説明

延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法

【課題】延伸時のボーイングの発生を抑制して、延伸前後におけるシート表面の立体構造の形状の崩れを防止できる延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法を提供する。
【解決手段】基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、基材をその長さ方向に走行させながら、基材をその幅方向に延伸すると同時に基材をその長さ方向に収縮させる工程を有する延伸シートの製造方法であって、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させることにより、基材の幅方向におけるボーイングの発生を効果的に抑えるとともに、シート表面の立体構造の形状の崩れを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する基材の幅方向を延伸すると同時に長さ方向を収縮させる延伸工程を有する延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高分子シート又はフィルムからなる基材の延伸には、基材走行方向であるMD(Machine Direction)方向にのみ延伸するロール延伸と、基材幅方向であるTD(Transverse Direction)方向にのみ延伸するテンターが用いられている。基材に求められる特性が一軸延伸で得られる場合はどちらか一方を、二軸延伸が必要な場合は両者を直列に組み合わせ、逐次二軸延伸として延伸シート又はフィルムが製造されている。
【0003】
また、基材種によっては、MD及びTDを同時に延伸する必要があるものもあり、その場合には同時二軸延伸が用いられている。しかし、この同時二軸延伸は延伸条件設定の難易度が高いため、現状は特定の基材にのみ用いられている。
【0004】
ロール延伸の一例を図8に示す。この方式は、一定温度に加熱された予熱ロール(2A,2B,2C,2D)により加熱されたシート1を、延伸ロール(3E,3F,3G,3H)に速度差を付けて、各ロール間で延伸を行う。ロール間のギャップは、基材の温度が下がらぬように極めて小さく設定されている。それ以降は、必要に応じて熱固定ロール(4I,4J)、冷却ロール(5K,5L)等が付加される。また近年では、光学フィルム用途として図9に示すように、延伸ロール3Gを取り外し、延伸ロール3F−3H間でIRヒータ6により加熱し延伸する方式も用いられている。
【0005】
このロール延伸は、ロール間における延伸時に、ロール上で基材の滑りが発生することで基材表面にスクラッチが入り易い。また、ロールと基材の摩擦が発生するため、幅方向(反延伸方向)を拘束する力となる。このため、例えばプリズム形状等の凹凸構造が表面に形成されたシート基材を延伸した場合、当該凹凸構造の形状を維持することができない。また、図10に示すように、TD方向(幅方向)にボーイング7と呼ばれる弓状の曲がりが発生し、この改善が困難となる。
【0006】
次に、TD方向に一軸延伸を行うテンターの概略を図11に示す。この方式は、走行する基材1の幅方向の両端をクリップ8A,8Bでクランプして延伸を行う(例えば特許文献1参照)。クリップ8A,8Bはそれぞれ、基材1の両端に対向して設置されたレール9A,9Bに沿って走行可能であるとともに、基材1の長さ方向に沿って所定ピッチでそれぞれ複数設置されている。テンターは、延伸前の基材を幅方向に伸ばすため大型の製品を製作するには有効な手段である。なお、例えば特許文献2には、プリズムシートをテンターによって延伸し、シート面内に屈折率の異方性を付与するプリズムシートの製造方法が開示されている。
【0007】
しかし、上述のテンターを用いた延伸では、クリップ8A,8Bによる基材の長さ方向の拘束が、基材の反延伸方向である長さ方向の収縮を妨げるように作用するため、延伸したシートには図示するようにボーイング10が大きくなる。
【0008】
一方、一部の基材に用いられている同時二軸延伸の概要を図12に示す。この方式は、前述したテンターと同様に基材幅方向の両端をクリップでクランプし、TD方向及びMD方向に同時に延伸する(例えば特許文献3参照)。基本的に、MDの延伸倍率を1.0倍にするとTD一軸と同様の動作となる。
【0009】
しかし、図11に示したTDテンターはクリップがほぼ隙間なく密着しているのに対し、図12に示した同時二軸延伸はMD方向の収縮を考慮し間隔が大きいため、延伸時にネックインと呼ばれるクビレ11が発生する。このネックインが発生することにより、製品として使用できるシートの幅寸法が小さくなることが、この方式の大きな課題である。また、ボーイングについては、MD延伸倍率を1.0とした場合、TDテンターと同様の現象が発生し、更にネックインの影響も受ける。この影響を抑えるためには、2インチ、または、それ以下の把持長さが小さいクリップを用いることが有効である。なお、一般的に同時二軸延伸装置はMD、TDともに1.0倍以上に延伸することを前提に作られており、1.0倍未満の収縮での使用は考慮されていない。
【0010】
【特許文献1】特開2005−254812号公報
【特許文献2】WO2006/071621号公報
【特許文献3】特開2002−370278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上で述べた延伸方式は、いずれの方式もボーイングと呼ばれる弓状の曲がりが発生する。このため、表面にプリズム形状を有するシートを延伸する場合、延伸されたシート面内で一定の形状を維持することは困難である。
【0012】
図13に示すとおり、代表的なプリズムシート12は、一定の底角θを有する直線的な斜面13a,13bによりプリズム13が構成されている。そのため、プリズムシート12を延伸処理してプリズム13の稜線方向とその配列方向との間でプリズムシート12の屈折率を異ならせる場合には、図中D1で示すプリズム13の稜線方向に延伸する必要がある。図中D2で示すプリズム13の配列方向に延伸した場合、図14に模式的に示すようにプリズム形状が変形してしまい、所望の光学特性が得られなくなるからである。
【0013】
また、プリズム稜線方向(D1)の延伸でも、一方向に延伸したことによる反延伸方向(D2)の収縮を妨げる方向に力が働いた場合、同様にプリズム形状の変形が発生する。例えば、ロール延伸時にロールと基材の間の摩擦により発生する力が、基材の反延伸方向の収縮を妨げるように作用する。また、テンターを用いた延伸では、クリップによる基材の長さ方向の拘束が、基材の反延伸方向の収縮を妨げるように作用する。
【0014】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、延伸時のボーイングの発生を抑制して、延伸前後におけるシート表面の立体構造の形状の崩れを防止できる延伸シートの製造方法および異方性光学シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の延伸シートの製造方法は、基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、基材をその長さ方向に走行させながら、基材をその幅方向に延伸すると同時に基材をその長さ方向に収縮させる工程を有する延伸シートの製造方法であって、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させることを特徴とする。
【0016】
本発明の延伸シートの製造方法においては、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させるようにしているので、基材をその幅方向に延伸した際、基材を把持するクリップによって、当該基材の反延伸方向である長さ方向への収縮が阻害されることはない。これにより、基材のボーイングの発生を効果的に抑えることが可能となる。
【0017】
また、本発明の延伸シートの製造方法は、基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、基材をその長さ方向に走行させながら、基材をその幅方向に延伸すると同時に基材をその長さ方向に収縮させる工程を有する延伸シートの製造方法であって、基材は、少なくとも一方の面に、幅方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、基材の延伸工程では、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させることを特徴とする。
【0018】
本発明の延伸シートの製造方法においては、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させるようにしているので、基材をその幅方向に延伸した際、基材を把持するクリップによって、当該基材の反延伸方向である長さ方向への収縮が阻害されることはない。これにより、基材のボーイングの発生を効果的に抑えることができるとともに、シート表面の立体構造の形状の崩れを防止できる。
【0019】
シート表面に形成される立体構造としては、プリズム体やレンチキュラーレンズ体など、偏向性あるいは集光性を有する立体構造が挙げられる。この構造体は、シートの一方の面だけに限られず、シートの両面に形成されていてもよい。これにより、プリズムシートやレンチキュラーレンズシート等の延伸シートからなる光学シートを高精度に製造することができる。
【0020】
また、基材の延伸工程の終了後は、基材の幅方向の両端に沿って隣接する複数のクリップを互いに密着させることによって、基材の両端に生じるネックイン(クビレ)を最小限に抑えることが可能となる。
【0021】
そして、本発明の異方性光学シートの製造方法は、基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、基材をその長さ方向に走行させながら、基材をその幅方向に延伸するとともに基材をその長さ方向に収縮させることで、基材の幅方向と長さ方向に関して屈折率の異方性をもたせる異方性光学シートの製造方法であって、基材は、少なくとも一方の面に、幅方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、基材の延伸工程では、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させることを特徴とする。
【0022】
本発明の異方性光学シートの製造方法においては、基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させるようにしているので、基材をその幅方向に延伸した際、基材を把持するクリップによって、当該基材の反延伸方向である長さ方向への収縮が阻害されることはない。これにより、基材のボーイングの発生を効果的に抑えることができるとともに、シート表面の立体構造の形状の崩れを防止でき、更に面内の光学的異方性(複屈折)の均一化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように、本発明によれば、延伸時におけるボーイングの発生を抑制することができ、形状精度に優れた延伸シートを製造することができる。また、シート表面に形成された立体構造の形状を崩すことなく安定した延伸処理が可能となる。更に、延伸処理によって面内屈折率の異方性を付与するに際して、シート面内における光学的異方性の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1および図2は本発明の実施形態において使用されるテンター装置20の概略構成を示す側面図および平面図である。図示するテンター装置20は、基材21の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップ22A,22Bで把持(クランプ)し、基材1をその長さ方向(Y軸方向)に走行させながらその幅方向(X軸方向)に延伸する。テンター装置20は、ロール状に巻かれた基材21を送り出す巻出しユニット27と、巻き出した基材21を延伸する延伸ユニット24と、延伸した基材21Pをロール状に巻き取る巻取りユニット29とで構成されている。
【0026】
基材21は、透光性の高分子シート又はフィルムからなる。特に、基材21が結晶性又は半結晶性高分子材料で構成される場合には、例えば結晶化度が20%以下のアモルファス状態の高分子シート又はフィルムが用いられることが好ましい。
【0027】
図3Aは基材21の表面形態を示す概略斜視図である。基材21の表面には、基材21の幅方向(X軸方向)に稜線方向を有する立体構造21aが、基材21の走行方向(Y軸方向)に多数配列されている。立体構造21aは、基材21の幅方向から見たときの形状が例えば頂角90度の二等辺三角形からなるプリズム形状を有する。そして、基材21は、テンター装置20によって幅方向(プリズム稜線方向)に所望の延伸倍率で延伸されることで、図3Bに示すように立体構造21aが形状的に相似縮小されるとともに、立体構造21aの配列ピッチが微細化される。なお、立体構造21aは上述のプリズム体に限られず、シリンドリカルレンズ等のレンチキュラーレンズ体であってもよい。
【0028】
延伸ユニット24は、走行する基材21の幅方向の両端に沿って延在する一対のレール23A,23Bを備えている。基材21の両端を各々クランプするクリップ22A,22Bは、これらレール23A,23Bの延在方向に沿ってそれぞれ複数設置されており、図示しない制御ユニットによってレール23A,23Bを後述する所定の速度プロファイルで連続的に移動する。
【0029】
また、延伸ユニット24は、上流側から順に配置された予熱部25A、延伸部25B、熱固定部25C及び冷却部25Dで構成されている。レール23A,23Bは、予熱部25Aから冷却部25Dにわたって延在しており、クリップ22A,22Bはレール23A,23B上を周回することによって、予熱部25A、延伸部25B、熱固定部25C及び冷却部25Dの順に連続的に循環する。基材21の幅方向に対向するクリップ22A,22Bの対は、互いに同期した速度でレール23A,23B上を走行する。
【0030】
予熱部25Aでは、巻出しユニット27から巻き出された基材21の両側縁部をクリップ22A,22Bでクランプした後、基材21の走行途上において基材21を延伸処理温度(例えば基材21のガラス転移温度以上の所定温度)に予熱する。延伸部25Bでは、基材21を挟んで対向するクリップ22A,22Bの対向間隔を徐々に広げて基材21を幅方向に延伸する。熱固定部25Cは、延伸処理した基材21Pの結晶配向性を安定化させるための領域である。冷却部25Dでは、延伸処理した基材21Pを室温に冷却した後、クリップ22A,22Bによる基材21のクランプ作用を解除する。
【0031】
一般的に、高分子フィルムをその幅方向(TD方向)に延伸する場合、図4に示すような挙動を示す。ここで、延伸前の基材幅をW、長さをL、厚さをTとし、幅方向にP倍延伸するときに、反延伸方向(長さ方向)を拘束しない場合には、延伸後の寸法Wa、La、Taは以下の通りとなる。
Wa=W・P、La=L・(1/√P)、Ta=T・(1/√P) …(1)
【0032】
(1)式に示したように、延伸後のフィルムの体積は延伸前のそれと変化しない。また、図4はフィルムが所定サイズにカットされた枚葉の状態を示しているが、フィルムが連続的なウェブ状態でも同様の挙動を示す。なお、図2において基材21に示した格子間領域A1,A2は、基材21の面内単位領域であって延伸前後における形状変化の例を模式的に示している。
【0033】
本実施形態では、延伸部25Bにおける基材21の延伸工程に際して、基材21の長さLaがL/√P倍となる収縮進行度よりも早く、当該基材21の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ22A(22B)間の距離(以下「隣接クリップ間距離」ともいう。)を減少させるようにしている。これにより、基材21の反延伸方向(長さLa方向)の収縮が阻害されることがなくなるので、基材21のボーイングと呼ばれる弓状の曲がりを抑えることが可能となる。
【0034】
このような延伸方法を実現するために、本実施形態のテンター装置20は、以下のようにして構成されている。予熱部25A、熱固定部25C及び冷却部25Dにおいては、クリップ22A,22Bを等速度で移動させる一方、延伸部25Bにおいては、クリップ22A,22Bの移動速度を徐々に低下させ、延伸処理が進むにつれて、隣接クリップ間距離を徐々に小さくする(図2)。
【0035】
図5は、TD方向の延伸倍率を4倍、延伸前の基材搬送速度を5[m/min]、延伸部25Bのゾーン長を800[mm]とした場合の基材長手方向の位置(MD位置)と延伸倍率(TD延伸倍率、MD延伸倍率)との関係を示しており、併せて、クリップ移動速度と隣接クリップ間距離の減少率を示している。
【0036】
図5において、基材のMD延伸倍率は、当該基材のTD方向の延伸倍率に対応して小さくなる(MD収縮倍率は大きくなる)。このとき、MD方向の収縮倍率とTD方向の延伸倍率は必ずしもリニアに対応せず、TD方向の延伸倍率の直線的な変化に対して、MD方向の収縮倍率は曲線的に変化する。そこで、TD方向の延伸倍率に対応したMD方向の自由な収縮動作を確保するために、クリップ移動速度は理論上、上記(1)式に示したLaに関する式を満たすように、1/√(TD延伸倍率)の比率で隣接クリップ間距離を縮める必要がある。
【0037】
しかし、このような理論値でクリップ移動速度制御を行うことは困難であるため、実際のテンター装置としては、クリップ移動速度制御として、クリップ移動開始点Sと移動終了点E1の間を結んだ直線的な近似速度制御が行われるのが通常である。また、実際のMD方向の収縮にはTD方向の延伸操作に対して所定の時定数を有するため、理論上のクリップ移動速度制御を実現したとしても、実際に得られる延伸シートにはボーイングを完全に抑えることが困難である。
【0038】
本実施形態では、図5に示したように、基材のMD方向の収縮進行度よりも早く、隣接クリップ間距離を減少させるようにしている。ここでいう「MD方向の収縮進行度」は、図5に示したMD延伸倍率の曲線に従って進行する基材のMD方向の収縮量を表している。基材のMD方向の最大収縮位置は、MD方向の最終収縮倍率に相当する。
すなわち、理論上のクリップ移動速度による制御では、延伸開始点Sから800mm(点E1)の位置で、基材のMD方向の最大収縮倍率を実現するクリップ間距離を得るようにしている。これに対して、本実施形態では、点Sから500mm(点E2)の位置で、基材のMD方向の最大収縮倍率を実現するクリップ間距離を得るようにしている。具体的に本実施形態では、延伸工程におけるクリップ移動速度の低下率を、上述の近似速度制御によるクリップ移動速度の低下率よりも大きくしている。これにより、隣接クリップ間距離の減少率がMD延伸倍率(理論値)の減少率よりも大きくなる。
【0039】
このように、基材のMD方向の収縮進行度よりも、隣接クリップ間距離の減少量を先行させることにより、クリップによる拘束の影響を受けない基材のMD方向の収縮動作が確保される。なお、点E2を通過後のクリップ速度は、当該速度で等速度制御される。
【0040】
本実施形態によれば、延伸工程におけるクリップ22A,22Bの移動速度制御を上述のようにして行うことにより、基材21はその長さ方向においてクリップ22A,22Bの拘束を受けることなく、幅方向の延伸倍率に対応した自由な収縮が可能となる。これにより、延伸時に基材21のボーイングを効果的に抑制することができる。
【0041】
なお、点Sから点E2までにおけるクリップ移動速度制御は図示する直線的なものに限られず、曲線的なものであってもよい。また、延伸ゾーン(延伸部25B)においてレール23A,23B上を走行するクリップ22A,22Bの経路も図2に示したような直線状に限られず、曲線状としてもよい。
【0042】
また、図6に示すように、基材21の延伸工程の終了後は、基材21の幅方向の両端に沿って隣接する複数のクリップ22A,22Bが互いに密着するように、予めクリップ間距離を設定しておくことで、作製された延伸シート21Pの幅方向の両端に形成されるネックイン(クビレ)21nを小さくすることができる。これにより、延伸シート21Pの面内の製品領域を広くとることができ、材料の有効利用を図ることができる。
【0043】
一方、本実施形態によれば、MD方向の拘束力を受けることなくTD方向の延伸処理を行うことができるので、基材21の表面に形成された立体構造21aを形状の崩れなく相似縮小することが可能となる。更に、延伸工程における基材21のボーイング発生を抑制することができるので、製造された延伸シート21Pのプリズム稜線方向の曲がり又はうねりの発生が抑制され、形状特性に優れた延伸プリズムシート21Pを作製することが可能となる。
【0044】
更に、上述した延伸処理によってプリズムシート21Pが製造されるので、延伸方向と反延伸方向とで屈折率が相違する光学的異方性を備えたプリズムシート(異方性光学シート)21Pを得ることができる。特に本実施形態によれば、プリズム稜線方向の延伸時にプリズム配列方向の適正な収縮動作を確保することができるので、屈折率異方性の面内均一化を図ることができる。
【0045】
ここで、基材21の構成材料としては、延伸方向に屈折率が大となる高分子材料と、延伸方向に屈折率が小となる高分子材料があるが、何れの材料も使用可能である。延伸方向に屈折率が大となる高分子材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)及びこれらの混合物又はPET−PENコポリマー等の共重合体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリアミド等が挙げられる。一方、延伸方向に屈折率が小となる高分子材料としては、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン−メチルメタクリレート共重合体及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0046】
また、上述のようにして製造される延伸シート21Pの面内屈折率異方性(複屈折)の大きさは特に限定されないが、後述するように、液晶表示装置用のプリズムシートに当該延伸シート21Pが用いられる場合には、複屈折は大きい方が好ましい。
【0047】
本実施形態においては、基材21(21P)の構成材料として、PETやPENなどの延伸方向に屈折率が大となる樹脂材料が用いられている。上記延伸処理により、延伸シート21Pには、X軸方向(プリズム稜線方向)の面内屈折率(nx)の方が、Y軸方向(プリズム配列方向)の面内屈折率(ny)よりも大きい屈折率異方性(nx>ny)を有している。このような構成の延伸シート21Pは、プリズム21aの形成面を出射する光について、プリズム稜線方向の偏光成分の出射光量よりも、プリズム配列方向の偏光成分の出射光量の方が多いという光学特性を備える。
【0048】
図7は、上述した構成の延伸シート21Pをプリズムシートとして用いた液晶表示装置30の概略構成図である。この液晶表示装置30は、液晶表示パネル31と、この液晶表示パネル31を挟む第1偏光子(偏光板)32A及び第2偏光子(偏光板)32Bと、プリズムシート21Pと、拡散シート33と、バックライトユニット34とを備えている。
【0049】
プリズムシート21Pは、上述のテンター装置20によって製造された延伸シートを所定幅に裁断してなるもので、液晶表示装置30の正面輝度を向上させるための輝度向上フィルムとして用いられる。プリズムシート21Pは、バックライトユニット34からの照明光(バックライト光)を拡散出射する拡散シート33の光出射面側に配置され、プリズム21aの形成面が液晶表示パネル31側に向けられることで、拡散シート33からの出射光を正面方向に集光する機能を果たす。
【0050】
また、液晶表示パネル31を挟む一対の偏光子32A,32Bはそれぞれの透過軸a,bが互いに直交するように配置されている。図示の例では、プリズムシート21Pは、バックライトユニット34側に位置する第1偏光子32Aの透過軸aに対して、プリズムシート21Pのプリズム配列方向(Y軸方向)がほぼ平行となるように配置されている。
【0051】
この例では、プリズム稜線方向(X軸方向)に屈折率が大なる光学的異方性を有するプリズムシート21Pを用いる場合に特に効果的であり、出射光量の多い方の偏光成分を効率よく液晶表示パネル31へ入射させることができることから、正面輝度の向上を図れるようになる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0053】
例えば、以上の実施形態では、表面に立体構造21aが形成された高分子シート又はフィルムからなる基材の延伸方法について説明したが、表面に立体構造が形成されない平坦な高分子シート又はフィルムからなる基材の延伸処理に対しても本発明は適用可能であり、このような基材を用いても延伸時における基材のボーイングを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態において用いられるテンター装置の概略側面図である。
【図2】本発明の実施形態において用いられるテンター装置の概略平面図である。
【図3】本発明の実施形態において用いられる基材あるいは延伸シートの構成を示す概略斜視図である。
【図4】延伸前後における基材(高分子シート)の幅、長さ、厚さの寸法変化を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態による延伸シートの製造方法を説明する図である。
【図6】図2に示したテンター装置の構成の変形例を示す概略平面図である。
【図7】本発明の実施形態において作製された異方性光学シートをプリズムシートとして用いた液晶表示装置の概略構成図である。
【図8】従来のロール延伸装置の概略構成図である。
【図9】従来の他のロール延伸装置の要部の概略構成図である。
【図10】従来のロール延伸装置の問題点を説明する要部の概略平面図である。
【図11】従来のテンター装置の概略構成図である。
【図12】従来の他のテンター装置の概略構成図である。
【図13】プリズムシートの概略構成図である。
【図14】従来の延伸方法によって作製したプリズムシートのプリズム形状が崩れた様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
20…テンター装置、21…基材、21a…立体構造(プリズム体)、21P…延伸シート、プリズムシート(異方性光学シート)、22A,22B…クリップ、23A,23B…レール、24…延伸ユニット、25A…予熱部、25B…延伸部、25C…熱固定部、25D…冷却部、30…液晶表示装置、31…液晶表示パネル、32A,32B…偏光子、33…拡散シート、34…バックライトユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、前記基材をその長さ方向に走行させながら、前記基材をその幅方向に延伸すると同時に前記基材をその長さ方向に収縮させる工程を有する延伸シートの製造方法であって、
前記基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、前記基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させる
ことを特徴とする延伸シートの製造方法。
【請求項2】
基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、前記基材をその長さ方向に走行させながら、前記基材をその幅方向に延伸すると同時に前記基材をその長さ方向に収縮させる工程を有する延伸シートの製造方法であって、
前記基材は、少なくとも一方の面に、幅方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、
前記基材の延伸工程では、前記基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、前記基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させる
ことを特徴とする延伸シートの製造方法。
【請求項3】
前記立体構造は、プリズム体またはレンチキュラーレンズ体である
ことを特徴とする請求項2に記載の延伸シートの製造方法。
【請求項4】
前記基材の延伸工程の終了後は、前記基材の幅方向の両端に沿って隣接する複数の前記クリップを互いに密着させる
ことを特徴とする請求項2に記載の延伸シートの製造方法。
【請求項5】
基材の幅方向の両端をそれぞれ複数のクリップで把持し、前記基材をその長さ方向に走行させながら、前記基材をその幅方向に延伸するとともに前記基材をその長さ方向に収縮させることで、前記基材の幅方向と長さ方向に関して屈折率の異方性をもたせる異方性光学シートの製造方法であって、
前記基材は、少なくとも一方の面に、幅方向に稜線方向を有する立体構造が多数形成された透光性のシートからなり、
前記基材の延伸工程では、前記基材の長さ方向の収縮進行度よりも早く、前記基材の幅方向の両端に沿って隣接するクリップ間の距離を減少させる
ことを特徴とする異方性光学シートの製造方法。
【請求項6】
前記透光性のシートとして、延伸方向に屈折率が大となる材料を用いる
ことを特徴とする請求項5に記載の異方性光学シートの製造方法。
【請求項7】
前記透光性のシートとして、延伸方向に屈折率が小となる材料を用いる
ことを特徴とする請求項5に記載の異方性光学シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−221782(P2008−221782A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67158(P2007−67158)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】