説明

建築物の制振構造及び目地部材

【課題】地震時に、壁パネル相互の目地部に配された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めた建築物の制振構造を提供すること。
【解決手段】建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に沿って目地部材が取り付けられており、該目地部材は略同一面で配した支持面と対向する接着面とからなる一対の保持部材が該接着面を互いに対向させてその間に配された粘弾性体により一体化されてなり、該粘弾性体が目地部に沿う位置で壁パネルに取り付けられていることを特徴とする建築物の制振構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の制振構造およびその構造に用いる目地部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、建築物の制振を目的として、建築物に対して、複数の壁パネルを目地長さ方向に相互に可動であるように隣接して取り付け、壁パネル相互の目地部に粘弾性体を配する構造として、特開平11−62058号公報(特許文献1)、特開2000−54679号公報(特許文献2)に記載された技術がある。
特許文献1に記載された建築物の制振構造は、壁パネルの長辺小口面の目地部に粘弾性体を狭着させた技術である。
また、特許文献2に記載された建築物の制振構造は、壁パネル面と略平行な方向で粘弾性体を保持する保持部材が、壁パネルの目地部を跨ぐように、粘弾性体を狭持した技術である。
【0003】
特許文献1、2にあるように、これらの技術は、複数の壁パネルを相互に可動であるように隣接して取り付け、壁パネル相互の目地部に粘弾性体を配することにより、地震時に、隣接する壁パネル間に目地長さ方向の相対変位が生じ、粘弾性体に振動エネルギーが伝達させることにより、粘弾性体の内部摩擦によって制振効果を発揮させようとするものである。
【特許文献1】特開平11−62058号公報
【特許文献2】特開2000−54679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、粘弾性体を壁パネルの長辺小口面に直接接着するため、壁パネルの長辺小口面の性状によっては、粘弾性体に十分な振動エネルギーを伝達させるだけの接着力を確保するのが難しく、また、接着作業の品質管理が難しいという問題があった。
また、特許文献2の技術では、壁パネル面と略平行な方向で粘弾性体を保持する保持部材が、壁パネルの目地部を跨ぐように、粘弾性体を狭持しているため、隣接する壁パネルの面相互に段差がない場合には、保持部材と粘弾性体の接着力が確保できるように設計すれば、粘弾性体に十分な振動エネルギーを伝達させるだけの接着力を確保することに問題はない。しかし、壁パネルに反りがある場合などで、隣接する壁パネルの面相互に段差寸法が発生した場合には、壁パネル面と略平行な方向で粘弾性体が保持部材に保持されているため、所定厚みで設けることにより所要の性能を発揮させるべき粘弾性体に、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じた該粘弾性体の面に垂直方向の圧縮力あるいは引張力が発生し、該粘弾性体の厚さも変動する。圧縮が作用した場合には、特に変動率が大きく、例えば、2mm厚の粘弾性体の場合で、段差寸法が2mm以上あると、粘弾性体を2mm以上圧縮することが出来ず、保持部材が曲げられて粘弾性体から剥がれてしまう可能性がある。また、引張力が作用する場合も、一般に、同程度のせん断変形率の場合との比較で、限界歪みに至って粘弾性体の破損や接着面破断が生じやすい可能性がある。いずれにせよ、設計上の所要の性能が確保しにくいという問題があった。
【0005】
さらに、隣接する壁パネルの面相互の段差が一様ではなく、凹凸が目地長さ方向に変動する場合には、段差の変動に追随しにくいという問題もあった。
本発明は、前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、地震時に、壁パネル相互の目地部に配された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めた建築物の制振構造を提供することである。
また、保持部材と粘弾性体との接着力の確保を容易にするとともに、施工時に、粘弾性体に不必要な面外の圧縮力や引張力が発生を抑え、その結果として粘弾性体の厚さが変動するのを回避し、保持部材からの粘弾性体の剥がれを防止し、所要の制振性能を発揮させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明に係る建築物の制振構造の第1構成は、建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に沿って目地部材が取り付けられており、該目地部材は略同一面で配した支持面と対向する接着面とからなる一対の保持部材が該接着面を互いに対向させてその間に配された粘弾性体により一体化されてなり、該粘弾性体が目地部に沿う位置で壁パネルに取り付けられていることを特徴とする。
また、本発明に係る建築物の制振構造の第2構成は、第1構成の建築物の制振構造において、前記接着面は前記壁パネル面に対して垂直であることを特徴とする。
また、本発明に係る建築物の制振構造の第3構成は、第1又は第2構成の建築物の制振構造において、隣接する壁パネルの目地部に彫り込み部を形成し、対向する前記接着面および該接着面の間の粘弾性体を、前記彫り込み部に配したことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る建築物の制振構造の第4構成は、第1乃至第3構成の建築物の制振構造において、前記支持面に隙間無く貫通するアンカー部材を介して、前記保持部材を壁パネルに設けたことを特徴とする。
更に、本発明に係る建築物の制振構造の第5構成は、第1乃至第3構成の建築物の制振構造において、前記支持面に貫通孔を設け、該貫通孔を貫通するアンカー部材を介して、前記保持部材を壁パネルに設け、アンカー部材と該支持面を直接あるいは間接的に溶接接合したことを特徴とする。
次に、本発明に係る目地部材の第1構成は、略同一面で配した支持面と対向する接着面とを有する一対の保持部材が対向する接着面の間の粘弾性体により一体化されていることを特徴とする。
また、本発明に係る目地部材の第2構成は、第1構成の目地部材において、前記接着面は前記支持面に対して垂直であることを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に係る建築物の制振構造の第1構成によれば、建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に沿って目地部材が取り付けられており、該目地部材は略同一面で配した支持面と対向する接着面とからなる一対の保持部材が該接着面を互いに対向させてその間に配された粘弾性体により一体化されてなり、該粘弾性体が目地部に沿う位置で壁パネルに取り付けられているため、壁パネルに反りがある場合などで、隣接する壁パネルの面相互に段差寸法が発生した場合であっても、粘弾性体が対向する接着面に保持されているため、所定厚みで設けることにより所要の性能を発揮させるべき粘弾性体に、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じた該粘弾性体の面に垂直方向の圧縮力あるいは引張力が発生し難く、その結果として粘弾性体の厚さが変動するのを回避し、保持部材と粘弾性体との接着力の確保を容易にするとともに、所要の性能を発揮することが容易となる。
【0009】
さらに、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法が特に大きくても、引張力が特に大きくなることを回避しやすく、粘弾性体が保持部材から剥がれてしまうということを回避することが容易となる。
これらの発明の効果により、地震時に、壁パネル相互の目地部に配された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めた建築物の制振構造を提供することが出来る。
なお、壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向は、垂直(90度)方向が最も発明の効果が高く、方向が水平方向に近づく程、その効果は小さくなるが、壁パネル面に対する垂直成分に基づく角度分の効果を発揮することが可能である。壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向は、30度以上150度以下とするのが良く、好ましくは45度以上135度以下、さらには、垂直(90度)方向に設定するのが最も好ましい。
【0010】
なお、壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向は、ベクトルにおいて、壁パネル面に平行な平行成分と、壁パネル面に垂直な垂直成分を合成した方向となる。
なお、第1構成では、保持部材は、プレートを曲げ加工して構成するのが、簡便で好ましいが、他に、形鋼などを切り出すなど、支持面と接着面を構成できれば、これらに限定されるものではない。
さらに、対向する接着面の間に接着して設ける粘弾性体の厚みは、特に限定されるものではないが、粘弾性体の力学的特性に応じて、かつ想定される隣接する壁パネルの面相互の段差寸法、ロッキングやスライド(スウェイ)による隣接する壁パネル間の目地長さ方向の相対変位も考慮して、適宜定めればよいが、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法がほとんど無い場合では、0.5mm〜4mm程度の厚みが好適な範囲と考えられる。また、例えば、想定される隣接する壁パネル相互の目地長さ方向の相対変位が6mmの場合で、許容できるせん断歪みが300%の場合には、粘弾性体の厚みを2mm以上に設定するのが良い。
【0011】
第1構成で、壁パネルとは、軽量気泡コンクリートパネル、押出成型セメントパネル、金属複合サンドイッチパネルなどが該当し、パネル形状であり、複数の壁パネルを目地長さ方向に相互に可動であるように隣接して取り付けられるものであればよい。
本発明の請求項2に係る建築物の制振構造の第2構成によれば、壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向が垂直方向であるため、壁パネルに反りがある場合などで、隣接する壁パネルの面相互に段差寸法が発生した場合であっても、粘弾性体に、該粘弾性体の面に垂直方向の圧縮力あるいは引張力は発生せず、その代わりに、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じた壁パネルに対して面外方向のせん断変形(せん断力)のみが発生する。せん断変形(せん断力)が発生しても、粘弾性体の厚みは設計どおりの所定厚みで設けることが出来、よって、所要の制振性能を発揮させることが出来る。この場合に、地震時に、粘弾性体に作用するせん断変形(せん断力)の方向は、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じて発生する壁パネルに対して面外方向のせん断変形(せん断力)の方向とは直交方向となり、壁パネルの目地長さ方向に沿うものであり、その意味でも、壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向を壁パネル面に対して平行な(垂直成分を含まない)方向とした場合との比較で、制振性能への影響は小さい。
【0012】
さらに、隣接する壁パネルの面相互の段差が一様ではなく、凹凸が目地長さ方向に変動する場合にも、段差の変動に追随しにくいという問題を回避することが容易である。実際には、粘弾性体には、目地長さ方向に変動する圧縮力や引張力の代わりに、目地長さ方向に変動する壁パネルに対して面外方向のせん断力が発生するわけであるが、目地長さ方向に変動する圧縮力や引張力に少々の曲げが作用することにより、簡単に粘弾性体が剥がれやすくなるのと比較で、目地長さ方向に変動する壁パネルに対して面外方向のせん断力の場合には、簡単に剥がれやすいということもない。
また、本発明の請求項3に係る建築物の制振構造の第3構成によれば、隣接する壁パネルの目地部に彫り込み部を形成し、対向する前記接着面および該接着面の間の粘弾性体を、前記彫り込み部に配したので、粘弾性体を含む保持部材が、壁パネルの面外へ孕みだす寸法を小さくして、納まりの良い構造とすることが出来る。
【0013】
これによって、壁パネル面で、粘弾性体を含む保持部材を配した側に、仕上げを施す場合に、壁パネルの面外への孕み出し寸法が小さく、好適となる。例えば、壁パネルの面外への孕み出し寸法を10mm程度の寸法に抑えれば、石こうボード内装仕上げを厚30mm程度で行う場合(例えば、GL工法)に、GLボンドなどの接着部分厚みの中に、壁パネルの面外への孕み出し部分を納めることが出来る。
また、壁パネルの彫り込み部にも、粘弾性体を配することが出来るので、壁パネルの面外への孕み出し寸法を同じとすれば、壁パネルの単位長さあたりの比較で、粘弾性体の幅寸法(壁パネル厚方向の寸法)を大きくとることが可能で、より大きな制振効果を有する構造とすることが可能となる。例えば、100mm厚の壁パネルに対して、壁パネルの面外への孕み出し寸法が10mmで、壁パネルの面外で10mm幅の粘弾性体を配することが出来る場合、25mmの彫り込みを行って、彫り込み内で20mm幅の粘弾性体を配することが出来れば、合計で30mm幅の粘弾性体を配することが出来、彫り込みの無い場合との比較で、3倍の粘弾性体を配置することが出来、より大きな制振効果を有する構造とすることが可能となる。
【0014】
なお、第3構成では、壁パネルとして、工場加工での彫り込みの容易さから、軽量気泡コンクリートパネルが特に好適である。しかし、押出成型セメントパネル、金属複合サンドイッチパネルなどであってもよい。
また、壁パネルの目地部への彫り込みは、隣接する壁パネルの両方に跨って設けてもよいが、片方の壁パネルのみに設けてあってもよい。目地中心にバランスよく配置することを考慮すると、隣接する壁パネルの両方を均等に彫り込むのが、美感上、好ましい。
また、本発明の請求項4に係る建築物の制振構造の第4構成によれば、前記支持面に隙間無く貫通するアンカー部材を介して、前記保持部材を壁パネルに設けたので、壁パネルと保持部材の面内ズレが生じにくい構造とすることが出来、地震時に、壁パネル相互の目地部に配された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させることが可能となる。
【0015】
ここに、「支持面に隙間無く貫通するアンカー部材」とは、無孔の支持面にアンカー部材を強制的に貫通させるか、アンカー部材の軸径より小さな下孔を開けてアンカー部材を貫通させることを意味している。アンカー部材として、釘、拡張釘(ツインネイル、ヒットネイルなど)など、打撃で打ち込むものが、最も隙間無く貫通出来、好ましいが、ネジ部材で、セルフタップビスなど、支持面を貫通する能力のあるビス(ねじ)も可能である。壁パネルが軽量気泡コンクリートパネルの場合、拡張釘が、最も好ましい。
なお、接着材を併用して、支持面を壁パネル面に接着することは、好ましい。また、壁パネル面にプライマー処理を行い、接着力の向上を図ることも、好ましい。
【0016】
また、本発明の請求項5に係る建築物の制振構造の第5構成によれば、前記支持面に貫通孔を設け、該貫通孔を貫通するアンカー部材を介して、前記保持部材を壁パネルに設け、アンカー部材と支持面を直接あるいは間接的に溶接接合したので、第4構成と同様に、壁パネルと保持部材の面内ズレが生じにくい構造とすることが出来、地震時に、壁パネル相互の目地部に配された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させることが可能となる。
ここに、「支持面に貫通孔を設け、該貫通孔を貫通するアンカー部材」とは、アンカー部材の軸径より大きな下孔を開けてアンカー部材を貫通させることを意味している。アンカー部材としては、ボルトが考えられるが、その他のアンカー部材であってもよい。アンカー部材と支持面は、例えば、ボルト頭を支持面に直接溶接接合するか、あるいは、ワッシャなどを介して間接的にボルト頭を支持面に溶接接合することにより、壁パネルと保持部材の面内ズレが生じにくい構造とすることが出来る。この場合、アンカー部材の施工性を向上させる意味で、貫通孔をルーズ孔とすることも可能である。
【0017】
軽量気泡コンクリートパネルの場合、予め、壁パネル内に、埋め込みのナットを設けたり、Oボルトをアンカー鋼棒で固定するなど、ロッキング構法に用いられるアンカー方式を流用することも可能である。
なお、接着材を併用して、支持面を壁パネル面に接着することは、好ましい。また、壁パネル面にプライマー処理を行い、接着力の向上を図ることも、好ましい。
また、本発明の請求項6に係る目地部材の第1構成によれば、略同一面で配した支持面と対向する接着面とを有する一対の保持部材が対向する接着面の間の粘弾性体により一体化されているため、建築物の制振構造の第1〜5構成に用いることが可能で、特に、建築物の制振構造の第1構成に記載の目的を容易に達成することが可能な目地部材を提供することが出来る。
【0018】
なお、略同一面で配した支持面に対する対向する接着面の配される方向は、垂直(90度)方向が最も発明の効果が高く、方向が水平方向に近づく程、その効果は小さくなるが、壁パネル面に対する垂直成分に基づく角度分の効果を発揮することが可能である。壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向は、30度以上150度以下とするのが良く、好ましくは45度以上135度以下、さらには、垂直(90度)方向に設定するのが最も好ましいのは、建築物の制振構造の第1構成で説明したのと同様である。
なお、目地部材の第1構成では、保持部材は、プレートを曲げ加工して構成するのが、簡便で好ましいが、他に、形鋼などを切り出すなど、支持面と接着面を構成できれば、これらに限定されるものではない。
【0019】
さらに、対向する接着面の間に接着して設ける粘弾性体の厚みは、特に限定されるものではないが、粘弾性体の力学的特性に応じて、かつ想定される壁パネルの面相互の段差寸法、ロッキングやスライド(スウェイ)による壁パネル間の目地長さ方向の相対変位も考慮して、適宜定めればよいが、0.5mm〜4mm程度が好適な範囲と考えられる。
また、目地部材の第1構成では、予め、工場などで、粘弾性体を接着面の間に接着することが可能であるため、接着作業の品質管理が容易となり、接着の信頼性を上げ、地震時に、壁パネル相互の目地部に配された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めた建築物の制振構造にも信頼性を付与することが出来る。
【0020】
請求項7に係る目地部材の第2構成によれば、目地部材を壁パネルに取り付けたときに、壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向が垂直方向となるため、壁パネルに反りがある場合などで、隣接する壁パネルの面相互に段差寸法が発生した場合であっても、粘弾性体に、該粘弾性体の面に垂直方向の圧縮力あるいは引張力は発生せず、その代わりに、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じた壁パネルに対して面外方向のせん断変形(せん断力)のみが発生する。せん断変形(せん断力)が発生しても、粘弾性体の厚みは設計どおりの所定厚みで設けることが出来、よって、所要の制振性能を発揮することが出来る。この場合に、地震時に、粘弾性体に作用するせん断変形(せん断力)の方向は、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じて発生する壁パネルに対して面外方向のせん断変形(せん断力)の方向とは直交方向となり、壁パネルの目地長さ方向に沿うものであり、その意味でも、壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向を壁パネル面に対して平行な(垂直成分を含まない)方向とした場合との比較で、制振性能への影響は小さい。
【0021】
さらに、隣接する壁パネルの面相互の段差が一様ではなく、凹凸が目地長さ方向に変動する場合にも、段差の変動に追随しにくいという問題を回避することが容易である。実際には、粘弾性体には、目地長さ方向に変動する圧縮力や引張力の代わりに、目地長さ方向に変動する壁パネルに対して面外方向のせん断力が発生するわけであるが、目地長さ方向に変動する圧縮力や引張力に少々の曲げが作用することにより、簡単に粘弾性体が剥がれやすくなるのと比較で、目地長さ方向に変動する壁パネルに対して面外方向のせん断力の場合には、簡単に剥がれやすいということもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図により、本発明に係る建築物の制振構造および目地部材の実施形態を具体的に説明する。図1は本発明に係る建築物の制振構造の第1実施例を示す斜視説明図、図2は図1に示した第1実施例の目地部を拡大して示す斜視説明図、図3は第1実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図、図4は第1実施例の目地部に段差があった場合の状態を拡大して示す水平断面説明図である。
また、図5は目地部に彫り込み部を形成し、該彫り込み部に粘弾性体を配した第2実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
図6は目地部に彫り込み部を形成し、該彫り込み部に粘弾性体を配するとともに、壁パネルの面外へ孕み出して粘弾性体を配した第3実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
図7は壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向θを説明する第4実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
また、図8は本発明に係る目地部材の3実施例を示す斜視説明図である。
【0023】
〔建築物の制振構造の第1実施例〕
図1〜図4において、建築物の制振構造の第1実施例について説明する。第1実施例は、鉄骨構造(鉄骨梁などは図示せず)で、壁パネル1を縦壁で使用した例であり、壁パネル取付部8によりロッキング構法で取り付けられている。地震時には、壁パネル1が上下の壁パネル取付部8を中心にしてロッキングすることにより、隣接する壁パネルは目地部2に目地長さ方向の相対変位を発生し、目地部2に跨るように設けられた目地部材7に振動エネルギーが伝達される。目地部材7には、接着面4aの間に粘弾性体3が接着されて設けられているため、目地部材7に伝達された振動エネルギーは、粘弾性体3で熱エネルギーに変えられることで、建築物に制振効果が生じる。
第1実施例では、壁パネル1の内面に対して垂直な方向で、対向する接着面4aが配されており、かつ、接着面4aの間に粘弾性体3が接着されて設けられているため、図4に示すように、目地部2に段差があった場合にも、粘弾性体3には、粘弾性体3の面に垂直方向の圧縮力あるいは引張力は発生せず、その結果として粘弾性体の厚さが変動するのを回避し、粘弾性体3の厚みは設計どおりの所定厚みで設けることが出来、保持部材4からの粘弾性体3の剥がれを防止し、所要の制振性能を発揮することが出来る。
【0024】
この際に、粘弾性体3には、隣接する壁パネル1の面相互の段差寸法に応じた壁パネル1に対して面外方向のせん断変形が発生するが、地震時に、粘弾性体3に作用するせん断変形の方向は、壁パネル1の目地長さ方向に沿うものであり、段差寸法に応じて発生するせん断変形の方向と直交する方向であるため、その意味でも、壁パネル1の面に対して対向する接着面4aの配される方向を壁パネル1の面に対して平行な(垂直成分を含まない)方向とした場合との比較で、制振性能への影響は小さい。図4における段差寸法を大きめに5mmとしても、粘弾性体3の厚みを2mmと設定した場合で、粘弾性体3のせん断変形率は、250%に納まる。粘弾性体3の材質にもよるが、一般に、常温で、300%程度のせん断変形は可能であり、通常起こりうる壁パネル1の段差であれば、対応できると考えられる。 壁パネル1は、軽量気泡コンクリートパネルで、長さ3300mm、幅600mm、厚さ100mmとし、外面側の目地には、バックアップ材10とシーリング9を施した。
【0025】
粘弾性体3の厚みは特に規定するものではないが、0.5mm〜4mm程度が好適な範囲と考えられる。ここでは、厚み2mmとした。また、幅は、23mmとした。
目地部材7は、長さ1750mm、幅102mmであり、目地部2に対して対称に配した。保持部材4は、板厚2mmの鋼板を曲げ可能したもので、幅25mmの接着面4aと幅50mmの支持面4bによりなり、2つの保持部材4を、接着面4aを対向させ、間に粘弾性体3を接着して設けることにより、一対の保持部材4が粘弾性体3により一体化されている目地部材7を形成した。
目地部材7を壁パネル1へ固定するために、アンカー部材5として、拡張釘5aを用い、支持面4bを隙間無く貫通させ、壁パネル1と保持部材4の面内ズレが生じにくい構造とすることが出来、地震時に、壁パネル1相互の目地部2に配された粘弾性体3に、振動エネルギーを有効に伝達させることが可能となった。ここに、拡張釘5aとして、軸径2.7mmの釘を2本組み合わせた長さ45mmのツインネイルを用いた。
【0026】
アンカー部材5の間隔は、目地長さに沿って250mmとした。また、壁パネル1の長辺小口面側から、アンカー部材5を打ち込む位置までの距離を40mmとしたが、150mmくらいの距離をおいて打ち込み固定することでもよい。軽量気泡コンクリートパネルの場合、一般に、100mm以上の距離とすることにより、主筋の内側に、安定的にアンカー部材5を打ち込むことが可能となる。
また、接着材を併用して、支持面4bを壁パネル1の内面に接着した。
なお、図2、図3、図4において、拡張釘5a(ツインネイル)は、壁パネル1の長辺小口面側に向かって釘が開くように図示したが、便宜上だけのことであり、実際には、壁パネル1の目地長さ方向に釘が開くようにするのが、好ましい。
【0027】
〔建築物の制振構造の第2実施例〕
次に、図5において、建築物の制振構造の第2実施例について説明する。第2実施例も、壁パネル1として、パネル厚さ100mmの軽量気泡コンクリートパネルによる例であり、壁パネル1の目地部2に、幅20mm深さ25mmの彫り込み部1aを形成し、対向する接着面4aおよび接着面4aの間の粘弾性体3を彫り込み部1aに配したため、粘弾性体3を含む保持部材4が、壁パネル1の面外へ孕み出すこともなく、納まりの良い構造とすることが出来た。
彫り込み部1aの深さが25mmであるのに対して、粘弾性体3の幅は23mmであり、粘弾性体3全体を、彫り込み部1aの中に納めることが出来た。
彫り込み部1aは、目地長さに沿って、全長にわたって加工してもよいが、対向する接着面4aおよび接着面4aの間の粘弾性体3を配する部分など、目地長さの一部に彫り込み部1aを設ける構造であってもよい。
軽量気泡コンクリートパネルの場合、彫り込み部1aは、予め、工場で加工して、施工現場に搬入することが可能である。もちろん、施工現場で彫り込み部1aを加工してもよい。
【0028】
また、第2実施例では、彫り込み部1aの周囲が欠けるなどの欠損を防止する意味で、3mm寸法の面取りを設けた。
アンカー部材5として、ボルト5bを用い、予め、工場で設けられた埋込ナット5cにねじ止めした。支持面4bには、貫通孔4cが設けられ、貫通孔4cを通してボルト止めした後、溶接接合6をしたので、壁パネル1と保持部材4の面内ズレが生じにくい構造とすることが出来、地震時に、壁パネル1相互の目地部2に配された粘弾性体3に、振動エネルギーを有効に伝達させることが可能となった。ここに、ボルト5bとして、軸径12mmのものを用いた。
ここでは、バックアップ材10の代わりに、ボンドブレーカー10aを用いた。
【0029】
〔建築物の制振構造の第3実施例〕
図6において、建築物の制振構造の第3実施例について説明する。第3実施例も、壁パネル1として、パネル厚さ100mmの軽量気泡コンクリートパネルによる例であり、壁パネル1の目地部2に、幅20mm深さ20mmの彫り込み部1aを形成し、対向する接着面4aおよび接着面4aの間の粘弾性体3を彫り込み部1aに配したため、粘弾性体3を含む保持部材4が、壁パネル1の面外へ孕み出すこともなく、納まりの良い構造とすることが出来た。
彫り込み部1aの深さが第2実施例より5mm浅く、20mmとしたため、粘弾性体3の幅23mm全体を、彫り込み部1aの中に納めることは出来なかったが、壁パネル1の面外へ孕み出し寸法は10mmであり、実用上問題のない納まりとすることが出来た。
【0030】
〔第4実施例〕
図7に示す第4実施例によって、壁パネル面に対して対向する接着面4aの配される方向θについて説明する。方向θは、垂直方向(90度)方向が最も発明の効果が高く、第1実施例で説明ずみであるが、垂直方向(90度)方向に限定されるものではなく、方向が水平方向に近づく程、その効果は小さくなるが、壁パネル1の面に対する垂直成分に基づく角度分の効果を発揮することが可能である。方向θは、30度以上150度以下とするのが良く、好ましくは45度以上135度以下、さらには、垂直(90度)方向に設定するのが最も好ましい。図7のように、方向θを約45度に設定した構成であっても、45度分の効果を発揮することは可能である。
【0031】
〔目地部材の実施例〕
図8において、本発明に係る目地部材の3実施例について説明する。左図は、厚さ2mmの鋼板をL形状に折り曲げて保持部材4とし、2つの保持部材4を粘弾性体3を所定厚さ2mmで間に接着して一体として構成することにより、目地部材7としたものである。長さ1750mm、幅102mm、奥行き25mmとし、支持面4bの所定の位置に、下孔4dを、壁パネル1へのアンカー部材5の軸径より小さな径で設けた。下孔4dのピッチは、250mmとした。
目地部材7の長さは、1750mmに限定されるものではなく、重量などを加味し、施工現場での扱いやすさと、納まりから適宜定めればよいが、長尺過ぎると運搬時に、目地部材7が曲がり、粘弾性体3の接着が剥がれるなどの懸念もありうるため、運搬のしやすさなども考慮し、2000mm程度以下とするのが好ましい。
粘弾性体3の厚みも、特に規定するものではないが、0.5mm〜4mm程度が好適な範囲と考えられる。ここでは、厚み2mmとした。
また、粘弾性体3の幅は、23mmとしたが、これも特に限定されるものではなく、壁パネル1の目地部2への彫り込み部1aの寸法など、納まりを考慮して定めればよい。
【0032】
保持部材4は、厚さ2mmの鋼板をL形状に折り曲げて設けたが、これに限定されるものはなく、粘弾性体3に有効に振動エネルギーを伝達するだけの剛性が有る構造であればよい。
中図は、左図の実施例から下孔4dを省略したものである。ここでは図示していないが、壁パネル1へのアンカー部材5による貫通位置をマーキングして示した。このように、アンカー部材5による貫通位置をマーキングすることで、施工現場でのアンカー部材5の設置位置を明確にすることが出来る。
右図は、長さ250mmの短い寸法の目地部材7の実施例を、左図、中図との比較で、拡大して示したものである。このように長さの短いものを、適宜、壁パネル1の目地部2に分散して配するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の活用例として、建築物の制振構造およびその構造に用いる目地部材として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る建築物の制振構造の第1実施例を示す斜視説明図である。
【図2】第1実施例の目地部を拡大して示す斜視説明図である。
【図3】第1実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
【図4】第1実施例の目地部に段差があった場合の状態を拡大して示す水平断面説明図である。
【図5】目地部に彫り込み部を形成し、該彫り込み部に粘弾性体を配した第2実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
【図6】目地部に彫り込み部を形成し、該彫り込み部に粘弾性体を配するとともに、壁パネルの面外へ孕み出して粘弾性体を配した第3実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
【図7】壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向θを説明する第4実施例の目地部を拡大して示す水平断面説明図である。
【図8】本発明に係る目地部材の3実施例を示す斜視説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 壁パネル
1a 彫り込み部
2 目地部
3 粘弾性体
4 保持部材
4a 接着面
4b 支持面
4c 貫通孔
4d 下孔
5 アンカー部材
5a 拡張釘
5b ボルト
5c 埋込ナット
6 溶接接合
7 目地部材
8 壁パネル取付部
9 シーリング材
10 バックアップ材
10a ボンドブレーカー
θ 壁パネル面に対して対向する接着面の配される方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に沿って目地部材が取り付けられており、該目地部材は略同一面で配した支持面と対向する接着面とからなる一対の保持部材が該接着面を互いに対向させてその間に配された粘弾性体により一体化されてなり、該粘弾性体が目地部に沿う位置で壁パネルに取り付けられていることを特徴とする建築物の制振構造。
【請求項2】
前記接着面は前記壁パネル面に対して垂直であることを特徴とする請求項1に記載の建築物の制振構造。
【請求項3】
隣接する壁パネルの目地部に彫り込み部を形成し、対向する前記接着面および該接着面の間の粘弾性体を、前記彫り込み部に配したことを特徴とする請求項1又は2に記載の建築物の制振構造。
【請求項4】
前記支持面を隙間無く貫通するアンカー部材を介して、前記保持部材を壁パネルに設けたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の建築物の制振構造。
【請求項5】
前記支持面に貫通孔を設け、該貫通孔を貫通するアンカー部材を介して、前記保持部材を壁パネルに設け、アンカー部材と該支持面を直接あるいは間接的に溶接接合したことを特徴とする請求項1乃至3に記載の建築物の制振構造。
【請求項6】
略同一面で配した支持面と対向する接着面とを有する一対の保持部材が対向する接着面の間の粘弾性体により一体化されていることを特徴とする目地部材。
【請求項7】
前記接着面は前記支持面に対して垂直であることを特徴とする請求項6に記載の目地部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−155857(P2009−155857A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333552(P2007−333552)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】