説明

建築物

【課題】損傷状態について精度が高い判定を下すことができる建築物の提供。
【解決手段】地震などにより建築物1の壁10が振動したときに、変位測定装置30により柱11の変位を測定して、この測定結果を表示部40により壁10の外部に表示させることができる。このため、振動時の柱11の変位が小さい場合であっても、判定者は、壁10の外部から煩雑な測定作業を実施することなく柱11の変位を確認でき、建築物1の損傷状態について精度が高い判定を下すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震などで損傷した建築物を利用できるか否かを判断するために、国土交通省の「震災建築物の被災度区分判断基準および復旧技術指針」が利用されている(非特許文献1参照)。
これは、柱などの傾斜角に基づく変位により、建築物の損傷状態を、例えば住めるか、住めないかを推定するものである。
【0003】
【非特許文献1】震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針(発行:財団法人 日本建築防災協会)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような非特許文献1に準じた方法では、震災後の建築物の歪みから地震時の変形角の最大値を推定するため、現場における作業が煩雑になる。特に、柱などの変位が小さい場合、その変位の測定作業が煩雑になる。
【0005】
本発明は、損傷状態について精度が高い判定を下すことが可能な建築物を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の建築物1は、複数の壁構成部材(柱)11から構成される壁10における前記複数の壁構成部材11の振動時の変位を測定する変位測定装置30,60と、前記壁10の外部に露出して設けられ、前記変位測定装置30,60での測定結果を表示する表示部40,70と、を備えることを特徴とする。
【0007】
ここで、本発明の建築物1を構成する壁10としては、枠材に面材を取り付けたいわゆる壁パネル、コンクリート、モルタル、木材、タイル、金属、樹脂などで構成された壁状のものが例示できる。また、壁構成部材11としては、柱、梁、窓枠などが例示できる。さらに、変位測定装置30,60で測定する変位としては、壁構成部材11の傾斜、変形、水平方向への移動に基づくものが例示できる。
【0008】
この発明によれば、地震などにより壁10などが振動したときに、変位測定装置30,60により壁構成部材11の経験最大変位が測定され、この測定結果が表示部40,70により壁10の外部に表示される。
このため、振動時の壁構成部材11の変位が小さい場合であっても、その測定値が壁10の外部に表示されるので、判定者に煩雑な測定作業を実施させることなく壁構成部材11の変位を正確に認識させることができる。したがって、判定者は、壁構成部材11の変位に対応する建築物1の損傷状態について、精度が高い判定を下すことができる。
【0009】
また、本発明の建築物1では、前記壁10には、この壁10に固定され前記壁10の振動に伴い変位する変位部22の変位を振り子部材23の回動に変換し、前記振り子部材23の回動を振動吸収部材241で阻止する制振装置20が設けられ、前記変位測定装置30,60は、前記制振装置20の前記振り子部材23の最大回動時の変位を測定する構成が好ましい。
この発明によれば、壁10の振動に伴い変位部22が変位し、この変位部22の変位は、増幅されて振り子部材23の回動に変換される。そして、変位測定装置30,60により、振り子部材23の最大回動時の変位が、増幅された壁構成部材11の変位として測定される。
このため、例えば振り子部材23の回動量と、壁構成部材11の変位との関係を予め実験などにより求めておくことにより、壁構成部材11の変位が小さい場合であっても、振り子部材23により増幅された回動量に基づいて、壁構成部材11の変位を容易にかつ確実に測定できる。したがって、建築物1の損傷状態について、より精度が高い判定を下すことができる。
【0010】
そして、本発明の建築物1では、前記変位測定装置30,60は、前記振り子部材23の回動端部に当接するロッド311,613と、このロッド311,613を軸方向に進退自在に保持するロッド保持部323,612と、前記ロッド311,613が前記振り子部材23に押されたときの移動量を測定する測定部33,62と、前記ロッド保持部323,612を前記制振装置20に対して位置決めする位置決め部35と、を備える構成が好ましい。
この発明によれば、ロッド311,613は、振り子部材23の回動端部で押されると、振り子部材23の回動量に対応する量だけ移動する。
このため、ロッド311の移動量を例えば目視などにより確認するだけの簡単な方法で、あるいはロッド613の移動量を電気信号に変換するだけの簡単な方法で、壁構成部材11の変位を容易に測定できる。また、変位測定装置30,60の構造の簡易化を図ることができる。
【0011】
また、本発明の建築物1では、前記変位測定装置30は、前記ロッド311が前記振り子部材23に押されて移動した後に、前記ロッド311が戻るのを阻止する戻り阻止部34を備える構成が好ましい。
この発明によれば、ロッド311が振り子部材23に押されて移動すると、戻り阻止部34によりロッド311が戻るのが阻止される。
ここで、戻り阻止部34を設けない構成の場合、例えば1回目の地震が発生した後に、この地震よりも小さい2回目の地震が発生すると、2回目の地震によりロッド311が戻ってしまうおそれがある。このため、ロッド311の移動量が1回目の地震よりも小さい2回目の地震に対応する量となってしまうおそれがある。これに対し、本発明では、戻り阻止部34でロッド311が戻るのを阻止するので、小さい2回目の地震が発生したとしてもロッド311が戻らない。このため、ロッド311の移動量が1回目の地震に対応する量となり、より精度が高い判定を下すことができる。
【0012】
さらに、本発明の建築物1では、前記測定部33は、前記ロッド311および前記ロッド保持部323のうち一方に設けられた目盛り部331と、他方に設けられ前記目盛り部331の所定位置を指示する目盛り指示部332と、を備え、前記表示部40は、前記壁10に開口形成された測定開口部(壁開口部)12Aを介して前記測定部33を目視可能な位置に設けられた窓部42Aを備える構成が好ましい。
この発明によれば、測定部33を目盛り部331と、目盛り指示部332とで構成しているので、例えば災害時の停電により給電不可能な状態になっても壁構成部材11の変位を測定することができ、利便性を向上できる。また、窓部42Aを介して測定結果を目視することができ、表示結果を画像表示する構成と比べて、変位測定装置30の構成の簡略化を図ることができる。
【0013】
また、本発明の建築物1では、前記測定部62は、前記ロッド613のロッド保持部612に対する位置に対応した電気信号を出力する電気信号出力部621と、この電気信号出力部621からの電気信号に基づいて前記ロッド613の移動量を算出する移動量算出部622と、を備える構成が好ましい。
この発明によれば、電気信号に基づいてロッド613のロッド保持部612に対する位置、すなわちロッド613の移動量を算出するので、例えば目視で測定する構成と比べて、より精密に測定でき、精度が高い判定を下すことができる。
【0014】
そして、本発明の建築物1では、前記壁10には、前記変位測定装置30に対応する位置に開口形成された操作開口部(壁開口部)12Aが設けられ、前記変位測定装置30は、前記ロッド311に一体的に設けられ前記操作開口部12Aを介して前記壁10の外部から操作可能な操作当接部315Aを備える構成が好ましい。
この発明によれば、壁構成部材11の変位を測定した後に、壁10の外部から操作当接部315Aを操作することにより、ロッド311を測定基準位置まで容易に戻すことができる。したがって、測定再開のための準備作業の効率化を図ることができる。
【0015】
さらに、本発明の建築物1では、前記操作当接部315Aは、前記ロッド311の移動方向に略沿って複数並設されている構成が好ましい。
ここで、操作当接部315Aが1個しかない場合、ロッド311の移動量が大きくなった場合に、操作が困難な位置に操作当接部315Aが移動してしまい、ロッド311の移動作業が困難になるおそれがある。これに対して、本発明では、複数の操作当接部315Aをロッド311の移動方向に略沿って並設させているので、ロッド311の移動量が大きくなった場合であっても、少なくともいずれか1個の操作当接部315Aを操作が容易な位置に位置させることができ、壁10の外部からロッド311を容易に移動させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によれば、損傷状態について精度が高い判定を下すことが可能な建築物を提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0018】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る建築物を構成する外壁パネルの分解斜視図である。図2は、外壁パネルの要部を示す斜視図である。図3は、変位測定装置の室内側からの分解斜視図である。図4は、表示部および測定部を示す正面図である。図5は、戻り阻止部を示す断面図である。
【0019】
〔外壁パネルの構成〕
図1に示すように、壁10は、外壁パネルあり、壁構成部材としての一対の柱11と、この一対の柱11の室外側を架橋する状態で設けられる外面材12と、柱11の室内側を架橋する状態で設けられる図示しない内面材と、を備えてパネル状に形成され、本実施形態では建築物1の構造材を構成する。この壁10には、壁10の振動を防止する制振装置20と、この制振装置20の動作状態に基づいて柱11の変位を測定する変位測定装置30と、変位測定装置30の測定結果を表示する表示部40と、が設けられている。
【0020】
〔制振装置の構成〕
制振装置20は、一対の柱11の間に固定される矩形状の枠体21と、この枠体21内に設けられる一対の変位部22と、この一つの変位部22で支持される振り子部材23と、枠体21に設けられた一対の制振ボックス24と、を備えている。
【0021】
枠体21は、柱11の内周面に固定された左右一対の縦フレーム211と、この一対の縦フレーム211間を架橋する状態で設けられた上下一対の横フレーム212と、を矩形枠状に組み立てることによって形成されている。横フレーム212の両端部には、対向する2個ずつのプレート212Aが立設してそれぞれ設けられている。この対向する2個のプレート212Aの間には、縦フレーム211の端部が挿入され、プレート212Aと縦フレーム211とは、ボルト213および図示しないナットにより連結されている。また、横フレーム212には、制振ボックス24を固定するための一対の固定部材214が設けられている。
【0022】
一対の変位部22は、略二等辺三角形状に形成され、その頂点が枠体21の略中央に位置する状態で配置される一対の支持板221をそれぞれ備えている。一対の支持板221は、その間に挟み込まれた縦フレーム211にボルト222によって固定されている。
【0023】
振り子部材23は、細長の略菱形板状に形成され、その長手方向が枠体21の上下方向と一致する状態で設けられる。この振り子部材23は、左半分の部分が一方の変位部22の一対の支持板221の間に挟まれ、右半分の部分が他方の変位部22の一対の支持板221の間に挟まれている。また、振り子部材23の中央部には、左右に離間して図示しない孔が二つ形成されており、一方の孔は左右に長い長孔となっている。そして、振り子部材23に形成された各孔と、一対の変位部22のそれぞれの支持板221とには、ボルト等の軸部材231が挿通され、その端部には図示しないナットが螺合されている。
そして、振り子部材23は、一方の孔が左右に長い長孔状に形成され、かつ、軸部材231により変位部22に支持されているため、振動による柱11の傾きに伴い一対の変位部22が変位した際に、長手方向略中央を中心として左右に回動するようになっている。
【0024】
一対の制振ボックス24は、上面および下面が開口された長方形箱状に形成され、一対の固定部材214の間に挟まれる状態でそれぞれ設けられている。制振ボックス24の内面には、例えば粘弾性材料により形成された一対の振動吸収部材241が固着されている。これら振動吸収部材241は、制振ゴムであり、これら間には、連結プレート242が挟み込まれる状態で固着されている。また、連結プレート242の一端側は、プレート243を介して振り子部材23の端部に連結されている。そして、制振ボックス24は、振り子部材23が回動すると、この回動を振動吸収部材241により減衰させる。
【0025】
〔変位測定装置の構成〕
変位測定装置30は、図1および図2に示すように、制振装置20の下側の制振ボックス24に設けられ、振り子部材23の最大回動時の変位を測定する。
この変位測定装置30は、図2および図3に示すように、振り子部材23の回動端部に当接する測定当接部31と、この測定当接部31を移動可能に保持する測定保持部32と、測定当接部31の移動量を測定する測定部33と、測定当接部31が振り子部材23で押される方向と反対方向(戻る方向)へ移動するのを阻止する戻り阻止部34と、測定保持部32を制振装置20に対して位置決めする位置決め部35と、を備えている。
【0026】
測定当接部31は、例えば樹脂で略丸棒状に形成され、振り子部材23の回動端部に当接するロッド311を備えている。このロッド311の一端面(以下、先端面と称す)311Aは、連結プレート242に、つまり振り子部材23の回動端部に当接する。また、ロッド311の他端(以下、基端と称す)には、ロッド311よりも大きい径寸法を有する円板状のロッド位置決め部312が一体的に設けられている。さらに、ロッド311の軸方向略中央の外周面には、ロッド311の径方向に沿って外方に向けて延出する(以下、この延出方向を上方と称す)略長方形板状の上方延出部313と、この上方延出部313の先端から上方延出部313と略直交する方向へ延出する略長方形板状の側方延出部314と、が一体的に設けられている。
【0027】
側方延出部314は、測定保持部32で保持された際に、下面314Aが後述する保持基部321の上端面321Aと略摺接し、かつ、先端面314Bと保持基部321の一側面321Bとが略同一面上に位置する形状に形成されている。この側方延出部314の上面には、側方延出部314よりも若干薄い略直角三角形板状のロッド操作部315が設けられている。
このロッド操作部315は、直角をなす一対の辺のうち一方の辺が側方延出部314におけるロッド311の先端面311A側の側縁上に位置し、他方の辺がロッド311の軸方向と略平行となり、斜辺に対応する部分が側方延出部314の先端面314Bに対して傾斜する状態で設けられている。また、ロッド操作部315の斜辺に対応する部分には、ロッド311の基端側に向かうにしたがって先端面314Bから離れる段差状に形成された4個の操作当接部315Aが設けられている。
【0028】
測定保持部32は、例えば樹脂などの変形可能な材料により長方形板状に形成された保持基部321を備えている。この保持基部321の一側面321Bと反対側の他側面における短手方向(上下方向)略中央には、長手方向一側縁(右側縁)から略中央にかけて保持基部321の他側面と略直交する方向に延出する連結部322が一体的に設けられている。
この連結部322の先端には、ロッド311を保持基部321の左右方向に進退可能に保持するロッド保持部323が一体的に設けられている。
このロッド保持部323は、ロッド311を挿通可能、かつ、保持基部321の上側縁側に開口する断面略C字状の略筒状に形成されている。
【0029】
測定部33は、図2および図4に示すように、測定当接部31の側方延出部314に設けられた目盛り部331と、測定保持部32の保持基部321に設けられ目盛り部331の所定位置を指示する目盛り指示部332と、を備えている。
目盛り部331は、側方延出部314の先端面314Bにおいて、ロッド311の基端側から先端側に向かうにしたがって測定値が大きくなるように設けられている。
目盛り指示部332は、保持基部321の一側面321Bの上側縁近傍における左右方向略中央に設けられている。具体的には、目盛り指示部332は、ロッド保持部323の右端にロッド位置決め部312が当接するまでロッド311が挿通されたときに、目盛り部331の0cm(センチメートル)の位置を指示する状態で設けられている。
【0030】
戻り阻止部34は、図5に示すように、ロッド311の略中央よりも若干基端側の位置から先端側にかけての外周面に設けられた複数の環状のロッド側溝部341と、ロッド保持部323の左端側の内周面に設けられた複数の環状の保持側溝部342と、ロッド保持部323の左端側の外周面に設けられた保持部締付部材343と、を備えている。
保持部締付部材343は、例えば針金などの弾性変形可能な材料により、ロッド保持部323の外径寸法よりも若干小さい内径寸法を有する略C字状に形成されている。
そして、保持部締付部材343がロッド保持部323を略覆う状態で設けられると、保持部締付部材343の内径寸法がロッド保持部323の外径寸法よりも若干小さいので、保持部締付部材343の弾性力によりロッド保持部323の左端側、つまり保持側溝部342側が細くなるように変形する。そして、このように変形した状態でロッド保持部323にロッド311が挿通されると、ロッド311がロッド保持部323の保持側溝部342側により締め付けられ、ロッド側溝部341と、保持側溝部342と、が略係合する。この略係合により、ロッド311の戻る方向への移動が阻止される。
【0031】
位置決め部35は、図2〜図4に示すように、例えば金属により長方形板状に形成された連結板351を備えている。この連結板351の長手方向一端(上端)側は、4個のねじ352により保持基部321の一側面321Bにねじ止めされる。また、連結板351の上下方向略中央および下端側には、ねじ353が挿通されるねじ挿通孔351Aが設けられている。
このねじ挿通孔351Aに挿通されたねじ353が下側の制振ボックス24に設けられた図示しないねじ孔に螺合されることにより、ロッド311の先端面311Aが振り子部材23の回動端部に当接可能な状態で、連結板351が制振ボックス24に固定される。また、柱11が振動などにより傾斜しておらず振り子部材23の長手方向が垂直方向と略一致し、この状態の振り子部材23の回動端部にロッド311が当接したとき、目盛り指示部332は、目盛り部331の0cmを指示する。これにより、柱11が傾斜してロッド311が移動した場合、目盛り指示部332が0cm以外の位置を指示し、この指示位置を目視することにより、柱11の傾斜に基づく建築物1の損傷状態を判定できる。
【0032】
〔表示部の構成〕
表示部40は、外面材12の下端側に外部に露出して設けられ、図1に示すように、外面材12に開口形成された測定開口部および操作開口部としての壁開口部12Aを介して、変位測定装置30の測定結果を目視可能にするためのもの、つまり測定結果を表示するためのものである。この表示部40は、図1および図4に示すように、略長方形枠状の表示枠41と、この表示枠41よりも若干小さい略長方形板状に形成され表示枠41の一面に着脱可能な窓面部材42と、を備えている。
表示枠41は、長手方向が水平方向と略一致する状態で壁開口部12Aの周囲に取り付けられている。この表示枠41の上枠および下枠の略中央には、係合溝41Aが設けられている。
窓面部材42は、略中央に横長の長方形状に設けられた略透明の窓部42Aを備えている。この窓部42Aは、変位測定装置30の目盛り部331および目盛り指示部332を建築物1の外部から目視可能な位置に設けられている。また、窓面部材42における窓部42Aを囲む部分は、例えば外面材12と調和する色の化粧目地部42Bとされている。さらに、窓面部材42の上縁および下縁の略中央には、表示枠41の係合溝41Aに係合する係合爪部42Cが設けられている。
【0033】
〔変位測定装置を用いた建築物の損傷状態の判定作業〕
次に、変位測定装置30を用いた建築物1の損傷状態の判定作業について説明する。
変位測定装置30の目盛り指示部332が例えば0cmを指示している状態において、地震などにより壁10を有する建築物1に変形が生じて柱11が傾斜すると、制振装置20の枠体21は、縦フレーム211が柱11と略等しい角度で傾斜し、横フレーム212が左右にずれるように変位して、略平行四辺形状に変形する。このように枠体21が略平行四辺形状に変形すると、一対の変位部22が斜め上下に互いに離間するように変位する。そして、この変位部22の変位により、振り子部材23が変位部22間の略中央を中心として回動し、この振り子部材23の端部において、変位部22の変位が増幅される。
【0034】
振り子部材23が回動すると、ロッド311が押されて、振り子部材23の最大回動時の変位に対応する位置まで移動する。そして、目盛り部331がロッド311とともに移動して、目盛り指示部332により、目盛り部331における振り子部材23の最大変位を表す位置が指示される。また、戻り阻止部34によりロッド311の戻る方向への移動が阻止されているので、この後、小さい地震が発生した場合であっても、ロッド311は、振り子部材23の変位が大きくならない限り戻る方向へ移動しない。
【0035】
そして、判定者は、目盛り指示部332の指示位置を測定者が目視して測定結果を確認し、この測定結果に基づいて、柱11の変位を推定する。この後、判定者は、この柱11の変位、すなわち傾斜角に基づいて、建築物1の損傷状態を判定する。
【0036】
また、判定者は、必要に応じて、目盛り指示部332の指示位置を0cmに合わせる作業を実施する。具体的には、窓面部材42を取り外し、ロッド操作部315の操作当接部315Aを操作して、ロッド位置決め部312がロッド保持部323に当接するまでロッド311を移動させることで、目盛り指示部332の指示位置を0cmに合わせる。ここで、4個の操作当接部315Aがロッド311の軸方向に略沿って並設されているため、例えばロッド311の移動量が大きくなった場合であっても、少なくともいずれか1個の操作当接部315Aが表示部40を介して目視可能な位置に位置し、外部からロッド311を容易に移動させることができる。
この後、判定者は、窓面部材42を表示枠41に取り付け、作業を終了させる。
【0037】
〔第1実施形態の作用効果〕
第1実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)地震などにより建築物1の壁10が振動したときに、変位測定装置30により柱11の変位を測定して、この測定結果を表示部40により壁10の外部に表示させる。
このため、振動時の柱11の変位が小さい場合であっても、判定者は、壁10の外部から煩雑な測定作業を実施することなく柱11の変位を確認でき、建築物1の損傷状態について精度が高い判定を下すことができる。
【0038】
(2)振り子部材23により壁10の振動に伴う変位部22の変位を増幅して回動に変換し、この振り子部材23の最大回動時の変位を変位測定装置30で測定する。
このため、振り子部材23の回動量と、柱11の変位との関係を予め実験などにより求めておくことにより、柱11の変位が小さい場合であっても、振り子部材23により増幅された回動量に基づいて、柱11の変位を容易にかつ確実に測定できる。したがって、建築物1の損傷状態について、より精度が高い判定を下すことができる。
【0039】
(3)振り子部材23の回動端部でロッド311を押すことにより、ロッド311を振り子部材23の回動量に対応する量だけ移動させる。
このため、ロッド311の移動量を例えば目視などにより確認するだけの簡単な方法で、柱11の変位を容易に測定できる。また、変位測定装置30の構造の簡易化を図ることができる。
【0040】
(4)戻り阻止部34により、ロッド311が振り子部材23に押されて移動した後に戻るのを阻止している。
1回目の地震よりも小さい2回目の地震が発生したとしてもロッド311が戻るのを防止でき、ロッド311の移動量を1回目の地震に対応する量にすることができ、より精度が高い判定を下すことができる。
【0041】
(5)測定部33を目盛り部331と、目盛り指示部332とで構成しているので、例えば災害時の停電により給電不可能な状態になっても柱11の変位を測定することができ、利便性を向上できる。また、窓部42Aを介して測定結果を目視することができるので、変位測定装置30の構成の簡略化を図ることができる。
【0042】
(6)ロッド311に、壁10の壁開口部12Aを介して操作可能な操作当接部315Aを設けている。
このため、柱11の変位を測定した後に、外部から操作当接部315Aを操作することにより、ロッド311を測定基準位置まで容易に戻すことができ、測定再開のための準備作業の効率化を図ることができる。
【0043】
(7)4個の操作当接部315Aをロッド311の移動方向に略沿って並設させているので、ロッド311の移動量が大きくなった場合であっても、少なくともいずれか1個の操作当接部315Aを操作が容易な位置に位置させることができ、壁10の外部からロッド311を容易に移動させることができる。また、操作当接部315Aを壁10の外部に露出させなくてもロッド311を移動させることができるので、操作当接部315Aを外部に露出させる構成と比べて意匠性を向上できる。
【0044】
(8)目盛り指示部332を、ロッド保持部323の右端にロッド位置決め部312が当接するまでロッド311が挿通されたときに、目盛り部331の0cmの位置(測定基準位置)を指示する状態で設けている。
このため、ロッド位置決め部312がロッド保持部323に当接するまでロッド311を移動させるだけの簡単な方法で、目盛り指示部332の指示位置を0cmに合わせることができ、測定再開準備作業の効率化を図ることができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
この第2実施形態は、変位測定装置60および表示部70の構成が第1実施形態と相違し、他の構成は第1実施形態と同一である。なお、変位測定装置60を用いた建築物1の損傷状態の判定作業については、第1実施形態と同様なので説明を省略する。
図6は、変位測定装置および表示部の概略構成を示す図である。
【0046】
〔変位測定装置の構成〕
変位測定装置60は、図6に示すように、制振装置20の下側の制振ボックス24に設けられ、振り子部材23の最大回動時の変位を測定する。なお、この振り子部材23の最大回動時の変位は、柱11の変位を増幅させたものである。
この変位測定装置60は、測定本体部61と、測定部62と、図示しない位置決め部と、を備えている。
【0047】
測定本体部61は、略長方形箱状のケース611を備えている。このケース611には、筒状のロッド保持部612が収納されている。
このロッド保持部612は、一端側がケース611の外部に突出し、それ以外の部分がケース611の内部に収納されている。また、ロッド保持部612には、ロッド613が軸方向に移動可能に挿通されている。
ロッド613の一端面(以下、先端面と称す)613Aは、連結プレート242に、つまり振り子部材23の回動端部に当接する。また、ロッド613の先端面613A近傍からロッド保持部612の突出端にかけての部分には、ロッド613を覆うとともに、ロッド613の移動に伴い伸縮するロッドカバー614が設けられている。
【0048】
測定部62は、ロッド613のロッド保持部612に対する位置に対応した電気信号を出力する電気信号出力部621と、この電気信号出力部621からの電気信号に基づいてロッド613の移動量を算出する移動量算出部622と、を備えている。
電気信号出力部621は、ケース611に収納されている。また、移動量算出部622は、表示部70を収納する表示ケース71内に設けられている。
移動量算出部622は、ロッド613が適宜設定される振れ幅基準値よりも大きく、かつ、振れ幅基準値以上の移動量が適宜設定される振れ検知回数を超えたことを検知すると、ロッド613の移動量算出処理を開始する。そして、最後のロッド613の変位から適宜設定される振れ終了基準時間の経過後に、移動量算出処理を終了し、この算出結果を壁10の振動のグループごと(例えば、地震ごと)に図示しない記憶手段に適宜記憶させる。また、移動量算出部622は、移動量の最大値や、過去数回分の最大値、あるいは経過時間と移動量との関係を示すグラフを日時とともに表示部70で適宜表示させる。
【0049】
位置決め部は、ケース611と、横フレーム212とを位置決め固定する。具体的には、位置決め部は、ロッド613の先端面613Aが振り子部材23の回動端部に当接可能な状態で、かつ、柱11が振動などにより傾斜していないときにおけるロッド613の移動量算出結果が0cmになる状態で固定されている。
【0050】
〔表示部の構成〕
表示部70は、外面材12の下端側に設けられた表示ケース71から外部に露出する状態で設けられている。ここで、表示ケース71は、外面材12に開口された穴に嵌合されていてもよいし、外面材12の外面に固定されていてもよい。
この表示部70は、移動量算出部622でのロッド613の移動量に関する各種情報を表示させる。また、表示部70は、いわゆるタッチパネルであり、振れ幅基準値、振れ検知回数、振れ終了基準時間などの設定の際に操作される。
そして、判定者は、この表示部70に表示されたロッド613の移動量に基づいて、柱11の変位を推定し、建築物1の損傷状態を判定する。
【0051】
〔第2実施形態の作用効果〕
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、次のような効果が得られる。
(9)移動量算出部622により、電気信号に基づいてロッド613の移動量を算出するので、例えば目視で測定する構成と比べて、より精密に測定でき、精度が高い判定を下すことができる。
【0052】
[実施形態の変形]
なお、本発明は、上述した第1,第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
【0053】
すなわち、変位測定装置30,60のロッド311,613を制振装置20の振り子部材23の回動端部に当接させ、振り子部材23の回動量を測定することで柱11の変位を測定したが、ロッド311,613を直接柱11に当接させて、柱11の変位を測定する構成としてもよい。
そして、ロッド311,613の移動量に基づいて柱11の変位を測定するいわゆる接触式の測定方法を用いたが、レーザ光、超音波、画像処理などの非接触式の測定方法を用いてもよい。
また、変位測定装置30に、戻り阻止部34を設けなくてもよい。さらに、戻り阻止部34としては、例えばゴムなどの摩擦力が大きいものをロッド311の外周面やロッド保持部323の内周面に設け、この摩擦力によりロッド311の戻りを阻止してもよい。
また、測定当接部31に目盛り指示部332を設け、測定保持部32に目盛り部331を設けてもよい。
そして、変位測定装置30に、ロッド操作部315を設けなくてもよい。また、操作当接部315Aを1個だけ設けてもよい。さらに、操作当接部として、例えば側方延出部314から延びて壁10から外部に突出する棒状に形成され、外部から操作可能な構成を適用してもよい。
【0054】
以上、本発明を実施するための最良の構成について具体的に説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形および改良を加えることができるものである。
上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、家屋などの建物に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態に係る建築物を構成する外壁パネルの分解斜視図である。
【図2】前記第1実施形態における外壁パネルの要部を示す斜視図である。
【図3】前記第1実施形態における変位測定装置の室内側からの分解斜視図である。
【図4】前記第1実施形態における表示部および測定部を示す正面図である。
【図5】前記第1実施形態における戻り阻止部を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る変位測定装置および表示部の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…建築物
10…壁
11…壁構成部材としての柱
12A…測定開口部および操作開口部としての壁開口部
20…制振装置
22…変位部
23…振り子部材
30,60…変位測定装置
33,62…測定部
34…戻り阻止部
35…位置決め部
40,70…表示部
42A…窓部
241…振動吸収部材
311,613…ロッド
315A…操作当接部
323,612…ロッド保持部
331…目盛り部
332…目盛り指示部
621…電気信号出力部
622…移動量算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の壁構成部材から構成される壁における前記複数の壁構成部材の振動時の変位を測定する変位測定装置と、
前記壁の外部に露出して設けられ、前記変位測定装置での測定結果を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする建築物。
【請求項2】
請求項1に記載の建築物において、
前記壁には、この壁に固定され前記壁の振動に伴い変位する変位部の変位を振り子部材の回動に変換し、前記振り子部材の回動を振動吸収部材で阻止する制振装置が設けられ、
前記変位測定装置は、前記制振装置の前記振り子部材の最大回動時の変位を測定する
ことを特徴とする建築物。
【請求項3】
請求項2に記載の建築物において、
前記変位測定装置は、前記振り子部材の回動端部に当接するロッドと、このロッドを軸方向に進退自在に保持するロッド保持部と、前記ロッドが前記振り子部材に押されたときの移動量を測定する測定部と、前記ロッド保持部を前記制振装置に対して位置決めする位置決め部と、を備える
ことを特徴とする建築物。
【請求項4】
請求項3に記載の建築物において、
前記変位測定装置は、前記ロッドが前記振り子部材に押されて移動した後に、前記ロッドが戻るのを阻止する戻り阻止部を備える
ことを特徴とする建築物。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の建築物において、
前記測定部は、前記ロッドおよび前記ロッド保持部のうち一方に設けられた目盛り部と、他方に設けられ前記目盛り部の所定位置を指示する目盛り指示部と、を備え、
前記表示部は、前記壁に開口形成された測定開口部を介して前記測定部を目視可能な位置に設けられた窓部を備える
ことを特徴とする建築物。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載の建築物において、
前記測定部は、前記ロッドのロッド保持部に対する位置に対応した電気信号を出力する電気信号出力部と、この電気信号出力部からの電気信号に基づいて前記ロッドの移動量を算出する移動量算出部と、を備える
ことを特徴とする建築物。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれかに記載の建築物において、
前記壁には、前記変位測定装置に対応する位置に開口形成された操作開口部が設けられ、
前記変位測定装置は、前記ロッドに一体的に設けられ前記操作開口部を介して前記壁の外部から操作可能な操作当接部を備える
ことを特徴とする建築物。
【請求項8】
請求項7に記載の建築物において、
前記操作当接部は、前記ロッドの移動方向に略沿って複数並設されている
ことを特徴とする建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−109234(P2009−109234A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279311(P2007−279311)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(307042385)ミサワホーム株式会社 (569)
【Fターム(参考)】