説明

弁装置

【課題】電位差腐食が発生せず、かつ微小振動による負荷が与えられても腐食の発生を低減することのできる弁装置を提供する。
【解決手段】本発明にかかる弁装置は、弁棒6と、弁棒6を摺動可能に支持する軸受け7とを備え、弁棒6が、Ni基超合金からなる鍛造品から構成され、軸受け7が、Ni基超合金からなる鋳造品から構成されることを特徴とする。弁棒6における軸受け7との摺動面の表面粗さ、及び軸受け7における弁棒6との摺動面の表面粗さは、Rzで100μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置に関し、特に蒸気弁の弁棒とこの弁棒を支持する軸受けとの間のスティックを防止することのできる弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タ―ビンの主要な蒸気弁は高温高圧下の苛酷な条件のもとで使用され、さらに高速蒸気流を制御する役目を担っている。高温下においては金属表面が活性化状態となり、雰囲気中の高温水蒸気と反応して酸化皮膜を生成する。この酸化皮膜は母材の組成及び雰囲気条件によって、母材との付着強度が異なり、弁のくり返し開閉動作の度に剥離を起こし、これが弁棒の摺動により表面の凹部に局部的に堆積して軸受けとの間隙を埋め、弁棒にスティックが生じることがある。このため、蒸気タ―ビンの定期検査時に弁棒まわりを分解し、酸化皮膜を落とすための手入れが必要となり、また堆積物発生量を予め見込んで弁棒と軸受けとの間隙を大きくとるために、弁棒まわりから漏洩する蒸気量が多くなり、プラント全体の熱効率を低下させる等の問題を起こす。
【0003】
スティックの問題を解消する提案が特許文献1に開示されている。特許文献1は、弁棒の本体とブッシュ(以下、軸受け)との材質を線膨張係数の略同じ材質とするとともに、弁棒摺動部外表面にはNi合金を肉盛り溶接し、さらに肉盛り溶接されたNi合金部に窒化処理を施すことを提案している。
特許文献1の提案によれば、弁棒の摺動部外表面に、Ni合金を配設しているので、酸化皮膜生成が少なく、スティックの発生を防止できる。また、弁棒の本体と軸受けとの材質を線膨張係数の略同じ材質とすることにより、高温下で使用した際の熱膨張によって両者の間に形成した摺動部の間隔を確保することができる。
なお、特許文献1には、弁棒の本体と軸受けには、オーステナイト系ステンレス鋼、12%Cr系ステンレス鋼、低合金鋼(Cr−Mo(−V)鋼)を用いることが記載されているものの、Ni合金に関する具体的な記載はなされていない。
【0004】
【特許文献1】特公平1−28269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による提案、特にNi合金の肉盛り溶接は、必要な部位のみにNi合金を設けるものであるから、難削材であるNi合金に加工を施す必要がない点で有効な技術である。しかるに、電位差腐食の観点から、異種金属を高温の腐食環境下で使用することは好ましくない。特に、負荷が微小な変位を部材に与え、それが許容範囲を超えるレベルになると、腐食が発生しやすくなることが経験上より明らかである。したがって、肉盛り溶接は、負荷のかかる部分に用いることは好ましくない。特に、蒸気流によって弁棒が微小振動し、その振動を受ける軸受けには負荷が与えられるため、蒸気流を制御する弁装置に肉盛り溶接を用いることは避けるべきである。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、電位差腐食が発生せず、かつ微小振動による負荷が与えられても腐食の発生を低減することのできる弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明者等は、弁棒及び軸受けともにその全体をNi基超合金から構成することにより電位差腐食の発生を防止し、微小振動を吸収しやすい鋳造品で軸受けを構成することにより腐食の発生を低減することを着想した。すなわち本発明の弁装置は、弁棒と、弁棒を摺動可能に支持する軸受けとを備え、弁棒が、Ni基超合金からなる鍛造品から構成され、軸受けが、Ni基超合金からなる鋳造品から構成されることを特徴とする。
本発明の弁装置において、弁棒における軸受けとの摺動面の表面粗さ、及び軸受けにおける弁棒との摺動面の表面粗さが、Rzで100μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明によれば、弁棒及び軸受けともにその全体をNi基の超合金から構成することにより、スティックの発生を防止するとともに、電位差腐食の発生を防止することができる。また、微小振動を吸収しやすい鋳造品で軸受けを構成することにより腐食の発生を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しつつこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明が適用される弁装置(蒸気弁)の一構成例を示す断面図である。図1において、1は弁体ケーシングであり、その両側部には蒸気入口2a,2bを、また下部には単一の蒸気出口3を有し、この蒸気出口3の内方における弁体ケーシング1の内部には弁座4が形成されている。この弁座4に対して弁体5が接離自在に取付けられ、弁体5の移動により蒸気の遮断及び流出を行う。弁棒6は、その一端が弁体5の下端中央部に連結され、またその他端が弁体5の周壁で限定される内部空間を通して延び、細長い円筒状の軸受け7の内部を摺動自在に貫通し、支持されている。この軸受け7は、弁体ケーシング1の上部開口部に取付けられたボンネット8の中央部分を貫通していると共に、このボンネット8により支持されている。ボンネット8は、下向きに延びて開口している円筒形部分9を一体的に有し、この円筒形部分9に弁体5が摺動自在に嵌入されている。
【0009】
以上の構成を有する蒸気弁は、全閉時には、弁体5の先端面が弁座4に当接し、弁体ケーシング1の両側部の蒸気入口2a,2bから弁体ケーシング1の内部に入る蒸気の流れは、弁体5と弁座4との当接部分で遮断され、蒸気出口3を通して流れない。そして、弁体5を弁棒6によって上方向へ動かすことにより開状態となり、蒸気は弁体5と弁座4との間に形成された隙間を通って蒸気出口3から排出される。弁棒6は、図示しないアクチュエータ、アクチュエータの出力を弁棒6に伝達する機械要素を介して、作動される。
なお、ここでは図1に示す形態の蒸気弁を例示したが、本発明が適用される弁装置は、図1に示す形態に限定されることがないことはいうまでもない。
【0010】
本実施の形態による弁棒6及び軸受け7は、Ni基超合金から構成される。Ni基超合金の代表的な材質を表1に示す(JIS G4901)。いずれも、Niを主構成元素とし、さらにCrを14〜25wt%の範囲で含んでいる。本実施の形態においては、表1に示すいずれのNi基超合金を用いることができるが、その中でNCF718を用いることが好ましい。
【0011】
【表1】

【0012】
弁棒6及び軸受け7はともにNi基超合金から構成される。ここで、Ni基超合金から構成されるとは、弁棒6及び軸受け7の全体がNi基超合金で構成されることを意味する。したがって、母材を低合金鋼(Cr−Mo(−V)鋼)、12Cr系ステンレス鋼、オ―ステナイト系ステンレス鋼等から構成し、その一部がNi基超合金の肉盛り溶接から構成されるという形態を本発明は排除する。異なる材質で弁棒6又は軸受け7を構成すると、電位差腐食を発生させるからである。この観点から、弁棒6及び軸受け7は、同一種類のNi基超合金から構成されることが好ましい。例えば、表1に示すNi基超合金を例にすると、弁棒6及び軸受け7をともにNCF718から構成することが好ましい。
【0013】
次に、弁棒6は鍛造品で構成され、軸受け7は鋳造品で構成される。同一のNi基超合金であっても、鍛造品と鋳造品では、いくつかの機械的性質が異なる。つまり、機械的強度は鍛造品の方が鋳造品よりも優れる。また、振動減衰性能は、鋳造品の方が鍛造品よりも優れる。
ここで、弁棒6と軸受け7とを比較すると、アクチュエータにより作動される弁棒6の方が高い機械的強度を有することが要求される。そこで本発明では、弁棒6を機械的強度の高い鍛造品で構成する。
また、前述したように、蒸気流によって弁棒6に微小振動が発生する。そしてこの微小振動を受ける軸受け7には負荷が与えられるため、腐食が発生しやすくなる。そこで、軸受け7には、弁棒6から受けた振動を減衰する能力の高い鋳造品を用いることにした。鋳造品は、前述したように機械的強度は鍛造品に比べて劣るが、軸受け7は弁棒6に比べて要求される機械的強度のレベルは低いため、軸受け7を鋳造品から構成しても十分な耐久性を備えることができる。
【0014】
弁棒6及び軸受け7は、Ni基超合金部材の一般的な製造方法に従って作製することができる。鍛造品から構成される弁棒6は、所定組成の合金溶湯からインゴットを作製し、このインゴットを鍛造、圧延した後に、定められた熱処理を施すことによって得ることができる。また、鋳造品から構成される軸受け7は、所定組成の合金溶湯を所定形状のキャビティを有する鋳型に注湯、冷却した後に、定められた熱処理を施すことによって得ることができる。もちろん、所定形状の弁棒6、軸受け7を得るために、切削、研磨等の機械加工を施すことを適宜行うことができる。
【0015】
弁棒6及び軸受け7は、互いの摺動面の表面粗さRz(JIS B0601)を100μm以下にすることが好ましい。当該摺動面の表面粗さを小さくすることにより、弁棒6の作動トルクを小さくすることができるからである。当該摺動面の表面粗さRzは、100μm以下とすることが好ましく、50μm以下とすることがさらに好ましく、30μm以下、特に10μm程度とすることがより好ましい。弁棒6の作動トルクを小さくすることにより、弁棒6を作動するアクチュエータを小型化することができるとともに弁の開度の精密制御が可能になる。
【0016】
弁棒6及び軸受け7は、その表面に窒化処理、浸炭処理、浸炭窒化処理等の表面処理を施すことができる。このような表面処理を施すことにより、弁棒6及び軸受け7の摺動面の硬さを向上することにより、摩耗量を低減することができる。窒化処理は、例えば以下のようにして行うことができる。アンモニアガス(NH)を500〜520℃に熱熱するとガスの一部が窒素(N)と水素(H)に分離し、その内の窒素が窒化対象部材の中の元素と結びついて硬い窒化物を作る。窒素と結びつく元素として、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)が掲げられるが、表1に示されるように、Ni基超合金の多くは、これら元素を含有している。
浸炭処理は、部材表面層の炭素量を増加させ、表面層のみを焼入硬化する処理法である。また、浸炭窒化処理は800℃以上の温度で部材表面に炭素と窒素を同時に浸入させる処理である。
【0017】
本実施の形態において、弁棒6及び軸受け7をともにNi基超合金から構成するが、Ni基合金同士の摩擦係数(乾燥摩擦)は0.50程度である。ここで、弁棒6及び軸受け7を、Co基超合金(例えば、ステライト(デロロステライト社の登録商標))から構成することも考えられる。このようなCo基超合金を用いた場合も、酸化皮膜の発生を防止することができる。しかし、Co基合金同士の摩擦係数が0.56と高いため、弁棒6の作動トルクが大きくなる。また、Co基超合金は、Ni基超合金に比べて難削性が高い。さらに、Co基超合金の主構成元素であるCoの価格が高く、かつ乱高下する難点がある。以上の観点からも、超合金の中からNi基超合金を用いることが好ましい。
【0018】
本実施の形態による蒸気弁は、弁棒6及び軸受け7を除く部分の材質は任意であり、弁棒6及び軸受け7と同様にNi基超合金で構成することができるし、低合金鋼(Cr−Mo(−V)鋼)、12Cr系ステンレス鋼、オ―ステナイト系ステンレス鋼等から構成することもできる。
【実施例】
【0019】
図2に示す試験部材10を作製し、この試験部材10を高温蒸気(593℃級)フロー環境下に曝す高温腐食試験を行った。この試験部材10は、図1に示した弁棒6に対応する模擬弁棒11と、同軸受け7に対応する模擬軸受け12とから構成される。なお、図2において、φa=20mm、L1=90mm、L2=100mmであり、模擬弁棒11の外径と模擬軸受け12との間のクリアランスを0.02mmに設定した。
試験部材10は、模擬弁棒11及び模擬軸受け12の材質を以下のようにして4種類作製した。
No.1 模擬弁棒11:NCF718(組成は以下の通り、以下同様)の鍛造品
模擬軸受け12:NCF718の鋳造品
No.2 模擬弁棒11:NCF718の鍛造品
模擬軸受け12:NCF718の鍛造品
No.3 模擬弁棒11:SCM435(組成は以下の通り、以下同様)の鍛造品
模擬軸受け12:SCM435の鍛造品
No.4 模擬弁棒11:SCM435の鍛造品の摺動面にNCF718を肉盛り溶接
模擬軸受け12:SCM435の鍛造品の摺動面にNCF718を肉盛り溶接
NCF718:52wt%Ni−18wt%Cr−3wt%Mo−5wt%Nb−0.8wt%Ti−0.5wt%Al−Bal.Fe
SCM435:1.05wt%Cr−0.22wt%Mo−0.35wt%C−0.25wt%Si−0.72wt%Mn−0.03wt%以下P−0.03wt%以下S−0.03wt%以下Cu−Bal.Fe
【0020】
各部材は、残留応力が腐食に影響するので、各部材の加工に応じた熱処理により残留応力の除去を行った。
NCF718の粉体肉盛り溶接は、プラズマ粉体肉盛り溶接により行い、厚さ1.5mmの肉盛り層を形成した。
模擬弁棒11の外周面(摺動面)、模擬軸受け12の内周面(摺動面)は、各々、その表面粗さをRzで200μmとなるように、研磨加工した。
【0021】
高温腐食試験は、高温蒸気(593℃級)フロー環境下に、上記試験部材10を36ヶ月間曝した。この際、6時間毎に、模擬弁棒11を模擬軸受け12に対して、その長さ方向に往復運動させた。この往復運動のストロークは50mmである。高温腐食試験後に、模擬軸受け12を固定した状態で模擬弁棒11を回転させ、回転に必要なトルク(作動トルク)を測定した。また、作動トルク測定後に、模擬軸受け12から模擬弁棒11を抜き取り、模擬弁棒11表面の摩耗量を測定した。その結果を表2に示す。なお、作動トルク、摩耗量ともに、No.3を100とした指数で表している。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示すように、No.2は、作動トルクが小さいものの、摩耗量がNo.1に比べて大きい。これは、No.2の試験部材10は、模擬軸受け12が鍛造品から構成されているため、高温蒸気フローによる模擬弁棒11の振動による負荷の影響を受けやすいことによるものと解される。
No.3は、模擬弁棒11と模擬軸受け12との間に酸化皮膜が発生したために、作動トルクが大きくなった。また、模擬軸受け12が鍛造品から構成されているため、高温蒸気フローによる模擬弁棒11の振動による負荷の影響を受けて、摩耗量が大きくなったものと解される。
No.4は、母材はSCM435であるが、表面にNCF718の肉盛り溶接層を設けているため、模擬弁棒11と模擬軸受け12との間に接触部位に酸化皮膜の発生が防止されているために作動トルクは小さい。しかし、模擬弁棒11(模擬軸受け12)が異なる材質で構成されているために、電位差腐食により、摩耗量が大きくなっている。
以上に対して、本発明に係るNo.1は、模擬弁棒11及び模擬軸受け12がともに、酸化皮膜発生の少ないNi基超合金であるNCF718で構成されているため、作動トルクを小さくできる。また、No.1は、模擬弁棒11及び模擬軸受け12がともに、NCF718で構成されているため、電位差腐食の影響を受けず、摩耗量も少ない。
【0024】
次に、模擬弁棒11及び模擬軸受け12の各々の摺動面の表面粗さを表3に示すように変えた以外は、表2のNo.1と同様の試験部材10を作製した。この試験部材10に対して上記と同様の高温腐食試験を行った後、各々の作動トルクを測定した。その結果を表3及び図3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
表3及び図3に示すように、表面粗さRzが小さくなると作動トルクが小さくなる。特に、概ね100μmを境に、作動トルクの低下の程度が大きくなる。この結果より、弁棒及び軸受けの各々の摺動面の表面粗さをRzで100μm以下にすることが好ましいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態における蒸気弁の構成を示す断面図である。
【図2】実施例に用いた試験部材の構成を示す断面図である。
【図3】実施例における、表面粗さRzと作動トルクの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1…弁体ケーシング、2a,2b…蒸気入口、3…蒸気出口、4…弁座、5…弁体、6…弁棒、7…軸受け、8…ボンネット、10…試験部材、11…模擬弁棒、12…模擬軸受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁棒と、前記弁棒を摺動可能に支持する軸受けとを備え、
前記弁棒が、Ni基超合金からなる鍛造品から構成され、
前記軸受けが、Ni基超合金からなる鋳造品から構成されることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記弁棒における前記軸受けとの摺動面の表面粗さ、及び前記軸受けにおける前記弁棒との摺動面の表面粗さが、Rzで100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−275119(P2008−275119A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122111(P2007−122111)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】