床構造
【課題】金属形材製の枠材や梁材による骨組み構造を維持したまま、防音性能を高めることができる床構造を提供する。
【解決手段】金属形材製の梁材3の空間部11に、還元ペレット等の粒状体13を封入し、枠材及び梁材3からなる骨組みに構成する。
【解決手段】金属形材製の梁材3の空間部11に、還元ペレット等の粒状体13を封入し、枠材及び梁材3からなる骨組みに構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属形材製の枠材と、この枠材の内側に掛け渡される金属形材製の梁材との骨組みを有する床構造に関し、特に防音性能に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在来工法による住宅建設において、木材の骨組みに床板を接合した床構造に代わり、金属形材製の枠材と梁材とによる骨組みに床板を接合した床構造が採用されるようになってきた。金属形材製の枠材及び梁材による骨組みを用いるため、耐震性及び耐久性が優れたものになる。
【0003】
特に、板厚が1〜3mmの薄い形材を枠材及び梁材に用いると、現場施工のタップネジ止め又はクギ止めが可能になり、在来工法と同様の施工ができる。
【0004】
このような金属形材製の枠材及び梁材による骨組みを有する床構造を共同住宅の上下階の境界にある界床として用いる場合には、軽量且つ簡便であるものの、重量や剛性が少ないために防音対策が必要になる。とくに、人の飛びはねや歩行を模擬して、界床に直接タイヤを落下させたときに、階下に発生する衝撃音(以下、重量床衝撃音とよぶ)の大きさや床振動を測定し、階上での歩行などにより発生する衝撃への対策を講じておく必要がある。
【0005】
この重量床衝撃音の低減方法としては、(1)床構造の重量を増加させる方法、(2)床構造の曲げ剛性を増加させる方法がある。また、(1)(2)のかけ算に相当するインピーダンスを増加する方法もある。さらに、衝撃力作用後の床振動を早く減衰させて、不快感を抑制する方法として、(3)床に制振性を付与する方法もある。この制振性の付与により、とくに、金属を多用した構造で発生する、中高周波数の音いわゆる金属音の抑制も実現される。
【0006】
(1)の床構造の重量を増加させる方法として、金属形材製の枠材と梁材とによる骨組みの上に、セメント板等のように重量がある床板の複数枚を積層状態にして載せる方法がある。しかしながら、重量のある床板を載せるとなると、金属形材製の骨組みを用いて、軽量且つ簡便に床構造を形成するという本来の趣旨に反する結果となる。
【0007】
(2)の床構造の剛性を増加させる方法として、金属形材製の枠材や梁材などの構成部材の曲げ剛性を増加させる方法がある。具体的には、断面寸法、本数、床板の板厚の増加により、断面2次モーメントを増加させること、あるいは、これらの部材を弾性係数の高い材料で構成することにより達成される。しかしながら、枠材と梁材、床板の大断面化や本数の増加は、重量と占有体積の増加を招き、部品点数の増加により、材料、建設コストが増大するという欠点がある。また、(3)の方法として、床板や梁材に制振材を貼り付ける方法があるが、不快感の大きな、低い周波数(例えば100Hz以下)では大きな効果を得ることができない。前記(1)(3)を実現する為に、重量のある床板に代わり、特開平10−205043号公報に開示のように、成形セメントパネルの内部の複数の中空部に、砂状粒を充填した遮音床や、前記(3)を実現する為に、特開平11−217891号公報に開示のように、対向する2枚の間に多数のセル空間(ハニカムコア)を形成し、このセル空間内に弾性粉粒体を封入した制振パネルを、床板に使用することも考えられるが、複雑構造で分厚い床板を使用するため、占有体積の増加を招き、建設コストが増大するという欠点がある。
【0008】
そこで、金属形材製の骨組みを維持したままで、重量床衝撃音を低減する方法として、特に振動が大きい部分におもりを集中的に配置するとともに、例えば100Hz以下の低い周波数で床に制振性を効果的に付与できる動吸振器(またはダイナミックダンパー:おもりとバネから構成される振動系)を配置する方法が考えられる。床構造を金属形材製の骨組みで20〜30kg/m2 程度の軽量にすると、床に歩行などによる加振力が作用して床が振動する際、床が外壁で挟まれているため、壁にも力が伝わり振動するので、壁の慣性質量が床の慣性質量に加わり、床が最も大きく振動する位置での等価質量は100〜300kgにもなる。そのため、重量床衝撃音低減用のおもりにより例えば重量床衝撃音で3デシベル下げるためには、等価質量を倍の600kgにする必要があり、そのため300kgのおもりが必要となる。さらに、動吸振器による制振効果は、動吸振器を構成するおもりの質量の増大とともに大きくなることから、重量床衝撃音低減用のおもりが付加され、重くなった床への動吸振器による制振効果を付与するためには、動吸振器のおもりを重くする必要があり、結果として床重量が増大し床構造が軽量且つ簡便という特徴が損なわれる。また、動吸振器の固有振動数を、床構造の固有振動数に非常に近づける必要があることから、動吸振器を設置する床構造の固有振動数を一件ごとに測定するか、予め、様々な間取りの床構造について、数値解析を実施して固有振動数を予測することは、現実的には非常に難しい。
【特許文献1】特開平10−205043号公報
【特許文献2】特開平11−217891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、金属形材製の枠材や梁材による骨組み構造を維持したまま、防音性能を高めることができる床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する請求項1に記載の床構造は、金属形材製の枠材と、この枠材の内側に掛け渡される金属形材製の梁材とを有する床構造であって、前記梁材の全部又は一部を中空部を有するものとし、前記中空部に粒状体を収容したものである。この請求項1の構成によると、梁材の中空部に粒状体を収容すると、枠材と梁材の骨組みの外形を維持したまま重量アップさせることができる。また、衝撃力作用後の床振動は梁材の部分を腹として大きく現れるため、梁材の重量アップによる重量床衝撃音低減作用が有効に発揮される。また、粒状体が振動により中空部内で跳躍することにより、床への制振効果が発揮される。
【0011】
例えば、板厚が1〜3mmの形鋼を枠材や梁材として用い、構造用合板のような木材を床板として用いると、床構造の質量は20〜30kg/m2 程度となり、軽量となる。ところが、床構造を構成する床板に衝撃力が作用すると、枠材、梁材、床板が一体となって振動を開始するとともに、床構造の周囲が固定される壁面も振動するので、床構造が最も大きく振動する位置で、等価質量は100kg〜300kgにもなる。そこで、梁材の中空部に粒状体を収容して、骨組みの重量をアップさせる。例えば、梁材の中空部に1mあたり10kgの粒状体を収納すると、部屋の寸法が3.64m×3.64mの8畳間の場合、梁1本あたり36kgとなり、455mm間隔で梁が設置されると、7本の梁が存在し、粒状体の総重量は288kgになる。このとき、粒状体収納後の等価質量m1 は、最低でも設置前m0 のおよそ2倍の588kgとなり、重量床衝撃音は、10log(m1 /m0 )=3デシベル低減することになる。また、重力加速度を越える振動が発生すると、粒状体は中空部内部で跳躍し、衝突を繰り返し、床の振動を抑制する方向に衝撃力を加えるので、床への制振効果が発揮される。
【0012】
請求項2に記載の床構造は、請求項1において、前記中空部の内壁と前記粒状体の間の全部又は一部に、弾性体又は粘弾性体を介在させたものである。この請求項2の構成によると、例えば梁材を形鋼で構成した場合、粒状体が梁材の中空部内で衝突を繰り返し、形鋼に衝撃力を与え、形鋼から2次的に衝撃音が発生させることになっても、弾性体または粘弾性体が、粒状体と中空部内壁との間に介在しているので、2次的な衝撃音の発生を防止する。
【0013】
請求項3に記載の床構造は、請求項2において、前記弾性体又は粘弾性体は、前記中空部に収納される袋体である。この請求項3の構成によると、例えば筒状の袋体内に粒状体を入れ、この袋体を形材の中空部に入れるだけで、粒状体と中空部内壁との間に弾性体又は粘弾性体を介在させる構造になる。
【0014】
請求項4に記載の床構造は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記粒状体は、還元ペレットである。この請求項4の構成によると、還元ペレットは鉄鉱石を原料とするので、鉄分を多く含んで比重が大きく、形状が揃っており、粒状体が容易に跳躍し、中空部内で粒状体が衝突を繰り返しても粒状体が磨耗したり、破砕しにくく制振機能を安定して発揮する。また、焼成後であるため水分が少なく、住宅に組み込んだ後のカビや細菌の繁殖の恐れがない。また、安定供給が可能で、安価に大量に入手できる。
【0015】
請求項5に記載の床構造は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記梁材は、前記中空部が閉空間となるよう、溝型断面の形材を組み合わせて形成されている。この請求項5の構成によると、溝型断面の形材を組み合わせて形成することにより、密閉空間が簡単に形成でき、梁材の断面係数も上がる。例えば、薄鋼板からロールフォーミングにより形成される2本の溝型形鋼を凹部を対向させ嵌め込んで中空部を形成する。
【0016】
請求項6に記載の床構造は、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記枠材及び前記梁材の上面に床板が接合されたものである。この請求項6の構成によると、防音構造の骨組みであるため、床板に構造用合板のような木材を用い、この骨組みの上に現場施工などで床面を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によると、梁材の中空部に粒状体を封入することにより、枠材と梁材の骨組み構造の基本をそのままにしたまま、優れた防音効果を発揮させることができる。床板の全面に防音処理を施すものに比較して、全体を安価に製作することができる。また、床板の制約がないため、合成木材など種々の床板を組み合わせて使用することができる。また、枠材と梁材に薄板形材を用いることができるため、現場施工が可能なスチールハウスなどに対して適用できる。
【0018】
請求項2の発明によると、請求項1の効果に加えて、粒状体の梁材内部の振動により生じる二次的な衝撃音の発生を防止することができる。
【0019】
請求項3の発明によると、請求項2の効果に加えて、粒状体を入れた筒状袋体を梁材内に挿入するため、梁材の長手方向に複数の袋体を直列配置したり、梁材の高さ方向に複数の袋体を積み重ねたりして、粒状体を梁材内部に簡単且つ適所に収容できる。
【0020】
請求項4の発明によると、請求項1〜3の効果に加えて、防音効果が効果的に発する安価な粒状体を用いることができる。
【0021】
請求項5の発明によると、請求項1〜4の効果に加えて、閉じた内部空間を有する梁材を簡便に得ることができる。
【0022】
請求項6の発明によると、請求項1〜5の効果に加えて、床板の選択が自由にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態の床構造の骨組みを示す上面図であり、図2は、図1の梁材の断面構造を示す断面図である。
【0024】
図1において、1は床構造、2は枠材、3は梁材、4は床板である。枠材2は、2本の端根太2aと2本の側根太2bとを長方形に組み込んだものである。端根太2a及び側根太2bには、例えば、幅40mm×高さ235mm×板厚1.2mmの溝型の鋼製の薄肉形材が使用される。
【0025】
梁材3は、端根太2aの間に側根太2bと平行に略等間隔で掛け渡される根太で形成され、鋼製の薄肉形材が使用される。梁材3の両端が端根太2aの溝内に嵌め込まれ、前記両端に形成されたフランジが端根太2aの溝底にタップネジ止めされることにより、梁材3は枠材2に接合される。この枠材2と梁材3により床構造1の骨組み5が形成される。この骨組み5の上に、床板4を載せ、クギ21などで床板4を骨組み5に接合して床構造1が形成される。この床板4は、骨組み5に対して、施工現場で接合されるのが通常であるが、骨組み5と床板4とからなるセットを工場で生産し、施工現場に搬入する場合もある。
【0026】
図2に示すように、梁材3は、ロールフォーミングされた溝型の鋼製の第1薄肉形材3aの溝内に、ロールフォーミングされた溝型の鋼製の第2薄肉形材3bを溝同士が対面するように嵌め込み、内部に閉じた中空部11を形成するものである。嵌め込みによって中空部11が形成されるように、第1薄肉形材3aのリブの端はストレートであるが、第2薄肉形材3bのリブの端は内折りされている。例えば、幅40mm×高さ235mm×板厚1.0mmの形材3a,3bを用いて、梁材3が形成される。
【0027】
前記中空部11内に、内外表面をゴム質でコーティングした弾性体の袋体12が挿入され、この袋体12の内部に粒状体13が充填されている。したがって、粒状体13と形材3a,3bの内壁との間に、弾性体又は粘弾性体の袋体12が介在する構造になっている。
【0028】
図3は、他の実施形態の梁材103の断面を示す。ロールフォーミング成形とカシメなどの結合により一枚板から中空形鋼を形成し、この中空形鋼の内部の中空部111に粒状体113が収容されている。梁材103の結合部分が床板104に重ねられ、タップネジ122で接合されている。なお、図示が省略されているが、中空部111の内壁に弾性体又は粘弾性体の内貼りを施しておくことが好ましい。
【0029】
図4は、他の実施形態の梁材203の断面を示す。ロールフォーミング成形によって、溝の開口203aの両側にフランジ203bを形成する梁材203とし、合板製の床板204をフランジ203bの上に載せ、クギ221により両者を接合している。梁材203内の閉じた中空部211は、床板204との共同によって形成されている。この中空部211内に粒状体213が収容される。なお、図示が省略されているが、粒状体213は、弾性体又は粘弾性体の袋体内に入った状態にして、中空部211に収容されることが好ましい。
【0030】
梁材3,103,203内に収容される粒状体13,113,213は、重いこと、安価であること、形状が揃っていること、経年変化がないことの条件をある程度満足するものであれば何でも使用できる。中でも、鉄分を多く含むため比重が重たくなっている、還元鉄ペレット、スラグ(例えば高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、転炉スラグ、電炉スラグ等)、還元ペレット、玉銑、焼結鋼、コールドペレット(セメントにより鉄粉、ダスト、フラッシュアッシュ等をペレット状に固めたもの)等が粒状体13として好ましい。特に、還元ペレットは安価に入手でき、粒の大きさが揃っており、焼成されているため水分含有量も少なく、比重が高いため、特に好ましい。
【0031】
梁材3,103,203内に収容される粒状体13,113,213の充填の程度は、粒状体13,113,213の流動衝突が可能であれば、ほぼ充満している状態から、上方に空間にある状態まで許容できる。重量を稼ぐ場合、中空部11,111,211内で粒状体13,113,213が衝突を繰り返すことができる程度にほぼ充満させることができる。
【0032】
転炉スラグ、高炉水砕スラグ、還元ペレットの3種類の粒状体について、加振実験により、粒径、充填量と動質量の関係を求め、充填量に対する動質量の比率が最も大きくなるように、ボックス断面根太鋼に封入する粒状体の種類と粒径、充填量の決定要因を探った。尚、長さ220mmに切断したボックス断面根太鋼の中に各種粒状体を封入し、インピーダンスヘッドを介して30kgfの加振器に取り付けて、正弦波掃引加振を行い、加振力と加振点振動加速度から、FFTを用いて伝達関数を求めることにより、着目する周波数領域での動質量を求めた。その結果、粒状体の種別による動質量の大きな差異は認められなかった。そのため、粒径がそろっており、より安価な還元ペレットの採用が好ましい。転炉スラグの粒径はφ5mm以下からφ22mm以上と広く分布しているものの、粒径による制振効果の差異は、31.5Hzバンド(22.4〜44.7Hz)でみると、φ5mm以下は小さく、それ以外の粒径では制振効果はほぼ同じであった。
【0033】
図5に、粒状体として還元ペレットを採用し、ほぼ充満の充填量3.95kgの場合と、やや空間がある充填量3.3kgの場合と、かなり空間がある充填量2.2kgの場合の、加振加速度と動質量の関係を示す。これによると、制振効果の目安となる動質量は、加振加速度に比例し、充填量には依存しない傾向にある。例えば、重量床衝撃試験の加振源として用いられるタイヤ落下により、粒状体の充填量によらず、上側の部分が跳躍し制振効果を発揮し、残りの部分が跳躍せず、重量床衝撃音低減用のおもりとして作用する。そのため、充填量は、重量床衝撃音の低減に必要なおもり重量から決めればよい。
【0034】
中空部11,111,211の内壁と粒状体13,113,213との間に介在される弾性体又は粘弾性体は、内壁への貼り付け又は、袋状筒体の挿入によって配設される。また、弾性体又は粘弾性体は、芯繊維の表面に樹脂又はゴムをコーティングしたもの、樹脂シート、ゴムシート、厚手の生地など、弾性又は粘弾性を示すものであれば、種々のものが使用できる。
【0035】
弾性体または粘弾性体の例として、入手可能なゴム袋と厚肉排水ホースとを用いた。ゴムまたはホースに還元ペレット2.2kgを充填し、梁材に封入して、加振機により梁材を加振したときの放射騒音を、治具表面から10mm点に騒音計を設置して計測した。その結果を図6に示す。ゴム袋及び排水ホートともに、無い場合に比較して放射騒音レベルが低下しているが、排水ホースの方がゴム袋よりも放射音がやや小さい。その他、芯繊維+表面樹脂でコーティングの溶着生地、芯繊維+表面ゴム系材質でコーティングの生地、ゴムシート、表面のコーティング等は無く通気性がある織り生地の袋を用いて測定したが、いずれも同様の放射騒音の低下を示し、弾性体又は粘弾性体として使用可能であった。
【0036】
以上の実験結果から、弾性体または粘弾性体の縦弾性係数が、1×106 (Pa)〜1×109 (Pa)の高分子材料であるものが好ましい。また、弾性体または粘弾性体が、発泡材料であることが好ましい。また、粘弾性体の損失係数が、0.05〜5.0の高分子材料からなることが好ましい。また、弾性体または粘弾性体を用いて筒状の袋構造を形成し、該袋構造内に粒状体を封入したものが好ましい。また、この筒状袋構造を、長手方向に並べて、前記筒状中空部に設置するものが好ましい。また、この筒状袋構造を、床構造の高さ方向に並べて、前記中空部に設置することが好ましい。
【0037】
つぎに、上述した床構造の床衝撃音の測定結果を以下に説明する。図7は、3.64m×3.64mの8畳間用の枠材の中に455mm間隔で7本の梁材を設置した床構造の振動モードを図示している。重量床衝撃音遮音性能を決定する63Hzオクターブバンド(44.7〜89.1Hz)に含まれる3次モード、4次モード、5次モードのいずれの場合も、梁材の部分で振幅が大きくなっている。そのため、梁材内部の中空部に仕込まれた粒状体の跳躍しない部分が重量床衝撃音を低減させるおもりの効果として有効に作動し、跳躍する部分が床への制振性付与の効果として有効に作動することが判る。なお、床材の全面に粒状体を仕込んでも良いが、部分的にしか粒状体が作動せず、効率は悪くなる。特に、全ての梁材に粒状体を仕込まなくとも、振動の腹となる梁材に粒状体を仕込むと、粒状体が効果的に作用する。
【0038】
本発明の床構造として、3.64m×3.64mの8畳間用の枠材の中に455mm間隔で7本の中空形材の梁材を設置し、梁材一本当たり36kgの還元ペレットを仕込んだものに関し、重量床衝撃音レベルを図8に示し、軽量床衝撃音レベルを図9に示し、ハンマー打撃加振時振動レベル(単位加振力あたりの床振幅)を図10に示す。なお、図8及び図10において、比較のために、重量のあるコンクリート床を用いた界床(1)と、おもりを梁に設置したうえで、ダイナミックダンパを設置した界床(2)のデータを併記している。なお、界床(1)及び界床(2)ともに、JIS(A)1418のLH65等級をクリアする。
【0039】
図8に示される重量床衝撃音等級では、粒状体封入例のものは、界床(1)及び界床(2)と同レベルであり、実用的に使用できる。図10に示される軽量床衝撃音等級では、粒状体封入例のものは、防音フローリングを併用することで、実用的に使用できるレベルまで下がる。図9のハンマー打撃加振時振動レベルによると、何の処理も施していない基本界床に比較して、10デシベル程度の振動が低下し、界床(1)及び界床(2)と同程度の制振効果がある。
【0040】
なお、上述した実施形態は以下のように変更して実施することができる。
(1)梁材の全部に粒状体を収容することが好ましいが、多数本の梁材のうちの一部、又は梁材の長さ方向の一部に粒状体を収容することもできる。床構造の振動モードに応じて、粒状体を収納する部分を選択するものであってもよい。
(2)梁材は、根太に限らず、大引に相当する部分があってもよく、この大引の部分を中空形材にして粒状体を収納することもできる。また、枠材を中空形材にして粒状体を収納することもできる。
(3)制振鋼板など制振効果がある材料で梁材を構成する場合などは、梁材の中空部に配設される弾性体または粘弾性体を省略することができる。
(4)枠材及び梁材は、鋼材製に限らずアルミ合金製であってもよい。また、枠材及び梁材を形成する形材は、ロールフォーミングに限らず、押し出し成形品であってもよい。
(5)界床直下の天井裏空間に吸音材が充填されている場合など、天井と天井裏空間により、粒状体の作動が原因で梁から発生する二次的を騒音を防止できる場合には、梁材の中空部に配設される弾性体又は粘弾性体を省略することができる。
(6)梁材の中空部は、図2乃至図4のように、梁材自体又は床板と協同して閉じられたものに限らない。図11のように、梁材303がC形断面であり、底の凹部が中空部となったものでもよい。この場合、粒状体313を袋体312に入れ、袋体312が凹部に引っ掛かって中空部から落下しないようになっておればよい。また、梁材をコの字状断面とし、粒状体を入れた袋体が開口から落下しない様に、針金で止めておくものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態の床構造の骨組みを示す上面図である。
【図2】図1の梁材の断面構造を示す断面図である。
【図3】梁材の他の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【図4】梁材の更に他の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【図5】梁材への粒状体の充填量を変化させたときの加振加速度と動質量の関係を示すグラフ図である。
【図6】消音処理材の使用による放射音の低減を示すグラフ図である。
【図7】枠材と梁材の骨組みを有する床構造の振動モードを示す側面図である。
【図8】重量床衝撃音レベル測定結果を示すグラフ図である。
【図9】軽量床衝撃音レベル測定結果を示すグラフ図である。
【図10】ハンマー打撃加振時振動レベルを示すグラフ図である。
【図11】梁材の更に他の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 床構造
2 枠材
3 梁材
4 床板
5 骨組み
11 中空部
12 弾性体又は粘弾性体
13 粒状体
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属形材製の枠材と、この枠材の内側に掛け渡される金属形材製の梁材との骨組みを有する床構造に関し、特に防音性能に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在来工法による住宅建設において、木材の骨組みに床板を接合した床構造に代わり、金属形材製の枠材と梁材とによる骨組みに床板を接合した床構造が採用されるようになってきた。金属形材製の枠材及び梁材による骨組みを用いるため、耐震性及び耐久性が優れたものになる。
【0003】
特に、板厚が1〜3mmの薄い形材を枠材及び梁材に用いると、現場施工のタップネジ止め又はクギ止めが可能になり、在来工法と同様の施工ができる。
【0004】
このような金属形材製の枠材及び梁材による骨組みを有する床構造を共同住宅の上下階の境界にある界床として用いる場合には、軽量且つ簡便であるものの、重量や剛性が少ないために防音対策が必要になる。とくに、人の飛びはねや歩行を模擬して、界床に直接タイヤを落下させたときに、階下に発生する衝撃音(以下、重量床衝撃音とよぶ)の大きさや床振動を測定し、階上での歩行などにより発生する衝撃への対策を講じておく必要がある。
【0005】
この重量床衝撃音の低減方法としては、(1)床構造の重量を増加させる方法、(2)床構造の曲げ剛性を増加させる方法がある。また、(1)(2)のかけ算に相当するインピーダンスを増加する方法もある。さらに、衝撃力作用後の床振動を早く減衰させて、不快感を抑制する方法として、(3)床に制振性を付与する方法もある。この制振性の付与により、とくに、金属を多用した構造で発生する、中高周波数の音いわゆる金属音の抑制も実現される。
【0006】
(1)の床構造の重量を増加させる方法として、金属形材製の枠材と梁材とによる骨組みの上に、セメント板等のように重量がある床板の複数枚を積層状態にして載せる方法がある。しかしながら、重量のある床板を載せるとなると、金属形材製の骨組みを用いて、軽量且つ簡便に床構造を形成するという本来の趣旨に反する結果となる。
【0007】
(2)の床構造の剛性を増加させる方法として、金属形材製の枠材や梁材などの構成部材の曲げ剛性を増加させる方法がある。具体的には、断面寸法、本数、床板の板厚の増加により、断面2次モーメントを増加させること、あるいは、これらの部材を弾性係数の高い材料で構成することにより達成される。しかしながら、枠材と梁材、床板の大断面化や本数の増加は、重量と占有体積の増加を招き、部品点数の増加により、材料、建設コストが増大するという欠点がある。また、(3)の方法として、床板や梁材に制振材を貼り付ける方法があるが、不快感の大きな、低い周波数(例えば100Hz以下)では大きな効果を得ることができない。前記(1)(3)を実現する為に、重量のある床板に代わり、特開平10−205043号公報に開示のように、成形セメントパネルの内部の複数の中空部に、砂状粒を充填した遮音床や、前記(3)を実現する為に、特開平11−217891号公報に開示のように、対向する2枚の間に多数のセル空間(ハニカムコア)を形成し、このセル空間内に弾性粉粒体を封入した制振パネルを、床板に使用することも考えられるが、複雑構造で分厚い床板を使用するため、占有体積の増加を招き、建設コストが増大するという欠点がある。
【0008】
そこで、金属形材製の骨組みを維持したままで、重量床衝撃音を低減する方法として、特に振動が大きい部分におもりを集中的に配置するとともに、例えば100Hz以下の低い周波数で床に制振性を効果的に付与できる動吸振器(またはダイナミックダンパー:おもりとバネから構成される振動系)を配置する方法が考えられる。床構造を金属形材製の骨組みで20〜30kg/m2 程度の軽量にすると、床に歩行などによる加振力が作用して床が振動する際、床が外壁で挟まれているため、壁にも力が伝わり振動するので、壁の慣性質量が床の慣性質量に加わり、床が最も大きく振動する位置での等価質量は100〜300kgにもなる。そのため、重量床衝撃音低減用のおもりにより例えば重量床衝撃音で3デシベル下げるためには、等価質量を倍の600kgにする必要があり、そのため300kgのおもりが必要となる。さらに、動吸振器による制振効果は、動吸振器を構成するおもりの質量の増大とともに大きくなることから、重量床衝撃音低減用のおもりが付加され、重くなった床への動吸振器による制振効果を付与するためには、動吸振器のおもりを重くする必要があり、結果として床重量が増大し床構造が軽量且つ簡便という特徴が損なわれる。また、動吸振器の固有振動数を、床構造の固有振動数に非常に近づける必要があることから、動吸振器を設置する床構造の固有振動数を一件ごとに測定するか、予め、様々な間取りの床構造について、数値解析を実施して固有振動数を予測することは、現実的には非常に難しい。
【特許文献1】特開平10−205043号公報
【特許文献2】特開平11−217891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、金属形材製の枠材や梁材による骨組み構造を維持したまま、防音性能を高めることができる床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する請求項1に記載の床構造は、金属形材製の枠材と、この枠材の内側に掛け渡される金属形材製の梁材とを有する床構造であって、前記梁材の全部又は一部を中空部を有するものとし、前記中空部に粒状体を収容したものである。この請求項1の構成によると、梁材の中空部に粒状体を収容すると、枠材と梁材の骨組みの外形を維持したまま重量アップさせることができる。また、衝撃力作用後の床振動は梁材の部分を腹として大きく現れるため、梁材の重量アップによる重量床衝撃音低減作用が有効に発揮される。また、粒状体が振動により中空部内で跳躍することにより、床への制振効果が発揮される。
【0011】
例えば、板厚が1〜3mmの形鋼を枠材や梁材として用い、構造用合板のような木材を床板として用いると、床構造の質量は20〜30kg/m2 程度となり、軽量となる。ところが、床構造を構成する床板に衝撃力が作用すると、枠材、梁材、床板が一体となって振動を開始するとともに、床構造の周囲が固定される壁面も振動するので、床構造が最も大きく振動する位置で、等価質量は100kg〜300kgにもなる。そこで、梁材の中空部に粒状体を収容して、骨組みの重量をアップさせる。例えば、梁材の中空部に1mあたり10kgの粒状体を収納すると、部屋の寸法が3.64m×3.64mの8畳間の場合、梁1本あたり36kgとなり、455mm間隔で梁が設置されると、7本の梁が存在し、粒状体の総重量は288kgになる。このとき、粒状体収納後の等価質量m1 は、最低でも設置前m0 のおよそ2倍の588kgとなり、重量床衝撃音は、10log(m1 /m0 )=3デシベル低減することになる。また、重力加速度を越える振動が発生すると、粒状体は中空部内部で跳躍し、衝突を繰り返し、床の振動を抑制する方向に衝撃力を加えるので、床への制振効果が発揮される。
【0012】
請求項2に記載の床構造は、請求項1において、前記中空部の内壁と前記粒状体の間の全部又は一部に、弾性体又は粘弾性体を介在させたものである。この請求項2の構成によると、例えば梁材を形鋼で構成した場合、粒状体が梁材の中空部内で衝突を繰り返し、形鋼に衝撃力を与え、形鋼から2次的に衝撃音が発生させることになっても、弾性体または粘弾性体が、粒状体と中空部内壁との間に介在しているので、2次的な衝撃音の発生を防止する。
【0013】
請求項3に記載の床構造は、請求項2において、前記弾性体又は粘弾性体は、前記中空部に収納される袋体である。この請求項3の構成によると、例えば筒状の袋体内に粒状体を入れ、この袋体を形材の中空部に入れるだけで、粒状体と中空部内壁との間に弾性体又は粘弾性体を介在させる構造になる。
【0014】
請求項4に記載の床構造は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記粒状体は、還元ペレットである。この請求項4の構成によると、還元ペレットは鉄鉱石を原料とするので、鉄分を多く含んで比重が大きく、形状が揃っており、粒状体が容易に跳躍し、中空部内で粒状体が衝突を繰り返しても粒状体が磨耗したり、破砕しにくく制振機能を安定して発揮する。また、焼成後であるため水分が少なく、住宅に組み込んだ後のカビや細菌の繁殖の恐れがない。また、安定供給が可能で、安価に大量に入手できる。
【0015】
請求項5に記載の床構造は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記梁材は、前記中空部が閉空間となるよう、溝型断面の形材を組み合わせて形成されている。この請求項5の構成によると、溝型断面の形材を組み合わせて形成することにより、密閉空間が簡単に形成でき、梁材の断面係数も上がる。例えば、薄鋼板からロールフォーミングにより形成される2本の溝型形鋼を凹部を対向させ嵌め込んで中空部を形成する。
【0016】
請求項6に記載の床構造は、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記枠材及び前記梁材の上面に床板が接合されたものである。この請求項6の構成によると、防音構造の骨組みであるため、床板に構造用合板のような木材を用い、この骨組みの上に現場施工などで床面を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によると、梁材の中空部に粒状体を封入することにより、枠材と梁材の骨組み構造の基本をそのままにしたまま、優れた防音効果を発揮させることができる。床板の全面に防音処理を施すものに比較して、全体を安価に製作することができる。また、床板の制約がないため、合成木材など種々の床板を組み合わせて使用することができる。また、枠材と梁材に薄板形材を用いることができるため、現場施工が可能なスチールハウスなどに対して適用できる。
【0018】
請求項2の発明によると、請求項1の効果に加えて、粒状体の梁材内部の振動により生じる二次的な衝撃音の発生を防止することができる。
【0019】
請求項3の発明によると、請求項2の効果に加えて、粒状体を入れた筒状袋体を梁材内に挿入するため、梁材の長手方向に複数の袋体を直列配置したり、梁材の高さ方向に複数の袋体を積み重ねたりして、粒状体を梁材内部に簡単且つ適所に収容できる。
【0020】
請求項4の発明によると、請求項1〜3の効果に加えて、防音効果が効果的に発する安価な粒状体を用いることができる。
【0021】
請求項5の発明によると、請求項1〜4の効果に加えて、閉じた内部空間を有する梁材を簡便に得ることができる。
【0022】
請求項6の発明によると、請求項1〜5の効果に加えて、床板の選択が自由にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態の床構造の骨組みを示す上面図であり、図2は、図1の梁材の断面構造を示す断面図である。
【0024】
図1において、1は床構造、2は枠材、3は梁材、4は床板である。枠材2は、2本の端根太2aと2本の側根太2bとを長方形に組み込んだものである。端根太2a及び側根太2bには、例えば、幅40mm×高さ235mm×板厚1.2mmの溝型の鋼製の薄肉形材が使用される。
【0025】
梁材3は、端根太2aの間に側根太2bと平行に略等間隔で掛け渡される根太で形成され、鋼製の薄肉形材が使用される。梁材3の両端が端根太2aの溝内に嵌め込まれ、前記両端に形成されたフランジが端根太2aの溝底にタップネジ止めされることにより、梁材3は枠材2に接合される。この枠材2と梁材3により床構造1の骨組み5が形成される。この骨組み5の上に、床板4を載せ、クギ21などで床板4を骨組み5に接合して床構造1が形成される。この床板4は、骨組み5に対して、施工現場で接合されるのが通常であるが、骨組み5と床板4とからなるセットを工場で生産し、施工現場に搬入する場合もある。
【0026】
図2に示すように、梁材3は、ロールフォーミングされた溝型の鋼製の第1薄肉形材3aの溝内に、ロールフォーミングされた溝型の鋼製の第2薄肉形材3bを溝同士が対面するように嵌め込み、内部に閉じた中空部11を形成するものである。嵌め込みによって中空部11が形成されるように、第1薄肉形材3aのリブの端はストレートであるが、第2薄肉形材3bのリブの端は内折りされている。例えば、幅40mm×高さ235mm×板厚1.0mmの形材3a,3bを用いて、梁材3が形成される。
【0027】
前記中空部11内に、内外表面をゴム質でコーティングした弾性体の袋体12が挿入され、この袋体12の内部に粒状体13が充填されている。したがって、粒状体13と形材3a,3bの内壁との間に、弾性体又は粘弾性体の袋体12が介在する構造になっている。
【0028】
図3は、他の実施形態の梁材103の断面を示す。ロールフォーミング成形とカシメなどの結合により一枚板から中空形鋼を形成し、この中空形鋼の内部の中空部111に粒状体113が収容されている。梁材103の結合部分が床板104に重ねられ、タップネジ122で接合されている。なお、図示が省略されているが、中空部111の内壁に弾性体又は粘弾性体の内貼りを施しておくことが好ましい。
【0029】
図4は、他の実施形態の梁材203の断面を示す。ロールフォーミング成形によって、溝の開口203aの両側にフランジ203bを形成する梁材203とし、合板製の床板204をフランジ203bの上に載せ、クギ221により両者を接合している。梁材203内の閉じた中空部211は、床板204との共同によって形成されている。この中空部211内に粒状体213が収容される。なお、図示が省略されているが、粒状体213は、弾性体又は粘弾性体の袋体内に入った状態にして、中空部211に収容されることが好ましい。
【0030】
梁材3,103,203内に収容される粒状体13,113,213は、重いこと、安価であること、形状が揃っていること、経年変化がないことの条件をある程度満足するものであれば何でも使用できる。中でも、鉄分を多く含むため比重が重たくなっている、還元鉄ペレット、スラグ(例えば高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、転炉スラグ、電炉スラグ等)、還元ペレット、玉銑、焼結鋼、コールドペレット(セメントにより鉄粉、ダスト、フラッシュアッシュ等をペレット状に固めたもの)等が粒状体13として好ましい。特に、還元ペレットは安価に入手でき、粒の大きさが揃っており、焼成されているため水分含有量も少なく、比重が高いため、特に好ましい。
【0031】
梁材3,103,203内に収容される粒状体13,113,213の充填の程度は、粒状体13,113,213の流動衝突が可能であれば、ほぼ充満している状態から、上方に空間にある状態まで許容できる。重量を稼ぐ場合、中空部11,111,211内で粒状体13,113,213が衝突を繰り返すことができる程度にほぼ充満させることができる。
【0032】
転炉スラグ、高炉水砕スラグ、還元ペレットの3種類の粒状体について、加振実験により、粒径、充填量と動質量の関係を求め、充填量に対する動質量の比率が最も大きくなるように、ボックス断面根太鋼に封入する粒状体の種類と粒径、充填量の決定要因を探った。尚、長さ220mmに切断したボックス断面根太鋼の中に各種粒状体を封入し、インピーダンスヘッドを介して30kgfの加振器に取り付けて、正弦波掃引加振を行い、加振力と加振点振動加速度から、FFTを用いて伝達関数を求めることにより、着目する周波数領域での動質量を求めた。その結果、粒状体の種別による動質量の大きな差異は認められなかった。そのため、粒径がそろっており、より安価な還元ペレットの採用が好ましい。転炉スラグの粒径はφ5mm以下からφ22mm以上と広く分布しているものの、粒径による制振効果の差異は、31.5Hzバンド(22.4〜44.7Hz)でみると、φ5mm以下は小さく、それ以外の粒径では制振効果はほぼ同じであった。
【0033】
図5に、粒状体として還元ペレットを採用し、ほぼ充満の充填量3.95kgの場合と、やや空間がある充填量3.3kgの場合と、かなり空間がある充填量2.2kgの場合の、加振加速度と動質量の関係を示す。これによると、制振効果の目安となる動質量は、加振加速度に比例し、充填量には依存しない傾向にある。例えば、重量床衝撃試験の加振源として用いられるタイヤ落下により、粒状体の充填量によらず、上側の部分が跳躍し制振効果を発揮し、残りの部分が跳躍せず、重量床衝撃音低減用のおもりとして作用する。そのため、充填量は、重量床衝撃音の低減に必要なおもり重量から決めればよい。
【0034】
中空部11,111,211の内壁と粒状体13,113,213との間に介在される弾性体又は粘弾性体は、内壁への貼り付け又は、袋状筒体の挿入によって配設される。また、弾性体又は粘弾性体は、芯繊維の表面に樹脂又はゴムをコーティングしたもの、樹脂シート、ゴムシート、厚手の生地など、弾性又は粘弾性を示すものであれば、種々のものが使用できる。
【0035】
弾性体または粘弾性体の例として、入手可能なゴム袋と厚肉排水ホースとを用いた。ゴムまたはホースに還元ペレット2.2kgを充填し、梁材に封入して、加振機により梁材を加振したときの放射騒音を、治具表面から10mm点に騒音計を設置して計測した。その結果を図6に示す。ゴム袋及び排水ホートともに、無い場合に比較して放射騒音レベルが低下しているが、排水ホースの方がゴム袋よりも放射音がやや小さい。その他、芯繊維+表面樹脂でコーティングの溶着生地、芯繊維+表面ゴム系材質でコーティングの生地、ゴムシート、表面のコーティング等は無く通気性がある織り生地の袋を用いて測定したが、いずれも同様の放射騒音の低下を示し、弾性体又は粘弾性体として使用可能であった。
【0036】
以上の実験結果から、弾性体または粘弾性体の縦弾性係数が、1×106 (Pa)〜1×109 (Pa)の高分子材料であるものが好ましい。また、弾性体または粘弾性体が、発泡材料であることが好ましい。また、粘弾性体の損失係数が、0.05〜5.0の高分子材料からなることが好ましい。また、弾性体または粘弾性体を用いて筒状の袋構造を形成し、該袋構造内に粒状体を封入したものが好ましい。また、この筒状袋構造を、長手方向に並べて、前記筒状中空部に設置するものが好ましい。また、この筒状袋構造を、床構造の高さ方向に並べて、前記中空部に設置することが好ましい。
【0037】
つぎに、上述した床構造の床衝撃音の測定結果を以下に説明する。図7は、3.64m×3.64mの8畳間用の枠材の中に455mm間隔で7本の梁材を設置した床構造の振動モードを図示している。重量床衝撃音遮音性能を決定する63Hzオクターブバンド(44.7〜89.1Hz)に含まれる3次モード、4次モード、5次モードのいずれの場合も、梁材の部分で振幅が大きくなっている。そのため、梁材内部の中空部に仕込まれた粒状体の跳躍しない部分が重量床衝撃音を低減させるおもりの効果として有効に作動し、跳躍する部分が床への制振性付与の効果として有効に作動することが判る。なお、床材の全面に粒状体を仕込んでも良いが、部分的にしか粒状体が作動せず、効率は悪くなる。特に、全ての梁材に粒状体を仕込まなくとも、振動の腹となる梁材に粒状体を仕込むと、粒状体が効果的に作用する。
【0038】
本発明の床構造として、3.64m×3.64mの8畳間用の枠材の中に455mm間隔で7本の中空形材の梁材を設置し、梁材一本当たり36kgの還元ペレットを仕込んだものに関し、重量床衝撃音レベルを図8に示し、軽量床衝撃音レベルを図9に示し、ハンマー打撃加振時振動レベル(単位加振力あたりの床振幅)を図10に示す。なお、図8及び図10において、比較のために、重量のあるコンクリート床を用いた界床(1)と、おもりを梁に設置したうえで、ダイナミックダンパを設置した界床(2)のデータを併記している。なお、界床(1)及び界床(2)ともに、JIS(A)1418のLH65等級をクリアする。
【0039】
図8に示される重量床衝撃音等級では、粒状体封入例のものは、界床(1)及び界床(2)と同レベルであり、実用的に使用できる。図10に示される軽量床衝撃音等級では、粒状体封入例のものは、防音フローリングを併用することで、実用的に使用できるレベルまで下がる。図9のハンマー打撃加振時振動レベルによると、何の処理も施していない基本界床に比較して、10デシベル程度の振動が低下し、界床(1)及び界床(2)と同程度の制振効果がある。
【0040】
なお、上述した実施形態は以下のように変更して実施することができる。
(1)梁材の全部に粒状体を収容することが好ましいが、多数本の梁材のうちの一部、又は梁材の長さ方向の一部に粒状体を収容することもできる。床構造の振動モードに応じて、粒状体を収納する部分を選択するものであってもよい。
(2)梁材は、根太に限らず、大引に相当する部分があってもよく、この大引の部分を中空形材にして粒状体を収納することもできる。また、枠材を中空形材にして粒状体を収納することもできる。
(3)制振鋼板など制振効果がある材料で梁材を構成する場合などは、梁材の中空部に配設される弾性体または粘弾性体を省略することができる。
(4)枠材及び梁材は、鋼材製に限らずアルミ合金製であってもよい。また、枠材及び梁材を形成する形材は、ロールフォーミングに限らず、押し出し成形品であってもよい。
(5)界床直下の天井裏空間に吸音材が充填されている場合など、天井と天井裏空間により、粒状体の作動が原因で梁から発生する二次的を騒音を防止できる場合には、梁材の中空部に配設される弾性体又は粘弾性体を省略することができる。
(6)梁材の中空部は、図2乃至図4のように、梁材自体又は床板と協同して閉じられたものに限らない。図11のように、梁材303がC形断面であり、底の凹部が中空部となったものでもよい。この場合、粒状体313を袋体312に入れ、袋体312が凹部に引っ掛かって中空部から落下しないようになっておればよい。また、梁材をコの字状断面とし、粒状体を入れた袋体が開口から落下しない様に、針金で止めておくものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態の床構造の骨組みを示す上面図である。
【図2】図1の梁材の断面構造を示す断面図である。
【図3】梁材の他の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【図4】梁材の更に他の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【図5】梁材への粒状体の充填量を変化させたときの加振加速度と動質量の関係を示すグラフ図である。
【図6】消音処理材の使用による放射音の低減を示すグラフ図である。
【図7】枠材と梁材の骨組みを有する床構造の振動モードを示す側面図である。
【図8】重量床衝撃音レベル測定結果を示すグラフ図である。
【図9】軽量床衝撃音レベル測定結果を示すグラフ図である。
【図10】ハンマー打撃加振時振動レベルを示すグラフ図である。
【図11】梁材の更に他の実施形態の断面構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 床構造
2 枠材
3 梁材
4 床板
5 骨組み
11 中空部
12 弾性体又は粘弾性体
13 粒状体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属形材製の枠材と、この枠材の内側に掛け渡される金属形材製の梁材とを有する床構造であって、前記梁材の全部又は一部を中空部を有するものとし、前記中空部に粒状体を収容した床構造。
【請求項2】
前記中空部の内壁と前記粒状体の間の全部又は一部に、弾性体又は粘弾性体を介在させた請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記弾性体又は粘弾性体は、前記中空部に収納される袋体である請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記粒状体は、還元ペレットである請求項1〜3のいずれかに記載の床構造。
【請求項5】
前記梁材は、前記中空部が閉空間となるよう、溝型断面の形材を組み合わせて形成される請求項1〜4のいずれかに記載の床構造。
【請求項6】
前記枠材及び前記梁材の上面に床板が接合された請求項1〜6のいずれか記載の床構造。
【請求項1】
金属形材製の枠材と、この枠材の内側に掛け渡される金属形材製の梁材とを有する床構造であって、前記梁材の全部又は一部を中空部を有するものとし、前記中空部に粒状体を収容した床構造。
【請求項2】
前記中空部の内壁と前記粒状体の間の全部又は一部に、弾性体又は粘弾性体を介在させた請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記弾性体又は粘弾性体は、前記中空部に収納される袋体である請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記粒状体は、還元ペレットである請求項1〜3のいずれかに記載の床構造。
【請求項5】
前記梁材は、前記中空部が閉空間となるよう、溝型断面の形材を組み合わせて形成される請求項1〜4のいずれかに記載の床構造。
【請求項6】
前記枠材及び前記梁材の上面に床板が接合された請求項1〜6のいずれか記載の床構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−125195(P2006−125195A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28658(P2006−28658)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【分割の表示】特願2000−307212(P2000−307212)の分割
【原出願日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【分割の表示】特願2000−307212(P2000−307212)の分割
【原出願日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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