説明

建築物タイル張り壁面の補修方法

【課題】タイルの脱落を防止するための補修作業が簡易で、補修費用が安価な建築物タイル張り壁面の補修方法を提供する。
【解決手段】建築物タイル張り壁面の補修方法は、タイル張り壁面に、透明性を有するゴム状弾性体材料を主成分とする材料を主塗布層として塗布する。ゴム状弾性体材料としてアクリルゴムを用い、0.15mm〜1mmの厚みに塗布する。また、この主塗布層を中塗り材として、下層に下塗り材を、上層に上塗り材を、それぞれ塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物タイル張り壁面の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルやマンション等の建築物の外装材料として、意匠性に優れるタイルを用いることが広く行われている。
タイルは、セメントモルタルを介して躯体と一体化される。
【0003】
しかしながら、タイル施工部分は、経年劣化により、例えば施工後15年程度を経過すると、一部のタイルが脱落し、あるいは一部のタイルがセメントモルタルから浮き上がる等の現象を生じる。
このような経年劣化を促進する主な原因は、大気中の湿気や雨水等の水分である。水分がタイル間の目地から壁の内部に浸入し、あるいは目地やタイルに生じた亀裂から壁の内部に浸入することにより、さらには浸入した水分が氷結することにより、セメントモルタルを侵食して亀裂を生成し、またタイルの剥離等を生じる。
【0004】
このようなタイル施工部分の経年劣化を生じたときの補修方法として、通常、樹脂注入、アンカーピンニング、タイル張替え等の各種工法が採用されている。
【0005】
ところが、上記の各種工法は、一般に、大規模な補修工事となり、多大の補修費用を必要とする。また、防水性等の観点からは必ずしも十分な補修効果を得られない場合もある。
【0006】
上記の不具合に鑑み、例えば、FRP樹脂層を主層とする塗布層をタイル貼り壁の表面に形成する方法が提案されており、この方法によれば、長期間にわたって補修効果を維持することができるとされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開昭63−197765号公報
【特許文献2】特開平1−290864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したFRP樹脂層を主層とする塗布層を形成する方法は、樹脂注入等の各種従来工法に比べて補修工事の規模や費用が軽減されるものの、それでも、依然として補修作業が煩雑であり、補修費用も多大である。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、補修作業が簡易で、補修費用が安価な建築物タイル張り壁面の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、補修作業が簡易で、補修費用が安価な建築物タイル張り壁面の補修方法について鋭意検討した過程で、ゴム状弾性体材料をタイル張り壁面に塗布する方法を着想した。そして、構造力学的シミュレーションを重ねた結果、この方法によりタイルの脱落を充分に防止できることを見出し、本発明に想達した。
【0010】
本発明に係る建築物タイル張り壁面の補修方法は、タイル張り壁面に、透明性を有するゴム状弾性体材料を主成分として含む材料を主塗布層として塗布することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る建築物タイル張り壁面の補修方法は、前記主塗布層の塗布厚みが0.15mm〜1mmであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る建築物タイル張り壁面の補修方法は、前記ゴム状弾性体材料がアクリルゴムを主成分とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る建築物タイル張り壁面の補修方法は、前記主塗布層を中塗り材として、該中塗り材の下層に少なくとも1層からなる下塗り材を、該中塗り材の上層に少なくとも1層からなる上塗り材を、それぞれ塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る建築物タイル張り壁面の補修方法は、タイル張り壁面に、透明性を有するゴム状弾性体材料を主成分として含む材料を主塗布層として塗布するため、主塗布層によってタイルを目地に繋ぎ止めることでタイルの脱落を防止することができる。
また、十分な防水効果を得ることができるとともに、補修によってタイルの意匠性が損なわれるおそれも少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る建築物タイル張り壁面の補修方法の好適な実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0016】
本実施の形態例に係る建築物タイル張り壁面の補修方法は、ビルやマンション等の建築物の躯体の外面に塗布したモルタル層に張り付けた、外装材料としてのタイルが、例えば施工後20年程度経過したときに、経年劣化によりタイルが脱落することを防止するために行うものである。補修は、タイルの脱落が始まった時点で行なってもよいが、施工後一定期間が経過した時点で予防的に行なうことがより好ましい。
【0017】
本実施の形態例に係る建築物タイル張り壁面の補修方法(以下、単に本発明の補修方法ということがある。)は、タイル張り壁面に、透明性を有するゴム状弾性体材料を主成分として含む材料を主塗布層として塗布するものである。なお、塗膜形成主要素として、ゴム状弾性体材料以外の樹脂、油脂等を含んでもよく、また、分散剤、消泡剤、可塑剤等の塗膜形成副要素や、溶剤等を適宜含んでよい。
これにより、例えばタイルがモルタルから剥離して脱落するおそれがあっても、タイルおよびタイル間の目地の全面にわたって塗布したゴム状弾性体材料によってタイルが目地に繋ぎ止められ、タイルの脱落を防止することができる。
透明性を有するゴム状弾性体材料としては、透明性とゴム状弾性を備えるものである限り適宜の材料を選択して用いることができるが、アクリルゴムを主成分とする材料を用いることがより好ましい。ゴム状弾性体材料として透明性を有する材料を用いることにより、タイルが汚損等するおそれが少なく、また、補修材料として不透明材料を用いたときのようにタイルの意匠性を損なうおそれも少ない。
【0018】
アクリルゴムは、アクリル酸エステルの重合または共重合により得られるゴム状弾性体をいう。アクリルゴムを主成分とする材料は、例えば、屋上や外壁に防水機能を持たせるために塗布する市販の塗材を用いることができる。これにより、充分な防水効果を得ることができ、外壁中への水分の浸入による劣化の進行を抑制することができる。
【0019】
本発明の補修方法において、ゴム状弾性体材料をタイルおよびタイル間の目地の全面に直接塗布してもよいが、例えば使用するゴム弾性体材料がタイルに対して直接充分な付着力を示さない場合等において適宜の接着剤を予め塗布して接着層を形成した上にゴム状弾性体材料を塗布することがより好ましく、また、例えば使用するゴム弾性体材料が紫外線等により物性が劣化しやすい場合等において主塗布層を中塗り材として、中塗り材の下層に下塗り材を、中塗り材の上層に上塗り材を、それぞれ塗布することがさらに好ましい。
ゴム状弾性体材料で形成される主塗布層は1層であってもよく、また、材料種類の異なる複数層であってもよい。また、同様に、下塗り材および上塗り材も、それぞれ1層であってもよく、また、材料種類の異なる複数層であってもよい。さらにまた、これら各層は、同種材料を重ね塗りするものであってもよい。
下塗り材は、例えば、アクリル・シリコン系の塗料を接着材として用い、例えば、30μm〜50μmの厚みに塗布する。上塗り材は、例えば、下塗り材と同様にアクリル・シリコン系の塗料を汚損防止および中塗り材保護用材料として例えば、30μm〜100μmの厚みに塗布する。
【0020】
下塗り材、中塗り材、および上塗り材の塗布方法は、刷け塗り、ローラーブラシ塗り、吹き付け塗装等の適宜の方法のなかから適宜選択することができる。
【0021】
中塗り材(主塗布層)の厚みは特に限定するものではなく、塗布対象のタイル張り外壁の状況に応じて、適宜好適な厚みを設定することができるが、タイルの落下防止および防水効果を確実に得るためには、厚みが厚いほど好ましい。ただし、中塗り材の厚みが極端に厚すぎると非経済的である。このため、中塗り材の厚みは、好ましくは、0.15mm〜1mmである。さらにまた、中塗り材の伸び性能(例えばJIS-A-6021に規定する防水材料の規格を定義している破断時の伸び)が高いほど好ましく、この観点から、例えば、タイル張り壁面の置かれている温度条件において上記破断時の伸びの値として100%を確保するときは中塗り材の厚みは0.5mm〜1.0mmが好ましく、400%を確保するときは0.2mm〜0.4mmが好ましい。
なお、本発明の補修方法は、例えば寸法が数十mmの方形の小タイルを張った壁面に好適に用いることができるが、これに限らず、上記中塗り材の厚みや、材料を適宜選択することにより、寸法の大きなタイルを張った壁面にも用いることができる。
【0022】
本実施の形態例に係る建築物タイル張り壁面の補修方法によれば、簡易、かつ安価に建築物タイル張り壁面の補修を行い、タイルの脱落および外壁への水分の浸入の進行を防止することができる。
また、補修作業によって生じうるタイル張り外壁の意匠性を損なうおそれが少ないとともに、従来工法の樹脂注入やアンカーピンニング施工によって生じるタイル張り外壁の意匠性の低下を生じるおそれもない。
【実施例】
【0023】
施工後十数年〜二十数年経過して、タイルの脱落が始まり、あるいはセメントモルタルからのタイルの浮き上がりが感じられる建築物のタイル張り外壁8例を対象に、本実施の形態例に係る建築物タイル張り壁面の補修方法を施した。
使用した材料、施工方法、塗り厚さは以下のとおりである。
(下塗り材)
使用した材料:溶剤系2液反応硬化型アクリル・シリコン樹脂クリアー(アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、シリコン化合物などの共重合体:豊英化学株式会社製ウレック タイルケア プライマー)
施工方法:刷毛およびローラー塗り
塗り厚さ:0.03mm
(中塗り材)
使用した材料:水系弾性アクリル・シリコン樹脂クリアー(アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、シリコン化合物などの共重合体:豊英化学株式会社製ウレック タイルケア 本材)
伸び性能(JIS A 6021における伸び試験)20℃のとき520%
施工方法:刷毛およびローラー塗り
塗り厚さ:0.12mm程度のもの3例、0.2mm程度のもの5例
(上塗り材)
使用した材料:溶剤系2液反応硬化型アクリル・シリコン樹脂クリアー(アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、シリコン化合物などの共重合体:豊英化学株式会社製ウレック タイルケア トップコート)
施工方法:刷毛およびローラー塗り
塗り厚さ:0.06mm
上記の補修を行なった8例の建築物のタイル張り外壁は、それぞれ補修後3年〜10年経過した時点で、いずれも、タイルの脱落が発生せず、また、タイルの色調の変化もなく、さらにまた、目地のクラックの進行も見られなかった。ただし、中塗り材の厚みが0.12mm程度のもの3例のうち、1例については、外壁の躯体に発生した亀裂により主塗り層(中塗り材)に断裂が発生した。このことから 上記材料、塗装方法においては、中塗り材の厚みは0.15mm程度以上が望ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル張り壁面に、透明性を有するゴム状弾性体材料を主成分として含む材料を主塗布層として塗布することを特徴とする建築物タイル張り壁面の補修方法。
【請求項2】
前記主塗布層の塗布厚みが0.15mm〜1mmであることを特徴とする請求項1記載の建築物タイル張り壁面の補修方法。
【請求項3】
前記ゴム状弾性体材料がアクリルゴムを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の建築物タイル張り壁面の補修方法。
【請求項4】
前記主塗布層を中塗り材として、該中塗り材の下層に少なくとも1層からなる下塗り材を、該中塗り材の上層に少なくとも1層からなる上塗り材を、それぞれ塗布することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の建築物タイル張り壁面の補修方法。

【公開番号】特開2007−285050(P2007−285050A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115387(P2006−115387)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(506134869)
【Fターム(参考)】