説明

建設機械のギア駆動部暖機回路

【課題】ギア油が所要の温度・粘度になるまでの暖機時間を短縮させてギア駆動部のフリクションロス及び省エネルギー化を実現する。
【解決手段】冷却ファン付きのエンジンを駆動源として作動するギア駆動部を備え、且つ、前記冷却ファンによりラジエータを冷却するように構成された建設機械のギア駆動部暖機回路であって、前記ラジエータとギア駆動部との間に循環路を形成し、該循環路を循環するエンジン冷却水によって、前記ギア駆動部内のギア油に対して熱交換できるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のギア駆動部暖機回路に関するものであり、特に、エンジン冷却水とギア駆動部のギア油との間で熱交換を行うことができる建設機械のギア駆動部暖機回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械のエンジンには、動力分割装置、旋回用ギア減速機及び走行用ギア減速機などが駆動連結されている。そして、該エンジンの動力はギア駆動部を介して、動力分割装置、旋回用ギア減速機及び走行用ギア減速機などに伝達され、又、前記ギア駆動部は運転中にギア油により潤滑・冷却されるように構成されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−036840号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
而して、ギア駆動部内のギア油は、温度によって粘度が大きく変化する。例えば、低温時におけるエンジン始動直後ではギア油の温度が低いので、該ギア油の粘度が高く、そのため、前記ギア駆動部にフリクションロスが発生する。しかし、エンジン始動後所定時間経過すると、ギア油の温度が一定値以上に高くなるので、前記ギア駆動部のフリクションロスが低減する。
【0004】
また、エンジン始動時からギア油の温度が所定値まで上昇する暖機時間は、エンジン冷却水系統の温度が所定値まで上昇する時間に比べて長くなる。
【0005】
その結果、ギア油の低温・高粘度状態での暖機運転の時間が長くなるので、それに応じてギア駆動部のフリクションロス及び騒音発生が増大すると共に消費エネルギーの効率が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、前記ギア油が所要の温度・粘度になるまでの暖機時間を短縮させてギア駆動部のフリクションロス及び省エネルギー化を実現するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、エンジン冷却水を空冷するラジエータと、エンジンを駆動源として作動するギア駆動部とを備えて成る建設機械のギア駆動部暖機回路であって、前記ラジエータとギア駆動部との間に前記エンジン冷却水が循環する循環路を形成し、該エンジン冷却水とギア駆動部内のギア油との間で熱交換できるように構成してなる建設機械のギア駆動部暖機回路を提供する。
【0008】
この構成によれば、ラジエータとギア駆動部との間をエンジン冷却水が循環するので、例えば低温時における暖機運転開始直後、すなわち、ギア油の温度がエンジン冷却水の温度よりも低いときは、ギア油はエンジン冷却水により暖められて速やかに温度上昇する。
【0009】
したがって、ギア油の低温・高粘度状態での運転時間が短縮される。その後、所定時間経過してギア油の温度が所定値以上に上昇すると、該ギア油はエンジン冷却水によって速やかに冷却される。
【0010】
請求項2記載の発明は、上記循環路の途中にはエンジン冷却水の逆流を防止するチェックバルブが介設されている請求項1記載の建設機械のギア駆動部暖機回路を提供する。
【0011】
この構成によれば、循環路を流動するエンジン冷却水は、前記チェックバルブにより逆流することが阻止され、常に一方向に循環する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明は、低温時での暖機運転開始直後、ギア油の温度上昇がエンジン冷却水により迅速に実行されることにより、該ギア油の低温・高粘度状態での運転時間が短縮するので、ギア駆動部のフリクションロス及び騒音の大幅な低減化を実現できると共に高い省エネルギー効果が期待できる。
【0013】
又、暖機運転後においては、エンジン冷却水によりギア油が許容温度以上になることが抑制されるので、前記ギア駆動部に対するギア油による潤滑・冷却性能を常に良好に維持することができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、エンジン冷却水が循環路を常に一方向に循環移動するので、請求項1記載の発明の効果に加えて、エンジン冷却水とギア油との間の熱交換を常に効率良く安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ギア油が所要の温度・粘度になるまでの暖機時間を短縮させてギア駆動部のフリクションロス及び省エネルギー化を実現するという目的を達成するために、エンジン冷却水を空冷するラジエータと、エンジンを駆動源として作動するギア駆動部とを備えて成る建設機械のギア駆動部暖機回路であって、前記ラジエータとギア駆動部との間に前記エンジン冷却水が循環する循環路を形成し、該エンジン冷却水とギア駆動部内のギア油との間で熱交換できるように構成したことにより実現した。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施例を図面に従って説明する。図1は本発明を適用した建設機械としての油圧ショベル1を示す全体側面図である。図1において、油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体3と、該上部旋回体3の前部に搭載されている運転室4と、前記上部旋回体3の前部に俯仰自在に枢着されているブーム5と、該ブーム5の先端部に回動自在に枢着されているアーム5aと、該アーム5aの先端部に回動自在に枢着されているバケット5bとから成る。
【0017】
図2は本実施例に係る油圧ショベル1のギア駆動部暖機回路を示す。同図において、6はエンジンであって、該エンジン6は上部旋回体3における運転室4の後方に設けられている。該エンジン6の出力軸7の一端部には冷却ファン8が連結されている。更に、該冷却ファン8の前側(図2における左側)にはラジエータ9が設けられ、該ラジエータ9によってエンジン冷却水が強制的に所定温度以下に空冷される。
【0018】
又、上記エンジン6の出力軸7の他端部には動力分割装置10が連結され、該動力分割装置10はギアによりエンジン6の駆動力を分配して伝達するギア伝動部(ギア駆動部)11を備えている。更に、該動力分割装置10には発電機12及び油圧ポンプ13が並列に接続され、発電機12及び油圧ポンプ13は前記ギア伝動部11に連動可能に連結されている。したがって、油圧ポンプ13と発電機12は、動力分割装置10を介して前記エンジン6の駆動力によって運転できるように構成されている。
【0019】
14は上記上部旋回体3を旋回駆動させる旋回モータであって、旋回モータ14は旋回
用ギア減速機(ギア駆動部)15を備えている。又、16は上記下部走行体2を走行駆動させる走行モータであって、該走行モータ16は走行用ギア減速機(ギア駆動部)17を備えている。前記旋回モータ14と走行モータ16は、エンジン6及び油圧ポンプ(図示せず)を介して駆動できるように構成されている。
【0020】
前記3つのギア駆動部、即ち、動力分割装置10のギア伝動部11、旋回モータ14の旋回用ギア減速機15及び走行モータ16の走行用ギア減速機17は、ギア油によって潤滑・冷却できるように構成されている。また、前記ギア駆動部11,15,17は、前記ラジエータ9のエンジン冷却水により強制的に冷却できるように構成されている。
【0021】
前記エンジン冷却水は、前記ラジエータ9と3つのギア駆動部11,15,17との間に形成された循環路(密閉回路)19を移動する。図示例では、循環路19は複数の配管19A、19B,19C及び19Dから成り、これら配管19A、19B,19C及び19Dによって前記ラジエータ9と各ギア駆動部11,15,17とが連通接続されている。
【0022】
即ち、ラジエータ9とギア伝動部11は配管19Aにより接続され、該ギア伝動部11と旋回用ギア減速機17は配管19Bにより連通接続されている。また、該旋回用ギア減速機17と走行用ギア減速機15は配管19Cにより連通接続され、該走行用ギア減速機15とラジエータ9は配管19Dにより連通接続されている。
【0023】
前記配管19A、19B,19Cの途中には夫々チェックバルブ20A、20B,20Cが介設されている。これらチェックバルブ20A、20B,20Cによりエンジン冷却水は循環路19を図2において反時計回り方向に逆流することが阻止されている。依って、エンジン冷却水は循環路19を図2において常に時計回り方向に流動する。
【0024】
上述のように構成された油圧ショベル1のギア駆動部暖機回路の作用について説明する。まず、例えば低温時におけるエンジン始動直後では、各ギア駆動部、即ち、動力分割装置10のギア伝動部11、旋回モータ14の旋回用ギア減速機17及び走行モータ16の走行用ギア減速機15の各ギア油の温度は、エンジン冷却水の温度に比べて低い。
【0025】
そのため、ギア油はエンジン冷却水により暖機される。その結果、各ギア駆動部11,15,17のギア油の温度が速やかに上昇し、ギア油の粘度が適正値まで短時間で低下する。
【0026】
したがって、本実施例では従来例に比べて、ギア油の低温・高粘度状態での運転時間が大幅に短縮する。斯くして、各ギア駆動部11,15,17におけるフリクションロスが効果的に防止されると共に騒音の低減化が可能になり、エンジン6及び各ギア駆動部11,15,17の駆動効率の向上により高い省エネルギー効果が期待できる。
【0027】
然る後、エンジン6の運転が所定時間経過すると、従来技術では各ギア駆動部11,15,17のギア油の温度が許容範囲よりも高く上昇することがあったが、本実施例では、該ギア油の温度上昇が許容範囲内に確実に抑制される。
【0028】
すなわち、前記ギア油がエンジン冷却水により冷却されるため、該ギア油の温度がエンジン冷却水の温度以上に上昇することはない。したがって、ギア油の温度が適正範囲内に自動的に制御されるので、該ギア油の粘度が適正値に維持されて、各ギア駆動部11,15,17が常に効率良く作動する。
【0029】
また、本実施例によれば、循環路19を流動するエンジン冷却水は、前記チェックバル
ブ20A、20B,20Cにより逆流することがなく、常に一方向に循環移動するので、エンジン冷却水による各ギア駆動部11,15,17のギア油に対する熱交換が常に効率良く行われる。
【0030】
尚、上記エンジン冷却水は、各ギア駆動部11,15,17の内部またはギアハウジング内側に所要径の水冷配管を介して循環させることに、ギア油に対する熱交換の効率を一層高めることができる。
【0031】
本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を示し、油圧ショベルの全体側面図。
【図2】本発明に係るギア駆動部暖機回路を示す回路説明図。
【符号の説明】
【0033】
1 油圧ショベル
6 エンジン
7 出力軸
8 冷却ファン
9 ラジエータ
10 動力分割装置
11 ギア伝動部
14 旋回モータ
15 走行用ギア減速機
16 走行モータ
17 旋回用ギア減速機
19 循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン冷却水を空冷するラジエータと、エンジンの出力を駆動源として作動するギア駆動部とを備えて成る建設機械のギア駆動部暖機回路であって、前記ラジエータとギア駆動部との間に前記エンジン冷却水が循環する循環路を形成し、該エンジン冷却水とギア駆動部内のギア油との間で熱交換できるように構成したことを特徴とする建設機械のギア駆動部暖機回路。
【請求項2】
上記循環路の途中には上記エンジン冷却水の逆流を防止するチェックバルブが介設されていることを特徴とする請求項1記載の建設機械のギア駆動部暖機回路。


【図1】
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【図2】
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