説明

底質判別装置、超音波探知機、パラメータ設定方法及びパラメータ設定プログラム

【課題】ニューラルネットワークを用いて、正解率の高い底質判別結果を得ることができる底質判別装置、超音波探知機、パラメータ設定方法及びパラメータ設定プログラムを提供する。
【解決手段】水中に出力された超音波に係るエコー信号を入力し、ニューラルネットワークを用いて底質判別処理部172で海底の底質判別を行う超音波探知機において、結合荷重記憶部174に、ニューラルネットワークで用いる結合荷重を、位置情報に対応付けて複数記憶する。結合荷重設定部173は、位置情報を受け付け、受け付けた位置情報に対応する結合荷重を、結合荷重記憶部174から取得し、取得した結合荷重を、底質判別処理部172のニューラルネットワークに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に出力された超音波に係るエコー信号に基づいて海底の底質を判別する底質判別装置、超音波探知機、パラメータ設定方法及びパラメータ設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に用いられる魚群探知機では、海底の底質(岩、石、砂等)を判別し、表示を行うものが知られている(例えば特許文献1を参照)。底質判定は、超音波の送信パルスの海底エコーを解析することによって行われる。例えば、海底が岩や石等のように硬く起伏の大きい場所では、海底エコーの時間幅は長く、砂や泥等のように柔らかく平坦な場所では、海底エコーの時間幅は短くなる。画面上では、各底質との類似度や、各底質の中で最も類似する底質を表示することが行われている。この特許文献1では、底質種別の類似度の算出にニューラルネットワークを用いており、より正確な底質判別が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−275351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同じ底質でも海域毎にエコーは異なるため、ニューラルネットワークは、海域毎に処理の都度、学習して変更することが望まれる。このニューラルネットワークでは、出力値の正解に応じて、結合荷重(重み付け係数)が更新(学習)されることで、出力値の正解率を向上させていくものである。
【0005】
しかしながら、底質判別の場合、判別結果が正解であるか否かの把握は困難である。このため、特許文献1の場合、ニューラルネットワークにおける結合荷重を理想的な状態にすることができず、底質判別結果の正解率のさらなる向上を望むことは難しい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ニューラルネットワークを用いて、正解率の高い底質判別結果を得ることができる底質判別装置、超音波探知機、パラメータ設定方法及びパラメータ設定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水中に出力された超音波に係るエコー信号を入力し、ニューラルネットワークを用いて海底の底質判別を行う底質判別装置において、前記ニューラルネットワークで用いるパラメータを、位置情報に対応付けて複数記憶する記憶手段と、位置情報を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けた位置情報に対応するパラメータを、前記記憶手段から取得する取得手段と、該取得手段が取得したパラメータを、前記ニューラルネットワークに設定する設定手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
一般に、ニューラルネットワークは、出力結果の正解に応じて、より正解に近い結果を出力できるようにパラメータを学習(更新)していくアルゴリズムである。しかしながら、海底の底質は、位置によって様々であるため、ニューラルネットワークを底質判別に用いた場合、オペレータ(船員等)が底質判別の結果が正解であるか否かを判定することは困難である。このため、ニューラルネットワークに設定されるパラメータを、底質判別の結果から学習させることはできない。
【0009】
そこで、本発明の構成では、位置情報と、その位置に適したパラメータとを予め記憶しておき、受け付けた位置情報に対応するパラメータを取得して、底質判別に用いるニューラルネットワークに対して設定する。これにより、ニューラルネットワークの出力に関係なく、受け付けた位置に応じた最適なパラメータをニューラルネットワークに設定することができ、そのニューラルネットワークにより正解率の高い底質判別結果を得ることができる。
【0010】
本発明に係る底質判別装置において、前記パラメータは、予め海域毎にニューラルネットワークを用いた学習がなされて求められたものである。
【0011】
この構成では、海域毎に底質種別が異なるため、海域毎に学習がなされたパラメータを海域に対応付けて記憶している。これにより、海域に応じた理想的なパラメータをニューラルネットワークに設定でき、正解率の高い底質判別を行える。
【0012】
本発明に係る底質判別装置において、前記記憶手段は、汎用パラメータを記憶する。前記取得手段は、前記受付手段が受け付けた位置情報に対応するパラメータが前記記憶手段にない場合、前記汎用パラメータを取得する。
【0013】
この構成では、位置情報に対応するパラメータが記憶されていない場合には、汎用パラメータを取得し、ニューラルネットワークに設定する。これにより、どの位置であっても、底質判別結果の正解率をある程度高くすることができる。
【0014】
本発明に係る底質判別装置において、前記取得手段は、前記受付手段が受け付けた位置情報に対応するパラメータが前記記憶手段にない場合、前記位置情報に最も近い位置情報に対応するパラメータを取得する。
【0015】
この構成では、受け付けた位置情報に係るパラメータが記憶されていない場合には、受け付けた位置情報に最も近い位置情報に係るパラメータを取得し、設定する。近い位置の海底底質は似ている可能性が高いため、底質判別結果の正解率を少しでも高くすることができる。
【0016】
本発明に係る底質判別装置において、前記パラメータは、予め海域に応じてニューラルネットワークを用いた学習がなされて求められたものである。
【0017】
この構成では、専門家等が学習させたパラメータを用いるため、正解率の高い底質判別結果を得ることができる。
【0018】
本発明に係る底質判別装置において、前記受付手段は、位置情報としてGPS信号を受信する。
【0019】
この構成では、位置情報を取得する方法として、GPS信号を用いる具体例を示す。
【0020】
本発明に係る底質判別装置において、前記受付手段は、ユーザが入力した位置情報を受け付ける。
【0021】
この構成では、位置情報を取得する方法として、ユーザが入力する具体例を示す。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、底質判別にニューラルネットワークを用いた場合に、位置に応じた最適なパラメータをニューラルネットワークに設定することで、そのニューラルネットワークにより正解率の高い底質判別結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係る超音波探知機の構成を示すブロック図である。
【図2】信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】受信信号の時間軸波形を示す模式図である。
【図4】底質判別におけるニューラルネットワークを説明するための模式図である。
【図5】位置情報と結合荷重とを対応付けて記憶したデータテーブルを示す模式図である。
【図6】超音波探知機の信号処理部で実行される処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る底質判別装置、超音波探知機、結合荷重設定方法及びパラメータ設定プログラムの好適な実施の形態について図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態では、船舶に搭載されており、船舶が位置する海底の底質(岩、砂、泥、石など)を判別する本発明に係る底質判別装置を備えた超音波探知機について説明する。超音波探知機は、例えば、魚群探知機やスキャニングソナーなどがある。
【0025】
図1は、本実施形態に係る超音波探知機の構成を示すブロック図である。超音波探知機は、操作部(受付手段)10、送受波器11、送受切替部12、送信回路13、制御部14、受信回路15、A/D変換器16、信号処理部17、表示部18及びセンサ部19を備えている。
【0026】
制御部14は、記憶部20に記憶されているプログラム20Aを読み出して実行することで、超音波探知機を統括的に制御するものである。制御部14は、操作部10からの各種操作(探知レンジの設定や位置情報の入力)に応じて、送信回路13の送信周期、探知レンジ等を設定するものである。また、制御部14は、対応するA/D変換器16のサンプリング周期設定、信号処理部17への各種処理の実行指示を行うものである。
【0027】
表示部18は、画面上の縦軸を深度方向とし、横軸を時間方向としたエコーデータの表示を行うものである。なお、超音波探知機は、表示部18を備えず、船舶に既存のディスプレイを用いてもよい。
【0028】
センサ部19は、船速情報、ロール角、ピッチ角等の船体の状態を示す各種情報を制御部14へ入力する。
【0029】
送信回路13は、トラップ回路を内蔵した送受切替部12を介して送受波器11にパルス状の信号を入力する。信号の入力タイミングやレベル、パルス幅等は、制御部14からの制御信号を受信することにより制御される。
【0030】
送受波器11は、船底等に取り付けられる振動子であり、送信回路13から入力されるパルス状の信号に応じて水中に超音波を出力する。送受波器11は、自身が出力した超音波が魚群や海底等の物標に反射したエコー信号として受信する。送受波器11は、受信したエコー信号の強度に応じた受信信号を、送受切替部12を介して受信回路15に出力する。
【0031】
受信回路15は、入力された受信信号を増幅してA/D変換器16に出力する。
【0032】
A/D変換器16は、受信信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換し、信号処理部17に出力する。
【0033】
信号処理部17は、デジタル化された受信信号をメモリ(不図示)に順次記録する。信号処理部17は、記録した受信信号に基づいて、海底検出処理及び底質判別処理を行う。海底検出処理の結果及び底質判別の結果を示す情報は、表示部18に画面表示される。
【0034】
以下、信号処理部17の処理について詳細に説明する。
【0035】
図2は、信号処理部17の構成を示すブロック図である。信号処理部17は、海底検出部170、特徴量データ抽出部171、底質判別処理部172、結合荷重設定部(取得手段、設定手段)173、結合荷重記憶部174及び表示処理部175を備えている。
【0036】
信号処理部17には、A/D変換器16から受信信号が入力される。信号処理部17は、1回の測定分(1ping分)の受信信号をメモリ(不図示)に記録し、信号処理部17の上述の各部が、以下に示す処理を1ping分の受信信号を記録する度に行う。
【0037】
海底検出部170は、A/D変換器16から入力された受信信号から海底深度を検出する。海底検出部170は、検出した海底深度を制御部14へ出力する。制御部14は、海底深度に基づいて、海底深度に比例する送信パルス幅を算出し、このパルス幅の超音波が送受波器11から出力されるよう、制御信号を送信回路13に出力する。
【0038】
海底深度の検出手法は、閾値レベル以上のエコーを受信したタイミングを基準とする手法や、微分値が最も高くなるタイミングを基準とする手法、あるいは、出力した超音波のパルス幅に等しい(又は近い)波形をリファレンス信号として、受信信号との相関を求め、相関値が最も高くなるタイミングを基準とする手法等、種々の手法を用いることができる。
【0039】
特徴量データ抽出部171は、海底検出部170が海底を検出した場合に、受信信号から特徴量データを抽出する。特徴量データは、時間軸波形とした受信信号の積分値である。特徴量データ抽出部171は、受信信号を複数の区分に分割し、区分毎に特徴量データを抽出する。なお、特徴量データ抽出部171は、受信信号そのものを複数の区分に分割するようにしてもよい。
【0040】
ここで、特徴量データ抽出部171による特徴量データの抽出について説明する。
【0041】
図3は、受信信号の時間軸波形を示す模式図である。図3では、横軸を時間、縦軸を受信信号の信号レベルとしたグラフを示している。横軸の時間は、送受波器11から超音波を出力してからエコーを受信するまでの時間であり、換言すれば、深度でもある。
【0042】
特徴量データ抽出部171は、受信信号が海底のエコーに係るものであると判定する閾値レベルを超えている受信信号を複数の時間区分(T,T,...,T)に分割し、区分毎に特徴量データL,L,...,Lを抽出する。区分の数は、固定にし、海底深度(時間)に応じて各区分の時間長を可変とするようにしてもよいし、各区分の時間長を固定にし、海底深度に応じて区分の数を可変とするようにしてもよい。
【0043】
なお、海底が岩や石等のように硬く起伏の大きい場所では、反射率が高いため、図3に示すように、海底エコーの最初のピーク(1次エコー)に対して2度目のピーク(海底に反射した音波がさらに反射して受信される2次エコー)のレベルが高くなる傾向がある。特徴量データ抽出部171は、1次エコーのみの特徴量データを抽出してもよいし、2次エコーを含めて特徴量データを抽出してもよい。1次エコーと2次エコーとの振幅比は海底面の反射率の指標となるので、特徴量データ抽出部171が2次元エコーを含めた特徴量データを抽出した場合、後段の底質判別処理部172での底質判別の正解度が向上する。
【0044】
底質判別処理部172は、特徴量データ抽出部171が抽出した複数の特徴量データL〜Lを入力として、リファレンスデータ(テンプレートデータ)とのマッチング(パターン認識)を行って類似度を算出し、底質情報を生成する。リファレンスデータは、泥、岩、砂、石等の底質毎のエコーの時間軸波形を有したデータであり、図示しないメモリに予め記憶されている。
【0045】
底質判別処理部172は、リファレンスデータとの類似度の算出に、ニューラルネットワークを用いている。図4は、底質判別におけるニューラルネットワークを説明するための模式図である。図4は、底質種別を泥、岩、砂、石とした場合の一例を示している。
【0046】
本実施形態に係るニューラルネットワークは、入力層N、中間層M及び出力層Oを備えた階層型ニューラルネットワークである。
【0047】
入力層Nは、ニューロン素子N,N,...,Nを有している。ニューロン素子N〜Nそれぞれには、特徴量データ抽出部171が抽出した特徴量データL〜Lが入力される。入力層Nのニューロン素子の数は、特徴量データ抽出部171が抽出した特徴量データの数に応じて可変となる。
【0048】
ニューロン素子N〜Nは、入力された特徴量データL〜Lが、閾値を超えた場合に出力値を中間層Mへ出力する。この閾値は、底質判別の精度やエコーを海底からのエコーと判断するレベルなどに応じて適宜変更される。ニューロン素子N〜Nは、入力値を出力値としてもよいし、閾値を超えた場合に「1」を出力値とし、閾値を超えない場合に「0」を出力値としてもよい。以下では、ニューロン素子N〜Nは、入力値を出力値として出力するものとして説明する。
【0049】
中間層Mは、記憶されているリファレンスデータの数に相当する数のニューロン素子を有している。各ニューロン素子には、入力層Nのニューロン素子N〜Nの出力値である特徴量データL〜Lが入力される。そして、各ニューロン素子は、入力された特徴量データを重み付け加算し、所定の入出力関数に従った出力値を出力することで、リファレンスデータとのマッチングを行い、マッチング結果(類似度)を出力する。
【0050】
本実施形態では、中間層Mは、ニューロン素子M11,M 12,..M 1i,M21,M 22,..M 2j,Mn1,M n2,..M nmを有しているものとする。ニューロン素子Mnmにおいて、nは、底質種別に対応し、mは、底質種別のリファレンスデータの数に対応している。
【0051】
例えば、泥のリファレンスデータがメモリに3つ記憶されている場合、その泥のリファレンスデータに対応するニューロン素子は、ニューロン素子M11,M 12,M 13となる。岩のリファレンスデータがメモリに2つ記憶されている場合、その岩のリファレンスデータに対応するニューロン素子は、ニューロン素子M21,M 22となる。
【0052】
また、砂のリファレンスデータがメモリに3つ記憶されている場合、その砂のリファレンスデータに対応するニューロン素子は、ニューロン素子M31,M 32,M 33となる。石のリファレンスデータがメモリに2つ記憶されている場合、その石のリファレンスデータに対応するニューロン素子は、ニューロン素子M41,M 42となる。
【0053】
中間層Mが有する各ニューロン素子には、ニューロン素子N〜Nの出力値が入力される(例えば、図4の太線参照)。そして、中間層Mが有する各ニューロン素子は、特徴量データL〜Lに結合荷重P〜Pそれぞれを乗じ、所定の入出力関数に従った出力値を出力する。
【0054】
入出力関数に従った出力値は、例えば、特徴量データL〜Lに結合荷重P〜Pそれぞれを乗じた結果が閾値以上であれば「1」、閾値未満であれば「0」としてもよい。また、入出力関数に従った出力値は、特徴量データL〜Lに結合荷重P〜Pそれぞれを乗じた結果に応じたシグモイド関数であってもよい。
【0055】
結合荷重P〜Pは、中間層Mの各ニューロン素子の特性であり、リファレンスデータに応じて予め決められている。ここで、結合荷重P〜Pの決定方法について説明する。
【0056】
海底底質が泥や砂の場合、送受波器11から出力された超音波のエコーのパルス幅は短い。また、海底底質が岩や石の場合、送受波器11から出力された超音波のエコーのパルス幅は長い。このため、底質種別毎にリファレンスデータの時間軸波形は異なる。そこで、中間層Mのニューロン素子が用いるリファレンスデータの時間軸波形に応じて、特徴量データ抽出部171が分割した区分(T,T,...,T n)のどの区分の特徴量データが、リファレンスデータと対比において重視されるかによって、結合荷重が決定される。
【0057】
例えば、図3の区分(T,T)のように時間的に最初の方の信号レベルが高く、その後の信号レベルが低くなっている時間軸波形のリファレンスデータを、ニューロン素子M11が用いるものとして説明する。この場合、ニューロン素子M11に対する結合荷重P〜Pは、結合荷重P,Pが結合荷重P〜Pよりも大きくなるよう設定される。
【0058】
これにより、ニューロン素子M11におけるリファレンスデータとの対比に略関係のない時間の特徴量データL〜Lがニューロン素子M 11に入力されても、特徴量データL,Lに比べて小さいため、ニューロン素子M11は、リファレンスデータとの対比時に特徴量データL〜Lを略無視することができる。その結果、ニューロン素子M11は、より正確、かつ、高速に、入力された特徴量データとリファレンスデータとの類似度を算出することが可能となる。
【0059】
出力層Oは、ニューロン素子O,O,O,Oを有している。ニューロン素子O,O,O,Oには、中間層Mのニューロン素子M11,M 12,..M 1i,M21,M 22,..M 2j,Mn1,M n2,..M nmの出力値が入力される。そして、ニューロン素子O,O,O,Oは、入力値に結合荷重W 11,W12,..W 1i,W 21,W22,..W 2j,W n1,Wn2,..W nmそれぞれを乗じ、所定の入出力関数に従った出力値を出力する。
【0060】
なお、結合荷重(パラメータ)Wの添え字は、ニューロン素子Mの添え字と対応している。また、結合荷重Wは、後述の結合荷重設定部173によりに設定される。
【0061】
ニューロン素子O,O,O,Oは、結合荷重Wを用いて入力値に重み付け加算し、所定の入出力関数に従った出力値を出力する。例えば、ニューロン素子O,O,O,Oは、重み付け加算した結果が閾値を超えている場合に、出力値を出力する。ニューロン素子O,O,O,Oの出力値は、中間層M等と同様に、「0」、「1」であってもよいし、ニューロン素子O,O,O,Oの入力値に重み付け加算した結果であってもよい。
【0062】
ニューロン素子Oは、泥に関する出力値Uを出力する。ニューロン素子Oは、岩に関する出力値Uを出力する。ニューロン素子Oは、砂に関する出力値Uを出力する。ニューロン素子Oは、石に関する出力値Uを出力する。
【0063】
例えば、底質判別処理部172は、出力値Uのみが出力される場合には、海底底質は泥であるとする底質情報を生成する。また、底質判別処理部172は、出力値U,Uが出力される場合には、海底底質は泥及び岩が50%ずつ含まれているとする底質情報を生成する。
【0064】
また、出力層Oが入力値に重み付け加算した結果をそのまま出力した場合、底質判別処理部172は、出力層Oの各ニューロン素子の出力値の割合から、底質情報を生成してもよい。この場合、例えば、底質判別処理部172は、海底底質は70%が泥、20%が岩、10%が石であるとする底質情報を生成する。
【0065】
図2に戻り、結合荷重記憶部174は、ニューラルネットワークにおける中間層M及び出力層Oの間の結合荷重Wと、位置情報とを対応付けて記憶する。図5は、位置情報と結合荷重Wとを対応付けて記憶したデータテーブルを示す模式図である。図5に示すデータテーブルは、位置情報として、海上の緯度及び経度情報が記憶してある。
【0066】
なお、図5では省略しているが、結合荷重記憶部174に記憶されている結合荷重A,B,..それぞれは、結合荷重W11,W 12,..W 1i,W21,W 22,..W 2j,Wn1,W n2,..W nmそれぞれの値を含んでいる。さらに、結合荷重A,B,..それぞれは、ニューロン素子O,O,O,Oそれぞれに対する結合荷重を含んでいる。また、図5における位置情報は、緯度及び経度でなく、海洋名、例えば、瀬戸内海又は太平洋などとしてもよい。
【0067】
ニューラルネットワークは、出力値(底質判別結果)の正解に応じて、結合荷重Wが都度学習されるものである。しかし、海底底質は、海域毎に異なり、また、海底を伝搬する超音波は、海水の水質(水温や海水濃度など)などに応じて異なった伝搬態様となる。このため、オペレータ(船員)は、底質判別結果が正解であるか否かが判断できず、結合荷重Wを学習させることができない。そこで、結合荷重記憶部174に記憶される結合荷重は、専門家や超音波探知機の販売メーカ等により、予め各海域でニューラルネットワークを用いた底質判別が行われて、学習された理想的なものである。
【0068】
例えば、船舶が経度38度、緯度148度に位置している場合、ニューラルネットワークにより行われた底質判別の結果の正解が、専門家等により判断される。そして、専門家等は、底質判別の結果が正解に近づくように、ニューラルネットワークのパラメータ(結合荷重)を学習させ、決定する。この結合荷重が、経度38度、緯度148度に対応付けて、結合荷重記憶部174に記憶されている。
【0069】
結合荷重設定部173は、制御部14から入力された位置情報に対応する結合荷重を、結合荷重記憶部174から取得し、取得した結合荷重を底質判別処理部172のニューロンネットワークに対して設定する。例えば、図5において、船舶が経度38度、緯度148度に位置している場合、結合荷重設定部173は、その位置情報に対応する結合荷重A、C,E,Gを底質判別処理部172のニューラルネットワークに設定する。
【0070】
結合荷重設定部173は、入力された位置情報に対応する結合荷重が結合荷重記憶部174にない場合には、入力された位置情報に最も近い位置情報に対応する結合荷重を取得する。位置が近い場合、海底底質が似る可能性が高いため、結合荷重設定部173は、入力された位置情報に最も近い位置情報に対応する結合荷重を取得することで、より理想的に近い結合荷重をニューラルネットワークに設定することができる。
【0071】
なお、結合荷重設定部173が取得する位置情報は、操作部10からオペレータによって入力されてもよいし、GPS(Global Positioning System)信号を受信して、GPS航法により求められてもよい。
【0072】
このように、本実施形態に係る超音波探知機は、船舶の位置によって、理想的な結合荷重Wが、底質判別処理部172のニューラルネットワークに設定される。これにより、ニューラルネットワークからは、正解に近い出力値が出力されることになり、超音波探知機は、正解率の高い底質情報を生成することができる。
【0073】
以下に、本実施形態に係る超音波探知機において実行される動作について説明する。
【0074】
図6は、超音波探知機の信号処理部17で実行される処理手順を示すフローチャートである。信号処理部17は、受信信号が入力されたか否かを判定する(S1)。受信信号が入力されていない場合(S1:NO)、信号処理部17は本処理を終了する。受信信号が入力された場合(S1:YES)、信号処理部17は、受信信号から海底を検出したか否かを判定する(S2)。
【0075】
海底を検出していない場合(S2:NO)、受信信号は、例えばノイズであるとして、信号処理部17は本処理を終了する。海底を検出した場合(S2:YES)、信号処理部17の海底検出部170は、海底深度を検出する(S3)。
【0076】
結合荷重設定部173は、制御部14から位置情報を取得する(S4)。位置情報は、オペレータによる手動入力であってもよいし、GPS信号を用いた自動入力であってもよい。
【0077】
結合荷重設定部173は、取得した位置情報に対応する結合荷重が結合荷重記憶部174に記憶されているか否かを判定する(S5)。対応する結合荷重が結合荷重記憶部174に記憶されている場合(S5:YES)、結合荷重設定部173は、対応する結合荷重を取得する(S6)。対応する結合荷重が結合荷重記憶部174に記憶されていない場合(S5:NO)、換言すれば、結合荷重記憶部174に取得した位置情報が記憶されていない場合、結合荷重設定部173は、取得した位置情報に近い位置情報に対応する結合荷重を取得する(S7)。
【0078】
結合荷重設定部173は、取得した結合荷重を底質判別処理部172のニューラルネットワークに設定する(S8)。底質判別処理部172は、結合荷重設定部173から設定された結合荷重を用いて、図3で説明したニューラルネットワークを用いた底質判別処理を行う(S9)。底質判別処理部172は、底質判別処理を表示処理部175へ出力して、底質判別の結果を表示部18に表示する(S10)。これにより、本処理は終了する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態では、底質判別にニューラルネットワークを用いており、船舶の位置に応じて予め決められた結合荷重を、そのニューラルネットワークに設定している。これにより、随時、正確率の高い底質判別を行うことができる。
【0080】
なお、上述の実施形態で説明した超音波探知機の具体的構成などは、適宜設計変更可能であり、上述に記載された作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、上述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0081】
例えば、ニューラルネットワークに設定する結合荷重は、取得した位置情報、または、取得した位置情報に近い位置情報に対応するものでなくてもよい。例えば、結合荷重記憶部174に、汎用パラメータとしての汎用結合荷重を記憶しておく。汎用結合荷重とは、どの海域であってもある程度高い、例えば80%以上の確率で、正解となる底質判別を行えるパラメータである。
【0082】
結合荷重設定部173は、取得した位置情報が結合荷重記憶部174に記憶されていない場合には、結合荷重記憶部174から、その汎用結合荷重を取得し、ニューラルネットワークに設定するようにしてもよい。これにより、超音波探知機は、常に、正解率が一定値以上となる底質判別結果を得ることができる。
【0083】
また、上述の実施形態では、結合荷重Wが結合荷重設定部173により設定されるようにしているが、超音波探知機は、結合荷重Pを学習させるようにしてもよい。例えば、中間層Mの入力値の重み付け加算した結果と、リファレンスデータとを対比させ、前記結果がリファレンスデータに近づくように、結合荷重Pを学習させるようにしてもよい。この場合、中間層Mにおけるリファレンスデータとのマッチング結果を、より精度の高いものとすることができる。
【符号の説明】
【0084】
10−操作部(受付手段)
17−信号処理部
18−表示部
171−特徴量データ抽出部
172−底質判別処理部(ニューラルネットワーク)
173−結合荷重設定部(取得手段、設定手段、受付手段)
174−結合荷重記憶部(記憶手段)
N−入力層
M−中間層
O−出力層
W−結合荷重(パラメータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に出力された超音波に係るエコー信号を入力し、ニューラルネットワークを用いて海底の底質判別を行う底質判別装置において、
前記ニューラルネットワークで用いるパラメータを、位置情報に対応付けて複数記憶する記憶手段と、
位置情報を受け付ける受付手段と、
該受付手段が受け付けた位置情報に対応するパラメータを、前記記憶手段から取得する取得手段と、
該取得手段が取得したパラメータを、前記ニューラルネットワークに設定する設定手段と
を備えることを特徴とする底質判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の底質判別装置であって、
前記パラメータは、
予め海域毎にニューラルネットワークを用いた学習がなされて求められたものである
ことを特徴とする底質判別装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の底質判別装置であって、
前記記憶手段は、
汎用パラメータを記憶し、
前記取得手段は、
前記受付手段が受け付けた位置情報に対応するパラメータが前記記憶手段にない場合、前記汎用パラメータを取得する
ことを特徴とする底質判別装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一つに記載の底質判別装置であって、
前記取得手段は、
前記受付手段が受け付けた位置情報に対応するパラメータが前記記憶手段にない場合、前記位置情報に最も近い位置情報に対応するパラメータを取得する
ことを特徴とする底質判別装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の底質判別装置であって、
前記パラメータは、
予め海域に応じてニューラルネットワークを用いた学習がなされて求められたものである
ことを特徴とする底質判別装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一つに記載の底質判別装置であって、
前記受付手段は、
位置情報としてGPS信号を受信する
ことを特徴とする底質判別装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一つに記載の底質判別装置であって、
前記受付手段は、
ユーザが入力した位置情報を受け付ける
ことを特徴とする底質判別装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一つに記載の底質判別装置と、
該底質判別装置における底質判別の結果を表示する表示部と
を備えていることを特徴とする超音波探知機。
【請求項9】
水中に出力された超音波に係るエコー信号を入力し、ニューラルネットワークを用いて海底の底質判別を行う底質判別装置で実行する前記ニューラルネットワークのパラメータ設定方法において、
位置情報を受け付け、
前記ニューラルネットワークで用いるパラメータを、位置情報に対応付けて複数記憶する記憶手段から、受け付けた位置情報に対応するパラメータを取得し、
取得したパラメータを、前記ニューラルネットワークに設定する
ことを特徴とするパラメータ設定方法。
【請求項10】
水中に出力された超音波に係るエコー信号を入力し、ニューラルネットワークを用いて海底の底質判別を行うコンピュータで実行するパラメータ設定プログラムにおいて、
コンピュータを、
前記ニューラルネットワークで用いるパラメータを、位置情報に対応付けて複数記憶する記憶手段から、受け付けた位置情報に対応するパラメータを取得する取得手段、及び、
該取得手段が取得したパラメータを、前記ニューラルネットワークに設定する設定手段
として機能させることを特徴とするパラメータ設定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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