説明

延長床版工法に使用される分割式伸縮装置

【課題】鉄筋コンクリート製の橋梁における延長床版工法に使用される伸縮装置において、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束する分を考慮して、伸縮装置を必要最小限の大きさに設計施工する。
【解決手段】延長床版工法に使用される伸縮装置において、伸縮装置30は橋梁側のメインジョイント部31と土工側のサブジョイント部32との複数のジョイント部を有し、施工から一定の年月経過まではメインジョイント部31とサブジョイント部32の双方が伸縮機能を発揮して、橋梁の温度変化による橋桁の伸縮と鉄筋コンクリートのクリープや乾燥による収縮を吸収する。施工から一定の年月が経過して鉄筋コンクリートの収縮が収束したときは、サブジョイント部32を固定するか一部を撤去して伸縮機能を停止もしくは破棄する。そして、メインジョイント部31だけで橋梁の温度変化による橋桁の伸縮を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延長床版工法に使用される分割式伸縮装置に関するものであり、特に、鉄筋コンクリート製の橋梁において施工後の年月経過による鉄筋コンクリートの収縮の収束を考慮した分割式伸縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の温度変化による伸縮を吸収するために、橋桁と橋台の遊間にフィンガー形式の伸縮装置を取り付けて、一方のフィンガーが他方のフィンガーの間に挿脱されるように構築した橋梁用伸縮装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、土工側の路盤を整形して鉄筋コンクリート製の底版を配置し、該底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工側へ延設される鉄筋コンクリート製の延長床版を配置し、該延長床版の土工側先端と底板上に載置された補助床版とを接続する延長床版工法に使用される伸縮装置も知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−073305号公報
【特許文献2】特開2004−084280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の発明は、橋桁と橋台の遊間に伸縮装置が設けられているので、双方のフィンガーが互いに遊挿し合う中央部は片持ち梁となって過大な荷重がかかり、車両が通過する際にショックが発生して、車両の乗員に対して不快感を与えるとともに、騒音の発生による環境悪化が問題となる。また、橋桁の伸縮量が大きい場合は、伸縮装置の伸縮量すなわち双方のフィンガーが遊挿し合う長さを大きくしなければならず、伸縮装置の大型化によってコスト高になるという不具合がある。
【0005】
特許文献2記載の発明は、土工側の底版上に伸縮装置が設置されており、荷重を底版に伝達して受けるため、特許文献1記載のフィンガー形式の伸縮継手と比較して、車両が通過する際のショックが少ないので騒音の発生を抑止でき、構造も簡単で安価に構築できる。しかし、橋桁の伸縮量が大きい場合は、特許文献1記載の伸縮継手と同様に、伸縮装置の大型化によってコスト高になるという不具合がある。
【0006】
ここで、鉄筋コンクリート製の橋梁は、鉄筋コンクリートのクリープや乾燥により設置後から収縮作用が始まり、施工後の年月経過によりおおむね3年間で鉄筋コンクリートの収縮が収束する。従来の伸縮装置は、橋梁の温度変化による伸縮量を吸収するだけではなく、前記鉄筋コンクリートの施工後の収縮量も吸収すべく設計施工されている。
【0007】
例えば、道路橋示方書(社団法人日本道路協会)に基づく計算式では、下記のように伸縮量が算定される。通常時と地震時(レベル1地震動)の何れか大きい方を設計伸縮量とする。
【0008】
プレストレス鉄筋コンクリート橋(以下PC橋という)の場合、常時伸縮量は、
温度変化による伸縮量=0.4×L1と
乾燥収縮による伸縮量=0.1×L1と
クリープによる伸縮量=0.2×L1と
余裕量(Min10mm)=0.2×L2を合算したものであり、
1.常時伸縮量(ΔLT)は
ΔLT=0.4×L1+0.1×L1×β+0.2×L1×β+0.2×L2
ここで L1:伸縮桁長 L2:基本伸縮量
β:低減係数
また 乾燥収縮:コンクリート打設後から継手の設置まで
材令は2〜3ヶ月と設定し0.5とする。
【0009】
(乾燥収縮は温度換算20℃)
クリープ:桁のプレストレス導入後から継手の設置まで
2〜3ヶ月と設定し0.5とする。
2.地震伸縮量(ΔLE)は
支承の設計にて算出されたレベル1地震動の移動量とする。
【0010】
PC橋の設計伸縮量を下記の表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
3.PC橋のクリープと乾燥について
PC橋の橋桁では、クリープや乾燥により、設置後から収縮作用(伸縮桁長×0.3)が始まり、概ね3年間で収縮作用の大半が収束する。しかし、従来の伸縮装置は上述したように、全体の約40%に相当する収縮分を予め取り込んで設計施工している。
【0013】
したがって、新設橋梁の場合は温度変化に加えてクリープや乾燥分を取り込んだ収縮量の伸縮装置が必要であり、その分コスト高になるとともに、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束した後は、無駄な大きさの伸縮装置となり、車両通過時のショックや騒音の発生が大となる。また、橋梁の保守管理についても、必要以上のメンテナンスで維持管理を行っている。
【0014】
そこで、鉄筋コンクリート製の橋梁における延長床版工法に使用される伸縮装置において、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束する分を考慮して、伸縮装置を必要最小限の大きさに設計施工するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、土工側の路盤に配置された底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工側へ延設される鉄筋コンクリート製の延長床版を配置し、該延長床版の土工側先端と前記底版上に載置された補助床版とを接続する延長床版工法に使用される伸縮装置において、該伸縮装置は橋梁側のメインジョイント部と土工側のサブジョイント部との複数のジョイント部を有し、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束したときには、前記サブジョイント部の伸縮機能を停止もしくは破棄できるように構成したことを特徴とする延長床版工法に使用される分割式伸縮装置を提供する。
【0016】
この構成によれば、伸縮装置はメインジョイント部とサブジョイント部との複数のジョイント部を有しており、施工から一定の年月経過まではメインジョイント部とサブジョイント部の双方が伸縮機能を発揮して、橋梁の温度変化による橋桁の伸縮と鉄筋コンクリートのクリープや乾燥による収縮を吸収する。施工から一定の年月が経過して鉄筋コンクリートの収縮が収束したときは、サブジョイント部を固定するか一部を撤去して伸縮機能を停止もしくは破棄する。そして、メインジョイント部だけで橋梁の温度変化による橋桁の伸縮を吸収する。
【0017】
請求項2記載の発明は、上記補助床版は、橋梁側に設けられて上記延長床版に接続された移動補助床版と、土工側に設けられて上記底版に接続された着脱補助床版と、前記移動補助床版と前記着脱補助床版との間に設けられた中間補助床版とからなり、前記移動補助床版と中間補助床版とを上記メインジョイント部で接続するとともに、前記着脱補助床版と中間補助床版とをサブジョイント部で接続したことを特徴とする請求項1記載の延長床版工法に使用される分割式伸縮装置を提供する。
【0018】
この構成によれば、橋梁の温度変化による橋桁の伸縮で延長床版が底版上を滑動すると、移動補助床版は延長床版と一体に底版上を橋梁の伸縮方向に滑動する。着脱補助床版は底版上に固定されており、橋桁の伸縮があっても滑動しない。中間補助床版はメインジョイント部を介して移動補助床版に接続され、かつ、サブジョイント部を介して着脱補助床版に接続されており、該中間補助床版は移動補助床版とは独立して底版上を滑動する。
【0019】
請求項3記載の発明は、上記メインジョイント部は橋梁の温度変化による伸縮量を吸収できる大きさとし、上記サブジョイント部は上記年月経過で収束する鉄筋コンクリートの収縮量を吸収できる大きさとし、前記メインジョイント部とサブジョイント部との間に設けられた上記中間補助床版の内部には、ほぼ水平かつ橋梁の伸縮方向にコントロールバーを埋設固定し、該コントロールバーの橋梁側を前記メインジョイント部へ突出させて上記移動補助床版の内部へスライド可能に遊挿するとともに、該コントロールバーの土工側を前記サブジョイント部へ突出させて上記着脱補助床版の内部へスライド可能に遊挿し、さらに、前記移動補助床版の内部と着脱補助床版の内部には、前記コントロールバーの端部に係止または当接して前記中間補助床版を押し引きする移動制限部を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の延長床版工法に使用される分割式伸縮装置を提供する。
【0020】
この構成によれば、施工から一定の年月経過まではメインジョイント部とサブジョイント部の双方で、橋梁の温度変化による橋桁の伸縮と鉄筋コンクリートのクリープや乾燥による収縮を吸収する。橋梁の温度上昇で橋桁が伸長したときは、延長床版と一体に移動補助床版が土工側へ押され、この土工側への動きすなわち橋桁の伸長をメインジョイント部で吸収する。橋桁の伸長量がメインジョイント部の吸収量を超えたときは、移動補助床版内部の移動制限部にコントロールバーの端部が当接して前記中間補助床版を土工側へ押し、この動きすなわち残りの伸長量をサブジョイント部で吸収する。
【0021】
一方、橋梁の温度下降で橋桁が収縮したときは、延長床版と一体に移動補助床版が橋梁側へ引かれ、この橋梁側への動きすなわち橋桁の収縮をメインジョイント部またはサブジョイント部の何れか一方のジョイント部もしくは双方のジョイント部で吸収する。そして、橋桁の収縮量が何れか一方のジョイント部の吸収量を超えたときは、移動補助床版内部の移動制限部または着脱補助床版内部の移動制限部にコントロールバーの端部が係止され、残りの収縮量を他方のジョイント部で吸収する。
【0022】
そして、施工から一定の年月が経過して鉄筋コンクリートのクリープや乾燥による収縮が収束すると、この収束した収縮量に相当する吸収量を備えているサブジョイント部が不要になる。したがって、サブジョイント部を固定するか撤去して伸縮機能を停止もしくは破棄する。然る後は、メインジョイント部だけで橋梁の温度変化による橋桁の伸縮を吸収する。
【0023】
請求項4記載の発明は、上記移動制限部は、橋梁の伸縮量に応じた長さの空間部を有するとともに、上記コントロールバーの端部に膨拡部を形成して前記空間部の中に収容し、橋桁の伸縮時に上記延長床版または補助床版の空間部が前記コントロールバーの膨拡部に係止または当接して前記中間補助床版を押し引きするように形成したことを特徴とする請求項1または2記載の延長床版工法に使用される分割式伸縮装置を提供する。
【0024】
この構成によれば、移動制限部は橋桁の伸縮量に応じた長さの空間部を有しており、橋梁の温度上昇による橋桁の伸長量がメインジョイント部の吸収量を超えたときは、移動補助床版の内部に設けた移動制限部の空間部にコントロールバー端部の膨拡部が当接し、コントロールバーと一体に中間補助床版が土工側に押されて、残りの伸長量をサブジョイント部で吸収する。
【0025】
一方、温度下降による橋桁の収縮量がメインジョイント部あるいはサブジョイント部の何れか一方のジョイント部の吸収量を超えたときは、コントロールバーの端部に設けた膨拡部が、移動補助床版または着脱補助床版延長の何れか一方の移動制限部の空間部に係止し、コントロールバーと一体に中間補助床版が橋梁側に引かれ、残りの収縮量を他方のジョイント部で吸収する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の伸縮装置は、上述したように、メインジョイント部とサブジョイント部との複数のジョイント部を有し、施工から一定の年月が経過して鉄筋コンクリートの収縮が収束したときは、サブジョイント部を固定するか撤去して伸縮機能を停止もしくは破棄し、橋梁の温度変化による橋桁の伸縮だけをメインジョイント部にて吸収する。したがって、鉄筋コンクリートの収縮が収束する分を考慮して、伸縮装置を必要最小限の大きさに設計施工することができ、伸縮装置のコストダウンを図ることができる。サブジョイント部を撤去した場合は、該サブジョイント部を他の施工現場に再使用することも可能である。
【0027】
また、伸縮装置を必要最小限の大きさにすることで、車両通過時のショックや騒音の発生が抑止され、橋梁の保守管理についても、メンテナンス性が向上して維持管理の簡素化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る延長床版工法に使用される分割式伸縮装置について、好適な実施例をあげて説明する。鉄筋コンクリート製の橋梁における延長床版工法に使用される伸縮装置において、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束する分を考慮して、伸縮装置を必要最小限の大きさに設計施工するという目的を達成するために、本発明の伸縮装置は、橋梁側のメインジョイント部と土工側のサブジョイント部との複数のジョイント部を有し、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束したときには、前記サブジョイント部の伸縮機能を停止もしくは破棄できるように構成することにより実現した。
【実施例1】
【0029】
図1は橋梁部付近に施工された道路の縦断側面図、図2は舗装面の記載を省略した平面図であり、橋梁部10を形成している橋桁11は支承12を介して橋台13に載置され、橋桁11の上に橋梁床版14が配置されている。土工部15は締め固めた盛土16の上に底版17を配置し、該底版17の橋梁部10側の端部を延設して橋台13の上面に受けさせ、該底版17の端部をアンカーボルト18にて固定する。該底板17と前記橋桁11の間には遊間部19が設けられる。
【0030】
底版17の上には延長床版20が配置され、該延長床版20の橋梁側の端部は前記橋梁床版14と同一面に載置されている。そして、該延長床版20の端部に埋設されているメナーゼヒンジ21の突出部分に現場打ちコンクリート22を打設して、延長床版20と橋梁床版14とが一体的に接続される。該延長床版20の土工側の端部はコッター式継手23で補助床版24に接続され、該補助床版24には伸縮装置30が設けられている。
【0031】
前記底版17及び延長床版20は、それぞれ複数のプレキャスト鉄筋コンクリート版を接続してなり、底版17と延長床版21との接触面は平滑に形成されている。そして、前記延長床版20の上面には橋梁側から連続的に舗装面40が施工され、補助床版24の土工側端部にも舗装面40が施工されている。後述するように、橋梁部10側の温度変化で橋桁11が伸び縮みしたときは、橋梁床版14に接続された延長床版20が橋梁床版14に押し引きされて底版17の上面を滑動し、橋桁11の伸び縮みが前記伸縮装置30にて吸収される。
【0032】
前記補助床版24は、橋梁側に設けられて前記コッター式継手23で延長床版20に接続された移動補助床版25と、土工側に設けられて別のコッター式継手23で底版17に接続された着脱補助床版27と、移動補助床版25と着脱補助床版27との間に設けられた中間補助床版26からなり、前記伸縮装置30は橋梁側のメインジョイント部31と土工側のサブジョイント部32との複数のジョイント部に分割されている。
【0033】
図3および図4は補助床版と伸縮装置の要部を示し、同図にしたがって、補助床版24と伸縮装置30について説明する。
【0034】
先ず、補助床版24について説明する。前述したように、補助床版24は、橋梁側に設けられた移動補助床版25と、土工側に設けられた着脱補助床版27と、移動補助床版25と着脱補助床版27との間に設けられた中間補助床版26から構成されている。移動補助床版25は前記延長床版20と一体に底版17の上を橋梁の伸縮方向に滑動可能に形成され、着脱補助床版27は底版17の上に固定されて滑動しない。中間補助床版26はメインジョイント部31を介して橋梁側の移動補助床版25に接続され、かつ、サブジョイント部32を介して土工側の着脱補助床版27に接続されている。したがって、該中間補助床版26は移動補助床版25とは独立して底版17の上を滑動可能に形成されている。
【0035】
前記中間補助床版26の内部には、ほぼ水平かつ橋梁の伸縮方向にコントロールバー33を埋設固定してあり、該コントロールバー33の軸心に一致させて、前記移動補助床版25の内部および着脱補助床版27の内部に鞘管34を形成するとともに、該鞘管34に連通する空間部35を形成する。
【0036】
そして、コントロールバー33の橋梁側を前記メインジョイント部31へ突出させて移動補助床版25の鞘管34へスライド可能に遊挿し、該コントロールバー33の先端に膨拡部36を形成して移動補助床版25の空間部35の中に収納する。また、コントロールバー33の土工側を前記サブジョイント部32へ突出させて着脱補助床版27の鞘管34へスライド可能に遊挿し、該コントロールバー33の先端に膨拡部36を形成して着脱補助床版27の空間部35の中に収納する。
【0037】
後述するように、橋梁の温度変化による橋桁11の伸縮で延長床版20と一体に移動補助床版25が底版17の上を滑動するときに、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36と空間部35とが橋梁の伸縮方向へ相対的に移動できるときは、移動補助床版25または着脱補助床版27に対して中間補助床版26が自由滑動できる。すなわち、移動補助床版25の押し引きに対して中間補助床版26が停止状態を保持でき、あるいは、固定されている着脱補助床版27に対して中間補助床版26が接近または離反できる。
【0038】
これに対して、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の奥側の端面または鞘管34側の端面に当接または係止されて、橋梁の伸縮方向へ相対的に移動できなくなると、移動補助床版25または着脱補助床版27に対して中間補助床版26が自由滑動できなくなる。すなわち、移動補助床版25の押し引きに対して中間補助床版26が一体的に移動し、あるいは、固定されている着脱補助床版27に対して中間補助床版26がそれ以上接近または離反できない。
【0039】
このように、前記空間部35と、該空間部35の中に収容されたコントロールバー33の膨拡部36とで、前記中間保持床版26の押し引きの移動を制限する移動制限部37が構成されている。なお、本実施例では箱型の移動制限部37を用いているが、これに限定すべきではなく、他の形状の移動制限部を使用してもよい。
【0040】
次に、伸縮装置30について説明する。前述したように、伸縮装置30は、橋梁側のメインジョイント部31と土工側のサブジョイント部32との複数のジョイント部に分割されている。施工から一定の年月経過まではメインジョイント部31とサブジョイント部32の双方が伸縮機能を発揮して、橋梁の温度変化による橋桁11の伸縮と鉄筋コンクリートのクリープや乾燥による収縮を吸収する。
【0041】
このように、橋桁11の伸縮量を複数のジョイント部に分散させてあるため、サブジョイント部32は鉄筋コンクリートの収縮が収束するまでの短期間の使用に耐えられるだけの構造を有していればよく、伸縮量および形状などを小規模に設計施工することができる。したがって、サブジョイント部32は中間補助床版26側の伸縮部分32aと着脱補助床版27側の伸縮部分32bの双方が小型に形成されている。
【0042】
一方、メインジョイント部31は鉄筋コンクリートの収縮が収束した後に、橋梁の温度変化による橋桁11の伸縮を吸収するだけの伸縮量を有していればよく、従来の伸縮装置よりも小型に形成されている。
【0043】
図示例では、メインジョイント部31の移動補助床版25側の伸縮部分31aは鋼鉄製で、中間補助床版26側の伸縮部分31bは鋼鉄製あるいはコンクリート製であってもよい。また、メインジョイント部31は噛み合いの深い櫛歯形状であり、サブジョイント部32は噛み合いの浅いコンクリート歯形状となっている。
【0044】
伸縮装置30の形状としては、上述した形状のほか、図5に示すように、メインジョイント部31とサブジョイント部32の双方が噛み合いの深い櫛歯形状としてもよい。図示例では、サブジョイント部32は鋼鉄製であり、施工から一定の年月経過後に撤去して、他の場所で再利用できるように形成してある。このほか、図示は省略するが、サブジョイント部32を埋め込み型のジョイント部にて構成することもできる。
【0045】
ここで、施工から一定の年月経過までの間、メインジョイント部31とサブジョイント部32の双方が伸縮機能を発揮する様子を、図6〜図9にしたがって説明する。
【0046】
図6は冬季において気温が低いため、橋桁11が収縮して延長床版20と一体に移動補助床版25が橋梁側へ引っ張られた状態を示している。この状態では、移動補助床版25内の移動制限部37は、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の鞘管34側の端面に係止されて、メインジョイント部31が最大に伸長している。
【0047】
また、着脱補助床版27内の移動制限部37も同様に、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の鞘管34側の端面に係止されて、サブジョイント部32が最大に伸長している。
【0048】
説明の都合上、図示例ではコントロールバー33の両側の膨拡部36がどちらも空間部35の鞘管34側の端面に当接して、メインジョイント部31およびサブジョイント部32の双方が最長位置まで伸長しており、これ以上、伸縮装置30が橋桁11の収縮量を吸収することはできないが、実際には、設計の段階で予め当該橋梁の最大収縮量を算出しておき、橋桁11の最大収縮時でも伸縮装置30が最長位置まで伸長することがないように、伸縮量に余裕を持たせる必要がある。
【0049】
図7は春季になって気温が上昇したため、橋桁11が冬季よりも伸長して延長床版20と一体に移動補助床版25が土工側へ少しずつ押された状態を示している。移動補助床版25が土工側へ押されると、移動補助床版25内の移動制限部37は、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の奥側の端面に向かって相対的に移動し、メインジョイント部31が収縮して橋桁11の伸長量を吸収する。
【0050】
図示例では、コントロールバー33の膨拡部36が空間部35の奥側の端面に当接して、メインジョイント部31が最小に収縮している。また、着脱補助床版27内の移動制限部37は、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の鞘管34側の端面付近に位置して、サブジョイント部32はほとんど収縮していない。したがって、伸縮装置30はまだ収縮量が残存しており、温度上昇による橋桁11の伸長を吸収できる状態である。
【0051】
図8は夏季になって気温が最高気温に上昇し、橋桁11が春季よりもさらに伸長して延長床版20と一体に移動補助床版25が土工側へ最大限まで押された状態を示している。図7に示した状態で、メインジョイント部31が最小に収縮しているので、それ以上移動補助床版25が土工側へ押されると、メインジョイント部31を介して中間補助床版26が移動補助床版25と一体的に土工側へ移動し、着脱補助床版27内の移動制限部37は、コントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の奥側の端面に向かって相対的に移動し、サブジョイント部32が収縮して橋桁11の伸長量を吸収する。
【0052】
説明の都合上、図示例ではコントロールバー33の両側の膨拡部36がどちらも空間部35の奥側の端面に当接して、メインジョイント部31およびサブジョイント部32の双方が最短位置まで収縮しており、これ以上、伸縮装置30が橋桁11の伸長量を吸収することはできないが、実際には、設計の段階で予め当該橋梁の伸長量を算出しておき、橋桁11の最大伸長時でも伸縮装置30が最短位置まで収縮することがないように、伸縮量に余裕を持たせる必要がある。
【0053】
図9は秋季になって気温が低下し、橋桁11が夏季よりも収縮して延長床版20と一体に移動補助床版25が橋梁側へ少しずつ引かれた状態を示している。移動補助床版25が橋梁側へ引かれると、メインジョイント部31またはサブジョイント部32の何れか一方のジョイント部、もしくは、双方のジョイント部が少しずつ伸長して橋桁11の収縮量を吸収する。
【0054】
すなわち、移動補助床版25内の移動制限部37あるいは着脱補助床版27内の移動制限部37の何れか一方あるいは双方のコントロールバー33の端部に設けた膨拡部36が空間部35の鞘管34側の端面に向かって相対的に移動し、メインジョイント部31またはサブジョイント部32の何れか一方のジョイント部、もしくは、双方のジョイント部が伸長して橋桁11の収縮量を吸収する。
【0055】
このように、施工から一定の年月経過(概ね3年間)まではメインジョイント部31とサブジョイント部32の双方が伸縮機能を発揮して、橋梁の温度変化による橋桁11の伸縮と鉄筋コンクリートのクリープや乾燥による収縮を吸収する。そして、施工から一定の年月が経過して鉄筋コンクリートの収縮が収束したときは、サブジョイント部32と移動制限部37の空間にコンクリートを打設して固定し、伸縮機能を停止する。あるいは、サブジョイント部32の一部または全部を撤去して破棄する。その後は、メインジョイント部31だけで橋梁の温度変化による橋桁11の伸縮を吸収する。
【0056】
伸縮装置30をメインジョイント部31とサブジョイント部32の複数のジョイント部に分割したことにより、伸縮装置を必要最小限の大きさに設計施工することができ、伸縮装置のコストダウンを図ることができる。伸縮装置を必要最小限の大きさにすることで、車両通過時のショックや騒音の発生が抑止され、橋梁の保守管理についても、メンテナンス性が向上して維持管理の簡素化することができる。
【0057】
また、本発明の伸縮装置30は土工側の底版上に設置されている。そして、メインジョイント部31およびサブジョイント部32の何れのジョイント部も、一方の伸縮部分を他方の伸縮部分に遊挿した部分を補助床版にて支持する形状で、いわゆる荷重伝達式の構成となっている。したがって、橋桁と橋台の遊間に設けられている従来のフィンガー式伸縮装置よりも高い強度が得られ、使用される鋼重が従来よりも少なくなる。本発明では分割式伸縮装置であるため、個々の伸縮装置が小型化されて、さらに、鋼重を減少させることができる。
【0058】
PC橋において伸縮装置の構造の違いよって生じる鋼重比較の結果を下記の表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
ただし、伸縮装置の重量などは、橋梁側のフェイスプレートのみを計上してある。また、分割式の場合はハイブリッド方式を採用しているため、伸縮装置の左右の形状や材質が必ずしも同一とは限らない。例えば、橋梁側が鋼鉄製で土工側がコンクリート製であってもよい。
【0061】
このように、伸縮装置を1つのジョイント部で構成していた従来型に比較して、荷重伝達式かつ分割式とした本発明の伸縮装置は、全体鋼重を軽量化することができ、コストダウンに寄与できる。また、施工から一定の年月が経過して鉄筋コンクリートの収縮が収束した後は、メインジョイント部31だけを残すので、伸縮装置の規模を小さくすることができ、車両の走行性および環境面での静粛性ならびに管理の容易化など、諸種の効果を奏する発明である。
【0062】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る伸縮装置が設けられた橋梁部付近の道路の縦断側面図。
【図2】図1に示す道路の舗装面の記載を省略した平面図。
【図3】本発明に係る伸縮装置の要部を示す説明図。
【図4】本発明に係る伸縮装置の要部を示す説明図。
【図5】本発明に係る伸縮装置の変形例を示す説明図。
【図6】本発明に係る伸縮装置の動作を示す説明図。
【図7】本発明に係る伸縮装置の動作を示す説明図。
【図8】本発明に係る伸縮装置の動作を示す説明図。
【図9】本発明に係る伸縮装置の動作を示す説明図。
【符号の説明】
【0064】
10 橋梁部
11 橋桁
13 橋台
14 橋梁床版
15 土工部
17 底版
20 延長床版
24 補助床版
25 移動補助床版
26 中間補助床版
27 着脱補助床版
30 伸縮装置
31 メインジョイント部
32 サブジョイント部
33 コントロールバー
34 鞘管
35 空間部
36 膨拡部
37 移動制限

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土工側の路盤に配置された底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工側へ延設される鉄筋コンクリート製の延長床版を配置し、該延長床版の土工側先端と前記底版上に載置された補助床版とを接続する延長床版工法に使用される伸縮装置において、
該伸縮装置は橋梁側のメインジョイント部と土工側のサブジョイント部との複数のジョイント部を有し、施工後の年月経過により鉄筋コンクリートの収縮が収束したときには、前記サブジョイント部の伸縮機能を停止もしくは破棄できるように構成したことを特徴とする延長床版工法に使用される分割式伸縮装置。
【請求項2】
上記補助床版は、橋梁側に設けられて上記延長床版に接続された移動補助床版と、土工側に設けられて上記底版に接続された着脱補助床版と、前記移動補助床版と前記着脱補助床版との間に設けられた中間補助床版とからなり
前記移動補助床版を前記延長床版と一体に底版上を橋梁の伸縮方向に滑動可能に形成し、前記着脱補助床版を底版上に固定するとともに、前記中間補助床版を前記移動補助床版とは独立して底版上を橋梁の伸縮方向に滑動可能に形成し、
さらに、前記移動補助床版と中間補助床版とを上記メインジョイント部で接続するとともに、前記着脱補助床版と中間補助床版とをサブジョイントで接続したことを特徴とする請求項1記載の延長床版工法に使用される分割式伸縮装置。
【請求項3】
上記メインジョイント部は橋梁の温度変化による伸縮量を吸収できる大きさとし、上記サブジョイント部は上記年月経過で収束する鉄筋コンクリートの収縮量を吸収できる大きさとし、
前記メインジョイント部とサブジョイント部との間に設けられた上記中間補助床版の内部には、ほぼ水平かつ橋梁の伸縮方向にコントロールバーを埋設固定し、
該コントロールバーの橋梁側を前記メインジョイント部へ突出させて上記移動補助床版の内部へスライド可能に遊挿するとともに、該コントロールバーの土工側を前記サブジョイント部へ突出させて上記着脱補助床版の内部へスライド可能に遊挿し、
さらに、前記移動補助床版の内部と着脱補助床版の内部には、前記コントロールバーの端部に係止または当接して前記中間補助床版を押し引きする移動制限部を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の延長床版工法に使用される分割式伸縮装置。
【請求項4】
上記移動制限部は、橋桁の伸縮量に応じた長さの空間部を有するとともに、上記コントロールバーの端部に膨拡部を形成して前記空間部の中に収容し、
橋桁の伸縮時に上記移動補助床版または着脱補助床版の空間部が前記コントロールバーの膨拡部に係止または当接して前記中間補助床版を押し引きするように形成したことを特徴とする請求項1,2または3記載の延長床版工法に使用される分割式伸縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−303221(P2007−303221A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134410(P2006−134410)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(592179067)株式会社ガイアートT・K (25)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【Fターム(参考)】