説明

床版継手部の撤去方法

【課題】床版継手の撤去を構造体である床版にクラックを発生させることなく短時間、低コストでおこなう。
【解決手段】床版1端部にカッターで予定切断部10に沿って順に床版1に垂直な切断溝20、21を形成する。切断溝20の幅は板ジャッキ3が挿入できるものであればよく、約3〜4mmであり、切断線の間隔は約40mmである。板ジャッキを切断溝20に挿入して圧力流体で膨張させる。板ジャッキの膨張圧によるコンクリートに発生するクラックは床版1の底面側には向かうことがないので構造体を傷める恐れなく、簡単に切断溝20と21で区画される部分が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や高架道路のコンクリート床版の継手部の解体撤去方法であって、撤去時に床版の構造部に影響を与えることなく短時間で継手部を撤去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高架式高速道の継手部は重量物の車両が通過して衝撃を与えるため、月日の経過と共に損傷して使用に耐えなくなるので、補修が必要となる。
補修は、まず、痛んだ床版と一体化されている継手を切断して撤去する必要がある。
しかしながら、通過車両の大きな衝撃が作用する継手を補強するために鉄筋が多数配筋されており、撤去には時間とコストがかかっていた。
従来の継手補修工事には、鉄筋コンクリートを破砕するブレーカー、切断するカッター、ワイヤソー等が使用されていた。
【0003】
ブレーカーを使用すると騒音が発生するので、都市部での夜間工事での使用はほぼ不可能になってきており、円形カッターやワイヤソーを使用して無騒音・無振動での施工が大勢を占めてきている。
そのような中で、特許文献1(国際公開WO01/088310)には図6に示すように、床版1の端部に斜めに切断溝5を形成し、板状のジャッキを挿入して継手4を除去する無騒音無振動の工法が提案されている。
【特許文献1】WO01/088310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、斜めに切断溝を形成することは、高い施工技術を必要とすると共に、切断に必要な圧力をかけることが難しいので切断時間が長時間となっていた。都市高速道においては工事のために交通を止めることが許されない場合が多く、夜間の限られた時間に切断工事を終了させる必要があり、長時間の工法は好ましくない。
【0005】
また、図6に示すように、床版1に斜めの切断溝5を形成して板ジャッキを挿入し、板ジャッキを膨張させて作用する破壊力によって継手を撤去する際、構造体である床版1の底面側に伸びるクラック6が発生するという大きな問題があり、床版1に発生したクラック6の補修及び補強工事にも費用と時間がとられていた。
本発明は、床版継手の撤去を短時間で完了させ、さらには低コストで施工できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
切断撤去する床版継手部の切断撤去線から端部に向かって床版厚より浅く、板ジャッキが挿入可能な幅の複数の切断溝を形成し、切断溝線に板ジャッキを挿入し、加圧して順に切断部分を撤去するものである。
切断溝の間隔は40〜100mmの範囲で選択する。間隔が小さいと形成する切断溝の数が多くなり施工時間が長くなる。また、間隔が大きすぎると、切断部分を破壊するのに大きな力を必要とし、床版の底面側に破断線が伸び、床版にダメージとなるクラックが形成される場合がある。
【発明の効果】
【0007】
切断溝が近接して形成してあるので、板ジャッキによって加圧すると破断線は近くの切断溝に向かうものとなり、床版底部に向かうことがなく、構造体にダメージを与えるクラックが発生しない。また、床版に垂直に切断溝を形成するものなので切断速度が斜め切断に比較して短時間ですむという利点がある。
また、垂直な切断溝を複数形成するものであるが、比較的浅い溝の形成でよいため、短時間で切断溝形成が終了する。したがって、トータルの施工時間を斜め切断に比して短縮することができる。
本発明と従来工法の比較表を表1に示す。
【0008】
【表1】

【0009】
このように各工法の長所、短所を比較してみても、一目瞭然で本発明が優れていることが分かる。
また、本発明は、床板にクラックが発生することが皆無で、既存の縦方向の鉄筋が切断されずに残るため、補修の際の配筋がやりやすく、短時間で施工が完了するので、都市高速道路のように施工可能時間が短い場所に対して最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施例
図1に示すように、床版1の継手4の端部に円盤型カッターで予定切断部10に沿って床版1に垂直な切断溝20を順に形成していく。切断溝20の幅は板ジャッキ3が挿入できるものであればよく、約3〜4mmである。板ジャッキを挿入する切断溝20は一つおきとなるので、板ジャッキを設置する切断溝20に隣接する切断溝21の幅は、板ジャッキの膨張圧を作用させた際の破断線を導くための欠陥部を設けるものであって板ジャッキを挿入する必要がないものであるので、その幅は、1〜2mmと狭いものでよい。本実施例の切断溝20と切断溝21の間隔は約40mmとしているが、状況に応じて、最適な間隔を床版の強度等を勘案して定める。
【0011】
図1〜3に示すように床版1の厚さより浅い位置で切断を止めてあり、破壊撤去のために力を加えると、近距離に隣接して設けた切断溝21が構造上の弱点部となるので、板ジャッキの膨張圧によるコンクリートに発生するクラックは床版1の底面側には向かうことがないので構造体を傷めることなく、簡単に切断溝20と21で区画される部分が除去される。
次の切断溝20に板ジャッキをセットし、同様に板ジャッキ3を膨張させて圧力を加えて除去する。
図4に示すように、床版1の端部の縦方向の鉄筋7が切断されずに残るため、新たな継手を設置する際の配筋がやりやすく、短時間で施工が完了させることができる。
【0012】
本発明は、コンクリートの引張強度が圧縮強度の約1/11であり、板ジャッキの膨張によって、幅3〜4mmの切断溝底に応力集中が働き、引張強度は更に1/5となる特性を利用して床版を破壊するものである。板ジャッキの膨張圧によって切断溝20と切断溝21の底部を結ぶ線に沿ってクラックが発生し、容易に破壊除去することができるのである。
【0013】
板ジャッキ3の一例を図5で説明すると、1.2mm厚の深絞り用鋼板30(SECC1.2T)の1000×100(mm)からなり、長辺の中央または中央よりずれた位置に圧力流体の注入口31となる突起32を形成したものであり、2枚を合わせて注入口31の部分を除いて周縁から5mm程度内側を1〜6mmの幅でシーム溶接して板状の容器としたものである。
突起32には圧力流体の注入口31となるカップリングを先端に設けたパイプを挿入するための半円形の凹部がプレス加工で形成してある。
この板ジャッキに300kg/cm2の圧力流体を注入すると、約200トンに及ぶ非常に大きな力が得られる。
【0014】
溶接線は矩形の角部において直角に交差している。突起の端面は真鍮ロウ付けしてパイプを一体化して注入口31が形成されている。板ジャッキ3の表面は、必要に応じて塗装する。無鉛塗料を使用することによって板ジャッキ3を膨張させて使用した後は、鋼板を回収して再利用することが容易となる。
なお、一度圧力流体を注入して膨張させた板ジャッキ3に圧力をかけて平らにして再利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】床版継手部の切断溝の配列状態を示す断面図。
【図2】床版継手部の切断状態を示す断面図。
【図3】床版継手部の切断状態を示す断面図。
【図4】床版継手部の撤去切断が完了した状態の断面図。
【図5】板ジャッキの平面図。
【図6】従来の継手部の切断法を説明する断面図。
【符号の説明】
【0016】
1 床版
20、21 切断溝
3 板ジャッキ
4 継手
5 斜め切断溝
6 クラック
7 鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断撤去する床版継手の切断撤去部から端部に向かって垂直な切断溝を間隔をあけて複数形成し、切断溝に板ジャッキを挿入し、加圧して板ジャッキを膨張させて切断溝を形成した部分を撤去することを特徴とする床版継手の撤去方法。
【請求項2】
請求項1において、切断溝の間隔が40〜100mmである床版継手の撤去方法。
【請求項3】
請求項1また2のいずれかにおいて、一つおきに切断溝の幅が板ジャッキを挿入可能の幅であり、その他の切断溝がそれよりも狭い幅である床版継手の撤去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−138382(P2007−138382A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329198(P2005−329198)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(391065655)株式会社クライム (5)
【出願人】(391060823)第一ダイヤモンド工事株式会社 (3)
【出願人】(592183709)株式会社ウォールカッティング工業 (1)
【出願人】(591080313)理研ダイヤモンド工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】