説明

廃液処理装置

【課題】アルカリ蓄電池の製造の際に排出される廃液を処理することができる安価な廃液処理装置を提供する。
【解決手段】回収装置1は、電解槽2と、電解槽2内に配設された素焼部材3に仕切られた陽極室4及び陰極室6と、陽極室4内に設けられた陽極5と、陰極室6内に設けられた陰極7と、陽極5及び陰極7に電解電圧を印加する電圧印加手段8とを備える。陽極室4に廃液9を供給すると共に、陰極室6に回収媒体液10を供給し、電圧印加手段8により陽極5及び陰極7に電解電圧を印加して電解を行う。廃液9中の金属イオンの一部を陰極室6に移動させ、陰極室6に該金属イオンを含む水溶液を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池の製造工程で排出される廃液を処理する廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池の製造の際には、電解液の注液工程において電解液成分の水酸化カリウム等を含むアルカリ水溶液が廃液として大量に排出される。そこで、前記廃液からアルカリ水溶液を回収する技術が検討されている。
【0003】
前記廃液からアルカリ水溶液を回収する装置として、従来、陽極と陰極との間に、陽極室と、陰極室とを形成した電気透析装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
前記電気透析装置において、前記陽極室は、陽極側がバイポーラ膜、陰極側が陽イオン交換膜で仕切られている。また、前記陰極室は、陽極側が陽イオン交換膜、陰極側がバイポーラ膜で仕切られている。
【0005】
前記装置では、前記陽極室に前記アルカリ水溶液として水酸化カリウムを含む廃液を供給し、前記陰極室に回収媒体液を供給して電気透析を行う。この結果、前記陰極側室から該廃液より高濃度の水酸化カリウムを含むアルカリ水溶液を回収することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−213238号公報(段落〔0006〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の装置は、バイポーラ膜及び陽イオン交換膜等の高価な膜材料を用いるので、コストの増大が避けられないという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、アルカリ蓄電池の製造の際に排出される廃液を処理することができる安価な廃液処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、アルカリ蓄電池の製造の際に排出される廃液を処理する廃液処理装置であって、電解槽と、該電解槽内に配設された素焼部材に仕切られた陽極室及び陰極室と、該陽極室内に設けられた陽極と、該陰極室内に設けられた陰極と、該陽極及び該陰極に電解電圧を印加する電圧印加手段とを備え、該陽極室に該廃液を供給すると共に、前記陰極室に回収媒体液を供給し、該電圧印加手段により該陽極及び該陰極に電解電圧を印加して電解を行うことにより、該廃液中の金属イオンの一部を該陰極室に移動させ、該陰極室に該金属イオンを含む水溶液を得ることを特徴とする。
【0010】
本発明の廃液処理装置は、電解槽内に素焼部材を配設することにより、該電解槽を陽極室と陰極室とに仕切り、該陽極室内に陽極を設けると共に、該陰極室内に陰極を設け、該陽極及び該陰極は電圧印加手段に接続されている。
【0011】
本発明の廃液処理装置では、前記陽極室に、アルカリ蓄電池の製造の際に排出される廃液を供給すると共に、前記陰極室に回収媒体液を供給し、前記電圧印加手段により前記陽極及び前記陰極に電解電圧を印加して電解を行う。このようにして電解を行うと、前記素焼部材が陽イオン透過膜として作用し、前記廃液中の金属イオンの一部が該素焼部材を透過して、前記陰極室に移動する。この結果、前記陰極室に前記金属イオンを含む水溶液を得ることができる。
【0012】
本発明の廃液処理装置では、バイポーラ膜及び陽イオン交換膜等の高価な膜材料に代えて前記素焼部材を用いるので、装置を安価に構成することができ、かかる安価な装置によってアルカリ蓄電池の製造の際に排出される前記廃液の処理を行うことができる。
【0013】
本発明の廃液処理装置では、前記電解槽を前記素焼部材により2分して、一方を前記陽極室とし、他方を陰極室としてもよいが、該電解槽の一部の領域を該素焼部材により画成し、その内部を該陽極室とし、外部を該陰極室としてもよい。この場合、前記素焼部材は、板状の部材であってもよいが、該素焼部材として、素焼壺を用いることにより、該素焼部材により画成された領域を容易に形成することができる。即ち、前記素焼壺を用いる場合には、該素焼壺の内部が前記陽極室となり、外部が前記陰極室となる。
【0014】
アルカリ蓄電池の製造の際に排出される前記廃液は、前記金属イオンとして、ニッケル、カリウム及びカドミウムを含んでいる。そこで、前記素焼部材は、ニッケル及びカリウムを透過させると共に、カドミウムを吸着する機能を備えることが好ましい。
【0015】
この場合、前記陰極室には、ニッケルを含む水酸化カリウム水溶液を得ることができる。前記ニッケルは前記水酸化カリウム水溶液から分離して、メッキ材料として用いることができる。また、前記水酸化カリウム水溶液は、濃度を調整することにより、アルカリ蓄電池の製造の際の電解液として用いることができ、或いはカリ肥料として用いることができる。前記水酸化カリウム水溶液をカリ肥料として用いる場合、前記廃液に含まれるカドミウムは有害物となるが、該カドミウムは前記素焼部材に吸着されて除去されており、該水酸化カリウム水溶液は該カドミウムを含まないので好都合である。
【0016】
本発明の廃液処理装置では、前記回収媒体液は、純水または前記廃液よりもカリウム濃度の低い水酸化カリウム水溶液であることが好ましい。前記回収媒体液が、前記廃液よりもカリウム濃度の低い水酸化カリウム水溶液である場合、該水酸化カリウム水溶液は、別途調製してもよく、前記陰極室に得られた水酸化カリウム水溶液の濃度を調整したものを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のカリウム回収装置の一構成例を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のカリウム回収装置1は、電解槽2と、電解槽2内に配設された素焼壺3とを備えている。素焼壺3は、粘土を有底筒状に形成し、600〜900℃の範囲の温度で焼成したものであり、例えば、直径0.1〜600μmの範囲の微細孔が不規則に形成されているものを用いることができる。
【0020】
カリウム回収装置1では、素焼壺3の内部が素焼壺3により画成された陽極室4となり、陽極室4内に例えばステンレス板からなる陽極5が配設されている。また、電解槽2の素焼壺3の外部の領域が陰極室6となり、陰極室6内に例えばステンレス板からなる陰極7が配設されている。そして、陽極5及び陰極7は、電圧印加手段としての直流電源装置8に電気的に接続されている。
【0021】
カリウム回収装置1では、陽極室4に水酸化カリウムを含む廃液9を供給すると共に、陰極室6に回収媒体液10を供給し、直流電源装置8により陽極5及び陰極7に電解電圧を印加して電解を行う。廃液9は、アルカリ蓄電池の製造の際に排出されるものであり、例えば、5.0〜10.0重量%の範囲のカリウムと、1.0〜5.0重量%の範囲のニッケルと、0.5〜2.0重量%の範囲のカドミウムとを含んでいる。尚、前記カリウムは水酸化カリウムとして含まれている。
【0022】
回収媒体液10は、純水であってもよく、廃液9よりも水酸化カリウム濃度の低い水酸化カリウム水溶液であってもよい。回収媒体液10として水酸化カリウム水溶液を用いる場合、その濃度は、例えば0.1〜5.0重量%の範囲とする。
【0023】
直流電源装置8は、例えば、2.0〜5.0V、5.0〜15.0Aの範囲の直流電流を、5.0〜12.0時間の範囲の時間、陽極5及び陰極7に供給する。
【0024】
このようにして電解を行うと、素焼壺3が陽イオン透過膜として作用し、陽極室4内のカリウムイオン、ニッケルイオン等の陽イオンが素焼壺3を透過して、陰極室6に移動する一方、カドミウムイオンが素焼壺3に吸着される。この結果、陰極室6に、ニッケルを含むと共に、初期状態の回収媒体液10よりも高濃度の水酸化カリウム水溶液を得ることができる。
【0025】
尚、本実施形態では、素焼壺3を用いるものとして説明しているが、粘土を600〜900℃の範囲の温度で焼成し、直径0.1〜600μmの範囲の微細孔が不規則に形成されているものであれば、素焼壺3に代えて、板状の素焼部材(素焼板)を用いてもよい。素焼板を用いる場合、電解槽2を素焼板により2分して、一方を陽極室4とし、他方を陰極室6としてもよいが、電解槽2の一部の領域を該素焼板により画成し、その内部を陽極室4とし、外部を陰極室6としてもよい。
【0026】
次に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0027】
本実施例では、電解槽2に、素焼壺3を配設し、内容積5.0リットルの陽極室4と、内容積20.0リットルの陰極室6とを備えるカリウム回収装置1を用いた。
【0028】
次に、陽極室4に水酸化カリウムを含む廃液9を4.0リットル(4480g)供給した。廃液9は、アルカリ蓄電池の製造の際に排出されたものであり、全量に対し8.2重量%の水酸化カリウムと、2.1重量%の範囲のニッケルと、1.3重量%の範囲のカドミウムとをを含んでいた。また、陽極室6に回収媒体液10として、廃液9より低濃度の2.8重量%の水酸化カリウム水溶液16.0リットル(16640g)を供給した。
【0029】
次に、直流電源装置8から、4.0V、12.0Aの直流電流を、10.0時間に亘って陽極5及び陰極7に供給し、電解を行った。前記電解終了後、廃液9及び回収媒体液10の水酸化カリウム濃度を測定したところ、廃液9は4.6重量%、回収媒体液10は3.8重量%であった。従って、陽極室4内の廃液9に含まれていたカリウム367gのうち、168gが陰極室6に移動し、回収されたことが明らかである(回収率45.8%)。
【0030】
また、廃液9及び回収媒体液10のニッケル濃度を測定したところ、廃液9は1.3重量%、回収媒体液10は0.23重量%であった。従って、陽極室4内の廃液9に含まれていたニッケル94.1gのうち、39.1gが陰極室6に移動し、回収されたことが明らかである(回収率42.0%)。
【0031】
さらに、廃液9及び回収媒体液10のカドミウム濃度を測定したところ、廃液9は0.8重量%、回収媒体液10は0.05重量%であった。従って、陽極室4内の廃液9に含まれていたカドミウム58.2gのうち、8.1gが素焼壺3に吸着されたものと考えられる。
【符号の説明】
【0032】
1…カリウム回収装置、 2…電解槽、 3…素焼壺、 4…陽極室、 5…陽極、 6…陰極室、 7…陰極、 8…電源装置、 9…廃液、 10…回収媒体液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池の製造の際に排出される廃液を処理する廃液処理装置であって、
電解槽と、該電解槽内に配設された素焼部材に仕切られた陽極室及び陰極室と、該陽極室内に設けられた陽極と、該陰極室内に設けられた陰極と、該陽極及び該陰極に電解電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
該陽極室に該廃液を供給すると共に、前記陰極室に回収媒体液を供給し、該電圧印加手段により該陽極及び該陰極に電解電圧を印加して電解を行うことにより、該廃液中の金属イオンの一部を該陰極室に移動させ、該陰極室に該金属イオンを含む水溶液を得ることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の廃液処理装置において、前記電解槽は、該電解槽内に配設された素焼部材により画成された領域の内部を前記陽極室とする共に、該領域の外部を前記陰極室とすることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の廃液処理装置において、前記素焼部材は、素焼壺であることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の廃液処理装置において、前記廃液は、前記金属イオンとして、ニッケル、カリウム及びカドミウムを含むことを特徴とする廃液処理装置。
【請求項5】
請求項4記載の廃液処理装置において、前記素焼部材はニッケル及びカリウムを透過させると共に、カドミウムを吸着する機能を備えることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の廃液処理装置において、前記回収媒体液は純水または前記廃液よりもカリウム濃度の低い水酸化カリウム水溶液であることを特徴とするカリウム廃液処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−243508(P2011−243508A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116695(P2010−116695)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【特許番号】特許第4570690号(P4570690)
【特許公報発行日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(510140744)本多電機株式会社 (2)
【Fターム(参考)】