説明

広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法及びその装置

【課題】雑音の大きい広帯域光源を用いてもAE信号を適切に計測する。
【解決手段】FBGセンサ部21を含む構成で片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバ22と、FBGセンサ部21のブラッグ波長を含む広帯域光源2と、FBGセンサ部21から反射した光を分離する光サーキュレータ3と、反射光が入射するファブリペローフィルタ5,6と、光を電気信号に変換する光電変換器7,8と、光電変換器7,8から出力される光強度変化を集録する信号集録装置23と、信号集録装置23により集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理する信号処理装置24と、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別する信号判別装置25と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物等の検査対象についてひずみを検出する手法としては、ひずみ発生に伴う弾性波放出(AE:アコースティック・エミッション)の検出を利用したAE計測方法が存在している。
【0003】
AE計測方法では、電磁波障害を受ける圧電素子の代わりに、光ファイバセンサの一種であるFBG(Fiber Bragg Grating:ファイバ・ブラッグ・グレーティング)センサを用いることが考えられている。
【0004】
このようなAE計測装置について説明すると、図6に示すごとくAE計測装置は、FBGセンサ1のブラッグ波長を含む広帯域光源2と、広帯域光源2とFBGセンサ1の間に位置する光サーキュレータ3と、光サーキュレータ3からの光を分岐する光カプラ4と、光カプラ4で分岐した一方の光を透過させる第一のファブリペローフィルタ(FFP:Fiber Fabry-Perot)5と、光カプラ4で分岐した他方の光を透過させる第二のファブリペローフィルタ(FFP:Fiber Fabry-Perot)6と、第一のファブリペローフィルタ5を透過した光を電気信号に変換する第一の光電変換器7と、第二のファブリペローフィルタ6を透過した光を電気信号に変換する第二の光電変換器8と、第一の光電変換器7及び第二の光電変換器8からの信号を処理するAEの計測器9及びデータ収録器10を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
広帯域光源2は、広帯域の光を連続的に出力するものであり、広帯域光源2と光サーキュレータ3の間には、第一の光ファイバ11を配して入射光を光サーキュレータ3に導波させるようになっており、更に光サーキュレータ3とFBGセンサ1の間には、第二の光ファイバ12を配して入射光をFBGセンサ1に導波させるようになっている。
【0006】
FBGセンサ1は、光ファイバのコア部分に光軸方向に沿って一定の間隔で回折格子を形成するセンサであり、FBGセンサ1に光が入射されると、ブラッグ波長の波長成分がFBGセンサ1で反射され、残りの成分が透過されるようになっている。またブラッグ波長のシフト量は、検査対象のひずみ等により変化するようになっている。更にFBGセンサ1は、計測対象に接着して配置されている。
【0007】
光サーキュレータ3は、入射光または反射光による導波の方向を制御するように、広帯域光源2からの入射光を第二の光ファイバ12へ導波させると共に、FBGセンサ1からの反射光を第三の光ファイバ13を介して光カプラ4へ導波させるようになっている。
【0008】
光カプラ4は、第四の光ファイバ14を配して第一のファブリペローフィルタ5に接続されていると共に、第五の光ファイバ15を配して第二のファブリペローフィルタ6に接続されており、反射光を50:50に分岐して第一のファブリペローフィルタ5及び第二のファブリペローフィルタ6に入射させるようになっている。
【0009】
第一のファブリペローフィルタ5及び第二のファブリペローフィルタ6は、光学特性としてフィルタの透過率が一定の波長間隔(FSR:Free Spectral Range)で周期的に変化するものであり、ファブリペローフィルタ5,6の透過波長とFBGセンサ1の反射光スペクトルの重なりあった波長のみが透過している。また第一のファブリペローフィルタ5は透過光を第六の光ファイバ16により第一の光電変換器7へ導波すると共に、第二のファブリペローフィルタ6は透過光を第七の光ファイバ17により第二の光電変換器8へ導波するようになっている。
【0010】
第一の光電変換器7は、第一のファブリペローフィルタ5からの透過光を電気信号に変換し、電気信号を第一の連絡線18によりAEの計測器9及びデータ収録器10へ送るようにしている。また第二の光電変換器8は、第一の光電変換器7と同様に、第二のファブリペローフィルタ6からの透過光を電気信号に変換し、電気信号を第二の連絡線19によりAEの計測器9及びデータ収録器10へ送るようにしている。
【0011】
AEの計測器9及びデータ収録器10は、光の強度変化の高周波成分を計測し、AEを取得して記録するようになっている。ここでAEの計測器9とデータ収録器10は別々に構成しても良いし、1つの機器で構成しても良い。
【0012】
AEを計測する際には、FBGセンサ1からの反射光を光カプラ4により50:50に分け、第一のファブリペローフィルタ5及び第二のファブリペローフィルタ6に入射させる。次に第一のファブリペローフィルタ5及び第二のファブリペローフィルタ6ではファブリペローフィルタ5,6の透過波長とFBGセンサ1の反射光スペクトルの重なりあった波長を透過させて第一の光電変換器7及び第二の光電変換器8に導波し、第一の光電変換器7及び第二の光電変換器8で透過光の強度を夫々電気信号に変換する。そしてAEの計測器9及びデータ収録器10では夫々光の強度変化の高周波数成分を計測してAEを取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−46036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、光電変換された信号の高周波数成分は、広帯域光源2から照射される光強度のゆらぎやファブリペローフィルタ5,6の透過率のゆらぎにより、雑音が大きいという問題があった。
【0015】
またファブリペローフィルタ5,6の透過率は一定の波長間隔(FSR)により周期的に変化する。この時、ファブリペローフィルタ5,6を透過する光強度も増し、それに伴い高周波数成分の雑音レベルも変化するため、AE計測時において高周波数成分の電圧信号に一定の閾値(トリガレベル)を設定しようとしても、ブラッグ波長がファブリペローフィルタ5,6の透過率最大波長にある場合には雑音レベルが大きくなり、逆にファブリペローフィルタ5,6の透過率最小波長にある場合には雑音レベルが小さくなり、閾値を一定の値にすることが難しいという問題があった。
【0016】
これら二つの問題に対しては、特開2005−326326号公報のごとく光源に波長可変レーザ光を使用することが検討されているが、波長可変レーザを使用する場合には一つのFBGセンサ1に対して一つの波長可変レーザが必要となるため、光学系が複雑になるという問題があった。またFBGセンサ1の反射光の半値幅に対して使用できるような波長幅の狭い波長可変レーザ光源は高価で且つ大型であり、多点計測系を構成することや、可変性のある計測装置を構成することが難しいという問題があった。
【0017】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、雑音の大きい広帯域光源を用いてもAE信号を適切に計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法は、FBGセンサ部を計測対象に接着させず、計測対象に接着され且つ該FBGセンサ部を含む構成で片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバと、前記FBGセンサ部のブラッグ波長を含む広帯域光源と、該広帯域光源から照射された光を透過して光ファイバのFBGセンサ部に入射させ且つFBGセンサ部から反射した光を分離する光サーキュレータと、該光サーキュレータにより分離された反射光が入射するファブリペローフィルタと、該ファブリペローフィルタを透過した光を電気信号に変換する光電変換器とを備え、
片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバのハリの共振周波数に相当する縦波弾性波を検知するようにした、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法であって、
前記光電変換器から出力される光強度変化を集録し、集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理し、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別するものである。
【0019】
本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法において、前記光電変換器から出力される光強度変化を集録する際には、光強度変化に対応する電圧信号を時間的に連続集録することが好ましい。
【0020】
本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法において、前記閾値は、AE信号が発生しない状態での信号を用いて、FBGセンサ部が検出する弾性波の信号強度に設定され、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出した際には、前記閾値を超える信号をAE信号として識別することが好ましい。
【0021】
本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測装置は、FBGセンサ部を計測対象に接着させず、計測対象に接着され且つ該FBGセンサ部を含む構成で片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバと、
前記FBGセンサ部のブラッグ波長を含む広帯域光源と、
該広帯域光源と、FBGセンサ部を含む光ファイバとの間に配置され、広帯域光源から照射された光を透過してFBGセンサ部に入射させ且つFBGセンサ部から反射した光を分離する光サーキュレータと、
該光サーキュレータにより分離された反射光が入射するファブリペローフィルタと、
該ファブリペローフィルタを透過した光を電気信号に変換する光電変換器と、
該光電変換器から出力される光強度変化を集録する信号集録装置と、
該信号集録装置により集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理する信号処理装置と、
連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別する信号判別装置と、
を備えたものである。
【0022】
本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測装置において、前記信号集録装置は、光強度変化に対応する電圧信号を時間的に連続集録するように構成されることが好ましい。
【0023】
本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測装置において、前記信号判別装置は、AE信号が発生しない状態での信号を用いて、FBGセンサ部が検出する弾性波の信号強度に閾値を設定し、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出した際に、前記閾値を超える信号をAE信号として識別するように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光電変換器から出力される光強度変化を集録し、集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理し、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別するので、広帯域光源から照射される光強度のゆらぎやファブリペローフィルタの透過率のゆらぎにより雑音レベルが大きい場合であっても、AE信号と雑音を判別してAE信号を適切に計測することができる。またFBGセンサ部及びファブリペローフィルタの構成により雑音レベルが変化して電圧信号に一定の閾値を設定することができない場合であっても、電圧信号を連続ウェーブレット変換することにより、AE信号と雑音を判別することが可能となり、よってAE信号を適切に計測することができる。更に広帯域光源を用いると共に、電圧信号を連続ウェーブレット変換して処理するので、一つのFBGセンサ部に対して一つの波長可変レーザが必要となるような複雑な光学系を不要にすることができる。また高価な波長可変レーザを用いることなく、AE信号を計測するので、費用を低減すると共に、多点計測系の構成や、可変性のある計測装置の構成を可能にし、よってAE信号を適切に計測することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態例を示すブロック図である。
【図2】電圧信号のみでAE信号と雑音を識別できる場合の、電圧信号、連続ウェーブレット処理後の振幅、周波数を示すデータである。
【図3】雑音の信号のみが存在する場合の、電圧信号、連続ウェーブレット処理後の振幅、周波数を示すデータである。
【図4】電圧信号のみでAE信号と雑音を識別できず、連続ウェーブレット処理によりAE信号と雑音を識別できる場合の、電圧信号、連続ウェーブレット処理後の振幅、周波数を示すデータである。
【図5】計測対象にひずみを発生させた場合において、電圧の生データから取得したAE信号と、連続ウェーブレット処理を適用したデータから取得したAE信号とを示すグラフである。
【図6】従来のAE計測装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法及び装置を実施する形態例を図1〜図5を参照して説明する。なお、図中、図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0027】
実施の形態例は、FBGセンサ部21を含む光ファイバ22と、FBGセンサ部21のブラッグ波長を含む広帯域光源2と、広帯域光源2とFBGセンサ部21の間に位置する光サーキュレータ3と、光サーキュレータ3からの光を分岐する光カプラ4と、光カプラ4で分岐した一方の光を透過させる第一のファブリペローフィルタ(FFP:Fiber Fabry-Perot)5と、光カプラ4で分岐した他方の光を透過させる第二のファブリペローフィルタ(FFP:Fiber Fabry-Perot)6と、第一のファブリペローフィルタ5を透過した光を電気信号に変換する第一の光電変換器7と、第二のファブリペローフィルタ6を透過した光を電気信号に変換する第二の光電変換器8と、第一の光電変換器7及び第二の光電変換器8から出力される光強度変化を集録する信号集録装置23と、信号集録装置により集録された信号を処理する信号処理装置24と、信号処理装置24からの信号を判別する信号判別装置25とを備えている。ここで広帯域光源2、光サーキュレータ3、ファブリペローフィルタ5,6、光電変換器7,8は、図6と同じものを用いている。また実施の形態例では、光カプラ4により分岐されてファブリペローフィルタ5,6及び光電変換器7,8を経由する2系統のラインを構成しているが、1系統のラインにしても良いし、もしくは他の複数の系統のラインにしても良い。
【0028】
FBGセンサ部21を含む光ファイバ22は、FBGセンサ部21を計測対象Sに接着させず、光ファイバ22の一部を接着剤等の接着手段26により計測対象Sに接着し、FBGセンサ部21を含む光ファイバ22を片持ちハリもしくは両持ちハリ状態にし(図1では片持ちハリ状態)、計測対象Sに弾性波を生じた際に光ファイバ22の接着部から弾性波を光ファイバ22に導き、FBGセンサ部21に縦波弾性波を伝播するようにしている。ここで、光ファイバセンサとは、FBGセンサ部21を含む光ファイバ22のことを意味している。また片持ちハリもしくは両持ちハリとして取付けられた光ファイバ22及びFBGセンサ部21はハリの縦振動の共振周波数に対して高い感度を有する構造となる。
【0029】
信号集録装置23は、光電変換器7,8から出力される光強度変化に対し、光強度変化の電圧信号を時間的に連続集録する構成を備え、電圧信号を第一の連絡線27を介して信号処理装置24へ送るようにしている。ここで連続集録する時間は、計測中全ての時間であっても良いし、ある一定期間でも良い。
【0030】
信号処理装置24は、信号集録装置23で集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理する構成を備え、連続ウェーブレット変換した信号を第二の連絡線28を介して信号判別装置25へ送るようにしている。ここで連続ウェーブレット変換等の処理は、信号集録装置23の連続集録と同時に行っても良いし、連続集録の後に行っても良い。
【0031】
信号判別装置25は、信号処理装置24で連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し、且つ閾値を予め設定してAE信号かどうかを判別する構成を備えている。また、ここで言う特定の周波数とは、FBGセンサ部21を含む光ファイバ22の片持ちハリもしくは両持ちハリの共振周波数に相当する周波数に相当している。更に信号判別装置25は、特定の周波数に相当する信号を抽出する処理と、AE信号かどうか判別する処理を別々の構成部分で処理しても良い。更に信号集録装置23、信号処理装置24、信号判別装置25は、1つの装置で構成されても良いし、他の装置を用いても良い。
【0032】
以下、本発明の、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法及び装置で実施する形態例の作用を説明する。
【0033】
AE信号を計測する際には、広帯域光源2から照射された光が、光サーキュレータ3を透過して光ファイバ22のFBGセンサ部21に入射し、FBGセンサ部21から反射した光は光サーキュレータ3で分離される。そして光サーキュレータ3により分離された反射光は、光カプラ4を介して夫々のファブリペローフィルタ5,6に入射し、光電変換器7,8で電気信号に変換され、電気信号が信号集録装置23に時間的に連続集録される。
【0034】
この時、計測対象Sに外部からの荷重が負荷され、一定以上のひずみを越えるようになると損傷信号を発生するようになる。損傷信号は弾性波として計測対象S内に伝播し、光ファイバ22の計測対象Sに接着された部分から、片持ちハリもしくは両持ちハリ状態であるFBGセンサ部21を含む光ファイバ22(図1では片持ちハリ状態)に伝播する。そして光ファイバ22のFBGセンサ部21を含むハリの縦波共振周波数に対応した、FBGセンサ部21からの反射光強度変化が生じ、光ファイバ22を遡って光サーキュレータ3から光カプラ4を通って、ファブリペローフィルタ5,6を透過し、光電変換器7,8により電気信号に変換され、信号集録装置23、信号処理装置24、信号判別装置25等を用いて計測対象Sの損傷状況を監視することとなる。
【0035】
信号処理装置24では、信号集録装置23からの電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理する。連続ウェーブレット変換とは、原時系列信号を時間−周波数−信号強度からなる信号処理であって、ウェーブレット関数により、広い周波数領域において時間領域の情報を失うことなく、特定の周波数成分を求めることができるものである。また本実施の形態例では、片持ちハリもしくは両持ちハリとして取付られたFBGセンサ部21の高感度にする周波数は計測対象により異なり、また、ハリ長さにより周波数がわずかに変化するため、ウェーブレット変換は任意の周波数を解析し得る連続ウェーブレット処理が最適の処理となっている。以下、具体的に連続ウェーブレット変換の定義を説明すると、次式の通りである。
【数1】



Ψはマザーウェーブレットであり、aがスケール、bがシフトを表す。 ̄は複素共役を示す。χ(t)は時間tに対する連続信号である。また上式は信号χ(t)とウェーブレット基底Ψ((tーb)/a)を時間軸上でコンボリューション(たたみ込み積分)を行うことを示す。更にスケールaは周波数に相当し、シフトbは時間に相当する。WΨχはスケールaシフトbの時の信号強度を表す。
ここでマザーウェーブレットΨは次式に示すガボールウェーブレットを適用している。
【数2】



また連続ウェーブレット変換は任意のマザーウェーブレットを適用しても良いが、ガボールウェーブレットは周波数局在性が強く、特定の周波数の信号を抽出することに適している。
【0036】
次に信号判別装置25では、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値によりAE信号かどうかを判別し、AE信号を検出する。ここで閾値は、AE信号が発生しない状態での雑音の信号を用いて設定されており、AE信号が発生しない状態とは、測定対象Sの状態変化が生じる前の条件であっても良いし、他の準備段階での状態であっても良い。
【0037】
[試験1]
以下、従来の比較例及び実施の形態例を試験し、電圧信号のみでAE信号と雑音を識別できる場合と、雑音の信号のみが存在する場合と、電圧信号のみでAE信号と雑音を識別できず、連続ウェーブレット処理によってAE信号と雑音を識別できる場合とを夫々取得し、そのデータ及び結果を示す。
【0038】
初めに、従来の比較例を試験し、電圧信号のみでAE信号と雑音を識別できる場合の電圧信号、連続ウェーブレット処理後の振幅、周波数を図2に示す。図2(a)の電圧信号では、所定の位置から電圧値が大きくなり、AE信号が発生していると判断できる。また、この信号を連続ウェーブレット処理した際の図2(b)の振幅では、AE信号に対応する振幅値が大きくなっており、図2(c)の周波数ではAE信号が明瞭になっている。このような信号では連続ウェーブレット変換や信号の連続収録は必要としない。
【0039】
次に、雑音の信号のみが存在する場合の、電圧信号、連続ウェーブレット処理後の振幅、周波数を図3に示す。図3(a)の電圧信号では、電圧値が一定の範囲内にあり、また、この信号を連続ウェーブレット処理した際の図3(b)の振幅、図3(c)の周波数も一定の範囲内にあり、変化がない。ここで図3の雑音の信号のみが存在する場合を閾値に設定しても良く、図3(b)では、雑音のピークが到達しない振幅値(0.00014)を閾値に設定している。
【0040】
そして電圧信号のみからAE信号と雑音を識別できず、連続ウェーブレット処理によりAE信号と雑音を識別できる場合の、電圧信号、連続ウェーブレット処理後の振幅、周波数を図4に示す。図4(a)の電圧信号では、電圧幅が一定の範囲内にあり、図2のようにAE信号と雑音を明確に識別できない。この信号を連続ウェーブレット処理した際の図4(b)の振幅では、片持ちハリ状態に取付けたFBGセンサ部21の共振周波数に相当する周波数の信号に対応する振幅値が大きくなっており、図4(c)の周波数ではAE信号が明瞭になっている。また電圧信号のみからAE信号と雑音を識別できない場合であっても、図4(b)と図4(c)から連続ウェーブレット処理によりAE信号と雑音を識別することが可能となる。よって雑音レベルが大きな広帯域光源を使用しても振幅の小さなAE信号を識別することが明らかである。
【0041】
[試験2]
次に、計測対象Sにひずみを発生させた場合において、電圧信号のみ(電圧の生データ)からAE信号を識別したものと、連続ウェーブレット処理を適用したデータから識別したものとを示す。
【0042】
試験の条件では、計測対象Sに負荷をかけてひずみを徐々に与え、計測対象のひずみとAEを同時に計測したものである。また、ひずみの計測は、ひずみゲージを用いている。更に試験では、電圧信号のみからAE信号を識別したもの、及び連続ウェーブレット処理を適用したデータから識別したものについて、夫々、単位時間あたりにAE信号として識別された信号(AE Hits/sec)により記録した。なお900秒以後、ひずみが急速に増加している箇所は、発生ひずみが大きいため、ひずみゲージの抵抗線の断線が生じたことを示す。
【0043】
その結果、図5に示す如く電圧信号のみからAE信号を識別したものは数点(図5では1点)しか検出できず、連続ウェーブレット処理を適用したデータからAE信号を識別したものは、多くの点を検出した。特に、600から900秒の間でひずみが不連続に変化する時間帯およびその直前に多くのAE信号が測定されており、計測対象の状態変化を捉えたことを示しており、本発明によるAE計測が有効なことを示している。
【0044】
このように、実施の形態例によれば、光電変換器7,8から出力される光強度変化を集録し、集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理し、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別するので、広帯域光源2から照射される光強度のゆらぎやファブリペローフィルタ5,6の透過率のゆらぎにより雑音レベルが大きい場合であっても、AE信号と雑音を判別してAE信号を適切に計測することができる。またFBGセンサ部21及びファブリペローフィルタ5,6等の構成により雑音レベルが変化して電圧信号に一定の閾値を設定することができない場合であっても、電圧信号を連続ウェーブレット変換することにより、AE信号と雑音を区別することが可能となり、よってAE信号を適切に計測することができる。更に広帯域光源2等を用いると共に、電圧信号を連続ウェーブレット変換して処理するので、一つのFBGセンサ部21に対して一つの波長可変レーザが必要となるような複雑な光学系を不要にすることができる。また高価な波長可変レーザを用いることなく、AE信号を計測するので、費用を低減すると共に、多点計測系の構成や、可変性のある計測装置の構成を可能にし、よってAE信号を適切に計測することができる。
【0045】
実施の形態例において、光電変換器7,8から出力される光強度変化を集録する際には、光強度変化に対応する電圧信号を時間的に連続集録するので、連続集録した全ての時間の信号に対して連続ウェーブレット処理を適用することが可能となり、閾値の設定やAE信号の判別を適切に行うことができる。
【0046】
実施の形態例において、閾値は、AE信号が発生しない状態での信号を用いて、FBGセンサ部21が検出する弾性波の信号強度に設定されており、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出した際には、閾値を超える信号をAE信号として識別するので、AE信号を適切に計測することができる。また連続ウェーブレット変換された信号のうち特定周波数だけに注目し、特定周波数の振幅値からクライテリア(評価基準)を設定するので、AE信号と雑音の区別を容易にすることができる。
【0047】
なお、本発明の広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法及びその装置は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
2 広帯域光源
3 光サーキュレータ
5 ファブリペローフィルタ
6 ファブリペローフィルタ
7 光電変換器
8 光電変換器
21 FBGセンサ部
22 光ファイバ
23 信号集録装置
24 信号処理装置
25 信号判別装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FBGセンサ部を計測対象に接着させず、計測対象に接着され且つ該FBGセンサ部を含む構成で片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバと、前記FBGセンサ部のブラッグ波長を含む広帯域光源と、該広帯域光源から照射された光を透過して光ファイバのFBGセンサ部に入射させ且つFBGセンサ部から反射した光を分離する光サーキュレータと、該光サーキュレータにより分離された反射光が入射するファブリペローフィルタと、該ファブリペローフィルタを透過した光を電気信号に変換する光電変換器とを備え、
片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバのハリの共振周波数に相当する縦波弾性波を検知するようにした、広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法であって、
前記光電変換器から出力される光強度変化を集録し、集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理し、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別することを特徴とするAE計測方法。
【請求項2】
前記光電変換器から出力される光強度変化を集録する際には、光強度変化に対応する電圧信号を時間的に連続集録することを特徴とする請求項1に記載の広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法。
【請求項3】
前記閾値は、AE信号が発生しない状態での信号を用いて、FBGセンサ部が検出する弾性波の信号強度に設定され、
連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出した際には、前記閾値を超える信号をAE信号として識別することを特徴とする請求項1又は2に記載の広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測方法。
【請求項4】
FBGセンサ部を計測対象に接着させず、計測対象に接着され且つ該FBGセンサ部を含む構成で片持ちハリもしくは両持ちハリ状態に配置される光ファイバと、
前記FBGセンサ部のブラッグ波長を含む広帯域光源と、
該広帯域光源と、FBGセンサ部を含む光ファイバとの間に配置され、広帯域光源から照射された光を透過してFBGセンサ部に入射させ且つFBGセンサ部から反射した光を分離する光サーキュレータと、
該光サーキュレータにより分離された反射光が入射するファブリペローフィルタと、
該ファブリペローフィルタを透過した光を電気信号に変換する光電変換器と、
該光電変換器から出力される光強度変化を集録する信号集録装置と、
該信号集録装置により集録された電圧信号を連続ウェーブレット変換で処理する信号処理装置と、
連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出し且つ閾値を設けてAE信号かどうかを判別する信号判別装置と、
を備えたことを特徴とする広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測装置。
【請求項5】
前記信号集録装置は、光強度変化に対応する電圧信号を時間的に連続集録するように構成されたことを特徴とする請求項4に記載の広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測装置。
【請求項6】
前記信号判別装置は、AE信号が発生しない状態での信号を用いて、FBGセンサ部が検出する弾性波の信号強度に閾値を設定し、連続ウェーブレット変換された信号から特定の周波数に相当する信号を抽出した際に、前記閾値を超える信号をAE信号として識別するように構成されたことを特徴とする請求項4又は5に記載の広帯域光を用いた光ファイバセンサによるAE計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−37480(P2012−37480A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180270(P2010−180270)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】