説明

弦楽器

【課題】1つの弦楽器の機能や外観をその弦楽器を使用する場面に応じて切り換えられるようにする。
【解決手段】弾き方の練習用の指板50の表面51におけるフレット間には弦17−nの各々と対応する6個のLED7が設けられている。ライブ用の指板50の表面51におけるフレット間にはLEDライト8が設けられている。早弾き用の指板50の表面51にはスキャロップ加工が施されている。電子弦楽器10の演奏者は、弾き方の練習をする場合は練習用の指板50を装着し、ライブ演奏する場合はステージ用の指板50を装着し…というように、電子弦楽器10を使用する場面に応じてその指板50を取り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディと棹とにより楽器の本体を構成する弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
ギター、ウクレレ、マンドリンなどの弦楽器は、ボディとこのボディに連設された棹の端部との間に複数本の弦を張設した構造をなしている。この種の弦楽器の中には、棹における弦と対向する面に接合された指板上に複数個のLED(Light Emitting Diode)を配列し、LEDの発光を通じて撥弦すべき弦やその弦の押弦位置を案内するようにしたものがある。例えば、特許文献1に開示されたギターは、指板上のフレット間に各弦における押弦位置を案内する赤色のLEDを配し、指板上の最もヘッド寄りのフレットの隣に各弦を開放弦とすべきことを案内する黄色のLEDを配した構成となっている。このギターは、曲の進行に合わせて、撥弦を要する弦やその押弦位置を示すLEDを順次点灯させる。このギターの演奏者は、赤色のLEDの発光により案内された位置を押弦しつつ、赤色または黄色のLEDの発光により案内された弦を撥弦する操作を行っていくことにより、曲のタブ譜を見ることなくその曲の演奏することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−19751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されているもののような練習支援機能を有する弦楽器はあまり見栄えが良くない。このため、この種の弦楽器を利用する者は、弾き方の練習を行うときは、練習支援機能を有する弦楽器を使用し、ライブのような聴衆の前での演奏を行うときは、装飾の施された美しい外観の弦楽器を使用したい場合がある。しかし、弦楽器を使用する場面に応じて複数の弦楽器を購入するとその分だけ購入費用が高くなるという問題がある。
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、1つの弦楽器の機能や外観をその弦楽器を使用する場面に応じて切り換えられるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ボディと、前記ボディに連設された棹と、前記棹の端部と前記ボディとの間に張設された弦と、前記棹に対して着脱自在に支持される指板とを具備する弦楽器を提供する。この発明によると、弦楽器の弾き方の練習をする場合はその練習支援機能を有する指板を棹に装着し、ライブ演奏をする場合はその演奏の演出効果を高めるような装飾が施された指板を棹に装着する、というように、弦楽器の指板を取り替えることができる。よって、本発明によると、1つの弦楽器の機能や外観をその弦楽器を使用する場面に応じて切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の第1実施形態である電子弦楽器の構成を示す図である。
【図2】同電子弦楽器の指板および棹の側面図である。
【図3】同電子弦楽器の指板の表面図である。
【図4】同電子弦楽器の指板の表面図である。
【図5】同電子弦楽器の指板の表面図および側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態である電子弦楽器の指板および棹の表面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態である電子弦楽器10の構成を示す図である。この電子弦楽器10は、ソリッド形状に加工されたボディ11とボディ11の基端部に連設された棹12とにより楽器本体13を構成し、複数種類の指板50のうち1つを楽器本体13の棹12に装着するとともに、棹12の先端部におけるヘッド15とボディ11の表面31上のブリッジ16との間に6本の弦17−n(n=1〜6)を張設したものである。
【0008】
この電子弦楽器10のボディ11の表面31には、ブリッジ16の他に、フロントピックアップ20とリアピックアップ21、それら2つのピックアップ20,21のうち1つを選択するセレクタ22、および音量レベルを調整する音量ボリューム23が設けられている。ピックアップ20,21のうちセレクタ22によって選択されたピックアップ20または21は、弦17−nの振動波形を電気信号に変換し、ボディ11内のアンプ24に出力する。アンプ24は、ピックアップ20,21の出力信号を音量ボリューム23の回転角度に応じて増幅し、ボディ11の側面のジャック25を介して外部のスピーカユニット(図示略)に出力する。
【0009】
図2に示すように、電子弦楽器10の棹12の表面30は、ボディ11の表面31やヘッド15の表面32よりも指板一枚分の幅だけ凹んでおり、この棹12の表面30には凹部5−m(m=1〜6)が間隔を空けて設けられている。また、棹12の表面30におけるボディ11側の縁にはオス型コネクタ35が設けられている。オス型コネクタ35は、楽器本体13とその棹12に装着された指板50との間で信号を入出力する入出力端子としての役割を持ったコネクタである。また、指板50の裏面52には凸部6−m(m=1〜6)が間隔を空けて設けられている。指板50の縁には、オス型コネクタ35と対をなす入出力端子としての役割を持ったメス型コネクタ55が設けられている。図2に示すように、指板50の裏面52の凸部6−m(m=1〜6)を棹12の表面30の凹部5−m(m=1〜6)に嵌め込むと、指板50のメス型コネクタ55と棹12のオス型コネクタ35とが接続され、コネクタ55,35同士を接続した状態のまま指板50が棹12上に支持される。
【0010】
また、各指板50の内部には、ROM81と信号出力部82とが埋め込まれている。各指板50のROM81には、各指板50に固有の識別情報IDが記憶されている。また、各指板50の信号出力部82は、当該指板50のメス型コネクタ55と棹12のオス型コネクタ35とが接続された場合に、ROM81に記憶されている識別情報IDを読み出し、その識別情報IDを示す電気信号をコネクタ55,35を介して楽器本体13側に出力する。
【0011】
各指板50の表面51にはフレット1−k(k=1〜22)が埋設されている。そして、各指板50の表面51には各々の種類に応じた加工が施されている。本実施形態において、指板50の種類とその表面51の加工の内容には次のようなものがある。
a1.練習用の指板50
この指板50は、指のポジション(具体的には、各弦17−nにおける押弦を要する位置)を確認しながら電子弦楽器10の弾き方を練習する場合に使用するものである。図3に示すように、この指板50の表面51には、フレット1−k(k=1〜22)の各々に沿って弦17−n(n=1〜6)と対応するLED7が6個ずつ設けられている。本実施形態では、各種コード(より具体的には、根音を異にする各種コード(和音))の練習用の指板50や、各種スケール(より具体的には、異なる音名の音により1オクターブを構成する各種コード(音階))の練習用の指板50を提供し、これらの指板50のうちいずれかが棹12に装着された場合、装着された指板50と対応するコードやスケールにおける指のポジションをLED7の発光を通じて演奏者に案内する。LED7の発光の制御の詳細は後述する。
【0012】
b1.ステージ用の指板50
この指板50は、聴衆のいるステージ上でライブ演奏する場合に使用するものである。図4に示すように、この指板50の表面51には、フレット1−2および1−3間、フレット1−4および1−5間、フレット1−6および1−7間、フレット1−8および1−9間に1つずつLEDライト8が設けられている。各LEDライト8は、複数個のLED7を稲妻のモチーフの形状をなすように並べたものである。ここで、1つのLEDライト8は、赤色と青色の2種類のLED7からなる。そして、1つのLEDライト8におけるこれら2種類のLED7は、当該LEDライト8の両隣りのフレット1−kおよび1−(k+1)のうちの一方のフレット1−kに近いほど赤色のLED7の割合が大きくなり、他方のフレット1−(k+1)に近いほど青色のLED7の割合が大きくなるようなレイアウトで並べられている。このようなレイアウトにしたのは、色彩が赤色から青色へとグラデーション状に変化する光をLEDライト8によって発光させるためである。本実施形態では、この指板50が棹12に装着された場合、一定のテンポに従ってLEDライト8を点灯させることにより、ライブ演奏における演出効果を高める。LEDライト8の点灯の制御の詳細は後述する。
【0013】
c1.早弾き用の指板50
この指板50は、早弾き演奏する場合に使用するものである。図5(A)および図5(B)に示すように、この指板50の表面51には、フレット1−kおよび1−(k+1)間を半円柱状に凹ませるスキャロップ加工が施されている。この指板50が棹12に装着された場合、軽いタッチでの押弦が可能となり、他の2種類の指板50を装着した場合に比べて早弾き演奏が行い易くなる。
【0014】
図1において、電子弦楽器10のボディ11には、アンプ24の他に、電源61(乾電池)と、電源61から電力の供給を受けて動作する制御部62とが内蔵されている。制御部62は、ROM63、RAM64、およびCPU65を有する。ROM63は、CPU65により実行されるプログラムやその他のデータが記憶された読み出し専用メモリである。RAM64は、CPU65にワークエリアを提供する。CPU65は、指板50からコネクタ55,35を介して出力された識別情報IDが練習用の指板50のうちいずれかのものである場合に第1の指板制御処理を行い、その識別情報IDがステージ用の指板50のものである場合に第2の指板制御処理を行う。
【0015】
第1の指板制御処理では、CPU65は、棹12に装着された指板50上のLED7を発光させる。より詳細に説明すると、CPU65は、指板50からコネクタ55,35を介して受け取った識別情報IDがあるコードの練習用のものである場合、そのコードと対応する押弦位置のLED7を駆動させる電気信号をコネクタ35,55を介して出力し、LED7を発光させる。また、CPU65は、指板50からコネクタ55,35を介して受け取った識別情報IDがあるスケールの練習用のものである場合、そのスケールにおける1オクターブ分の各音と対応する押弦位置のLED7を駆動させる電気信号をコネクタ35,55を介して出力し、LED7を発光させる。演奏者は、発光したLED7の位置において弦17−nを押さえて撥弦することにより、各種コードや各種スケールの弾き方を練習する。第2の指板制御処理では、CPU65は、所定のテンポにおける拍タイミングtが到来する度に、LEDライト8における各LED7を駆動させる電気信号をコネクタ35,55を介して出力し、LEDライト8を点灯させる。
【0016】
以上説明したように、本実施形態では、同じ電子弦楽器10の棹12に装着される複数種類の指板50を提供する。そして、これら複数種類の指板50には、各々の種類に応じた加工が施されている。よって、演奏者は、弾き方の練習をする場合は練習用の指板50を装着し、ライブ演奏する場合はステージ用の指板50を装着し…というように指板50を取り替えることにより、1つの電子弦楽器10の機能や外観をそれを使用する場面に応じて切り換えることができる。
【0017】
また、各指板50内のROM81には、各指板50に固有の識別情報IDが記憶されている。そして、各指板50内の信号出力部82は、当該指板50のメス型コネクタ55が棹12のオス型コネクタ35と接続された場合に、ROM81内の識別情報IDをコネクタ55,35を介して楽器本体13内の制御部62に出力する。よって、棹12に装着された指板50がいかなる制御を要するものであるか(または、制御を要しないものであるか)を、指板50の制御主体である制御部62に簡単に認識させることができる。
【0018】
また、練習用の指板50とステージ用の指板50に設けられたLED7は、ボディ11内の制御部62からコネクタ35,55を介して与えられる電気信号によって発光する。よって、指板50内にはLED7の発光を制御する制御回路や電源を内蔵させる必要がない。従って、指板50自体の幅を厚くすることなく、練習用とステージ用の加工を施すことができる。
【0019】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図6(A)は、本実施形態の第2実施形態である電子弦楽器10の棹12’および指板50’の表面30および51を示す図である。図6(B)は、棹12’および指板50’の側面図である。図6(A)および図6(B)に示すように、棹12’の表面30には、当該棹12’の一方の側面38から他方の側面39に向かって延在する凹部5’−m(m=1〜6)が間隔を空けて設けられている。凹部5’−mを当該凹部5’−mの延在方向および棹12’の延在方向と直交する面で切断した断面は、等脚台形状をなしている。そして、この断面の幅は表面30に近いほど小さくなっている。凹部5’−mにおける側面38側の端部は開放され、その側面39側の端部は閉塞されている。
【0020】
また、本実施形態における指板50’の裏面52には、当該指板50’のフレット1−k(k=1〜22)と平行に延在する凸部6’−m(m=1〜6)が間隔を空けて設けられている。凸部6’−mを当該凸部6’−mの延在方向および指板50’の延在方向と直交する面で切断した断面は、凹部5’−mのものと同サイズの等脚台形状をなしている。そして、この断面の幅は裏面52に近いほど小さくなっている。
【0021】
本実施形態では、図6(A)に示すように、指板50’の凸部6’−mを棹12の側面38側から凹部5’−m内に挿入し、凹部5’−m内の凸部6’−mをスライドさせつつ指板50’を側面39側へ押し込むことにより、指板50’を棹12’に装着する。本実施形態によると、電子弦楽器10のヘッド15とブリッジ16の間に張設された弦17−n(n=1〜6)を取り外すことなく、その棹12’に装着されている指板50’を取り替えることができる。
【0022】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1および第2実施形態では、指板50,50’にROM81および信号出力部82が内蔵されており、指板50,50’が棹12,12’に装着された場合に、信号出力部82がROM81内の識別情報IDを読み出して出力した。しかし、指板50,50’にディップスイッチを設け、指板50,50’が棹12,12’に装着された場合に、このディップスイッチから識別情報IDが出力されるようにしてもよい。
【0023】
(2)上記第1および第2実施形態は、撥弦楽器の一種であるエレキギターに本発明を適用したものであった。しかし、アコースティックギターやマンドリン、ウクレレといった他の種類の撥弦楽器の指板を着脱可能な構成にしてもよい。また、バイオリンやヴィオラ、チェロなどの擦弦楽器の指板を着脱可能な構成にしてもよい。
【0024】
(3)上記第1および第2実施形態において、練習用の指板50,50’が棹12,12’に装着された場合に、楽曲をなす一連のコードを奏でるためのポジションをLED7の発光を通じて順次案内するようにしてもよい。この実施形態では、楽曲をなす各コードを各種スケールで演奏するための押弦位置のLED7を発音タイミングt,t,t…と対応付けたシーケンスデータをROM63に記憶させておく。そして、CPU65は、あるスケールの練習用の指板50,50’が棹12,12’に装着された場合、そのスケールと対応するシーケンスデータをROM63から読み出す。そして、CPU65は、このシーケンスデータが示す発音タイミングt,t,t…が到来する度に、発音タイミングt,t,t…と対応するLED7を駆動させる電気信号をコネクタ35,55を介して出力し、LED7を発光させる。
【0025】
(4)上記第1および第2実施形態において、電子弦楽器10の棹12,12’に装着される複数種類の指板50,50’を載置する台と指板50,50’に電力を供給する電源とを有するアダプタをそれら複数種類の指板50,50’と併せて提供してもよい、この実施形態によると、例えば、練習用の指板50,50’をアダプタに装着するとともに、電子弦楽器10の棹12,12’にライブ用の指板50を装着し、アダプタに装着した指板50,50’上のLED7を参照しつつ電子弦楽器10の弾き方の練習を行うことができる。
【0026】
(5)上記第1および第2実施形態において、棹12,12’の表面30に凸部6−m(m=1〜6)を設け、指板50の裏面52に凹部5−m(m=1〜6)を設けてもよい。また、凸部6および凹部5の個数を5個以下としてもよいし、7個以上としてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…フレット、5,5’…凹部、6,6’…凸部、10…電子弦楽器、11…ボディ、12,12’…棹、15…ヘッド、16…ブリッジ、20…フロントピックアップ、21…リアピックアップ、22…セレクタ、23…ボリューム、24…アンプ、25…ジャック、50…指板、61…電源、62…制御部、63…ROM、64…RAM、65…CPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、
前記ボディに連設された棹と、
前記棹の端部と前記ボディとの間に張設された弦と、
前記棹に対して着脱自在に支持される指板と
を具備することを特徴とする弦楽器。
【請求項2】
前記棹の表面および前記指板の裏面の各々に、互いに嵌合し合う凹部および凸部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器。
【請求項3】
前記指板は、
当該指板に固有の識別情報を記憶する記憶手段と、
コネクタと、
前記コネクタが前記棹に設けられたコネクタと接続された場合に、前記記憶手段に記憶された識別情報を読み出し、読み出した識別情報を前記コネクタを介して出力する出力手段と
を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の弦楽器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−107540(P2011−107540A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264388(P2009−264388)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】