説明

幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子およびその利用法

ディファレンシャル・ディスプレイ法により、カイコアラタ体由来のcDNAから幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子をクローニングした。また、該遺伝子を組み込んだベクターDNAで形質転換した大腸菌で発現させた組換えタンパク質が、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを見出した。さらに、アミノ酸配列の相同性に基づき、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、オオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を見出し、ショウジョウバエ、ハスモンヨトウ、オオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子がコードするタンパク質が幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質および該タンパク質をコードするDNA、並びにそれらの利用法に関するものである。
【背景技術】
幼若ホルモンは、セスキテルペン骨格を持つ特殊な構造をしたホルモンで、昆虫の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発育のみならず、多型、行動、寿命など多くの生理現象の調節に関与する重要な昆虫ホルモンである(非特許文献1、2)。
したがって、昆虫体内の幼若ホルモンバランスを崩して昆虫の生存に必須な生理機能を撹乱することで、農林害虫や衛生害虫を防除することができると考えられる(非特許文献3、4)。これまでに、天然型幼若ホルモンより強い活性を示す合成幼若ホルモン活性物質が多数合成され、その一部は、安全性の高い害虫制御剤としてすでに実用化されている(非特許文献5、6)。
また昆虫体内の幼若ホルモン量を適切に制御することで蚕等の有用昆虫の生育や休眠を制御し、その機能を強化することに利用できる。例えば、合成幼若ホルモン活性物質であるメトプレンは、蚕の増繭剤として利用されている(非特許文献7)。
しかしながら、害虫防除への利用においては、幼若ホルモン活性物質は、昆虫体内の幼若ホルモン濃度の高い幼虫期には作用しないため、幼虫が加害ステージである農業害虫の多くに対しては、高い食害防止効果は期待できない。
より優れた防除手段として、幼若ホルモンの作用を遮断する、あるいは昆虫体内の幼若ホルモン濃度を下げることで、幼虫の摂食期間を短縮したり、早熟変態を促進することで、作物の被害を軽減する方法が考えられる。これまでに、抗幼若ホルモン物質としてプレコセンなど20種類以上の化合物が同定されているが、害虫防除に実用化されているものはない(非特許文献8)。また、遺伝子工学的な手法により、血中の幼若ホルモン濃度を人為的に低下させる試みもなされている。すなわち、血中に存在する幼若ホルモンを特異的に加水分解する幼若ホルモンエステラーゼの遺伝子を組み込んだ昆虫ウイルスを作成し、感染した昆虫体内で酵素活性を発現させ、虫体内の幼若ホルモンを分解しようというものである(非特許文献9)。しかし、この方法でも幼虫が早熟変態をするまでの効果は得られていない。
幼若ホルモンは昆虫特有の内分泌器官であるアラタ体で合成されて血中に分泌される。したがって、アラタ体での幼若ホルモンの合成を直接的に阻害できれば、昆虫体内の幼若ホルモンを低下させることが可能である。
幼若ホルモンの生合成の最終段階において、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素の作用によって不活性な前駆体である幼若ホルモン酸へS−アデノシルメチオニンのメチル基が転移することによって、活性型の幼若ホルモンが生じる(非特許文献10)。この酵素活性が終齢幼虫になると低下する結果、幼若ホルモンの合成・分泌が停止し、血中の幼若ホルモンが消失し、変態が起こる。したがって、人為的にこの酵素活性を制御することで、昆虫体内の幼若ホルモン量を任意に改変し、害虫防除や有益昆虫の機能強化を行うことが可能と考えられる。
しかしながら、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素は、ごく微細な組織であるアラタ体に微量しか存在しないため、同酵素に結合する化合物、同酵素の活性または発現を制御する化合物のスクリーニングに必要なタンパク質量を昆虫個体から調製するのはきわめて困難である。また、現在まで、該酵素のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列は明らかにされていない。
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
〔非特許文献1〕Nijhout,H.F.:Insect hormones,Princeton University Press,267pp,1994
〔非特許文献2〕Herman,W.&Tatar,M.:Proc.R.Soc.Lond.B Biol.Sci.268:2509,2001
〔非特許文献3〕Cusson,M&Palli,S.R.:Can.Entomol.132:263,2000
〔非特許文献4〕深見浩:生物に学ぶ農薬の創製,ソフトサイエンス社、p.19−38,1986
〔非特許文献5〕江藤守総:生物に学ぶ農薬の創製,ソフトサイエンス社、p.1−18,1986
〔非特許文献6〕波多腰ら;住友化学、p.4−20,1997−I
〔非特許文献7〕赤井弘:生理活性物質のバイオアッセイ,講談社、p.383−388,1984
〔非特許文献8〕深見浩:生物に学ぶ農薬の創製,ソフトサイエンス社、p.19−38,1986
〔非特許文献9〕Hammock,B.D.et al.:US patent,5098706,1992
〔非特許文献10〕Schooley,D.A.&Baker,F.C.:Comp.Insect Physiol.Biochem.Pharmacol.,Pergammon Press,Oxford,7:368−379,1985
【発明の開示】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質および該タンパク質をコードするDNA、並びにそれらの利用法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らは、鱗翅目昆虫のアラタ体において、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素の活性は終前齢幼虫期までは高いが、終齢幼虫初期以後はその活性が消失することに着目し、ディファレンシャル・ディスプレイ法により、カイコアラタ体由来のcDNAから、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子をクローニングした。該遺伝子を組み込んだベクターDNAを得た後、該ベクターDNAで形質転換した大腸菌で作成した組換えタンパク質が幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを見いだした。
さらに、アミノ酸配列の相同性に基づき、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、オオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を見出した。また、ショウジョウバエ、ハスモンヨトウ、オオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を組み込んだベクターDNAを得た後、該ベクターDNAで形質転換した大腸菌で作成した組換えタンパク質が幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを見いだした。これにより、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を人為的に発現制御することが可能となった。
幼若ホルモンは、昆虫の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型、寿命などの多くの生理現象の調節に関与する。従って、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を人為的に発現制御することにより、幼若ホルモンによって調節される昆虫の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型、寿命などを制御することが可能である。例えば、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を人為的に制御することにより、害虫防除や有益昆虫の機能強化を行うことが可能である。また、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質は、該タンパク質に結合する化合物、該タンパク質の活性または発現を制御する化合物の製造やスクリーニングに利用できる。スクリーニングによって得られた化合物は、昆虫に特異的に作用する安全性の高い昆虫成長制御剤として利用できる。
即ち、本発明は、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質および該タンパク質をコードするDNA、並びにそれらの利用法に関し、以下の〔1〕〜〔22〕を提供するものである。
〔1〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(a)配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔2〕 〔1〕に記載のDNAによりコードされるタンパク質。
〔3〕 以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)〔1〕に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
(b)〔1〕に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
(c)〔1〕に記載のDNAの発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするDNA。
〔4〕 〔1〕または〔3〕に記載のDNAが挿入されたベクター。
〔5〕 〔1〕に記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、節足動物の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤。
〔6〕 節足動物が昆虫である、〔5〕に記載の制御剤。
〔7〕 成虫に対する生殖成熟促進剤、休眠解除剤もしくは寿命短縮剤、幼虫および蛹に対する変態抑制剤、または、幼虫に対する休眠誘導剤である、〔6〕に記載の制御剤。
〔8〕 害虫防除剤または増繭剤である、〔6〕に記載の制御剤。
〔9〕 〔3〕に記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、節足動物の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤。
〔10〕 節足動物が昆虫である、〔9〕に記載の制御剤。
〔11〕 成虫に対する生殖成熟抑制剤、休眠誘導剤もしくは寿命延長剤、または、幼虫に対する休眠抑制剤もしくは変態誘導剤である、〔10〕に記載の制御剤。
〔12〕 害虫防除剤である、〔10〕に記載の制御剤。
〔13〕 〔1〕もしくは〔3〕に記載のDNAまたは〔4〕に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
〔14〕 〔1〕もしくは〔3〕に記載のDNAまたは〔4〕に記載のベクターで形質転換された個体。
〔15〕 昆虫個体である、〔14〕に記載の個体。
〔16〕 〔2〕に記載のタンパク質に結合する抗体。
〔17〕 モノクローナル抗体である、〔16〕に記載の抗体。
〔18〕 〔1〕に記載のDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド。
〔19〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔2〕に記載のタンパク質に結合する化合物のスクリーニング方法。
(a)該タンパク質に被験化合物を接触させる工程
(b)該タンパク質と被験化合物との結合を検出する工程
(c)該タンパク質に結合する化合物を選択する工程
〔20〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔2〕に記載のタンパク質の活性を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)該タンパク質に被験化合物を接触させる工程
(b)該タンパク質の活性を測定する工程
(c)被験化合物を投与していない場合と比較して、該タンパク質の活性を上昇または減少させる化合物を選択する工程
〔21〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、〔2〕に記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)該タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被験化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被験化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
〔22〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔2〕に記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)昆虫個体または培養組織に被験化合物を接触させる工程
(b)該昆虫個体または該培養組織における〔2〕に記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被験化合物を投与していない場合と比較して、該遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
本発明者らは、カイコ(Bombyx mori)、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、蚊(Anopheles gambiae)、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、およびオオタバコガ(Helicoverpa armigera)において、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有するタンパク質(幼若ホルモン酸メチル基転移酵素(Juvenile hormone acid methyltransferase:JHAMT)をコードするDNAを単離することに成功した。本発明は、この知見に基づき、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質および該タンパク質をコードするDNAを提供するものである。
配列番号:1、3、5、7、および9に、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、およびオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列をそれぞれ示した。また、配列番号:2、4、6、8、および10に、上記昆虫の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素の予想されるアミノ酸配列をそれぞれ示した。
本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素は、S−アデノシルメチオニンのメチル基をホルモン活性を持たない幼若ホルモン酸のカルボキシル基に転移し、活性型の幼若ホルモンを生じる活性を有する酵素である。よって、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素は、天然型幼若ホルモンの製造に利用できる。本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素によって製造された天然型幼若ホルモンは、合成幼若ホルモンと比べて、紫外線などにより分解しやすいため、残留毒性が低い点が長所である。
天然型幼若ホルモンは化学的にも複数の合成方法が確立されているが、かなり多数のステップを必要とする。これに対し、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素は、生理的な条件で天然型幼若ホルモンを製造できるという利点がある。例えば、実施例に記載の方法により、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を用いて天然型幼若ホルモンを製造することができる。また、一部の菌類ではファルネセン酸(farnesoic acid)を合成することが知られている(Oh,K.−B.,H.Miyazawa,et al.(2001).Proc Natl Acad Sci USA 98:4664−4668.)。よって、そのような微生物に本発明の酵素遺伝子を導入することで天然型幼若ホルモン(ファルネセン酸メチル)を製造することもできる。また、上記の菌の他に、ショウジョウバエの培養細胞Kc cellsやラット肝臓抽出液が、ファルネシルピロリン酸およびファルネソールからファルネセン酸を合成することが知られていることから(Gonzalez−Pacanowska,D.et al.,1988:J.Biol.Chem.,1301−1306)、本発明の酵素遺伝子を導入することで天然型幼若ホルモンを製造することができる。また、ファルネソールは種々の植物精油に含まれる成分であり、それがさらに酸化されたファルネセン酸が含まれている植物であれば、本酵素遺伝子を植物に導入して天然型幼若ホルモンを製造することが可能である。
本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素によって製造された天然型幼若ホルモンは、当業者に周知の用途により利用できる。該天然型幼若ホルモンの用途を以下に例示するが、該天然型幼若ホルモンの用途はそれらに限定されない。
本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素によって製造された天然型幼若ホルモンは、幼若ホルモン類縁物質と同様に、害虫防除剤や増繭剤として利用できる。また、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素により製造された天然型幼若ホルモンを利用することで、昆虫の成長を制御できる。例えば、該天然型幼若ホルモンを、休眠したカメムシなどの成虫に投与することで、休眠を解除し、生殖成熟を促進できる。ミツバチの働き蜂では、加齢に伴って仕事の種類が変わることが知られている。これは加齢により幼若ホルモンの濃度が変わるために起こると考えられ、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素により製造された天然型幼若ホルモンを外部から投与することで仕事の種類を変化させることができる。また、ハチミツガの幼虫に、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素により製造された天然型幼若ホルモンを処理することにより、幼虫を大型化し釣果を高めると共に蛹化を阻止し幼虫を長期間使用できると考えられる(特許登録番号:2707617)。
また、甲殻類においては、ファルネセン酸メチル(methyl farnesoate;メチルファルネソエート)が昆虫の幼若ホルモンに相同なホルモンであり、昆虫同様、甲殻類の成長と生殖の調節に重要であると考えられている(Homola,E and Chang,E.S;Comp.Biochem.Physiol.B,117:347−356,1997)。本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素は、甲殻類の幼若ホルモン前駆体であるファルネセン酸に対してメチル基を転移し、活性型ホルモンであるファルネセン酸メチルを生成する活性をも有する。図1に昆虫の主な幼若ホルモンであるJH I、JH II、JH IIIおよび甲殻類の幼若ホルモンであるファルネセン酸メチルと、それらの前駆体であるJH I酸、JH II酸、JH III酸およびファルネセン酸の構造、および本発明の酵素による幼若ホルモン酸から幼若ホルモンの合成反応を示している。よって、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素により製造された幼若ホルモンは、甲殻類の成長の制御にも利用できる。例えば、該幼若ホルモンは、フジツボ、また、食用として養殖されているエビ、カニ類の生育の改良あるいは採卵に利用できる。また、該幼若ホルモンは、甲殻類の一種であるフジツボの養殖にも利用できる(特開平11−018614)。
幼若ホルモンは、昆虫の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型、寿命などの多面的な生理作用を有することが知られている。また、幼若ホルモンが、どのような生理作用を示すかは、同一種であっても、昆虫の発育ステージや生理状態によって大きく異なることが知られている。特に、幼虫期や蛹期には変態を抑制するのに対して、成虫になると逆に生殖成熟を促進するといった、一見相反するような作用を持つことが知られている。昆虫の休眠における幼若ホルモンの作用についても、休眠がどの発育ステージで起こるかによって異なる。例えば、幼虫休眠する昆虫(ニカメイガなど)では体内の幼若ホルモンが高く維持されるために休眠するが、成虫休眠する昆虫(ホソヘリカメムシなど)では逆に幼若ホルモンが低いため休眠する。よって、昆虫体内で本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAを誘導した場合、昆虫の種類、昆虫の発育ステージや生理状態によって、脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型、寿命に対する影響が異なり、促進的に作用することもあれば、抑制的に作用することもありうる。このように、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAは、昆虫の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤(促進剤または抑制剤)として広範囲な用途を有する。例えば、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAは、成虫に対する生殖成熟促進剤、休眠解除剤もしくは寿命短縮剤として、幼虫および蛹に対する変態抑制剤(幼虫・蛹形質の維持剤、好ましくは過剰脱皮剤)として、または、幼虫に対する休眠誘導剤として使用することができるが、これら用途に限定されるものではない。
以下に、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの用途を例示するが、該DNAの用途はそれらに限定されない。
本来幼若ホルモンの合成が停止する終齢幼虫において、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、幼若ホルモンの合成・分泌を継続させ、過剰幼虫脱皮を起こすことが可能である。例えば、カイコの過剰脱皮を誘起すると、通常5齢幼虫で蛹になるところが、6齢幼虫を経て大きな蛹になることが知られている。したがって、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、大きな繭を得ることが可能である。すなわち、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAは増繭剤として利用できる。また、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、他の昆虫でも通常より大型の昆虫が得られるので、より巨大で見栄えのする個体の作製に有用である。例えば、オオクワガタなどのペット昆虫や、美麗な蝶(トリバネアゲハなど)などの作製への応用が考えられる。また、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、ミツバチが生産する蜜の生産量や品質の向上が可能である。
また、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAは害虫防除剤としても利用できる。例えば、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、ハエや蚊などの衛生害虫の防除が可能である。すなわち、昆虫体内の幼若ホルモンバランスを崩して昆虫の生存に必須な生理機能を撹乱することで、農林害虫や衛生害虫を防除することができる。また、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、卵の孵化阻害(殺卵作用)、幼虫の変態阻害、蛹の羽化阻害とその後の生殖阻害、成虫の生殖阻害(雌の場合、産下卵数の減少、産下卵の孵化率の低下)を引き起こすことができる。また、胚発生の時期によっては、幼若ホルモンが誘導されていない時期がある。このような時期に、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、胚発生を抑制し、孵化阻害(殺卵作用)を引き起こすことができる。
また、アブラムシやウンカなどでは翅型に多型があり、無翅と有翅のものがいる。このような昆虫において、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を誘導することにより、無翅型化を引き起こすことが可能である。
また、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAは、昆虫以外の節足動物の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤としても使用できる。該節足動物としては、甲殻類、蜘蛛類、多足類などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
例えば、食用エビやカニの幼若ホルモン(ファルネセン酸メチル)量を増加することで、脱皮を促進して成長を早め養殖効率を高めることができる。同様に、雌雄の生殖成熟を促進し、従来採卵が困難なことから養殖の難しかった種についても養殖が可能になる。
また、JH IIIを合成する植物が知られている(Toong,Y.C.,D.A.Schooley,et al.(1988).Isolation of insect juvenile hormone III from a plant.Nature 333:170−171.)。該植物を食べたバッタは異常変態を起こすことから、JHを有する植物は昆虫抵抗性を有すると考えられる。よって、本発明の遺伝子は植物にJHを合成させ、昆虫抵抗性植物を作出する目的でも使用可能である。
本発明のDNAとしては、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNA(配列番号:1、3、5、7、および9)が例示できる。
また、本発明のDNAには、配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAが包含される。このようなDNAには、例えば、配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログ等をコードするDNA、または、配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体、アレル、バリアント、ホモログであって、実施例7に記載のモチーフ領域を少なくとも1つ(好ましくは全て)有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。ここで「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と同等の生物学的機能(生物学的性質)、生化学的機能(生化学的活性)を有することを指す。
あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製する当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al.,Molecular Cloning 2nd ed.,9.47−9.58,Cold Spring Harbor Lab.press,1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者においては、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNA配列もしくはその一部を利用して、これと相同性の高いDNAを単離することは、周知の技術である。
本発明には、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAが含まれる。このようなDNAとしては、例えば、昆虫類、甲殻類、クモ類、ダニ類、多足類(ムカデ、ヤスデ、ゲジなど)由来のホモログが挙げられるが、これらに制限されない。
また、昆虫としては、特に制限はないが、有用昆虫としては、カイコ、野蚕類(ヤママユガ、エリ蚕、テグス蚕など)、ミツバチ、ペット昆虫として、カブトムシ、オオクワガタ等、天敵としては、ナミテントウムシ、ハナカメムシ、農業害虫としては、ハスモンヨトウ、オオタバコガ、コナガ、ヨトウガ、アブラムシ類(ワタアブラムシ、モモアカアブラムシなど)、コナジラミ類(オンシツコナジラミ、シルバーリーフコナジラミなど)、アザミウマ類(ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマなど)、ハモグリバエ類(マメハモグリバエ、ナスハモグリバエなど)、カメムシ類(ホソヘリカメムシなど)、ウンカ類(トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ)、ヨコバイ類(ツマグロヨコバイなど)、カミキリムシ類、ウリミバエ、チチュウカイミバエなど、森林害虫としてはマツノマダラカミキリ、マツカレハガ、家畜害虫としてはアブ類(メクラアブ、ウシアブなど)、ハエ類(サシバエ、ノサシバエなど)、カ類、ブユ類、ヌカカ類、家屋害虫としてはシロアリ類、衛生害虫としては、カ類(アカイエカ、ヒトスジシマカなど)、ハエ類(ショウジョウバエ、イエバエ、クロバエ類、キンバエ類)、ゴキブリ類、ノミ類、シラミ類などが例示できる。
また、本発明における甲殻類としては、特に制限はなく、例えば食用とされているエビ、カニ類(クルマエビ、アメリカンロブスター、テナガエビなどのエビ類、ケガニ、ワタリガニ、タカアシガニ、アサヒガニなどのカニ類、シャコ類、ヤドカリ類、ヤシガニなど)などが挙げられる。
カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、ストリンジェントな条件が挙げられる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。本発明におけるストリンジェントな条件の一つの態様としては、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。また、本発明におけるストリンジェントな条件の別の態様としては、例えば、99.5%以上であるような相同性が高い核酸同士はハイブリダイズするが、それより相同性が低い核酸同士はハイブリダイズしないような条件が挙げられる。
また、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離することも可能である。
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードする、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と機能的に同等なタンパク質は、通常、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素とアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明のタンパク質には、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列と高い相同性を有するタンパク質も含まれる。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、より好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは98%以上の同一性を指し、塩基レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、より好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは98%以上の同一性を指す。
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
また、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなり、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質もまた本発明に含まれる。このようなアミノ酸の変異は自然界においても生じうる。変異するアミノ酸数は、アミノ酸が付加、欠失もしくは置換されるアミノ酸残基の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質の部位またはアミノ酸残基の脂累によってことなるが、好ましくは30個以内、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜15個程度を指す。
変異するアミノ酸部位としては、特に制限はないが、実施例に記載の特徴的なモチーフ部位、または保存性が高いアミノ酸部位以外の部位が変異されることが好ましい。実施例7や図5を参照することで、特徴的なモチーフ部位、または保存性が高いアミノ酸部位以外の部位を決定することができる。
また、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413、Bowie et al.,Science(1990)247,1306−1310)。
また、あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh,T.et al.(1995)Gene 152,271−275、Zoller,MJ,and Smith,M.(1983)Methods Enzymol.100,468−500、Kramer,W.et al.(1984)Nucleic Acids Res.12,9441−9456、Kramer W,and Fritz HJ(1987)Methods.Enzymol.154,350−367、Kunkel,TA(1985)Proc Natl Acad Sci USA.82,488−492、Kunkel(1988)Methods Enzymol.85,2763−2766)などを用いて、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸に適宜変異を導入することにより、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製することができる。
また、本発明のDNAを有する細胞に変異処理を行い、該細胞から、例えばカイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを選択することによっても改変されたDNAを得ることができる。
カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列に複数個のアミノ酸残基が付加されたタンパク質には、これらタンパク質を含む融合タンパク質が含まれる。融合タンパク質は、これらタンパク質と他のタンパク質とが融合したものであり、本発明に含まれる。融合タンパク質を作製するには、例えば、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、特に限定されない。
本発明のタンパク質との融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp,T.P.et al.,BioTechnology(1988)6,1204−1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−mycの断片、VSV−GPの断片、p18HIVの断片、T7−tag、HSV−tag、E−tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α−tubulinの断片、B−tag、Protein Cの断片等の公知のペプチドを使用することができる。また、本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質としては、例えば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が挙げられる。市販されているこれらタンパク質をコードするDNAを本発明のタンパク質をコードするDNAと融合させ、これにより調製された融合DNAを発現させることにより、融合タンパク質を調製することができる。
本発明のDNAは、本発明のタンパク質をコードしうるものであればいかなる形態でもよい。即ち、mRNAから合成されたcDNAであるか、ゲノムDNAであるか、化学合成DNAであるかなどを問わない。また、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するDNAが含まれる。
本発明のDNAは、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、昆虫のアラタ体、生殖腺、成虫原基、虫体全体もしくは頭部全体、また、甲殻類のファルネセン酸メチル合成器官である大顎器官(mandibular organ)、甲殻類全体もしくは頭部全体、また、クモ類、ダニ類、多足類の全体もしくは頭部全体よりcDNAライブラリーを作製し、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの一部をプローブにしてハイブリダイゼーションを行うことにより天然由来のDNAが調製できる。また、昆虫のアラタ体、生殖腺、成虫原基、虫体全体もしくは頭部全体、また、甲殻類のファルネセン酸メチル合成器官である大顎器官(mandibular organ)、甲殻類全体もしくは頭部全体、また、クモ類、ダニ類、多足類の全体もしくは頭部全体よりRNAを調製し、逆転写酵素によりcDNAを合成した後、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAに基づいてオリゴDNAを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅させることにより調製することも可能である。
mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin,J.M.et al.,Biochemistry(1979)18,5294−5299)、AGPC法(Chomczynski,P.and Sacchi,N.,Anal.Biochem.(1987)162,156−159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia社)等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia社)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社)等を用いて行うこともできる。また、5’−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)を用いた5’−RACE法(Frohman,M.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,8998−9002;Belyavsky,A.et al.,Nucleic Acids Res.(1989)17,2919−2932)に従い、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
また、本発明は、上記本発明のDNAがコードするタンパク質を提供する。本発明のタンパク質は、後述するそれを産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。しかしながら、得られたタンパク質が、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明のタンパク質を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来のタンパク質のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明のタンパク質はこのようなタンパク質も包含する。
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、組み換えタンパク質として、また天然のタンパク質として調製することが可能である。組み換えタンパク質であれば、本発明のタンパク質をコードするDNAを導入した宿主細胞(例えば大腸菌または酵母)、または該DNAを導入したリコンビナント・バキュロウイルスを感染させた昆虫培養細胞または昆虫体により、本発明のタンパク質を大量に発現させて回収するシステムを用いることが可能である。本発明のタンパク質は、イオン交換、逆相、ゲル濾過などのクロマトグラフィー、あるいは本発明のタンパク質に対する抗体をカラムに固定したアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより、または、さらにこれらのカラムを複数組み合わせることにより精製し、調製することが可能である。
また、本発明のタンパク質をグルタチオンS−トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、あるいはヒスチジンを複数付加させた組み換えタンパク質として宿主細胞(例えば、動物細胞や大腸菌など)内で発現させた場合には、発現させた組み換えタンパク質はグルタチオンカラムあるいはニッケルカラムを用いて精製することができる。融合タンパク質の精製後、必要に応じて融合タンパク質のうち、目的のタンパク質以外の領域を、トロンビンまたはファクターXaなどにより切断し、除去することも可能である。
天然のタンパク質であれば、当業者に周知の方法、例えば、昆虫のアラタ体の抽出物に対し、後述する本発明のタンパク質に結合する抗体が結合したアフィニティーカラムを作用させて精製することにより単離することができる。抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
また、本発明は、上記幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を抑制するDNAを提供する。このようなDNAとしては、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAに対するアンチセンスRNAをコードするDNA、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするDNAなどを挙げることができる。
幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を抑制するDNAもまた、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAと同様に、節足動物(好ましくは昆虫)の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤として使用できる。すなわち、昆虫体内で幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を抑制するDNAを誘導した場合、昆虫の種類、昆虫の発育ステージや生理状態によって、脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型、寿命に対する影響が異なり、促進的に作用することもあれば、抑制的に作用することもありうる。例えば、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を抑制するDNAは、成虫に対する生殖成熟抑制剤、休眠誘導剤もしくは寿命延長剤、または、幼虫に対する休眠抑制剤もしくは変態誘導剤(好ましくは早期変態誘導剤)として使用できるが、これら用途に限定されるものではない。
以下に、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を抑制するDNAの用途を例示するが、該DNAの用途はそれらに限定されない。
幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性が終齢幼虫になると低下する結果、幼若ホルモンの合成・分泌が停止し、血中の幼若ホルモンが消失し、変態が起こることが知られている。よって、昆虫(完全変態昆虫、不完全変態昆虫のいずれも)の終齢以前の幼虫期において、上記DNAにより、幼若ホルモンの合成を抑制することで、早期変態を任意に誘導することができる。例えば、カイコでは幼若ホルモンの分泌器官であるアラタ体を摘出すると、早期変態が誘起され、通常5齢で蛹になるところが、4齢あるいは3齢で蛹になり、著しく小型の成虫が得られることがある。早期変態した成虫は、通常妊性がない。よって、上記DNAにより、害虫の幼若ホルモンの合成を抑制することで、次世代の害虫の駆除が可能となる。例えば、農業害虫、衛生害虫の幼虫に対して早期に変態を誘導して、加害時期を短縮することで、それら害虫の防除を行うことができる。また、成虫に対しては生殖成熟(卵形成など)を抑制することで農業害虫、衛星害虫の防除を行うことが可能である。このように本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を抑制するDNAは害虫防除剤として利用できる。
本発明における害虫としては、農業害虫としては、ハスモンヨトウ、オオタバコガ、コナガ、ヨトウガ、アブラムシ類(ワタアブラムシ、モモアカアブラムシなど)、コナジラミ類(オンシツコナジラミ、シルバーリーフコナジラミなど)、アザミウマ類(ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマなど)、ハモグリバエ類(マメハモグリバエ、ナスハモグリバエなど)、カメムシ類(ホソヘリカメムシなど)、ウンカ類(トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ)、ヨコバイ類(ツマグロヨコバイなど)、カミキリムシ類、ウリミバエ、チチュウカイミバエなど、森林害虫としてはマツノマダラカミキリ、マツカレハガ、家畜害虫としてはアブ類(メクラアブ、ウシアブなど)、ハエ類(サシバエ、ノサシバエなど)、カ類、ブユ類、ヌカカ類、家屋害虫としてはシロアリ類、衛生害虫としては、カ類(アカイエカ、ヒトスジシマカなど)、ハエ類(ショウジョウバエ、イエバエ、クロバエ類、キンバエ類)、ゴキブリ類、ノミ類、シラミ類が例示できるが、これらに限定されるものではない。
また、カメムシなどの成虫においては、上記DNAにより、幼若ホルモンの合成を抑制することで、生殖成熟の抑制、休眠の誘導を引き起こすことが可能である。また、アブラムシやウンカなどでは翅型に多型があり、無翅と有翅のものがいる。本来、無翅型になるアブラムシ幼虫やウンカ幼虫に上記DNAを発現させることにより有翅型を作製できる。また、幼若ホルモンの分泌を成虫期に止めると、一種の休眠状態に入って生殖成熟がとまり、寿命が延びる現象がショウジョウバエやオオカバマダラといった昆虫で知られている。従って、これらの昆虫では、上記DNAにより、幼若ホルモンの合成を抑制することで、寿命を延長することが可能である。また、この現象を応用して、上記DNAにより、幼若ホルモンの合成を抑制することで、天敵昆虫(例えばテントウムシ)などを任意に休眠状態にして長期間貯蔵することが可能である。また、ミツバチの働き蜂では、加齢とともに幼若ホルモン濃度があがり、仕事の内容(行動)が変わることが知られている(笹川浩美(1999)環境昆虫学−行動・生理・化学生態 東京大学出版会 p143−172)。したがって、幼若ホルモンの合成を抑制すればミツバチの働き蜂の行動を制御できる。
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上:新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現(日本生化学会編,東京化学同人)pp.319−347,1993)。
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用により標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法を用いることで、所望の生物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換される生物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンスDNAの長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことを指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子:蛋白質核酸酵素,35:2191,1990)。
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi M,et al:FEBS Lett 228:228,1988)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi M,et al:FEBS Lett 239:285,1988、小泉誠および大塚栄子:蛋白質核酸酵素35:2191,1990、Koizumi M,et al:Nucl Acids Res 17:7059,1989)。例えば、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNA(配列番号:1、3、5、7、または9)中には、標的となり得る部位が複数存在する。
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan JM:Nature 323:349,1986)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi Y & Sasaki N:Nucl Acids Res 19:6751,1991、菊池洋:化学と生物30:112,1992)。
標的を切断できるように設計されたリボザイムは、例えば、昆虫細胞中で任意の時期に転写されるように、ヒートショックプロモーターまたはテトラサイクリン応答性プロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。このとき、転写されたRNAの5’端や3’端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われることがあるが、こういった場合は、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5’側や3’側にシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(Taira K,et al:Protein Eng 3:733,1990、Dzianott AM & Bujarski JJ:Proc Natl Acad Sci USA 86:4823,1989、Grosshans CA & Cech TR:Nucl Acids Res 19:3875,1991、Taira K,et al:Nucl Acids Res 19:5125,1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにすることで、より効果を高めることもできる(Yuyama N,et al:Biochem Biophys Res Commun 186:1271,1992)。このように、リボザイムを用いて本発明における標的遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を抑制することができる。
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA interferance(RNAi)によっても行うことができる。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。RNAiの機構の詳細は明らかではないが、最初に導入した二本鎖RNAが小片に分解され、何らかの形で標的遺伝子の指標となることにより、標的遺伝子が分解されると考えられている。RNAiは昆虫においても効果を奏することが知られている(Kennerdell,J.R.& Carthew,R.W.:Nat.Biotechnol.18:896,2000;Piccin,A.et al.:Nucleic Acid Res.29:E55,2001;Bettencourt,R.et al.:Insect Mol.Biol.11:267,2002;Hughes,C.L.& Kaufman,T.C.:Development 127:8683,2000)。
本発明のDNAは、標的配列のインバーテッドリピートの間に適当な配列(イントロン配列が望ましい)を挿入し、ヘアピン構造を持つダブルストランドRNA(self−complementary ‘hairpin’ RNA(hpRNA))を作るようなコンストラクト(Smith,N.A.et al.Nature,407:319,2000、Wesley,S.V.et al.Plant J.27:581,2001、Piccin,A.et al.Nucleic Acids Res.29:E55,2001)として使用することが好ましい。
RNAiに用いるDNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。また、配列の同一性は上述した手法により決定できる。
本発明は、また、本発明のDNAが挿入されたベクターを提供する。該ベクターとしては、例えば、任意の時期に誘導可能なプロモーターの下流に、本発明のDNAが結合した(機能的に結合した)ベクターが挙げられる。ここで、「機能的に結合した」とは、上記任意の時期に誘導可能なプロモーター領域に転写因子が結合することにより、本発明のDNAの発現が誘導されるように、上記任意の時期に誘導可能なプロモーター領域と本発明のDNAとが結合していることをいう。従って、本発明のDNAが他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、上記任意の時期に誘導可能なプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。本発明のDNAが挿入されたベクターは、節足動物(好ましくは昆虫)の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤として利用することができる。
また、上記任意の時期に誘導可能なプロモーターとしては、例えば、ヒートショックプロモーターまたはテトラサイクリン応答性プロモーターなどが挙げられる。ヒートショックプロモーターまたはテトラサイクリン応答性プロモーターなど任意の時期に誘導可能なプロモーターの下流に、本発明のDNAが結合したベクターのコンストラクトは、文献(Uhlirova M et al.:Dev.Genes.Evol.,212:145−151、Bello,B.et al.:Development 125,2193−2202,1998)を参考に作製し、使用することができる。
また、本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持させたり、本発明のタンパク質を発現させるために利用することもできる。このようなベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR−Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM−T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
本発明のタンパク質を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1−Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら,Nature(1989)341,544−546;FASEB J.(1992)6,2422−2427)、araBプロモーター(Betterら,Science(1988)240,1041−1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX−5X−1(ファルマシア社製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
また、ベクターには、タンパク質分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。タンパク質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei,S.P.et al J.Bacteriol.(1987)169,4379)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
大腸菌以外にも、例えば、本発明のタンパク質を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロゲン社製)や、pEGF−BOS(Nucleic Acids.Res.1990,18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac−to−BAC baculovairus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP−Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら,Nature(1979)277,108)、MMLV−LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら,Nucleic Acids Res.(1990)18,5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning,5.61−5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
また、本発明は、本発明のベクターが導入された宿主細胞を提供する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明のタンパク質の製造や発現のための産生系として使用することができる。タンパク質製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J.Exp.Med.(1995)108,945)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle,et al.,Nature(1981)291,358−340)、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞であるdhfr−CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,4216−4220)やCHO K−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1968)60,1275)を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞がタンパク質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりタンパク質が得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
一方、in vivoでタンパク質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内でタンパク質を産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser,SPECTRUM Biotechnology Applications,1993)。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
例えば、目的とするDNAを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のタンパク質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるタンパク質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert,K.M.et al.,Bio/Technology(1994)12,699−702)。
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のタンパク質をコードするDNAを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のタンパク質を得ることができる(Susumu,M.et al.,Nature(1985)315,592−594)。
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするタンパク質をコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のタンパク質を得ることができる(Julian K.−C.Ma et al.,Eur.J.Immunol.(1994)24,131−138)。
これにより得られた本発明のタンパク質は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual.Ed Daniel R.Marshak et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたタンパク質も包含する。
なお、タンパク質を精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
また、本発明は、本発明のDNAまたは本発明のベクターで形質転換された個体を提供する。このような個体としては、上述の個体が例示できるが、好ましくは形質転換された節足動物個体、より好ましくは昆虫個体が挙げられる。piggyBacなどの新しいトランスポゾンを使うことによって、色々な昆虫での形質転換が可能になっている(Handler A.M.Insect Biochem.Molec.Biol.31:118−128.,2001、Atkinson,P.W.&James,A.A.Adv.Genet.47:49−86.,2002.、Tamura,T.Nature Biotechnol.18:81−84,2000.)。
例えば、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAをヒートショックプロモーターまたはテトラサイクリン応答性プロモーターなど任意の時期に誘導可能なプロモーターの下流に結合させたDNAが導入された形質転換昆虫を作成することで、該幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を任意に誘導することができる。これにより、本来幼若ホルモンの合成の停止する終齢幼虫において、幼若ホルモンの合成・分泌を継続させ、過剰幼虫脱皮を起こすことが可能である。
また、例えば、本発明の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAに対するアンチセンス、センスまたはダブルストランドRNAをコードするDNAを、ヒートショックプロモーターまたはテトラサイクリン応答性プロモーターなどの任意の時期に誘導可能なプロモータの下流に結合させたDNAが導入された形質転換昆虫を作成することで、該幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードするDNAの発現を任意に停止し、これにより虫体内の幼若ホルモンの濃度を自在に低下できる。例えば、該形質転換昆虫の終齢以前の幼虫期において、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子の発現を抑制することで、幼若ホルモンの合成を抑制し、早期変態を任意に誘導できる。
また、本発明は、本発明のタンパク質と結合する抗体を提供する。本発明の抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体変異体、これらの断片等が例示できる。
これらの抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
また、本発明において、「抗体変異体」とは、1またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列バリアントを指す。どのように改変されたアミノ酸バリアントであれ、元となった抗体と同じ結合特異性を有すれば、本発明における「抗体変異体」に含まれる。このような変異体は、抗体の重鎖若しくは軽鎖の可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列相同性または類似性を有するアミノ酸配列と100%よりも少ない配列相同性、または類似性を有する。
本発明はまた、本発明のDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを提供する。
ここで「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは本明細書に記載したものを使用すればよい。また、「オリゴヌクレオチド」にはポリヌクレオチドも含まれる。
本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードするDNAの検出や増幅に用いるプローブやプライマー、該DNAの発現を検出するためのプローブやプライマーとして使用することができる。また、本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAアレイの基板の形態で使用することができる。
該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。また、プライマーとして用いる場合、3’側の領域は相補的とし、5’側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、本発明のDNAまたはその相補鎖の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
本発明者らは、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を単離した。これにより、該遺伝子を組み込んだプラスミド等のベクターDNAで形質転換した大腸菌、酵母などで組換えタンパク質を大量に合成し、それを利用して容易かつ安価に、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素に結合する化合物、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素の活性または発現を制御する化合物のスクリーニングを行うことが可能となった。従って、本発明は、このような化合物のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物は、節足動物(好ましくは昆虫)の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤として利用できる。また、スクリーニングにより、昆虫成長制御剤(「植物防疫講座第3版害虫・有害動物編 日本植物防疫協会 132ページ」や「農薬ハンドブック2001年度版、日本植物防疫協会 平成13年度 第11版、127ページ」)に該当する化合物も得られる。ここで、昆虫成長制御剤(Insect growth regulator;IGR)とは、昆虫に特異的に作用する薬剤であって、脱皮・変態をかく乱することにより、直接的に殺虫作用を示したり、また、殺卵作用や雌成虫の不妊化作用により次世代の虫数を減少させる作用を示す薬剤を意味するが、より詳細な定義は、上記文献を参照されたい。
本発明のスクリーニング方法の一つの態様は、本発明のタンパク質に結合する化合物のスクリーニングに関するものである。このような方法としては、本発明のタンパク質に被験化合物を接触させ、該タンパク質と被験化合物との結合を検出し、そして本発明のタンパク質に結合する化合物を選択する工程を含む。
スクリーニングに用いられる本発明のタンパク質は組換えタンパク質であっても、天然由来のタンパク質であってもよいが、好ましくは組換えタンパク質である。また、スクリーニングに用いられる本発明のタンパク質は部分ペプチドであってもよい。
被験化合物としては特に制限はなく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製タンパク質、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。被験化合物を接触させる本発明のタンパク質は、例えば、精製したタンパク質として、可溶型タンパク質として、担体に結合させた形態として、他のタンパク質との融合タンパク質として被験化合物に接触させることができる。
本発明のタンパク質を用いて、これに結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、当業者に公知の多くの方法を用いることが可能である。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により行うことができる。具体的には、以下のように行うことができる。本発明のタンパク質をコードするDNAを、pSV2neo,pcDNA I,pCD8などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしてはSV40 early promoter(Rigby In Williamson(ed.),Genetic Engineering,Vol.3.Academic Press,London,p.83−141(1982))等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。
動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法(Chu,G.et al.Nucl.Aeid Res.15,1311−1326(1987))、リン酸カルシウム法(Chen,C and Okayama,H.Mol.Cell.Biol.7,2745−2752(1987))、DEAEデキストラン法(Lopata,M.A.et al.Nucl.Acids Res.12,5707−5717(1984);Sussman,D.J.and Milman,G.Mol.Cell.Biol.4,1642−1643(1985))、リポフェクチン法(Derijard,B.Cell 7,1025−1037(1994);Lamb,B.T.et al.Nature Genetics 5,22−30(1993);Rabindran,S.K.et al.Science 259,230−234(1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。
特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を本発明のタンパク質のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合タンパク質として本発明のタンパク質を発現させることができる。用いるエピトープ−抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学13,85−90(1995))。マルチクローニングサイトを介して、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現することができるベクターが市販されている。
融合タンパク質にすることにより本発明のタンパク質の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合タンパク質を調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His−tag)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc−myc、FLAG、Vesicular stomatitisウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7 gene10タンパク質(T7−tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−tag)、E−tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、本発明のタンパク質に結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ−抗体系として利用できる(実験医学13,85−90(1995))。
免疫沈降においては、これらの抗体を、適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体は本発明のタンパク質、それと結合能を有するタンパク質、および抗体からなる。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、本発明のタンパク質に対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。本発明のタンパク質に対する抗体は、例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させたタンパク質を精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成した本発明のタンパク質の部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、本発明のタンパク質を、例えば、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製した場合には、グルタチオン−Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して、本発明のタンパク質の抗体を利用した場合と同様に、免疫複合体を形成させることができる。
免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E.and Lane,D.:Antibodies,pp.511−552,Cold Spring Harbor Laboratory publications,New York(1988))記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
免疫沈降されたタンパク質の解析にはSDS−PAGEが一般的であり、適当な濃度のゲルを用いることでタンパク質の分子量により結合していたタンパク質を解析することができる。また、この際、一般的には本発明のタンパク質に結合したタンパク質は、クマシー染色や銀染色といったタンパク質の通常の染色法では検出することは困難であるので、放射性同位元素である35S−メチオニンや35S−システインを含んだ培養液で細胞を培養し、該細胞内のタンパク質を標識して、これを検出することで検出感度を向上させることができる。タンパク質の分子量が判明すれば直接SDS−ポリアクリルアミドゲルから目的のタンパク質を精製し、その配列を決定することもできる。
また、本発明のタンパク質を用いて、該タンパク質に結合するタンパク質を単離する方法としては、例えば、ウエストウエスタンブロッティング法(Skolnik,E.Y.et al.,Cell(1991)65,83−90)を用いて行うことができる。すなわち、本発明のタンパク質と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞、組織よりファージベクター(λgt11,ZAPなど)を用いたcDNAライブラリーを作製し、これをLB−アガロース上で発現させフィルターに発現させたタンパク質を固定し、精製して標識した本発明のタンパク質と上記フィルターとを反応させ、本発明のタンパク質と結合したタンパク質を発現するプラークを標識により検出すればよい。本発明のタンパク質を標識する方法としては、ビオチンとアビジンの結合性を利用する方法、本発明のタンパク質又は本発明のタンパク質に融合したタンパク質(例えばGSTなど)に特異的に結合する抗体を利用する方法、ラジオアイソトープを利用する方法又は蛍光を利用する方法等が挙げられる。
また、本発明のスクリーニング方法の他の態様としては、細胞を用いた2−ハイブリッドシステム(Fields,S.,and Sternglanz,R.,Trends.Genet.(1994)10,286−292、Dalton S,and Treisman R(1992)Characterization of SAP−1,a protein recruited by serum response factor to the c−fos serum response element.Cell 68,597−612、「MATCHMARKER Two−Hybrid System」,「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One−Hybrid System」(いずれもクロンテック社製)、「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(ストラタジーン社製))を用いて行う方法が挙げられる。
2−ハイブリッドシステムにおいては、本発明のタンパク質またはその部分ペプチドをSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させ、本発明のタンパク質と結合するタンパク質を発現していることが予想される細胞より、VP16またはGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製し、これを上記酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリー由来cDNAを単離する(酵母細胞内で本発明のタンパク質と結合するタンパク質が発現すると、両者の結合によりレポーター遺伝子が活性化され、陽性のクローンが確認できる)。単離したcDNAを大腸菌に導入して発現させることにより、該cDNAがコードするタンパク質を得ることができる。これにより本発明のタンパク質に結合するタンパク質またはその遺伝子を調製することが可能である。
2−ハイブリッドシステムにおいて用いられるレポーター遺伝子としては、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI−1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。2ハイブリッド法によるスクリーニングは、酵母の他、哺乳動物細胞などを使って行うこともできる。
本発明のタンパク質と結合する化合物のスクリーニングは、アフィニティクロマトグラフィーを用いて行うこともできる。例えば、本発明のタンパク質をアフィニティーカラムの担体に固定し、ここに本発明のタンパク質と結合するタンパク質を発現していることが予想される被験化合物を適用する。この場合の被験化合物としては、例えば細胞抽出物、細胞溶解物等が挙げられる。被験化合物を適用した後、カラムを洗浄し、本発明のタンパク質に結合したタンパク質を調製することができる。
得られたタンパク質は、そのアミノ酸配列を分析し、それを基にオリゴDNAを合成し、該DNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、該タンパク質をコードするDNAを得ることができる。
また、タンパク質に限らず、本発明のタンパク質に結合する化合物を単離する方法としては、例えば、固定した本発明のタンパク質に、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、本発明のタンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法が当業者に公知である。
本発明において、結合した化合物を検出又は測定する手段としては、例えば被験化合物に付した標識を利用することにより行うことができる。標識の種類は、例えば、蛍光標識、放射標識等が挙げられる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは、本発明のタンパク質と被験化合物との間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることにより本発明のタンパク質と被験化合物との結合を評価することが可能である。
上記スクリーニングにより得られた化合物には、本発明のタンパク質の活性を制御する化合物や、本発明のDNAの発現を制御する化合物などが含まれる。本発明においては、上記スクリーニングにより得られた化合物を、後述のスクリーニング方法の被験化合物として使用することもできる。
本発明におけるスクリーニング方法の別の態様は、本発明のタンパク質の活性を制御する化合物のスクリーニングに関するものである。このような方法としては、まず、本発明のタンパク質に被験化合物を接触させる。本発明のタンパク質の状態としては、特に制限はなく、例えば、精製された状態、細胞内に発現した状態、細胞抽出液内に発現した状態などであってもよい。
また、本発明のタンパク質が発現している細胞としては、内在性の本発明のタンパク質を発現している細胞、または外来性の本発明のタンパク質を発現している細胞が挙げられる。上記外来性の本発明のタンパク質を発現している細胞は、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを細胞に導入することで作製できる。ベクターの細胞への導入は、当業者に一般的な方法によって実施することができる。また、上記外来性の本発明のタンパク質を有する細胞は、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAを、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により、染色体へ挿入することで作製することができる。このような外来性の本発明のタンパク質が導入される細胞が由来する生物種としては、特に限定されず、外来タンパク質を細胞内に発現させる技術が確立されている生物種であればよい。
また、本発明のタンパク質が発現している細胞抽出液は、例えば、試験管内転写翻訳系に含まれる細胞抽出液に、本発明のタンパク質をコードするDNAを含むベクターを添加したものを挙げることができる。該試験管内転写翻訳系としては、特に制限はなく、市販の試験管内転写翻訳キットなどを使用することが可能である。
また、本発明において「接触」は、本発明のタンパク質の状態に応じて行う。例えば、本発明のタンパク質が精製された状態であれば、精製標品に被験化合物を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被験化合物を添加することにより行うことができる。被験化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、本発明のタンパク質が発現している細胞へ導入する、または該ベクターを本発明のタンパク質が発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
別の態様では、次いで、上記本発明のタンパク質の活性を測定する。次いで、被験化合物を投与していない場合と比較して、該本発明のタンパク質の活性を上昇または減少させる化合物を選択する。
本発明のタンパク質の活性としては、幼若ホルモン生成活性が挙げられる。例えば、実施例記載のように、JH I酸、JH II酸、JH III酸およびファルネセン酸などの幼若ホルモン酸を基質とした場合、反応液中にそれぞれに対応した活性型の幼若ホルモン、すなわち、JH I、JH II、JH IIIおよびファルネセン酸メチルの生成を確認することで、本発明のタンパク質の活性を測定できる。また、実施例に記載したHPLC分析の他、GC,GC/MS,LC/MS,RIA,生物検定法等を利用して、本発明のタンパク質の活性を測定することもできる(大滝哲也、生理活性物質のバイオアッセイ、講談社、p.373−380.、1984;Rembold,H and Lackner,B.;J.Chromatogr.323:355−361,1985)。また、幼若ホルモン酸を含む反応液中のS−アデノシルメチオニンの減少量またはS−アデノシルホモシステインの生成量を各種の方法により測定することでも本発明のタンパク質の活性を測定できる。例えば、反応液中にアデノシルホモシステイン加水分解酵素(AdoHcy hydrolase)とアデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase)を共存させ、生成したS−アデノシルホモシステインを最終的にイノシンに変換し、S−アデノシルメチオニンからイノシンへの変換によって起こる265nmでの吸光度の減少を測定することで行うことができる(Ogawa H.et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85,694−698)。
上記スクリーニング方法としては、例えば、以下のような方法で実施できる。JH I酸、JH II酸、JH III酸またはファルネセン酸を含む反応液に被験化合物をあらかじめ混合して酵素反応を行い、反応後に生産された幼若ホルモン量を被験化合物を含まない場合と比較する。JH I酸、JH II酸、JH III酸またはファルネセン酸を含む反応液の組成は、実施例に記載しているものを使用することができる。
本発明におけるスクリーニング方法の別の態様は、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを制御する化合物のスクリーニングに関するものである。このような方法としては、まず、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。ここで、「機能的に結合した」とは、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、本発明のタンパク質をコードするDNAもまた含まれる。
別の態様においては、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被験化合物を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
また、本発明のタンパク質をコードする遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
また、本発明のタンパク質をコードする遺伝子からコードされる本発明のタンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該本発明のタンパク質の発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、本発明のタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法などを実施し、該本発明のタンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
別の態様においては、次いで、被験化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する。
本発明におけるスクリーニング方法のその他の態様としては、まず、昆虫個体または培養組織に被験化合物を接触させる。培養組織としては、アラタ体の培養組織が好適である。別の態様では、次いで、該昆虫個体または該培養組織における本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定する。具体的には、被験化合物を接触させた昆虫個体または培養組織から、一定時間後にRNAを抽出し、該遺伝子の発現量を、定量的PCR、DNAマイクロアレイ、ノーザンなどで測定する。別の態様では、次いで、被験化合物を投与していない場合と比較して、該遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する。
【図面の簡単な説明】
図1は、昆虫および甲殻類に見られる幼若ホルモンとその前駆体の酸、および本発明による酵素の酵素反応を示す図である。JHAMTは幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を、AdoMetはS−アデノシルメチオニンを、AdoHcyはS−アデノシルホモシステインを示す。幼若ホルモン酸においてRおよびRは、JH I酸ではR=CH,R=CH、JH II酸ではR=CH,R=H、JH III酸ではR=H,R=Hを示す。また、幼若ホルモンにおいてRおよびRは、JH IではR=CH,R=CH、JH IIではR=CH,R=H、JH IIIではR=H,R=Hを示す。
図2は、逆相HPLCによる幼若ホルモンの検出を示す図である。上から順に、JH III、JH II、JH I、ファルネセン酸メチルの検出を示す。
図3は、本発明による組換え酵素タンパク質のSDS電気泳動を示す写真である。レーン1及び4は、pET28aプラスミドで形質転換した大腸菌の粗抽出物可溶性画分(対照区)を示す。レーン2は、カイコ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を含むpET28aプラスミドで形質した大腸菌粗抽出物を示す。レーン3は、精製したカイコ由来組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質の可溶性画分を示す。レーン5は、ショウジョウバエ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を含むpET28aプラスミドで形質した大腸菌粗抽出物を示す。レーン6は精製したショウジョウバエ由来組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を示す。矢印は、組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を示す。
図4は、本発明による組み換えタンパク質の酵素活性を示す図である。Sは標準幼若ホルモン物質である。Jは、JH III酸(a)、JH II酸(b)、JH III酸(c)またはファルネセン酸(d)のいずれかとS−アデノシルメチオニンを基質としてカイコ由来組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素によって生じた反応産物である。それぞれの基質に対応した幼若ホルモン、すなわちJH III(a)、JH II(b)、JH III(c)、またはファルネセン酸メチル(d)の生成が認められる。Cは、Jと同じ基質を含む反応液中に酵素を加えない場合の反応産物である。幼若ホルモンの生成は全く起こらない。
図5は、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、オオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列をマルチプルアライメントした結果を示す図である。図中Slはハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、Agは蚊(Anopheles gambiae)、Haはオオタバコガ(Helicoverpa armigera)、Bmはカイコ(Bombyx mori)、Dmはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(1) HPLCによる幼若ホルモン類の検出
逆相カラム(CAPCELL PAK C18 UG80 S−5,3 x 150mm,Shiseido)をHPLC装置(JASCO)に取り付け、紫外検出器で217nmの吸光度を測定することにより、幼若ホルモン類の検出を行った。なお、この際流速は0.5ml/min、カラム保持温度は40℃で、60%アセトニトリルまたは80%アセトニトリルで20分間サンプルを流した。
(実施例1) カイコの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子のクローニング
アラタ体は極めて微細な組織なため(カイコの終齢幼虫でも直径0.1mm程度)、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子のクローニングに必要な量のアラタ体由来RNAを得るために、多数の個体を解剖してアラタ体を集める必要がある。カイコは、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウやオオタバコガといった害虫に比べて大型で解剖がしやすく、また、アラタ体のサイズも大きい。さらに、人工飼料による大量飼育方法が確立されているので、実験に必要な発育ステージの揃った幼虫を大量に集めることが容易である。そこで、本発明者らは、まずカイコの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子のクローニングを行った。
4齢初期〜蛹まで24段階の発育ステージ(1ステージにつき約40頭x24ステージで、約1000頭解剖した)に分別したカイコのアラタ体から抽出したRNAを鋳型とし、5’末端をローダミンでラベルしたFP1プライマー(配列番号:11)を用いた逆転写反応によって24種のcDNAを作成した。このcDNAを鋳型として、蛍光プライマーFP1と任意の配列を持つデカマー(合計24種を使用)を用いてPCR反応を行うことにより、蛍光ラベル化cDNAを増幅した。増幅したcDNAを変成アクリルアミドゲルで分離後、蛍光イメージアナライザー(FMBIO II,Takara社)でスキャンし、cDNAバンドを検出した。本発明者らは、さまざまな発育特異的発現パターンを示す約400本のcDNAバンドを調べた。その結果、プライマーFP1とプライマーUP1(配列番号:12)との組み合わせで増幅したcDNAにおいて、4齢幼虫期には継続して発現するが、5齢幼虫の3日目以後に消失する1本の蛍光バンドを発見した。この蛍光バンドからcDNA断片を抽出し、その塩基配列を決定した。
決定した塩基配列に基づいてプライマーを設計し、さらにRT−PCRの変法の1種である5’RACEおよび3’RACEを、SMART RACE cDNA Amplification Kit(CLONTECH社)を用いて行うことにより、このcDNAの全長をクローニングした。なお、3’−RACEにおいてはBM3Rプライマー(配列番号:13)を用いて全塩基配列の1880〜2890番目の領域を増幅し、5’−RACEにおいてはBM5Rプライマー(配列番号:14)を用いて全塩基配列の1〜1904番目の領域を増幅し、塩基配列を決定した(配列番号:1)。
以上のように、蛍光mRNAディファレンシャルディスプレイ法、5’−RACEおよび3’−RACEによりクローニングした領域を重ね合わせて、カイコの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のcDNAの全長を決定した。
(実施例2) 幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を組み込んだ発現ベクターの作成
(実施例1)に記載の方法に従って単離した遺伝子のオープンリーディングフレームを含む領域を、カイコ4齢幼虫のアラタ体由来のcDNAを鋳型とし、BMJFプライマー(配列番号:15)とBMJRプライマー(配列番号:16)を用いたPCRによって増幅し、増幅されたDNAを制限酵素NdeIとBamHIで切断後、ヒスチジンタグ融合タンパク質作成用の大腸菌発現ベクターpET−28a(+)(Novagen社)のNdeI−BamHIサイトにクローニングした。
(実施例3) 組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質の調製
作成したプラスミドをエレクトロポレーション法により、大腸菌株BL21(DE3)に導入し、形質転換された大腸菌株を得た。この形質転換された大腸菌株をカナマイシン50μg/mlを含むLB培地(5ml)で37℃で一晩振とう培養し、その培養液0.2mlを、液体培地200mlに加えて20℃で24時間、振とう培養した。培養液から増殖した菌体を遠心分離(3500rpm,10分、4℃)により回収し、−30℃で凍結した。凍結した菌体を室温で融解後、培養液50ml当たり5mlのバッファー(50mM Tris−Cl,pH7.5)を加えてけん濁後、冷却条件下で超音波によって破砕した。これを遠心分離後(14000rpm,15分,4℃)、上精を採取し、0.45μmのフィルターで濾過後、ヒスチジンタグ融合タンパク質精製キット(HiTrap Kit、Amersham社)によって組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素を精製した。溶出した組換えタンパク質は、脱塩カラム(PD−10、Amersham社)を用いて、イミダゾールを除去後、25mM Tris−Clバッファー、pH7.5、50%グリセロール溶液として−30℃に保存した。収量は、培養液50mlから、約4mg(総液量7ml)であった(図3)。
(実施例4) 組換え幼若ホルモン酸メチル基転移酵素による幼若ホルモンの合成
シリコン処理したガラス試験管(10x150mm)に、トルエンに溶かしたJH I酸、JH II酸、JH III酸、またはファルネセン酸のいずれかの幼若ホルモン酸100μgをガラスキャピラリーで移し、窒素気流下、溶媒を除去する。これに、バッファー(50mM Tris−Cl,pH7.5)800μlおよび10mM S−アデノシルメチオニン溶液100μlを加えてよく混合後、25℃の恒温水槽中で5分間放置する。これに、(実施例3)の方法で得られた組換えタンパク質液100μlを加え、酵素反応を開始した。10分後に、反応停止液(メタノール:水:濃アンモニア水、10:9:1)250μlを加えて酵素反応を停止した後、イソオクタン1mlを加えてよく混合後、遠心分離(2000rpm、15分、室温)によって有機溶媒相と水相を分離し、有機溶媒相100μlを小型のバイアルにグラスキャピラリーで移し、窒素気流により溶媒除去後、残さを100μlのアセトニトリルに溶解し、逆相HPLCを用いた方法により、合成された幼若ホルモンを分析した。その結果、JH I酸、JH II酸、JH III酸およびファルネセン酸を基質とした場合、反応液中にそれぞれに対応した活性型の幼若ホルモン、すなわち、JH I、JH II、JH IIIおよびファルネセン酸メチルが生成することが確認された(図4)。緩衝液:Tris−HCl(50mM,pH7.5)、反応温度:25℃、基質:S−アデノシルメチオニン1mM、各JH酸100μM条件下で測定した組換えカイコJHAMTのJHI酸、JHII酸、JHIII酸、ファルネセン酸に対する分子活性(1分間に酵素1分子が反応産物に変える基質の分子数)は、それぞれ、1.80±0.32,1.65±0.23,0.79±0.06,0.48±0.07(平均値±標準偏差、n=3)であった。なお、飽和直鎖脂肪酸または不飽和直鎖脂肪酸を基質とした場合、本酵素によるメチルエステル化は認められず、本酵素の反応は幼若ホルモン酸に対して基質特異的であった。
(実施例5) ショウジョウバエおよび蚊の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子のクローニング
配列番号:2に示したカイコ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列を用いて、BLASTプログラムによってショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)およびマラリアの重要なベクターである蚊(Anopheles gambiae)の全ゲノムデータベースの検索を行った。その結果、ショウジョウバエゲノムからは、カイコ幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列(配列番号:2)と38%の一致率を示す配列番号:4に示すアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号:3)を見いだした。
ショウジョウバエ成虫全体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAを鋳型として、DMJFプライマー(配列番号:17)とDMJRプライマー(配列番号:18)を用いたPCRによってショウジョウバエ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子のコーディング領域を増幅し、(実施例2)と同様の方法によって作成した発現ベクターを用いて、(実施例3)と同様の方法によって作成した組換えタンパク質の活性を、(実施例4)と同様の方法によって調べることで、本遺伝子がコードするタンパク質が幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを確認した。緩衝液:Tris−HCl(50mM,pH7.5)、反応温度:25℃、基質:S−アデノシルメチオニン1mM、各JH酸100μM条件下で測定した組換えショウジョウバエJHAMTのJH I酸、JHII酸、JHIII酸、ファルネセン酸に対する分子活性は、それぞれ、2.67±0.44,2.07±0.26,1.76±0.13,2.3±0.51(平均値±標準偏差、n=3)であった。
また、本発明者は、データベースを用いて、蚊の全ゲノム配列中から、カイコ幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列と38%、ショウジョウバエの該酵素のアミノ酸配列と47%の一致率を示す配列番号:6に示すアミノ酸配列をコードする蚊由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素をコードする遺伝子(配列番号:5)を見いだした。幼若ホルモン酸メチル基転移酵素が昆虫の生存に必須で該遺伝子が蚊のゲノム中にも必ず存在すること、また蚊の全ゲノム中に他に類似の配列を持つ遺伝子は存在しないことから、本遺伝子が蚊の該酵素をコードすることは自明である。
(実施例6) 鱗翅目害虫の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子のクローニング
多くの農作物を加害する重要害虫であるハスモンヨトウ(Spodoptera litura)およびオオタバコガ(Helicoverpa armigera)の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子は以下のようにしてクローニングした。
配列番号:2に示したカイコ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列と、配列番号:4に示したショウジョウバエ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列を比較し、両者のよく保存されたアミノ酸配列領域に基づいて2種のディジェネレートプライマー、すなわち正方向のプライマーとしてDGJFプライマー(配列番号:19;アミノ酸配列のMVKYANKHをコード)、および逆方向のプライマーとしてDGJRプライマー(配列番号:20;アミノ酸配列のFDHVFSFYをコード)を作成した。これらのプライマーを用いてハスモンヨトウ終前齢幼虫またはオオタバコガ終前齢幼虫のアラタ体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAを鋳型として、それぞれPCR反応を行い、約120bpのサイズを有するDNA断片を得、それらの塩基配列を決定した。決定した塩基配列に基づいて特異的プライマーを設計し、さらにRT−PCRの変法の1種である5’RACEおよび3’RACEを、SMART RACE cDNA Ampliffication Kit(CLONTECH社)を用いて行うことにより、ハスモンヨトウおよびオオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のコーディング領域全体を含むcDNAをクローニングした。
なお、ハスモンヨトウ由来該遺伝子の3’−RACEにおいてはSL3Rプライマー(配列番号:21)を用いて全塩基配列の366〜994の領域を増幅し、5’−RACEにおいてはSL5Rプライマー(配列番号:22)を用いて全塩基配列の1〜393の領域を増幅し、両者を重ね合わせて全塩基配列を決定した。オオタバコガ由来該遺伝子の3’−RACEにおいてはHA3Rプライマー(配列番号:23)を用いて全塩基配列の366〜1193の領域を増幅し、5’−RACEにおいてはHA5Rプライマー(配列番号:24)を用いて全塩基配列の1〜391の領域を増幅し、塩基配列を決定した。
得られたcDNA配列(配列番号:7)から推定されたハスモンヨトウ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列を配列番号:8に示した。カイコ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素とのアミノ酸配列の一致率は48%であった。また、得られたcDNA配列(配列番号:9)から推定されたオオタバコガ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列を配列番号:10に示した。カイコ由来幼若ホルモン酸メチル基転移酵素とのアミノ酸配列の一致率は54%であった。
ハスモンヨトウ前終齢幼虫のアラタ体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAを鋳型として、コーディング領域を、プライマーSLJF(配列番号:25)、SLJR(配列番号:26)を用いたPCRによって増幅し、(実施例2)と同様の方法によって作成した発現ベクターを用いて、(実施例3)と同様の方法によって作成した組換えタンパク質の活性を、(実施例4)と同様の方法によって調べることで、本遺伝子がコードするタンパク質が幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを確認した。
また、オオタバコガ前終齢幼虫のアラタ体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAを鋳型として、コーディング領域を、HAJFプライマー(配列番号:27)、およびHAJRプライマー(配列列番号:28)を用いたPCRによって増幅し、(実施例2)と同様の方法によって作成した発現ベクターを用いて、(実施例3)と同様の方法によって作成した組換えタンパク質の活性を、(実施例4)と同様の方法によって調べることで、本遺伝子がコードするタンパク質が幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有することを確認した。
(実施例7) 幼若ホルモン酸メチル基転移酵素の一次構造の比較
本発明者らは、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、オオタバコガ由来の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸配列の比較を行った(図5)。その結果、保存されているアミノ酸配列として、以下の(1)〜(7)の7つのモチーフを見出した。このうち(2)は、メチルトランスフェラーゼのコンセンサス配列(S−アデノシルメチオニン結合配列の一部)(L(D/E)oGsGsG(配列番号:29);oは疎水性アミノ酸、sは低分子量中性アミノ酸;Gomi,T et al.,Int.J.Biochem.24:1639,1992;Kagan,R.M.&Clarke,S.,Arch.Biochem.Biophys.310:417,1994;Vidgren,J.et al.,Science,368:354,1994)と一致しており、S−アデノシルメチオニンの結合に関与すると推定される。

(1)〜(7)の先頭の番号は各モチーフに対応するカイコの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素のアミノ酸残基の番号である。
【産業上の利用の可能性】
本発明によって、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を人為的に制御することが可能となった。これにより、幼若ホルモンによって調節される昆虫などの節足動物の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型、寿命などを制御することが可能である。また、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質を人為的に制御することにより、害虫防除や有益昆虫の機能強化を行うことが可能である。また、幼若ホルモン酸メチル基転移酵素タンパク質は、該タンパク質に結合する化合物や該タンパク質の活性または発現を制御する化合物の製造やスクリーニングに利用できる。スクリーニングによって得られた化合物は、昆虫に特異的に作用する安全性の高い昆虫成長制御剤として利用できる。
【配列表】

















































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の幼若ホルモン酸メチル基転移酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(a)配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:2、4、6、8、または10に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1、3、5、7、または9に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAによりコードされるタンパク質。
【請求項3】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)請求項1に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
(b)請求項1に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
(c)請求項1に記載のDNAの発現をRNAi効果により抑制するRNAをコードするDNA。
【請求項4】
請求項1または3に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項5】
請求項1に記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、節足動物の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤。
【請求項6】
節足動物が昆虫である、請求項5に記載の制御剤。
【請求項7】
成虫に対する生殖成熟促進剤、休眠解除剤もしくは寿命短縮剤、幼虫および蛹に対する変態抑制剤、または、幼虫に対する休眠誘導剤である、請求項6に記載の制御剤。
【請求項8】
害虫防除剤または増繭剤である、請求項6に記載の制御剤。
【請求項9】
請求項3に記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを有効成分として含有する、節足動物の脱皮・変態、生殖、休眠、胚発生、行動、多型または寿命の制御剤。
【請求項10】
節足動物が昆虫である、請求項9に記載の制御剤。
【請求項11】
成虫に対する生殖成熟抑制剤、休眠誘導剤もしくは寿命延長剤、または、幼虫に対する休眠抑制剤もしくは変態誘導剤である、請求項10に記載の制御剤。
【請求項12】
害虫防除剤である、請求項10に記載の制御剤。
【請求項13】
請求項1もしくは3に記載のDNAまたは請求項4に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項14】
請求項1もしくは3に記載のDNAまたは請求項4に記載のベクターで形質転換された個体。
【請求項15】
昆虫個体である、請求項14に記載の個体。
【請求項16】
請求項2に記載のタンパク質に結合する抗体。
【請求項17】
モノクローナル抗体である、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
請求項1に記載のDNAまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド。
【請求項19】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項2に記載のタンパク質に結合する化合物のスクリーニング方法。
(a)該タンパク質に被験化合物を接触させる工程
(b)該タンパク質と被験化合物との結合を検出する工程
(c)該タンパク質に結合する化合物を選択する工程
【請求項20】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項2に記載のタンパク質の活性を制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)該タンパク質に被験化合物を接触させる工程
(b)該タンパク質の活性を測定する工程
(c)被験化合物を投与していない場合と比較して、該タンパク質の活性を上昇または減少させる化合物を選択する工程
【請求項21】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、請求項2に記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)該タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被験化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被験化合物を投与していない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程
【請求項22】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項2に記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを制御する化合物のスクリーニング方法。
(a)昆虫個体または培養組織に被験化合物を接触させる工程
(b)該昆虫個体または該培養組織における請求項2に記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被験化合物を投与していない場合と比較して、該遺伝子の発現レベルを上昇または減少させる化合物を選択する工程

【国際公開番号】WO2004/065604
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567113(P2004−567113)
【国際出願番号】PCT/JP2003/000415
【国際出願日】平成15年1月20日(2003.1.20)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】