説明

廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクからの難燃性ポリカーボネート樹脂組成物及び射出成形体

【課題】回収ポリカーボネート樹脂を用いても高度な難燃性や耐衝撃性を得ることができ、かつ、有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも含有しないポリカーボネート系樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を成形してなる射出成形体の提供。
【解決手段】(A);(A−1)ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクに対し、〔I〕粉砕工程、〔II〕化学処理による不純物除去工程、〔III〕異物除去工程、及び〔IV〕異物検知工程の工程を行うことにより得られる回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下、鉄の含有量が1ppm以下、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm以下である回収ポリカーボネート樹脂5〜95質量%、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体95〜5質量%、及び(A−3)該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂0〜90質量%からなるポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、(B)ポリフルオロオレフィン樹脂0.01〜5質量部を添加してなるポリカーボネート系樹脂組成物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未使用又は使用済みの回収光ディスク又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクから回収されたポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート系樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃特性、耐熱性、電気的特性等により、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器、家庭電化機器等の電気・電子機器、自動車分野、建築分野等様々な分野において幅広く利用されている。
ポリカーボネート樹脂の難燃性を向上する方法として、ハロゲン化ビスフェノールA、ハロゲン化ポリカーボネートオリゴマー等のハロゲン系難燃剤が難燃剤効率の点から酸化アンチモン等の難燃助剤とともに用いられてきたが、安全性、廃棄・焼却時の環境への影響の観点から、ハロゲンを含まない難燃剤による難燃化方法が市場より求められている。
ハロゲンを含まない難燃剤として、有機リン系難燃剤、特に有機リン酸エステル化合物を配合したポリカーボネート樹脂組成物は優れた難燃性を示すとともに、可塑剤としての作用もあり、多くの方法が提案されている。しかし、リン酸エステル化合物を比較的多量に配合する必要があることに加えて、成形品の薄肉化、大型化に対応するために、ますます成形温度が高くなる傾向にあるため、リン酸エステル化合物が成形加工時の金型腐食、ガスの発生等、成形環境や成形品外観上に悪影響を与える場合も増えている。
また、成形品が加熱下や高温高湿度下に置かれた場合の、衝撃強度の低下、変色の発生等の問題点が指摘されている。特に、耐湿熱安定性が不十分であることから、リサイクル率を上げられない等の問題点を残している。
【0003】
ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(PC−POS共重合体)は、一般にビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂よりも高い難燃性を示すために、ハロゲン系難燃剤や有機リン系難燃剤を併用せずに、難燃性を高める際のポリカーボネート系樹脂のベース樹脂として使用される。例えば、ポリカーボネート系樹脂として、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体含有樹脂と、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとからなる難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物が知られている(特許文献1)。この組成物は、ポリオルガノシロキサンの含有率が少量かつ特定の範囲において優れた難燃性を示す。また、リン系難燃剤を使用しないため、該樹脂組成物の成形加工時の金型腐食や有害ガスの発生等が起こりにくい。更に、耐湿熱特性にも優れることから、使用後のリサイクル率を上げられるという利点がある。
【0004】
ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体をポリカーボネート系樹脂組成物のベースレジンとして使用する際には、ポリカーボネート系樹脂としての分子量やシロキサン含有率の調整を行う理由から、通常、上記ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のポリカーボネート樹脂を併用する。
近年、資源の再利用、環境保護の観点から、不用になった製品を回収し再利用する、いわゆるリサイクルの検討が盛んに行われている。そこで、このポリカーボネート樹脂として、廃棄品等から回収された回収ポリカーボネート樹脂を用いることが検討されている。
例えば、複写機のハウジング及び給紙用トレーから回収されたポリカーボネート樹脂を用いた樹脂組成物が知られている(特許文献2)。しかしながら、複写機のハウジングや給紙用トレーから回収された樹脂はポリカーボネート樹脂以外の成分を含むため、最終的な各成分の含有率の調整が困難であった。
【0005】
一方、光ディスク基板からポリカーボネート樹脂を回収し再生する方法が知られており(特許文献3)、この回収ポリカーボネート樹脂を該樹脂組成物に用いることも考えられる。この方法は、共通の製造方法・原料とするポリカーボネートディスクを判別し、これを粉砕して、所定の化学処理による不純物除去を行うことを特徴とする。
しかしながら、この方法で回収されるポリカーボネート樹脂は種々のレベルで不純物を含んでいるため、上記方法だけでは十分に金属異物や着色異物が除かれない可能性がある。また、製造工程中で混入する不純物が処理されずに残存する可能性もある。このような回収ポリカーボネート樹脂をポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体と併用しても、目的とする難燃性や耐衝撃性が得られない等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−81620号公報
【特許文献2】特開2005−8816号公報
【特許文献3】特開2007−276349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリカーボネート以外の成分含有量が極めて少ない回収ポリカーボネートを安定的に得ることができ、更に、使用後のリサイクル率を高められるポリカーボネート系樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる射出成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、機械的な異物除去工程と異物検知による原料中の異物含有確認工程を行うことによって不純物量を低減した回収ポリカーボネート樹脂と、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体とを用いた特定の組成物とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A);(A−1)ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクに対し、下記〔I〕〜〔IV〕の工程を行うことにより得られる回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm以下である回収ポリカーボネート樹脂5〜95質量%、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体95〜5質量%、及び(A−3)該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂0〜90質量%からなるポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、(B)ポリフルオロオレフィン樹脂0.01〜5質量部を添加してなり、有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも実質的に含まないことを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物、並びに該ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる射出成形体を提供するものである。
〔I〕廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕工程、
〔II〕化学処理による不純物除去工程、
〔III〕異物除去工程;(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程、
〔IV〕異物検知工程;金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回収ポリカーボネート樹脂を原料とし、難燃性、機械的強度及び耐湿性の低下等が無く、利用した色等の使用範囲を限定されない、有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも実質的に含まないポリカーボネート系樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる射出成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の工程全体の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の工程〔III〕の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の工程〔III〕中の工程(b)の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の工程〔IV〕で使用する金属異物検知器の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の工程〔IV〕で使用する金属異物検知器の原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、(A);(A−1)ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクに対し、下記〔I〕〜〔IV〕の工程を行うことにより得られる回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm以下である回収ポリカーボネート樹脂5〜95質量%、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体95〜5質量%、及び(A−3)該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂0〜90質量%からなるポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、(B)ポリフルオロオレフィン樹脂0.01〜5質量部を添加してなり、有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも実質的に含まないことを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物、並びに該ポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる射出成形体に関するものである。
〔I〕廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕工程、
〔II〕化学処理による不純物除去工程、
〔III〕異物除去工程;(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程、
〔IV〕異物検知工程;金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
【0013】
初めに、(A−1)回収ポリカーボネート樹脂について説明する。
本発明において用いられる(A−1)回収ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクに対し、下記〔I〕〜〔IV〕の工程を行うことにより得られる回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm以下である回収ポリカーボネート樹脂である。
〔I〕廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕工程、
〔II〕化学処理による不純物除去工程、
〔III〕異物除去工程;(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程、
〔IV〕異物検知工程;金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
以下、(A−1)回収ポリカーボネート樹脂を得るための各工程について順に説明する。
【0014】
なお、図1は、本発明の工程全体の一例を示すフロー図、図2は、本発明の工程〔III〕の一例を示す模式図、図3は、本発明の工程〔III〕中の工程(b)の一例を示す模式図、図4は、本発明の工程〔IV〕で使用する金属異物検知器の一例を示す模式図、及び図5は、本発明の工程〔IV〕で使用する金属異物検知器の原理を示す模式図である。
【0015】
〔I〕廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕工程
廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクを粉砕する工程である。
粉砕する方法に特に制限はなく、廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕に用いられる公知の粉砕機、例えば一軸粉砕機、二軸粉砕機、三軸粉砕機、重粉砕機等を利用できる。
粉砕された粉砕処理物の平均粒径は、後の工程にて異物を効率良く除去する観点から、好ましくは3〜30mm、より好ましくは5〜20mm、更に好ましくは10〜15mmである。3mm以上であると微粉が少なく、化学的処理時のロスが少なくなる。また、30mm以下であると、次に示す化学的処理時の異物除去を十分に行うことができる。
【0016】
〔II〕化学処理による不純物除去工程
前記〔I〕粉砕工程で得られた粉砕処理物を化学処理することにより、粉砕処理物中の異物(ポリカーボネート樹脂ではないもので、主に記録膜又は色素膜由来の金属であるアルミニウム、テルル、アンチモン、銅等)を除去する工程である。
廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクには、そのポリカーボネート基板表面に反射層、保護層、記録層、印刷層等の異質層が設けられており、これらの異質層は、光学用ディスク原料として再生利用する際に異物となるので、該異物を化学処理により除去する。化学処理の方法に特に制限はないが、特許文献3の工程(c)中に記載の化学処理を用いることが好ましい。
化学処理としては、異物除去の効率の観点から、界面活性剤含有水溶液中で洗浄した後、アルカリ処理を行う方法が好ましい。粉砕工程で得られた粉砕処理物を界面活性剤含有水溶液で洗浄することにより、粉砕時の付着異物を除去することができる。
即ち、化学処理として、異物除去の効率の観点から、(i)界面活性剤含有水溶液で洗浄した後、(ii)アルカリ処理を行い、更に(iii)粉砕処理物を界面活性剤及び過酸化物の混合水溶液で洗浄することにより、粉砕処理物に再付着した色素や微小異物を除去し、最後に(iv)水洗及び乾燥を行うことが好ましい。
【0017】
(i)界面活性剤含有水溶液による洗浄
粉砕工程で得られた粉砕処理物を界面活性剤含有水溶液中で洗浄することで、粉砕時の付着異物を除去することができる。界面活性剤には、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤があるが、本発明においては、性能の観点から、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、性能の観点から、ポリエチレングリコールエーテル系界面活性剤が好ましく、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテル等が好ましい。また、アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
粉砕処理物を、界面活性剤含有水溶液を用いて洗浄する場合、異物除去の効果の観点から、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用するのが好ましい。
洗浄方法としては、界面活性剤含有水溶液中に粉砕処理物を入れ、攪拌する方法が好ましい。この場合、水溶液中の界面活性剤の濃度は、異物除去の効果及び経済性の観点から、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%である。
界面活性剤含有水溶液による洗浄の際の温度は、異物除去の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは50〜140℃、より好ましくは70〜110℃、更に好ましくは80〜100℃である。
界面活性剤含有水溶液を用いた洗浄は、界面活性剤の種類や洗浄温度を変える等して、2回以上行なってもよい。界面活性剤含有水溶液による洗浄の時間は、処理温度によっても異なるが、異物除去の効果及び経済性の観点から、通常、1回の処理当たり30〜100分が好ましく、40〜80分がより好ましく、2回以上処理する場合では、前記同様の観点から、合計40〜100分が好ましく、50〜90分がより好ましい。
【0018】
(ii)アルカリ処理
アルカリ処理には、アルカリ化合物含有水溶液(以下、アルカリ水溶液と称することがある。)を用いることが好ましい。アルカリ化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩等が挙げられる。
アルカリ水溶液のpHは、異物除去の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは10〜12である。また、アルカリ水溶液の濃度としては、異物除去の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜10質量%である
アルカリ水溶液による洗浄の際の温度は、異物除去の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは100〜140℃、より好ましくは105〜130℃である。
アルカリ処理は、異物をより多く除去するために、濃度の異なるアルカリ水溶液を用いたり、処理の際の温度を変える等して、2回以上行ってもよい。
アルカリ処理の処理時間は、処理温度によっても異なるが、異物除去の効果及び経済性の観点から、通常、1回の処理当たり15〜60分が好ましく、20〜40分がより好ましく、2回以上処理する場合では、合計20〜100分が好ましく、合計20〜70分がより好ましい。
【0019】
(iii)界面活性剤及び過酸化物の混合水溶液による洗浄
更に、化学処理としては、前記アルカリ処理の後、アルカリ水溶液中に除去されたが粉砕処理物に再付着した色素や微小異物を除去する観点から、界面活性剤及び過酸化物の混合水溶液(以下、単に混合水溶液と称する)中で、粉砕処理物を洗浄することが好ましい。
界面活性剤としては、前記と同様のものを使用することができる。異物除去の効果の観点から、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用するのが好ましい。混合水溶液中の界面活性剤の濃度は、異物除去の効果及び経済性の観点から、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
過酸化物としては、−O−O−結合を有する酸化物や多価原子価を持つ金属の過酸化物等が挙げられ、過酸化水素及びその塩、オゾン、過硫酸及びその塩等が好ましい。混合水溶液のpHは、洗浄処理の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは2〜5である。混合水溶液中の過酸化物の濃度は、異物除去の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜10質量%である。
また、上記混合水溶液で洗浄する際の温度は、異物除去の効果及びポリカーボネート樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは65〜95℃、より好ましくは80〜90℃である。処理時間については処理温度によっても異なるが、異物除去の効果及び経済性の観点から、通常、1回の処理当たり、好ましくは15〜60分、より好ましくは20〜50分である。
【0020】
(iv)水洗及び乾燥
上記(i)〜(iii)工程の後は、得られた処理物に付着した洗浄液を洗い流すため、十分に水洗することが好ましい。
また、水洗した後、上記処理物を十分に乾燥することが好ましい。乾燥する方法としては、自然乾燥や減圧乾燥でもよいが、加温して乾燥することが好ましい。加温して乾燥する場合、その温度は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは70〜90℃である。乾燥する時間に特に制限はないが、加温して乾燥する場合には、好ましくは1〜10時間、より好ましくは3〜7時間である。
【0021】
〔III〕異物除去工程
工程〔III〕は、〔II〕化学処理による不純物除去工程を経て得られた化学処理物(以下、単に「化学処理物」と称する)に対して、(a)磁石を用いることにより磁性金属異物(主に、鉄)を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程を有する工程である。
<工程(a)>
磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程(a)で用いる磁石の磁束密度としては、好ましくは10,000ガウス以上であり、磁性金属異物の除去効果及び磁石の費用の観点から、より好ましくは10,000〜20,000ガウス、更に好ましくは11,000〜13,000ガウスである。磁石は、1つでもよいが、磁性金属異物除去の効果の観点から、2つ又は3つ以上使用することが好ましい。また、磁石の大きさや形状に特に制限はないが、磁性金属異物の除去効果の観点から、化学処理物を供給するシューター等の幅方向の長さの好ましくは110%以上(より好ましくは120%以上)の長さを有する棒状(円柱、四角柱等の柱体)のものが好ましい。
磁石によって化学処理物中の磁性金属異物を除去する方法に特に制限はないが、例えば、図2に示すように、ベルトコンベア(4’)を好ましくは5〜15kg/分、より好ましくは6〜12kg/分、更に好ましくは8〜10kg/分で化学処理物を搬送し、該化学処理物から好ましくは0.3〜2.5cm、より好ましくは0.3〜1.5cm、更に好ましくは0.3〜0.8cm離れた位置に磁石を固定する方法が挙げられる。
なお、磁性金属異物は主に鉄であるが、鉄以外のコバルト、ニッケル等の磁性金属異物が含まれる場合は、これらの磁性金属異物も同時に除去することができる。
【0022】
<工程(b)>
光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程(b)は、前記工程(a)の前に実施してもよいし、後に実施してもよい。図2に示すように前記工程(a)の後に工程(b)を行うと、工程(a)で磁石(3)についた金属異物を取り除く作業中に混入する異物の除去を工程(b)で併せて行うことができるため好ましい。また、工程(b)は工程(a)の前後で実施してもよい。
図2に示すように、工程(a)を経た処理物をベルトコンベア(4’)により移送し、ベルトコンベアの端にて該処理物を飛ばし、図3に示すように、飛ばされた該処理物を光学カメラ(5)の前を通過させることにより工程(b)を実施することが好ましい。ベルトコンベアによる、工程(a)を経た処理物の移動速度は、該処理物をベルトコンベアから十分に飛ばす観点及び光学カメラによる着色異物の検知精度の観点から、好ましくは50〜150m/分、より好ましくは80〜120m/分である。
工程(b)で使用する光学カメラとしては、CCDカメラが好ましい。光学カメラは、着色異物除去の効率の観点から、2つ又は3つ以上使用することが好ましく、図3に示すように、少なくとも2つの光学カメラ(5)を、飛ばされた該処理物の上下を挟み込むように設置することがより好ましい。
【0023】
図3に示すように、飛ばされた該処理物は光学カメラ(5)で検査され、コントロールユニット(10)によって着色異物と判断された該処理物は、イジェクター(12)から吹き付けられる空気流(着色異物を十分に除去する観点及び着色異物ではない該処理物の除去を抑制する観点から、好ましくは風圧0.2〜0.6MPa、より好ましくは0.3〜0.5MPa)によって吹き飛ばして除去される。この際、着色異物の周囲にある処理物も併せて除去され得る。
工程(b)を実施するには、例えば3CCDカメラ色彩選別機等の3CCDカメラ異物選別機を用いることが簡便であり好ましい。
ここで、図3について簡単に説明する。ベルトコンベア(8)により移送された、工程(a)を経た処理物は、ベルトコンベア(8)から飛ばされ、3CCDカメラ用照明で照らされながらバックパネル(11)越しにCCDカメラに映されて検査される。コントロールユニット(10)にて着色異物か否かが判断され、着色異物と判断された場合には、イジェクター(12)により空気流で吹き飛ばされ、除去物取り出し口(14)へ落とされる。一方、着色異物と判断されなかった該処理物(ポリカーボネート樹脂)は、製品取り出し口(13)から取り出される。
【0024】
工程〔III〕で得られたポリカーボネート樹脂中の異物は、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下、鉄の含有量が1ppm以下、その他の金属であって、光ディスクの記録膜又は色素膜由来の金属(例えばアルミニウム、テルル、アンチモン、銅等)の含有量が0.1ppm以下にまで低減されていることが好ましいが、現実的には、工程〔III〕のみでは必ずしも前記条件を満たさないことがある。そこで、本発明では、極めて純度の高いポリカーボネート樹脂を得るために、後述する工程〔IV〕も行う。
なお、本明細書において、「ppm」は、特に断りのない限り、質量ppmを表す。
【0025】
〔IV〕異物検知工程
工程〔IV〕は、金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程である。工程〔IV〕では、工程〔III〕までに除去し損ねたわずかな金属異物を取り除くことが可能であるため、工程〔III〕の後に行うことが好ましい。
工程〔IV〕では、図4に示すように、工程〔III〕で得られたポリカーボネート樹脂を搬送ベルトで金属異物検知器へ搬送し、連続的に金属異物の有無を検知することが好ましい。金属異物は、好ましくは磁力線によって検出される。図5に示すように、磁性金属の場合は、金属異物検知器の通過時に金属が磁化し、磁力線が金属にひきつけられることにより検出され、一方、非磁性金属の場合は、金属異物検知器の通過時にうず電流が発生し、磁力線が熱エネルギーとして消費されることによって検出される。
金属異物検知器は、ポリカーボネート樹脂中に0.1質量ppm程度含有する金属異物を検知できるものであることが好ましい。
なお、金属異物の検知精度及び処理速度の観点から、搬送ベルトの搬送速度は、好ましくは40〜100m/分、より好ましくは50〜80m/分であり、搬送ベルト上のポリカーボネート樹脂の量は、好ましくは0.05〜0.3kg/m、より好ましくは0.1〜0.2kg/mである。
金属異物検知器により金属異物を検知した場合、生産性の観点から、検知した金属異物周辺(検知箇所を中心として、好ましくは前後100cm以内、より好ましくは前後50cm以内)のポリカーボネート樹脂を一緒に除去(例えば廃棄)する。製造工程上、金属異物周辺のみを除去することが困難な場合には、金属異物が検知されたポリカーボネート樹脂を含む製品袋を除去(例えば廃棄)してもよい。
工程〔IV〕を実施するには、例えば「スーパーメポリIII」(アンリツ株式会社製)等の金属異物検出器を用いることが簡便であり好ましい。
【0026】
化学処理による不純物除去工程〔II〕を経て得られた化学処理物を、連続的に工程〔III〕へ供給し、工程〔III〕及び工程〔IV〕をそれぞれ連続的に実施すると、ポリカーボネート樹脂の回収を連続的に実施することができ、工業的に好ましい。
【0027】
上記〔I〕〜〔IV〕の工程を経て、(A−1)回収ポリカーボネート樹脂が得られる。(A−1)回収ポリカーボネート樹脂中の異物は、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の各金属(例えばアルミニウム、テルル、アンチモン、銅等)の含有量がいずれも0.1ppm以下である。これよりも残留金属量が多い(A−1)回収ポリカーボネート樹脂を使用すると、衝撃強度や難燃性、湿熱特性が低下する。
【0028】
次に、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体について説明する。
(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体は、回収品でないポリカーボネート樹脂からなるポリカーボネート部と、ポリオルガノシロキサン部とからなるものであり、例えば、予め製造されたポリカーボネート部を構成するポリカーボネートオリゴマーと、ポリオルガノシロキサン部(セグメント)を構成する末端にo−アリルフェノール残基、p−ヒドロキシスチレン残基、オイゲノール残基等の反応性基を有するポリオルガノシロキサンとを、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等の溶媒に溶解させ、二価フェノールの苛性アルカリ水溶液を加え、触媒として、第三級アミン(トリエチルアミン等)や第四級アンモニウム塩(トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等)を用い、末端停止剤の存在下、界面重縮合反応することにより製造することができる。
(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造に使用されるポリカーボネートオリゴマーは、例えば塩化メチレン等の溶媒中で、前述の二価フェノールとホスゲン等のカーボネート前駆体とを反応させることにより、又は二価フェノールと炭酸エステル化合物、例えばジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とを反応させることによって容易に製造することができる。
また、炭酸エステル化合物としては、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートを挙げることができる。
【0029】
(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の製造に供されるポリカーボネートオリゴマーは、前述の二価フェノール一種を用いたホモオリゴマーであってもよく、又二種以上を用いたコオリゴマーであってもよい。更に、多官能性芳香族化合物を上記二価フェノールと併用して得られる熱可塑性ランダム分岐オリゴマーであってもよい。
その場合、分岐剤(多官能性芳香族化合物)として、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、1−[α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α’,α’−ビス(4’’−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等を使用することができる。
この(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体は、例えば、特開平3−292359号公報、特開平4−202465号公報、特開平8−81620号公報、特開平8−302178号公報及び特開平10−7897号公報等に開示されている。
【0030】
(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体におけるポリオルガノシロキサン部としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等からなるセグメントが好ましく、ポリジメチルシロキサンセグメントが特に好ましい。
【0031】
本発明に用いる(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体としては、ポリオルガノシロキサン部の重合度が、好ましくは10〜1,000程度、より好ましくは20〜500程度、更に好ましくは20〜300程度のものが好適である。
更に、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の粘度平均分子量(Mv)は、通常12,000〜100,000、好ましくは14,000〜50,000、特に好ましくは15,000〜30,000である。
この粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出するものである。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
【0032】
次に、(A−3)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂について説明する。
(A−3)バージンの芳香族ポリカーボネート樹脂は、(A−2)以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂であり、また、回収品ではない芳香族ポリカーボネート樹脂を指す。その製造方法に特に制限はなく、従来の各種方法により製造されたものを用いることができる。例えば、二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法(界面重縮合法)又は溶融法(エステル交換法)により製造されたもの、すなわち、末端停止剤の存在下に、二価フェノールとホスゲンを反応させる界面重縮合法、又は末端停止剤の存在下に、二価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換法等により反応させて製造されたものを用いることができる。
二価フェノールとしては、様々なものを挙げることができるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。この他、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることもできる。これらは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系のものが好ましく、特にビスフェノールAが好適である。
【0033】
一方、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホルメート等であり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等である。
なお、(A−3)バージン芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸及びイサチンビス(o−クレゾール)等がある。
本発明において、(A−3)バージン芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常10,000〜50,000、好ましくは13,000〜35,000、更に好ましくは15,000〜30,000である。これらの粘度平均分子量(Mv)は、前記の(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体と同様に求めることができる。
【0034】
(A−3)バージン芳香族ポリカーボネート樹脂には、分子末端基として分子量調節剤が使用される。分子量調節剤としては、通常、ポリカーボネート樹脂の重合に用いられるものであればよく、各種の一価フェノールを用いることができる。具体的には、例えば、フェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、ノニルフェノール等が挙げられる。
【0035】
また、(A−3)バージン芳香族ポリカーボネート樹脂としては、必要に応じてバージン芳香族ポリカーボネート樹脂を二種以上併用することができる。
【0036】
上記(A−1)回収ポリカーボネート樹脂、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体、及び(A−3)該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂からなる(A)ポリカーボネート系樹脂混合物において、ポリオルガノシロキサン含有による難燃性向上効果、及び回収ポリカーボネート樹脂の使用意義の観点から、(A−1)は5〜95質量%、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%であり、(A−2)は95〜5質量%、好ましくは90〜40質量%、より好ましくは80〜50質量%である。また、(A−3)は、0〜90質量%、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜30質量%である。
【0037】
また、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物において、ポリオルガノシロキサン含有率は、得られるポリカーボネート系樹脂組成物に対する難燃性付与効果、耐衝撃性付与効果、及び経済性のバランス等の観点から、0.4〜10質量%、好ましくは0.4〜8質量%、より好ましくは0.8〜6質量%である。
(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体として、ポリオルガノシロキサン成分が10質量%を超える高含有率のものも使用することができるが、樹脂組成物の難燃性付与の観点から、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物中のポリオルガノシロキサン含有率が10質量%以下となるように(A−1)及び(A−3)の使用量を調整することが望ましい。
また、ポリオルガノシロキサン成分が低含有率(例えば1質量%未満)の(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を使用する場合は、樹脂組成物の難燃性付与の観点から、(A−1)及び(A−3)の使用量を少なくし、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物中のポリオルガノシロキサン含有率が0.4質量%以上となるように調整することが望ましい。
【0038】
また、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物の粘度平均分子量は、通常12,000〜100,000、好ましくは14,000〜50,000、更に好ましくは17,000〜30,000である。(A)ポリカーボネート系樹脂混合物の粘度平均分子量が上記範囲となるように、(A−1)、(A−2)及び(A−3)の使用量を調整することが望ましい。
【0039】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、更に(B)ポリフルオロオレフィン樹脂を含有してなる。(B)ポリフルオロオレフィン樹脂は、燃焼時の溶融滴下防止剤(ドリッピング防止剤)として添加される。
(B)ポリフルオロオレフィン樹脂の平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、より好ましくは500,000〜10,000,000である。本発明で用いることができるポリフルオロオレフィン樹脂としては、現在知られているすべての種類のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。
ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能力のあるものが好ましい。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンには特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。
その具体例としては、例えば、テフロン6−J(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)、ポリフロンD−1、ポリフロンF−103、ポリフロンF201(ダイキン工業株式会社製)及びCD076(旭硝子株式会社製)等が挙げられる。
【0040】
また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えば、アルゴフロンF5(モンテフルオス株式会社製)、ポリフロンMPA及びポリフロンFA−100(ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。これらのポリテトラフルオロエチレンは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンは、例えば、テトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、0.005〜1MPaの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得ることができる。
【0041】
(B)ポリフルオロオレフィン樹脂の添加量は、ドリッピング防止効果と、外観不良及び衝撃強度との兼ね合いの観点から、上記(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0042】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、更に、(C)非晶質スチレン系樹脂を添加することができる。本発明で使用する(C)非晶質スチレン系樹脂は、ポリカーボネートの成形加工性を改善する目的で使用されるものであり、スチレン、α−メチルスチレンなどのモノビニル系芳香族単量体20〜100質量%、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体0〜60質量%、およびこれらと共重合可能なマレイミド、(メタ)アクリル酸メチルなどの他のビニル系単量体0〜50質量%からなる単量体または単量体混合物を重合して得られる重合体がある。これらの重合体としては、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)などがある。
用いられる(C)非晶質スチレン系樹脂は、流動性と耐衝撃性の観点から、200℃、5kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が5〜150、好ましくは10〜130、より好ましくは15〜100のものが用いられる。
【0043】
また、(C)非晶質スチレン系樹脂としてはゴム変性スチレン系樹脂が好ましく利用できる。このゴム変性スチレン系樹脂としては、好ましくは、少なくともスチレン系単量体がゴムにグラフト重合した耐衝撃性スチレン系樹脂である。ゴム変性スチレン系樹脂としては、たとえば、ポリブタジエンなどのゴムにスチレンが重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したABS樹脂、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンが重合したMBS樹脂などがあり、ゴム変性スチレン系樹脂は、二種以上を併用することができるとともに、前記のゴム未変性であるスチレン系樹脂との混合物としても使用できる。
これらの中でゴム状重合体の存在下又は不存在下に重合したスチレンとアクリロニトリル及び/またはメタクリル酸メチルとの共重合体が、(C)非晶質スチレン系樹脂として、特に好ましく利用できる。これらの特に好ましいものを例示すれば、AS樹脂としては、290FF(テクノポリマー製)、S100N(UMG−ABS製)、PN−117C(奇美実業製)を挙げることができ、ABS樹脂としては、サンタックAT−05、SXH−330(以上、日本A&L製)、トヨラック500、700(東レ製)、PA−756(奇美実業製)を挙げることができる。
【0044】
上記ゴムの具体例としては、ポリブタジエン、アクリレートおよび/またはメタクリレートを含有するゴム質重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンゴム(SBS)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン・アクリルゴム、イソプレン・ゴム、イソプレン・スチレンゴム、イソプレン・アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴム等が挙げられる。このうち、特に好ましいものはポリブタジエンである。ここで用いるポリブタジエンは、低シスポリブタジエン(例えば1,2−ビニル結合を1〜30モル%、1,4−シス結合を30〜42モル%含有するもの)、高シスポリブタジエン(例えば1,2−ビニル結合を20モル%以下、1,4−シス結合を78モル%以上含有するもの)のいずれを用いてもよく、また、これらの混合物であってもよい。
【0045】
(C)非晶質スチレン系樹脂の添加量は、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して5〜30質量部程度、好ましくは7〜25質量部、より好ましくは10〜20質量部である。この範囲の添加量においては、耐熱性、難燃性、耐衝撃性等の他の物性を大きく損なうことなく、本発明の樹脂組成物の成形加工性を改善することができる。
【0046】
また、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、成形体の剛性、難燃性を向上させるために、更に(D)無機充填剤を添加することができる。
ここで、無機充填剤としては、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、珪藻土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムや、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の充填剤を挙げることができる。中でも、板状のタルク、マイカ、ワラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。タルクとしては、マグネシウムの含水ケイ酸塩であり、一般に市販されているものを用いることができる。
タルクには、主成分であるケイ酸と酸化マグネシウムの他に、微量の酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化鉄を含むことがあるが、本発明の樹脂組成物には、これらを含んでいても良い。また、タルク等の無機充填剤は平均粒径が0.1〜50μm程度、好ましくは、0.2〜20μm、より好ましくは3〜8μmである。
【0047】
上記(D)無機充填剤の添加量は、成形体の大きさ、質量、成形体の要求性状と成形性とを考慮して適宜決定することができるが、成形体の比重や衝撃強度等との兼ね合いから、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して1〜40質量部程度、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは5〜15質量部である。
【0048】
また、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、成形体の衝撃強度を向上させるために、更に(E)耐衝撃性向上剤を添加することができる。
この(E)耐衝撃性向上剤には、ゴム状弾性体が好適に用いられ、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン・アクリルゴム、イソプレン・スチレンゴム、イソプレン・アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、シロキサンゴム等が挙げられる。
このうち(E)耐衝撃性向上剤として、コア・シェル型のエラストマーを使用することが好ましい。コア・シェル型のエラストマーはコア(芯)とシェル(殻)から構成される2層構造を有しており、コア部分は軟質なゴム状態であって、その表面のシェル部分は硬質な樹脂状態であり、弾性体自体は粉末状(粒子状態)のものである。このゴム状弾性体は、ポリカーボネート樹脂と溶融ブレンドした後も、その粒子状態は、大部分がもとの形態を保っている。配合されたゴム状弾性体の大部分がもとの形態を保っていることにより、表層剥離を起こさない効果が得られる。
【0049】
このコア・シェル型のエラストマーとしては、種々なものを挙げることができる。市販のものとしては、例えばEXL2602、EXL2603、EXL2620、KM−330(ローム&ハース株式会社製)、メタブレンS2001、メタブレンS2006、メタブレンS2100、メタブレンC223A、メタブレンW450A(三菱レイヨン株式会社製)等が挙げられる。
これらの中で、例えば、アルキルアクリレートやアルキルメタクリレート、ジメチルシロキサンを主体とする単量体から得られるゴム状重合体の存在下に、ビニル系単量体の一種または二種以上を重合させて得られるものが挙げられる。
【0050】
ここで、アルキルアクリレートやアクリルメタクリレートとしては、C2〜C10アルキル基を有するものが好適である。具体的には、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルメタクリレート等が挙げられる。
これらのアルキルアクリレート類を主体とする単量体から得られるゴム状弾性体としては、アルキルアクリレート類70質量%以上と、これと共重合可能な他のビニル系単量体、例えばメチルメタクリレート、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン等30質量%以下とを反応させて得られる重合体が挙げられる。
なお、この場合、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能性単量体を架橋剤として適宜添加して反応させてもよい。
ゴム状重合体の存在下に反応させるビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらの単量体は、一種または二種以上を組み合わせて用いてもよいし、また、他のビニル系重合体、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物や、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物等と共重合させてもよい。
この重合反応は、例えば塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの各種方法によって行うことができる。特に、乳化重合法が好適である。
【0051】
上記(E)耐衝撃性向上剤の添加量は、目的の成形体に要求される耐衝撃性、耐熱性、剛性等を総合的に考慮して決定されるが、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部、更に好ましくは1〜7質量部である。この範囲の添加量においては、難燃性を低下させずに耐衝撃性を改善することができる。
【0052】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、上記(C)〜(E)成分の他に、更に酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の一般的な添加剤を添加することができる。
【0053】
また、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも実質的に含まない。このため、該樹脂組成物の成形加工時の金型腐食や有害ガスの発生等が起こりにくい。更に、耐湿熱特性にも優れることから、使用後のリサイクル率を上げられるという利点がある。
【0054】
次に、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、前記の各成分、(A)[(A−1),(A−2),必要に応じて用いられる(A−3)]、及び(B)を上記割合で、更に必要に応じて用いられる各種任意成分(C)〜(E)、更には他の一般的な添加剤等を適当な割合で配合し、混練することにより得られる。
このときの配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。
混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。
尚、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物以外の含有成分は、予め、(A)ポリカーボネート系樹脂混合物と溶融混練、即ち、マスターバッチとして添加することもできる。
【0055】
また、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、上記溶融混練方法によりペレット状の組成物成形原料とし、ついで、このペレットを用いた、射出成形、射出圧縮成形による射出成形体の製造に好適に用いることができる。なお、射出成形方法としては、外観のヒケ防止のため、あるいは軽量化のためのガス注入成形を採用することもできる。
【0056】
本発明は、また、前述した本発明のポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる射出成形体をも提供する。上記のようにして得られた本発明の射出成形体は、回収ポリカーボネート樹脂を原料として用い、かつ有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも実質的に含有していなくても、難燃性や機械的強度、耐湿性が良好である。
【実施例】
【0057】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。本実施例において、「ppm」は、特に断りのない限り、質量ppmを表す。
なお、以下の製造例1〜4で得られた回収ポリカーボネート樹脂中の金属異物の含有量は、以下の方法によって測定した。また、回収ポリカーボネート樹脂の滞留熱安定性を、以下の方法によって評価した。
【0058】
(金属異物の含有量の測定方法)
回収PC−1〜PC−4のサンプル10gをプラチナ坩堝に計り取り、電気炉で炭化処理後、800℃に昇温して完全に灰化させた。
その後、塩酸に溶解し、金属類(Na、Fe、Al、Te、Sb、Cu)の残存量をICP(Inductively Coupled Plasma)分析(装置名:「IRIS Advantage」、JARRELL ASH社製)により測定した。
なお、Na、Feの含有量がいずれも0.2ppm以下であり、かつAl、Te、Sb、Cuの含有量がいずれも0.1ppm未満の回収ポリカーボネート樹脂を「良品」、そうでないものを「不良品」とした。
【0059】
(滞留熱安定性の評価方法−YIの測定−)
回収ポリカーボネート樹脂(良品及び不良品)を用いて、以下の条件で、成形機内滞留熱安定性の評価を行った。
成形機:「EC40N」(東芝機械株式会社製)
シリンダー温度:320℃、金型温度:80℃、
滞留時間:0、5、10、15、20分
安定して射出成形体が取れるようになった後、6ショット目から上記の滞留時間で滞留させた成形プレート(80×40×3mm)の色相を日本電色工業株式会社製の「SZ−Σ90」を用い、JIS K7105に準拠して、YI(イエローインデックス)を測定し、その変化量を滞留熱安定性の評価の指標とした。YIの変化量が少ないほど、滞留熱安定性に優れることを示す。
また、参考として、MD1500(光ディスク用ポリカーボネート樹脂、台化出光石油化学社製)の滞留熱安定性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
[回収ポリカーボネート樹脂の製造]
<製造例1> 回収ポリカーボネート樹脂1(回収PC−1)の製造
〔I〕廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕工程
光ディスク製造装置から回収され製品規格外となったポリカーボネート基板に異質層としてアルミニウムが蒸着されている円盤状の光ディスクを、ロータリー式の粉砕機にてスクリーン直径16mmにセットして粉砕した。粉砕物の平均粒径は12mmであった。
〔II〕化学処理による不純物除去工程
(i)界面活性剤含有水溶液による洗浄
次いで、界面活性剤として、ポリオキシエチレンジスルホン化フェニルエーテル(製品名:「エマルゲン(登録商標)A−500」、花王株式会社製)1質量%及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量%を含む混合水溶液中において、90℃で60分間撹拌した。
(ii)アルカリ処理
続いて、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、120℃で30分間撹拌処理した。更に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、120℃で30分間撹拌した。
(iii)界面活性剤及び過酸化物の混合水溶液による洗浄
続いて、ポリオキシエチレンジスルホン化フェニルエーテル(製品名:「エマルゲン(登録商標)A−500」、花王株式会社製)1質量%及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量%を含む水溶液中に、過酸化水素0.58質量%相当量を混合した混合水溶液中において、90℃で30分間撹拌した。
(iv)水洗及び乾燥
その後、純水で十分洗浄した後、80℃で5時間乾燥させ、化学処理物を得た。
【0061】
〔III〕異物除去工程
(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程
図2に示すように、得られた上記化学処理物を、速度9kg/分でシューターにて移送し、シューターから0.5cm離れたところに、シューターの幅方向の長さより長い12,000ガウスの磁石2本を15cm間隔で設置することにより、磁性金属異物が含まれている化学処理物を磁石に付着させて除去した。
(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程
次いで、上記工程(a)を経て得られた処理物をベルトコンベアにより100m/分で搬送し、図3に示す仕組みの3CCDカメラ色彩選別機を用いて、該処理物中の着色異物を検知し、イジェクターにより風圧0.4MPaで吹き飛ばして除去した。これによりポリカーボネート樹脂を得た。
【0062】
〔IV〕異物検知工程
図4に示すような金属異物検出器(製品名:「スーパーメポリIII」、アンリツ株式会社製)を用いた。搬送速度60m/分で動く搬送ベルト上に、工程〔III〕を経て得られた上記ポリカーボネート樹脂が0.15kg/mとなるように乗せて搬送し、金属異物が検出されたポリカーボネート樹脂が含まれる製品袋は廃棄し、純度の高い回収ポリカーボネート樹脂(回収PC−1)を得た。該回収PC−1を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0063】
<製造例2> 回収ポリカーボネート樹脂2(回収PC−2)の製造
製造例1において、上記工程〔III〕及び〔IV〕をいずれも行わなかったこと以外は同様にして、回収ポリカーボネート樹脂(回収PC−2)を得た。該回収PC−2を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0064】
<製造例3> 回収ポリカーボネート樹脂3(回収PC−3)の製造
製造例1において、工程〔III〕を行わなかったこと以外は同様にして、回収ポリカーボネート樹脂(回収PC−3)を得た。該回収PC−3を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0065】
<製造例4> 回収ポリカーボネート樹脂4(回収PC−4)の製造
製造例1において、工程〔IV〕を行わなかったこと以外は同様にして、回収ポリカーボネート樹脂(回収PC−4)を得た。該回収PC−4を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表1及び表2より、本発明に記載の方法に従って回収した製造例1のポリカーボネート樹脂は、常に、ナトリウム及び鉄の含有量がいずれも0.2ppmであり、かつアルミニウム、テルル、アンチモン、銅の含有量が、いずれも0.1ppm未満となっており、非常に純度が高く、成形機内における滞留によって黄変し難い、つまり滞留熱安定性に優れていることが分かる。
一方、製造例2〜4で得られた回収ポリカーボネート樹脂は、サンプルの1/4が、ナトリウムや鉄の含有量がそれぞれ1.7ppm以上であり、アルミニウム、テルル、アンチモン、銅の含有量が、いずれも0.2ppm以上であることから、純度の低い回収ポリカーボネート樹脂が混入しており、該ポリカーボネート樹脂は滞留熱安定性に乏しいことが分かる。
【0069】
<実施例1〜12、参考例、比較例1〜7>
樹脂組成物に使用した原料を以下に示す。
(A−1)回収ポリカーボネート樹脂
実施例では製造例1で得られた回収PC−1、比較例では製造例2〜4で得られた回収PC−2(不良品)、回収PC−3(不良品)、回収PC−4(不良品)を使用した。
(A−2)バ−ジンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体
下記のポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を使用した。
PC−PDMS−1 :
ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体 : FC1700[出光興産(株)製、粘度平均分子量=17,800、ポリジメチルシロキサン(PDMS)部の重合度=40、PDMS含有率=3.5質量%]
PC−PDMS−2 :
下記の製造例5により得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体[粘度平均分子量=17,300、ポリジメチルシロキサン(PDMS)部の重合度=90、PDMS含有率=6.6質量%]
【0070】
[ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の製造]
<製造例5>
(ポリカーボネートオリゴマー合成工程)
5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に後から溶解するビスフェノールA(BPA)に対して2,000ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにビスフェノールA濃度が13.5質量%になるようにビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
このビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液40L(以下、Lはリットルの省略である。)/hr、塩化メチレン15L/hrの流量で、ホスゲンを4.0kg/hrの流量で内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器を出た反応液は後退翼を備えた内容積40Lのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここに更にビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液2.8L/hr、25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.07L/hr、水17L/hr、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64L/hrを添加して反応を行った。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度318g/L、クロロホーメート基濃度0.75mol/Lであった。
【0071】
(ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の製造)
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50L槽型反応器に上記で製造したポリカーボネートオリゴマー溶液15L、塩化メチレン9.0L、ジメチルシロキサン単位の繰り返し数が90であるo−アリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサン(PDMS)396g及びトリエチルアミン8.8mLを仕込み、攪拌下で、6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液1389gを加え、10分間、ポリカーボネートオリゴマーとo−アリルフェノール末端変性PDMSとを反応させた。
この重合液に、p−t−ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP140gを塩化メチレン2.0Lに溶解したもの)、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム577gと亜二チオン酸ナトリウム2.0gを水8.4Lに溶解した水溶液に、ビスフェノールA1012gを溶解させたもの)を添加し50分間重合反応を行った。
希釈のため塩化メチレン10Lを加え10分間攪拌した後、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体を含む有機相と過剰のビスフェノールA及び水酸化ナトリウムを含む水相に分離し、有機相を単離した。
こうして得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して順次、15容積%の0.03mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.2mol/L塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
洗浄により得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥した。
得られたポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体の核磁気共鳴(NMR)により求めたPDMS残基量(PDMS共重合量)は6.6質量%、ISO1628−4(1999)に準拠して測定した粘度数は46.7、粘度平均分子量Mv=17,300であった。
【0072】
(A−3)バージンの芳香族ポリカーボネート樹脂
PC−1 :
ビスフェノールAポリカーボネート : FN1700A[出光興産(株)製、粘度平均分子量Mv=17,000]
PC−2 :
ビスフェノールAポリカーボネート : FN2600A[出光興産(株)製、粘度平均分子量Mv=26,000]
(B)ポリフルオロオレフィン樹脂
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂) : CD076(旭硝子(株)製)
(C)非晶質スチレン系樹脂
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体 : AT−05[日本エイアンドエル(株)製、MFR=18g/10分(220℃、5kg荷重)]
アクリロニトリルスチレン共重合体 : 290FF[テクノポリマー(株)製、MFR=48.4g/10分(220℃、5kg荷重)]
(D)無機充填剤
タルク : TP−A25(富士タルク工業(株)製、平均粒子径:5μm)
(E)耐衝撃性向上剤
コアシェルタイプグラフトゴム状弾性体 : EXL2603(ロームアンドハースジャパン(株)製、コア:ブタジエン、シェル:メチルメタクリレート)
【0073】
また、全ての配合について以下の成分を添加した。
・酸化防止剤 :トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト 0.1質量部〔BASF製、イルガフォス168〕
・離形剤 :ペンタエリスリトールテトラステアレート 1.0質量部〔理研ビタミン(株)製、リケスターEW−440A〕
【0074】
上記成分を配合し、ベント式二軸押出機(機種名:TEM35、東芝機械(株)製)に供給し、280℃で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを120℃、5時間乾燥後、成形温度260℃(金型温度80℃)で射出成形して、評価用の試験片、成形サンプルを得た。
得られたサンプルを用いて、下記(1)〜(5)の試験を行った。配合量、及び評価結果を表3及び表4にまとめた。なお、表3及び表4において、(B)〜(E)成分は、(A);(A−1)〜(A−3)成分の合計100質量部に対する添加量(質量部)である。
(1)難燃性試験−UL燃焼試験
UL94に準拠して評価を行った(厚み1.5mm)。
(2)ペレットの流動性試験(MFR)
各実施例及び比較例で得られたペレットを280℃に加熱し、21.1N荷重で流動性(MFR)を測定した。
(3)耐衝撃性試験−アイゾット衝撃強度(ノッチ付き)
ASTM D256に準拠して測定した。
(4)異物数の評価
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、220℃に設定した圧縮成形機((株)北十字製、50トンプレス)で試料7gをプレスしてパンケーキを得た。このパンケーキの外観を観察し、0.2mm2以上の異物数をカウントした。
(5)耐湿性試験
各実施例及び比較例で得られたペレットを65℃、湿度85%の環境下に500時間置いた後の流動性を、上記(2)に準拠して測定した。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
表3及び表4より、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物はいずれも0.2mm2以上の異物が無く、耐湿性試験においても流動性の変化が非常に小さいことがわかる。また、比較例の該樹脂組成物よりも難燃性が優れている。また、表3の実施例1〜12は回収ポリカーボネート樹脂を使用し、表4の参考例はバージンポリカーボネート樹脂のみを使用したものであるが、実施例1〜4及び8における本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、難燃性、流動性が参考例と殆ど変わらず、また、アイゾット衝撃強度が同等以上であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、従来は非常に難しいとされてきた廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクから得られた回収ポリカーボネート樹脂を原料として、難燃性の低下や機械的強度の低下、耐湿性の低下等が無く、利用した色等の使用範囲を限定されず、更に、使用後のリサイクル率を高められるポリカーボネート系樹脂組成物及びそれを成形してなる射出成形体が得られる。
【符号の説明】
【0079】
1 異物が混入していない化学処理物
2 異物が混入した化学処理物
3 磁石
4 シューター
4’ ベルトコンベア
5 光学カメラ
6 光学カメラ用照明
7 ガラス
8 ベルトコンベア
9 エアーブロー/エアーカーテン
10 コントロールユニット
11 バックパネル
12 イジェクター
13 製品取り出し口
14 除去物取り出し口
15 投受光器(フォトセンサ)
16 搬送ベルト
17 コンベア
18 指示器
19 検出ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A);(A−1)ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクに対し、下記〔I〕〜〔IV〕の工程を行うことにより得られる回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm以下である回収ポリカーボネート樹脂5〜95質量%、(A−2)バージンのポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体95〜5質量%、及び(A−3)該ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体以外のバージン芳香族ポリカーボネート樹脂0〜90質量%からなるポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、(B)ポリフルオロオレフィン樹脂0.01〜5質量部を添加してなり、有機ハロゲン系難燃剤及び有機リン酸エステル系難燃剤のいずれをも実質的に含まないことを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物。
〔I〕廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕工程、
〔II〕化学処理による不純物除去工程、
〔III〕異物除去工程;(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程、
〔IV〕異物検知工程;金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
【請求項2】
(A)ポリカーボネート系樹脂混合物中のポリオルガノシロキサン含有率が、0.4〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体のポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、更に(C)非晶質スチレン系樹脂5〜30質量部を添加してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
(C)非晶質スチレン系樹脂が、ゴム状重合体の存在下又は不存在下に重合したスチレンとアクリロニトリル及び/又はメタクリル酸メチルとの共重合体であることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、更に(D)無機充填剤1〜40質量部を添加してなる請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項7】
(D)無機充填剤が、タルク、マイカ、ワラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維から選択されたものであることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項8】
(A)ポリカーボネート系樹脂混合物100質量部に対して、更に(E)耐衝撃性向上剤1〜15質量部を添加してなる請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項9】
(E)耐衝撃性向上剤が、コア・シェル型のエラストマーである請求項8に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる射出成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−25819(P2012−25819A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164262(P2010−164262)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(591056938)パナック工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】