説明

建設機械のシート温度調整装置

【課題】建設機械のキャブ内の空調温度とシート表面の温度との温度差が少なくなるようにして、作業者が快適な作業環境で操作を行うことができるようにする。
【解決手段】建設機械のキャブ内に設置されたシート27において、エアコンユニット21から該シート27までダクト22bが配管され、シート吹出口30が背面シート27aと座面シート27bの隙間に導かれている。ダクト22bは、シート27の移動に対応できるようにフレキシブルな構造になっていて、途中位置には空気流出量を調整するためのコック式弁28が設けられている。また、背面シート27a及び座面シート27bには、シート吹出口30からの空気を導くための溝31a、31bが形成されている。これにより、エアコンユニット21からの空気はシート吹出口30から溝31a、31bに導かれるので、コック式弁28の開度に応じてシート27の表面を温度調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械のシート温度調整装置に関するものであり、特に、建設機械のキャブ(運転室)内に設置された空調装置(エアコンユニット)を利用して座席シート(以下、シートという)の表面の温度調整を行う建設機械のシート温度調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から油圧ショベル等の建設機械のキャブ内には作業者の作業環境を良くするためにエアコンユニットが設置されており、該エアコンユニットに連結している空調用ダクトがキャブボックス内の壁面や床下などに取り付けられてキャブ内の空調を行っている。このとき、空調用ダクトの結露によってキャブ内が汚損されないように、化粧用パネルによって空調用ダクトを覆うなど工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。また、キャブ内のエアコンユニットから延在されたダクトをキャブ床の部分に配管して、足元吹出口や胸元吹出口やフロントデフロスタ(霜取装置)等へエアーを供給して空調を行う技術も開示されている。このとき、エアコンユニットから温風を送風したときに作業者がダクトに触れて火傷しないように、ダクトに断熱性ホースを用いると共に、該ダクトをキャブ室の床下に配管している(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−197484号公報。
【特許文献2】特開2001−3393号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の建設機械は、足元吹出口や胸元吹出口から吹き出されるエアーによってキャブ室内を空調したり、フロントデフロスタによってフロントウインドウの霜取りを行うことはできるが、作業者が座るシートの表面の温度調整は行われていない。特に、作業者は必要に応じてシートに座ったりシートから離れたりすることがあるが、キャブ内が空調されているために、シートに座ったときにキャブ内の雰囲気とシート表面との温度差によって違和感を感じることがある。
【0004】
そこで、建設機械のキャブ内の空調温度とシート表面の温度との温度差が少なくなるようにして、作業者が快適な作業環境で操作を行うことができるようにするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、キャブ内における座席シートの温度調整を行う建設機械のシート温度調整装置であって、エアコンユニットから座席シートまで空調ダクトを配管し、空調ダクトの吹出口が座席シートの背面と座面との隙間に配設されている建設機械のシート温度調整装置を提供するものである。
【0006】
この構成によれば、座席シートの背面と座面との間に隙間を設け、エアコンユニットからの空調ダクトを座席シートの背面から隙間の部分に配管し、該空調ダクトの吹出口が隙間にのぞくように配設されている。これによって、エアコンユニットからの空気は確実に座席シートの背面と座面に送り込まれるので、座席シートの表面を効果的に温度調整することができる。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、座席シートの背面及び座面には吹出口から吹き出された空気を導くための溝が形成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、座席シートの背面及び座面には、複数本の溝が背面の上方向及び座面の前方向へ向けて形成されているので、吹出口から吹き出された空気はそれらの溝に導かれて座席シートのほぼ前面に行き渡る。従って、座席シートの表面をむらなく温度調整することができる。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、空調ダクトには、吹出口から吹き出される空気流出量を調整するための弁が配設されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、エアコンユニットから座席シートに至るまでの空調ダクトの途中には、作業者が操作しやすい位置に空気流出量を調整するためのコック式弁などが設けられている。従って、該コック式弁の開度を調整することによって座席シートの温度を作業者の好みの温度に調整することができる。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載の発明において、空調ダクトは、座席シートの前後・上下の移動に対応して屈曲するようにフレキシブルに構成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、空調ダクトは、座席シートの前後・上下の移動に合わせて、変形ストレスを受けることなく自在に屈曲させることができる。これによって、座席シートの移動時に空調ダクトが損傷することはなくなるので、空調設備の信頼性を低下させるおそれはない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、座席シートに特別な改造を行うことなく、既存のエアコンユニットを空調ダクトに接続するだけで座席シートの温度調整を行うことができる。従って、建設機械のシート温度調整装置を低コストで実現することができる。また、従来の座席シートのように電熱線ヒータを用いた方式ではないので、座席シートの表面を温めることも冷すこともできる。
【0014】
また、請求項2記載の発明によれば、座席シートの背面及び座面に溝を設けたので、請求項1記載の発明の効果に加えて、座席シートのほぼ全面にエアーを送り込むことができる。そのため、座席シートの表面全体を空調(冷暖房)することができ、作業者が座席シートに座ったときの快適性を一段と向上させることができる。
【0015】
また、請求項3記載の発明によれば、空調ダクトには、調節弁としてコック式弁などが設けられているため、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、作業者の好みに応じて座席シートの温度調整を行ったり、あるいは空調を止めたりすることができるので、作業者の使い勝手が一段と向上する。
【0016】
また、請求項4記載の発明によれば、空調ダクトは自在に曲げることができるフレキシブル部材で構成されているので、請求項1、2又は3記載の発明の効果に加えて、作業者の好みに応じて座席シートの位置を自由に移動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、建設機械のキャブ内の空調温度とシート表面の温度との温度差が少なくなるようにして、作業者が快適な作業環境で操作を行うことができるようにするという目的を達成するために、キャブ内における座席シートの温度調整を行う建設機械のシート温度調整装置であって、エアコンユニットから座席シートまで空調ダクトを配管し、空調ダクトの吹出口が座席シートの背面と座面との隙間に配設されている建設機械のシート温度調整装置を提供することによって実現した。
【0018】
以下、本発明に係る建設機械のシート温度調整装置について、油圧ショベルを例に挙げて好適な実施例を説明する。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明を適用した建設機械としての油圧ショベルの側面図を示す。図1において、該油圧ショベル10は、下部走行体11上に旋回機構12を介して上部旋回体13が旋回自在に載置されている。上部旋回体13には、キャブ(運転室)14と建屋18が設けられている他に、前方中央部にブーム15が俯仰可能に取り付けられている。又、ブーム15の先端にはアーム16が上下回動自在に取り付けられ、更に該アーム16の先端にはバケット17が取り付けられている。
【0020】
上部旋回体13の建屋18内には、特に図示されていないが、バッテリ、作業機駆動用の油圧ポンプ、エンジン、各種の機器、及び補器等が配設され、ブーム15、アーム16、及びバケット17等を駆動するための動力ユニットが収納されている。また、下部走行体11の内部には、特に図示しないが走行装置20が回転駆動シュー26を回転させ、油圧ショベル10を走行させるように構成されている。
【0021】
図2は、図1に示す油圧ショベル10のキャブ14のみを詳細に表示した側面図である。図2において、キャブ14のキャブ床14aの下方にエアコンユニット21が設置され、該エアコンユニット21からの温風或いは冷風はダクト22aにより足下吹出口23、胸元吹出口24及びフロントデフロスタ25に導かれ、そこから空気が吹き出される。足下吹出口23及び胸元吹出口24からの空気吹き出しによってキャブ14内の空調(冷房又は暖房)が行われる。また、フロントデフロスタ25からの温風の吹き出しによってフロントウインドウ29の霜が除去される。
【0022】
さらに、エアコンユニット21からダクト22bがシート27の背面シート27aと座面シート27bの隙間の部分に導かれている。該ダクト22bは、シート27を前後に移動してもストレスが加わらないようにフレキシブルな蛇腹式のダクトになっている。また、ダクト22bの途中には、エアコンユニット21からの空気流出量を調整するためのコック式弁28が設けられている。
【0023】
図3は、図2に示すキャブ14内のシート27、エアコンユニット21、及びダクト22bの部分を詳細に示す斜視図である。図3において、エアコンユニット21からシート27までダクト22bが配管され、該ダクト22bのシート吹出口30が背面シート27aと座面シート27bとの隙間に導かれている。尚、ダクト22bは、シート27の前後、上下への移動に対応できるようにフレキシブルな構造(例えば、蛇腹構造)になっている。また、ダクト22bの途中位置であって作業者が操作しやすい位置に、シート吹出口30からの空気流出量を調整するためのコック式弁28が設けられている。
【0024】
一方、背面シート27aには、ダクト22bのシート吹出口30からの空気を導くための複数本の溝31aが設けられている。また、座面シート27bにも、ダクト22bの吹出口30からの空気を導くための複数本の溝31bが設けられている。これらの溝31a、31bの本数や配置パターンは、シート27の大きさや使用環境などに応じて適宜に変更することができるが、通常は、平均的な使用状態によって決められた所定の本数と配置パターンになっている。
【0025】
このような構成のシート27により、例えば、寒冷地において、油圧ショベル10の作業者が該シート27に着座して作業を開始する場合、エアコンユニット21を起動すれば、足元吹出口23及び胸元吹出口24から吹き出される温風によってキャブ14内を温度調整することができると共に、空気吹出口30から吹き出される温風が背面シート27aの溝31aや座面シート27bの溝31bに導かれるので、シート27の表面を最適に温度調整することができる。尚、シート27の表面を冷房する場合は、エアコンユニット21のモードを暖房から冷房に切り替えるだけで、上記と全く同じ動作によってシート27の冷房を行うことができる。
【0026】
また、作業者の個人差に応じて座席の温度を変更したい場合は、ダクト22bに設けられたコック式弁28を操作してエアコンユニット21からの空気流出量を調整することにより、シート27の表面を所望の温度に調整することができる。尚、作業者がシート27を前後又は上下に移動する場合においても、ダクト22bがフレキシブルに曲がるので、作業者はダクト22bの変形を気にすることなくシート27を移動させることができる。
【0027】
以上述べたように、本発明の建設機械のシート温度調整装置によれば、背面シート27a及び座面シート27bに溝31a、31bを設ける以外は、シート27に特別な改造を行うことなく、既存のエアコンユニット21をダクト22bに接続するだけでシート27の温度調整を行うことができる。従って、建設機械のシート温度調整装置を低コストで実現することができる。
【0028】
また、従来のシート27には電熱線ヒータが設置されているものもあるが、この構成ではシート27の表面を温めることしかできない。しかし、本発明のシート温度調整装置によれば、シート27の表面を温めることも冷すこともできる。
【0029】
さらに、本発明のシート温度調整装置によれば、背面シート27a及び座面シート27bに溝31a、31bを設けたので、背面シート27aの上方や座面シート27bの前方にまで空気を送り込むことができるため、シート27の表面全体を空調(冷暖房)することができる。従って、作業者がシート27に座ったときの快適性が一段と向上する。
【0030】
また、ダクト22bには、調節弁としてコック式弁28が設けられているため、作業者の好みに応じてシート27の温度調整を行ったり、あるいは空調を止めたりすることができるので、作業者の快適性が一段と向上する。さらに、ダクト22bは自在に曲げることができるフレキシブル部材で構成されているので、作業者の好みに応じてシート27の位置を自由に移動することができる。
【0031】
尚、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に適用される建設機械の一例としての油圧ショベルの側面図。
【図2】図1に示す油圧ショベル10のキャブ14のみを詳細に表示した側面図。
【図3】図2に示すキャブ14内のシート27、エアコンユニット21、及びダクト22bの部分を詳細に示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
10 油圧ショベル
11 下部走行体
12 旋回機構
13 上部旋回体 14 キャブ
14aキャブ床
15 ブーム
16 アーム
17 バケット
18 建屋
20 走行装置
21 エアコンユニット
22a、22b ダクト
23 足元吹出口
24 胸元吹出口
25 フロントデフロスタ
26 シュー
27 シート
27a 背面シート
27b 座面シート
28 コック式弁
29 フロントウインドウ
30 空気吹出口
31a、31b 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブ内における座席シートの温度調整を行う建設機械のシート温度調整装置であって、
エアコンユニットから前記座席シートまで空調ダクトを配管し、該空調ダクトの吹出口が、前記座席シートの背面と座面との隙間に配設されていることを特徴とする建設機械のシート温度調整装置。
【請求項2】
上記座席シートの背面及び座面には、上記吹出口から吹き出された空気を導くための溝がシート表面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の建設機械のシート温度調整装置。
【請求項3】
上記空調ダクトには、上記吹出口から吹き出される空気流出量を調整するための弁が配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の建設機械のシート温度調整装置。
【請求項4】
上記空調ダクトは、上記座席シートの前後・上下の移動に対応して屈曲するようにフレキシブルに構成されていることを特徴とする請求項1、2、又は3記載の建設機械のシート温度調整装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate