説明

建築用タイル、建築用タイルを用いた構造体およびその施工方法

【課題】 落下し難い建築用タイルおよびそれを用いた施工方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るコンクリートの施工面に取付けられる建築用タイル200は、平坦な上面202と、底面204と、上面202および底面204の間に形成される側面206とを有する。側面206には、タイルの厚さ方向と直交する方向に沿って目地材を充填可能な半円状の溝210が形成され、1の側面の溝210は、隣接する他の側面の溝210に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁、内壁、あるいは床面など(以下、施工面という)に取り付けられる建築用タイルとその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや家屋などの建築物のコンクリートの施工面に、コンクリートを保護しかつ外観状の美感を与えるためにタイルが施工される。タイルは、例えば、矩形状の薄いセラミックまたは粘土などの焼成品から構成される。
【0003】
特許文献1は、建築用タイルの取付けに関する技術を開示している。これによれば、図1に示すように、壁Wに取付金具80をビス100で固定し、次いで、取付金具80の支持部82a、82bとタイル70の裏面に弾性接着剤Bを塗布し、次いで、取付金具80の係止部83a、83bを、タイルの各側面に形成された係止溝71内に挿入、係止し、タイルの施工を行っている。
【0004】
特許文献2は、図2(a)に示すような建築用タイルを開示している。この建築用タイル5は、長方形状の上面6と、裏面7と、4つの側面を有し、裏面7には、対向する2辺に沿って設けられた外側山部8と、外側山部8の間に設けられた内側山部9を備えている。外側山部8の側面には溝11が設けられている。この建築用タイル1は、図2(b)に示すように、略H状の断面を有する取付けレール4の上部突起13をタイル5の溝11に挿入することでタイルの施工を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−33573号
【特許文献2】特開2005−163352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の建築用タイルには次のような課題があった。特許文献1や特許文献2の建築用タイルの施工方法は、取付金具や取付けレールを壁や屋根に設置しなければならず、施工時間や施工コストがかかるものであった。こうした課題を解決する1つの方法は、取付金具や取付けレールを用いることなく、コンクリートなどの施工面にタイル接着剤を塗布し、タイルを施工面に直接取付けることである。この方法では、図3(a)に示すように、矩形状のほぼ6面体を有するタイル20を用いる。タイルの底面には、長手方向に延在する複数の凸部22が形成されている。そして、図3(b)に示すように、コンクリートの施工面24にタイル接着剤26を塗布し、タイル接着剤26上にタイル20を貼り付ける。タイル20の底面には、凸部22により凹凸面が形成され、タイル接着剤26が凹凸面内に充填されることで、タイル20がコンクリートの施工面24上に固定される。そして、タイル間の隙間には、ペースト状の目地材が充填され、目地材によって水や湿気などの進入が防止される。
【0007】
コンクリートは、コンクリート自身が固まる過程で自己熱膨張をしたり、水分が抜け落ちることで自己収縮する。さらに、そのようなコンクリートは、季節の温度変化、あるいは日中の温度変化に晒されると、熱膨張や収縮を生じる。建築用タイルは、コンクリートの熱膨張係数や収縮率と異なるため、コンクリートに熱膨張や収縮が生じると、熱膨張係数および収縮率の差により、建築用タイルに応力が生じる。特に、コンクリートは、現場の環境による影響、例えば、現場での温度、湿度などによって品質にばらつきが生じることがあり、コンクリートの収縮率が非常に大きくなることがある。そうなると、建築用タイルにも大きな応力が発生し、タイル接着剤26によって建築用タイル20を保持することができなくなり、建築用タイル20が剥離し、コンクリート壁面から落下する。建築用タイルの剥離、落下の時期は、予測することができないため、建築用タイルが道路に落下すれば大きな危険をもたらすおそれがある。他方、タイルとタイルの間には、目地材が充填されているが、目地材の強度を上げてもタイルの側面が平坦であると、目地材によってタイルを保持することは事実上できなかった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決し、落下し難い建築用タイルおよびそれを用いた施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、コンクリートの施工面に取付けられる建築用タイルであって、上面と、底面と、前記上面および前記底面の間に形成される側面とを有し、前記側面には、タイルの厚さ方向と直交する方向に沿って目地材を充填可能な溝が形成され、1つの側面の溝は、隣接する他の側面の溝に接続される。
【0010】
好ましくは前記溝の内壁面は、球面状であり、より好ましくは、溝は、半円状である。さらに好ましくは溝は、前記側面のほぼ中央に形成され、前記側面の上面から前記溝の上縁までの幅は、前記側面の底面から前記溝の下縁までの幅に等しい。さらに好ましくは溝の深さは、前記溝の径の約半分に等しい。さらに好ましくは前記タイルの厚さをd、前記溝の幅をdnとしたとき、dn=0.18d〜0.27dの関係にある。さらに好ましくは底面には、複数の離間した突起が形成される。
【0011】
本発明に係る建築用タイルの構造体は、上記特徴を備えた建築用タイルを、コンクリート施工面上に接着剤を介して複数配置させ、複数の建築用タイルの相互間の間隙に目地材を充填してなる。好ましくは、複数の建築用タイルは、互いに等しい間隙をもって配置される。構造体は、例えば、コンクリート壁面を有するビルディング、家屋、床などを含む。
【0012】
本発明に係る、上記特徴を備えた建築用タイルの施工方法は、コンクリートの施工面を用意し、コンクリートの施工面に接着剤を塗布し、前記建築用タイルの底面が前記接着剤によって接着されるように建築用タイルを前記接着剤上に配列し、隣接する建築用タイルの側面に目地材を充填する工程を含む。
【0013】
好ましくは目地材は、セメントに一定量の水を加えたペースト状のものであり、養生後に固化される。好ましくは施工方法はさらに、コンクリートの施工面にモルタルを塗装する工程を含む。好ましくは施工方法はさらに、コンクリートの施工面を目粗しする工程を含み、目粗しされた施工面上にモルタルが塗装される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タイルの側面に目地材が充填可能な溝を形成するようにしたので、隣接するタイル間の側面を目地材によって強固に連結または結合させることができる。これにより、目地材全体で網目状のタイル落下防止ネットを構築することができ、仮に、タイルの底面またはタイル接着剤がコンクリートの施工面から剥離したとしても、タイルの側面が隣接するタイルの側面と目地材を介して結合されるため、タイルの容易な落下を防止することができる。
【0015】
さらに、タイルを取付ける施工面は、必ずしも平坦な面とは限らず、例えば、段差がある施工面やR(曲面)を有する施工面であることもある。従来の特許文献1や特許文献2に示す施工方法は、取付金具や取付けレールを用いるため、段差がある施工面やRを有する施工面には不適である。これに対し、本発明の建築用タイルは、取付金具や取付けレールを用いることなく接着剤を用いて施工面に取り付けられ、弾性を有する接着剤は、段差やRを有する施工面とタイル底面間の緩衝材としても機能し得る。このため、本発明の建築用タイルは、段差やRを有する施工面であっても容易に施工を行うことができ、取付金具や取付けレールが不要であるため、施工時間および施工コストを低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の建築用タイルとその施工例を示す図である。
【図2】従来の建築用タイルとその施工例を示す図である。
【図3】従来の建築用タイルとその施工例を示す図である。
【図4】図4(a)は本発明の第1の実施例に係る建築用タイルの斜視図、図4(b)は、A−A線断面図、図4(c)は、B−B線断面図である。
【図5】図4(a)に示した建築用タイルの側面の拡大図である。
【図6】本実施例に係る建築用タイルの施工例を示すフローチャートである。
【図7】建築用タイルの施工例を示す概略断面図である。
【図8】建築タイルの施工パターンを示す図である。
【図9】本発明の実施例の係る他の建築用タイルの例を示す図である。
【図10】試験対象タイルの割り振り例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際の製品のスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0018】
図4(a)は、本発明の第1の実施例に係る建築用タイルの斜視図、図4(b)は、そのA−A線断面図、図4(c)は、そのB−B線断面図、図5は、建築用タイルの側面の拡大図である。
【0019】
本実施例に係る建築用タイル200は、矩形状の薄板であって、平坦な上面202と、上面202と対向する底面204と、上面202および底面204とを連結する4つの側面206とを有する。底面204には、長手方向に沿って延在する複数(図面では3つ)の突出部208が形成され、突出部208の間には凹部が形成される。好ましくは、突出部208の表面は平坦である。
【0020】
本実施例のタイル200において特徴的なことは、各側面206を取り囲むように半円状の溝210が形成されていることである。タイル200の各側面206には溝210が形成され、各溝210は、側面206のほぼ中央に、かつタイル200の厚さ方向と直交する方向に沿うように延在し、1つの溝210は、タイルのコーナーにおいて隣接する他の溝210に接続される。こうして、タイル200の側面206には、矩形状の連続した溝210が形成されている。タイル200は、好ましくは、粘土などを型成形し、これを焼結または焼成したセラミック部材から構成される。従って、タイルを成形する型に、予め溝210の形状に対応する半円状の突起部を形成しておき、タイル200の側面に半円状の溝210を容易に形成することができる。また、これとは別に、平坦な側面をもつタイル200を型成形し、その後に、グラインダなどの切削部材を用いて、側面に半円状の溝210を加工するようにしてもよい。
【0021】
図5に示すように、タイル200の厚さ(上面202から突出部208を含まない底面204の厚さ)をd、上面202から溝210の上縁までの平坦な面の幅をd1、半円状の溝210の径をdn、底面204から溝210の下縁までの平坦な面の幅をd2、半円状の溝210の最大深度をDとする。
【0022】
タイル200をコンクリートの施工面に取付けるとき、施工面にはタイル接着剤が施工され、そのタイル接着剤上にタイル200の底面206が接着される。隣接するタイルの間隙には、接着性のある目地材が充填される。目地材は、防水性、耐湿性に優れ、タイルが施工されたときの美感も提供する。目地材は、タイル200の側面206の溝210内に入り込み、隣接するタイル間を強固に連結する。溝210を大きくすれば、目地材の接触面積が増加し、タイル間の連結強度が増加するが、他方、コンクリートに収縮や熱膨張が生じたとき、タイルのエッジ部分(d1、d2の幅に相当する部分)には曲げ応力がかかるため、溝210を大きくしすぎると、タイルのエッジ部分が曲げ応力に耐えることができない。従って、溝210の径dnは、タイルの厚さdに対して一定の範囲内にあることが望ましい。また、深さDは、径dnの約半分、すなわち1/2dnであることが望ましい。
【0023】
さらに溝210の内壁面は、球面状とすることが好ましく、本実施例の溝210は、ほぼ半円形状である。目地材、タイル接着剤、コンクリートの熱膨張率および収縮率はそれぞれ異なるため、それらに起因してタイル200の側面206に引張応力あるいは圧縮応力が生じたとき、半円状の溝210は、局所的な応力が集中することを防止し、応力をほぼ均等に分散させることができる。その結果、タイルのエッジ部分や溝の破損を防止するとともに、目地材によるタイル間の接合強度の低下を防止することができる。
【0024】
次に、本実施例のタイルの施工方法について説明する。図6は、タイルの施工手順を示すフローチャートであり、図7は、施工状態を示す断面図である。先ず、図7(a)に示すように、ビルや家屋を構成するためのコンクリート220が形成される(ステップS101)。通常、コンクリート220の施工面は、少なからず凹凸が形成されている。
【0025】
次に、コンクリート220の施工面に一定の粗さが与えられ、かつ施工面が洗浄される(ステップS102)。コンクリート220の施工面を荒らすことで、次工程で塗装されるモルタルとの接触する面積を増加させ、モルタルの剥離を防止する。
【0026】
次に、タイル取付けるための下地加工が行われる(ステップS103)。これは、図7(b)に示すように、目粗し加工が施されたコンクリート220の施工面にモルタル222を塗布する工程である。モルタル222を塗布することで、タイルを取付けるための平坦な面が提供される。
【0027】
次に、図7(c)に示すように、モルタル222上にタイル接着剤230が塗布される(ステップS104)。タイル接着剤230は、例えば、セメント系の接着剤であり、弾性を有するものであってもよい。
【0028】
次に、タイル接着剤上に、タイルが1枚ずつ接着される(ステップS105)。タイルの底面には、突出部208により凹凸面が形成されており、タイル接着剤は、この凹凸面内に充填されタイルをモルタル面に接着する。タイルの配列パターンは、図8(a)に示すように、タイルを行列方向に互いに整列させたり、図8(b)に示すように、タイルを半ピッチずらすように互い違いに整列させることができる。
【0029】
次に、接着されたタイルの側面の隙間に、ペースト状の目地材が充填される(S106)。目地材は、一定の粘性または弾性を有し、タイルの側面の溝210内に入り込み、一定時間経過すると固化し、隣接するタイル200の側面は、目地材を介して互いに接合される。目地材は、典型的にセメントや骨材に一定量の水を加え、十分に練り混ぜたものであり、施工後に養生を要する。目地材は、例えば、日本化成株式会社が提供する「NSメジセメント」(商品名)、太平洋マテリアル株式会社が提供する「目地用タイロン」(商品名)を入手して用いることができる。
【0030】
(試験1)
次に、本実施例のタイルの接合強度を検証した実験結果について説明する。縦45mm、横95mm、厚さd=5.5mm、溝の径dn=1.3mm、d1=d2=2.1mm、D=0.65mmのタイルを用意し、図8(a)に示すように、タイルを3行×3列となるようにタイルを配置し、中央の試験対象タイル200Pを引張試験機により引っ張り、タイルが剥離するときの引張荷重を計測した。
【0031】
1.施工方法
(A)本実施例の溝付きタイル
(1)コンクリート表面(モルタルによる下地加工された表面)にタイル接着剤を塗布する。タイル接着剤は、日本化成株式会社のNSタイルセメントT−2を用いた。
(2)試験対象タイル200Pがタイル接着剤によってコンクリート表面に接着されないようにするため、タイル接着剤上にガムテープを貼る。
(3)各タイルのX方向の間隔Lxが5mm、Y方向の間隔Lyが5mmとなるように8枚のタイルをタイル接着剤上に接着する。
(4)ガムテープ上に、隣接するタイルとの間隔が5mmとなるように、試験対象タイル200Pを配置する。
(5)目地材でタイル間のすべての隙間を埋める。目地材は、日本化成株式会社が提供するNSメジセメントを用いた。
(B)従来のタイル(溝なし)
上記と同様に(1)〜(5)の手順で施工する。
【0032】
2.引張試験
目地材が固化した後、中央の試験対象タイル200Pを、引張試験機により引っ張り、タイルが剥離するときの強度を測定する。その測定結果を以下の表に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記試験結果から明らかのように、本実施例の溝付きタイルは、溝がない従来のタイルと比較して、その接合強度を約1.5倍向上することがわかる。
【0035】
コンクリート、タイル、タイル接着剤および目地材は、それぞれ熱膨張係数や収縮率を異にする。繰返し温度変化が生じると、これら部材相互の境界または界面に応力が生じる。タイルの剥離の態様は、大きく2つある。第1は、タイルの底面がタイル接着剤から剥離することであり、第2は、タイル接着剤がコンクリートの施工面から剥離することである。
【0036】
目地材は、タイル同士の側面を接着させるため、タイルに剥離が生じたときに、タイルの落下を防止する効果がある。しかし、従来のタイルは、側面が平坦であるため、タイルと目地材との間の摩擦係数が低く、タイルが容易に剥離して落下し易い。これに対し、本実施例では、タイルの側面に溝を形成することで、目地材がタイルの側面の溝内に食い込み、両者の摩擦係数を増加させ、タイルの容易な剥離や落下を防止する。また、コンクリートの施工面に複数のタイルを取り付け、タイル相互間の側面に目地材を充填させることで、目地材の体積が増加し強度が高くなり、目地材全体で網目状のタイル落下防止ネットの機能を高めることができる。
【0037】
(試験2)
次に、もう1つの試験結果について説明する。
(1)試験材料
建築用タイルは、試験1と同じものを用い、これを溝がない従来のタイルと比較試験を行った。タイル張付材には、市販で入手可能な、NSタイルセメントT−2(日本化成製)を用い、加水量を20.0%とした。吸水調整材には、NSハイフレックスHF−1000 5倍液を塗布した。目地材には、NSメヂセメント一般用灰M−2(日本化成製)を用い、通常目地として加水量を20.0%とした。
【0038】
(2)試験対象タイルの作成
試験対象タイルの割り振りを図10に示す。タイルは、8行×6列に配置されている。図に示す測定1及び測定2の試験対象タイルは、下地にビニールテープを貼り目地材のみで拘束した。(純粋に目地材だけの拘束効果を測定するため、タイル張り用モルタルとの縁切りを行った)。測定3の試験対象タイルは、タイル張付用モルタルで接着し、測定時にタイル周囲の目地材を電動カッターを用いてコンクリートに達するまで切れ込みを入れた。
【0039】
(3)試験体の作製
下地基材は、JIS A 5571"プレキャスト無筋コンクリート製品"に規定するU字溝ふた(寸法400×600)を研磨紙#150で磨き、清掃したものを用いた。吸水調整材として、NSハイフレックスHF-1000 5倍希釈液をはけ塗り(塗布量約150g/m)し、乾燥させた。測定1、測定2の箇所には、あらかじめテープを貼りモルタルによる接着力が発生しないように処理し、測定1および測定2の箇所は、タイルを張付けなかった。翌日に目地材を充填し、その際に測定1および測定2の箇所にタイルを置いて目地材を充填した。養生は、目地充填後、温度20℃、湿度60%(RH)で7日間行った。溝のないタイルについても同様の作成を行った。
【0040】
(4)タイル接着試験
測定1および測定2の箇所は、タイルの周囲をカットせず鋼製冶具をエポキシ樹脂系接着剤により取り付け、建研式引張試験機(OXジャッキ LP-1000)で引張最大荷重Pを測定した。タイル張付用モルタルで接着した測定3の箇所は、電動カッターで下地基材に達するまで切れ込みを入れ目地材を除去し上記と同様の試験を行った。
【0041】
接着強さは、次式により求めた。
F=P/A
ここで、F:接着強さ(N/mm)、P: 引張最大荷重(KN)、A:タイル面積(mm)。なお、1枚の面積は、4,275(mm)=95×45mmである。
【0042】
(5)結果
本試験より、次のようなタイル側面の溝による拘束効果を確認した。
a)溝があるタイル
測定1、測定2のタイルの接着強さは、平均として、0.8〜0.9N/mmであった。この値は、測定3のモルタルのみで接着したタイル(約1.87N/mm)の場合の約半分であった。また、タイル接着強さの業界の基準値0.4N/mmの約2倍の接着強さに相当する拘束力が得られた。
b)溝がないタイル
測定1、測定2の側面に溝がない通常のタイルは、0.5〜0.6N/mmであり、溝のあるタイルと比べて接着強さが相当小さい。このことから、溝の有無によってタイル間の強度に大きな差があることの効果を確認できた。
c)最大引張荷重
溝がないタイルの最大引張荷重は、2.4KN(240kgf)であった。これに対し、タイル側面に溝があるタイルは、目地材により、タイル同士が拘束し合い周囲のタイルを引き剥がして破断し、その際の最大引張荷重は、3.9KN(390kgf)あり、タイルやモルタルの自重量を大きく超える拘束力が得られたことがわかった。
【0043】
以上の実験結果から、本発明者は、厚さd=5.5mmのタイルであれば、溝の径dn=1〜1.5mmの範囲(d1=d2=2〜2.25mm)であれば、従来の溝のないタイルと比較して、タイル間の接合強度を有効な大きさにまで向上させることができ、かつ曲げ応力などからタイル自身の破損を防止することができることを推認した。当業者であれば、上記したタイルの厚さ、溝の大きさの数値は、タイルの焼成過程において一定の誤差を含み得ることを理解されよう。さらに、タイルの厚さは、タイルの材質および用途によって適宜変更され得るが、本実施例のタイルの厚さd=5.5mmにおいて得られた上記の効果から、以下の表に示す比率を満足すれば、同様の効果を得ることができると推認され得る。
【0044】
【表2】

【0045】
次に、本実施例の建築用タイルの変形例について説明する。図9(a)、(b)、(c)は、本実施例の建築用タイルの変形例を示す断面図であり、図4(b)のA−A線断面に相当する。図9(a)に示す建築用タイル200Aの側面206には、U字型または矩形状の溝210Aが形成されている。図9(b)に示す建築用タイル200Bの側面には、V字型の溝210Bが形成されている。図9(c)に示す建築用タイル200Cの側面には、楕円状の溝210Cが形成されている。
【0046】
これらの建築用タイル200A、200B、200Cは、半円状の溝210をもつタイル200と同様に、従来の溝がないタイルと比較して、タイル間の接合強度を向上させ、タイルの剥落を防止することができる。これらの溝210A、210B、210Cもまた、上記したようにタイルの厚さdに対して、dn=0.18d〜0.27dの関係にあることが望ましい。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0048】
上記実施例では、タイルの形状を矩形状としたが、これ以外の多角形(三角形、5角形、6角形など)であってもよい。また、タイルの底面に複数の突出部を形成する例を示したが、突出部の形状、大きさ、数は任意であり、さらに突出部が形成されていないようなタイルであっても本発明を適用することが可能である。さらにタイルの上面202は、必ずしも平坦である必要はなく凹凸を有するものであっても良い。さらに上記実施例では、コンクリートの壁面にタイルを施工する例を示したが、タイルは、コンクリートの内壁、外壁以外にも、床面に施工されるものであってもよい。床面にタイルが施工されたとき、目地材は、仮にタイル底面が床面から剥離しても、タイルが床面から浮き上がることを防止することができる。
【符号の説明】
【0049】
200、200A、200B、200C:タイル
202:上面
204:底面
206:側面
208:突出部
210、210A、210B、210C:溝
220:コンクリート
222:モルタル
230:セメント圧着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの施工面に取付けられる建築用タイルであって、
上面と、
底面と、
前記上面および前記底面の間に形成される側面とを有し、
前記側面には、タイルの厚さ方向と直交する方向に沿って目地材を充填可能な溝が形成され、1つの側面の溝は、隣接する他の側面の溝に接続される、建築用タイル。
【請求項2】
前記溝の内壁面は、球面状である、請求項1に記載の建築用タイル。
【請求項3】
前記溝は、半円状である、請求項1または2に記載の建築用タイル。
【請求項4】
前記溝は、前記側面のほぼ中央に形成され、前記側面の上面から前記溝の上縁までの幅は、前記側面の底面から前記溝の下縁までの幅に等しい、請求項1ないし3いずれか1つに記載の建築用タイル。
【請求項5】
前記溝の深さは、前記溝の径の約半分に等しい、請求項1ないし4いずれか1つに記載の建築用タイル。
【請求項6】
前記タイルの厚さをd、前記溝の幅をdnとしたとき、dn=0.18d〜0.27dの関係にある、請求項1ないし5いずれか1つに記載の建築用タイル。
【請求項7】
前記底面には、複数の離間した突起が形成される、請求項1ないし6いずれか1つに記載の建築用タイル。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1つに記載の建築用タイルを、コンクリート施工面上に接着剤を介して複数配置させ、複数の建築用タイルの相互間の間隙に目地材を充填してなる、建築用タイルの構造体。
【請求項9】
前記複数の建築用タイルは、互いに等しい間隙をもって配置される、請求項8に記載の建築用タイルの構造体。
【請求項10】
請求項1ないし7いずれか1つに記載の建築用タイルの施工方法であって、
コンクリートの施工面を用意し、
コンクリートの施工面に接着剤を塗布し、
前記建築用タイルの底面が前記接着剤によって接着されるように建築用タイルを前記接着剤上に配列し、
隣接する建築用タイルの側面に目地材を充填する工程を含む、施工方法。
【請求項11】
前記目地材は、セメントに一定量の水を加えたペースト状のものであり、養生後に固化される、請求項10に記載の施工方法。
【請求項12】
施工方法はさらに、コンクリートの施工面にモルタルを塗装する工程を含む、請求項10または11に記載の施工方法。
【請求項13】
施工方法はさらに、コンクリートの施工面を目粗しする工程を含み、目粗しされた施工面上にモルタルが塗装される、請求項10ないし12いずれか1つに記載の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−94338(P2011−94338A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247390(P2009−247390)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(501409393)株式会社別所工業 (2)
【Fターム(参考)】