説明

廃液処理装置

【課題】 微生物と固形物が混在する廃液の中の固形物をフィルターで除去し、かつ逆洗によりフィルターの目詰まりを解消できる廃液処理装置を提供する。
【解決手段】 本発明装置は、フィルターを用いて廃液中から固形物を除去する廃液処理装置である。この装置は、固形物を含む廃液が貯留される廃液貯蔵槽1と、この廃液貯蔵槽1から送られる廃液に振動磁場を印加する磁界印加装置5と、磁界印加装置5を経由した廃液中の固形物をフィルター6Bで除去するフィルター槽6とを有する。そして、フィルター6Bはフッ素樹脂からなる。振動磁場をかけられた廃液がフッ素樹脂製のフィルター6Bを通ると、フィルター6Bが目詰まりしにくくなり、逆洗によりフィルター6Bの目詰まりが解消されてほぼ元のろ過能力に回復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃液処理装置に関するものである。特に、簡易な構成により、長時間使用してもフィルターが目詰まりしない廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃液処理の中には、飲料水、生活廃水、工場廃水の浄化処理など多くの水処理技術がある。これらの技術の特徴は、廃液の内容や処理後の水の利用目的によって個々の対応が必要で、事情に応じて処理方法を開発しなければならない点にある。
【0003】
特許文献1は、飲料水の浄水器、アルカリイオン水や酸性水および軟水を生成する整水器や水改質器などに用いられる微生物を捕獲する中空糸膜を有する微生物殺菌装置に関する。この発明は、フィルターの表面や細孔内に電極構成材料を被覆し、フィルターの電極構成材料に電圧をかけて水処理を行う。それにより、微生物は電極構成材料と接触して捕獲、殺菌される。
【0004】
特許文献2は、産業廃棄物の中に含まれる油分又は液体有機ハロゲン化合物及び重金属を固定化し、溶出を難しくする産業廃棄物の処理方法及び処理剤に関する。この発明は、脂肪酸、生石灰、ケイ酸塩などからなる処理剤を産業廃棄物に加え、産業廃棄物に含まれる前記した有害物質を廃棄物中に固定しようとするものである。
【0005】
特許文献3は、浴槽水循環装置および浴槽水浄化手段に関する。この発明は、浴槽水を循環する循環流路と、循環流路の途中に設けられた磁気作用部、フィルタータンク、バイオリアクターである多孔質セラミックなどで構成される。磁気作用部は、循環流路の内壁に形成されるバイオフイルムを剥離しうる磁界を循環流路内に形成し、水の分子をヒドロキシルイオン化する。このヒドロキシルイオンの界面活性作用によって浴槽水に含まれる汚れが分解され、かつ循環流路内に付着したバイオフイルムが配管内壁から剥離される。剥離したバイオフイルムの大きいものは、フィルタータンクによって除去され、小さなバイオフイルムはバイオリアクターによって微生物処理される。
【0006】
特許文献4は、有機性汚水を生物処理により浄化する有機性汚水の処理方法に関する。この発明は、生物処理する工程で発生する汚泥の一部に振動磁場を加えた後、その汚泥を生物処理工程に返送する有機性汚水の処理方法を開示している。汚泥の大部分は、細菌類の細胞からなる。そして、振動磁場は細胞を殺傷するためのものである。振動磁場の加え方として、コイルを巻きつけた管内に汚泥を通過させ、このコイルに交流を流す方法が開示されている。
【0007】
一方、研削や切削加工に使用される研削液は、地球環境の保護を目的として浄化の容易な水性の液に変わりつつある。さらに次のステップとして、研削や切削の分野では、産業廃棄物を極力少なくしようとする動きが急である。
【0008】
研削液中から浮遊している固形物を除去する技術としては、カートリッジフィルターや珪藻土を助剤とする処理技術が利用されている。この技術では、まず予備処理として、フィルターの外側に珪藻土が混合された水を供給し、フィルターの内側から吸引を行って水をろ過して、フィルターの外周に珪藻土を層状に付着させる。次に、その状態のフィルターの外側に研削液を供給して、フィルターの内側に研削液をろ過させることにより固形物の除去を行う。珪藻土がフィルターの外周に付着しているため、珪藻土の層内で目詰まりが起こるが、フィルター自体は目詰まりが回避される。また、フィルターを逆洗することで固形物は珪藻土ごとフィルターから剥離され、再度予備処理から行うことで、上記と同様に固形物の除去処理を行なうことができる。
【0009】
【特許文献1】特開2000-15262号公報
【特許文献2】特開平7-185034号公報
【特許文献3】特開2000-245647号公報
【特許文献4】特開2003-10881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のいずれの技術も、長期にわたって処理能力を低下することなく固形物を効率的に回収する点で必ずしも十分とはいえない。特に、産業廃棄物の排出量を最小化したり、有価固形物を含む廃液処理の場合、有価固形物を再利用しやすい状態で回収することについては、何ら具体的提案がなされていない。
【0011】
特許文献1の技術は、カートリッジフィルターを使用しているので、取り替えられることを前提としている。特に、この技術で用いられるフィルターは、微生物により目詰まりを起こし易く、この死骸をフィルターから分離する構成については何らも配慮されていない。
【0012】
特許文献2の技術は、産業廃棄物に脂肪酸や生石灰などを加えて重金属などを固定しようとするものであるため、処理後の産業廃棄物の量が実質的に増加する。さらに、生石灰などの新たな添加物質があるため、処理後の産業廃棄物の中から有価物質を容易に回収することができない。
【0013】
特許文献3や特許文献4の技術は、主として微生物処理により処理対象液中の不要物を分解して処理している。そのため、この技術は微生物により分解できない固形物を適切に分離除去することには全く適さない。
【0014】
一方、珪藻土を用いた切削液の処理技術は、処理に珪藻土を用いているため、固形物が沈殿したスラッジと珪藻土の混合物が産業廃棄物となり、産業廃棄物の増大を招くと共に有価物質の分離が困難である点で特許文献2と同様である。また、逆洗時、珪藻土とスラッジの混合物がフィルターに粘着して、混合物の一部がフィルターに付着した状態となったり、フィルターから混合物を容易に剥離できないことがある。その結果、比較的長期のサイクルではあるが、フィルターの交換が必要とされ、使用済みフィルターが産業廃棄物となる。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その主目的は、次の少なくとも一つを達成できる廃液処理装置を提供することにある。
(1)効率的に廃液中から固形物を分離回収すること。
(2)フィルターの逆洗が容易におこなえること。
(3)廃液中に新たな物質の添加を行うことなく廃液処理ができること。
(4)生物処理により分解不可能な固形物を含む廃液であっても処理できること。
(5)長期にわたって処理能力の低下を極力抑えながら廃液処理ができること。
(6)フィルターの交換頻度を大幅に低減できること。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、フィルターを用いて廃液中から固形物を除去する廃液処理装置である。この装置は、固形物を含む廃液が貯留される廃液貯蔵槽と、この廃液貯蔵槽から送られる廃液に振動磁場を印加する磁界印加装置と、磁界印加装置を経由した廃液中の固形物をフィルターで除去するフィルター槽とを有する。そして、前記フィルターはフッ素樹脂からなることを特徴とする。
【0017】
振動磁場をかけられた廃液がフッ素樹脂製のフィルターを通ると、フィルターの逆洗が容易になる。逆洗によりフィルターに付着した固形物がフィルターから簡単に剥離できる。しかも、固形物が除去されるとフィルターの目詰まりが解消されて透過度が回復する。
【0018】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明装置は、上述したように、廃液貯蔵槽、磁界印加装置、フィルター槽を有する。通常、これらの構成部材は、廃液の搬送流路で連結されている。
【0019】
廃液貯蔵槽は、所定量の廃液を貯留できる容量のあるものであれば何でもよい。通常は、液体を貯えられるタンク状のもので、少なくとも磁界印加装置へ廃液を供給する搬送流路がつながれている。その他、廃液貯蔵槽には、フィルター槽からオーバーフローした廃液を戻すための搬送流路が接続されていてもよい。
【0020】
磁界印加装置は、廃液貯蔵槽から送られる廃液に振動磁場を印加できるものであればよい。代表的には、廃液貯蔵槽とフィルター槽との間をつなぐ搬送流路の周囲にコイルを形成し、このコイルに所定の交流を印加できるようにして磁界印加装置とする。このコイルへの交流の印加により、搬送流路内の廃液に振動磁場を印加する。
【0021】
一般的に、研削液などの廃液は長時間使用すると液中に微生物が発生し易い。液中に微生物が発生すると、粘度が高くなり、フィルターが短時間で目詰まりする。そこで研削液などの廃液に振動磁場をかければ、微生物に何らかの作用を及ぼして、廃液の粘度を低減できるとの知見を得た。廃液の粘度を低減できることにより、フィルターへの固定物の付着程度を軽減し、フィルターの目詰まりを抑制すると共に、逆洗時に固形物をフィルターから容易に分離することができる。
【0022】
この理由の一つは、振動磁場により微生物が死滅し、その死骸が柔軟性を失いフィルターの孔の中まで入らなくなるためであると推測される。生きた微生物の場合、柔軟な微生物がフィルターの穴の中まで入り込んで目詰まりを起し、逆洗しても微生物を除去できないためと考えられる。また、別の理由としては、振動磁場により微生物の死骸が細分化され、フィルターを自由に通過するようになり、目詰まりを起さなくなったためとも考えられる。いずれにしろ、固形物はフィルターによって回収される。
【0023】
フィルター槽は、代表的には、廃液が導入される容器部と、容器部の内部で廃液のろ過を行うフィルターを有する。容器部は磁界印加装置による振動磁場の印加を経た廃液が供給され、一定量の廃液を貯えられる容器状のものが利用できる。フィルターはフッ素樹脂からなる。フッ素樹脂には、PTFE(4フッ化エチレン樹脂)、PFA(パーフルオロアルコキシ樹脂)、FEP(4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体樹脂)、PCTFE(3フッ化-塩化エチレン樹脂)、PVDF(フッ化ビニリデン樹脂)、ETFE(エチレン-4フッ化エチレン共重合体樹脂)などがある。フッ素樹脂は、化学的に安定で、非粘着性の大きな材料なので、本発明のフィルターに適している。中でも、最も非粘着性が大きいPTFE(4フッ化エチレン樹脂)製フィルターは、フィルターに付着した固形物を簡単に取り去ることができるので望ましい。その上、PTFEは化学的に安定で強度も高いので長期間の使用ができる。
【0024】
フィルターの孔径は、処理対象となる廃液中の固形物のサイズに応じて、適宜選択すれば良い。例えば、0.05〜10μmの孔径を持つことが好適である。磁界印加装置を通過した廃液は、大部分が上記以上の大きさの固形物を含むからである。特に、研削液の廃液処理には、孔径は0.45〜2μmが望ましい。フィルターを通過できなかった固形物は、フィルターの表面に付着するが、その大部分は逆洗により取り除くことができる。なお、紙などのフィルターは、約40μm程度の孔の大きさを持つものは逆洗できるが、孔の大きさが10μm以下になると逆洗できない。ところが、4フッ化エチレン製のフィルターは、孔径が10μm以下でも逆洗できることが確認された。
【0025】
フィルターは、親水処理されていることが好適である。フッ素樹脂は撥水性なので水を通しにくい。そこで、水を主成分とする廃液がフィルターを通過しやすくするために親水処理しておくことが好ましい。具体的には、フィルターをIPA(イソプロピルアルコール)などの液体に予め浸漬することで親水化できる。IPAを用いて親水化した場合、水を用いて逆洗すると親水性は維持される。空気を用いて逆洗すると、IPAがフィルターの孔から追い出されて乾燥し、元の撥水性に戻るので、注意を要する。
【0026】
また、フッ素樹脂の孔の表面に親水性ポリマーを複合化し、親水化することもできる。親水性の方法としては、疎水性であるPTFE多孔質膜をまずIPAに含浸し、ついで例えば0.5wt%のポリビニルアルコール水溶液に含浸した後、1%塩酸に架橋剤としてグルタルアルデヒド0.5wt%を混合した溶液に浸し、化学架橋させる。その後、水ですすぎ不要な残留物を除去することによりPTFE膜にPVA架橋ポリマーを安定的に固定することができる。本処理によれば、親水性ポリマーであるPVAがPTFE膜の多孔構造を実質的に変化させることなく、その表面に強固に固着一体化している。その結果として、水系溶液の速やかな透過性を示し、また空気逆洗による膜の乾燥後も、膜が排水に容易に濡れるため速やかなろ過を継続させることができる。
【0027】
フィルターの形態は、廃液をろ過する機能を有するものであればよい。例えば、チューブ状のものを複数束ねたもの、1枚以上のシート状のものを支持体とともにプレート状としこれを積層配置したもの、1枚以上のシートをプリーツ状にしてハウジングに収納したもの等がある。このなかで、チューブ状のもの、シート状のものを積層配置したものが望ましい。なかでもチューブ状のものは、容積当たりのろ過面積が多く取れるなどから好適である。
【0028】
さらに、フィルターには、フィルターの廃液排出側を廃液供給側よりも負圧にして廃液のろ過を可能にする吸引機構を接続することが好適である。吸引機構には、例えばポンプを利用することができる。このポンプは、廃液の排出側に設置して、フィルターの廃液供給側から廃液排出側に廃液を透過させる。より具体的には、チューブ状のフィルターを用いた場合、チューブの外部に廃液を供給し、内部を負圧にしてチューブの外部から内部に廃液を透過させることで固形物のろ過を行う。チューブの外部を廃液供給側、内部を廃液排出側とすることで、逆洗によりチューブの外部に付着した固形物をフィルターから容易に分離することができる。
【0029】
磁界印加装置のコイルに印加する交流電力は25〜40Wが好適である。この程度の交流電力を印加することで、廃液の粘度を低減し、フィルターの目詰まりを改善すると共に、逆洗で容易に目詰まりを解消して透過度を復元することができる。ただし、この値は処理する廃液の量と密接に関係する。目安として1時間当たり0.1〜1ton程度の処理量で直径10mm程度の搬送流路を用いる場合に好ましい条件である。処理量が変動すると、それに合わせて使用電力量を適宜変更すればよい。
【0030】
本発明の廃液処理装置は、フィルターを逆洗するための逆洗装置を有することが好ましい。本廃液処理装置を使用すると、固形物がフィルターに付着するので、その固形物を逆洗装置により取り除くことが好ましい。逆洗装置は、空気、水、アルコールなどの流体を通常操作の逆方向であるフィルターの廃液排出側から廃液供給側に流し、廃液中の固形物をフィルターから脱落させて容器部の中へ回収できる構成とすることが好ましい。必要であれば上記の逆洗装置に加え、チューブの外側から水や空気などの流体を吹き付けて固形物などを落とすこともできる。
【0031】
磁界印加装置で処理された廃液を通したフィルターは、磁界印加装置で処理されない廃液を通したフィルターに比較して、逆洗により、フィルターの目詰まりがはるかに良く回復する。磁界印加装置で処理されない場合は、一回使用して逆洗すると(1回逆洗後の透過度)/(元の透過度)=P(Pは1より小さい)まで回復し、二回目はその透過度のPまで回復するので、元の透過度にP2を掛けた値になる。従って、n回の使用後の透過度は元の透過度にPを掛けた値になるというように冪数的に低下する。しかしながら、磁界印加装置を通すことにより、例えば初期の透過度の90%まで低下した後は、透過度は殆ど低下しないか、または漸減するので、フィルターの寿命は極端に長くなることが分かった。そして、初期の透過度の70〜80%程度低下するまで使用できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明装置は、次の効果を奏することができる。
(1)廃液に交流電界を印加することでフィルターの目詰まりを抑制し、効率的に廃液中から固形物を分離回収することができる。
(2)フッ素樹脂からなるフィルターを用いることで、固形物がフィルターに付着する程度を緩和して、逆洗した際に固形物をフィルターから容易に分離することができる。
(3)廃液中に新たな物質の添加を行うことなく廃液処理ができ、産業廃棄物の排出量削減に寄与することができる。そのため、分離される固形物の量が少なく、そのまま固形物を廃棄する場合も、精製して再利用する場合も分離後の処理が容易である。
(4)フィルターを用いて固形物を除去する処理装置であるため、微生物処理により分解不可能な固形物を含む廃液であっても固形物の分離ができる。
(5)廃液粘度の低減とフッ素樹脂からなるフィルターの使用により、長期にわたってろ過能力の低下を極力抑えながら固形物を分離することができる。
(6)フィルターのろ過能力の低下を抑えることで、フィルターの交換頻度を大幅に低減することができ、使用済みフィルター自体が産業廃棄物となる頻度を減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を用いて詳細に本発明を説明する。
【0034】
図1は、本発明に係る装置の概念図である。この装置において、廃液貯蔵槽1に蓄えられた廃液2は、搬送流路4Aを通り磁界印加装置5を通ってフィルター槽6へ入り、搬送流路4Bを通って回収槽8へと送られる。廃液中の固形物は、フィルター槽6内に設けられたフィルター6Bでろ過されて分離される。
【0035】
廃液貯蔵槽1からフィルター槽6への廃液の供給は、搬送流路4Aに設けられた搬送ポンプP1とバルブV1の動作により行う。また、フィルター槽6と廃液貯蔵槽1との間には復路流路3とバルブV3が設けられている。通常、フィルター槽6に供給される廃液量はフィルター槽6から排出される廃液量よりも多くなるように制御される。そのため、フィルター槽6からオーバーフローした廃液は復路流路3を経由して廃液貯蔵槽1へ還流される。
【0036】
搬送ポンプP1やバブルV1、V3などを制御することにより磁界印加装置5側の廃液圧力を任意に設定できる。この圧力を高くすると、フィルターを透過する流量が増えるので大量の廃液処理が可能になる。しかし、廃液中の微粒子がフィルターの孔の中に圧入され、逆洗による透過度の回復の度合いが低下する可能性がある。磁界印加装置5側の廃液圧力を低い圧力にすると、透過流量は減少するが、フィルターの寿命は長くなる。
【0037】
廃液貯蔵槽1とフィルター槽6をつなぐ搬送流路4Aの途中には、磁界印加装置5が設けられている。この磁界印加装置5は、搬送流路4Aの外周に螺旋状に巻回されたコイル5Aと、このコイル5Aに交流を印加する交流電源5Bとを有する。コイルに所定の交流を印加することで、搬送流路4A内を流れる廃液に振動磁場を印加する。
【0038】
ここでは、約60〜150Hzの交流を約25〜40Wの電力で供給できる交流電源5Bを用いた。交流の周波数f(1/s)、振動磁場管(搬送流路4Aのうちコイル5Aが巻かれた箇所)の長さL(m)、振動磁場管内の断面積A(m2)、廃液の処理量Q(m3/h)とすると、振動周波数F=交流の周波数fとなり、振動磁場作用時間t(h)=(A×L)/Qとなる。また、交流電流をI(A)、コイルの巻き数をN(回)、廃液の透磁率をμ(H/M)とすると、磁束密度B(T)=(μ×I×N)/Lとなる。従って、廃液は磁界印加装置5を通過する時間t(h)の間に磁束密度B(T)、振動周波数Fの振動磁場の作用を受けることになる。本例では、振動磁場管の内径8mm、コイル電流I=20mA、N=100回、振動磁場管の長さL=20cm、電圧1700Vとした。磁界印加装置5の電圧や電流は、廃液中に含まれる微生物の種類、発生状況や廃液の流量などによりを調整する。
【0039】
磁界印加装置5を経た廃液は、フィルター槽6へと送られる。フィルター槽6は、廃液が供給される容器部6Aと、容器部6Aの内部に配されたフィルター6Bとを有する。容器部6Aは廃液を貯留できる筒状体で、上方に復路流路3が接続され、下方に固形物排出口23を具えている。一方、フィルター6Bには、PTFE製の多孔質チューブであるポアフロン(住友電気工業株式会社の登録商標)を用いた。フィルター6Bの仕様は、例えばチューブの外径:2mm、肉厚:0.5mm、孔径:1μm、本数:500本である。
【0040】
図1では、簡略化のためフィルター6Bのチューブを1本しか示していないが、実際には多数本のチューブが用いられている。チューブの本数は、小さな体積のフィルター槽でより多くの廃液通過量を保証できればよいので、できるだけ多くのチューブを容器部6A内に収納することが好ましい。また、チューブは、少なくとも使用圧力に耐える強度を要する。チューブの肉厚を厚くすると、強度は高くなるが、透過率は下がるので適切な厚さのものを選択することが望ましい。
【0041】
このチューブ群で構成したカートリッジフィルターを図2の模式斜視図に示す。このカートリッジフィルターは、円盤状の天板12と底板11とを支持棒で間隔をあけて保持し、天板12と底板11との間に多数のチューブ(フィルター6B)を保持した構成である。チューブの上端側は天板12で封止され、チューブ内から廃液が外部に流出しないようにしている。また、底板11には排出口13が設けられ、全てのチューブの内周側がまとめて排出口13へとつながるように構成されている。このカートリッジを、容器部6Aの中に入れて使用する。その際、排出口13は搬送流路4Bへと接続される。
【0042】
この搬送流路4Bには吸引ポンプP2とバルブV2が設けられ(図1)、これらの操作により各チューブの内部を負圧にしてチューブの外側から内側に廃液を透過させることにより固形物のろ過を行う。チューブの外側から内側に廃液を透過させることにより固形物がチューブの外側に付着するようにできる。逆に、チューブの内側から外側に廃液を圧送すると、チューブの内側に等しい体積の固形物がたまると使用不能になるので、逆洗の頻度が高くなり好ましくない。
【0043】
また、吸引ポンプP2とバルブV2との間には真空圧力計VGを設置している。真空圧力計VGにより回収側の廃液圧力を測定し、その測定結果に基づいてポンプP2を制御することができる。
【0044】
フィルター槽6を通ってろ過された廃液は、搬送流路4Bを経由して回収槽8へと導入される。回収槽8は浄化された廃液(回収液)を貯留しておくタンク状の容器である。この回収槽8は必要により設ける。フィルター6Bを通過した回収液が無害化されていると、そのまま排出することができるので、回収槽8は不要である。最近は水の使用量を減少させるために、廃液を循環再利用する場合が多い。
【0045】
さらに、フィルター槽6と回収槽8の間には逆洗装置が設けられている。逆洗装置は、フィルター6Bの外周にたまった固形物22を取り除くための機構である。この逆洗装置は、搬送流路4Bの途中から分岐して回収槽8に導入される逆洗用流路4Cと、この流路4Cに設けられた逆洗ポンプP10およびバルブV10とから構成される。
【0046】
逆洗を行う場合、フィルター槽6の廃液を空にし、バルブV2を閉じ、バルブV10を開けて逆洗ポンプP10を動作する。これにより、回収槽8の液をフィルター6Bの内周側に供給し、フィルター6Bの内側から外側に液を流通させることで固形物をフィルター6Bから分離させる。その際、図2に示したように、チューブ(フィルター6B)には円周方向に皺が設けられているため、チューブの内側から圧力をかけると、皺が伸びてチューブの外周に付着した固形物を分離しやすくできる。分離された固形物22は、バルブV23を開放して逆洗液と共に固形物排出口23から装置の外へ排出される。逆洗に用いる液は、回収液を用いても良いし、工業用水や水道水などを使用することもできる。また、チューブの外側から水や空気をかけて落下させるとより効率的に固形物を剥がすことができる。
【0047】
(試験例1)
次に、廃液のモデル液を調整し、上記の廃液処理装置を用いてフィルターの目詰まり状況を調べた。ここでは、超硬合金の研削液をモデル液とした。その結果を図3のグラフに示す。このグラフは、フィルターの相対総透過流量と相対透過度の関係を示している。ここで縦軸は、透過度を相対的に示した値である。透過度(フィルターの単位面積(m2)、単位時間(min)、単位圧力(Pa)当たりの透過流量(m3))を、後で詳述する試験Aの初期の透過度を1として相対的に示した値である。横軸は、総透過流量を相対的に示した値である。総透過流量(相対透過度が0.2になるまでのフィルターの単位面積(m2)あたりの総透過流量(m3))を試験Aの総透過流量を10として相対的に示した。
【0048】
実線で示した試験A、B、CおよびDは、磁界印加装置を通過した本発明装置によるろ過を行った結果である。点線で示した試験EおよびFは比較試験であり、磁界印加装置を用いないでろ過した結果を示す。試験Aは最初に使用したフィルターの値を示し、そのフィルターを1回逆洗したものが試験B、2回逆洗したものが試験C、3回逆洗したものが試験Dの値を示す。逆洗の回数が増えると、相対透過度、相対総透過流量が共に殆ど低下しなくなることが分かる。試験Eはフィルターの初回使用時、そのフィルターを1回逆洗したものが試験Fである。縦軸は試験Aにおけるフィルターの初期透過度を相対化して1.0とした。横軸は試験Aにおけるフィルターの目詰まりテストにおいて、フィルターの相対透過度が0.2になるまでの間にフィルターを通過した総透過流量を相対的に10とした。
【0049】
試験A、B、Cおよび試験Dのグラフ、すなわち振動磁場を印加した廃液をろ過したフィルターの場合、逆洗することにより初期透過度の約85から95%程度まで相対透過度が回復することを示している。これに対して、試験E、Fのグラフ、すなわち振動磁場を印加せずにろ過したフィルターの場合は、全く異なっている。試験Eの相対総透過流量は2であり試験Aの約1/5と少ない。試験Fのグラフは、逆洗によって相対透過度が0.5にしか戻らないことを示している。
【0050】
この原因について考察した。図4は、バクテリア30の断面概念図である。バクテリア30は、細胞壁31の内部に細胞質32を含み、粘性物質33が細胞壁31の外周部を覆っていると考えられる。廃液は、長期間循環使用するため、バクテリア30が増殖する。バクテリア30は、硬い細胞壁31の外周に粘性物質33が付着しているので、バクテリアが増殖すると廃液の粘度が高くなる。そして、細胞壁31の内部には細胞質32があり、これも粘度が高い。図3の結果は、磁界印加装置を用いない場合、粘性物質がフィルターの孔の中に入り込み目詰まりの原因になり、逆洗しても、この粘性物質を取り除くことができないことを示している。
【0051】
一方、磁界印加装置を用いれば目詰まりが殆ど起こらないので、磁界印加装置はバクテリアを殺傷すると同時に、バクテリアの外周の粘性物質や漏出した細胞質がフィルターの目詰まりの原因にならないように作用していると考えられる。磁界印加装置を用いると、以下のような現象が起きていると推定される。
(1)バクテリアは、振動磁場の影響を受け、植物が枯れるように縮んで小さくなり、フィルターを通り抜けることができるようになる。
(2)粘性物質33は、振動磁場の影響を受けて分解され、フィルターの孔の中を通過するようになる。
(3)粘性物質33は、振動磁場の影響を受けて固化し、フィルターに付着してフィルターの孔の中まで入り込まないようになる。
【0052】
また、上記の試験結果から、超硬合金の切削液の廃液処理に本発明装置を用いた場合、使用の状態によるが、フィルターの交換頻度は1〜2年に1度と非常に少ないことが推測できる。
【0053】
(試験例2)
図5は、自然落下運動を利用した廃液処理装置の例である。図1と同一符号は同一部材を示す。この例は、廃液貯蔵槽1の位置を最も高くし、他の処理装置の構成部材を廃液の流れの順に段階的に低い位置に配置してある。従って、廃液2は磁界印加装置5を経由してフィルター槽6に入る。次に、廃液をフィルター6Bに透過させ、固形物22をフィルター6Bの外側に残しながらフィルター6Bの内側に透過した廃液をそのまま回収槽8へ流れ込ませる。この装置は、ポンプなどの動力を用いないで廃液の処理ができる。この例では、復路流路がない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明装置は、固形物を含む種々の廃液から固形物を分離する廃液の処理分野において利用することが期待される。例えば、研削、切削、半導体などのワイヤーカットなどに用いられる研削液や、一般的なラップおよびシリコンウエハーのラップに用いられるラップ液、および被加工物の洗浄や工具などを被覆する前に洗浄する洗浄液などの処理に利用できる。特に、超硬合金を研削した廃液の処理に利用した場合、固形物に含まれるものは高価なタングステンやコバルトであり、これらを効率的に回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の廃液処理装置の概念図である。
【図2】本発明で用いるカートリッジフィルターの斜視図である。
【図3】フィルターの目詰まり状況を示すグラフである。
【図4】バクテリアの模式断面図である。
【図5】本発明廃液処理装置の変形例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1 廃液貯蔵槽 2 廃液
3 復路流路 4A、4B 搬送流路 4C 逆洗流路
5 磁界印加装置 5A コイル 5B 交流電源
6 フィルター槽 6A 容器部 6B フィルター
8 回収槽
11 底板 12 天板 13 排出口
22 固形物 23 固形物排出口
30 バクテリア 31 細胞壁
32 細胞質 33 粘性物質
P1 搬送ポンプ P2 吸引ポンプ
P10 逆洗ポンプ VG 圧力計
V1、V2、V3、V10、V23 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物を含む廃液が貯留される廃液貯蔵槽と、
この廃液貯蔵槽から送られる廃液に振動磁場を印加する磁界印加装置と、
磁界印加装置を経由した廃液中の固形物をフィルターで除去するフィルター槽とを有し、
前記フィルターはフッ素樹脂からなることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項2】
前記フィルターは、0.05〜10μmの孔径を持つことを特徴とする請求項1に記載の廃液処理装置。
【請求項3】
前記フィルターは、親水処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載の廃液処理装置。
【請求項4】
前記フィルターは、複数のチューブから構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃液処理装置。
【請求項5】
前記フィルターは、1枚以上のシートから構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃液処理装置。
【請求項6】
前記磁界印加装置は、25〜40Wの電力を負荷できるコイルを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の廃液処理装置。
【請求項7】
前記コイルは、廃液貯蔵槽と磁界印加装置との間をつなぐ廃液の搬送流路の外側に巻回されていることを特徴とする請求項6に記載の廃液処理装置。
【請求項8】
前記フィルターを逆洗するための逆洗装置を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の廃液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−102721(P2006−102721A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296693(P2004−296693)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(504378939)西日本フィルター有限会社 (3)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【出願人】(502383421)五興商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】