説明

幹細胞を単離または生成するためのマーカーとしてのIslet1の使用

本発明は、未分化前駆細胞を、およびより具体的には、(増殖中のの心臓幹細胞に特有と思われるマーカーである)Islet 1を含む未分化前駆細胞を、拡大および増殖させるためのインビトロ法を提供する。例えば心臓修復を提供するかまたは心臓機能を改善するために、幹細胞集団を単離する方法、および分化を伴うことなく未分化前駆細胞の拡大および増殖を誘発する方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、未分化前駆細胞のインビトロにおける拡大および増殖に関し、より具体的には、Islet 1を含む未分化前駆細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
先天性心疾患は、全出生時欠陥の中で最も一般的である(HoffmanおよびKaplan、2002)。先天性心疾患の予防または治療的介入を成功させるためには、その病因を理解するのが最も重要である。この目標のために、特定の心臓系列の起源およびそれらの互いとの相互作用を理解することが重大である。心臓前駆体の起源および特性を理解することはまた、先天性および成人性の両方の心疾患に対する心臓幹細胞治療の開発のためにも重要である。
【0003】
最近の研究により、心臓前駆体における2つの領域が特徴づけられ、これらは、一次心臓領域、および二次または前側心臓領域(anterior heart field)と呼ばれている(KellyおよびBuckingham、2002)。一次心臓領域が心房および心室を生じると考えられている一方で、二次または前側領域は流出路を生じると考えられている。二次領域は、早期直線状心筒(early linear heart tube)期において、心臓に対して腹側または背側に存在すると考えられている。心臓の流出路が直線状心筒内に存在しないという最初の証拠は、1977年以降de la Cruzおよび同僚によってニワトリ胚で行われた一連のインビボ系列研究(de la Cruz、2000)に由来した。これらの研究により流出路が直線状心筒期において存在しないことが明らかにされたが、後期において流出路がどこに由来するかは示されなかった。
【0004】
最近、3つの異なる研究室により流出路の発生源が研究されたが、そのうち2研究室がニワトリ胚を用い、1研究室がマウス胚を用いた(Kellyら、2001; Mjaatvedtら、2001; Waldoら、2001)。これらの研究の結果により、流出路における一部の細胞が、咽頭内胚葉に隣接した臓側中胚葉(splanchnic mesoderm)を起源とすることが明らかになった。これらの実験結果からは、「二次」または「前側」心臓領域の寄与の程度および境界は、決定的には評価できなかった。
【0005】
幹細胞は様々な異なるやり方で定義される。しかしながら、主要原則には、(1)自己再生、または開始母細胞(initiating mother cell)に類似した性質を有する娘細胞を産生する能力;(2)単一細胞の多系列分化;および(3)損傷組織のインビボにおける機能的再構成が含まれる。
【0006】
最初にマウスから得られ(EvansおよびKaufmann、1981)、より最近には非ヒト霊長類からおよびヒト胚盤胞から得られた(Thomsonら、1998)胚性幹(ES)細胞は、3つの性質全てを示す。ES細胞は、未分化状態で無制限に増殖できる胚盤胞の内細胞塊に由来する、多能性細胞である。マウスおよびヒトの両方のES細胞系は、300回を上回る細胞倍加のために、培養物中で持続的に維持されてきた。ES細胞を胚盤胞に注入すると、全ての体細胞型に分化し、インビトロにおいて3つの胚葉全ての成熟前駆細胞を形成する。最後に、四倍体胚相補発生法(tetraploid embryo complementation)により産生されたマウスが生存可能なので、ES細胞の分化した子孫の全てが機能的細胞である。ES細胞はヒトから単離されたが、研究におけるそれらの使用およびそれらの治療学的可能性は、倫理的配慮によって妨げられている。
【0007】
ほとんどの成体幹細胞もまた、ES細胞で見られるものよりも自己再生および分化の程度が低いとはいえ、上述の幹細胞の基準を満たす。最も良く研究された成体幹細胞である造血幹細胞(HSC)(Weissman、2000)は、インビボにおける自己再生細胞分裂を経て、単一細胞レベルで全ての成熟した血液成分に分化し、その後、骨髄破壊した動物およびヒトの骨髄を機能的に再定着させる。その他の成体幹細胞はより最近特徴づけられ、従って、あまり研究されていない。しかしながら、神経幹細胞(NSC)(Gage、2000)、間葉幹細胞(MSC)(Jiangら、2002)、および上皮幹細胞(Tomaら、2001)は、全てこれらの基本的基準を満たす。同じく幹細胞と名づけられているその他の細胞、例えば血管芽細胞または内皮幹細胞(Rafiiら、1994)は、それらが単一の細胞型にしか分化しないことを除いて、必要な特徴の全てを示す。
【0008】
所定の組織由来の細胞が、異なる組織の細胞に分化する能力を持つかもしれないことを指摘する多数の文献が、過去数年間にわたり公表されている。「幹細胞の可塑性」とは、出生後の成体幹細胞にこれまでに期待されていたより大きな可能性が存続しているかもしれないという最近の観察を説明するために用いられている新しい用語である。骨髄(BM)または、HSCを濃縮した末梢血を用いた研究の大多数は、性別が不一致の細胞または遺伝標識した細胞いずれかのインビボ移植に基づいており、ドナー細胞の検出は、Y染色体または標識遺伝子の存在に基づいていた。どちらか一方の標識系を用いたドナー細胞の検出に関連する落とし穴についての優れた総説が存在する(TisdaleおよびDunbar、2002)。造血細胞だけでなく、骨格筋(Gussoniら、1999)、心筋(Orlicら、2001)、内皮(Jacksonら、2001)、神経外胚葉(Brazeltonら、2000)、および、内胚葉細胞(Krauseら、2001)の特徴を有する、肝細胞を含む細胞への分化について記載されている。
【0009】
これらの研究の80%において、新鮮なBM細胞が事前のインビトロ培養なしに移植されたため、可塑性を有する細胞が自己再生を経ることができるかどうかという問題に取り組むことができなかった。これらの研究の大部分において、未精製細胞集団または精製されて部分的に均質となった細胞が移植されたため、分化細胞のクローン性起源、または第2の組織の特徴を有する細胞の起源の組織を研究することは不可能となった。最後に、これらの研究は、起源の組織と異なる細胞への分化を規定するために、表現型の特徴に依存したが、第2の組織の細胞がその系列の機能的特徴を有していることを、さらに明らかにする必要がある。
【0010】
したがって、当技術分野において、未分化心臓前駆細胞のインビトロにおける拡大および増殖の新規かつより良い方法の必要性が存在する。本方法には、前駆細胞増殖のために十分な条件下における、Islet 1を発現する単離された未分化前駆細胞を培養する段階が含まれる。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
LIMホメオドメイン転写因子であるIslet 1を欠損したマウスの解析によって、心臓の発生に対する新しいパラダイムが明らかになった。islet 1ノックアウトマウスの心臓は、流出路、右心室、および心房の大部分を完全に欠損している。Islet 1発現およびislet 1発現前駆体の系列追跡により、Islet 1は、isl 1変異体において欠損していることが分かっている心臓セグメントを生じる未分化の心臓前駆体の独特な集団に対するマーカーであることが明らかにされた。Islet 1機能はこれらの前駆体が心臓をもたらすために必要である。islet 1変異体において、islet 1発現前駆体の数は漸次減少し、骨形成タンパク質(BMP)および線維芽細胞増殖因子(FGF)はダウンレギュレーションされる。本明細書に記載されている研究によって2つの心臓領域が規定され、そのうち一方はIsletを発現しかつ必要とするが、もう一方はそうではない。これらの研究の結果は、特異的な心臓系列の発生、心臓のルーピング、左右非対称性、心臓の進化、および心臓幹細胞に密接に関連する。
【0012】
従って1つの態様において、本発明は、細胞内におけるIslet 1核酸の発現または発現産物を測定する段階を含む、幹細胞を検出するための方法を提供する。
【0013】
もう1つの態様において、本発明は、幹細胞を単離または濃縮するための方法であって、該細胞をIslet 1反応性の物質に接触させる段階、および反応陽性細胞を反応陰性細胞から分離して、それにより幹細胞を単離または濃縮する段階を含む方法を提供する。
【0014】
さらにもう1つの態様において、本発明は、幹細胞を生成するための方法であって、該細胞におけるIslet 1の発現を活性化または増大するために、該細胞におけるIslet 1の発現を活性化または増大する物質と、Islet 1を発現する未分化前駆細胞を接触させる段階を含む方法を提供する。
【0015】
さらにまたもう1つの態様において、本発明は、未分化心臓前駆細胞の拡大および増殖のためのインビトロ法を提供する。本方法には、前駆細胞増殖のために十分な条件下における、Islet 1を発現する単離された未分化前駆細胞を培養する段階が含まれる。本方法においては、前駆細胞増殖のために十分な条件には、該細胞を、種特異的な心臓線維芽細胞の支持細胞層(feeder layer)上、または心臓由来の線維芽細胞の馴化培地で培養することが含まれる。
【0016】
もう1つの態様において、本発明は、他の細胞型と比較して90%を上回るIslet 1陽性幹細胞を含む、Islet 1陽性幹細胞の濃縮化集団である組成物を提供する。
【0017】
発明の詳細な説明
Islet 1(配列番号:2)が、増殖中の心臓幹細胞に固有なマーカーである転写因子であることが見いだされた(図2)。これは、心原性幹細胞に特異的に発現するが分化した心臓細胞では発現しないことが現在までに知られている、唯一の遺伝子である。Islet 1は、心原性幹細胞状態の基本的調節因子(master regulator)である可能性がある。この発見により、内因性心原性幹細胞を単離するためまたは心原性幹細胞を作製するための手段としてislet 1発現を用いることが可能になる。Islet 1は、脾臓、神経堤、大動脈性腺中腎(aorta-gonad-mesonephros)領域(造血および内皮前駆体)、およびその他の細胞型の前駆体を含む、その他の前駆体すなわち「幹細胞」集団においても発現している。この発現は、心原性幹細胞に関して本明細書に記載されているデータとあわせて、isletが心原性幹細胞だけでなくその他の多能性幹細胞も同様に標識することを示す。
【0018】
最も初期の段階の未分化心原性前駆体において特異的に発現する遺伝子は、他に全く知られていない。Islet 1は、この細胞集団の固有の識別因子である。Islet 1はまた、これらの前駆体が心臓の発生に寄与するためにも必要である。islet 1変異体は、通常はislet 1発現前駆体に由来する心原性系列が欠けている。従って、初期の特異な多能性前駆体の多くにおいて発現している点で、Isletは独特である。Isletは、幹細胞状態を推進する転写因子である。
【0019】
islet 1をマーカーとして使用することにより、初期胚から細胞を単離し、蛍光標識したislet 1抗体でハイブリダイズして、FACSにより幹細胞を分別することができる。または、内因性islet 1遺伝子座に遺伝子(例えばLacZ、GFP、cre)を挿入し、細胞の同定または分別の根拠として使用することができる。単独で、または、(心臓前駆体で発現しているが分化した心臓細胞でも発現しているもう1つの転写因子である)Nkx2.5と組み合わせて、islet 1を発現させることにより、心原性幹細胞系を作製することができる。これらの心原性前駆体を分化させるために、遺伝的手段によりまたは成長因子の適用によって、islet 1をダウンレギュレーションした。islet 1を単独でまたは特異な系列に特異的なその他の因子と組み合わせて発現させる同様の様式でその他の幹細胞系を作製して、多様な系列にまたは遺伝的もしくは物理的な環境に応じた特定の系列に分化できる多能性細胞を作製できる。
【0020】
islet 1が、分化前の心原性幹細胞のマーカーであるという結論が、膨大な数のデータにより裏付けられている。この知見は、様々な実験モデル動物およびヒト由来の、胚、新生児、または成体の段階から、心原性幹細胞を単離する手段としてislet 1を利用するという構想を導いた。これらの細胞集団を検出するためにislet 1抗体を得ることができ、islet 1遺伝子座にGFPが挿入されたマウス株を、既知の手法を用いて、作製することができる。isletが、多能性の造血および内皮前駆体を産生するために重要な領域である大動脈性腺中腎領域で発現していることもまた、明らかにされた。
【0021】
これらの幹細胞を利用する、本明細書に記載の研究から、いくつかの治療的応用が生じる。例えば、皮膚線維芽細胞または骨髄幹細胞を心臓病患者から単離し、これらの細胞を心原性細胞に変換して、次いで変換された細胞を患者に注入することなどの、治療的適用のために特異な細胞型を心原性幹細胞に変換するための方法が提供される。この方法は、心筋梗塞後、心不全、虚血性心疾患を含む心臓病を治療するために用いることができる。その他の適用としては、分化した心臓中の常在性心原性幹細胞の増殖および/または分化を誘発して、心臓修復を提供する、または心臓機能を改善することが挙げられる。単離された心原性幹細胞は、治療薬のスクリーニングのため、毒性試験のため、および組織工学のために用いることができる。これらの手法全てにおいて、islet陽性幹細胞に由来しうるその他の特異な細胞系列もまた、関連するヒト疾患への適用について使用されうる。
【0022】
本発明は、2つの心臓領域の境界がこれまでに予想されていたものと異なるという発見に基づく。一方の前駆体集団はislet 1を発現し、流出路、右心室、左心室細胞のサブセット、および心房細胞の大部分を生じる。もう一方はislet 1を発現せず、左心室の大部分、および一部の心房細胞を生じる。未分化前駆体におけるislet 1の特異的発現によって、islet 1発現前駆体集団の正確な可視化も初めて可能になり、心臓幹細胞集団の単離および特徴づけのための重要な手がかりが本発明者らに提供される。Islet 1は、この幹細胞集団を規定するだけでなく、これらの細胞が心臓をもたらすためにもまた必要であり、それによって、特異的な心臓領域の最初の遺伝学的な証拠が提供される。
【0023】
運動ニューロンおよび膵臓の両方の発生における欠陥について、Islet 1(Isl 1)ノックアウトマウスを調べた(Ahlgrenら、1997;Pfaffら、1996)。isl 1に関してホモ接合型ヌルのマウスは、ED約9.5において成長遅延を示し、ED約10.5において死亡する。ヘテロ接合型変異体は生存して、明らかな表現型は有しない。血管の異常が疑われていたにも関わらず(Pfaffら、1996)、ホモ接合型変異体における死亡の原因にはこれまで対処されなかった。従って、isl 1-/-における死亡の原因を調べた。
【0024】
ED9.0からED9.5の間のホモ接合型ヌル胚を調べたところ、重篤な心臓の異常が見出された。全体の形態的レベルでは、変異心臓は、単一の、歪曲した、非分割の房室(chamber)から成るようであった。組織学的解析によってこの印象が裏づけられた。変異心臓中の細胞の房室同一性を特徴づけるための最初の試みとして、心臓房室に対するマーカーを用いた全載(whole mount)インサイチューハイブリダイゼーション解析を行った。心室性ミオシン軽鎖2(MLC2v)mRNAは、心室細胞およびA/V接合部の細胞を特異的に標識する(Francoら、1999)。これらの段階において、心房性ミオシン軽鎖2(MLC2a)mRNAは、全ての心筋細胞を標識する(Kubalakら、1994)。MLC2v mRNAおよびMLC2a mRNAに対するプローブを用いたハイブリダイゼーションによって、単一房室の前側部の細胞が心室の同一性を有していたが、単一房室の後側部の細胞は有しておらず、従って心房の同一性を有する可能性があることが明らかにされた。
【0025】
いくつかの転写因子が心臓内で局部的に発現しており、それらの一団を用いて、isl 1変異心臓中の細胞同一性をさらに探った。調べた段階では、心臓の後極において、心房および左心室において、tbx5が特異的に発現している(Bruneauら、1999)。islet 1変異体において、心臓の心房および心室の両セグメントがtbx5を発現していたが、これは、変異心臓の心室部分が左心室との同一性を有していたことを示す。 EHandは左心室で発現するが、右心室では発現しない(Crossら、1995; Cserjesiら、1995;Thomasら、1998)。isl 1-/-胚において、EHandは心室組織の全体に渡り発現していたが、これは、tbx5プローブにより得られた結果と一致して、それが右心室との同一性ではなく左心室との同一性を有していたことを示す。Tbx20は流出路およびA/V管で高発現している(Carsonら、2000; Krausら、2001)。islet 1変異体由来の心臓は、心室および心房の接合部においてtbx20を発現していたが、前方末端においてはtbx20を発現せず、これにより、流出路の欠如が示された。これと一致する結果が、ED8.5において心臓の流出路を標識するmsx2に対するプローブによって得られた。Islet 1変異心臓では、msx2による前方の染色が見られなかった。MLC2aおよびMLC2vに対するプローブを用いたハイブリダイゼーションからの以前の結果と共に、これらのデータは、左心室、A/V管、および心房の同一性を有する細胞が存在したにもかかわらず、islet 1変異体が流出路および右心室を欠損していたことを示した。
【0026】
この解析から、islet 1変異体が心臓の完全なセグメントを欠損していたことが推察された。さらに、変異心臓はルーピング(looping)を経ていなかった。この結論は走査電子顕微鏡解析によって補強された。興味深いことに、ED9.0(12体節対)でのisl 1変異体における心臓原基は、より早期のED8.25(5体節対)で、野生型胚において見られる心臓原基と似ており(Kaufman、1999)、これは心臓発生の中断を示す。ED9.5(22体節対)における野生型同腹子とそれらの変異体カウンターパートとの比較により、マーカー解析と一致して、変異体における流出路および右心室の欠如が示された。
【0027】
isl 1-/-マウスの重篤な心臓表現型により、マウス心臓発生の初期段階の際のisl 1の発現の検討が行われた。ED7.25からED8.75の胚において、一回または二回の全載インサイチューハイブリダイゼーションを、isl 1およびMLC2aのmRNAに対するプローブを用いて行った。後者は、分化した心原性前駆体に対する最も初期のマーカーのひとつである。この全載インサイチュー解析およびそれに続く切片解析の結果により、islet 1がMLC2aとは決して共発現せず、むしろ隣接した細胞集団において発現していることが明らかにされた。初期の心原性半月体期(early cardiogenic crescent stage)において、islet 1発現細胞はMLC2a発現細胞の内側および背側である。心管の形成に伴い、心間膜を含む臓側間葉内で且つ前腸内胚葉に近接したislet 1陽性細胞は、MLC2a陽性細胞と、その前部および後部領域を含むその広がり全体に渡って隣接している。Islet 1は、臓側中胚葉および腹側前腸内胚葉の両方において発現している。
【0028】
islet 1は分化中のMLC2a陽性心筋前駆体において発現していなかったが、最近同定された二次または前側心臓領域の部位、すなわち咽頭部位の臓側中胚葉細胞において発現していた。最近の証拠により、マウスの前側心臓領域が流出路をもたらすことが示されている(KellyおよびBuckingham、2002)。この所見は、islet 1変異体における心臓表現型と合わせて、islet 1発現細胞が心臓の流出路をもたらす可能性を示した。
【0029】
この問題を検討するために、islet 1-creマウス(Srinivasら、2001)とRosa26-lacZ標識マウス(Sorianoら、1999)を交配することにより、isl 1発現細胞の系統解析を行った。この交配の子孫において、Cre媒介切除によって、LacZ遺伝子が、偏在的に発現しているRosa26遺伝子座の制御下におかれ、それにより内在性isl 1遺伝子座からの転写が抑制されている場合でさえも、βガラクトシダーゼ活性に対して染色することによってisl 1発現細胞の運命を追跡することが可能になる。この解析の結果は驚くべきものであり、以前にisl 1を発現していた細胞が、流出路、右心室、および心房における大多数の細胞を含む胚性心臓を実質的にもたらし、かつ、左心室の特定領域ももたらすことが明らかにされた。βガラクトシダーゼ陽性細胞は、心内膜中、および、大動脈弓動脈を内張りする内皮細胞中でも観察された。βガラクトシダーゼ陰性心筋細胞の大部分は、左心室の腹側面および左心房の前方腹側部位に観察された。
【0030】
islet 1発現細胞が発生中の心臓に大多数の細胞を与えるという所見は、isl 1ホモ接合型変異マウスにおける心臓表現型についての本発明者らのこれまでの解析と一致し、ここでは心臓のセグメント全体が欠損していた。欠損構造により、Islet 1が、Islet 1発現心原性前駆体の増殖、生存、および/または移動に必要であり得ることが示された。この疑問に取り組むために、isl 1変異体内および同腹子対照内のisl 1発現細胞を調べる試みを行った。isl 1遺伝子のターゲティングにより、第2のLIMドメインを含む第3エキソンが除去されたが、isl 1 mRNAの5'末端は変異体において依然発現しており、変異細胞中のislet 1メッセージの検出を可能にしている。しかしながら、Islet タンパク質は検出不能である(Pfaffら、1996)。
【0031】
変異型および野生型の胚においてisl 1発現細胞を追跡するために、isl 1 mRNAに対するプローブを用いてED8.5〜ED10の胚において全載インサイチューハイブリダイゼーション解析を行った。この解析の結果により、変異体において、islet発現細胞の存在が、一部の細胞は残存するものの、漸次少なくなることが明らかにされた。isl 1変異体の心臓表現型と併せて、これらの結果により、Isletが細胞増殖および/または細胞生存に必要なことが示される。
【0032】
これらの研究の結果は、Islet 1が心原性前駆体の増殖および生存のために細胞に必要であること、ならびに、Islet 1の下流の標的がこの効果を媒介することを示している。脊椎動物および無脊椎動物の両方の心臓発生における心原性前駆体の成長および生存に関係している2つの成長因子経路は、骨形態形成タンパク質(BMP)および線維芽細胞増殖因子(FGF)である(Kirby、2002;YutzeyおよびKirby、2002)。BMP2、BMP4、BMP6、およびBMP7、ならびにFGF4、FGF8、およびFGF10を含む多数のBMPおよびFGFが、isl 1発現細胞と一致しかつ/または隣接する胚性部位において発現すると記載されている(CrossleyおよびMartin、1995; DudleyおよびRobertson、1997; Kellyら、2001; Lyonsら、1995; NiswanderおよびMartin、1992)。これらのうちどれがIslet 1作用の標的となるのかを決定するため、これらの成長因子の遺伝子に対するプローブを用いて、全載インサイチューハイブリダイゼーションを行った。この解析の結果により、isl 1ヌルマウス中の、これらの遺伝子の各々における発現減少が明らかになった。BMP4、BMP7、およびFGF10の発現を含む、これらの成長因子の一部の発現は、islet 1発現と一致する部位において高度にダウンレギュレーションされるか検出不能であった。これらの遺伝子は、Isletの直接的または間接的な標的となる可能性がある。その他のBMP遺伝子およびFGF遺伝子の発現は依然として存在していたが、islet 1変異体におけるislet 1 mRNAについて観察された結果と同様に、islet 1発現と一致する部位において発現ドメインが減少していた。この減少は、これらの成長因子を発現する細胞数の減少を反映している可能性がある。
【0033】
本明細書に記載されているデータによって、流出路を生じる前駆体はまた、右心室および右心房の両方における細胞の大部分、ならびに左心室中の細胞のサブセットも生じることが明らかになっている。従って、これまでに記載されている二次または前側心臓領域は、islet 1発現によって標識される、この前駆体集団のサブセットである。Islet 1機能は、これらの細胞が心臓をもたらすために必要である。Islet 1非存在下では、形成される心臓は、通常islet 1発現前駆体にもたらされるセグメントを欠損している。対照的に、左心室の細胞の大部分および心室細胞のサブセットを生じる前駆体はislet 1を発現せず、Islet 1機能の非存在下でも同一の心臓細胞を生じることができる。
【0034】
islet 1変異体における心臓の外見および特徴、ならびにislet 1発現およびislet 1前駆体の発生運命図の解析によって、心臓発生の新しいワーキングモデル(working model)がもたらされた。このモデルにおいて、正中線における心原性中胚葉の第一の突出セグメントが最初に分化し、islet 1を発現することなく、左心室中の細胞の大部分および隣接する心房の一部を生じる。Islet 1発現前駆体は、それらが「一次」心臓セグメントに入るように漸次分化しかつislet 1発現をダウンレギュレーションしながら移動して、右心室の細胞の大部分、流出路、および残りの心房を形成する。左心室内に、右心室との接合部位に、小柱内に、および、左心室の背側壁へとわずかに傾斜している内弯の壁に沿って、islet 1発現前駆体の子孫のうちかなりの数が見出されたことに留意されたい。
【0035】
心臓発生の最も初期段階の際、隣接する間葉が分化中の心筋と接触しているとき、islet細胞は心筋の前後範囲の全体に渡って移動する。後期においては、islet前駆体は、背側体壁の臓側間葉と接続している2つの部位を介して心臓中に移動する。前方においてはこれは大動脈嚢の部位であり、後方においては背側心間膜である。
【0036】
分子マーカーを用いた、ヒト心臓発生のこれまでの解剖学的解析によって、背側心間膜を介して移動する心外性間葉は、心房および房室(atrial and atrio-ventri)の離開の両方をもたらすことが示されている(LamersおよびMoorman、2000)。一次心房中隔の前縁の間葉帽がこの心外性間葉に起因するのか、それとも隆起(cushion)内皮に由来するのかが議論されている。今やこの問題には、islet 1系列解析によって明確に取り組むことができる。さらに、心臓分離一般におけるislet由来心筋細胞の役割を検討することが関心対象になるであろう。
【0037】
islet発現前駆細胞の子孫が、発生中の伝導系のマーカーと一致する部位を著しく構成していることに注目するのは興味深く、これは、この集団が伝導系の発生において主要な役割を果たす可能性を示している(Rentschlerら、2002;Kondoら、2003)。
【0038】
本明細書に記載されているデータにより、Islet 1非存在下ではislet 1発現心臓前駆体が実質的に心臓をもたらさず、その数が減少することが示され、これにより、Islet 1がこれらの前駆体の増殖および/または生存に必要であることが示されている。islet 1前駆細胞の子孫のほとんどがisl 1-/-変異体の心臓内に存在しないという所見は、Islet 1が移動にもまた必要である可能性を示す。
【0039】
Islet 1発現は、前駆体が分化するに従ってダウンレギュレーションされるが、これは、心原性前駆体において、未分化状態を維持するのにIslet機能が必要である可能性、および/または、分化状態にはIslet機能が不適合である可能性を示す。Islet 1は運動ニューロンにおける細胞生存にもまた必要であるが、分化細胞において発現および機能している(Pfaffら、1996)。膵臓発生において、Islet 1機能は、膵臓間葉、および分化膵島細胞の両方において必要である(Ahlgrenら、1997)。
【0040】
筋細胞分化後に心臓の成長が続くことは、分化した筋細胞が大量に増殖するという考えにつながったが、これは心筋の成長を説明するものである。islet 1発現前駆体の心臓中への移動は、この移動によって心臓の成長の一部もまた説明され得ることを示す。しかしながら、islet 1変異体においては、islet非発現前駆体が分化して伸長しており、これにより、分化した前駆体の移動および増殖の両方が心臓成長における役割を果たすことを示す。
【0041】
islet 1変異体の心臓は、心室セグメントが心房セグメントの前方にとどまっているという点で、ルーピング形態形成を経ていないように見える。この所見は、islet 1発現前駆体の心臓中への移動が、ルーピング形態形成の過程に密接に関係があることを示す。ルーピング形態形成は、心筋の成長の結果のみならず、islet 1発現細胞の心臓への移動の結果でもある可能性がある。
【0042】
心原性中胚葉において発現していることに加え、islet 1は、(心臓発生において重要な役割を果たすことが明らかになっている組織である)咽頭内胚葉において発現している(Loughら)。このことは、心臓前駆体におけるisletの要求性が細胞自律的ではないという可能性を提起する。さらなる実験が、この問題に対して行われうる。
【0043】
本明細書に記載の研究により、Islet 1が、心原性領域の1つを定義しかつそれに必要なことが示される。残りのislet非発現領域にも同様に必要でありうるその他の遺伝子を理解することが、興味深い。この文脈において、Nkx2.5ノックアウトマウスが、流出路、右心室細胞、および心房細胞を持った変異心臓を有することに留意されたい(Harveyら、1999;Tanakaら、1999)。左心室の同一性に対する多数のマーカーが欠如しているが、これは左心室の同一性の欠如を示す。これらの所見により、Nkx2.5が、islet非発現前駆体からの心臓組織の形成に必要であるという可能性が提起される。islet 1およびNkx2.5ヌルマウスの対照的な表現型を考えると、Isletのようには必要とされないことは明らかであるものの、Nkx2.5もまたislet発現心臓領域において役割を果たす可能性がある。これらの可能性を評価するために、islet 1およびNkx2.5の二重変異体であるマウスを産生することができる。islet 1 mRNA発現は、Nkx2.5ノックアウトマウスにおいて維持されることが示されている(未公表の所見)。
【0044】
上述のように、Islet 1陽性前駆体は、心臓ルーピング形態形成に影響を及ぼす可能性がある。心臓のルーピングは、特徴的な左右の配向において生じ、流出路および右心室が右向きにルーピングする。左右軸情報の混乱により、心臓の逆位、すなわち流出路および右心室の左向きのルーピングをもたらす可能性がある。心房の異性体もまた生じうる。本明細書に記載されているデータにより、流出路、右心室、および大部分の心房細胞がislet 1発現前駆体に由来することが明らかになったが、これは、これらの前駆体に与えられた左右情報が左右心臓非対称性の重大な決定要因となることを示すものである。最初の左右軸情報が心房の配置においては保存されているが、心室においては回転していることが、これまでの遺伝マーカー解析により示されている。すなわち、「左」および「右」の心室は、左および右の体軸に完全には対応しない(Campioneら、2001; Francoら、2000)。左および右の心室が特異な心臓領域に由来するという本発明者らの知見は、この所見にさらなる見通しを与える。islet 1前駆体集団の観点から、心臓の左右のパターン形成を調べ直して、心臓に入る前にこれらの細胞に左右情報を付与することに関しかつそれらの当初の左右配向性と関連するその後の心臓内でのそれらの配置に関する遺伝子を検討することは興味深い。同様に、islet非発現前駆体に与えられた左右同一性、および発生後の心臓における左および右のセグメントの最終的な配置を調べることは興味深い。
【0045】
ホメオドメイン転写因子であるpitx2は左右経路内で下流にあり、左外側中胚葉において特異的に発現しており、かつ、後期発生により局所化しつづける(Capdevilaら、2000)。最近の解析によって、心原性半月体領域においてpitx2が非対称で発現し、後に、右心房ではなく左心房、ならびに流出路、右心室および左心室の特異な部分において発現することが明らかにされている(Campioneら、2001)。islet発現前駆体におけるpitx2の可能な非対称発現について検討すること、および、ことによると、islet 1発現前駆体によって担われている移動経路を検討するためのマーカーとしてpitx2発現を利用することは非常に興味深い。この点において、ED9.5において、pitx2cが、鰓弓および大動脈嚢に隣接した臓側中胚葉において非対称に発現している(Liuら、2002)。心臓は見かけ上まだ右にルーピングしているものの、Pitx2ノックアウトマウスは成育不能であって、多数の心臓表現型を示す(Capdevilaら、2000)。pitx2ヌル表現型、および左右心臓非対称性のその他の論点を、islet 1のパラダイムに照らして調べ直すことは、興味深い。
【0046】
Isletの欠如により、islet 1発現心原性前駆体の数が減少するが、このことは成長因子のシグナル伝達が撹乱されている可能性を示す。FGFおよびBMPの両方のシグナル伝達が心臓発生に必要なので(Kirby、2002;YutzeyおよびKirby、2002)、本発明者らは、islet 1発現心臓前駆体の中または近傍で発現している多数のBMPまたはFGF成長因子の発現を調べた。本明細書に記載されているデータによって、islet 1発現心臓前駆体と一致する部位において選択的に、各被験成長因子の著しいダウンレギュレーションまたは減少が明らかになった。
【0047】
Islet 1変異体は、fgf8発現のドメインにおける全体的な減少を示したが、それらの表現型はfgf8ハイポモルフで見られるものよりもさらに重篤であった。fgf4またはfgf8のノックアウトマウスは初期胚致死性であるが、fgf8ハイポモルフなマウスは、流出路の奇形を含む心臓血管欠損により新生児性に死亡する(Abu-Issaら、2002;Feldmanら、1995;Frankら、2002; Sunら、1999)。islet 1変異体において、fgf10の発現は、islet 1発現心原性前駆体では事実上欠如している。fgf10のノックアウトマウスは新生児性に死亡するが、これはそれらの肺表現型に基づくとされている(Sekineら、1999)。しかしながら、islet心臓表現型ほど重篤でないことは明らかであるにしても、未だ説明されていない心臓表現型が存在する可能性がある。
【0048】
BMP4およびBMP7は、islet 1発現心原性前駆体と高度に一致する様式で共発現している。BMP2およびBMP6は、BMP4、BMP7、または互いから独特の様式で発現しているが、それらの発現もまた、islet 1の発現と一致している。islet 1変異体において、これらの成長因子の各発現は、islet 1発現と一致する部位において著しく減少または欠如している。これらのBMPの各ノックアウトが作製されており、また、BMP6/7の二重ノックアウトが作製されている(Kimら、2001;Winnierら、1995;ZhangおよびBradley、1996)。移植もしくは原腸形成におけるごく初期の欠陥のために、または、ごく初期の欠陥をそれらが生延びた場合にはともすれば機能的冗長性のために、これらの変異体のいずれもislet 1変異体の心臓表現型を再現しない。
【0049】
本発明者らの結果は、islet 1変異体における心臓表現型は全体または部分的に、FGFまたはBMPのシグナル伝達のどちらかまたは両方における欠陥に起因する可能性があることを示している。これらの可能性を区別するためには、islet 1発現前駆体においてこれらのシグナル伝達経路を除去する今後の実験が必要となろう。また、その他の成長因子経路は、islet 1変異体において影響を受けている可能性がある。
【0050】
無脊椎動物の心臓が咽頭または消化管の中胚葉から発達していることを示す多数の実験(Haunら、1998; Parkら、1998;Ranganayakuluら、1998)の観点から、咽頭部位および前腸部位の臓側中胚葉におけるislet 1の発現は興味深い。これまでのデータによって、islet 1がニワトリの心原性前駆体で発現していることが明らかにされている(YuanおよびSchoenwolf、2000)。マウスislet 1の場合と同様に、それは、運動ニューロン発生において役割を有しかつまた、興味深いことに、背脈管において発現している、isletのショウジョウバエ(Drosophila)相同体が存在する(ThorおよびThomas、1997)。心臓の進化に対するさらなる見識を得るために、その他の種について心臓発生におけるisletの役割を調べることは非常に興味深い。結果により、islet発現前駆体が、進化学的用語で「一次性(primary)」であることが示されうる。もしこれが事実であるとすれば、それは左心室が後に進化学的に発生したことを示す可能性がある。興味深いことに、単一の心室を有するゼブラフィッシュにおいては、高等脊椎動物における右心室のマーカーであるDHandが存在するが、その左心室カウンターパートであるEHandのオルソログは見つかっていない(Angelo、Lohr、Lee、Ticho、Breitbart、Yost、2000)。
【0051】
おそらく、心臓発生におけるIsletの役割についての本発明者らの発見のうちで最も興味深い局面の1つは、心原性幹細胞状態に対するマーカーとしてIslet 1を利用する展望であろう。幹細胞は、増殖して多数の特異な系列を生じることができる前駆細胞として定義され得る。Islet 1発現細胞はこの定義に適合し、多数の特異な心臓系列を生じる。分化に先立って細胞内で発現されるという点で独特なislet 1の特性は、islet 1発現に基づく細胞選別を可能にするはずである。また、これらの細胞の増殖および/または生存の決定づけにおけるIslet 1の役割により、Islet 1が、その他の因子と合わせて、心原性幹細胞状態を推進するために利用されうることを示している。
【0052】
上記に概説したこれらの考察に基づき、かつ、参照として組み入れられる別紙Aに記載されるように、本発明者らは、マウス、ラット、およびヒトの非筋細胞の培養物において、インビトロで拡大および増殖できる希少な細胞集団を同定することに成功した。これらの細胞は、中胚葉系列ばかりでなく、神経外胚葉にも分化する。本発明者らは、インビトロにおいて少なくとも2つの胚葉の細胞に分化できる細胞を、げっ歯類およびヒトの心臓から選別できることを示すことができる。LIMホメオドメイン転写因子であるIslet-1(isl 1)はこれらの未分化前駆細胞を標識し、かつ、成体心臓におけるこの心原性前駆体集団の可視化を可能にする。そこで、これらの細胞をi細胞(i-cells)と名づけた。
【0053】
下記の実施例1に示されるように、未分化i細胞を培養することによって、心原性前駆体集団を、種特異的な心臓線維芽細胞の支持細胞層上において、分化および老化することなく培養のみを行うことができることが明らかになった。同様の支持細胞依存的培養条件は、マウスおよびヒトのES細胞の分離に用いられ、かつ、それらを未分化状態で維持するためにはそのような支持細胞層が不可欠であることが分かった(Donovan およびGearhart、2001)。
【0054】
支持細胞に対する、または心臓線維芽細胞由来の馴化培地に対する要求性は、それらが分化を抑制する因子を提供するか、または多能性前駆細胞の自己再生を促進することを示す。これらの特性を伴う活性は、i細胞の分化阻害活性(DIAI)と呼ばれる。ネズミのES細胞の場合、インターロイキン6に関係するサイトカインファミリーの一員である白血病抑制因子(LIF)が、支持細胞に対する要求性を置換できる(Nicholsら、1990)。ネズミES細胞分化を阻害するためには、LIF受容体のシグナル伝達成分である糖タンパク質130(gp130)の活性化が必要十分条件である。しかしながら、ヒトES細胞および心臓i細胞は、分化を阻止して自己再生を促すために、LIFを必要としないようである(Thomsonら、1998)。
【0055】
現在まで、多能性の成体幹細胞の拡大および増殖を可能にするインビトロ培養条件は全く確立されていない。インビボにおいて長期再増殖性(repopulating)細胞として規定されている成体HSCまたはNSCは、発生能を失うことなく培養物中で拡大することができない(Weissman、2000)。しかし、ある最近の研究によると、骨髄に由来する間葉幹細胞が特別な条件下で無制限に培養物中で増殖できることが示されている(Jiangら、2002)。
【0056】
本発明は、濃縮されたisl 1陽性幹細胞集団を含む細胞組成物をもまた提供する。組成物は、その他の細胞型と比べて大部分または少なくとも約90%のisl 1陽性幹細胞を含むことが好ましい。isl 1陽性幹細胞は、ラット、マウスまたはヒトなどに由来する任意の心臓組織に由来する。
【0057】
未分化状態の表現型の特徴としては、i細胞が、核において高レベルのisl 1を、および、細胞質において高レベルの(未分化NSCを標識する中間径フィラメントである)ネスチンを発現することが発見されている。また細胞は、ドロソフィラ・チンマン(Drosophila tinman)の脊椎動物の相同体ホメオボックスであるNkx2.5、およびES細胞転写因子であるoct-4の低発現を示した。従って、これらの標識はi細胞を同定するために有用である。
【0058】
Isl 1は運動ニューロンおよび膵臓の発生に不可欠である(Pfaffら、1996)。isl 1に対するホモ接合性のノックアウト胚は、単心室の非分割心房室および、流出路の血管異常のために、ED 10.5前後で死亡する(Caiら、2003)。isl 1発現細胞の系列解析によって、これらの細胞が、流出路、右心室および両心房における細胞の大部分を含む胚性心臓を実質的にもたらすことが明らかになった(Caiら、2003)。新生児および成体の心臓におけるisl 1発現のダウンレギュレーションにより、心筋における心原性前駆体の可視化が可能になった。
【0059】
免疫組織化学により、成体心臓におけるisl 1発現細胞は主に、右心室、中隔、および心房に局在することが示された。未分化前駆細胞において、isl 1は核内で高発現しており、かつ、i細胞の分化の際にダウンレギュレーションされる。Islet発現は、心原性幹細胞集団をインビトロおよびインビボにおいて標識し、かつ、これらの幹細胞の分化および生存に必要とされると思われる。
【0060】
Nkx2.5もまた未分化状態のi細胞中で発現している。この転写因子は、脊椎動物心臓発生の最も初期のマーカーの1つであり、心臓限局的な遺伝子活性の制御に重要である。POUドメイン転写因子であるoct-4は、多能性ES細胞に対する分子マーカーである。Oct-4は、前原腸形成胚、初期卵割期胚、胚盤胞の内細胞塊の細胞、および胚性癌腫細胞において発現している。成体動物において、oct-4は生殖細胞および間葉幹細胞においてのみ見出される(Rosnerら、1990)。
【0061】
本発明によって、新規な心臓前駆体集団が発見され、単離され、特徴づけられた。Isl 1発現は、これらの心原性幹細胞を標識し、これらの細胞の分化状態および生存に必要であると思われる。これらの細胞は心臓幹細胞の分化および成長のシグナル伝達経路を研究および理解するために有用であり、先天的なおよび成体の心臓疾患のための将来的な治療用途の道を開く。
【0062】
ニューロンまたは筋細胞へのさらなる分化をともなうi細胞の遺伝子ターゲティングにより、時間のかかる動物モデルの複雑さと格闘する必要なしに、細胞生物学における研究が可能になる。細胞培養の目的とは、クローン均一性の優位性および外部環境を操作する能力を提供する、十分に特徴づけられかつ容易に操作される実験系を産生することにある。さらに、ヒト生殖細胞系を実験的に改変することに対する倫理的な容認不能性のため、ヒト遺伝子の操作を含む実験に対してES細胞トランスジェニック経路は利用できない。ヒトi細胞における遺伝子ターゲティングは、げっ歯類モデル系がヒトの生物学または疾病過程を十分に再現しない分野における、重要な適用を可能にする。
【0063】
加えて、I細胞は、心臓およびニューロンの細胞治療のためのドナー組織の供給源として有用であり得る。初期胚性幹細胞は、細胞に基づいた治療に対する欠点、すなわち(i)形質転換の数および(ii)特異的な分化表現型を達成するのに必要なシグナルの複雑さを有する。その代わり、発生中のi細胞および成体由来の心臓前駆体の表現型の分化は、倫理的および免疫学的な制約の両方を免れる。
【0064】
i細胞の交差系列形質転換によって、より適応性のある組織供給源のための、特に自家移植片を患者自身から得るための、新しい手段が提供される。ES細胞と比較したi細胞のさらなる進歩とは、異種移植片における一次胚性筋細胞よりもこれらの前駆細胞の免疫原性が低いということであり、これは、非ヒトドナーからの移植の主な困難のうちの1つを乗り越える方法に脚光を当てるものである。
【0065】
本発明の方法は、Islet 1ポリペプチドに特異的に結合し、かつIslet 1ポリペプチドを免疫沈降すると特徴づけられた単離されたモノクローナル抗体を利用する。
【0066】
当技術分野で知られておりかつ本明細書に記載の任意の適切なイムノアッセイ形式を用いて、様々な細胞集団におけるIslet 1発現細胞の存在を検出できかつ/またはその量を定量化できる。Islet 1ポリペプチドに特異的に結合する、本明細書に記載の任意の種類の抗Islet 1ポリペプチド抗体を、本発明の方法において用いることができるが、モノクローナル抗体が好ましい。
【0067】
Islet 1ポリペプチドのための本免疫学的試験は、当技術分野で知られている任意の手法を、例えば、下記にもっと詳細に記載されているFASCスクリーニングを用いた、ハイスループット形式において用いることができる。
【0068】
ハイスループットスクリーニング形式を含む本発明の方法において用いられる抗体への結合に適した検出可能な標識には、様々な化学的結合基または二官能性ペプチドリンカーを用いて抗体に結合した放射性標識が含まれる。末端の水酸基を、32Pリン酸などの無機酸もしくは14C有機酸を用いてエステル化することができ、またはさもなければ標識に結合基を提供するためにエステル化することができる。検出可能な標識として関心対象となる酵素は、主として加水分解酵素、特にエステラーゼおよびグリコシダーゼ、または酸化還元酵素、特にペルオキシダーゼである。蛍光化合物には、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン(umbelliferone)などが含まれる。化学発光物には、ルシフェリンおよび2,3-ジヒドロフタラジンジオン(例えばルミノール)などが含まれる。
【0069】
また、抗体は固体支持体に付着されてもよいが、これは、Islet 1ポリペプチドのイムノアッセイ法または免疫沈降のために特に有用である。そのような固体支持体には、これに限定されるわけではないが、ガラス、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、またはポリプロピレンが含まれ、例えばマイクロタイタープレートのプロテインG被覆ウェルまたはビーズがある。
【0070】
Islet 1ポリペプチドに特異的に結合するような特異的なエピトープまたはエピトープの組み合わせに対する抗体が、本明細書に記載の細胞集団のスクリーニング用に許容されよう。そのようなモノクローナル抗体を用いて様々なスクリーニング技術を活用することができるが、これには、抗体被覆磁性ビーズを用いた磁性分離、固体マトリクス(すなわちプレート)に結合させた抗体による「パニング」、およびフローサイトメトリーが含まれる(例えば、米国特許第5,985,660号;およびMorrisonら、Cell, 96: 737-49 (1999)を参照のこと)。
【0071】
本発明の方法において有用な抗体は、当技術分野で知られている任意の方法によって、免疫特異的な結合に関してアッセイされうる。使用できるイムノアッセイ法には、数例を挙げると、ウエスタンブロット、放射性イムノアッセイ法、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ法、免疫沈降アッセイ法、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ法、凝集アッセイ法、補体固定アッセイ法、免疫放射定量測定法、蛍光イムノアッセイ法、プロテインAイムノアッセイ法などの技術を用いる競合的および非競合的なアッセイ系が含まれるが、これらに限定されるわけではない。そのようなアッセイは、当技術分野において日常的かつ公知である(例えば、その全体が参照として本明細書に組み入れられる、Ausubelら編、1994、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons、Inc.、New Yorkを参照のこと)。例示的なイムノアッセイ法を、以下に簡単に記載する(しかしこれは限定を意図したものではない)。
【0072】
免疫沈降プロトコルは一般に、例えば、タンパク質ホスファターゼおよび/またはプロテアーゼ阻害剤(EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)を添加したRIPA緩衝液(1% NP-40 またはTriton X-100、1% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、0.15M NaCl、0.01M リン酸ナトリウム pH 7.2、1%トラジロール)のような溶解緩衝液中で細胞集団を溶解する段階、関心対象の抗体を細胞可溶化液に加える段階、4℃で一定期間(例えば、1〜4時間)インキュベートする段階、プロテインAおよび/またはプロテインGセファロースビーズを細胞可溶化液に加える段階、4℃で約1時間またはそれ以上インキュベートする段階、溶解緩衝液中でビーズを洗浄する段階、ならびに、ビーズをSDS/試料緩衝液中に再懸濁する段階を含む。関心対象の抗体が特定の抗原を免疫沈降する能力は、例えばウエスタンブロット解析によって評価できる。当業者は、抗原への抗体の結合を増大させるためおよびバックグラウンドを減少させるために改変できるパラメータ(例えば、細胞可溶化液をセファロースビーズでプリクリアすること)について、精通しているであろう。免疫沈降プロトコルに関するさらなる議論に関しては、Ausubelら編、1994、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons、Inc.、New Yorkの10.16.1を参照のこと。
【0073】
ウエスタンブロット解析は一般に、タンパク質試料を調製する段階、ポリアクリルアミドゲル(例えば、抗原の分子量に応じて、8%〜20% SDS-PAGE)中でタンパク質試料を電気泳動する段階、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDF、またはナイロンなどのメンブレンへとタンパク質試料を転写する段階、ブロッキング溶液(例えば、3% BSAまたは脱脂乳含有PBS)中でメンブレンをブロッキングする段階、洗浄緩衝液(例えば、PBS-Tween 20)中でメンブレンを洗浄する段階、ブロッキング緩衝液で希釈した一次抗体(関心対象の抗体)でメンブレンをブロッキングする段階、洗浄緩衝液中でメンブレンを洗浄する段階、ブロッキング溶液中で希釈した、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)または放射性分子(例えば、32Pまたは125I)を結合させた二次抗体(例えば抗ヒト抗体などの一次抗体を認識する)でメンブレンをブロッキングする段階、洗浄緩衝液中でメンブレンを洗浄する段階、および、抗原の存在を検出する段階を含む。当業者は、検出されるシグナルを増大させるためおよびバックグラウンドノイズを減少させるために変更できるパラメータについて、精通しているであろう。ウエスタンブロットプロトコルに関するさらなる議論に対しては、たとえばAusubelら編、1994、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons、Inc.、New Yorkの10.8.1を参照のこと。
【0074】
ELISAは、抗原を調製する段階、96穴マイクロタイタープレートのウェルを抗原で被覆する段階、例えば酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)などの検出可能な化合物に結合した関心対象の抗体をウェルに加えて一定期間インキュベートする段階、および、抗原の存在を検出する段階を含む。ELISAにおいて、関心対象の抗体は検出可能な化合物に結合している必要はなく、代わりに、検出可能な化合物に結合した二次抗体(一次抗体を認識する)をウェルに加えてもよい。さらに、抗原でウェルを被覆する代わりに、抗体でウェルを被覆してもよい。この場合、被覆ウェルに関心対象の抗原を添加したあとに、検出可能な化合物に結合した二次抗体を加えてもよい。当業者は、検出されるシグナルを増大させるために変更できるパラメータ、および、当技術分野において知られているELISAのその他の変法について、精通しているであろう。ELISAに関するさらなる議論については、Ausubelら編、1994、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、John Wiley & Sons、Inc.、New Yorkの11.2.1を参照のこと。
【0075】
抗体の抗原への結合親和性および、抗体-抗原相互作用のオフ・レート(off-rate)は、競合的結合アッセイ法によって測定することができる。競合的結合アッセイ法の一例とは、増大量の非標識抗体の存在下における標識抗原(例えば、3Hまたは125I)と関心対象の抗体とのインキュベーション、および標識抗原と結合した抗体の検出を含む、放射性イムノアッセイ法である。特定の抗原に対する関心対象の抗体の親和性および結合オフ・レートは、スキャッチャードプロット解析によるデータから測定することができる。二次抗体との競合もまた、放射性イムノアッセイ法を用いて測定することができる。この場合において、抗原は、増大量の非標識二次抗体の存在下で、標識化合物(例えば、3Hまたは125I)と結合した関心対象の抗体とインキュベートされる。
【0076】
本アッセイに使用される抗体は、ポリクローナルでも、モノクローナルでも、またはそれらの機能的活性断片であってもよい。islet 1ポリペプチドに対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体は、当技術分野において知られている従来の技術を用いた、免疫原性複合体による免疫化によって、適切な宿主動物中で産生される。
【0077】
モノクローナル抗体の調製は、例えば、KohlerおよびMilstein、Nature 256: 495-7,1975;ならびにHarlowら、in: Antibodies: a Laboratory Manual、726頁(Cold Spring Harbor Pub.、1988)によって開示されており、それらは参照として本明細書に組み入れられる。簡単にいうと、モノクローナル抗体は、マウスまたは、ウサギなどのその他の小動物に、その調製物が上記で開示されている本発明の免疫原性複合体を含む組成物を注射する段階、血清試料を取り出すことによって抗体産生の存在を確認する段階、Bリンパ球を得るために脾臓を取り出す段階、Bリンパ球をメラノーマ細胞と融合してハイブリドーマを産生する段階、ハイブリドーマをクローニングする段階、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択する段階、およびハイブリドーマ培養液から抗体を単離する段階によって、得ることができる。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養物から、十分確立された様々な技術によって単離および精製することができる。そのような単離技術には、プロテインAセファロースによるアフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる。例えば、Barnesら、Purification of Immunoglobulin G (IgG)、in: Methods in Mol. Biol.、10: 79-104、1992を参照のこと。本発明の抗体は、ヒトに近い霊長類の抗体に由来してもよい。ヒヒにおいて抗体を産生するための一般的技術は、たとえば、Goldenbergら、国際公開公報第91/11465号(1991)、およびLosmanら、Int. J. Cancer、46: 310-314、1990において見出されうる。
【0078】
抗イディオタイプ技術を使用して、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生することも可能である。例えば、一次モノクローナル抗体に対して作製した抗イディオタイプのモノクローナル抗体は、一次モノクローナル抗体が結合するエピトープの「イメージ(image)」である超可変領域中に結合ドメインを有することになる。
【0079】
本発明において使用する「抗体」という用語は、無傷の分子ならびに、islet 1ポリペプチドを結合できるFab、F(ab')2、およびFvなどのその機能的断片を含む。これらの機能的抗体断片は、以下のように定義される。
(1)Fabは、抗体分子の1価の抗原結合断片を含む断片であり、無傷の軽鎖および一方の重鎖の一部を生じるためのパパイン酵素による抗体全体の消化によって産生できる。
(2)Fab'は、無傷の軽鎖および重鎖の一部を生じるためのペプシンによる抗体全体の処理およびその後の還元により得ることができる、抗体分子の断片である。抗体分子あたり2つのFab'断片が得られる。
(3)F(ab')2は、その後の還元なしにペプシン酵素による抗体全体の処理によって得ることのできる、抗体の断片である。F(ab')2は2つのジスルフィド結合によって互いに保持されている2つのFab'断片の二量体である。
(4)Fvは、2本の鎖として発現した、軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含む、遺伝子操作された断片と定義される。
(5)単鎖抗体(「SCA」)は、遺伝的に融合した単鎖分子として適切なポリペプチドリンカーによって結合した、軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含む、遺伝子操作された分子。
【0080】
これらの断片を作製する方法は、当技術分野において知られている。(例えば、参照として本明細書に組み入れられるHarlowおよびLane、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York、1988を参照のこと。)本発明において用いられているように、「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合している、抗原上の任意の抗原決定基を意味する。エピトープ決定基は通常、アミノ酸または糖側鎖のような化学的に活性の表面分子群から成り、通常、特異的三次元構造的特性および特異的な電荷特性を有している。
【0081】
本発明による抗体断片は、抗体のタンパク質分解性加水分解によって、または、その断片をコードするDNAの大腸菌(E.coli)における発現によって、調製されうる。抗体断片は、従来の方法による抗体全体のペプシン消化またはパパイン消化によって得ることができる。例えば抗体断片は、F(ab')2で表される5S断片を提供するためのペプシンによる抗体の酵素切断によって産生することができる。チオール還元剤を用いて、および任意でジスルフィド結合の切断によって生じるスルフヒドリル基に対する保護基を用いて、この断片をさらに切断し、1価の3.5S Fab' 断片を産生することができる。または、ペプシンを用いた酵素的切断によって、1価のFab'断片2つ、およびFc断片が直接産生される。これらの方法は、例えばGoldenberg、米国特許第4,036,945号および第4,331,647号、およびこれらに含まれる参考文献によって記載されており、これらの特許は参照としてその全体が本明細書に組み入れられる。Porter, R.R.、Biochem. J.、73:119-126、1959もまた参照のこと。例えば1価の軽鎖-重鎖断片を形成するための重鎖の分離、断片のさらなる切断、またはその他の酵素的、化学的、もしくは遺伝学的な技術などの、抗体を開裂するその他の方法もまた、無傷の抗体によって認識される抗原に断片が結合する限り、用いられうる。
【0082】
Fv断片は、VH鎖とVL鎖の会合を含む。この会合は、Inbarら、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA、69:2659-62、1972に記載されているように、非共有結合でありうる。または、可変鎖を、分子間ジスルフィド結合によって結合させるか、または、グルタルアルデヒドなどの化学物質によって架橋させることができる。好ましくは、Fv断片は、ペプチドリンカーにより連結されたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドによって連結された、VHドメインおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって、調製される。構造遺伝子は発現ベクターに挿入され、続いてE.coliなどの宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単一ポリペプチド鎖を合成する。sFvを産生するための方法は、例えば、WhitlowおよびFilpula、Methods、2:97-105、1991;Birdら、Science 242:423-426、1988;Packら、Bio/Technology 11:1271-77、1993;ならびにLadnerら、米国特許第4,946,778号、によって記載されており、これは参照としてその全体が本明細書に組み入れられる。
【0083】
抗体断片のもう1つの形態とは、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、関心対象の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得られる。そのような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAに由来する可変領域を合成することによって調製される。例えば、LarrickおよびFry、Methods、2:106-10、1991を参照のこと。
【0084】
本発明の方法は、islet 1ポリペプチドに特異的に結合するとして特徴づけられたモノクローナル抗体を使用するが、ここでIslet 1ポリペプチドは機能的活性を保持している。
【0085】
Islet 1ポリペプチドを免疫捕捉(immunocapture)するための本発明の方法において有用なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系が、市販されている。
【0086】
以下の実施例は、本発明の限定ではなく説明を意図している。
【0087】
実施例1
実験手順
マウス変異体
isletヌル変異体の生成は、これまでに記載されている(Pfaffら、1996)。ノックアウト構築物は、Islet 1の2番目のLIMドメインをコードするエキソンが除去されている。Islet 1-creマウスは、Thomas M. Jessellによって贈与され、またこれまでに記載されている(Srinivasら、2001)。IRES-creカセットは、Islet 1の2番目のLIMドメインをコードするエキソン中に挿入され、それはislet遺伝子発現を破壊する。
【0088】
全載RNAインサイチューハイブリダイゼーション
全載RNAインサイチューハイブリダイゼーションは、これまでに記載されているように行った(Wilkinson、1999)。使用した特定のRNAプローブの参考文献は、以下のとおりである:MLC2a (Kubalakら、1994); MLC2v(O'Brienら、1993);tbx5(Bruneauら、1999);tbx20(未発表結果);BMP2、BMP6、BMP7、BMP4、BMP5(Kimら、2001; Lyonsら、1995);FGF4、FGF8、およびFGF10 (Feldmanら、1995; Sunら、1999);EHand(Crossら、1995);isletl(EST、GenBank アクセッション番号:AA198791)(配列番号:2);msx2(Liuら、1994)。
【0089】
二重RNAインサイチューハイブリダイゼーションは、ジゴキシゲニンおよび、アルカリホスファターゼ(Rocheカタログ番号1277073、1685619)に結合した蛍光標識プローブを利用して行った。染色反応は、ウェブ上のウェブサイト(mshri.on.ca/rossant/protocols/doubleINsitu)のJanet Rossantの研究室プロトコルによるCIP/フェリシアニド/フェロシアニドおよびウェブサイト(sternlab.anat.ucl.ac.uk/INSITU)のClaudio Sternの研究室プロトコルによるMagentaPhos-tet Redにより、または、Fast Red(Rocheカタログ番号1496549)およびBCIP(アルカリホスファターゼの色素生産性基質)のみにより行った。一次抗体とのインキュベーションおよびそれを検出するための染色(抗フルオレセイン-AP、Rocheカタログ番号1426338)の後、胚を65℃で1時間インキュベートしてアルカリホスファターゼ活性を不活化し、二次抗体とのインキュベーションおよびそれを検出するための染色(抗ジゴキシゲニン-AP、Rocheカタログ番号1093274)の前に、洗浄した。アルコール可溶性のFast Redで染色した胚に関しては、凍結切片を調製した。BCIP/フェリシアニド/フェロシアニドおよびMagentaPhos-tet Redで染色した胚に関しては、シグナルの損失を最小限にするためアルコール中での短時間の洗浄を伴って、パラフィン切片を調製した。
【0090】
走査型電子顕微鏡
心臓の走査型電子顕微鏡法(SEM)のための標準化された手順を利用した(Pexieder、1986)。簡単には、胚はアルコール脱水およびフレオン113からフレオン23への臨界点乾燥にかけた。乾燥標本はSEMチューブ上に乗せ、300nmの金でイオンスパッターをして、その後走査型電子顕微鏡において調べた。SEM顕微鏡写真は標準的な配向および倍率で撮った。
【0091】
実施例2
未分化I細胞の培養
ネズミ心臓から心臓前駆体を単離するために、成体臓器からの心筋細胞の単離のために用いられたのと類似の方法を使用した。トリプシンで消化した状態において、i細胞および心臓線維芽細胞は、同様な細胞径である35μm前後を共有し、パーコール勾配において同じ分画に同時精製される。I細胞の培養は、ファイブロネクチン、コラーゲンIV型、またはラミニン上での培養を含む、多数の条件を試験することによって開発された。試験された培地条件には、以下に記載の、いくつかの濃度のウシ胎仔血清(FCS)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF-BB)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、骨形成タンパク質(BMP)2+4、インスリン様増殖因子(IGF)1、ソニック・ヘッジホッグ(Shh)、およびデキサメサゾンが含まれる。
【0092】
10個のisl 1陽性細胞を接種した96穴プレートのおよそ5%〜10%が、継続的に増殖する培養物を生じたが、これは、100個のi細胞中約5個〜10個前後の細胞だけが、i細胞培養を開始できることを示す。今はいくつかのi細胞集団が、12を上回る集団倍加の間に培養されている。心臓前駆体集団は、心臓線維芽細胞の支持細胞層上または心臓から新鮮に単離された線維芽細胞の馴化培地の中においてのみ、分化または細胞死なしに培養され得ることが発見された。I細胞の筋細胞およびニューロンへの分化は、心臓線維芽細胞由来の馴化培地の回収、またはI細胞の支持細胞層からの分離によって、誘導することができる。形態および表現型は、5〜10を上回る集団倍加の後に類似している。I細胞は、直径〜35μmで大型の核およびわずかな細胞質を有し、線維芽細胞支持細胞層に常に付着した三次元球体の状態で増殖する。ヒト組織の心房からのi細胞を単離して培養したとき、同様な結果が得られた。
【0093】
実施例3
単一I細胞のインビトロ分化
次に、ES細胞の神経外胚葉および中胚葉への分化に対して報告されているものに基づいて選ばれたサイトカインを加えることによって、マウスおよびラットの心臓より得られたi細胞のインビトロ分化能を試験した。分化には、i細胞が、血清を含まないが系統特異的サイトカインを含む培地において、1〜2×104細胞/cm2前後の密度で、支持細胞層なしに再プレーティングされるべきことが必要であった。神経前駆体はPDGF-BBにより増殖し、bFGFの添加によって誘導されて分化し得る(Palmerら、1999)。
【0094】
bFGF処理下において、i細胞の45%前後が星状細胞の形態的および表現型的特徴を獲得し、グリア酸性線維タンパク質(GFAP)、および神経フィラメント200(NF-200)に対して陽性に染色したニューロンに対して、免疫組織化学的陽性を示す。筋細胞分化によって、免疫組織化学実験においてα筋節アクチンおよびαアクチニンに対する陽性信号を示す細胞が獲得された。
【0095】
実施例4
マウス心臓からの出生後心臓前駆細胞のための単離プロトコル
1日齢の仔マウスの心臓35個から50個を胸部開口部より切開摘出し、4片に切り分け、Ca2+を含まないHBSS(ハンクス平衡塩類)溶液中において4℃で3回洗浄した。心臓は0.5 mg/mlトリプシン-HBSS溶液に移し、オービタルシェーカーにおいて4℃で一晩(〜17時間)前消化した。トリプシン溶液の半分を前消化した組織から除き、残りの部分を、ペニシリン(100 U/ml)/ストレプトマイシン(100 mg/ml)/HEPES(25 mM)/グルタミン(2 mM)を含む温DMEM/M199細胞培地(4:1の割合)により1:1に希釈した。
【0096】
組織を37℃で3分間〜4分間振盪した後、希釈したトリプシンを組織から除き、HBSS中24U/mlのコラゲナーゼII型を20ml、組織溶液に加えた。振盪水槽中における37℃で2分間インキュベーションした後、最初のコラゲナーゼII型消化物は、赤血球細胞および死組織細胞を主に含むため、廃棄する。組織は12 mlの新鮮なコラゲナーゼII型中に再懸濁し、水槽中において37℃で10分間振盪した。上清は同量の10%ウマ血清および5%ウシ胎仔血清を含む冷DMEM/M199培地の添加によって不活化し、氷上で保管した。組織の再懸濁および上清の不活化は、組織片が完全に消化されるまで、さらに3回繰返した。消化物からの上清を集め、800 rpmで5分間、遠心分離した。上清は心臓の間葉細胞のほとんどを含んでおり、ペレットは心筋細胞のほとんどを含んだ。
【0097】
1500 rpmで3分間の2回目の遠心分離の後、間葉細胞は連続的に、ペニシリン(100 U/ml)/ストレプトマイシン(100 mg/ml)/HEPES(25 mM)/グルタミン(2 mM)/10%新生仔ウシ血清および5%ウシ胎仔血清を含むDMEM中でプラスチック上に20分間蒔いた。20分後、非付着細胞は、PBSによる2回の厳しい洗浄段階によって、プレートから取り除かれた。
【0098】
付着した心臓間葉細胞を、5% CO2において37℃で14日間〜21日間培養した。培地は、培養第2日めに細胞がコンフルエント状態に達したとき、B27サプリメント、2%ウシ胎仔血清、10 ng/ml EGFを含むDMEM/F12と交換した。10日後、心臓前駆体集団は心臓の間葉細胞の支持細胞層の上に増殖し始めた。
【0099】
実施例5
ラット心臓からの出生後心臓前駆細胞のための単離プロトコル
出生後1日〜5日の仔ラットの心臓50個を胸部開口部より切開摘出し、4片に切り分け、6.8 g/l NaCl、4.7g/l HEPES、0.12 g/l NaH2PO4、0.14 g/l NaH2PO4 H2O、1 g/lグルコース、0.4 g/l KCl、0.2 g/l MgSO47H2O(pH7.35に調整)を含むADS緩衝液中で2回洗浄した。心臓片は、攪拌フラスコ中において、コラゲナーゼII型(115 ユニット/ml)およびパンクレアチン(0.8 mg/ml)を含むADS緩衝液中で37℃で15分間インキュベートした。最初の消化物は廃棄した。18 mlの新鮮な酵素溶液を組織に加え、37℃で20分間攪拌した。
【0100】
20分間の消化の後、酵素溶液を取り除き、6mlの新生仔ウシ血清により不活化した。攪拌フラスコ中の組織片に新鮮な酵素溶液を加え、37℃でさらに20分間インキュベートした。最初の20分間の消化に由来する消化物を1000 rpmで6分間遠心分離し、ペレットを5mlの新生仔ウシ血清に再懸濁して37℃で10% CO2中に置いた。上記の段階は、酵素溶液の除去からペレットの再懸濁まで、4回繰り返した。
【0101】
各々の遠心分離により得られた細胞懸濁液をプールして、1000 rpmで6分間遠心分離した。ペレットは12 mlのADS緩衝液に再懸濁した。細胞懸濁液はパーコール勾配の最上層に重ねた(各々の勾配につき2 mlの細胞)。各々のパーコール勾配は、上層としての1.06 g/mlのパーコール4 ml、および下層としての1.08 g/mlのパーコール3 mlから成る。
【0102】
低加速度および減速度での3000 rpmで30分間の遠心分離の後、上側のバンドは心臓間葉細胞から成り、界面における中央のバンドは心筋細胞から成った。間葉細胞はパスツールピペットで回収した。
【0103】
1500 rpmで3分間の2回目の遠心分離の後、ペニシリン(100 U/ml)/ストレプトマイシン(100 mg/ml)/HEPES(25 mM)/グルタミン(2 mM)/10%新生仔ウシ血清および5%ウシ胎仔血清を含むDMEM中で、間葉細胞を連続的にプラスチック上に20分間蒔いた。20分後に、非付着細胞は、PBSによる2回の厳しい洗浄段階によって、プレートから取り除いた。
【0104】
心臓間葉細胞は、5% CO2において37℃で14日間〜21日間培養した。培地は、培養第2日目に細胞がコンフルエント状態に達したとき、B27サプリメント、2%ウシ胎仔血清、10 ng/ml EGFを含むDMEM/F12と交換した。10日後、心臓前駆体集団が、心臓の間葉細胞の支持細胞層の上に増殖し始めた。
【0105】
実施例6
心臓前駆細胞集団の表現型の細胞マーカーのFACS解析
上記実施例4および実施例5において出生後マウスおよびラットの心筋から単離された細胞の表現型の細胞マーカーは、それぞれFACS解析によって特徴づけられた。FACS解析によって、90%の細胞がLIMホメオドメイン転写因子islet 1を発現すること;〜90%の細胞がDrosophila tinmanの相同体であるNkx2.5を共発現すること;および30%〜40%の細胞が中間径フィラメントであるネスチンを共発現することが示された。
【0106】
実施例7
分化プロトコル
前駆体集団の分化のため、細胞は、2%ウシ胎仔血清および系統特異的分化因子を含む培地において、2×104細胞/cm2前後の密度で、間葉細胞の支持細胞層なしで再プレーティングした。
【0107】
インビトロの筋細胞分化は、wnt11を安定的に発現および分泌するレトロウイルス感染NIH3T3細胞系のwnt11を濃縮した馴化培地を用いて行った。細胞は、ファイブロネクチン被覆培養皿上でwnt11馴化培地を用い、その後2.5 ng/mlの濃度におけるBMP2を用いる連続的分化プロトコルによって4.5日間処理した。その後、分化細胞は、電気生理学的設定におけるチャネル電流のための、および細胞内一過性Ca2+のための、単一細胞実験において解析した。
【0108】
ニューロンの細胞型へのインビトロ分化は、ラミニンおよびポリリシン被覆培養皿において、10〜15日間、0.2μMオールトランスレチノイン酸および5μMフォルスコリンによって行った。
【0109】
脂肪細胞へのインビトロ分化は、プラスチック培養皿において、10%新生仔ウシ血清および5%ウシ胎仔血清によって行った。
【0110】
本発明は、上記の実施例に関して記載されているが、改変および変形が本発明の精神および意図の中に包含されていることが理解されるべきである。従って、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0111】
参考文献







【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】Islet 1のESTのmRNA配列である(配列番号:1)。
【図2】アクセッション番号NM_021459 XM_354773(配列番号:2)としてGenBankにより利用可能なIslet 1(マウス)のDNA配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を検出するための方法であって、細胞中でIslet 1の核酸または発現産物の存在を判定する段階を含む方法。
【請求項2】
判定段階が免疫組織化学的である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
判定段階が、Islet 1のmRNAの存在を判定する段階を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
幹細胞が心原性幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
幹細胞を単離または濃縮するための方法であって、以下の段階を含む方法:
細胞集団をIslet 1反応性の物質と接触させる段階;および
反応陽性の細胞を反応陰性の細胞から分離して、それにより幹細胞を単離または濃縮する段階。
【請求項6】
幹細胞が心原性幹細胞である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
物質が検出可能に標識されている、請求項5記載の方法。
【請求項8】
標識が蛍光マーカーである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
物質が抗Islet 1抗体である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
単離または濃縮する段階が、FACS解析によって行われる、請求項8記載の方法。
【請求項11】
幹細胞を生成するための方法であって、以下の段階を含む方法:
細胞におけるIslet 1の発現を活性化または増大させるように、Islet 1を発現する未分化前駆細胞を、細胞におけるIslet 1の発現を活性化または増大させる物質と接触させる段階。
【請求項12】
Islet 1の発現の活性化または増大が、細胞を中胚葉性または神経外胚葉性の系列に分化させる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
系列が中胚葉性である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
系列が神経外胚葉性である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
未分化前駆細胞がげっ歯類由来である、請求項11記載の方法。
【請求項16】
げっ歯類細胞が非筋細胞性心臓細胞である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
未分化前駆細胞がヒト由来である、請求項11記載の方法。
【請求項18】
ヒト細胞が非筋細胞性心臓細胞である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
幹細胞が心原性幹細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項20】
未分化心臓前駆細胞の細胞集団を、分化を伴うことなくインビトロにおいて拡大(expansion)させる方法であって、以下の段階を含む方法:
前駆細胞の増殖に十分な条件下において、Islet 1を発現する単離された未分化前駆細胞を培養する段階であって、前駆細胞の増殖に十分な条件が、種特異的心臓線維芽細胞の支持細胞層(feeder layer)でまたは心臓由来の線維芽細胞の馴化培地で細胞を培養することを含む段階。
【請求項21】
未分化前駆細胞が非筋細胞である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
非筋細胞がラット、マウス、またはヒトの細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
90%を上回るIslet 1陽性幹細胞を含むIslet 1陽性幹細胞濃縮集団を含む、組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を検出するための方法であって、細胞中でIslet 1の核酸または発現産物の存在を判定する段階を含む方法。
【請求項2】
判定段階が免疫組織化学的である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
判定段階が、Islet 1のmRNAの存在を判定する段階を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
幹細胞が心原性幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
幹細胞を生成するための方法であって、以下の段階を含む方法:
幹細胞に分化するための、Islet 1を発現する未分化前駆細胞を同定する段階;および
Islet 1を発現する未分化前駆細胞を、細胞におけるIslet 1の発現を誘導する物質と接触させて、それにより幹細胞を生成する段階。
【請求項6】
Islet 1の発現の誘導により、中胚葉性または神経外胚葉性の系列の幹細胞が生成される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
系列が中胚葉性である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
系列が神経外胚葉性である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
未分化前駆細胞がげっ歯類由来である、請求項5記載の方法。
【請求項10】
げっ歯類細胞が非筋細胞性心臓細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
未分化前駆細胞がヒト由来である、請求項5記載の方法。
【請求項12】
ヒト細胞が非筋細胞性心臓細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
幹細胞が心原性幹細胞である、請求項5記載の方法。
【請求項14】
未分化心臓前駆細胞の細胞集団を、分化を伴うことなくインビトロにおいて拡大(expansion)させる方法であって、以下の段階を含む方法:
分化を伴うことなく拡大するための、Islet 1を発現する単離された未分化前駆細胞を同定する段階;および
種特異的心臓線維芽細胞の支持細胞層(feeder layer)でまたは心臓由来の線維芽細胞の馴化培地で、Islet 1を発現する単離された未分化前駆細胞を培養する段階。
【請求項15】
未分化前駆細胞が非筋細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
非筋細胞がラット、マウス、またはヒトの細胞である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
90%を上回るIslet 1陽性幹細胞を含むIslet 1陽性幹細胞濃縮集団。
【請求項18】
請求項17記載のIslet 1陽性幹細胞濃縮集団を作製するための方法であって、以下の段階を含む方法:
細胞集団をIslet 1反応性の物質と接触させる段階;および
反応陽性の細胞を反応陰性の細胞から分離して、それにより請求項17記載のIslet 1陽性幹細胞濃縮集団を作製する段階。
【請求項19】
幹細胞が心原性幹細胞である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
物質が検出可能に標識されている、請求項18記載の方法。
【請求項21】
標識が蛍光マーカーである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
物質が抗Islet 1抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
分離段階が、FACS解析によって行われる、請求項21記載の方法。
【請求項24】
Islet 1核酸またはその発現産物を含む幹細胞の内部または表面の少なくとも一つのマーカーを同定する方法であって、以下の段階を含む方法:
Islet 1核酸またはその発現産物を有する幹細胞集団を、Islet 1核酸またはその発現産物と共に幹細胞表面に共局在する少なくとも一つのマーカーに反応性の物質と接触させる段階;ならびに
反応陽性の細胞を反応陰性の細胞から分離して、それにより、Islet 1核酸またはその発現産物を有する幹細胞、および、Islet 1核酸またはその発現産物と共局在する少なくとも一つのマーカーを同定する段階。
【請求項25】
幹細胞が哺乳動物から得られる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
幹細胞が心臓より得られる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
幹細胞が胚性組織より得られる、請求項25記載の方法。
【請求項28】
少なくとも一つのマーカーおよびIslet 1核酸またはその発現産物を有する、哺乳動物の心原性幹細胞を単離するための方法であって、以下の段階を含む方法:
哺乳動物から細胞試料を得る段階;
Islet 1核酸またはその発現産物を有する幹細胞に選択的な少なくとも一つのマーカーに反応性の物質を、細胞試料と接触させる段階;
マーカーおよびIslet 1核酸またはその発現産物を有する反応陽性の細胞を、マーカーおよびIslet 1核酸またはその発現産物を有さない反応陰性の細胞から、選別する段階;ならびに
マーカーおよびIslet 1核酸またはその発現産物を有する反応陽性の細胞を選択し、それによって、少なくとも一つのマーカーおよびIslet 1核酸またはその発現産物を有する心原性幹細胞を哺乳動物から単離する段階。
【請求項29】
選別段階が、蛍光活性化細胞選別(fluorescent activated cell sorting)による選別段階を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
選別段階が、磁気ビーズ選別による選別段階を含む、請求項28記載の方法。
【請求項31】
細胞試料が哺乳動物成体から得られる、請求項28記載の方法。
【請求項32】
細胞試料が心臓より得られる、請求項28記載の方法。
【請求項33】
Islet 1核酸またはその発現産物を含む幹細胞における細胞応答を改変する物質を同定するための方法であって、以下の段階を含む方法:
Islet 1の発現を改変する物質と、幹細胞を接触させる段階;
被験物質と幹細胞を接触させる段階;ならびに
被験物質の存在下および非存在下での幹細胞応答の変化を解析する段階であって、幹細胞応答の変化により、Islet 1核酸またはその発現産物を含む幹細胞における細胞応答を改変する物質として被験物質が同定される、段階。
【請求項34】
幹細胞応答を改変する物質が、幹細胞の増殖に影響を及ぼす、請求項33記載の方法。
【請求項35】
幹細胞応答を改変する物質が、幹細胞の生存に影響を及ぼす、請求項33記載の方法。
【請求項36】
幹細胞応答を改変する物質が、幹細胞の移動に影響を及ぼす、請求項33記載の方法。
【請求項37】
幹細胞応答を改変する物質が、幹細胞の分化に影響を及ぼす、請求項33記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519015(P2006−519015A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503268(P2006−503268)
【出願日】平成16年2月2日(2004.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/002978
【国際公開番号】WO2004/070013
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(592130699)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】