説明

廃白土に含まれる油脂、その安定化方法及びそれを原料とする油脂の製造方法

【課題】特にコンテナー等での保管時及びコンテナー等による輸送時に保存安定性にすぐれる、廃白土に含まれる油脂を提供することを主要な目的とする。
【解決手段】天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂において、廃白土に含まれる油脂と窒素が共存させることにより、油脂中に窒素を溶解させてなる。油脂1トン当たり、窒素の共存量が0.05〜100Nリットルにされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃白土に含まれる油脂に関するものであり、より特定的には、コンテナー等での保管時及びコンテナー等による輸送時における保存安定性にすぐれた、廃白土に含まれる油脂に関する。本発明は廃白土に含まれる油脂の安定化方法に関する。本発明は、またそのような廃白土に含まれる油脂を原料とする油脂の製造方法に関する。
【0002】
ここで保存安定性にすぐれた油脂とは、酸化劣化に起因する品質項目、特に酸価や色相の経時変化が少ない性状を有する油脂をいう。また、廃白土とは、油脂の脱色で使用された使用済み活性白土をいい、活性白土とは、アルミナとシリカを主成分とする物質で、酸で処理すると多孔質になり、脱色、吸着する能力を有する物質である。
【背景技術】
【0003】
天然油脂を原料とする油脂は、多様な用途を有する化合物であるが、採取されたままの油脂には、タンパク質、リン脂質、色素、夾雑物あるいは貯蔵中の分解精製物などの不純物が含まれる。これらの不純物は、図1を参照して、通常、1)遠心分離精製、2)酸処
理精製、3)アルカリ処理精製、4)色素吸着剤である活性白土による処理精製の4精製
工程によって除去される(非特許文献1参照)。
【0004】
これらの工程のうち、白土処理精製の工程では、精製処理終了後、廃白土に吸着した油脂(約30〜40重量%程度含まれる)は、コンテナー等に保管、又はコンテナー等によって輸送され、揮発性の有機溶媒等によって抽出し、他の化学製品を製造する原料、例えば塗料として使用される。
【非特許文献1】油脂化学製品便覧(日刊工業新聞社、昭和38年10月30日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の品質要求レベルであれば、酸素含有量が2〜5%程度の窒素によって、コンテナー中の油脂の触れる空間部分が置換されておれば、廃白土に吸着された油脂の保管上の問題はなかった。
【0006】
しかしながら、近年、油脂の品質上の要求性能が高く、コンテナー等での保管時及びコンテナー等による輸送時に、空気中の酸素による酸化劣化に起因する品質項目、特に酸価や色相が非常に高レベルで制御された製品が要求されている。
【0007】
そこで、本発明は、特にコンテナー等での保管時及びコンテナー等による輸送時に保存安定性にすぐれる、廃白土に含まれる油脂を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、そのような廃白土に含まれる油脂を安定化させる方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、そのような廃白土に含まれる油脂原料から油脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、以下の知見に基き、本発明を完成するに至った。
【0011】
1) 天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂中の酸素の溶存量を制御することにより、油脂の保存安定性を大幅に改善することができる。
【0012】
2) 天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂中に窒素を特定の比率で共存せしめることにより、該酸素の溶存量を制御することが容易となり、その結果、油脂の保存安定性を格段に改善することができる。
【0013】
3) 特定比率の酸素が溶存する窒素を廃白土に含まれる油脂と共存することで、保存安定性が格段に改善された油脂を製造することができる。
【0014】
4) 廃白土に吸着した油脂は、揮発性の有機溶媒等によって、高収率で回収することができ、他の化学品を製造する原料として使用することができる。
【0015】
本発明は、天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂において、廃白土に含まれる油脂と窒素を共存させることにより、前記油脂中に窒素を溶解させてなり、前記油脂1トン当たり、前記窒素の共存量が0.05〜100Nリットル(0.05Nリットル以上100Nリットル以下)にされていることを特徴とする。前記油脂中に窒素を溶解させることにより、廃白土に含まれる油脂中の酸素の溶存量が制御されるのである。
【0016】
本発明の他の局面に従う廃白土に含まれる油脂の安定化方法は、天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂の安定化方法において、前記廃白土を保管容器に収容し、前記保管容器内に、窒素の共存量が、前記油脂1トン当たり、0.05〜100Nリットルになるように、窒素ガスを吹き込み、密閉することを特徴とする。この場合、酸素の共存量は、前記油脂1トン当たり、1.5Nリットル以下にされているのが好ましい。
【0017】
本発明の他の局面に従う油脂の製造方法は、廃白土に含まれる油脂と窒素が共存してなり、前記油脂1トン当たり、前記窒素の共存量が0.05〜100Nリットルにされた油脂原料を準備する工程と、前記油脂原料から有機溶剤で前記油脂を抽出し、ミセラ(油脂を溶剤で抽出した抽出液)を得る工程と、前記ミセラから前記油脂を分離して取り出す工程と、を備える。
【0018】
前記窒素は、酸素を10〜10,000ppm含有するのが好ましい。
【0019】
前記窒素の共存量が、前記油脂1m3あたり、0.1〜2Nm3であるのが好ましい。
【0020】
前記有機溶剤として、揮発性有機溶媒を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る廃白土に含まれる油脂は、保存安定性に優れ、特にコンテナー等での保管時及びコンテナー等による輸送時に保存安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂において、コンテナー等での保管時及びコンテナー等による輸送時に保存安定性に優れたものを得るという目的を、窒素を廃白土に含まれる油脂と共存させ、油脂1トン当たり、窒素の共存量を0.05〜100Nリットルに選び、前記油脂中に窒素を溶解させるということによって実現した。
【0023】
天然油脂の出発原料としては、ヤシ油、パームカーネル油、パーム油、オリーブ油、大豆油、低エルシン菜種油、高エルシン菜種油、サフラー油、トウモロコシ油、綿実油、ひまわり油、米ぬか油、亜麻仁油であり、また大豆油、菜種油、サフラー油、トウモロコシ油、綿実油、ひまわり油、米ぬか油のいずれかを揚げ油とした後の油、さらに牛脂、鶏脂、魚油等のトリグリセリドおよび/またはそれらの油脂から調整される脂肪酸および/またはその低級アルキルエステルが例示される。飽和天然油脂は、通常、固体触媒を使用して、高温高圧下で不均一接触水素化反応を行うことで製造される。
【0024】
天然油脂を出発原料として調整される、廃白土に含まれる油脂は、酸化劣化によって、酸価や過酸化物価が上昇し、色相が高くなるとき、以下に示す問題点が生ずるが、本発明によれば、コンテナー等での保管、又はコンテナー等による輸送時によっても、かかる問題は生起しないので好ましい。
【0025】
1) 油脂が劣化、ゲル化や固化して、油脂原料として使用できなくなる。
【0026】
2) 油脂原料の大きな用途であるエステルや塗料の製造時に着色したり、製品の色相の経時安定性が低下する。
【0027】
3) 天然油脂特有の臭気が発生する。
【0028】
4) 廃白土に含まれる油脂の回収率が低下する。
【0029】
本発明にかかる天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂に対する窒素の共存量は、油脂1トン当たり0.05〜100Nリットルである。ここで、Nリットルとは、気体の標準状態(0℃,1気圧)での体積を示すものとする。油脂1トン当たり0.05〜100Nリットルの窒素を共存することにより、油脂に溶存する酸素量を工業的にかつ簡便に抑制または制御することができる。0.05Nリットル未満の窒素共存下で保存する場合には油脂の酸化劣化が生じやすく、一方、100Nリットルを超える窒素を共存させて保管または輸送する場合には、経済性に欠けるため、好ましくない。特に共存させる窒素は、油脂の温度における飽和溶解度の50〜100%が好ましく、より好ましくは、80から100%である。当該飽和状態は、冷却また加圧条件下で油脂中の窒素を飽和状態とし、ついで、保存中または輸送中の条件下で飽和状態とすることによって得る事ができる。
【0030】
本発明において推奨される油脂中の酸素共存量は1.5Nリットル/トン以下であり、好ましくは、0.005〜1Nリットル/トン、より好ましくは0.1〜1Nリットル/トンである。1.5Nリットル/トンを超える酸素が共存している場合には、油脂の酸化劣化が生じやすくなる場合がある。
【0031】
本発明において推奨される窒素中の酸素含有量は、10〜10,000ppmであり、好ましくは10〜5,000ppm、より好ましくは500〜5,000ppmである。酸化劣化防止の見地からは、酸素含有量は少ない程望ましいが、市販の窒素ガスには少なくとも500ppmの酸素は含まれる。
【0032】
本発明に係る保存安定性の改善された油脂は、窒素ガスを廃白土に吸着した油脂の保管容器(コンテナー等)内に吹き込むことによって製造することができる。
【0033】
推奨される方法としては、減圧脱気した廃白土に吸着した油脂の保管容器に、酸素含有量が10〜10,000ppmである窒素ガスを吹き込む方法が挙げられる。この方法は、ヨウ素価の高い油脂の場合に効果的である。減圧脱気は、減圧脱気装置によって行っても良い。
【0034】
本発明の窒素ガスを吹き込む温度は、油脂が液状を呈する温度であれば差し支えないが、窒素ガスの溶解度からは低い方が好ましい。外気温で液状の油脂の場合は、5〜80℃が推奨され、好ましくは20〜60℃である。
【0035】
油脂に対する窒素ガスの吹き込み量としては、油脂1m3に対して、0.2〜2Nm3が推奨され、特に0.5〜1.5Nm3が好ましい。0.2Nm3未満の場合には窒素ガスの共存量を油脂1トン当たり0.05〜100Nリットルにすることが困難であり、2Nm3を越える場合には、一般に油脂への窒素の溶解度を超えて窒素が供給される結果、窒素ガスが無駄に消費されるため、いずれの場合も好ましくない。
【0036】
さらに、本発明の油脂をコンテナーで長時間保管したり、コンテナーで長時間輸送するには、コンテナーとして、本発明の窒素ガスによる弱加圧を保つ装置を装備しているコンテナーが好ましい。
【0037】
揮発性有機溶媒とは揮発性を有する有機溶媒をいい、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素類などから選ばれた揮発性の有機溶媒を挙げることができる。揮発性有機溶媒を選ぶと、廃白土から油脂を抽出した後、油脂から有機溶媒を除去することにより、油脂を化学製品を製造する原料として有効に使用できる。
【0038】
以下に実施例をあげて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0039】
<油脂の保存安定性>
【0040】
1) 油脂の保存安定性は、酸価(単位:mgKOH/g)は、JIS K−1525に準拠して測定した。
【0041】
2) 色相(ハーゼン)は、JIS K−0071−1に準拠して測定した。
【0042】
3) 臭気は、225mlの蓋付きマヨネーズ瓶に試料150gを入れ、蓋を開放した直後の臭気の有無を評価した(モニター:10名)
【0043】
○:異臭が認められなかった場合
【0044】
△:わずかに異臭が認められた場合
【実施例1】
【0045】
<廃白土に含まれる菜種油>
【0046】
採取されたままの菜種油を、1)遠心分離精製、2)酸処理精製、3)アルカリ処理精
製、4)白土処理精製の4工程からなる連続式精製装置で精製した。これらの最終工程の
白土をフィルタープレス法で濾過し、精製菜種油を残留する廃白土2.7トン(温度:59℃、菜種油含有量:約32%)を得た。この廃白土に対して、500ppmの酸素を含む窒素ガスを吹き込み(3m3/h,20分間)ながら、鋼鉄製密閉コンテナーに移送した。このコンテナーを密閉して、1ヶ月放置した後、コンテナー内の菜種油を含有する廃白土から、抽出溶媒としてヘプタンを使用して菜種油を抽出した(ヘプタン使用量 380kg/廃白土100kg)。ヘプタンを留去した後、回収した菜種油の品質を測定した。得られた結果を表1に示す。
【表1】

(比較例1)
【0047】
実施例1において、窒素ガスの吹込みを実施しなかった以外は、実施例1と同様の方法で廃白土から菜種油を抽出した。得られた菜種油の酸価は9.3、色相は8であり、抽出された菜種油は酸化劣化していることが認められた。油脂の酸化臭が認められた。
【実施例2】
【0048】
<廃白土に含まれる大豆油および菜種油>
【0049】
実施例1と同様な連続式精製装置で、大豆油および菜種油を精製した。酸素ガス6000ppmを含む窒素ガスを3m3/h吹き込みながら、廃白土600kgを鋼鉄製密閉コンテナーに移送した。このコンテナーを密閉して、7日間放置した後、コンテナー内の大豆油および菜種油を含有する廃白土から、バッチ式濾過器により抽出溶剤としてヘキサンを使用して大豆油および菜種油を抽出した(溶剤使用量380kg/廃白土100kg)。得られたミセラの溶媒を蒸発させて留去し、大豆油および菜種油を回収し、品質を測定した。得られた結果を表2に示す。
【表2】

【0050】
(比較例2)
【0051】
実施例2において、窒素ガスの代わりに水蒸気を使用して、鋼鉄製コンテナーに移送した。回収大豆油の3日後の酸価は、9.3mgKOH/g、色相は8―であった。
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、保存安定性に優れた廃白土に含まれる油脂が得られ、揮発性の有機溶剤等によって抽出し、他の化学製品を製造する原料として有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(A) 従来のバッチ式精製装置のブロック図である。 (B) 従来の連続式精製装置のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂において、
廃白土に含まれる油脂と窒素を共存させることにより、前記油脂中に窒素を溶解させてなり、
前記油脂1トン当たり、前記窒素の共存量が0.05〜100Nリットルにされていることを特徴とする、廃白土に含まれる油脂。
【請求項2】
天然油脂を出発原料とする精製工程で生成する廃白土に含まれる油脂の安定化方法において、
前記廃白土を保管容器に収容し、
前記保管容器内に、窒素の共存量が、前記油脂1トン当たり、0.05〜100Nリットルになるように、窒素ガスを吹き込み、密閉することを特徴とする、廃白土に含まれる油脂の安定化方法。
【請求項3】
前記油脂1m3あたり、窒素ガスを0.1〜2Nm3吹き込む請求項2に記載の油脂の安定化方法。
【請求項4】
前記油脂1m3あたり、窒素ガスを0.5〜1.5Nm3吹き込む請求項3に記載の油脂安定化方法。
【請求項5】
酸素の共存量は、前記油脂1トン当たり、1.5Nリットル以下にする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の廃白土に含まれる油脂の安定化方法。
【請求項6】
廃白土に含まれる油脂と窒素が共存してなり、前記油脂1トン当たり、前記窒素の共存量が0.05〜100Nリットルにされた油脂原料を準備する工程と、
前記油脂原料から有機溶剤で前記油脂を抽出し、ミセラを得る工程と、
前記ミセラから前記油脂を分離して取り出す工程と、を備えた油脂の製造方法。
【請求項7】
前記窒素は、酸素を10〜10,000ppm含有する、請求項6に記載の油脂の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶剤として、揮発性有機溶媒を用いる請求項6又は7に記載の油脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161649(P2009−161649A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173(P2008−173)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【出願人】(592039554)当栄ケミカル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】