説明

底面給液型植物育成装置

【課題】底面給液において水媒性病原菌の拡散を防ぎ安全性を高める。
【解決手段】底面給液型植物育成装置100は、底面を略平面状とし、少なくとも上方を開口して水又は液肥を溜めることが可能な水槽と、水槽内の底面に略一様に配置される、保水性を有する平面状の保水シートであって、上面を植物が栽植される培地を載置するための載置面として底面給液を実現するための保水シートと、水槽内まで導入され、保水シートに対して水又は液肥を供給する培養液供給口を開口した管状若しくは樋状の灌水チューブとを備える底面給液型植物育成装置であって、さらに、保水シートが、光照射により抗菌性を発揮可能な光触媒を構成する抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維よりなる。これによって、保水シートで底面から均一に植物の根に水又は液肥を供給すると共に、抗菌性を持たせて底面給液で問題となる水媒性病害の蔓延を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の養液栽培等に使用する植物育成装置であって、植物に対して栽培容器の底面から給水する底面給液型の植物育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の育苗等における給水方式は、鉢花の潅水労力削減等のため、かけ流し式の頭上灌水のみならず、底面から給水する底面給水又は底面給液方式による育苗が利用されている(例えば特許文献1)。底面給液方式では、水の毛管連絡が優れた保水性シート等の保水材を使用し、この保水性シートの上面に植物が栽植された培地を設置し、保水性シートに水を給水して湿潤させることにより、この水を培地を介して植物に吸水させる。このような保水性シートを介した給水では、定量的に一定量の水分が供給されるので、均一な水の供給が図られ、均質で手間のかからない育苗が実現される。
【特許文献1】特開2000−254211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、底面給液方式の育苗法では、水媒性の病原菌が混入すると病害が蔓延する危険性が高いという問題があった。特に、かけ流し式の灌水と異なり、保水性シートに保水された水が長時間留まるため、細菌類が繁殖するおそれが高くなる。また一旦青枯病等の水媒性病原菌が侵入すると、シートを介して病害が育苗床全体に蔓延する危険性があった。
【0004】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものである。本発明の主な目的は、底面給液の安全性を高めることのできる底面給液型植物育成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る底面給液型植物育成装置は、底面を略平面状とし、少なくとも上方を開口して水又は液肥を溜めることが可能な水槽と、水槽内の底面に略一様に配置される、保水性を有する平面状の保水シートであって、上面を植物が栽植される培地を載置するための載置面として底面給液を実現するための保水シートと、水槽内まで導入され、保水シートに対して水又は液肥を供給する水又は液肥の供給口を開口した管状若しくは樋状の灌水チューブとを備える底面給液型植物育成装置であって、さらに、保水シートが、光照射により抗菌性を発揮可能な光触媒を構成する抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維よりなる。これによって、保水シートで水又は液肥を保持して育苗床の底面から均一に植物の根に水又は液肥を供給すると共に、この保水シートに抗菌性を持たせ、底面給液で問題となる水媒性病害の蔓延を防ぐことができる。
【0006】
また、本発明の第2の側面に係る底面給液型植物育成装置は、アクリロニトリル系繊維が、抗菌活性金属化合物でキレート処理されている。これによって、抗菌活性金属化合物の溶出を抑制することができ、抗菌効果の持続性が高くかつ環境への抗菌活性金属化合物の流出も抑止した植物育成が実現できる。
【0007】
さらに、本発明の第3の側面に係る底面給液型植物育成装置は、保水シートが、繊維を立体的に集合して、繊維の間に液体を保水できる空隙を設けてなり、該繊維が、抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維を、pH1〜6の範囲内で熱処理をしてなる光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維を含む。これにより、アクリロニトリル系繊維に結合した抗菌活性金属化合物に、光照射されることにより光触媒活性が生じ、スーパーオキシドアニオンラジカル及びヒドロキシラジカルが生成される。このヒドロキシラジカルが非常に強い殺菌活性を有するため、病原菌に対して殺菌効果を発揮できる。また、アクリロニトリル系繊維に結合した抗菌活性金属化合物に直接病原菌が接触することでも殺菌効果を発揮できる。
【0008】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る底面給液型植物育成装置は、保水シートが、アクリロニトリル系繊維の一部のニトリル基をスルホン酸基に置換し、銀イオンをキレートさせたアクリロニトリル系繊維を10〜90%の割合で混合した銀担持抗菌性不織布である。これによって、銀イオンの溶出を抑制することができ、抗菌効果の持続性が高くかつ環境への銀の流出も抑止した植物育成が実現できる。また上記と同様の光触媒活性による殺菌効果を発揮することができ、またアクリロニトリル系繊維に結合した銀に直接病原菌が接触することでも殺菌効果を発揮できる。
【0009】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る底面給液型植物育成装置は、さらに、水槽の周囲に沿って配置され、上面を開口して貯水可能とした貯水樋を備え、灌水チューブで供給した水又は液肥が貯水樋で蓄えられ、この水又は液肥が水槽の底面に敷いた保水シートの毛管水現象で、保水シートの水又は液肥が減少すると貯水樋から補給されるよう構成されてなり、さらに保水シートの一部が、貯水樋内まで延長されて配置されている。これにより、閉鎖型底面給液育苗を実現しつつ、貯水槽内で蓄えられた水又は液肥に対しても抗菌性を持たせることができ、さらなる罹病の防止が図られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の底面給液型植物育成装置によれば、底面給液において問題となっていた育苗床や栽培ベッドの全体に病害が蔓延する事態を効果的に阻止できる。特にシートに光触媒を利用した抗菌性を持たせるという簡単な構成によって、水又は液肥中に発生する細菌類の増加を効果的に抑制し、病害の拡散を防止して手間もかからず安全かつ簡単に殺菌効果を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための底面給液型植物育成装置を例示するものであって、本発明は底面給液型植物育成装置を以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0012】
図1に、本発明の実施の形態1に係る底面給液型植物育成装置を示す。この図に示す底面給液型植物育成装置100は、水槽10と、水槽10内に敷き詰められた保水シート12と、この保水シート12の上に被せられた防根シート14と、保水シート12に水又は液肥を供給するための灌水チューブ15とを備える。このようにして植物を植え付けして栽培する培地を載置あるいは充填するための栽培ベッドあるいは育苗床を構成する。栽培ベッドに培地Bを載置して、育苗植物の底面から給液する。また保水シート12は光触媒物質を担持しており、太陽光や蛍光灯等の光源Lから光を受けて、光触媒反応により殺菌作用を発揮し、保水シート12に含まれる水又は液肥を殺菌する。
(水槽10)
【0013】
水槽10は、上方を開口した箱形に形成される。水槽10の内部に保水シート12を敷き詰め、これらに水又は液肥を供給する。
(保水シート12)
【0014】
保水シート12は、保水性を有する平面状の吸水シートである。保水シート12は水の毛管連絡に優れた不織布でマット状に形成され、この上面に植物が栽植された培地Bを載置し、保水シート12に水を給水して湿潤させる。また培地Bは、植物が栽植された固形培地であり、ロックウールや植え込み資材あるいは粒状培土を詰めたポット等が利用できる。特にロックウールは安価で利用しやすいという利点を有する。また保水シート12は、光触媒物質を担持させており、光を照射することで抗菌効果を発揮しうる。例えば、光触媒物質として抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維で構成された不織布を保水シート12として使用する。
(抗菌活性金属化合物)
【0015】
抗菌活性金属化合物としては、銀、銅、亜鉛、チタン、金、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト等、抗菌性を示す金属が利用できる。これらの金属は1種類を単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。特に可視光線で励起して殺菌効果を発揮でき、利用のし易さや安全性等の面からは銀が好ましい。銀担持光触媒は可視光線を受けると銀イオンが光受容体となり、基底電子を電導バンドまで励起し、繊維表面吸着酸素を励起電子が還元して、スーパーオキシドアニオンラジカルを生成する。一方、電子の抜けた正孔は、OHアニオンから電子を引き抜いてヒドロキシラジカルを生成する。このヒドロキシラジカルは非常に強力な酸化力を持ち、細菌等の有機物を分解する。また、ヒドロキシラジカルの寿命は一瞬であるため、周囲への悪影響も生じない。
【0016】
図1の例では、アクリロニトリル系繊維の一部のニトリル基をスルホン酸基に置換し、銀イオンをキレートさせたアクリロニトリル系繊維を30%、ポリオレフィン繊維を70%の割合で混合した銀担持抗菌性不織布を使用した。また光触媒殺菌効果を生じさせるためには、細菌等処理対象の有機物と光触媒物質とを接触させる必要がある。このため保水シート12を抗菌性不織布として、水又は液肥中に含まれる細菌等が効率よく光触媒物質と接触させることができる。抗菌性不織布は、繊維を立体的に集合して、繊維の間に水等の液体を保水できる空隙を設けている。繊維は抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維を、pH1〜6の範囲内で熱処理をしてなる光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維とし、抗菌性を持たせる。
(抗菌性不織布)
【0017】
ここで抗菌性不織布の詳細について説明する。抗菌性アクリロニトリル系繊維は、抗菌活性金属化合物を好ましくは銀系化合物とし、さらにアクリロニトリル系繊維として好ましくはアニオン性官能基を有する。さらに、抗菌性アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系繊維を、例えば100〜160℃の湿熱又は乾熱で熱処理してなるもので、この抗菌性アクリロニトリル系繊維の含有量は、好ましくは10〜90%とする。抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維にバインダ繊維を添加し、バインダ繊維でもって繊維の交点を連結できる。
【0018】
抗菌性不織布は、繊維を湿式あるいは乾式で立体的に集合して繊維の交点を結合した不織布である。繊維の交点を結合した抗菌性不織布は、強靭で繊維が分離し難い特長がある。ただ抗菌性不織布は、必ずしも繊維の交点を結合する必要はない。それは、抗菌性不織布が、強度の要求されない状態で使用できる用途もあるからである。繊維の交点を結合する抗菌性不織布は、未硬化で液状のバインダを繊維に塗布してこれを硬化させる方法と、主体繊維とバインダ繊維を混合して両繊維を立体的に集合して不織布とした後、バインダ繊維を溶融する方法とがある。液状のバインダで繊維の交点を結合する方法は、不織布に液状のバインダを噴霧して塗布し、あるいは、不織布を液状のバインダに浸漬した後、余分のバインダを絞りとってバインダを硬化させる。バインダ繊維を使用する方法は、バインダ繊維を熱風で溶融し、あるいは、不織布を熱圧してバインダ繊維を溶融して主体繊維の交点を結合する。また、バインダ繊維として木材パルプや合成パルプを使用することもでき、繊維の絡み合い、水素結合によってシート化することができる。
【0019】
抗菌性不織布は、乾式、湿式等の各種製法で製造される。バインダ繊維を混合して製造される抗菌性不織布は、主体繊維とバインダ繊維とを混合し、両繊維を立体的に集合して製造される。この抗菌性不織布は、バインダ繊維の添加量を、10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%とする。抗菌性不織布は、バインダ繊維を添加しないで製造することもできる。ただ、バインダ繊維を添加して製作した抗菌性不織布を加熱してバインダ繊維で溶着した抗菌性不織布は、強度を向上できる。バインダ繊維が主体繊維の交点を溶着するからである。
【0020】
抗菌性不織布は、光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維を含んでいる。抗菌性アクリロニトリル系繊維の混合量は、例えば10〜90重量%とするが、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは20〜50重量%、最適には30〜40重量%とする。
【0021】
抗菌性不織布に含まれる抗菌性アクリロニトリル系繊維は、混合量が少なすぎると抗菌性能が低下する。ただ、抗菌性アクリロニトリル系繊維の添加量を多くすると、原料コストが高くなる。また、バインダ繊維で繊維の交点を結合する抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維の添加量を多くすると、バインダ繊維の添加量が少なくなって強度が低下する。抗菌性不織布に含まれる抗菌性アクリロニトリル系繊維の混合量は、用途に要求される抗菌性能とコストと強度とを考慮して、用途に最適な前述の範囲とする。
【0022】
抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維に加えて、主体繊維又はバインダ繊維として、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の合成繊維を、単独であるいは複数を混合して添加することもできる。ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維は、バインダ繊維として使用することができる。これらのバインダ繊維を含む抗菌性不織布は、熱圧加工して繊維を交点で結合して強靭にできる。また木材パルプや合成パルプも使用することができる。
【0023】
抗菌性不織布は、抗菌性アクリロニトリル系繊維に、ポリオレフィン繊維又はポリエステル繊維を添加したものが、機械的強度、耐薬品性、熱加工適性、コスト等の総合的な見地から最適である。抗菌性アクリロニトリル系繊維に添加するポリオレフィン繊維又はポリエステル繊維は、乾式法で製造する場合は、長さを例えば25〜150mm、好ましくは、35〜70mmとするものが適しており、湿式法で製造する場合は、長さを例えば1〜25mm、好ましくは、3〜15mmとするものが適している。
【0024】
抗菌性不織布は、太さを例えば0.1〜50デシテックス、好ましくは0.3〜20デシテックスとする繊維を、60重量%以上含む不織布で構成する。
【0025】
抗菌性不織布は、繊維の間に水等の液体を保水できる空隙と、水等の液体を均一にいき渡らせるための毛菅水機能が必要である。その必要性によって、抗菌性不織布の面積当たりの重量、厚さ、又は抗菌性不織布に使用する繊維の太さ、熱圧加工時の条件を調整することができる。
【0026】
抗菌性不織布に使用される光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から形成された繊維であって、抗菌活性金属化合物を含有するものである限り特に制約はない。アクリロニトリル系重合体は、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは80%重量以上のアクリロニトリルと公知のモノマーとの共重合体を用いることができる。
【0027】
抗菌活性金属化合物としては、抗菌活性を有する金属化合物である限り特に制約はないが、光触媒活性を有効に付与するために銀系化合物であることが好ましい。ここで、本発明において繊維に含有せしめるべき抗菌活性金属化合物の量は、特に限定はないが、より好ましくは、繊維に対して金属イオンとして1〜200m・mol/kg含有させるのが良い。即ち金属化合物の含有量は要求される抗菌性のレベルにより異なるのであり、係る範囲の下限に満たない場合は生活環境での見るべき光触媒活性やこれに伴う充分な抗菌性能が得られにくく、上限を越える場合は、繊維が乾燥等の熱処理工程で著しく着色する問題が生じ易い。さらに係る範囲内で生活用途或いは工業用途への充分な光触媒活性に伴う抗菌性能が恒久的に得られることから、上述した範囲を越えてまで含有せしめることは、不必要にコストが高くなり工業的に有利でない。
【0028】
抗菌性アクリロニトリル系繊維を使用した抗菌性不織布は、以下の方法で製造できる。まず不織布の製造工程乾式で抗菌性不織布を製造する。抗菌性不織布を構成する繊維として、30重量%の抗菌性アクリロニトリル系繊維と、70重量%のポリオレフィン繊維を用いる。抗菌性アクリロニトリル系繊維の太さは、1.7デシテックスで、平均長さは51mmとするものである。ポリオレフィン繊維は、繊維の断面に低融点と高融点のものが並列型に存在する複合繊維を用いた。その太さは11デシテックスで、平均長さは51mmとするものである。
【0029】
乾式法による不織布の製造においては、熱風あるいは熱ロールによってバインダー繊維を融着させるサーマルボンド法を利用する。以上の装置と繊維を使用して、単位面積に対する重量を140g/m2、厚さを4mmとする抗菌性不織布を製造する。
【0030】
上記の抗菌性アクリロニトリル系繊維としては、特許第3422376号で開示されるもの、光触媒活性を有する抗菌性不織布としては特開2001−259012で開示されるものが好適に利用できる。
【0031】
一般に銀を利用した抗菌性物質では、銀イオンが溶出して抗菌効果を発揮するものが多い。しかしながら、銀の溶出量が多すぎると、植物の生長に悪影響を及ぼすおそれがある。またこの方式では効果が持続せず、銀イオンが溶出するにつれて殺菌効果が失われ、比較的短寿命で定期的に交換する必要があった。さらにかけ流し式の場合は、溶出した銀が排出されるため、周囲の環境に与える影響も懸念され、さらに廃棄物の処理も問題となる。これに対して本実施の形態で使用した銀担持抗菌性不織布は、銀イオンをキレートさせた繊維を使用しており、溶解度が低く長期間にわたって光触媒の殺菌力を発揮でき安定して使用できる。また溶出量が少ないため環境への影響も少なく、長寿命化によって廃棄物の量も抑えることができ、環境に優しい底面給液型植物育成装置とできる。
【0032】
このように、保水シートに抗菌活性金属化合物を含有させることで、保水性と抗菌性を両立させた育苗床あるいは栽培ベッドを形成できる。このように一枚のシートで保水と抗菌を実現でき、使用するシートの数を減らしてコストを安価にし、かつ設置や交換作業を容易にできる。ただ、保水シートと別に、抗菌性を持たせた抗菌シートを用意し、これらを別部材で構成して重ねたり、多層に積層して一体的に構成することもできる。
(光源L)
【0033】
光触媒物質を励起する光源Lとしては、蛍光灯等の人工光や日中の太陽光を利用できる。底面給液型植物育成装置を屋外やビニールハウス等日当たりのよい場所に配置することで、自然の光によって植物の育成を促進すると共に、光触媒効果を発揮させることができる。また蛍光灯やハロゲンランプ、LED等の人工光源を別途用意して、育苗床の上方等に配置してもよい。特に蛍光灯はコスト及び消費電力の面から好ましい。これによって日当たりの悪い場所に配置された底面給液型植物育成装置や曇り、雨の日、夜間等でも光触媒効果を発揮させることができる。また、太陽光と人工光源を併用することも可能である。
(防根シート14)
【0034】
保水シート12の上面には、成長した植物の根が培地Bから侵入するのを防ぐため、防根シート14を敷設する。これによって、根が保水シート12に侵入して培地Bを保水シート12から取り外す際に根が切れるおそれを回避できる。
【0035】
また、保水シートに高密度なタイプを使用することで、保水シートに根が侵入することを防止できる。これによって防根シートを不要にできる。
(灌水チューブ15)
【0036】
灌水チューブ15は、底面給液型植物育成装置内に水又は液肥を供給するための培養液供給経路であり、管状若しくは樋状に形成される。灌水チューブ15は一端を水源又は液肥供給装置に接続し、他端を水槽10内に導入して、側面に水又は液肥の供給口16を一定間隔で開口し、ここから保水シート12に水又は液肥を供給する。これにより、複数の水槽10を隣接した状態で、一本の灌水チューブ15で各水槽10を縦断するように配置し、各々の水又は液肥の供給口16から給水や散水を行える。また、一つの水槽に複数の灌水チューブを導入して、複数箇所から給水することも可能であり、これによって水槽内により均一に給水することができる。あるいは水又は液肥の供給口は灌水チューブの開口端として、各水槽毎に灌水チューブを延長して配置してもよい。なお、水と液肥を混合して、あるいは個別に供給することも可能であることはいうまでもない。また水と液肥を供給するタンクやチューブを個別に設けることもできる。
(実施の形態2)
【0037】
水槽には、貯水樋を付加することもできる。図2に、本発明の実施の形態2として、貯水樋38を付加した底面給液型植物育成装置200を示す。貯水樋38は、灌水チューブ15から保水シート12に供給される水又は液肥が水槽30から溢れた分を保持する。図2に示す貯水樋38は、上方を開口した断面円弧状で、開口部に水を蓄えることができる。ただ、貯水樋の形状はこの形状に限られず、断面コ字状やV字状、多角形状等とすることもできる。また図2の例では、水槽30の外側周囲に貯水樋38を設けているが、水槽の内部に貯水樋を形成することもできる。また貯水樋は、水槽と別部材に形成する他、これと一体に形成することもできる。図2の例では、貯水樋38は水槽30の両面に備えられ、灌水チューブ15から給液した水又は液肥を溜める。溜まった水又は液肥は、育苗床の底面に敷いた保水シート12の毛管水現象で、育苗床の保水シート12の水又は液肥が減少すると貯水樋38から補給されるという閉鎖型底面給液育苗が実現される。
【0038】
さらに、保水シート12の一部が貯水樋38で蓄えられる水又は液肥と接触するように構成して、保水シート12で貯水樋38内の水又は液肥を殺菌することもできる。例えば保水シート12の大きさを、水槽の開口部よりも一回り大きくして、保水シート12の端縁が水槽からはみ出して貯水樋38内に垂れるようにしたり、あるいは保水シート12の一部を延長して貯水樋38まで届くように形成することもできる。これにより、保水シート12で保水シートに含有される水又は液肥のみならず、貯水樋38内の水又は液肥も殺菌して、病害の発生をより効果的に抑止できる効果が得られる。
(実施例1)
【0039】
次に実施例1として、図1の底面給液型植物育成装置100を使用してトマトの栽培を行い、同時に比較例1として従来の抗菌性を有しない保水シートを使用して同様にトマトの栽培を行い、病原菌を接種して病害の感染を調査した。これらの結果を対比して説明する。トマトの品種「桃太郎」を2004年7月1日に播種し、子葉展開時に培地Bに移植し、底面給液を行った。培地Bには、縦、横、厚さがそれぞれ5cmのロックウールキューブを使用した。ここでは、同一の水槽10内に比較例1として従来より花のポット栽培用の底面給液資材として使用されている保水シート(商品名ラブマットU)を使用した領域と、実施例1として、銀イオンをキレートさせたアクリロニトリル系繊維が30%混入した銀担持抗菌性不織布を保水シート12に使用した領域とを設けた。これらを各々水槽10内に敷き詰め、液肥を供給し、底面給液を行った。供給した液肥は、大塚A処方培養液を1/2濃度とし、1日に4〜5回灌水チューブ15で培地Bの底面からかけ流しで供給した。そして本葉4枚時(2004年7月20日)に、水媒性病原菌として青枯れ病菌を、各領域毎に20株中2株に接種し、残り18株について褐変した株の数や発病度、、気根発生株数、気根発生度、青枯れ病の菌が噴出した菌泥噴出株の数等を調べ、病害の感染を調査した。この結果を表1に示す。なおこの表において、発病度は(Σ(程度別褐変株数×発病指数)×100)÷(総調査株数×4)で演算し、上式において発病指数は0〜4の5段階で評価し、0(維管束の褐変なし)、1(1/4未満が褐変)、2(1/4以上1/2未満が褐変)、3(1/2以上3/4未満が褐変)、4(3/4以上が褐変)とした。さらに気根発生度は(Σ(程度別気根発生株数×気根発生指数)×100)÷(総調査株数×4)で演算し、この式において気根発生指数は0〜4の5段階で評価し、0(発生無し)、1(1〜3本発生)、2(4〜8本発生)、3(8〜15本発生)、4(16本以上発生)とした。
【0040】
【表1】

【0041】
以上のように、実施例1及び比較例1で、トマトの底面養液育苗における底面給液で使用した保水シートの相違が青枯れ病発生に及ぼす影響を調べたところ、全株とも萎れる株はみられなかったが、気根の発生が比較例1領域で多く、その程度も顕著であった。また育苗終了時の調査では、比較例1領域で18株中6株に導管の褐変が見られたのに対し、実施例1領域では見られなかった。また、青枯れ病の菌の噴出も、表1に示すように比較例1領域では半分近くの株で確認されたが、実施例1領域では検出されなかった。
【0042】
以上の結果から、萎れるまでの症状はなかったが、比較例1領域では確実に青枯れ病が蔓延したのに対し、実施例1では保水シート12に銀担持抗菌性不織布を用いることにより、青枯れ病の蔓延は完全に回避できた。
(実施例2)
【0043】
また実施例2として、図2の底面給液型植物育成装置200を使用してトマトの栽培を行い、同時に比較例2として従来の抗菌性を有しない保水シートを使用して、実施例1と同様にトマトの栽培を行った。トマトの品種「桃太郎」を2004年8月2日に播種し、子葉展開時に培地Bとして縦、横、厚さ5cmのロックウールキューブに移植し、液肥の底面給液を行った。また水槽30は、図2に示すように育苗床の両端に貯水樋38を付加しており、給液した液肥を溜めて保水シートの毛管水現象で閉鎖型底面給液育苗とした。実施例2と比較例2は、実施例1と同様に領域毎に区画分けし、保水シートをそれぞれ銀担持抗菌性不織布と従来の保水シートとを使用した。培養液の種類は実施例1と同様であるが、閉鎖型底面給液育苗であることに鑑みて供給回数は1日に2回とした。本葉5枚時(2004年8月31日)に青枯れ病菌を各領域毎に20株中2株に接種し、残り18株につき病害の感染を調査した。この結果を表2に示す。なお表2において、発病度={Σ(発病程度別株数×発病指数)×100}÷(総調査株数×4)とし、上式において発病指数は0〜4の5段階評価とし、0(しおれ無し)、1(本葉1〜2枚がしおれ)、2(本葉の半分以上がしおれ)、3(株全体がしおれ)、4(枯死)とした。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例2では、実施例1と異なり、給液した液肥がかけ捨てられないことから、病原菌密度が高く推移し易くなる結果、青枯れ病に感染し萎れ、枯死株が多く見られた。表2に示すように、比較例2領域で早くから萎れ症状が見られ、最終的には全ての株が発病したのに対し、実施例2領域では発病が遅くなり、発病する株も40%程度と比較例2領域より少なかった。また、発病程度は比較例2領域では86.3となり、ほとんどの株で枯死したが、実施例2領域では17.5となり、やや萎れる程度と軽かった。以上の結果から、かけ捨てとせず排液を出さない閉鎖型底面育苗でも、銀担持抗菌性不織布を保水シート12に利用することにより、病害抑制効果が発揮された。
【0046】
このように、光触媒抗菌性不織布は、従来の底面給水マットと同様に水や液肥を保持し、底面から効率的に植物の根に供給すると共に抗菌性を有しているため、底面給液で問題となる水媒性病害の蔓延を防ぐことができる。光触媒抗菌性不織布に太陽光が照射されることにより、アクリロニトリル系繊維に結合した銀が光触媒活性を生じ、病原菌の繁殖を抑える。また、アクリロニトリル繊維に結合した銀に直接病原菌が接触することによる殺菌効果も得られる。さらにこの光触媒抗菌性不織布は銀が溶出し殺菌するタイプではないため、溶出量が少なく継続的な殺菌効果を発揮し、環境への配慮の面でも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の底面給液型植物育成装置は、トマトやキュウリ等の野菜や苺等の果物といった底面給液で育成可能な植物の種苗育成に好適に利用できる。また本発明は養液育苗に限らず、鉢花栽培やその他の育苗にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1に係る底面給液型植物育成装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る底面給液型植物育成装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0049】
100、200…底面給液型植物育成装置
10、30…水槽
12…保水シート
14…防根シート
15…灌水チューブ
16…水又は液肥の供給口
38…貯水樋
B…培地
L…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面を略平面状とし、少なくとも上方を開口して水又は液肥を溜めることが可能な水槽と、
前記水槽内の底面に略一様に配置される、保水性を有する平面状の保水シートであって、上面を植物が栽植される培地を載置するための載置面として底面給液を実現するための保水シートと、
前記水槽内まで導入され、前記保水シートに対して水又は液肥を供給する水又は液肥の供給口を開口した管状若しくは樋状の灌水チューブと、
を備える底面給液型植物育成装置であって、
前記保水シートが、光照射により抗菌性を発揮可能な光触媒を構成する抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維よりなることを特徴とする底面給液型植物育成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の底面給液型植物育成装置であって、
前記アクリロニトリル系繊維が、抗菌活性金属化合物でキレート処理されてなることを特徴とする底面給液型植物育成装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の底面給液型植物育成装置であって、
前記保水シートが、繊維を立体的に集合して、繊維の間に液体を保水できる空隙を設けてなり、該繊維が、抗菌活性金属化合物を含有するアクリロニトリル系繊維を、pH1〜6の範囲内で熱処理をしてなる光触媒活性を有する抗菌性アクリロニトリル系繊維を含むことを特徴とする底面給液型植物育成装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の底面給液型植物育成装置であって、
前記保水シートが、アクリロニトリル系繊維の一部のニトリル基をスルホン酸基に置換し、銀イオンをキレートさせたアクリロニトリル系繊維を10〜90%の割合で混合した銀担持抗菌性不織布であることを特徴とする底面給液型植物育成装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の底面給液型植物育成装置であって、さらに、
前記水槽の周囲に沿って配置され、上面を開口して貯水可能とした貯水樋を備え、
前記灌水チューブで供給した水又は液肥が前記貯水樋で蓄えられ、この水又は液肥が前記水槽の底面に敷いた前記保水シートの毛管水現象で、前記保水シートの水又は液肥が減少すると前記貯水樋から補給されるよう構成されてなり、
さらに前記保水シートの一部が、前記貯水樋内まで延長されて配置されてなることを特徴とする底面給液型植物育成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−320281(P2006−320281A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148237(P2005−148237)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、農林水産省、先端技術を活用した農林水産研究高度化委託事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000116404)阿波製紙株式会社 (19)
【Fターム(参考)】