説明

引張および破壊靭性試験方法

【課題】従来のBWRにおける圧力容器鋼の監視試験片から、直接破壊靭性値を取得する評価方法を得ることにある。
【解決手段】中央に平行部が形成された引張試験片1を使用して引張試験を行った後に切断された残材1a、1bに対し当初の引張試験片の平行部1cの径まで加工した丸棒2を製作し、この丸棒2に機械的切り欠きと疲労予き裂6を導入し、この機械的切り欠きと疲労予き裂6を導入した丸棒を使用して曲げによる破壊試験を実施し、この曲げによる破壊試験から得られた最大荷重から破壊靭性値を求めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張および破壊靭性試験方法破壊靭性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(以下BWRと呼ぶ)の原子炉圧力容器は、燃料、制御棒、シュラウド、気水分離器、蒸気乾燥器等を内蔵した容器である。その原子炉圧力容器には、従来ボイラ鋼板が用いられていたが、研究開発が進み、フェライト鋼が検討されるようになってきており、ASTM A533鋼などが現在広く実用化されている。
【0003】
原子炉圧力容器に使用されているフェライト鋼は、体心立方構造であり、低温で脆化して脆性−延性遷移温度が中性子照射により上昇し、上部棚にエネルギーが低下することが知られている。そのため、原子炉圧力容器においては、運転中の温度、中性子照射等の使用環境の影響により材料の脆化が危惧されており、材料の脆化の程度を確認するために、サーベランス試験が行われている。このサーベランス試験で分析に使用される試験片は、試験対象機器と同じ材料、使用環境で保管されたものであり、この試験片の材料特性変化から供用中の機器の状態を推定するものである。
【0004】
BWRでは圧力容器で使用する鋼のサーベランス試験で使用する監視試験片としてシャルピー衝撃試験片や引張試験片が圧力容器内に装荷されており、破壊靱性評価はシャルピー衝撃試験から得られたシャルピー吸収エネルギーからマスターカーブ法を用いて行っている。
【0005】
このシャルピー吸収エネルギーから評価した破壊靭性値は、劣化評価としては有効であるが、設計・評価に直接反映できる破壊靭性値の絶対値ではない。また、シャルピー衝撃試験は、動的試験であり、一般的なASTMやJSMEにより規定されている形態の二重片持ちばり試験片、即ち、CT( Compact Tension)試験片による破壊靭性試験は試験速度が異なっており、脆性と延性の遷移域において必ずしも一致しない可能性がある。
【0006】
BWRでは監視試験片を再生する手法が、日本電気協会規定JEAC4201で規格化されたが、これも直接破壊靱性値を取得する評価方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−294880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来のBWRにおける圧力容器鋼の監視試験片からは、直接破壊靭性値を取得する評価方法がないという課題があった。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、原子炉圧力容器鋼の監視試験片のうち引張試験片に着目し、引張試験後の残材の平行部あるいは引張試験片の平行部に切り欠きを導入した後、曲げあるいは引張による破壊試験を行い、試験時の最大荷重から破壊靭性値を取得する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る引張および破壊靭性試験方法は、中央に平行部が形成された引張試験片を使用して引張試験を行った後に切断された残材に対し当初の引張試験片の平行部の径まで加工した丸棒を製作し、この丸棒に機械的切り欠きと疲労予き裂を導入し、この機械的切り欠きと疲労予き裂を導入した丸棒を使用して曲げによる破壊試験を実施し、この曲げによる破壊試験から得られた最大荷重から破壊靭性値を求めることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る破壊靭性試験方法は、中央に平行部が形成された監視引張試験片の平行部に機械的切り欠きを導入した後、疲労予き裂を導入した試験片を製作し、曲げ試験あるいは引張試験を行い、破壊に至る最大荷重から破壊靭性値を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、1本の監視引張試験片から引張試験結果と破壊靭性試験結果の両方を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る引張および破壊靭性試験方法を示す説明図。
【図2】本発明の他の実施例に使用する試験片を示す側面図。
【図3】(a)から(c)は各々全周、両側および片側切り欠きの状態を示す断面図。
【図4】本発明の他の実施例に使用する片側を平行部径まで加工した試験片を示す側面図。
【図5】本発明の他の実施例に使用する引張試験片ネジ部を除去した丸棒試験片を示す側面図。
【図6】監視引張試験片を用いた破壊靭性評価フローを示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る監視試験片のうち引張試験片を用いた破壊靭性試験方法について、図面を参照して説明する。
【0015】
(実施例1)
サーベランス試験のひとつである中央に平行部が形成された引張試験片を使用した監視引張試験で使用して切断された監視引張試験片1の試験片残材から破壊靭性試験を行う方法を説明する。
【0016】
試験後に切断された監視引張試験片1のうち長い方の残材1aに対し、当初の監視引張試験片1の平行部1cの径まで細く加工した丸棒2を製作した後、丸棒2の軸方向中心部に機械的切り欠きを形成しさらに片側の疲労予き裂6を導入し、曲げによる破壊試験を行うことで、破壊に至る最大荷重が得られ、破壊靭性値を求めることが出来る。
【0017】
この方法により、1本の監視引張試験片から引張試験結果と破壊靭性試験結果の両方を得ることができる。
【0018】
ただし、長い方の残材1aから加工した丸棒2のみでは短く、長さ的に十分な曲げ試験が出来ない可能性がある。このため、図1に示すように、引張試験後の長い方の残材1aおよび短い方の残材1bの両方について、当初の監視引張試験片1の平行部1cの径まで加工した丸棒2、3を製作した後、短い方の残材1bで製作した丸棒3を切断して2分割し、長い方の残材1aで製作した丸棒2の両端に2分割した短い方の残材1bで製作した丸棒3を溶接等で接合5させた丸棒試験片4を製作する。
【0019】
丸棒試験片4中心部に片側の機械的切り欠き+疲労予き裂6を導入し、曲げによる破壊試験を行うことで、破壊に至る最大荷重が得られ、破壊靭性値を求めることが出来る。
【0020】
なお、監視引張試験片1の長い方の残材1aから加工した丸棒2と短い方の残材1bで製作した丸棒3の接合6方法として、一般的には溶接が考えられる。しかし、試験片が小さいことを考慮すると低入熱による接合方法が望ましい。
【0021】
低入熱の接合方法としては、非溶融接合である、高速で回転させながら2つの被接合部材を接触させて、接触部分の摩擦熱によりこれらを接合する摩擦圧接(摩擦攪拌接合)や、母材を溶融させることなく加熱・加圧保持し、接合面を横切って接合界面の原子を拡散させ、金属学的に完全な接合部を得る拡散接合が挙げられるが、他の接合方法を適宜使用することができるのはもちろんである。
【0022】
(実施例2)
次に監視引張試験片1から引張試験を行わずに、直接破壊靭性試験を行う方法について説明する。
【0023】
供試材としてASTM A533 Gr.B Cl.1に準拠した低合金鋼(C:0.21%、Si:0.26%、Mn:1.46%、P:0.018%、S:0.023%、Ni:0.56%、Mo:0.48%)を用い、試験片は図2に示すASTM A370記載の小型試験片7(平行部:φ6.35mm)を使用した。
【0024】
表面の切り欠き導入位置として、図3(a)から(c)に示す全周切り欠き11、両側表面切り欠き12および片側表面切り欠き13の3通りが考えられる。また、試験片を破壊する方法として、軸力方向に引張方法と実施例1で示した曲げ試験の2通りが考えられるが、軸力方向の引張の場合、軸力モーメントと曲げモーメントの両方を考慮する必要があること、および監視試験片が照射環境下にあり、取り扱いが容易でないことを考慮すると、曲げ試験の方が容易と考えられる。
【0025】
曲げ試験を行うにあたり、曲げの支持部と平行部に導入する切り欠き部11,12,13が同一面でなければならないため、図4に示すように片側を平行部径まで加工した試験片21、あるいは図5に示すように全体を平行部径に合わせた丸棒試験片31のように引張試験片ネジ部を除去した試験片を製作する必要がある。
【0026】
ここでは丸棒試験片31を用い、疲労予き裂導入前の機械加工によるノッチ寸法を、約1.5mmとした後、表面片側に疲労予き裂導入した。また、本実施例における曲げ試験は脆化材料模擬として−150℃の環境下で繰り返し2本の試験を実施した。この曲げ試験後の破面を観察すると機械的切欠き11、12、13と疲労予き裂14の他は全て脆性破面であった。以上の結果、本提案の曲げ試験により脆性破壊が生じるとともに、最大荷重値を得ることが出来た。
【0027】
曲げを受ける表面き裂付き丸棒のK値は、参考文献1(木内ほか、表面切り欠きを有する丸棒の脆性破壊強度評価、鉄と鋼、Vol68、No13(1982)、p1830-1838)を参考に(1)式により算出可能である。
【0028】
K=Mb・σ・√(πa)・・・(1)

M=1.12-(2.37/D+0.36/R)a+(4.44/D2+0.663/(R・D)a2+(1.35/D3-2.81/(R・D2)a3
D:試験片直径
Mb:曲げモーメント
a:き裂長さ
σb:曲げ応力
以上の式を用いて丸棒試験片31を用いてK値を求めることが可能であり、監視引張試験から直接的に破壊靭性値を得ることが確認出来た。
【0029】
(実施例3)
次に引張による破壊靭性試験について検討する。丸棒型引張試験片から破壊靭性値を取得するためには、試験片に切り欠きを導入する必要がある。特に、切り欠き形状が重要であることから、丸棒試験片に対し目標の切り欠き形状を導入することが重要である。丸棒型引張試験片では、図3(a)で示したように全周に均一な切り欠き11を付与することが出来れば、すでに公開された文献(STRESS INTENSITY FACTORS HANDBOOK, Vol.2, 643-645「A CIRCUMFERENTAL CRACK OR AN INFINITE ROW OF CIRCUMFERENTIAL CRACKS IN A CYLINDICAL BAR UNDER TENSION」)に記載されている破壊靭性評価が可能である。
【0030】
ただし、今回の対象は脆化材料であり、全周に均一な切り欠きを付与することは困難である。また、片側表面切り欠きでは、軸力方向に荷重を掛けて試験を行うと、片側のみに付加が大きくなり、曲げ応力が発生する可能性がある。従って、引張型の破壊靭性試験を行うには、引張軸方向に均等に破壊が進展すると想定される図3(b)で示したように両側表面切り欠きが望ましい。
【0031】
(実施例4)
実際の監視引張試験片を用いて破壊靭性試験を行う場合、試験材料が脆性ではなく延性破壊の場合も想定される。延性材料の場合、K値を求めることが出来ず、J値を求めることになる。J値の求める手法として複数き裂試験片が考えられるが、数に限りがある監視引張試験片では適用が困難である。
【0032】
1本の監視引張試験片から破壊靭性値を取得することが望ましいことから、丸棒型引張試験片を用いた破壊靭性値取得は図5のフローに従って評価を進めることで1本の試験片で評価が可能となる。疲労予き裂導入後、曲げによりき裂を進展させ、荷重−開口変位線図を取得し、脆性材料ならば最大荷重値と破面観察結果からK値を求め、延性で安定延性き裂が認められた場合は、延性材料であると評価する。
【0033】
よって、上記実施例1から4によれば1本の監視引張試験片から引張試験結果と破壊靭性試験結果の両方を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0034】
1…監視引張試験片、1a,1b…残材、1c…平行部、2…長い方の残材から加工した丸棒、3…短い方の残材から加工した丸棒、4…残材を接合して製作した丸棒試験片、5…接合部、6…切欠き+疲労予き裂、7…小型引張試験片、11、12、13…機械加工切り欠き、14…疲労予き裂、21…一部平坦な曲げ試験片、31…丸棒曲げ試験片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に平行部が形成された引張試験片を使用して引張試験を行った後に切断された残材に対し当初の引張試験片の平行部の径まで加工した丸棒を製作し、この丸棒に機械的切り欠きと疲労予き裂を導入し、この機械的切り欠きと疲労予き裂を導入した丸棒を使用して曲げによる破壊試験を実施し、この曲げによる破壊試験から得られた最大荷重から破壊靭性値を求めることを特徴とする引張および破壊靭性試験方法。
【請求項2】
前記丸棒は、引張試験後の長い方の残材および短い方の残材の双方に対して当初の引張試験片の平行部の径まで加工した丸棒を製作した後、前記短い方の残材を2分割し、長い方の残材の両端に2分割した短い方の残材を接合させた丸棒であることを特徴とする請求項1記載の引張および破壊靭性試験方法。
【請求項3】
前記長い方の残材と前記短い方の残材は、溶接、摩擦圧接、拡散接合のいずれかにより接合することを特徴とする請求項1記載の引張および破壊靭性試験方法。
【請求項4】
中央に平行部が形成された監視引張試験片の平行部に機械的切り欠きを導入した後、疲労予き裂を導入した試験片を製作し、曲げ試験あるいは引張試験を行い、破壊に至る最大荷重から破壊靭性値を取得することを特徴とする破壊靭性試験方法。
【請求項5】
中央に平行部が形成された引張試験片の平行部に片側の機械的切り欠きを導入した後、疲労予き裂を導入した試験片を製作し、曲げによる破壊試験を行い、破壊に至る最大荷重から破壊靭性値を取得することを特徴とする請求項4記載の破壊靭性試験方法。
【請求項6】
前記試験片は、引張試験片のネジ部を機械加工により除去した後、平行部に片側の機械的切り欠きを導入し、疲労予き裂を導入したことを特徴とする請求項5記載の破壊靭性試験方法。
【請求項7】
前記試験片は、引張試験片を機械加工により全て前記平行部の径まで除去した丸棒とした後、平行部に片側の機械的切り欠き導入後、疲労予き裂を導入したことを特徴とする請求項5記載の破壊靭性試験方法。
【請求項8】
前記試験片は、引張試験片の平行部に外表面から全周または両側、片側の機械的切り欠きを導入した後、疲労予き裂を導入したことを特徴とする請求項4記載の破壊靭性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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