説明

建造物における水分検知システムおよびこれに使用する水分検知用シート

【課題】雨漏り等の浸水を、非常に簡便、かつ安価に検出することができる、建造物における水分検知システムおよびこれに使用する水分検知用シートを提供する。
【解決手段】導体を巻回した平面コイルを含む、所定の共振周波数を有する閉回路によって構成される共振構造体10が、被検査部材1の裏面側に設けられる。検査装置20の放射部22は、共振構造体10の共振周波数と同一周波数の電磁波を外部に放射し、受信部23は、共振構造体10の共振周波数と同一周波数の電磁波を受信する。検査装置20の電磁波強度検出部24は、受信部23が受信した共振構造体10の共振周波数と同一周波数の電磁波の強度を検出する。そして、被検査部材1の表面側から、放射部22が放射した放射波に応じて、被検査部材1に設けられた共振構造体10から放射され、受信部23で受信された電磁波の強度に基づいて、当該共振構造体10と被検査部材1との間の水分を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物における水分検知システムおよびこれに使用する水分検知用シートに関し、特に、建造物の壁裏や天井裏等に浸入した水分を非破壊で検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物では、雨漏り等の発生を防止するため、その外郭部分に防水処理が施されている。この種の防水処理として、防水シートを敷設するシート防水、アスファルトを敷設するアスファルト防水等が知られている。しかしながら、このような、防水処理が施されていても、時間の経過とともに防水性能が低下し、雨漏りが発生してしまう。同様に、壁裏や天井裏等に配設された配管等からの、漏水や水漏れの発生を完全になくすこともほぼ不可能である。
【0003】
雨漏りや漏水を放置した場合、建造物自体や建造物の内部に重大な損傷を与える可能性があることから、これらの発生箇所を特定して補修をする必要がある。しかしながら、雨漏り等は、長期間をかけて徐々に浸入することが多く、また、その浸入経路も壁裏や天井裏等、通常は視認できない部分であるため、雨漏り等をその初期段階で検出することは極めて困難である。また、侵入した水に起因する天井や壁面の変化を、屋内から認識できるようになると、建造物内部の損傷がかなり進行していることが多い。
【0004】
そのため、雨漏り等を検出する種々の手法が提案されている。例えば、特許文献1は、複数色の着色水を使用して浸入経路を検出する手法を開示している。また、特許文献2は、水溶性物質中に抱持され互いに離間して並設される2本の導電線からなる触水スイッチ手段を建造物の下地面と防水層との間に設置し、触水スイッチ手段が水と接触したときに作動することを利用して浸入経路を検出する手法を開示している。さらに、特許文献3は、防水層上に導電体層を介して多数の電極を仮設配置し、いずれか1の電極を基準電極、他のいずれか1の電極を内部電流電極とし、建物本体または地盤に設定した外部電流電極と内部電流電極との間で通電して、基準電極と各電極との間の電位差により、防水層の劣化度を診断する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−277343号公報
【特許文献2】特開2002−55015号公報
【特許文献3】特開2005−274242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1が開示する技術は、屋内等において浸水が確認された後に浸水経路を検知する場合には有効であるが、屋内等から浸水が確認できない時点で、浸水が発生しているか否かを判定する場合には有効とはいえない。屋内等から浸水が確認できない時点であっても、当該手法を用いることにより、屋内等から着色水を確認できれば浸水の発生を確認できるが、この場合、天井材や壁材が着色水により損傷を受ける。
【0007】
また、特許文献2が開示する技術は、触水スイッチ手段の作動を検出するための配線等の敷設が必要である。また、浸水により当該配線の腐食が進行する等により断線が発生することも想定される。この場合、触水スイッチ手段が非作動の状態と区別がつかなくなるため、触水スイッチ手段の作動の有無を、常時、モニタする必要がある。すなわち、検出器を常時接続しておく必要があるため、簡単な設備により実現できるとはいえない。
【0008】
さらに、特許文献3が開示する技術は、外部電流電極と内部電流電極との間で通電するための大出力電源、あるいは、微小な電位差を検出するための高精度検出器の使用が必要であり、高価なシステムになってしまう。
【0009】
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、雨漏り等の浸水を、非常に簡便、かつ安価に検出することができる、建造物における水分検知システムおよびこれに使用する水分検知用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用する。まず、本発明に係る、建造物における水分検知システムは、建造物を構成する被検査部材の裏面側に設けられた共振構造体と検査装置とで構成される。共振構造体は、導体を巻回した平面コイルを含む、所定の共振周波数を有する閉回路によって構成される。また、検査装置は、放射部、受信部および電磁波強度検出部を備える。放射部は、共振構造体の共振周波数と同一の周波数を有する電磁波を外部に放射する。受信部は、共振構造体の共振周波数と同一の周波数を有する電磁波を受信する。電磁波強度検出部は、受信部が受信した共振構造体の共振周波数と同一の周波数を有する電磁波の強度を検出する。そして、この水分検知システムは、被検査部材の表面側から、放射部が放射した放射波に応じて、被検査部材に設けられた共振構造体から放射され、受信部で受信された電磁波の強度に基づいて、当該共振構造体と被検査部材との間の水分を検出する。
【0011】
この水分検知システムでは、壁材や天井材、あるいは屋上に設置される防水シート等の被検査部材の裏面側に共振構造体を配置しておき、被検査部材の表面側から当該共振構造体に、当該共振構造体の共振周波数を同一の周波数の電磁波を照射することで、被検査部材と共振構造体との間に浸入した水分を検知することができる。すなわち、被検査部材の表面側(例えば、屋内側や屋上側)から、浸水が視認できないような初期状態であっても、水分の浸入を検知することができる。したがって、浸水による重大な損傷が生じる前に浸水箇所を修復することができる。なお、共振構造体は、被検査部材の裏面側に印刷等により直接形成されてもよく、共振構造体が形成されたシートを被検査部材の裏面側に貼り付ける等により設けられてもよい。
【0012】
上記水分検知システムにおいて、共振構造体は、受動素子のみを構成要素とする受動回路として構成することができる。本構成では、共振構造体を安価に製造できる上、共振構造体の故障発生率を低減することができる。
【0013】
また、共振構造体は、被検査部材に設定された基準位置を基準として周期的に配置されることが好ましい。これにより、検査装置から電磁波を照射すべき位置を、被検査部材の表面側から容易に特定できるため、効率よく検査を行うことができる。
【0014】
さらに、検査装置は、放射する電磁波の周波数および受信する電磁波の周波数を変更する、周波数変更部をさらに備えてもよい。例えば、浸水により共振構造体の一部が腐食して断線した場合、共振周波数が変動するので、本構成により、共振構造体の断線を検出することが可能になる。
【0015】
一方、他の観点では、本発明は、建造物における水分検知に使用される水分検知用シートを提供することができる。本発明に係る水分検知用シートは、フィルム基材に形成された平面コイルと、当該平面コイルの両端を電気的に接続する導体配線とを備える、平面コイルは、フィルム基材の少なくとも一面側に、導体を巻回することで形成される。また、導体配線は、フィルム基材の一面側または他面側に形成される。なお、導体配線が、平面コイルを構成する導体と交差する場合、導体配線と平面コイルを構成する導体とが電気的に分離される。
【0016】
この水分検知用シートは、石膏ボードや防水シート等の被検査部材の裏面側に貼り付けることで、上述の水分検知システムによる水分検知を実現することができる。
【0017】
また、フィルム基材は、一面側と他面側とを連通する貫通孔を有する構成を採用することができる。本構成では、平面コイルの近傍にまで浸入した水分が貫通孔を通じて平面コイルと被検査部材との間に容易に入り込むため、水分の検知精度をより高めることができる。
【0018】
なお、上記水分検知用シートは、フィルム基材上に、複数の上記平面コイルが周期的に配列されていてもよい。この構成では、複数の上記平面コイルを被検査部材上に容易に配列することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水分検知システムによれば、雨漏り等の浸水を、非常に簡便、かつ安価に、しかも非破壊で検出することができる。
【0020】
また、本発明の水分検知用シートによれば、共振構造体を、被検査部材へ、安価かつ容易に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態における水分検知システムを示す概略構成図
【図2】本発明の一実施形態における共振構造体の一例を示す模式図
【図3】本発明の一実施形態における検査装置の一例を示す回路図
【図4】本発明の一実施形態における共振構造体の配列方法を示す模式図
【図5】本発明の一実施形態における水分検知システムの他の適用例を示す概略構成図
【図6】本発明の一実施形態における水分検知用シートの一例を示す模式図
【図7】本発明の一実施形態における水分検知用シートの他の例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、主として、被検査部材が、石膏ボード等の壁材である事例により、本発明を具体化している。
【0023】
図1は、本実施形態における水分検知システムの概略構成を示す概略構成図である。図1に示すように、本実施形態の水分検知システムは、石膏ボード1の裏面側に設けられた共振構造体10と検査装置20とにより構成される。ここでは、石膏ボード1の表面側が屋内側に露出する面であり、裏面側はその反対の面である。石膏ボード1は、裏面側に1または複数の共振構造体10が設けられた状態で家屋等の建造物に設置される。
【0024】
共振構造体10は、導体を巻回した平面コイルを含む閉回路によって構成される。また、共振構造体10は所定の共振周波数f0を有する。図2は、共振構造体10の一例を示す模式図である。図2に示すように、共振構造体10は、導体を巻回した平面コイル11と、当該平面コイル11の両端を電気的に接続する導体配線12とからなる閉回路13が例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)等の樹脂からなる基材14上に形成された構造を有している。この例では、導体は、幅8mmの銅箔(厚さt=30μm)からなり、直線スパイラル形状の平面コイル11が構成されている。直線スパイラル形状とは、図2に示すように、直線部のみを構成要素とし、各直線部を直角に連結することにより構成されるスパイラル形状である。なお、隣接する平行な直線部の間隔(スペース幅)は8mmであり、基材14の外形は260mm×260mmである。共振周波数f0は、線幅、スペース幅、線長により調整される。ここでは、共振周波数f0=13.56MHzとなるように、線長を調整している。また、図2に示すように、平面コイル11の内側端部11aと外側端部11bとは、導体配線12で接続されている。導体配線12は、内側端部11aと外側端部11bとの間に存在する直線部と交差することになるが、導体配線12と平面コイル11の直線部との間に絶縁体を配置する、あるいは、導体配線12を基材14の反対面に形成することにより電気的に分離されている。なお、ここでは、共振構造体10を基材14上に形成し、当該基材14の平面コイル非形成面側が石膏ボード1に貼り付けられている。しかしながら、基材14の平面コイル形成面側が石膏ボード1に貼り付けられてもよく、平面コイル11が石膏ボード1の裏面側に直接形成されていてもよい。
【0025】
一方、検査装置20は、図1に示すように、アンテナ21、放射部22、受信部23および電磁波強度検出部24を備える。放射部22は、共振構造体10の共振周波数f0と同一の周波数を有する電磁波を、アンテナ21を通じて外部に放射する。受信部23は、共振構造体10の共振周波数f0と同一の周波数を有する電磁波を、アンテナ21を通じて受信する。電磁波強度検出部24は、受信部23が受信した共振構造体10の共振周波数f0と同一の周波数を有する電磁波の強度を検出する。本実施形態では、電磁波の強度とは、電磁波の振幅に対応する直流電位である。また、特に限定されないが、本実施形態では、アンテナ21は、共振構造体10の平面コイル11と同一形状の平面コイルから形成されている。
【0026】
図3は、検査装置20の具体的な回路構成の一例を示す回路図である。図3の例では、放射部22は、アンテナ21をコルピッツ型発振回路の一部(インダクタ)とする発振回路により構成されている。また、この構成では、放射部22が受信部23を兼ねており、電磁波強度検出部24は当該発振回路の発振振幅に対応する直流電位を計測する。また、図3の例では、可変容量コンデンサ27、28(周波数変更部)がアンテナ21と並列に配置されており、当該可変容量コンデンサ27、28の容量値を変更することで、発振回路の発振周波数、すなわち、放射部22が放射する電磁波および受信部23が受信する電磁波の周波数を変更できるようになっている。なお、当該周波数は、周波数検出部25によりその値を取得することが可能である。
【0027】
以上の構成を有する水分検知システムにおいて、水分検知を実施する場合、検査装置20は、共振構造体10に対し、石膏ボード1を挟んで対向する位置に配置される。より具体的には、共振構造体10を構成する平面コイル11の中心と、アンテナ21を構成する平面コイルの中心とが対向する状態で、かつ、アンテナ21を構成する平面コイルが石膏ボード1の表面と平行になる状態、すなわち、両平面コイルが平行に配置される。アンテナ21は、石膏ボード1の表面側に接する状態で配置してもよいが、ここでは、所定の間隔(30mm程度)を空けている。なお、当該間隔を広くすると、当然のことながら、電磁波強度が低下することになる。すなわち、当該間隔の上限は、以下の水分検知が可能な距離であり、当該距離は、放射部22がアンテナ21を通じて放射する電磁波の出力パワーに依存することになる。
【0028】
両平面コイルの中心が一致しているか否かは、電磁波強度検出部24の出力値(以下、電磁波強度という。)により検知可能である。すなわち、放射部22が放射する電磁波の周波数を共振周波数f0して、アンテナ21を石膏ボード1の表面に沿って移動させると、中心が一致している場合には、電磁波強度が最大になる。しかしながら、このような作業は煩雑であるので、共振構造体10は、石膏ボード1の所定の基準位置(例えば、角や中央)を基準とした、予め決められた位置に設置するようにすればよい。これにより、共振構造体10を構成する平面コイル11の中心と、アンテナ21を構成する平面コイルの中心とを容易に対向させることができる。ここでは、複数の共振構造体10が、基準位置を基準として周期的に配置されているとする。なお、以下では、特に言及がない限り、共振構造体10とアンテナ21とが対向する、とは両平面コイルの中心が一致していることを意味する。
【0029】
石膏ボード1と共振構造体10との間に水分が存在する場合、共振構造体10とアンテナ21との間の状態が、水分が存在しない場合と異なるため、電磁波強度が変動する。具体的には、水分がある状態の電磁波強度は、水分がない状態の電磁波強度よりも小さくなる。したがって、当該性質を利用することにより、水分の有無を判定することができる。
【0030】
当該判定は、各共振構造体10とアンテナ21とを対向させたときに取得される、各電磁波強度の絶対値に基づいて行うことができ、各電磁波強度の相対比較により行うこともできる。
【0031】
電磁波強度の絶対値により水分検知を行う場合、水分の有無を判定するための基準値が予め設定される。平面コイル11とアンテナ21との位置関係が異なると電磁波強度が変動するため、当該基準値は、当該位置関係を固定した状態で決定される。ここで、位置関係とは、平面コイル11とアンテナ21との距離、両平面コイルの回転角(両平面コイル直線部が平行であるか、ねじれの位置関係にあるか)、平面コイル11とアンテナ21との間の状態(他の物体の有無)を意味する。したがって、検査対象の石膏ボード1の厚さに応じた基準値が選択され、共振構造体10とアンテナ21との位置関係を当該基準値が取得されたときの位置関係と一致させた状態で水分検知が実施されることになる。水分の有無による電磁波強度の変動は上述のとおりであるので、基準値は、水分がない状態の電磁波強度から所定のマージン値を差し引いた値に設定することができる。なお、検査装置20が当該基準値を記憶しておき、電磁波強度を取得した際に、基準値との大小関係を比較して水分の有無を自動的に判定する構成としてもよい。
【0032】
一方、電磁波強度の相対比較により水分検知を行う場合は、いずれかの共振構造体10を基準として、各電磁波強度を比較すればよい。この場合、共振構造体10と石膏ボード1との間に水分が浸入していた場合には、他の位置の電磁波強度よりも小さい電磁波強度が検出されることになる。同一の石膏ボード1であれば厚みは一定であるので、上述の電磁波強度の絶対値による判定の場合のように、石膏ボード1の厚みに応じた基準値を予め選択する必要がなく、容易に水分検知を行うことができる。また、共振構造体10とアンテナ21との位置関係も、相対比較を行う電磁波強度を取得する間、維持されていればよい。なお、検査装置20が相対比較の基準値を記憶しておき、電磁波強度を取得した際に、当該基準値との大小関係を比較して水分の有無を自動的に判定する構成としてもよい。
【0033】
なお、アンテナ21の表面に石膏ボード1との間の距離を一定にするスペーサ(棒材や板材)を設置すれば、検査対象の石膏ボード1に対してアンテナ21を一定距離に容易に配置することができる。
【0034】
ここで、具体的な検出例を表1に例示する。表1は、図2に示す共振構造体10と石膏ボード1との間に水分(10cc)を浸入させた場合と、水分がない場合の電磁波強度を示している。なお、石膏ボードの厚みは、9.5mmの場合と15mmの場合を示している。同一の石膏ボードに対する電磁波強度は、石膏ボード表面とアンテナ21との間隔を同一にして測定している。なお、アンテナ21から放射される電磁波の周波数は13.56MHzであり、出力パワーは1mW程度である。また、共振構造体10と対向させていない状態での電磁波強度と、共振構造体10の平面コイル11を断線させた場合の電磁波強度とを合わせて示している。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、水分の有無を明確に識別可能であることが理解できる。また、平面コイル11に断線が発生した場合、水分が存在する場合と同程度の電磁波強度になっている。しかしながら、周波数が13.56MHzでの、電磁波強度の低下は、共振周波数の変動の結果生じたものである。すなわち、平面コイル11において断線が発生した箇所に依存して異なる値をとることになるが、この例では、表1中に示すように、共振周波数f0が12MHz弱に変動した結果、13.56MHzにおける電磁波強度が低下している。したがって、共振周波数を検出することで、水分有と断線とを明確に区別することができる。上述のように、検査装置20は、周波数変更部(可変容量コンデンサ27、28)を備えるので、当該周波数変更部により共振周波数を変更し、電磁波強度のピークが他の周波数にシフトしているか否かを確認することで、共振周波数の変動の有無を確認することができる。また、その周波数は周波数検出部25より検出可能である。なお、検査装置20は、当該共振周波数変動の有無の確認処理を自動的に実行し、電磁波強度と合わせて共振周波数を表示する構成としてもよい。
【0037】
なお、本実施形態では、共振構造体10が受動素子のみで構成されているため、異常が発生していない状況下で断線が発生することはまず考えられず、腐食による断線や石膏ボードの割れ等に伴う断線等の異常の発生が想定される。すなわち、周波数を検出しない場合であっても、水分浸入や断線を確実に検知することができるといえる。
【0038】
また、電磁波強度は、共振構造体10とアンテナ21との間の状態に依存して変動するが、共振構造体10を挟んで石膏ボード1と反対側に物体が存在しても電磁波強度はほとんど影響を受けない。例えば、共振構造体10を挟んで石膏ボード1と反対側に導体である金属サッシを、共振構造体10と近接、あるいは、平面コイル11が短絡することがないように絶縁物を挟んで接触する状態で配置した場合であっても、電磁波強度の変動を確認することはできなかった。
【0039】
図4は、共振構造体10の配列例を示す模式図である。上述のように、共振構造体10は、石膏ボード1に設定された基準位置を基準として周期的に配置されることが好ましい。例えば、図4(a)に示すように、石膏ボード1の裏面側全面に共振構造体10を配列することができる。また、図4(b)に示すように、石膏ボード1の裏面側に等間隔でマトリックス状に共振構造体10を配列することもできる。さらに、図4(c)に示すように、縦方向と横方向の配置間隔を代えてマトリックス状に共振構造体10を配列することもできる。また、図4(d)に示すように、互いに隣接する列で半周期ずつシフトさせて共振構造体10を配列することもできる。
【0040】
以上では、被検査部材が、石膏ボードである事例について説明したが、本発明は、屋上等に設置される防水シートにも適用可能である。以下、本発明を防水シートに適用した事例を簡単に説明する。図5は、上述の水分検知システムを防水シートに適用した事例を示す概略構成図である。図5に示すように、防水シート2の裏面側には、複数の共振構造体10が例えばマトリックス状に複数配列されて貼り付けられている。ここでは、防水シート2の表面側が屋上側の面であり、裏面側はその反対の面(建造物側の面)である。防水シート2上には、コンクリートやアスファルト、木材等からなる保護層3が設けられており、防水シート2の状態を視認することはできない。
【0041】
当該状態において、保護層3および防水シート2が劣化して防水シート2にひび割れ等が生じると、雨水が防水シート2の下方に浸入するようになる。このとき、水分が、共振構造体10と防水シート2との間に浸入すると、上述した検出装置20を共振構造体10と対向させて電磁波強度を測定することで、水分の浸入を容易に検出することができる。したがって、水分が検知された部分の保護層3のみを剥がして防水シート2を補修することで、建造物に重大な損傷が発生することを防止することができる。また、当該補修時に、共振構造体10と防水シート2との間に浸入した水分を乾燥させることができれば、その共振構造体10をそのまま使用することも可能である。
【0042】
以上説明したように、この水分検知システムでは、壁材や天井材、あるいは屋上に設置される防水シート等の被検査部材の裏面側に共振構造体を配置しておき、被検査部材の表面側から当該共振構造体に、当該共振構造体の共振周波数を同一の周波数の電磁波を照射することで、被検査部材と共振構造体との間に浸入した水分を検知することができる。すなわち、被検査部材の表面側(例えば、屋内側や屋上側)から、浸水が視認できないような初期状態であっても、水分の浸入を検知することができる。したがって、浸水による重大な損傷が生じる前に浸水箇所を修復することができる。
【0043】
続いて、上述の水分検知に使用される水分検知用シートについて説明する。図6は、本実施形態の水分検知用シートを示す模式図である。当該水分検知用シートは、例えば、石膏ボードや防水シート等の被検査部材の裏面側に貼り付けられる。
【0044】
図6に示すように、この水分検知用シート30は、フィルム基材31の少なくとも一面側に形成された、導体を巻回した平面コイル11と、平面コイル11の内側端部11aと外側端部11bとを電気的に接続する導体配線12とを備える閉回路13により構成される共振構造体10を備える。上述のように、平面コイル11は、直線スパイラル形状を有し、導体配線12は、フィルム基材31の一面側(平面コイル11の形成面側)または他面側に形成される。導体配線12と交差する平面コイル11の直線部と、導体配線12とは、上述したように電気的に分離される。なお、平面コイル11は、フィルム基材31の一面側のみで形成されることは必須ではなく、例えば、対向する直線部群を一方面に形成し、当該直線部群と直角に交わる直線部群を他方面に形成してもよい。なお、フィルム基材31としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)等の樹脂を使用することができる。また、導体パターンは、導電ペーストを使用した印刷、あるいは蒸着法等により形成することができる。
【0045】
また、フィルム基材31は、一面側と他面側とを連通する貫通孔32を有することが好ましい。貫通孔32は、平面コイル11の最内部等、任意の位置に形成することができる。図6の例では、平面コイル11の外縁部に複数の貫通孔32を形成している。この構成では、平面コイル11の近傍にまで浸入した水分が貫通孔32を通じて平面コイル11と被検査部材との間に容易に入り込むため、水分の検知精度をより高めることができる。
【0046】
図7は、水分検知用シートの他の例を示す模式図である。この例では、フィルム基材31上に、複数の共振構造体10(平面コイル11)が周期的に配列されている。この構成では、複数の共振構造体10を被検査部材上に容易に配列することができる。なお、図7では、共振構造体10がフィルム基材31上に一列で配列された事例を示しているが、複数列で配列されてもよい。
【0047】
以上のように、この水分検知用シートは、石膏ボードや防水シート等の被検査部材の裏面側に貼り付けることで、上述の水分検知システムによる水分検知を実現することができる。
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、雨漏り等の浸水を、非常に簡便、かつ安価に、しかも非破壊で検出することができる。また、本発明の水分検知用シートによれば、共振構造体を、被検査部材へ安価かつ容易に設置することができる。
【0049】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上記実施形態では、平面コイルを直線スパイラルにより構成したが、曲線部のみを構成要素とするスパイラル形状(スパイラル曲線)や直線部を曲線部で接続したスパイラル形状等の任意のスパイラル形状を採用することができる。また、共振周波数が調整可能であれば、単周コイル(ループアンテナ)であってもよい。さらに、上記では、低コスト化の観点で、共振構造体を受動素子のみで構成したが、能動素子を含むことを妨げるものではない。また、上記では、共振構造体の共振周波数を13.56MHzとしたが、任意の周波数に適用可能である。さらに、上記では、検査装置のアンテナとして共振構造体の平面コイルと同一形状の平面コイルを採用したが、他の構造のアンテナを使用してもよい。加えて、上記検査装置では、放射部と受信部を共通構成としたが、それぞれが独立に構成されてもよい。この場合、放射用アンテナと受信用アンテナとを独立して設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、雨漏り等に起因する浸水を、非常に簡便、かつ安価に検出することができ、建造物における水分検知システムおよびこれに使用する水分検知用シートとして有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 石膏ボード(被検査部材)
2 防水シート(被検査部材)
3 保護層
10 共振構造体
11 平面コイル
12 導体配線
13 閉回路
14 基材
20 検査装置
21 アンテナ
22 放射部
23 受信部
24 電磁波強度検出部
25 周波数検出部
27、28 可変容量コンデンサ(周波数変更部)
30 水分検知用シート
31 フィルム基材
32 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物における水分検知システムであって、
被検査部材の裏面側に設けられた、導体を巻回した平面コイルを含む、所定の共振周波数を有する閉回路によって構成された共振構造体と、
前記共振構造体の共振周波数と同一の周波数を有する電磁波を外部に放射する放射部、
前記共振構造体の共振周波数と同一の周波数を有する電磁波を受信する受信部、
前記受信部が受信した前記共振構造体の共振周波数と同一の周波数を有する電磁波の強度を検出する電磁波強度検出部、
を備える検査装置と、
を有し、
前記被検査部材の表面側から、前記放射部が放射した放射波に応じて前記共振構造体から放射され、前記受信部で受信された電磁波の強度に基づいて、当該共振構造体と前記被検査部材との間の水分を検出する、水分検知システム。
【請求項2】
前記共振構造体が受動素子のみを構成要素とする受動回路である、請求項1記載の水分検知システム。
【請求項3】
前記共振構造体が、前記被検査部材に設定された基準位置を基準として周期的に配置される、請求項1または2記載の水分検知システム。
【請求項4】
前記検査装置が、放射する電磁波の周波数および受信する電磁波の周波数を変更する、周波数変更部をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の水分検知システム。
【請求項5】
建造物における水分検知に使用される水分検知用シートであって、
フィルム基材の少なくとも一面側に形成された、導体を巻回した平面コイルと、
前記フィルム基材の前記一面側または他面側に形成された、前記平面コイルの両端を電気的に接続する導体配線と、
を備える、水分検知用シート。
【請求項6】
前記フィルム基材が、前記一面側と前記他面側とを連通する貫通孔を有する、請求項5記載の水分検知用シート。
【請求項7】
複数の前記平面コイルが、前記フィルム基材上に、周期的に配列された、請求項5または6記載の水分検知用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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