説明

幹細胞の成長及び分化を調節する方法及び組成物

本発明は次のとおり要約することができる。Wntシグナル伝達経路を調節することによる、幹細胞の増殖及び/または系列決定を調節する方法及び組成物を提供する。Wntシグナル伝達経路のモジュレーター及びモジュレーター同定のためのスクリーニング方法も提供する。本発明の方法は、幹細胞増殖及び/または系列決定を誘導または抑制するため、インビトロまたはインビボで行ってよく、組織の常在幹細胞の増殖及び/または系列決定のインビボでの刺激に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は幹細胞治療分野、特に幹細胞の増殖もしくは系列決定を誘導もしくは抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Wnt遺伝子ファミリーは、標的細胞上でFrizzled(Fzd)受容体に結合することにより作用するシステイン豊富な分泌性糖タンパクを20以上エンコードする。WntのFzdへの結合は、1つもしくはいくつかの経路によるシグナル伝達を起すことができる。標準伝達路と称される経路においては、Disheveledの活性化が、細胞質のセリン−トレオニンキナーゼであるグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3β(GSK−3β)の不活化を導く。それにより、GSK−3βの標的であるβ−カテニンが安定化され、核へ転移し、そこで特定プロモーターのTCF(T細胞因子)依存性転写を活性化する(Wodarz, 1998; Dierick, 1999)。非標準伝達路もしくは平面内組織極性経路においては、WntのFzdへの結合はまた、Disheveledを活性化し(Krasnow et al., (1995). Development 121, 4095−4102)、この場合低分子量gタンパクであるRhoAを活性化する(Strutt et al., (1997). Nature 387, 292−295)。そして、RhoAは、JNK(Jun N−末端キナーゼ)及びRock(Rho関連キナーゼ)を通じてシグナルを送り、原腸形成の間の細胞骨格の動態を調節する(Boutros et al., (1998). Cell 94, 109−118)。Wntタンパクは、細胞内カルシウムの調節を通じてシグナルを送ることも知られている。これはプロテインキナーゼC(PKC)を活性化すると考えられ(Sheldahl et al., (1999). Curr. Biol. 9, 695−698)、転写因子NFATの核転移を導く。
【0003】
近年、Wntシグナル伝達経路が様々な組織中で細胞運命を決定し得ることがわかってきており、例えば、腎臓(Labus, 1998; Vainio, 2000)、CNS(Patapoutian, 2000)、造血系(Van Den Berg, 1998)、及び骨格筋(Cossu, 1999)などでわかっている。また、Wntシグナル伝達は、ゼブラフィッシュ及びヒドラの出生後の創傷治癒及び組織再生に関与している(Hobmayer, 2000; Labus, 1998; Poss, 2000)。
【0004】
胎性組織もしくは骨髄由来の造血幹細胞の増殖もしくは分化におけるWntシグナル伝達の関与もまた開示されているる。例えば、米国特許第5,851,984号及び6,159,462には、造血幹細胞もしくは前駆細胞の増殖、分化及び/または維持を高めるためのWntポリペプチドの使用が記載され、米国特許第6,465,249号には、前駆細胞もしくは幹細胞、特に造血幹細胞のインビトロでの拡張のためのβ−カテニンの使用が記載されている。米国特許第6,165,748号には、Wntシグナル伝達路に関連する新規タンパクであるFlazzledタンパクが記載され、また組織及び器官の分化における因子の発現を誘導するための該タンパクの使用についても記載されている。カナダ特許出願第2,353,804号には、P19胚性がん細胞における筋形成を刺激するためのWnt3aの使用が記載され、筋形成がWnt活性の調節によって制御されること、特にWntポリペプチドの抑制により筋形成が抑制されることが示唆されている。
【0005】
米国特許出願第20030040051号には、脊椎動物のFrizzled遺伝子ファミリーの新規なセット、及びこれらの遺伝子にエンコードされたポリペプチドへのWntの結合に影響を及ぼす化合物のスクリーニング方法が記載されている。
【0006】
幹細胞は様々な医療面で利益をもたらす可能性をもつが、可能性を秘めた多くの応用に対する数々の制限があり、例えば、十分な数の標的細胞を得ること、これら幹細胞の成熟した組織特異的細胞への最終分化を刺激することなどが挙げられる。
【0007】
幹細胞の成長、分化、または成長と分化の両方を調節可能とする方法、ならびに組成物が当該分野において必要とされている。
【0008】
このような背景情報は、出願人が本発明と関連の可能性があると考える公知情報を作成することを目的として提供するものである。いかなる前記情報も本発明に対して従来技術を構成すると自認することを必ずしも意図するものではなく、また、解釈されるべきではない。
【0009】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服することである。
メインクレームの特徴の組み合わせは上記目的に合致し、サブクレームは本発明のさらに有利な実施形態を開示する。
【発明の開示】
【0010】
本発明の実施形態は、いかなる方法でも限定することを意味するものではないが、幹細胞分化の調節のためのWntシグナル伝達経路の使用を提供するものである。本発明の一つの態様に従い、成体幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路のモジュレーターと接触させることを含む、成体幹細胞群の増殖調節方法が提供される。
【0011】
本発明の別の態様に従い、成体幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路のアクティベーターと接触させることを含む、成体幹細胞群の前駆細胞への系列決定を誘導する方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様に従い、成体幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路のアクティベーターと接触させることを含む、成体幹細胞群の生存を増加させる方法が提供される。
【0013】
本発明の別の態様に従い、筋原前駆細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路のアクティベーターと接触させることを含む、筋原前駆細胞群の最終分化の誘導方法が提供される。
【0014】
本発明の別の態様に従い、成体組織中の常在幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路のアクティベーターと接触させることを含む、成体組織中常在幹細胞群の増殖及び/または系列決定を誘導する方法が提供される。
【0015】
本発明の別の態様に従い、可溶性Frizzled関連タンパクに結合してその活性を抑制し、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を誘導する能力をもつ化合物が提供される。
【0016】
本発明の別の態様に従い、Frizzled受容体に結合してその活性を抑制し、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を抑制する能力をもつ化合物が提供される。
【0017】
本発明の別の態様に従い、次のステップを含む、Wntシグナル伝達経路調節化合物のスクリーニング方法が提供される:
(a)成体幹細胞試験群を用意する;
(b)前記試験群を候補化合物と接触させる;
(c)前記試験群の増殖をモニターする;
(d)前記試験群の増殖を前記候補化合物と接触させなかったコントロール群の増殖と比較し、前記試験群の増殖と前記コントロール群の増殖との差をWntシグナル伝達経路調節化合物の指標とする。
【0018】
また、本発明により、対象への1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターもしくはインヒビターを含む組成物を投与することを含む、対象のCD45+:Sca1+幹細胞群の増殖、分化、もしくは増殖と分化の両方の調節方法が提供される。
【0019】
好ましい実施形態においては、調節が幹細胞の増殖、分化、もしくは増殖と分化の両方を促進し、組成物は1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターを含み、例えば、これに限定されるものではないが、一つ以上のwntポリペプチド、好ましくはヒトwntポリペプチドであり、Wnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a、Wnt7b、Wnt10a、Wnt10b、もしくはそのあらゆる組合せが挙げられるが、これに限定されるものではない。いかなる方法でも限定することを意味しない一つの実施形態において、wntポリペプチドはWnt5a、5b、7a、及び7bを含む。限定することを意味しない別の実施形態において、wntポリペプチドはWnt5a、5b、7b、10a、及び10bを含む。
【0020】
本発明の別の実施形態においては、1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターが小分子、例えば、これに限定されるものではないが、塩化リチウムを含んでよい。
【0021】
また、本発明は1つ以上のwntシグナルアクティベーターが、1つ以上の可溶性Fizzled関連タンパク(sFRPs)へ結合し、その活性を抑制する1つ以上の化合物を含む前記方法も意図する。本化合物は、1つ以上の小分子、ポリペプチド、タンパク、高分子、もしくはその組合せであってよい。一つの実施形態においては、1つ以上のポリペプチドは、sFRP1、sFRP2、sFRP3、sFRP4、もしくはその組合せに結合する1つ以上の抗体あるいは抗体フラグメントを含む。
【0022】
また、前記方法によって意図されるように、調節は、幹細胞の増殖、分化、もしくは増殖と分化の両方を抑制してよく、組成物は1つ以上のwntシグナル伝達インヒビター、例えば、これに限定されるものではないが、1つ以上の可溶性Fizzled関連タンパク(sFRPs)、好ましくは1つ以上のsFRP1、sFRP2、sFRP3、sFRP4、もしくはその組合せを含んでもよい。本発明の一つの実施形態においては、いかなる方法でも限定することを意味するものではないが、1つ以上の可溶性Fizzled関連タンパクは、sFRP2及びsFRP3を含んでよい。さらなる実施形態においては、可溶性Frizzled関連タンパクはヒトFizzled関連タンパクである。
【0023】
前記本発明の方法で記載された対象は、哺乳類である対象であってよく、例えば、これに限定されるものではないが、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、ウサギ、霊長類、もしくはヒトが挙げられる。一つの実施形態においては、これに限定されるものではないが、対象はヒトである。
【0024】
前記方法は、ヒト対象が筋変性もしくは筋萎縮を示すか、または有することも意図するものである。筋変性もしくは筋萎縮は、疾患によりその全体もしくは一部に生じていてよく、例えば、エイズ、がん、筋変性疾患、もしくはその組合せが挙げられる。筋変性疾患の例としては、これに限定されるものではないが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSH)、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)、遠位型筋ジストロフィー、もしくはエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーなどが挙げられる。
【0025】
また、本発明は、対象が骨格筋障害を示すか、もしくは有する前記方法も意図するものでもある。骨格筋障害は、疾患性もしくは非疾患性であってよい。例えば、いかなる方法でも限定することを望むものではないが、本方法は例えば手術などの後の不活性化に起因する筋萎縮の治療に使用してよいが、これに限定されるものではない。一方、本発明の方法は、対象の筋細胞数増加のために用いてもよく、及び/または対象の1つ以上の筋肉の大きさ、強度もしくは量の増加のために用いてもよい。
【0026】
前記方法によって意図されるように、組成物は、幹細胞の生存を高める化合物をさらに含んでもよく、例えば、これに限定されるものではないが、ソニックヘッジホッグ(Shh)タンパクが挙げられる。
【0027】
本発明は、対象の1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターもしくはインヒビター、及び薬学的に許容可能な担体もしくは希釈剤を含む、対象物の幹細胞の増殖、分化、もしくは増殖と分化の両方の調節に使用するための組成物も提供する。
【0028】
一つの好適な実施形態において、本組成物は、対象の幹細胞の増殖、分化、もしくは増殖と分化の両方の促進に使用され、1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターは、1つ以上のwntポリペプチド、例えば、これに限定されるものではないが、Wnt1,Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a、Wnt7b、10a、10b、もしくはそれらの組合せを含む。具体的な実施形態においては、限定することを意味するものではないが、wntポリペプチドは、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a、及びWnt7bを含む。また、別の実施形態においては、wntポリペプチドは、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7b、Wnt10a、及びWnt10bを含む。また、本発明は、wntポリペプチドとして、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7b、Wnt10a、及びWnt10bのあらゆる組合せを使用する方法及び組成物も意図するものである。
【0029】
また、本発明は前記組成物を対象の幹細胞の増殖、分化、もしくは増殖と分化の両方の促進に使用することを意図し、その場合、1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターは、1つ以上の可溶性Fizzled関連タンパク(sFRPs)へ結合し、その活性を抑制する1つ以上の化合物を含む。1つ以上の化合物は1つ以上の小分子、例えば、これに限定されるものではないが、化学合成分子を含んでもよく、あるいは、1つ以上の化合物は、1つ以上のポリペプチド、例えばこれに限定されるものではないが、1つ以上の抗体もしくは抗体フラグメントを含んでもよい。
【0030】
一つの実施形態においては、1つ以上の化合物は、可溶性Frizzled関連タンパク(sFRP)であるsFRP1、sFRP2、sFRP3、sFRP4、もしくはその組合せに結合し、抑制する。別の実施形態では、1つ以上の化合物は、可溶性Fizzled関連タンパクsFRP2及びsFRP3へ結合し、活性を抑制する。sFRPsは、これに限定されるものではないが、野生型sFRPと実質的に同等の活性を示すヒトsFRPs、その変異体もしくは誘導体であってもよい。
【0031】
さらに、前記本発明の組成物は、例えば、ソニックヘッジホッグタンパクのような幹細胞の生存を高める化合物をさらに含んでもよい。また、本組成物は1つ以上の幹細胞、例えば、これに限定されるものではないが、CD45+:Scal+幹細胞を含んでよい。CD45+:Scal+幹細胞は、新生児期であってよく、例えば出生後のどの時点の対象に由来してもよい。
【0032】
この本発明の要約は必ずしも本発明の全ての必要な特徴を記載しておらず、本発明は記載された特徴のサブコンビネーションに存在してもよい。
これら及び他の本発明の特徴は、添付図面を参照した下記の記載からより明らかになるだろう。
【好ましい実施形態の開示】
【0033】
以下の記載は実施例による好適な実施形態の一例に過ぎず、本発明の効果を発揮するために必要な特徴の組合せを限定するものではない。
【0034】
本発明はWntシグナル伝達経路を調節することにより、成体幹細胞の増殖及び系列決定を調節する方法を提供する。さらに、本発明はWntシグナル伝達経路のモジュレーター、及び成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を誘導もしくは抑制するためのそれらの使用を提供する。Wntシグナル伝達経路のモジュレーターはアクティベーター及びインヒビターの両方を含む。モジュレーターはWntシグナル伝達経路の抑制に使用することができ、これにより、幹細胞の増殖及び/または系列決定を抑制することができる。あるいは、モジュレーターはWntシグナル伝達経路の活性化に使用することができ、これにより、幹細胞の増殖及び/または系列決定を誘導することができる。本発明の一つの実施形態に従い、モジュレーターの作用により誘導もしくは抑制された幹細胞の系列決定は、筋原前駆細胞の発生への決定である。さらに、Wnt経路の活性化は、成体幹細胞及び/または系列決定された前駆細胞の生存を増加させるのに使用することができる。Wnt調節は、系列決定された前駆細胞の最終分化の調節に使用することができる。
【0035】
従って、本発明は、成体幹細胞を、Wnt経路の一つ以上のモジュレーターと接触させることを含む、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を抑制もしくは誘導する方法を提供するものである。モジュレーターは、ポリペプチド、ペプチド、核酸分子、抗体または抗体フラグメント、もしくは有機小分子または無機小分子の形態であってよい。あるいは、モジュレーターはポリペプチド、ペプチド、抗体もしくは小分子を発現する細胞の形態であってもよい。本発明の方法は、インビトロもしくはインビボで実施してよく、組織中の常在幹細胞の増殖及び/または系列決定のインビボ刺激に特に有用である。さらに、本発明は、組織中の系列決定された前駆細胞をWnt経路の一つ以上のアクティベーターと接触させることを含む、前記前駆細胞の数を増加し、組織の再生を増進する方法も提供し、また、系列決定された前駆細胞をWnt経路の一つ以上のアクティベーターと接触させることを含む、前記前駆細胞の最終分化を誘導する方法も提供する。
【0036】
本発明の治療的応用は、常在幹細胞もしくは系列決定された前駆細胞の数を増加させることが必要である疾病及び疾患、例えば、障害または欠陥のある組織の交換あるいは筋萎縮や筋量減少の防止が必要である疾病及び疾患に関し、特に、筋ジストロフィー、神経筋疾患、神経変性疾患、循環器病、脳卒中、心不全、心筋梗塞、がん、HIV感染、エイズ、II型糖尿病などの疾病及び疾患に関係する。
【0037】
定義
他に定義されていない限り、ここで用いる全ての技術的、科学的用語は、本発明が関係する分野の通常の技術者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0038】
ここで使用される「Wntポリペプチド」という用語は、野生型配列に相当するポリペプチド配列をもつWntタンパク、ならびに野生型Wntポリペプチドの活性をもつ変異型ポリペプチド配列、ポリペプチドフラグメント、及びキメラポリペプチドも包含する。Wntタンパクは当該分野において知られており、例えば、ヒトWnts:Wnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a及びWnt7b、及びマウスWnts:Wnt1、Wnt2、Wnt3a、Wnt3b、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11及びWnt12が挙げられる。多様な種に由来する様々なwntポリペプチドは、http://www.stanford.edu/~rnusse/wntwindow.htmlで見つけることができる(参照することによりここに組み込まれる)。
【0039】
ここで使用される「Wntシグナル伝達経路」という用語は、幹細胞の分化に関わるWntタンパクが介在する細胞のシグナル伝達経路をいう。
【0040】
ここで使用される「モジュレーター」という用語は、Wntシグナル伝達経路のアクティベーターとインヒビターの両方をいう。従って、Wntシグナル伝達経路の「モジュレーター」は、Wntタンパクもしくは遺伝子へ作用することにより直接的に、もしくはシグナル伝達経路においてWntタンパクの上流(アクティベーター)もしくは下流(エフェクター)で働く一つ以上のタンパクあるいはタンパクをエンコードする遺伝子に作用することにより間接的に、Wntポリペプチド活性を刺激もしくは抑制する化合物あるいは分子である。いくつかの種からのwntタンパクをエンコードするヌクレオチド配列のリストが、http://www.stanford.edu/~rnusse/wntwindow.htmlで提供されるが、これは参照することによりここに組み込まれる。
【0041】
ここで使用される「幹細胞」という用語は、多くの最終的な分化した細胞型へ分化する能力を持つ細胞をいう。幹細胞は、全能性のもしくは多能性の細胞であってよい。全能性幹細胞は、典型的には、どのような細胞型にも発展する能力をもつ。全能性幹細胞は通常、胚に由来する。多能性細胞は、典型的には、いくつかの異なる最終的に分化した細胞型へ分化する能力を有する幹細胞系の細胞である。単能性及び多能性幹細胞は、様々な組織もしくは器官系に由来することができ、これに限定されるものではないが、血液、神経、筋肉、皮膚、腸、骨、腎臓、肝臓、すい臓、胸腺などが挙げられる。本発明に従って、幹細胞は成体もしくは新生児の組織もしくは器官に由来する。
【0042】
ここで使用される「前駆細胞」という用語は、特定の細胞系列に決定された細胞であって、一連の細胞分裂によってこの系列の細胞を生じる細胞をいう。前駆細胞の例として筋芽細胞が挙げられ、これは、ただ一つの細胞型に分化する能力をもつが、それ自身は完全に成熟しておらず、あるいは完全に分化していない。
【0043】
ここで細胞に関して同義的に使用される「増殖」及び「拡張」という用語は、分裂による同型細胞の数の増加をいう。
【0044】
ここで使用される「分化」という用語は、それによって細胞が特定機能に特殊化する発展過程をいい、例えば、細胞が最初の細胞型とは異なった一つ以上の形態学的特徴及び/または機能を獲得する過程をいう。「分化」という用語は、系列決定及び最終分化の両方のプロセスを含む。分化は、例えば、免疫組織化学もしくは当該分野の技術者に知られた他の手法を用いて、系列マーカーの有無をモニターすることにより評価することができる。前駆細胞に由来する分化した子孫細胞は、必ずしもそうである必要はないが、幹細胞の起源組織と同じ胚葉もしくは組織に関係していてよい。例えば、神経前駆細胞及び筋肉前駆細胞は、造血細胞系列へ分化することができる。
【0045】
ここで同義的に使用されている「系列決定」及び「特殊化」という用語は、幹細胞が経験するプロセスであり、幹細胞が、分化細胞型の特に制限された範囲を形成するよう決められた前駆細胞を生じるプロセスをいう。決定された前駆細胞は、しばしば自己再生もしくは細胞分裂する能力がある。
【0046】
ここで使用される「最終分化」という用語は、成熟した完全に分化した細胞への細胞の最後の分化をいう。例えば、神経前駆細胞及び筋肉前駆細胞は、造血細胞系列へ分化することができ、その最終分化は特定の細胞型の成熟した血液細胞を導く。通常、最終分化は、細胞周期及び増殖休止からの離脱に関係する。
【0047】
ある対象に関してここで使用する「自然発生」という用語は、その対象が自然界に見られるものであることを示している。例えば、自然発生ポリペプチドもしくはポリヌクレオチド配列は、生物に存在し、生物から分離することができるものであって、実験室でヒトにより故意に修飾されたことのないものである。
【0048】
ここで使用される「約」という用語は、名目値から+/−5%の変動をいう。このような変動は、特記するしないに関わらず、ここで提供される何れの値にも常に含まれると理解されるべきである。
【0049】
ここで使用されるその他の化学用語は、The McGraw−Hill Dictionariy of Chemical Terms(ed. Parker, S, 1985),McGraw−Hill, San Franciscoに例示されるような、当該分野における慣例的用法に従って使用される。
【0050】
Wntシグナル伝達経路の候補モジュレーター
本発明に従って、Wntシグナル伝達経路の候補モジュレーターは、Wntポリペプチドの活性を直接的または間接的に刺激または抑制する化合物及び分子である。直接的モジュレーターは、WntポリペプチドもしくはWntポリペプチドをエンコードする遺伝子に作用し、一方、間接的モジュレーターは、Wntシグナル伝達経路においてWntポリペプチドの上流(「アクティベーター」)もしくは下流(「エフェクター」)で働く一つ以上のタンパク、もしくはタンパクをエンコードする遺伝子に作用する。従って、モジュレーターは、遺伝子レベルで作用して、例えば、WntポリペプチドもしくはWntポリペプチドのアクティベーターまたはエフェクターをエンコードする遺伝子の発現を上方調節もしくは下方調節することができ、あるいはタンパクレベルで作用して、WntポリペプチドまたはWntポリペプチドアクティベータータンパクまたはエフェクタータンパクの活性に影響を与えることができる。それ自身がWntポリペプチド、もしくはその活性フラグメントまたは変異体であり、細胞中のWntレベルを増大させることができるモジュレーターもまた、意図されている。モジュレーターは、例えば、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗体または抗体フラグメント、もしくは小分子のアクティベーターまたはインヒビターであることができる。小分子のモジュレーターは、有機物または無機物であることができる。本発明の範囲において、Wntポリペプチドの活性は、幹細胞の分化及び/または増殖を導く活性をいう。
【0051】
本発明の一つの実施形態において、モジュレーターは、遺伝子レベルで作用して、Wntポリペプチドをエンコードする遺伝子の発現を上方制御作用する。別の実施形態においては、モジュレーターが細胞中のWntの総量を増加させるWntポリペプチドをエンコードする遺伝子を含み、従って、シグナル伝達経路におけるWnt活性を増大させる。別の実施形態においては、モジュレーターはタンパクレベルで作用して、Wntポリペプチドの活性を高める、あるいは細胞中のWntポリペプチドレベルを増大させる。さらに別の実施形態においては、モジュレーターはタンパクレベルで作用して、Wntポリペプチドの活性を抑制する。
【0052】
(i)ポリペプチド及びペプチド
ここで使用される「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、ペプチド結合もしくは修飾ペプチド結合によって互いに結合したアミノ酸残基の配列をいう。通常、ポリペプチドは少なくとも6つのアミノ酸長さであり、ペプチドは少なくとも3つのアミノ酸長さである。ポリペプチドもしくはペプチドは、自然発生、組換え、合成、もしくはこれらの組合せであることができる。ポリペプチドもしくはペプチドは、自然発生タンパクもしくはポリペプチドのフラグメントであることができる。ポリペプチド及びペプチドという用語は、ペプチド類似体、ペプチド誘導体、及びペプチド模倣化合物も包含する。このような化合物は当該分野においてよく知られており、自然発生ペプチドよりもに大きな利点を有していてよく、例えば、より高い化学安定性や、増強されたタンパク分解抵抗性、強化された薬理学的特性(例えば半減期、吸収、作用強度、有効性など)、変化した特異性(例えば、生物学的活性の広域性)、及び/または減少した抗原性などが挙げられる。
【0053】
「ペプチド誘導体」は、通常は自然発生ペプチドの一部ではない化学的または生化学な追加部分を含むペプチドである。ペプチド誘導体は、一つ以上のアミノ酸側鎖及び/またはアミノ末端及び/またはカルボキシ末端が、適当な化学的置換基で誘導体化されているペプチドを含み、また、環状ペプチド、二重ペプチド、ペプチド多量体、他のタンパクまたは担体と融合したペプチド、グリコシル化ペプチド、リン酸化ペプチド、親油性部分(例えば、カプロイル、ラウリル、ステアロイル部分など)と結合したペプチド、及び抗体または他の生物学的リガンドと結合したペプチドも含む。
【0054】
ペプチドを誘導体化するのに用いることができる化学的置換基の例としては、これに限定されるものではないが、アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基;アルカノイル基やアロイル基などのアシル基;エステル;アミド;ハロゲン;ヒドロキシル;カルバミルなどがある。置換基は、Fmoc(フルオレニルメチル−O−CO−)、カルボベンゾキシ(ベンジル−O−CO−)、モノメトキシスクシニル、ナフチル−NH−CO−、アセチルアミノ−カプロイル、及びアダマンチル−NH−CO−などの保護基であってもよい。他の誘導体としては、C−末端ヒドロキシメチル誘導体、O−修飾誘導体(例えば、C−末端ヒドロキシメチルベンジルエーテル)、及びアルキルアミドやヒドラジドのような置換アミドなどのN−末端修飾誘導体が挙げられる。
【0055】
ここで使用される「環状ペプチド」という用語は、例えば、環化に適当な2つ以上の追加アミノ酸残基が付加したペプチドの環状の誘導体をいう。これらの追加アミノ酸は、カルボキシル末端及びアミノ末端に付加してよく、あるいは、内部の位置にあってもよい。あるいは、環状ペプチドは、アミノ酸配列中に自然に生じるシステイン残基を利用して、ジスルィド結合を形成し、これによりペプチドを環化してもよい。環状ペプチドは、分子内ジスルフィド結合、すなわち、−S−S−;2つの付加残基間の分子内アミド結合、すなわち、−CONH−または−NHCO−;もしくは分子内S−アルキル結合、すなわち、−S−(CH)−CONH−または−NH−CO(CH−S−、nは1、2もしくはそれ以上、のいずれかを含むことができる。
【0056】
分子内ジスルフィド結合を含む環状ペプチドは、従来の固相合成法により、環化のために選択された位置で適当なS−保護システインあるいはホモシステイン残基を合体させながら調製してもよい(例えば、Sahm et al.,1996,J.Pharm.Pharmacol.48:197参照)。鎖組み立て完了後、遊離の相当するSH−官能基の支持体上の酸化を結果として生じるS−保護基の選択的な除去によりS−S結合を形成し、次いで支持体から生成物を従来通り離し、適当な方法で精製することにより環化を行うことができ、あるいは完全な側鎖脱保護と共にペプチドを支持体から離し、次いで遊離のSH−官能基を高希釈水溶液中で酸化することにより、環化を行うことができる。同様に、分子内アミド結合を有する環状誘導体は、従来の固相合成法により、環化のために選択された位置で適当なアミノ側鎖及びカルボキシル側鎖保護アミノ酸誘導体を合体させながら調製してよく、また、分子内−S−アルキル結合を有する環状ペプチドは、従来の固相合成法により、環化のために選択された位置でアミノ酸残基を適当なアミノ保護側鎖及び適当なS−保護システインあるいはホモシステイン残基と合体させながら調製することができる。
【0057】
2重ペプチドは、直接的に、あるいはアラニン残基やタンパク分解の推定部位の短い範囲のようなスペーサーを介して、互いに共有結合した2つの同じあるいは2つの異なるペプチドからなる(例えば、米国特許第5,126,249号及び欧州特許第495,049号参照)。多量体は、多くの同じあるいは異なるペプチドあるいはその誘導体から形成された高分子である。重合は、0.1%グルタルアルデヒドのような適当な重合試薬で行われる(例えば、Audibert et al., 1981, Nature 289:593参照)。
【0058】
「ペプチド類似体」は、一つ以上の非自然発生のアミノ酸を含むペプチドである。非自然発生アミノ酸の例としては、これに限定されるものではないが、D−アミノ酸(すなわち、自然発生型と鏡像異性のアミノ酸)、N−α−メチルアミノ酸、C−α−メチルアミノ酸、β−メチルアミノ酸、β−アラニン(β−Ala)、ノルバリン(Nva)、ノルロイシン(Nle)、4−アミノ酪酸(γ−Abu)、2−アミノイソ酪酸(Aib)、6−アミノヘキサン酸(ε−Ahx)、オルニチン(orn)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、サルコシン、シトルリン、システイン酸、シクロヘキシルアラニン、α−アミノイソ酪酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、3−アミノプロピオン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸(2,3−diaP)、D−またはL−フェニルグリシン、D−またはL−2−ナフチルアラニン(2−Nal)、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸(Tic)、D−又はL−2−チエニルアラニン(Thi)、D−又はL−3−チエニルアラニン、D−またはL−1−,2−,3−または4−ピレニルアラニン、D−またはL−(2−ピリジニル)−アラニン、D−またはL−(3−ピリジニル)−アラニン、D−またはL−(2−ピラジニル)−アラニン、D−またはL−(4−イソプロピル)−フェニルグリシン、D−(トリフルオロメチル)−フェニルグリシン、D−(トリフルオロメチル)−フェニルアラニン、D−p−フルオロフェニルアラニン、D−またはL−p−ビフェニルアラニン、D−またはL−p−メトキシビフェニルアラニン、メチオニンスルホキシド(MSO)、及びホモアルギニン(Har)が挙げられる。他の例としては、D−またはL−2−インドール(アルキル)アラニン及びD−またはL−アルキルアラニンが挙げられ、アルキルは置換または非置換のメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、またはイソペンチルであり、またホスホノ−または硫酸化(例えば−SOH)非カルボキシル化アミノ酸も挙げられる。
【0059】
当該分野において知られているように、ペプチド内の全てのL−アミノ酸を全てD−アミノ酸に置換することにより、「インベルソ」(inverso)ペプチドあるいは「レトロインベルソ」(retro−inverso)ペプチドとすることができ(Goodman et al. “Perspectives in Peptide Chemistry” pp. 283−294 (1981);米国特許第4,522,752号参照)、これらは両方とも本発明との関係において類似体と見なされる。「インベルソ」ペプチドは、配列のL−アミノ酸全てがD−アミノ酸で置換されたものであり、「レトロインベルソ」ペプチドは、アミノ酸の配列が逆転し(「レトロ」)、且つ全てのL−アミノ酸がD−アミノ酸で置換されたものである。例えば、親ペプチドがThr−Ala−Tyrであれば、そのレトロ体はTyr−Ala−Thrであり、インベルソ体はthr−ala−tyrであり、レトロインベルソ体はtyr−ala−thrである(小文字はD−アミノ酸を示す)。親ペプチドに対して、レトロインベルソペプチドは側鎖の実質的にオリジナルな空間的配置を保持しながら逆転した主鎖を持つので、親ペプチドに非常に似たトポロジーのイソマーである。
【0060】
ペプチド模倣体は、ペプチドと構造的に同じで、かつ本発明のポリペプチドあるいはペプチドの機能を模倣した化学的部位を含む化合物である。例えば、ポリペプチドが機能的活性を有する2つの帯電した化学的部位を有する場合、模倣体は、帯電した化学的機能が3次元空間内に維持されるように、空間的定位及び強制的構造内に2つの帯電した化学的部位を持つ。従って、ペプチド模倣体との用語は、アイソスターを含むことを意図する。ここで用いる「アイソスター」との用語は、化学構造の立体配置がペプチドあるいはポリペプチドと同じであるために、そのポリペプチドあるいはペプチドと置換可能な化学構造を言い、例えば、その構造はポリペプチドあるいはペプチドに特異的な結合部位に適合する。ペプチド模倣体の例としては、一つ以上の主鎖修飾を含むペプチド(すなわち、アミド結合模倣体)があり、これは当該分野においてよく知られている。アミド結合模倣体の例としては、これに限定されるものではないが、−CHNH−、−CHS−、−CHCH−、−CH=CH−(シス及びトランス)、−COCH−、−CH(OH)CH−、及び−CHSO−が挙げられる(例えば、Spatola, Vega Data Vol. 1, Issue 3, (1983); Spatola, in Chemistry and Biochemistry of Amino Acids Peptides and Proteins, Weinstein, ed., Marcel Dekker, New York, p. 267 (1983); Morley, J. S., Trends Pharm. Sci. pp. 463−468 (1980); Hudson et al., Int. J. Pept. Prot. Res. 14:177−185 (1979); Spatola et al., Life Sci. 38:1243−1249 (1986); Hann, J. Chem. Soc. Perkin Trans. I 307−314 (1982); Almquist et al., J. Med. Chem. 23:1392−1398 (1980); Jennings−White et al., Tetrahedron Lett. 23:2533 (1982); Szelke et al., EP 45665 (1982); Holladay et al., Tetrahedron Lett. 24:4401−4404 (1983);及びHruby, Life Sci. 31:189−199 (1982)を参照)。ペプチド模倣体の他の例としては、一つ以上のベンゾジアゼピン分子で置換されたペプチド(例えば、James, G. L. et al. (1993) Science 260:1937−1942参照)、及び架橋してラクタムあるいは他の環状構造を形成した主鎖を含むペプチドが挙げられる。
【0061】
当該分野の技術者は、ペプチドあるいはポリペプチドの全てのアミノ酸が修飾される必要はないということを理解するであろう。同様に、全てのアミノ酸が同じ方法で修飾される必要はない。このように本発明のペプチド誘導体、類似体及びペプチド模倣体は、2つ以上の化学的に別個の領域を有するキメラ分子を含み、それぞれの領域は少なくとも一つのアミノ酸あるいはその修飾体を含む。
【0062】
Wntシグナル伝達経路のポリペプチド及びペプチドアクティベーターとしては、Wntタンパクに相当するものを含み、例えば、ヒトWnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a及びWnt7b、及びマウスWnt1、Wnt2、Wnt3a、Wnt3b、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11及びWnt12、またはそれらの活性フラグメントや変異体が挙げられる。また、Wntタンパクのアクティベーター及びエフェクタータンパクに相当するポリペプチドとして、例えば、Disheveled(Dvl);β−カテニン;Fzd1,2,3,又は4;Tcf/LEF及びAxin、またはそれらの活性フラグメントや変異体も含まれる。他のシグナル伝達経路、例えば、カドヘリン介在性経路が、Wntシグナル伝達経路に影響を与えることが知られている。従って、カドヘリンはWnt伝達経路のエフェクターであると考えられる。また、Wntシグナル伝達経路のポリペプチド及びペプチドアクティベーターは、例えば、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3α及び3β(GSK−3α及び3β)のような、Wntシグナル伝達経路を抑制または下方制御するタンパクの活性を抑制するものも包含する。
【0063】
本発明の一つの実施形態において、アクティベーターはWntタンパクまたはその活性フラグメントあるいは変異体である。別の実施形態においては、アクティベーターがヒトWnt5a、5b、7aまたは7bタンパク、またはその活性フラグメントあるいは変異体である。また別の実施形態においては、いかなる方法でも限定することを意味するものではないが、アクティベーターはヒトWnt5a、5b、7b、10a、10bタンパク、またはその活性フラグメントあるいは変異体である。さらに、アクティベーターはwntタンパクの組合せを含んでもよい。
【0064】
活性フラグメントは、野生型タンパクと実質的に同じ活性を保持する、自然発生の(または野生型の)タンパクのフラグメントである。候補フラグメントは、野生型タンパクから生じたランダムフラグメントから選択することができ、あるいは特に設計することもできる。フラグメントの活性を試験して、野生型タンパクと比較し、野生型タンパクと実質的に同じ活性を持つフラグメントを選択する。ポリペプチドフラグメントの作成方法は、当該分野でよく知られており、野生型タンパクまたはその組換え体の酵素的、化学的、または機械的な切断、当該フラグメントをエンコードする核酸の発現、化学合成等がある。
【0065】
変異体のタンパク、ポリペプチドあるいはフラグメントは、一つ以上のアミノ酸残基が削除され、付加され、あるいは野生型タンパクのアミノ酸配列にあるアミノ酸残基が置換されたものである。本発明に関連して、変異体はまた、野生型タンパクと実質的に同じ活性を保持している。通常、変異体が一つ以上のアミノ酸置換を有する場合、それらは「同類」置換である。同類置換は、一つのアミノ酸残基を同様の側鎖特性を有する別の残基で置き換えることを伴う。当該分野において知られているように、20の自然発生アミノ酸はその側鎖の物理化学的性質によって分類することができる。適当な分類としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン及びトリプトファン(疎水性側鎖);グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミン(極性非帯電側鎖);アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性側鎖)及びロイシン、アルギニン及びヒスチジン(塩基性側鎖)がある。アミノ酸の別の分類はフェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシン(芳香族側鎖)である。同類置換は、アミノ酸を同じグループの別のアミノ酸で置換することを含む。
【0066】
本発明に関連して、フラグメントまたは変異体が野生型タンパクの活性の約50%を示せば、それは野生型タンパクと実質的に同じ活性をもつとみなされる。一つの実施形態においては、変異体タンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクの活性の約60%を示す。別の実施形態においては、変異体タンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクの活性の約75%を示す。さまた別の実施形態においては、変異体タンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクの活性の約90%を示す。
【0067】
本発明によって意図されるその他のポリペプチドアクティベーターとしては、Wntポリペプチドの活性を通常抑制するタンパクと結合し、抑制するポリペプチドまたはペプチドが挙げられる。そのようなタンパクの例としては、可溶性Frizzled関連タンパク(sFRP)ファミリーのメンバーがある。このファミリーのいくつかのメンバーはヒトに存在することが知られており、例えば、sFRP1、sFRP2、sFRP3及びsFRP4などがある。
【0068】
本発明の一つの実施形態において、モジュレーターは、sFRPへ結合してWntポリペプチドのsFFPへの結合を妨げるペプチド誘導体、類似体またはペプチド模倣体である。別の実施形態においては、モジュレーターはsFRP2またはsFRP3へ結合するペプチド誘導体、類似体またはペプチド模倣体である。標的タンパクへ結合し抑制するポリペプチドまたはペプチドを同定する方法は、当該分野において知られている。そのようなペプチドを同定する典型的な方法の一つに、ファージディスプレイ法によるものがある。ランダムな短ペプチドのファージディスプレイライブラリーは、例えば、New England Biolabs, Inc.より市販されており、「パニング」として知られるインビトロ選択プロセスにより利用することができる。その最も簡単な形式において、パニングは、初めにファージディスプレイぺプチドのライブラリーを、標的分子でコートしたプレートまたはビーズと培養し、次に非結合性のファージ粒子を洗い流し、最後に特異的に結合したファージを溶離することを含む。その後、特異的に結合したファージにより示されたペプチドを、標準的な技術によって分離、配列決定する。場合によっては、分離されたペプチドの結合活性も、標準的な技術を用いて試験することができる。
【0069】
本発明によって意図されるタンパク、ポリペプチド及びペプチドインヒビターは、Wntシグナル伝達経路において、Wntポリペプチドを通常抑制するタンパク、及びその活性フラグメントならびに変異体を含む。そのようなタンパクの例としては、上記sFRPファミリーのメンバー、及びGSK−3α及び3βが挙げられる。インヒビターの他の例として、WntFizzled受容体へ結合し、それによってWntの結合及びその後のシグナル伝達経路下流のタンパクの活性化を妨げるペプチド誘導体、類似体またはペプチド模倣体が挙げられる。また、本発明のポリペプチド及びペプチドインヒビターは、Wnt伝達経路のエフェクターの活性を抑制するもの、例えばDvl、β−カテニン、Tcf及びAxinなども含む。
【0070】
本発明は、野生型タンパクの作用を妨げてタンパク活性のインヒビターとして働く、生物学的に不活性なタンパクまたはタンパクフラグメントの使用も意図するものである。例としては、優性抑制型変異体が挙げられる。本発明によって意図される生物学的に不活性なタンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクよりも実質的に活性の低いものである。候補抑制フラグメントは、野生型タンパクから生成したランダムフラグメントから選択することができる。候補ポリペプチドフラグメントを生成する方法は、当該分野の技術者によく知られており、前記のものが挙げられる。生物学的に不活性なタンパクも、例えば、タンパクをエンコードする核酸の部位特異的変異導入法またはランダム変異導入法、あるいは、化学的または物理的手段によるタンパクの不活性化によって作成することができる。
【0071】
本発明に関連して、生物学的に不活性なタンパク、フラグメントまたは変異体が野生型タンパクの活性の約75%以下を示すとき、それは野生型タンパクよりも実質的に低い活性をもつとみなされる。別の実施形態においては、変異体タンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクの活性の約60%以下を示す。さらなる実施形態においては、生物学的に不活性な変異体タンパクまたはフラグメントは、野生型タンパクの活性の約50%以下、例えば、野生型タンパクの活性の約1%〜約40%を示す。
【0072】
本発明のポリペプチド及びペプチドは、細胞抽出物からの精製または組換え技術の使用のような、当該分野で公知の方法により調製することができる。Wntシグナル伝達経路に含まれる多数のWntポリペプチド及び他のタンパクのアミノ酸配列は、当該分野において知られている。Wntシグナル伝達経路における既知タンパクの代表的なGenBank Accession No.を表1に示す。これらの配列の一つに由来するポリペプチドまたはそのフラグメントも、当該分野で公知の方法により化学的に合成でき、これに限定されるものではないが、排他的固相合成法、部分的固相合成法、フラグメント縮合、または古典的液相合成法などがある(Merrifield (1963) J. Am Chem. Soc. 85:2149; Merrifield (1986) Science 232:341)。ポリペプチド及びペプチドは、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティ、及びサイジングカラムクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差のような標準的な技術を用いて精製でき、あるいは当該分野の技術者によく知られた他の技術により精製することができる。Wntタンパクの精製プロトコルは、報告されている(Willert, et al., (2003) Nature, 423:448−452)。さらに、Wnt伝達経路におけるいくつかのタンパクは市販されており、例えば、sFRP2及びsFRP3がある(R&D Systems)。
【0073】
【表1−1】

【0074】
【表1−2】



【0075】
【表1−3】



【0076】
【表1−4】



【0077】
【表1−5】



【0078】
【表1−6】

【0079】
核酸配列
本発明の一つの実施形態において、ポリペプチド及びペプチドは組換え技術により生成される。一般的には、これは、ポリペプチドまたはペプチドをエンコードするDNAの全てまたは一部を含む発現ベクターでの、適当な宿主細胞の形質転換(形質移入、形質導入、または感染を含む)を含む。Wntシグナル伝達経路に含まれるタンパクの多くの遺伝子配列が 、当該分野において知られている。Wntシグナル伝達経路における既知タンパクをエンコードする遺伝子の代表的なGenBank Accession No.を表2に示す。
【0080】
【表2−1】



【0081】
【表2−2】



【0082】
【表2−3】



【0083】
【表2−4】

【0084】
【表2−5】



【0085】
【表2−6】



【0086】
【表2−7】

【0087】
本発明にかかるポリペプチドまたはペプチドモジュレーターをエンコードする核酸配列は、標準的な技術によって適当な原料から容易に精製することができ、あるいは、化学的に合成することもできる。核酸は、分離したmRNAから調製されたゲノムDNA、RNA、cDNA、または標準的な技術によって自然発生核酸配列から増幅したDNAであることができる。核酸を得るための適当な原料は、Wntシグナル伝達カスケードのWntタンパク及び他のタンパクを発現することが知られている細胞である。そのような細胞の例として、一次筋芽細胞がある。
【0088】
野生型タンパクのフラグメントまたは変異体をエンコードする核酸配列は、部位特異的突然変異誘発技術などの標準的な技術を用いた、コード配列内での一つ以上のヌクレオチドの削除、付加、及び/または置換によって構築することができる。
【0089】
本発明のポリペプチド及びペプチドは、融合タンパクとして製造することもできる。そのような融合タンパクの用途の一つは、ポリペプチドまたはペプチドの精製または検出を改善することである。例えば、ポリペプチドまたはペプチドを免疫グロブリンのFcドメインに融合させることができ、得られた融合タンパクは、タンパクAカラムを用いて容易に精製することができる。融合タンパクの他の例として、ヒスチジンタグに融合したポリペプチドまたはペプチド(Ni2+樹脂カラムで精製可能)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼに融合したポリペプチドまたはペプチド(グルタチオンカラムで精製可能)、ビオチンに融合したポリペプチドまたはペプチド(ストレプトアビジンカラムまたはストレプトアビジン標識マグネティックビーズで精製可能)が挙げられる。
【0090】
特定の開始シグナルが、クローニングされた核酸配列の効率的な翻訳に要求されるかもしれない。これらのシグナルは、ATG開始コドン及び隣接配列を含む。それ自体の開始コドン及び隣接配列を含む完全な野生型遺伝子またはcDNAを適当な発現ベクターに挿入する場合には、追加の翻訳コントロールシグナルは必要でないかもしれない。別のケースでは、おそらくATG開始コドンを含む外因性のコントロールシグナルが与えられなければならない。さらに、開始コドンは挿入部分の完全な翻訳を確実にするために、目的とするコード配列の読み取り枠に一致している必要がある。外因性の翻訳コントロールシグナル及び開始コドンは、天然または合成であることができる。発現の効率を、適当な転写促進要素及び/または転写終結区の含有によって高めてもよい(Bittner et al. (1987) Methods in Enzymol. 153, 516)。
【0091】
本発明の核酸配列と使用する適当な発現ベクターは、これに限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、ウィルス粒子及びベクター、ファージ等が挙げられる。昆虫細胞としては、バキュロウィルス発現ベクターが適当である。植物細胞としては、ウィルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウィルス及びタバコモザイクウィルス等)及びプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド等)が適当である。完全な発現ベクターまたはその一部は、宿主細胞ゲノムへ組み込むことができる。ある状況下では、例えば、LACSWITCHTM Inducible Expression System(Stratagene, LaJolla, CA)のような誘導性発現ベクターを使用するのが望ましい。
【0092】
分子生物学分野の技術者は、組換えポリペプチドまたはペプチドを得るために、広範で様々な発現システムを用いることができるということを理解するであろう。使用される厳密な宿主細胞は、本発明に重要ではない。ポリペプチドまたはペプチドは、原核宿主中(例えば、E. coilまたはB. subtilis)または真核宿主中(例えば、SaccharomycesまたはPichia、COS、NIH 3T3、CHO、BHK、293、293−T、ATt−20またはHeLa細胞などの哺乳類細胞;昆虫細胞;または植物細胞)で生成できる。形質転換または形質移入の方法及び発現ベクターの選択は、選択した宿主系に依存し、当該分野の技術者により容易に決定することができる。形質転換及び形質移入の方法は、例えば、Ausubel et al. (1994) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New Yorkに記載されている;また、様々な発現ベクターは、例えばCloning Vectors: A Laboratory Manual (Pouwels et al., 1985, Supp. 1987)に提示されているものから選ぶことができる。
【0093】
また、宿主細胞は、挿入された配列の発現を調節するもの、または特定の所望のやり方で遺伝子産物を修飾及び処理するものを選択してよい。そのようなタンパク産物の修飾(例えばグリコシル化)及び処理(例えば切断)は、タンパクの活性にとって重要であるかもしれない。種々の宿主細胞は、タンパク及び遺伝子産物の翻訳後処理及び修飾のための特徴的な特定のメカニズムを有する。発現した異種タンパクの正確な修飾及び処理を確実にするために、適当な細胞系または宿主系を当該分野の技術者により選択することができる。
【0094】
発現ビヒクルを抱いた宿主細胞は、選択された遺伝子の活性化、選択された遺伝子の抑制、形質転換体の選択、または選択された遺伝子の増幅の必要性に応じて、従来の栄養培地中で培養することができる。
【0095】
(iii)オリゴヌクレオチド
本発明は、Wnt遺伝子、あるいはWntタンパクまたは遺伝子のアクティベーターまたはエフェクターをエンコードする遺伝子を標的とするオリゴヌクレオチドインヒビター及びアクティベーターも意図するものである。本発明に関連して、「オリゴヌクレオチドインヒビター」及び「オリゴヌクレオチドアクティベーター」という用語は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、短分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム及び三重らせん形成性オリゴヌクレオチドを包含する。
【0096】
ここで用いる「オリゴヌクレオチド」という用語は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)またはその修飾体、あるいはRNAまたはDNA模倣体のオリゴマーまたはポリマーをいう。従って、この用語は、自然発生核酸塩基、糖及び共有結合性ヌクレオシド間(主鎖)結合からなるオリゴヌクレオチドを含み、また、機能が類似した非自然発生部分をもつオリゴヌクレオチドも含む。そのような修飾または置換されたオリゴヌクレオチドは、例えば、細胞取り込みの促進、核酸標的に対する親和性の増強、ヌクレアーゼ存在下における安定性の向上などの望ましい特性のために、しばしば天然型よりも好ましい。また、本用語はキメラオリゴヌクレオチドも含む。キメラオリゴヌクレオチドは、2つ以上の化学的に異なる領域を含み、各領域が少なくとも一つのモノマー単位を含むオリゴヌクレオチドである。本発明にかかるオリゴヌクレオチドは、一本鎖でも二本鎖でもよい。
【0097】
本発明に有用なオリゴヌクレオチドの例としては、修飾された主鎖あるいは非天然ヌクレオシド間結合を有するものが挙げられ、例えば、ホスホロチオエート、キラルなホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’−アルキレンホスホネートやキラルなホスホネートなどのメチル及びその他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’−アミノホスホラミデートやアミノアルキルホスホラミデートなどのホスホラミデート、チオノホスホラミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、及びこれらの通常の3’−5’結合、2’−5’結合類似体を有するボラノフォスフェート、及びヌクレオシド単位の隣接した対が3’−5’は5’−3’へ結合し、2’−5’は5’−2’へ結合した逆極性をもつ類似体などがある。様々な塩、混合塩、及び遊離酸も含まれる。
【0098】
本発明により意図される修飾された主鎖の他の例としては、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合へテロ原子及びアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または一つ以上の短鎖ヘテロ原子または複素環ヌクレオシド間結合によって形成されるものが挙げられる。そのような主鎖としては、モルフォリノ結合(ヌクレオシドの糖部分から部分的に形成される);シロキサン主鎖;スルフィド、スルホキシド及びスルホン主鎖;ホルムアセチル及びチオホルムアセチル主鎖;メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチル主鎖;アルケン含有主鎖;スルファミメート主鎖;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジド主鎖;スルホネート及びスルホンアミド主鎖;アミド主鎖;及びN、O、S、CH構成部分が混合した他の主鎖が挙げられる。
【0099】
ここで使用する「アルキル」という用語は、1〜20の炭素原子をもつ一価のアルキル基をいう。適当なアルキル基の例としては、これに限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル等が挙げられる。
【0100】
「シクロアルキル」という用語は、一つの環または複数の縮合した環を有する、炭素原子が3〜20の環状アルキル基をいう。適当なシクロアルキル基の例としては、これに限定されるものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロオクチル等のような単環構造、またはアダマンタニル等のような多環構造が挙げられる。
【0101】
本発明は、ヌクレオチド単位の糖及びヌクレオシド間結合の両方が、新しい基で置換されたオリゴヌクレオチド模倣体も意図するものである。塩基単位は、適当な核酸標的とのハイブリダイゼーションのために維持される。優れたハイブリダイゼーション特性を示すそのようなオリゴヌクレオチド模倣体の例としては、ペプチド核酸(PNA)[Nielsen et al., Science, 254:1497−1500 (1991)]がある。PNA化合物において、オリゴヌクレオチドの糖主鎖は、アミド含有主鎖、特にアミノエチルグリシン主鎖で置換される。核酸塩基は保持され、主鎖のアミド部分のアザ窒素原子へ直接的または間接的に結合する。
【0102】
また、本発明は、「ロックド核酸」(LNAs)を含むオリゴヌクレオチドも意図し、これは、リボースの2’−Oを4’−Cと結合するメチレン架橋を有する、配座固定された新しいオリゴヌクレオチド類似体である(Singh et al., Chem. Commun., 1998, 4:455−456参照)。LNA及びLNA類似体は、相補的DNA及びRNAとの高い二本鎖熱安定性、3’−エキソヌクレアーゼ分解に対する安定性、及び良好な溶解特性を示す。アデニン、シトシン、グアニン、5−メチルシトシン、チミン及びウラシルのLNA類似体の合成、それらのオリゴマー化、及び核酸認識特性については、すでに記載されている(Koshkin et al., Tetrahedron, 1998, 54:3607−3630参照)。不一致配列の調査は、LNAが、相当する非修飾の対照鎖と比較して一般的に改善された選択性でワトソン−クリック塩基対合則に従うことを示す。
【0103】
LNAを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドが記載され(Wahlestedt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 2000. 97:5633−5638)、これらは有効かつ無毒であった。さらに、LNA/DNAコポリマーは、血清及び細胞抽出物中において容易に分解されなかった。LNAは高い熱親和性によって、相補的DNAまたはRNA、あるいは相補的LNAと二本鎖を形成する。LNA介在性ハイブリダイゼーションの普遍性は、非常に安定なLNA:LNA二本鎖の形成によって高められている(Koshkin et al., J.Am. Chem. Soc., 1998, 120:13252−13253)。LNA:LNAハイブリダイゼーションは最も熱安定的な核酸型二本鎖システムであることが示され、LNAのRNA様特性は二本鎖レベルで確立された。三つのLNAモノマー(TまたはA)の導入は、DNA補体に対して融点を著しく上昇させた。
【0104】
2’−アミノ−LNAの合成(Singh et al., J. Org. Chem., 1998, 63, 10035−10039)及び2’−メチルアミノ−LNAの合成はすでに記載されており、相補的RNA及びDNA鎖との二本鎖の熱安定性についても報告されている。また、ホスホロチオエート−LNA及び2’−チオ−LNAの調製も記載されている(Kumar et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 1998, 8:2219−2222)
【0105】
本発明にかかる修飾オリゴヌクレオチドは、一つ以上の置換された糖部分を含んでもよい。例えば、オリゴヌクレオチドは、その2’位に次の置換基の一つをもつ糖を含んでよい:OH;F;O−、S−、またはN−アルキル;O−、S−、またはN−アルケニル;O−、S−、またはN−アルキニル;またはO−アルキル−O−アルキル。なお、これらアルキル、アルケニル、及びアルキニルは、置換または非置換のC〜C10アルキル、またはC〜C10アルケニル及びアルキニルであることができる。そのような基の例としては、O[(CHO]CH、O(CHOCH、O(CHNH、O(CHCH、O(CHONH、及びO(CHON[(CHCHが挙げられ、n及びmは1〜約10である。あるいは、オリゴヌクレオチドは、その2’位に次の置換基の一つを含んでよい:C〜C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O−アルカリルまたはO−アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物動態学的特性を改善する基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学的特性を改善する基、及び同様の特性をもつ他の置換基。具体例としては、2’−O−メチル(2’−O−CH)、2’−メトキシエトキシ(2’−O−CHCHOCH、これは2’−O−(2−メトキシエチル)または2’−MOEとしても知られている)[Martin et al., Helv. Chim. Acta, 78:486−504(1995)]、2’−ジメチルアミノオキシエトキシ(2’−O(CHON(CH基、これは、2’−DMAOEとしても知られている)、2’−アミノプロポキシ(2’−OCHCHCHNH)及び2’−フルオロ(2’−F)が挙げられる。
【0106】
また、同様の修飾が、オリゴヌクレオチドの他の位置、特に3’末端ヌクレオチドまたは2’−5’結合オリゴヌクレオチドの糖の3’位、及び5’末端ヌクレオチドの5’位になされていてもよい。オリゴヌクレオチドは、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分のような糖模倣体を含んでもよい。
【0107】
本発明にかかるいうオリゴヌクレオチドは、核酸塩基の修飾または置換も含んでよい。ここで使用する「非修飾」または「天然」核酸塩基は、プリン塩基であるアデニン(A)及びグアニン(G)、及びピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)を含む。修飾核酸塩基としては、他の合成及び天然の核酸塩基が含まれ、5−メチルシトシン(5−me−C);イノシン;5−ヒドロキシメチルシトシン;キサンチン;ヒポキサンチン;2−アミノアデニン;アデニン及びグアニンの6−メチル及び他のアルキル誘導体;アデニン及びグアニンの2−プロピル及び他のアルキル誘導体;2−チオウラシル、2−チオチミン及び2−チオシトシン;5−ハロウラシル及びシトシン;5−プロピルウラシル及びシトシン;6−アゾウラシル、シトシン及びチミン;5−ウラシル(擬ウラシル);4−チオウラシル;8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシル及び他の8−置換アデニン及びグアニン;5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチル及び他の5−置換ウラシル及びシトシン;7−メチルグアニン及び7−メチルアデニン;8−アザグアニン及び8−アザアデニン;7−デアザグアニン及び7−デアザアデニン;3−デアザグアニン及び3−デアザアデニンなどが挙げられる。さらに、核酸塩基としては、米国特許第3,687,808号; The Concise Encyclopaedia Of Polymer Science And Engineering,(1990)pp 858−859,Kroschwitz, J. I., ed. John Wiley & Sons; Englisch et al., Angewandte Chemie, Int. Ed., 30:613 (1991);及びSanghvi, Y. S., (1993) Antisense Research and Applications, pp 289−302, Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Pressに記載のものも挙げられる。これらの核酸塩基のいくつかは、本発明のオリゴマー化合物の結合親和性向上に特に有用である。このようなものとしては、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン、及びN−2、N−6及びO−6置換プリンが挙げられ、2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシル及び5−プロピニルシトシンなどがある。5−メチルシトシン置換については、0.6−1.2℃で核酸の二本鎖の安定性が向上することが示されている[Sanghvi, Y. S., (1993) Antisense Research and 応用s, pp 276−278, Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Press, Boca Raton]。本発明に含まれる別のオリゴヌクレオチド修飾は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布または細胞取り込みを高める一つ以上の部分または結合体のオリゴヌクレオチドへの化学結合である。そのような部分としては、これに限定されるものではないが、コレステロール部分[Letsinger et al., Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 86:6553−6556 (1989)]、コール酸[Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Let., 4:1053−1060 (1994)]、チオエーテル、例えばヘキシル−S−トリチオチオール[Manoharan et al., Ann. N. Y. Acad. Sci., 660:306−309 (1992); Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 3:2765−2770 (1993)]、チオコレステロール[Oberhauser et al., Nucl.Acids Res., 20:533−538 (1992)]、脂肪族鎖、例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基[Saison−Behmoaras et al., EMBO J., 10:1111−1118 (1991); Kabanov et al., FEBS Lett., 259:327−330 (1990); Svinarchuk et al., Biochimie, 75:49−54(1993)]、リン脂質、例えばジ−ヘキサデシル−rac−グリセロールやトリエチルアンモニウム 1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート[Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 36:3651−3654 (1995); Shea et al., Nucl. Acids Res., 18:3777−3783 (1990)]、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖[Manoharan et al., Nuclesides & Nucletides, 14:969−973 (1995)]またはアダマンタン酢酸[Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 36:3651−3654 (1995)]、パルミチル部分[Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1264:229−237 (1995)]、または、オクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分[Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 277:923−937 (1996)]などが挙げられる。
【0108】
当該分野の技術者には、与えられたオリゴヌクレオチド中の全ての位置が、均一に修飾されることが必ずしも必要でないことが認識されるであろう。従って、本発明は、一つのオリゴヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチド内のただ一つのヌクレオシドにでも、前記修飾の一つ以上を導入することを意図する。
【0109】
前記の通り、キメラ化合物であるオリゴヌクレオチドは、本発明の範囲に含まれる。キメラヌクレオチドは、通常、オリゴヌクレオチドに向上したヌクレアーゼ分解抵抗性、向上した細胞取り込み、及び/または標的核酸に対する向上した結合親和力を与えるために、オリゴヌクレオチドが修飾された少なくとも一つの領域を含む。オリゴヌクレオチドの付加的な領域は、RNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドの切断能をもつ酵素の基質として働いてよい。
【0110】
本発明に関連して、オリゴヌクレオチドがDNA及びRNAヌクレアーゼによって容易に分解されないように修飾されているか、または、それ自身がDNAまたはRNAヌクレアーゼから保護する送達ビヒクル中に配置されている場合、そのオリゴヌクレオチドは「ヌクレアーゼ抵抗性」である。ヌクレアーゼ抵抗性オリゴヌクレオチドとしては、例えば、メチルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、及びモルホリノオリゴマーなどがある。ヌクレアーゼ抵抗性を付与する適当な送達ビヒクルには、例えばリポソームが挙げられる。
【0111】
さらに、本発明は、オリゴヌクレオチドの薬物動態学的及び/または薬力学的特性を改善する基を含むオリゴヌクレオチドも意図するものである。
【0112】
ここで使用される「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、目的遺伝子から転写されたmRNAの一部と相補的なヌクレオチド配列をもつオリゴヌクレオチドを指す。本発明に関連して、目的遺伝子とは、目的タンパク、すなわちWntシグナル伝達経路のタンパクをエンコードする遺伝子であり、アンチセンスオリゴヌクレオチドはその遺伝子を標的とする。標的プロセスは、所望の効果、すなわち遺伝子によってエンコードされたタンパクの発現調節が結果として起こるようなアンチセンス相互作用のための部位を、この核酸配列内部で決定することを含む。標的部位が同定されれば、所望の結果を与えるために、標的と十分に相補的な(すなわち、十分な強度と特異性をもってハイブリッド形成する)オリゴヌクレオチドが選択される。
【0113】
一般的に、遺伝子またはそれから転写されたmRNAには5つの領域があり、これらはアンチセンス調節ための標的としてよい:5’非翻訳領域(5’−UTR)、翻訳開始(またはスタート)コドン領域、読み取り枠(ORF)、翻訳終止(またはストップ)コドン領域、及び3’非翻訳領域(3’−UTR)。
【0114】
当該分野で知られているように、いくつかの真核生物転写物は直接的に翻訳されるが、大部分の哺乳類遺伝子または読み取り枠(ORFs)は、「イントロン」として知られる、翻訳される前に転写物から切除される一つ以上の配列を含む。ORFの発現(非切除)部分は「エクソン」と呼ばれ、これがつなぎ合わされてmRNA転写物が形成される(Alberts et al., (1983) Molecular Biology of the Cell. Garland Publishing Inc., New York, pp. 411−415)。本発明に関連して、イントロンとエクソンの両方が、イントロン/エクソンスプライス部位と同様に、アンチセンスの標的として働いてもよい。さらに、mRNA分子は5’キャップ領域を有し、これもアンチセンスの標的として働いてよい。mRNAの5’キャップは、5’−5’トリホスフェート結合を介してmRNAの5’末端残基と結合したN−メチル化グアノシン残基を含む。mRNAの5’キャップ領域は、5’キャップ構造自体を含み、またキャップに隣接した初めの50ヌクレオチドも含むと考えられる。
【0115】
本発明にかかるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、その配列が二本鎖、ヘアピン構造を形成する、またはホモオリゴマー/配列反復を含む最小の可能性を示すように、目的遺伝子に相補的な配列から選択される。さらに、オリゴヌクレオチドはGCクランプを含んでもよい。これらの特性が様々なコンピューターモデル化プログラム、例えば、OLIGOTM Primer Analysis Software、Version5.0(National Bilsciences, Inc., Plymouth, MN)を用いて定性的に決定可能であることは、当該分野の技術者の認識するところであろう。
【0116】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが、有効であるために、その標的配列の補体と100%の同一性を有する必要はないことは、当該分野において理解されている。従って、本発明にかかるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列の補体と少なくとも約70%同一の配列を有する。本発明の一つの実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列の補体と少なくとも約80%同一の配列を有する。他の実施形態においては、標的配列の補体と少なくとも約90%または約95%同一の配列を有し、いくつかの塩基のギャップまたはミスマッチは許容される。同一性は、例えば、the University of Wisconsin Computer Group (GCG)ソフトウエアのBLASTNプログラムを用いて決定することができる。
【0117】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドが目的遺伝子の発現抑制において機能するために、アンチセンスオリゴヌクレオチドが標的配列に十分な特異性を示し、細胞内の他の核酸配列に結合しないことが必要である。従って、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列の補体と適当なレベルの配列同一性を有するだけでなく、他の既知配列に酷似しているべきではない。従って、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、他の何れの哺乳類核酸配列とも50%未満の同一性であるべきである。
【0118】
本発明にかかるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、通常、7〜100のヌクレオチド長さである。一つの実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは約7〜約50のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。別の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約7〜約35のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。他の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約12〜約35のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含み、また、約15〜約25のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。
【0119】
本発明は、短分子干渉二本鎖RNA(siRNAs)であるオリゴヌクレオチドモジュレーターも意図している。siRNAsが介在するRNA干渉は、転写後の遺伝子サイレンシングにおいて重要な役割を果たすことが、当該分野において知られている[Zamore, Nature Struc. Biol., 8:746−750 (2001)]。自然界では、siRNA分子は、通常21〜22塩基対長さで、長い二本鎖RNA分子が内因性リボヌクレアーゼの作用によって切断されるときに生じる。最近、標的遺伝子の一部と同一の配列をもつ合成siRNA分子による哺乳類細胞の形質移入が、標的遺伝子のmRNAレベルを低下させることが示された[Elbashir, et al., Nature, 411:494−498 (2001)]。
【0120】
本発明にかかるオリゴヌクレオチドインヒビターは、siRNAの配列が目的遺伝子の一部に相当するように、目的遺伝子を標的とするsiRNA分子であることができる。当該分野で知られているように、有効なsiRNA分子は、通常30塩基対長さよりも小さく、インターフェロン応答を介した細胞中の非特異的RNA干渉経路の引き金となるのを妨げるのを助ける。従って、本発明の一つの実施形態において、siRNA分子は約15〜約25の塩基対長さである。別の実施形態においては、約19〜約22の塩基対長さである。
【0121】
さらに、二本鎖siRNA分子は、分子のリボヌクレアーゼ介在性分解を最小限にするため、3’及び5’末端にpoly−Tまたはpoly−U突出部を含むことができる。通常、3’及び5’末端の突出部には、2つのチミジンまたは2つのウリジン残基を含む。siRNA分子の設計及び構築については、当該分野において知られている[例えば、Elbashir, et al., Nature, 411:494−498 (2001); Bitko and Barik, BMC Microbiol., 1:34 (2001)参照]。さらに、インビトロ転写によるsiRNA分子構築の、迅速且つ効率的な手段を備えたキットも市販されており(Ambion, Austin, TX; New England Biolabs, Beverly, MA)、本発明のsiRNA分子の構築に用いてもよい。
【0122】
さらに、本発明は、目的タンパクをエンコードするmRNAを特異的に標的とするリボザイムオリゴヌクレオチドモジュレーターも意図している。当該分野で知られているように、リボザイムは、他の分離RNA分子をヌクレオチド配列に特異的な方法で繰り返し切断できるようにする酵素活性をもつRNA分子である。そのような酵素活性をもつRNA分子は、実質的にどのようなmRNA転写物も標的とすることができ、インビトロで効率的な切断を行うことができる[Kim et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:8788, (1987); Haseloff and Gerlach, Nature, 334:585, (1988); Cech, JAMA, 260:3030, (1988); Jefferies et al., Nucleic Acids Res., 17:1371, (1989)]。
【0123】
通常、リボザイムは非常に近接した2つの部分を含む:すなわち、標的mRNA配列と相補的な配列をもつmRNA結合部位、及び標的mRNAを切断するよう作用する触媒部位である。リボザイムは、リボザイムの標的mRNA結合部位による相補的塩基対形成により、標的mRNAをまず認識、結合することによって作用する。標的へ特異的に結合すると、リボザイムは標的mRNAの切断を触媒する。そのような戦略的切断は、エンコードされたタンパクの合成を指示する標的mRNAの能力を無効にする。標的とするmRNAと結合し、切断を行うと、リボザイムは放出され、繰り返し新たな標的mRNA分子へ結合し、切断を行うことができる。
【0124】
最も特徴的なリボザイム分子の一つは、「ハンマーヘッドリボザイム」である。ハンマーヘッドリボザイムは、ヌクレオチド配列において、標的mRNAの少なくとも一部に相補的なハイブリッド形成領域、及び、標的mRNAに結合して切断する触媒領域を含む。一般的に、ハイブリッド形成領域は、少なくとも9のヌクレオチドを含む。従って、本発明は、目的タンパクをエンコードする遺伝子に相補的な少なくとも9のヌクレオチドを含み、適当な触媒ドメインに結合するハイブリッド形成領域をもつハンマーヘッドリボザイムであるオリゴヌクレオチドインヒビターを意図している。そのようなリボザイムの構築と作製については、当該分野でよく知られている[例えば、Haseloff and Gerlach, Nature, 334:585−591 (1998)]。
【0125】
本発明にかかるリボザイムには、Tetrahymena thermophila(IVS、またはL−19 IVS RNAとして知られる)において自然発生するもののような、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下、「Cechタイプリボザイム」という)も含まれ、これは広く文献に記載されている[Zaug, et al., Science, 224:574−578 (1984); Zaug and Cech, Science, 231:470−475 (1986);Zaug, et al., Nature, 324:429−433 (1986);米国特許第4,987,071号;Been and Cech, Cell, 47:207−216 (1986)]。Cechタイプリボザイムは、8ヌクレオチド活性部位を有し、これが標的mRNA配列とハイブリッド形成し、次いでリボザイムにより標的mRNAが切断される。
【0126】
リボザイムと、最大のリボザイム活性を生み出すその基質との間に、幅の狭い結合自由エネルギーがあることは、当該分野の技術者は理解しているであろう。そのような結合エネルギーは、mRNA結合部位において、GがI(イノシン)へ、またUがBrU(ブロモウラシル)へ置換(または、当該分野で知られた同等の置換)したリボザイムを作成することによって最適化できる。そのような置換は、標的認識配列や、mRNA結合部位の長さ、またはリボザイムの酵素部位を変えることなく、結合自由エネルギーの操作を可能にする。自由エネルギー対リボザイム活性の曲線の形は、リボザイム/基質相互作用の規模を変える複雑さなしに、各塩基(または、いくつかの塩基)が修飾または非修飾である、当該分野で公知の標準的実験データを用いて容易に決定することができる。
【0127】
必要ならば、そのような実験を用いて、最も活性なリボザイム構造を示すことができる。従って、修飾塩基の使用は、最大のリボザイム活性を確保するために、結合自由エネルギーの「微調整」を可能とし、また、これは本発明の範囲内であるとみなされる。さらに、非標的RNAの切断が問題となる場合は、前記塩基の置換、例えば、Gに代えてIとすることで、基質特異性レベルをより高めてもよい。
【0128】
さらに、本発明は、標的遺伝子の5’末端でハイブリット形成及び三重らせん構造を形成し、転写の遮断に用いることができるオリゴヌクレオチドモジュレーターも意図している。三重らせん形成性オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドについての前記記載のように設計及び作製することができる。
【0129】
本発明のオリゴヌクレオチドモジュレーターは、当該分野の技術者によく知られた従来技術によって調製することができる。例えば、オリゴヌクレオチドは、市販の装置を使用した固相合成法を用いて調製することができ、例えば、Applied Biosystems Canada Inc.(Mississauga, Canada)から入手可能な装置がある。当該分野においてよく知られているように、ホスホロチオエートやアルキル化誘導体のような修飾オリゴヌクレオチドも、同様の方法によって容易に調製することができる。
【0130】
あるいは、オリゴヌクレオチドモジュレーターは、当該分野において公知の標準的な技術を用いて、自然発生標的遺伝子またはmRNAの酵素消化及び/または増幅、あるいは、mRNAから合成したcDNAの酵素消化及び/または増幅によって調製することができる。オリゴヌクレオチドインヒビターがRNAを含む場合は、当該分野において公知のインビトロ転写方法によって調製することができる。また、前記のように、siRNA分子も、市販のインビトロ転写キットを用いて、簡便に調製することができる。
【0131】
オリゴヌクレオチドも組換えDNA技術を用いて調製することができる。従って、本発明は、オリゴヌクレオチドインヒビターをエンコードする核酸配列を含む発現ベクター、及び、それに続くエンコードされたオリゴヌクレオチドの適当な宿主細胞中での発現も包含する。そのような発現ベクターは、当該分野で公知の方法を用いて、容易に構築することができる[例えば、Ausubel, et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc, NY. (1989 and updates)参照]。
【0132】
(iv)抗体
本発明は、Wntシグナル伝達経路の標的タンパクに対して産生され、タンパクへ結合して抑制することができる抗体及び抗体フラグメントの使用も意図している。本発明に関連して、標的タンパクはWntタンパク、またはWntタンパクのアクティベーターまたはエフェクターである。
【0133】
本発明の一つの実施形態において、モジュレーターは、sFRP1、2、3または4などのsFRPに特異的に結合して、sFRPがWntポリペプチドと結合するのを妨げる抗体または抗体フラグメントである。この実施形態において、抗体または抗体フラグメントは、Wnt伝達経路のアクティベーターとして作用する。別の実施形態においては、モジュレーターは、Fzd1、4または7などのFzd受容体タンパクへ結合して、FzdタンパクがWntポリペプチドと結合するのを妨げる抗体または抗体フラグメントである。この実施形態において、抗体または抗体フラグメントは、Wnt伝達経路のインヒビターとして作用する。
【0134】
抗体の生成のため、様々な宿主、例えば、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、及びヒトなどを、標的タンパクまたは免疫原性をもつそのフラグメントまたはペプチドで免疫することができる。宿主種に応じて、免疫反応を高めるのに様々なアジュバントを用いてよい。そのようなアジュバントとしては、これに限定されるものではないが、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、及びリゾレチチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモリシン(KLH)、ジニトロフェノールなどの界面活性物質が挙げられる。ヒトに使用されるアジュバントの例としては、例えば、BCG(bacilli Calmette−Guerin)及びCorynebacterium parvumが挙げられる。
【0135】
抗体の誘導に使用されるペプチドまたはタンパクフラグメントは、約5アミノ酸程度からなる小さなアミノ酸配列を有することができる。これらのペプチドまたはタンパクフラグメントは、野生型タンパクのアミノ酸配列の一部と同一であることができ、あるいは自然発生の小分子のアミノ酸配列全体を含むことができる。必要であれば、標的タンパクのアミノ酸の短ストレッチを、KLHのような別のタンパクのそれと融合し、キメラ分子に対する抗体を作ることができる。
【0136】
標的タンパクに対するモノクローナル抗体は、連続培養細胞系により抗体分子産生のための技術を用いて調製することができる。このような技術として、これに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法、EBV−ハイブリドーマ法などが挙げられる(例えば、Kohler, G. et al.(1975) Nature 256:495−497;Kozbor, D. et al.(1985) J. Immunol. Methods 81:31−42;Cote, R. J. et al.(1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:2026−2030;及びCole, S. P. et al.(1984) Mol. Cell Biol. 62:109−120参照)。例えば、本発明にかかるモノクローナル抗体は、マウスまたはラットなどの動物を精製タンパクで免疫することにより得ることができる。その後、免疫動物から分離した脾臓細胞を、標準的な技術を用いて不死化する。
【0137】
免疫動物由来の脾臓細胞の不死化は、例えば、J. Imm. Meth. 39:285−308(1980)に記載されている方法に従って、P3X63−Ag 8.653(ATCC CRL 1580)のような骨髄腫細胞系とこれら細胞を融合することによって行うことができる。当該分野において公知の他の方法を用いて脾臓細胞を不死化することもできる。標的タンパクに対する所望の抗体を産生する不死化細胞を検出するために、培養上清のサンプルの反応性を、例えば、酵素免疫吸着測定法(ELISA)などを用いて試験する。標的タンパクの活性を抑制するそれらの抗体を得るために、タンパクに結合する抗体を産生するクローンの培養上清を、適当な分析法を用いて、タンパク活性の抑制をさらに試験する。その後、培養上清が標的タンパクの活性を抑制し、約100ng/ml以下のIC50をもつ抗体を含む分離不死化細胞を選択し、当該分野の技術者に公知の技術を用いてクローニングする。そして、これらのクローンによって産生されたモノクローナル抗体を、標準的なプロトコルに従って分離する。
【0138】
さらに、適当な抗原特異性及び生物学的活性をもつ分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子へスプライシングするような、「キメラ抗体」産生のための技術を用いることができる(Morrison, S. L. et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:6851−6855; Neuberger, M. S. et al. (1984) Nature 312:604−608; and Takeda, S. et al. (1985) Nature 314:452−454)。また、一本鎖抗体産生技術も、当該分野において公知の方法を用いて、標的タンパクに特異的な一本鎖抗体を得るのに用いることができる。関連した特異性をもつが、異なるイディオタイプ組成の抗体は、ランダムコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリーからのチェーンシャッフリングにより得ることができる(例えば、Burton D. R. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:10134−10137参照)。
【0139】
抗体は、リンパ球細胞群におけるインビボ生成誘導により、または免疫グロブリンライブラリーまたは文献に記載されているような高特異的な結合試薬のパネルをスクリーニングすることにより、得ることもできる(Orlandi, R. et al.(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. 86: 3833−3837; Winter, G. et al.(1991) Nature 349:293−299)。
【0140】
また、標的タンパクへの特異的な結合部位を含む抗体フラグメントを生成することもできる。例えば、F(ab’)2フラグメントは、抗体分子のペプシン消化によって生成でき、また、次いでF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによりFabフラグメントが生成できる。あるいは、所望の特異性をもつモノクローナルFabフラグメントが迅速且つ容易に同定できるように、Fab発現ライブラリーを構築することができる(例えば、Huse, W. D. et al. (1989) Science 246:1275−1281参照)。
【0141】
(v)小分子モジュレーター
本発明は、ペプチド、オリゴヌクレオチド、合成及び自然発生の有機及び無機分子などのWntシグナル伝達経路の小分子モジュレーターも提供する。例として、塩化リチウム(LiCl)は幹細胞におけるWntシグナル伝達経路の既知の刺激剤であり、それはGSK−3βの抑制を通じてβ−カテニンを安定化するように働く(Hedgepeth, et al.,(1997) Dev. Biol., 185:82−91)。
【0142】
幹細胞においてWntシグナル伝達経路のモジュレーターとして作用する能力についてスクリーニング可能な候補化合物は、ランダムに選択することができ、また、合理的に選択または設計することもできる。ここで使用するように、その化合物が、幹細胞、または共培養を行う場合には他の細胞の分子成分との潜在的関連性を含めた特異的相互作用を考慮することなく、ランダムに選択される場合、その候補化合物はランダムに選択されたという。候補化合物のランダム選択の例としては、化学ライブラリーまたはペプチドコンビナトリアルライブラリー、または生物の成長培養液の使用がある。ここで使用されるように、その化合物が、標的部位の配列及び/又は構造、あるいはその化合物の作用に関連したプロセスを考慮するような非ランダムな基準に基づき選択された場合、その候補化合物は合理的に選択または設計されたと言う。候補化合物は、例えば、標的部位を構成するヌクレオチドまたはペプチド配列を用いることによって、合理的に選択または設計することができる。例えば、合理的に選択されたペプチドは、そのアミノ酸配列が機能的コンセンサス部位と一致する、またはその誘導体であるペプチドであることができる。
【0143】
候補化合物は、分離あるいは非分離の、純粋なあるいは部分的に精製されたものでもよく、または粗混合物の形態でもよい。例えば、候補化合物は細胞、細胞由来の溶解物または抽出物、または細胞由来の分子の形態でもよい。候補化合物が、一つ以上の分子の存在を含む組成物中にある場合、組成物をそのまま試験してもよく、及び/または任意に適当な手段によって分画し、その分画サンプルを、本発明の方法または別の方法を用いて試験し、Wntシグナル伝達経路のモジュレーターとして働く組成物の特定のフラクションまたは成分を同定してもよいことが意図される。 さらに、Wntシグナル伝達経路のモジュレーターとして同定されたサブコンビネーションから不活性成分を除外するという最終目的で、試験組成物のサブフラクションを再分画し、本発明の方法を用いて繰り返し分析してもよいことも意図される。化合物の分離、精製及び/または特徴決定の中間ステップを、必要に応じてあるいは適当に含んでもよい。
【0144】
候補化合物は、合成または天然の化合物の巨大ライブラリーの形で得ることができる。多数の方法が、現在、糖類、ペプチド、及び核酸塩基化合物のランダム及び方向性合成に使われており、当該分野においてよく知られている。合成化合物ライブラリーは、Maybridge Chemical Co. (Trevillet, Cornwall, UK)、Comgenex(Princeton, N.J.)、Brandon Associates(Merrimack, N.H.)、及びMicrosource(New Milford, Conn.)など、多くの会社から市販されている。希少な化学ライブラリーは、Aldrich(Milwaukee, Wis.)から入手することができる。コンビナトリアルライブラリーも入手可能であるか、または標準的な方法に従って調製することができる。あるいは、細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーが、例えば、Pan Laboratories(Bothell, Wash.)またはMycoSearch(North Carolina)などから入手することができ、また、容易に調製することもできる。さらに、天然及び合成のライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理的、及び生物学的手段により容易に修飾される。
【0145】
Wntシグナル伝達経路のモジュレーターの選択
さらに、本発明は候補化合物の、Wntシグナル伝達経路の調節による成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を調節する能力をスクリーニングする方法も提供する。一般に、そのような方法は、成体幹細胞群を候補化合物と接触させるステップ、及び、細胞中の増殖及び/または系列決定の一つ以上の指標をモニターするステップを含む。
【0146】
必要であれば、候補モジュレーターを、標的タンパクまたは遺伝子を抑制または活性化する能力でまず選別してよい。例えば、Wntシグナル伝達経路の特異的なタンパクと結合するポリペプチドまたはペプチド(またはその誘導体、類似体またはペプチド模倣体)に対し、当該分野において公知の様々な結合分析の一つを用いて、その結合能を決定することができる(例えば、Coligan et al., (eds.) Current Protocols in Protein Science, J. Wiley & Sons, New York, NY参照)。オリゴヌクレオチドモジュレーターに対し、標的遺伝子の上方制御または下方制御を、例えば、ノーザンブロット分析、定量RT−PCR、またはマイクロアレイ解析によって処理細胞中でモニターできる。あるいは、相当するタンパクの増加または減少を、例えば、ウェスタンブロット分析によってモニターすることができる。
【0147】
様々な免疫学的検定法を、所望の特異性をもつ抗体を同定するためのスクリーニングに用いることができる。確立された特異性をもつポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の何れかを用いた、競合結合分析または免疫放射定量測定法の多数のプロトコルが、当該分野においてよく知られている。前記免疫学的検定法は、通常、標的タンパクとその特異的な抗体との複合体形成を測定することを含む。そのような技術の例としては、ELISAs、放射線免疫検定法(RIAs)、及び蛍光活性化細胞分類(FACS)などが挙げられる。あるいは、2つの非干渉エピトープに反応性をもつモノクローナル抗体を利用したツーサイトモノクローナルベース免疫学的検定法、または競合結合分析を用いることもできる(Maddox, D. E. et al. (1983) J. Exp. Med. 158:1211−1216参照)。これら及び他の分析法が、当該分野においてよく知られている(例えば、Hampton, R. et al. (1990) Serological Methods: A Laboratory Manual, APS Press, St Paul, Minn., Section IV; Coligan, J. E. et al. (1997, and periodic supplements) Current Protocols in Immunology, Wiley & Sons, New York, N.Y.; Maddox, D. E. et al. (1983) J. Exp. Med. 158:1211−1216参照)。
【0148】
Wntシグナル伝達経路の候補モジュレーターは、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を促進または抑制する能力をさらに試験する。通常、幹細胞は、候補モジュレーターの存在下及び非存在下で培養され、次いで増殖及び/または系列決定の少なくとも一つの指標を細胞中モニターし、モジュレーターに暴露した細胞培養において増殖及び/または系列決定が調節されたかどうかを決定する。あるいは、幹細胞群をエデュケーター細胞と共培養することができ、幹細胞またはエデュケーター細胞を候補モジュレーターに暴露し、増殖及び/または系列決定の少なくとも一つの指標をモニターする。様々な組織に由来する成体幹細胞または前駆細胞を、候補モジュレーターの増殖及び/または系列決定を増加または減少させる能力を選別するのに用いることができる。例としては、これに限定されるものではないが、心筋、骨格筋、脂肪、皮膚、膵臓、神経及び肝臓組織由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞、造血細胞、筋芽細胞、肝細胞、胸腺細胞、心筋細胞などが挙げられる。
【0149】
様々な細胞表面マーカーが、c−kit、Sca1、CD34、及び CD45などの成体幹細胞群を同定するのに使用された。従って、候補モジュレーターを試験するために用いられる幹細胞は、c−kit、Sca1+、CD34 またはCD45 細胞であることができ、また、 これらのマーカーの2つ以上の組み合わせを発現してもよい。さらに、幹細胞は、AC133、CD31、FLT1、FLK1、BRCP1及びFzd1、2、3または4の一つ以上と組み合わせて上記マーカーの一つ以上を発現してもい。サイドポピュレーション(またはSP)細胞は、骨格筋及び心筋において同定されている成体幹細胞の一種であるが、これは、当該分野において公知のように、ヘキスト染料染色に基づき同定することができる(例えば、Gussoni, E., et al., (1999) Nature 401, 390−394; Jackson, K. A., et al., (1999) Proc Natl Acad Sci USA 96, 14482−14486; Hierlihy, A.M., et al., (2002) FEBS Lett. 530, 239−243参照)。
【0150】
本発明の一つの実施形態において、幹細胞は成体の骨格筋組織に由来する。別の実施形態においては、幹細胞は成体の筋肉由来のCD45細胞である。さらなる実施形態においては、幹細胞は成体の筋肉由来のCD45/Sca細胞である。
【0151】
幹細胞を培養中維持する方法は、当該分野において公知である(例えば、Madlambayan, G.J., et al., (2001) J. Hematother. Stem cells Res. 10, 481−492; Hierlihy, A.M., et al., (2002) FEBS Lett. 530, 239−243; Asakura, A., et al., (2002) J. Cell Biol. 159, 123−134参照)。幹細胞は単独で培養することができ(単培養)、または他の(エデュケーター)細胞と共培養することができる。例として、共培養には、分離培養中の維持相でのまたは非維持相での分離後に混合された筋肉由来幹細胞(または他の幹細胞)及び筋芽細胞(エデュケーター細胞)の細胞群を含むことができる。あるいは、2つの細胞群をその起源組織から分離することなしに、外植片(例えば、マウス後肢筋外植片)として共培養することができる。幹細胞及び/またはエデュケーター細胞群が完全に純粋ではない場合、幹細胞培養は他の細胞群を含むかもしれないことが理解及び予想される。
【0152】
培養期間の前、間、または後に、追加のステップがスクリーニング方法に含まれてもよく、細胞群を同定または分離するステップ、または分析の成功に寄与する他のステップが挙げられる。例えば、成長因子または他の化合物を、幹細胞群の分離及び拡張に用いてもよい。EGF及びFGFは、Gritti et al (J. Neurosci. (1999) 19:3287−3297)に記載のように、神経幹細胞にこの目的のために使用されており、また、Bcl−2は「筋幹細胞」群の分離に用いられている(米国特許第6,337,184号参照)。幹細胞培養の分離及び/または維持に有用な他の化合物には、Shh、Ihh、BMP、BMPアンタゴニスト、SCF、及び様々なサイトカインが含まれる。
【0153】
スクリーニング試験に用いられる幹細胞は、正常な成体哺乳類から分離または由来した一次細胞または培養幹細胞系であることができる。あるいは、幹細胞は、Wntシグナル伝達経路のタンパクをエンコードする一つ以上の遺伝子に突然変異を保有する哺乳類、または、組織特異的遺伝子座においてレポーター遺伝子を発現する哺乳類から分離または由来することができる。例えば、本発明のモジュレーターに応答した常在筋幹細胞の筋細胞への分化は、ヘテロ接合性 Myf5nLacZノックインマウスから分離した細胞を用いて決定することができる。これらのレポーターマウスにおいて、LacZの発現は内在性Myf5遺伝子の発現パターンを正確に繰り返し、これは、筋原性決定の後速やかに誘導されるものである(Tajbakhsh and Buckingham, 1995, Development, 122:3765−3773)。従って、これらの細胞におけるMyf5nLacZの発現は、候補モジュレーターに応答した筋原性決定を示す。
【0154】
一般に、候補モジュレーターは、通常約1000倍に及ぶ濃度範囲にわたって試験され、適当な暴露プロトコルは当該分野の技術者によって容易に確立することができる。共培養を用いる場合、エデュケーター細胞への幹細胞の最初の暴露の前、間、及び/または後に、幹細胞を候補モジュレーターへ暴露することができる。あるいは、候補モジュレーターが核酸分子、または核酸分子によってエンコードされたポリペプチドまたはペプチドである場合、候補モジュレーターが内因的に生成されるように、ここで記載のあるいは他の標準的な方法を用いて、幹細胞を核酸分子または核酸分子を含む発現ベクターで形質移入することができる。
【0155】
さらに、幹細胞を候補モジュレーターに直接的に暴露しなくてもよいことも意図する。例えば、エデュケーター細胞群または第3の細胞型をモジュレーターに直接的に暴露し、次いで幹細胞と共培養することができる。あるいは、エデュケーター細胞群または第3の細胞型を、候補モジュレーターを発現する核酸分子または核酸分子を含む発現ベクターで形質移入し、次いでその細胞を幹細胞と共培養することができる。それ自身は共培養に含まれないが、モジュレーターに暴露した細胞群によって調整された培地の添加によって、幹細胞を間接的に暴露することもできる。さらに、非液体培地中、例えば、寒天、高分子足場、マトリックス、またはその他の構成物のような固体、ゲル状、または半固体の成長支持体中に候補モジュレーターを取り込むことにより、試験細胞または外植片を候補モジュレーターに暴露してもよいことも意図される。
【0156】
幹細胞の増殖及び/または系列決定を表す終末点は、試験幹細胞群及びコントロール幹細胞群において定性的または定量的にモニターすることができる。例えば、全体の形態学、組織学、免疫組織化学、総細胞数、分化細胞数、または他の終末点における変化の定性的または定量的観察を、試験細胞及びコントロール細胞または外植片、またはその切片について行うことができる。あるいは、特異的な細胞マーカーの存在または非存在をモニターすることができる。細胞マーカーは、通常、その系統特異的タンパクであり、その存在、非存在、または相対レベルを、例えば、組織化学的技術、免疫学的技術、電気泳動法、ウェスタンブロット分析、FACS分析、フローサイトメトリーなどの多くの標準的技術を用いて分析することができる。あるいは、細胞マーカータンパクをエンコードするmRNAの存在、非存在、または相対レベルを、例えばPCR技術、マイクロアレイ技術、ノーザンブロット分析、適当なオリゴヌクレオチドプローブの使用等を用いて決定することができる。
【0157】
モニター可能な適当な系統特異的細胞マーカーは、当該分野において公知である。例えば、筋由来幹細胞の系列決定は、細胞のミオシン重鎖、次リン酸化MyoD、ミオゲニン、Myf5、Pax7、及びトロポニンTなどの一つ以上の筋細胞マーカータンパクの発現を試験することによって測定できる。成体の心臓に存在する心臓サイドポピュレーション(SP)細胞(Hierlihy, et al., A.M., et al., (2002) FEBS Lett. 530, 239−243)のような心筋幹細胞の系列決定は、コネキシン−43、MEF2C、及び/またはミオシン重鎖のような心筋細胞特異的マーカーの出現をモニターすることによって決定できる。ニューロスフェアまたはSP細胞フラクションとして誘導された神経幹細胞の系列決定は、GFAP、MAP2及び/またはβ−IIIチューブリンの発現をモニターすることによって決定でき(例えばHitoshi, S., et al., (2002) Genes & Dev. 16, 846−858)、また、膵臓幹細胞の系列決定はPDX−1及び/またはインスリンの発現をモニターすることによって決定できる。決定された前駆細胞の最終分化も、前記のような系統特異的マーカーをモニターすることによって決定できる。
【0158】
応用
さらに、本発明は、細胞をWntシグナル伝達経路の一つ以上のモジュレーターと直接的または間接的に接触させることによって、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を誘導または抑制する方法を提供する。本発明で提供されるモジュレーターは、幹細胞または系列決定された前駆細胞の生存を高め、また、決定された前駆細胞の最終分化を誘導するのに用いることもできる。本発明により提供されるWntシグナル伝達経路の方法及びモジュレーターには、多くの応用がある。例えば、本方法及びモジュレーターは、さらにインビトロで使用するため、例えば研究目的で使用するために、成体幹細胞の増殖を促進するのに、及び/または、細胞の運命が決定づけられる幹細胞の系列決定を促進または抑制するのに、インビトロにおいて使用することができる。幹細胞の増殖を促進する、及び/または系列決定を促進または抑制する化合物及び方法は、薬物試験のための新しいインビトロモデルの開発における応用の可能性もある。幹細胞または前駆細胞の生存を高める本発明のモジュレーターは、これらの細胞のインビトロ培養及び維持の促進に特に有用である。
【0159】
あるいは、本方法及びモジュレーターは、幹細胞のエクスビボ増殖の促進に、及び/または、これらの細胞の系列決定の促進または抑制に用いることができ、これにより、移植に適した細胞群を提供することができる。幹細胞のEx vivo拡張は、多くの疾病状態の治療のために、治療的に明らかに必要なものである。
【0160】
本発明の方法及びモジュレーターは、成体組織中の常在幹細胞の増殖、及び任意的に系列決定を促進するのに、インビボにおいて特に有用であり、これにより、損傷組織の置換または修復を助ける。例えば、成体筋組織の常在幹細胞群は、筋肉損傷後10倍に増大する。従って、本方法及びモジュレーターは、これらの常在幹細胞の増殖及び系列決定を促進し、それにより損傷組織の修復を促進するために、障害組織に適用することができる。あるいは、本方法及びモジュレーターは、休止状態の常在幹細胞の増殖、及び任意的にその系列決定を刺激し、それにより疾患または疾病の結果として損傷した組織を置換することによって変性疾患または疾病の緩和を助けるのに用いることができる。
【0161】
Wnts5a、5b、7a、7b及びsFRP2及び3などのWntシグナル伝達経路モジュレーターは、成体筋組織中の常在幹細胞群の増殖及び系列決定の調節に有効であることが示された。常在幹細胞群は、例えば、ヘキスト染色(SP細胞に対して)、CD45及び/またはSca1の発現によって同定することができる。CD45及びScalは、様々な成体組織における常在幹細胞群の同定を助けるのに使用できる汎全造血マーカーである。
【0162】
本発明の一つの実施形態において、本方法及びモジュレーターは、成体筋幹細胞における増殖及び/または系列決定の誘導に用いられる。別の実施形態においては、本方法及びモジュレーターは、成体骨格筋幹細胞の増殖及び/または系列決定の誘導に用いられる。さらに別の実施形態においては、本方法及びモジュレーターは、CD45である幹細胞の増殖及び/または系列決定の誘導に用いられる。また別の実施形態において、本方法及びモジュレーターは、CD45筋幹細胞の増殖及び/または系列決定の誘導に用いられる。またさらに別の実施形態においては、本方法は、モジュレーターとして、Wnt5a、5b、7a、7bポリペプチド、その活性フラグメントまたは変異体、またはその組み合わせの使用を含む。 また、別の実施形態においては、本方法は、モジュレーターとして、Wntの一つ以上ペプチド模倣体、または一つ以上のsFRPへ結合し抑制する一つ以上の抗体または抗体フラグメントの使用を含む。
【0163】
本発明のモジュレーター及び方法は、他の細胞処置または治療に追加してあるいは同時に用いてよい。特に、本発明は、インビトロまたはインビボの何れかで、幹細胞群を、増殖を刺激して細胞群の拡張を可能にする作用物質及び増殖及び/または系列決定を誘導する本発明のモジュレーターとまず接触させる方法を意図する。作用物質及びモジュレーターは、同時にまたは順次細胞に与えてもよく、例えば、細胞を初めに増殖を誘導する作用物質と接触させ、次いで系列決定を誘導して細胞の生存を高めるために本発明の一つ以上のモジュレーターと接触させてよい。本発明のモジュレーターとともに用いられる作用物質の例としては、これに限定されるものではないが、カルジオトロフィン−1(CT−1)、Shh、Ihh、BMP、BMPアンタゴニスト、SCF、及び様々なサイトカインが挙げられる。
【0164】
本発明の一つの実施形態において、幹細胞の増殖及び/または系列決定を誘導する方法は、一つ以上のWnt伝達経路モジュレーター及びCT−1に細胞を接触させることを含む。別の実施形態においては、幹細胞の増殖及びそれに続く系列決定を誘導する方法は、細胞をCT−1と接触させ、次いで一つ以上のWnt伝達経路モジュレーターと接触させることを含む。
【0165】
従って、本発明の方法及びモジュレーターの治療的応用は、典型的には、失われたまたは損傷した組織を交換する必要がある状況に関連し、例えば、化学療法または放射線療法後、筋損傷後の筋萎縮または筋量の減少を予防するのに関連し、あるいは、変性筋障害、がん(白血病を含む)、肝硬変や肝炎などの変性肝疾患、糖尿病、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患、変性または虚血性心疾患、HIV感染及び関連の合併症、及び神経筋疾患のような疾患及び疾病の治療中または管理中に関連する。
【0166】
治療的応用のために、本発明は、さらに、Wntシグナル伝達経路の一つ以上のモジュレーターと、薬学的に許容可能な希釈剤または賦形剤とを含む医薬品組成物を提供する。医薬品組成物及び医薬品組成物の調製方法は、当該分野において公知であり、例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」(以前は「Remingtons Pharmaceutical Sciences」); Gennaro, A., Lippincott, Williams & Wilkins, Philidelphia, PA (2000)に記載されている。
【0167】
モジュレーターまたはモジュレーターを含む医薬品組成物の投与は、局所的または全身的治療のどちらを望むかによって、ならびに治療する領域によって、多くのルートにより行ってよい。通常、モジュレーターは治療すべき領域へ局所投与される。投与は、局所的(眼投与ならびに膣送達及び直腸送達などの粘膜投与を含む)、経肺的(例えば、ネブライザーによるものなど粉末またはエアロゾルの吸入または吹送による)、気管内、鼻腔内、表皮的、経皮的、経口的、非経口的であってよい。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、あるいは筋肉内への注射あるいは注入、または例えばくも膜下腔内または脳室内などの頭蓋内投与が挙げられる。
【0168】
本発明のモジュレーターは、薬学的に許容可能なビヒクルと組み合わせて送達されてよい。理想的には、そのようなビヒクルは安定性及び/または送達性を高める。本発明は、リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセルなどの適当なビヒクルを用いたモジュレーターの投与も提供する。本発明の様々な実施形態において、そのようなビヒクルの使用は、活性成分の徐放性を達成するのに有利であるかもしれない。
【0169】
注射剤として製剤化する場合、モジュレーターは、他の溶質、例えば、溶液を等張にするために十分な生理食塩水またはグルコースなどを含む滅菌溶液の形態で使用される。
【0170】
吸入または吹送による投与のために、モジュレーターを水性または部分的に水性の溶液に製剤化することができ、これはその後エアゾールの形態で利用することができる。局所使用のために、モジュレーターを、薬学的に許容可能なビヒクル中の粉剤、クリーム、またはローションとして製剤化でき、これは皮膚の疾患部分に適用される。
【0171】
本発明のモジュレーターの必要用量は、採用した特定の組成物、投与経路及び特定の治療対象により変化する。必要用量は、当該分野の技術者に公知の標準的な臨床的技術によって決定できる。治療は、一般に、化合物の適量よりも少ない投与量で開始される。その後、その状況下で最適な効果に到達するまで、用量が増量される。一般に、モジュレーターまたはモジュレーターを含む医薬品組成物は、いかなる有害な悪影響のある副作用も引き起こすことなく有効な結果を与える濃度で投与される。投与は、1回ユニット投与量とすることができ、また、望まれれば、一日を通して適当な時に投与するのに便利なサブユニットに分けることができる。
【0172】
遺伝子治療
本発明は、当該分野において公知の様々な「遺伝子治療」法による、オリゴヌクレオチドモジュレーター、またはモジュレーターをエンコードする核酸分子(これは、その後エンコードされた産生物をインビボで発現する)の投与も意図している。遺伝子治療には、エクスビボ及びインビボの両方の技術が含まれる。従って、宿主細胞は、オリゴヌクレオチドモジュレーター、またはモジュレーターをエンコードする核酸分子で、エクスビボにおいて遺伝的に設計することができ、設計された細胞は、その後治療すべき患者に投与される。細胞培養は、例えば、細胞を解離(例えば機械的な解離)し、細胞を薬学的に許容可能な担体(例えばリン酸緩衝生理食塩水)と混合することにより、患者へ投与するために製剤化することができる。あるいは、細胞を適当な生体適合性支持体上で培養し、患者へ移植してもよい。設計された細胞は、通常、異種間またはアロタイプの拒絶反応を避けるため自家系である。そのようなエクスビボでの方法は、当該分野においてよく知られている。
【0173】
あるいは、当該分野において知られている技術を用いてオリゴヌクレオチドまたは核酸分子を投与することにより、インビボで細胞を設計することができる。例えば、「裸の」核酸分子(Feigner及びRhodes、(1991) Nature 349:351−352;米国特許第5,679,647号)や、細胞の核酸分子の取り込みを容易にする一つ以上の他の作用物質、例えばサポニン(例えば、米国特許第5,739,118号参照)あるいはカチオン性ポリアミン(例えば、米国特許第5,837,533号参照)などを含む組成物中で処方された核酸分子を直接注射することにより;微粒子の爆撃により(例えば、「遺伝子銃」; Biolistic, Dupontの使用により);脂質、細胞表面受容体あるいはトランスフェクト剤で核酸分子をコーティングすることにより;リポソーム、微粒子、あるいはマイクロカプセル中に核酸分子を内包させることにより;核に入りこむことが知られているペプチドと結合した核酸分子を投与することにより;あるいは受容体介在性エンドサイトーシスを受けやすいリガンドと結合した核酸分子を投与することにより(例えば、Wu and Wu, (1987) J. Biol. Chem. 262:4429−4432参照)、オリゴヌクレオチド及び他の核酸分子を投与することができ、これらは受容体を特異的に発現する標的細胞型に用いることができる。
【0174】
あるいは、リガンドがエンドソームを混乱させる融合ウィルスペプチドを含み、核酸がリソソーム分解を避けるのを可能にする核酸−リガンド複合体;あるいは、その核酸分子が、特定の受容体を標的とすることによってインビボで細胞特異的な取り込み及び発現の標的となり得る核酸−リガンド複合体が形成できる(例えば、国際特許出願WO92/06180、WO92/22635、WO92/20316、WO93/14188及びWO93/20221参照)。さらに、細胞核におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入、発現及び蓄積の効率的な方法が、米国特許第6,265,167号に記載されており、これは、核においてアンチセンスオリゴヌクレオチドがセンスmRNAとハイブリッド形成することを可能とし、それによりアンチセンスオリゴヌクレオチドが処理または細胞質内に輸送されるのを阻止する。また、本発明は、核酸分子の細胞内導入、及び続く相同的組み換えによる発現用宿主細胞DNA内への組み込みも意図する(例えば、Koller and Smithies(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:8932−8935; Zijlstra et al.(1989) Nature 342:435−438参照)。
【0175】
ポリヌクレオチドは、適当な発現ベクターに組む込むこともできる。遺伝子治療の応用に適当な多くのベクターが当該分野において知られている(例えば、Viral Vectors: Basic Science and Gene Therapy, Eaton Publishing Co. (2000)参照)。
【0176】
発現ベクターは、プラスミドベクターでもあってよい。プラスミドDNAを生成及び精製する方法は、迅速かつ簡単である。さらに、プラスミドDNAは、通常宿主細胞のゲノムに統合せず、染色体組み込みを高めるかもしれないという遺伝毒性の問題を除去する別個の存在としてエピソーム部位に維持される。
【0177】
様々なプラスミドが現在は容易に市販品を入手でき、Escherichia coli及びBacillus subtilisに由来し、哺乳類系での使用のために特に設計されたものがある。本発明で使用できるプラスミドの例としては、これに限定されるものではないが、真核発現ベクターpRc/CMV(Invitrogen)、pCR2.1(Invitrogen)、pAd/CMV及びpAd/TR5/GFPq(Massie et al., (1998) Cytotechnology 28:53−64)が挙げられる。代表的な実施形態において、プラスミドはpRc/CMV、pRc/CMV2(Invitrogen)、pAdCMV5(IRB−NRC)、pcDNA3(Invitrogen)、pAdMLP5(IRB−NRC)、あるいはpVAX(Invitrogen)である。
【0178】
あるいは、発現ベクターは、ウィルスベースのベクターであることができる。ウィルスベースのベクターとしては、これに限定されるものではないが、複製欠損性レトロウィルス、レンチウィルス、アデノウィルス及びアデノ随伴ウィルス由来のものが挙げられる。レトロウィルスベクター及びアデノ随伴ウィルスベクターは、現在、インビボで外因性オリゴヌクレオチドまたは遺伝子を特にヒトへトランスファーするための好ましい組み換え遺伝子送達システムである。これらのベクターは、細胞に遺伝子を効果的に送達し、トランスファーされた核酸は、宿主の染色体DNAに安定に組み込まれる。レトロウィルスを使用する主要な必要条件は、特に細胞群中の野生型ウィルスの拡散の可能性に関して、それらの使用の安全性を確保することである。レトロウィルスベクターが由来するレトロウィルスとしては、これに限定されるものではないが、モロニーマウス白血病ウィルス、脾臓壊死ウィルス、ラウス肉腫ウィルスのようなレトロウィルス、ハーベイ肉腫ウィルス、トリ白血病ウィルス、テナガザル白血病ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、アデノウィルス、骨髄増殖性肉腫ウィルス、及び乳癌ウィルスなどが挙げられる。具体的なレトロウィルスとしては、pLJ、pZIP、pWE及びpEMが挙げられ、これらは当該分野の技術者によく知られている。
【0179】
モジュレーターをエンコードするオリゴヌクレオチドまたは核酸配列は、通常、インビボでそのオリゴヌクレオチドまたは核酸の発現を可能にする適当なプロモーターのコントロール下で、ベクターに組み込まれる。採用することができる適当なプロモーターとしては、これに限定されるものではないが、アデノウィルスプロモーター、例えばアデノウィルス主要後期プロモーター、E1Aプロモーター、主要後期プロモーター(MLP)及び関連リーダー配列あるいはE3プロモーターなど;サイトメガロウィルス(CMV)プロモーター;呼吸器合胞体ウィルス(RSV)プロモーター;誘発性プロモーター、例えばMMTプロモーター、メタロチオネインプロモーターなど;ヒートショックプロモーター;アルブミンプロモーター;ApoAIプロモーター;ヒトグロブリンプロモーター;ウィルスチミジンキナーゼプロモーター、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーターなど;レトロウィルスLTR;ヒストン、pol III、及びβ−アクチンプロモーター;B19パルボウィルスプロモーター;SV40プロモーター;及びヒト成長ホルモンプロモーターが挙げられる。また、プロモーターは、目的遺伝子の天然プロモーターであってもよい。適当なプロモーターの選択は、ベクター、宿主細胞及びエンコードされたタンパクに依存し、当該分野の通常の技術範囲内とみなされる。
【0180】
複製欠損レトロウィルスのみを産生する特殊化した細胞系(「パッケージング細胞」という)の開発は、遺伝子治療へのレトロウィルスの利用を増加させ、欠損レトロウィルスは遺伝子治療を目的とする遺伝子トランスファーにおける使用を特徴とする(参考として、Miller, A. D. (1990) Blood 76:271参照)。従って、組み換えレトロウィルスは、レトロウィルスコード配列(gag、pol、env)の一部を本発明の核酸分子により置換し、レトロウィルスを複製欠損にするように構築することができる。複製欠損レトロウィルスは、その後、標準的技術によって、ヘルパーウィルスの使用により、標的細胞に感染させるのに使用可能なウィルス粒子中にパッケージされる。組み換えレトロウィルスを得るためのプロトコル及び細胞にインビトロあるいはインビボでそのようなウィルスを感染させるプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M. et al. (eds.), J. Wiley & Sons, (1989), Sections 9.10−9.14及び他の標準的な実験マニュアル中に認められる。環境栄養性及び両栄養性レトロウィルス系の両方を調製するための適当なパッケージングウィルス系の例としては、Crip、Cre、2及びAmが挙げられる。他のパッケージング細胞の例としては、これに限定されるものではないが、PE501、PA317、Ψ−2、Ψ−AM、PA12、T19−14X、VT−19−17−H2、ΨCRE、ΨCRIP、GP+E−86、GP+envAml2、及びMiller, Human Gene Therapy, Vol. 1, pgs. 5−14(1990)に記載されたDAN細胞系が挙げられる。
【0181】
さらに、ウィルス粒子の表面でウイルスパッケージングタンパクを修飾することにより、レトロウィルス及び結果としてのレトロウィルスベースベクターの感染スペクトルを、制限することができることが示されている(例えば、PCT公開公報WO93/25234及びWO94/06920参照)。例えば、レトロウィルスベクターの感染スペクトルの修飾方法としては次のようなものが挙げられる:細胞表面抗原に特異的な抗体をウィルス性envタンパクにカップリングする(Roux et al.(1989) PNAS 86:9079−9083;Julan et al.(1992) J. Gen Virol 73:3251−3255;及びGoud et al.(1983) Virology 163:251−254);あるいは細胞表面受容体リガンドをウィルス性envタンパクにカップリングする (Neda et al.(1991) J Biol Chem 266:14143−14146)。カップリングは、タンパクあるいは他の種類(例えば、envタンパクをアシアログリコプロテインに変換するための乳糖)と化学的に架橋した形態とすることができ、また、融合タンパクの生成によることもできる(例えば、単鎖抗体/env融合タンパク)。この技術は、感染をある組織型に制限するあるいは指示するのに有用であり、また、環境栄養性ベクターを両栄養性ベクターに変換するのに用いることもできる。
【0182】
加えて、レトロウィルス遺伝子送達の使用は、ベクター中に含まれる本発明の核酸分子の発現をコントロールする組織特異的なあるいは細胞特異的な転写調節配列の使用によりさらに高めることができる。
【0183】
遺伝子治療技術に有用な別のウィルスベクターは、アデノウィルス由来のベクターである。アデノウィルスのゲノムは、目的遺伝子産物をエンコード及び発現するが、通常の溶菌ウィルスライフサイクルにおけるその複製能力は不活化されるよう操作することができる。例えば、Berkner et al.(1988) BioTechniques 6:616;Rosenfeld et al.(1991) Science 252:431−434;及びRosenfeld et al.(1992) Cell 68:143−155参照。アデノウィルス株Ad type 5 d1324あるいは他のアデノウィルス株(例えば、Ad2、Ad3、Adzなど)に由来する適当なアデノウィルスベクターは、当該分野の技術者によく知られている。組み換えアデノウィルスは、広い多様な細胞型、例えば末梢神経細胞などへの感染に使用できるようなある種の条件において有利であり得る。さらに、ウィルス粒子は比較的安定で、精製及び濃縮でき、前記のように感染スペクトルに影響を及ぼすように修飾することができる。さらに、導入されたアデノウィルスDNA(及びそこに含まれる外来DNA)は、宿主細胞のゲノムに組み込まれるのではなくエピソームにとどまり、これにより、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウィルスDNA)に組み込まれるようになるような状況において挿入突然変異の結果として生じ得る潜在的な問題を回避する。さらに、外来DNAに対するアデノウィルスゲノムの運搬量(8キロベースまで)は他の遺伝子送達ベクターに比べて大きい(Berkner et al. cited supra;Haj−Ahmand and Graham(1986) J. Virol. 57:267)。現在使用され、また本発明により意図されるほとんどの複製欠損アデノウィルスベクターは、ウィルス性E2及びE3遺伝子の全てあるいは一部が削除されているが、アデノウィルスの遺伝物質の80%程度を維持している(例えば、Jones et al.(1979) Cell 16:683;前記Berkner et al.;及びGraham et al. in Methods in Molecular Biology, E. J. Murray, Ed.(Humana, Clifton, N.J., 1991) vol.7. pp.109−127参照)。
【0184】
複製欠損ヒトアデノウィルスベクターの作製及び増殖には、特有のヘルパー細胞系が要求される。ヘルパー細胞系は、ヒト胚腎臓細胞、筋細胞、造血細胞あるいは他のヒト胚間葉細胞あるいは上皮細胞などのヒト細胞由来であってよい。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウィルスに許容される、すなわち、代わりに、複製欠損性ウィルスの複製を可能にするのに必要な配列を与える他の哺乳動物種の細胞に由来してもよい。そのような細胞としては、例えば、293細胞、ベロ細胞あるいは他のサル胚間葉細胞あるいは上皮細胞が挙げられる。また、ブタあるいはウシアデノウィルスベクターのような非ヒトアデノウィルスベクターの使用も意図される。適当なウィルスベクター及びヘルパー細胞系の選択は、当該分野の一般的な技術範囲内である。
【0185】
本発明の一つの実施形態において、遺伝子治療ベクターはアデノウィルス由来ベクターである。別の実施形態においては、遺伝子治療ベクターは、一つ以上のWntタンパクをエンコードする核酸配列を含むアデノウィルス由来ベクターである。
【0186】
キット
さらに、本発明は、Wntシグナル伝達経路の一つ以上のモジュレーターを医薬組成物中に含む治療キットも提供する。キットの個々の成分は別々の容器に包装され、そのような容器とともに、医薬品あるいは生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する行政機関指定の様式の通知を有することがあり、通知はヒト投与のために製造、使用あるいは販売する機関による認可を反映する。
【0187】
キットの成分が一つ以上の液体溶液で与えられる場合、液体溶液は水溶液、例えば、滅菌水溶液であることができる。この場合、容器手段はそれ自体が吸入器、注射器、ピペット、点眼ビン、あるいは組成物を患者にそこから投与してもよい他のそのような器具であってよい。
【0188】
キットの成分は、乾燥状態あるいは凍結乾燥状態で提供されてもよく、また、キットはさらに凍結乾燥された成分の再溶解のために適当な溶媒を含むことができる。容器の数あるいはタイプに関係なく、本発明のキットは、患者への組成物の投与を補助するための器具を含んでいてもよい。そのような器具は、吸入器、注射器、ピペット、ピンセット、計量スプーン、点眼ビンあるいは医療的に認められているそのようないかなる送達ビヒクルでもよい。
【0189】
ここでいう幹細胞は、成長中、例えば、これに限定されるものではないが、新生児から成体、またはその中間のあらゆる時期の成長中の対象に存在してよい。一つの実施形態において、いかなる方法でも限定することを意味するものではないが、幹細胞は出生直後、または約1日、2日、5日、1週、5週、10週、25週、1年、2年、5年、10年、20年、40年、50年、60年、90年、またはその間のあらゆる時期の対象に存在することができる。従来の技術分野で知られたあらゆる方法によって適当な対象から幹細胞を分離及び/または精製することもできる。そのような分離及び/または精製の方法は、本発明によって包含されることを意味する。幹細胞が対象から分離される場合、対象が生存していることが好ましい。しかしながら、死亡したばかりの対象から幹細胞を得ることもできる。
【0190】
本発明は、また、a)対象の一つ以上の筋肉の筋細胞の数、b)対象の一つ以上の筋肉の筋肉量、c)対象の一つ以上の筋肉の強度を増大させるため、対象の幹細胞の増殖、分化、または増殖と分化の両方を増加させる方法も意図している。好ましい実施形態において、対象はヒトである。しかしながら、幹細胞を他の対象の筋肉量の増加のために用いてよいことも意図している。
【0191】
ここに記載の本願の方法は、インビボまたはインビトロで実施することができる。例えば、いかなる方法でも限定することを望むものではないが、本発明は、対象から幹細胞を分離すること、幹細胞を精製すること、幹細胞を培養すること、増殖、分化、または増殖と分化の両方のアクティベーターまたはインヒビターの一つ以上で幹細胞を処理すること、一つ以上のヌクレオチド構築物、例えば、増殖、分化、または増殖と分化の両方の一つ以上のアクティベーターまたはインヒビターで幹細胞を形質転換すること、あるいはこれらの組合せの一つ以上のステップを意図している。
【0192】
本発明は、一つ以上の小分子を含む方法及び組成物も意図し、例えば、これに限定されるものではないが、対象の幹細胞の増殖、分化、または増殖と分化の両方を増加させるために用いることができる塩化リチウムが挙げられる。例えば、いかなる方法でも限定することを望むものではないが、対象に塩化リチウムを含む組成物を投与することを含む、対象の筋肉幹細胞の増殖、分化、または増殖と分化の両方を増加する方法が提供される。
【0193】
本組成物は、一日以上にわたって一回以上の用量で投与することができ、例えば、約1日から30日、約1日から約14日、または他の適当な必要期間投与することができる。治療的用量は、当該分野の技術者によって容易に決めることができる。例えば、いかなる方法でも限定することを望むものではないが、塩化リチウムは、約0.001mg/kg(対象の体重基準で)から約200mg/kg、好ましくは約0.01mg/kgから約20mg/kg、さらに好ましくは約1mg/kgから約10mg/kg、さらに好ましくは約2mg/kgの量で、組成物中に存在することができる。投与量は、当該分野の技術者には明らかなように、意図された投与法、特定の対象、対象の健康状態などによって変化してよい。
【0194】
塩化リチウムを含む組成物は、他の化合物、例えば、これに限定されるものではないが、ここで定義されるwntシグナル伝達の一つ以上のモジュレーターなどを含んでよいことも意図される。
【0195】
一つの実施形態において、本組成物は、筋変性または筋萎縮を示す対象へ投与され、例えば、これに限定されるものではないが、疾患または非疾患の結果によるものが挙げられる。具体例において、いかなる方法でも限定することを意味するものではないが、がんやエイズなどの疾患をもつまたは示す対象に本組成物を投与することができる。また別の実施形態においては、本組成物は、対象の筋細胞の数を増加させるため、及び/または対象の一つ以上の筋肉の強度、サイズまたはその両方を増大させるために、対象へ投与することができる。その際、制限することまたは理論に束縛されることを望むものではないが、ここで全体にわたって定義される方法及び組成物は、がん、エイズ、例えばII型糖尿病のような糖尿病、筋変性疾患等の一つ以上の疾患に付随する筋変性や萎縮などを予防及び/または治療するために用いることができる。さらに、ここで全体にわたって定義される方法及び組成物は、一つ以上の非疾患プロセスの結果である筋変性または筋萎縮を予防及び/または治療するために用いることができ、例えば、これに限定されるものではないが、一つ以上の筋肉の不使用の結果である筋萎縮が挙げられる。本方法は、失禁を予防及び/または治療するために用いることもできる。また、ここで全体にわたって定義される方法及び組成物は、対象の筋細胞の数を増加させるため、対象の一つ以上の筋肉のサイズを大きくするため、対象の一つ以上の筋肉の強度を高めるため、またはそれらの組合せのために用いることもできる。
【0196】
ここで定義される組成物は、当該分野において公知のあらゆる方法によって投与することができ、例えば、これに限定されるものではないが、経口的にあるいは注射により投与でき、例えば、静脈内、腹腔内(IP)、筋肉内、皮下等への注射が挙げられるが、これに限定されるものではない。組成物中にリチウムが含まれる実施形態においては、好ましくは腹腔内(IP)または筋肉内注射により、さらに好ましくはIP注射によって投与する。しかしながら、組成物を投与する他のルートも意図される。
【0197】
ここで全体にわたって定義される組成物は、あらゆる適当な剤形に製剤化することができ、例えば、当該分野において知られているように、錠剤、液剤、懸濁剤、エマルジョン、マイクロエマルジョンなどが挙げられる。
【0198】
ここで図8を参照すると、インビボでのリチウム処理に応答して、筋形成を決定付けられた細胞の増加を示す実験の実験計画及び結果が示されている。図8Aは、Myf5nLacZマウスをLiCl(2mg/Kg/day)を14日間毎日IP注射して処理するという実験計画のフローチャートを示すものである。10日目に、カルジオトキシンの注射によってTA筋の筋肉の再生を誘導する。4日後に動物を屠殺し、全単核細胞をTAから分離、プレーティングし、24時間後にΒ−ガラクトシダーゼを染色する。図8Bは、PBS注射のコントロール動物に対して、LiCl処理の動物のΒ−Gal陽性細胞(筋原細胞)の比率が、ほとんど倍であることを示す結果を示している。
【0199】
ここに記載された本発明の理解を深めるために、以下に実施例を記載する。これらの実施例は、説明目的のみのものと理解されるべきである。従って、これらは、いかなる方法によっても本発明の範囲を限定すべきでない。
【0200】
上記説明は、いかなる方法でもクレームされた発明を限定することを意図せず、さらには、検討された特徴の組合せは、本発明の問題解決に絶対的に必要ではないかもしれない。
【実施例】
【0201】
実施例1:WNTシグナル伝達が、筋肉再生の間、CD45+成体幹細胞の筋原動員を活性化する
(材料及び方法)
細胞選別
単核細胞は、β−アクチン−EGFPトランスジェニックマウス(Hadjantonakis, 1998, Mech Dev 76, 79−90)、またはMyf5nLacZトランスジェニックマウス(Tajbakhsh, 1995, Development 125, 4155−4162)の後肢筋から得た。筋細胞は以前記載されたように回収した(Megeney, 1996, Genes Dev 10, 1173−1183)。単核細胞を、5%FBSを添加したDMEMで二回洗浄し、2〜3×10cell/mlの濃度で懸濁した。染色は抗体:CD45−APC、クローン30−F11またはCD45.2−FITC(クローン104)、Sca1−PE、クローンD7(BD Pharmingen)を用いて、氷上で30〜45分間行った。あるいは、CD45−ビオチン、クローン30−F11を、ストレプトアビジンTri−Color Conjugate(Caltag Labs)と10分インキュベーション後使用した。一次抗体は、1:200で希釈し、ストレプトアビジンTri−Color Conjugateは1:1000で希釈した。4℃のDMEMで二回洗浄後、細胞を3つのレーザーを備えたMoFlo cytometer(DakoCytomation)で分離した。選別ゲートは、アイソタイプコントロール染色細胞及び単一抗体染色に基づいて、正確に決定した。死細胞及び残骸は、前方及び側方散乱分析結果で開閉することによって排除した。選別は、できるだけ高純度を達成するため、単細胞モードを用いて行った。選別された群の純度は、常に>98%であった。
【0202】
選別した細胞群の直接分析のため、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄及び懸濁し、シラン処理されたスライドグラス上にサイトスピンした(DAKO)。X−gal染色は以前記載されたように行った(Kablar, 1997, Development 124, 4729−4738)。
【0203】
細胞培養及び安定細胞系
3週齢のBalb/cマウスの後肢筋から一次筋芽細胞を分離し、20%FBS及び2.5ng/ml bFGF(Invitrogen)を追加したHAM’s F−10培地(Invitrogen)中で維持した。単一筋線維は、以前記載されたように長指伸筋から調製した(Rosenblatt, 1995)。AtT−20、BOSC 23、C3H10T1/2、及びCos1細胞はATCCから入手し、10%FBSを追加したDMEM中で維持した。HA−Wntタンパクを発現する安定細胞系を、以前記載されたようにして得た(Shimizu, 1997, Cell Growth Differ 8, 1349−1358)。HA−Wntの発現は、抗HA抗体(HA−7, Sigma)を用いたウェスタンブロット分析によって確認した。
【0204】
共培養実験及び免疫組織化学
共培養実験のため、一次筋芽細胞またはWnt発現細胞を、精製したCD45:Sca1細胞と1:1の割合で混合し、コラーゲンコートした2穴Permanox Chamber Slides(Lab−Tek)上に撒いた。密度は、増殖条件の共培養では2×10cells/chamber、分化実験では4×10cells/chamberであった。共培養は、20%FBSを追加したHAM’s F−10培地中で3日間維持し、分化実験のためにDMEM/5%ウマ血清に切り替えた。Li2+またはShh転換実験のため、10mMのLiCl(Sigma)、あるいは10または100ng/mLのShh−N(R&D Systems)を分化培地に添加した。免疫組織化学的分析のため、細胞を、2%PFAを用いて室温で15分間固定し、0.05%Triton X−100を用いて15分間透過処理し、PBS中で1%BSA/5%HSによってブロックし、抗体を用いて室温で2時間染色した:染色に用いた抗体は、MyoD、クローン5.8A(BD Pharmingen);ミオシン重鎖、クローンMF−20(Developmental Studies Hybridoma Bank (DSHB));Pax7(DSHB);またはβ−カテニン(BD Transduction Laboratories)である。フルオレセインまたはローダミン結合抗体(Chemicon)を、二次検出に使用した。カバースライドを載せ、Zeiss Axioscop蛍光顕微鏡を使用して分析した。
【0205】
RT−PCR、クローニング、及び配列決定
メーカーの使用説明書に従ってRNAeasy kits(Qiagen)を使用し、全てのRNAを抽出した。Frizzled遺伝子発現の分析のため、保存frizzled配列であるYPERPIIF及びWWVILSLTWに対応する完全縮合プライマーを用いて、以前記載されたようにRT−PCRを行った(Malik, 2000, Biochem J 349 Pt 3, 829−834)。その生成物を、TOPO−PCRIIベクター(Invitrogen)中にクローニングし、配列決定した。Wnt mRNAsのRT−PCR分析は、GeneAmp PCR Core kit(Perkin−Elmer)を使用して行った。次のプライマーを使用した。
Wnt1 (5’-acgtacagtggccgcctg-3’; 5’-acgcgcgtgtgcgtgcagtt-3’; 203 bp);
Wnt3a (5’-ggagatggtggtagagaaa-3’; 5’atagacacgtgtgcactc- 3’; 322 bp);
Wnt4 (5’-agcccccgttcgtgcctgcggtcc-3’; 5’-actccacccgcatgtgtgtca-3’; 607 bp);
Wnt5a (5’-aatggctttggccacgttttt-3’; 5’- tggattcgttcccttt-3’; 541 bp);
Wnt5b (5’-agtgcagagaccggagatgttc-3’; 5’- ggcaaagttcttctcacgc-3’; 459 bp);
Wnt7a (5’-agcgcggcgctgcctgggcc-3’; 5’-cttcagaaaggtgggccgcttgttt- 3’; 752 bp);
Wnt7b (5’-ccgcacctcgccgggggccgac-3’; 5’-gtcggcccccggcgaggtgcgg-3’; 180 bp);
Wnt10a (5'-aaagtcccctacgagagccc-3', 5'-cagcttccgacggaaagctt-3'),
Wnt10b (5'-cggctgccgcaccacagcgc-3', 5'-cagcttggctctaagccggt-3')
sFRP1 (5'-cgcccgtctgtctggaccg-3'; 5'-ctcgcttgcacagagatgt-3', 257 bp);
sFRP2 (5'- ttcggccagcccgacttctcc- 3'; 5'- taggtcgtcgagacagacagggg- 3', 234 bp);
sFRP3 (5'- attttcctatggattcaagtactg-3'; 5'-ttgactttcttaccaagccgatcctt- 3'; 396 bp);
sFRP4 (5’- tggatagacatcacaccagatat-3'; 5'- cctgaagcctctcttccca-3', 423 bp).
【0206】
カルジオトキシン誘導性再生
5〜8週齢マウスをハロタンガスを用いて麻酔した。10μMカルジオトキシン(Latoxan)25μlを、29 G 1/2インスリン用シリンジを使用してTA筋内へ直接注射した。細胞増殖試験のため、動物を屠殺する90分前に5−ブロモ−デオキシウリジン(BrdU, Sigma)0.3mg/kgを、腹腔内に注射した。BrdUを取り込んだ細胞を、FITC結合抗BrdU 抗体(BD Pharmingen)を用いたフローサイトメトリーにより検出した。sFRP試験のため、組換えSFRP2及び3(R&D Systems)100ngを、再生TA筋へ注射した。コントロール動物へは、同量のPBSを注射した。全TA細胞群の分析のため、1×10の単核細胞を、コラーゲンコートしたチャンバースライド上に一晩プレーティングし、その後、1:200の抗デスミン抗体(DAKO)で染色した。二次検出には、1:500のロバ抗マウスFITC(Chemicon)を用いた。
【0207】
ウェスタンブロット分析
損傷を受けていない再生TA筋を、液体窒素中で急速冷凍し、粉砕し、抽出緩衝液中(50mM Tris−HCl pH 7.4、0.1% Triton X−100、5 mM EDTA、250mM NaCl、50mM NaF、プロテアーゼインヒビター(Complet, Roche))に溶解した。抽出物を、バイオラッド染料を使用してタンパク内容を正規化した。50μgの溶解物を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)によって分離し、ニトロセルロースフィルター上に転写した。フィルターを、Wnt5a,1:200(AF645, R&D Systems);β−カテニン,1:250(BD Transduction Laboratories)、α−チューブリン,1:2000(T 9026, Sigma)に対する抗体で探索した。二次検出は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗体(BioRad)を用いて行った。タンパク発現を、ECL Plus kit(Amersham)を使用して可視化した。
【0208】
再生筋肉のアフィメトリクス発現プロファイリング
再生マウス腓腹筋の遺伝子発現プロファイリング及びデータ分析は、すでに記載されている(Zhao, 2002, J Biol Chem 277, 30091−30101)ように、CNMC Research Centerで行われた。簡単に言うと、腓腹筋に10mMカルジオトキシン(ctx)(Calbiochem)100μlを注射した。RNAを、ctx注射後0(注射なし)、12時間、1日、2日、及び10日に、4つの別々の筋肉から調製した。ビオチン標識cRNAを、それぞれの複製のために得て、断片化し、Murine Genome U74A version 1 chips(Affymetrix)とハイブリッド形成した。一次データ及び比較分析は、以前に記載されている(Chen, 2000, J Cell Biol 151, 1321−1336)ように、Affymetrix Microarray Suite 4.0を使用して行った。
【0209】
(結果)
筋肉再生の間のCD45:Sca1細胞の筋原性決定
汎造血性マーカーCD45、及び幹細胞マーカーStem Cell Antigen−1(Sca1)を発現する細胞は、損傷を受けていない前脛骨(TA)筋から精製し、カルジオトキシン(ctx)投与後の様々な時点で再生を誘導した(図1A)。CD45及びSca1発現細胞の比率は、再生の間に平均10倍まで増加した(n=6)(図1A)。興味深いことに、ctx注射後4日目のCD45:Sca1細胞(BrdU+細胞の60%)及びCD45:Sca1 細胞(BrdU+細胞の18%)内へのBrdUの選択的な取り込みは、これらの細胞が再生の間に大規模な増殖を起こしていることを示唆した(図1B)。これらの知見は、CD45及びSca1を発現する筋細胞が、筋損傷に反応して活性化され、増殖することを示している。
【0210】
筋原性プログラムに入った細胞を特異的に同定するために、細菌性LacZ遺伝子がMyf5遺伝子座から発現されるヘテロ接合性Myf5nLacZノックイン動物において、筋肉再生を誘導した。これらのレポーターマウスにおいて、LacZの発現は内因性Myf5遺伝子の発現パターンを正確に繰り返し、この発現は、筋原性決定後速やかに誘導される(Tajbakhsh, 1995, Development 121, 4077−4083)。CD45:Sca1細胞は、ctx注射後4日に損傷を受けていない再生筋肉から分画し、直ちにサイトスピンの調製に使用した。
【0211】
重要なことに、損傷を受けていない筋肉から精製されたCD45:Sca1及びCD45:Sca1細胞は、常にMyf5nLacZ 陰性であり、インビトロで決定された筋細胞を全く生じない(n=6)(図示せず)。しかしながら、損傷後4日の再生筋肉からのCD45:Sca1high 細胞の7.2+/−2.6%(n=6)(図1A参照)、及びCD45:Sca1細胞の3.8+/−1.8%(n=3)が Myf5nLacZ を共に発現した(図1C)。再生筋肉(損傷後4日)から精製された同様の比率のCD45:Sca1high細胞は、MyoD(図1D)、筋特異的中間フィラメントタンパク、デスミン(図1D)、及び衛星細胞特異的Pax7タンパク(データ表示なし)を発現した。 さらに、再生筋肉から分画したCD45:Sca1細胞は、分化培地中で培養後、ミオシン重鎖(MHC)発現筋細胞に分化した(図1D)。再生中分離したCD45:Sca1細胞におけるMyf5nLacZ発現の完全な欠如は、CD45:Sca1及びCD45:Sca1細胞における筋形成の特異的活性化を示した。選別を二回行った細胞を用いた実験においても同様の結果が得られた。
【0212】
損傷筋肉中に存在する筋原前駆体の数に対するctxの影響も検討された(Asakura, 2002 , J Cell Biol 159, 123−134参照)。興味深いことに、ctx注射後18時間に、Myf5nLacZ+細胞数は、損傷を受けていない筋肉と比較して約30倍まで減少した(4.1×10±1.6×10と比較して、1.18×10±1×10Myf5nLacZ+ 細胞/g組織)(図1E)。全筋細胞のコロニー形成検定において、ctx注射後18時間のMyoD及びデスミン筋原細胞が同様の減少を示したため、この知見はctx誘導Myf5プロモーターサイレンシングによるものではなかった。
【0213】
再生中のCD45及びSca−1細胞の相対的な筋原性の寄与を決定するため、様々な筋肉画分に由来するMyf5nLacZ発現細胞の数を算出した。その分析(各時点につきn>3)により、ctx注射後4日に、CD45:Sca1high;CD45:Sca1;及びCD45:Sca1が、各々平均1.54×10、3.9×10及び2×10Myf5nLacZ+細胞/g組織を生じたことが明らかとなった(図1F)。これらの数は、Myf5nLacZ筋由来の分画された群を用いてサイトスピンを調製した独立した実験から収集した平均値を表す。特に、決定された筋原前駆体(CD45:Sca1)は、損傷後4日間までに、6.0×10Myf5nLacZ+細胞/g組織を占めた。従って、衛星細胞におけるctxの明らかな毒性は、常在衛星細胞群が、ctx誘導性の筋肉損傷後、筋原前駆体の唯一の起源を実際に表すのか否かという疑問を引き起こす。
【0214】
総合すれば、これらの実験は、筋肉由来のCD45及びSca1細胞が、筋肉損傷に反応して筋原特異化を受ける能力を実証している。重要なことに、この知見は、非衛星細胞由来の前駆体が、正常な修復プロセスに関与することを示唆している。
【0215】
筋芽細胞との共培養またはリチウムへの曝露によって誘導されたCD45:Sca1細胞の筋原性決定
前記のように、損傷を受けていない骨格筋から精製されたCD45:Sca1細胞は、筋原細胞を自発的には形成しない(Asakura, 2002, J Cell Biol 159, 123−134; McKinney−Freeman, 2002, Proc Natl Acad Sci U S A 99, 1341−1346も参照)。しかしながら、一次筋芽細胞との共培養において、投入されたEGFPトランスジェニックマウス由来のCD45:Sca1筋細胞の0.5±0.03%は、単核のMHC発現筋細胞を形成した(図2A、コントロール)。前記トランスジェニックマウス由来の筋細胞の50%までしかEGFPが検出できず、また、CD45:Sca1細胞のプレーティング効率は低いので、この筋原分化の頻度は、実際の効率よりも過小評価である。単独培養したCD45:Sca−1フラクション(n=6)において、筋原細胞は全く観察されなかったことから、選別に起因した筋芽細胞との共培養におけるいかなる汚染の可能性も排除された。
【0216】
Wntシグナル伝達経路は、処理細胞のGSK−3βの抑制及びβ−カテニンの安定化を介してリチウムによって活性化される(Hedgepeth, 1997, Dev Biol 185, 82−91)。従って、Wntシグナル伝達経路がこの現象に包まれているのか否かを検討するために、CD45:Sca1筋細胞及び一次筋芽細胞の共培養を10mM LiClへ曝露した。10mM LiClとの共培養処理によって、GFP+、ミオシン重鎖(MHC)発現筋細胞の頻度が、投入細胞の7.5%(n=3)へ15倍に著しく増加した(図2A)。さらに、LiCl含有分化培地中で筋芽細胞なしで培養したCD45:Sca1細胞は、MHC発現からも明らかなように筋原分化を受けた(図2B)。しかしながら、増殖条件においては、、LiClは48時間以内に筋原細胞の急速な死を誘導し、これら培養のさらなる分析は不可能となった。要約すれば、これらの結果は、Wntシグナル伝達経路の活性化が成体骨格筋から分離したCD45:Sca1細胞の筋原特異化を誘導することを示唆した。
【0217】
ソニックヘッジホッグ(Shh)のCD45:Sca1筋細胞における筋形成刺激能力も試験した。10または100ng/mlの組換えShhをCD45:Sca1細胞単独またはそれと筋芽細胞との共培養に添加したが、筋原分化効率へは影響しなかった。しかしながら、100ng/ml Shhへの曝露後に、CD45:Sca1細胞生存率に3−4倍の増加が観察された。
【0218】
再生筋肉におけるWnt及びsFRP発現の誘導
骨格筋再生中のWntシグナル伝達カスケードにおける遺伝子の発現動態の分析のため、半定量RT−PCR分析を用いた。再生筋肉(損傷後4日)において、Wnts5a、5b、7a及び7bのmRNAが誘導され、一方、Wnt4は強く下方制御された(図3A)。リアルタイムPCRを用いた第2の実験において、Wntシグナル伝達カスケードにおける遺伝子の発現は、さらに下記表3の記載の結果を与えた。
【0219】
【表3】

【0220】
mRNAレベルでのWntsの上方制御がタンパク発現の増加に対応するか否かを決定するため、Wnt5aタンパクのウェスタンブロット分析を行った。2つの独立した実験において、Wnt5aは再生2日から10日に強く発現することが認められた。Wnt1及びWnt3aは、分析したどのサンプルにおいても発現されなかった。sFRP1、2及び3には強いけれども遅い誘導が観察されたが、sFRP4には見られなかった(図3A)。Fzdsの発現は全ての筋肉において高くなく、再生中の誘導はなかった。
【0221】
さらに、CNMC Microarray Centerで行われた再生マウス腓腹筋におけるアフィメトリクス配列試験を分析した。遺伝子発現は、損傷を受けていない筋肉(コントロール)、及びctx注射後12時間、1日、4日、10日の各時点で4つの独立した複製を用いて検定された(http://microarray.cnmcresearch.org で入手可能)。4つの可能なペアワイズ比較の後、コントロール及び実験サンプル(再生)の間で>2倍の発現変化を示した遺伝子のみ、さらに試験された。これらのデータの分析から、Wnt5a、5b、7a及び7bが早くも損傷後24時間で上方制御され、10日の再生期間を通じて高い発現レベルが維持されたことが確認された。これに対して、sFRPsは損傷後4日から10日の再生末期に上方制御された。特に、sFRP1、2及び4は、再生10日の時点で、損傷を受けていない筋肉に対して各々7.3+/−1.2、4.9+/−0.3及び7.4+/−4.1倍に上方制御された(4つのペアワイズ比較の平均)。要約すれば、本遺伝子発現試験は、Wnts5a、5b、7a、7b、10a及び10bを含むwntポリペプチドが筋肉再生において果たす役割があり得ることを示唆している。
【0222】
筋芽細胞、筋管、及び分離された筋線維におけるWnt及びsFRP発現
CD45:Sca1細胞が一次筋芽細胞との共培養において筋原性変化を起こす能力(図2)に鑑み、筋芽細胞、筋管、及び筋原線維をWnts及びsFRPsの発現について試験した。重要なことに、Wnt5a及び5bは、増殖中の筋芽細胞においては発現されたが、分化した筋管では発現されなかった。これに対して、Wnt7aは筋管においては発現されたが、筋芽細胞では発現されなかった(図3B)。興味深いことに、3つのWnts全てが、分離された単一筋線維において発現された。しかしながら、Wnt7bのmRNAは、どのサンプルにおいても検出されなかった。最後に、sFRP1−4も筋芽細胞、筋管、及び筋線維において発現された(図3B)。従って、これらの結果は、筋芽細胞におけるWnt5a及びWnt5bの発現が、我々の共培養実験におけるCD45成体幹細胞の筋原性決定を誘導するという仮説を示唆するものである。さらに、これらのデータは、再生筋肉における筋原線維及び筋芽細胞によって分泌されたWnt5a、5b、及び7aによる組み合わされたシグナル伝達が、成体筋肉由来幹細胞の筋原性決定の原因であることを示唆するものである。
【0223】
CD45:Sca1細胞はFrizzled−1、4及び7を発現する
筋肉再生の間、CD45:Sca1細胞がWntsの推定標的を表すならば、CD45:Sca1細胞はWnt受容体Frizzled(Fzd)を発現することが予想される。従って、CD45:Sca1細胞を休止中及び再生中のTA筋から分離し、Fzdsの発現を試験した。Fzdsに対するRT−PCRを完全縮重プライマーを用いて行い、続いてPCR産物のクローニング及び配列決定を行った。休止筋肉からのCD45:Sca1細胞では、Fzd1及び4の発現が観察された。ctx注射後4日までに、CD45:Sca1細胞は、全体的にFzd発現を上方制御し、さらにFzd7も発現した(図3C)。重要なことに、休止中及び再生中の全てのTA筋から分離されたRNAで、Fzd mRNA発現に全く変化は見られなかったので、Fzd mRNAsの発現で観察されたこの上方制御はCD45:Sca1群に特異的であった。
【0224】
筋肉再生の間、CD45:Sca1細胞はβ−カテニンを上方制御する
再生筋肉において、Wntシグナル伝達が活性化されるかどうかを決定するため、ウェスタンブロット分析を用いてβ−カテニンを検出した。β−カテニンの安定化及び核内蓄積は、応答細胞の標準Wnt経路の活性化の証である(Pandur, 2002, Bioessays 24, 881−884)。β−カテニンは、全ての再生TA筋からの抽出物において損傷を受けていない筋肉に比べて強く上方制御された(図4A)。重要なことに、β−カテニンタンパクの発現は、筋肉損傷後CD45:Sca1細胞で高レベルに誘導された(図4B)。これに対して、CD45:Sca1細胞は、β−カテニンを検出可能なレベルまで発現しなかった。再生筋肉においては、CD45:Sca1群、これはほぼ独占的に筋芽細胞からなる(未発表の知見)、はβ−カテニンを高レベルに発現した。これらのデータは、CD45:Sca1細胞が、再生TA筋の標準Wntシグナル伝達経路を経てWntシグナル伝達に応答するという仮説を支持するものである。
【0225】
異所性WntがCD45:Sca1細胞の筋原性決定を誘導する
WntがCD45:Sca1細胞の筋原性変化を誘導するのに十分であるかどうかを検討するため、組換えHA標識Wntタンパクを発現する安定細胞系パネルを確立した。異所性Wnt5a、5b、7a、及び7b(Wnt混合)を発現するAtT−20細胞と共培養後、EGFP発現CD45:Sca1細胞は、これらの細胞のWntシグナル伝達の活性化に一致するβ−カテニン(矢印)の細胞質及び/または核局在化を示した(図5A)。これに対して、空のベクターを安定に形質移入したAtT−20細胞と共培養したCD45:Sca1細胞は、細胞質内または核内にβ−カテニンを蓄積しなかった(図5A)。
【0226】
増殖条件においては、Wnt系と共培養したCD45:Sca1細胞が、筋原性決定タンパクMyoD、及び衛星細胞マーカーPax7の発現を開始した(図5B)。さらに、培養を48時間の分化条件に切り替えた後には、MHC陽性筋細胞が観察された(図5B)。これに対し、コントロールである非Wnt発現AtT−20細胞と共培養したCD45:Sca1細胞は、どの筋原性マーカーも発現しなかった(図5C)。従って、Wnt5a、5b、7a及び7bの混合物によるシグナル伝達は、invitroでCD45:Sca1細胞の筋原性決定を導いた。個々のWnt発現細胞系はCD45:Sca1細胞の筋原性決定を誘導したが、低率であった。
【0227】
CD45:Sca1細胞のプレーティング効率は、投入細胞の2−4%が再生可能であり、新しく分離した一次筋芽細胞で観察されたプレーティング効率とほぼ同じであった。3日間培養後には、EGFP+ CD45:Sca1細胞の投入数の2−4%が、Wnt発現AtT−20細胞と共培養後に存在していた。重要なことに、生存しているCD45:Sca1細胞の90%以上が筋原性系列へ変化した。まとめると、これらの実験は、Wntシグナル伝達が、損傷を受けていない筋肉から分離したCD45:Sca1細胞の筋原特異化を活性化することを示すものである。
【0228】
注射されたsFRPが、再生の間、CD45:Sca1細胞の筋原性動員を大幅に減少させる
インビボにおける筋肉再生のエフェクターとしてのWntシグナル伝達の関連性を評価するため、組換えWntアンタゴニストsFRP2及び3(各100ng)を、Myf5nlacZマウスの再生筋肉内へ毎日注射した。3つのコントロール動物群を、可能性のある外来性の効果を評価するために用いた。第一群(損傷を受けていないコントロール)はctxを注射せず、その後sFRP注射もしなかった。第二群は初めにctxではなくPBSの注射し、次いでsFRPを毎日注射した。最後の群は、再生を誘導するためにctxを注射し、次いでsFRPsの代わりにPBSを毎日注射した。
【0229】
筋肉細胞のフローサイトメトリー分析は、損傷後4日に観察されたCD45:Sca1high画分における増加(図6B)が、sFRPs2及び3の毎日の注射によって、約4倍減少したことを示した(図6C)。さらに、CD45:Sca1high細胞数の減少は、同時に起こる全単核細胞数の減少によるものではなかった。重要なことに、損傷を受けていない筋肉へのsFRPs注射はTA筋再生を誘導せず、あるいは、いかなる形態学的変化も起こさなかった(図6A)。
【0230】
Myf5nLacZを発現するCD45:Sca1細胞の比率を、毎日のsFRP注射後5日目に試験した。前記(図1)のとおり、損傷後4日の再生筋肉から直接的に得たCD45:Sca1high細胞の6.71±1.44%が、Myf5nLacZを発現した(n=3)(図6B)。重要なことに、Myf5nLacZは、損傷を受けていない筋肉から分離したCD45:Sca1細胞では発現されなかった(図6D)。再生筋肉への毎日のsFRP2及び3の注射は、CD45:Sca1画分におけるMyf5nLacZ+細胞数を約6倍と著しく減少させた(図6D)。従って、Wntシグナル伝達の抑制は、インビボにおけるCD45:Sca1細胞の筋原特異化を著しく減少させた。
【0231】
筋肉再生に対するsFRPの効果をさらに特徴づけるため、損傷後4日の筋肉からの全単核細胞プールにおける筋原細胞の回複を分析した。3つの実験群から得た1×10の細胞を各ウェルにプレーティングし、24時間後に骨格筋細胞に特異的なマーカーであるデスミンの発現を分析した(図6E)。毎日のsFRPs注射によって、再生4日目のTA筋の単核のデスミン発現筋芽細胞の数は、PBS注射の再生筋肉に比べて約7倍減少した(6.03×10+/−3.03×10に対して4.47×10+/−1×10cells/gram tissue)(図6E)。
【0232】
In vivoでの動物のLiCl処理
8−10週齢の雄Myf5nLacZマウスを、2つの群に分けた。第一群(n=3)は、塩化リチウムの腹腔内注射(2mg/kg/day、約100μL量)(Sigma)、第二群は(n=3)は生理食塩水注射(100μL/day)を14日間行った。処理開始後10日目に、カルジオトキシン注射により再生を誘導した(10μMカルジオトキシン(Laxotan)25μlを29G1/2インスリン用シリンジを用いてTA筋へ直接注射した)。
【0233】
既に記載されているように、全単核細胞群の分析のために、TAを回収し、機械的に解離し、コラゲナーゼ−ディスパーゼで消化した(Megeney, L. A., Kablar, B., Garrett, K., Anderson, J. E., Rudnicki, M. A (1996), MyoD is required for myogenic stem cell function in adult skeletal muscle. Genes Dev 10, 1173−1183、これは参照することによりここに組み込まれる)。2×10の細胞を、コラゲーゲンコートしたチャンバースライドに一晩プレーティングし、その後4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、X−gal含有液で一晩染色した。結果を図8に示す。
【0234】
一次筋芽細胞に対するWntタンパク発現の影響
別の実験において、Wnt−5a、−5b、−7b、β−カテニン及びβ−カテニン−IRES−lef1のcDNAフラグメントを、レトロウィルスベクターpHAN(puro)にサブクローニングした。環境栄養性レトロウィルスを調製するため、Phoenix−ecoパッケージング細胞に、lipofectoAMINE(Invitrogen)を用いてレトロウィルスベクターを形質移入した。形質移入後30時間でウィルス上清を回収し、ポリブレン(Sigma、8mg/ml)の存在下で一次筋芽細胞に感染させるために使用した。感染させた細胞を、感染後24時間にピューロマイシン(Sigma、1mg/ml)で選択した。選択した一次筋芽細胞を、100mmの皿中で増殖させ、PBSで2回洗浄し、プロテアーゼインヒビター混合物(Roche)を含む放射性免疫沈降検定(RIPA)緩衝液(50mMTrisHCl、pH 7.5; 150mMNaCl; 0.5% Nonidet P−40; 0.1%デオキシコール酸塩)100ml中に溶解した。細胞抽出物を回収し、微量遠心機にて13,000rpmで5分間遠心した。全タンパク(5μg)は、10%SDS−PAGEにより分離し、Immobilon−P(Millipore)に移した。そのメンブレンを、一次抗体、次いで1:5,000のHRP結合二次抗体(Bio−Rad)をプローブとし、ECLTM Plus (Amersham Biosciences)を使用して発現させた。メンブレンはBIOMAX film(Kodak)へ焼き付けた。この作業で使用した一次抗体は、抗PAX7(1:2)、β−カテニン(BD Bioscience、1:2,000)、抗HA(Sigma、1:5,000)、及び抗α−tublin(Sigma、1:4,000)であった。結果を図9に示す。
【0235】
記載された本発明は、同じことが多くの方法において変更されてよいことは明らかである。そのような変更は、本発明の精神及び範囲を逸脱するものと見なされるべきでなく、当該分野の技術者に明白であるような全てのそのような修飾は、請求項の範囲内に含まれることを意図する。
全ての引用は、参照することによりここに組み込まれる。
本発明は、好ましい実施形態について記載した。しかしながら、多くの変更及び修飾がここに記載の発明の範囲を逸脱することなく為すことが可能であるということは、当該分野の技術者に明らかであろう。
【0236】
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【0247】
Wodarz, A., and Nusse, R. (1998). Mechanisms of Wnt signaling in development. Annu Rev Cell Dev Biol 14, 59-88.
【図面の簡単な説明】
【0248】
【図1】図1は、再生筋肉のCD45:Scal細胞の筋原性動員を表す。(A)骨格筋由来細胞のフローサイトメトリー分析は、造血性マーカーであるCD45及びSca1を発現する細胞の比率が、再生筋肉(カルジオトキシン(ctx)注射後4日及び7日)において激的に増加したことを示した。CD45:Scalhigh細胞の選別は4日目に示される。(B)インビボ細胞増殖試験は、損傷後4日に、BrdU細胞の60%及び18%が、それぞれCD45−:Sca−1及びCD45:Sca1であったことを示した(赤=BrdU;青=全細胞)。(C)X−gal反応により検出されたように、損傷を受けていないもの以外の再生中のMyf5nLacz骨格筋から精製したCD45:Scalhigh細胞の〜7−10%が、CD45、Scal及びMyf5nLaczを共に発現した。(D)分画されたCD45:Scalhigh細胞は、培養においてMyoD及びデスミン発現骨格筋細胞を生じた。さらに、同比率のCD45:Scalhigh細胞が、ミオシン重鎖(MHC)発現筋管へ分化した。(E)Myf5nLacz+衛星細胞の数は、カルジオトキシン注射後18時間で、損傷を受けていない筋肉に比べ〜30倍低かった。(F)定量分析は、CD45:Scalhigh(赤)及びCD45−:Sca−1(青)画分が、それぞれ平均1.54×10及び3.9×10個の筋原細胞を生じ、一方、CD45:Scal(黒)画分の筋原性活動はごく僅かであったことを示した。
【0249】
【図2】図2は、筋芽細胞との共培養もしくはリチウムへの曝露により誘導されたCD45:Scal細胞の筋原性決定を表す。(A)一次筋芽細胞と共培養したEGFP発現CD45:Scalhigh細胞は、0.5%の頻度で、単核のミオシン重鎖(MHC)発現筋細胞を生じた。10mM LiClを添加した共培養において、EGFP+:CD45:Scalhigh細胞の7.5%がMHC+筋細胞(矢印)を形成した。矢印はEGFP+の非筋原細胞を示す。(B)10mM LiClを添加した分化培地で単培養したCD45:Scalhigh細胞は、単核のMHC発現筋細胞(矢印)を形成した。
【0250】
【図3】図3は、再生筋肉におけるWnt及びsFRPの上方制御を表す。(A)RT−PCR法は、再生TA筋におけるWnt5a、5b、7a、7bの発現増加を示した。一方、Wnt4の発現は損傷後下方制御された。sFRP4以外のsFRP1、2、3の発現の増加が、再生筋肉において認められた。(B)RT−PCR試験は、Wnt5a及び5bが筋線維(fiber)及び増殖性筋芽細胞(mb)において発現し、Wnt7aは主に筋線維及び培養筋管(mt)(分化培養3日)において発現したことを示した。(C)Wnt受容体であるFzd1、4及びFzd1、4、7が、損傷を受けていない筋肉及び再生筋肉(損傷後4日)からそれぞれ精製されたCD45:Scal細胞において発現した。
【0251】
【図4】図4は、CD45:Sca−l細胞が、再生の間β−カテニンを上方制御することを表す。(A)ウエスタンブロット分析から、再生筋肉の抽出物におけるβ−カテニンタンパクのレベル増加が明らかになった。(B)高レベルのβ−カテニンタンパクが、損傷を受けていない骨格筋を除く再生骨格筋(損傷後4日)から分画されたCD45:Scal細胞及びCD45:Scal細胞において認められた。
【0252】
【図5】図5は、異所性WntsがCD45:Scal細胞の筋原性決定を誘導することを表す。(A)損傷を受けていない筋肉からのEGFP発現CD45:Scal細胞は、Wnt5a、5b、7a、及び7b(Wnt混合物)を発現する細胞系と3日間共培養後に、β−カテニンタンパク(矢印)の核及び/または細胞質蓄積を示した。これに対して、空のpLNCXベクターを形質移入した細胞と共培養したCD45:Scal細胞(コントロール)においては、β−カテニンの発現は細胞膜に制限された。(B)CD45:Scal細胞は、Wnt5a、5b、7a、及び7b発現細胞と3日間共培養後に、MyoD及びPax7を発現した。共培養を低分裂促進因子環境へ曝露後は、CD45:Scal細胞はミオシン重鎖(MHC)発現筋細胞として分化した。(C)コントロールである空のベクター(pLNCX)を安定に形質移入した細胞系との共培養においては、CD45:Scal細胞は、MyoD、Pax7もしくはMHCの発現を開始しなかった。
【0253】
【図6】図6は、sFRPs注射が、再生の間CD45:Scal細胞の動員を顕著に低下させることを表す。(A−C)CD45及びScalのフローサイトメトリー分析は、sFRP2及び3で毎日処理した再生筋肉(C)のD45:Scalhigh細胞比率が、PBS注射の再生筋肉(B)に比べ減少したことを示した。損傷を受けていない筋肉へのsFRPs注射(A)は、再生を誘導しない、あるいはCD45:Scal細胞比率への影響がなかった。(D)Myf5nLacZを共発現したD45:Scalhigh細胞の比率は、sFRP2及び3で再生筋肉処理後、6倍まで減少した。(E)デスミン発現筋芽細胞の数における7倍の減少が、sFRPs処理再生筋肉から回復した。
【0254】
【図7】図7は、Wntシグナル伝達の成体幹細胞にとっての筋原動員における役割を表す。本実験は、損傷した筋原線維、常在筋芽細胞、及び損傷した筋肉内の可能性のある他の細胞型から分泌されたWntシグナルが、筋原性転写因子の活性化、及び幹細胞の筋前駆体への決定を誘導するという仮説を示唆する。Wntシグナル伝達は筋原特異化を誘導するPax7遺伝子の活性化に向けられる。修復後、WntアンタゴニストであるsFRP2及び3の分泌がWntシグナル伝達を遮断し、それにより幹細胞の筋原動員が阻害される。
【0255】
【図8A】図8は、インビボでのリチウム処理に応答して筋形成を決定づけられた細胞が増加すること示す実験の実験計画法及び結果を表す。図8Aは、実験計画フローチャートである。Myf5nLacZマウスにLiCl(2mg/Kg/day)のIP注射を14日間毎日行う。10日目に、カルジオトキシン注射によりTA筋に筋肉の再生を誘導する。4日後、マウスを屠殺して全ての単核細胞をTA筋より分離し、プレーティングし、24時間後にΒ−ガラクトシダーゼを染色する。
【0256】
【図8B】図8Bは、LiCl処理群におけるΒ−Gal陽性細胞(筋原細胞)の比率が、PBS注射のコントロール群に対して、ほぼ2倍以上であることを示す結果である。
【0257】
【図9】図9は、wntポリペプチドが、一次筋芽細胞のPax7の発現を調節することを示すウエスタンブロット結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターもしくはインヒビターを含む組成物を投与することを含む、対象のCD45+:Scal+幹細胞群の増殖、分化、または増殖及び分化の両方の調節方法。
【請求項2】
前記調節が前記幹細胞の増殖、分化、または増殖及び分化の両方を促進し、前記化合物が1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターが、1つ以上のwntポリペプチドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一つ以上のwntポリペプチドがヒトwntポリペプチドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒトwntポリペプチドが、Wnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a、Wnt7b、Wnt10a、Wnt10b、またはそれらの組合せを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記wntポリペプチドがWnt5a、5b、7a及び7bを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上のwntシグナルアクティベーターが、1つ以上の可溶性Frizzled関連タンパク(sFRPs)に結合しその活性を抑制する1つ以上の化合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記一つ以上の化合物が、一つ以上のポリペプチドを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記一つ以上のポリペプチドが、一つ以上の抗体または抗体フラグメントを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記可溶性Frizzled関連タンパク(sFRP)が、ヒトsFRP1、sFRP2、sFRP3、sFRP4、またはそれらの組合せを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記調節が前記幹細胞の増殖、分化、または増殖及び分化の両方を抑制し、前記組成物が一つ以上のwntシグナル伝達インヒビターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記一つ以上のwntシグナル伝達インヒビターが、一つ以上の可溶性Frizzled関連タンパク(sFRP)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記一つ以上の可溶性Frizzled関連タンパクが、sFRP1、sFRP2、sFRP3、sFRP4、またはそれらの組合せを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記一つ以上の可溶性Frizzled関連タンパクが、sFRP2及びsFRP3を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記一つ以上の可溶性Frizzled関連タンパクが、ヒトFrizzled関連タンパクである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が哺乳類対象である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記対象がヒト対象である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒト対象が、筋変性または筋萎縮を示すあるいは有することを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記筋変性または筋萎縮が疾患によるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患が筋変性疾患である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記筋変性疾患が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSH)、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)、遠位型筋ジストロフィー、またはエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記疾患がエイズ、がん、II型糖尿病、またはそれらの組合せである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物がさらに幹細胞の生存を高める化合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記化合物がソニックヘッジホッグ(Shh)タンパクを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
対象の一つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターまたはインヒビターと、薬学的に許容可能な担体または希釈剤とを含む、対象の幹細胞の増殖、分化、または増殖及び分化の両方の調節に使用するための組成物。
【請求項26】
前記組成物が前記対象の幹細胞の増殖、分化、または増殖及び分化の両方の促進に使用するためのものであり、前記一つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターが一つ以上のwntポリペプチドを含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記一つ以上のwntポリペプチドが、Wnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a、Wnt7b、Wnt10a、Wnt10b、またはそれらの組合せを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記wntポリペプチドが、Wnt5a、Wnt5b、Wnt7a及びWnt7bを含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記組成物が前記対象の幹細胞の増殖、分化、または増殖及び分化の両方の促進に使用するためのものであり、前記一つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターが、一つ以上の可溶性Frizzled関連タンパク(sFRPs)に結合してその活性を抑制する一つ以上の化合物を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
前記一つ以上の化合物が一つ以上のポリペプチドを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記一つ以上のポリペプチドが一つ以上の抗体または抗体フラグメントを含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記可溶性Frizzles関係タンパク(sFRP)が、ヒトsFRP1、sFRP2、sFRP3、sFRP4、またはそれらの組合せを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
前記可溶性Frizzled関連タンパク(sFRP)が、sFRP2及びsFRP3を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記組成物が、一つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターを含み、さらに前記幹細胞の生存を高める化合物を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項35】
前記化合物がソニックヘッジホッグタンパクを含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
さらに一つ以上の幹細胞を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項37】
前記幹細胞がCD45+:Scal+幹細胞を含む、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記幹細胞が出生後の対象に由来する、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
前記幹細胞が成体幹細胞である、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
成体幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路モジュレーターと接触させることを含む、成体幹細胞群の増殖調節方法。
【請求項41】
前記モジュレーターがWntシグナル伝達経路を活性化し、前記幹細胞群の増殖を誘導する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
成体幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路モジュレーターと接触させることを含む、成体幹細胞群の前駆細胞への系列決定(lineage commitment)を誘導する方法。
【請求項43】
成体幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路アクティベーターと接触させることを含む、成体幹細胞群の生存を増加させる方法。
【請求項44】
筋原前駆細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路アクティベーターと接触させることを含む、筋原前駆細胞群の最終分化の誘導方法。
【請求項45】
成体組織の常在幹細胞群を一つ以上のWntシグナル伝達経路アクティベーターと接触させることを含む、成体組織常在幹細胞群の増殖及び/または系列決定の誘導方法。
【請求項46】
前記成体幹細胞がCD45幹細胞である、請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記幹細胞が筋幹細胞である、請求項40に記載の方法。
【請求項48】
インビトロで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項49】
インビボで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項50】
可溶性Frizzled関連タンパクに結合してその活性を抑制し、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を誘導する能力を有する化合物。
【請求項51】
Frizzled受容体へ結合してその活性を抑制し、成体幹細胞の増殖及び/または系列決定を抑制する能力を有する化合物。
【請求項52】
化合物が抗体である、請求項50に記載の化合物。
【請求項53】
化合物がWntポリペプチドのペプチド模倣体、またはそのフラグメントである、請求項50に記載の化合物。
【請求項54】
次のステップを含む、Wntシグナル伝達経路を調節する化合物のスクリーニング方法:
(e)成体幹細胞試験群を用意する;
(f)前記試験群を候補化合物と接触させる;
(g)前記試験群の増殖をモニターする;
(h)前記試験群の増殖を前記候補化合物と接触させなかったコントロール群の増殖と比較し、前記試験群と前記コントロール群の増殖の差をWntシグナル伝達経路調節化合物の指標とする。
【請求項55】
前記一つ以上のwntシグナル伝達アクティベーターが、塩化リチウムを含む、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−524611(P2007−524611A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515609(P2006−515609)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000941
【国際公開番号】WO2004/113513
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505471037)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (2)
【氏名又は名称原語表記】OTTAWA HEALTH RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】Technology Transfer Office,725 Parkdale Avenue, Ottawa, Ontario K1Y 4E9, Canada
【Fターム(参考)】