説明

建設機械のアームの製作設備

【課題】 異なる強度の平板を溶接してアームを製作する場合に多種類のアームを製作するための溶接作業を同一設備で能率的に行える建設機械のアームの製作設備を提供する。
【解決手段】 第1の加工用平板分割片19aと第2の加工用平板分割片19bと第3の加工用平板分割片19cとを溶接して、U字状アーム部材18を曲げ加工により形成するための加工用平板19を製作するための建設機械のアームの製作設備を構成する場合に、各加工用平板分割片19a,19b,19cを設置可能な定盤22と、定盤22の両側に配置され各加工用平板分割片を別々に置けるストックエリア23,24とを設けるとともに、加工用平板分割片を把持して定盤22の所定位置に設置する機能と、この設置された各加工用平板分割片同士を溶接することができる機能とを兼備したロボット25を定盤22の両側に2台ずつ設けて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械のアームを製作するのに使用する建設機械のアームの製作設備に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械では、種々の建設作業を行うため、作業用の腕として、上下方向に揺動させることができるアームを備えている。このアームは、強度を向上させるため、通常、上板と下板と両側板とから構成されて箱型構造をなしている。こうした箱型構造のアームは、これに加わる作業負荷に耐え得るように材料を選択しつつ極力軽量化を図るように設計することが必要である。昨今、建設機械は、種々の顧客の多様なニーズに応えるため、多品種少量生産を行う必要に迫られており、アームについては、個々の建設工事に適したものを注文生産の方式で個別的に製作するようにしている。しかしながら、アームは、これに加わる作業負荷の程度が当該建設工事に関する地盤の状況や施工内容等により異なり、また、アームの部位によっても異なるため、それぞれの建設工事に適したアームを設計するには、多大の時間と労力を要する。
【0003】
一方、箱型構造物としてのアームを製作するためには、溶接作業を行うことが不可欠である。この溶接作業は、作業が煩雑なことに加えて溶接継手等の溶接部の品質にバラツキが生じやすいため、所期のアームを精度良く製作するには、多大の時間と労力を要し、こうした溶接作業を、多種類のアームのそれぞれについて一品生産のような生産方式で行うと、アームの製作コストの著しい増加を招く。そのため、アームについて多品種少量生産を行うには、各種アームの溶接作業を同じ設備で行えるように設備の集約化を図りつつこれらのアームの溶接作業を能率的に行えるようにする必要である。本発明は、こうした要求に応えられる建設機械のアームの製作設備を開発しようとするものである。
【0004】
そこで、後に詳述する本発明の技術内容を容易に理解できるようにするため、建設機械やそのアームに関する従来例の技術内容を図9乃至図11に基づいて説明する。図9は、従来例の建設機械の全体像を説明するための側面図、図10は、加工形態が異なる二つのタイプの従来例の建設機械のアームを示す横断面図で、(a)通常のタイプのアームを示す図、(b)はU字状アーム部材を用いるタイプのアームを示す図、図11は、材料の使用形態が異なる二つのタイプの従来例の建設機械のアームを示す側面図で、(a)一般的なタイプのアームを示す図、(b)は板厚の異なる材料を組み合わせたタイプのアームを示す図である。
【0005】
まず、図9に基づいて従来例の建設機械の全体像を説明する。この図9には、建設機械の一例としてクローラ式の油圧ショベルを示している。
【0006】
図において、1は掘削作業や掘削土砂の積込作業等の種々の作業を行う油圧ショベルの作業装置をなすフロント、2は上部旋回体3を設置するための基台となり作業現場を走行することが可能な自走式の油圧ショベルの下部走行体、3はこの下部走行体2上に旋回可能に搭載された旋回フレーム5とその上部に設置された諸装置とからなる上部旋回体、4は下部走行体2の走行部をなしクローラベルとにより走行するクローラ、5は下部走行体2上に旋回可能に取り付けられて旋回モータや減速機により旋回するように駆動される旋回フレーム、6はオペレータによりフロント1等の操縦が行われる運転室、7はエンジンルーム等を形成する建屋カバー、8はフロント1による作業時に油圧ショベルに作用する外力と釣り合わせるためのカウンタウエイトである。
【0007】
旋回フレーム5は、上部旋回体3の基盤となり、運転室6、建屋カバー7、カウンタウエイト8、図示しない旋回モータや減速機等の諸装置が設置されて上部旋回体3を構成している。また、この旋回フレーム5上の運転室6の傍らには、後に詳述するアーム11等を備えたフロント1が俯仰動可能に設置されている。そこで、この油圧ショベルのフロント1について概説する。
【0008】
9は後端部が旋回フレーム5上に傾動可能に軸着して設置されたブーム、10は伸縮させてブーム9を傾動させるように駆動するブームシリンダ、11は後端部がブーム9の前端部に揺動可能に軸着されたアーム、12は伸縮させてアーム11を揺動させるように駆動するアームシリンダ、13はアーム11の前端部にブラケット13aを介して回動可能にかつ着脱可能に軸着されて土砂の掘削等を行うバケット、14は伸縮させてバケット13やこれと交換して使用されるブレーカや小割機等のアタッチメントを駆動するバケットシリンダである。
【0009】
ブームシリンダ10は、後端部が旋回フレーム5上のブラケット(図示せず)に軸着され、前端部がブーム9に軸着されている。アームシリンダ12は、後端部がブーム9の上板上のブラケット9aに軸着され、前端部がアーム11の後端部のブラケット11aに軸着されている。バケットシリンダ14は、後端部がアーム11の上板15上のブラケット11bに軸着され、前端部が、アーム11及びバケット13にそれぞれ軸着されたリンクR1及びリンクR2にピンで軸着されている。
【0010】
本発明は、建設機械のアームに関連する技術であるので、図10及び図11に基づき、従来例の建設機械のアームについて以下に詳述する。
【0011】
まず、図10に基づき、加工形態が異なる二つのタイプの従来例のアーム11について説明する。従来例のアーム11には、第1のタイプのアーム11として、図10(a)に示すように、間隔を置いて配置した左右の一対の側板16の頂部及び底部にそれぞれ上板15及び底板17を溶接で固着することにより、箱型構造に形成したものがある。このタイプのアームは、一般に製作されているものである。第2のタイプのアーム11として、図10(b)に示すように、加工用平板を曲げ加工することにより上板と両側板とを形成したU字状アーム部材18に下板17を溶接で固着することにより、箱型構造に形成したものがある。図示はしていないが、この種のタイプのアーム11には、底板と両側板とを形成したU字状アーム部材に上板15を溶接して形成したものもある。第1のタイプのアーム11は、上板15及び底板17を左右の側板16に溶接する必要があるのに対し、第2のタイプのアーム11は、底板17だけを左右の側板16に溶接すれば済むので、溶接線や溶接工数を減少させることができる。
【0012】
次に、図11に基づき、材料の使用形態が異なる二つのタイプの従来例の建設機械のアーム11について説明する。同図において、11aはアームシリンダ12の端部を回動可能に軸着するためのブラケット、11bはバケットシリンダ14の端部を回動可能に軸着するためのブラケット、11cはブーム9の端部にアーム11を回動可能に軸着するためのピンを挿通するアーム軸着用のボス、11dはバケット13を回動可能に軸着するためのピンを挿通するバケット軸着用のボス、11eは前述のリンクR1(図9を参照)の他端部を回動可能に軸着するためのピンを挿通するリンク軸着用のボスである。
【0013】
バケット軸着用のボス11d及びリンク軸着用のボス11eを設けたアーム11の先端側は、建設作業時にバケット13やバケットシリンダ14から負荷を受け、ブラケット11a,11b及びアーム軸着用のボス11cを設けたアーム11の後端側は、アームシリンダ12やバケットシリンダ14等から負荷を受ける。そのため、アーム11の先端側及び後端側は、アーム11の中央よりも大きな作業負荷を受ける。アーム11の材料を決定するときには、こうしたことを考慮しながら、重量ができるだけ増加しないように決定することが必要である。
【0014】
図11(a)に示すアーム11は、同じ板厚の平板を使用して、アーム11に加わる作業負荷に耐え得るように箱型構造に形成したものである。このタイプのアーム11は、これに加わる作業負荷が軽負荷や通常負荷の場合に用いられる一般的なタイプのアームである。図11(b)に示すアーム11は、アーム11を前端部Aと中央部Bと後端部Cの三つの部分に分けて、前端部A及び後端部Cの両側板に厚板を使用するとともに中央部Bの両側板等その他の領域に薄板を使用し、これらの板材を溶接して箱型構造に形成したものである。すなわち、アーム11のうち、強度の必要な領域を厚板、その他の領域を薄板で形成したものである。この種のタイプのアームは、特許文献1に開示されている。
【0015】
この図11(b)のアーム11は、アーム11のうちの必要な部分にだけ強度の大きい厚板を使用するものであるから、アーム11の重量増加を抑制することができ、しかも、アーム11に加わる作業負荷に応じて高強度の平板を必要な個所に選択的に使用して製作することができるから、個々の建設工事に適した種々のアーム11を、設計業務に大きな負担をかけることなく、自由に製作することができる。したがって、この種のタイプのアーム11は、多品種少量生産をするのに適している。
【特許文献1】特開2001−115477号公報(第2−4頁、図1−6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
すでに述べたように、昨今は、建設機械について種々の顧客の多様なニーズに応えるため、多品種少量生産を行う必要に迫られており、特にアームについて、当該建設工事に適したものを顧客が特別に注文するケースが多い。こうした顧客のニーズに応えるため、建設機械のアームを製作する場合には、営業関係の技術者が施工予定の建設工事現場を必要に応じて下調べしながら顧客から施工内容を聴取して、建設工事におけるアームの作業負荷をランク分けし、その結果を設計者に伝えることにより、当該建設工事に最適な建設機械を製作するようにしている。したがって、建設機械のアームを製作する場合には、個々の建設工事の内容を考慮しながら一品生産に近い形態で製作するようにしている。
【0017】
高強度の平板を選択的に使用する前記図11(b)のタイプのアームは、アームの各部位に加わる作業負荷に応じて異なる強度の平板を任意に組み合わせて製作することができるため、重量増加を極力抑制しながら個々の建設工事に適したものを簡易に設計することができる。しかしながら、このタイプのアームは、異なる強度の平板同士を溶接する必要があるため、この平板同士の溶接作業に多大の手間を要する。特に、こうしたアームについて多品種少量生産を行う場合には、多くの種類のアームを個別的に溶接しなければならないため、製作設備の集約化を図りつつ溶接作業を能率的に行わないと、設計上の負担は軽減することができても、製作費の大幅な増加を招くこととなる。
【0018】
本発明は、こうした要求に応えるために創作されたものであって、その技術課題は、異なる強度の平板を組み合わせて溶接することによりアームを製作する場合に多種類のアームを製作するための溶接作業を同一設備で能率的に行うことができる建設機械のアームの製作設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記の技術課題を達成するため、加工用平板を加工して箱型構造物による建設機械のアームを製作する場合に、「箱型構造物の一端部の構成部材を形成するための第1の加工用平板分割片とアームの中央部の構成部材を形成するための第2の加工用平板分割片と箱型構造物の他端部の構成部材を形成するための第3の加工用平板分割片とを溶接して、前記加工用平板を製作するための建設機械のアームの製作設備」を次のように構成した。
【0020】
前記の各加工用平板分割片を設置することが可能な定盤と、この定盤の両側に配置され各加工用平板分割片を別々に置くことができる加工用平板分割片置場とを設けるとともに、加工用平板分割片を把持して定盤の所定位置に設置する機能と定盤の所定位置に設置された各加工用平板分割片同士を溶接することができる機能とを兼備したロボットを定盤の両側に複数台設けて構成した。
【0021】
このように構成された本発明に係る建設機械のアームの製作設備により各種建設機械のアームを製作する場合には、それぞれのアームの加工用平板を製作するための第1の加工用平板分割片、第2の加工用平板分割片及び第3の加工用平板分割片を定盤の両側の加工用平板分割片置場に順次別々に積み重ねて置く。次いで、定盤の一方の側に積み重ねられた最上部の各加工用平板分割片を定盤の一方の側の複数のロボットで分担しながら把持して、定盤の所定位置に溶接できるよう一列に設置する。しかる後、定盤の他方の側の複数のロボットで分担しながら第1の加工用平板分割片と第2の加工用平板分割片の隣り合う端部同士及び第2の加工用平板分割片と第3の加工用平板分割片の隣り合う端部同士を溶接してアームの加工用平板を製作する。
【0022】
次に、今度は、定盤の他方の側に積み重ねられた最上部の各加工用平板分割片を定盤の他方の側の複数のロボットで分担しながら把持して定盤の所定位置に一列に設置する。しかる後、定盤の一方の側の複数のロボットで分担しながら第1の加工用平板分割片と第2の加工用平板分割片の端部同士及び第2の加工用平板分割片と第3の加工用平板分割片の端部同士を溶接してアームの加工用平板を製作する。さらに、同様の過程を経て、定盤の一方の側及び他方の側に積み重ねられた上から2番目の各加工用平板分割片同士をそれぞれ溶接し、以後、同様にして、上から順番に各加工用平板分割片同士を溶接することにより、種類の異なる各アームについて、加工用平板を順番に製作することができる。
【0023】
このように、本発明に係る建設機械のアームの製作設備によれば、一品生産品としての種々のアームについて、それぞれの加工用平板をあたかも量産品のように一括して製作することができる。そして、その場合、定盤の両側に積み重ねた各加工用平板分割片を定盤の両側の複数のロボットを駆使して交互に溶接することができるので、多種類のアームを製作するための溶接作業を同一設備で能率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
以下の説明から明らかなように、本発明に係る建設機械のアームの製作設備は、前記の「課題を解決するための手段」の項に示したように構成しているので、本建設機械のアームの製作設備によれば、異なる強度の平板を組み合わせて溶接することによりアームを製作する場合に多種類のアームを製作するための溶接作業を同一設備で能率的に行うことができる。その結果、一品生産品としての多くの種類のアームを、製作費の大幅な増加を招くことなく製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明が実際上どのように具体化されるのかを図1乃至図8に基づいて説明することにより、本発明を実施するための望ましい形態を明らかにする。
【0026】
図1は、本発明に係る建設機械のアームの製作設備で製作するアームの一例を示す斜視図、図2は、図1のアームにおけるU字状アーム部材を曲げ加工するための加工用平板の例を示す平面図、図3は、図2の例とは別の例の加工用平板を示す図2と同様の図、図4は、アームの先端にかかる負荷とアームの各部位に使用する平板部材の板厚との関係を表の形式により示す図、図5は、アームの先端にかかる負荷とアームの各部位に使用する平板部材の材質との関係を表の形式により示す図、図6は、本発明に係る建設機械のアームの製作設備を具体化した例を示す平面図、図7は、図6の建設機械のアームの製作設備におけるロボットの第1の使用態様を示す側面図、図8は、図7のロボットの第2の使用態様を示す側面図である。
【0027】
これらの図において既述の図9乃至図11と同一の符号を付けた部分は、これら図9乃至図11と同等の部分を表すので、詳述しない。
【0028】
まず、図6乃至図8に示す建設機械のアームの製作設備により製作することを前提とするアーム11を図1乃至図3に基づいて説明する。図1に図示のアーム11は、上板15及び両側板16を形成することができるように予め一次加工した図2に図示の加工用平板19を折り曲げ加工してU字状アーム部材18を形成し、このU字状アーム部材18に下板17を溶接で固着することにより箱型構造に形成したものである。このアーム11は、既述の図10(b)に示す加工形態のアーム11に分類されるタイプのものである。加工用平板19は、U字状アーム部材18の前端部Aを形成するための強度の大きい第1の加工用平板分割片19aと、U字状アーム部材18の中央部Bを形成するための普通の強度の第2の加工用平板分割片19bと、U字状アーム部材18の後端部Cを形成するための強度の大きい第3の加工用平板分割片19cとを溶接して製作したものである。
【0029】
この加工用平板19の各加工用平板分割片19a,19b,19cは、当該アーム11の上板15及び両側板16を形成するのに適当な形状に切り板業者により切断加工されており、加工用平板19は、これら切断加工された加工用平板分割片19a,19b,19cを本建設機械のアームの製作設備で溶接して一枚の平板とすることにより製作される。第1の加工用平板分割片19aには、バケット軸着用のボス11d及びリンク軸着用のボス11eをそれぞれ装着するための円弧状の切欠き19h及び円形孔19iを予め形成しており、第3の加工用平板分割片19cには、アーム軸着用のボス11cを装着するための円弧状の切欠き19gを予め形成している。
【0030】
図1に示すアーム11は、こうした製作された加工用平板19を一対の折り曲げ加工線19fの個所でU字状に折り曲げ加工し、その結果形成されたU字状アーム部材18の底部に一枚板の下板17を溶接することにより製作される。加工用平板19を製作する場合には、各加工用平板分割片19a,19b,19cを加工するための材料として、アーム11の先端に加わるアーム先端負荷に応じて異なる強度の平板を任意に組み合わせて使用するようにする。その場合、板厚の異なる平板を組み合わせて使用するようにしてもよいし、異なる材質の平板を組み合わせて使用するようにしてもよい。図4には、アーム先端負荷に応じて加工用平板19の各部位A,B,C(各加工用平板分割片19a,19b,19c)に使用する材料の板厚を例示しており、図5には、アーム先端負荷に応じて加工用平板19の各部位A,B,Cに使用する材料の材質を例示している。
【0031】
これらの図の利用方法の例を説明すると、建設機械の営業関係の技術者は、施工予定の建設工事の施工内容を下調査し、その調査結果に基づいて、当該建設工事で見込まれるアーム先端負荷を、図4及び図5に示す軽負荷から重負荷に至る7段階でランク分けする。そして、そのランク分けの結果を設計者に伝えれば、設計者は、図4及び図5に示す板厚及び材質の材料を選択することにより、当該建設工事に適したアーム11を簡便に設計することができる。例えば、当該建設工事で見込まれるアーム先端負荷が19.5トンの場合には、部位A,B,Cにそれぞれ板厚12ミリのH60(引張強度600N/mm2 以上の高張力鋼)、板厚10ミリのH50(引張強度500N/mm2 以上の高張力鋼)、12ミリのH60を使用するようにアームを設計する。
【0032】
図3に図示の加工用平板20を設けて構成されるアーム11は、両側板16及び下板17を形成することができるように予め一次加工した加工用平板20を折り曲げ加工してU字状アーム部材18を形成し、このU字状アーム部材18に上板15を溶接で固着することにより箱型構造に形成するものである。加工用平板20は、U字状アーム部材18の前端部Aを形成するための強度の大きい第1の加工用平板分割片20aと、U字状アーム部材18の中央部Bを形成するための普通の強度の第2の加工用平板分割片20bと、U字状アーム部材18の後端部Cを形成するための強度の大きい第3の加工用平板分割片20cとを溶接して製作したものである。
【0033】
この加工用平板20も、加工用平板19と同様、切断加工された加工用平板分割片20a,20b,20cを本建設機械のアームの製作設備で溶接して一枚の平板とすることにより製作される。第1の加工用平板分割片20aには、バケット軸着用のボス11d及びリンク軸着用のボス11eをそれぞれ装着するための円弧状の切欠き20h及び円形孔20iを予め形成しており、第3の加工用平板分割片20cには、アーム軸着用のボス11cを装着するための円弧状の切欠き20gを予め形成している。こうした製作された加工用平板20を一対の折り曲げ加工線20fの個所でU字状に折り曲げ加工し、その結果形成されたU字状アーム部材18の頂部に一枚板の上板15を溶接することによりアーム11が製作される。このように、この加工用平板20は、U字状アーム部材18で下板17を形成する点を除いて、既述の加工用平板19と本質的な差異はない。
【0034】
次に、加工用平板19,20を溶接により製作するための本建設機械のアームの製作設備を図6乃至図8に基づいて説明する。説明の便宜上、ここでは、加工用平板19を製作する場合を例にして説明するが、加工用平板20を製作する場合にも、これに準じて行うことができる。
【0035】
これらの図において、22は各加工用平板分割片19a,19b,19cを設置することが可能な定盤、23はこの定盤22の左側に配置され各加工用平板分割片19a,19b,19cを別々に置くことができる加工用平板分割片置場としてのストックエリア、24はこの定盤22の右側に配置され各加工用平板分割片19a,19b,19cを別々に置くことができる同様のストックエリア、25は各加工用平板分割片19a,19b,19cを把持して定盤22の所定位置に設置する機能と定盤22の所定位置に設置された各加工用平板分割片19a,19b,19c同士を溶接することができる機能とを兼備したロボット、26はロボット25により定盤22に設置された各加工用平板分割片19a,19b,19cを不動状態に位置決めするための位置決め用の治具、27は各加工用平板分割片19a,19b,19cを溶接して製作された加工用平板19を曲げ加工装置に移送するためのベルトコンベアである。
【0036】
図6に示す例では、ストックエリア23,24は、定盤22の長手方向に長いものを、それぞれ定盤22の左右に一つずつ設けているが、各加工用平板分割片19a,19b,19cごとにそれぞれ設けてもよく、要は、各加工用平板分割片19a,19b,19cを別々に置くことができるように設けていればよい。ここに示す例では、各加工用平板分割片19a,19b,19cをロボット25で把持する場合に磁力で吸着して把持するようにしているが、空気の吸引により吸着して把持するようにしてもよい。ここに示す例では、各加工用平板分割片19a,19b,19cを把持する把持手段と各加工用平板分割片19a,19b,19c同士を溶接する溶接手段とを互いに交換して取り付け得るように構成している。
【0037】
ロボット25は、前後に間隔を置いて定盤22の左右にそれぞれ2機ずつ設けており、第1の加工用平板分割片19aは、前側のロボット25で把持し、第3の加工用平板分割片19cは、後側のロボット25で把持するとともに、中央の第2の加工用平板分割片19bは、前側のロボット25及び後側のロボット25の何れかで把持するようにする。また、前側の溶接線19dは、前側のロボット25で溶接し、後側の溶接線19eは、後側のロボット25で溶接する。ロボット25は、各加工用平板分割片19a,19b,19cに対応して定盤22の左右にそれぞれ3機ずつ設けてもよい。
【0038】
このロボット25の詳細を図7及び図8に基づいて説明する。
【0039】
ロボット25は、ロボット基台25aと、このロボット基台25aに回動可能に設置され旋回モータ(図示せず)により回転駆動されるスタンド25bと、このスタンド25bの上端部に回動可能に軸着した平行リンク機構25cと、この平行リンク機構25cの上端部に回動可能に軸着したロボット本体25dと、このロボット本体25dの上部に設けた、溶接ワイヤ25fを送るためのワイヤ給送装置25eと、アタッチメントとしての溶接トーチ25g及びマグネットによる把持装置25hとを設けて構成している。したがって、ロボット25は、ロボット本体25dを平行リンク機構25cにより前後方向に揺動させることができ、スタンド25bを、ロボット基台25a上の垂直軸線を中心に旋回モータにより回動させることができる。
【0040】
図7には、アタッチメントとしての溶接トーチ25gをロボット本体25dの着脱部25iに装着した第1の態様を図示しており、図8には、アタッチメントとしての把持装置25hを溶接トーチ25gと交換してロボット本体25dの着脱部25iに装着している第2の態様を図示している。このロボット本体25dの前方には、アタッチメントの交換時に、使用していないアタッチメントを置くためのアタッチメント設置治具25jを配置している。
【0041】
以上のように構成された本建設機械のアームの製作設備により各種建設機械のアームを製作する場合には、それぞれのアーム11の加工用平板19を製作するための第1の加工用平板分割片19a、第2の加工用平板分割片19b及び第3の加工用平板分割片19cを定盤22の左右のストックエリア23,24に順次別々に積み重ねて置く。次いで、定盤22の左右一方の側の複数のロボット25に把持装置25hを装着し、左右他方の側の複数のロボット25に溶接トーチ25gを装着した後、定盤22の左右一方の側に積み重ねられた最上部の各加工用平板分割片19a,19b,19cを定盤22の左右一方の側の複数のロボット25で分担しながら把持して、図6に示すように定盤22の所定位置に溶接できるよう一列に設置する。しかる後、定盤22の左右他方の側の複数のロボット25で分担しながら第1の加工用平板分割片19aと第2の加工用平板分割片19bの隣り合う端部同士及び第2の加工用平板分割片19bと第3の加工用平板分割片19cの隣り合う端部同士を溶接線19d,19eに沿って溶接してアーム11の加工用平板19を製作する。
【0042】
次に、定盤22の左右一方の側及び他方の側の複数のロボット25にそれぞれ溶接トーチ25g及び把持装置25hを装着するようにアタッチメントを交換した後、今度は、定盤22の左右他方の側に積み重ねられた最上部の各加工用平板分割片19a,19b,19cを定盤22の左右他方の側の複数のロボット25で分担しながら把持して定盤22の所定位置に一列に設置する。しかる後、定盤22の左右一方の側の複数のロボット25で分担しながら第1の加工用平板分割片19aと第2の加工用平板分割片19bの端部同士及び第2の加工用平板分割片19bと第3の加工用平板分割片19cの端部同士を溶接してアームの加工用平板19を製作する。さらに、同様の過程を経て、定盤22の左右一方の側及び他方の側に積み重ねられた上から2番目の各加工用平板分割片19a,19b,19c同士をそれぞれ溶接し、以後、同様にして、上から順番に各加工用平板分割片19a,19b,19c同士を溶接することにより、種類の異なる各アーム11について、加工用平板19を順番に製作することができる。
【0043】
このように、本建設機械のアームの製作設備によれば、一品生産品としての種々のアーム11について、それぞれの加工用平板19をあたかも量産品のように一括して製作することができる。そして、その場合、定盤22の左右両側に積み重ねた各加工用平板分割片19a,19b,19cを定盤22の左右両側の複数のロボット25を駆使して交互に溶接することができるので、多種類のアーム11を製作するための溶接作業を同一設備で能率的に行うことができる。その結果、一品生産品としての多くの種類のアーム11を、製作費の大幅な増加を招くことなく製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る建設機械のアームの製作設備で製作するアームの一例を示す斜視図である。
【図2】図1のアームにおけるU字状アーム部材を曲げ加工するための加工用平板の例を示す平面図である。
【図3】図2の例とは別の例の加工用平板を示す図2と同様の図である。
【図4】アームの先端にかかる負荷とアームの各部位に使用する平板部材の板厚との関係を表の形式により示す図である。
【図5】アームの先端にかかる負荷とアームの各部位に使用する平板部材の材質との関係を表の形式により示す図である。
【図6】本発明に係る建設機械のアームの製作設備を具体化した例を示す平面図である。
【図7】図6の建設機械のアームの製作設備におけるロボットの第1の使用態様を示す側面図である。
【図8】図7のロボットの第2の使用態様を示す側面図である。
【図9】従来例の建設機械の全体像を説明するための側面図である。
【図10】加工形態が異なる二つのタイプの従来例の建設機械のアームを示す横断面図で、(a)通常のタイプのアームを示す図、(b)はU字状アーム部材を用いるタイプのアームを示す図である。
【図11】材料の使用形態が異なる二つのタイプの従来例の建設機械のアームを示す側面図で、(a)一般的なタイプのアームを示す図、(b)は板厚の異なる材料を組み合わせたタイプのアームを示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 フロント
9 ブーム
10 ブームシリンダ
11 アーム
11a,11b ブラケット
11c アーム軸着用のボス
11d バケット軸着用のボス
11e リンク軸着用のボス
12 アームシリンダ
14 バケットシリンダ
15 上板
16 側板
17 下板
18 U字状アーム部材
19,20 加工用平板
19a,20a 第1の加工用平板分割片
19b,20b 第2の加工用平板分割片
19c,20c 第3の加工用平板分割片
22 定盤
23,24 ストックエリア
25 ロボット
A (加工用平板19,20の)前端部
B (加工用平板19,20の)中央部
C (加工用平板19,20の)後端部
R1,R2 リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用平板を加工して箱型構造物による建設機械のアームを製作する場合に、箱型構造物の一端部の構成部材を形成するための第1の加工用平板分割片とアームの中央部の構成部材を形成するための第2の加工用平板分割片と箱型構造物の他端部の構成部材を形成するための第3の加工用平板分割片とを溶接して前記加工用平板を製作するための建設機械のアームの製作設備であって、これらの各加工用平板分割片を設置することが可能な定盤と、この定盤の両側に配置され各加工用平板分割片を別々に置くことができる加工用平板分割片置場とを設けるとともに、加工用平板分割片を把持して定盤の所定位置に設置する機能と定盤の所定位置に設置された各加工用平板分割片同士を溶接することができる機能とを兼備したロボットを定盤の両側に複数台設けて構成したことをことを特徴とする建設機械のアームの製作設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−7229(P2006−7229A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183738(P2004−183738)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】