説明

広告用膜材

【課題】撤去後の処分の際に、環境にそれほど負荷を与えず、且つ防炎性能の高い広告用膜材を提供する。
【解決手段】広告用膜材は、生分解性を持つポリ乳酸の繊維を編んで得た編布である膜基材10と、印刷をその表面に行われるインク受容層30とを有し、膜基材10とインク受容層30の間に中間層20を有する。中間層20は、バインダとしてのポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂に、重量比が4:1〜2:1に調整されたハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を混入させたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広告用膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外で用いられる広告媒体の一つに、ビルの、例えば屋上から垂らして用いられる膜状の広告用膜材がある。人目を惹きつけるに十分な機能をもち、また、必要となったときの設置、不要となったときの撤去が比較的容易である等の理由により、かかる広告用膜材は広く用いられている。
【0003】
かかる広告用膜材による広告効果を更に上げるべく、この広告用膜材の新たな使用態様が、近年提案されている。それは、例えばビル全体を包み込むようにして広告用膜材を用いるという使用態様である。時節に合せた華やかな柄や、広告用のキャッチフレーズなどを印刷した巨大な広告用膜材は、印刷された内容に応じて、それを見る者の目を一層強く惹きつける。
【0004】
ところで、広告用膜材が巨大になったことにより顕著になった問題がある。それは、広告用膜材の処分の問題である。上述したように、広告用膜材は、不必要となった場合には容易に撤去できるというのがその長所の一つであり、実際にそのようにして用いられるため、広告用膜材に一般的であった撤去後の処分の問題が、巨大になった広告用膜材によってより顕著に現れるようになったわけである。
【0005】
従来の広告用膜材は、塩化ビニル素材を膜基材としたものが多かったため、焼却によりダイオキシン発生のおそれがある。そのような点を考慮して従来の広告用膜材の撤去後の処理は、殆どの場合埋立てによって行われてきた。しかしながら、従来よりも頻繁に用いられるようになった巨大な広告用膜材を撤去する度にすべて埋立てたのでは、埋立て処理用の廃棄物処分場の不足が叫ばれる近年となっては環境に対する配慮が足りないといえる。
【0006】
そのような点を考慮して、ポリ乳酸等の生分解性の素材によって形成の膜基材を用いた、その全体を生分解できる広告用膜材が近年提案されている。
埋立てを行った場合の環境への負荷を軽減するという点に着目するのであれば、埋立てを行った場合にその全体が生分解されるという上述の広告用膜材は、有用である。しかしながら、生分解性の素材は、塩化ビニルその他の石油系素材(例えば、ポリエステル)と比較して燃えやすいという性質を一般に持つ。そのような理由で、生分解性の素材により形成の膜基材を用いた広告用膜材は、特に屋外で使用される広告用膜材が求められる機能の一つである防炎性能という部分で十分なものとはならない可能性がある。
このような点を考慮して、膜基材に難燃剤を含浸させたり、或いは膜基材の表面に設けられるものであり、その表面に印刷を行われるインク受容層に難燃剤を混入させることが提案されている。
しかしながら、膜基材に難燃剤を含浸させたり、インク受容層に難燃剤を混入させるだけでは、広告用膜材の防炎性能が十分なものとならない場合がある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−328471
【特許文献2】特開2003−112378
【特許文献3】特開2004−354414
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、撤去後の処分の際に環境に大きな負荷を与えず、且つ防炎性能の高い広告用膜材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本願発明者は研究を進め、バイオマス素材の有する燃え易いという性質を逆手に取れば、撤去後の処分を埋立てではなく焼却により行うという、従来の物とは異なるアプローチで環境に対する負荷を減らせる広告用膜材を実現できるということを想到するに到った。この場合に膜基材を形成するバイオマス素材は、燃え易いだけではなく、塩素を含まないためダイオキシンを発生させることがなく、また、焼却された際に生じる二酸化炭素はそのバイオマス素材の元となった植物が光合成により大気中から取入れたものであるからそれが大気中に放出されても大気中の二酸化炭素を増加させることがない。したがって、バイオマス素材は、焼却を行えるだけでなく、焼却を行った場合における環境に与える負荷が小さい。
他方、本願発明者は、広告用膜材を埋立てではなく焼却により処分することとした場合には、広告用膜材のすべてが生分解される必要がなくなるという点に着目した。本願発明者の考えによれば、膜基材に生分解性のバイオマス素材を用いた従来の広告用膜材は、撤去後の処理を埋立てにより行うことを前提として、そのすべてが生分解されるようなものとするという方向で開発がなされているが、そのこと自体が広告用膜材の防炎性能の低下を招いており、特に屋外で使用する場合に求められる防炎性能を満たすのが困難になっている。逆に、処分の手段として焼却を前提とする広告用膜材であれば、そのすべてが生分解されるものである必要がないため、撤去後の処分を行った場合に環境に与える負荷を小さくするという命題と、特に屋外で使用される広告用膜材に求められるレベル程度にその防炎性能を高くするという命題との双方を満たし易いという知見を、本願発明者は得た。
以上のような知見にしたがってなされた本願発明は、以下のようなものである。
【0010】
本願発明は、生分解性のバイオマス素材よりなる繊維によって形成された布である膜基材と、難燃剤である第1難燃剤、及び前記第1難燃剤を前記膜基材に固定するバインダである第1バインダを少なくとも含んでおり、前記膜基材の双方の面を覆う中間層と、難燃剤である第2難燃剤、インク吸収促進剤、及びこれらを前記中間層に固定するバインダである第2バインダを少なくとも含んでおり、前記中間層の少なくとも一方の面を覆うインク受容層と、を有する広告用膜材である。
この広告用膜材は、膜基材を生分解性のバイオマス素材により形成している。もっとも、膜基材を形成するバイオマス素材は、上述したように、その生分解性よりも、燃え易さに着目して用いられている。燃え易いバイオマス素材にて膜基材を形成することにより、本願発明の広告用膜材は撤去後の処理を焼却で行うのに向くものとなる。
この広告用膜材は、また、中間層と、インク受容層を有している。
これらのうち、本願発明の広告用膜材におけるインク受容層は、従来の広告用膜材におけるそれと同様に、その表面に印刷が行われるものである。そして、本願の広告用膜材におけるインク受容層には、第2難燃剤が含まれる。
中間層は、主に、それに含まれる第1難燃剤によって生じる防炎性能を担保する機能を有している。インク受容層には、印刷を行い易くなければならないという前提があるので、それに含めることのできる難燃剤の種類が制限されることがある。そのような制限のない中間層を設けることにより、本願発明の広告用膜材は、防炎性能に優れたものとなる。なお、第1難燃剤は、本願発明の広告用膜材全体の防炎性能を確保することに主眼を置いたものであり、第2難燃剤は本願発明の広告用膜材の表面の防炎性能を確保することに主眼を置いたものである。このような第1難燃剤と第2難燃剤の相乗効果により、本願の広告用膜材は、防炎性能に更に優れたものとなる。
なお、第1難燃剤と第2難燃剤は、撤去後における本願の広告用膜材の焼却を困難にすることはない。広告用膜材に通常求められる防炎性能は、焼却炉で行われる広告用膜材の焼却の妨げになるほどのものではないからである。
【0011】
本願発明において、膜基材は、生分解性のバイオマス素材よりなる繊維によって形成された布であれば足りる。膜基材を形成するバイオマス素材は、生分解性を有し、繊維を形成することができれば足りる。
例えば、前記バイオマス素材は、マニラ麻、ジュート、ケナフ等の天然繊維、又はポリ乳酸樹脂等の合成樹脂、或いはそれらの組合せとすることができる。
本願発明の広告用膜材における膜基材となる布は、繊維を織って形成の織布でも良いし、繊維を編んで形成の編布でもよいし、或いは不織布でもよい。
膜基材が織布である場合、前記織布を構成するたて糸の密度は、よこ糸の密度よりも高くされていてもよい。たて糸の密度をよこ糸の密度よりも高くすると、膜基材に中間層を形成するためのコーティングを行ったときに、繊維の目よれ、目曲がりが生じにくくなる。
【0012】
上述したように、本願発明の広告用膜材では、中間層には第1バインダが、インク受容層には第2バインダがそれぞれ含まれる。
第1バインダは、第1難燃剤を膜基材に固定することができるものであればどのようなものでもよい。第2バインダは、第2難燃剤、インク吸収促進剤を中間層に固定することができるものであればどのようなものでもよい。第1バインダ、第2バインダはともに、生分解性を有する必要はない。本願発明の広告用膜材は、撤去後の処理を埋立てで行わないので、第1バインダと第2バインダの少なくとも一方が生分解性を有さないことは、本願発明の欠点とはならない。
前記第1バインダと、前記第2バインダは、同じものでも、異なるものでもよい。第1バインダと、第2バインダにはともに、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、メチルペンテン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。もっとも、第2バインダは、インクを吸収することのできる素材、例えば、熱可塑性樹脂とするのが好ましい。
ただし、第1バインダと第2バインダはともに、広告用膜材を焼却した場合に、ダイオキシンを発生させないものとするのが好ましい。また、第1バインダと第2バインダはともに、それ自体が燃え難いものであるのが好ましい。このような2つの条件を満たす、第1バインダと第2バインダに適用することのできる素材として、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができる。なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、それに加える第1難燃剤又は第2難燃剤との相性、或いは含有量にもよるが、分解する可能性がある。例えば、第1バインダがポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂である場合、紫外線と水が存在することが条件となるが(このような条件は、広告用膜材が屋外で使用された場合には自然に満たされてしまうことが多い。)、加水分解する可能性がある。第1バインダ又は第2バインダの分解は、インク受容層の剥離を生じさせるおそれがあるため、避ける必要がある。そのようなことを避けるには、第1バインダと第2バインダに、例えば、ポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いればよい。
【0013】
本願発明の広告用膜材は、50℃±2℃の温水に30分浸漬させた場合に、重量減が10%以内になるようにすることができる。
屋外での使用の可能性が高い広告用膜材が通常求められる防炎性能の一例として、財団法人日本防炎協会の定める基準がある。かかる基準は、具体的には、50℃±2℃の温水に30分浸漬させた後、45°ミクロバーナー法で燃焼試験を行った結果、1分加熱後及び着火後3秒に、残炎時間が3秒以下、残じん時間が5秒以下、炭化面積が30cm以下、という各条件を充足しなければならない、というものである。本願出願人は、燃焼試験の前に行われる50℃±2℃の温水への30分の浸漬を行った場合に、広告用膜材の重量減が10%以内となるようにすれば上述の基準が充足される可能性が高い、との結論に到った。
50℃±2℃の温水への30分の浸漬を行った場合に、広告用膜材の重量減が10%以内となるようにするには、例えば、第1難燃剤と第2難燃剤の少なくとも一方に、水に溶けにくいものを選択したり、或いは、第1バインダ又は第2バインダの少なくとも一方に、加水分解し難い性質のものを選択すればよい。水に溶けにくい第1難燃剤又は第2難燃剤は、温水に流出し難いだけでなく、温水に流出しなかった第1難燃剤又は第2難燃剤が第1バインダ又は第2バインダを中間層又はインク受容層からの脱落から保護する。また、加水分解し難い第1バインダ又は第2バインダは、温水に流出しにくいだけでなく、温水に流出しなかった第1バインダ又は第2バインダが第1難燃剤又は第2難燃剤を中間層又はインク受容層からの脱落から保護する。上述のような第1バインダと第1難燃剤の組み合わせ、或いは第2バインダと第2難燃剤の組み合わせは、相乗効果により、50℃±2℃の温水に30分浸漬させた場合における広告用膜材の重量減をよく抑制する。特に、第1難燃剤が多く含まれることになる中間層は、上述の組み合わせを採用するのが好ましい。
水に溶けにくい第1難燃剤の例としては、ハロゲン系難燃剤を挙げられる。加水分解をし難い第1バインダの例としては、ポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げられる。
本願発明における第1難燃剤と第2難燃剤は、広告用膜材の防炎性能を上げることができるのであれば、特に制限はない。また、それらが中間層又はインク受容層にどの程度含まれるべきかという点にも、広告用膜材の防炎性能が確保されるのであれば特に制限はない。第1難燃剤と第2難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、リン系難燃剤、或いはそれらの組合せを用いることができる。
上述したように、第1難燃剤は、ハロゲン系難燃剤を含むものとすることができる。第1難燃剤は、また、ハロゲン系難燃剤に加えてアンチモン系難燃剤を含むものとすることができる。第1難燃剤としてハロゲン系難燃剤を含むものを用いると、上述したように、広告用膜材を50℃±2℃の温水に30分浸漬させた場合に第1難燃剤が温水に流出しなくなり、また、第1バインダの上述の加水分解を防ぎやすくなる。第1難燃剤としてアンチモン系難燃剤を更に含むものを用いると、第1バインダの上述の加水分解を更に防ぎやすくなる。ハロゲン系難燃剤は、防炎性能が高いが、アンチモン系難燃剤と併用することにより、広告用膜材の防炎性能をより上げることができるという更なる効果も生じる。ハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を併用する場合、両者の重量比は、4:1〜2:1とすることができる。なお、中間層における第1バインダと第1難燃剤(ハロゲン系難燃剤、又はハロゲン系難燃剤+アンチモン系難燃剤)は、第1バインダの重量を第1難燃剤の重量が上回る方がよく、例えば、第1バインダと第1難燃剤の重量比は、1:2〜1:6とすることができる。広告用膜材の防炎性能と、膜基材及びインク受容層への中間層の密着性を両立させるには、第1バインダと第1難燃剤の重量比を上述の程度とするのが好ましい。
また、第2難燃剤は、リン系難燃剤を含むものとすることができる。リン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と比して防炎性能で劣るが、インク受容層の中で一様に分散させ易い。第2難燃剤としてリン系難燃剤を用いる場合、インク受容層におけるリン系難燃剤が占める重量比を、10〜40%とすることができる。インク受容層におけるリン系難燃剤の重量比が10%を下回ると広告用膜材の防炎性能を十分なものとすることが難しくなり、また、それが40%を上回るとインク受容層への広告の印刷を行いにくくなるが、インク受容層におけるリン系難燃剤が占める重量比を10〜40%とすればそのような不具合を避けられる。
【0014】
本願発明の広告用膜材におけるインク受容層は、上述したように、その表面に印刷が行われるものであり、第2バインダと、第2難燃剤と、インク吸収促進剤が含まれる。インク吸収促進剤は、インク受容層へのインクの定着を良くするためのものであり、例えば、ポリビニルアルコール樹脂と無機微粒子の少なくとも一方を含むものとすることができる。無機微粒子の例としては、シリカ微粒子、炭酸マグネシウム微粒子を挙げることができる。これらはインク受容層に対して広告の印刷がなされた場合、インクを素早く吸収する。
インク受容層には、また、屋外で広告用膜材を用いた場合における広告用膜材の紫外線による劣化を防止するため、紫外線吸収剤を加えることができる。紫外線吸収剤を加えることにより、インク受容層の剥離が生じにくくなる。紫外線吸収剤には、有機系、無機系のいずれの物質を用いることも可能であり、有機系であれば、例えばヒンダードアミン系安定化剤(HALS)、無機系であれば、例えば酸化チタンを利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本願発明の広告用膜材の構成、及びその製造方法について説明する。
本実施形態による広告用膜材は、図1の断面図に示されたように、布である膜基材10、膜基材10の双方の表面に設けられた膜基材10を覆う中間層20、及び一方の中間層20の表面に設けられた中間層20を覆うインク受容層30を備えている。なお、インク受容層30は、中間層20の双方の表面に設けられていてもよい。
【0016】
膜基材10は、生分解性のバイオマス素材よりなる繊維によって形成された布である。
膜基材10である布を構成する繊維は、マニラ麻、ジュート、ケナフ等の天然繊維、又はポリ乳酸樹脂等の合成樹脂などとすることができるが、この実施形態では、これには限られないが、太さが100〜400dtex程度の公知のポリ乳酸樹脂による繊維である。
膜基材10である布は、織布、編布、不織布のいずれでもよいが、この実施形態では、これには限られないが、織布である。必ずしもそうする必要はないが、この実施形態の膜基材10である布は、たて糸の密度が、よこ糸の密度よりも高くされている。この実施形態では、たて糸は48本/インチ以上、よこ糸は43本/インチ以上の範囲で、たて糸の密度が、よこ糸の密度よりも高くされている。たて糸とよこ糸の本数をこのようにするのは、膜基材10に中間層を設けるときに繊維の目よれ、目曲がりが生じにくいからである。
【0017】
このような膜基材10の両面に上述した中間層20を設け、次いで、一方の中間層20の表面に上述したインク受容層30を設けることで、この実施形態の広告用膜材が製造される。
【0018】
膜基材10の両面に中間層20を設ける方法は以下の通りである。
まず、それを膜基材10の両面に塗布し、固化させた場合に中間層20となる第1コーティング剤を調整する。
第1コーティング剤は、第1バインダ、第1難燃剤を含む。
第1バインダは、第1難燃剤を膜基材10に固定することができるものであればどのようなものでもよい。第1バインダは、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、メチルペンテン樹脂等の熱可塑性樹脂の中から選択することができる。必ずしもそうである必要はないが、この実施形態では、広告用膜材を焼却した場合にダイオキシンを発生させないという理由から、第1バインダとして熱可塑性ポリウレタン樹脂を、また、それ自体も燃え難いという理由から、熱可塑性ポリウレタン樹脂の中からポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂を選択することにした。
第1難燃剤は、この実施形態では、ハロゲン系難燃剤と、必ずしも必要ではないが、アンチモン系難燃剤とを含んでいる。ハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤はそれぞれ、具体的には、デカブロモジフェニルエーテル(Deca−BDE)と三酸化アンチモンである。この実施形態では、ハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤の重量比を、4:1〜2:1に調整する。
第1バインダと、第1難燃剤を、溶媒である水に、第1難燃剤の方が重量が多くなるように、例えば、重量比が1:2〜1:6となるように加えて攪拌し、第1コーティング剤を調整する。なお、この実施形態では、第1バインダと、第1難燃剤は、必ずしもこの限りではないが、25重量部と75重量部となるようにする。
このようにして調整した第1コーティング剤を、膜基材10の両面に塗布し、これには限られないが、この実施形態では、120℃程度で乾燥させることにより、膜基材10の両面に中間層20が形成される。なお、第1コーティング剤を膜基材10へ塗布する場合には、ナイフコーティング、ディップコーティング等の公知の技術を用いることができる。
中間層20は、第1バインダであるポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂の中に、第1難燃剤であるハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤が分散したものとなる。なお、中間層20は、薄すぎると広告用膜材の防炎性能を十分なものにできないことがあり、厚すぎると広告用膜材の柔軟性を損なうことがある。したがって、中間層20は、20〜200g/mとするのがよい。
【0019】
一方の中間層20の表面にインク受容層30を設ける方法は以下の通りである。
まず、それを中間層20の表面に塗布し、固化させた場合にインク受容層30となる第2コーティング剤を調整する。
第2コーティング剤は、第2バインダ、第2難燃剤、インク吸収促進剤を含む。
第2バインダは、第2難燃剤、インク吸収促進剤を中間層20に固定することができるものであればどのようなものでもよく、インク吸収促進剤としての性能を併せ持つものであってもよい。第2バインダは、第1バインダと同様、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、メチルペンテン樹脂等の熱可塑性樹脂の中から選択することができる。必ずしもそうである必要はないが、この実施形態では、第1バインダと同様の理由で、第2バインダとして熱可塑性ポリウレタン樹脂を、より詳細には、ポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂を選択することにした。
第2難燃剤は、この実施形態では、リン系難燃剤である。リン系難燃剤は、具体的には、リン酸アンモニウムである。
インク吸収促進剤は、広告の印刷がインク受容層30に対して行われた場合におけるインクのインク受容層30に対する定着性を増せるものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール樹脂と無機微粒子の少なくとも一方を含むものとすることができる。無機微粒子の例としては、シリカ微粒子、炭酸マグネシウム微粒子を挙げることができる。この実施形態では、これには限られないが、ポリビニルアルコール樹脂とシリカ微粒子を併せたものをインク吸収促進剤として採用した。この場合、ポリビニルアルコール樹脂とシリカ微粒子の重量比は、例えば、9:1〜1:9の範囲である。
この実施形態の第2コーティング剤には、必ずしも必要ではないが、紫外線吸収剤が含まれる。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収するものであればよく、有機系、無機系のいずれの物質を用いることも可能である。紫外線吸収剤は、有機系であれば、例えばヒンダードアミン系安定化剤(HALS)、無機系であれば、例えば酸化チタンを利用することができる。この実施形態では、紫外線吸収剤として、ヒンダードアミン系安定化剤を選択した。
そして、第2バインダと、インク吸収促進剤と、第2難燃剤と、紫外線吸収剤とを、溶媒である水に加えて攪拌し、第2コーティング剤を調整する。この場合、第2難燃剤のインク受容層30に占める重量比が10〜40%の範囲となるようにする。より詳細には、この実施形態では、必ずしもこの限りではないが、第2バインダ及びインク吸収促進剤と、第2難燃剤と、紫外線吸収剤とがそれぞれ、65重量部、30重量部、5重量部となるようにした。
その第2コーティング剤を、一方の中間層20の表面に塗布し、これには限られないが、この実施形態では、120℃程度で乾燥させることにより、一方の中間層20の表面にインク受容層30が形成される。なお、第2コーティング剤を中間層20へ塗布する場合には、ナイフコーティング、ディップコーティング等の公知の技術を用いることができる。
インク受容層30は、第2バインダであるポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂の中に、第2難燃剤であるリン系難燃剤と、インク吸収促進剤であるポリビニルアルコール樹脂とシリカ微粒子と、紫外線吸収剤であるヒンダードアミン系安定化剤とが分散したものとなる。なお、インク受容層30は、薄すぎるとインク受容層への印刷を美しく行えないことがあり、厚すぎると表面にクラックが生じてこれもインク受容層30への印刷を美しく行えない原因となり得る。したがって、インク受容層30は、20〜60g/mとするのがよい。
【0020】
<実験例>
上述の方法で製造した広告用膜材を、50℃±2℃の温水に30分浸漬させたところ、広告用膜材の重量減は、当初の重量の1%に止まった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態による広告用膜材の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0022】
10 膜基材
20 中間層
30 インク受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性のバイオマス素材よりなる繊維によって形成された布である膜基材と、
難燃剤である第1難燃剤、及び前記第1難燃剤を前記膜基材に固定するバインダである第1バインダを少なくとも含んでおり、前記膜基材の双方の面を覆う中間層と、
難燃剤である第2難燃剤、インク吸収促進剤、及びこれらを前記中間層に固定するバインダである第2バインダを少なくとも含んでおり、前記中間層の少なくとも一方の面を覆うインク受容層と、
を有する広告用膜材。
【請求項2】
前記バイオマス素材は、マニラ麻、ジュート、ケナフ、又はポリ乳酸樹脂である、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項3】
前記第1バインダと、前記第2バインダの少なくとも一方が、熱可塑性ポリウレタン樹脂である、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項4】
前記第1バインダと、前記第2バインダの少なくとも一方が、ポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタン樹脂である、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項5】
前記第1難燃剤が、ハロゲン系難燃剤を含む、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項6】
前記第1難燃剤が、アンチモン系難燃剤を更に含む、
請求項5記載の広告用膜材。
【請求項7】
前記第2難燃剤が、リン系難燃剤を含む、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項8】
前記膜基材は、前記繊維を織って形成の織布であり、
前記織布を構成するたて糸の密度は、よこ糸の密度よりも高くされている、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項9】
前記インク受容層における前記リン系難燃剤が占める重量比が、10〜40%である、
請求項7記載の広告用膜材。
【請求項10】
前記インク吸収促進剤が、ポリビニルアルコール樹脂と無機微粒子の少なくとも一方を含む、
請求項1記載の広告用膜材。
【請求項11】
50℃±2℃の温水に30分浸漬させた場合に、重量減が10%以内になるようにされている、
請求項1記載の広告用膜材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−42692(P2009−42692A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210525(P2007−210525)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】