説明

広い展開直径の範囲で皺のない拡張可能なカバー付きステント

完全展開直径に達する前にカバーが皺のない状態になることを可能にする技術でステントに独自のカバー材料を適用することによって、動作拡径範囲に亘って平滑な流動面を提供する、改良された拡張可能なステント・グラフト装置を提供する。この独自のカバー材料によって、装置が完全展開直径に達するまで連続的に拡張しながら、この付加的な拡張の過程において一貫した平滑な流動面を維持することが可能になる。自己拡張装置を使用する際に、装置を拘束による圧縮直径から解放すると完全展開直径まで自己拡張し、完全展開直径の約30〜50%から100%の直径範囲でグラフトには実質的に皺がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は種々の医療処置に使用するためのカバー付きステントに係わる。
【背景技術】
【0002】
本願明細書中に使用する下記の用語を以下に定義する。
【0003】
用語「ステント」は体内への移植を目的とする、多くは円筒状を呈し、壁を通る開口部を有するフレーム構造体を意味する。ステントは、自己拡張性であってよく、および/または力を与えて拡張させてもよい。
【0004】
ここに使用される用語「カバー付きステント」および「ステント・グラフト」はいずれもその全長の少なくとも一部にカバーが施されているステントを意味する。カバーはステントの外面、内面、または両面に施すことができ、あるいはステントをカバーそのものに埋め込むことができる。カバーは多孔質または非孔質であってよく、透過性または非透過性であってよい。カバーには活性剤または不活性剤または充填剤を付着させるか、または組み込むことができる。
【0005】
本願明細書に添付の図4aにも示す用語「皺」65a、65bは隣接するステント支持ストラット68の厚さ66よりも大きい頂部から谷部までの高さ64を有するステントカバー62の折り畳みを意味する。カバーをステント内に設けた図示例の場合、カバーがステント支持ストラット68の内面側へ突出しているのをカバー付きステント60の外面におけるカバー62の皺65aと定義することができる。皺65bは半径方向内方へ延びることもある。
【0006】
図4bにおいて、カバー付きステント60の内面に施されたカバーの皺65aは半径方向外方へ突出することがある。図4bに示すように、カバー62がステント支持ストラット68の外面側へ突出しているのを外方へ突出する皺と定義することができる。皺65bは図4bに示すように半径方向内方へ突出することもある。
【0007】
皺は肉眼で観察することができ、または、例えば光学顕微鏡法のような拡大処理で観察し、測定することができる。「皺がない」とは、ステントカバーには実質的に「皺」がないことを意味する。
【0008】
ここに使用する用語「拡張/延伸(expand)」には大別して2つの意味がある。ステントに関連して使用する場合、装置としてのステント径の拡張を意味する。ePTFE材料に関連して使用する場合、PTFE材料の強度を高め且つ多孔質化するための伸長加工(即ち、延伸加工)を意味する。
【0009】
ここに使用する用語「自己拡張」は拘束手段を取り除くと外方へ、例えば、ほぼ半径方向に拡張し、外力の助けなしで拡径する、この装置の属性を意味する。即ち、自己拡張装置は拘束機構を取り除くと同時に自力で拡径する。拘束手段としては、例えば押し出すことによってステントまたはカバー付きステント装置が解放されるチューブが挙げられるが、これに限られない。拘束用のチューブまたは鞘を破ることによって装置を解放してもよく、繊維から構成されている拘束手段なら、繊維をほぐすこともできる。拡張する前に、例えば、バルーン・カテーテルによる外力を利用すれば、拡張を円滑に開始させ、拡張中は拡張を容易にし、および/またはステントまたはカバー付きステントの展開後、さらなる拡張または完全な展開を助け装置を着座させることができる。
【0010】
ここに使用する表現「完全な展開」とは、拘束手段が取り除かれた後、約37℃の温度において30秒間で、何らの制約もなく自力で拡張した自己拡張ステントの状態を意味する。自己拡張ステントの1箇所または数箇所が完全に拡張し、ステントの残りの部分が完全に拡張していない場合もある。
【0011】
表現「動作直径範囲」とはステントまたはステント・グラフトが使用される直径サイズの範囲を意味し、多くの場合、装置の内径を指す。装置は多くの場合、完全展開状態に相当する直径よりも小さい直径の血管内にインプラントされる。この動作直径範囲は製品説明書または製品包装体に記載されている表示サイズであってよく、あるいは装置の使用目的に応じてより広い範囲に亘ってもよい。
【0012】
ここで使用する用語「多孔質」は、材料が小さなまたは微視的な開口または孔を有することを指す。「多孔質」は、例えば、顕微鏡検査で観察可能な孔を有する材料をも包含する。「非孔質」は、材料に実質的な孔のないことを指す。「透過性」とは、材料が流体(液体および/または気体)を通過させることが可能であることを指す。「非透過性」とは材料が流体の通過を阻止することを指す。尚、非孔質でありながら、ある種の物質を透過させることができる材料もある。
【0013】
ステントおよびカバー付きステントは外傷性損傷や疾病、特に血管疾患の治療に長い歴史を有する。ステントは血流に必要な寸法的に安定した導管を提供可能である。ステントはバルーン膨張後に血管が萎縮するのを防止して最大限の血液流量を維持する。カバー付きステントは装置の壁を通して血液が漏れるのを防止し、ステントを透過してその内腔に組織が成長するのを、防止できないまでも抑制するという追加の機能も提供可能である。ステントの隙間からのこのような成長はステント植え込みの所期の効果を台無しにしかねない。
【0014】
頚動脈および神経血管構造の治療に際して、カバーは血小板粒子および血管壁に対するその他の塞栓形成要因をトラップし、これらが血流に入り込んで卒中発作を惹き起こすのを防止する。ステントのカバーは動脈瘤の治療にも極めて望ましい。カバーはさらに、充填剤またはその他の生体活性剤(抗凝血剤、抗生物質、成長抑制剤、など)を添加するための有用な基材としても作用して、装置の性能を高めることができる。
【0015】
ステントカバーはステントの1箇所または数箇所または全長にわたって延在させることができる。一般に、ステントカバーは生体適合性であり且つ堅牢であることが要求される。ステントカバーには、ほぼゼロでない平均圧の周期的な応力が作用する可能性がある。従って、血圧による長時間に亘る影響に耐えるため、ステントカバーは疲労抵抗およびクリープ抵抗を有することが望ましい。ステントカバーは耐磨耗性であることも要求される。このような属性は、送達システム外形をできるだけ小さくするためにカバーをできるだけ薄くしたいという要望とは相容れない。カバーは装置の流路断面積を犠牲にして装置の血流面積をせまくすることになり、流動抵抗を増大させる。流路面積を広くすることが望ましいが、カバー付きステントを長時間に亘って動作させるには耐久性が極めて重要であろう。従って、設計上の選択として、強固な、従って、厚いカバーが好まれる場合がある。しかし、厚いカバーはその他の点では同じより薄いカバーと比較して拡張し難い。
【0016】
完全展開直径よりも小さい直径のステントに配置した、厚くて丈夫なカバーは、バルーンの極圧で拡張させることができるため、ステントの全動作範囲において皺のない、バルーン拡張可能なステントカバーがある。しかし、(例えば、Campbellほかの米国特許第6,923,827号および第5,800,522号明細書に開示されているような)ePTFEを材料とする公知の最も薄いカバーでさえ強固すぎて、最も堅牢な自己拡張ステントによる半径方向の力をもってしても拡張できない場合がある。
【0017】
そこで、完全に展開した状態のステントに、非弾性且つ非変形性の自己拡張ステントカバーを皺のない状態で取り付けるのが普通である。このようなカバー付きステントが完全展開時よりも外径が小さい状態にある時、必然的にカバーに皺が発生する。困ったことに、このような皺は、血流を妨げ、血栓を発生させ、感染症などの問題を惹き起こす部位となる恐れがある。特にカバー付きステントの入口において、皺の存在は有害となる場合がある。皺を生じたカバーの前縁と血管壁との間のギャップは、血栓の蓄積や増殖の部位となる恐れがある。皺がもたらす有害な結果は血栓で詰まり易い細い血管において特に顕著であり、脳へ血液を供給する小血管においてはさらに深刻である。
【0018】
(例えば、Myersほかの米国特許第5,735,892号明細書に開示されているように)移植可能な装置に薄く、強靭な材料を使用することは公知である。自己拡張ステントの場合もバルーン拡張ステントの場合も、延伸PTFE(ePTFE)極薄フィルムでカバーすることが開示されている。多くの場合、装置を構成する過程でこれらのフィルムを延伸することによって装置に周方向の強度を付与する。その結果、自己拡張ステントの拡張力が著しく低下し、これらの材料を拡張させることができなくなる。事実、このような装置は概して高圧に耐えるように設計される。他の公知カバーと同様に、これらのカバーは装置が完全に展開した時に初めて皺のない状態になる。
【0019】
薄い、押出加工され、但し延伸加工されていないフルオロポリマー・チューブを使用して自己拡張型またはバルーン拡張タイプのステントをカバーすることは公知である(例えば、Sogardの米国特許出願第2003/0082324A1号明細書)。これらのシームレス押出加工チューブから成るカバーをステントが完全展開した状態において自己拡張ステントに施す。従って、ステントカバーは完全展開直径よりも小さい直径になるまで装置を圧縮すると、ステントカバーに皺が現れる。
【0020】
所与の直径になるまで自己拡張するステントをカバーするのに延伸PTFE材料を使用し、この場合、所要の臨床移植直径に達するまでバルーン・カテーテルまたはその他の拡張力による補助処置を利用することも公知である(例えば、Voneshほかの米国特許第6,336,937号明細書)。このようなカバーはステントが自力で拡張する直径までの直径範囲内では皺になっている。この直径以上になると、カバーは比較的皺の少ない状態になりうるが、ステントはもはや自由に自己拡張できない。
【0021】
既に開示されている別タイプのカバー付きステント(例えば、Sogardの米国特許出願第2002/0178570A1号明細書)は互いに積層された、但し、ステントに接着されていない2層のポリマー・ライナーで構成される。ライナーはステントに接着されていないから、一体的なステント・グラフトを構成するためには、内側と外側の両ライナーが必要であり、ステントの開口部において両ライナーを互いに接合しなければならない。この構成では、ステントの一方の側に比較的平滑なライナーを設ける。外側ライナーはステント支持ストラットの形状に追随し、内側ライナーに接合される。このような構成であるから、本願明細書における「皺」の定義によれば、外側ライナーに皺が現れる。形状記憶合金から成る自己拡張カバー付きステントの延伸PTFEライナーは、合金の形状記憶状態をリセットするステント温度を超えない高温、具体的には250℃(327℃以下)において積層されると開示されている。ライナーをステント支持ストラットに接合しないから、ライナー間にギャップが形成される。このギャップは、血流面積を犠牲にする生体物質で一杯になる恐れがあり、従って血流を制約する場合がある。
【0022】
他の物質を添加しなければ、延伸PTFE材料を一体的にヒートシールするには200℃を超えて十分に加熱しなければならない。このようなステント・グラフト装置を体温で自己拡張させようとすれば、必然的に合金がリセットできる温度を体温に近くしなければならない。このような温度条件はライナーを250℃付近の温度でステントにヒートシールすることを不可能にする。また、このようにして構成できるカバー付きステントのサイズは熱伝導の物理学によって制限される。即ち、積層工程において、250℃の熱源をステントから適当な距離に配置しなければならない。ライナーは展開時の直径よりも小さい直径でステントと積層されるから、ステントの開口部のサイズはもっと大きい直径の状態でライナーを積層する場合よりも小さくなる。従って、この開示内容に従えば、直径の小さいカバー付きステントを製造することは不可能であり、ライナーをステントに接合することも不可能である。
【0023】
Chouinardの米国特許第6,156,064号明細書は、ポリマーを自己拡張ステントに適用するのに浸漬コーティングを利用することを開示している。ステントおよびステント・グラフトをポリマー−溶剤溶液に浸漬することによってステント表面にフィルムを形成した後、チューブにポリマー・フィルムを吹付け塗布する。少なくとも3層(即ち、ステント、グラフト、および膜)を含むステント・グラフトを上記のように構成することが開示されている。
【0024】
ステントを弾性材料から成る連続的な層でカバーすることも公知である。Lukicの米国特許第5,534,287号明細書に開示されているように、ステントを半径方向に収縮させてから、内面にコーティングを施してあるチューブの内側に配置することによってステントにカバーを施すことができる。ステントを拡張させることによってチューブに施してあるコーティングと接触させる。次いで、ステントとチューブとの接触面を加硫させるなどして接合する。完全展開状態におけるステントの直径に対するチューブの直径について、この特許は言及していない。この特許は、ある実施態様において拡張状態のステントにコーティングを施すことを具体的に開示している。発明者はステントカバーの皺をなくす、または軽減する方法を教示していない。この特許は寧ろ如何にしてコーティングの厚さを増大させるかを教示し、皺の発生を助長するような製造方法を開示している。この特許はステントをカバーするための非弾性材料の使用について開示しておらず、“Teflon(登録商標)”(即ち、PTFE)チューブの使用に関して具体的に説明していない。
【0025】
Changほかの米国特許出願第2004/0024448A1号明細書はPAVE−TFEのようなエラストマー材料でカバーしたステントを開示している。この材料から成る自己拡張ステント・グラフトは他の材料から成る公知の製品と同様に、装置の動作全範囲に亘って皺がないわけではない。自己拡張ステントのこれらのカバーは、完全展開状態でステントに適用されるのが普通である。従って、ステント・グラフトがやや目立つ程度に潰れると皺が形成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は動作拡径範囲に亘って平滑な流動面を提供する、改良された拡張可能且つ移植可能なステント・グラフト装置である。このステント・グラフトは完全展開直径に達する前にカバーが皺のない状態になることを可能にする独自の技術でステントに独自のカバー材料を適用することによって達成される。この独自のカバー材料は装置が完全展開直径に達するまで連続的に拡張しながら、この付加的な拡張の過程において一貫して平滑な流動面を維持することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の1つの実施形態はステントの少なくとも一部にグラフトカバーを取り付けた直径方向に自己拡張するステント・グラフト装置である。この装置は体腔内へ挿入するための圧縮直径に拘束されるようになっており、グラフト表面に沿って皺を形成する。但し、装置を拘束による圧縮直径状態から解放すると、完全展開直径まで自己拡張し、完全展開直径の50%〜100%の直径範囲でグラフトには実質的に皺がない。
【0028】
本発明における他の改良点として、均質な連続的なチューブまたはフィルム・チューブの形態で、例えば、ePTFEのようなフルオロポリマー・グラフト成分を設けることを含んでもよい。グラフトとステントはヒートシール、またはFEPまたはPMVE−TFEのような接着剤を使用するなど、種々の手段によって組み合わせることができる。
【0029】
材料および/または構成技術を変えることによって皺を伴わない拡張範囲を約30%〜100%またはそれより広い範囲に拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明はステント・グラフトのカバーに現れる皺の問題と取組むものである。従来、自己拡張ステント・グラフトのカバーは多くの場合完全展開直径状態のステントにカバーを取り付けるが、この完全展開直径に達するまでの展開直径状態では皺が現れた。体腔がステント・グラフトの直径と一致することは稀であり、均一な円形断面を呈することは少なく、テーパーがないことも稀であるから、自己拡張ステント・グラフトの一部または全長が完全に展開することは多くない。そのため、血液またはその他の体液の流れに対して皺のある表面を提供することになる。しかも、カバー付きステントは多くの場合、ステント自体の半径方向拡張力を利用して装置を体組織により良好に着座させ、血流による装置の移動を防止するため、完全展開直径よりも小さい直径で意図的に移植される。このような方法では、装置のカバーの少なくとも一部に皺が残ることを容認せざるを得ない。本発明では、一見互いに相反する2つの性質の組み合わせ、すなわち一定の周期的な血圧によって加えられる力に耐える強度を有する一方、自己拡張ステントによる拡張力に応答して拡張可能であるといった性質を有する、独自のステントカバー材料を使用する。
【0031】
また、このような材料を利用して自己拡張ステント・グラフトを構成するためには独自の製造方法を考案しなければならなかった。温度に制約される自己拡張ステントの形状記憶性は製造方法上の難関である。究極的には、ステントへのカバー取り付けだけでなくステントへのカバーの適用も低温環境で行なわれる製造方法が開発された。
【0032】
図1aおよび図1bに示すように、本発明は装置の動作直径範囲に亘って皺のない内側または外側カバー62(または双方)を有する自己拡張ステント成分63を含む移植装置60に係わる。カバー62は拘束状態においては図1aに示すように皺65を有する。しかし、カバーがステントに取り付けられた直径まで装置が自己拡張すると、皺が消える。図1bに示すように、装置60がさらに自己拡張する過程でカバー62は皺のない状態を維持する。本発明はカバー材料を最小限に抑えながら、自己拡張ステントカバーにおける皺に関連する臨床上の問題と取り組むものである。皺が血流を妨げ、凝血塊が沈積する部位となり、最終的にはグラフトによる血栓症および塞栓剥離を惹起する恐れのあることが知られている。これらの続発症は特に脳のような器官において深刻な臨床結果を招く可能性がある。単一の、極めて薄いカバーを組み込むことによって、カバーの質量または容積によってではなく、主としてステント支持ストラットの寸法によってステント・グラフト装置の外形を決定することができる。従って、本発明は所与のサイズのステント・グラフトの展開直径と広い展開直径範囲に亘る皺のないカバー面との新規の組み合わせを提供する。
【0033】
本発明において使用するステント材料としては、ニチノール(ニッケル−チタニウム形状記憶合金)およびステンレススチールが好ましい。ニチノールは形状記憶性能に優れている。記憶特性は合金を製造する過程で、ステントの使用条件に合わせて調整することができる。また、ステントの製造に使用されるニチノールは、例えば、編んだり熔接したりできるワイヤーでもよいし、ステントを切り取られるチューブ原料であってもよい。ニチノールは多様なステント・デザインの選択を可能にするが、ステンレススチールなども多様な形状および構造に形成することができる。
【0034】
本発明のステントカバーは耐久性に優れ、生体適合性であることが好ましい。継目なしであってもよいし、1または2以上の継目があってもよい。本発明のステントカバーは自己拡張ステントによる最小限の力で拡張されることを可能にする低いヤング率を有する。また、ステントが拡張した後、カバーがステント・グラフトを経時で縮径させないように、カバーの弾性反跳力を最小限(またはゼロ)にする。カバーはまた薄いことが好ましい。薄いということには、装置の導入サイズを小さくし、血流断面積を最大限にし、半径方向拡張に対する抵抗を小さくし、弾性反跳を小さくするという多重的な利点がある。
【0035】
好ましい実施形態では、ニチノール・ステントを冷却し、完全展開外径よりも小さい直径になるまで圧縮する。ステントを圧縮された状態に維持するには冷却が望ましい。次いで、皺を発生させずにカバーを適用する。拘束状態での直径は装置の所要動作パラメータに従って選択する。例えば、完全展開外径の約90%以下、完全展開外径の約80%以下、完全展開外径の約70%以下、完全展開外径の約60%以下などであり、多くの用途において、完全展開外径の約50%以下であることが最も好ましい。装置を冷却された状態に維持しながら、ステント・グラフトを自然乾燥させた後、冷却された圧縮工具でさらに圧縮し、送達カテーテルへ挿入する。
【0036】
ステントカバーはePTFEフィルムの結節点および微小繊維を被覆するフッ素化エチレンプロピレン(FEP)で形成することができる。最も好ましくは、ePTFEから成るカバーを本発明の実施に使用する。ePTFEは引張強さが高いことで知られているが、この強さは延伸方向にのみ付与される。ePTFE材料を加工時に直交方向(即ち、フィルムの場合なら横方向)に延伸しなければ、このePTFE材料はこの方向に極めて拡張し易い。こうして得られた材料は引張強さが極めて低いだけでなく、横方向ヤング率も極めて低い。ヤング率が低ければ、この材料を小さい力で拡張させることができる。本発明の物品を構成するのに使用されるフィルムは手で横方向へ容易に伸長させることができ、ヤング率値の低さを裏付ける。従って、最も好ましい実施形態としては、ePTFE材料が横方向に容易に拡張可能な、極めて薄く且つ高多孔質のフィルムの形態を呈する。高い多孔性と肉薄を組み合わせた結果、装置の占有容積が最小のカバー材料が得られる。延伸加工されたPTFEステントカバーは制御自在に多孔性を提供できることで他にも幾つかの好ましい効果を発揮する。即ち、この材料の表面に、または材料の孔に種々の薬剤または充填剤を添加することができる。これらの薬剤および充填剤としては、例えば、治療薬、抗血栓剤、X−線不透過マーカーなどが挙げられる。必要に応じて、ePTFEカバーの一部または全体を、緻密化するか、孔を埋めるか、またはその他の適当な手段によって非多孔質または非透過性にすることもできる。好ましくは、材料の安定性を高めるために、ePTFE材料をその結晶融点を超えて加熱、即ち、ePTFE材料を「燒結加工」することが好ましい。
【0037】
本発明を実施するには肉薄ePTFEフィルムの厚さが約0.25mm未満であることが好ましいと考えられる。肉薄ePTFEフィルムの厚さが約0.1mm未満であることがより好ましいと考えられる。好ましい肉薄ePTFEフィルムの密度は約0.2〜約0.6g/ccである。肉薄ePTFEフィルムの密度は約0.3〜約0.5g/ccであることがより好ましいと考えられる。好ましくは、肉薄ePTFEフィルムのマトリクス引張強さは長手方向および横方向にそれぞれ約70〜約550MPaおよび約15〜約50MPaであると考えられる。より好ましくは、肉薄ePTFEフィルムのマトリクス引張強さは長手方向および横方向にそれぞれ約150〜約400MPaおよび約20〜約40MPaであると考えられる。本発明の実施に使用される好ましいフィルムは厚さが約0.02mm、密度が約0.4g/cc、長手方向マトリクス引張強さが約260MPa、横方向マトリクス引張強さが約30MPaの肉薄ePTFEフィルムである。
【0038】
好ましい肉薄ePTFEフィルムは長手方向および横方向にそれぞれ約100〜約500MPaおよび約0.5〜約20MPaのヤング率を有すると考えられる。より好ましい肉薄ePTFEフィルムは長手方向および横方向にそれぞれ約200〜約400MPaおよび約1〜約10MPaのヤング率を有すると考えられる。フィルムの長手方向および横方向の最も好ましいヤング率はそれぞれ約300MPaおよび約2MPaである。このようなフィルムは横方向に極めて拡張可能である。
【0039】
フィルムの特性は主として拡張の過程で材料に加わる自己拡張ステントの力に応じて選択される。例えば、自己拡張の過程で極めて高い半径方向の力を作用させるステントには比較的強度の高いフィルムを使用すればよい。
【0040】
フィルムの低ヤング率を活用するには、フィルムのヤング率が低い方向をステントの周方向に合わせるようにしてカバー付きステントを構成すればよい。従って、フィルムの強度が高い方向をステントの軸方向に合わせることになる。チューブ状を呈するフィルムステントに適用することが好ましい。フィルム・チューブは、剥離材料(例えば、Fralock Corporation, Canoga Park, CAの部品番号T−188−1/1、Kaptonフィルム)で被覆されたマンドレルに多層フィルムをロールすることによって形成される。好ましくは3層以下のePTFEフィルムを適用し、より好ましくは単一層のフィルムを適用して、オーバーラップ継目を狭く且つ2層のみのフィルムで形成されるようにする。
【0041】
フィルム・チューブは縫合、接着などによってステントに取り付けることができる。スプレーまたは浸漬などにより接着剤単体または接着剤の組み合わせを利用する接着が好ましい。完全展開状態のステントを接着剤で浸漬被覆することによって、接着剤がステントの開口部にかからないようにすることが好ましい。熱硬化または常温硬化接着剤を使用することができる。熱活性化接着剤を使用して形状記憶金属ステントにフィルム・チューブを接合する場合、接着剤は金属の臨界遷移温度未満の温度において硬化可能でなければならない。ペルフルオロエチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(PEVE−TFE)またはペルフルオロプロピルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(PPVE−TFE)のような接着剤が好ましい。下記モノマーの少なくとも2つを含有するターポリマーもまた好ましい:PEVE、PPVE、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)およびTFE。ニチノール・ステントのカバーを接合する場合、接着剤としてはペルフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン(PMVE−TFE)が最も好ましい。
【0042】
図2aは完全展開外径の50%の状態において構成し、圧縮して送達カテーテルに挿入した後、装置の完全展開外径の30%まで展開させた本発明のカバー付きステントの断面図である。ステントカバー62は図2aに示すようにステント支持ストラット68に接合することによってステントの外面に取り付けることでステント63に外側ステントカバー51を設けることができる。カバー62は図4bに示すようにステントの内面に接合することによって内側ステントカバー41を設けることもできる。
【0043】
ステントの外面にフィルム・チューブを取り付ける最も好ましい方法は、ステントの完全展開外径よりも小さい内径を有する(例えば、ガラスのような)剛性のチューブ内にフィルム・チューブを配置した後、圧縮したステントをフィルム・チューブに挿入し、ステントとフィルム・チューブとを互いに接合することを伴う。
【0044】
フィルム・チューブから成るカバーを、皺を形成させることなく先ず拘束チューブに挿入する。フィルム・チューブの両端を拘束チューブの両端へ折返す。この際、フィルム・チューブを弛ませず、皺のない状態に維持するのに充分な張力がフィルム・チューブに作用するように両端を折返すことが好ましい。既に指摘したように、拘束チューブの内径、即ち、拘束直径は装置の完全展開直径よりも小さく、例えば、完全展開外径の約90%以下、完全展開外径の約80%以下、完全展開外径の約70%以下、完全展開外径の約60%以下、または完全展開外径の約50%以下でなければならない。
【0045】
ニチノール・ステントを製造するには、ステントの支持ストラットを接着剤の薄層で浸漬被覆し、接着剤を自然乾燥させる。好ましい接着剤は例えばChangほかの米国特許出願第2004/0024448号明細書の例5に開示されているようなPMVE−TFEである。周囲温度またはそれ以上の高温でステントにカバーを接合する公知の方法とは異なり、周囲温度よりも低い温度でステントにカバーを適用する。好ましくは、ステントを(例えば、冷蔵庫の冷凍室のような)低温室内で冷却して圧縮する。カバーを取り付ける過程でフィルム・チューブの直径よりも小さい直径で寸法を安定させて、ステントを冷却するには、低温加工が望ましい。次いで、剛性チューブ内に収められているフィルム・チューブに圧縮したステントを挿入する。この集合体を周囲温度に暖められるまで放置する。暖められると、ステントが拡張してフィルム・チューブと密着する。この集合体をPMVE−TFE接着剤を活性化する溶剤に浸漬した後、周囲温度を超えて暖めることによって溶剤を揮発させ、接着剤を固化させる。
【0046】
剛性チューブ内の装置を再び冷凍室内で、拘束が解かれても装置が自己拡張しない温度に冷却した後、ステント・グラフトをチューブから取り出す。この時点で、冷却された圧縮工具を使用してステント・グラフトをさらに圧縮し、送達カテーテル内へ移す。この段階において圧縮する代わりに、ステント・グラフト装置の多孔質ePTFEカバーを非透過性にしてもよい。非透過性化の方法として、PMVE−TFE、PEVE−TFE、PPVE−TFE、またはシリコーンのようなエラストマー材料の冷却された希釈溶液に装置を浸漬する、という方法がある。装置と同じ温度まで冷却されると溶液は著しく粘性になるため、希釈溶液であることが好ましい。溶液が乾燥したら、ステント・グラフトを上記方法でさらに圧縮し、送達カテーテル内へ移すことができる。
【0047】
ステントカバーには、治療薬、充填材などのほか、ステントカバーをステントに接合するための接着剤、カバーを非透過性にするためのエラストマー材料、またはこれらの組み合わせをステントカバーに添加することができる。
【0048】
このようにして製造されたステント・グラフトはカバーが取り付けられる時点での直径から完全展開直径までの装置直径範囲に亘ってカバーに皺がない。図2bはステント支持ストラット68に接合されてカバー付きステント装置60を形成した時点での直径における皺のないステントカバー62(この場合はステントの外面に設けられたカバー)を示す。薄いカバー62は図2cに示すように完全展開直径となるまで伸びて皺のない状態を維持する。図2cは図1bのカバー付きステントの断面図である。装置のこのような性能を実現するには、完全展開直径よりも小さい直径の状態でステントにカバーを取り付けなければならない。この直径は移植される装置の所要の最小直径より大きくてはならない。カバーが取り付けられた時点での直径よりも小さくなるように装置を縮小させればステントカバーに皺を発生させることになる。例えば、送達カテーテル内に移すことができるような直径まで本発明の装置を圧縮すれば、ステントカバーに皺を発生させることになる。展開したステント・グラフトがカバーを取り付けたときの直径に達すると、もはや皺は存在しない。中間的なステントのサイズにおいてカバーを取り付けるということは送達カテーテルへ挿入するためにステント・グラフトを縮径するのに大きく圧縮する必要がなくなることを意味する。大きく圧縮する必要がなければ、圧縮の過程でカバーに孔が開く恐れも少なくなる。
【0049】
内側カバーを有するステント・グラフトは上記のフィルム・チューブおよび接着剤被覆されたステントとで製造することができる。ステントを冷却した後、圧縮して拘束チューブ内に拘束すればよい。次いで、フィルム・チューブをバルーンに取り付け、ステント内側に導入し、下に位置するバルーンを膨らませることによってステントに押し付け、この集合体を接着のための適当な溶剤に浸漬することによってステントに接合し、自然乾燥させればよい。次いで、バルーンをしぼませ、ステント・グラフトと拘束チューブを再び冷却することによって拘束チューブの取外しを可能にした後、ステント・グラフトをさらに半径方向へ収縮させて装置を送達システムに装填する。
【0050】
本発明はまたステント支持ストラットの厚みのある外形に起因する乱流を極力小さくする。図2bおよび図2cから明らかなように、ステント支持ストラット68に接合される接着剤22が、ストラットがステントカバー62に取り付けられる箇所に円滑に厚さが変化する推移部を形成する。この推移部が存在しなければ、ステント支持ストラット68は血流に対して厚みのある外形を呈する。
【0051】
本発明の物品に皺がないという特徴はテーパー形状ステント・グラフトの性能を高めることができる。テーパー形状グラフトは大動脈腸骨動脈疾病の治療に広く使用されている。テーパー形状ステントおよび/またはカバーを含んでもよい本発明の装置は、カバーに皺を形成することなくテーパー形状の脈管内に移植することができる。即ち、本発明の装置は、出発材料の形状に関係なく、テーパー形状の体腔内で展開するとテーパー形状自己拡張ステント・グラフトとなるように適合させることができる。従って、不適切なサイズのステント・グラフトを展開させることなく、容易に且つ低コストで構成できる非テーパー形状の装置でテーパー形状の体腔を処置することができる。さらに、形状の異なる製品の数を増やさなくても、有効に展開可能な広範囲のサイズおよび形状を可能にする。
【0052】
本発明は極めて条件の厳しい小口径のステント植え込みにおいて真価を発揮する。これらは、バルーン血管形成術後に血小板や他の細片が血流に混入するのを防ぐため、または動脈瘤を塞ぐために、カバーを必要とする用途である。恐らく最も条件の厳しい用途は、ステントカバーに僅かな皺があっても血栓症の病巣を形成することがある頚動脈や神経脈管に対する処置を伴う場合である。脳の敏感さを考えれば、このような血栓集積や塞栓の結果は深刻である。本発明は実用可能なステント・グラフトに皺のないカバーを設けるという難問を克服するたけでなく、極めて少量のカバー材料でこれを実現する。このような拡張可能な、薄い、且つ低質量の材料がステントカバーとして満足に機能するということは予想外の所見であった。
【0053】
下記の例は飽くまでも本発明を説明するための例であり、本発明がこれらの例に制限されるものではない。本発明の範囲は添付する特許請求の範囲の記述内容によって定義される。
【実施例】
【0054】
下記の例を評価するため、以下に述べるような試験方法を採用した。
【0055】
試験方法
【0056】
皺の評価
倍率を上げて拡大せずに、室温でステント・グラフト装置のカバーを目視で検査した。超小型の装置については顕微鏡による検査を行なうことはいうまでもない。装置の両端を中空のDELRIN(登録商標)アセタール樹脂ブロック内に固定することにより、ステント・グラフトの内面を観察できるように装置の長手軸を水平に対して約45°の角度に固定した。装置の自由縁および装置両端近傍のステント開口部を検査できるように装置を配置した。検査中、完全展開していないステント・グラフトを剛性チューブ内に拘束した。検査に先立って、完全展開させた装置を約37℃の湯浴中に浸漬した。
【0057】
しわの存否を確かめるため、光学顕微鏡検査または走査電子顕微鏡検査を採用することもできる。
【0058】
寸法測定
テーパー形状のマンドレルを利用してステントおよびカバー付きステント装置の外径を測定した。装置端部がマンドレル周面と嵌合するまでマンドレルに沿って装置端部を摺動させた。次いで、ノギスを使用して装置外径を測定した。上記のようにマンドレルに嵌合させたまま、投影機を使用して装置外径を測定することもできる。
【0059】
自己拡張装置を37℃の湯浴中で30秒間に亘って完全展開させ、次いで、上述したように湯浴中での装置直径を測定した後、完全展開外径を測定した。
【0060】
円形断面を有する拘束手段内に拘束されている装置については、拘束状態の装置外径を拘束手段の内径とした。
【0061】
装置の完全展開直径のあるパーセントに相当する直径まで展開した状態での装置を検査するためには、先ず完全展開時における直径を知らねばならない。装置全体からある長さだけ切り取り、その完全展開直径を測定することができる。例えば、装置のある長さに相当する部分を送達カテーテルから取り出し、37℃湯浴中で完全展開させた後、その直径を測定することができる。
【0062】
引張破断荷重、マトリクス引張強さ(MTS)、およびヤング率の測定
フィルムの引張破断荷重は扁平面グリップと、横方向および長手方向の値がそれぞれ10Nおよび100Nのロードセルを有する引張試験機(Model 5564,Instron Corporation, Norwood, MA)を使用して測定した。ゲージ距離は1インチ(2.54cm)、クロスヘッド速度は1インチ/min(2.54cm/min)であった。Mettler AE2000スケール(Mettler Instrument, Highstown, NJ)を使用してそれぞれの試料を坪量した後、はさみゲージ(Mitutoyo Absulute, Kawasaki, Japan)を使用して試料の厚さを測定した。合計10個の試料を試験した。10個のうち、5個を長手方向に関して試験し、残り5個を横方向(即ち、長手方向と直交する方向)に関して試験し、破断荷重(即ち、最大力)の平均を算出した。長手方向および横方向MTSは下式を利用して計算した。
MTS=(破断荷重/断面積)×(PTFEの密度)/フィルムのバルク密度)(PTFEの密度を2.2g/ccとする。)
【0063】
ヤング率は引張試験機(Model 5500, Instron Corporation, Norwood, MA)を使用して得た引張試験データから求めた。試験はサンプルのゲージ距離1インチ(2.54cm)、クロスヘッド速度1インチ/min(2.54cm/min)の条件下で実施した。合計10個の試料を試験した。10個のうち、5個を長手方向に関して試験し、残り5個を横方向(即ち、長手方向と直交する方向)に関して試験した。
【0064】
実施例1
Pinchasikほかの米国特許第6,709,453号明細書の図4に記述されているようなパターンを利用してチューブ状の自己拡張ニチノール・ステントを得た。ステントの外径は約8mm、長さは約44mmであった。複数のステントから長さが約15mmの区分を切り出して6個用意した。6個の区分のそれぞれに下記のような処理を施した。Changほかの米国特許出願第2004/0024448号明細書の例5に開示されているような液化熱可塑フルオロポリマーであるPMVE−TFEでステントを浸漬被覆した。
【0065】
銀メッキを施した短い銅線片(直径約0.5mm)をフック状に形成し、ステントを吊るすのに使用した。FC−77(3Mフルオロイナート、3M Specialty Chemicals Division, St Paul, MN)を溶剤とする3質量%のPMVE−TFE溶液にステントを浸漬した。浸漬したステントを溶液から取り出し、空気乾燥させた。ステントの反対端にフックを取り付け、浸漬被覆を繰返した。次いで、ステントを2質量%のフルオロポリマー溶液に浸漬した後、空気乾燥させた。再びフックをステントの反対端に取り付け、再度2質量%溶液に浸漬した。つまり、この浸漬工程は合計4回の浸漬ステップから成り、これによってステント支持ストラットに均質且つ切れ目のない熱可塑性フルオロポリマーの層が形成された。被覆に使用された材料の量は浸漬前後のステント秤量によって約0.01グラムと判明した。
【0066】
ステントカバーは以下に述べるようにして形成した。4.0mmのステンレススチール製マンドレルを得た。このマンドレルに、内径4mmの、薄い壁厚(約0.1mm)を有するePTFEチューブを被せた。このチューブの目的は後のステップにおいてマンドレルからのステントカバー取外しを容易にすることであった。次いで、リボン状ポリイミド・シート材(KAPTON(登録商標)、部品番号T−188−1/1、Fralock Corporation, Canoga Park, CA)でePTFEチューブの上をらせん状に包み込んで長さ75mmのグラフトを完全にカバーした。
【0067】
以下に挙げるような特性を有する薄いePTFEフィルムを得た:幅約50mm、長手方向のマトリクス引張強さ約256MPa、横方向のマトリクス引張強さ約31MPa、厚さ0.02mm、密度約0.39g/cc(長手方向および横方向の引張強さはそれぞれ45MPaおよび5MPa)。長手方向および横方向におけるフィルムのヤング率値はそれぞれ282MPaおよび1.9MPaであった。マンドレルの軸方向に長さ約80mmのフィルムをポリイミド・シート材の上に重ねてフィルムの両端を薄壁ePTFEチューブと直接接触させた。343℃に設定された局部熱源(Weller Soldering Iron モデルEC200M、Cooper Tools,Apex,NC)を使用してこれらの両端の隅部を薄壁チューブにヒートシールした。このようにフィルムを固定した上で、1層のフィルムをマンドレル周面に巻き付けた。フィルムを巻き付ける際には、張力を最小限に抑えてフィルムの伸張を避けた。幅約2mmのオーバーラップ領域を形成した。このオーバーラップ領域でフィルム層を343℃に設定されたはんだごてで互いにヒートシールして継目を形成した。このように構成したため、強度の大きいフィルムの長手方向がマンドレルの長手方向に向いた。弱いフィルム横方向はマンドレルの周方向に向いた。
【0068】
ePTFEフィルムの上にポリイミド・フィルムの第2層をらせん状に巻き付けてこれを完全にカバーした。こうして得られた集合体を370℃に設定された強制空気乾燥器(Model NT−1000、Grieve Corporation,Round Lake,IL)に移した。7分後、集合体を乾燥器から取り出して放冷した。冷却後、ポリイミド・フィルムの外側ラップを取り外した。フィルム・チューブ、ポリイミド・フィルムの内側層、および薄壁ePTFEチューブを一緒にマンドレルから慎重に取外した。薄壁ePTFEチューブをめくってポリイミド・フィルムから取り外した。次に、ポリイミド・フィルムをePTFEフィルム・チューブから慎重に取り外した。
【0069】
次いで、ステントおよびフィルム・チューブを組み合わせてステント・グラフトを得た。ePTFEフィルム・チューブを、内径4mm、壁厚1mmの長さ60mmのガラス管に挿入して、フィルム・チューブの両端をガラス管の両端から突出させた。閉じたピンセットの端部をチューブの各端部の内部に挿入し、ピンセット端部を開くことによってフィルム・チューブの両端を広げた。フィルム・チューブ端部をガラス管の外側へめくり返した。フィルムは両端部をチューブの表面に固定して皺のないフィルム・チューブを所定位置に固定するのに充分な粘着性を有した。ePTFEフィルム・チューブを内蔵するガラス管を約−15℃に設定された従来タイプの冷凍室内に収容した。後でステント・グラフトを形成するのに使用される工具、即ち、例えば、Motsenbockerの米国特許出願第2002/0138966A1号明細書に開示されているようなピンセットおよびアイリス・タイプのステント圧縮装置も冷凍室内で冷却した。
【0070】
冷却された圧縮装置を利用して、接着剤で被覆されているステントの直径をその長さに沿って均等に縮小させた。ステントの外径を約3mmまで縮径した。冷却したピンセットを使用して、冷凍室内で下記の加工を実施した。ステントを圧縮装置から取外し、冷却されたガラス管内に収まっているePTFEフィルム・チューブに挿入した。ガラス管、フィルム・チューブおよびステントを冷凍室から取り出し、周囲温度まで暖めた。ステントは形状記憶特性を有するため、集合体が暖められるのに伴って自己拡張した。これに伴ってステントがフィルム・チューブに半径方向の力を作用させて、ステントの全長に沿ってステントとフィルム・チューブとを密着させた。
【0071】
次に、ステントカバーをステントに接合した。この時点では未だ内径4mmのガラス管によって拘束されている集合体をFC−77溶剤の容器内に40秒間浸漬することによって接着剤を活性化させた。次いで、ハロゲンランプを使用して40℃まで加熱しながら、この集合体を約30分間に亘って乾燥させた。集合体は室温まで放冷した。こうしてステント・グラフト装置を形成した。
【0072】
ステント・グラフト装置を、ステントの端部がガラス管の一方の端部と合致するまでガラス管の端部に向かって押した。ePTFEカバーをステントに合わせてトリミングした。同様の作業を繰返してステント・グラフトの反対端をトリミングした。ガラス管内にステント・グラフトが内蔵された状態で、ステントカバーとステントが切れ目なく均一に接合していることを確かめ、カバーに皺がないことを実証するため、装置をチェックした。
【0073】
次のステップにおいて、ステント・グラフトを送達システムに装填した。ガラス管によって拘束された状態のステント・グラフト装置を上述のように冷凍室内で冷却した。次いで、装置を冷却されているアイリス・タイプの圧縮工具内へ挿入し、さらに半径方向へ収縮してその外径を約2mmの所要の送達外形(即ち、圧縮外径)にまで縮径した。次いで、装置を圧縮工具から所要の送達システムへ移した。これによって、組立ておよび装填の過程において装置が完全展開時の外径まで自己拡張するのを防止した。
【0074】
こうして得られたステント・グラフト装置の送達外形は約2mmであり、完全展開外径は8mmとなった。展開およびこれに続く再収縮の種々の段階における装置を撮影した。装置の外径を約8mmの完全展開外径のパーセントで表わした。完全展開時の装置の外径は約37℃においても周囲温度においても約8mmであった。但し、ニチノール合金のタイプが変われば、この外径も変わる。
【0075】
図3a〜図3fはこの実施例による6個のカバー付きステントの内側を示す写真である。1個の装置をその2mmの送達外形拘束鞘から、内径が装置の完全展開外径の約50%に相当する内径を有する中空DELRIN(登録商標)樹脂ブロックへ移した。完全展開外径のこの50%は装置製造時の外径に相当する。上述のように装置端部を顕微鏡撮影した。その画像を図3aに示す。この顕微鏡写真はステントカバーに皺が存在しないことを立証している。実施例による他の装置を、装置の完全展開外径の約60%に相当する内径を有する中空DELRIN(登録商標)樹脂ブロックへ移した。その画像を図3bに示す。この顕微鏡写真はステントカバーに皺が存在しないことを立証している。実施例による第3の装置を、装置の完全展開外径の約70%に相当する内径を有する中空DELRIN(登録商標)樹脂ブロックへ移した。その画像を図3cに示す。この顕微鏡写真はステントカバーに皺が存在しないことを立証している。第4および第5のステント・グラフトを、装置の完全展開外径のそれぞれ80%および90%に相当する内径を有する中空DELRIN(登録商標)樹脂ブロックへ移した。その画像を図3dおよび図3eにそれぞれ示す。これらの顕微鏡写真が示すように、いずれの状態でもステントカバーに皺は存在しない。第6の装置を37℃湯浴中で完全展開させ、顕微鏡検査した。それを示すのが図3fである。この写真はステントカバーに皺が存在しないことを立証している。
【0076】
比較例2
実施例1の6個のステント・グラフト装置を構成するのに使用したフィルムを使用して公知技術の内容に従ってステント・グラフトを製造した。上記タイプのある長さのステントにカバーを取り付けた。この場合、周囲条件下で完全展開状態のステントにカバーを取り付けた。カバーは上述したのと同じ態様で取り付けた。次いで、ステント・グラフト装置を上述したような冷却されたアイリス・タイプ収縮工具内へ移してさらに半径方向に収縮させ、約2mmの所要送達外形(即ち、圧縮外径)にまで縮径した。次いで、装置を収縮工具から所要の送達システム内へ移した。これによって、組立ておよび装填の過程において装置が完全展開外径まで自己拡張するのを防止した。こうして得られたステント・グラフト装置の送達時外径は約2mmであり、完全展開外径は8mmとなった。この装置を実施例1で述べたように中空DELRIN(登録商標)樹脂キャビティ内で展開させた。ブロックの穴の直径は装置の完全展開直径の約50%に相当した。圧縮状態の装置を示す顕微鏡写真を図3gに示す。
【0077】
本発明のステント・グラフト装置を上述した態様で製造することの利点は図3aを図3gと比較すれば明白である。どちらの顕微鏡写真も完全展開外径の50%において撮影したものである。図3aは図3gと異なり皺がない。図3aは皺がないという本発明の利点を立証している。これに対して、図3gは100%展開直径において形成され、次いで展開直径の50%まで圧縮されたフィルム・チューブに現れた皺を示している。図3gにおけるカバーの前縁に現れている皺に注目されたい。
【0078】
本発明の特定の実施形態を図示し、説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。特許請求の範囲が定義する本発明の範囲を逸脱しない限り、多様な変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1a】ステントの外側にカバーを設けられ、拘束された状態にある本発明のカバー付きステントの1実施形態を示す45°の角度から見た斜視図である。
【図1b】図1aに示した本発明のカバー付きステントの実施形態を完全展開状態で示す45°の角度から見た斜視図である。
【図2a】本発明のカバー付きステントの実施形態を装置の完全展開外径の30%まで展開した状態を示す横断面図である。
【図2b】接着剤−ステントカバー界面が円滑に且つ徐々に移行する状態を拡大して詳細に示すとともに、本発明のカバー付きステントの実施形態を装置の完全展開外径の50%まで展開した状態を示す横断面図である。
【図2c】接着剤−ステントカバー界面が円滑に且つ徐々に移行する状態を拡大して詳細に示すとともに、本発明のカバー付きステントの実施形態を装置の完全展開外径の100%まで展開した状態を示す、図1bの2c−2c線における横断面図である。
【図3a】装置の完全展開外径の約50%まで部分的に展開した状態に拘束されている本発明のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図3b】装置の完全展開外径の約60%まで部分的に展開した状態に拘束されている本発明のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図3c】装置の完全展開外径の約70%まで部分的に展開した状態に拘束されている本発明のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図3d】装置の完全展開外径の約80%まで部分的に展開した状態に拘束されている本発明のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図3e】装置の完全展開外径の約90%まで部分的に展開した状態に拘束されている本発明のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図3f】装置の完全展開した本発明のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図3g】装置の完全展開外径の約50%まで部分的に展開した状態に拘束されている公知のカバー付きステントの内側を示す顕微鏡写真である。
【図4a】ステントの外面に設けたカバーに現れる皺を例示する横断面図である。
【図4b】ステントの内面に設けたカバーに現れる皺を例示する横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径方向に自己拡張可能なステント・グラフトであって、
内側および外側を有し、グラフトカバーがステントの少なくとも一部に取り付けられ且つステントの内側および外側のいずれか一方だけに設けられている、自己拡張ステントを備え;
前記ステント・グラフトが体腔に挿入されるための圧縮直径を有し;
拘束を解かれてステント・グラフトが圧縮直径から完全展開直径まで拡張するときに、前記グラフトが完全展開直径の50%〜100%の直径範囲に亘って実質的に皺を有さない
ことを特徴とする、直径方向に自己拡張可能なステント・グラフト。
【請求項2】
グラフトの厚さが約0.25mm未満である、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項3】
グラフトがePTFEを含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項4】
ePTFEがフィルムである、請求項3に記載のステント・グラフト。
【請求項5】
ePTFEが微小繊維から成る微細構造を含み、微小繊維がステントの長手軸と平行にほぼ配向されている、請求項3に記載のステント・グラフト。
【請求項6】
ePTFEが燒結されている、請求項3に記載のステント・グラフト。
【請求項7】
ePTFEが接着剤で被覆されている、請求項3に記載のステント・グラフト。
【請求項8】
グラフトが多孔質材料を含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項9】
グラフトが非孔質材料を含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項10】
グラフトが透過性材料を含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項11】
グラフトが不透過性材料を含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項12】
グラフトが約30%〜100%の直径範囲に亘って実質的に皺を有さない、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項13】
グラフトが内面を有し、内面がフルオロポリマーのみを含む、請求項1に記載のステント・グラフト。
【請求項14】
マンドレルを使用することなくグラフトをステントに取り付ける、請求項1に記載のステント・グラフトの製造方法。
【請求項15】
熱を使用することなくグラフトをステントに取り付ける、請求項1に記載のステント・グラフトの製造方法。
【請求項16】
直径方向に拡張可能なステント・グラフトであって、
ステントの外面の少なくとも一部を覆うグラフトカバーを設けた自己拡張ステントを備え、
前記ステントが体腔に挿入されるための圧縮直径を有し且つ拘束を解かれると圧縮直径から完全展開直径まで自己拡張し、前記グラフトカバーが完全展開直径の50%〜100%の直径範囲に亘って実質的に皺を有さない
ことを特徴とする、直径方向に拡張可能なステント・グラフト。
【請求項17】
直径方向に自己拡張可能なステント・グラフトであって、
内側および外側を有する自己拡張ステントであって、少なくとも1つのグラフトカバーがステントの少なくとも一部に取り付けられた、自己拡張ステントを備え;
前記ステント・グラフトが体腔に挿入されるための圧縮直径を有し;
ステント・グラフトが圧縮直径から完全展開直径まで拡張するときに、前記グラフトカバーが完全展開直径の50%〜100%の直径範囲に亘って実質的に皺を有さないようになっている
ことを特徴とする、直径方向に自己拡張可能なステント・グラフト。
【請求項18】
ステント・グラフト装置の製造方法であって、
ステントを用意し;
ステントに接着剤を適用し;
ステントを冷却し;
冷却しながらステントを縮径し;
チューブ状カバーを用意し;
チューブ状カバーをチューブ状拘束装置に挿入し;
カバーおよび拘束装置を冷却し;
冷却されたステントをカバーに挿入することによって集合体を形成し;
ステントとカバーを接着することによってステント・グラフトを形成する
ことを含む、方法。
【請求項19】
ステントを冷却した温度よりも高い温度においてステントとカバーとを接着することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
得られたステント・グラフトを収縮させて送達システム内に配置することをさらに含む、請求項18に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図3g】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2009−534096(P2009−534096A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506530(P2009−506530)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/009253
【国際公開番号】WO2007/127083
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】