説明

延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法

【課題】フィルム単体で、面内の遅相軸や係数Nz値が特定の特性を有する、長尺の延伸フィルムおよびそのような長尺の延伸フィルムの製造方法を提供すること
【解決手段】フィルムの幅が1000mm以上で、フィルムの幅方向から、10〜80°傾いた方向に面内の遅相軸を有し、該遅相軸の方向のばらつきが、該フィルムの全幅に亘って±1.5°以内であり、且つ、波長550nmの光に対する、面内の遅相軸方向の屈折率をn、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をn、厚さ方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が0を超え0.85未満であることを特徴とする透明樹脂からなる長尺の延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内の遅相軸や係数Nz値が特定の特性を有する、長尺の延伸フィルムおよびそのような長尺の延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、2枚の偏光板と、それに挟まれた液晶セルとを必須構成要素とするものである。2枚の偏光板はそれぞれ偏光軸が交差角90度で交わっており、正面から観察すると光が透過せずに黒く見える。ところが、斜めから観察すると偏光軸の見かけの交差角が90度よりも大きくなるため光漏れを生じる。この光漏れは大画面の液晶ディスプレイにおいては特に解決しなければならない課題となっている。このような視野角依存性を低減するための光学補償フィルムとして様々な位相差フィルムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、クリップの移動速度を延伸ゾーンにおいて徐々に加速してクリップ移動方向に大きく延伸し且つ斜めにも延伸を行うことによって得られる、Nz’係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率〕が1.15以下であり、分子配向軸がフィルム長手方向に対して傾斜している光学フィルムを開示している。
【0004】
また、非特許文献1には、Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率〕が0以下のN−置換マレイミド共重合体からなる延伸フィルムと、Nz係数が1以上のポリカーボネートからなる延伸フィルムとを組み合わせ積層することによって得られる、Nz係数が約0.5の位相差積層フィルムが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−321543号公報
【非特許文献1】東ソー研究・技術報告、第23−29頁、第48巻(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の検討によると、非特許文献1にも開示されるとおり、フィルム単体でNz係数が0より大きく1より小さい、実用的な位相差フィルムを得ることは容易でなく、例えば、特許文献1に記載の方法では幅400mm程度の位相差フィルムを製造できるにとどまり、約1000mmを超えるような幅広の位相差フィルムを得ることは困難であることがわかった。
【0007】
本発明の目的は、フィルム単体で、表示装置の光学補償に効果的に有効で且つ利用効率が高い、長尺の延伸フィルム(以下、「位相差フィルム」ということもある。)、及びそのような延伸フィルムの効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために検討した結果、特定の延伸条件を採用することによって始めて、特定の光学性能を有する、長尺幅広で厚みが均一な延伸フィルムが得られることを見出し、さらに、この延伸フィルムが表示装置の光学補償に効果的に有効であることを突き止め、この知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
かくして、本発明によれば、
(1)透明樹脂からなる長尺の延伸フィルムであり、
該フィルムの幅が1000mm以上で、
該フィルムの幅方向から、10〜80°傾いた方向に面内の遅相軸を有し、
該遅相軸の方向のばらつきが、該フィルムの全幅に亘って±1.5°以内であり、且つ、
波長550nmの光に対する、面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をn、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をn、厚み方向の屈折率の平均値をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が0を超え1未満であることを特徴とする長尺の延伸フィルム、
(2)係数Nz値が、0.15を超え0.85未満であることを特徴とする(1)に記載の位相差フィルム、
(3)(1)又は(2)に記載の長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層させてなることを特徴とする長尺の積層フィルム、
(4)(3)に記載の長尺の積層フィルムを所定の大きさに切り取ってなる偏光板を備えることを特徴とするSTNモードの液晶表示装置、
(5)(3)に記載の長尺の積層フィルムを所定の大きさに切り取ってなる偏光板を備えることを特徴とする反射型液晶表示装置、
(6)光学的等方性の長尺のフィルムを延伸して幅方向から10〜80°傾いた方向に面内の遅相軸を有する延伸フィルムとすることを含み、
フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にし、
2つの延伸終了点を結んだ線と延伸終了点通過後のフィルム幅方向の成す劣角θe〔deg〕が、50°より大きく80°より小さく、且つ、
前記延伸における、フィルム幅方向の変形倍率Rが1.0倍以上2倍より小さい、ことを特徴とする、
幅が1000mm以上であり、遅相軸の方向のばらつきが全幅に亘って±1.5°以内であり、係数Nz値が0を超え1未満である、長尺の延伸フィルムの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の延伸フィルムは、表示装置、特にSTNモードの液晶表示装置又は反射型の液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、コントラストの低下や着色を防止することができる。また、幅方向の厚みが均一なため、長尺で得ることができるので、偏光板などの液晶表示装置に用いられる他の長尺の光学素子と、ロール・トウ・ロールによる重ね合わせができる。
また、本発明の延伸フィルムの製造方法は、フィルム単体で、特定の光学性能を有する、皺が無く、高速で巻き取りが可能な、幅広で長尺の位相差フィルムを、効率的に得ることができる。さらに、このように、二枚以上のフィルムを積層することなく、特定の光学性能を有する位相差フィルムを得ることができるので、液晶表示装置の軽量化や薄型化に貢献できる。また、フィルム単体で幅広の位相差フィルムを得ることができるので、視野角特性に優れた、大画面の液晶表示装置を製造できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の延伸フィルムは透明樹脂からなる。透明樹脂とは、所望の波長に対して透明な樹脂である。特に、熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、本発明に用いる透明樹脂は、固有複屈折値が正である樹脂からなることが好ましい。透明樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマーなどが挙げられる。これらのうち脂環構造を有するオレフィンポリマーが好適である。
【0012】
脂環構造を有するオレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、および、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。
【0013】
本発明に用いる透明樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(透明樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本発明の延伸フィルムの機械的強度および延伸加工性とが高度にバランスされ好適である。
本発明に用いる透明樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.1〜4.0、特に好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0014】
本発明に用いる透明樹脂は、ガラス転移温度が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃である。また、透明樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σ で表される値である。光弾性係数がこのような範囲にある透明樹脂を用いると、本発明方法により得られる延伸フィルムを表示装置に適用した場合に、表示装置の表示画面の端部の色相が変化する現象を抑えることができる。
【0015】
本発明に用いる透明樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
【0016】
本発明の延伸フィルムは、長尺のフィルムである。長尺とは、フィルムの幅に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。本発明の長尺の延伸フィルムは、その幅が、1000mm以上、好ましくは1500mm以上、より好ましくは2000mm以上である。本発明の延伸フィルムは、その製造工程において、任意に、延伸後にその幅方向の両端を切り落として作成されるが、この場合、上にいうフィルムの幅は、両端を切り落とした後の寸法とすることができる。
【0017】
本発明の延伸フィルムの平均厚みは特に制限されないが、機械的強度などの観点から、好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは30〜160μm、特に好ましくは30〜150μmである。
また、本発明の延伸フィルムの幅方向の厚みムラは最大値と最小値の差で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下である。厚みムラがこのような範囲にあると、本発明の延伸フィルムを、高速で、長尺で巻き取ることができ、且つ、延伸フィルムを表示装置に用いた場合に、表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0018】
本発明の延伸フィルム中の残留揮発性成分の含有量は特に制約されないが、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、後述する面内方向のレターデーションや厚み方向のレターデーション(Rth)の経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸フィルムを備える偏光板や表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。残留揮発性成分の含有量が上記範囲を超えると、経時的に光学特性が変化するおそれがある。残留揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。残留揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0019】
本発明の延伸フィルムの飽和吸水率は好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、面内方向のレターデーションや厚み方向のレターデーションの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸フィルムを備える偏光板や表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
飽和吸水率は、フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。本発明の延伸フィルムにおける飽和吸水率は、例えば熱可塑性樹脂中の極性基の量を減少させることにより、上記範囲内に調節することができるが、好ましくは、極性基を持たない樹脂であることが望まれる。
【0020】
本発明の延伸フィルムの面内方向のレターデーション(Re)(nm)および厚み方向レターデーション(Rth)(nm)は、表示装置の設計によって異なるが、通常、Reは50〜1000nm、Rthは−500〜500nm程度の範囲から適宜選択される。なお、本発明におけるReは、フィルムの平均厚みTとしたときに、(n−n)×Tで定義される値であり、本発明におけるRthは、(((n+n)/2)−n)×Tで定義される値である。
【0021】
本発明の延伸フィルムは、Reのムラが通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのムラを、上記範囲にすることにより、表示装置用に用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Reのムラは、光入射角0°(入射光線と本発明の延伸フィルム表面が直交する状態)の時のReを本発明の延伸フィルムの幅方向に亘って任意に数点測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0022】
本発明の延伸フィルムは、その幅方向から10〜80°傾いた方向に面内の遅相軸を有する。さらに、その遅相軸の方向のばらつきが、フィルムの全幅に亘って±1.5°以内、好ましくは±0.7°以内、より好ましくは±0.3°以内である。遅相軸が上記のような範囲の特性を有し、且つ後述の係数Nz値が後述の範囲にあることにより、延伸フィルムを表示装置に用いた場合に、表示装置の輝度及び正面コントラストを向上させ、視野角のばらつきを小さくさせることができる。ここで、遅相軸の方向のばらつきは、本発明の延伸フィルムの幅方向に亘って遅相軸を任意に数点測定したときの、その遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角度(以下、配向角をいうことがある)の最大値と最小値との差である。
【0023】
本発明の延伸フィルムは、波長550nmの光に対する、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をn、面内の進相軸方向(面内の遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率の平均値をn、フィルムの厚み方向の屈折率の平均値をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が、0を超え1未満、好ましくは0を超え0.85未満、より好ましくは0.15を超え0.85未満、さらに好ましくは0.15を超え0.70未満、特に好ましくは0.30を超え0.70未満である。Nz値がこのような範囲にあり、且つ上記遅相軸が上記の特性を有することにより、延伸フィルムを表示装置に用いた場合に、表示装置の輝度及び正面コントラストを向上させ、視野角のばらつきを小さくさせることができる。ここで、上記屈折率nの平均値は、本発明の延伸フィルムの幅方向に亘って該屈折率を任意に数点測定したときの、その算術平均値である。また、屈折率n、及びnも同様にして求める。
【0024】
本発明の長尺の延伸フィルムの製造方法は、
光学的等方性の長尺のフィルム(以下、原料フィルムということがある。)を延伸して延伸フィルムを得る工程において、フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にすることを含む方法である。フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にする(つまり、フィルムの長手方向には延伸しない)ことにより、延伸フィルムを皺なく製造することができる。なお、フィルムの両端の走行速度が略等しいとは、フィルムの両端の走行速度差が2%以下のことを指す。また、フィルムの両端の走行速度が一定とは、フィルムの両端の走行速度のばらつきが、0.5%以下のことを指す。
【0025】
より具体的には、長尺フィルムを巻回体から引き出す工程;該フィルムの幅方向の両端を把持手段により把持する工程;予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンを通過させて該フィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程;該延伸フィルムの両端を把持手段から解放する工程;および該延伸フィルムを巻芯に巻き取る工程を含み、延伸フィルムを得る工程において、両端の把持手段の走行速度を略等しく且つ各工程中を通して一定にすることを含む方法である。
【0026】
本発明の製造方法を、図面をもってより詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法の一例を説明するための図である。図1右側の巻回体(図示せず)からフィルムが引き出され、フィルムの両端をクリップなどの一対の把持手段(図示せず)で把持し、矢印48の方向にフィルムが送り込まれる。このフィルムの送り込み方向は巻回体からフィルムを引き出す方向と同じである。
フィルムは先ず予熱ゾーンに入る。予熱ゾーンではフィルムの幅Wを変えずに、フィルムの温度を上げる。予熱ゾーンにおける加熱温度はフィルムの材質によって適宜選択することができ、通常、フィルムを構成する樹脂材料のガラス転移温度をTgとしたときに Tg−30〜Tg+20℃の範囲の温度である。
【0027】
次に延伸ゾーンにフィルムが入る。延伸ゾーンではフィルムが延伸される。延伸は一対の把持手段間の距離が変化し始めることによって開始される。図1ではS1及びS2において一対の把持手段間の距離が広がり始めている。この拡がり始めた点における一対の把持手段が、図1中左側に走行し、この一対の把持手段間の距離が変わらなくなる点E1及びE2で延伸が終了する。この点が延伸終了点である。両端の把持手段は走行速度が略等しく一定であるので、S1からE1までの走行距離と、S2からE2までの走行距離は等しい。両端の把持手段の走行速度差は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、とくに好ましくは0.1%以下にする。両端の把持手段の走行速度差が上記範囲を超えると、得られる延伸フィルムに皺が発生するおそれがある。把持手段の走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜100m/分である。把持手段の走行パターンは特に制限されない。図1では直線を基調にし予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目及び延伸ゾーンと固定ゾーンの境目の2箇所で屈曲した走行パターンとなっているが、曲線を基調にした走行パターンであってもよい。延伸ゾーンの温度は、通常Tg−20〜Tg+20℃の温度である。本発明においてはフィルムの幅方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。特に本発明においては把持手段付近の温度をフィルム中央部よりも高めにすることが好ましい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。
【0028】
次いでフィルムは固定ゾーンに入る。固定ゾーンでは、延伸された状態を保ちつつ、フィルムの温度を下げる。固定ゾーンの温度は、通常Tg−40〜Tg+20℃の温度である。
【0029】
固定ゾーンを通過したフィルムは、矢印49の方向に送り出され、巻芯(図示せず)に巻き取られ、巻回体となる。フィルムが送り出される方向は巻芯に巻き取る方向と同じである。フィルムを送り込む方向48と送り出される方向49とは角度θ(以下、曲げ角度ということがある。)を成しており、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンを通過する間に、角度θだけフィルムが曲げられることとなる。この曲げ角度θや延伸ゾーンでの拡がり角度等の値を変更することによって、フィルムの幅方向に対して斜交する方向への延伸方向が調整される。送り出されたフィルムの幅はWとなっており、幅方向にR(=W/W)倍に変形される。本発明の製造方法によれば、得られる延伸フィルムの遅相軸を、フィルムの幅方向から、10〜80°傾いた方向に向かせることができる。
【0030】
本発明の製造方法では、2つの延伸終了点を結んだ線E1−E2と延伸終了点通過後のフィルム幅方向とが成す劣角θ〔deg〕(以下、延伸角度と言うことがある。)を50〜80°にし、且つ、フィルムの幅方向の変形倍率R〔=W/W〕を1.0倍以上1.2未満にする。延伸角度θは、55〜80°にすることが好ましく、60〜80°にすることがより好ましい。延伸角度θが上記範囲を下回ると、延伸フィルムのNz値が上記範囲外となるおそれがある。延伸角度θが上記範囲を上回ると、延伸フィルムに皺が発生するおそれがある。変形倍率Rは、1.0倍以上1.1倍未満にすることが好ましく、1.0倍以上1.05倍未満にすることがより好ましく、1.0倍にすることが特に好ましい。Rが上記範囲下回ると、延伸フィルムの幅が原料フィルムの幅よりも小さくなる上に、延伸フィルムに皺が発生するおそれがある。また、Rが上記範囲以上となると、延伸フィルムのNz値が上記範囲外となるおそれがある。
【0031】
以下に、延伸角度θ及び変形倍率Rと得られる延伸フィルムの光学特性の関係について説明する。図1のように、延伸角度をθの角度にしてフィルムを曲げながら延伸を行うと、図2に示すように、長さM、幅Wの長方形フィルム(a)が、長さMはそのままで、幅W=R・W、角度θの平行四辺形フィルム(b)に変形されたことになる(図1においてドットハッチングした部分(a)及び(b)が、図2の(a)及び(b)に対応する)。このとき、延伸フィルムの面内の遅相軸(及び進相軸)が、フィルムの幅方向に対して角度α〔deg〕傾いた方向に発現する(n(及びn)が特定の値となる)こととなり、これは、フィルムの面内の遅相軸の方向に主引張ひずみが作用していることを示している。
そして、さらに延伸角度θを大きくしていくと、フィルムの面内の遅相軸の方向に主引張ひずみが大きくなり、その結果、nの値がより大きくなる。その一方、延伸角度θを大きくしていくと、フィルムの面内の進相軸の方向には、主圧縮ひずみが作用することになり、その結果、nの値がより小さくなることがわかった。また、これに加えて、変形倍率Rを調整することによっても、上記の主引張ひずみや主圧縮ひずみの大きさを調整することが可能となることがわかった。
【0032】
かくして、本発明者は、上記のような考察に基づいた上で、Rとθとを上記のような範囲に組み合わせて設定することにより、上記主引張ひずみや主圧縮ひずみを精密に調整して、面内の遅相軸の方向やフィルムの3元屈折率(n、n及びn)の大きさの関係(n>n>nを満たす関係)を制御することなどが可能となることを見出したのである。そして、このような手法を採用することにより、単体のフィルムを延伸するだけで、広幅に亘って、皺がなく、高速で巻取が可能で、面内の遅相軸が上記のような特性を有し且つNz値が上記の範囲であり、特定の表示装置の光学補償に有効な、延伸フィルムを効率的に得ることが可能となることがわかった。
【0033】
本発明方法では、延伸角度θを上記の範囲にするために、曲げ角度θを60〜90°にすることが好ましい。
【0034】
本発明の延伸フィルムの製造方法に用いる原料フィルムは、光学的等方性のフィルムである。光学的等方性のフィルムを用いることにより、得られる延伸フィルムのNz値を上記の範囲とすることができる。なお、光学的等方性のフィルムとは、Reが50nm未満のフィルムのことを指し、延伸されていないフィルムであることが好ましい。
【0035】
原料フィルムは、上記の透明樹脂からなる長尺のフィルムである。原料フィルムを、フィルム状に成形する方法としては、公知の成形方法を採用することができる。例えば、加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも採用することができるが、シート中の揮発性成分を低減させる観点から、加熱溶融成形法を用いることが好ましい。
【0036】
加熱溶融成形法は、さらに詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、光学的等方性で且つ機械的強度および表面精度などに優れる延伸フィルムが得られる観点から、溶融押出し成形法を用いることが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法によれば、得られる延伸フィルムを、フィルム幅の80%以上の割合で、その遅相軸のばらつきを±1.5°以内、厚みムラを±1.5μm以内の特性を満たすものとすることができる(以下、このような特性を満たす延伸フィルムの幅の割合のことを、有効幅(%)ということがある(なお、上記の場合は、有効幅が80%である))。
【0038】
本発明の製造方法により得られる長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層することによって長尺の積層フィルムを得ることができる。
本発明に用いられる偏光フィルムは、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。その他に、グリッド偏光フィルムや異方性多層フィルムなどの反射性偏光フィルムが挙げられる。偏光フィルムの厚さは、通常5〜80μmである。
【0039】
本発明の製造方法により得られる延伸フィルムを偏光フィルムの両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層する数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。
偏光フィルムの片面のみに、該延伸フィルムを積層した場合は、残りの片面に偏光フィルムの保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムを積層してもよい。
【0040】
保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルホン重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等が挙げられる。
【0041】
長尺の積層フィルムを得るための好適な製造方法は、本発明の製法により得られる延伸フィルムの巻回体および偏光フィルムの巻回体からそれぞれ同時にフィルムを引き出しながら、該延伸フィルムと該偏光フィルムとを密着させることを含む方法である。延伸フィルムと偏光フィルムとの密着面には接着剤を介在させることができる。延伸フィルムと偏光フィルムとを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに延伸フィルムと偏光フィルムを一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法により得られる長尺の延伸フィルムまたは長尺の積層フィルムは、その使用形態に応じて所定の大きさに切り出して、位相差板または偏光板として用いられる。この場合、長尺のフィルムの長手方向に対して、垂直または平行な方向に沿って切り出すことが好ましい。
【0043】
本発明の液晶表示装置は、上記の長尺の延伸フィルム又は長尺の積層フィルムから切り出された位相差フィルム又は偏光板を備えるものである。本発明の液晶表示装置の一例としては、液晶の配向を電圧の調整で変化させることができる液晶パネルと、それを挟むように配置される本発明の偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、位相差フィルムは、光学補償、偏光変換などのために液晶表示装置に用いられる。なお、液晶表示装置には、液晶パネルに光を送りこむために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。なお、バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。本発明の液晶表示装置としては、反射型表示方式の液晶パネルを備える反射型液晶表示装置が好ましい。液晶パネルはその表示モードによって特に制限されない。例えば、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モードなどを挙げることができる。なかでも、本発明の液晶表示装置においては、STNモードであることが好ましい。本発明の液晶表示装置には、その他に、プリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0044】
本発明の延伸フィルムは、液晶表示装置以外に、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置に適用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。また本発明がこれらによって限定されるものではない。
【0046】
本実施例では以下の方法で評価を行った。
(平均厚み、厚みムラ)
スナップゲージ(ミツトヨ社製、ID−C112BS)を用いてフィルムの幅方向5cm間隔で厚みを測定し平均値を求めた。厚みムラは、厚みの最大値と最小値の差とした。
(Re、係数Nz値)
位相差計(王子計測社製、KOBRA21−ADH)を用いてフィルム幅方向5cm間隔で式(1)及び(2)に従ってRe及びNz値を測定し平均値を求めた。
Re=(n−n)xd (1)
Nz=(n−n)/(n−n) (2)
〔dはフィルムの厚み、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率の平均値〕
(遅相軸の方向のばらつき)
偏光顕微鏡(NICON社製、BX51)を用いてフィルムの幅方向に5cm間隔で配向角を測定し、配向角の最大値と最小値の差を遅相軸の方向のばらつきとした。
(有効幅)
全幅Lである延伸フィルムの幅方向に亘って、遅相軸の方向のばらつきが±1.5°以下、厚みムラが±1.5μm以下を満たしている長さTを求め、有効幅(=(T/L)x100(%))を求めた。
【0047】
(視野角)
液晶表示装置を500ルクスの環境に設置し、液晶セルに55Hzの矩形波電圧(白表示6V、黒表示0V)を印加した場合における、表示画面の輝度を、輝度計(ELDIM社製、EZcontrastXL88)を用いて測定する。なお、輝度は、画面の正面方向、及び極角60°以内の斜め方向(画面の上下左右の方位へそれぞれ傾けた方向)における値を測定する。そして、白表示時の輝度と黒表示時の輝度との比(=白表示の輝度/黒表示の輝度)を計算し、これをコントラスト(CR)とする(CRが大きいほど、視認性に優れる)。そして、上下左右の方位におけるCRの最小値が5以上となる仰角を視野角とした。結果を表3に示す。
(表示ムラ)
液晶表示装置の表示画面に、白画像を表示させ、目視により画面全面の表示ムラの有無について確認を行った。
【0048】
実施例1
(未延伸フィルムの作製)
ノルボルネン系樹脂のペレット(日本ゼオン社製、ZEONOR1420)をTダイ式フィルム押出成形機で成形して、Re=5nm、幅1000mm、厚み100μmの長尺の未延伸フィルム(A)を得た。未延伸フィルム(A)はロールに巻き取った。
(延伸フィルム(C)の作製)
長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(C)を得、さらにロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(C)は、表2に示す特性を有していた。
【0049】
実施例2
(延伸フィルム(D)の作製)
長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(D)を得、さらにロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(D)は、表2に示す特性を有していた。
【0050】
実施例3
(延伸フィルム(E)の作製)
実施例1で作製した長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(E)を得、さらにロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(E)は、表2に示す特性を有していた。
【0051】
実施例4
(偏光板と延伸フィルムの貼り合わせ)
偏光吸収軸がフィルム長手方向の長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2−5618S、厚み180μm)と実施例1で得られた延伸フィルム(C)とロール・トゥ・ロールで貼り合わせることにより、長尺の積層フィルム(c)を得た。
(液晶表示装置への実装)
積層フィルム(c)をパネルサイズの大きさに切り取った偏光板(積層フィルム)を、STNモードの半透過型液晶パネルを有する表示装置の視認側に近い側の偏光板と置き換えて実装した。図3にパネル構成を示す。視野角、表示ムラの評価結果を表3に示す。
【0052】
実施例5
実施例2で得られた延伸フィルム(D)を用いた以外は、実施例5と同様にして、長尺の積層フィルム(d)を得た。さらに、実施例3で得られた延伸フィルム(E)を用いた以外は、実施例5と同様にして、長尺の積層フィルム(e)を得た。
積層フィルム(d)及び積層フィルム(e)をパネルサイズの大きさに切り取った偏光板(積層フィルム)を、STNモードの透過型液晶パネルを有する表示装置の偏光板と置き換えて実装した。このとき、積層フィルム(d)から切り出した偏光板を視認側から近い側に、積層フィルム(e)から切り出した偏光板を視認側から遠い側に、それぞれ配置した。図4にパネル構成を示す。視野角、表示ムラの評価結果を表3に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
比較例1
(未延伸フィルム(B)の作製)
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、幅が400mmになるようにスリット機を用いてスリットし、未延伸フィルム(B)を得た。未延伸フィルム(B)はロールに巻き取った。
(延伸フィルム(F)の作製)
未延伸フィルム(B)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(F)を得た。フィルム(F)は、厚みムラが大きく、一面にシワが残ったため、ロールに巻き取ることができなかった。フィルム(F)の特性を表2に示す
【0057】
比較例2
(延伸フィルム(G)の作製)
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(G)を得た。フィルム(G)は、厚みムラが大きく、一面にシワが残ったため、ロールに巻き取ることができなかった。フィルム(G)の特性を表2に示す。
【0058】
比較例3
(延伸フィルム(H)の作製)
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(H)を得た。フィルム(H)は、厚みムラが大きく、一面にシワが残ったため、ロールに巻き取ることができなかった。フィルム(H)の特性を表2に示す。
【0059】
比較例4
比較例1で得られた延伸フィルム(F)を用いた以外は、実施例4と同様にして、積層フィルム(f)を得た。
さらに、実施例4と同様にして、積層フィルム(f)から切り出した偏光板を、STNモードの半透過型液晶表示装置に実装した。このとき、積層フィルム(f)から切り出した偏光板を視認側から近い側に、配置した。図3にパネル構成を示す。視野角、表示ムラの評価結果を表3に示す。
【0060】
比較例5
比較例2で得られた延伸フィルム(G)を用いた以外は、実施例4と同様にして、積層フィルム(g)を得た。さらに、比較例3で得られた延伸フィルム(H)を用いた以外は、実施例4と同様にして、積層フィルム(h)を得た。
さらに、実施例5と同様にして、積層フィルム(g)から切り出した偏光板を視認側から近い側に、及び積層フィルム(h)から切り出した偏光板を視認側から遠い側に、STNモードの透過型液晶表示装置に実装した。図4にパネル構成を示す。視野角、表示ムラの評価結果を表3に示す。
【0061】
表に示した結果から以下のことがわかる。
比較例1の結果から、従来の方法では、Nz値を0.5に近づけることができず、更に、遅相軸の方向のばらつきが大きく、シワや厚みムラが発生してしまうため光学フィルムとして使用できないことがわかる。また、比較例2〜3の結果では、適切な条件で延伸しなければNz値を0より大きく1より小さくすることができないことが分かる。そして、比較例1〜3の延伸フィルムは、液晶表示装置の光学補償効果が不十分であることがわかる。
一方、本発明の製造方法によれば、遅相軸のばらつきが小さく、Nz係数が0より大きく1より小さいフィルム(実施例1〜3)をシワ、厚みムラを生じさせずに製造できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の延伸フィルムの製造方法の一例を説明するための図。
【図2】図1の延伸機におけるレール部分の把持手段を示した図。
【図3】液晶表示装置の配置構成の一例を示した図。
【図4】液晶表示装置の配置構成の別の一例を示した図。
【符号の説明】
【0063】
48:フィルムの送り込み方向
49:フィルムの送り出し方向
R:フィルム幅方向の変形倍率
:延伸前の幅
:延伸後の幅
θ:曲げ角度
θ:延伸角度
S1、S2:延伸開始点
E1、E2:延伸終了点
A:予熱ゾーン
B:延伸ゾーン
C:固定ゾーン
1a:視認側に近い側の偏光板
1b:視認側に遠い側(バックライト側)の偏光板
2、2a、2b:延伸フィルム
3a:反射電極を備えるSTNモードの液晶セル
3b:STNモードの液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂からなる長尺の延伸フィルムであり、
該フィルムの幅が1000mm以上で、
該フィルムの幅方向から、10〜80°傾いた方向に面内の遅相軸を有し、
該遅相軸の方向のばらつきが、該フィルムの全幅に亘って±1.5°以内であり、且つ、
波長550nmの光に対する、面内の遅相軸方向の屈折率の平均値をn、面内の進相軸方向の屈折率の平均値をn、厚み方向の屈折率の平均値をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表される係数Nz値が0を超え1未満であることを特徴とする長尺の延伸フィルム。
【請求項2】
前記係数Nz値が、0.15を超え0.85未満であることを特徴とする請求項1に記載の長尺の延伸フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層させてなることを特徴とする長尺の積層フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の長尺の積層フィルムを所定の大きさに切り取ってなる偏光板を備えることを特徴とするSTNモードの液晶表示装置。
【請求項5】
請求項3に記載の長尺の積層フィルムを所定の大きさに切り取ってなる偏光板を備えることを特徴とする反射型液晶表示装置。
【請求項6】
光学的等方性の長尺のフィルムを延伸して幅方向から10〜80°傾いた方向に面内の遅相軸を有する延伸フィルムとすることを含み、
フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にし、
2つの延伸終了点を結んだ線と延伸終了点通過後のフィルム幅方向の成す劣角θe〔deg〕が、50°より大きく80°より小さく、且つ、
前記延伸における、フィルム幅方向の変形倍率Rが1.0倍以上2倍より小さい、ことを特徴とする、
幅が1000mm以上であり、遅相軸の方向のばらつきが全幅に亘って±1.5°以内であり、係数Nz値が0を超え1未満である、長尺の延伸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−233198(P2007−233198A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56859(P2006−56859)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】