説明

延伸ポリエステルフィルムの製造方法及び製造装置

【課題】延伸ポリエステルフィルムを製造するために使用するオーブンテンター内でフィルムを熱延伸処理するに際して、熱処理するフィルムから出てくる昇華物を回収できないために連続的かつ長時間にわたって製造装置を運転できないといった課題を解消すると共に、フィルムから出てくる昇華物が冷却されて多量に析出固化してフィルムの表面に異物として付着するのを低減できる延伸ポリエステルフィルムの製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一方向に延伸を行うためのオーブンテンターを用いて延伸ポリエステルフィルムを製造する方法と装置であって、
前記方法は、(1) 前記オーブンテンターから循環熱風の一部を分岐させて分岐熱風として取り出し、(2) 前記分岐熱風を一旦冷却して前記分岐熱風に含まれる昇華成分を析出固化させ、(3) 析出固化させた固化物を捕捉手段により捕捉して固化物を取り除いた分岐熱風をテンターへ戻し、(4) 前記捕捉手段の再加熱により捕捉された前記固化物を昇華させて前記捕捉手段から前記固化物を取り除いて再生することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸ポリエステルフィルムの製造方法に関し、さらに詳しくはオーブンテンター内でフィルムを熱延伸処理する工程を含んだ延伸ポリエステルフィルムの製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表される二軸延伸ポリエステルフィルムは、液晶やPDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)などのディスプレイ用途のベースフィルムとして使用されており、付着異物などのフィルム表面欠点を抑える事が重要である。
【0003】
一般に、二軸延伸ポリエステルフィルムは、未延伸シートを長手方向に一軸延伸し、一軸延伸したフィルムをオーブンテンター(以下、単に「テンター」とも言う)を用いて幅方向に延伸する二軸延伸を行なった後に循環熱風中で高温熱処理することにより製造される。このような製造方法においては、テンター内で延伸した後に高温熱処理を施すと、高温熱処理であるが故に、フィルムからオリゴマーや添加剤など(特に、紫外線吸収剤)の低分子量物が昇華して出てくる。そうすると、この昇華物がテンター内の低温部で析出固化し、その固化物が循環熱風中に浮遊してフィルムに付着したり、あるいはテンター内のノズルや断熱板などに付着した固化物が不純物となって落下してフィルム表面に付着するという問題があった。
【0004】
そこで、テンター内の不純物を除去することが必要となるが、このような方法としては、循環熱風の一部を分岐して、分岐した熱風を冷却することにより熱風中のガス状不純物を液滴化して、液滴化した不純物を回収、除去することが行なわれている。そして、不純物を分離除去した熱風を再び正規の循環流路に戻すという不純物除去技術が、例えば特許文献1などに開示されている。
【0005】
しかし、このような従来技術では、本質的に液滴化しない固化物の場合には容易に回収できないという問題があるので、連続かつ長時間の装置運転ができない。更に、例えば冷却フィンの表面に対して多量の固化物が析出付着し、短時間で冷却機能が失われてしまうという問題も惹起するので定期的な清掃が必要となり、この清掃を行うためには装置自体を冷却する必要がある。
【0006】
なお、液滴化しない固化物については電気集塵機で捕捉するということが考えられるが、電気集塵機で捕捉する場合、固化物の種類によっては粒子が帯電しにくく捕捉が不十分となる。また、逆に捕捉が十分にできも集塵機表面に固化物が多量に捕捉された場合にはその固化物の除去に時間を要する問題があった。
【0007】
そこで、以上に説明した諸問題を解決するために、白金触媒によって低分子量物を燃焼処理する方法が、例えば特許文献2に提案されている。しかし、低分子量物を燃焼処理するためには、1000℃近くでの燃焼処理が必要とされるため、エネルギー消費が大きいという問題がある。また、触媒を用いて燃焼温度を下げても、フィルム由来のオリゴマーなどからなる粉塵が触媒毒として触媒を不活化してしまい、除去効率が低下するという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平05−253434号公報
【特許文献2】特開平11−342535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、延伸ポリエステルフィルムを製造するために使用するオーブンテンター内でフィルムを熱延伸処理するに際して、熱処理するフィルムから出てくる昇華物を回収できないために連続的かつ長時間にわたって製造装置を運転できないといった課題を解消すると共に、フィルムから出てくる昇華物が冷却されて多量に析出固化してフィルムの表面に異物として付着するのを低減できる延伸ポリエステルフィルムの製造方法と製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上に説明した本発明の課題は、「少なくとも一方向に延伸を行うためのオーブンテンターを用いて延伸ポリエステルフィルムを製造する方法であって、
前記方法は、(1) 前記オーブンテンターから循環熱風の一部を分岐させて分岐熱風として取り出すステップと、(2) 前記分岐熱風を一旦冷却して前記分岐熱風に含まれる昇華成分を析出固化させるステップと、(3) 析出固化させた固化物を捕捉手段により捕捉して固化物を取り除いた分岐熱風をテンターへ戻すステップと、(4) 前記捕捉手段の再加熱により捕捉された前記固化物を昇華させて前記捕捉手段から前記固化物を取り除いて再生するステップとからなる前記(1)〜(4)のステップを含むことを特徴とする、延伸ポリエステルフィルムの製造方法」によって解決される。
【0011】
その際、本発明に係る前記延伸ポリエステルフィルムの製造方法として、前記固化物を捕捉する流路と捕捉された前記固化物を除去する流路とが2系列に並列配置され、前記2系列の流路中の何れか1系列の流路において前記分岐熱風中に含まれる前記固化物を捕捉する固化物捕捉ステップを実施し、その間に他系列の流路では捕捉された固化物を加熱して昇華再生して除去する固化物除去ステップを実施し、これらの固化物捕捉ステップと固化物除去ステップとを交互に切り替えながら並行して実施することが「固化物捕捉ステップ」と「固化物除去ステップ」を中断することなく連続的に実施できるため好ましい。
【0012】
また、加熱空気を前記捕捉手段に供給し、前記捕捉手段に付着した固化物を昇華させて除去することが好ましく、更に、前記分岐熱風をさらに再分岐させ、再分岐させた前記分岐熱風を前記捕捉手段へ供給し、前記捕捉手段に付着した固化物を昇華させ、前記捕捉手段を再生することが好ましい。
【0013】
更には、本発明に係る前記延伸ポリエステルフィルムの製造方法として、冷気を系外より取り込んで前記分岐熱風と混合し、前記分岐熱風を一旦冷却して前記捕捉手段へ供することが、前記分岐熱風を効率的に冷却できるので好ましい。このとき、前記冷気の取り込み流量と前記捕捉手段の昇華再生に用いる流量がほぼ同とすることが外乱を少なくでき、オーブンテンターでの延伸フィルムの熱延伸を良好にできるため好ましい。
【0014】
そして、本発明に係る前記延伸ポリエステルフィルムの製造方法は、前記延伸ポリエステルフィルムがポリエステル樹脂からなる二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記ポリエステル樹脂に紫外線吸収剤が含有されている場合に、より好ましく使用できる。
【0015】
次に、本発明の課題は、「少なくとも一方向に熱延伸を行なって延伸ポリエステルフィルムを製造するためのオーブンテンターと、前記オーブンテンターを循環する循環熱風を分岐させて分岐熱風として取り出す送排風機と、2系列に並列配置され且つ前記分岐熱風が流れる2系列の流路と、前記2系列の流路上にそれぞれ設けられると共に前記分岐熱風に含まれる昇華物を析出固化させて固化物として捕捉する捕捉手段と、2系列の前記流路上に前記捕捉手段に対してそれぞれ直列に接続するように設けられた加熱手段と、前記2系列の流路にそれぞれ設けられた前記捕捉手段を交互に切り替えて使用するための前記分岐熱風を何れか一方の系列の流路を流れるように分岐熱風の流れ方向を切り替える流路切替手段とを少なくとも備え、
一方系列の前記流路で固化物を前記捕捉手段によって捕捉する間に、他方系列の前記流路で前記加熱手段によって加熱した熱風によって前記捕捉手段に捕捉された前記固化物を加熱昇華させて除去して前記捕捉手段の固化物の捕捉機能を再生するために、前記流路切替手段によって前記2系列の流路を互いに切り替えて固化物捕捉と固化物除去を交互に実施する装置であることを特徴とする、延伸ポリエステルフィルムの製造装置」によっても解決することができる。
【0016】
その際、本発明に係る前記延伸ポリエステルフィルムの製造装置としては、一旦冷却して固化物を捕捉した後の前記分岐熱風を前記加熱手段によって再加熱する一方系列の流路から前記分岐熱風の一部を再分岐させて他方系列の流路上に設けられた加熱手段の入側へ供給して加熱した再分岐熱風を前記捕捉手段を再生するために供する再生流路を備えていることが、装置を連続的且つ効率的に使用できるため好ましい。
【0017】
なお、本発明に係る前記延伸ポリエステルフィルムの製造装置として、前記捕捉手段を金網フィルターで構成することが、簡単な装置で本発明の課題を解決できるため好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る延伸ポリエステルフィルムの製造方法と製造装置によれば、オーブンテンターで製造中のフィルムから循環熱風中へ発生する昇華物などの異物を冷却して固化物として捕捉するための2系列の流路を並列に設けている。したがって、これら2系列の流路を切り替えながら一方の系列の流路で固化物を捕捉している間に、他系列の流路で固化物の捕捉機能が低下した捕捉手段を再生することができる。したがって、オーブンテンター内でフィルムを熱延伸処理するに際して、熱処理するフィルムから出てくる昇華物を回収できないために連続的かつ長時間にわたって延伸フィルムを製造できないという課題を解決することができる。しかも、フィルムから出てくる昇華物は、本発明に係る方法と装置によって、効率的に除去できるために、循環熱風が冷却されて多量に析出固化してフィルムの表面に異物として付着するという問題を低減できるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図1は、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造に使用する本発明に係るオーブンテンターの熱風循環のフロー図を例示した一実施形態である。
【0020】
ここで、先ずこの図1に記載した各符号について先ず説明すると、符号1はテンター、符号2は処理中のフィルム、符号3a及び3bは捕捉手段、符号4a及び4bは加熱手段(ヒーター)、符号5〜9は流路切替手段(三方弁)、符号10は送排風機、符号11及び12は風量調整手段(ダンパー)をそれぞれ示す。ただし、図1の実施形態例では、前記流路切替手段5〜9は三方弁を用いて実現しているが、本発明の要旨を満足する限りにおいて、例えば公知の仕切バルブ、ピンチバルブなど公知のバルブを組合わせて構成することもできる。また、風量調整手段符号11及び12はダンパーに限定する理由は特に無く、公知のダイアフラム式流量調節弁などを使用することもできる。
【0021】
また、符号Aはフィルムの走行方向、符号Bは固形物を捕捉する循環風流路、符号Cは捕捉手段を昇華再生する再生流路、符号Dは冷気の取り込み流路をそれぞれ示し、更に、符号Q1はテンターからの抜き出し風量、符号Q2はテンターへの戻し風量、符号q1は冷気風量、そして、符号q2は再生風量をそれぞれ示す。
【0022】
図1に例示したフロー図において、前述のように符号Bは固形物を連続的に捕捉するための循環風流路である。なお、この循環風流路Bは、相互に切り替え可能であって、かつ並列して設けられた2系列の流路を含んで構成されている。なお、以下に説明する本発明の実施形態例においては、2系列の流路の場合についてのみ説明するが、本発明は、3系列以上の流路に対しても当業者であれば容易に拡大適用できることは言うまでもないことを付言しておく。
【0023】
ここで、2系列の流路の中で、1系列目の流路は、図1(a)に例示したフロー図において、前述の三方弁などで構成される流路切替手段5〜9を図示したように切り替えることによって、送排風機10を用いてフィルム2を熱延伸処理するテンター1から循環熱風の一部を分岐熱風として風量Q1だけ抜き出し、系外から流路Dを経由して取り込んだ風量がq1の冷気と分岐熱風とを混合して分岐熱風を冷却した後、冷やされた分岐熱風中に含まれる固化物を捕捉手段3aによって捕捉し、冷やされた分岐熱風を加熱手段4aで所定の温度まで再加熱しテンター1へ戻す流路から形成されている。以下、この固化物を捕捉するために形成される流路の系列を「固化物捕捉系列」と言うことにする。
【0024】
また、他の1系列についても、流路切替手段5〜9を図示したように切り替えることによって、図1(b)に例示したフロー図の状態を具現化できる。なお、この図1(b)のフロー図では、送排風機10を用いてフィルム2を熱延伸処理するテンター1から循環熱風の一部を分岐熱風として風量Q1だけ抜き出し、系外から流路Dを経由して取り込んだ風量がq1の冷気と、テンター1中を循環する循環熱風からその一部を分岐させて取り出した分岐熱風とを混合して分岐熱風を冷却し、冷やされた分岐熱風中の固化物を捕捉手段3bによって捕捉し、冷気と混合して冷やされた分岐熱風を今度は加熱手段4bで所定の温度まで再加熱し、再びテンター1へ戻す流路から形成されている。
【0025】
本発明においては、このような流路Bを設けることにより、テンター1を循環する熱風の一部を分岐させて取り出した分岐熱風を冷気と混合して冷却し、その中に含まれる昇華成分を積極的に析出固化させて取り除くことができる。また、これによって循環熱風中の昇華成分濃度を下げることができ、かつ効率的に固化物を捕捉手段3a又は3bによって捕捉できる。
【0026】
更に、冷気Dによって冷却された循環熱風を加熱手段4a又は4bで直ちに加熱することによって、循環熱風中に含まれる微量の昇華成分の析出固化を抑制できる。このため、加熱手段4a又は4b以降のオーブンテンター1まで戻すダクトの流路において循環熱風が流れるダクト内壁に昇華した固化成分が析出することがない。このため、ダクト内壁を常にクリーンな状態に維持できる。
【0027】
なお、以上に説明した2系列の流路は、図1に例示したように、互いに並列して配置されており、一方の系列の流路において固化物の捕捉処理が行なわれている間に、次に説明するように、他方の系列の流路において補足した固化物を捕捉手段3a又は3bから取り除く処理が行なわれる。
【0028】
次に、本発明が一大特徴とする捕捉手段の再生流路Cについて説明する。この再生流路Cはっ、捕捉手段3a及び3bが捕捉して保持する固化物を昇華させて取り除き、再び捕捉手段3a及び3bを再生して固化物の捕捉機能を取り戻させるための流路である。ただし、この捕捉手段3a及び3bの再生流路Cでは、図1に例示したように、固化物捕捉系列において捕捉手段3aが固化物を捕捉している間に、この固化物の補足処理を妨げることなく、もう一つの捕捉手段3bが捕捉して保持する固化物を取り除いて捕捉手段3bの捕捉機能を再生させているのである。
【0029】
この再生流路Cでは、送排風機10の下流側に設けられたダンパー12に入る手前で再分岐させられた風量q2の再分岐熱風を固化物が昇華する温度まで加熱手段4bによって加熱し、加熱した熱風を捕捉手段3bへ送ることによって捕捉手段3bに既に付着している固化物を加熱昇華させて捕捉手段3bを再生した後、昇華物を含んだ熱風を系外へと排出する処理を行なっている。なお、図1に例示したフロー図はこの状態を示しており、以下、この捕捉手段を再生する流路からなる系列を「捕捉手段再生系列」とも言うことにする。
【0030】
以上に説明したように、再生流路Cを設けて捕捉手段3b(又は捕捉手段3a)の再生処理を捕捉手段3bと捕捉手段3aとを同時に交互に切り替えながら簡便に行うことで、捕捉手段3b(又は捕捉手段3a)に付着した固化物を清掃する手間と時間を減らすことができる。このとき、分岐熱風を冷却してから捕捉手段3b(又は捕捉手段3a)に至る途中の流路にも固化物が析出付着しているが、昇華再生はこれら流路をすべてをクリーンに洗浄できる利点がある。
【0031】
なお、再生に用いる熱風としては、図1に例示した再生流路Cのように分岐熱風を途中で再分岐させることで、昇華温度まで加熱するのに要するエネルギーを節約するようにすることが好ましい。しかしながら、図示省略するが、もちろん再生流路Cに送排風機を設けることによって系外から空気を独立に取り込んだ再生熱風を供給するような形態を採用することも可能である。
【0032】
本発明においては、前述のように並列配置された2系列の流路上に設けられた捕捉手段3aと捕捉手段3bにおいて、一方の系列の流路上に設けられた捕捉手段3a(又は捕捉手段3b)は、分岐熱風中の固化物を捕捉するための用途に絶えず使用することができる。また、この間に、他方の系列の流路上に設けられた捕捉手段3b(又は捕捉手段3a)については、捕捉した固形物を昇華させて取り除くことにより捕捉手段3b(又は捕捉手段3a)の再生を捕捉手段3a(又は捕捉手段3b)の固化物の捕捉処理を妨げることなく並行して実施することができる。
【0033】
しかも、これらの捕捉手段3aと捕捉手段3bは、前述のように、流路切替手段5〜9を用いて2系列の流路を互いに切り替えることにより、捕捉と再生を交互に繰り返しながら互いに並行して中断することなく連続的に実施可能とするようにされている。すなわち、並列配置された前述の「捕捉手段再生系列」と「固化物捕捉系列」とからなる流路は、その処理を妨げられることなく交互に切り替え可能とされている。したがって、必ず一台の捕捉手段3a又は捕捉手段3bは固化物の捕捉を交互に実施していることになるので、実質的に固化物を連続的に捕捉処理することができる。
【0034】
ただし、捕捉手段3aと捕捉手段3bとの交互切り替えのタイミングについては、フィルムの巻き取りにおいて、製品となるフィルムが所定の大きさまで巻き太ると、ターレットによって巻取軸を切替えて新たな製品を巻き取るタイミングを利用することが好ましい。何故ならば、この切替えの間に巻き取られるフィルムは製品ロスとなるので、このタイミングを利用して流路Bの2系列ある並列配置流路を交互に切り替えることが好ましいからである。このようにして、捕捉手段3aと捕捉手段3bとをそれぞれ交互に「捕捉手段再生系列」と「固化物捕捉系列」とに切り替えることで、これらを効率的に利用することができることは言うまでもない。
【0035】
本発明においては、図1(a)のフロー図に例示したように、一方系列の流路上に設けられた捕捉手段3aと他方系列の流路上に設けられた捕捉手段3bの下流側と上流側とに加熱手段4aと4bをそれぞれ直列に配置している。ただし、流路切替手段5a、5b、6a及び6bを用いて、並列配置された「捕捉手段再生系列」と「固化物捕捉系列」とを互いに切り替えると、図1(b)のフロー図に例示したように、それぞれの加熱手段4aと4bを流れていた熱風の流れ方向も同時に逆方向へ切り替わる。
【0036】
つまり、流路切替手段5a、5b、6a及び6bを用いて、2系列の流路をそれぞれ切り替えて入れ替えを行なっても、「捕捉手段再生系列」においては、加熱手段4a(又は加熱手段44b)を捕捉手段3a(又は捕捉手段3b)から出る冷やされた熱風を再加熱する加熱手段4a(又は加熱手段44b)として用い、「固化物捕捉系列」では捕捉手段3a(又は捕捉手段3b)が捕捉した固化物を加熱昇華するための再生用の加熱手段(又は加熱手段44b)として用いるられていることに変わりがない。このような理由から、「捕捉手段再生系列」と「固化物捕捉系列」にそれぞれ一つの加熱手段4a(又は加熱手段44b)を兼用で設置すれば良いので省スペース化が可能となる。
【0037】
ここで、本発明においては、テンター1の循環熱風から分岐させて抜き取る分岐熱風の流量Q1とテンター1へ戻す熱風の流量Q2とを等しくすることが好ましい。何故ならば、流量Q1と流量Q2とを等しくすることで、流量バランスが保たれ、これによって、フィルムの延伸工程に及ぼされる外乱を極力軽減することができるからである。この際、更に冷気の取り込み量q1と、再生流量q2とを等しくすることで、図1に例示したシステム全体の流量の収支バランスをとることが好ましい。
【0038】
本発明に用いる捕捉手段3a又は3bとしては、金網フィルターが好適であり、熱風の高温や風圧に耐え、特段異常がなければ設置後の長期使用が可能である。また金網の目開きを100〜300メッシュとすることでフィルターの昇圧が軽減され、送排風機への制約も少なくなる。不織布タイプのロール式フィルターを徐行させながら固化物を捕捉する公知の方法もあるが、高温仕様の不織布フィルターが少なく一般に高価であり、設置の際は循環流路との気密維持に繁雑さが生じたり、カートリッジの交換の手間が生じたり、徐行モーターが高温で故障したりといった問題がある。
【0039】
本発明の延伸ポリエステルフィルム(特に好ましくは二軸延伸ポリエステルフィルム)は、従来から知られている方法で製造することがきる。例えば、ポリエステル樹脂を乾燥後、ポリマーの融点をTmとした時にTm〜(Tm+70)℃の温度で溶融して、ダイから冷却ドラムに押出し、急冷して固有粘度0.35〜0.9dl/gの未延伸フィルムを得る。そして、この未延伸フィルムを縦方向に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(但し、Tgはポリエステルのガラス転移温度である)で2.5〜5.0倍の倍率で延伸する。次いで、テンターに導いて予熱した後、横方向にTg〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜5.0倍の倍率で延伸し、更に(Tg+70)〜Tm℃の温度で熱固定し、その後常温近くまで冷却してから二軸延伸ポリエステルフィルムをワインダーで巻き取ることができる。なお、ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいては、190〜240℃で熱固定するのが好ましい。
【0040】
一般にテンター1は、予熱、延伸、熱固定、冷却を含む複数のゾーンに区分けされ、熱固定ゾーンで最高温度となり、フィルムから低分子量のオリゴマーや含有成分が昇華しやすくなり、下流側の低温の部分で昇華成分が析出固化してフィルム表面へ付着することが問題となる。したがって、熱固定ゾーンの最高温度部分に続く下流側の位置において循環熱風を分岐させて分岐熱風として抜き出し、固化物を捕捉後、クリーンな熱風を再びテンターに戻すことが本発明においては好ましい。
【0041】
ここで、分岐熱風から捕捉手段3a又は3bによって固化物を捕捉する際の分岐熱風の温度は、テンター出口の冷却ゾーンの温度まで下げることが好ましく、これによりテンターの熱固定から出口に至るゾーンで昇華成分の再析出を抑制することができる。また、捕捉手段3a又は3bを加熱して固化物を昇華させて再生する温度は、固化物の昇華温度以上であれば良いが、熱固定ゾーンの最高温度近傍であれば固化物を好適に昇華できる。
【0042】
なお、本発明の趣旨から明らかなように、テンターで横延伸のみ施した横一軸延伸フィルムや縦延伸ののちにテンターでは延伸せず熱処理のみ施した縦一軸延伸フィルム、またテンターが同時二軸延伸機である場合においても、付着異物を低減させる効果を発揮できることは言うまでもない。
【0043】
本発明におけるポリエステルフィルムとは芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される綿状飽和ポリエステルである。ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン2,6−ナフタレンジカルボキシレート等が例示でき、これらの共重合体またはこれらと小割合の他樹脂とのブレンド物等も含まれる。
【0044】
ポリエステルには、フィルムの滑り性、加工性などの観点から滑剤例えば炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、酸化チタン、アルミナ、架橋ポリスチレン粒子、シリコン樹脂粒子等の添加微粒子及び(または)触媒残渣の析出微粒子等を含有させることができる。また、他の添加剤例えば顔料、安定剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて含有させることができ、本発明においては低分子量の紫外線吸収剤等を含有したフィルムの製造において付着物を低減させる効果を顕著に発揮できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、例中の評価は次のように行った。
【0046】
[付着異物の個数]
FUTEC製の透過式欠点検査機をワインダーの前に設置し、フィルム製品部をインラインで全面検査して、幅0.2mm以上、長さ0.4mm以上の付着異物の個数[個数/100m]を評価した。
【0047】
[実施例1]
図1に示す装置を用い二軸延伸フィルムの生産を行い付着異物の個数を評価した。
まず、紫外線吸収剤として2,2’−パラフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)を1.0wt%含有したポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65dl/g、Tg:70℃)のペレットを180℃で4時間乾燥した後に、270〜300℃に加熱された押出機に供給し、押出し成形ダイによりシート状に成形した。更に、このフィルムを表面温度25℃の冷却ドラム上に静電気で密着固化させつつ、フィルムをクーリングナイフで空冷しながら、未延伸フィルムを得た。
【0048】
次いで、この未延伸フィルムを75℃の加熱ロール群で予熱し、更に75℃に加熱されたロールと50℃に温調された一対のロールの周速差を利用し赤外線加熱手段で非接触に加熱しながら縦方向に3.1倍に縦延伸し、次いで、20〜50℃の冷却ロール群で冷却した後、テンター1へと導いた。
【0049】
テンター1では、前記フィルムの両端をクリップで把持しながら、80℃の熱雰囲気中で予熱し、続く延伸ゾーンで120℃の熱雰囲気中で3.2倍に横延伸し、3ゾーンからなる熱固定ゾーンで、210℃、230℃、190℃の3段階の温度で熱固定し、続く冷却ゾーンでフィルムを70℃まで冷却し、付着異物の個数を測定しながら25m/分の速度で100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムをターレット式ワインダーで巻き取った。
【0050】
図1に例示したフローを適用する装置の条件としては、190℃の熱固定ゾーンより循環風を分岐し、Q1=Q2=80Nm/分、捕捉手段としては、200メッシュの金網フィルター(真鍋工業(株)、目開き0.069mm、ワイヤー線径0.058mm)を用い、総ろ過面積を10m、捕捉手段による固化物の捕捉温度を100℃まで冷却し、加熱手段で190℃まで加熱してテンターへ戻した。一方、金網の昇華再生温度は230℃とした。
【0051】
これらの条件のもと、生産を開始してから48時間で金網フィルターが目詰まりにより昇圧してきたため、ワインダーの切替えのタイミングを利用し約3分の間に2系列を切替えた。以降は、約48時間おきに2系列を切替え、連続6日間生産を行った。最終ロットの付着異物の個数は、23個/100mであり、製品規格内であった。
【0052】
[比較例1]
図1の装置を使用しない以外は実施例1と同様の条件で生産を開始した。生産開始後、約4時間で付着異物が45個/100mとなり製品規格外れとなった。また、約1日かけてテンターを降温し、固化物の白いパウダーを清掃し、再び生産したが、生産ロスが大きい結果となった。
【0053】
[比較例2]
図1の装置において、水冷フィンを冷却手段として用い、捕捉手段として不織布フィルター(日本無機(株)、型式DSH−200−22−M)を用いた以外は実施例1と同様の条件で生産した。生産開始から約2時間でフィルターが昇圧し、風量Q1が低下してきた。約4時間後に付着異物の個数が35個/100mとなり製品規格外れとなったため、生産を中断し装置を点検した。冷却フィン表面全体にパウダーが付着しており、190℃の熱風を当てたが固化物が除去できないため、ここで生産を中止し、装置を冷却し清掃をした。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の1つの実施形態を例示したフロー図である。
【符号の説明】
【0055】
1:テンター
2:フィルム
3a及び3b:捕捉手段
4a及び4b:加熱手段
5〜9:流路切替手段(三方弁)
10:送排風機
11及び12:流量調整手段(ダンパー)
A:フィルムの走行方向
B:固形物を捕捉する循環風流路
C:捕捉手段を昇華再生する再生流路
D:冷気の取り込み流路
Q1:テンターからの抜き出し風量
Q2:テンターへの戻し風量
q1:冷気風量
q2:再生風量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に延伸を行うためのオーブンテンターを用いて延伸ポリエステルフィルムを製造する方法であって、
前記方法は、(1) 前記オーブンテンターから循環熱風の一部を分岐させて分岐熱風として取り出すステップと、(2) 前記分岐熱風を一旦冷却して前記分岐熱風に含まれる昇華成分を析出固化させるステップと、(3) 析出固化させた固化物を捕捉手段により捕捉して固化物を取り除いた分岐熱風をテンターへ戻すステップと、(4) 前記捕捉手段の再加熱により捕捉された前記固化物を昇華させて前記捕捉手段から前記固化物を取り除いて再生するステップとからなる前記(1)〜(4)のステップを含むことを特徴とする、延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記固化物を捕捉する流路と捕捉された前記固化物を除去する流路とが2系列に並列配置され、前記2系列の流路中の何れか1系列の流路において前記分岐熱風中に含まれる前記固化物を捕捉する固化物捕捉ステップを実施し、その間に他系列の流路では捕捉された固化物を加熱して昇華再生して除去する固化物除去ステップを実施し、これらの固化物捕捉ステップと固化物除去ステップとを交互に切り替えながら並行して実施することを特徴とする、請求項1に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
加熱空気を前記捕捉手段に供給し、前記捕捉手段に付着した固化物を昇華させて除去することを特徴とする、請求項1又は制球項2に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記分岐熱風をさらに再分岐させ、再分岐させた前記分岐熱風を前記捕捉手段へ供給し、前記捕捉手段に付着した固化物を昇華させ、前記捕捉手段を再生することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
冷気を系外より取り込んで前記分岐熱風と混合し、前記分岐熱風を一旦冷却して前記捕捉手段へ供することを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記冷気の取り込み流量と前記捕捉手段の昇華再生に用いる流量がほぼ同じであることを特徴とする、請求項5に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記延伸ポリエステルフィルムがポリエステル樹脂からなる二軸延伸ポリエステルフィルムであって、前記ポリエステル樹脂に紫外線吸収剤が含有されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
少なくとも一方向に熱延伸を行なって延伸ポリエステルフィルムを製造するためのオーブンテンターと、前記オーブンテンターを循環する循環熱風を分岐させて分岐熱風として取り出す送排風機と、2系列に並列配置され且つ前記分岐熱風が流れる2系列の流路と、前記2系列の流路上にそれぞれ設けられると共に前記分岐熱風に含まれる昇華物を析出固化させて固化物として捕捉する捕捉手段と、2系列の前記流路上に前記捕捉手段に対してそれぞれ直列に接続するように設けられた加熱手段と、前記2系列の流路にそれぞれ設けられた前記捕捉手段を交互に切り替えて使用するための前記分岐熱風を何れか一方の系列の流路を流れるように分岐熱風の流れ方向を切り替える流路切替手段とを少なくとも備え、
一方系列の前記流路で固化物を前記捕捉手段によって捕捉する間に、他方系列の前記流路で前記加熱手段によって加熱した熱風によって前記捕捉手段に捕捉された前記固化物を加熱昇華させて除去して前記捕捉手段の固化物の捕捉機能を再生するために、前記流路切替手段によって前記2系列の流路を互いに切り替えて固化物捕捉と固化物除去を交互に実施する装置であることを特徴とする、延伸ポリエステルフィルムの製造装置。
【請求項9】
一旦冷却して固化物を捕捉した後の前記分岐熱風を前記加熱手段によって再加熱する一方系列の流路から前記分岐熱風の一部を再分岐させて他方系列の流路上に設けられた加熱手段の入側へ供給して加熱した再分岐熱風を前記捕捉手段を再生するために供する再生流路を備えたことを特徴とする、請求項8に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造装置。
【請求項10】
前記捕捉手段が金網フィルターであることを特徴とする、請求項8又は請求項9に記載の延伸ポリエステルフィルムの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−234195(P2009−234195A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86360(P2008−86360)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】