクチビンAが、色素沈着細胞を含むクラスターの割合を著しく増大させたことを示す(図4A、図4B)(白矢印により、分化し続けるクラスターの内部における色素沈着領域が示され、また、クラスターのいくつかの内部における色素沈着領域の境界が点線によって示される)。アクチビンAの存在下では、色素沈着領域の境界がクラスター内の周りの色素非沈着領域からよりはっきり区別される。さらに、色素沈着細胞がアクチンビンAの存在下ではより濃い(図4B)。
【図4C−E】アクチビンAはRPE分化を誘導する。RNAレベルにおいて、リアルタイムPCR分析により、RPE65の発現(図4D)およびベストロフィンの発現(図4E)がアクチンビンAの存在下で著しく高まることが示される。MiTF−Aの発現はアクチビンA処理によって変化しなかった(図4C)。
【図5A−D】BMPおよびTGFβ3はRPE分化において役割を有する。ヒトESCを、6週間、浮遊性クラスターとして分化させるために誘導した。色素沈着細胞への自発的分化が希に認められたが(図5A)、培地がNAにより補充されたときには著しく高まった(図5B、最も左側および左側の暗視野像;白矢印により、分化し続けるクラスターの内部における色素沈着領域が示される)。nogginによる培地の補充は、色素沈着細胞への分化をNAの非存在下(図5D)および存在下(図5C)の両方で阻止した。
【図5E−G】BMPおよびTGFβ3はRPE分化において役割を有する。RNAレベルにおいて、リアルタイムPCR分析により、nogginがMiTF−Aの発現レベルをNAの存在下および非存在下の両方で低下させたことが示された(図5E)。TGFβ3がNAの存在下でのhESCクラスターの分化の期間中に培養培地に加えられたとき、TGFβ3はMiTF−Aの発現レベルを著しく増強したが(図5F)、RPE65の発現レベルを増強しなかった(図5G)。
【図6A−G】ラットの眼における移植されたhESC由来RPE細胞の生存および一体化。hESC由来RPE細胞を眼内移植した後、色素沈着細胞をシロネズミの眼においてインビボで容易に特定することができた(図6A、図6B)。眼球摘出(図6B)、ならびに、角膜および水晶体の除去の後、中心となる移植片、同様にまた、さらなる分散した色素沈着斑を認めることができた(図6C)。組織学的切片において、GFPもまた共発現する濃い色素沈着細胞を含んだ移植片を特定することができた(図6D〜図6G)。このことは、これらの細胞がhESC由来であったという事実を証明する。
【図6H−J】ラットの眼における移植されたhESC由来RPE細胞の生存および一体化。移植された細胞を硝子体内領域において見出すことができ、また、網膜と水晶体との間において見出すことができ(図6H)、また、(時には、注入路に沿って硝子体の中に突き出るが)網膜において見出すことができ(図6I)、また、網膜下腔においても見出すことができた(図6I、図6O、図6P)。移植されたhESC由来RPE細胞(矢印により示される色素沈着細胞)がシロネズミのRPE層の中に一体化した(図6J)。色素沈着細胞がコントロールの移植されていない眼のRPE層では認められなかった。
【図6K−P】ラットの眼における移植されたhESC由来RPE細胞の生存および一体化。移植された細胞を硝子体内領域において見出すことができ、また、網膜と水晶体との間において見出すことができ(図6H)、また、(時には、注入路に沿って硝子体の中に突き出るが)網膜において見出すことができ(図6I)、また、網膜下腔においても見出すことができた(図6I、図6O、図6P)。移植されたhESC由来RPE細胞(矢印により示される色素沈着細胞)がシロネズミのRPE層の中に一体化した(図6J)。色素沈着細胞がコントロールの移植されていない眼のRPE層では認められなかった。移植片の内部において、ZO−1による免疫染色(図6K〜図6N)により、接着結合が、移植されたGFP+hESC由来細胞の間に存在したことが示された。そのような結合はRPE細胞に特徴的である。RPE機能異常および網膜変性を有するRCSラットの網膜下腔への移植の後、光受容体層が比較的保存されることを、(矢印によって示される)移植片から離れた領域と比較されたとき、移植片の近くで認めることができた(図6O;四角内の領域が星印によって示され、図6Pに拡大される)。多角形形状および丸石様外観を有する大きい移植されたhESC由来EPR細胞に留意すること(図6P)(星印)。ここに示されるすべての場合において、RPE細胞は、アクチンAの存在を伴わないhESCに由来した。
【図7】網膜電図記録法による記録は、hESC由来RPE細胞の移植により、網膜機能の救済がジストロフィー性RCSラットの眼においてもたらされることを示す。全範囲ERG応答が、移植されていないコントロールの他眼と比較して、hESCに由来するRPE細胞を移植した後のRCSラットの眼ではより大きい(n=11匹のラット)。これらの実験で使用されたRPE細胞は、培養培地へのアクチビンAの添加を行うことなく誘導された。強度が増大する4つの刺激に対する暗順応した混合型の錐体−杆体応答のb波振幅が示される。
【図8A−F】hESCからの色素沈着細胞の発達を誘導することにおけるNAの影響を示す、形態学およびマーカー発現の分析。色素沈着細胞の進行性出現を、NAの存在下(図8A、図8Cおよび図8E)または非存在下(図8B、図8Dまたは図8F)での4週間(図8A、図8B)、6週間(図8C、図8D)および8週間(図8E、図8F)にわたるhESC由来クラスターの培養の期間中において示す暗視野顕微鏡写真(白矢印により、分化し続けるクラスターの内部における色素沈着領域が示される)。
【図8G−I】hESCからの色素沈着細胞の発達を誘導することにおけるNAの影響を示す、形態学およびマーカー発現の分析。NAが補充された培地における培養(太線の棒)の期間中およびコントロール培養物(細線の棒)における種々の時点での、色素沈着領域を含有するクラスターの割合のヒストグラム表示(図8G)。NA補充による8週間の培養の期間中における、色素沈着領域の割合のヒストグラム表示(図8H)、および、抗MiTF(初期のRPEマーカー)との免疫反応性を有する細胞の割合のヒストグラム表示(図8I)。スケールバー:(A)200μm;p<0.05;**p<0.001。
【図9A−D】RPE発達の進行を、hESCが分化し続けるクラスターにおいて時間に沿って示すリアルタイムPCR分析、免疫染色分析およびフローサイトメトリー分析(図9A〜図9L)。RPE発達における重要な遺伝子の発現の時期を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で培養されたクラスターにおいて分析するリアルタイムPCR。下記マーカーの進行性発現をhESC由来クラスターの8週間の分化の期間中において連続した時点で分析した:hESC特異的マーカー、Oct4(図9A);初期神経マーカー、Otx2(図9B)、Musashi(図9C)およびPax6(図9D);網膜始原体マーカー、Six3(図9E)、Rx1(図9F)およびChx10(図9G);RPEマーカー、MiTF−A(図9H)、RPE65(図9I)およびベストロフィン(図9J);光受容体始原体マーカー、Crx(図9K);メラノサイト発達マーカー、Sox10(水平縞の棒、図9L)(M51メラノサイト細胞株がコントロールとして使用される)。hESC特異的マーカーのTRA−1−60(図9M)および神経始原体マーカーのPSA−NCAM(図9O)の進行性発現を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で8週間にわたって分化するクラスターにおいて明らかにするFACS分析。NAの存在下で2週間および4週間にわたって分化するクラスターの中における、PSA−NCAM(太線の棒)、ネスチン(水平縞の棒)、Musashi(細線の棒)、Pax6(垂直縞の棒)の初期神経マーカーを発現する細胞の割合の間接的免疫蛍光分析(図9N)。これらのマーカーを発現する細胞を明らかにする免疫蛍光像:PSA−NCAM(図9P)、ネスチン(図9Q)、musashi(図9R)、Pax6(図9S)。
【図9E−H】RPE発達の進行を、hESCが分化し続けるクラスターにおいて時間に沿って示すリアルタイムPCR分析、免疫染色分析およびフローサイトメトリー分析(図9A〜図9L)。RPE発達における重要な遺伝子の発現の時期を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で培養されたクラスターにおいて分析するリアルタイムPCR。下記マーカーの進行性発現をhESC由来クラスターの8週間の分化の期間中において連続した時点で分析した:hESC特異的マーカー、Oct4(図9A);初期神経マーカー、Otx2(図9B)、Musashi(図9C)およびPax6(図9D);網膜始原体マーカー、Six3(図9E)、Rx1(図9F)およびChx10(図9G);RPEマーカー、MiTF−A(図9H)、RPE65(図9I)およびベストロフィン(図9J);光受容体始原体マーカー、Crx(図9K);メラノサイト発達マーカー、Sox10(水平縞の棒、図9L)(M51メラノサイト細胞株がコントロールとして使用される)。hESC特異的マーカーのTRA−1−60(図9M)および神経始原体マーカーのPSA−NCAM(図9O)の進行性発現を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で8週間にわたって分化するクラスターにおいて明らかにするFACS分析。NAの存在下で2週間および4週間にわたって分化するクラスターの中における、PSA−NCAM(太線の棒)、ネスチン(水平縞の棒)、Musashi(細線の棒)、Pax6(垂直縞の棒)の初期神経マーカーを発現する細胞の割合の間接的免疫蛍光分析(図9N)。これらのマーカーを発現する細胞を明らかにする免疫蛍光像:PSA−NCAM(図9P)、ネスチン(図9Q)、musashi(図9R)、Pax6(図9S)。
【図9I−L】RPE発達の進行を、hESCが分化し続けるクラスターにおいて時間に沿って示すリアルタイムPCR分析、免疫染色分析およびフローサイトメトリー分析(図9A〜図9L)。RPE発達における重要な遺伝子の発現の時期を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で培養されたクラスターにおいて分析するリアルタイムPCR。下記マーカーの進行性発現をhESC由来クラスターの8週間の分化の期間中において連続した時点で分析した:hESC特異的マーカー、Oct4(図9A);初期神経マーカー、Otx2(図9B)、Musashi(図9C)およびPax6(図9D);網膜始原体マーカー、Six3(図9E)、Rx1(図9F)およびChx10(図9G);RPEマーカー、MiTF−A(図9H)、RPE65(図9I)およびベストロフィン(図9J);光受容体始原体マーカー、Crx(図9K);メラノサイト発達マーカー、Sox10(水平縞の棒、図9L)(M51メラノサイト細胞株がコントロールとして使用される)。hESC特異的マーカーのTRA−1−60(図9M)および神経始原体マーカーのPSA−NCAM(図9O)の進行性発現を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で8週間にわたって分化するクラスターにおいて明らかにするFACS分析。NAの存在下で2週間および4週間にわたって分化するクラスターの中における、PSA−NCAM(太線の棒)、ネスチン(水平縞の棒)、Musashi(細線の棒)、Pax6(垂直縞の棒)の初期神経マーカーを発現する細胞の割合の間接的免疫蛍光分析(図9N)。これらのマーカーを発現する細胞を明らかにする免疫蛍光像:PSA−NCAM(図9P)、ネスチン(図9Q)、musashi(図9R)、Pax6(図9S)。
【図9M−O】RPE発達の進行を、hESCが分化し続けるクラスターにおいて時間に沿って示すリアルタイムPCR分析、免疫染色分析およびフローサイトメトリー分析(図9A〜図9L)。RPE発達における重要な遺伝子の発現の時期を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で培養されたクラスターにおいて分析するリアルタイムPCR。下記マーカーの進行性発現をhESC由来クラスターの8週間の分化の期間中において連続した時点で分析した:hESC特異的マーカー、Oct4(図9A);初期神経マーカー、Otx2(図9B)、Musashi(図9C)およびPax6(図9D);網膜始原体マーカー、Six3(図9E)、Rx1(図9F)およびChx10(図9G);RPEマーカー、MiTF−A(図9H)、RPE65(図9I)およびベストロフィン(図9J);光受容体始原体マーカー、Crx(図9K);メラノサイト発達マーカー、Sox10(水平縞の棒、図9L)(M51メラノサイト細胞株がコントロールとして使用される)。hESC特異的マーカーのTRA−1−60(図9M)および神経始原体マーカーのPSA−NCAM(図9O)の進行性発現を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で8週間にわたって分化するクラスターにおいて明らかにするFACS分析。NAの存在下で2週間および4週間にわたって分化するクラスターの中における、PSA−NCAM(太線の棒)、ネスチン(水平縞の棒)、Musashi(細線の棒)、Pax6(垂直縞の棒)の初期神経マーカーを発現する細胞の割合の間接的免疫蛍光分析(図9N)。これらのマーカーを発現する細胞を明らかにする免疫蛍光像:PSA−NCAM(図9P)、ネスチン(図9Q)、musashi(図9R)、Pax6(図9S)。
【図9P−S】RPE発達の進行を、hESCが分化し続けるクラスターにおいて時間に沿って示すリアルタイムPCR分析、免疫染色分析およびフローサイトメトリー分析(図9A〜図9L)。RPE発達における重要な遺伝子の発現の時期を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で培養されたクラスターにおいて分析するリアルタイムPCR。下記マーカーの進行性発現をhESC由来クラスターの8週間の分化の期間中において連続した時点で分析した:hESC特異的マーカー、Oct4(図9A);初期神経マーカー、Otx2(図9B)、Musashi(図9C)およびPax6(図9D);網膜始原体マーカー、Six3(図9E)、Rx1(図9F)およびChx10(図9G);RPEマーカー、MiTF−A(図9H)、RPE65(図9I)およびベストロフィン(図9J);光受容体始原体マーカー、Crx(図9K);メラノサイト発達マーカー、Sox10(水平縞の棒、図9L)(M51メラノサイト細胞株がコントロールとして使用される)。hESC特異的マーカーのTRA−1−60(図9M)および神経始原体マーカーのPSA−NCAM(図9O)の進行性発現を、NAの存在下(太線の棒)または非存在下(細線の棒)で8週間にわたって分化するクラスターにおいて明らかにするFACS分析。NAの存在下で2週間および4週間にわたって分化するクラスターの中における、PSA−NCAM(太線の棒)、ネスチン(水平縞の棒)、Musashi(細線の棒)、Pax6(垂直縞の棒)の初期神経マーカーを発現する細胞の割合の間接的免疫蛍光分析(図9N)。これらのマーカーを発現する細胞を明らかにする免疫蛍光像:PSA−NCAM(図9P)、ネスチン(図9Q)、musashi(図9R)、Pax6(図9S)。
【図10A−C】hESCの浮遊性クラスターの内部における色素発現細胞は、推定されるRPE細胞であることを示す、形態学、マーカー発現および機能の分析。F−アクチンの分布を、RPEに特徴的であるhESC由来の色素沈着した子孫の内部において示すファロイジン染色(図10A);解離、低密度での置床および培養の後、色素沈着細胞は色素沈着を失い、類線維様の形態学を獲得する(位相差像、1週間の培養)(図10B)。さらに長期間の培養、および、高密度クラスターへの増殖の後、細胞はRPE細胞に特徴的な形態学および色素沈着を再獲得する(1.5ヶ月の培養)(図10C)。
【図10D−F】hESCの浮遊性クラスターの内部における色素発現細胞は、推定されるRPE細胞であることを示す、形態学、マーカー発現および機能の分析。RPEに特徴的な特徴を示すhESC由来RPE細胞の電子顕微鏡分析:微絨毛(図10D)、基底膜(図10E)、メラニン顆粒(図10D)、密着結合(図10F)。
【図10G−J】hESCの浮遊性クラスターの内部における色素発現細胞は、推定されるRPE細胞であることを示す、形態学、マーカー発現および機能の分析。hESC由来の色素沈着細胞による緑色蛍光ラテックスビーズ(白矢じり)の食作用を示す位相差像(図10G)および蛍光像(図10H〜図10J);細胞膜を赤色蛍光色素PKHにより染色した(灰色)。3つの共焦点蛍光像により、連続するz軸切片が明らかにされた(図10H〜図10J)。
【図11A−F】TGFβファミリー由来の因子は、RPEの究極的運命に向かう分化を促進することを示す、形態学および遺伝子発現の分析。4週間分化するhESC由来クラスターの暗視野顕微鏡写真では、アクチビンの存在下におけるこの初期段階での色素沈着細胞の出現(図11A)、ならびに、NAのみ(図11B)とは対照的に、アクチビンAおよびNAの存在下で分化する色素沈着クラスターの数における増大(図11C)が示された。アクチビンAと同様に、TGFβ1による補充もまた、色素沈着クラスターの出現を増大させる(図11D)。対照的に、アクチビンのシグナル伝達経路の阻害剤(SB431542)をアクチビンAおよびNAと一緒に適用することにより、色素沈着クラスターの出現に対するアクチビンAの影響が低下した(図11E)。色素沈着クラスターの発達もまた、細胞をNAと一緒にFGFβの存在下で培養することによってなくなった(図11F)。
【図11G−I】TGFβファミリー由来の因子は、RPEの究極的運命に向かう分化を促進することを示す、形態学および遺伝子発現の分析。アクチビン受容体およびアクチビンAの転写物の発現が、NAの存在下または非存在下で培養された2週齢のクラスター、および、コントロールとしての未分化hESCのRT−PCR分析によって明らかにされた(図11G)。NA、NA+ActA、NA+SB431542、NA+ActA+SB431542、NA+TGFβ1の存在下で培養した後の4週間での色素沈着領域含有クラスターの割合のヒストグラム分析(図11H)。NAの補充(太線の棒)、または、アクチビンAおよびNAの補充(対角縞の棒)を伴う4週間の培養の後における色素沈着細胞の割合のヒストグラム分析(図11I)。**p<0.005(白矢印により、分化し続けるクラスターの内部における色素沈着領域が示される)。
【図11J−L】TGFβファミリー由来の因子は、RPEの究極的運命に向かう分化を促進することを示す、形態学および遺伝子発現の分析。140ng/mlがRPE誘導のために最適であるアクチビンAの種々の濃度における色素沈着細胞の割合のヒストグラム分析(図11J)、ならびに、RPEマーカーの転写物の発現レベルのヒストグラム分析:ベストロフィン(図11K)およびRPE65(図11L)。
【図11M−P】TGFβファミリー由来の因子は、RPEの究極的運命に向かう分化を促進することを示す、形態学および遺伝子発現の分析。アクチビンAの補充(対角縞の棒)または非補充(太線の棒)を伴ってNAの存在下で分化するhESCにおける網膜遺伝子およびRPE遺伝子の発現レベルに対するアクチビンAの影響のリアルタイムPCR経時変化分析:ベストロフィン(図11M)、総MiTF(図11N)、Rx1(図11O)およびChx10(図11P)。
【図12A−C】NAおよびアクチビンAによって処理されたhESCに由来するRPE細胞はジストロフィー性RCSラットの眼における網膜下移植の後で生存する。色素沈着細胞のクラスターを、眼底画像化システムを使用してRCSラットの眼においてインビボで容易に特定することができた(図12A〜図12C);移植片の網膜下の存在位置を示した眼底写真(図12A)および赤色除外写真(図12B)(網膜血管が色素沈着領域全体に走ることに留意すること)。hESC由来のGFP発現細胞は、フルオレセインの励起フィルターおよび放射フィルターが使用されたとき、蛍光を放射することを認めることができる(図12C)。
【図12D−E】NAおよびアクチビンAによって処理されたhESCに由来するRPE細胞はジストロフィー性RCSラットの眼における網膜下移植の後で生存する。蛍光顕微鏡においてエクスビボで画像化されたアイカップ調製物(図12D〜図12E)では、網膜下のGFP陽性細胞の大きいクラスターを認めることができ(図12D)、同様にまた、多数の分散したより小さいクラスターを認めることができる(図12E)。
【図13A−B】RCSラットの眼における、網膜下のhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞移植片の組織学的外観。ヘマトキシリンおよびエオシンによって染色された組織学的切片(図13Aおよび図13B)では、移植されたhESC由来の色素沈着細胞(これらはクラスターで現れたか、または、孤立した細胞として現れた)の網膜下および時には網膜内での存在位置が示された(矢印)。
【図13C−D】RCSラットの眼における、網膜下のhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞移植片の組織学的外観。GFPによる免疫染色(図13C〜図13D)により、これらの細胞が実際にhESC由来であることが確認された。移植片は多くの場合、かなり大きく、また、散らばり(図13C)、また、GFPを共発現する色素沈着細胞を明瞭に認めることができる(図13D)。GFP陽性の色素沈着細胞が宿主のRPE層の内部に一体化していることに留意すること(図13D、矢印)。
【図13E−F】RCSラットの眼における、網膜下のhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞移植片の組織学的外観。GFPによる免疫染色(図13E〜図13F)により、これらの細胞が実際にhESC由来であることが確認された。移植片は多くの場合、かなり大きく、また、散らばり(図13E)、また、GFPを共発現する色素沈着細胞を明瞭に認めることができる(図13F)。
【図14A−E】移植されたhESC由来の色素沈着細胞は成熟RPEのマーカーを発現する。免疫染色により、移植片の内部における多数の移植された細胞が、RPE特異的なマーカーのRPE65(図14A〜図14E)およびベストロフィン(図14F〜図14J)、ならびに、密着結合マーカーのZO−1(図14K〜図14O)を含めて、成熟RPE細胞に特徴的である様々なタンパク質を発現することが明らかにされた。図14A、図14Fおよび図14Kは、GFPおよび関連マーカーを共発現する移植片の低倍率蛍光像を示す。それぞれの横列における高倍率の共焦点像では、色素(Nomarski光学系による)、ならびに、GFPおよび種々のマーカーの共発現が細胞1個のレベルで示される。これらの系列により、細胞が実際にhESC由来であること、および、細胞が成熟RPEの様々なマーカーをインビボで発現することが確認される。図14Mにおいて、GFPの共発現(図14N、図14O)が実際に生じるZO−1陽性のhESC由来細胞(図14Mにおける完全な矢印)とは対照的に、宿主RPEがZO−1について染まり(点線の矢印)、一方で、宿主RPEは、図14N、図14OではGFP陰性である(対応する領域が暗い)ことに留意すること。
【図14F−J】移植されたhESC由来の色素沈着細胞は成熟RPEのマーカーを発現する。免疫染色により、移植片の内部における多数の移植された細胞が、RPE特異的なマーカーのRPE65(図14A〜図14E)およびベストロフィン(図14F〜図14J)、ならびに、密着結合マーカーのZO−1(図14K〜図14O)を含めて、成熟RPE細胞に特徴的である様々なタンパク質を発現することが明らかにされた。図14A、図14Fおよび図14Kは、GFPおよび関連マーカーを共発現する移植片の低倍率蛍光像を示す。それぞれの横列における高倍率の共焦点像では、色素(Nomarski光学系による)、ならびに、GFPおよび種々のマーカーの共発現が細胞1個のレベルで示される。これらの系列により、細胞が実際にhESC由来であること、および、細胞が成熟RPEの様々なマーカーをインビボで発現することが確認される。図14Mにおいて、GFPの共発現(図14N、図14O)が実際に生じるZO−1陽性のhESC由来細胞(図14Mにおける完全な矢印)とは対照的に、宿主RPEがZO−1について染まり(点線の矢印)、一方で、宿主RPEは、図14N、図14OではGFP陰性である(対応する領域が暗い)ことに留意すること。
【図14K−O】移植されたhESC由来の色素沈着細胞は成熟RPEのマーカーを発現する。免疫染色により、移植片の内部における多数の移植された細胞が、RPE特異的なマーカーのRPE65(図14A〜図14E)およびベストロフィン(図14F〜図14J)、ならびに、密着結合マーカーのZO−1(図14K〜図14O)を含めて、成熟RPE細胞に特徴的である様々なタンパク質を発現することが明らかにされた。図14A、図14Fおよび図14Kは、GFPおよび関連マーカーを共発現する移植片の低倍率蛍光像を示す。それぞれの横列における高倍率の共焦点像では、色素(Nomarski光学系による)、ならびに、GFPおよび種々のマーカーの共発現が細胞1個のレベルで示される。これらの系列により、細胞が実際にhESC由来であること、および、細胞が成熟RPEの様々なマーカーをインビボで発現することが確認される。図14Mにおいて、GFPの共発現(図14N、図14O)が実際に生じるZO−1陽性のhESC由来細胞(図14Mにおける完全な矢印)とは対照的に、宿主RPEがZO−1について染まり(点線の矢印)、一方で、宿主RPEは、図14N、図14OではGFP陰性である(対応する領域が暗い)ことに留意すること。
【図15】移植されたhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞により、機能的救済がRCSラット網膜変性モデルにおいてもたらされる。第8週で記録された全範囲ERG応答は、処置されていないコントロールの他眼と比較されたとき、同様にまた、培地だけの網膜下注入が行われた眼と比較されたとき、hESCに由来するアクチビン処理されたRPE細胞を移植した後のRCSラットの眼の方が高かった。暗順応した状態における、強度が増大する一連の白色閃光に対する代表的なERG応答が、移植を受けた眼(図15A)において、そのコントロールの他眼(図15B)に対して示される。図15Cは、移植を受けた眼と、コントロール眼の様々な異なる群(黒ひし形、注入を受けた眼(n=13);黒四角、注入を受けなかった眼(n=13);黒丸、培地注入を受けなかった眼(n=5)、黒三角、培地注入を受けた眼(n=5))との間において、平均振幅における際立った違いを示す。示されるように、網膜機能のより良好な保存に向かう傾向が、アクチビンAの非存在下で誘導されるRPE細胞(図7)を移植した後で達成される救済効果と比較されたとき、アクチビンAにより処理されたRPE細胞(ここに示される)を移植した後では認められる。
【図16A−B】移植されたhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞により、構造的救済がRCSラット網膜変性モデルにおいてもたらされる。変性しつつある宿主網膜に対する、移植されたhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞の影響を、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色された切片の高分解能顕微鏡像を使用して調べ、定量した。外顆粒層(光受容体層)(ONL)、ならびに、内側および外側の光受容体セグメント(IS+OS)が比較的保存されることが、移植片から離れた領域と比較されたとき、網膜下のRPE移植片の近くで認められた(2つの例が、図16A、図16Bに示される)。図16Aにおける挿入図により、この違いが明らかにされる(移植片の近くにおいて右側の挿入図に示される比較的厚いONLを有する救済された網膜;ONLがひどく薄くなっていることが、移植片から離れた左側の挿入図において見られる)。
【図16C−D】移植されたhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞により、構造的救済がRCSラット網膜変性モデルにおいてもたらされる。網膜全体の厚さ(図16C)、同様にまた、ONLおよびIS+OSの厚さ(図16D)が、移植片から離れた領域(灰色棒)に対して比較されたとき、hESC由来のRPE移植片の近傍では著しく増大した(黒色棒、平均±SEM、n=7)。このタイプの構造的救済が網膜下移植片および深部網膜内移植片の近くでのみ観測されただけであり、移植片がもっぱら硝子体内であったときには観測されなかった(示されず)。定量化技術の詳細については、方法を参照されたい。
【図17A−C】移植されたhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞により、ロドプシンがインビボで取り込まれる。網膜下の移植されたRPE細胞の共焦点像では、同じ1個の細胞の内部における、色素、GFP、RPE65およびロドプシンの共局在化が示される。RCSラットの生来的なRPE細胞はRPE65を発現したが(図17C、矢印)、GFPを発現せず(図17D、矢印)、最少量のロドプシンを含有する(図17B、図17E)。
【図17D−E】移植されたhESC由来のアクチビンA処理RPE細胞により、ロドプシンがインビボで取り込まれる。網膜下の移植されたRPE細胞の共焦点像では、同じ1個の細胞の内部における、色素、GFP、RPE65およびロドプシンの共局在化が示される。RCSラットの生来的なRPE細胞はRPE65を発現したが(図17C、矢印)、GFPを発現せず(図17D、矢印)、最少量のロドプシンを含有する(図17B、図17E)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、ヒト幹細胞(hSC)、好ましくは、ヒト胚性幹細胞(hESC)の網膜色素上皮(RPE)細胞への分化を促進するための培養システムを調製するための、トランスフォーミング増殖因子−β(TGFβ)スーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの使用を提供する。本明細書で詳しく議論される具体的に示されている使用に加えて、本開示において同様に包含されるものが、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの存在下におけるhSCの導かれた分化によって得られるRPE細胞、同様にまた、RPEの究極的運命へのhSCの導かれた分化を促進するための方法、同様にまた、そのようなhSC由来RPE細胞を成長および維持するための方法、ならびに、そのようなhSC由来RPE細胞を使用する方法であることに留意しなければならない。いくつかの好ましい実施形態によれば、本明細書中の教示に従って得られるRPE細胞は、下記でさらに議論および説明されるように、成熟している(別の言い方をすれば、最終分化した)機能的なRPE細胞である。
【0020】
本開示は大まかには、RPE細胞、好ましくは、成熟しているRPE細胞へのhSCの導かれた分化を促進/誘導/増強することにおける増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの使用に関する。
【0021】
下記の記載および請求項では、使用が、時には、様々な用語とともに行われ、本教示に従って解釈されなければならないような用語の意味は下記の通りである。
【0022】
用語集
「トランスフォーミング増殖因子−β(TGFβ)スーパーファミリー増殖因子」は、本明細書で使用される場合、増殖因子のTGFβスーパーファミリーのいずれかのメンバーを意味し、例えば、トランスフォーミング増殖因子−βタンパク質(これには、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3のサブタイプが含まれる)、同様にまた、相同的なリガンド(これには、アクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンBおよびアクチビンAB)、ノーダル(nodal)、抗ミューラーホルモン(AMH)、いくつかの骨形態形成タンパク質(BMP)(例えば、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6およびBMP7)および成長分化因子(GDF)が含まれる)などを意味する。
【0023】
「ヒト幹細胞」または「hSC」は、本明細書で使用される場合、下記で詳述されるように、好適な条件下では、特定の特殊化された機能を有する他の細胞タイプに分化することができ、その一方で、他の好適な条件下では、未分化の多能性状態で自己再生することができ、また、未分化の多能性状態に留まることができるヒト起源の細胞を示す。
【0024】
本明細書で使用される「細胞」は、1個の細胞、同様にまた、細胞の集団(すなわち、2個以上の細胞)を示す。集団は、1つの細胞タイプを含む純集団である場合がある。代替では、集団は、2つ以上の細胞タイプを含む場合がある。hSC細胞は好ましくは、任意の年齢の個体の骨髄組織から、または、新生児個体の臍帯血もしくは組織から得られる造血系幹細胞または間葉系幹細胞、あるいは、胎児、出生後の任意の時期、または、死体脳から得られる神経幹細胞、あるいは、受精後に形成される胚組織(例えば、卵割球、胚盤胞)から得られる胚性幹細胞(ES細胞)、あるいは、妊娠期間中の任意の時期(好ましくは、妊娠10週前)の胎児の生殖組織から得られる胚性生殖細胞(EG細胞)である。細胞の用語は、1個の細胞または細胞のクラスターを意味する場合がある。
【0025】
「胚性幹細胞」および「多能性の胚性幹細胞」は、本明細書で使用される場合、生殖細胞(精子および卵)を含めて、胚または成体におけるいずれかの分化した細胞タイプを生じさせることができる細胞を示す。
【0026】
「細胞培養物」または「培養(された)細胞」は、本明細書で使用される場合、人工的なインビトロ環境で培養されるか、または育てられるか、または成長する細胞または組織を示す。
【0027】
「未分化の多能性hSC」、「多能性hSC」は、本明細書で使用される場合、いずれかの成体細胞を形成する能力を有する、ヒト供給源の前駆体細胞を示す。そのような細胞は、その細胞が、(i)未分化の状態におけるインビトロでの大規模な増殖が可能であり、また、(ii)長期間にわたる培養の後でさえ、3つすべての胚の胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)の派生体への分化が可能であるという点で、真の細胞株である。hESCが、(卵割段階または胚盤胞段階での)1週齢未満である受精胚から得られるか、または、同等な特徴を有する人為的手段によって(例えば、核移入によって)作製される。他の多能性hSCには、多分化能の成体始原体細胞(MAP)、誘導された多能性幹細胞(iPS細胞)、および、羊水幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
「未分化(の)」は、本明細書で使用される場合、集団における細胞およびその派生体の実質的な割合(少なくとも20%、場合により、50%または80%を超えて)が未分化細胞の特徴的なマーカーおよび形態学的特徴を呈示し、これらにより、未分化細胞が胚起源または成体起源の分化した細胞から識別されるときの培養された細胞を示す。細胞は、細胞が少なくとも3週間の培養期間中に少なくとも1回の集団倍加を経て、一方で、未分化細胞の特徴的マーカーまたは形態学的特徴を有する細胞の少なくとも約50%または同じ割合を前記培養期間の後で保持するとき、未分化の状態で増殖すると認識される。
【0029】
「細胞懸濁物」または「浮遊性細胞」は、本明細書で使用される場合、細胞の大部分が、培地において、典型的には、培養培地(システム)において自由に浮遊する細胞の培養物を示し、この場合、細胞は、1個1個がばらばらの細胞として、細胞クラスターとして、および/または、細胞凝集物として浮遊する。言い換えれば、細胞は、基体に付着することなく、培地において生存および拡大培養する。
【0030】
「培養システム」は、本明細書で使用される場合、SCの拡大培養のために好適である培養システムを示す。この用語は、基礎培地(塩、糖およびアミノ酸を含む、定義された基本溶液を通常は含む細胞培養培地)と、増殖因子のトランスフォーミング増殖因子−β(TGFβ)スーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーとを少なくとも含む様々な構成要素の組合せを意味する。本発明による培養システムはさらに、他の構成要素を含むことができ、例えば、血清または血清代用物、培養(栄養)培地、および、外部から添加された他の因子(これらは一緒になって、SCの成長を支える好適な条件を提供する)、同様にまた、細胞培養システムにおいて典型的に使用される他の成分など(これらに限定されない)を含むことができる。上記の構成要素はまとめて、可溶性の構成要素として分類することができる。しかしながら、本発明の関連においては、構成要素はまた、キャリア、すなわち、不溶性の構成要素に連携することができる。そのような連携は化学的または物理的な付着/結合によることができる。例えば、構成要素をマトリックス(例えば、細胞外マトリックス)の表面に固定化することができ、または、システムに加えられる細胞によって提供することができ、または、生分解性物質に結合させることができる。さらに、構成要素をキャリアから放出させることができ、キャリアは、構成要素を包むか、または埋め込む細胞または小胞である場合がある。従って、下記では、培養システムを形成するために基礎培地を補う構成要素は、可溶性の構成要素および不溶性の構成要素の両方を含む。
【0031】
「分化」は、本明細書で使用される場合、細胞の状態をある1つの細胞タイプから別の細胞タイプに切り換えるプロセスを示し、より具体的には、本開示の関連においては、そのようなRPE細胞が成熟している(最終分化した)細胞であることを示す少なくとも1つの特徴的な特徴を有する網膜色素上皮(RPE)細胞の細胞タイプを獲得するヒト幹細胞のプロセスを示している。本明細書で使用される用語「細胞タイプ」は、細胞の異なった形態学的形態または機能的形態を示す。
【0032】
「分化し続けるhSC」は、本明細書で使用される場合、好適な条件下では、事前に決定されている究極的運命に、増強され、かつ、導かれた様式で分化することができる未分化のhSCを示す;この用語はまた、その少なくとも一部が、少なくとも最初の分化(すなわち、導かれた分化)またはそれらの組合せを受けるために既に誘導されている、hSCの集団を示す。
【0033】
「刺激する」、「増強する」、「促進する」または「導く」は、文脈が他のことを示さない限り本明細書では交換可能に使用されるが、RPE細胞への幹細胞の非自発的分化を開始することを示す。
【0034】
「分化誘導剤」または「分化促進剤」、「分化刺激剤」または「分化促進因子」は、本明細書では交換可能に使用されるが、体細胞(好ましくは、RPE細胞)への多能性SCの分化を刺激するか、増強するか、促進するか、または導くことができる任意の薬剤を意味する。
【0035】
「網膜色素上皮細胞」、「RPE細胞」、「RPE」は、文脈が許すように交換可能に使用され得るが、網膜の色素沈着細胞層を形成する生来的なRPE細胞の細胞タイプに機能的に類似する細胞タイプの細胞を意味する(例えば、眼の中に移植されたとき、そのような細胞は、生来的なRPE細胞の機能的活性に類似する機能的活性を示す)。従って、用語「網膜色素上皮細胞」、「RPE細胞」または「RPE」は、網膜の色素沈着層の生来的なRPE細胞と、本開示に従ってhSCから直接に分化されるRPE細胞との両方を示すために使用することができる。
【0036】
用語「hSC由来(の)RPE細胞」は、hSCからの導かれた分化によって得られるRPE細胞を意味するために本明細書では使用される。1つの好ましい実施形態によれば、hSC由来RPE細胞は、本明細書下記において定義されるパラメーターによって示されるような成熟している(最終分化した)機能的なRPE細胞である。用語「導かれた分化」は用語「RPE誘導(された)分化」と交換可能に使用され、RPE細胞タイプへの分化を誘導/促進するだけである培養条件下でhSCを操作するプロセスを意味するとして理解されなければならない。
【0037】
「機能的なRPE細胞」は、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの存在下でのhSCの導かれた分化によって得られる細胞を意味するために本明細書では使用され、そのようなRPE細胞は以下の特徴の少なくとも1つを示す:
− 分化期間中において、培養細胞はTGFβのシグナル伝達に対して応答する;
− RPE細胞は、そのうえ最終分化を示す様々なマーカー(例えば、ベストロフィンまたはRPE65)の発現によって、または、代替では、インビボで増殖する潜在能力を失っていることによって示されるように、成熟している最終分化した細胞である;
− 移植後(すなわち、インサイチュにおいて)、RPE細胞は、RPE細胞に隣接する光受容体を支える栄養作用を示す;
− さらに、インサイチュにおいて、RPE細胞は、これらの光受容体の正常な更新プロセスの一部としての脱落した光受容体外側セグメントの食作用を伴って機能することができる。
【0038】
従って、本発明によるRPE細胞は宿主RPEの再生のために特に好適であり、それにより、改善された視覚を対象の眼へのRPE細胞による移植の後でもたらす。
【0039】
「類似する」は、分化したRPE細胞に関連して使用されるとき、分化したRPE細胞が1つまたは複数の異なった形態学的特徴または機能的特徴を生来的なRPE細胞と共有することを意味する。例えば、十分な類似性が、例えば、分化した細胞が、天然に存在するRPE細胞の1つまたは複数のマーカー(例えば、MiTF、ZO−1、ベストロフィン、RPE65、Otx2、MertkおよびCRALBP)を発現すること、あるいは、細胞がRPE細胞の1つまたは複数の物理的な形態学的特徴(例えば、電子顕微鏡観察によって明らかにされるような、細胞内での典型的なF−アクチン分布、色素沈着顆粒による色素沈着、多角形(例えば、六角形)の形状、RPEの丸石様外観および超構造的特徴)を表すことを明らかにすることによって示されるかもしれない。加えて、上記で列挙された機能のいずれか1つ、例えば、RPE細胞に隣接する光受容体を支える栄養作用、ロドプシンに場所を提供する脱落した光受容体外側セグメントの食作用を伴う機能性、または、インビボで増殖する潜在能力がないことが含まれる場合がある。
【0040】
「大規模」は、細胞の培養および拡大に関して本明細書で使用される場合、細胞培養における細胞の倍加を4週間後に少なくとも可能する条件下でのRPE細胞の産生を示し、4週間後の細胞集団はRPE細胞から本質的になる。
【0041】
「細胞マーカー」は、本明細書で使用される場合、細胞を特徴づけるために、または、細胞を他の細胞タイプから識別するために使用することができる細胞の表現型特徴のいずれかを示す。マーカーは、タンパク質(これには、分泌タンパク質、細胞表面タンパク質または内在性タンパク質が含まれる;これらは、細胞によって合成されるか、または、取り込まれるかのどちらかである)、核酸(例えば、mRNAまたは酵素活性な核酸分子)、または、多糖であり得る。目的とする細胞タイプのマーカーについて特異的である、抗体、レクチン、プローブまたは核酸増幅反応によって検出可能である何らかのそのような細胞成分の決定基が含まれる。マーカーはまた、遺伝子産物の機能に依存する生化学的アッセイまたは酵素アッセイあるいは生物学的応答によって特定することができる。それぞれのマーカーに関連するものが、転写物をコードする遺伝子であり、また、マーカーの発現を引き起こす事象である。マーカーが、受け入れられ得るコントロール(例えば、アクチンまたはグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH))よりも、(抗体アッセイまたはPCRアッセイで測定される遺伝子産物全体に関しては)少なくとも50%高いレベルで発現されるならば、または、(集団における陽性細胞に関しては)少なくとも30%高頻度であるレベルで発現されるならば、マーカーは、未分化の細胞集団または分化した細胞集団において優先的に発現されると言われる。2倍以上、10倍以上、100倍以上または10000倍以上の高頻度で発現されるマーカーが、ますますより好ましい。
【0042】
本開示により、懸濁されているhSCに適用される独特な培養システムの存在下でのhSCの誘導的かつ導かれた分化に起因する、RPEが由来するhSCの使用が行われる。
【0043】
hSCの限定されない例には、胎児から、または、出生後の任意の時期で、または、死体から得られる神経幹細胞、任意の年齢のヒト個体の骨髄組織から、または、新生児個体の臍帯血から得られる造血幹細胞、間葉系幹細胞、羊水幹細胞、受精後に形成される胚組織から(例えば、1個の卵割球から、または、胚盤胞から)得られる胚性幹細胞(ES細胞)、妊娠期間中の任意の時期(好ましくは、妊娠10週前)の胎児の生殖組織から得られる胚性生殖細胞(EG細胞)、誘導された多能性幹細胞、あるいは、任意の年齢のヒト個体の生殖腺から得られる幹細胞がある。本発明による好ましいヒト幹細胞がヒト胚性幹細胞(hESC)である。
【0044】
hSCを、広く知られている細胞培養方法を使用して得ることができる。例えば、hESCを、卵割期または桑実期のヒト胚の1個1個ばらばらの卵割球から、すなわち、卵割段階および桑実胚のヒト胚ならびにヒト胚盤胞から単離することができる。ヒト胚を、インビボ着床前の胚から、または、より典型的には、体外受精(IVF)胚から得ることができる。代替では、受精していないヒト卵母細胞を、卵割し、発達して胚盤胞段階に至るように単為生殖的に活性化することができる。加えて、単一細胞のヒト胚を胚盤胞段階に拡大することができる。hESCを胚盤胞から単離するために、透明帯が除かれ、内部細胞塊(ICM)が免疫手術によって単離される。この場合、栄養外胚葉細胞が穏やかなピペッティングによって無傷のICMから溶解され、除かれる。その後、ICMは、その成長を可能にする適切な培地を含有する組織培養フラスコに置床される。9日後〜15日後において、ICM由来の成長物が機械的解離または酵素消化のどちらかによって凝集塊に解離され、その後、細胞が新鮮な組織培養培地に再置床される。未分化の形態学を明らかにするコロニーがマイクロピペットによって個々に選択され、機械的に凝集塊に解離され、再置床される。得られるESCが、その後、1週間毎〜2週間毎に定法に従って分割される。hESCの調製方法に関するさらなる詳細については、Thomson他[米国特許第5843780号;Science 282:1145、1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133、1998;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7844、1995]、Bongso他[Hum Reprod 4:706、1986]を参照のこと。
【0045】
市販されているhSCもまた、本発明に従って使用することができる。様々なhSCをNIHヒト胚性幹細胞登録機関から購入することができる。市販されている胚性幹細胞株の限定されない例には、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03およびTE32がある。
【0046】
hESCおよびhESC由来細胞の可能性のある様々な適用は広範囲にわたり、そのような範囲には、薬物発見および薬物試験、移植において使用される細胞、組織および器官の作製、生体分子の産生、化合物の毒性および/または催奇性を試験すること、分子をその毒性作用、再生作用、保護作用または何らかの他の作用についてハイ・スループット・スクリーニングすること、ならびに、発達プロセスおよび他の生物学的プロセスの研究を容易にすることが含まれる。例えば、hESCまたはhESC由来細胞の治療的移植によって処置可能であることが現在期待される疾患には、パーキンソン病、心筋梗塞、若年発症糖尿病および白血病が含まれる[Gearhart J.Science 282:1061〜1062、1998;RossantおよびNagy、Nature Biotech.17:23〜24、1999]。
【0047】
しかしながら、hESCの実用的な利用には様々な著しい困難がある。2つのそのような困難には、hESCを、自発的分化を伴うことなく、未分化の多能性状態で維持すること、および、体細胞の特定タイプへのhESCの分化を導くことが含まれる。いくつかの培養システムが、幹細胞(具体的には、hESC)を未分化の状態で維持および拡大培養するために記載されている
【0048】
数え切れないほどの治療的適用における、幹細胞に由来する分化した細胞の潜在的可能性のために、培養での幹細胞の分化を体細胞の特定の究極的運命に向かって導くか、または促進することは、非常に注目される。
【0049】
ある種の眼疾患および眼障害において、例えば、網膜および黄斑の眼疾患および眼障害において、RPE細胞の機能不全は究極的には視覚喪失を引き起こし、また、失明さえも引き起こす。機能不全の宿主RPEに取って代わり、また、機能不全の宿主RPEを支えるためにRPE細胞を移植することが、考えられる治療的介入として示唆されているが、そのような細胞をヒトドナーまたはヒト胚から得ることは困難である。従って、hSCは、機能的なRPE細胞へのその分化を導くための手段が解明され得るならば、RPE細胞のための潜在的な無限のドナー源として役立ち得る。
【0050】
今回、驚くべきことに、hSCを増殖因子のTGFβスーパーファミリーのメンバーと接触させることにより、RPEの究極的運命に向かうhSCの分化が強く促進されることが見出されている。別の言い方をすれば、これらの増殖因子は、hSCに対する誘導作用を有する。従って、トランスフォーミング増殖因子−β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバー(1つまたは複数)を、網膜色素上皮(RPE)細胞へのヒト幹細胞(hSC)の分化を誘導するための培養システムの調製のために使用することがそのように想定されている。
【0051】
増殖因子のTGFβスーパーファミリーの多くのメンバーが知られている(いくつかの限定されない例が上記で列挙される)一方で、1つの好ましい実施形態によれば、TGFβスーパーファミリーのメンバーは、好ましくは、TGFβ1増殖因子、TGFβ3増殖因子またはアクチビンA、あるいは、これらの組合せである。
【0052】
細胞培養におけるニコチンアミド(NA)が、幹細胞の胚体外細胞への分化に対する阻害作用を有すること、また、さらに、NAが、神経の究極的運命に向かう体細胞分化、および、さらにはRPE細胞様の究極的運命に向かう体細胞分化を促進することが以前に見出された。NAは、「ナイアシンアミド」としてもまた知られており、ベータ細胞の機能を保存および改善すると考えられる、ビタミンB3(ナイアシン)のアミド誘導体形態である。NAはCOの化学式を有する。NAは、成長および食物のエネルギーへの変換のために不可欠である。また、NAは、関節炎の処置、ならびに、糖尿病の処置および防止において使用されている。

【0053】
本開示の関連において、NAの用語はまた、NAの誘導体を意味する。
【0054】
用語「ニコチンアミド(NA)の誘導体」は、本明細書で使用される場合、天然NAの化学的修飾された誘導体である化合物を意味する。化学的修飾には、例えば、基本NA構造のピリジン環における置換(環構成炭素または環構成窒素を介する置換)、アミド成分の窒素原子または酸素原子を介する置換、ならびに、基の欠失または置換、例えば、NAのチオベンゾアミドアナログを形成するための基の欠失または置換が含まれ得る(これらのすべては、有機化学に精通した当業者によって理解される通りである)。本発明の関連における誘導体にはまた、NAのヌクレオシド誘導体(例えば、ニコチンアミドアデニン)が含まれる。NAの様々な誘導体が記載され、いくつかはまた、PDE4酵素の阻害活性との関連においてであり(WO03/068233;WO02/060875;GB2327675A)、または、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤としてである(WO01/55114)。例えば、4−アリールニコチンアミド誘導体を調製するプロセス(WO05/014549)。
【0055】
上記に関連して、今回、驚くべきことに、hSCがNAの存在下で分化し続けているとき、hSCの性質が変化し、それに従って、hSCが、RPEの究極的運命(好ましくは、成熟している機能的なRPE細胞)に向かうその分化を導く、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの誘導作用に対して応答する能力を獲得することが見出されている。従って、細胞を培養状態においてNAに事前にさらすこととの組合せで、hSCを増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーにその後でさらすとき、NAのRPE分化誘導作用が著しく高まり得る。
【0056】
従って、1つの実施形態によれば、細胞を増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーにより処理することを含む方法が、NAに事前にさらすこととの組合せで使用される。組合せを、TGFβおよびNAの両方を含む培養システムを調製するために、同様にまた、NAに既にさらされているhSCの分化および/またはさらなる分化を誘導/促進するために使用されるための、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーのみを含む培養システムを調製するために行うことができる。理論にとらわれることはないが、NAが分化誘導剤/促進剤として作用すると考えられ、また、同様に、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーがRPE分化促進因子として作用すると考えられる。加えて、理論によってとらわれることはないが、hSCをNAに事前にさらすことにより、細胞に、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーのRPE分化促進作用に対するその応答を可能にする性質がもたらされると考えられる。
【0057】
従って、本発明の1つの実施形態によれば、hSCは最初に、NAが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地(同じまたは異なる培地)でのその細胞培養で細胞を培養する前の少なくとも数時間、好ましくは少なくとも1日間、より好ましくは少なくとも2日間、培養される。
【0058】
別の実施形態によれば、未分化のhSCが、NAと、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーとが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養される。
【0059】
様々な基礎培地が、細胞培養における使用のために、好ましくは、SC培養における使用のためにこの技術分野において知られていることは特筆される。本開示に従って使用することができる基礎培地の限定されない列挙には、以下の培地が含まれる:Neurobasal(商標)(カタログ番号21103−049,Gibco 1998/1999)、KO−DMEM(カタログ番号10829−018,Gibco 1998/1999)、DMEM(カタログ番号41965−039,Gibco 2004)、DMEM/F12(カタログ番号21331−020,Gibco 2004)、Cellgro(商標)Stem Cell Growth Medium(カタログ番号2001,CellGenix 2005)、またはX−Vivo(商標)(カタログ番号04−380Q,LONZA 2007)。
【0060】
本開示はまた、RPEの究極的運命へのhSCの導かれた分化を誘導するための方法を提供し、この方法は:
(a)hSCを含む細胞培養物を提供すること;および
(b)前記細胞培養物における細胞を、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養し、それにより、RPEの究極的運命へのhSCの導かれた分化が促進されること
を含む。
【0061】
分化は、hSCの浮遊性クラスターの内部、または、接着性培養物の内部において生じ得る。接着性培養物の内部における体細胞分化が記載されていた[米国特許第7112437号]。従って、そのような接着性培養物は、増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された培養システムによってRPE分化を誘導するための基礎として役立ち得る。
【0062】
細胞培養における細胞は未分化hSCの集団であり得るか、または、hSCの少なくとも一部が分化を開始している細胞の集団であり得る。最初の分化が、導かれた分化である。従って、本開示の関連において、本方法で提供される細胞は、時には、分化し続ける細胞として示される。
【0063】
上記で既に示されたように、基礎培地は、培地への可溶性の構成要素の導入によって、同様にまた、不溶性の構成要素によって補充することができる。増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーによる補充に関連して、メンバーを可溶性形態で提供することができ、または、培養システムに添加されるマトリックスもしくは細胞に付着もしくは結合させることができ、あるいは、構成要素を他の物質に結合することができ、または複合体化することができる。メンバーはまた、後者に存在する細胞から培養システムに分泌させることができる。
【0064】
hSCを未分化の状態で提供することができ、同様にまた、分化促進因子(分化刺激剤)(例えば、NAなど)にさらされた後で提供することができる。未分化のhSCを、hSCが未分化の多能性状態で維持され得る様々な培養システムから得ることができる。例えば、細胞を、フィーダーを含まない接着性システムまたは懸濁システムにおいて培養することができ(WO06/070370)、あるいは、フィーダー細胞上で培養することができる。一般に使用されるフィーダー細胞には、初代マウス胚線維芽細胞(PMEF)、マウス胚線維芽細胞(MEF)、マウス胎児線維芽細胞(MFF)、ヒト胚線維芽細胞(HEF)、ヒト胚性幹細胞の分化から得られるヒト線維芽細胞、ヒト胎児筋細胞(HFM)、ヒト胎児皮膚細胞(HFS)、ヒト成体皮膚細胞、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)、臍帯血または胎盤から得られるヒト細胞、ヒト成体ファローピウス管上皮細胞(HAFT)、および、ヒト骨髄間質細胞(hMSC)が含まれる。hSCのクラスターを、細胞をフィーダー層または細胞外マトリックスから解離して、細胞の懸濁物を形成することによって接着性細胞培養物から得ることができる。細胞の懸濁物は、浮遊性クラスター、または、細胞のクラスターが成長して、細胞クラスターを形成する本質的には1個1個ばらばらの細胞の懸濁物を含むことができる。
【0065】
1つの好ましい実施形態によれば、細胞培養物は、細胞懸濁物、好ましくは、懸濁培養物での浮遊性クラスター、すなわち、ヒト胚性幹細胞(hESC)に由来する細胞の凝集物を含む。浮遊性幹細胞の様々な供給源が以前にWO06/070370に記載された(これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0066】
本開示による培養工程は、細胞を1つまたは複数の異なる培養システムによる細胞培養において培養することを含むことができ、そのような培養システムの少なくとも1つがTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーを含む。
【0067】
本開示の1つの実施形態によれば、培養における細胞は、増殖因子のTGFβスーパーファミリーの前記1つまたは複数のメンバーに加えて、NAが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養される。
【0068】
別の実施形態によれば、細胞が未分化のhSCである場合、細胞は最初に、基礎培地およびNAを含む培養システムにおいて培養され、そして、好ましくは、hSCの分化が誘導された後(すなわち、所定の期間の後、または、細胞の分化をこの技術分野において利用可能な技術によって確認した後)、細胞培養における細胞は、増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーを含む培養システムにおいて培養される。第2の培養システムもまた、NAを含むことができ、すなわち、最初の培養システムと同じにすることができ、この場合、最初の培養システムに、TGFβスーパーファミリーのメンバーが加えられる。結果として、RPE細胞への導かれた分化が誘導される。
【0069】
この実施形態によれば、最初の細胞培養におけるhSCは、少なくとも、hSCの分化が開始するために要求される期間、NAを含む培養システムにおいて培養される。1つの具体的な実施形態によれば、細胞培養システムは、数日間、好ましくは少なくとも2日間にわたって、また、好ましくは少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも2週間にわたって、NAを含む培養システムにおいて培養される。
【0070】
理論によってとらわれることはないが、NAが、自発的分化(すなわち、NA暴露の非存在下、または、TGFβのメンバーとの組合せでのNAへの暴露の非存在下で生じる自発的分化)と比較されたとき、その進行においてもまた加速される導かれた分化プロセスを誘導することが、本発明者らによって明記される。導かれた分化において、未分化の幹細胞が培養システムからより迅速に除かれることが本明細書において示されている。従って、NAが、導かれた分化プロセスを促進および加速させるための手段として、また、未分化の幹細胞を完全に除き、それにより、潜在的な合併症(例えば、未分化の細胞が移植後に存在することから生じるテラトーマ腫瘍形成)を防止するための手段として、分化し続けるhSCの培養システムにおいて使用される。
【0071】
hSCをNAにさらし、その後、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーにさらすことにより、自発的に分化し続ける細胞(すなわち、これらの因子の非存在下における自発的に分化し続ける細胞)と比較されたとき、異なる表現型を有する細胞への分化が誘導されることが本明細書において示されている。
【0072】
さらには、理論によってとらわれることはないが、NAが、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーに対する受容体(これらの受容体は、自発的に分化し続ける幹細胞によって発現されない)を発現する細胞への分化を誘導し、それによって、成熟している機能的なRPE細胞への導かれた分化を可能にすることが本発明者らによって仮定される。そのような受容体発現は、RPEの究極的運命に向かう、すなわち、成熟している機能的なRPE細胞に向かう、培養での分化し続ける細胞の導かれた分化に対するTGFβスーパーファミリーメンバーの誘導作用を可能にする。
【0073】
上記で示されたように、増殖因子のTGFβスーパーファミリーの様々なメンバーが存在する。例えば、本発明による増殖因子は下記増殖因子の1つまたは複数であり得る:TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、nodal、抗ミューラーホルモン(AMH)、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7または成長分化因子(GDF)。しかしながら、好ましくは、TGFβスーパーファミリーの増殖因子はTGFβ3またはTGFβ1またはアクチビンAまたはこれらの組合せである。
【0074】
本発明による基礎培地は、細胞の成長をインビトロで支えるためにこの技術分野において知られているいずれかの知られている細胞培養培地であり、典型的には、培養での細胞を生存可能な状態で維持するために要求される塩、糖、アミノ酸および何らかの他の栄養分を含む定義された基本溶液を含む培地である。本発明に従って利用することができる市販されている基礎培地の限定されない例には、Neurobasal(商標)、KO−DMEM、DMEM、DMEM/F12、Cellgro(商標)幹細胞成長培地またはX−Vivo(商標)が含まれる。基礎培地には、細胞培養を取り扱う技術分野において知られているような様々な作用因を補充することができる。以下は、本開示に従って使用されるために培養システムに含めることができる様々な補充物に対する限定されない言及である:
− 血清または血清代替物含有培地、例えば、ノックアウト血清代替物(KOSR)、Nutridoma−CS、TCH(商標)、N2、N2派生物またはB27、あるいは、組合せ(これらに限定されない);
− 細胞外マトリックス(ECM)成分、例えば、フィブロネクチン、ラミニンおよびゼラチン(これらに限定されない)。ECMは、増殖因子のTGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーを運ぶために使用することができる;
− 抗菌剤、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシン(これらに限定されない);
− 非必須アミノ酸(NEAA)、
− 培養でのSCの生存を促進することにおいて役割を果たすことが知られているニューロトロフィン、例えば、BDNF、NT3、NT4など(これらに限定されない)。
【0075】
細胞がRPEの究極的運命に促進されると、RPE細胞は、様々な適用における使用のために、様々な知られている方法によって培養から回収し/集めることができる。
【0076】
本開示はまた、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの存在下におけるhSCの導かれた誘導によって得られるRPE細胞を提供する。1つの実施形態によれば、そのようなRPE細胞が本発明の方法によって得られる。
【0077】
上記に加えて、本開示による導かれた分化によって産生されるRPE細胞は、自発的分化の期間中に発達するRPE細胞との比較において、様々な特異的性質を有する。
− 分化し続ける細胞は、その発達および分化においてTGFβシグナル伝達に対して応答する潜在的能力を有する;
− 得られるRPE細胞は成熟細胞である(最終分化している);
− 成熟RPE細胞は、自発的分化の期間中に形成されるRPE細胞との比較において、より濃い色素沈着を呈示する。
− 成熟RPE細胞は、自発的分化によって産生されるRPE細胞におけるそれらの発現と比較して、成熟RPE細胞の様々なマーカー(例えば、ベストロフィンおよびTPE65)の転写物の著しくより高いレベルを発現する。この関連において、例えば、図9J、図11Mおよび図11Kが参照され、これらは、NAの存在下での分化と比較して、自発的分化(NA非存在)におけるベストロフィンの発現を示し(図9J)、また、導かれた分化に対するアクチビンAの増強作用を示す(図11K、図11Mおよび図4E)。さらに、図1Bおよび図9Iが参照され、これらは、NAの存在下での分化と比較して、さらには図4DにおけるアクチビンAの増強作用と比較して、自発的分化(NA非存在)におけるRPE65の発現を示す。
− 電子顕微鏡(EM)分析において、RPE細胞は、自発的に分化し続けるhSCに由来したRPE様細胞の内部において明らかにされない、成熟している正真正銘のRPE細胞の様々な形態学的特徴(例えば、先端絨毛、密着結合および基底膜)を呈示する。
【0078】
本開示の方法によって産生されるRPE細胞は、そのような細胞の大規模および/または長期間の培養のために使用することができる。この目的のために、本発明の方法は、細胞の大規模産生のために好適であり、かつ、未分化のhSCが本発明に従って培養されなければならないバイオリアクターにおいて行われなければならない。細胞をバイオリアクターにおいて培養するための様々な一般的要件が、この技術分野に精通した当業者には広く知られている。
【0079】
代替として、本開示の方法によって産生されるRPE細胞はその誘導の後で拡大することができる。拡大のために、本開示の方法によって産生されるRPE細胞は解離され、細胞外マトリックス(好ましくは、ポリ−D−リシンおよびラミニン)上に低密度で置床され、NAを伴う血清非含有KOMにおいて培養される。これらの培養条件下で、色素沈着細胞は色素沈着を失い、類線維様の形態学を獲得する。さらに長期にわたる培養、および、高密度培養物への増殖の後、細胞はRPE細胞の特徴的な多角形形状の形態学および色素沈着を再獲得する。
【0080】
RPE細胞は、懸濁状態で、または、単層物で拡大することができる。単層培養物でのRPE細胞の拡大は、この技術分野に精通した当業者には広く知られている方法によってバイオリアクターでの大規模な拡大に変更することができる。
【0081】
RPE細胞をhSCから得ることが非常に有益であることが、この技術分野に精通した当業者によって理解される。RPE細胞を、その生存、再生および機能を促進するための新しい薬物を開発するためのインビトロモデルとして使用することができる。hSC由来RPE細胞は、RPE細胞に対して毒性作用または再生作用を有する化合物についてのハイ・スループット・スクリーニングのために役立ち得る。RPE細胞は、光受容体細胞の発達、分化、維持、生存および機能のために重要である機構、新しい遺伝子、可溶性または膜結合型の因子を発見するために使用することができる。
【0082】
RPE細胞はまた、様々な網膜変性における正常に機能しないまたは変性したRPE細胞の移植、補充および支援のためのRPE細胞の無限の供給源として役立ち得る。さらに、遺伝子改変されたRPE細胞が、遺伝子を運び、その遺伝子を移植後の眼および網膜において発現させるためのベクターとして役立ち得る。
【0083】
従って、本開示のさらなる態様によれば、RPE細胞を対象の眼に移植する方法が提供され、この方法は、
(a)hSCを含む細胞培養物を提供すること;
(b)細胞を、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養し、それにより、hSCが、RPE細胞への分化を促進されること;
(c)前記細胞培養物からRPE細胞を集めること;および
(d)前記分化したRPE細胞を前記対象の眼に移植すること
を含む。
【0084】
細胞を集めることを、この技術分野において知られている様々な方法によって行うことができる。限定されない例には、機械的解体、および、パパインによる解離が含まれる。この技術分野において知られている他の方法もまた適用可能である。
【0085】
hSC由来RPE細胞を対象の眼の内部において様々な標的部位に移植することができる。1つの実施形態によれば、RPE細胞の移植は、RPEの正常な解剖学的存在位置(光受容体外側セグメントと脈絡膜との間)である眼の網膜下腔に対してである。加えて、細胞の遊走能および/または正のパラクリン作用に依存して、眼のさらなる区画への移植を検討することができ、そのような区画には、硝子体腔、内側網膜または外側網膜、網膜周辺部および脈絡膜内が含まれる。
【0086】
さらに、移植を、この技術分野において知られている様々な技術によって行うことができる。RPE移植を行うための様々な方法が、例えば、米国特許第5962027号、同第6045791号および同第5941250号において、また、Eye Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol、1997(3月)、235(3):149〜58;Biochem Biophys Res Commun、2000(2月24日)、268(3):842〜6;Ophthalmic Surg、1991(2月)、22(2):102〜8において記載される。角膜移植を行うための様々な方法が、例えば、米国特許第5755785号において、また、Eye、1995、9(Pt 6 Su):6〜12;Curr Opin Ophthalmol 1992(8月)、3(4):473〜81;Ophthalmic Surg Lasers 1998(4月)、29(4):305〜8;Ophthalmology 2000(4月)、107(4):719〜24;および、Jpn J Ophthalmol 1999(11月〜12月)、43(6):502〜8において記載される。主としてパラクリン作用が利用されることになるならば、細胞はまた、宿主免疫系に対する細胞の暴露もまた低下させる半透過性容器の中にカプセル化されて送達され、眼に維持される場合がある(Neurotech USA CNTF delivery system;PNAS 2006(3月7日)、第103(10)巻、3896〜3901)。
【0087】
1つの実施形態によれば、移植が、毛様体輪(pars pana)硝子体切除手術、その後での、小さい網膜開口部を介する網膜下腔への細胞の送達によって、または、直接的な注入によって行われる。代替として、細胞を経強膜的かつ経脈絡膜的な方法によって網膜下腔に送達することができる。加えて、硝子体腔内への直接的な経強膜注入、または、毛様体の近くにおける前部網膜周辺部への送達を行うことができる。
【0088】
RPE細胞を様々な形態で移植することができる。例えば、RPE細胞を細胞懸濁物の形態で標的部位に導入することができ、あるいは、マトリックス、細胞外マトリックスもしくは基体(例えば、生分解性ポリマー)、または、組合せに付着させることができる。RPE細胞はまた、他の網膜細胞と一緒に、例えば光受容体と一緒に移植することができる(共移植)。
【0089】
従って、本発明はまた、本発明の方法によって得られるhSC由来RPE細胞を含む組成物に関連する。組成物は好ましくは、眼への移植のために好適なそのような組成物である。
【0090】
様々な眼の状態を、本発明の方法によって得られるRPE細胞を対象の眼に導入することによって処置または防止することができる。そのような眼の状態には、網膜の機能異常、網膜の傷害および/または網膜色素上皮の喪失を一般に伴う網膜の疾患または障害が含まれ得る。本発明に従って処置することができる状態の限定されない列挙には、色素性網膜炎、レーバー先天性黒内障、遺伝性または後天性の黄斑変性、加齢性黄斑変性(AMD)、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮症、コロイデレミア、RPEのパターンジストロフィー、同様にまた、RPEの他のジストロフィー、シュタルガルト病、光傷害、レーザー傷害、炎症性傷害、感染性傷害、放射線傷害、血管新生傷害または外傷性傷害のいずれか1つによって引き起こされる損傷に起因するRPE損傷および網膜損傷が含まれる。
【0091】
理論によってとらわれることはないが、移植されたRPE細胞は、多数の機構を介してその治療的作用を発揮することができる。1つの機構が、網膜内の変性しつつある光受容体または他の細胞の生存を促進する栄養支援作用である。本開示の方法によって、かつ、TGFβスーパーファミリーのメンバーの存在下でhSCに由来するRPE細胞は、RPE細胞に隣接する光受容体を潜在的には栄養作用によって保つことができる。
【0092】
移植されたRPE細胞はまた、正常に機能しない宿主RPE細胞および/または変性しつつある宿主RPE細胞を補充する再生機構を介してその作用を発揮することができる。本開示の方法によって、かつ、TGFβスーパーファミリーのメンバーの存在下でhSCに由来するRPE細胞は、正常に機能しない宿主RPE細胞を補充することができる。移植されたRPE細胞は成熟しており、ロドプシンを含む光受容体の脱落した外側セグメントの食作用の機能的能力を有する。
【0093】
上記で述べられたように、本開示の方法によって、かつ、TGFβスーパーファミリーのメンバーの存在下でhSCに由来するRPE細胞は成熟しており、そのようなものとして、移植後、インビボで増殖しない。従って、本開示の方法によってhSCに由来するRPE細胞は移植治療のためにより安全であり、テラトーマ腫瘍、または、増殖する前駆体細胞の腫瘍に発達することについての低下した危険性を有する。
【0094】
本明細書で使用される場合、用語「処置する(治療する)」または「処置(治療)」は、対象の眼の状態に対する本発明のhSC由来RPE細胞の治療的作用ならびに予防的作用を示し、そのような作用には、一般に、状態に関連する症状の改善、重篤度を軽減すること、または、状態を治癒させることを含むことができ、より具体的には、そのような作用には、処置された患者の網膜およびRPEに対して引き起こされる損傷の逆戻り、対象の網膜の改善された機能、宿主の失われつつある網膜細胞およびRPE細胞の置換および/または支援によるか、あるいは、直接的またはパラクリン作用による対象の網膜およびRPEの再建、同様にまた、状態の結果として対象の網膜に対して引き起こされる損傷における弱化、阻害または中断によって示され得る予防的作用が含まれ得る。
【0095】
本明細書および請求項において使用される場合、「a」、「an」および「the」の形態は、文脈が明確にそうでないことを示さない限り、単数の参照物、同様にまた、複数の参照物を包含する。例えば、用語「増殖因子(a growth factor)」は1つまたは複数の増殖因子を包含し、用語「増殖因子(growth factors)」は、2つ以上の増殖因子だけでなく、1つの増殖因子を包含する。
【0096】
本明細書で使用される場合、用語「または(あるいは、もしくは)」は、列挙された選択肢の1つまたは2つ以上の組合せを意味する。さらに、用語「および(ならびに)」によって分けられる選択肢の列挙が続く表現「・・・から選択される」の使用は、列挙された選択肢の1つまたは2つ以上の組合せを包含する。
【0097】
さらに、本明細書で使用される場合、用語「含む」は、方法または組成物が、列挙された構成要素を含み、しかし、他の構成要素を排除しないことを意味することが意図される。同様に、「から本質的になる」は、列挙された構成要素を含むが、本発明の培養システムの機能性に対する本質的な重要性を有し得る他の構成要素を除外する方法およびシステムを規定するために使用される。例えば、基礎培地、培地補充物およびフィーダー細胞から本質的になる培養システムは、細胞に対する影響を培養において有する他の物質の微々たる量(細胞の拡大培養および分化に対する微々たる影響を培養システムにおいて有する量)を含まないか、または、細胞に対する影響を培養において有する他の物質のほんの微々たる量(細胞の拡大培養および分化に対する微々たる影響を培養システムにおいて有する量)を含むだけである。また、本明細書で定義されるような構成要素から本質的になる組成物は、単離方法および精製方法に由来する微量の混入物を除外しない。「からなる」は、微量を超える量の他の構成要素を除外することを意味するものとする。これらの変遷用語のそれぞれによって規定される様々な実施形態が本発明の範囲内である。
【0098】
さらに、すべての数値(例えば、濃度または用量、あるいは、それらの範囲)は、述べられた値から20%に至るまで、時には10%に至るまで(+)または(−)で変化する概略値である。必ずしも常に明示的に述べられないとしても、すべての数値的指示には用語「約」が先行することを理解しなければならない。必ずしも常に明示的に述べられないが、本明細書に記載される試薬は単に例示であること、および、そのような試薬の同等物がこの技術分野では知られていることを理解しなければならない。
【0099】
いくつかの例示的な実施形態
材料および方法
hES細胞培養
eGFPを構成的に発現するようにレンチウイルスベクターによって操作されたヒトESC(HES1細胞株)およびhESC[Gropp M、Itsykson P、Singer O、Ben−Hur T、Reinhartz E、Galun EおよびReubinoff BE、Stable genetic modification of human embryonic stem cells by lentiviral vectors.Molecular Therapy 7:281〜7(2003)]を、86%のKO−DMEM(Gibco、Invitrogen、Gaithersburg、MD)、14%のKOSR(Gibco)、1mMのグルタミン、1%の非必須アミノ酸、50ユニット/mlのペニシリン(Gibco)、50μg/mlのストレプトマイシン(Gibco)および4ng/mlのbFGF(R&D Systems,Inc.、Minneapolis、MN)からなるKO培地(KOM)においてヒト包皮線維芽細胞フィーダー層の上で培養した。hES細胞をIV型コラゲナーゼ(1mg/ml;Gibco)とともに毎週継代培養し、新鮮なフィーダー層に置床した。分化を誘導する1週間前に、細胞を、0.05%のEDTA(Biological Industries、Beit Haemek、イスラエル)が補充されたCa/Mg++非含有PBSによるほぼ1個1個ばらばらの細胞の懸濁物への解離によって継代し、フィーダーに再置床した。
【0100】
懸濁培養でのEB形成
上記のように1個1個ばらばらの細胞に解離されたhES細胞を置床した後6日〜8日で、細胞をIV型コラゲナーゼによる処理によってフィーダーから除いた。凝集塊を、86%のKO−DMEM、14%のKOSR、1mMのグルタミン、1%の非必須アミノ酸、50ユニット/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンからなるKO培地(KOM)において、0.1%の低融解温度アガロースにより事前に被覆された細菌学用ディッシュの内部における懸濁状態で12週間までの様々な期間、10mMのニコチンアミド(NA)(Sigma、St.Louis、MO、米国)の存在下または非存在下で培養した。いくつかの実験では、使用された培地は、N2補充物(1:100)(Gibco)が補充されたNeurobasal(商標)培地(Gibco)であり(NN培地)、この培地は、1週間後、B27(1:50)(Gibco)が補充されたDMEM/F12(Gibco)で置き換えられた。
【0101】
TGF−β増殖因子または阻害剤の存在下におけるhESCのRPE細胞への分化
ヒトESCを、ニコチンアミド(NA)10mMの存在下、6週間までの期間、上記のようなKOMにおいて浮遊性クラスターとして分化させた。分化の最初の1週間または2週間の後、培養物には、アクチビンA(20ng/ml〜180ng/ml)(PeproTech Inc、Rocky Hill、NJ)、TGFβ3(1ng/ml;R&D Systems Inc、Minneapolis、MN)、TGFβ1(1ng/ml〜20ng/ml;R&D Systems Inc)またはSB431542(5μM〜50μM、Sigma)を補充した。コントロール培養物には、NAだけを補充した。
【0102】
KOMにおける懸濁状態にあるヒトESCにはまた、1週間後、NAの存在下または非存在下で、骨形態形成タンパク質(BMP)アンタゴニストのnoggin(700ng/ml、R&D Systems Inc、Minneapolis、MN)を補充したか、あるいは、第3週および第4週の期間中に、NAの存在下で、FGFβ(20ng/ml、PeproTech Inc)を補充し、KOMにおける懸濁状態にあるヒトESCを懸濁状態において浮遊性クラスターとして第6週まで分化させた。
【0103】
RPE細胞の拡大の説明
RPE細胞を拡大するために、色素沈着クラスターを小さい凝集塊に穏やかに機械的に解離し、ポリ−D−リシン(30kDa〜70kDa、10μg/ml)およびラミニン(4μg/ml)上に低密度で置床し、NAを伴うKOMにおいて培養した。これらの培養条件下で、色素沈着細胞は色素沈着を失い、類線維様の形態学を獲得した。1.5ヶ月間のさらなる培養、および、高密度培養物への増殖の後、細胞はRPE細胞の特徴的な多角形形状の形態学および色素沈着を再獲得した。
【0104】
免疫染色およびリアルタイムRT−PCRを、下記で記載されるように、すべての培養物に対して行った。
【0105】
クラスター内の分化した細胞の間接的免疫蛍光染色
凝集物内の細胞の免疫表現型を特徴づけるために、2週間、4週間、6週間または8週間にわたって培養されたクラスターを、0.04%トリプシン/0.04%EDTAによるか、または、パパイン解離システム(Worthington Biochemical、Lakewood、NJ)によるかのどちらかで穏やかに解離し、得られた小さい凝集塊および1個1個ばらばらの細胞を、ポリ−D−リシン(30kDa〜70kDa、10μg/ml〜20μg/ml)だけの上でNAが補充されたKOM培地、あるいは、ラミニン(4μg/ml)またはフィブロネクチン(10μg/ml〜20μg/ml)のどちらかが補充されたKO培地において置床した(すべてをSigma(St.Louis、http://www.sigmaaldrich.com)から得た)。細胞を2時間後に4%パラホルムアルデヒドにより固定処理し、ネスチン(1:200)、ポリシアル酸NCAM(PSA−NCAM)(1:100)、Musashi(1:200)(すべてをChemicon(Temecula、CA)から得た)、Pax6(DSHB、1:100、または、Chemicon、1:250)、Otx2(Chemicon、1:200)、MiTF(Lab Vision Corporation(Fremont、CA);マウスIgG、1:50)の発現について調べた。
【0106】
色素沈着細胞の富化調製物の免疫染色のために、分化を8週間〜10週間行わせた浮遊性凝集塊の内部における細胞の色素沈着(褐色)クラスターを機械的に解体し、ガラス性マイクロピペットまたは手術用メスの刃(No.15、Swann−Morton Sheffield、英国)によって単離した。
【0107】
色素沈着細胞について富化された単離クラスターをさらに、トリプシン(0.025%、3mM EDTA、PBS中)消化またはパパイン解離(パパイン解離システム;Worthington Biochemical Corporation、Lakewood、New Jersey)の助けを用いて/用いることなく、磨砕によって機械的に解離して、より小さい凝集塊にした。細胞の小さいクラスターを、ポリ−D−リシン(30kDa〜70kDa、10μg/ml;Sigma)が被覆され、かつ、ラミニン(4μg/ml;Sigma)が被覆されたガラス製カバースリップに置床し、hESCクラスターの懸濁培養のために使用される培養培地においてさらに3週間〜5週間培養した。成長物内の分化した細胞を、室温で30分間、4%パラホルムアルデヒドにより固定処理した。抗細胞内マーカー抗体による免疫染色のために、細胞膜を、30分間、正常ヤギ血清(5%、Biological Industries)がブロッキング処理のために補充されたPBSにおける0.2%のTriton X100(Sigma)により透過処理した。細胞を下記の一次抗体とインキュベーションした:抗MiTF(Lab Vision Corporation、Fremont、CA;マウスIgG、1:50)、抗RPE65(Novus Biologicals、Littleton、CO;マウスIgG、1:300)、抗ベストロフィン(Novus Biologicals;マウスIgG、1:150)、抗ZO−1(Zymed Laboratories Inc.、San Francisco、CA;ウサギポリクローナル、1:10)、抗Ki67(Dako Denemark A/S;1:50)および抗CRALBP(John C.Saari(ワシントン大学(Seattle)からの譲渡物;ウサギポリクローナル、1:100)。細胞はまた、ファロイジン(1:200、Sigma)とインキュベーションした。
【0108】
一次抗体の所在確認を、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)コンジュゲート化ヤギ抗マウス免疫グロブリン(Dako Denmark A/S;1:20〜1:50)、Cy(商標)3にコンジュゲート化されたヤギ抗マウスIgG(1:500)(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc、West Grove、PA)、Cy2にコンジュゲート化されたウサギ抗ヤギIgG(1:200;Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)、および、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)にコンジュゲート化されたブタ抗ウサギIg(Dako;1:50)を使用することによって行った。
【0109】
RT−PCRおよびリアルタイムPCRによるhESCクラスターの分析
総RNAを、血清非含有条件下で成長させたhESCから抽出し(継代後1週間)、また、hESC由来クラスターを、10mMのニコンチンアミドの存在下または非存在下、および、TGFβスーパーファミリー増殖因子またはアンタゴニストによる補充を伴って、または、そのような補充を伴うことなく培養している期間中に8週までの連続する時点で抽出した。RNAを、TRIzol試薬(Invitrogen、http://www.invitrogen.com)またはTRI−Reagent(Sigma)を使用して単離した。cDNA合成を、Moloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素(M−MLV RT)およびランダムプライマーを製造者の説明書(Promega Corporation、Madison、WI、http://www.promega.com)に従って使用して行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、Taq DNAポリメラーゼ(Gibco−BRL)を用いた標準的なプロトコルを使用して行った。増幅条件は下記の通りであった:94℃での15秒間の変性、55℃での30秒間のアニーリングおよび72℃での45秒間の伸長。サイクル数は、具体的なmRNA存在量に依存して、18回〜40回の間で変化した。ヒト遺伝子転写物を特定するためのプライマーヒト配列(フォワードおよびリバース、5’−3’)および増幅生成物の長さは下記の通りであった(配列番号1〜配列番号12):
MiTF−A(GAGCCATGCAGTCCGAAT,GACATGGCAAGCTCAGGACT;486bp);
RPE65(GCTGCTGGAAAGGATTTGAG,CAGGCTCCAGCCAGATAGTC;231bp);
ベストロフィン(GAATTTGCAGGTGTCCCTGT,ATCCTCCTCGTCCTCCTGAT;214bp);
CRALBP(AGCTGCTGGAGAATGAGGAA,CAAGAAGGGCTTGACCACAT;218bp);
MERTK(AAGTGATGTGTGGGCATTTG,TCTAAGGGATCGGTTCTCCA,189bp);
ACTRIA(AATGTTGCCGTGAAGATCTTC,CTGAGAACCATCTGTTGGGTA;699bp);
ACTRIB(CACGTGTGAGACAGATGGG,GGCGGTTGTGATAGACACG;346bp);
ACTRIIA(AACCATGGCTAGAGGATTGGC,CTTTCACCTACACATCCAGCTG;551bp);
ACTRIIB(CACCATCGAGCTCGTGAAG,GAGCCCTTGTCATGGAAGG;611bp);
アクチビンA(CTTGAAGAAGAGACCCGAT;CTTCTGCACGCTCCACCAC;262bp);
β−アクチン(TTCACCACCACGGCCGAGC,TCTCCTTCTGCATCCTGTCG;351bp);
GAPDH(AGCCACATCGCTCAGACACC;GTACTCAGCGCCAGCATCG;301bp)。
【0110】
リアルタイムPCRのために、転写物のレベルを、市販されているTaqMan(登録商標)Assays−on−Demand Gene Expression Products(Applied Biosystems、Foster City、CA)に由来するTaqManプライマーおよびTaqManプローブを使用してモニターした:Oct4、ID Hs01895061;Musashi、ID Hs01045894;Pax6、ID Hs00240871;Six3、ID Hs00193667;Rx1、ID Hs00429459;Chx10、ID Hs01584048;MiTF−A、ID Hs01115553;総MiTF、ID Hs01115557;ベストロフィン、ID Hs00188249;RPE65、ID Hs00165642;Sox10、ID Hs00366918;Crx、ID Hs00230899。定量的PCR分析を、ABI Prism7000HT配列検出システムおよびABI Prism7900HT配列検出システムならびにTaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を製造者のプロトコルに従って使用して行った。ハウスキーピング遺伝子のβ−グルクロニダーゼ(GusB、アッセイID Hs99999908)をリアルタイムRT−PCR定量分析における正規化のための内部基準として選択した。それぞれの遺伝子の相対的な発現レベルが、0日目(または非処理細胞)の発現レベルが1で設定されたときの相対値として示される。増幅反応を製造者のプロトコル(Applied Biosystems)に従って二連または三連で行った。
【0111】
透過電子顕微鏡観察およびラテックスビーズの食作用
ヒトESC由来クラスターをKOMにおける懸濁状態で培養した。その後、色素沈着領域を機械的に分離し、透過電子顕微鏡観察のために処理した。細胞を0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)における2%グルタルアルデヒドおよび4%ホルムアルデヒドにより固定処理した。0.1Mカコジル酸緩衝液で3回洗浄した後、組織を1%四酸化オスミウムおよび1.5%フェリシアン酸カリウムにより後固定処理し、増大する濃度のエタノールにより脱水し、Agar100樹脂に包埋した。LKBウルトロトーム3によって切断された極薄切片を酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛により染色した。顕微鏡写真を、MegaviewII CCDカメラおよびAnalysis(バージョン3.0)ソフトウエア(Soft Imaging System、http://www.soft−imaging.com)を備えるTecnai12電子顕微鏡(Phillips、Eindhoven、オランダ、http://www.philips.com)を用いて撮影した。
【0112】
食作用能を調べるために、色素沈着クラスターを、1mLあたり1.0×10個のビーズの濃度において1μmのラテックスビーズ(Polysciences Inc.、Warrington、PA)と37℃で18時間インキュベーションした。その後、色素沈着クラスターをPBS+により洗浄し、パパイン解離システムを使用して1個1個ばらばらの細胞または小さい凝集塊に解離し、ポリ−D−リシンの上に置床した。固定処理の後、細胞の膜を赤色蛍光色素PKH(Sigma)により染色した。食作用を、共焦点顕微鏡(Plympus Fluoview FV1000)を使用して分析した。
【0113】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー分析を、ニコチンアミド補充の存在下または非存在下で分化するhESC由来クラスターの内部における様々な時点でのPSA−NCAM陽性細胞およびTRA−1−60陽性細胞の数を求めるために行った。クラスターを0.04%トリプシン/0.04%EDTAにより解離した。その後、1個1個ばらばらの細胞を抗PSA−NCAM抗体または抗Tra−1−60抗体(ともにChemiconから得られる;1:100)により染色し、FITCにコンジュゲート化されたヤギ抗マウス免疫グロブリン(Dako;1:100)により検出し、細胞生死判別用色素のヨウ化プロピジウム(0.005mg/ml;Sigma)により対比染色した。コントロール細胞は二次抗体とのみインキュベーションしただけであった。細胞に関連する免疫反応性を、CellQuestソフトウエアを使用して、FACScalibur(Becton Dickinson Immunocytometry Systems)により分析した。
【0114】
hESC由来の分化したRPE細胞の硝子体内移植および網膜下移植
眼内移植のために、eGFPを発現するように操作されたhESC[これは、Gropp他、Stable genetic modification of human embryonic stem cells by lentiviral vectors.Molecular Therapy 2003、7:281〜7において既に記載された通りである]を使用して、RPE細胞を上記で記載されるように培養において作製した。簡単に記載すると、色素沈着細胞に関して富化されたクラスターを、NAだけの存在下、または、アクチビンAが補充されたNAの存在下での6週間〜8週間の分化の後で切り分けることによって機械的に単離した。小さい内径のガラスキャピラリーによる注入を可能にするために、凝集塊をさらに、37℃での30分間のパパインによる消化(パパイン解離システム;Worthington Biochemical Corporation、Lakewood、New Jersey)、それに続く磨砕によって細胞のより小さいクラスターに解離した。
【0115】
15匹の成体シロネズミ(体重、230g〜250g)および100匹を超える1週齢〜3週齢の異系交配されたジストロフィー性RCSラットを眼内移植のために使用した。RCSラットでは、Mertk遺伝子における変異により、出生後数ヶ月の間に網膜変性につながるRPE機能異常が引き起こされる。すべての動物実験が、ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision researchに従って行われ、Hebrew大学Hadassah Medical Schoolの動物研究のための施設内委員会によって承認された。
【0116】
移植のために(同様にまた、網膜電図記録法による記録のために)、動物を、弛緩剤のキシラジン(2.0mg/kg)との組合せで腹腔内注射されたケタミンHCl(Ketalar、Parke Davis、英国;100mg/kg)により麻酔した。局所麻酔点滴(ベノキシナートHCl、0.4%;Fischer Pharmaceuticals、イスラエル)を投与した。瞳孔をトロピカミド(0.5%)(Mydramide、Fischer Pharmaceuticals、イスラエル)およびフェニレフリンHCl(2.5%)(Fischer Pharmaceuticals、イスラエル)により散大させた。解剖顕微鏡(Stemi SV11、Zeiss、ドイツ)で見ながら、4μLの培地におけるおよそ100000個の細胞を硝子体腔の中に注入し、または、空気圧式Pico−injector(PLI−100;Medical System Corp.、Greenvale、NY、http://www.medicalsystems.com)に接続されたガラスキャピラリーによる経強膜的かつ経脈絡膜的な方法によって網膜下腔の中に注入した。注入されていない他眼は1つのタイプのコントロールとして役立った。さらなるコントロールとして、眼には、生理的食塩水(注射用塩化ナトリウムBP、0.9%、B.Braun Melsungen AG、Melsungen、ドイツ)が注入された。
【0117】
注入期間中および注入後において、脈絡膜の出血が全く認められなかった。動物を、加熱用ランプを使用して、手技の間中およびその後、暖かく保った。移植後、すべての動物が免疫抑制剤のシクロスポリンA(Sandimmune、Novartis Pharma AG、Basel、スイス)を210mg/lの濃度でそれらの飲み水において受けた。
【0118】
移植された細胞のインビボおよびエクスビボ画像化
移植された細胞のインビボでの生存および存在位置をモニターするために、麻酔した動物を、カラー眼底カメラ(Zeiss、ドイツ)を使用して画像化し、また、GFP発現細胞の蛍光を、フルオレセインフィルターを走査型レーザー検眼鏡(Heidelberg HRA、ドイツ)で使用して検出した。いくつかの眼では、GFP陽性移植片の存在位置がまた、蛍光顕微鏡(Canon、日本)を使用してアイカップ調製物においてエクスビボで求められた。
【0119】
hESC由来RPE細胞を眼内移植した後での宿主網膜機能の評価
移植後4週間〜6週間で、網膜機能を、網膜電図記録法(ERG)によって、移植を受けたRCAラット眼およびコントロールのRCSラット眼において評価した。全範囲ERGを一晩の暗順応の後で記録した。動物を薄暗い赤色光においてケタミンおよびキシラジンにより麻酔し、瞳孔をトロピカミドおよびフェニレフリンにより散大させた。単極のラットERGレンズ電極(Medical Workshop、Amsterdam、オランダ)をさらなる局所麻酔の後でそれぞれの眼に設置し、参照電極および接地電極を舌および尾にそれぞれ設置した。市販のコンピューター化ERGシステム(LKC technologies、UTAS3000)を使用して、Ganzfeldボウルに取り付けられたキセノンのフォトストロボ閃光(Grass、PS−22)を使用して発生させられた全範囲刺激に対する網膜の応答を記録した。暗順応条件下での薄暗い青色閃光を、主として杆体駆動による応答を誘発するために使用した。青色のより強い刺激強度において、また、暗順応した状態での白色閃光を用いて、混合型の錐体−杆体の応答を記録した。明順応した条件(明順応条件)下では、杆体を抑制する34cd/mの白色バックグラウンドにおける白色閃光により、1Hzおよび16Hzの錐体応答が生じた。シグナルを0.3Hz〜500Hzの間でフィルター処理し、シグナル平均化を使用した。
【0120】
移植を受けた眼の組織学的および免疫組織化学的評価
動物を移植後4週間〜8週間で屠殺し、眼を組織学的検査および免疫組織化学的検査のために摘出した。Davidson溶液における固定処理の後、眼をパラフィンに包埋し、4μmの連続切片で切片化した。それぞれの5番目のスライドを組織形態学的な評価および定量のためにヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した。間接的免疫蛍光研究については、移植された細胞の分化の状態を特徴づけるために、標本をキシレンにおいて脱パラフィン化し、段階的なアルコールにおいて脱水し、リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS、pH7.4)により洗浄し、10mMクエン酸塩緩衝液(pH6.0)と110℃で4分間インキュベーションした。PBSにより洗浄した後、標本を、1%のウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%のTriton X100(Sigma−Aldrich)および3%の正常ヤギ血清または正常ロバ血清を含有するPBS溶液により室温で1時間ブロッキング処理した。続いて、切片を下記の一次抗体の適切な組合せと加湿チャンバーで1時間インキュベーションした:フルオレセイン(FITC)またはローダミン(TRITC)とコンジュゲート化された抗緑色蛍光タンパク質(抗GFP)(Santa Cruz Biotechnology,Inc、Santa Cruz、CA;マウスモノクローナル、1:100);抗RPE65(Novus Biologicals、Littleton、CO;マウスIgG、1:100);抗ベストロフィン(Novus Biologicals;マウスIgG、1:100);抗ZO−1(Zymed Laboratories Inc.、San Francisco、CA;ウサギポリクローナル、1:100);および抗ロドプシン(Santa Cruz Biotechnology,Inc、Santa Cruz、CA;ウサギポリクローナル、1:100)。一次抗体の所在確認を、PBSで洗浄した後、Cy(商標)2コンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG(1:200)、Cy(商標)2コンジュゲート化ヤギ抗マウスIgG(1:200)、Cy(商標)3コンジュゲート化ヤギ抗ウサギIgG(1:200)、Cy(商標)2コンジュゲート化ロバ抗マウスIgG(1:200)、Cy(商標)5コンジュゲート化ロバ抗ウサギIgG(1:200;すべてが、Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc、West Grove、PAから得られる)を使用することによって行った。核を、4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を含有する固定用培地(Vector Laboratories、Burlingame、CA)により、または、ヨウ化プロピジウム(1μg/ml)(BioLegend、San Diego、CA)により対比染色した。抗原−抗体反応の特異性を明らかにするために、関連性のないイソ型と一致させた抗体による対応する陰性コントロールを行った。DP70デジタルカメラ(Olympus、日本)を備えるOlympus BX41顕微鏡を、蛍光顕微鏡画像化および光学顕微鏡画像化のために使用した。共焦点像を、IX70倒立型顕微鏡の周りに組み立てられたOlympus Fluoview300(FV300)共焦点顕微鏡(Olympus、日本)で集めた。488nmのArレーザー、543のHeNe緑色レーザーおよび633のHeNe赤色レーザーをNomarski光学系との組合せで使用した。
【0121】
RPE移植片の近傍における光受容体層救済の定量
変性しつつある宿主網膜に対するhESC由来RPEの移植の影響を定量化するために、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色された切片の高分解能顕微鏡像を得て、網膜の全長の合成写真を、Photoshopソフトウエア(Adobe、米国)を使用して構築した。網膜全体の厚さ、外顆粒層(光受容体層)の厚さ、ならびに、内側セグメント層および外側セグメント層の厚さを、J−imageプログラム(NIH)を使用してhESC由来RPE細胞の網膜下移植片の近くで測定した。これらを、移植片から離れた網膜の対応する反対側で得られた測定値と比較した。RCSラットにおける変性プロセスは場所に依存するので、厚さを、毛様体から等しい距離にある領域において測定した。それぞれの領域において、少なくとも3つの等間隔での測定値を平均化した。
【0122】
結果
分化したRPEの特徴づけ
hESCの分化を、hESCを、NAが補充されたKO培地において浮遊性クラスターとして培養することによって誘導した。これらの培養条件下で、色素沈着細胞について非常に富化される定義された領域が、図3Aに示されるように、分化し続けるクラスターの内部において発達した。これらの色素沈着領域が4週間の分化の後で現れ、8週間後、クラスターの72.9±2.5%が色素沈着領域を有した。色素沈着領域がNA補充の非存在下では4週間の分化の後で認められず、これらの条件では、わずかに13.1±4.8%が8週間後に色素沈着領域を発達させただけであった(図8Aおよび図8B)。従って、NA処理は、自発的に分化し続けるhESCクラスターと比較されたとき、色素沈着細胞へのhESCクラスター内での分化を増強/促進した。
【0123】
分化をNICの存在下で8週間行わせたクラスターの内部において、細胞の5.7±1.0%が色素沈着し、5.4±1.1%が初期RPEマーカーのMiTFを発現し、ほとんどの場合において、MiTFの発現が色素沈着と相関した(図8C)。部分的に解離され、置床された、分化したhESCのクラスターは、暗視野顕微鏡写真(図3D)および位相差像(図3E)によって示されるように、分化した細胞の数あるタイプの中でも、色素沈着細胞の単層物から構成されるコロニーに発達した。これらのコロニーの内部における細胞は多角形形状を取っており、密着結合が細胞間に存在する細胞の「丸石」様シートを形成した(図3E)。これは、生来的なRPE細胞に非常に特徴的である特徴である。細胞内におけるF−アクチン分布が、ファロイジンによる染色によって明らかにされるように、正真正銘のRPE細胞と同様に、その膜に隣接していた(図10A)。色素沈着したRPE細胞はRPEマーカーを共発現した:Otx2(図3B)およびMiTF−A(図3Bおよび図3F)、同様にまた、ZO−1(図3G)、ベストロフィン(図3H)、RPE65(図3I)およびCRALBP(図3J)。
【0124】
解離、低密度での置床および培養の後、色素沈着細胞は、位相差画像化によって示されるように、色素沈着を失い、類線維様の形態学を獲得した(図3Kおよび図10B)。さらに長期間の培養、および、高密度培養物への増殖の後、細胞はRPE細胞の多角形形状の形態学および色素沈着を再獲得した(図3Lおよび図10C)。
【0125】
電子顕微鏡観察(EM)分析では、hESC由来の色素沈着細胞が、その先端側での微絨毛(図10D)、および、その底部側での基底膜(図10E)を含めて、生来的なRPE細胞の形態学的特徴を有したことが明らかにされた。これらの細胞はメラニン顆粒を含有し(図10D)、密着結合によって結合した(図10F)。
【0126】
RPE細胞の非常に重要な特徴の1つが、光受容体から脱落した外側セグメントの食作用である。hESC由来の色素沈着細胞が食作用能を有したかどうかを調べるために、hESC由来の色素沈着細胞を1μmの蛍光性ラテックスビーズとインキュベーションした。3つの共焦点蛍光像により、連続したz軸切片が表される(図10H〜図10J)。共焦点顕微鏡分析では、推定されるRPE細胞は蛍光性ビーズの食作用が可能であったことが示された(図10G〜図10J)。
【0127】
ニコチンアミドの分化誘導作用
RPEの究極的運命に向かうhESCの分化を、(自発的分化し続けるクラスターをコントロールとして提供することなく)、hESCをNA添加KOMまたはNA非添加KOMにおいて浮遊性クラスターとして培養することによって調べた。6週間の分化の後、RPE細胞のマーカー(MiTF−AおよびRPE65)の発現レベルが、リアルタイムRT−PCRによって求められるように、NAの存在下では著しく高まった(それぞれ、図1Aおよび図1B)。MiTF−Aの発現がNAの存在下ではほぼ2倍増大し、一方で、RPE65の発現はほぼ30倍増大した。ほとんどの色素沈着細胞がMiTF−Aを共発現したので(図8C)、NAの存在下では、色素沈着細胞あたりのRPE65の発現レベルにおける増大は著しく、かつ、突出していたようであった。従って、RPEの究極的運命に向かうその誘導作用に加えて、NAはまた、RPE細胞の成熟化を促進し、細胞の表現型に対する影響を有した。2週間〜6週間の間における連続した時点でのQ−PCR分析では、NAの存在下において、MiTF−AおよびRPE65の発現レベルにおける増大が示された(それぞれ、図1Cおよび図1D)。これらのマーカーの発現が4週間の分化の後ではアップレギュレーションされ、発現レベルが、その後の4週間の期間中、増大し続けた(最後の2週間は示されず)。RPEマーカーのベストロフィン、CRALBPおよびMertkの類似する増大した発現が、置床された色素沈着クラスターにおける細胞のRT−PCR分析によって示された(図1E)。
【0128】
RPE細胞のインビトロでの発達がインビボでのRPEの重要な発達段階を繰り返すかどうかを見出すために、経時変化実験を、RPE発達の期間中における重要なマーカーのhESCクラスター内での発現の分析を含めて行った。NAの存在下または非存在下で分化するクラスターを、未分化のhESCのマーカーの発現、初期の神経分化、網膜およびRPEの発達についてリアルタイムPCRによって分析した(図9A〜図9L)。最初に、Oct4(未分化hESCのマーカー)の発現(図9A)が、NAの存在下での分化の期間中においてより迅速に低下したことが明らかにされた。一致して、FACS分析では、TRA−1−60(未分化細胞の表面膜マーカー)の発現もまた、NA処理サンプルではより迅速に低下したことが明らかにされた(図9M)。従って、NAの存在下での分化を、未分化の細胞をクラスターから除くために使用することができ、また、NAの存在下での分化は、移植後のテラトーマ腫瘍形成を回避する助けとなり得る。
【0129】
加えて、NA処理は初期の神経分化のプロセスを高めた。NAの存在下では、初期神経マーカーの転写物の発現(Otx2(図9B)、Pax6(図9D)およびMusashi(図9C))が、2週間、2週間〜6週間、および、4週間〜6週間の分化の後でそれぞれ著しく増大した。類似する結果がPSA−NCAM(神経前駆体のマーカー)の発現のFACS分析によってタンパク質レベルで明らかにされた(図9O)。NAを伴った4週間の分化の後において、細胞の81.4±6.3%が、コントロールのクラスターにおける14.4±5.9と比較されるが、PSA−NCAMを発現した。間接的免疫蛍光染色により、4週間で、NA処理クラスター内の細胞の大部分が神経表現型を獲得し、PSA−NCAM(74.2±4.1%)、ネスチン(55.9±10.1%)およびMusashi(71.4%)を発現したことが確認された(図9N)。
【0130】
Rx1およびSix3(これらは網膜の特異化および形態形成の重要な調節遺伝子である)の転写物の発現(それぞれ、図9Fおよび図9E)が2週間の分化の後で明らかにされた。NA処理はこれらの遺伝子の発現を増大させた。
【0131】
NAの存在下では、初期RPEマーカーのMiTF−Aの転写物の発現が4週間の分化の後で誘導された(図9H)。より成熟したRPEのマーカー(ベストロフィンおよびRPE65)の発現が主に、4週間後および8週間後でそれぞれアップレギュレーションされた(それぞれ、図9Jおよび図9I)。これらの転写物の発現もまた、コントロールとしての自発的に分化し続けるhESCクラスターと比較されたとき、NA処理クラスターの方が高かった(図9Iおよび図9J)。RPE65の発現が100倍以上増強された。このことから、誘導作用に加えて、NAはまた、細胞の表現型に対する作用を有したことがさらに確認された。得られた色素沈着細胞が神経冠由来のメラノサイトでないことを除外するために、Sox10(これはこれらの細胞の発達マーカーである)の発現が明らかにされ、M51メラノーマ細胞株のコントロール細胞と比較して低く、NA補充に依存していなかった。従って、培養物はメラノサイトから構成されなかった。従って、NAは、RPEの究極的運命に向かう分化の誘導を促進するという結論が下された。
【0132】
NA処理はまた、神経網膜の網膜始原体の増殖を調節するChx10の発現、および、Crx(光受容体始原体のマーカー)の発現を増大させた(図9K)。
【0133】
まとめると、hESCクラスターの内部におけるRPE分化プロセスは、インビボでの正真正銘のRPE発達に類似する段階を経て進み、NAによって増強されたという結論が、本発明者らによって下された。さらに、NAは、得られたRPE細胞の表現型に対する作用を有した。これらの細胞は、自発的分化の後で得られるRPE細胞とは異なったものであり、また、成熟したRPE細胞のマーカーを著しくより大きいレベルで発現した。
【0134】
NAは、培養培地にかかわらず、誘導作用を示す
NA補充は、分化し続けるhESCのクラスターの暗視野顕微鏡写真において示されるように、KO培地およびNN/DMEM培地の両方で12週間培養された分化した細胞における色素沈着を増大させた(図2A〜図2D)。1週間後にDMEM/F12−B27によってさらに置き換えられたNN培地(NN/DMEM)では、KOと比較されたとき、NAの存在下では、クラスターの総数からの色素沈着したhESCクラスターの割合がより高かったが、KO培地で培養されたクラスターと比較して、それらのサイズおよび総集団数はより小さかった。RT−PCR分析により、NA補充がMiTF−Aの発現をKOMではおよそ3倍高め、NN/DMEM培地ではおよそ2.5倍高めたことが示された(図2E)。RPE65の発現が、NA非含有に対してNAの補充により、KOMではおよそ2倍になり、NN/DMEM培地ではほぼ6倍増大した(図2F)。従って、NAの分化誘導作用が、hESCが培養され、分化が生じる培地にかかわらず、分化したRPE細胞において示される。
【0135】
SCの分化に対するTGFβスーパーファミリーのメンバーの影響
最初に分析されたのが、2週齢のクラスターにおけるアクチビンAと同様に、アクチビン受容体の発現であった。初期眼領域マーカーの発現がこの時に現れており、従って、分化し続ける細胞はおそらくは、初期眼胞に対応する発達段階にあるので、分析をこの時点で行った。受容体のACTRIBおよびACTRIIBの発現が、細胞がNAの非存在下で分化しているときには発現がないか、または、より少ないこととの比較で、NAの存在下では高かったことが明らかにされた(図11G)。従って、NAは、その存在下で分化する細胞の表現型に対する作用を有した。
【0136】
アクチビンAが、RPEの究極的運命に向かう分化を増強することが見出された。4週間にわたって分化するhESC由来クラスターの暗視野顕微鏡写真では、アクチビンAの存在下におけるこの早い段階での色素沈着細胞の出現が示された(図11A)。NAの存在下では、アクチビンAが、RPE細胞に向かうhESCの分化を著しく増強したことがさらに示された(図4A〜図4B、および、図11B〜図11C)。色素沈着細胞を含んだクラスターの割合(50.7±6.5対17.7±3.2)、ならびに、細胞総数からの色素沈着細胞の割合(9.9±1.4対2.4±1.2)が、アクチビンAを伴うことなくNAが補充されたコントロール培養物と比較された場合、分化がアクチビンAの存在下で誘導されたときには著しくより高かった(図11Hおよび図11I)。この結果は、アクチビンA処理が、成熟したRPE細胞に対して特異的であるマーカーの発現(RPE65(図4D)およびベストロフィン(図4E))を著しく(それぞれ、5倍超および4倍超)増大させたことが示されたRT−PCRにより確認された。さらに、アクチビンAの存在下で発達した色素沈着細胞のクラスターの形態学的特徴が異なっていた。それらの色素沈着はより濃く、それらは、周りの色素沈着していない細胞からの非常に明瞭な境界を呈示した(図4B)。MiTF−A(RPE発達期間中のより初期に現れるマーカー)の発現は、アクチビンAによる補充によって影響されなかった。従って、アクチビンA(これは増殖因子のTGFβスーパーファミリーのメンバーである)はhESCのRPE細胞への分化を増強する。アクチビン阻害剤SB431542の補充は色素沈着クラスターの出現をこれらの条件下で著しく低下させた(図11Eおよび図11H)。RPE分化に対するアクチビンAの影響を様々な濃度で調べた。その影響は、用量依存的であることが見出され、最適な増強作用が、色素沈着細胞の割合およびRPEマーカーの発現(ベストロフィン(図11K)およびRPE65(図11L))に関しては140ng/mlにおいてであった。実験のほとんどにおいて、アクチビンAは、クラスターが2週間既に分化した後の2週間(第3週〜第4週)にわたって補充された。これは、本発明者らが、この時点での適用が、RPE分化を高めるために最適であったことを見出したからである。初期の眼発達のマーカーの発現もまた、2週間の分化の後で始まったという観測結果(図9A〜図9L)を考慮すると、アクチビンは眼およびRPEの発達のプロセスを増強したようであった。そのうえ、色素沈着細胞の割合がアクチビンAの存在下では5倍〜6倍増大し、一方で、成熟したRPE細胞のマーカー(例えば、ベストロフィン)の発現が約10倍増大したので、アクチビンAは、その誘導作用に加えて、細胞の成熟度および表現型に対する作用を有したようである。このことが、アクチビンAの存在下で得られた色素沈着細胞の形態学的外観によって裏付けられた。これは、そのような色素沈着細胞はより濃く、周りの細胞からの際立った境界を伴っていたからである。
【0137】
遺伝子発現に対する2週間のアクチビンA処理の影響のQ−PCR経時変化分析では、アクチビンAが、網膜始原体マーカーのRx1およびChx10の発現、ならびに、RPEマーカーのベストロフィンの発現を著しく増大させたことが示された。4週間の分化において、アクチビンA処理はまた、総MiTFイソ型の発現レベルを増大させた(図11M〜図11P)。
【0138】
網膜およびRPEの分化に対するアクチビンAの誘導作用が、TGFβスーパーファミリーの他のメンバーに関してもまた認められた。TGFβ3による、分化し続けるクラスターの処理は、重要な役割をインビボでのRPE発達において果たすMiTF−Aの転写物の発現レベルを著しく増強させた(図5F)。さらに、TGFβ1(これはTGFβスーパーファミリーの別のメンバーである)による処理もまた、色素沈着細胞を有するクラスターの出現を著しく高めた(図11Dおよび図11H)。対照的に、TGFβスーパーファミリーに由来する因子の代わりに、NAおよび塩基性FGF(bFGF)の存在下における分化は色素沈着細胞の出現をなくした(図11F)。
【0139】
加えて、骨形態形成タンパク質(BMP)(これはTGFβスーパーファミリーの別のサブファミリーに属する)が、hESCのRPE分化において役割を果たすことが示された。暗視野顕微鏡写真において示されるように、BMPアンタゴニストのnogginの存在下では、色素沈着RPE細胞へのhESCクラスーの分化が阻止された(図5D)。培地がまた、NAにより補充されたときでさえ、色素沈着細胞への分化がnogginの補充により阻止された(図5C)。RNAレベルにおいて、リアルタイムRT−PCRにより、nogginが培養培地におけるNAの存在および非存在の両方においてMiTF−Aの発現を著しく減少させたことが明らかにされた(図5E)。従って、BMPは、hESCのRPE細胞への分化を誘導することにおいて役割を果たす。
【0140】
hESCに由来する分化したRPE細胞は眼内移植のために使用することができる
eGFPを発現するように操作されたhESC由来RPE細胞の富化された集団を最初に、色素沈着細胞の所在確認を容易にするために、シロネズミの硝子体腔および網膜下腔に移植した。眼内移植の後、移植された色素沈着細胞をインビボで容易に特定することができた(図6Aおよび図6B)。図6Bに示される眼の摘出、角膜および水晶体の除去、ならびに、網膜の単離の後、網膜は、中心となる移植片、同様にまた、さらなる分散した色素沈着細胞を示した(図6C)。組織学的切片において、GFPもまた発現した視認される移植された色素沈着細胞を含んだ移植片が存在した(図6D〜図6G)。移植された細胞を硝子体腔において見出すことができ、また、注入路に沿って網膜において見出すことができ、また、網膜下腔においてもまた見出すことができた(図6H、図6I、図6O、図6P)。移植されたRPE細胞はまた、網膜下腔から遊走し、宿主ラットのRPE層の内部に一体化した(図6J)。移植片において、移植されたeGFP陽性細胞における密着結合マーカーZO−1の発現によって示されるように、密着結合(これはRPE細胞の特徴である)が形成された(図6K〜図6N)。移植片内の細胞はまた、RPE65、ベストロフィンおよびMiTF−Aの発現を維持した。
【0141】
RCSラットの網膜下腔への移植の後、hESC由来RPE細胞は生存し、一体化し、分化したRPEの特徴を維持する
移植実験の主要部分を、hESC由来RPE細胞の送達により、疾患の経過が調節され得るかどうかを調べようとする試みで、mertk遺伝子における変異によって引き起こされるRPE変性および網膜変性を表すRCSラットにおいて行った。
【0142】
移植された色素沈着細胞を、標準的な眼底画像化システムを使用してRCSラットの眼においてインビボで容易に特定することができた(図12A〜図12C)。hESC由来のGFP発現細胞は、フルオレセインの励起フィルターおよび放射フィルターが使用されるとき、蛍光を放射することを認めることができる(図12C)。蛍光顕微鏡においてエクスビボで画像化されたアイカップ調製物では(図12D〜図12E)、網膜下のGFP陽性細胞の大きいクラスターを認めることができ(図12D)、同様にまた、多数の分散したより小さいクラスターを認めることができる(図12E)。
【0143】
組織学的評価および免疫組織化学的評価により、インビボおよびエクスビボでの巨視的観察結果が確認された。移植された細胞は網膜下腔において生存し、一体化し、かつ、成熟したRPEを特徴づけ、また、多くの場合、成熟したRPEに対して特異的であるタンパク質の発現を維持した(図13および図14)。著しい炎症反応または免疫反応が存在しなかったこと、および、腫瘍またはテラトーマが、移植を受けた100を超える眼において認められなかったことに留意することは重要である。ヘマトキシリンおよびエオシンによって染色された切片(図13Aおよび図13B)では、移植されたhESC由来の色素沈着細胞(これらはクラスターで現れたか、または、孤立した細胞として現れた)の網膜下および時には網膜内での存在位置が示される(矢印)。GFPによる免疫染色(図13C〜図13F)により、これらの細胞が実際にhESC由来であることが確認された。移植片は多くの場合、かなり大きく、散らばり(図13Cおよび図13E)、また、GFPを共発現する色素沈着細胞が明瞭に認められた(図13Dおよび図13F)。
【0144】
免疫染色により、移植片の内部における多数の移植された細胞が、成熟している分化したRPE細胞を特徴づけるタンパク質を発現することが明らかにされた(図14)。これには、RPE特異的マーカーの発現が含まれた(RPE65(図14A〜図14E)およびベストロフィン(図14F〜図14J))。細胞はまた、密着結合を形成することができた(図14K〜図14O)。密着結合はRPE細胞の重要な機能であり、血液−網膜関門を維持するために不可欠である。各列における最も左側のパネルは、GFPおよび関連マーカーを共発現する移植片の低倍率の蛍光像を示す。各列における高倍率の共焦点像では、色素(Nomarski光学系による)、同様にまた、GFPおよび異なるマーカーの共発現が細胞1個のレベルで示される。
【0145】
hESC由来RPE細胞により、機能的および構造的な網膜救済がジストロフィー性RCSラットにおいてもたらされる
網膜変性のRCSラットモデルにおいて、網膜機能が通常、2〜3ヶ月の月齢までにひどく損なわれる。構造的には、網膜の外顆粒層(ONL)の対応する喪失および薄化が生じ、また、網膜の外顆粒層が多くの場合、この月齢において光受容体核の1〜2列よりも少なくなるまで減少する。hESC由来RPE細胞が移植された眼において、網膜電図記録法による記録により、コントロールの処置されていない眼または培地注入された眼と比較された場合、網膜機能が著しく比較的保存されたことが明らかにされた(図7および図15)。
【0146】
暗順応(DA)した状態における、強度が増大する一連の白色閃光に対する代表的なERG応答が、そのコントロールの他眼(図15B)に対して、移植を受けた眼において示される(図15A)。図15Cは、移植を受けた眼と、異なる群のコントロール眼との間において、平均振幅における顕著な違いを示す。最大強度において、RPE移植を受けた眼における平均DA b波振幅が283.3±37.5(平均±SEM;n=13)であり、これに対して、処置されていないコントロールの他眼では158.5±18.1(n=13、p<0.01)であり、培地注入を受けた眼では89.9±14.4(n=5、p<0.01)であった。アクチビンAを伴うことなく得られるRPE細胞の移植の後で達成される救済作用(図7)と比較した場合、アクチビンA処理されたRPE細胞の移植の後では、網膜機能のより良い保存に向かう傾向があることに留意することは重要である(図15)。
【0147】
網膜構造の質的評価ならびに量的評価により、機能的な知見が裏付けられる(図16)。光受容体(ONL)層、ならびに、内側および外側の光受容体セグメント(IS+OS)が比較的保存されることが、移植片から離れた領域と比較されたとき、網膜下のRPE移植片の近くで認められた(2つの例が、図16A、図16Bに示される)。網膜全体の厚さ(図16C)、同様にまた、ONLおよびIS+OSの厚さ(図16D)が、移植片から離れた領域(灰色棒)と比較されたとき、hESC由来のRPE移植片の近傍では著しく増大する(黒色棒、平均±SEM、n=7)。このタイプの構造的救済が網膜下移植片および深部網膜内移植片の近くでのみ認められただけであり、移植片がもっぱら硝子体内であったときには認められなかった(示されず)。
【0148】
移植されたhESC由来のアクチビンA処理されたRPE細胞により、ロドプシンがインビボで取り込まれる
健全なRPEの重要な機能の1つが、光受容体の更新プロセスの一部としての、脱落した光受容体外側セグメントの取り込みおよび再利用である。網膜下の移植されたRPE細胞の共焦点像では、同じ1個の細胞の内部における、色素、GFP、RPE65およびロドプシンの共局在化が示される。このことから、移植された細胞は、成熟したRPEの表現型を有すること、および、(ロドプシンを含有する)脱落した外側セグメントの取り込みを行うことができることが示唆された。RCSラットの生来的なRPE細胞はRPE65を発現する(図17C、矢印)が、GFPを発現せず(図17D、矢印)、最少量のロドプシンを含有する(図17B、図17E)ことに留意すること。
【0149】
従って、上記の結果は、TGFβスーパーファミリーのメンバーを含む培養システムにおいて、また、好ましくは、NAの存在下で培養することによって得られるhSC由来のRPE細胞が、本質的に完全に機能的なRPE細胞を眼において提供するための移植のためにインビボで利用され得るという証拠を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RPEの究極的運命へのhSCの導かれた分化を促進するための方法であって:
(a)hSCを含む細胞培養物を提供すること;および
(b)細胞を、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養し、それにより、前記hSCがRPEの究極的運命に分化するために誘導されること
を含む方法。
【請求項2】
前記細胞培養物はhSCの浮遊性クラスターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記hSCは、未分化のhSC、分化しているhSC及びこれらの組み合わせから選択されるSCの集団を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養することは、ニコチンアミド(NA)を含む培養システムでの第1培養段階、及び前記TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーを含む培養システムでの第2培養段階を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地中で前記細胞培養物を培養する前に、NAが補充された基礎培地を含む培養システムにおいてhSCを少なくとも2日間培養することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記培養システムは、前記TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバー及びNAを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記TGFβスーパーファミリーのメンバーは、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、ノーダル(nodal)、抗ミューラーホルモン(AMH)、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7および成長分化因子(GDF)から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記TGFβスーパーファミリーのメンバーは、TGFβ1、TGFβ3またはアクチビンAである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞は、懸濁物中で培養される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの存在下で少なくとも1週間細胞を培養することを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
RPE細胞を採取することを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が細胞培養物の培養のために好適なバイオリアクター中で行なわれる、RPE細胞の大規模及び/又は長期間生産のための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記RPE細胞は単層で拡大する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記RPE細胞は、少なくとも細胞外マトリックス成分、血清代用物およびNAを補充された血清不含有基礎培地を含む培養システムにおいて培養される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーの存在下でのhSCの導かれた分化によって得られるRPE細胞。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって得られる、請求項15に記載のRPE細胞。
【請求項17】
最終分化したRPE細胞である、請求項15又は16に記載のRPE細胞。
【請求項18】
ベストロフィンおよびRPE65から選択される1つ又は複数のマーカーを発現する、請求項15〜17のいずれか一項に記載のRPE細胞。
【請求項19】
前記1つ又は複数のマーカーの発現が、SCからの自発的分化によって得られたRPE細胞中でのマーカーの発現と比較して増大されている、請求項18に記載のRPE細胞。
【請求項20】
ヒト胚性幹細胞から分化された、請求項15〜19のいずれか一項に記載のRPE細胞。
【請求項21】
治療用組成物の調製のための、請求項15〜20のいずれか一項に記載のRPE細胞の培養物の使用。
【請求項22】
RPE細胞を対象の眼に移植する方法であって:
(a)hSCを含む細胞培養物を提供すること;
(b)前記細胞培養物中の細胞を、TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地を含む培養システムにおいて培養し、それにより、前記hSCが、RPE細胞に分化するために誘導されること;
(c)前記細胞培養物から(b)のRPE細胞を集めること;および
(d)前記分化したRPE細胞を前記対象の眼に移植すること
を含む方法。
【請求項23】
前記hSCは浮遊性クラスターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記培養することは、ニコチンアミド(NA)を含む培養システムでの第1培養段階、及び前記TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーを含む培養システムでの第2培養段階を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
TGFβスーパーファミリーの1つまたは複数のメンバーが補充された基礎培地中で前記細胞培養物を培養する前に、NAが補充された基礎培地を含む培養システムにおいてhSCを少なくとも2日間培養することを含む、請求項22〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記TGFβスーパーファミリーのメンバーは、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、ノーダル(nodal)、抗ミューラーホルモン(AMH)、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7および成長分化因子(GDF)から選択される、請求項22〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記TGFβスーパーファミリーのメンバーは、TGFβ3またはアクチビンAである、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞を懸濁物中で培養することを含む、請求項22〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記RPE細胞を目の網膜下腔に移植することを含む、請求項22〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記RPE細胞は、懸濁物中で、又はマトリックスもしくは基体上に固定された細胞の単層として移植される、請求項22〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
対象において、網膜色素上皮の機能異常、傷害および/または喪失を含む網膜疾患または網膜障害を処置または防止する方法であって、前記対象に、請求項15〜20のいずれか一項に記載のRPE細胞または請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって得られるRPE細胞を眼内移植することを含む方法。
【請求項32】
前記RPE細胞を目の網膜下腔に移植することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記RPE細胞は、懸濁物中で、又はマトリックスもしくは基体上に固定された細胞の単層として移植される、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
前記網膜疾患または網膜障害は、色素性網膜炎、レーバー先天性黒内障、遺伝性または後天性の黄斑変性、加齢性黄斑変性(AMD)、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮症、コロイデレミア、パターンジストロフィー、RPEジストロフィー、シュタルガルト病、光傷害、レーザー傷害、炎症性傷害、感染性傷害、放射線傷害、血管新生傷害または外傷性傷害のいずれか1つによって引き起こされる損傷に起因するRPE損傷および網膜損傷の少なくとも1つから選択される、請求項31〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項15〜20のいずれか一項に記載のhSC由来のRPE細胞を対象への眼内移植のために好適な用量で含む治療用組成物。
【請求項36】
前記RPE細胞は、懸濁物中にあるか、又はマトリックスもしくは基体上に細胞の単層として固定されている、請求項15〜20のいずれか一項に記載のhSC由来のRPE細胞を含む治療用インプラント、又は請求項35に記載の治療用組成物。
【請求項37】
網膜疾患もしくは網膜障害の治療又は予防のための、請求項35に記載の治療用組成物又は請求項36に記載の治療用インプラント。
【請求項38】
前記網膜疾患または網膜障害は、色素性網膜炎、レーバー先天性黒内障、遺伝性または後天性の黄斑変性、加齢性黄斑変性(AMD)、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮症、コロイデレミア、パターンジストロフィー、RPEジストロフィー、シュタルガルト病、光傷害、レーザー傷害、炎症性傷害、感染性傷害、放射線傷害、血管新生傷害または外傷性傷害のいずれか1つによって引き起こされる損傷に起因するRPE損傷および網膜損傷の少なくとも1つから選択される、請求項35に記載の治療用組成物又は請求項36に記載の治療用インプラント。
【請求項39】
前記hSCはヒト胚性幹細胞である、請求項1〜14又は31〜34のいずれか一項に記載の方法。

【図7】
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【図9A−D】
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【図9E−H】
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【図9I−L】
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【図9M−O】
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【図11M−P】
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【図15】
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【図1A−C】
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【図1D−E】
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【図2A−D】
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【図2E−F】
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【図3A−F】
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【図3G−L】
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【図4A−B】
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【図4C−E】
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【図5A−D】
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【図5E−G】
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【図6A−G】
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【図6H−J】
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【図6K−P】
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【図8A−F】
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【図8G−I】
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【図9P−S】
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【図10A−C】
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【図10D−F】
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【図10G−J】
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【図11A−F】
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【図11G−I】
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【図11J−L】
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【図12A−C】
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【図12D−E】
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【図13A−B】
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【図13C−D】
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【図13E−F】
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【図14A−E】
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【図14F−J】
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【図14K−O】
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【図16A−B】
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【図16C−D】
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【図17A−C】
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【図17D−E】
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【公表番号】特表2010−524457(P2010−524457A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503665(P2010−503665)
【出願日】平成20年4月27日(2008.4.27)
【国際出願番号】PCT/IL2008/000556
【国際公開番号】WO2008/129554
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(500388981)ハダシット メディカル リサーチ サーヴィシーズ アンド ディヴェロップメント リミテッド (6)
【Fターム(参考)】